説明

光ファイバ心線

【課題】 接続工事時間の短縮及び作業の簡易化を可能にした光ファイバ心線の提供。
【解決手段】 光ファイバ裸線の周囲に少なくとも1層の合成樹脂からなる被覆層が設けられた光ファイバ心線であって、前記被覆層は、ファイバ端近傍の被覆層に切目を入れ、該切目よりもファイバ端側の除去される被覆部分を除去方向に引き出して該被覆部分をファイバ上から除去する際に、前記除去される被覆部分が鞘状になって除去されると共に、該被覆部分の除去後に露出した面上に残存する除去屑が該面をクリーニングしない状態で10個/30mm長以下となる剥離性を有していることを特徴とする光ファイバ心線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外架空光ケーブル〜宅内引き込み光ケーブルの範囲における光ケーブル接続工法等において好適に用いられる光ファイバ心線に関し、被覆除去が容易に実施でき、接続工事時間の短縮及び作業の簡易化を可能にした光ファイバ心線に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、光ファイバ接続工法は、次の(1)〜(5)の手順を経て行われる(例えば、非特許文献1参照。)。
(1)ケーブルからの心線取出し。
(2)被覆除去。
(3)ファイバのクリーニング。
(4)端面カット。
(5)メカニカルスプライス接続・融着接続。
【非特許文献1】光ファイバ施工技術、112頁〜、株式会社オプトロニクス
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記接続工法中の(3)ファイバのクリーニング作業は、被覆除去部分の光ファイバ裸線が折れないように慎重に行う必要があり、そのため作業時間がかかり、作業に熟練を要する。また、過度なファイバのクリーニングは、光ファイバ裸線の表面に傷を付ける可能性があり、信頼性にかける作業であった。
【0004】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、接続工事時間の短縮及び作業の簡易化を可能にした光ファイバ心線の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、光ファイバ裸線の周囲に少なくとも1層の合成樹脂からなる被覆層が設けられた光ファイバ心線であって、前記被覆層は、ファイバ端近傍の被覆層に切目を入れ、該切目よりもファイバ端側の除去される被覆部分を除去方向に引き出して該被覆部分をファイバ上から除去する際に、前記除去される被覆部分が鞘状になって除去されると共に、該被覆部分の除去後に露出した面上に残存する除去屑が該面をクリーニングしない状態で10個/30mm長以下となる剥離性を有していることを特徴とする光ファイバ心線を提供する。
【0006】
本発明の光ファイバ心線において、前記被覆層が、(除去される被覆材料の引張弾性率)>(除去時にかかる除去応力)の関係を満たす材料で形成されていることが好ましい。
【0007】
本発明の光ファイバ心線において、前記除去される被覆部分を含む被覆層中に剥離材が添加され、又は露出させる内側被覆層中とその周囲の少なくとも一部に剥離材を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光ファイバ心線は、被覆除去によって生じる被覆屑の残存個数を低減することができるので、被覆除去作業後のクリーニング作業を省くことができ、接続工事時間を短縮できると共に、作業の簡易化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1及び図2は、本発明の光ファイバ心線の一実施形態を示す図であり、図1(a)は光ファイバ端近傍の被覆層3に切目4を入れた状態を示す側面図、(b)は該切目4よりもファイバ端側の除去される被覆部分5を除去方向に引き出して該被覆部分5をファイバ上から除去する途中の状態を示す側面図、(c)は除去される被覆部分5をファイバ上から除去した状態を示す側面図である。また、図2は、図1(b)に示す状態の斜視図である。これらの図中、符号1は光ファイバ心線、2は光ファイバ裸線、3は被覆層、4は切目、5は除去される被覆部分である。
【0010】
本実施形態において、光ファイバ心線1は、石英ガラスからなる光ファイバ裸線2を合成樹脂からなる1層の被覆層3で被覆し、ファイバ端部においてこの被覆層3を部分的に剥離除去し、光ファイバ裸線2を露出させる構成になっている。光ファイバ裸線としては、光通信に用いられる石英ガラス製のシングルモード光ファイバ、マルチモード光ファイバ、ホーリーファイバなどを用いることができる。被覆層3の材料は、一般の光ファイバ心線の被覆層として用いられる合成樹脂の中から選択して用いることができ、例えば、紫外線硬化型樹脂などが用いられる。なお、本発明による光ファイバ心線の被覆構造は、本実施形態に限定されるものではなく、光ファイバ裸線2の周囲に2層以上の被覆層を有している光ファイバ心線も含まれる。
【0011】
本実施形態の光ファイバ心線1において、被覆層3は、図1(a)に示すように、ファイバ端近傍の被覆層3に切目4を入れ、該切目4よりもファイバ端側の除去される被覆部分5を除去方向に引き出し(図1(b))、該被覆部分5をファイバ上から除去する(図1(c))際に、除去される被覆部分5が鞘状になって除去されると共に、該被覆部分5の除去後に露出した面上に残存する除去屑が該面をクリーニングしない状態で10個/30mm長以下となる剥離性を有していることを特徴としている。
【0012】
このように、除去される被覆部分5が鞘状になって光ファイバ裸線2から除去されれば、除去後に露出した光ファイバ裸線2の表面に残る被覆屑を、クリーニングしない状態で10個/30mm長以下とすることができ、従来の光ファイバ接続工法において必要であったクリーニング作業を省くことが可能となる。除去される被覆部分5が鞘状にならない場合には、露出した光ファイバ裸線2の表面に残る被覆屑が10個/30mm長を超えるため、従来の光ファイバ接続工法と同様にクリーニング作業を行わねばならなくなる。
【0013】
本実施形態の光ファイバ心線1において、前記被覆層3は、(除去される被覆材料の引張弾性率)>(除去時にかかる除去応力)の関係を満たす材料で形成されている。
ここで、被覆材料の引張弾性率は、JIS K 7161−1994に規定された測定方法に従って求めた値である。
また、除去時にかかる除去応力は、図1(a)に示すように被覆層3に切目4を入れた後、除去される被覆部分5を保持して除去方向に引っ張り、図1(c)に示すように被覆部分5が除去されるまでの引張応力の最大値である。
除去時にかかる除去応力が、除去される被覆材料の引張弾性率以上であると、除去される被覆部分5を剥がし難くなり、露出した光ファイバ裸線2の表面に残る被覆屑が多くなるので好ましくない。
【0014】
本実施形態の光ファイバ心線1において、前述したように、被覆層3が、(除去される被覆材料の引張弾性率)>(除去時にかかる除去応力)の関係を満たすようにするため、除去される被覆部分5を含む被覆層3中に、剥離材が添加されていることが好ましい。この剥離材としては、例えば、シリコーン系の剥離材などが挙げられる。剥離材の添加量は、被覆層3の機械特性に影響を及ぼすことがなく、光ファイバ裸線2と被覆層3との摩擦を低減できるような範囲であれば、特に限定されない。
【0015】
なお、本実施形態では、前記剥離材を被覆層の合成樹脂材料に均一に添加しているが、これに限定されず、2層以上の被覆層を有する光ファイバ心線の場合には、露出させる内側被覆層中とその周囲の少なくとも一部に剥離材を含有させることもできる。
【0016】
本実施形態の光ファイバ心線1は、被覆除去によって生じる被覆屑の残存個数を低減することができるので、被覆除去作業後のクリーニング作業を省くことができ、接続工事時間を短縮できると共に、作業の簡易化を図ることができる。
以下、実施例により本発明の効果を実証する。
【実施例】
【0017】
[実施例1]
ファイバのクリーニング作業を必要とするには、光ファイバ心線の被覆除去をする際に、光ファイバ裸線に被覆屑が多く付着するためである。そこで、本発明では、被覆除去の際に生じる被覆屑が少ない光ファイバ心線の構造を提供する。
【0018】
被覆屑を減らすためには、図1及び図2に示すように、被覆除去される部分が1つの鞘状となって除去される必要がある。表1に、除去される部分の状態と光ファイバ裸線に付着した被覆屑の相関関係を示した。
【0019】
【表1】

【0020】
表1中の実施例1は、本発明に係る光ファイバ心線構造であり、外径125μmの石英ガラスからなるクラッドの周囲に紫外線硬化型樹脂からなる被覆層を施し、最終外径を250μmとした光ファイバ心線の試験例である。この構造では、除去される被覆層が鞘状に剥けるように、被覆する紫外線硬化型樹脂中にシリコーン系の剥離材を2質量%添加し、石英ガラスとの摩擦力を低減させた構造になっている。実施例1では、シリコーン系の剥離材を2質量%添加しているが、(除去される被覆材料の引張弾性率)>(除去時にかかる除去応力)の条件を満たしていれば、剥離材種類・添加量については本例示に限定されない。
【0021】
参考例1は、一般的な光ファイバ心線であり、外径125μmの石英ガラスからなるクラッドの周囲に紫外線硬化型樹脂からなる被覆層を施し、最終外径を250μmとした光ファイバ心線である。
【0022】
被覆除去は、(4)端面カットの作業に必要な長さ30mmについて、一般的なメカニカル除去工具であるMicrostrip(登録商標)を用いて行い、除去された被覆の状態と、除去後(クリーニング作業無し)に露出した光ファイバ裸線表面に残る被覆屑の個数(30mm長当たりの個数)を調査した。
なお、従来の工法(クリーニング工程有り)であれば、被覆除去後に光ファイバ裸線表面に残る被覆屑は10個以下であり、10個以内の場合をOK判定、それ以外をNG判定とした。
【0023】
本発明に係る実施例1は、被覆切断部より先端側の被覆部分が鞘状に剥け、クリーニング作業無しでも、光ファイバ裸線表面に残る被覆屑は2個/30mm長であり、OK判定であった。
一方、従来の構造である参考例1では、除去対象の被覆部分が鞘状に剥けず、被覆がボロボロになって剥け、光ファイバ裸線表面に残る被覆屑は100個/30mm長以上であった。
【0024】
この結果から、除去される被覆部分の状態が鞘状であれば、除去後に露出した光ファイバ裸線表面に残る被覆屑が少なくなり、クリーニング作業を省くことが可能であることが実証された。
【0025】
[実施例2]
表2中の実施例2は、外径100μmの石英ガラスからなるクラッドの周囲に、外径125μmとなるように紫外線硬化型樹脂からなる第1の被覆層を設け、更に該第1の被覆層の周囲に紫外線硬化型樹脂からなる第2の被覆層を設け、最終外径を250μmとした薄膜型光ファイバ心線の試験例である。
【0026】
この光ファイバ心線において、外径250μm光ファイバ心線から、外径125μmの単層被覆光ファイバ心線への変換を行った。
【0027】
この構造でも、除去され離被覆部分が鞘状に剥けるように、第2の被覆層とする紫外線硬化型樹脂中にシリコーン系の剥離材を2質量%添加し、石英ガラス及び第1の被覆層との摩擦力を低減させた構造としている。この実施例2の構造においても、(除去される被覆材料の引張弾性率)>(除去時にかかる除去応力)の条件を満たしていれば、剥離材種類・添加量については本例示に限定されない。また、第1の被覆層中又は上層に剥離作用を持つ材料を添加して、低摩擦作用を発現させてもよい。表2に結果を示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に記した通り、外径250μm光ファイバ心線から、外径125μmの単層被覆光ファイバ心線への変換を行う場合も、除去される被覆部分が鞘状に剥ければ、発生する被覆屑は少量のレベルであることが分かる。すなわち、本発明では、被覆部分の除去により露出させる光ファイバが、光ファイバ裸線であっても、内側被覆層により被覆されたファイバであっても問題ないと言える。
【0030】
[実施例3〜14]
表3に、光ファイバ心線の最終外径、除去される被覆材料の引張弾性率、除去時にかかる除去応力が異なる多数のサンプルについて被覆除去試験を実施し、除去される被覆の状態を調べた結果をまとめて記す。
【0031】
ここで、除去時にかかる除去応力は、除去される被覆材料の引張弾性率と除去する境界面の摩擦力に依存する。すなわち、実施例3〜4、実施例5〜8、実施例9〜10、実施例11〜14のように、被覆層の引張弾性率が同等のものについては、除去される被覆材料中に含まれる剥離材種類・量を変えて、除去応力を変えている。実施例5〜8は、最終外径が0.25mm、被覆材料の引張弾性率が65MPa一定で、除去応力が異なったものである。実施例11〜14は、最終外径0.5mm、被覆材料の引張弾性率が65MPa一定で、除去応力が異なったものである。
【0032】
【表3】

【0033】
表3に記した結果より、除去応力が大きくなるに従って、除去された被覆は鞘状にはならず、被覆屑が多く発生する結果であった。
実施例1〜2の最終外径0.25mm、被覆材料の引張弾性率が1MPa、除去応力が78〜82MPaのものは、いずれも除去された被覆は鞘状にはならなかった。実施例9〜10の最終外径0.25mm、被覆材料の引張弾性率が600MPa、除去応力が272〜407MPaのものについては、いずれも鞘状に剥け、発生した除去屑は許容レベル内であった。
以上の結果から、除去された被覆が鞘状態となるには、下記関係が成り立つ必要があると考えられる。
(除去される被覆材料の引張弾性率)>(除去時にかかる除去応力)。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の光ファイバ心線の一実施形態を示し、(a)は光ファイバ端近傍の被覆層3に切目を入れた状態を示す側面図、(b)は除去される被覆部分を除去方向に引き出して除去する途中の状態を示す側面図、(c)は除去される被覆部分5をファイバ上から除去した状態を示す側面図である。
【図2】図1(b)に示す状態の斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1…光ファイバ心線、2…光ファイバ裸線、3…被覆層、4…切目、5…除去される被覆部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ裸線の周囲に少なくとも1層の合成樹脂からなる被覆層が設けられた光ファイバ心線であって、
前記被覆層は、ファイバ端近傍の被覆層に切目を入れ、該切目よりもファイバ端側の除去される被覆部分を除去方向に引き出して該被覆部分をファイバ上から除去する際に、前記除去される被覆部分が鞘状になって除去されると共に、該被覆部分の除去後に露出した面上に残存する除去屑が該面をクリーニングしない状態で10個/30mm長以下となる剥離性を有していることを特徴とする光ファイバ心線。
【請求項2】
前記被覆層が、(除去される被覆材料の引張弾性率)>(除去時にかかる除去応力)の関係を満たす材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ心線。
【請求項3】
前記除去される被覆部分を含む被覆層中に剥離材が添加され、又は露出させる内側被覆層中とその周囲の少なくとも一部に剥離材を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ心線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−94228(P2007−94228A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285933(P2005−285933)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】