説明

光ファイバ型デバイス

【課題】広い波長帯域内の任意の波長の信号光を波長が異なる変換光として高い変換効率で出力する。
【解決手段】光ファイバ型デバイス1は、第一の波長帯域内に含まれる波長λの信号光を入力し、第二の波長帯域内に含まれて波長λとは異なる波長λの変換光を発生し、ポンプ光を出力するポンプ光源21と、信号光とポンプ光とを合波して出力する光合波器40と、光合波器40により合波されて出力された信号光及びポンプ光を入力して導波し、その導波の間に生じる非線形光学現象によって変換光を発生する光ファイバ10と、を備え、ポンプ光の波長は、2×(1/λ+1/λ−1により求められる波長であり、光ファイバ10の零分散波長は第一の波長帯域内に含まれ、零分散波長における分散スロープが+0.01ps/nm/km以上+0.045ps/nm/km以下であり、光ファイバ10の長さが450m以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを用いて、入力される信号光の波長と異なる波長の変換光を発生する光ファイバ型デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ中で発生する非線形現象を用いた光信号処理デバイス(光ファイバ型デバイス)はよく知られている。特に、四光波混合(Four-Wave Mixing:FWM)を用いて波長変換を行う光ファイバ型デバイスは、広い波長帯域で用いることができ、且つ、変換効率が高いことから、高速の信号を処理するために広く用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、この光ファイバ型デバイスにおける波長変換の際には、ある波長の光を、当該波長とは異なる波長の光に変換すると共に2次分散をできるだけ小さくするために、ポンプ光における2次分散をできるだけ小さくする必要がある。ここで、任意の波長の信号光を入力し任意の波長の変換光を出力させるためには、ポンプ光波長を変換前後の光の波長に対応して変える必要がある。そのため、広いポンプ光となる波長範囲において2次分散値の変化が少ない分散フラットファイバを用いた波長変換等が検討されている(例えば、非特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−72182号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Okuno, et. al., Elec. Lett.,39, 2001, pp.109-111.
【非特許文献2】M. Takahashi, et. al., J.Lightwave Technol., 23, 2005, pp.3615-3624
【非特許文献3】C. G. Joergensen, et. al.,ECOC-IOOC 2003 Proc., Vol.3, 2003, pp.556-557
【非特許文献4】K. P. Hansen, Optics Express,11, 2003, pp.1503-1509.
【非特許文献5】A. Zhang, et. al., OpticsLetters, 30, 2005, pp.2375-2377.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1〜5において用いられる分散フラットファイバは、コア径の微小な変化によって分散値が変化してしまうため、製造性が悪い。また、通常用いられる高非線形ファイバと比較して非線形係数が小さくなるという問題がある。また、非特許文献4,5では、フォトニック結晶ファイバ(Photonic Crystal Fiber:PCF)が用いられているものの、孔径、孔位置の制御が困難であるために、分散値の制御が困難になり、実用化に際して問題点となり得る点がある。
【0007】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、広い波長帯域内の任意の波長の信号光を信号光と波長が異なる変換光として高い変換効率で出力することができる光ファイバ型デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る光ファイバ型デバイスは、波長λと波長λとの間の第一の波長帯域内に含まれる波長λの信号光を入力し、第二の波長帯域内に含まれて波長λとは異なる波長である波長λの変換光を発生する光ファイバ型デバイスであって、ポンプ光を出力するポンプ光源と、信号光とポンプ光とを合波して出力する光合波部と、光合波部により合波されて出力された信号光及びポンプ光を入力して導波し、その導波の間に生じる非線形光学現象によって変換光を発生する光ファイバと、を備え、ポンプ光の波長は、2×(1/λ+1/λ−1により求められる波長であり、光ファイバの零分散波長は第一の波長帯域内に含まれ、零分散波長における分散スロープが+0.01ps/nm/km以上+0.045ps/nm/km以下であり、光ファイバの長さが450m以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の光ファイバ型デバイスでは、光ファイバの零分散波長及び分散スロープが上記の範囲であることで、光ファイバの製造時における零分散波長のバラつきを小さくすることができ、且つ、この光ファイバによる変換効率を高めることができる。そして、光ファイバの長さを450m以下とすることで、高い変換効率を維持した状態で、波長帯域内における変換効率の変動幅を小さくすることができるため、第一の波長帯域に含まれる任意の波長の信号光を第二の波長帯域に含まれる任意の波長の変換光へ波長を変換して出力する際の変換効率が高められる。
【0010】
ここで、上記作用を効果的に奏する構成としては、具体的に、光ファイバへのポンプ光の入射強度及び信号光の入射強度がそれぞれ実質的に一定である場合に、第一の波長帯域の幅及び第二の波長帯域の幅はそれぞれ30nm以上であり、波長λと波長λとがいかなる組み合わせであっても、変換光の強度の変動幅が3dB以下である態様が挙げられる。
【0011】
また、光ファイバの長さが25m以上である態様である場合、波長変換時の変換効率を高くすることができる。また、光ファイバの非線形係数は直線偏波状態で15/W/km以上である態様である場合、変換効率をより高くすることができるため、好適である。
【0012】
また、光ファイバの零分散波長が2×(1/λ+1/λ−1±6nmの波長範囲内である場合、広い波長帯域内での変換効率の変動幅をより小さくすることができるため、波長変換前後の波長の組み合わせに関係なく、変換効率を高くすることができる。
【0013】
ここで、第一の波長帯域は波長1530〜1565nmの帯域及び波長1570〜1605nmの帯域の少なくとも一方を含むことが好ましい。また、第二の波長帯域は波長1530〜1565nmの帯域及び波長1570〜1605nmの帯域の少なくとも一方を含む態様であってもよい。また、第一の波長帯域及び第二の波長帯域の少なくとも一方は、波長1530〜1565nmの帯域及び波長1570〜1605nmの帯域を含む態様とすることもできる。
【0014】
また、本発明に係る光ファイバ型デバイスは、第二のポンプ光を出力する第二のポンプ光源と、変換光と第二のポンプ光とを合波して出力する第二の光合波部と、第二の光合波部により合波されて出力された変換光及び第二のポンプ光を入力して導波し、その導波の間に生じる非線形光学現象によって、第三の波長帯域内に含まれて波長λとは異なる波長である波長λの第二の変換光を発生する第二の光ファイバと、をさらに備える態様とすることもできる。
【0015】
上記の構成のように、光ファイバ型デバイスが光ファイバを2つ備えて、波長変換を2段に分けて行うことで、波長変換時に発生するスペクトルの反転を2回発生させることで、変換光のスペクトルが信号光のスペクトルに対して反転しないように構成することもできる。
【0016】
ここで、第三の波長帯域は波長1530〜1565nmの帯域及び波長1570〜1605nmの帯域の少なくとも一方を含む態様とすることができる。
【0017】
また、本発明に係る光ファイバ型デバイスは、第三のポンプ光を出力する第三のポンプ光源と、第四の波長帯域内に含まれ波長λとは異なる波長である波長λの第二の信号光と第三のポンプ光とを合波して出力する第三の光合波部と、第三の光合波部により合波されて出力された第二の信号光及び第三のポンプ光を入力して導波し、その導波の間に生じる非線形光学現象によって波長λの信号光を発生する第三の光ファイバと、をさらに備える態様とすることもできる。
【0018】
上記の構成のように、非線形光学現象によって波長λの信号光を発生させる第三の光ファイバを、本発明に係る光ファイバの前段に設ける構成とすることもできる。この場合にも、波長帯域の任意の波長を入力して波長変換を行うときの変換効率を高くすることができる。
【0019】
ここで、第四の波長帯域は波長1530〜1565nmの帯域及び波長1570〜1605nmの帯域の少なくとも一方を含む態様とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、広い波長帯域内の任意の波長の信号光を信号光と波長が異なる変換光として高い変換効率で出力することができる光ファイバ型デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施形態に係る光ファイバ型デバイス1の構成を模式的に示す図である。
【図2】光ファイバ型デバイスによる波長変換機能を説明する図である。
【図3】λと(λ−1−λ−1との関係を示した図である。
【図4】λと(λ−1−λ−1)との関係を示した図である。
【図5】位相不整合パラメータΔβのポンプ光波長λに対する依存性を示す図である。
【図6】位相整合パラメータηのポンプ光波長λに対する依存性を示す図である。
【図7】分散スロープSがそれぞれ+0.020,+0.030ps/nm/kmである2種類のDS−HNLFを光ファイバ10として用いた場合の位相整合パラメータηのポンプ光波長λに対する依存性を示す図である。
【図8】分散スロープSがそれぞれ+0.045,+0.050ps/nm/kmである2種類のDS−HNLFを光ファイバ10として用いた場合の位相整合パラメータηのポンプ光波長λに対する依存性を示す図である。
【図9】光ファイバ10のコア径が10%だけ変動した場合の零分散波長λの変動と分散スロープSとの関係を示す図である。
【図10】零分散波長λにおける分散スロープSがそれぞれ+0.010,+0.020,+0.030ps/nm/kmである3本のDS−HNLFを光ファイバ10とした場合に、Cバンド内の任意波長を用いた波長変換のうち最大値を1として規格化した場合の変換効率Eの最低値のファイバ長Lに対する依存性を示す図である。
【図11】分散スロープSが+0.020ps/nm/kmであってファイバ長Lが25mである場合に、Cバンド内での任意の波長から任意の波長に波長変換を行ったときの最大値を1として規格化した場合の変換効率Eの最低値の変動と、零分散波長λとの関係を示す図である。
【図12】分散スロープSが+0.020ps/nm/kmであってファイバ長Lが100mである場合に、Cバンド内での任意の波長から任意の波長に波長変換を行ったときの最大値を1として規格化した場合の変換効率Eの最低値の変動と、零分散波長λとの関係を示す図である。
【図13】第2の実施形態に係る光ファイバ型デバイス2の構成を模式的に示す図である。
【図14】第3の実施形態に係る光ファイバ型デバイス3の構成を模式的に示す図である。
【図15】第3の実施形態に係る光ファイバ型デバイス3を用いてポンプ光波長を変更した場合に光ファイバ10から出射する変換光の波長と強度の結果を示す図である。
【図16】第4の実施形態に係る光ファイバ型デバイス4の構成を模式的に示す図である。
【図17】第5の実施形態に係る光ファイバ型デバイス5の構成を模式的に示す図である。
【図18】第6の実施形態に係る光ファイバ型デバイス6の構成を模式的に示す図である。
【図19】第6の実施形態に係る光ファイバ型デバイス6のうち光ファイバ10から出射する変換光の波長λi1と出射強度の関係を示す図である。
【図20】第6の実施形態に係る光ファイバ型デバイス6のうち光ファイバ11から出射する変換光の波長λi2と出射強度の関係を示す図である。
【図21】第6の実施形態に係る光ファイバ型デバイス6による変換光λi2の出力光強度の変動を変換光の波長λi2に対応させて示した図である。
【図22】Cバンド及び実用Lバンドを含む波長帯域内の任意波長の信号光を同一帯域の任意波長の変換光に変換した場合の変換光波長λに対する最大値を1として規格化した場合の変換効率Eの変動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光ファイバ型デバイス1の構成図である。この光ファイバ型デバイス1は、光ファイバ10のほか、ポンプ光源21、光増幅器22、バンドパスフィルタ23、偏波コントローラ24、信号光源31、偏波コントローラ34、光合波器40及びバンドパスフィルタ41を備える。
【0024】
本実施形態に係る光ファイバ型デバイス1を構成する光ファイバ10は、信号光及びポンプ光を入力して導波し、その導波の間に生じる非線形光学現象によって信号光及びポンプ光の波長とは異なる波長の変換光を発生する。光ファイバ10としては、具体的には、高非線形性ファイバ(Highly Non-Linear Fiber:HNLF)等が用いられ、特に分散シフト高非線形性ファイバ(Dispersion-ShiftedHNLF:DS-HNLF)が好適に用いられる。この光ファイバ10による波長変換については後述する。
【0025】
また、光ファイバ型デバイス1を構成するポンプ光源21は、波長λのポンプ光を発生する。ポンプ光源21は、波長可変光源であることが好ましい。信号光源31は、波長λの信号光を発生する。光増幅器22は、ポンプ光源21から出力されたポンプ光を光増幅して出力する。バンドパスフィルタ23は、光増幅器22から出力された光のうち波長λの光を選択的に透過させて出力する。偏波コントローラ24は、バンドパスフィルタ23から出力されたポンプ光λの偏波状態を制御して出力する。
【0026】
なお、光増幅器22としては、例えば希土類添加光増幅器であるエルビウム添加光ファイバ増幅器(Erbium Doped Fiber Amplifier:EDFA)及びツリウム添加光ファイバ増幅器(Thulium DopedFiber Amplifier:TDFA)のほか、ラマン増幅器、半導体光増幅器(Optical Semiconductor Amplifier:OSA)等を用いることができる。なお、ポンプ光21から出力されるポンプ光強度が十分高い場合、具体的には、ポンプ光強度が数10mWから数Wあれば、光増幅器22は設けなくてもよい。また、バンドパスフィルタ23も必須ではないが、光増幅器22からのノイズが大きい場合等には、バンドパスフィルタ23を設けることで変換光λの光信号雑音比を高めることができる。
【0027】
そして、信号光λの光路上に設けられる偏波コントローラ34は、信号光源31から出力された信号光λの偏波状態を制御して出力する。なお、本実施形態では、偏波コントローラ34及びポンプ光λの光路上に設けられる偏波コントローラ24は、ポンプ光λや信号光λの偏波を揃えることで変換光λの出力強度を高めることができるために用いられるが必須ではない。また、偏波コントローラ24及び偏波コントローラ34のいずれか一方のみを光路上に配置する構成としてもよい。また、ポンプ光λ及び信号光λの少なくとも一方に偏波スクランブルをかけることで、偏光状態をランダムにする場合には、偏波コントローラ24及び偏波コントローラ34は不要である。
【0028】
光合波器40は、偏波コントローラ24から出力されたポンプ光λを入力すると共に、偏波コントローラ34から出力された信号光λを入力して、これらポンプ光λ及び信号光λを合波して出力する。この光合波器40として空間光学系を用いることもできる。光ファイバ10は、光合波器40により合波されて出力されたポンプ光λおよび信号光λを入力する。そして、光ファイバ10は、四光波混合により波長λの変換光を発生させて出力する。バンドパスフィルタ41は、光ファイバ10から出力された光のうち波長λの光を選択的に透過させて出力する。なお、上記の構成のうち、バンドパスフィルタ41は、波長λの変換光のみを選択的に取り出す必要がない場合、すなわち、ポンプ光λや信号光λが混合されていてもよい場合には、設けなくてもよい。
【0029】
上記の光ファイバ型デバイス1では、ポンプ光源21から出射された波長λのポンプ光と信号光源31から出射された波長λの信号光とを光合波器40により合波して出力し、光ファイバ10へ入射させる。そして、光ファイバ10での導波の間に生じる非線形光学現象によってポンプ光及び信号光の波長とは異なる波長の変換光を発生させる。この光ファイバ型デバイス1では、図2に示すように、波長λや波長λのように互いに異なる波長の光を信号光として入力した場合であっても、波長λの変換光を出力することができること望まれている。すなわち、任意の波長の信号光を入力し、任意の波長の変換光を出力することが望まれている。
【0030】
ここで、本発明を想到するに際して行った理論検討の内容について説明する。ここでは、波長変換を行う光ファイバに対してポンプ光(波長λp1,λp2)及び信号光(波長λs)が入射し、この光ファイバにおいて非線形光学現象(例えばパラメトリック過程の1種である四光波混合)が発現し、これにより光ファイバにおいて新たな波長の変換光(波長λ)が発生する場合を考える。なお、波長λp1と波長λp2とは互いに等しくてもよく、その場合、これらの波長をλで表す。
【0031】
光ファイバによる波長変換によって得られる変換光の波長λは、ポンプ光の波長λp1,λp2及び信号光の波長λを用いて、下記(1)式で表される。
【0032】
【数1】

【0033】
そして、波長変換を行う場合には、ポンプ光、信号光、及び、変換光の各光波間の位相整合条件を満たす必要がある。ポンプ光(波長λp1,λp2)、信号光(波長λ)、及び変換光(波長λ)の各光波の位相をそれぞれβp1,βp2,β,βとすると、位相不整合パラメータΔβは下記(2)式で表され、自己位相変調による位相シフトφは下記(3)式で示される。そして、位相不整合パラメータΔβと位相シフトφの和κは下記(4)式で示される。なお、p1及びp2は、それぞれ光ファイバに対する波長λp1,λp2のポンプ光の入射強度を示す。
【0034】
【数2】

【0035】
【数3】

【0036】
【数4】

【0037】
ここで、(4)式に示す和κが0である場合には、信号光の光ファイバへの入射強度Psに対する変換光の光ファイバからの出射強度Piの比である波長変換効率Eが最大となる。この波長変換効率Eは下記(5)式でも示される。なお(5)式において、dは縮重度を示す係数であり、αは光ファイバの伝送損失であり、Leff(={1−exp(−αL)}/α)は光ファイバの実効長であり、Lは光ファイバの長さであり、ηは位相整合パラメータである。位相整合パラメータηは、具体的には下記(6)式に示す式で求められる。
【0038】
【数5】

【0039】
【数6】

【0040】
このηは、κ=0のときに最大値1となる。ここで、本実施形態に用いる光ファイバ10のように伝送損失が低い場合には、下記(7)式に示すように近似することができる。
【0041】
【数7】

【0042】
ここで、ポンプ光が同一波長λである場合には、(1)式は下記(8)式に書き換えられる。なお、この(8)式から、信号光λの波長と変換光λの波長が決定されている場合には、ポンプ光λの波長が決定される。具体的には、ポンプ光波長λは信号光λの波長と変換光λの波長を用いて2×(1/λ+1/λ−1により算出される。また、位相不整合パラメータΔβは、波長λでの2次分散値β2pを用いて、下記(9)式に近似することができる。
【0043】
【数8】

【0044】
【数9】

【0045】
上記(9)式において、Cは真空中の光速である。ここで、ポンプ光の入射強度Pが十分に小さく、位相シフトが発生しない場合には、(4)式に示した和κと位相不整合パラメータΔβとは「κ〜Δβ」の関係を満たすため、ポンプ光における2次分散値β2pがゼロであれば、すなわち、ポンプ光の波長が零分散波長に一致していれば、変換効率Eは最大となる。なお、二次分散βと光ファイバの波長分散Dとの関係は、一般的に下記(10)式を満たすことが知られている。
【0046】
【数10】

【0047】
ここで、本実施形態に係る光ファイバ型デバイス1を用いて、波長1530〜1565nm(すなわち、λが1530nmであり、λが1565nm)のCバンドの信号光を、Cバンドの変換光に波長変換を行う場合について検討する。
【0048】
2次分散値β2pは、零分散波長λにおける3次分散値βを用いて下記(11)式のように示すことができる。
【0049】
【数11】

【0050】
ここで、3次分散値βと分散スロープSとの関係は下記(12)式で示される。
【0051】
【数12】

【0052】
上記(12)式において、零分散波長λにおける波長分散Dはゼロであるので、波長λが1.55μm付近である場合、「β[ps/km]〜1.6×S[ps/nm/km]」の関係を満たす。そして、(11)式を(9)式に当てはめると、(9)式は下記(13)式のように書き換えられる。
【0053】
【数13】

【0054】
すなわち、上記(13)式によれば、(λ−1−λ−1)×(λ−1−λ−1が小さいほど位相不整合パラメータΔβが小さくなることが示される。
【0055】
ここで、本実施形態の光ファイバ型デバイス1によって、波長1530〜1565nmのCバンドの信号光λを、Cバンドの変換光λに波長変換を行う場合、(8)式を用いて決定される変換光の波長の範囲も1530≦λ≦1565である。このとき、Cバンドの両端となる波長λ=1530nmと波長λ=1565nmを用いて、2×(1/λ+1/λ−1にλ及びλをそれぞれを代入することにより算出された1547.3nmを境界として、λが1530〜1547.3nmの場合、(λ−1−λ−1の最大値は(1530−1−λ−1となり、λが1547.3〜1565nmの場合、(λ−1−λ−1の最大値は(1565−1−λ−1となる。このポンプ光波長λと(λ−1−λ−1との関係を示したものが図3である。
【0056】
図3に示すように、ポンプ光波長λが1547.3nmの近辺である場合に(λ−1−λ−1の最大値が大きくなることから、位相不整合パラメータΔβを小さくするためにはポンプ光波長λが1547.3nm近辺である場合に(λ−1―λ−1)が小さくなればよく、すなわち零分散波長λが1547.3nmであることが好ましい。ここで、零分散波長λを1547.3nmとした場合のポンプ光波長λと(λ−1―λ−1)との関係を図4に示す。
【0057】
上記の(13)式によれば、分散スロープSに影響を与える3次分散値βは小さいほうが望ましい。しかし、分散スロープSと3次分散値βの好適範囲には製造誤差を考慮した場合下限が存在する。図9は、光ファイバ10のコア径が1%だけ変動した場合の零分散波長λの変動と分散スロープSとの関係を示したものである。図9に示すように、分散スロープSが+0.01ps/nm/kmよりも小さい場合、製造誤差による零分散波長λの変動が大きくなってしまう。したがって、光ファイバ10の分散スロープSは+0.01ps/nm/km以上(3次分散値βは+0.016ps/km程度かそれ以上)であることが好ましい。また、光ファイバ10は、分散スロープSが+0.017ps/nm/kmよりも大きい光ファイバ(特にDS−HNLF)であることがより好ましい。
【0058】
3次分散値βが+0.016ps/kmであり、零分散波長λが1547.3nmである分散シフト高非線形性ファイバ(DS−HNLF)を光ファイバ10として用いた場合、上記の(13)式から算出される位相不整合パラメータΔβのポンプ光波長λに対する依存性は図5に示すとおりである。そして、この光ファイバ10の長さLを100mとした場合に、上記(7)式により算出される位相整合パラメータηのポンプ光波長λに対する依存性は図6に示すとおりである。図6に示すように、ポンプ光波長λが波長1530nm〜1565nmのCバンドの帯域に含まれるどの波長であっても位相整合パラメータηは0.97〜1.0の範囲となる。したがって、上記(5)式に基づいて、波長1530〜1565nmのCバンドの信号光を、Cバンドの変換光に波長変換を行う場合、最大値を1として規格化した場合の変換効率Eの最低値は0.97(0.14dB)であり、変動幅は0.03に抑制され、高い変換効率を実現することができる。
【0059】
また、零分散波長λが1547.3nmであり、長さが100mであって、零分散波長λにおける分散スロープSがそれぞれ+0.020,+0.030ps/nm/kmである2種類のDS−HNLFを光ファイバ10として用いた場合の位相整合パラメータηのポンプ光波長λに対する依存性を図7に示す。また、零分散波長λが1547.3nmであり、長さが100mであって、λにおける分散スロープSがそれぞれ+0.045,+0.050ps/nm/kmである2種類のDS−HNLFを光ファイバ10として用いた場合の位相整合パラメータηのポンプ光波長λに対する依存性を図8に示す。図7及び図8に示すように、分散スロープSが+0.045ps/nm/km以下のDS−HNLFを光ファイバ10として用いた場合には、最大値を1として規格化した場合の変換効率Eは0.5(−3dB)以上となり、高い変換効率を実現することができる。
【0060】
また、上記の(7)式によれば、ファイバ長Lが短いほうがκ・Lが小さくなるため、変換効率Eの変動が小さくなる。ただし、上記の(5)式によれば、ファイバ長Lが短くなると変換効率Eが小さくなるため好ましくない。変換効率Eの観点でいえば、例えば、変換効率Eは−20dB以上であることが好ましいが、上記(7)式において、光ファイバ10がDS−HNLFとしては一般的な非線形係数γ20/W/kmを有し、ポンプ光λの入射強度が容易に入手可能な200mWであるとすれば、ファイバ長Lは25m以上である場合に変換効率Eが−20dB以上となり好ましい。ファイバ長Lが75m以上である場合は変換効率Eが−10dB以上となるためさらに好ましい。
【0061】
一方、変換効率Eの変動の観点でいえば、上述のようにファイバ長が長くなるとκ・Lが大きくなり、変換効率Eの変動が大きくなる。本実施形態の光ファイバ型デバイス1によって、波長1530〜1565nmのCバンドの信号光を、Cバンドの変換光に波長変換を行う場合、零分散波長λが1547.3nmであって、零分散波長λにおける分散スロープSがそれぞれ+0.010,+0.020,+0.030ps/nm/kmである3本のDS−HNLFを光ファイバ10とした場合に、Cバンド内の任意波長を用いた波長変換のうち最大値を1として規格化した場合の変換効率Eの最低値のファイバ長Lに対する依存性を図10に示す。図10に示すように、3本の光ファイバ10の分散スロープSがそれぞれ+0.010,+0.020,+0.030ps/nm/kmの場合、最大値を1として規格化した場合の変換効率Eの最低値が0.5となるファイバ長Lは、それぞれ450,220,150mと分散スロープSが小さいほどファイバ長が長くなっても変換効率の変動が小さかった。分散スロープSの好適範囲は+0.01ps/nm/km以上であるので、本実施形態に係る光ファイバ型デバイス1に用いられる光ファイバ10のファイバ長は450m以下であることが好ましい。ただし、分散スロープSが大きい場合にはファイバ長Lが短いほうが変換効率Eの変動は小さくなる。従って、ファイバ長Lは220m以下であることが好ましく、150m以下であることがさらに好ましい。
【0062】
また、分散スロープSが+0.020ps/nm/kmであってファイバ長Lが25mである場合に、Cバンド内での任意の波長から任意の波長に波長変換を行ったときの最大値を1として規格化した場合の変換効率Eと、零分散波長λとの関係を図11に示す。図11に示すように、零分散波長λがCバンド内である場合には、変換効率Eは0.5(3dB)以上であることから、小さな変動幅で高い変換効率が得られることが確認された。一方、図12では、分散スロープSが+0.020ps/nm/kmであってファイバ長Lが100mである場合に、Cバンド内での任意の波長から任意の波長に波長変換を行ったときの最大値を1として規格化した場合の変換効率Eと、零分散波長λとの関係を示す。この場合には、最大値を1として規格化した場合の変換効率Eが0.5(3dB)以上となる零分散波長λは1547.3nm±6nmであることから、零分散波長λがこの範囲、すなわち2×(1/λ+1/λ−1±6nmである光ファイバを用いることが好ましい。
【0063】
さらに、光ファイバ型デバイス1の光ファイバ10を選択する場合には、(4)式で示すように光ファイバ10に入力する光の強度と非線形係数による位相シフトとを考慮する必要もある。例えば、非線形係数γが20/W/kmであって、ポンプ光λの入射強度が200mWである場合には、位相は−8/kmだけシフトする。ここで分散スロープSが+0.020ps/nm/kmである場合には、零分散波長λが1545.6nmであれば、Cバンドの中心である波長1547.3nmにおいて和κがゼロとなる。Cバンドの中心の波長で和κがゼロとなる零分散波長λは分散スロープSが小さいほど短波長にシフトする。例えば、分散スロープSが+0.010ps/nm/kmである場合には、Cバンドの中心の波長で和κがゼロとなる零分散波長λが1544nmとなり、例えば、分散スロープSが+0.030ps/nm/kmである場合には、Cバンドの中心の波長で和κがゼロとなる零分散波長λが1546.2nmとなる。このように、光ファイバ10へ入射する入射光の強度が強い場合には、帯域の中心となる波長(ここではCバンドの中心の波長である1547.3nm)よりも数nm短い零分散波長λを有する光ファイバを用いることができる。
【0064】
また、光ファイバ10の非線形係数γは大きいことが好ましい。直線偏波状態で、具体的には標準的なシングルモード光ファイバの非線形係数に対してその10倍にあたる15/W/km以上であることが好ましい。変換効率Eは、非線形係数γの2乗に比例することから、標準的なシングルモード光ファイバの非線形係数に対して10倍の非線形係数を有することで、標準的なシングルモード光ファイバの変換効率に対して100倍の変換効率を得ることができる。この非線形係数γは20/W/km以上であることがさらに好ましい。
【0065】
また、光ファイバ10の偏波モード分散(Polarization ModeDispersion:PMD)は小さいほうが好ましい。具体的は、使用時の長さの光ファイバ10のPMDが0.2ps以下であることが好ましい。なお、偏波保持型の光ファイバを用いることもできる。
【0066】
さらに、光ファイバ10の伝送損失は低いほうが好ましい。ただし、本実施形態に係る光ファイバ型デバイス1では、光ファイバ10のファイバ長Lは数十〜数百mであるため、伝送損失が10dB/km以下であれば好ましい。
【0067】
以上のように、本実施形態の光ファイバ型デバイス1によれば、光ファイバ10の零分散波長λ及び分散スロープSが上記の範囲であることで、製造時の零分散波長λのバラつきを小さくすることができると共に変換効率Eを高めることができる。そして、光ファイバのファイバ長Lを450m以下とすることで、変換効率Eが高い状態であり且つ変換効率Eの変動を小さくすることができるため、Cバンドに含まれる任意の波長の信号光を任意の波長の変換光へ波長を変換して出力する際の変換効率Eを高くすることができる。
【0068】
なお、光ファイバ型デバイス1の変形例として、ポンプ光λを増幅する光増幅器22に高速のゲイン調整器を設ける構成が挙げられる。この場合、光ファイバ10から出力される変換光λの変換効率Eは、光ファイバ10に入力するポンプ光λの入射強度の2乗に比例するため、ゲイン調整器等によってポンプ光λの入射強度を変更することで、変換光λの出力強度を制御することが可能となる。
【0069】
また、他の変形例として、光ファイバ10の後段に光増幅器を設ける構成とすることもできる。当然ながら光ファイバ10の後段のバンドパスフィルタ41の前段と後段のどちらに光増幅器を設けてもよい。
【0070】
次に、第2の実施形態に係る光ファイバ型デバイス2について説明する。図13は、本実施形態に係る光ファイバ型デバイス2の構成を示す図である。この光ファイバ型デバイス2は、図1に示す光ファイバ型デバイス1と比較して、ポンプ光源21と偏波コントロータ24との間の光増幅器22及びバンドパスフィルタ23を除き、光合波器40と光ファイバ10との間に光増幅器42を設けたものである。この光ファイバ型デバイス2において新たに設けられた光増幅器42は、例えばゲインフラットEDFA等の特定の帯域での増幅率が一定である光増幅器が好適に用いられる。このような光増幅器42を用いることによって、光合波器40で合波されたポンプ光λ及び信号光λの両方が同じ増幅率で増幅された後に光ファイバ10に入力されることとなる。
【0071】
このような構成を有する光ファイバ型デバイス2を用いた場合でも、特定の波長帯域における任意の波長の光の波長変換を行う場合に、光ファイバ型デバイス1と同様に高い変換効率を得ることができる。
【0072】
ここで、図14に示す第3の実施形態に係る光ファイバ型デバイス3を用いて、信号光と変換光との変換効率を確認した。図14に示す光ファイバ型デバイス3は、図1に示す光ファイバ型デバイス1と比較して、ポンプ光源21の光路上のバンドパスフィルタ23を取り除くと共に光増幅器22と偏波コントローラ24との配置を入れ替え、さらに、光ファイバ10の後段のバンドパスフィルタ41を取り除いたものである。
【0073】
また、光ファイバ10としては以下に示す特徴を有するDS−NHLFを用いた。
ファイバ長L=100m
零分散波長λ=1548.8nm
零分散波長λにおける分散スロープS=+0.020ps/nm/km
伝送損失α=0.9dB/km
PMD=0.01ps
実効断面積Aeff=8.5μm
非線形係数γ=30/W/km
なお、非線形係数γはXPM法(Cross-Phase Modulation)を用いて測定を行った直線偏光状態についての値であるが、偏波がランダムである場合の実効的な非線形係数γは、この直線偏光状態での非線形係数の2/3となることが知られている。
【0074】
また、上記の光ファイバ型デバイス3において、光増幅器22としてはEDFAを用いた。この光増幅器22によってポンプ光λと信号光λを光合波器40で合波した後、DS−NHLFからなる光ファイバ10にポンプ光は50mW(+17dBm)、信号光λは1mW(0dBm)の光強度で入射させて、この光ファイバ10から出射する変換光をスペクトルアナライザ90で検出し、その波長と強度を測定した。
【0075】
上記の測定の結果を図15に示す。本測定では、信号光として1530,1532,…1564,1566nmの波長を用い、それぞれの波長の信号光に対してポンプ光の波長λを変更することにより変換光の波長λを調整した。この測定によって得られた変換光の変換効率Eを、変換光波長λに対してプロットしたものが図15である。図15に示すように、波長1530〜1565nmのCバンドの帯域の信号光を、同じくCバンド内の任意の波長の変換光に変換する際の変換効率Eの変動幅が1.5dB以内であることが確認された。このように、上記の光ファイバ型デバイス3によれば、Cバンド内の任意の波長の光からCバンド内の任意の波長の変換光への波長変換を高い変換効率で行うことができることが示された。
【0076】
上記の実施形態では、Cバンド内の任意の波長の信号光を、Cバンド内の任意の波長の変換光に波長変換する構成について説明したが、上記の光ファイバ型デバイスは他の波長帯域の光にも適用することができる。例えば、実用上Lバンドとして使用される波長帯域である波長1570〜1605nm(本実施形態では実用Lバンドとして説明する)の帯域内の任意の波長の光を、実用Lバンド内の任意の波長の変換光に変換させることもできる。
【0077】
この場合には、光ファイバ10の零分散波長λは、実用Lバンドの両端の波長1570nmと1605nmとを用いて算出される2×(1570−1+1605−1−1=1587.3nm付近であることが好ましい。なお、ファイバ長Lが数十mと短い場合には、零分散波長λが実用Lバンド内の波長であれば、任意波長の波長変換を高い変換効率で実現することができるが、ファイバ長Lが100m程度と長く、より変換効率を高める場合には、零分散波長λを1587.3±6nmとすることが好ましい。また、入射光強度が数十mW以上に大きい場合には、零分散波長λを1577.3nm〜1592.3nm程度とすることが好ましい。
【0078】
また、上記実施形態に示した光ファイバ型デバイス1〜3による波長変換では、変換光のスペクトルは信号光のスペクトルに対して反転した状態であるという特徴を有する。変換光のスペクトル形状が問題とならない場合には特に支障がないが、変換光のスペクトルが信号光のスペクトルに対して反転していると問題がある場合には、波長変換を行う光ファイバを2つ直列となるように配置することで、信号光の波長変換を2回実施すれば良い。例えば、第一の波長変換によってCバンド内の任意の波長λの光をCバンド内の波長λの光に波長変換した後、第二の波長変換によってλの光をCバンド内の任意の波長λの光に波長変換してもよい。また、第一の波長変換によってCバンド外の波長に変換した後、第二の波長変換でCバンド内の任意の波長に変換することで、結果的にCバンド内の任意の波長の光をCバンド内の異なる波長の光に波長変換する態様とすることもできる。
【0079】
次に、信号光と変換光とが互いに異なる波長帯域に含まれる光である場合について説明する。具体的には、Cバンド内の任意の波長の光を実用Lバンド内の任意の波長の光に変換する構成や、実用Lバンド内の任意の波長の光をCバンド内の任意の波長の光に変換する構成が挙げられる。
【0080】
ここでは、Cバンド内の任意の波長の光を実用Lバンド内の任意の波長の光に変換し、且つスペクトルの反転を防止する構成について、図16に示す第4の実施形態に係る光ファイバ型デバイス4を用いて説明する。図16の光ファイバ型デバイス4は、第1の実施形態に示す光ファイバ型デバイス1の後段にさらに波長変換を行うための光ファイバを含む構成を追加したものである。
【0081】
具体的には、光ファイバ型デバイス4では、光合波器40によって合波された信号光λとポンプ光λとが入力されることで光ファイバ10から出力され、さらにバンドパスフィルタ41を経由した変換光λi1を新たな信号光とする。そしてこの信号光(新たな信号光)と、ポンプ光源(第二のポンプ光源)51から出力されて偏波コントローラ54を経由した波長λp2のポンプ光(第二のポンプ光)とが光合波器60(第二の光合波部)により合波された後、光増幅器62を経て光ファイバ(第二の光ファイバ)11に入力する。そして、信号光λi1とポンプ光λp2とが光ファイバ11内を導波することで非線形光学現象によって波長λi2の変換光(第二の変換光)が出力され、バンドパスフィルタ61を経由して波長λi2の変換光以外の波長の光が除去される。これによって第二の変換光が得られる。なお、上記の光ファイバ型デバイス4では、信号光源31から出力される信号光λと光ファイバ10によって変換された後の変換光λi1とはCバンド内に含まれる任意の波長の光であり、光ファイバ11によって変換された後の変換光λi2(第二の変換光)は実用Lバンド内の任意の波長の光とされる。
【0082】
ここで、上記の光ファイバ型デバイス4では、第二の光ファイバ11によってCバンド内の任意の波長から実用Lバンドの任意の波長へと波長変換がなされる。このとき、光ファイバ11に入射させるためにポンプ光源51から出力されるポンプ光の波長λp2は、Cバンドと実用Lバンドとの中間となる波長2×(1530−1+1605−1−1=1566.6nm付近とし、零分散波長λが1567nm程度の光ファイバ11を選択して、この光ファイバ11によって波長変換を行うことが好ましい。
【0083】
また、光ファイバ10による波長変換を行った後に光ファイバ11を用いた第二の波長変換を行う構成に代えて、光ファイバ10の前段に光ファイバ11を設ける構成とすることもできる。図17は第5の実施形態に係る光ファイバ型デバイス5を説明する図である。図17に係る光ファイバ型デバイス5は、第1の実施形態に示す光ファイバ型デバイス1の前段にさらに波長変換を行う構成を追加したものである。
【0084】
具体的には、ポンプ光源(第三のポンプ光源)71から出力され、光増幅器72及び偏波コントローラ74を経由した波長λp3のポンプ光(第三のポンプ光)と、信号光源(第二の信号光源)31から出力されて偏波コントローラ34を経由した波長λ(λ)の信号光(第二の信号光)とが光合波器80(第三の光合波部)によって合波され、この合波されたポンプ光λp3と信号光λとが光ファイバ12(第三の光ファイバ)に入力されることで、非線形光学現象によって波長λi3の変換光(第三の変換光)が光ファイバ12から出力され、さらにバンドパスフィルタ81を経由して変換光λi3以外の波長の光が除去される。次に、この変換光λi3を信号光として、ポンプ光源21から出力されて偏波コントローラ24を経由した波長λのポンプ光とが光合波器40により合波された後、光増幅器42を経て光ファイバ10に入力する。そして、信号光λi3とポンプ光λとが光ファイバ10内を導波することで非線形光学現象によって波長λの変換光が出力され、バンドパスフィルタ41を経由して変換光の波長λ以外の波長の光が除去される。この構成の場合、信号光源31から出力される信号光λはCバンド内に含まれる任意の波長の光であり、光ファイバ12によって変換された後の変換光λi3と光ファイバ10によって変換された後の変換光λは実用Lバンド内の任意の波長の光とされる
【0085】
この場合、ポンプ光源71から出力されるポンプ光の波長λp3を1566.6nm付近とし、零分散波長が1567nm程度の光ファイバ12を用いることで、Cバンド内の任意の波長λの信号光が実用Lバンドの任意の波長λi3の変換光に波長変換される。そして、光ファイバ10に入力するためにポンプ光源21から出力させるポンプ光λの波長は実用Lバンドに含まれる波長として、このポンプ光λを変換光λi3と合波させた上で零分散波長λが1587.3nm程度の光ファイバ10に入力することによって、実用Lバンドの任意の波長の変換光λを出力させることができる。このように、本発明に係る光ファイバ型デバイスは種々の態様をとることができる。
【0086】
ここで、図18に示す第6の実施形態に係る光ファイバ型デバイス6を用いて、信号光と変換光との変換効率を確認した。図18に示す光ファイバ型デバイス8は、図16に示す光ファイバ型デバイス3と比較して、ポンプ光源21の光路上の光増幅器22を取り除き、光合波器40と光ファイバ10との間に光増幅器42を設けると共に、ポンプ光源51の光路上の偏波コントローラ54の後段に光増幅器52を設け、さらに、光合波器60の後段の光増幅器62及びバンドパスフィルタ61を取り除いたものである。
【0087】
まず、光ファイバ型デバイス6の前段側の光ファイバ10による波長変換について説明する。光ファイバ10としては以下に示す特徴を有するDS−NHLFを用いた。
ファイバ長L=150m
零分散波長λ=1546.2nm
零分散波長λにおける分散スロープS=+0.015ps/nm/km
伝送損失α=0.9dB/km
PMD=0.02ps
実効断面積Aeff=9.4μm
非線形係数(直線偏波状態)γ=25/W/km
【0088】
また、ポンプ光源21から出力されるポンプ光の波長λは、光ファイバ10によって波長変換された後の変換光の波長λi1に対応させて、λ=2×(λ−1+λi1−1)を満たすように調整した。また、変換光λi1の出射強度が最大となるように、偏波コントローラ24,34を用いて偏波を調整した。さらに、EDFAからなる光増幅器42によって増幅し、合波後のポンプ光λ及び信号光λをそれぞれ50mW程度(+17dBm)とした。
【0089】
信号光として1530,1532,…1564,1566nmの波長を用い、それぞれの波長の信号光に対してポンプ光の波長λを変更することにより変換光の波長λi1を調整した。この測定によって得られた変換光λi1の強度を、変換光の波長λi1に対してプロットしたものが図19である。図19では、変換光λi1の強度は+0.8〜−0.2dBmの範囲にあり、すなわち、Cバンド内の任意の波長の光が変換効率の幅1.0dB以内で波長変換されていることを示す。
【0090】
次に光ファイバ型デバイス6の後段側の光ファイバ11による波長変換について説明する。後段で波長変換を行う光ファイバ11としては以下に示す特徴を有するDS−NHLFを用いた。なお、このDS−NHLFの四次分散βは+0.18×10−4ps/kmであった。
ファイバ長L=200m
零分散波長λ=1566.0nm
零分散波長λにおける分散スロープS=+0.024ps/nm/km
伝送損失α=0.6dB/km
PMD=0.02ps
実効断面積Aeff=13μm
非線形係数(直線偏波状態)γ=15/W/km
【0091】
さらに光ファイバ11へ入力させるためのポンプ光源51から出力させるポンプ光の波長λp2は1566.6nmとした。また、光増幅器52から出力されて光ファイバ11に入力するポンプ光λp2の強度は+23dBmであった。
【0092】
上記の光ファイバ11による波長変換の変換効率と、光ファイバ11から出力された変換光の波長λi2との関係を図20に示す。波長1570〜1605nmの実用Lバンドにおける変換効率Eの変動幅は0.6dB以下である。
【0093】
上記図19及び図20に示す結果をふまえて、Cバンド内の任意波長における信号光λを実用Lバンド内の任意波長における波長λi2の変換光に波長変換する際の変換光の波長λi2と、その変換光λi2の強度を図21に示す。図21に示すように、変換光λi2の強度は−6.2〜−7.8dBmの範囲であり、強度の変動幅が1.6dBに抑制された状態での波長変換が実現された。
【0094】
以上のように、上記実施形態に示す光ファイバ型デバイスによれば、広い帯域(例えばCバンド)に含まれる任意の波長の光を、他の帯域(例えば実用Lバンド)に含まれる任意の波長の光に変換することができ、この変換を高い変換効率で実現することができる。そして、この光ファイバ型デバイスは、光ファイバの分散値を用いた光遅延(例えば非特許文献5を参照のこと)など、種々の応用が考えられる。
【0095】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明に係る光ファイバ型デバイスは上記実施形態に限定されない。例えば、変換光λの強度を、信号光λの強度よりも高くする態様としてもよい。これはポンプ光λの強度を強くすることで実現することができる。
【0096】
また、信号光λ、変換光λの波長帯域は、少なくともCバンドや実用Lバンドを含んで構成されることが好ましく、さらには波長帯域の幅が35nm以上あることが好ましい。上記実施形態では、Cバンドの波長1530〜1565nm及び実用Lバンド1570〜1605nmの波長帯域を用いて説明したが、より広い帯域からより広い帯域への波長変換も実現できる。例えば、分散スロープ:+0.015ps/nm/km、零分散波長:1563.5nm、ファイバ長25mのDS−NHLFを用い、Cバンド及び実用Lバンドを含む波長帯域(波長1530〜1605nm)内の任意の信号光を、Cバンド及び実用Lバンドを含む波長帯域内の任意波長に変換する波長変換を考慮し、信号光を、1530、1532、…、1604、1606nmとし、ポンプ光波長をシフトさせることで、変換光の波長を調整した。最大値を1として規格化した場合の変換効率Eを変換光波長λに対してプロットした結果を図22に示す。図22に示す結果によれば、全ての波長における最大値を1として規格化した場合の変換効率Eが0.6以上であることから、Cバンド及び実用Lバンドを含む波長帯域内での任意の波長変換が実現可能である。
【符号の説明】
【0097】
1〜6…光ファイバ型デバイス、10〜12…光ファイバ、21,51,71…ポンプ光源、22,32,42,52,72…光増幅器、23,41,61,81…バンドパスフィルタ、24,34,54,74…偏波コントローラ、31…信号光源、40,60,80…光合波器、90…スペクトルアナライザ。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長λと波長λとの間の第一の波長帯域内に含まれる波長λの信号光を入力し、第二の波長帯域内に含まれて前記波長λとは異なる波長である波長λの変換光を発生する光ファイバ型デバイスであって、
ポンプ光を出力するポンプ光源と、
前記信号光と前記ポンプ光とを合波して出力する光合波部と、
前記光合波部により合波されて出力された前記信号光及び前記ポンプ光を入力して導波し、その導波の間に生じる非線形光学現象によって前記変換光を発生する光ファイバと、
を備え、
前記ポンプ光の波長は、2×(1/λ+1/λ−1により求められる波長であり、
前記光ファイバの零分散波長は前記第一の波長帯域内に含まれ、
前記零分散波長における分散スロープが+0.01ps/nm/km以上+0.045ps/nm/km以下であり、
前記光ファイバの長さが450m以下である
ことを特徴とする光ファイバ型デバイス。
【請求項2】
前記光ファイバへの前記ポンプ光の入射強度及び前記信号光の入射強度がそれぞれ実質的に一定である場合に、
前記第一の波長帯域の幅及び前記第二の波長帯域の幅はそれぞれ30nm以上であり、
前記波長λと前記波長λとがいかなる組み合わせであっても、前記変換光の強度の変動幅が3dB以下である
ことを特徴とする請求項1記載の光ファイバ型デバイス。
【請求項3】
前記光ファイバの長さが25m以上である
ことを特徴とする請求項1又は2記載の光ファイバ型デバイス。
【請求項4】
前記光ファイバの非線形係数は直線偏波状態で15/W/km以上である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光ファイバ型デバイス。
【請求項5】
前記光ファイバの零分散波長が2×(1/λ+1/λ−1±6nmの波長範囲内である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光ファイバ型デバイス。
【請求項6】
前記第一の波長帯域は波長1530〜1565nmの帯域及び波長1570〜1605nmの帯域の少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項1記載の光ファイバ型デバイス。
【請求項7】
前記第二の波長帯域は波長1530〜1565nmの帯域及び波長1570〜1605nmの帯域の少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項1又は6記載の光ファイバ型デバイス。
【請求項8】
前記第一の波長帯域及び前記第二の波長帯域の少なくとも一方は、波長1530〜1565nmの帯域及び波長1570〜1605nmの帯域を含む
ことを特徴とする請求項1又は6記載の光ファイバ型デバイス。
【請求項9】
第二のポンプ光を出力する第二のポンプ光源と、
前記変換光と前記第二のポンプ光とを合波して出力する第二の光合波部と、
前記第二の光合波部により合波されて出力された前記変換光及び前記第二のポンプ光を入力して導波し、その導波の間に生じる非線形光学現象によって、第三の波長帯域内に含まれて前記波長λとは異なる波長である波長λの第二の変換光を発生する第二の光ファイバと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光ファイバ型デバイス。
【請求項10】
前記第三の波長帯域は波長1530〜1565nmの帯域及び波長1570〜1605nmの帯域の少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項9記載の光ファイバ型デバイス。
【請求項11】
第三のポンプ光を出力する第三のポンプ光源と、
第四の波長帯域内に含まれ前記波長λとは異なる波長である波長λの第二の信号光と前記第三のポンプ光とを合波して出力する第三の光合波部と、
前記第三の光合波部により合波されて出力された前記第二の信号光及び前記第三のポンプ光を入力して導波し、その導波の間に生じる非線形光学現象によって前記波長λの信号光を発生する第三の光ファイバと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光ファイバ型デバイス。
【請求項12】
前記第四の波長帯域は波長1530〜1565nmの帯域及び波長1570〜1605nmの帯域の少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項11記載の光ファイバ型デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−53319(P2011−53319A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200246(P2009−200246)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】