説明

光ファイバ用樹脂被覆装置及び被覆方法

【課題】高線速で光ファイバを製造する際にも、被覆層に泡が混入し難い光ファイバ用樹脂被覆装置及び被覆方法の提供。
【解決手段】線引きされた光ファイバ裸線の外周にコーティング樹脂液を塗布し、これを硬化させて被覆層を形成し、光ファイバ素線を製造する光ファイバ素線製造装置に用いられ、ニップルとダイス間にコーティング樹脂液が供給され、外周にコーティング樹脂液を塗布したファイバがダイスから導出される光ファイバ用樹脂被覆装置において、光ファイバ裸線の導入側に、パージガスを導入する多段のパージ部を有することを特徴とする光ファイバ用樹脂被覆装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高線速で光ファイバをコーティングする上で、コーティング樹脂内に気泡を含まなくするために利用される光ファイバ用樹脂被覆装置及び被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石英ガラスプリフォーム(光ファイバ母材)を加熱溶融し線引きして得られた光ファイバ(光ファイバ裸線)は、傷がつくと脆くなるため、線引きすると同時に樹脂被覆装置内に導いて、光ファイバ裸線の外周にコーティング樹脂液を塗布し、続いて該コーティング樹脂液を硬化させ、石英ガラス製の光ファイバ裸線のクラッド外周に1層又は2層以上の合成樹脂製の被覆層が設けられた光ファイバ素線を製造している。
【0003】
近年、光ファイバ素線の製造においては、生産効率を高めるために、製造時の高線速化が図られているが、高線速で移動する光ファイバ裸線に被覆を行う場合、光ファイバ近傍の空気が光ファイバとともにコーティング樹脂液内に引き込まれる(以下、これを「引きずられる」と記す。)ことにより、光ファイバの被覆層中に泡が発生してしまう問題があった。従来、この被覆層の泡発生を防ぐための技術として、例えば、特許文献1〜3に開示された技術が提案されている。
【0004】
特許文献1には、光ファイバ表面を横切るように炭酸ガスを流す方法が示されている。
特許文献2には、大気中の微粒子や、被覆樹脂の揮発成分の付着を防ぐための方法として、パージガスを光ファイバの走行方向に対して逆方向に流す方法が提案されている。
特許文献3には、被覆層内の泡の発生を防ぐために、ヘリウムをパージガスとして使う方法が提案されている。
【特許文献1】特許第2635977号公報
【特許文献2】特開平7−267686号公報
【特許文献3】特開平8−259273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1〜3には、全てガス流速によって、光ファイバに引きずられる空気、大気中の微粒子、揮発成分を取り除く方法が記載されている。
しかし、特許文献1〜3に記載された従来技術を用いた場合、線引き速度の更なる高速化により、光ファイバに引きずられる空気、大気中の微粒子、揮発成分も増加する。特に、紡糸長の長尺化により、特に光ファイバに引きずられる一次被覆樹脂の揮発成分量の増加は、ニップルの光ファイバ導入部付近の揮発成分の付着を引き起こし、コーティング不良及び断線などの原因となる。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、高線速で光ファイバを製造する際にも、被覆層に泡が混入し難い光ファイバ用樹脂被覆装置及び被覆方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、線引きされた光ファイバ裸線の外周にコーティング樹脂液を塗布し、これを硬化させて被覆層を形成し、光ファイバ素線を製造する光ファイバ素線製造装置に用いられ、ニップルとダイス間にコーティング樹脂液が供給され、外周にコーティング樹脂液を塗布したファイバがダイスから導出される光ファイバ用樹脂被覆装置において、光ファイバ裸線の導入側に、パージガスを導入する多段のパージ部を有することを特徴とする光ファイバ用樹脂被覆装置を提供する。
【0008】
本発明の光ファイバ用樹脂被覆装置において、パージ部をニップル側から1段目とした場合、排気口が2段目以降に設けられたことが好ましい。
【0009】
本発明の光ファイバ用樹脂被覆装置において、パージ部が2段〜4段の範囲であることが好ましい。
【0010】
本発明の光ファイバ用樹脂被覆装置において、排気口の口径が2mm〜10mmの範囲内であることが好ましい。
【0011】
本発明の光ファイバ用樹脂被覆装置において、光ファイバの二次被覆装置に適用されたことが好ましい。
【0012】
また本発明は、光ファイバ母材を加熱溶融し、線引きした光ファイバ裸線を、ニップルとダイス間にコーティング樹脂液が供給され、外周にコーティング樹脂液を塗布したファイバがダイスから導出される光ファイバ用樹脂被覆装置を通して樹脂を被覆する光ファイバ被覆方法において、光ファイバを被覆装置に導入する前に、パージガスを導入する多段のパージ部を通過させることを特徴とする光ファイバ被覆方法を提供する。
【0013】
本発明の光ファイバ被覆方法において、パージ部をニップル側から1段目とした場合、排気口を有するパージ部を2段目以降に設けた光ファイバ用樹脂被覆装置を通過させることが好ましい。
【0014】
本発明の光ファイバ被覆方法において、パージ部が2段〜4段の範囲である光ファイバ用樹脂被覆装置を通過させることが好ましい。
【0015】
本発明の光ファイバ被覆方法において、排気口の口径が2mm〜10mmの範囲内である光ファイバ用樹脂被覆装置を通過させることが好ましい。
【0016】
本発明の光ファイバ被覆方法において、光ファイバの二次被覆形成時に適用することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光ファイバ用樹脂被覆装置は、光ファイバ裸線の導入側に、パージガスを導入する多段のパージ部を有する構成としたので、高線速で光ファイバを製造する際にも、被覆層内に生じる気泡を減少させることができる。
本発明の光ファイバ被覆方法は、光ファイバを被覆装置に導入する前に、パージガスを導入する多段のパージ部を通過させることによって、高線速で光ファイバを製造する際にも、被覆層内に生じる気泡を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の光ファイバ用樹脂被覆装置の一実施形態を示す断面図である。本実施形態の光ファイバ用樹脂被覆装置10は、線引きされた光ファイバ裸線11の外周にコーティング樹脂液(以下、樹脂と記す。)を塗布し、これを硬化させて被覆層を形成し、光ファイバ素線を製造する光ファイバ素線製造装置に用いられ、ニップル16とダイス17間に樹脂が供給され、外周に樹脂を塗布したファイバがダイス17から導出される構成になっており、光ファイバ裸線11の導入側に、パージガスを導入する2段のパージ部14a,14b(パージガス導入部)を有することを特徴としている。図1中、符号12a,12bは導入部、13はパージ処理領域、15は排気口を示している。
【0019】
本実施形態において、パージ処理領域13は、2段のパージ部14a,14bと、それらの間の位置に設けられた排気口15とから構成されている。光ファイバ用樹脂被覆装置10に多段のパージ部14a,14bを設け、各パージ部14a,14bにそれぞれ独立してパージガスを流せるように構成したことによって、光ファイバ裸線11に引きずられる揮発成分をニップル16に付着する前に除去することができ、得られる光ファイバの被覆層に気泡が残存し難くすることができる。
【0020】
本実施形態において、パージ部14a,14bは段数を増やすほど、被覆層に残存する気泡の除去効果は大きくなるが、作業性を考慮すると、2段から4段で構成するのが好ましい。
【0021】
本実施形態において、排気口15は、2段のパージ部14a,14bの間に設けているが、排気口15の位置はこれに限定されず、パージ部14bをニップル16側から1段目とした場合、排気口15が2段目以降に設けることが好ましい。排気口15を設けることで、光ファイバ裸線11に引きずられる揮発分を外部に排出することができ、パージ部14a,14bの導入部12a,12b及びニップル16での揮発分の付着も防ぐことができる。
【0022】
また排気口15の口径は、2mm〜10mmの範囲内とすることが好ましい。排気口15の口径が2mmm未満であると、光ファイバ裸線11に引きずられる揮発分を外部に排出する能力が不十分となり、被覆層の気泡が増加する恐れがある。排気口15の口径が10mmを超えると、パージ処理領域13が長大となることから好ましくない。
【0023】
本発明の光ファイバ被覆方法は、例えば前述した光ファイバ用樹脂被覆装置10を用いて実施され、光ファイバ母材を加熱溶融し、線引きした光ファイバ裸線11を、ニップル16とダイス17間に樹脂が供給され、外周に樹脂を塗布したファイバがダイス17から導出される光ファイバ用樹脂被覆装置10を通して樹脂を被覆する光ファイバ被覆方法において、光ファイバ裸線11を被覆装置に導入する前に、パージガスを導入する多段のパージ部14a,14bを通過させることを特徴としている。
【0024】
本発明の方法において、製造する光ファイバは、特に限定されず、石英ガラス系のシングルモード光ファイバ、マルチモードファイバ、応力付与型の偏波保持光ファイバなどが挙げられる。この光ファイバの被覆層の層数は、1層又は2層以上とすることができ、複数の被覆層を有する光ファイバの製造に本発明の方法を適用する場合、各被覆層の形成時に全て本発明を適用しても良いし、一部の被覆層の形成にのみ本発明の方法を適用しても良い。
【0025】
本発明の方法において、パージ部14a,14bからパージ処理領域13内に供給するパージガスとしては、炭酸ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、又はこれらの混合ガスなどが挙げられ、通常は炭酸ガスやアルゴンガスが用いられる。
【0026】
2段のパージ部14a,14bから供給されるパージガスの流量は、2段のパージ部14a,14bのそれぞれで同じであっても良いし、それぞれ異なる流量としても良い。個別のパージ部14a,14bから供給するパージガス流量は、例えば、2L/分〜5L/分の範囲内としてよい。
【0027】
本発明の方法は、光ファイバ裸線11を被覆装置に導入する前に、パージガスを導入する多段のパージ部14a,14bを通過させることによって、光ファイバ裸線11に引きずられる揮発成分をニップル16に付着する前に除去することができ、得られる光ファイバの被覆層に気泡が残存し難くすることができるので、高線速で光ファイバを製造する際にも、被覆層内に生じる気泡を減少させることができる。
【実施例】
【0028】
[実施例1]
図1に示す2段のパージ部14a,14bを有する光ファイバ用樹脂被覆装置10を用いて、線速20m/秒で400km線引きされた光ファイバ裸線11の外周に樹脂被覆を行った。パージガスとして炭酸ガスを用いたが、アルゴンガスなどでも良い。パージガスの流量は、aのパージ部で5L/分、bのパージ部で10L/分とした。導入部12a,12bの孔径は、両パージ部14a,14bともに2mm、排気口の口径は6mmとした。その結果、ニップル16に揮発成分の付着は見られず、得られた光ファイバの被覆層内に気泡は発生しなかった。
【0029】
[比較例1]
比較例として、図2に示すように、パージ処理領域21に単独のパージ部22を有する光ファイバ用樹脂被覆装置20を用いて、実施例1と同様の条件で線引きされた光ファイバ裸線11の外周に樹脂被覆を行った。パージガス流量は、10L/分とし、導入部23の口径は2mmとした。その結果、図2に示すように、ニップル16に揮発成分24の付着が見られ、得られた光ファイバの被覆層内に気泡が発生した。
【0030】
[実施例2]
実施例1と同じく、図1に示す2段のパージ部14a,14bを有する光ファイバ用樹脂被覆装置10を用い、排気口15の口径を1mm、2mm、4mm、10mmに変更し、それ以外は実施例1と同様にして光ファイバ裸線11の外周に樹脂被覆を行った。その結果、排気口15の口径が1mmである場合には、揮発成分の排気がやや不足気味であり、ニップル16に揮発成分24の付着が若干見られた。排気口の口径を2mm、4mm、10mmとした場合には、ニップル16に揮発成分の付着は見られず、得られた光ファイバの被覆層内に気泡は発生しなかった。
【0031】
[比較例2]
図1に示す2段のパージ部14a,14bを有する光ファイバ用樹脂被覆装置10において、排気口の位置をパージ部14a,14bの間でなく、下段のパージ部14bよりもニップル16側の位置に形成し、それ以外は実施例1と同様にして光ファイバ裸線11の外周に樹脂被覆を行った。その結果、ニップル16に揮発成分24の付着が見られ、得られた光ファイバの被覆層内に気泡が発生した。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の光ファイバ用樹脂被覆装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】比較例で用いた従来の光ファイバ用樹脂被覆装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10…光ファイバ用樹脂被覆装置、11…光ファイバ裸線、12a,12b…導入部、13…パージ処理領域、14a,14b…パージ部、15…排気口、16…ニップル、17…ダイス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線引きされた光ファイバ裸線の外周にコーティング樹脂液を塗布し、これを硬化させて被覆層を形成し、光ファイバ素線を製造する光ファイバ素線製造装置に用いられ、ニップルとダイス間にコーティング樹脂液が供給され、外周にコーティング樹脂液を塗布したファイバがダイスから導出される光ファイバ用樹脂被覆装置において、
光ファイバ裸線の導入側に、パージガスを導入する多段のパージ部を有することを特徴とする光ファイバ用樹脂被覆装置。
【請求項2】
パージ部をニップル側から1段目とした場合、排気口が2段目以降に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用樹脂被覆装置。
【請求項3】
パージ部が2段〜4段の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ用樹脂被覆装置。
【請求項4】
排気口の口径が2mm〜10mmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光ファイバ用樹脂被覆装置。
【請求項5】
光ファイバの二次被覆装置に適用されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光ファイバ用樹脂被覆装置。
【請求項6】
光ファイバ母材を加熱溶融し、線引きした光ファイバ裸線を、ニップルとダイス間にコーティング樹脂液が供給され、外周にコーティング樹脂液を塗布したファイバがダイスから導出される光ファイバ用樹脂被覆装置を通して樹脂を被覆する光ファイバ被覆方法において、
光ファイバを被覆装置に導入する前に、パージガスを導入する多段のパージ部を通過させることを特徴とする光ファイバ被覆方法。
【請求項7】
パージ部をニップル側から1段目とした場合、排気口を有するパージ部を2段目以降に設けた光ファイバ用樹脂被覆装置を通過させることを特徴とする請求項6に記載の光ファイバ被覆方法。
【請求項8】
パージ部が2段〜4段の範囲である光ファイバ用樹脂被覆装置を通過させることを特徴とする請求項6又は7に記載の光ファイバ被覆方法。
【請求項9】
排気口の口径が2mm〜10mmの範囲内である光ファイバ用樹脂被覆装置を通過させることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の光ファイバ被覆方法。
【請求項10】
光ファイバの二次被覆形成時に適用することを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の光ファイバ被覆方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−223818(P2007−223818A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43627(P2006−43627)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】