説明

光ファイバ温度測定器

【課題】
極めて小型な温度センサ部を備え、測定精度が高く、且つ、500〜600℃の高温域でも測定可能な光ファイバ温度測定器を実現する。
【解決手段】
対向するテーパファイバ対(11)と、非テーパ部(12)と、反射器(13)と、当該テーパファイバ対の表面が周囲の気体、液体と接しないための保護手段を具備した温度センサ部(1)に光を入射し、反射光を受光する。温度センサ部(1)から反射された光は周期的強度変調をうけており、周期の位相が温度によりシフトするので、位相を測定して温度を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを使って温度を測定する光ファイバ温度測定器に関し、より具体的には、500〜600℃の高温域でも測定可能な、光ファイバ温度測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ温度センサは、防爆性、耐電磁ノイズ特性に優れ、遠隔、多点モニタリングが容易なことから各種のセンサが開発されている。
【0003】
光ファイバを用いた温度センサが、特許文献1、2、3、非特許文献1、2に開示されている。
【0004】
特許文献1には、ファイバ先端に装填した蛍光物質の蛍光減衰特性を利用した温度センサが開示されている。
【0005】
特許文献2には、ラマン散乱光強度の温度依存性を温度測定に利用する方法が述べられている。
【0006】
特許文献3には、光ファイバ素線の軸方向に沿って配置した、熱膨張率の異なる被覆剤よって生じるマイクロベンド損失を利用する温度センサが開示されている。
【0007】
非特許文献1には、ファイバに形成した周期的屈折率分布(FBG)の温度依存性を利用したセンサが記載されている。
【0008】
非特許文献2には、2個のテーパ部と、その間に極めて細長い非テーパ部を持つファイバの透過光が周期的なスペクトルになることを利用した温度センサが記載されている。
【特許文献1】特表昭62−501448号公報
【特許文献2】特開平07−167717号公報
【特許文献3】特開平08−015054号公報
【非特許文献1】「P. R. Forman et. al., Rev. Sci. Instrum. 61(10), 2970-2972(1990)」
【非特許文献2】「K. Q. Kieu et. al., IEEE Photon. Lett., 18(21), 2239-2241 (2006)」
【非特許文献3】「R. J. Black et.al., IEE Proceeings-J, 138(5), 355-364(1991」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されている蛍光式温度センサ、特許文献2に開示されているラマン散乱式温度センサ、特許文献3に開示されているマクロベンド式温度センサ、非特許文献1に記載されているFBG式温度センサは、いずれも500℃以上の温度測定は困難である。
【0010】
非特許文献2では、2個のテーパファイバを透過した光が周期的強度変調されるのを利用し、周期の位相変化から温度を計測するセンサが記載されている。非特許文献2では、測定可能な温度範囲が記載されていないが、位相変化が10pm/℃程度と小さいため測定精度が低いという問題点が記載されている。また、透過光測定のため、光の入出力に2本のファイバが必要であるのに加え、相対するテーパ部の間に外径10μm以下、長さ10mm以上に引き延ばされた、極めて細長いファイバ部分が存在するため、センサファイバを何らかの基材に固定しなければならず、そのため、温度センサ部が複雑で大きくなるという問題もある。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的としては、極めて小型な温度センサ部を備え、測定精度が高く、且つ、500〜600℃の高温域でも測定可能な光ファイバ温度測定器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そのため、本発明は、対向するテーパファイバ対と、当該テーパファイバ対の片側に連結した非テーパ部と、当該非テーパ部の端面で測定光を反射する反射器と、当該テーパファイバ対の表面が周囲の気体、液体と接しないための保護手段とを具備した温度センサ部と、当該温度センサ部に供給すべき測定光を発生する光発生手段と、当該温度センサ部で周期的強度変化を受けた反射光スペクトルを計測する光計測手段と、当該温度センサ部に測定光を導き、当該温度センサ部から戻る反射光を当該光計測手段に導く導光手段と、周期的強度変化を受けた反射光スペクトルの位相を検出し、位相から温度を算出する演算処理手段とを具備した計測部と、当該温度センサ部と当該計測部の間の光伝送を行う伝送用光ファイバを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、極めて小型な温度センサ部を備え、測定精度が高く、且つ、500〜600℃の高温域でも測定可能な光ファイバ温度測定器を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の実施例1である光ファイバ温度計測器の構成概略図を示し、図2は、温度センサ部1の拡大切断面図を示してある。図1における矢印は光が進行する様子を示している。図2(a)では、図面を見やすくするためテーパファイバ対11の表面が周囲の気体、液体と接しないための保護手段(15,16)を省略してある。図2(b)では、保護手段としてコーティング層15で覆った構成を、図2(c)では、中空容器16に温度センサ部1を封入した構成を示している。
【0016】
本実施例1は、温度センサ部1、計測部3、伝送用光ファイバ6から構成される。
【0017】
温度センサ部1は、テーパファイバ対11と、その片側に連結した非テーパ部12と、非テーパ部12の端面で測定光を反射する反射器13と、テーパファイバ対11の表面が周囲の気体、液体と接しないためのコーティング層15、或いは中空容器16を具備する。テーパファイバ対11は、ウエスト部14に向かってファイバ外径が次第に細くなっており、また、外径に比例してコア径も細くなっている。テーパファイバ対11の最も細い部分であるウエスト部14の外径は30〜50μm程度であり、非テーパ部12の重量で曲がらない剛性を備えている。非テーパ部12の長さは、1〜5mm程度である。反射器13は、例えば、誘電体多層膜、金属膜などで構成する。
【0018】
計測部3は、ブロードバンド光源31と、温度センサ部1から反射されてきた光のスペクトルを測定する分光計測器33と、ブロードバンド光源31から発生する光を伝送用光ファイバ6に導き、温度センサ部1から戻る光を分光計測器33に導く光サーキュレータ7と、スペクトルの周期的変化から位相を検出し、温度に変換する演算処理回路34を具備する。
【0019】
ブロードバンド光源31には、ASE光源、SLD(Super Luminescent Diode)、LEDなど、スペクトル幅の広い光源を使用する。
【0020】
分光計測器33には、モノクロメータ、波長可変フィルタなど光を分光し、光強度と波長の関係を測定する装置、例えば、光スペクトラムアナライザー、波長可変フィルタと光検出器の組合せなどを用いる。
【0021】
伝送用光ファイバ6は、温度センサ部1と計測部3の間の光伝送を行うシングルモード光ファイバで、温度センサ部1に用いる光ファイバと同種の場合も、異種の場合もある。
【0022】
本実施例1の温度センサ部1から戻る反射光スペクトルは、温度センサ部1の作用により周期的に強度変調されている。この周期の位相が温度により変化するので、分光計測器33で計測したスペクトルから位相を検出し、演算処理回路34により温度に変換して温度測定を行う。
【0023】
以下、本実施例1の温度センサ部1の動作について詳細に説明する。
【0024】
図3は、本実施例1の温度センサ部1に広帯域光源を入射し、反射光スペクトルを測定した例と、同様なテーパファイバ対11を透過した光のスペクトル例を示している。反射光のスペクトルは、正弦関数に近い、明瞭な周期的変化を示す。一方、透過光スペクトルでは、波長に対して若干の光量変化が見られるものの、明確な周期スペクトルを観察できない。このような周期スペクトルを生じることが、温度センサとして機能する要件であり、本実施例1の温度センサ部1においては、この現象は反射光に特有に現れる。
【0025】
図4は、本実施例1の温度センサ部1で得られる周期的スペクトルの温度変化を測定した例を示している。温度上昇と共に、スペクトルが長波長側にシフトすることが分かる。シフト量は約100pm/℃と非常に大きい。従って、この位相シフト量を分光計測器33で検出して、演算処理回路34により温度に換算すれば高精度の温度測定器となる。
【0026】
このような周期的スペクトルが出現する理由としてクラッドモードとコアモード間の干渉、結合が考えられる。図5に示すように、周期スペクトルが顕著に観測できる50μm以下のウエスト部14では、コア径が小さいためMFD(モードフィールド径)がクラッド径以上に大きく広がっており、コアモードとクラッドモード間の干渉、結合が起こり得る。また、位相が温度上昇と共に長波長側にシフトする理由は、ファイバ屈折率の温度変化によりファイバ内の光路長が変化するためと考えられる。
【0027】
振幅の大きさは、ウエスト部14の径に依存し、ウエスト部14の径が小さいほど大きくなる。しかし、ウエスト部14の径が30μm以下ではウエスト部14の剛性が小さく、曲がりやすくなってしまうため、30〜50μm程度が実用的である。
【0028】
周期は非テーパ部11の長さに強く依存する。図6は非テーパ部11の長さを変えてスペクトルを測定した例を示す。非テーパ部11が短いほど周期が長くなり、且つ、規則的変化をする。一方、非テーパ部11が長くなると周期が短くなるのに加え、不規則な変化をする。非テーパ部11が長いほど周期が短くなる理由は、より高次のクラッドモードとの干渉、結合が起こるためと考えられる。また、不規則な周期となるのは複数のクラッドモードとの干渉、結合が起こるためと考えられる。本実施例1の温度センサとして用いるには、規則的な周期が得られる5mm以下が適している。
【0029】
本実施例1における温度センサ部1のウエスト部14では、コアモードもMFDが大きく、ファイバ外部に光が浸み出している。そのため周囲雰囲気の影響を受けやすく、例えば、温度センサ部1への液体の付着、湿度変化などにより反射光量が変化してしまう。この問題を解決するには、温度センサ部1を周囲の液体、気体から遮断でき、且つ、光をファイバ内に閉じこめることができる材質で保護するのが有効である。図2(b)は、温度センサ部1の外周に液体、気体を遮断できる材質のコーティング層15を設けた構造を示す。コーティング材質としては、金、白金、ニッケル、ステンレスなどの金属、或いは、クラッドガラスより屈折率の低いMgF2、CaF2などの無機材料を利用できる。MgF2、CaF2などの絶縁材料をコーティングした場合は、温度センサ部1が電磁界の影響を受けないので、高周波環境下や強い電磁界の中での温度を測定できる利点がある。図2(c)は、温度センサ部1を液体、気体を遮断できる材質の中空容器16に封入した構造を示す。この場合は、中空容器16内に封入された気体により光がファイバ内に閉じこめられるため、中空容器の材質は、液体、気体を遮断できればどんな材質でもよく、例えば、金属、ガラス、セラミックスなどを利用できる。
【0030】
上記のように、本実施例1の温度センサ部1に入射した光は、周期的な強度変調を受けて反射される。また、周期的スペクトルの位相が温度上昇にともない長波長側に大きくシフトする。従って、この位相変化を分光器33により検出し、演算処理回路34により温度に変換することにより温度を測定できる。また、位相シフトが約100pm/℃と大きいので、精度の高い温度測定が可能である。
【0031】
温度センサ部1は、石英光ファイバと反射器13、コーティング層15、或いは、中空容器16で構成され、反射器13には、例えば、誘電体多層膜を用いることができる。反射器13、コーティング層15、中空容器16とも600℃の高温に耐える無機材料で作成することが可能であり、500℃を超える高温測定可能な光ファイバ温度測定器となる。
【0032】
また、これらの無機材料は、優れた耐放射線特性を有しているのに加え、放射線によって作られる欠陥の影響を受けにくい1.5μm帯の光を使った測定ができるので、原子炉の温度測定など、放射線環境下で使用できる温度測定器となる。
【0033】
反射光測定なので、光の入出力を1本の光ファイバで行うことができ、小型の温度センサヘッドとすることができる。温度センサ部1が小さいため、温度に対する応答が早く、狭い部分の温度測定ができる。テーパファイバ対11が非テーパファイバ部の重量で曲がらない剛性を備えているため、基材に両端を固定しなくてもセンサとして使用でき、小型のセンサヘッドとなる。
【0034】
反射器13を誘電体多層膜、コーティング層15、或いは、中空容器16をガラス、セラミックスなどの絶縁性無機材料とすれば、温度センサ部1を全て非導電性材質で構成できるため、高周波環境下でも使用できる温度測定器となる。
【0035】
テーパファイバ対11を異種ファイバとの融着接続で作製することも可能で、この場合、同じファイバの接続より振幅の大きなスペクトルを得られる場合がある。
【実施例2】
【0036】
図7は、本実施例2構成を示している。本構成では、光源を波長可変レーザ41とし、温度センサ部1から戻る反射光強度を受光器43で計測する。
【0037】
波長可変レーザ41により波長を連続的に変えた光を、光サーキュレータ7を介して伝送用光ファイバ6に入射する。温度センサ部1で強度変化を受けた反射光の強度を受光器43で連続的に計測し、演算処理回路44で光強度の周期的変化から位相を検出すると共に、位相から温度を算出する。本実施例2の構成では、波長に対して光強度が平坦な光源を利用できる利点がある。
【0038】
特定の実施例を参照して本発明を説明したが、特許請求の範囲に規定される本発明の技術的範囲を逸脱しないで、上述の実施例に種々の変更を加えることは、本発明の属する分野の技術者にとって自明であり、このような変更・修正も本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例1である光ファイバ温度測定器の概略構成を示す図である。
【図2】温度センサ部の拡大切断面図である。
【図3】温度センサ部を透過した光、及び、反射した光のスペクトルを示す図である。
【図4】温度センサ部で得られる周期スペクトルの温度変化を示す図である。
【図5】ファイバ外径とMFDの関係を示す図である。
【図6】非テーパ部の長さと周期スペクトルの関係を示す図である。
【図7】本発明の実施例2を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1:温度センサ部
3、4:計測部
6:伝送用光ファイバ
7:光サーキュレータ
11:テーパファイバ対
12:非テーパ部
13:反射器
14:ウエスト部
15:コーティング層
16:中空容器
31:ブロードバンド光源
41:波長可変レーザ
33、43:光計測手段
34、44:演算処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向するテーパファイバ対(11)と、当該テーパファイバ対(11)の片側に連結した非テーパ部(12)と、当該非テーパ部(12)の端面で測定光を反射する反射器(13)と、当該テーパファイバ対(11)の表面が周囲の気体、液体と接しないための保護手段(15、16)とを具備した温度センサ部(1)と、当該温度センサ部(1)に供給すべき測定光を発生する光発生手段(31、41)と、当該温度センサ部(1)で周期的強度変調を受けた反射光スペクトルを計測する光計測手段(33、43)と、当該温度センサ部(1)に測定光を導き、当該温度センサ部(1)から戻る反射光を当該光計測手段(33、43)に導く導光手段(7)と、周期的強度変調を受けた反射光スペクトルの位相を検出し、位相から温度を算出する演算処理手段(34、44)とを具備した計測部(3、4)と、当該温度センサ部(1)と当該計測部(3、4)の間の光伝送を行う伝送用光ファイバ(6)とを備えたことを特徴とする光ファイバ温度測定器。
【請求項2】
当該テーパファイバ対(11)の最も細い部分であるウエスト部(14)の外径が30〜50μmの範囲であり、当該非テーパ部(12)の長さが5mm以下であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ温度測定器。
【請求項3】
当該テーパファイバ対(11)が異種ファイバからなることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ温度測定器。
【請求項4】
当該反射器(13)が誘電体多層膜であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ温度測定器。
【請求項5】
当該保護手段が金属のコーティング層(15)であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ温度測定器。
【請求項6】
当該保護手段が当該テーパファイバ対(11)のクラッド層より低屈折率のセラミックスからなるコーティング層(15)であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ温度測定器。
【請求項7】
当該保護手段が中空容器(16)であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ温度測定器。
【請求項8】
当該光発生手段(31)がブロードバンド光源であり、当該光計測手段(33)が分光計測器であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ温度測定器。
【請求項9】
当該光発生手段(41)が波長可変レーザであり、当該光計測手段(43)が受光器であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ温度測定器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−271254(P2010−271254A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124738(P2009−124738)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(707001768)ファイバーラボ株式会社 (10)
【Fターム(参考)】