説明

光合成微生物培養装置

【課題】効率的に光合成微生物懸濁液を撹拌できる光合成微生物培養装置を提供する。
【解決手段】液体の固体に対する付着力及び表面張力による作用と空気の浮揚力を利用した循環器を備えた光合成微生物培養装置に構成した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、クロレラ、光合成細菌等光合成微生物の培養装置に関するものである。
【0002】
〔従来の技術〕
光合成微生物の培養においては、光合成微生物が槽底に沈降蓄積し、腐敗するのを防ぐため、撹拌が行なわれる。
本発明者は、光合成微生物懸濁液の撹拌に関して、空気を用いて間欠的に撹拌する機能を有する培養装置を、平成8年12月29日に特願平8−282146(微細藻類培養装置)として提案した。(以後特願平8−282146装置と略す)これは、主として、上下方向の波動により光合成微生物を懸濁状態に保つものであった。しかし、より効果的な撹拌を行なう上で、横方向の流れ、すなわち循環速度もより大きいことが望ましい。
また、特願平8−282146装置は、夜間光合成微生物懸濁液を密閉容器に収納して、嫌気状態を形成することによりワムシ等捕食微生物の発生を防止する機能を有しているが、不完全な部分が残されていた。
【0003】
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、大きな波動の形成と共に、より効率的に光合成微生物懸濁液を循環でき、より安定した光合成微生物の培養を行なえる装置を提供するものである。
【0004】
〔問題を解決するための手段〕
すなわち、本発明は、
第1に、光合成微生物を液体培養するための装置であって、
該装置が、
(ア)光合成微生物懸濁液mの流入口aを備え、かつその内部上方に気体を収納するための気相部gを有する上部密閉容器b
(イ)上部密閉容器内bの上部隔壁の下方気相部g内であって、光合成微生物懸濁液mの流入口aより上方の位置に開口し、上部隔壁を貫通しほぼ鉛直上方に伸びる流出管d
(ウ)気相部g内に気体を圧入するための送気管f
よりなる光合成微生物懸濁液循環器p、
気相部g内に気体を圧入するための気体圧入機e
及び
光合成微生物懸濁液を満たし、光照射下光合成微生物を増殖せしめるための光合成微生物培養槽c、を備え、
流出管dを該光合成微生物培養槽cの上流部に、流入口aに接続した管を該光合成微生物培養槽cの下流部に、それぞれ開口させると共に、光合成微生物培養装置の流入口a又は流入口aに接続する管、流出管dの少なくとも1つに、下流部から上部密閉容器bを経て上流部にいたる流れのみを許す一方向弁vを、配備したことを特徴とする光合成微生物培養装置であり、
第2に、光合成微生物を液体培養するための装置であって、
該装置が、
(キ)光合成微生物懸濁液mの流入口aを備え、かつその内部上方に気体を収納するための気相部gを有する上部密閉容器b
(ク)上部密閉容器内bの上部隔壁の下方気相部g内であって、光合成微生物懸濁液mの流入口aより上方の位置に開口し、上部隔壁を貫通しほぼ鉛直上方に伸びる流出管d
(ケ)気相部g内に気体を圧入するための送気管f
よりなる光合成微生物懸濁液循環器p、
気相部g内に気体を圧入するための気体圧入機e
気相部g内の気体の排気機構y、及び
光合成微生物懸濁液を満たし、光照射下光合成微生物を増殖せしめるための浅い水路状に構成された光合成微生物培養槽c、を備え、
流出管dを光合成微生物培養槽cの上流部に、流入口aに接続した管を該光合成微生物培養槽cの下流部に、それぞれ開口させ、光合成微生物培養装置cの流入口a又は流入口aに接続する管、流出管dの少なくとも1つに、下流部から上部密閉容器bを経て上流部にいたる流れのみを許す一方向弁vを、配備すると共に、
上部密閉容器bが光合成微生物懸濁液のほぼ全量を収納できる容量を有することを特徴とする光合成微生物培養装置であり、
第3に、第2に示した光合成微生物培養装置の運転方法である。
【0005】
〔実施例と作用〕
次に、図面により本発明を詳しく説明する。図1乃至図3は、本発明の装置の一実施態様を示す図面であり、図1は平面図、図2はA−A縦断面図、図3はB−B縦断面図である。装置は、上流部1と下流部2が隣接する光合成微生物培養槽c、上部密閉容器b、流出管d、流入口aと流入管4、流入管4に設けられた逆止弁v、上部密閉容器b内の気相部gに空気を圧入するための送気管fにより光合成微生物懸濁液循環器pを構成してある。気体圧入機eは送気管fに接続されている。流出管dの上端は上流部1の底部に開口し、下端5は上部密閉容器b内に開口している。流入管4は下流部2底部に開口し、流入口aに連絡している。流入口aは、流出管dの下端5より下方の位置に設けられている。
次に、運転の状況を説明する。光合成微生物培養槽c内に光合成微生物懸濁液を注入し、空気圧入機eを作動させると、送気管fを介して、気相部gに空気が連続的に圧入される。水面sは、次第に下降していき、流出管d下端5の位置に達する。この後、液体の固体に対する付着力と表面張力の作用により、水面sは更に下降する。やがて、液体の固体に対する付着力と表面張力の作用が限界に達すると、気相部gの空気は、流出管d下端5周囲から一気に流出管d内に流入し、空気層を形成する。この空気層は、流出管d内空気層上方の光合成微生物懸濁液mの大部分を押し上げ、流出管d内空気層下方の光合成微生物懸濁液mを引き上げながら、流出管d内を上昇し、上流部1内及びその上方大気中に噴出する。同時に、水面sは上昇する。空気層下方の光合成微生物懸濁液mの一部も上流部1内に流出する。同時に、上流部1内に流出した光合成微生物懸濁液m及び空気に相当する光合成微生物懸濁液mが流入管4を介して流入口aより上部密閉容器b内に流入してくる。その後すぐに水面sは、再び下降を始める。この時、逆止弁vは閉じ、水面sの下降に相当する光合成微生物懸濁液mが流出管dを介して上流部1へ送られる。以後一定の周期で噴出が繰り返され、光合成微生物懸濁液mは、上流部1から下流部2へと流動する。光合成微生物は、光合成微生物懸濁液mが上流部1から下流部2へと流動する間に、光の照射を受け、増殖する。
光合成微生物懸濁液mの循環量は、流量調節弁tで調節する。
本発明の装置では、上部密閉容器b、流出管d及びもぐり水深(光合成微生物培養槽c液面から流出管d下端5までの距離)が決まれば、1回噴出あたりの光合成微生物懸濁液循環量は決まるので、単位時間あたりの噴出回数を数えることで簡単に循環量を計測できる。したがって、特に流量計等の計器が必要なく、通気量の調節より光合成微生物懸濁液mの循環量の制御を極めて容易に行なえる。特願平8−282146装置のように逆止弁vを設けない場合、噴出後、光合成微生物懸濁液mの一部が流出管d内及び流入管4を逆流する。このため循環量は減少する。
上述の逆止弁vを設けた場合と設けない場合をの循環量を比較すると、下記のようになる。
(1)逆止弁vを設けた場合
循環水量=(流出管d内上端から下端5までの液で、空気層により押し上げられた液量)+(ブロワーeの通気量にほぼ等しい液量)
(2)逆止弁vを設けない場合
循環水量=(流出管d内上端から下端5までの液で、空気層により押し上げられた液量)−(流出管d、流入管4を逆流する液量)
上記から明らかなように、逆止弁vを設けた場合のほうが逆止弁vを設けない場合よりも効率的である。
図4は本発明の装置のまた別の一実施態様を示す図面であり、図2に対応する縦断面図である。本実施例では、流出管dに逆止弁vを設けた点が図1乃至図3に示した装置と異なる。本実施例の場合、噴出直後の流出管d内の逆流はないが、液面s下降時の流入管4内の逆流はある。
図5は本発明の装置のまた別の一実施態様を示す図面であり、図2に対応する縦断面図である。本実施例では、流出管dに逆止弁v1を、流入管4に逆止弁v2を設けた点が図1乃至図3に示した装置と異なる。本実施例の場合、図1乃至図3に示した装置とほぼ同等の循環が得られる。本実施例の場合どちらかが故障しても機能に大きな支障が生じない利点がある。
本発明の装置においても、特願平8−282146装置におけると同様に、連続的に通気した空気を、液体の固体に対する付着力と表面張力の作用により、気相部gに溜め込み一気に放出することで、大きな上下方向の波動が得られる。上部密閉容器b内の気液接触面積の流出管dの断面積に対する比及びもぐり水深(光合成微生物培養槽c液面から流出管d下端5までの距離)が決まれば、1回の噴出により生じる波動は、通気量に関係なくほぼ一定となる。上部密閉容器b内の気液接触面積の流出管dの断面積に対する比及びもぐり水深が大きいほどが激しい噴出が得られる。上部密閉容器b内の気液接触面積及び流出管dの断面積を大きくすれば、大量の循環が行なえる。
このように、本発明の装置は、特願平8−282146装置と同等の波動形成能力を有すると共に、特願平8−282146装置を上回る循環能力を有するものである。
第6図は本発明の装置のまた別の一実施態様を示す図面であり、図2に対応する縦断面図である。本実施例では、上部密閉容器bが光合成微生物懸濁液mのほぼ全量を収納できる容量を有するものである点、及び気相部g内の気体の排気機構yとして排気管6、開閉弁7を備える点が図1乃至図3に示した装置と異なる。
昼間には、開閉弁7を閉じ気体圧入機eを作動させ、上部密閉容器b内に空気等気体を圧入し、光合成微生物懸濁液mを光合成微生物培養槽cに送り出す。その後、図1乃至図3に示した実施例と同様にして、噴出とそれに伴う波動・循環による撹拌が行なわれ、光合成微生物は、液中に浮遊しながら光照射を受け、増殖する。夜間には、気体圧入機eを停止し、開閉弁7を開け、光合成微生物懸濁液mを上部密閉容器b内に収納する。上部密閉容器b内の液は、呼吸作用により、次第に溶存酸素が消費され、嫌気状態となる。これによって、ワムシ等光合成微生物捕食微生物の発生が抑制される。また、光合成微生物懸濁液mは、外気と遮断され、保温される。特願平8−282146装置と同様の効果がある。
特願平8−282146装置においては、上部密閉容器b内に液を収納した時、流入管4の下流部2における開口部及び流出管dの上流部1における開口部での外気との接触があるので、これら近傍でのワムシ増殖は、抑えられない。自動運転あるいは手動運転にしろ、上記運転を毎日行なえぱ、光合成微生物全滅というワムシ等の被害は発生しない。しかし、手動運転の場合、上記運転を行なえない場合がある、例えば、外出で2日から1週間ほど光合成微生物懸濁液mを上部密閉容器b内に収納しないで運転すると、光合成微生物全滅というワムシ等の被害が発生する場合がある。本発明の装置においては、逆止弁vを設置してあるので、密閉度が高く、外気からの酸素の溶解および拡散が制限され、上述のワムシ等の被害の危険が低減化されるという利点もある。図5のように、流出管dにも設置すると良い。
このようにして、本発明の運転方法によれば、ワムシ等光合成微生物捕食微生物の発生が抑制され、光合成微生物が全滅することもなく、安定して連続培養できる。また、保温効果により、増殖速度も高まる。
図1乃至図3に示した装置においては、ワムシ等光合成微生物捕食微生物の発生を抑制することはできない。したがって、クロレラ等を連続培養するには、薬剤の投入、あるいは、無菌的な環境が必要とされる。また、回分培養による培養であれば、図1乃至図3に示した装置を利用できる。
【0006】
〔実施例〕
本発明の実施例を説明する。実験は、図1乃至図3に示した装置により行なった。上部密閉容器bは、200A塩ビパイプを長さ16cmに切断し、上下に3mm厚塩ビ板を溶接した。流入管1には,逆止弁vを装着した。上部密閉容器b上部隔壁2に20A塩ビ管ソケットを鉛直に挿入溶接し、これに20A塩ビ管を挿入し、流出管dとした。光合成微生物培養槽cは発泡スチロール製、幅35cm、長さ300cm、中央に仕切りを設置し、透明フィルムを接着し、防水処理した。光合成微生物培養槽cは底部が地上54cmとなるよう架台上に設置した。光合成微生物培養槽c内に清水とクロレラを主とする藻類液を投入し、液深およそ5cmとした。流出管dは、光合成微生物培養槽c上流部底面に開口させ、下端は上部密閉容器b内上部隔壁下方4cmの位置に開口させた。この装置で循環速度を測定し循環量を算定した。次に逆止弁を取り外し測定した。結果を表1に示した。
表1より、逆止弁vをつけた場合、光合成微生物懸濁液循環量は、通気量のおよそ1.9倍であった。逆止弁vをつけない場合、光合成微生物懸濁液循環量は、通気量のおよそ0.8倍であった。また、1回の噴出による、波動は、ほぼ同程度であった。

【0007】
〔発明の効果〕
以上のように、本発明の装置の光合成微生物懸濁液循環器は、液体の固体に対する付着力及び表面張力による作用と空気の浮揚力を利用したものである。このような光合成微生物懸濁液循環器を備えた本発明の光合成微生物培養装置の利点をまとめれば下記のとおりである。
第1に、請求項1に係る発明では、
特願平8−282146装置と同等の波動形成能力及び特願平8−282146装置を上回る循環能力を有するものである。これにより、動力費の節約ができる。
第2に、請求項1及び請求項2に係る発明では、
特願平8−282146装置と同等の波動形成能力及び特願平8−282146装置を上回る循環能力を有すると共に、特願平8−282146装置と同等以上のワムシ等光合成微生物捕食微生物発生抑制機能を有するものである。これにより、動力費の節約と、光合成微生物のより安定した連続培養が可能となる。
【0008】
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の装置の一実施態様を示す平面図である。
図2は図1におけるA−A縦断面図である。
図3は図1におけるB−B縦断面図である。
図4は本発明の装置の別の一実施態様を示す、図3に対応する縦断面図である。図5は本発明の装置のまた別の一実施態様を示す、図3に対応する縦断面図である。
図6は本発明の装置のまた別の一実施態様を示す、図3に対応する縦断面図である。
【符号の説明】
aは流入口,bは上部密閉容器,cは光合成微生物培養槽,dは流出管,eはブロワー,fは通気管、gは気相部、mは光合成微生物懸濁液,pは光合成微生物懸濁液循環器、sは液面,tは流量調節弁、vは逆止弁、v1は逆止弁,v2は逆止弁、1は上流部、2は下流部、3は仕切り、4は流入管、5は流出管下端、6は排気管、7は開閉弁である。
矢印は、光合成微生物懸濁液及び空気の流れ方向を示す。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光合成微生物を液体培養するための装置であって、
該装置が、
(ア)光合成微生物懸濁液mの流入口aを備え、かつその内部上方に気体を収納するための気相部gを有する上部密閉容器b
(イ)上部密閉容器内bの上部隔壁の下方気相部g内であって、光合成微生物懸濁液mの流入口aより上方の位置に開口し、上部隔壁を貫通しほぼ鉛直上方に伸びる流出管d
(ウ)気相部g内に気体を圧入するための送気管f
よりなる光合成微生物懸濁液循環器p、
気相部g内に気体を圧入するための気体圧入機e
及び
光合成微生物懸濁液を満たし、光照射下光合成微生物を増殖せしめるための浅い水路状に構成された光合成微生物培養槽c、を備え、
流出管dを光合成微生物培養槽cの上流部に、流入口aに接続した管を該光合成微生物培養槽cの下流部に、それぞれ開口させると共に、光合成微生物培養槽cの流入口a又は流入口aに接続する管、流出管dの少なくとも1つに、下流部から上部密閉容器bを経て上流部にいたる流れのみを許す一方向弁vを、配備したことを特徴とする光合成微生物培養装置。
【請求項2】
光合成微生物を液体培養するための装置であって、
該装置が、
(エ)光合成微生物懸濁液mの流入口aを備え、かつその内部上方に気体を収納するための気相部gを有する上部密閉容器b
(オ)上部密閉容器内bの上部隔壁の下方気相部g内であって、光合成微生物懸濁液mの流入口aより上方の位置に開口し、上部隔壁を貫通しほぼ鉛直上方に伸びる流出管d
(カ)気相部g内に気体を圧入するための送気管f
よりなる光合成微生物懸濁液循環器p、
気相部g内に気体を圧入するための気体圧入機e
気相部g内の気体の排気機構y
及び
光合成微生物懸濁液を満たし、光照射下光合成微生物を増殖せしめるための浅い水路状に構成された光合成微生物培養槽c、を備え、
流出管dを光合成微生物培養槽cの上流部に、流入口aに接続した管を該光合成微生物培養槽cの下流部に、それぞれ開口させ、光合成微生物培養槽cの流入口a又は流入口aに接続する管、流出管dの少なくとも1つに、下流部から上部密閉容器bを経て上流部にいたる流れのみを許す一方向弁vを、配備すると共に、上部密閉容器bが光合成微生物懸濁液のほぼ全量を収納できる容量を有することを特徴とする光合成微生物培養装置。
【請求項3】
流出管dの下端開口部がほぼ水平であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の光合成微生物培養装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載の光合成微生物培養装置を運転する方法において、昼間には、光合成微生物培養槽cにて、光照射条件下、光合成微生物を増殖せしめ、夜間には、光合成微生物懸濁液を上部密閉容器b内に収納することを特徴とする光合成微生物培養装置の運転方法。

【公開番号】特開2007−129901(P2007−129901A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−114000(P2002−114000)
【出願日】平成14年3月12日(2002.3.12)
【出願人】(591110849)
【Fターム(参考)】