説明

光ファイバテープ心線用ボビン、光ファイバテープ心線の巻き取り方法、及び光ファイバケーブルの製造方法

【課題】 光ファイバテープ心線の巻き崩れが発生しない光ファイバテープ心線用ボビン、光ファイバテープ心線の巻き取り方法を提供する。また、光ファイバテープ心線の巻き崩れが生じない光ファイバケーブルの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明に光ファイバテープ心線用ボビン10は、光ファイバテープ心線が巻かれる胴部11の外周面上に、クッション材13を備えている。クッション材13は、基材表面に接着剤が塗布されたもの、または、基材表面に樹脂層が形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバテープ心線を胴部の外周に巻く光ファイバテープ心線用ボビン、光ファイバテープ心線の巻き取り方法、及び、光ファイバテープ心線用ボビンを用いる光ファイバケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線引き処理を経て製造された光ファイバや、光ファイバを整列させてテープ状に一括被覆した光ファイバテープ心線は、一般に、一旦ボビンに巻かれた状態で保存された後、そのまま屋内配線に用いられたり、複数本集めて光ファイバケーブルを形成するのに用いられる。
従来の光ファイバボビンとしては、胴の外周表面に、発泡材、塩化ビニルまたは紙からなるクッション層を備える光ファイバボビンが知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1によれば、胴部にクッション層を備えることにより、光ファイバの巻き緩みを防止するとともに、損失増加を抑制することができる。
【特許文献1】特開2002−316830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、光ファイバテープ心線から光ファイバケーブルを製造する際には、光ファイバテープ心線を巻いたボビンを同時に公転及び自転させて行う。光ファイバケーブルの製造線速を向上させるには、光ファイバテープ心線を巻いたボビンをより高速で公転及び自転させることが要求される。
しかし、ボビンの公転回数及び自転回数を増大させようとすると、振動によって、ボビンに巻かれた光ファイバテープ心線が巻き崩れてしまうことがある。このような巻き崩れを防止するためにボビンの回転数が制限されてしまい、生産性向上の阻害要因となっている。
【0004】
加えて、光ファイバテープ心線用ボビンは、通常、線膨張係数の大きいABS樹脂等から形成されている。このようなボビンは、特に低温条件下において樹脂が収縮するため、光ファイバテープ心線の巻き緩みが生じ、輸送過程等で加わる振動によって光ファイバテープ心線の巻き崩れが発生してしまうことがある。
【0005】
本発明の目的は、光ファイバテープ心線の巻き崩れが発生しない光ファイバテープ心線用ボビン及び光ファイバテープ心線の巻き取り方法、並びに、光ファイバテープ心線の巻き崩れが発生せず生産性の高い光ファイバケーブルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る光ファイバテープ心線用ボビンは、光ファイバテープ心線を胴部の外周に巻く光ファイバテープ心線用ボビンであって、前記胴部の外周面上にクッション材を備え、前記クッション材は、基材表面に接着剤が塗布されたものであることを特徴としている。
【0007】
また、本発明に係る光ファイバテープ心線用ボビンは、光ファイバテープ心線を胴部の外周に巻く光ファイバテープ心線用ボビンであって、前記胴部の外周面上にクッション材を備え、前記クッション材は、基材表面に樹脂層が形成されたものであることを特徴としている。
上記光ファイバテープ心線用ボビンにおいて、樹脂層は、EAA樹脂、EMAA樹脂、EMA樹脂、EVA樹脂、EEA樹脂、EMMA樹脂、EEAMAH樹脂、EGMA樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなることが好ましく、EMMA樹脂であることがより好ましい。
【0008】
また、本発明に係る光ファイバテープ心線用ボビンは、前記基材は、発泡ポリエチレンシートであることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る光ファイバテープ心線用ボビンは、クッション材表面の光ファイバテープ心線に対する静止摩擦係数は、1.3以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る光ファイバテープ心線の巻き取り方法は、本発明にかかる光ファイバテープ心線用ボビンに、光ファイバテープ心線を台形巻きによって巻き取ることを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る光ファイバケーブルの製造方法は、複数本の光ファイバテープ心線を有する光ファイバケーブルを製造する光ファイバケーブルの製造方法であって、本発明の光ファイバテープ心線用ボビンから、光ファイバテープ心線を供給することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光ファイバテープ心線用ボビンは、クッション材の表面が滑りにくくなるように加工されているので、光ファイバテープ心線の保存時や光ファイバケーブルの製造時に、光ファイバテープ心線の巻き崩れの発生しない光ファイバテープ心線用ボビンを提供することができる。また、本発明の光ファイバケーブルの製造方法によれば、このようなボビンを用いることで光ファイバテープ心線の巻き崩れの発生を防止できるので、光ファイバケーブルの製造線速を高速化することができ、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1(A)は、本発明の光ファイバテープ心線用ボビン(以下、「ボビン」と略称する。)に係る実施形態を示したものである。図1(B)は、図1(A)に示すボビン10の胴部11を軸線方向に垂直な面で切断したときの断面図を示している。
【0014】
図1(A)に示すボビン10は、光ファイバテープ心線(以下、「テープ心線」と略称する。)が巻かれる胴部11を備え、胴部11の外周面上にはシート状のクッション材13が巻かれている。胴部11は、例えばABS樹脂からなる円筒形状のもので、外径が例えば280mmφである。胴部11の両端には、鍔部12a,12bが設けられている。
クッション材13は、基材上に接着剤が塗布されたものであり、この接着剤の塗布面が光ファイバテープ心線の巻き取り面(すなわち、外側の面)となるように胴面11に巻かれている。クッション材13は、両面テープ等を介して胴部11の外周面上に固定されていてもよい。
【0015】
基材としては、発泡ポリエチレンシート、塩化ビニル、紙等を挙げることができ、中でも、クッション性が高いことから発泡ポリエチレンシートであることが好ましい。
接着剤は、一般に接着剤として市販されているものを使用することができ、プライマーのような不揮発成分の少ない低粘度の液体が含まれていてもよい。また、接着剤の溶融温度が高いと、接着剤がしみ出すことがなく安定して使用できるという利点がある。
このような基材上に接着剤が塗布されたクッション材としては、一般に接着剤として市販されているものを使用することができる。
【0016】
また、本発明に用いることができるクッション材としては、図2に示すクッション材23も好ましい。図2に示すクッション材23は、基材21の光ファイバテープ心線の巻き取り面上に、樹脂層25が設けられている。基材21上に樹脂層25を設けるには、ラミネート加工等の手段を用いることができる。また、樹脂層25の表面にカレンダー加工或いはエンボス加工等が施されていてもよい。
【0017】
樹脂層25は、EAA樹脂、EMAA樹脂、EMA樹脂、EVA樹脂、EEA樹脂、EMMA樹脂、EEAMAH樹脂、EGMA樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂から形成されることが好ましい。この中でも、柔軟性や熱安定性に優れ、分解しても酸等が発生しないことから、EMMA樹脂を用いることが好ましい。EMMA樹脂としては、市販のものを用いることができる。
【0018】
なお、本実施形態に係るボビン10に巻かれる光ファイバテープ心線の一例を図3に示す。図3に示すように、光ファイバテープ心線31は、複数本の光ファイバ素線32が整列した状態で、樹脂34により一括被覆されている。光ファイバ素線32は、ガラスファイバ33が1層または2層以上の樹脂35によって被覆されたものである。図3のテープ心線31は、4本の光ファイバ素線32を有する4心型テープ心線を示しているが、この他にも8心型、16心型等のテープ心線を本発明に適用することができる。
【0019】
上記クッション材13およびクッション材23は、基材の表面がテープ心線31との摩擦力を高めるように加工されているので、これらのクッション材13,23が巻かれたボビン10は、テープ心線31がクッション材13,23上で滑りにくくなる。従って、このようなボビン10を用いれば、ボビン10の振動が大きい場合や低温条件下にある場合でも、テープ心線31の巻き崩れの発生がなくなる。
【0020】
なお、クッション材13,23の表面の、テープ心線31に対する静止摩擦数は、1.3以上であることが望ましい。クッション材13,23の表面の静止摩擦数がこの範囲であることにより、より確実にテープ心線31の巻き崩れの発生を防止することができる。なお、静止摩擦係数の上限は特に限定されない。
【0021】
クッション材13,23のテープ心線31に対する静止摩擦係数は、図4に示す方法によって測定することができる。
図4に示すように、テープ心線31をボビン10の胴部11の円周に沿って接触させ、テープ心線31の一方端に重り42(重さf1;例えば、20g)を取り付けて吊り下げる。テープ心線31の他方端には張力測定器44に取り付けて、テープ心線31の他方端側が水平となるように張力測定器44を配置する。
そして、ボビン10を回転しないように固定しながら、張力測定器44によって矢印方向に引っ張る。張力測定器44で測定した張力をレコーダ(図示せず)に出力し、重り42が上昇し始めたときの張力(f2)から、下記式によって静止摩擦係数μを算出することができる。
μ=2/π・ln(f2/f1)
【0022】
次に、本発明に係る光ファイバテープ心線の巻き取り方法の実施形態について説明する。
本実施形態に係る光ファイバテープ心線の巻き取り方法は、クッション材13またはクッション材23を備えたボビン10を使用する。ボビン10を用いて光ファイバテープ心線31を巻き取るには、台形巻きによって巻き取ることが好ましい。「台形巻き」とは、図5(A)に示すように、ボビン10に巻き取ったテープ心線31の断面形状が台形をなす巻き取り方法を指す。
テープ心線31を台形巻きすることで、テープ心線31を巻き取るためのガイド部材(図示せず)がボビンの鍔部12a,12bに接触するのを防止することができ、ガイド部材をボビン10に近づけることができる。ガイド部材をボビン10に近づけることによって高速巻き取りが可能となる。
以下、クッション材13を有するボビン10を用いた例を一例として、台形巻きによる巻き取り方法について説明する。
【0023】
図5(B)に示すように、テープ心線31を台形巻きするには、ボビン10を軸線方向にトラバースさせながら、テープ心線31を整列させて巻き取り、第1層41を形成する。第1層41を巻き終わるとボビン10を反対方向にトラバースさせ、第2層42を形成する。このとき、第1層41の巻き終わり端より内側から第2層42を巻き始めて、テープ心線31の巻き取り幅を狭くする。このようにボビン10をトラバースさせる毎に巻き取り幅を狭くして積層させていくと、テープ心線31の断面形状が図5(A)に示すように台形をなすように巻き取ることができる。
【0024】
上記実施形態によれば、クッション材13を有するボビン10を用いるので、巻き取る際にテープ心線31が滑りにくく、巻き緩み等も発生しない。従って、高速回転しても巻き崩れが発生せず、高速でテープ心線31を巻き取ることができる。
加えて、ボビン10にテープ心線31を巻き取ると、クッション材13が柔軟性を有するため、テープ心線31がクッション材13に押し付けられて、段差43が形成される。この段差43が形成されることで、最下層(第1層41)にかかる側圧を和らげ、伝送損失の増加を防止することができる。
なお、樹脂層25(図2)を有するクッション材23を備えたボビンを用いて巻き取る場合もクッション材13を用いた場合と同様の効果が得られる。
【0025】
次に、本発明に係る光ファイバケーブルの製造方法の実施形態について説明する。本実施形態に係る光ファイバケーブルの製造方法は、上記クッション材13,23を備えたボビン10(図1)を公転及び/又は自転させながら、ボビン10に巻かれたテープ心線を供給し、このテープ心線を複数本集めて、例えば金属やプラスチック等から形成されるパイプに収容する。
本実施形態に係る製造方法によれば、クッション材13,23を備えたボビン10を使用することにより、ボビン10を高速に公転又は自転させた場合も、テープ心線31の巻き崩れが発生しないため、光ファイバケーブルの製造線速を上昇させることができる。従って、光ファイバケーブルの生産性を向上させることができる。
なお、本実施形態に係る製造方法に用いることができる製造装置としては、従来のものを用いることができる。また、本発明は、パイプに複数のテープ心線を収容した光ファイバケーブルだけでなく、スロット溝にテープ心線を収容するスロット型光ファイバケーブルを製造する場合にも適用可能である。
【0026】
その他、前述した実施形態において例示したボビン10、クッション材13,23等の材質,形状,寸法,形態,等は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜の変更が可能である。
【実施例】
【0027】
本発明を実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
前述の静止摩擦係数の測定方法に従って、上記実施形態に係るボビンと比較用のボビンを用いて静止摩擦係数、及び動き始め後の最大張力を測定した。この結果を下記表に示す。なお、ボビンAは、接着剤が塗布されたクッション材13(図1)を備えたボビン、ボビンBは、樹脂層25(図2)を有するクッション材23を備えたボビンである。また、ボビンCとして、何も加工していない発泡ポリエチレンシートを胴部に巻いた比較用のボビンを用いた。
【0028】
【表1】

以上の結果から、本発明に係るボビンA,Bは、静止摩擦係数が大きく、巻き崩れに対して有利であることがわかった。
【0029】
(実施例2)
実施例1で用いたボビンA〜Cを用いて、落下衝撃試験を行った。落下衝撃試験は、光ファイバテープ心線を12000m程度巻いたボビンを−10℃で1時間保管した後、表1に示す高さから落下させ、このときのボビンの巻き崩れの有無を目視によって観察した。
評価基準は以下のとおりとした。
○・・・巻き崩れが全く発生しない。
×・・・巻き崩れが発生する。
この結果を下記表に示す。
【0030】
【表2】

以上の結果より、ボビンが低温条件下に置かれることによって収縮した状態であっても、本発明により巻き崩れは発生しないことが明らかとなった。
【0031】
(実施例3)
実施例1で用いたボビンA〜Cを用いて、高速回転試験を行った。高速回転試験は、ボビンを光ファイバケーブルの製造時における公転回数Xで公転させ、徐々に回転数を上昇させて、巻き崩れの有無を目視によって観察した。さらに、評価基準は以下のとおりとした。
○・・・巻き崩れが全く発生しない。
×・・・巻き崩れが発生する。
【0032】
【表3】

以上の結果より、本発明のボビンは、高速回転させた場合でも巻き崩れが発生しないことが明らかとなった。この結果より、従来のボビンと比較して、光ファイバケーブル製造線速を2倍程度まで高速化することが可能であり、生産性を向上できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(A)は、本発明に係る光ファイバテープ心線用ボビンの実施形態を示す斜視図であり、(B)は、(A)に示す胴部の断面図である。
【図2】本発明に係る光ファイバテープ心線用ボビンに用いるクッション材の一例を示す断面図である。
【図3】光ファイバテープ心線の断面図である。
【図4】光ファイバテープ心線用ボビンのクッション材表面の静止摩擦係数の測定方法を示す模式図である。
【図5】(A)および(B)は、本発明に係る光ファイバテープ心線の巻き取り方法の実施形態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0034】
10 光ファイバテープ心線用ボビン
11 胴部
13,23 クッション材
21 基材
25 樹脂層
31 光ファイバテープ心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバテープ心線を胴部の外周に巻く光ファイバテープ心線用ボビンであって、
前記胴部の外周面上にクッション材を備え、前記クッション材は、基材表面に接着剤が塗布されたものであることを特徴とする光ファイバテープ心線用ボビン。
【請求項2】
光ファイバテープ心線を胴部の外周に巻く光ファイバテープ心線用ボビンであって、
前記胴部の外周面上にクッション材を備え、前記クッション材は、基材表面に樹脂層が形成されたものであることを特徴とする光ファイバテープ心線用ボビン。
【請求項3】
前記樹脂層は、EAA樹脂、EMAA樹脂、EMA樹脂、EVA樹脂、EEA樹脂、EMMA樹脂、EEAMAH樹脂、EGMA樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバテープ心線用ボビン。
【請求項4】
前記樹脂層は、EMMA樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバテープ心線用ボビン。
【請求項5】
前記基材は、発泡ポリエチレンシートであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光ファイバテープ心線用ボビン。
【請求項6】
前記クッション材表面の光ファイバテープ心線に対する静止摩擦係数は、1.3以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の光ファイバテープ心線用ボビン。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の光ファイバテープ心線用ボビンに、光ファイバテープ心線を台形巻きによって巻き取ることを特徴とする光ファイバテープ心線の巻き取り方法。
【請求項8】
複数本の光ファイバテープ心線を有する光ファイバケーブルを製造する光ファイバケーブルの製造方法であって、
請求項1から6のいずれか1項に記載の光ファイバテープ心線用ボビンから、光ファイバテープ心線を供給することを特徴とする光ファイバケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−52042(P2006−52042A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233862(P2004−233862)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】