説明

光ファイバ及び油井用センサ

【課題】光の初期透過性、耐熱性及び水素遮断性に優れ、良好な光学特性を有し、油井用センサへの適用に好適な光ファイバの提供。
【解決手段】純粋石英からなるコアの表面に、フッ素原子が添加された石英からなるクラッド、ポリイミド樹脂層及び金属層の順に積層されてなることを特徴とする光ファイバ;かかる光ファイバを備えたことを特徴とする油井用センサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油井における環境センシング用として好適な、光の初期透過性、耐熱性及び水素遮断性に優れる光ファイバ、及び該光ファイバを備えた油井用センサに関する。
【背景技術】
【0002】
人が直接立ち入ることが困難な厳しい環境で、その情報を取得するためには、通常、その環境に適したセンサを使用する必要がある。このような厳しい環境の一例としては、油井が挙げられる。油井とは、原油の採掘時に使用する井戸のことを指す。油井では、高温で且つ高圧の水素ガスが発生する。そのため、油井用センサには、このような厳しい環境下でも、高精度に安定して測定可能な性能が求められる。
一方で、環境センシング用のセンサとしては、これまで電気的なセンサが適用されてきたが、安価に製造でき、安全で且つ高精度な測定が可能な光ファイバを使用したセンサ(光ファイバセンサ)の適用が強く望まれるようになってきている。
【0003】
油井用センサに使用される光ファイバは、上記のような厳しい環境下でも高精度に安定して測定できるように、光の伝送損失の増加を顕著に抑制することが必要である。そのためには、光ファイバが、十分な光の初期透過性、耐熱性及び水素遮断性を有することが必要となる。図4は、油井用センサの使用方法を説明するための概略図である。ここでは、センサの使用環境が最も厳しいと考えられる、海底下に存在する石油貯留層の探索時を例に挙げて説明する。ただし、油井用センサの使用環境がこれに限定されないことは言うまでも無い。なお、図4では、判り易くするために、光ファイバを実際よりも大きい寸法で強調表示している。
ここに示す石油貯留層は、海底下の複数の地層(地層A、B及びC)に囲まれた領域に存在し、このような海底下の石油貯留層を探索する場合には、海上プラットフォームから光ファイバセンサを海中に下ろし、地層中の掘削部に挿通し、先端部を石油貯留層に到達させる。光ファイバセンサは、海中では高い水圧に曝され、石油貯留層とその付近では高温で且つ高圧の水素ガスに曝される。また、使用場所にもよるが、光ファイバセンサは少なくとも1〜5km程度の極めて長い長さが必要とされる。
【0004】
このように、油井用センサには、厳しい環境に曝された場合でも、全長に渡って光の伝送損失の増加を極めて低いレベルに抑制することが必要となる。このような性能の有無を評価する際には、例えば、SEAFOM(Subsea Fiber Optic Monitoring Group)で定められている「Class E」(100%H、69気圧、177℃)の条件を評価基準とすると良い。油井用センサは、この条件で1.55μmの使用波長帯における光の伝送損失が、3〜4dB/km以下となる性能が望まれる。
【0005】
これに対して、これまでに環境センシングに適用できる光ファイバとしては、例えば、ガラスファイバ表面に金属層を形成した金属コート光ファイバ(特許文献1参照)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−141860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の光ファイバは、水素遮断性に優れるものの、ガラスファイバを直接金属層で被覆しているので、ガラスと金属のヤング率の差によって生じるマイクロベンド(微小な曲がり)に起因して、光の伝送損失が増加し、光の初期透過性が低下してしまうという問題点があった。
また、環境センシングに適用できる光ファイバとしては、上記のもの以外にも、例えば、ゲルマニウム(Ge)が添加された石英からなるコア(以下、Ge添加石英コアと略記する)と石英クラッドとを備え、該クラッドをカーボン層で被覆し、該カーボン層を耐熱性樹脂であるポリイミド樹脂で被覆した光ファイバ等も開示されている。しかし、このような光ファイバは、例えば、1気圧、180℃のような低圧高温の水素存在下では、カーボン層により水素ガスの光ファイバ内への進入を抑制できるものの、油井でのように70気圧程度の高圧の水素存在下では、水素ガスの進入を十分に抑制できない。そして、水素ガスが光ファイバのGe添加石英コア中に進入すると、水素自体による光の伝送損失の増加が生じるだけでなく、一部の水素がGe添加石英コア中の欠陥部と不可逆的に化学反応して、光の伝送損失の増加が生じてしまうという問題点があった。
このように、従来の環境センシング用の光ファイバには、油井でのように高温で且つ高圧の水素ガス存在下で十分実用に耐え得るものが無いのが実情であった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、光の初期透過性、耐熱性及び水素遮断性に優れ、良好な光学特性を有し、油井用センサへの適用に好適な光ファイバを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、
本発明は、純粋石英からなるコアの表面に、フッ素原子が添加された石英からなるクラッド、ポリイミド樹脂層及び金属層の順に積層されてなることを特徴とする光ファイバを提供する。
本発明の光ファイバは、前記ポリイミド樹脂層の厚さが4〜25μmであることが好ましい。
本発明の光ファイバは、前記金属層の厚さが10〜60μmであることが好ましい。
本発明の光ファイバは、前記コアの外径が6〜11μmであり、且つ、前記クラッドの外径が110〜130μmであることが好ましい。
本発明の光ファイバは、前記コア中の水酸基の含有量が1.2ppm以下であり、且つ、前記コアとクラッドとの間の比屈折率差が0.2〜0.5%であることが好ましい。
本発明の光ファイバは、前記金属層の材質が、銅、ニッケル又はアルミニウムであることが好ましい。
また、本発明は、上記本発明の光ファイバを備えたことを特徴とする油井用センサを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光の初期透過性、耐熱性及び水素遮断性に優れ、良好な光学特性を有する光ファイバを提供でき、油井のような厳しい環境下でも、安全且つ高精度に安定して測定できるセンサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】試験例1における光ファイバの光の伝送損失の測定結果を示すグラフである。
【図2】試験例2における光ファイバの光の伝送損失の測定結果を示すグラフである。
【図3】試験例3における光ファイバの光の伝送損失の測定結果を示すグラフである。
【図4】油井用センサの使用方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の光ファイバは、純粋石英からなるコア(以下、純粋石英コアと略記することがある)の表面に、フッ素原子が添加された石英からなるクラッド(以下、F添加石英クラッドと略記することがある)、ポリイミド樹脂層及び金属層の順に積層されてなることを特徴とする。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
<純粋石英コア、F添加石英クラッド>
本発明は、純粋石英コアを採用する。これにより、コア中に反応性が高い欠陥部がほとんど存在しない。これに対して、Ge添加石英コア等、ドーパントが添加された石英コアでは、ドーパントの添加に伴って、コア中に反応性が高い欠陥部が生じてしまう。このような欠陥部は、例えば、水素ガスと不可逆的に化学反応することで、光の伝送損失の原因となる反応部を形成してしまう。
一方、本発明の光ファイバは、後述するようにコア中への水素ガスの進入を抑制する水素遮断性に優れる。仮に微量の水素ガスがコア中に進入したとしても、前記欠陥部がほとんど存在しないので、コア中での水素ガスの化学反応が抑制される。
また、コア中の水素ガスは、光ファイバから抜けるように随時拡散していく。したがって、光の伝送損失の増加原因となる水素ガス自体と前記反応部が、共にコア中にほとんど存在しない状態を維持できるの。よって、本発明の光ファイバは光の初期透過性が高く、使用時の伝送損失の増加が抑制され、光学特性が良好で、高精度なセンシング能を有するものである。
【0014】
コア中に存在する水酸基は、光の伝送損失の増加原因となる。したがって、本発明においては、純粋石英コア中の水酸基の含有量は、光ファイバの中心軸方向に対して略垂直な径方向断面において、1.2ppm以下であることが好ましく、0.6ppm以下であることがより好ましい。なお、純粋石英コア中の水酸基の含有量は、赤外吸収スペクトルから求めることが出来る。
【0015】
純粋石英コアの外径(コア径)は、所望の光学特性が得られるように適宜調整すれば良い。例えば、本発明の光ファイバをシングルモード動作させる場合には、7〜11μmであることが好ましく、マルチモード動作させる場合には、クラッドの外径(クラッド径)が125μm程度である場合には、40〜70μmであることが好ましい。
【0016】
本発明は、F添加石英クラッドを採用する。
F添加石英クラッドのフッ素原子(F)の含有量は、光ファイバの前記径方向断面において1.2〜2.2質量%であることが好ましく、1.6質量%程度であることがより好ましい。このような範囲とすることで、一層良好な光学特性が得られる。
【0017】
前記F添加石英クラッドの外径は、純粋石英コアの外径に応じて適宜調整すれば良い。例えば、本発明の光ファイバをシングルモード動作させる場合には、110〜130μmであることが好ましく、124〜126μmであることがより好ましい。
一方、本発明の光ファイバをマルチモード動作させる場合には、コア径が50〜62.5μmであることが好ましい。
【0018】
純粋石英コアとF添加石英クラッドとの間の比屈折率差(Δ)は、0.2〜0.5%であることが好ましい。このような範囲とすることで、一層良好な光学特性が得られる。なお、ここで比屈折率差「Δ」(%)とは、純粋石英コアの屈折率をncore、F添加石英クラッドの屈折率をncladとした場合、下記一般式(1)で表される数値である。
Δ(%)=(ncore−nclad)/ncore×100 ・・・(1)
core及びncladは、公知の方法で調整できる。例えば、ncladであれば、クラッド中のFの添加量で調整できる。
なお、比屈折率差(Δ)は、プリフォームアナライザなどの装置を使用して測定できる。
【0019】
<ポリイミド樹脂層>
前記ポリイミド樹脂層は、F添加石英クラッドを被覆して、光ファイバに耐熱性を付与するものである。例えば、紫外線硬化性樹脂、シリコーン樹脂や、通常の通信用光ファイバの被覆で使用されるアクリレート系樹脂では、耐熱性が不十分であり、100℃を超えるような高温環境下では使用できない。一方、ポリイミド樹脂であれば、その種類を適宜選択することで、例えば、300℃程度まで耐熱性を有するものも選択でき、優れた耐熱性を光ファイバに付与できる。
ポリイミド樹脂層は、公知のものから適宜選択すれば良く、特に限定されない。好ましいものとして具体的には、日立化成デュポンマイクロシステムズ社製のPI2525等が例示できる。
【0020】
ポリイミド樹脂層の厚さは、目的に応じて適宜選択すれば良いが、4〜25μmであることが好ましく、10〜20μmであることがより好ましい。4μm以上とすることで光ファイバの耐熱性を一層向上させることができる。一方、25μm以下とすることで光ファイバを細径化できるので、実装時の取り扱い性や他のモジュールとの接続性が向上する。さらにセンサ等の小型化も可能である。
なお、ポリイミド樹脂層の厚さは、ポリイミド樹脂被覆された光ファイバの断面を、光学顕微鏡で観察することで測定できる。
【0021】
<金属層>
前記金属層は、前記ポリイミド樹脂層を被覆して、光ファイバに水素遮断性を付与する。これにより、高温で且つ高圧の水素ガスが存在する条件下でも、前記ポリイミド樹脂層よりも内側への水素ガスの侵入が抑制され、純粋石英コア中にはほとんど水素ガスが到達しない。そして、金属種を適宜選択することで、例えば、100気圧程度まで水素ガスを遮断でき、優れた水素遮断性を光ファイバに付与できる。これに対して、例えば、カーボン層では、70気圧程度の高圧の水素存在下では、水素を十分に遮断できない。
また、金属層は、ポリイミド樹脂層を介してF添加石英クラッド上に積層されているので、例えば、石英ガラスと金属のヤング率の差に起因するマイクロベンド(微小な曲がり)の発生が抑制され、光の初期透過性の低下が抑制される。
【0022】
前記金属層の材質は、使用環境下での耐熱性と水素遮断性を有するものであれば特に限定されないが、銅、ニッケル又はアルミニウムが好ましい。また、メッキで形成できるものが好ましい。
金属層の厚さは、目的に応じて適宜選択すれば良い。例えば、10〜60μmであることが好ましく、30〜50μmであることがより好ましい。10μm以上とすることで光ファイバの水素遮断性を一層向上させることができ、60μm以下とすることで光ファイバを細径化できるので、実装時の取り扱い性や他のモジュールとの接続性が向上し、さらにセンサ等を小型化できる。
なお、金属層の厚さは、金属被覆された光ファイバをマイクロメータで挟んで測定する。
【0023】
<光ファイバの製造方法>
本発明の光ファイバは、例えば、以下の方法で製造できる。すなわち、MCVD法(MCVD:Modified Chemical Vapor Deposition)、VAD法(VAD:Vapor phase Axial Deposition)等の公知の方法で光ファイバ母材を作製した後、これを紡糸する。次いで、その外周上にポリイミド樹脂層と金属層を順次積層すれば良い。
ポリイミド樹脂層は公知の方法で積層すれば良く、例えば、F添加石英クラッドの外周上に樹脂の原料を塗布した後、これを加熱硬化させれば良い。
金属層は、例えば、ポリイミド樹脂層で被覆した光ファイバの表面に、金属メッキの手法で積層すれば良い。この金属層積層工程は、無電解メッキ工程と電解メッキ工程の二工程からなる。まず、無電解メッキ工程にて、メッキ液中の金属イオンを化学的に還元析出させ、ポリイミド樹脂層の上に薄い金属被膜を形成する。その後、さらに電解メッキ工程にて金属塩の水溶液から電気化学的にポリイミド樹脂層表面に金属を還元析出させ、順次積層する。このように製造することで、金属層表面にホール等の形状異常を生じることなく、厚さが60μm以下程度の薄い金属層を一層均一な厚さで形成でき、細径化された光ファイバを高精度に作製できる。
【0024】
本発明の光ファイバは、光の初期透過性が高く、初期の光の伝送損失を1.55μmの使用波長帯で1dB/km以下に抑制でき、より適した構成を選択することで0.2dB/km以下に抑制することも可能である。
また、高温で且つ高圧の水素ガス存在下でも、使用時の光の伝送損失の増加を顕著に抑制でき、例えば、SEAFOM、「Class E」(100%H、69気圧、177℃)の条件で、1.55μmの使用波長帯における光の伝送損失を、3dB/km以下に抑制でき、より適した構成を選択することで1dB/km以下に抑制することも可能である。
本発明の光ファイバは、このような優れた光透過性を有しており、1〜5kmといった極めて長い長さで使用しても、使用時の光の伝送損失を僅かな量に抑制でき、しかも優れた耐熱性を有するので、特に油井用センサへ適用するのに好適である。
これに対して従来の光ファイバは、たとえ環境センシング用であっても、高温で且つ高圧の水素ガス存在下での使用を想定したものではなく、このような環境下での光の伝送損失を十分に抑制できるものではなく、まして通常は、数cm〜数m程度の極めて短い長さで使用するものである。
【0025】
<油井用センサ>
本発明の油井用センサは、上記本発明の光ファイバを備えたことを特徴とする。そして、優れた光透過性と耐熱性を有するものである。
【実施例】
【0026】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0027】
実施例で作成した光ファイバに関する各種測定は、以下の方法で行った。
<ポリイミド樹脂層の厚さの測定方法>
ポリイミド樹脂層の厚さは、ポリイミド樹脂被覆された光ファイバの断面を光学顕微鏡で観察して測定した。
<金属層の厚さの測定方法>
金属層の厚さは、金属被覆された光ファイバをマイクロメータで挟んで測定した。
<水酸基含有量の測定方法>
石英ガラス中の水酸基含有量は、赤外吸収スペクトルから求めた。
<比屈折率差Δの測定方法>
比屈折率差Δは、プリフォームアナライザなどの装置を使用して測定した。
【0028】
作製した光ファイバについて、光学特性、耐熱性、水素遮断性、取り扱い性、モジュールとの接続性を、下記評価基準に従って評価した。
<評価方法>
(光学特性)
◎・・・特に優れる(初期;100%H、100atm、60℃の条件で7日間水素ローディング直後;水素ローディング後30日後、のそれぞれの光の伝送損失が1.55μmで1dB/km以下である。)
○・・・優れる(前記と同じ条件で、それぞれの光の伝送損失が1.55μmで1dB/kmより大きく且つ3dB/km未満である。)
×・・・劣る(前記と同じ条件で、それぞれの光の伝送損失が1.55μmで3dB/km以上である。)
(耐熱性)
◎・・・特に優れる(300℃で30日のエージング後、短尺引張試験(IEC60793−2−50準拠)での強度が3GPa以上である。)
○・・・優れる(前記と同じ条件での強度が、2GPaより大きく且つ3GPa未満である。)
×・・・劣る(前記と同じ条件での強度が、2GPa以下である。)
(水素遮断性)
高圧水素;
◎・・・特に優れる(100%H、100atm、60℃の条件で7日間水素ローディング直後の光の伝送損失の増加量が、1.55μmで3dB/km以下である。)
○・・・優れる(前記と同じ条件で、光の伝送損失の増加量が1.55μmで3dB/kmより大きく且つ10dB/km未満である。)
×・・・劣る(前記と同じ条件で、光の伝送損失の増加量が1.55μmで10dB/km以上である。)
低圧水素;
◎・・・特に優れる(100%H、100atm、60℃の条件で7日間水素ローディング直後の光の伝送損失の増加量が、1.55μmで3dB/km以下である。)
○・・・優れる(前記と同じ条件で、光の伝送損失の増加量が1.55μmで3dB/kmより大きく且つ10dB/km未満である。)
×・・・劣る(前記と同じ条件で、光の伝送損失の増加量が1.55μmで10dB/km以上である。)
(取り扱い性)
◎・・・特に優れる(ファイバを直径20mmΦのマンドレルに10回巻き付けた時の光の伝送損失が、1.55μmで3.0dB以下である。)
○・・・優れる
×・・・劣る
(接続性)
◎・・・特に優れる(通常の通信用光ファイバの直径125μmを基準とし、直径が125μm±0.8μmの範囲内である。)
○・・・優れる
×・・・劣る
【0029】
[実施例1]
<光ファイバ母材の作製>
純粋石英コア(外径9μm)の外周上に、フッ素原子が1.6質量%添加されたF添加石英クラッド(外径125μm)が積層され、該クラッドの外周上に厚さが15μmのポリイミド樹脂層が積層され、該ポリイミド樹脂層の外周上に厚さが40μmの銅層が積層された光ファイバを作製した。
なお、純粋石英コア/F添加石英クラッドは、以下の方法で作製した。VAD法により、シリカスートを作製した。このシリカスートを、ヘリウムガス4L、塩素ガス160mL、1000℃の雰囲気下で脱水し、ヘリウムガス4L、1450℃の雰囲気下でガラス化した。そして、このガラスを延伸し、シリカスートを外付けした。
その後、ヘリウムガス4L、塩素ガス160mL、1000℃の雰囲気下で脱水し、さらにヘリウムガス4L、SiFガス220mL、1350℃の雰囲気下でガラス化した。この外付けをコア/クラッド比が所望の倍率になるまで行い、コアとクラッドとの間の比屈折率差(Δ)が0.4%である光ファイバ母材を得た。
【0030】
<ポリイミド樹脂層の形成>
前記光ファイバ母材の紡糸中に、ポリイミド樹脂PI2525(日立化成デュポンマイクロシステムズ社製)をクラッド上に塗布し、これを加熱することで、クラッド上にポリイミド樹脂層を積層した。
【0031】
<銅層の形成>
得られたポリイミド樹脂被覆光ファイバを、長手方向に沿って少しずつ、無電解メッキ液、水及び電解メッキ液にこの順で順次浸漬することで、ポリイミド樹脂層上に銅層を積層して、本発明の光ファイバとした。
なお、この銅層積層工程は、例えば、無電解メッキ工程と電解メッキ工程の二工程からなる。まず、無電解メッキ工程にてメッキ液中の金属イオンを化学的に還元析出させ、ポリイミド樹脂層上に薄い金属被膜を形成し、その後、さらに電解メッキ工程にて金属塩の水溶液から電気化学的にポリイミド樹脂層表面に金属を還元析出させた。
【0032】
作製した光ファイバは、表1に示すように、コア中の水酸基の含有量が0.6ppmであり、比屈折率差Δが0.4%であり、波長1.5μm付近でシングルモード動作をするものである。
【0033】
作製した光ファイバについて、光学特性、耐熱性、水素遮断性、取り扱い性、モジュールとの接続性を上記方法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0034】
[実施例2〜12、比較例1〜10]
表1に示すような材質、パラメータ及び物性の光ファイバを、実施例1と同様の方法で作製し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
[試験例1]
実施例1で作製した、長さ1kmの光ファイバについて、光の伝送損失を測定した(a:初期値)。
次いで、この光ファイバを耐圧性容器内に密封し、該容器内を水素ガスで置換して(100%Hガス)、該容器内の圧力を100気圧、温度を60℃として7日間この状態を維持し、水素ローディングを行った。
次いで、前記容器内より光ファイバを取り出し、直ちに上記と同様に光の伝送損失を測定した(b:水素ローディング直後)。さらに、容器外に光ファイバを30日間静置して、同様に光の伝送損失を測定した(c:水素ローディング後30日)。測定結果を図1に示す。
図1から明らかなように、水素ローディング直後でも光の伝送損失は増加せず、また30日後の伝送損失は、水素ローディング前とほぼ同程度にまで低下していた。これは、金属層によって純粋石英コア中への水素の侵入がほとんど遮断されたこと、さらに、純粋石英コア中への微量の水素の侵入があったとしても、30日間静置している間に、純粋石英コア中からほとんどの水素が抜けたことを意味する。そしてこの傾向は、1.55μm(1550nm)付近での使用波長帯で、特に顕著であった。
【0037】
[試験例2]
比較例10で作製した、長さ1kmの光ファイバについて、光の伝送損失を試験例1の場合と同様に測定した(a:初期値、b:水素ローディング直後、c:水素ローディング後30日)。測定結果を図2に示す。
図2から明らかなように、水素ローディング直後は、光の伝送損失が一時的に増加したが、30日後の伝送損失は、水素ローディング前とほぼ同程度にまで低下していた。これは、純粋石英コア中への水素の侵入があったとしても、30日間静置している間に、純粋石英コア中からほとんどの水素が抜けたこと、さらに純粋石英コア中には、欠陥部がほとんど形成されていないことを意味する。そしてこの傾向は、1.55μm(1550nm)付近での使用波長帯で、特に顕著であった。
【0038】
[試験例3]
比較例9で作製した、長さ1kmの光ファイバについて、光の伝送損失を試験例1の場合と同様に測定した(a:初期値、b:水素ローディング直後、c:水素ローディング後30日)。測定結果を図3に示す。
【0039】
図3から明らかなように、試験例3の光ファイバでは、水素ローディング直後に、Ge添加石英コア中に進入した水素の影響で光の伝送損失が増加し、30日後の伝送損失もほとんど低下せず、水素ローディング前よりも高い水準であった。これは、Ge添加石英コア中に欠陥部が存在し、該欠陥部と水素ガスとが化学反応してしまったことを意味する。そしてこの傾向は、1.55μm(1550nm)付近での使用波長帯で、特に顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、高温で且つ高圧の水素ガスが存在する環境において使用するセンサとして利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純粋石英からなるコアの表面に、フッ素原子が添加された石英からなるクラッド、ポリイミド樹脂層及び金属層の順に積層されてなることを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記ポリイミド樹脂層の厚さが4〜25μmであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記金属層の厚さが10〜60μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記コアの外径が6〜11μmであり、且つ、前記クラッドの外径が110〜130μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記コア中の水酸基の含有量が1.2ppm以下であり、且つ、前記コアとクラッドとの間の比屈折率差が0.2〜0.5%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記金属層の材質が、銅、ニッケル又はアルミニウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の光ファイバを備えたことを特徴とする油井用センサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate