説明

光共振器用自動アライメント装置と自動アライメント方法

【課題】 高出力レーザ光共振器において、発振開始直後からの適正なアライメント保持が可能な光共振器用自動アライメント装置を提供すること。
【解決手段】 光共振器1の共振器ミラー2,3からの出力ビーム6の一部を取り出すビームスプリッタ25と、前記ビームスプリッタ25で取り出したビーム26を、前記出力ビーム6を取り出した出力結合部におけるビーム像23として像転送するイメージリレー光学系30と、前記イメージリレー光学系30で像転送したビーム像23を入射させる受光部を有する4分割光検出器21と、前記4分割光検出器21に入射させたビーム像23に基づいて前記受光部の分割された領域におけるビーム強度信号が均一又は一定の比になるように、前記共振器ミラー2,3の角度を適正にアライメント補正する補正部28とを備えさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高出力レーザにも対応できる光共振器において共振器ミラーの適正なアライメントを保持する自動アライメント装置と自動アライメント方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ装置では、所定のビーム出力を得るために光共振器が用いられている。光共振器には、安定型と不安定型とがあり、安定型共振器は、全反射ミラーと出力ミラー(半透過ミラー)との間でレーザ媒質を励起状態にして得られる誘導放出光を増幅して自己無撞着ビームを形成し、出力ミラーからビームを出力するものであり、出力ビームは一般に中実状である。一方不安定型共振器は、全反射ミラーのみを用いて非自己無撞着ビームを形成し、拡大するビームを出力側全反射ミラー周囲またはスクレイパーミラーによる幾何学的な取り出しを行うものであり、出力ビームは一般にリング状である。
【0003】
ところで、近年、高出力(例えば、数十kW以上の平均出力)レーザの要求もある。高出力レーザの場合、上記安定型共振器はアライメントが容易で光軸が比較的安定するが、大口径になると高次モードが発振してビーム品質の低下を生じる。そのため、高品質なビームを得るための光共振器としては、単一モードで発振可能な不安定型共振器が適している。特に、不安定型共振器の中でも、ポジティブブランチ型の不安定型共振器は高出力発振に適している。
【0004】
しかし、ポジティブブランチ型の不安定型共振器の場合、共振器ミラー間の相対的な角度ずれ(ミスアライメント)に敏感であり、発振中の熱歪み等に起因する共振器ミラー間の相対的な角度ずれがわずか(例えば、10〜100μrad)に生じても、発振強度分布やひいては出力が変動しやすい。このミスアライメントを生じた場合の補正方法としては、ビームプロファイラー等で発振中のビーム強度分布を見ながら、必要に応じて手動によるアライメント補正を行う方法が多く採用されている。
【0005】
一方、自動のアライメント補正に関する先行技術として、レーザ出力をフィードバックする方法が知られている。この方法として、間欠的に共振器ミラー角度を微少変位させてレーザ出力を観測し、より大きな出力が得られる方向にミラー角度を調整してアライメントを補正するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、他の先行技術として、光共振器内に3つ以上のセンサをビーム光軸から等間隔に組込み、各センサの信号を読み、そのセンサの信号強度が均一になるように共振器ミラーの角度を制御するものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
さらに、他の先行技術として、出力ビームの一部を照射したスクリーンの発光部をCCDカメラ等で撮像してコンピュータで画像処理し、発光部の輪郭検出後、輪郭内複数領域の輝度勾配を検出することで共振器ミラーの角度ずれを検出するものもある(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
また、他の先行技術として、互いに対向配置させた共振器ミラーから出射されたビームの出射光軸を4分割(4象限)光検出器で検出し、その検出した出射光軸の向きに基づき制御信号を生成して出射光軸を調整ミラーの角度で調整するようにしたものもある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−153654号公報
【特許文献2】特開平11−274614号公報
【特許文献3】特開2000−208835号公報
【特許文献4】特開2008−258314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載された発明は、発振開始後しばらくの間の出力が不安定なときに適用しても正確な補正はできない。しかも、光軸が適正な位置にある場合にも強制的にミラー角度を変動させてレーザ出力が最大になる位置を観測するので、制御する目的でかえって不要な外乱を与えて出力と光軸に揺らぎを生じさせる。
【0011】
また、上記特許文献2に記載された発明の場合、内部に組込まれたセンサが出力ビームに晒されるため、高出力レーザにおいては耐久性が問題となる。
【0012】
さらに、上記特許文献3に記載された発明の場合、出力ビームの一部を照射したスクリーンの発光部輝度から共振器ミラーの角度ずれを計算で求めるため、複雑な計算に時間を要し、応答速度に問題を生じる。しかも、発光部を撮像するCCDカメラや、その輝度から共振器ミラーの角度ずれを計算するためのコンピュータ等の複数の機器が必要となり、大幅なコスト増加を伴う。その上、高出力のリングビームを出力する不安定型共振器の場合には、正確な発光部の撮像および画像処理が難しく、輪郭内複数領域の輝度勾配の検出から共振器ミラーずれを正しく検出するのは容易ではない。
【0013】
また、上記特許文献4に記載された発明の場合、4分割光検出器を用い、光共振器の調整と出射光軸の調整の2つのステップを行っているが、光共振器の調整ではレーザ光の出力の大きさ(4つの検出信号の和)に基づき、出射光軸の調整ではビーム位置の変動(4つの検出信号の配分)に基づいている。この方法では光共振器の調整に際しては、レーザ光の出力の大きさに基づいているため、出力が安定している場合しか適用できない。
【0014】
そこで、本発明は、高出力レーザ光共振器においても、発振開始直後からの適正なアライメント保持が可能な光共振器用自動アライメント装置と自動アライメント方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の光共振器用自動アライメント装置は、光共振器からの出力ビームの一部を取り出すビーム取出部と、前記ビーム取出部で取り出したビームを、前記出力ビームを取り出した出力結合部におけるビーム像として像転送するイメージリレー光学系と、前記イメージリレー光学系で像転送したビーム像を入射させる受光部を有する複数分割光検出器と、前記複数分割検出器に入射させたビーム像に基づいて前記受光部の分割された領域におけるビーム強度信号が均一又は一定の比になるように、前記光共振器のミラー角度を適正にアライメント補正する補正部と、を備えていることを特徴とする。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「出力結合部」は、ビーム像を形成する出力ビームの位置であり、光共振器の構成によって異なる。また、「アライメント補正」は、光共振器のミラー角度によって定まる光軸位置を適正な位置に補正し、適正なビーム像を得ることをいう。
【0016】
この構成により、ビーム取出部で取り出された出力ビームの一部がイメージリレー光学系で出力結合部におけるビーム像として像転送されて複数分割光検出器の受光部に入射されるので、このビーム像の受光部における分割された領域でのビーム強度信号に基づいてアライメント補正が必要か否かを判断して、必要であれば、補正部で光共振器のミラー角度が適正となるようにアライメント補正することが自動でできる。つまり、複数分割光検出器の受光部に入射させたビーム像の強度バランスに基づいて、光共振器のミラー角度による適正なアライメント補正を迅速に行うことができる。従って、発振開始直後から適正なアライメント保持が可能となる。
【0017】
また、前記イメージリレー光学系は、前記ビーム取出部で取り出した出力ビームを適正に縮小したビーム像として像転送し、前記複数分割光検出器の受光部の大きさに適合させる結像光学系を構成してもよい。このように構成すれば、イメージリレー光学系によって出力結合部における明確なビーム像を複数分割光検出器の受光部に像転送することができ、光共振器のミラー角度による適正なアライメント補正をより正確に行うことができる。
【0018】
また、前記光共振器が安定型共振器であり、前記安定型共振器の出力ミラー出力方向に前記ビーム取出部を有し、該ビーム取出部で出力ビームの一部を取り出すように構成してもよい。この構成の場合、出力ミラーが出力結合部となり、出力ミラーにおけるビーム像をイメージリレーして像転送する。このように構成すれば、安定型共振器において、出力ビームを主たる高出力ビームとモニター用の低出力ビームに分岐させて一部を取り出し、出力ビームの強度バランスを、複数分割光検出器の分割された領域で検出し、そのビーム強度信号に基づいて出力ビームのアライメント補正が必要か否かを判断して、補正部で光共振器のミラー角度が適正となるようにアライメント補正することが迅速にできる。
【0019】
また、前記光共振器が不安定型共振器であり、前記不安定型共振器内に所定角度で設置され、発振光軸方向に穴を有したスクレイパーミラーからリング状にビームを出力する方向に前記ビーム取出部を有し、該ビーム取出部で出力ビームの一部を取り出すように構成してもよい。この構成の場合、スクレイパーミラーが出力結合部となり、スクレイパーミラーにおけるビーム像をイメージリレーして像転送する。このように構成すれば、不安定型共振器において、出力ビームを主たる高出力ビームとモニター用の低出力ビームに分岐させて一部を取り出し、出力ビームの強度バランスを、複数分割光検出器の分割された領域で検出し、そのビーム強度信号に基づいてアライメント補正が必要か否かを判断して、補正部で光共振器のミラー角度が適正となるようにアライメント補正することが迅速にできる。
【0020】
また、前記補正部は、前記イメージリレー光学系で像転送したビーム像のリング状部分の強度バランスに基づいて前記共振器ミラーの角度をミラー角度調整アクチュエータで適正にアライメント補正するように構成してもよい。このように構成すれば、リング状のビーム像における中空部に対してずれたビーム部がビーム像中心に位置するように補正される結果となり、簡単な構成で適正なアライメント補正を迅速に行うことができる。
【0021】
また、前記不安定型共振器が化学物質を励起して増幅する化学レーザ用不安定型共振器であり、前記補正部は、前記複数分割検出器に入射させたビーム像に基づいて前記受光部の分割された領域におけるビーム強度信号にガスレーザ上流側と下流側とにおけるゲインの比を含む制御量で前記共振器ミラーの角度を適正にアライメント補正するように構成してもよい。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「化学レーザ」は、ヨウ素レーザ、フッ化水素レーザ等をいう。このように構成すれば、ヨウ素レーザのような化学レーザ用の不安定型共振器において、化学レーザの上流側と下流側とにおけるゲインの比を考慮して光共振器のミラー角度が適正となるようにアライメント補正することが迅速にできる。
【0022】
一方、本発明の光共振器の自動アライメント方法は、光共振器からの出力ビームの一部を取り出し、前記取り出したビームを出力結合部におけるビーム像としてイメージリレー光学系で像転送し、前記像転送したビーム像を複数分割光検出器の受光部に入射させてビーム強度信号を検出し、前記受光部の分割された領域におけるビーム強度信号が均一又は一定の比になるように、前記光共振器のミラー角度を適正にアライメント補正することを特徴とする。
【0023】
この構成により、出力ビームの一部を取り出してイメージリレー光学系で出力結合部におけるビーム像として像転送して複数分割光検出器の受光部に入射させたビームにより、受光部の分割された各領域におけるビーム強度信号に基づいて、光共振器のミラー角度が適正となるようにアライメント補正することが自動でできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、イメージリレー光学系で像転送したビーム像から出力ビームの強度バランスを複数分割光検出器で正確に検出し、そのビーム強度信号に基づいて共振器ミラーのアライメント補正を迅速に行うことで適正なアライメント保持が迅速に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る不安定型共振器用自動アライメント装置を示す構成図である。
【図2】図1に示す自動アライメント装置の複数分割光検出器における受光部の構成図である。
【図3】図2に示す複数分割光検出器の受光部におけるビーム像を示す図面であり、(a) はアライメント適正時のビーム像を示し、(b) はミスアライメント発生時のビーム像を示している。
【図4】化学レーザ用光共振器における上流側と下流側とのゲイン比を説明するための模式図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る安定型共振器用自動アライメント装置を示す構成図である。
【図6】図5に示す自動アライメント装置の複数分割光検出器におけるビーム像を示す図面であり、(a) はアライメント適正時のビーム像を示し、(b) はミスアライメント発生時のビーム像を示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態の一例を図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、複数分割光検出器として4分割(4象限)光検出器を用いた例を説明する。
【0027】
図1に示す第1実施形態に係る自動アライメント装置20は、不安定型共振器1に用いた例を示している。この実施形態における不安定型共振器1は、対向させて配置された全反射の共振器ミラー2と、全反射の共振器ミラー3と、所定角度で配置された発振光軸方向に穴を有するスクレイパーミラー5とを備えている。スクレイパーミラー5は、共振器ミラー2と共振器ミラー3との間に設けられ、これらの共振器ミラー2,3の間でレーザ媒質4を励起することにより発振したレーザビームを直交する方向(90°)に反射するように45°の角度で傾斜配置されている。
【0028】
さらに、上記共振器ミラー2及び共振器ミラー3には、ミラー角度調整アクチュエータ7,8が設けられている。この例では、両方の共振器ミラー2,3にミラー角度調整アクチュエータ7,8が設けられているが、一方でもよい。
【0029】
これらのミラー角度調整アクチュエータ7,8は、後述する4分割光検出器21とは配線9,10で電気的に接続されており、4分割光検出器21によって検出されたビーム像23の強度バランスを補正するようにミラー角度調整アクチュエータ7,8で共振器ミラー2,3の角度が調整される。このミラー角度調整アクチュエータ7,8で共振器ミラー2,3の角度を調整する構成が補正部28である。ミラー角度調整アクチュエータ7,8には、ステップモータやDCモータ、あるいはピエゾ等が用いられる。また、ミラー角度調整アクチュエータ7,8による角度調整は、例えば、10〜100μrad程度の共振器ミラー2,3間の相対的な角度ずれを補正できるようになっている。
【0030】
一方、上記スクレイパーミラー5で出射された出力ビーム6は、ビーム取出部たるビームスプリッタ25で一部が取り出されている。この実施形態のビームスプリッタ25としては、スクレイパーミラー5から出射された出力ビーム6のほぼ全体(例えば、99.9%)を反射して出力し、出力ビーム6の一部(例えば、0.1%)を透過するものが用いられる。このビームスプリッタ25によって分岐させる出力ビーム6の一部としては、4分割光検出器21に入射させるビーム出力が適正なレベルとなるように分岐比率が設定される。なお、減光が不十分な場合は、フィルター等でさらに減光するものとする。
【0031】
そして、ビームスプリッタ25を透過した出力ビーム6の一部が、自動アライメント装置20における低出力のモニタビーム26として利用される。上記ビームスプリッタ25を透過したモニタビーム26は、全反射ミラー27によって直交する方向に反射され、イメージリレー光学系30によってビーム像が結像されて、4分割光検出器21に像転送されて利用される。
【0032】
この実施形態におけるイメージリレー光学系30は、大凸レンズ31と小凸レンズ32とを有し、これらの凸レンズ31,32で出力結合部たるスクレイパーミラー5の部分におけるビーム像が結像されて4分割光検出器21の受光部22(図2)に像転送されるようになっている。この実施形態の不安定型共振器1の場合、スクレイパーミラー5の配置が絶対位置に固定されているため、スクレイパーミラー5の穴位置を基準点とするようにイメージリレーされている。
【0033】
このように、この実施形態では、イメージリレー光学系30で上記スクレイパーミラー5の部分(出力結合部)におけるビーム像23をイメージリレーするようになっている。つまり、出力結合部であるスクレイパーミラー5の部分におけるビーム像23を保存することで、後述するように、リング状のビーム中心の中空部を基準点として保存し、アライメント補正時の位置合せに利用している。
【0034】
このようなイメージリレー光学系30により、スクレイパーミラー5の部分におけるビーム像23を正確に4分割光検出器21に入射させることができる。しかも、不安定型共振器1の出力結合部(スクレイパーミラー5の部分)におけるビーム像23のサイズを小さくして像転送している。これにより、ビーム像23がぼやけることなく4分割光検出器21の受光部22に縮小した明確なビーム像23を入射させるような結像光学系を構成している。
【0035】
そして、図2に示すように、4分割光検出器21の4分割された領域S1〜S4を備えた受光部22により、像転送されたスクレイパーミラー5の部分におけるモニタビーム26の強度バランスが検出され、そのビーム強度信号に基づいて、その信号が均一又はある一定の比になるように、上記共振器ミラー2,3の角度がミラー角度調整アクチュエータ7,8によって調整される。上記共振器ミラー2,3の角度は、一方又は両方が調整される。これにより、不安定型共振器1の適正なアライメント保持が図られる。図示するように、この実施形態では、4分割光検出器21の受光部22の水平方向をX方向、垂直方向をY方向としている。
【0036】
図3(a),(b) に示すように、上記自動アライメント装置20の4分割光検出器21におけるビーム像23の強度バランス検出は、以下のように行われる。図3(a) に示すように、アライメント適正時には、4分割光検出器21の受光部22に像転送されるスクレイパーミラー5の部分におけるビーム像23は、スクレイパーミラー5の中空部24が中心に位置し、その周囲にリング状の出力ビーム6が像転送された状態となる。この状態では、アライメント補正は行われない。
【0037】
一方、ミスアライメント発生時には、4分割光検出器21の各領域S1〜S4におけるビーム強度信号(以下、各領域S1〜S4におけるビーム強度信号もS1〜S4で示す)を検出することにより、X方向、Y方向のビームの偏りが検出される。そして、そのX方向、Y方向のビームの偏りによる強度信号の差に基づいて、その信号が均一又はある一定の比になるように、共振器ミラー2,3の角度がフィードバック制御されて適正なアライメント補正が行われる。
【0038】
このアライメント補正としては、レーザ出力に比例する全信号の和をTとし、X方向の偏り信号をΔX、Y方向の偏り信号をΔYとすると、
T=S1+S2+S3+S4
ΔX=S1+S4−S2−S3
ΔY=S1+S2−S3−S4
となる。
【0039】
従って、ビーム像23のビーム強度を上記式に入力することで、容易に強度バランスを検出することができる。
【0040】
また、図3(b) に示すように、ミスアライメント発生時には、リング状のビーム像23の中空部24は不動であるため、その周囲のビーム像23がずれたことによる強度バランスの変化を検出し、その強度バランスを適正に戻すように共振器ミラー2,3のミラー角度調整アクチュエータ7,8に信号が送られて、適正なアライメント補正が行われる。このように、4分割光検出器21で不安定型共振器1のアライメント適性度を検出し、そのアライメント補正を自動的に行うようにしている。
【0041】
一方、図4に示すように、上記光共振器が化学レーザ用の場合には、その化学物質を励起する上流側と下流側とでゲイン(蓄積エネルギ)に比が生じる。このゲインの比としては、通常、上流側が大きく、下流側が小さくなる。そのため、化学レーザ用の場合には4分割光検出器21で検出する強度バランスにゲイン比による分布が生じる。
【0042】
そこで、この励起上流側のゲインが下流側のゲインよりも大きくなることを考慮し、4分割光検出器21の検出信号に基づく共振器ミラー2,3(図1)の制御信号を、ゲイン比(k)を考慮してX方向は一定の比(例えば、1:1〜3:1)となるように制御してもよい。
【0043】
この場合、流れ方向において、上流側のビーム強度が下流側のビーム強度のk倍であるとすると、ビーム強度が小さい下流側にゲイン比kを掛けて、
S1+S4=k(S2+S3)
とすることで上流側と下流側とを等しくすることができる。ここで、全信号の和Tに対する上流側の領域S1,S4と、下流側の領域S2,S3とのX方向の偏り信号ΔXの補正分、
S1+S4=(T+ΔX)/2
S2+S3=(T−ΔX)/2
を上の式に代入すると、
ΔX=T(k−1)/(k+1)
となる。このX方向の偏り信号ΔXに基づいて、共振器ミラー2,3の角度がミラー角度調整アクチュエータ7,8によって調整される。
【0044】
なお、経験上、ゲイン比は、1<k<3であるが、その光共振器に適したkに設定すればよい。また、Y方向においては通常、差がないので、ΔY=0となる。さらに、k=1のときは、S1〜S4全てが等しくなるので、ΔX=0、ΔY=0となる。
【0045】
このように、化学レーザ用の不安定型共振器における自動アライメント装置20としても、化学レーザの上流側と下流側とにおけるゲインの比を考慮して共振器ミラー2,3の角度が適正となるようにアライメント補正することが迅速にできる。
【0046】
図5に示す第2実施形態に係る自動アライメント装置50は、安定型共振器40に用いた例を示している。なお、上述した第1実施形態と同一の構成には同一符号を付し、その構成の説明は省略する。この実施形態における安定型共振器40は、全反射共振器ミラー41と、所定の透過率の出力共振器ミラー42とを備えており、これらのミラー41,42の間でレーザ媒質43を励起して増幅させたビームが所定の出力になると、所定の透過率となっている上記出力共振器ミラー42から出力ビーム44として出射するようになっている。
【0047】
また、出力共振器ミラー42から出射された出力ビーム44の軸線上にはビームスプリッタ51が設けられており、このビームスプリッタ51で出力ビーム44の一部が取り出されるようになっている。ビームスプリッタ51は、出力ビーム44の一部(例えば、0.1%)を反射するものが用いられ、このビームスプリッタ51によって出力ビーム44の一部がモニタビーム52として取り出される。
【0048】
そして、モニタビーム52として出力ビーム44の一部を取り出した方向に、イメージリレー光学系30が設けられている。このイメージリレー光学系30は上述した第1実施形態と同一であり、大凸レンズ31と小凸レンズ32とを有している。また、この実施形態のイメージリレー光学系30も、これらの凸レンズ31,32で出力結合部たる出力共振器ミラー42の部分におけるビーム像53が結像されて4分割光検出器21の受光部22(図6)に像転送されるようになっている。
【0049】
また、4分割光検出器21は、ミラー角度調整アクチュエータ45と配線46で電気的に接続されており、4分割光検出器21によって検出されたビーム像53の強度バランスを補正するようにミラー角度調整アクチュエータ45が制御される。ミラー角度調整アクチュエータ45による共振器ミラー41の角度調整は、4分割光検出器21の検出結果に応じたX方向とY方向の制御が行われる。このミラー角度調整アクチュエータ45による共振器ミラー41の角度を制御する構成が補正部47である。
【0050】
図6(a),(b) に示すように、上記自動アライメント装置50によれば、上記4分割光検出器21によるモニタビーム52の検出状態としては、図6(a) に示すように、アライメント適正時には、受光部22の領域S1〜S4の中心位置にビーム像53が入射する。この状態は、ΔX=ΔY=0の状態である。
【0051】
また、図6(b) に示すように、ミスアライメント発生時には、ビーム像53が開口部(図に一点鎖線で示す円)内で中心からずれて分布することにより信号S1〜S4にアンバランスが発生する(開口部は固定でその中の分布がずれる)。このような場合には、4分割光検出器21で各領域において検出されたビーム強度信号S1〜S4に基づいて、その信号が均一又はある一定の比になるように、上記共振器ミラー41の角度がフィードバック制御されて適正なアライメント補正が行われる。なお、このアライメント補正は、上述した第1実施形態と同一であるため、その説明は省略する。また、この第2実施形態の安定型共振器でも、上述した第1実施形態と同様に、化学レーザ用にも適用できる。
【0052】
以上のような自動アライメント装置20,50によれば、高出力ビームであったとしても、その出力ビーム6,44の一部をビームスプリッタ25で取り出して十分にパワーダウンさせたモニタビーム26,52をイメージリレー光学系30によって結像し、そのビーム像23,53を4分割光検出器21でモニタリングする。そのため、常に低出力のビーム像23,53によるモニタリングとなり、4分割光検出器21の信頼性を保った共振器ミラー2,3の適正なアライメント保持ができる。その上、出力値をフィードバックしないため、不要な外乱を与えることもない。
【0053】
しかも、発振開始直後から、高速なアライメント補正が可能であるため、ミスアライメント感度の高いポジティブブランチ不安定型共振器でも、迅速に適正なアライメントの保持ができる。
【0054】
さらに、4分割光検出器21のような、安価な機器を用いて適正なアライメント補正が可能な自動アライメント装置20,50を構成することができ、出力ビーム6,44の適正なアライメント保持に要する機器のコストを抑えることができる。
【0055】
なお、上述した実施形態では、複数分割光検出器として4分割(4象限)光検出器21を用いた例を説明したが、複数分割光検出器としては、複数(4つ)の光検出器を対称に配置した構成であってもよい。また、4分割以上の分割数(例えば、8分割)でもよく、受光の強度バランスを計測可能なものであればよく、上記実施形態に限定されるものではない。
【0056】
また、上述した実施形態では、ビーム取出部としてビームスプリッタ25を例に説明したが、ビーム取出部は出力ビーム6,44の一部を低出力のモニタビーム26として取り出すことができる構成であればよく、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0057】
さらに、上述した実施形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る光共振器用自動アライメント装置は、高出力レーザ光共振器を用いたレーザ装置において利用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 不安定型共振器
2,3 共振器ミラー
4 レーザ媒質
5 スクレイパーミラー(出力結合部)
6 出力ビーム
7,8 ミラー角度調整アクチュエータ
9,10 配線
20 自動アライメント装置
21 4分割光検出器(複数分割光検出器)
22 受光部
23 ビーム像
24 中空部
25 ビームスプリッタ(ビーム取出部)
26 モニタビーム
27 全反射ミラー
28 補正部
30 イメージリレー光学系
31 大凸レンズ
32 小凸レンズ
40 安定型共振器
41 全反射共振器ミラー
42 出力共振器ミラー
43 レーザ媒質
44 出力ビーム
45 ミラー角度調整アクチュエータ
46 配線
47 補正部
50 自動アライメント装置
51 ビームスプリッタ(出力結合部:ビーム取出部)
52 モニタビーム
53 ビーム像
S1〜S4 領域(ビーム強度信号)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光共振器からの出力ビームの一部を取り出すビーム取出部と、
前記ビーム取出部で取り出したビームを、前記出力ビームを取り出した出力結合部におけるビーム像として像転送するイメージリレー光学系と、
前記イメージリレー光学系で像転送したビーム像を入射させる受光部を有する複数分割光検出器と、
前記複数分割検出器に入射させたビーム像に基づいて前記受光部の分割された領域におけるビーム強度信号が均一又は一定の比になるように、前記光共振器のミラー角度を適正にアライメント補正する補正部と、を備えていることを特徴とする光共振器用自動アライメント装置。
【請求項2】
前記イメージリレー光学系は、前記ビーム取出部で取り出した出力ビームを適正に縮小したビーム像として像転送し、前記複数分割光検出器の受光部の大きさに適合させる結像光学系を構成している請求項1に記載の光共振器用自動アライメント装置。
【請求項3】
前記光共振器が安定型共振器であり、
前記安定型共振器の出力ミラー出力方向に前記ビーム取出部を有し、該ビーム取出部で出力ビームの一部を取り出すように構成した請求項1又は2に記載の光共振器用自動アライメント装置。
【請求項4】
前記光共振器が不安定型共振器であり、
前記不安定型共振器内に所定角度で設置され、発振光軸方向に穴を有したスクレイパーミラーからリング状にビームを出力する方向に前記ビーム取出部を有し、該ビーム取出部で出力ビームの一部を取り出すように構成している請求項1又は2に記載の光共振器用自動アライメント装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記イメージリレー光学系で像転送したビーム像のリング状部分の強度バランスに基づいて前記共振器ミラーの角度をミラー角度調整アクチュエータで適正にアライメント補正するように構成している請求項4に記載の光共振器用自動アライメント装置。
【請求項6】
前記不安定型共振器が化学物質を励起して増幅する化学レーザ用不安定型共振器であり、
前記補正部は、前記複数分割検出器に入射させたビーム像に基づいて前記受光部の分割された領域におけるビーム強度信号にガスレーザ上流側と下流側とにおけるゲインの比を含む制御量で前記共振器ミラーの角度を適正にアライメント補正するように構成している請求項4又は5に記載の光共振器用自動アライメント装置。
【請求項7】
光共振器からの出力ビームの一部を取り出し、
前記取り出したビームを出力結合部におけるビーム像としてイメージリレー光学系で像転送し、
前記像転送したビーム像を複数分割光検出器の受光部に入射させてビーム強度信号を検出し、
前記受光部の分割された領域におけるビーム強度信号が均一又は一定の比になるように、前記光共振器のミラー角度を適正にアライメント補正することを特徴とする光共振器の自動アライメント方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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