説明

光ファイバ母材の製造方法

【課題】光ファイバの内側クラッド層となる部分と外側クラッド層となる部分の形成を一括して行うことができ、コスト低減に効果のある光ファイバ母材の製造方法を提供する。
【解決手段】コアの外周に、内側クラッド層と内側クラッド層より屈折率の高い外側クラッド層とを形成した光ファイバを線引きにより製造するための光ファイバ母材21の製造方法において、内側クラッド層となるスート母材中心部2のかさ密度に対して外側クラッド層となるスート母材外周部3のかさ密度を高くしたスート母材1を形成し、スート母材1の焼結時に、スート母材1にフッ素を添加して、スート母材中心部2を焼結してなるガラス母材中心部12のフッ素添加量を、スート母材外周部3を焼結してなるガラス母材外周部13より多くしたガラス母材11を作製し、しかる後、ガラス母材中心部12の軸方向に中空部14を形成し、その中空部14にコアとなるコア母材15を挿入すると共に一体化する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コスト低減に効果のある光ファイバ母材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信用光ファイバの中でもシングルモード光ファイバ(SMF:Single−Mode optical Fiber)は、低損失・広帯域な伝送路として広く実用化されている。SMF中を伝搬する信号光の伝送特性の劣化を招く非線形効果現象を抑制するためには、モードフィールド径(MFD:Mode Field Diameter)を拡大する必要がある。ところが、MFDを拡大すると、曲げ損失特性が劣化する。その対策として、クラッド層の屈折率分布を、図2に示すような2段構造にするディプレスト型屈折率分布が用いられている。このディプレスト型屈折率分布を形成するためには、光ファイバのクラッド層を屈折率の異なる内側クラッド層と外側クラッド層とで構成する必要がある。
【0003】
光ファイバは、光ファイバ母材を線引きして製造されるので、光ファイバのクラッド層を2層構造とするためには、クラッド層となる部分を屈折率の異なる2層構造とした光ファイバ母材を製造する必要がある。
【0004】
このような光ファイバ母材を製造するには、図3に示すように、気相軸付法(VAD法:Vapor phase Axial Deposition method)によってシリカガラス微粒子(スート)を堆積させ、次にHeとCl2ガスの雰囲気中で脱水焼結処理し、さらに、延伸してコア母材を製造する(工程(i))。
【0005】
また、別工程にて、VAD法によってスートを堆積させ、次にHeとSiF4ガスの雰囲気中で焼結時にフッ素ドープし、得られたガラス母材にコア母材を挿入するための中空部をチュービング加工して、内側クラッド層となる内側フッ素クラッド(フッ素添加管)を製造する(工程(ii))。
【0006】
以上のようにして製造したコア母材と内側フッ素クラッドとをロッドインチューブ法により一体化する(工程(iii))。さらに、外付けVAD法により内側フッ素クラッドの外周にスートを堆積させた後、HeとSiF4ガスの雰囲気中で焼結時にフッ素ドープし、外側クラッド層となる外側フッ素クラッドを形成すると、クラッド層が2層構造の光ファイバ母材が得られる(工程(iv))。
【0007】
このように、従来は光ファイバ母材の製造に際して、光ファイバの内側クラッド層となる部分と外側クラッド層となる部分の形成を2つの工程に分けて行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−246157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、光ファイバの内側クラッド層となる部分と外側クラッド層となる部分の形成を2つの工程に分けて行うことは、光ファイバ母材のコストアップの要因となる。
【0010】
そこで本発明の目的は、上記課題を解決し、光ファイバの内側クラッド層となる部分と外側クラッド層となる部分の形成を一括して行うことができ、コスト低減に効果のある光ファイバ母材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために創案された本発明は、コアの外周に、内側クラッド層と該内側クラッド層より屈折率の高い外側クラッド層とを形成した光ファイバを線引きにより製造するための光ファイバ母材の製造方法において、前記内側クラッド層となるスート母材中心部のかさ密度に対して前記外側クラッド層となるスート母材外周部のかさ密度を高くしたスート母材を形成し、前記スート母材の焼結時に、前記スート母材にフッ素を添加して、前記スート母材中心部を焼結してなるガラス母材中心部のフッ素添加量を、前記スート母材外周部を焼結してなるガラス母材外周部より多くしたガラス母材を作製し、しかる後、前記ガラス母材中心部の軸方向に中空部を形成し、その中空部に前記コアとなるコア母材を挿入すると共に一体化する光ファイバ母材の製造方法である。
【0012】
前記スート母材の前記中心部のかさ密度が0.3g/cm3以下であり、前記スート母材の前記外周部のかさ密度が0.5g/cm3以上0.6g/cm3以下であるとよい。
【0013】
前記中空部は、前記ガラス母材を加熱し、プラグにより前記ガラス母材の中心部を押し広げて形成されるとよい。
【0014】
前記コア母材は、純粋シリカからなってもよい。
【0015】
前記コア母材は、Geを添加したコア部の外周にコア外周クラッド部を有していてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光ファイバの内側クラッド層となる部分と外側クラッド層となる部分の形成を一括して行うことができ、コスト低減に効果のある光ファイバ母材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)〜(d)は、本実施の形態に係る光ファイバ母材の製造方法を説明する図である。
【図2】ディプレスト型光ファイバの屈折率分布の一例を示す図である。
【図3】従来のディプレスト型光ファイバの製造に用いる光ファイバ母材の製造方法を説明する図である。
【図4】スートのかさ密度と比屈折率差との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0019】
本実施の形態に係る光ファイバ母材は、コアの外周に、内側クラッド層と、内側クラッド層より屈折率の高い外側クラッド層とを形成した光ファイバを線引きにより製造するためのものである。この光ファイバ母材を製造するための製造方法を図1(a)〜(d)により説明する。
【0020】
まず、図1(a)に示すように、内側クラッド層となるスート母材中心部2と外側クラッド層となるスート母材外周部3とからなるスート母材1を気相軸付法(VAD法)により形成する。
【0021】
具体的には、スート母材中心部2形成用のバーナー4及びスート母材外周部3形成用のバーナー5に、酸素、水素、原料ガス(例えばSiCl4)を供給し、酸素と水素の混合気体の火炎中で、原料ガスを燃焼(加水分解)させて不純物の少ないシリカガラス微粒子(スート)を生成し、それを回転するロッド(種棒)6の下端に堆積させながらロッド6を引き上げていき、多孔質体のスート母材1を形成する。
【0022】
このとき、バーナー4からの火炎の温度をバーナー5からの火炎の温度より低くして、中心部にスートを低密度に堆積させ、外周部にはスートを高密度に堆積させる。これにより、内側クラッド層となるスート母材中心部2のかさ密度に対して外側クラッド層となるスート母材外周部3のかさ密度が高くなるようにする。スート母材中心部2のかさ密度が0.3g/cm3以下であり、スート母材外周部3のかさ密度が0.5g/cm3以上0.6g/cm3以下であることが好ましい。内側クラッド層と外側クラッド層の比屈折率差及びコアと内側クラッド層の比屈折率差を十分に設けることができるからである。
【0023】
次に、スート母材1の焼結時に、スート母材1にフッ素をドープ(添加)する。このとき、スート母材中心部2のかさ密度をスート母材外周部3のかさ密度より低くしているので、スート母材外周部3よりスート母材中心部2のフッ素添加量を多くできる。こうして、スート母材1から、図1(b)に示すような、スート母材中心部2を焼結してなるガラス母材中心部12(すなわち、内側クラッド層)のフッ素添加量を、スート母材外周部3を焼結してなるガラス母材外周部13(すなわち、外側クラッド層)より多くしたガラス母材11を作製する。ガラス母材11は、ガラス母材中心部12のフッ素添加量がガラス母材外周部13より多いため、ガラス母材中心部12の屈折率がガラス母材外周部13の屈折率より低くなる。
【0024】
ここで、図4に、スートの材料としてSiO2、ガスとしてHeとSF6(流量比:SF6/(He+SF6)=0.04)を用いたときの、スートのかさ密度とフッ素添加・焼結後の比屈折率差との関係を示す。図4に示したフッ素濃度では、かさ密度が0.3g/cm3以下の場合にはフッ素添加による屈折率低下量はほぼ一定となることが判る。また、かさ密度が1.0g/cm3以上の場合には、フッ素添加による屈折率低下はほとんどなく、純粋シリカと略等しいことが判る。つまり、図4に示した条件では、かさ密度を0.3〜1.0g/cm3に制御することにより、それぞれのかさ密度に対応した屈折率低下量を得ることができる。このように、ガラス母材11へのフッ素添加量はスート母材1のかさ密度に依存するため、本発明ではかさ密度をスート母材1の径方向に制御することで、フッ素添加濃度をその径方向に2段階に違えるようにした。なお、HeとSF6の流量比(フッ素ガス濃度)を制御することによっても、フッ素添加量(屈折率低下量)を制御することができるので、かさ密度と流量比(フッ素ガス濃度)を適宜設定することにより、色々な光ファイバを実現可能である。例えば、図2に示す光ファイバは、スート母材中心部2のかさ密度を0.3g/cm3以下とし、スート母材外周部3のかさ密度を0.5g/cm3以上0.6g/cm3以下とし、SF6/(He+SF6)=0.1とすることにより実現可能である。
【0025】
図1に戻り、ガラス母材11を形成した後、図1(c)に示すように、ガラス母材中心部12の軸方向に中空部14を形成し、フッ素添加濃度をその径方向に2段階に違えた円筒形状の管(クラッド管)を得る。
【0026】
本実施の形態では、中空部14を形成する方法としてガラス母材11を加熱し、プラグによりガラス母材中心部12を押し広げて形成する方法(熱間プラグ法)を用いる。ここで、熱間プラグ法とは、シームレス鋼管を作製する際のマンネスマン法をガラス管の作製に適用したものである。
【0027】
中空部14を形成する方法はこれに限定されるものではなく、例えば、中空部14は、くり抜き法によりガラス母材中心部12の一部をくり抜いて形成しても良い。ただし、くり抜き法では、ガラス母材中心部12の一部を捨てることになるため、これを想定してより大きな径でスート母材中心部2を形成する必要がある。
【0028】
最後に、図1(d)に示すように、中空部14にコアとなるコア母材15を挿入すると共にロッドインチューブ法により一体化することで、ディプレスト構造の光ファイバ母材21を得る。コア母材15としては、純粋シリカからなるものを用いる。コア母材15は、ガラス母材11の製造ラインとは別のラインで予め形成しておくことが望ましい。コア母材15の形成方法は特に限定されるものではなく、コア母材15は、例えば、図3(i)に示したように、VAD法によってスートを堆積させ、脱水焼結処理を行った後、延伸して形成される。
【0029】
本発明に係る光ファイバ母材21の製造方法では、かさ密度の異なるスート母材中心部2とスート母材外周部3とを一括で形成した後、スート母材中心部2及びスート母材外周部3へのフッ素ドープを一括で行うことで、内側クラッド層となるガラス母材中心部12と外側クラッド層となるガラス母材外周部13の形成工程を1つにし、コスト低減を可能にしている。また、クラッド層中のフッ素濃度の均一性も保つことができる。
【0030】
また、ガラス母材11に中空部14を形成する方法として熱間プラグ法を用いるため、くり抜きによるロスが無く、さらに、この方法で拡径して形成した円筒形状の管を用いてロッドインチューブ法を実施することにより光ファイバ母材21の大型化が可能である。
【0031】
さらにまた、本発明では、コアとなるコア母材15を内側クラッド層及び外側クラッド層となるガラス母材11とは別工程で製造するので、コア母材15の製造の際にかさ密度を従来よりも低くでき、コア母材15を製造する際の脱水処理を容易に行え、更なるコスト低減が可能である。また、脱水処理が容易なためコア母材15を従来よりも大型化できる。
【0032】
さらに、コア母材15とガラス母材11とを別々に作製した後一体化するので、スート堆積時の酸水素火炎に基づくOH基の光ファイバ母材21への混入を防ぐことができる。つまり、本発明では、スート堆積時にコア母材15を酸水素火炎で炙らずに光ファイバ母材21を製造するため、酸水素火炎に起因するOH基がコア母材15内に拡散して光ファイバの伝送特性を劣化させることを防止できる。
【0033】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0034】
上記実施の形態では、コア母材として純粋シリカを用いた場合を説明したが、コア母材は、Geを添加して屈折率を上昇させたシリカコア部の外周にコア外周クラッド部を有するものでもよい。コア外周クラッド部は、線引きして光ファイバとした際に、コアより屈折率が低く、内側クラッド層より屈折率が高いコア外周クラッド層となる部分であり、純粋シリカ(あるいは純粋シリカに屈折率上昇もしくは下降用のドーパントを添加したもの)で形成される。このようなコア外周クラッド部を有するコア母材をガラス母材11の中空部14に挿入し一体化することで、クラッド層となる部分が内側から順に、コア外周クラッド部、ガラス母材中心部12、ガラス母材外周部13で構成されたトレンチ構造の光ファイバ母材を製造することができる。
【0035】
トレンチ型屈折率分布をもつ光ファイバとしては、内側クラッド層にフッ素が添加され、外側クラッド層が純粋シリカで形成されたものが知られている。この光ファイバを製造するためには、ガラス母材11において、内側クラッド層となるガラス母材中心部12にフッ素を添加し、外側クラッド層となるガラス母材外周部13を純粋シリカで形成する必要がある。
【0036】
本発明では、ガラス母材11へのフッ素添加量をスート母材1のかさ密度で制御しているので、例えば、スート母材中心部2をフッ素がドープされるかさ密度で形成し、スート母材外周部3をフッ素がドープされないかさ密度(例えば、1g/cm3以上)で形成することで、ガラス母材中心部12にはフッ素を添加する一方、ガラス母材外周部13へのフッ素の添加を防ぎ、ガラス母材外周部13を純粋シリカで形成できる。
【符号の説明】
【0037】
1 スート母材
2 スート母材中心部
3 スート母材外周部
11 ガラス母材
12 ガラス母材中心部
13 ガラス母材外周部
14 中空部
15 コア母材
21 光ファイバ母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアの外周に、内側クラッド層と該内側クラッド層より屈折率の高い外側クラッド層とを形成した光ファイバを線引きにより製造するための光ファイバ母材の製造方法において、
前記内側クラッド層となるスート母材中心部のかさ密度に対して前記外側クラッド層となるスート母材外周部のかさ密度を高くしたスート母材を形成し、
前記スート母材の焼結時に、前記スート母材にフッ素を添加して、前記スート母材中心部を焼結してなるガラス母材中心部のフッ素添加量を、前記スート母材外周部を焼結してなるガラス母材外周部より多くしたガラス母材を作製し、
しかる後、前記ガラス母材中心部の軸方向に中空部を形成し、その中空部に前記コアとなるコア母材を挿入すると共に一体化することを特徴とする光ファイバ母材の製造方法。
【請求項2】
前記スート母材中心部のかさ密度は0.3g/cm3以下であり、前記スート母材外周部のかさ密度は0.5g/cm3以上0.6g/cm3以下である請求項1記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項3】
前記中空部は、前記ガラス母材を加熱し、プラグにより前記ガラス母材中心部を押し広げて形成される請求項1又は2記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項4】
前記コア母材は、純粋シリカからなる請求項1〜3いずれかに記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項5】
前記コア母材は、Geを添加したコア部の外周にコア外周クラッド部を有する請求項1〜3いずれかに記載の光ファイバ母材の製造方法。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171802(P2012−171802A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31989(P2011−31989)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】