説明

光モジュール及び集積型半導体光素子及びその製造方法

【課題】 高速大容量の光伝送が可能な集積型光半導体素子および光モジュールを提供する。
【解決手段】 半絶縁性材料で埋め込まれた光素子が複数同一基板上に集積された集積型半導体光素子およびこれを用いた光モジュールにおいて、光素子毎に埋込層の構成(材料や電気特性)を異ならしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信用集積型半導体光素子及び本光素子を搭載した光モジュールに関し、特に、同一半導体基板上に光変調器を含む複数種類の半導体光素子をモノリシックに積層した集積型半導体光素子及び本集積型半導体光素子を用いた光モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブロードバンドサービスの普及によって年々増加するインターネットコンテンツとインターネット人口の増大に伴い、情報通信サービスには、さらなる高速化と通信容量の増加が求められている。
【0003】
しかし、これらの要求を満たすためには、より高速、高光出力な光源を光通信装置に組み込む必要がある。低消費電力、低コストな高光出力光源として、半導体光変調器と半導体レーザ素子とを同一半導体基板上にモノリシックに集積した光源がある。この種の集積型半導体光素子では、同一半導体基板上に光源となる半導体レーザ素子、光変調器、光増幅器およびその他の光素子を作製するので、半導体プロセスによる高い光結合によって、低損失、高光出力、さらに小型で実装の簡易な光素子を実現することができる。
【0004】
ところで、光通信用半導体レーザ素子の典型的な基本構造には、大きく分けてリッジ導波路(Ridge Wave-Guide:RWG)構造と埋め込みヘテロ(Buried-Hetero:BH)構造(以下、単に埋め込み構造という)の2種類がある。高光出力半導体レーザ素子では、効率的なキャリアと光の閉じ込めとが必要になるため、リッジ導波路構造よりも半絶縁性半導体層を電流ブロック層とする埋め込み構造の方が有利であることが知られている。これは、埋め込み構造の場合、メサストライプの側壁に埋め込んだ半絶縁性半導体材料による埋込層によってキャリアのリークが抑制されるので、電流を効率良く活性層のみに注入することができるからである。
【0005】
このような従来の典型的な埋め込み型半導体レーザ素子は、半絶縁性半導体層の材料として、鉄(Fe)をドープした半絶縁性半導体結晶を用いている。
【0006】
しかし、Feには、通常p型ドーパントとして用いられる亜鉛(Zn)と相互拡散する性質があるため、レーザ素子のp型クラッド層やp型コンタクト層にドープされたZnが半絶縁性半導体層に拡散して絶縁性を低下させたり、逆に埋め込み層からクラッド層やコンタクト層にFeが拡散して導電性を低下させる等の問題が指摘されていた。また、高温動作時にキャリアのエネルギーが高エネルギー側にシフトしてキャリアがオーバーフローし、素子特性が顕著に劣化するという問題や、相互拡散によって格子間位置にはじき出されたZnがレーザ素子の活性層にも拡散し、活性層の発光効率を低下させるという問題も指摘されていた。
【0007】
近年、ルテニウム(Ru)をドープした半絶縁性半導体結晶を用いると、Feをドープした半絶縁性半導体結晶に比べてZnとの相互拡散が抑制されることが報告されている(非特許文献1)。
【0008】
このRuをドープした半絶縁性半導体結晶を埋め込み層に用いることにより、活性層にキャリアを効率的に閉じ込めることが可能になるので、半導体レーザの高光出力化への可能性が高まった。従来の典型的なEA光変調器においても、埋め込み層にRuをドープした半絶縁性半導体結晶が用いられる。この場合、Znの拡散が抑制されることによって実効的なアンドープ層の厚さを厚くできるため、寄生容量の低減につながり、広帯域な素子の作製が期待されている。具体的には、特許文献2に、Feドープ半絶縁性半導体層とメサストライプとの間に薄いRuドープ半絶縁性半導体材料による埋め込み層を設けることによって、Feドープ半絶縁性半導体材料からなる埋め込み層からメサストライプにFeが拡散することを防いでいるEA型光変調器が開示されている。また、光変調器においては、高速、高光出力で駆動しようとしたときに、活性領域において発生したフォトキャリアが活性領域内で滞留、パイルアップすることが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−162664号公報
【特許文献2】特許第4049562号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A. Dadger et al, Applied Physics Letters Vol.73, No.26, pp.3878-3880 (1998)
【非特許文献2】M. Suzuki et al, Electronics Letters Vol.25 No.2 pp.88-89 (1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、実際に、埋め込み構造を採用した電界吸収(Electro-absorption:EA)型光変調器の特性を調べた。その結果、EA型光変調器の場合、光吸収によって消光するという動作原理から、フォトキャリアのパイルアップが起こり易く、フォトキャリアのパイルアップが起きると、EA型光変調器の量子井戸(Quantum Well:QW)層内に蓄積したキャリアの勾配によって内部電界が発生し、外部電界が緩和されるスクリーニングや、パイルアップした自由キャリアによる光吸収である自由キャリア吸収、パイルアップホールによる光の吸収であるバレンスバンド間吸収(Inter Valence Band Absorption:IVBA)が起こるので、高速、高光出力なEA型光変調器の動作にとっては好ましくないことがわかった。また、高速、つまり、量子井戸層における電界の掃引速度が速くなるほどパイルアップが発生し易く、さらに、高光出力でEA型光変調器を駆動するほどフォトキャリアが多く発生するため、パイルアップの影響が大きくなることがわかった。この結果から、光通信システムが求める高速、高光出力なEA型光変調器およびこれを含む集積型半導体光素子を作製するためには、パイルアップの抑制が必須の課題となることが判明した。また、屈折率変化を誘起するマッハツェンダー(Mach Zehnder:MZ)型光変調器や半導体位相光変調器においても、微少な光吸収が生じ、これを起因としてチャーピング(chirping)が発生する。従って、光吸収によって生じたフォトキャリアの排出は、前述したEA型光変調器だけでなく、各種の半導体光変調器およびこれを含む集積型半導体光素子全体の課題であると言える。
【0012】
特許文献1は、半導体受光素子のフォトキャリアのパイルアップを防ぐために、クラッド層への障壁を適度に低減することでクラッド層への掃き出しを行っているが、光変調器に適用した場合、障壁の低減は消光比の劣化を招くという問題が新たに生じる。
【0013】
また、半導体レーザや光増幅器の高出力化を図るためにはゲイン領域埋込層(半導体レーザ領域や光増幅器領域の埋め込み層)の高抵抗化が必要になるが、光変調領域埋込層の抵抗率を変更することに対して何ら考慮されているものではない。
【0014】
つまり、ゲイン領域埋込層と同じ抵抗の材料で埋め込む手法では、特許文献1によって折角改善されたパイルアップの問題が、ゲイン領域埋込層と同じ抵抗の材料の光変調領域埋込層によって、悪化する可能性があった。
【0015】
また、特許文献2に記載された技術は、Feドープ半絶縁性半導体層とメサストライプとの間に薄いRuドープ半絶縁性半導体層を配置することで、確かに高光出力な半導体レーザ素子、および低寄生容量の光変調器の作製が期待できるが、高速、高光出力時の光変調器におけるフォトキャリアのパイルアップに対しては、何ら改善が期待できるものではなく、Ruドープ半絶縁性半導体層はFeドープ半絶縁性半導体層よりも高抵抗化になりやすいため、パイルアップによる問題が改善されるどころかむしろ悪化しやすくなる。このように、半導体レーザ又は光増幅器と光変調器とを集積した集積型半導体光素子全体として、半導体レーザや光増幅器の高光出力化と光変調器のパイルアップの問題の双方を解決する埋め込み構造が提案されてこなかった。
【0016】
本発明の目的は、半導体レーザや光増幅器の高光出力化と光変調器の高速光変調とを両立した集積型半導体光素子を実現するとともに光モジュールに適用し、長距離大容量伝送を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明では、半導体レーザ素子や光増幅器といったゲイン領域のメサストライプと光変調領域のメサストライプとを同じ材料と同程度の抵抗率がある半絶縁性半導体材料で埋め込んでいた従来コンセプトの構造を採用せず、埋め込み層へのキャリアリークの制御を集積されている光素子毎に行うために、光素子毎の埋め込み層を個々に設定する新しいコンセプトの構造とするものである。具体的には、各光素子に最適な特性が得られるように、個々の光素子を構成する領域毎(例えば、ゲイン領域(半導体レーザ、光増幅器)と光変調領域(EA型光変調器))に光素子の特性に応じて埋め込み層の抵抗を調整する。特に、好ましい形態としては、半導体レーザ素子や光増幅器を構成するゲイン領域のメサストライプ(特に、活性層)を埋め込むゲイン領域埋込層の埋め込み材料として、高抵抗な半絶縁性半導体材料を用い、EA型光変調器を構成する光変調領域のメサストライプ(特に、活性領域)を埋め込む光変調領域埋込層の埋め込み材料として、ゲイン領域埋込層の抵抗と比較して低抵抗となる半絶縁性半導体材料を用いる構造がある。
【0018】
さらに、この埋め込み層の抵抗率を調整するのに、ゲイン領域埋込層として、Znとの相互拡散が少ないRuがドープされた半絶縁性半導体材料を用いることで高光出力を実現でき、光変調領域埋込層として、Feがドープされた半絶縁性半導体材料を用いることで、光変調器の活性領域にフォトキャリアを過度にパイルアップさせずに、適度に埋め込み層に染み出させるようにすることが好ましい。この形態によれば、電界を印加する積層方向の障壁を低減することなく効率的にキャリアを活性領域から掃き出し、スクリーニング、パイルアップホールによるバレンスバンド間吸収(IVBA)を抑制することができる。また、埋込層から活性領域へ拡散したFeは、発生したフォトキャリアの再結合を促進するので、この点でもパイルアップの発生が抑制されている。
【0019】
なお、本発明の対象となる集積型光半導体素子は、特許文献1の半導体受光素子のように光信号を取り出すわけではないため、不純物ドープによる非輻射遷移の促進は効果的である。
【0020】
また、ゲイン領域埋込層よりも低抵抗に調整した光変調領域埋込層における抵抗を過度に低くしすぎると、バイアスによって電流が誘起され、無駄な電力を消費するため、効率的な光素子の動作が阻害される。そのため、所定の範囲に抵抗率を10〜10Ω・cmの範囲に設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、長距離大容量伝送が可能な集積型半導体光素子及びこれを用いた光モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1である集積型光半導体素子の要部破断斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1である集積型光半導体素子および比較例1、2の波形の立ち上がり時間を比較したグラフである。
【図3】本発明の実施の形態1である集積型光半導体素子および比較例3、4の55℃における動作を比較した表である。
【図4】本発明の実施の形態4である集積型光半導体素子の要部破断斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態2である集積型光半導体素子の要部破断斜視図である。
【図6】本発明の集積型光半導体素子の製造方法の一例を示す斜視図である。
【図7】本発明の集積型光半導体素子の製造方法の一例を示す斜視図である。
【図8】本発明の集積型光半導体素子の製造方法の一例を示す斜視図である。
【図9】本発明の集積型光半導体素子の製造方法の一例を示す斜視図である。
【図10】実施の形態1乃至4の集積型光半導体素子を用いたトランシーバ(光モジュールの1形態)の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0024】
(実施の形態1)
本実施の形態は、電界吸収型光変調器(EA型光変調器)と分布帰還(Distributed Feed Back:DFB)型レーザ素子(DFBレーザ)とを同一半導体基板上に集積した光半導体素子に適用したものであり、図1は、この集積型光半導体素子の要部破断斜視図である。
【0025】
この集積型光半導体素子は、光が伝播する方向に並んでいる、ゲイン領域と、バルク導波路領域と、光変調領域との3つの領域を備えている。
【0026】
ゲイン領域には、DFBレーザが構成されている。このDFBレーザは、面方位(100)のn型InP基板1上に、n型InPバッファ層2、n型InGaAsPガイド層3、InGaAsP/InGaAsPからなるQW活性層4、p型InGaAsPガイド層5、p型InPスペーサ層(図示せず)、InGaAsP回折格子層6およびp型InPクラッド層7が積層されたヘテロ構造を備えている。そして、n型InPバッファ層2の途中からp型InPクラッド層7までの層で幅2μm、高さ3μm程度のメサストライプが構成されている。このメサストライプの両側の側方の領域は、抵抗率が10Ω・cmに調整された半絶縁性半導体材料で構成されたゲイン領域埋込層8で埋め込まれている。この半絶縁性半導体材料はRuがドープされたInPで構成されている。
【0027】
光変調領域には、電界吸収型光変調器(EA型光変調器)が構成されている。このEA変調器は、上記した面方位(100)のn型InP基板1上に、n型InPバッファ層2、n型InGaAlAsガイド層9、InGaAlAs/InGaAlAsからなるQW(Quantum-Well)光吸収層10、p型InGaAlAsガイド層11およびp型InPクラッド層7が積層されたヘテロ構造を備えている。n型InPバッファ層2の途中からp型InPクラッド層7までの層で幅2μm、高さ3μm程度のメサストライプが構成されている。このメサストライプの両側の側方の領域は抵抗率が10Ω・cmに調整された半絶縁性半導体材料で構成された光変調領域埋込層12で埋め込まれている。この半絶縁性半導体材料はRuがドープされたInPで構成されている。
【0028】
本実施の形態では、ゲイン領域埋込層8と光変調領域埋込層12とを同じ材料で一様に埋め込むことにより抵抗率が実質的に一定な埋込層を採用する従来のコンセプトとは異なり、ゲイン領域埋込層8と光変調領域埋込層12とを異なる構造にするコンセプトを採用している。つまり、本実施の形態は、光素子毎にその光素子の特性上好適な埋込層が存在する点に着目し、光素子毎の領域で、抵抗率に代表される埋込層の特性を設定できるように構成した点に特徴がある。
さらに、本実施の形態では、光変調領域埋込層12の抵抗率を10Ω・cmとしたが、本実施の形態で重要なことは、光変調領域埋込層12の抵抗率を、上記ゲイン領域埋込層8の抵抗率よりも小さく、好ましくは、1桁(1/10倍)以上低くすることにより、半導体レーザの高出力と、光変調器の高速変調を実現している点である。逆に云えば、ゲイン領域埋込層8の抵抗率を、光変調領域埋込層12の抵抗率よりも高くしている点である。つまり、上記設定する埋込層の特性として、抵抗率を用いたものである。
【0029】
なお、本実施の形態では、半導体レーザの高出力と光変調器の高速変調を実現するために、光変調領域埋込層12の抵抗率を、ゲイン領域埋込層8の抵抗率よりも小さくしているが、異なる光素子に用いる場合、この抵抗率の関係を逆転させることも可能である。 また、さらに本実施の形態で重要なことは、光変調領域埋込層12として、キャリアがパイルアップしない適度に低抵抗化されたFeドープ半絶縁性半導体材料(結晶)を用いているので、ZnとFeが相互拡散することによって、効率的なキャリアパスを自己形成することが可能となっている点である。すなわち、半絶縁性半導体結晶のドーパントとしてFeを用いることにより、結晶成長中のZnとの熱拡散によって半絶縁障壁を段階的に低減させることができ、メサストライプ側面部へのパイルアップキャリアのリークを適度に促進することができる。また、埋め込み層から活性領域へ拡散したFeは、発生したフォトキャリアの再結合を促進することになる。このように、本発明の対象となる半導体光素子は、特許文献1の半導体受光素子のように光信号を取り出すわけではないため、不純物ドープによる非輻射遷移の促進は効果的である。
【0030】
また、Feをドーパントに用いた埋め込み層では、Ruをドーパントに用いた高抵抗の埋め込み層に比べて帯域の劣化が懸念されるが、高速光変調時には抵抗も帯域に関与するので、光変調領域埋込層としては、Ruドープ埋め込み層よりも、Feドープ埋め込み層の方が高速光変調特性を改善できる。
【0031】
このように、上記設定する埋込層の特性として、材料を用いることも本発明の一つの形態である。 なお、半絶縁性半導体材料による埋込層(8、12)の抵抗率の調整は、ドーピング材料(ドープされた不純物種)、ドーピングプロファイル(ドーピングされた不純物のプロファイル)、欠陥密度(結晶欠陥密度)などの制御によってなされることが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0032】
バルク導波路領域は、上記した面方位(100)のn型InP基板1上に、n型InPバッファ層2、バルク導波路100およびp型InPクラッド層7の順に積層された構造を備えている。n型InPバッファ層2の途中からp型InPクラッド層7までの層で、幅2μm、高さ3μm程度のメサストライプが構成されている。このバルク導波路領域のメサストライプの側壁には、抵抗率が10Ω・cmに調整された半絶縁性半導体材料で構成された導波路領域埋込層が埋め込まれている。なお、本実施の形態では、この導波路領域埋込層に、光変調領域埋込層12と同じ半絶縁性半導体材料が用いられているが、ゲイン領域で用いた抵抗率が10Ω・cmに調整された半絶縁性半導体材料を用いても構わないし、全く異なる抵抗率の半絶縁性半導体材料を用いても良い。ただ、電流のアイソレーションの観点からは、上記ゲイン領域埋込層8の抵抗率と同じか、さらに高くしておくことが望ましい。逆に、本実施の形態のように、ゲイン領域埋込層8と光変調領域埋込層12で用いた半絶縁性半導体材料のどちらかに統一した場合、ゲイン領域埋込層8又は光変調領域埋込層12と一括形成できるので、プロセス簡略化の観点から好ましい。また、バルク導波路領域の途中で光変調領域埋込層12の半絶縁性半導体材料とゲイン領域埋込層8の半絶縁性半導体材料とが切り替わる平面レイアウトにしてもよい。
【0033】
図中の符号13はレーザ素子と光変調器に共通のパッシベーション膜、14はレーザ素子と光変調器に共通のn型電極、15はレーザ素子のp型電極、16は光変調器のp型電極である。パッシベーション膜13は、メサストライプの上面を露出させ、ゲイン領域埋込層8、導波路領域埋込層及び光変調領域埋込層12を覆う絶縁膜である。n型電極14はn型InP基板1の裏面全面に形成された金属膜であり、光モジュールのサブマウントにはんだで搭載される。p型電極15、16は、ワイヤボンディングで光モジュールの電極に接続され、駆動信号が供給される。
【0034】
次に、実施の形態の効果を確認するために、本実施の形態、光変調器をリッジ型導波路構造で構成した比較例1、光変調器を本実施の形態1と同じメサストライプ構造で構成し、このメサストライプを抵抗率がゲイン領域埋込層8と同じ10Ω・cmに調整された半絶縁性半導体材料で埋め込んだ比較例2とを、それぞれ同一条件で駆動して比較した。
【0035】
図2は、同一光入力強度において、本実施の形態の集積型光半導体素子、および比較例1、2のそれぞれの10Gbps光波形の立ち上がり時間を比較したものである。この図2より、入力光が強くなると、比較例1、2(比較例1:RWG、比較例2:高抵抗SI-BH)の伝送前の波形の立ち上がり時間が遅くなることが確認できる。これは、フォトキャリアのパイルアップによる実効電界の低減によって接合容量が増加し、素子帯域が劣化したためであると考えられる。一方、本実施の形態の集積型光半導体素子(抵抗調整SI-BH)では、このような立ち上がり時間の遅延はほとんど認められなかった。この結果、半絶縁性半導体層からなる埋め込み層の抵抗率を比較例2の10Ω・cmよりも2桁低い、10Ω・cm程度に調整することでパイルアップを抑制できていることが分かる。なお、本比較例は、2桁程度抵抗率に差を設けたが、他の実験から光変調領域埋込層12がゲイン領域埋込層8より1桁低ければ、本発明の効果を実用上十分に得ることができることがわかっている。
【0036】
高光出力な半導体レーザ素子と、高速、高光出力用途の光変調器とをモノリシックに集積した集積型光半導体素子を作製するためには、ゲイン領域埋込層8の抵抗率を10Ω・cm以上、光変調器の埋込層の抵抗率を10Ω・cm〜10Ω・cmに調整することが好ましい。なお、光変調器の埋め込み層の抵抗率を10Ω・cm未満に規定した場合には、実用的に絶縁機能が働かなくなり光変調器として動作しなくなる。
【0037】
図3は、本実施の形態の集積型光半導体素子と比較例3、4の55℃における動作を比較した表である。比較例3は、レーザ素子の高抵抗埋め込み層および光変調領域埋込層12をそれぞれ同じ抵抗率に調整したFeドープ半絶縁性半導体材料(結晶)で構成した場合であり、比較例4は、レーザ素子のゲイン領域埋込層8および光変調領域埋込層12をそれぞれ同じ抵抗率に調整したRuドープ半絶縁性半導体材料(結晶)で構成した場合である。
【0038】
比較例3は、電流リークが顕著になるために高効率なレーザ素子には適さず、さらに高温での動作も望めない。その結果、一般的なシングルモードファイバでの80km伝送には光出力が不足した。また、比較例4では、高光出力、高効率なレーザ素子の作製は可能であるが、光変調器の特性を見ると、キャリアのパイルアップの影響でパワーペナルティが大きくなってしまうため、80km伝送は困難であった。
【0039】
このように、従来の典型的な集積型光素子の埋め込み構造である、メサストライプを埋め込む埋込層の抵抗率による領域分けをしない一括形成のアプローチでは、伝送距離が短いことがわかる。
【0040】
これに対し、本実施の形態では、電流リークを抑えた高光出力、高効率、かつ高速駆動が可能な光変調器を含む集積型半導体光素子を作製できるので、シングルモードファイバによる80km伝送が可能となる。
【0041】
(実施の形態2)
図5は、本実施の形態2の光半導体素子の要部破断斜視図である。本実施の形態は、前記実施の形態1と同じく、EA変調器とDFBレーザとを同一半導体基板上に集積した集積型光半導体素子であるが、光変調領域埋込層の構造が前記実施の形態1と異なっている。すなわち、埋め込み層は、メサストライプの活性領域までが抵抗率を低抵抗に調節したFeドープ半絶縁性半導体結晶からなる低抵抗な下層埋込層50で構成され、その上部がRuドープ半絶縁性半導体結晶からなる高抵抗な上層埋込層51で構成されている。ここで、「高抵抗」、「低抵抗」は、下層埋込層50と上層埋込層51との間の相対的な抵抗率の大小に基づく表現であり、抵抗率は実施の形態1と同じ値、範囲である。
【0042】
この実施の形態で特徴的な構造は、p型InPクラッド層7の側壁に接する埋込層として、高抵抗なRuドープ半絶縁半導体材料で構成された下層埋込層50がある点である。この構成により、ドーパントの相互拡散が抑制され、寄生容量を低減することができる。また、本実施の形態で特徴的な構造は、光変調領域のメサストライプ中の活性領域(吸収層)は、低抵抗なFeドープ半絶縁性半導体材料で構成された上層埋込層51がある点である。この構成により、パイルアップを抑制することができる。
【0043】
(実施の形態3)
EA変調器とDFBレーザとを同一半導体基板上に集積した光半導体素子の製造方法の一例を説明する。
【0044】
まず、図6あるいは図8に示すように、n型InP基板1上にメサストライプを形成した後、成長領域を選択するための誘電体フォトマスク60(図6ではメサ溝に階段状の切り欠きが存在、図8ではメサ溝にテーパ状の切り欠きが存在)を各光素子ごとに開口幅を変えて成膜する。そして、この誘電体フォトマスク60を使った選択領域成長法によって、光変調領域埋込層とゲイン領域埋込層との成長レートを別々に制御することにより、図7あるいは図9に示すように、高抵抗な半絶縁性半導体材料で埋め込まれた下層埋込層61、低抵抗な半絶縁性半導体材料で埋め込まれた上層埋込層62を形成する。本実施の形態の製造方法によれば、成長炉の中で原料供給の切り替えを制御するだけで、所望の特性の埋込層を実現できる。
【0045】
また、他の製造方法として、光変調器のメサストライプとレーザ素子のメサストライプの側壁の埋め込み成長を一括して行った後、例えば誘電体マスクを用いた選択エッチングによって再度メサストライプの形成と埋め込み成長とを繰り返すことにより、下層埋込層61と上層埋込層62を形成することもできる。
【0046】
(実施の形態4)
図4は、本実施の形態4の集積型光半導体素子の要部破断斜視図である。
【0047】
本実施の形態は、前記実施の形態2と同じく、EA型光変調器とDFBレーザとを同一半導体基板上に集積した光半導体素子であるが、埋込層の積層順序が前記実施の形態1と異なっている。すなわち、埋込層は、メサストライプの活性領域までがRuドープ半絶縁性半導体結晶からなる高抵抗な下層埋込層40で構成され、その下層埋込層40の上部が下層埋込層40よりも低抵抗に調整された半絶縁性半導体結晶からなる上層埋込層41で構成されている。
【0048】
本実施の形態ではパイルアップの効果は十分に得られないが、実施の形態2の類型であるので、ここに記載する。本実施の形態によれば、p型InPクラッド層7に接する埋込層が、低抵抗に調節された上層埋込層41になっているので、素子抵抗を下げることが可能となる。また、活性領域の側壁は、拡散の少ないRuがドープされた高抵抗な下層埋込層40で埋め込まれているので、活性領域への欠陥原子の侵入を抑制することができる。さらに、電流狭窄が効果的に行われるので、電流利用効率がアップする。また、一般的に、抵抗率を調整した埋込層は高抵抗埋込層に比べ、高品質な半導体結晶の作製が可能になる。このため、上層埋込層41の表面の平坦性、モホロジーが良好となるので、上層埋込層41の上部に形成される電極やパッシベーション膜の段切れを防止することができる。
【0049】
(実施の形態5)
図10は、実施の形態1乃至4の集積型光半導体素子を用いてトランシーバを構成したものである。
【0050】
実施の形態1乃至4の集積型光半導体素子75は例えばAlNやSiCのような材料でできたサブマウント79上に搭載され、さらにこのサブマウントはキャリア73に半田で固定されている。さらにこのキャリアはペルチェクーラ72上に搭載されて、気密封止されたケース80内に収納されている。入力された電気信号波形は気密ケースの外部に設置されたドライバ81で調整される。気密ケースの側壁には絶縁体でシールドされたリードが貫通していて、ドライバで波形調整された電気信号が通る。電気信号はサブマウント上のマイクロストリップラインに結合され、ワイヤボンディングされた光変調器を駆動する。
【0051】
図中の71はサーミスタでありキャリアの温度をモニタして、ドライバの電気出力にフィードバックする。また、74はフォトダイオードであり集積型光半導体素子の変調器とは反対側から放射される光の強度をモニタして、ドライバの電気出力にフィードバックする。77はファイバ結合用非球面レンズ、76はアイソレータ、78はシングルモードファイバである。
【0052】
なお、ここでは気密ケースの外部にドライバが設置されているがドライバはケース内部に設置されていてもよいし、ドライバとモジュールを構成する素子をワイヤとリード線を介して接続しているがこれらは同一チップ内にモノリシックに集積されていてもよい。ペルチェクーラはモジュールの使用用途によっては設置されていなくてもよい。
【0053】
本実施の形態のように、半導体レーザや光増幅器の高光出力化と光変調器の高速光変調とを両立した集積型半導体光素子をトランシーバに適用することにより、長距離大容量伝送を実現することができる。
【0054】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0055】
例えば、前記実施の形態では、EA変調器とDFBレーザとを同一半導体基板上に集積した集積型光半導体素子を例示したが、これは好ましい形態を詳細に開示したものであり、本発明がこの実施の形態のみに限定されるものではなく、集積する光変調器として、MZ光変調器や位相光変調器にも適用することもできる。
【0056】
また、半導体材料、メサストライプの寸法、膜厚、および半導体基板は、本願発明の理解を容易にするための好ましい形態を詳細に開示したものであり、本発明がこの実施の形態のみに限定されるものではない。
【0057】
また、実施の形態1には、光素子の領域毎に埋込層の抵抗率を変えて作り分けるコンセプトを含むものであるので、光変調器とゲイン素子(レーザや増幅器)との組み合わせだけでなく、埋め込み構造を採用する素子であれば、能動素子と受動素子との集積型半導体光素子に対しても用いることができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0058】
1…n型InP基板、2…n型InPバッファ層、3…n型InGaAsPガイド層、4…QW活性層、5…p型InGaAsPガイド層、6…InGaAsP回折格子層、7…p型InPクラッド層、8…ゲイン領域埋込層、9…n型InGaAlAsガイド層、10…QW光吸収層、11…p型InGaAlAsガイド層、12…光変調領域埋込層、13…パッシベーション膜、14…n型電極、15、16…p型電極、40…下層埋込層、41…上層埋込層、50…下層埋込層、51…上層埋込層、60…誘電体フォトマスク、61…下層埋込層、62…上層埋込層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一半導体基板上に、光変調器と半導体レーザ素子又は光増幅器とがモノリシックに集積された集積型半導体光素子であって、
前記集積型光半導体素子を構成する前記光変調器と前記半導体レーザ素子又は光増幅器とは、ヘテロ構造を構成するメサストライプと、そのメサストライプを半絶縁性半導体材料で埋め込んだ埋込層とを備え、
前記半導体レーザ素子又は光増幅器のヘテロ構造を構成するメサストライプにある活性層は第1埋込層で埋め込まれ、
前記光変調器のヘテロ構造を構成するメサストライプにある活性層は第2埋込層で埋め込まれ、
前記第1埋込層と前記第2埋込層とは異なる構成であることを特徴とする集積型半導体光素子。
【請求項2】
前記異なる構成は、異なる抵抗率であることを特徴とする請求項1記載の集積型半導体光素子。
【請求項3】
前記第1埋込層の抵抗率よりも前記第2埋込層の抵抗率は高いことを特徴とする請求項2記載の集積型半導体光素子。
【請求項4】
前記第1埋込層の抵抗率と前記第2埋込層との抵抗率は、10倍以上異なっていることを特徴とする請求項3記載の集積型半導体光素子。
【請求項5】
前記第2埋込層の抵抗率は、10〜10Ω・cmであることを特徴とする請求項4記載の集積型半導体光素子。
【請求項6】
前記第1埋込層の抵抗率は、10Ω・cm以上であることを特徴とする請求項4記載の集積型半導体光素子。
【請求項7】
前記半導体レーザ素子は、分布帰還型レーザ素子であることを特徴とする請求項3記載の集積型半導体光素子。
【請求項8】
前記第2埋込層は、Feがドープされた半絶縁性半導体材料からなり、
前記第1埋込層は、Ruがドープされた半絶縁性半導体材料からなることを特徴とする請求項7記載の集積型半導体光素子。
【請求項9】
前記光変調器は、電界吸収型光変調器であることを特徴とする請求項3記載の集積型半導体光素子。
【請求項10】
前記光変調器は、マッハツェンダー型光変調器又は位相光変調器であることを特徴とする請求項3記載の集積型半導体光素子。
【請求項11】
前記第2埋込層の抵抗率よりも前記第1埋込層の抵抗率は高いことを特徴とする請求項2記載の集積型半導体光素子。
【請求項12】
請求項1に記載の集積型光半導体素子が搭載されていることを特徴とする光モジュール。
【請求項13】
同一半導体基板上に、光変調器と半導体レーザ素子又は光増幅器とがモノリシックに集積され、前記光変調器と前記半導体レーザ素子又は光増幅器とが、ヘテロ構造を備えたメサストライプと、そのメサストライプを半絶縁性半導体材料で埋め込んだ埋込層を備えた集積型半導体光素子の製造方法において、
前記半導体素子又は光増幅器のメサストライプの活性層を不純物がドープされた第1半絶縁性半導体材料で埋め込んで第1埋込層を形成する第1工程と、
前記光変調器の活性層を不純物がドープされた第2半絶縁性半導体材料で埋め込んで第2埋込層を形成する工程と、を備え、
前記ドープされた不純物種、前記ドープされた不純物のプロファイル、または前記半絶縁性半導体材料の結晶欠陥密度を制御することによって、前記第1埋込層の抵抗と前記第2埋込層の抵抗とを異ならせることを特徴とする集積型半導体光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−29595(P2011−29595A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95616(P2010−95616)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】