説明

光合成生物を用いた有機製品の製造方法ならびにその製品および組成物

本発明は、組成物および光合成生物による製品の製造方法を提供する。該光合成生物は製品の生産、発現、またはその双方をもたらすように遺伝子的に修飾されてもよい。該方法および組成物は、特に石油化学産業において有用である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本出願は、米国仮出願第60/971,418号、第60/971,412号(いずれも2007年9月11日に出願された)、および第61/130,892号(2008年6月2日に出願された)の利益を請求するものであり、これらの出願は参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0002】
油、石油化学品および石油化学品の製造に有用な他の物質のような燃料製品に対する要求は高まりつつある。今日の燃料製品のほとんどは化石燃料から作られるが、この化石燃料は数百万年にわたって堆積物が幾重にも積層したことによるものであるため、再生可能なエネルギー源とは考えられていない。輸入される原油に対する依存を緩和することについての要求も高まりつつある。汚染や環境問題に関する公衆の意識も高まっている。その結果、燃料製品のほか、プラスチック、殺虫剤および芳香剤などの他の製品を製造するための代替的な手法に対する関心およびニーズも高まってきている。このように、再生可能で持続可能な、かつ、環境に対する害の少ない製品を開発する代替的な手法の差し迫った必要性がある。
【0003】
本明細書に記載されているすべての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願がそれぞれ具体的に参照により引用されるものとして指摘されているのと同じように、参照により本明細書に引用されるものとする。
【発明の概要】
【0004】
本明細書には水素原子および炭素原子から成る分子から成る組成物が開示され、この水素原子および炭素原子は組成物の重量の少なくとも80%であり、組成物のδ13C分布は−32‰未満である。ある事例では、組成物はさらにイソプレン単位からなる。本明細書に記載のある組成物では、水素原子および炭素原子が組成物の重量の少なくとも90%である。さらに他の組成物では、水素原子および炭素原子が組成物の重量の少なくもと95%または99%である。さらに他の組成物では、水素原子および炭素原子は組成物の重量の100%である。ある事例では、組成物は液体である。他の事例では、組成物は燃料添加物または燃料製品である。ある実施形態では、組成物はテルペンである。他の実施形態では、組成物は脂肪酸でも脂肪酸エステルでもない。ある実施形態では、組成物のδ13C分布は−35‰未満、または−40‰未満である。他の事例では、組成物は85〜120のオクタン価を有する。さらに他の事例では、組成物は90超のオクタン価を有する。
【0005】
本明細書にはまた、水素原子および炭素原子を含む分子から成る組成物と燃料成分から成る燃料製品が開示され、この際、水素原子および炭素原子は組成物の重量の少なくとも80%であり、組成物のδ13C分布は−32‰未満である。ある事例では、燃料成分は化石燃料、燃料混合用混合物、ガソリン、ディーゼル、エタノール、ジェット燃料、またはこれらの任意の組み合わせでもよい配合燃料である。さらに他の事例では、配合燃料は−32‰超のδ13C分布を有する。本明細書に記載のある燃料製品では、燃料成分はMTBE、酸化防止剤、帯電防止剤、腐食防止剤、およびこれらの任意の組み合わせでもよい燃料添加物である。ある事例では、組成物成分はさらにイソプレン単位から成る。他の事例では、水素原子および炭素原子は組成物成分の重量の少なくとも90%である。さらに他の事例では、水素原子および炭素原子は組成物成分の重量の少なくとも95%または99%である。さらに他の事例では、水素原子および炭素原子は組成物成分の重量の100%である。ある燃料製品では、組成物成分はテルペンである。ある事例では、組成物成分は液体である。他の事例では、組成物は脂肪酸でも脂肪酸エステルでもない。他の事例では、組成物はメタンではない。
【0006】
本願の開示はさらに、組成物を燃焼させてそれによって二酸化炭素を生成させることを含む二酸化炭素の生成方法であり、上記二酸化炭素は−32‰未満のδ13C分布を有する方法を提供する。ある事例では、上記二酸化炭素は−35‰未満のδ13C分布を有する。他の事例では、上記二酸化炭素は−40‰未満のδ13C分布を有する。燃焼工程は、ガソリンエンジン中、ディーゼルエンジン中、またはジェットエンジン中で行われてもよい。ある実施形態では、該方法はさらに上記組成物を無維管束光合成生物から抽出することを含む。開示されたこの方法は、上記生物において酵素を上方に調節する工程をさらに含んでもよく、この際、該酵素の産生物が上記組成物である。ある事例では、上記酵素は生物で天然に存在しないものである。
【0007】
本明細書により開示される他の方法は、組成物のδ13C分布の測定を得ること、および該測定を用いて該組成物を標識化することを含む、組成物を標識化する方法である。ある実施形態では、標識化は組成物のδ13C分布を示すことを含み、該組成物のδ13C分布の測定は−32‰未満である。ある事例では、該組成物は燃料成分から成っていてもよい燃料製品である。
【0008】
ある態様では、本明細書に記載の方法は組成物を追跡する工程をさらに含んでもよい。ある事例では、上記追跡は1)未知の組成物の炭素同位体分布を測定と比較すること、2)組成物の位置を同定すること、および/または3)組成物をコンピュータシステムを用いてモニターすることを含む。
【0009】
本願の開示によれば、無維管束光合成生物を成長させることを含む無維管束光合成生物からの燃料製品の生成方法であり、該生物は第一燃料製品を生成し、無機炭素源と接触させ、および該無機炭素源からの炭素を−32‰未満のδ13C分布を有する該第1の燃料製品中に導入する生成方法もまた提供される。ある事例では、無機炭素源は13Cを含む二酸化炭素および12Cを含む二酸化炭素から成る。ある事例では、生物を無機炭素源に接触させることは、生物を過剰な無機炭素源に接触させることを含む。ある実施形態では、生物は最終産物が上記第1の燃料製品である1または2以上の酵素を符号化する1または2以上の核酸を含む。他の実施形態では、上記核酸は異種(ヘテロ)である。第1の燃料製品は、生物によって天然に製造されるものでなくてもよい。ある事例では、第1の燃料製品は−32‰未満のδ13C分布を有する。他の事例では、第1の燃料製品はテルペンから成る。化石燃料の無機炭素は、−32‰超のδ13C分布を有してもよい。ある実施形態では、第1の燃料製品は上記生物から抽出される。第1の燃料製品は、クラッキングを受けてもよい。ある事例では、本明細書に記載の方法は、燃料成分を上記第1の燃料製品に添加することをさらに含む。ある事例では、これらの方法は第1の燃料製品を燃焼させること、およびδ13C強化無機炭素を製造することをさらに含む。ある事例では、δ13C強化無機炭素は−32‰未満のδ13C分布を有する。
【0010】
本明細書では、組成物についてのδ13C分布の測定を得て、該組成物の該δ13C分布を基準δ13C分布と比較し、組成物のδ13C分布が基準δ13C分布よりも小さい場合に、炭素クレジットを事業者に販売することを含む炭素クレジットを販売するビジネス方法であり、該事業者は、該組成物の所有者または使用者であることを特徴とする方法をも開示する。ある事例では、基準δ13C分布は約−32‰である。この方法は、上記測定を用いて組成物を標識化することをさらに含んでもよい。この方法は、組成物を追跡することをさらに含んでもよい。
【0011】
本明細書で開示される燃料製品の製造方法は、無維管束光合成生物を成長させ、該生物を煙道ガスと接触させ、該煙道ガス由来の炭素を燃料製品中に導入し、および、上記無維管束光合成生物から燃料製品を抽出することからなる。ある事例では、この方法は上記生物を遺伝的に修飾する工程をさらに含む。他の事例では、燃料製品は上記生物において天然に存在しない。燃料製品は、水素原子および炭素原子を含む分子から成っていてもよく、水素原子および炭素原子は製品の重量の少なくとも90%であり、組成物のδ13C分布は−32‰未満であることを特徴とする。ある事例では、製造方法は燃料製品を精製する工程を含んでいる。ある事例では、この精製は水素化分解、接触分解、水蒸気分解、クラッキング、分留、蒸留、水素処理およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのプロセスを含んでいる。
【0012】
本発明の多くの新規な特徴が、添付の特許請求の範囲に具体的に記載されている。本発明の代表的な特徴および利点をより良く理解するには、本発明の多くの原理が利用されている例示的な実施形態を記載する以下の詳細な説明、および図面を参照するとよい。図面は以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、核酸構築物をグラフで示したものである。
【図2】図2は、リモネンシンターゼで形質転換されたC.reinhardtiiのウエスタン分析を示す。
【図3】図3は、リモネンシンターゼで形質転換されたC.reinhardtiiのガスクロマトグラフィ−質量分析を示す。
【図4】図4は、FPPシンターゼおよびセスキテルペンシンターゼで形質転換されたC.reinhardtiiのウェスタン分析を示す。
【図5】図5は、作物、ガス試料、粗製石油、および藻試料などの種々の試料化合物のδ13C分布を測定した実験の結果をまとめたものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
I.製品
本明細書には、光合成生物を用いた製品の開発に係る組成物および方法が開示されている。製品の例はこれらに制限されないが、燃料製品、芳香製品、および殺虫剤製品を含んでいる。製品は、分子的貯蔵エネルギーを放出する物質でもよい。ある実施形態では、製品は有機分子である。他の実施形態では、製品は炭化水素である。ある事例では、製品は水素を含んでいない。ある形態では、製品は酸素を含んでいない。ある形態では、製品は抗体またはタンパク質を含んでいない。ある形態では、製品は脂肪酸を含んでいない。
【0015】
燃料製品の例は、石油化学品およびそれらの前駆体ならびに石油化学産業において有用でありうるその他のすべての物質を含んでいる。燃料製品は、例えば、石油製品、および石油の前駆体、ならびに石油化学品およびそれらの前駆体を含んでいる。該燃料製品は、石油化学産業に有用な、石油製品および石油化学品を含む物質、または材料の生産に使用されうる。該燃料または燃料製品は、ボイラー、釜、乾燥器、加熱炉などの燃焼器中で使用してもよい。燃焼器の他の例は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ジェットエンジンなどを含む自動車エンジンまたは発電機などの内燃機関である。燃料製品はプラスチック、樹脂、繊維、エラストマー、潤滑油、およびゲルの製造にも使用してもよい。
【0016】
本明細書で検討される製品の例は、炭化水素製品および炭化水素誘導体製品を含んでいる。炭化水素製品は、水素分子および炭素分子のみからなるものである。炭化水素誘導体製品は、1または2以上のヘテロ原子を有する炭化水素製品であって、該ヘテロ原子は水素または炭素ではないいずれかの原子である。ヘテロ原子の例は、これらに制限されないが、窒素、酸素、硫黄、およびリンを含んでいる。製品には炭化水素に富むものもあり、該製品の少なくとも50、60、70、80、90、95、99重量%が炭素及び水素で構成される。ある実施形態では、製品は100重量%の炭素および水素原子である。ある実施形態では、該製品はテルペンを含んでいる。他の実施形態では、該製品は脂肪酸または脂肪酸メチルエステルを含んでいる。
【0017】
炭化水素などの燃料製品はこれらに制限されないが、液化石油ガス、ナフサ(リグロイン)、ガソリン、灯油、ディーゼル、潤滑油、重質ガス、コークス、アスファルト、タールおよびワックスなどの、原油または石油から従来どおりに得られる前駆体または製品であってもよい。例えば、燃料製品は(調理などの)加熱またはプラスチックの製造に使用してもよいメタン、エタン、プロパンまたはブタンなどの低分子アルカン(例えば、炭素数1〜約4)を含んでいてもよい。燃料製品は、ナフサもしくはリグロイン、またはこれらの前駆体などの、約5〜約9個の炭素原子の炭素骨格を有する分子もまた含んでよい。他の燃料製品は、ガソリンまたはモーター燃料として使用される、約5〜約12個の炭素原子またはシクロアルカンでありうる。灯油またはそれらの前駆体などの、約10〜約18個の炭素分子および芳香族化合物もまた燃料製品であってもよい。燃料製品は、例えば潤滑油に使用される12以上の炭素を有する分子またはそれらの前駆体もまた含んでよい。他の石油製品は、通常約20〜約70個の炭素のアルカン、シクロアルカンおよび芳香族化合物を含む重質ガスもしくは燃料油、またはそれらの前駆体を含んでいる。燃料製品は、一般に約70以上の炭素を有する多重環を含む、コークス、アスファルト、タールなどの原油、およびワックスからの他の残渣ならびにそれらの前駆体なども含んでいる。
【0018】
上記の様々な燃料製品は、いくつかの工程でエンドユーザー向けの最終製品へとさらに精製してもよい。精製は分留によって起こしてもよい。例えば、様々な異なる鎖長を有する異なる炭化水素の混合物などの燃料製品の混合物は、分留によって様々な成分へと分離してもよい。
【0019】
精製にはクラッキング、一体化または燃料製品の変化のうちのいかなる1または2以上を含んでいてもよい。大きな炭化水素(例えば、≧C10)などの高分子燃料製品は、クラッキングによって小さいフラグメントへと分解してもよい。クラッキングは、蒸気、ビスブレーキング(visbreaking)またはコーキングなどによる熱または高圧により行ってもよい。燃料製品も、例えば重油の粘度を低減するビスブレーキングにより精製してもよい。精製も、重くほぼ純粋な炭素残渣を生成するコーキングを含んでもよい。クラッキングも、これらに制限されないが、ゼオライト、ヒドロケイ酸アルミニウム、ボーキサイト、またはシリカ−アルミナなどの触媒を用いることでクラッキング反応の速度を向上させる触媒手段により行われてもよい。触媒作用は、熱した、ゼオライトなどの触媒をクラッキング反応を触媒するために用いるところの、流動接触分解によるものであってもよい。触媒作用も、流動接触分解と比較してより低い温度が一般に用いられる、水素化分解によるものであってもよい。水素化分解は高められた水素ガスの分圧存在下で通常起こる。燃料製品は、ディーゼル、ガソリン、および/または灯油を生成する接触分解によって精製してよい。精製は、水素化処理を含んでもよい。
【0020】
該燃料製品は、例えば、白金または白金−レニウム融合体などの触媒を用いることによる単一化工程においてそれらを結合することにより精製されてもよい。該単一化工程は通常水素ガス、クラッキングに使用してもよい副生生物を生産する。
【0021】
燃料製品はまた、炭化水素を変換または再編成もしくは再構築することにより低分子へと精製されてもよい。当業者に知られている接触改質工程で起こる化学反応がいくつかある。一般に、接触改質は触媒および高い水素分圧の存在下で行われる。一般的な工程の1つはアルキル化である。例えば、プロピレンおよびブチレンをフッ化水素酸または硫酸などの触媒とともに混合する。
【0022】
該燃料製品は、最終製品を得るために、混合物へとブレンドまたは混合されてもよい。例えば、該燃料製品は様々なグレードのガソリン、添加物を含むまたは含まないガソリン、様々な重量およびグレードの潤滑油、様々なグレードの灯油、ジェット燃料、ディーゼル燃料、灯油、プラスチックまたは他のポリマーを製造するための化学品を形成するためにブレンドしてもよい。本明細書に記載する該燃料製品の組成物は、他の手法により製造される燃料製品とともに混合またはブレンドしてもよい。
【0023】
本明細書では、水素および炭素原子を含む分子からなる組成物であって、該水素および炭素原子は組成物の少なくとも80重量%であり、該組成物のδ13C分布は−32‰未満である組成物を開示する。ある事例では、該組成物はイソプレン単位をさらぬ含んでいる。
ある事例では、該組成物はテルペンを含んでいる。ある事例では、該組成物はトリグリセリドまたは脂肪酸をさらに含んでいる。本明細書に記載するある組成物は、水素および炭素原子が該組成物の少なくとも90重量%である。例えば、バイオディーゼルまたは脂肪酸メチルエステル(90重量%未満の水素および炭素原子を有する)は組成物の一部ではないかもしれない。また他の組成物では、水素および炭素原子は該組成物の少なくとも95または99重量%である。さらに他の組成物では、該水素および炭素原子は、該組成物の100重量%である。ある事例では、該組成物は液体である。他の事例では、該組成物は燃料添加物または燃料製品である。ある実施形態では、該組成物はテルペンである。他の実施形態では、該組成物は脂肪酸でも脂肪酸エステルでもない。他の実施形態では、該組成物はメタンではない。ある実施形態では、該組成物のδ13C分布は−35‰未満であり、または、−40、−45、−50、−55もしくは−60‰未満である。他の事例では、該組成物は、約85〜120のオクタン価を有する。また他の事例では、該組成部は90超のオクタン価を有する。
【0024】
炭素固定は、無機炭素が有機物質へと変換される、例えば光合成によって活動する生物である独立栄養生物の過程である。カルビン回路は、最も一般的な炭素固定の方法である。高等植物における炭素固定は光合成の間の何種類かの炭素固定を含んでいる。C3固定は無機炭素を有機物へと導入する初期段階用にカルビン回路を用いる植物の過程であり、最初の安定な中間体として3炭素化合物を形成する。広葉植物および温帯の植物のほとんどはC3である。C4固定は、無機炭素を4炭素化合物へと導入する反応を組み込んだカルビン回路を始める植物を含んでいる。C4植物は、特有の葉の構造を有しうる。C4経路は日光が強烈な高温地帯で見つけられる。サトウキビおよびトウモロコシなどの熱帯の草はC4植物であるが、C4である広葉植物も多くある。ある植物は、乾燥状態に適応するためにベンケイソウ型有機酸代謝(CAM)を用いる。夜間気孔に入る二酸化炭素は有機酸へと変換され、そしてそれは気孔が閉じている日中カルビン回路に二酸化炭素を放出する。クラッスラおよびいくつかのサボテン種はCAM植物の例である。
【0025】
カルビン回路に加えて、いくつかの他の代替経路が炭素を固定する独立栄養微生物によって利用されることがこれまでに知られている。逆クレブス回路は、クエン酸回路の逆回しとして記載でき、例えば、光合成独立栄養真正細菌および化学合成独立栄養硫酸塩還元細菌によって用いられる。還元的アセチルCoA経路は、メタン生成固細菌中もしくは酢酸生成および硫酸塩還元真正細菌中で、炭素固定手段として見つけられる。3−ヒドロキシプロピオン酸塩経路は、クロロフレクサス(Chloroflexus)属の光合成独立栄養的に成長した真正細菌中およびいくつかの化学合成独立栄養的に成長した変性型の古細菌中で、炭素固定手段として見つけられる。
【0026】
ある事例では、本明細書で検討する製品(燃料製品など)は、無機炭素源に由来する1または2以上の炭素を含んでいる。ある実施形態では、本明細書で記載する製品の炭素の少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、95または99%が無機炭素源に由来する。無機炭素源の例は以下に制限されないが、二酸化炭素、炭酸塩、重炭酸塩、および炭酸を含む。該製品は、光合成で固定された無機炭素源由来の炭素を有する有機分子でもよい。
【0027】
本明細書の製品は、その炭素同位体分布(CID)によって表すことができる。分子レベルでは、CIDは分子内の天然に存在する炭素同位体(例えば、12C、13Cまたは14C)のうちの1つとなる分子内の単一炭素原子の統計的な尤度を表す。製品のバルクレベルでは、CIDは少なくとも1つの炭素原子を含む化合物中で天然に存在する炭素同位体(例えば、12C、13Cまたは14C)の相対存在量でもよい。各化石燃料のCIDはその源に基づいて異なっていてもよいが、CID(fos)(例えば、石油、天然ガス、および石炭といった化石燃料中の炭素のCID)はCID(atm)(例えば、現在の大気中の二酸化炭素中の炭素のCID)と区別可能である。加えて、CID(photo−atm)は、無機炭素源が大気中の二酸化炭素であったという最近の光合成によって生成された炭素系化合物のCIDを表す。CID(photo−fos)は、実質的に全ての無機炭素源が化石燃料(例えば、石炭、天然ガスおよび/または石油)の燃焼により生じた二酸化炭素であったという最近の光合成により生成された炭素系化合物のCIDを表す。
【0028】
この正確な分布は、1)分子を生成する光合成生物のタイプ、および2)無機炭素源の特徴でもある。これらの同位体分布は光合成で生産された燃料製品の構成を決定するのに用いることができる。
【0029】
炭素同位体は、異なる化合物間または異なる化合物内において不規則に分布し、同位体分布は炭素変換に関与する物理的、化学的および代謝過程についての情報を明らかにできる。光合成生物細胞中の12Cに対する13Cの全体存在量は、大気中の二酸化炭素の炭素中のそれよりも一般的に少なく、これは二酸化炭素を光合成バイオマスへの組み込みで炭素同位体識別が起こっていることを示している。
【0030】
大気中の二酸化炭素は約1.1%の非放射性同位体13Cおよび98.9%の12Cを含んでいる。光合成の間、質量の違いにより与えられる化学的および物理的性質のわずかな違いによって、植物は13Cを識別する。ある場合では、この識別は、植物を様々な光合成のグループに割り当てるために用いることができる。以下の実施形態では、識別は光合成生物から抽出された炭化水素源を同定するのに用いられる。
【0031】
二酸化炭素の13C含有量は、以下のように定義される比率Rの高精度測定のために特別に設計された質量分析計を用いて決定できる。
【0032】
【数1】

【0033】
ある事例では、製品、光合成生物または他の物質は、分析に先立って、例えば燃焼によって二酸化炭素に変換することができる。他の例では、光合成生物から抽出された個々の化合物は、化学的または酵素的分解によって二酸化炭素に変換される。多くの天然物質(例えば、植物、動物および鉱物)において、Rは約0.0112で、小さな差異または偏差がある。
【0034】
以下のように、Rsample値は、δ13C値に変換できる。
【0035】
【数2】

【0036】
ここで、Rstandardは基準であり、これはR=0.01124であるサウスカロライナのピーディー形成から得られるPDBとして知られる石灰岩から得られる二酸化炭素である。本明細書で開示するように、δを表示される全ての組成物はPDBに対するものである。
【0037】
δ13Cの単位はパーミル(以下、‰とも称する)である。δ13Cがより負であるということは、より12Cを有する組成物(例えば、質量がより小さい)を示し、δ13Cがより正ということは、より13Cを有する組成物(例えば、質量がより大きい)を示している。最も自然な物質はPDB基準よりも少ない13Cを含むため、負のδ13C値を有する。
【0038】
水生光合成生物中で測定される炭素同位体の組み合わせは−11‰から−39‰の間に及ぶことができ、両C3およびC4光合成経路は水生植物中で存在するという誤った印象に潜在的に誘導する。水生光合成生物中の炭素固定の量を調査するためにモデルが開発された。一実施形態では、組成物は水生光合成生物から抽出および精製される。一実施形態では、組成物は水生光合成生物から生成され、該組成物は該生物から抽出されて精製され、該燃料製品は、−32‰未満のδ13Cを有する。
【0039】
二酸化炭素の取り込みに関わる物理的および化学的工程が13Cを識別するので、光合成生物は大気よりもより少ない13Cを含む。この識別は、13Cが12Cよりも重く13Cがわずかに強い化学結合を形成できることによって起こる。また、質量の違いにより、13CO2の拡散は12CO2のそれよりも遅くすることができる。
【0040】
水生光合成生物の光合成における拡散の重要性により、水生光合成生物のδ13C値は、陸生植物のそれよりもより理解が難しい。水中に溶解された無機炭素の拡散は、空気中の無機炭素の拡散よりも数桁遅い。例えば、水生光合成生物中の無機炭素の拡散は生物の同位体識別に制限することができる。空気中の二酸化炭素のδ13C値が比較的一定であっても、溶解された二酸化炭素のδ13C値は変化しやすく、そして、溶解された二酸化炭素は約9‰だけ溶解された重炭酸塩と異なる。混合を伴う流れの速い川および利用可能な混合も分散もない無機炭素源は水生光合成生物の同位体識別に制限されることが研究で示されている。しかしながら、流れが緩やかな水中では同位体識別は小さいと示されており、これは無機炭素の拡散が同位体識別を制限していることを示す。
【0041】
自由大気の同位体組成もまた変化し、ゆっくりと13Cが劣化する。段階的に減少する13Cは化石燃料の人為的燃焼に起因する。1956年から1982年までに大気中の二酸化炭素のδ13Cは−6.7‰(314ppm)から−7.9‰(342ppm)へと減少した。
【0042】
通常、地球上の光合成において、炭素固定により生成される炭素化合物は無機炭素源と比較して12Cに富んだCIDを有する。さらに、CID(photo−fos)はCID(photo−atm)よりも12Cの割合が高くなる。化石燃料源(古代の一連の光合成によって既に12Cが濃縮した)を用いる光合成から生成された化合物中の炭素は、追加の一連の光合成によって、さらに一層12Cが濃縮することになる。
【0043】
14Cは地球の大気中で生成される、炭素の放射性同位体である。14Cの半減期は約5730年である。化石燃料中の無機炭素は何百万年も埋没され、そして実質的に全ての14Cが崩壊したため、結果的にCID(atm)はCID(fos)よりも14Cの割合がかなり高くなる。同様に、無機炭素源中の14Cの違いを反映して、CID(photo−atm)はCID(photo−fos)よりも14Cの割合がかなり高くなる。よって、CID(atm)はCID(fos)よりも14Cの割合が高くなる。
【0044】
さらに、化石燃料中に天然に存在する炭化水素分子は、通常オレフィンではなく、炭化水素分子から派生する石油中の炭素の立体中心の分布はラセミ混合物に近い。
【0045】
このように、製品(例えば、燃料製品)は少なくとも2つの炭素原子、少なくとも1つの炭素−炭素結合を有する、実質的に純粋または純粋な物質でありえ、そして、光合成で作られた物質のCID特性は、無機炭素源が化石燃料であることである。ある事例では、該物質は、少なくとも1つの二重結合を有しうる、および/または特有の立体化学を有しうる、/ラセミ体ではない混合物でありうる。
【0046】
該製品は、無維管束生物、真核生物、光合成生物などの光合成生物によって天然に生成されないものでありうる。該製品は、組み換えの、無維管束生物、真核生物、光合成生物などの、組み換え生物によって生成されるものでもありうる。
【0047】
ある実例では、該製品は、水素原子および任意に1つ以上の酸素原子、窒素原子および/または硫黄原子などのヘテロ原子もまた含みうる。該物質中の炭素原子は、12Cが濃縮された同位体分布(例えば%の14C、%の13C、%の12C)、例えば、無機源(例えば、二酸化炭素、炭酸塩、または炭酸からの)からの炭素原子が光合成中(例えば、無維管束生物の)に固定されるときに起こる炭素の同位体識別と一致するレベル、を有しうる。
【0048】
このように、燃料製品などの製品は、無機炭素源(例えば、二酸化炭素、炭酸塩または炭酸から)、水および電磁波放射から直接合成されうる。該合成は、遺伝子的に修飾された無維管束光合成生物によって行われる。該修飾された生物は、該生物と異種の核酸を1または2以上含む。該異種の核酸は、最終産物が燃料製品などの製品である1または2以上の酵素を符号化する。該燃料製品は生物によって天然に生成されない。該最終産物中の炭素原子は少なくとも50、90、99%、またはもっぱら細胞に導入された無機炭素源(例えば、二酸化炭素、炭酸塩、または炭酸)に由来する。該燃料製品の合成は、光合成(例えば、光駆動炭素固定)によって達成される。
【0049】
光合成の間、無機源からの炭素原子は有機炭素分子へと固定される。この固定を行う化学的な工程は、カルビン−ベンソン回路中のRuBisCO酵素の作用などにより、特定の同位体の組み込みを優先する。例えば、12Cは13Cを上回って優先的に固定される。よって、光合成を経て生成される有機炭素分子は12Cに富む。この識別過程に起因する同位体の分布は、光合成で生成された分子に特有である。
【0050】
RuBisCO(リブロース−1,5−二リン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ)は炭素固定を触媒するカルビン回路中の酵素である。炭素固定は、大気中の二酸化炭素の原子がショ糖のようなエネルギー豊富な分子の形態で生物に利用可能にする過程である。RuBisCOは、リブロース−1,5−二リン酸(RuBP)を二酸化炭素または酸素を用いてカルボキシル化または酸化のいずれかを触媒する。
【0051】
RuBisCOは世界中で最も豊富なタンパク質かもしれない。RuBisCOは無機炭素が生物圏に入る化学反応を触媒する。RuBisCOは高等植物の葉中でも最も豊富なタンパク質である。一実施形態において、本明細書に記載されるように、生物は生物中のRuBisCOの生成を調整するために遺伝子的に修飾されうる。
【0052】
植物、藻、シアノバクテリア、ならびに屈光性および化学合成独立栄養のプロテオバクテリアにおいて、RuBisCOは通常、長鎖(約55kDaの大きさ)および短鎖(約13kDaの大きさ)と呼ばれる、2種類のタンパク質サブユニットからなる。この酵素的に活性な基質RuBP結合部位は、各長鎖からのアミノ酸が結合部位に寄与する、二量体を形成する長鎖中に位置する。合計で8つの長鎖二量体および8つの短鎖は約540kDaの大きな複合体に組み立てられる。あるプロテオバクテリアおよび渦鞭毛藻では、大サブユニットのみからなる酵素が存在しうる。マグネシウムイオンが酵素活性に必要である。酵素の活性部位中のマグネシウムイオンの正しい位置決めは、活性部位中のリシンへの二酸化炭素分子の付加を含み、これによりカルバミン酸塩を形成する。カルバミン酸塩の形成にはアルカリpHが有利である。該pHおよび体液中(例えば、葉緑体のストロマ)のマグネシウムイオンの濃度は光中で増加する。一実施形態において、マグネシウムイオンは光合成生物の生育中に添加することができる。
【0053】
炭素固定の間、RuBisCOのための基質分子はRuBP、基質二酸化炭素(例えば、二酸化炭素を活性化することとは異なる)および水である。RuBisCOは基質二酸化炭素の代わりに分子状酸素を用いて反応を行うこともできる。場合によっては、基質二酸化炭素は煙道ガスからの二酸化炭素である。
【0054】
二酸化炭素が基質であるとき、カルボキシラーゼ反応の生成物は3−ケト−2−カルボキシアラビニトール1,5−ビスホスフェートとして知られる非常に不安定な6炭素のリン酸化された中間体であり、これは2分子のグリセリン酸 3−リン酸塩へとほとんどすぐに分解する。3−ホスホグリセリン酸はグルコースなどのより大きな分子を生成するのに用いることができる。分子状酸素が基質であるとき、オキシゲナーゼ反応の生成物はホスホグリコレートおよび3−ホスホグリセリン酸塩である。ホスホグリコレートは、酵素ならびにミトコンドリアおよびペルオキシソーム中に位置するシトクロムを含む、光呼吸と呼ばれる一連の反応を開始する。この過程では、2分子のホスホグリコレートが1分子の二酸化炭素および1分子の3−ホスホグリセレートへと変換され、この3−ホスホグリセレートは再びカルビン回路に入ることができる。この経路に入るいくつかのホスホグリコレートは、グリシンなどの他の分子を生産するために植物に貯蔵することができる。大気レベルの二酸化炭素および酸素では、この反応の割合は約4対1であり、正味の二酸化炭素固定はたったの3.5という結果に終わる。このように、酸素との反応を妨げる酵素の阻害は、多くの植物の光合成潜在能力を大きく低減させる。いくつかの植物、多くの藻および光合成細菌は、酵素の周囲の二酸化炭素の濃度を増加させる工夫をすること、C4炭素固定、ベンケイソウ型有機酸代謝を含み、ピレノイドを用いることによりこの制限を克服している。
【0055】
一実施形態において、光合成生物はRuBisCO経路中の酵素またはRuBisCOそのものを生産するまたは生産を上方制御する遺伝子的に修飾される。例えば、該生物は本明細書に記載したような低いδ13C分布を有する燃料製品などの有機製品を生産することができる。
【0056】
ある酵素は、毎秒数千もの化学反応を行うことができる。しかしながら、RuBisCOは遅く、毎秒約3つの無機炭素分子しか固定することができない。それでも、光合成生物中の高濃度のRuBisCOによってほとんどの条件下で、そして光がその他の点で光合成の制限となっていないときは、RuBisCOの反応は二酸化炭素濃度の増加に積極的に反応するので、無機二酸化炭素濃度が制限されている。このカルビン回路の最終的な律速要因は他のいかなる要因によっても短時間に改善されないRuBisCOである。一実施形態において、濃度が制限でなくRuBisCOによる炭素固定が進行するのに十分な高濃度で、無機炭素は光合成生物に供給される。
【0057】
ある事例では、カルビン回路中のいくつかの他の酵素の調整のため、RuBPは暗闇中では生成されないので、通常RuBisCOは日中活発である。そのうえ、RuBisCOの活動はいくつかの点でカルビン回路の他の酵素と協調している。葉緑体が照明に接触すると、チラコイド膜を横切って形成されるプロトン勾配によって、ストロマのpHは7.0から8.0まで上昇する。同時に、マグネシウムイオンはチラコイドから出て行き、葉緑体のストロマ中のマグネシウム濃度が上昇する。RuBisCOは高い最適pH(>9.0でありうる、マグネシウムイオン濃度に依存する)を有し、それゆえ本明細書で言及するように二酸化炭素およびマグネシウムの付加によって活性化される。一実施形態においては、光条件下のみでの生物の成長により、燃料製品を生成することができる。本明細書の方法の他の実施形態では、生物の成長培地のpHを調整することができる。
【0058】
ある事例では、他の酵素であるRuBisCOアクチバーゼ(活性化酵素)はRuBisCOの活性部位中のカルバミン酸塩の迅速な形成させることを必要とする。RuBP基質がカルバミン酸が欠乏している活性部位により強く結合でき、活性化過程を遅くすることができるので、アクチバーゼが必要となる。光の中では、RuBisCOアクチバーゼは阻害因子の放出もしくはある見解では触媒部位からのRuBPの放出を促す。暗闇中でこれらの植物によって合成される拮抗阻害剤、基質類似体である2−カルボキシ−D−アラビチノール 1−ホスフェート(CA1P)によってRuBisCOが阻害されるため、いくつかの植物(例えば、タバコおよび多くの豆類)中でもアクチバーゼは必要とされる。CA1Pはカルバミル化されたRuBisCOの活性部位に強固に結合し、触媒活性を阻害する。光の中では、RuBisCOアクチバーゼも触媒部位からCA1Pの放出を促す。RuBisCOからCA1Pが放出された後、光によって活性化されるCA1Pホスファターゼによって非阻害因子へとすばやく変換される。最後に、数百反応のうち1回、二酸化炭素または酸素を伴う通常の反応が完了せず、他の阻害基質類似体が活性部位で形成される。再度、RuBisCOアクチバーゼは活性部位からのこれらの類似体の放出を促進することができ、触媒的に活性型の酵素を維持することができる。アクチバーゼの特性は、高温で植物の光合成の潜在能力を制限することができることである。CA1PがRuBisCOをタンパク質分解から保護される形態に保つことも示されている。ある実施形態では、RuBisCOアクチバーゼは光合成生物によって上方制御できる。例えば、生物をより多くのRuBisアクチバーゼを精製するために遺伝的に修飾することができる。
【0059】
二酸化炭素および酸素がRuBisCOの活性部位で競合するので、RuBisCOによる炭素固定はRuBisCOを含む区画(例えば、葉緑体ストロマ)中の二酸化炭素レベルを上昇させることによって高めることができる。一実施形態において、燃料製品の生産のための光合成生物の修飾は、ストロマ中の二酸化炭素レベルを上昇させることができる。RuBisCOが基質として酸を用いるとき、この過程は強い光束の期間中の過負荷を防ぐための機構となってもよい。例えば、明るい光中の光合成生物は、二酸化炭素に対する酸素の割合が炭素ではなく酸素が固定される閾値に達するとき、正味ゼロの炭素固定してもよい。一実施形態において、過剰の無機炭素は、光および温度が生物内の炭素固定を制限しないように、光合成生物に供給することができる。
【0060】
RuBisCOがしばしば植物の光合成にとって律速となるので、本明細書の例において、その触媒活性を増強、および/または酸化活性速度を低減させる光合成生物中のRuBisCO遺伝子を修飾することによって、光合成効率を向上させることができる。一実施形態において、RuBisCOを符号化するある生物からの異種の核酸は他の光合成生物へと転換される。例えば、−32‰未満のδ13Cを有する燃料製品を生成させるための生物の修飾は、RuBisCOサブユニットの発現レベルを増強させることを含むことができる。他の実施形態では、RuBisCO短鎖は葉緑体DNAから発現させることができる。他の実施形態では、RuBisCOを符号化する核酸は例えば、二酸化炭素の特異性を増大する、あるいは、炭素固定の速度を増大させるために、修飾または改変してもよい。
【0061】
一実施形態において、例えば、紅藻ガルディエリア パルティタ(Galdieria partita)に制限されない、天然に高い特異値を有するRuBisCO変異は特定量の炭素固定を伴う燃料製品の生成のための光合成生物を変換しうる。例えば、生物中のRuBisCOまたは炭素固定の特性を改善することにより、光合成効率または光合成生物の成長を改善することが可能となりうる。
【0062】
一実施形態において、水生光合成生物は無機化合物源に接し、該生物は燃料製品を生産する。無機炭素源は化石燃料からのものでもよい。例えば、化石燃料の燃焼は水生光合成生物に供給することのできる無機炭素を生成できる。化石燃料の燃焼は煙道ガスを生産できる。煙道ガスは、例えば、暖炉、オーブン、かまど、ボイラーまたは蒸気発生器から排気ガスを運ぶためのパイプまたは管などの煙道から大気へと出て行くガスのことである。一実施形態において、煙道ガスは発電所で生成される燃焼煙道ガスをいう。煙道ガスの組成は何が燃焼されているかによるが、ほとんどは燃焼空気に由来する窒素(典型的には3分の2以上)、二酸化炭素および水蒸気、ならびに過剰な酸素(これも燃焼空気に由来する)から構成されうる。例えば、1トンの油また石炭燃料を発電所で燃焼させる毎に、煙道ガスは3から3.5トンの二酸化炭素を含む。煙道ガスは空気汚染になりうる。
【0063】
一実施形態において、煙道ガスは大気中の二酸化炭素のδ13Cよりも大きなδ13Cを有する二酸化炭素から成る。水生光合成生物が煙道ガスと接触すると(例えば、生物反応器または池の中に煙道ガスを泡立てることによって)、水生光合成生物によって生成された有機炭素は煙道ガスの二酸化炭素のδ13Cに近いものを有すことができる。しかしながら、本明細書で説明するように、無機炭素源から有機分子への生物による炭素固定は、無機炭素源の生物への拡散によって制限することができる。生物中の炭素固定の拡散制限は水生種において言明できる。例えば、もしも無機源のみが制限されるまたは十分に速い速度で生物へと拡散できないと、生物は炭素固定中に十分に13Cよりも12Cを優先しえない。RuBisCOによって二酸化炭素を導入する藻は、環境中の二酸化炭素濃度に伴って変化する(例えば、Kerby and Raven 1985 Adv. Bot. Res. 11:71−123)同位体識別を示す。実験室の実験では、二酸化炭素が制限されているときはΔ(しばしば0‰に近づく)としても知られる小さな同位体識別が観察され、二酸化炭素濃度が高いときは20‰またはそれ以上の識別が観察される。いくつかの研究では、同位体識別はこの範囲全体を超えて変化し、この多様性は、おそらく二酸化炭素の利用可能性における多様性によるものである。
【0064】
一事例において、藻は大気中の無機炭素源との接触で成長し、約−13‰のδ13Cを有する燃料製品を生産する。他の事例では、藻は煙道ガス二酸化炭素源との接触で成長し、約−22‰のδ13Cを有する燃料製品を生産する。また他の事例では、藻は二酸化炭素の炭素固定を制限しない拡散であるような、過剰な煙道ガス無機炭素源との接触で成長し、該藻は約−52‰のδ13Cを有する燃料製品を生産する。一実施形態において、過剰な化石燃料無機炭素源との接触で成長したいずれの藻は約−32‰未満のδ13Cを有する燃料製品を生産する。ある実施形態では、過剰な無機炭素源は光合成生物内の炭素固定の拡散制限ではない源である。
【0065】
本明細書では水素および炭素原子からなる分子をから成る組成物から成る燃料製品が記載され、該水素および炭素原子は該組成物の少なくとも80%の重量であり、該組成物のδ13C分布は−32‰未満で、燃料成分である。実施形態において、該組成物のδ13C分布は−35、−40、−45、−50、−55もしくは−60‰未満である。事例において、該燃料成分は、化石燃料、ガソリン、ディーゼル、エタノール、ジェット燃料、またはそれらのいずれかの組み合わせでもよい配合燃料である。また他の事例において、配合燃料は−32‰よりも大きなδ13分布を有する。本明細書に記載された燃料製品において、該燃料成分はMTBE、酸化防止剤、燃料添加物、帯電防止剤、腐食防止剤、およびそれらの混合物のいずれかでもよい燃料添加物である。他の事例において、該組成物成分はイソプレン単位から成る。別の事例において、該組成物はテルペンから成る。ある事例において、該組成物はトリグリセリドまたは脂肪酸から成る。他の事例において、水素および炭素原子は該組成物成分の重量の少なくとも90%である。例えば、脂肪酸メチルエステル燃料またはバイオディーゼルは典型的に約89.5重量%未満の水素および炭素含有量を有する。ある事例において、該組成物は脂肪酸でも脂肪酸エステルでもメタンでもない。また他の事例において、水素および炭素原子は該組成物成分の重量の少なくとも95または99%である。さらに他の事例において、水素および炭素原子は該組成物成分の質量の100%である。ある燃料製品において、該組成物成分はテルペンである。ある事例において、該組成物成分は液体である。
【0066】
本明細書に記載された燃料製品は組成物および燃料成分を混合することによって生成された製品であってもよい。ある事例において、該燃料製品は−32‰超のδ13C分布を有する。他の事例において、該燃料製品は−32‰未満のδ13C分布を有する。例えば、生物から抽出した組成物は本明細書に記載された燃料製品を生成するために、精製(たとえば、クラッキング)の前に燃料成分と混合することができる。該組成物は、本明細書に記載された組成物でもよい。該組成物は、生物から抽出された油組成物でもよく、これは、水素および炭素原子が該組成物の重量の少なくとも80%であり、該組成物のδ13C分布が−32‰未満の組成物から成る。燃料成分は上記したように化石燃料または燃料製品を生成するための混合配合でもよい。例えば、燃料配合のための混合物は燃料製品を生成するための別の炭化水素混合物とともに配合するのに適した炭化水素混合物でもよい。例えば、低級アルカンの混合物は燃料の種類に適する特定のオクタン価を有しないかもしれないが、これは燃料製品を生成するために高級オクタン混合物と配合することができる。
【0067】
一事例において、−32‰未満のδ13C分布を有する組成物は、燃料製品を作る燃料配合のための炭化水素混合物と混合される。ある事例において、該組成物または燃料成分だけでは燃料製品として適していないが、組み合わされるとその組み合わせは燃料製品を構成する。他の事例では、該組成物もしくは燃料成分もしくはこれらの双方のいずれかは燃料製品として適する。また他の事例では、該燃料成分はガソリンまたはジェット燃料などの現存する石油製品である。また他の事例では、該燃料成分は、バイオエタノール、バイオディーゼル、バイオガソリンなどといった再生可能資源に由来する。
【0068】
本開示はさらに、組成物を燃焼させることを含み、それによって二酸化炭素を生成する二酸化炭素生成の方法であり、該二酸化炭素は−32‰未満のδ13C分布を有する方法を提供する。ある事例において、該二酸化炭素は−35、−40、−45、−50、−55または−60‰未満のδ13C分布を有している。該燃焼工程はガソリンエンジン中、ディーゼルエンジン中もしくはジェットエンジン中で行われてもよい。ある実施形態において、該方法はさらに無維管束光合成生物から組成物を抽出する工程を含む。無維管束光合成生物の例はこれらに制限されないが、藻、シアノバクテリアおよび苔植物類を含む。一実施形態では、組成物の抽出は水生光合成生物から組成物を抽出することからなる。本開示方法は生物中の酵素をアップレギュレートする工程をさらに含んでもよく、この際、酵素産物が該組成物である。ある事例では、該酵素は生物中には天然に存在しない。代表的な酵素が本明細書でさらに説明されている。他の実施形態において、代表的な核酸配列がさらに本明細書で説明される。
【0069】
燃料製品の精製方法は、無維管束光合成生物を生育し、該生物を煙道ガスと接触させ、該煙道ガスから13Cを燃料製品へと導入し、該無維管束光合成生物から燃料製品を抽出する工程からなるように開示されている。例えば、該無維管束光合成生物はバイオリアクター中で成長できる。この典型的な実施形態では、バイオリアクターに煙道ガスを吹き込むこと(例えば無維管束光合成生物を生育するための液体から成るバイオリアクターへと煙道ガスを泡立てること)によって生物は煙道ガスと接触することができる。ある事例では、該無維管束光合成生物は藻である。他の事例では、バイオリアクターは開放された池(open pond)である。他の事例では、バイオリアクターは閉じた光バイオリアクターである。ある事例では、該方法は生物を遺伝子的に修飾する工程をさらに含む。生物を遺伝子的に修飾する典型的な方法が本明細書に記載される。ある事例では、生物の遺伝子的な修飾により生物内で燃料製品を生成する遺伝子を上方制御または生産できる。他の事例では、生物の遺伝子的な修飾は生物の生育を改善できる。また別の事例では、生物の遺伝子的な修飾は生物内での炭素固定に影響を及ぼし、例えば炭素固定の速度または量を変える。ある事例では、燃料製品は生物内に天然に存在しない。燃料製品は水素および炭素原子から成る分子から成っていてもよく、水素および炭素原子は該組成物重量の少なくとも90%であり、該組成物のδ13C分布は−32‰未満である。ある事例では、方法は燃料製品の精製工程を含む。典型的な精製方法が本明細書に記載される。
【0070】
本開示は、第1の燃料製品を生成する生物である、無維管束光合成生物を生育し、該生物を無機炭素源と接触し、無機炭素源から第1の燃料製品へ炭素を導入、ここで第1の燃料製品は、−32‰未満のδ13C分布を有する工程を含む、無維管束光合成からの生物燃料製品生成の方法も提供する。ある事例では、無機炭素源は13Cを含む二酸化炭素および12Cを含む二酸化炭素を含む。ある事例では、無機炭素源は化石燃料無機炭素である。他の事例では、無機炭素は−32‰超のδ13C分布を有する。ある事例では、生物を無機炭素源と接触させることは、生物を過剰な無機炭素源と接触させることを含む。例えば、過剰の無機炭素は、生物内の炭素固定が無機炭素源によって制限されないような無機炭素の量を表すことができる。別の例では、過剰な無機炭素は過剰の無機炭素と接触する生物によって生成された燃料製品のδ13C分布が化石燃料のδ13C分布未満のような無機炭素の量を表すことができる。例えば、過剰な無機炭素源から導入された無機炭素を有する燃料製品のδ13C分布は−32、−35、−40、−45、−50、−55または−60‰未満でもよい。
【0071】
ある実施形態では、生物は1または2以上の最終産物が第1の燃料製品である1または2以上の酵素を符号化する1または2以上の核酸から成る。他の実施形態では、核酸は異種である。第1の燃料製品は、生物によって天然に生産されないものでもよい。ある事例では、第1の燃料製品は−32‰未満のδ13C分布を有する。他の事例では、第1の燃料製品はテルペンから成る。化石燃料の無機炭素は−32‰超のδ13C分布を有してもよい。ある実施形態では、第1の燃料製品は生物から抽出される。第1の燃料製品はクラッキングの対象でもよい。ある事例では、本明細書の方法は第1の燃料製品に燃料成分を添加することをさらに含む。ある事例では、これらの方法は第1の燃料製品を燃焼することおよびδ13C強化無機炭素を生成することをさらに含む。ある事例では、δ13C強化無機炭素は−32‰未満のδ13C分布を有する。本明細書で開示された方法は、第2の燃料製品を生成する生物である第2の無維管束光合成生物を培養し、該生物を無機炭素源と接触し、第2の燃料製品中の炭素はその源から由来し、該無機炭素はδ13Cが豊富な無機炭素である工程をさらに含んでもよい。例えば、第2の燃料製品中の炭素は無機炭素源から導入された炭素である。方法は無機炭素源から第2の燃料製品へ炭素を導入することを含むことができる。ある事例では、第1の燃料製品および第2の燃料製品は、第1および第2の燃料製品の炭素同位体分布を除いては実質的に同じである。第2の燃料製品は−35、−40、−45、−50、−55または−60‰未満のδ13C分布を有していてもよい。
【0072】
本明細書の組成物および方法を用いて生産されうる炭化水素および炭化水素誘導体製品の例は、テルペン類、およびそれらの誘導体、テルペノイド類を含む。本明細書で用いるテルペンはイソプレノイドまたはテルペノイドとほとんど同じ意味で用いられうる。テルペンはイソプレン(C5)単位からなる分子である。テルペンは必ずしも純粋な炭化水素ではない。テルペノイド類(イソプレノイド類としても知られる)はテルペンから誘導されるが、酸素のようなヘテロ原子の付加、炭素骨格の転位、およびアルキル化などによって修飾される。上記したように、テルペノイド類はここで使用されるテルペンとの用語に包含することができる。カロテン類およびキサントフィル類などのカロテノイド類はテルペノイドの有用な製品の例である。ステロイドはテルペノイドの他の例である。
【0073】
テルペン類の例はヘミテルペン類、モノテルペン類、セスキテルペン類、ジテルペン類、トリテルペン類、およびテトラテルペン類を含むがこれらに制限されない。ここで用いられるヘミテルペン類、モノテルペン類、セスキテルペン類、ジテルペン類、トリテルペン類、およびテトラテルペン類という用語は、類似構造のイソプレノイド類(例えば、セスキテルペノイド類)とも呼ばれる。テルペノイド類の他の例は、リモネン、1,8−シネオール、α−ピネン、カンフェン、(+)−サビネン、ミルセン、スクワレン、クパレン、フィトール、ファルネセン、アビエタジエン、タキサジエン、ファルネシル フィロフォスフェート、アモルファヂエン、(E)−α−ビサボレン、またはジアポフィトエン、およびそれらの誘導体を含むがこれらに制限されない。
【0074】
生産された製品は、形質転換された宿主細胞や生物によって、天然に、または(形質転換の結果として)非天然に生産されてもよい。製品は天然に存在しない新規の分子かもしれない。例えば、藻で天然に生産される製品はカロテノイド類(たとえばβ−カロテン)などのテルペノイド類かもしれない。例えば、藻によって非天然に生産される製品はリモネンなどの変性テルペンなどを含んでもよい。
【0075】
宿主生物から生産された燃料製品は、時々精製後に、例えば同じ構造が、現存の石油化学品同一になる。石油製品には現存する石油化学品と同じではないものもあってよい。一実施形態において、燃料製品または組成物は、炭素同位体分布を除いては現存する石油化学品と同一である。例えば、−32‰未満のδ13C分布を有する化石燃料の石油化学品はないと考えられているのに対して、ここで説明する燃料製品は−32、−35、−40、−45、−50、−55または−60‰未満のδ13C分布を有していてもよい。別の実施形態では、燃料製品または組成物は、現存する化石燃料の化学製品と類似するが同じはなく、−35、−40、−45、−50、−55または−60‰未満のδ13C分布を有している。しかしながら、分子は従来の石油化学品または精製において存在しないかもしれないが、それらの産業においてはいまだ有用であるのかもしれない。例えば、炭化水素はガソリンの沸点範囲において生産することができ、該炭化水素はガソリン中に通常存在しないとしても、ガソリンまたは添加物として使用できる。
【0076】
II.生産
本明細書に記載された製品はいずれも、そのような生物による製品の生産を引き起こすために生物を形質転換することによって調合できる。生物は、形質転換の前または後で光合成することができる。
【0077】
生物
組成物および方法を使用して形質転換できる生物のここでの例は、維管束および無維管束生物を含む。該生物は原核生物または真核生物でもよい。外生物は単細胞または多細胞でもよい。
【0078】
無維管束光合成生物の例は、ゼニゴケ類またはツノゴケ類などのコケ植物類を含む。ある事例では、該生物はシアノバクテリアである。ある事例では、該生物は藻(たとえば、大型藻または小型藻)である。該藻は単細胞または多細胞藻でもよい。ある事例では、該生物は紅藻、緑藻、不等毛藻、黄緑藻、灰色藻、クロララクニオン藻、ミドリムシ、ハプト藻、クリプト藻、渦鞭毛藻、または植物プランクトンである。
【0079】
例えば、小型藻である緑藻クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)はリモネンを生産するリモネンシンターゼを符号化するベクターを用いて形質転換してもよい。他の実施形態では、小型藻はリモネンシンターゼおよびリモネン生産を向上するタンパク質を符号化する1または2以上のベクターを用いて形質転換してもよい。
【0080】
ある事例では、該方法は小型藻の緑藻クラミドモナス(C.reinhardtii)を用いることが挙げられている。ポリペプチドまたはタンパク質複合体を発現するための小型藻の使用は、商業的使用(シアノテック社、ハワイ州カイルア−コナ)を含んだ、多数の小型藻を飼育することが可能であり、よって、製造および必要なら所望の製品の大量の分離を考慮することができる。しかしながら、例えば、任意の植物の葉緑体中でタンパク質複合体を含んだ機能的な哺乳類のポリペプチドを発現する能力には、そのような植物の収穫の生産および、それにより、多量のポリペプチドを都合よく生産する能力を考慮に入れる。したがって、本明細書で記載された方法は、葉緑体を有するいかなる植物を用いても行うことができ、例えば、小型藻(たとえば、海草および海草)ならびに土壌で生育する植物が含まれている。
【0081】
“植物”という用語は、ここでは色素体、特に葉緑体を含む真核生物を言及するように広義に用いられ、発生の任意の段階の植物、または、植物を切り取った部分、植物細胞、植物細胞培養物、植物器官、植物の種、および小植物を含んだ植物の一部を含む。植物細胞は植物の構造的および生理学的単位であり、原形質体および細胞壁を含む。植物細胞は独立したひとつの細胞または培養細胞の形でよく、または高度に組織化された部分、例えば、植物組織、植物器官、または植物でよい。このように、植物細胞は原形質体、配偶子生成細胞、または細胞もしくは、全部の植物に再生することが可能な細胞の集まりである。そのように、複数の植物細胞を含み、植物全体に再生することが可能であるところの種は本開示の目的のための植物細胞と見なされる。植物組織または植物器官は種、原形質体、カルスまたはそれは構造的なまたは機能的な単位へと組織化されている植物細胞の他のいかなるグループでもありうる。特に有用な植物の部分は、収穫可能な部分および子孫植物の繁殖に有用な部分を含む。植物な収穫可能な部分は、植物の有用な部分。例えば、花、花粉、苗、塊茎、葉、茎、果実、種、根などのいずれでもありうる。植物の繁殖に有用な部分は、例えば、種、果実、挿し木、苗、塊茎、根茎などを含む。
【0082】
本明細書で提供される方法は、安定して融合されたポリヌクレオチド(Hager and Bock, Appl. Microbiol. Biotechnol. 54:302−310, 2000)を含むために遺伝的に修飾された葉緑体を含む植物を生成できる。したがって、ここで説明するように、方法はさらに1または2以上の異種ポリペプチドを符号化するポリヌクレオチドを含む1または2以上の葉緑体を含んだ遺伝子組み換え(形質転換)植物(例えば、緑藻クラミドモナス(C.reinhardtii))を提供でき、該葉緑体は特に機能的なタンパク質複合体を形成するために結合できるポリペプチドを含んでいる。光合成生物は、製品を生成するために修飾された少なくとの1つの宿主細胞を含んでいてもよい。
【0083】
発現ベクターおよび宿主細胞形質転換
本明細書の生物/宿主細胞は、発現ベクターを用いて製品の生産を修飾するため、例えば、製品の生産を増加するために形質転換することができる。該製品は、生物によって天然にまたは非天然に生産することができる。
【0084】
発現ベクターは1または2以上の同種または異種のヌクレオチド配列(宿主生物から、または異なる生物から由来する)、および/または1または2以上の自家ヌクレオチド配列(同じ生物から由来する)および/または同種のまたは異種のポリペプチドを符号化する。藻のホスト細胞へと形質転換できる異種のヌクレオチド配列の例は、細菌、菌類、植物、光合成細菌または他の藻からの遺伝子を含む。藻の宿主細胞へと形質転換できる相同なヌクレオチド配列の例は、イソプレノイド合成遺伝子、内在性プロモータおよびpsbA、atpA、またはrbcL遺伝子からの5’UTRsを含む。ある事例では、異種の配列は2つの自家配列または同種の配列によって側面に配置される。同種の配列は宿主細胞中の配列と少なくとも50、60、70、80または90%の相同性を有するものである。第1および第2の同種の配列は宿主細胞のゲノムへと異種の配列の組み換えを可能にする。第1および第2の同種の配列は、少なくとも100、200、300、400、または500の長さのヌクレオチドでありうる。
【0085】
発現ベクターは遺伝子組み替えされた生物の発現のためにバイアスされたコドンであるヌクレオチド配列から成っていてもよい。当業者は所定のアミノ酸を指定するためにヌクレオチドコドンの使用法において特定の宿主細胞によって示される”コドンバイアス”に承知しているであろう。理論に束縛されることなく、宿主細胞の好ましいコドンを用いることにより、翻訳速度は増大するかもしれない。よって、宿主細胞において発現を向上させるために遺伝子を合成するとき、そのコドンの使用頻度が宿主細胞の好ましいコドンの使用頻度に近づくように遺伝子を設計することが好ましいかもしれない。該コドンは、通常、A/Tが豊富であり、例えば、コドンの3番目のヌクレオチド位置においてA/Tが豊富である。典型的には、A/Tが豊富なコドンバイアスは藻のために使用される。ある実施形態では、コドンの第3のヌクレオチド位置の少なくとも50%がAまたはTである。他の実施形態では、コドンの第3のヌクレオチド位置の少なくとも60、70、80、90または99%がAまたはTである。
【0086】
藻の遺伝子組み換え株の創出への1つのアプローチには、目的の遺伝子、典型的には、前駆体を燃料製品または燃料製品のへと変換することができる酵素または燃料製品の前駆体を符号化する核酸を用いた遺伝子組み換えが関与する。ある実施形態では、遺伝子組み換えは宿主藻細胞(例えば葉緑体)のいずれかの色素体へ核酸を導入してもよい。組み替え細胞は、典型的には、外因性核酸の導入に続き、選択培地上で培養される。この方法は数段階のスクリーニングも含んでいてもよい。まず、最初の形質転換細胞のスクリーンは、典型的にはどのクローンが外因性核酸の適切な挿入を有するかを決定するために行われる。適切な融合を示すクローンは、遺伝的な安定性を確実にするために継ぎ当ておよび再スクリーンしてもよい。このような方法論は形質転換細胞が目的の遺伝子を含むことを保証する。多く事例では、このようなスクリーニングはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって行われるが、当該分野で公知の他の適切な技術のいずれかを使ってもよい。多くの異なるPCRの方法が当該分野で公知である(例えば、ネスト化したPCR、リアルタイムPCRなど)。具体的な例は、本明細書で記載される実施例中で用いられるが、当業者は他のPCR技術が記載された特定のプロトコルで置換されてもよいことを認識するであろう。外因性核酸の適切な融合を伴うクローンのスクリーニングに続いて、典型的なクローンは符号化されたタンパク質の存在のためにスクリーニングされる。タンパク質発現スクリーニングは、典型的にはウェスタンブロット分析および/または酵素活性アッセイによって行われる。
【0087】
本明細書の方法に有用な組み換え核酸分子はベクター中に含むことができる。さらにまた、該方法は第2の(またはそれ以上の)組み換え核酸分子を用いて行われるところの、第2の組み換え核酸分子もまた必要ではないが第1の組み換え核酸分子を含むのと同じベクターでありうるベクター中に含まれてもよい。該ベクターは葉緑体へとポリヌクレオチドを導入するのに有用なベクターのいずれであってもよく、そして、好ましくは、葉緑体ゲノムDNAの約400〜1500またはそれ以上実質的に連続した葉緑体ゲノムDNAのヌクレオチドである葉緑体ゲノムDNAを用い相同的組み換えを経るのに十分な葉緑体ゲノムDNAの核酸配列を含む。葉緑体ベクターおよびベクターとして使用するための葉緑体ゲノム領域の選択方法は、周知である(例えば、Bock, J. Mol. Biol. 312:425−438 2001を参照。また、Staub and Maliga, Plant Cell 4:39−45, 1992; Kavanagh et al.,Genetics 152:1111−1122, 1999も参照。それぞれ参照によってここに組み込まれる)。
【0088】
ある事例では、このようなベクターはプロモーターを含む。本発明で有用なプロモーターはいずれの源(例えば、ウィルス、細菌、真菌、原生生物、動物)に由来していてもよい。本発明に含まれるプロモーターは、光合成生物、無維管束光合成生物、及び維管束光合成生物(例えば、藻、顕花植物)に特異的であってもよい。本明細書中で使用される「無維管束光合成生物」という用語は以下に制限されないが、高等植物にみられる脈管系等の脈管系ももたない、藻、シアノバクテリアおよび光合成細菌などの、巨視的な生物または微生物を意味する。ある事例では、上記核酸を光合成生物、例えば、藻のプロモーターから成るベクターに挿入する。上記プロモーターは、葉緑体および/または他の色素体での発現用プロモーターであってもよい。ある事例では、核酸は葉緑体由来である。本発明の核酸を葉緑体に挿入するために含まれるプロモーターの例としては、米国特許出願第2004/0014174号に開示されるものなどが挙げられる。上記プロモーターは、構成的プロモーターでも誘導プロモーターでもよい。プロモーターとしては、通常転写開始部位(例えば、TATA因子)の近くの必要な核酸配列が含まれる。
【0089】
緑藻クラミドモナス(C. reinhardtii)の全葉緑体ゲノムは、ワールドワイドウェブでのURL(biology.duke.edu/chlamy−(アンダーバー)genome/− chloro.html)で公衆に公開されており(view complete genome as text file)のリンクおよび(maps of the chloroplast genome)のリンクを参照)、それぞれ参照することにより本明細書に組み込まれる(J. Maul, J. W. Lilly, and D. B. Stern, 未公表の結果;2002年1月28日に改定;GenBank Acc. No. AF396929として公表)。一般に、葉緑体ゲノムDNAのヌクレオチド配列が、調節配列またはコード配列を含む遺伝子、特に相同組み換え現象により破壊されると、例えば、葉緑体ゲノムの複製を目的として、葉緑体に関する、または葉緑体を含む植物細胞に関する有害な効果を生み出す遺伝子の一部でないように、選択される。また、この点について、緑藻クラミドモナス葉緑体ゲノム配列を含むウェブサイトにより、葉緑体ゲノムのコードまたは非コード領域を示し、これによりベクターを構築するために使用できる配列を容易に選択できるマップが提供される。例えば、葉緑体ベクターのp322は約143.1kbの位置でのEco(EcoRI)部位から約148.5kbの位置でのXho(XhoI)部位まで伸長するクローンである(biology.duke.edu/chlamy−(アンダーバー)genome/chloro.html)のURLでのワールドワイドウェブを参照し、(maps of the chloroplast genome)リンク、および(140−150 kb)リンクをクリックする;また、(biology.duke.edu/chlam− y/chloro/chlorol40.html)のURLでのワールドワイドウェブに直接アクセス可能である)。
【0090】
本発明に使用されるベクターはまた、例えば、ベクターの操作を容易にするクローニング部位、ベクターの複製または含まれるヌクレオチド配列の転写を命令する調節因子、選択可能マーカーを符号化する配列などの配列を含む、ベクターの望ましい特性を付与する1または2以上のさらなるヌクレオチド配列を含んでもよい。そのようなものとして、ベクターは、例えば、必ずしもではないが、異種のポリヌクレオチドをベクターに挿入し、操作により目的因子に連結できるように位置しうる多クローニング部位などの1または2以上のクローニング部位を有してもよい。ベクターはまた、必要であれば、植物の葉緑体に加えて、原核生物の宿主細胞でベクターを通過させられる、例えば、大腸菌の起点(E. coli ori)またはコスミッドの起点(cosmid ori)等の、複製の原核生物の起点(ori)を含んでもよい。
【0091】
本明細書で使用される調節因子という用語は、ポリヌクレオチドの転写もしくは翻訳または操作により連結されるポリペプチドの局在化を調節するヌクレオチド配列を広義に意味する。例としては、以下に制限されないが、RBS、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネータ、開始コドン、イントロンの切除や正確な読み枠の維持のためのスプライシング信号、終止コドン、アンバーまたはオーカーコドン、IRESが挙げられる。さらに、細胞局在化信号(cell compartmentalization signal)(例えば、サイトゾル、核、葉緑体膜または細胞膜にポリペプチドを的を絞る配列)。このような信号は当該分野において既知であり、広く報告されている(例えば、米国特許第5,776,689号を参照)。
【0092】
本発明では、いずれの発現ベクターもさらに調節制御配列を有していてもよい。調節制御配列としては、例えば、プロモーター、オペレーター、抑制体、エンハンサー、転写終結配列、翻訳を調節する配列、または宿主細胞と適合しかつ核酸分子の発現を制御する他の調節制御配列が挙げられる。ある場合、調節制御配列は、転写の開始、延長、および/または終結を制御、調節、または行うことが可能である転写制御配列を含む。例えば、調節制御配列は、生物の遺伝子または遺伝子産物の転写および翻訳速度および/または効率を向上でき、この際、遺伝子または遺伝子産物の発現は上方制御されることにより、(直接的にまたは間接的に)本明細書に記載される製品の生産を増加する。上記調節制御配列はまた、遺伝子または遺伝子産物の安定性を向上することによって製品の生産を増加してもよい。
【0093】
調節制御配列は、自家であっても異種であってもよく、また、異種である場合には、同族であってもよい。調節制御配列は、製品の発現や生産を促進する酵素である1または2以上のポリペプチドを符号化してもよい。例えば、異種の調節制御配列は、生物の同属の他の種(例えば、他の藻種)由来で、藻のシンターゼを符号化してもよい。他の例では、自家の調節制御配列は発現ベクターが発現する生物由来であってもよい。
【0094】
用途に応じて、誘導的発現または構成的発現を行う調節制御配列を使用してもよい。藻の調節制御配列を使用でき、これは、核、ウィルス、染色体外、ミトコンドリア、または葉緑体の起点に由来していてもよい。
【0095】
適当な調節制御配列としては、発現するヌクレオチド配列と自然界で関連するもの(例えば、天然の藻由来のヌクレオチド配列と操作により連結される藻のプロモーター)がある。適当な調節制御配列としては、発現する核酸配列と自然界で関連しない調節制御配列(例えば、他の生物または藻種のヌクレオチド配列と操作により連結されるある種の藻のプロモーター)がある。後者の調節制御配列は、同種(例えば、自家)の他の遺伝子の発現を制御する配列であってもよく、または異なる生物もしくは種(例えば、異種)由来であってもよい。
【0096】
推定上の調節制御配列が適当であるかどうかを決定するために、その推定上の調節制御配列を容易に検出可能な信号を生産するタンパク質を通常符号化する核酸分子に連結する。そして、この構築物を標準的な手法によって藻または他の生物に導入してもよく、さらにその発現をモニターする。例えば、核酸分子が優性選択可能マーカーを符号化する際には、使用される藻または生物について、そのマーカーが耐性を示す化合物の存在下での生育能を試験する。
【0097】
ある場合には、調節制御配列は無維管束、光合成生物のヌクレオチド配列の発現に適用されるプロモーターなどのプロモーターである。例えば、プロモーターは米国特許出願公開第2006/0234368号および第2004/0014174号、ならびにHallmann, Transgenic Plant J. 1:81−98(2007)に記載されるような、藻のプロモーターであってもよい。プロモーターは、葉緑体に特異的なプロモーターまたは核のプロモーターであってもよい。プロモーターは、EF1−α遺伝子プロモーターまたはDプロモーターであってもよい。ある実施形態では、シンターゼは、操作によりEF1−α遺伝子プロモーターに連結される。他の実施形態では、シンターゼは、操作によりDプロモーターに連結される。
【0098】
本発明における調節制御配列は、例えば、コード及び非コード領域、5’非翻訳領域(例えば、コード領域の上流領域)、および3’非翻訳領域(例えば、コード領域の下流領域)などの、様々な位置で見つけられる。ゆえに、ある事例では、自家または異種のヌクレオチド配列は1または2以上の3’もしくは5’非翻訳領域、1または2以上のイントロン、または1または2以上のエキソンを含んでもよい。
【0099】
例えば、ある実施形態では、調節制御配列は珪藻(Cyclotella cryptic)のアセチル−CoAカルボキシラーゼの5’非翻訳調節制御配列または珪藻(Cyclotella cryptic)のアセチル−CoAカルボキシラーゼの3’非翻訳調節制御配列を有していてもよい(米国特許第5,661,017号)。
【0100】
調節制御配列はまた、異種のヌクレオチド配列やタンパク質の発現を促進する、プロテインAB、またはSAAなどの、キメラまたは融合ポリペプチドを符合化してもよい。他の調節制御配列としては、異種配列の翻訳を促進する自家のイントロン配列を含む。
【0101】
本発明における発現ベクターに使用される調節制御配列は誘導されるものであってもよい。プロモーター等の、誘導される調節制御配列は、例えば、光によって誘導されてもよい。調節制御配列はまた自己調節可能であってもよい。自己調節可能な調節制御配列の例としては、例えば、内因性のATPレベルによってまたは生物によって生産される製品によって自己調節されるものがある。ある事例では、調節制御配列は外因性物質によって誘導可能でもよい。他の誘導性因子は当該分野において既知であり、本明細書に記載されるのと同様の使用が適用されうる。
【0102】
本明細書に記載される調節制御配列の様々な組み合わせが具体化され、また、本明細書に記載される他の態様と組み合わせてもよい。ある場合には、発現ベクターは本明細書に記載される製品の生産に影響を与える、例えば、該生産を上方制御するポリペプチドを符号化するヌクレオチド配列に操作により連結される1または2以上の調節制御配列をから成る。ある場合には、発現ベクターは本明細書に記載される製品の生産に影響を与える、例えば、該生産を上方制御するポリペプチドを符号化するヌクレオチド配列に操作により連結される1または2以上の調節制御配列から成る。
【0103】
ベクターまたは他の組み換え核酸分子は、レポーターポリペプチドまたは他の選択可能マーカーを符号化するヌクレオチド配列を含んでもよい。「レポーター」または「選択可能マーカー」という用語は、検出可能な表現型を提供するポリヌクレオチド(または符号化されたポリペプチド)を意味する。レポーターは、通常、検出可能なポリペプチド、例えば、適当な物質(それぞれ、特定の波長の光またはルシフェリン)と接触すると、目によってまたは適当な器具を用いることにより検出可能な信号を発生する緑色蛍光タンパク質またはルシフェラーゼ等の酵素を符号化する(Giacomin, Plant Sci. 116:59−72, 1996; Scikantha, J. Bacteriol. 178:121, 1996; Gerdes, FEBS Lett. 389:44−47, 1996;また、Jefferson, EMBO J. 6:3901−3907, 1997, fl−glucuronidaseを参照)。選択可能マーカーは一般に、細胞中に存在するまたは細胞中で発現すると、マーカーを含む細胞に選択的利益(または不利益)、例えば、それがないと細胞を殺す物質の存在下での生育能、を与える分子である。
【0104】
選択可能マーカーは、マーカーを発現する原核細胞もしくは植物細胞または双方を得る手段を提供でき、ゆえにベクターの一成分として使用できる(例えば、Bock、上記、2001を参照)。選択可能マーカーの例としては、以下に制限されないが、代謝拮抗物質に対する耐性を付与するもの、例えば、メトトレキサートに対する耐性を付与するジヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ(Reiss, Plant Physiol. (Life Sci. Adv.) 13:143−149, 1994);アミノグリコシド系抗生物質であるネオマイシン、カナマイシン及びパロマイシン(paromycin)に対する耐性を付与するネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(Herrera−Estrella, EMBO J. 2:987−995, 1983)、ハイグロマイシンに対する耐性を付与するハイグロ(hygro)(Marsh, Gene 32:481−485, 1984)、細胞にトリプトファンの代わりにインドールを利用させることができる、trpB;細胞にヒスチジンの代わりにヒスチノール(histinol)を利用させることができる、hisD(Hartman, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 85:8047, 1988);細胞にマンノースを利用させることができる、マンノース−6−ホスフェートイソメラーゼ(mannose−6−phosphate isomerase)(WO 94/20627);オルニチンデカルボキシラーゼ阻害剤である、2−(ジフルオロメチル)−DL−オルニチンに対する耐性を付与する、オルニチンデカルボキシラーゼ(DFMO; McConlogue, 1987, In: Current Communications in Molecular Biology, Cold Spring Harbor Laboratory ed.);およびブラストサイジンS(Blasticidin S)に対する耐性を付与する、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)由来のデアミナーゼ(Tamura, Biosci. Biotechnol. Biochem. 59:2336−2338, 1995)が挙げられる。別の選択可能マーカーとしては、除草剤抵抗性を付与するもの、例えば、ホスフィノトリシン(phosphinothricin)に対する抵抗性を付与する、ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(phosphinothricin acetyltransferase gene)(White et al., Nucl. Acids Res. 18:1062, 1990; Spencer et al., Theor. Appl. Genet. 79:625−631, 1990)、グリホセート耐性を付与する、変異型EPSPV−シンターゼ(Hinchee et al., BioTechnology 91:915−922, 1998)、イミダゾリンまたはスルホニル尿素耐性を付与する、変異型アセト乳酸合成酵素(Lee et al., EMBO J. 7:1241−1248, 1988)、アトラジン耐性を付与する、変異型psbA(Smeda et al., Plant Physiol. 103:911−917, 1993)、または変異型プロトポルフィリノーゲン酸化酵素(米国特許第5,767,373号参照)、またはグルフォシネート(glufosinate)等の除草剤に対して耐性を付与する他のマーカーが挙げられる。選択可能マーカーとしては、真核細胞ではジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)またはネオマイシン耐性;および大腸菌(E. coli)等の原核生物ではテトラサイクリン、アンピシリン耐性;および植物ではブレオマイシン、ゲンタマイシン、グリホセート、ハイグロマイシン、カナマイシン、メトトレキサート、フレオマイシン、ホスフィノトリシン(phosphinotricin)、スペクチノマイシン、ストレプトマイシン、スルホンアミドおよびスルホニル尿素耐性を付与するポリペプチドがある(例えば、Maliga et al., Methods in Plant Molecular Biology, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1995, page 39を参照)。
【0105】
レポーター遺伝子は高等植物の葉緑体で良好に使用されており、高レベルの組み換えタンパク質発現が報告されている。加えて、レポーター遺伝子は緑藻クラミドモナスの葉緑体で使用されてきたが、大抵の場合、非常の少量のタンパク質が生産された。レポーター遺伝子は、多くの生物有機体での遺伝子の発現のモニター能を非常に促進する。高等生物の葉緑体では、β−グルクロニダーゼ(uidA, Staub and Maliga, EMBO J. 12:601−606, 1993)、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(nptII, Carrer et al., Mol. Gen. Genet. 241:49−56, 1993)、アデノシル−3−アデニルトランスフェラーゼ(aadA, Svab and Maliga, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 90:913−917, 1993)、およびオワンクラゲ(Aequorea Victoria)GFP(Sidorov et al., Plant J. 19:209−216, 1999)がレポーター遺伝子として使用されている(Heifetz, Biochemie 82:655−666, 2000)。これらの遺伝子はそれぞれ、分析の容易さ、感受性、またはin situの発現の試験能などの、葉緑体遺伝子の発現の有用なレポーターにする性質を有する。これらの研究に基づいて、他の異種タンパク質を、バチルス・チューリンゲンシスCry毒素(Bacillus thuringiensis Cry toxin)等の高等植物の葉緑体中で発現させて、植食昆虫(Kota et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 96:1840−1845, 1999)、またはヒトのソマトトロピン(Staub et al., Nat. Biotechnol. 18:333−338, 2000)、可能性のある生物医薬品に対する耐性を付与する。幾つかのレポーター遺伝子が、aadA(Goldschmidt−Clermont, Nucl. Acids Res. 19:4083−4089 1991; Zerges and Rochaix, Mol. Cell Biol. 14:5268−5277, 1994)、uidA(Sakamoto et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 90:477−501, 19933, Ishikura et al., J. Biosci. Bioeng. 87:307−314 1999)、レニラ(Renilla)ルシフェラーゼ(Minko et al., Mol. Gen. Genet. 262:421−425, 1999)およびアシネトバクターバウマニ(Acinetobacter baumanii)由来のアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、aphA6(Bateman and Purton, Mol. Gen. Genet 263:404−410, 2000)を含む、真核緑藻、緑藻クラミドモナスの葉緑体中で発現した。
【0106】
ある事例では、ベクターは大腸菌(E.coli)またはサッカロマイセス セレビシエ(S. cerevisiae)の複製起点等の要素を含むことになる。このような特性は、適当な選択可能マーカーと組み合わせることにより、ベクターはターゲット宿主細胞ならびに細菌および/または酵母細胞間を「シャトル(shuttle)」することができる。第2宿主におけるシャトルベクターの継代(passage)能により、ベクターの特徴をより簡便に操作できる。例えば、ベクターおよび有益な推定上の挿入されたポリヌクレオチドを含む反応混合物を常法を用いて大腸菌(E.coli)等の原核宿主細胞に形質転換し、増幅し、集め、さらに試験して、有益な挿入物または構築物を含むベクターを同定してもよい。必要であれば、例えば、挿入されたポリヌクレオチドの部位特異的突然変異誘発を行った後、再度有益な変異ポリヌクレオチドを有するベクターを増幅、選択することによって、ベクターをさらに操作してもよい。シャトルベクターを植物細胞の葉緑体に導入してもよく、この際、有益なポリペプチドを発現させ、必要であれば、本明細書に開示される方法にしたがって、単離してもよい。
【0107】
ポリヌクレオチドまたは組み換え核酸分子を、当該分野において既知の方法を用いて植物の葉緑体中に導入してもよい。ポリヌクレオチドを、当該分野においてよく知られている様々な方法によって細胞中に導入して、一部、特定の宿主細胞に基づいて選択してもよい。例えば、ポリヌクレオチドをエレクトロポレーションまたはパーティクルガンを用いたマイクロプロジェクタイルにより媒介された(バイオリスティック)形質転換等の直接遺伝子トランスファー法、または「ガラスビーズ法」、または花粉により媒介された形質転換、リポソームにより媒介された形質転換、傷つけたもしくは酵素分解した未成熟胚、または傷つけたもしくは酵素分解した胚発生カルスを用いた形質転換(Potrykus, Ann. Rev. Plant. Physiol. Plant Mol. Biol. 42:205−225, 1991)を用いて植物細胞に導入してもよい。
【0108】
色素体形質転換は、植物細胞の葉緑体中にポリヌクレオチドを導入する、ありふれた、よく知られた方法である(米国特許第5,451,513号、第5,545,817号、および第5,545,818号;WO 95/16783; McBride et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 91:7301−7305, 1994を参照)。ある実施形態では、葉緑体の形質転換は、所望のヌクレオチド配列に隣接する葉緑体DNAの領域を導入することにより、ターゲットとした葉緑体ゲノム中に外因性のDNAを相同組み換えできることに関与している。ある事例では、葉緑体ゲノムDNAの1〜1.5kbの隣接ヌクレオチド配列を使用してもよい。この方法を用いることにより、スペクチノマイシンまたはストレプトマイシンに対する耐性を付与する、葉緑体16S rRNAおよびrps12遺伝子中の点変異を、形質転換の選択可能マーカーとして使用してもよく(Svab et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 87:8526−8530, 1990)、これにより、ターゲットとした葉の100照射当たり約1回の頻度で、安定した同質細胞質形質転換体(homoplasmic transformant)が得られる。
【0109】
マイクロプロジェクタイルによる形質転換はまた、植物の葉緑体中にポリヌクレオチドを導入するのに使用できる(Klein et al., Nature 327:70−73, 1987)。この方法は、金またはタングステン等のマイクロプロジェクタイルを利用するものであり、このマイクロプロジェクタイルは、塩化カルシウム、スペルミジンまたはポリエチレングリコールによる沈殿によって所望のポリヌクレオチドで被覆される。上記マイクロプロジェクタイル粒子を、BIOLISTIC PD−1000パーティクルガン(BioRad; Hercules Calif.)等の装置を用いて植物組織中に高速で加速する。微粒子銃を用いた形質転換方法は、当該分野において既知である(例えば、Christou, Trends in Plant Science 1:423−431, 1996を参照)。マイクロプロジェクタイルによる形質転換法を用いて、例えば、綿、タバコ、トウモロコシ、ハイブリッドポプラ及びパパイヤなどの、様々な形質転換植物種を作製してきた。小麦、オートムギ、オオムギ、ソルガムおよびライス等の重要な穀物もまた、マイクロプロジェクタイルにより媒介された送出を用いて形質転換されてきた(Duan et al., Nature Biotech. 14:494−498, 1996; Shimamoto, Curr. Opin. Biotech. 5:158−162, 1994)。ほとんどの双子葉植物の形質転換は、上記方法で可能である。また、単子葉植物の形質転換は、例えば、上記微粒子銃法、原形質体形質転換法、透過性細胞エレクトロポレーション、ガラスファイバーを用いたDNAの導入、ガラスビーズ撹拌法などを用いて形質転換できる。
【0110】
以下に制限されないが、細菌性aadA遺伝子(Svab and Maliga, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 90:913−917, 1993)などの優先選択可能マーカーによる劣性rRNAまたはr−タンパク質抗生物質耐性遺伝子の置換によって、形質転換頻度を増加してもよい。ホモプラスティジック(homoplastidic)状態に達するために、形質転換後に約15〜20回の細胞分裂サイクルが通常必要である。葉緑体がそのゲノムの複数コピーを含んでもよいことは当業者には明らかであり、ゆえに「同質細胞質の(homoplasmic)」または「同質細胞質(homoplasmy)」という用語は、有益な特定位置のすべてのコピーが実質的に同一である状態を意味する。遺伝子が相同的組み換ええにより各植物細胞に存在する環状色素体ゲノムの数千コピーのすべてに挿入される色素体発現は、全可溶性植物タンパク質の10%を容易に超えることができる発現レベルを可能とするために、核が発現する遺伝子に勝る膨大なコピー数を利用する。
【0111】
ある事例では、葉緑体中に組み換え核酸分子を導入することによる方法を実施することができ、この際、組み換え核酸分子は、少なくとも1つのポリペプチド(例えば、1、2、3、4、またはそれ以上)を符号化する第1のポリヌクレオチドを含む。ある実施形態では、ポリペプチドは第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10および/またはそれ以降のポリペプチドに操作により連結される。例えば、炭化水素生産経路における幾つかの酵素を、その経路の1つの酵素によって生産される製品が生産されると、その経路の次の酵素にごく接近するように、直接または間接的に連結してもよい。
【0112】
葉緑体の形質転換では、主要な利点として選択可能マーカー及び1または2以上の有益な遺伝子双方を含む組み換え核酸構築物を利用することがありうる。通常、葉緑体の形質転換を、下記2種の構築物で葉緑体を一緒に形質転換することによって行い、第1の構築物は選択可能マーカーを含み、第2の構築物は有益な遺伝子を含んでいる。このような形質転換体のスクリーニングが多くの理由により長い時間と労力を要する。第1に、形質転換生物を生育させるのに要する時間が長い。第2に、選択可能マーカーの存在および有益な遺伝子の存在について、形質転換体をスクリーニングしなければならない。通常、有益な遺伝子の二次スクリーニングをサザンブロットによって行う(例えば、PCT/US2007/072465を参照)。
【0113】
葉緑体では、遺伝子発現の調節は一般に転写後に、および、しばしば翻訳開始中に起こる。この調節は、核符号化調節因子(nuclear−encoded regulatory factor)に加えて、葉緑体翻訳装置に依存する(Barkan and Goldschmidt−Clermont, Biochemie 82:559−572, 2000; Zerges, Biochemie 82:583−601, 2000を参照)。葉緑体翻訳装置は一般に細菌のものに似ており、葉緑体は70Sリボソームを含み、5’キャップが欠失するmRHAを有し、一般に3’ポリアデニル化テイルを含まず(Harris et al., Microbiol. Rev. 58:700−754, 1994)、翻訳は、クロラムフェニコール等の選択剤によって葉緑体及び細菌中では阻害される。
【0114】
本明細書に記載されるような方法には、コード配列についてリボソーム結合配列(RBS)を適切に位置させるという利点がある。RBSのこのような配置により植物葉緑体中で強い翻訳が可能であり(米国特許出願公開第2004/0014174号参照、参考で本明細書中に引用される)、葉緑体中でポリペプチドを発現する利点としては、ポリペプチドが核遺伝子から発現するポリペプチドによって通常横切る細胞区画を通らないため、糖化等の特定の翻訳後修飾を受けないことが従来より知られている。このように、本明細書に記載される方法によって生産されるポリペプチド及びタンパク質複合体は、このような翻訳後修飾を受けることなく生産されると予想できる。
【0115】
符号化するポリヌクレオチドの1または2以上のコドンにバイアスを受け、葉緑体および/または核コドン利用を反映してもよい。ほとんどのアミノ酸は2またはそれ以上の異なる(縮重)コドンによって符号化され、様々な生物が他のコドンに優先して特定のコドンを利用することはよく認識されている。このような優先したコドン利用は葉緑体中でも利用されるが、本明細書では「葉緑体コドン利用」と称する。緑藻クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)のコドンバイアス(codon bias)が報告されている。米国特許出願公開第2004/0014174号参照。緑藻クラミドモナスでの発現についてバイアスをかけられるイソプレノイド生合成酵素を符号化する核酸の例を表5〜8に示す。(配列が単離されたもの由来の生物における)天然の配列に対する相同性(%)は約50、約60、約70、約80、約90%またはそれ以上であってもよい。ベクターは、表5に示される1または2以上の核酸および/またはこれと約70%相同性のある核酸を有していてもよい。
【0116】
コドンに関連して使用される、「バイアスを受ける(biased)」という用語は、コドンが、例えば、藻細胞、葉緑体についてであるターゲットで優先的に使用されるコドンであるように、ポリヌクレオチド中のコドンの配列を変更することを意味する。葉緑体コドン利用についてバイアスされるポリヌクレオチドをde novoで合成してもよく、または、例えば部位特異的突然変異誘発法によって定常的な組み換えDNA技術を用いて遺伝子を修飾して、葉緑体コドン利用についてバイアスを受けるように1または2以上のコドンを変更してもよい。葉緑体コドンバイアスは、例えば、タバコと比較した場合の藻の葉緑体で、など、異なる植物で様々に偏っていてもよい。一般に、所定の葉緑体コドンバイアスは核酸が形質転換されている植物の葉緑体コドン利用を反映している。例えば、緑藻クラミドモナスが宿主である場合には、葉緑体コドン利用が藻の葉緑体コドン利用を反映するようにバイアスを受けていてもよい(第3のコドン位置において、約74.6%ATバイアス)。
【0117】
本明細書に記載される製品のいずれかを、製品のこのような生物による生産を引き起こすように生物を形質転換することによって調製してもよい。生物は、形質転換することによって形質転換生物の光合成能が破壊されるあるいは減衰する(例えば、外因性の核酸を光合成に必要なタンパク質を符号化する遺伝子に挿入する)としても、光合成生物であると考えられる。
【0118】
修飾される経路
本発明における発現ベクターは、本明細書に記載される製品の中間体、製品、前駆体、及び誘導体の生産を促進するポリペプチドを符号化していてもよい。例えば、発現ベクターが、イソプレノイド経路の中間体、製品、前駆体、及び誘導体の生産を促進するポリペプチドを符号化していてもよい。
【0119】
イソプレノイドまたはテルペノイドは、テルペンに関連する有機化学物質のグループである。テルペンは通常イソプレンユニットに由来する。イソプレン単位は、5炭素ユニット(C5)である。テルペンは、ヘミテルペン(C5)、モノテルペン(C10)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン(C20)、トリテルペン(C30)、およびポリテルペン(Cn,ここで、「n」は45もしくはそれ以上である)など、イソプレンユニットの数で分類される。テルペンは、イソプレノイド等の誘導体を形成するように、修飾(例えば、酸化、メチル基除去など)されるまたはその炭素骨格を再編成してもよい炭化水素である。イソプレノイドは、他のステロイド及び脂質もまた包含する。
【0120】
テルペン前駆体は、2つの経路によって生成すると考えられる。メバロン酸経路またはHMG−CoAレダクターゼ経路により、テルペンの一般的なC5前駆体である、ジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)及びイソペンチルピロリン酸(IPP)を生成する。非メバロン酸経路は、DMAPPおよびIPPを形成する別の経路である。DMAPP及びIPPを縮合して、ゲラニル二リン酸(GPP)、またはファルネシル二リン酸(FPP)、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)等の、他の前駆体を形成してもよく、これから高級イソプレン類が形成される。
【0121】
本明細書における発現ベクターは、例えば、チオラーゼ、HMG−CoAシンターゼ、HMG−CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、ホスフェメバロン酸キナーゼ(phosphemevalonate kinase)、及びメバロン酸−5−ピロリン酸デカルボキシラーゼ(mevalonate−5−pyrophosphate decarboxylase)等の、メバロン酸経路で役割を果たすポリペプチドをコードしていてもよい。他の実施形態では、ポリペプチドは、DOXPシンターゼ、DOXPレダクターゼ、4−ジホスホシチジル−2−C−メチル−D−エリスリトールシンターゼ(4−diphosphocytidyl−2−C−methyl−D−erythritol synthase)、4−ジホスホシチジル−2−C−メチル−D−エリスリトールキナーゼ(4−diphophocytidyl−2−C−methyl−D−erythritol kinase)、2−C−メチル−D−エリスリトール 2,4−シクロジホスフェートシンターゼ(2−C−methyl−D−erythritol 2,4,−cyclodiphosphate synthase)、HMB−PPシンターゼ、HMB−PPレダクターゼ、またはDOXPレダクトイソメラーゼ等の、非メバロン酸経路の酵素である。
【0122】
他の形態では、発現ベクターは、例えば、シンターゼコード配列等の、イソプレノイド経路のポリペプチドを符号化するヌクレオチドを含んでもよい。シンターゼは、C10、C15、C20、C30、またはC40シンターゼであってもよい。ある実施形態では、シンターゼは、ボトリオコッセンシンターゼ、リモネンシンターゼ、1,8 シネオールシンターゼ、α−ピネンシンターゼ、カンフェンシンターゼ、(+)−サビネンシンターゼ、ミルセンシンターゼ、アビエタジエンシンターゼ、タキサジエンシンターゼ、ファルネシルピロホスフェートシンターゼ、アモルファジエンシンターゼ、(E)−α−ビサボレンシンターゼ、ジアポフィトエンシンターゼ、またはジアポフィトエンデサチュラーゼである。シンターゼ及びその配列の例を、表1に記載する。
【0123】
【表1】

【0124】
【表2】

【0125】
シンターゼはまた、β−カリオフィレンシンターゼ、ゲルマクレンAシンターゼ、8−エピセドロールシンターゼ、バレンセンシンターゼ、(+)−δ−カジネンシンターゼ、ゲルマクレンCシンターゼ、(E)−β−ファルネセンシンターゼ、カスベンシンターゼ、ベティスピラジエン(vetispiradiene)シンターゼ、5−エピ−アリストロチェンシンターゼ、アリストロチェンシンターゼ、α−α−フムレン、(E,E)−α−ファルネセンシンターゼ、(−)−β−ピネンシンターゼ、γ−テルピネンシンターゼ、リモネンシクラーゼ、リナロールシンターゼ、(+)−ボルニルジホスフェートシンターゼ、レボピマラジエンシンターゼ、イソピマラジエンシンターゼ、(E)−γ−ビサボレンシンターゼ、コパリルピロホスフェートシンターゼ、カウレンシンターゼ、ロンギホレンシンターゼ、γ−フムレンシンターゼ、δ−セリネンシンターゼ、β−フェランドレンシンターゼ、テルピノレンシンターゼ、(+)−3−カレンシンターゼ、シン−コパリルジホスフェートシンターゼ、α−テルピネオールシンターゼ、シン−ピマラ−7,15−ジエンシンターゼ、エント−サンダアラコピマラジエン(ent−sandaaracopimasradiene)シンターゼ、スターナー−13−エン(sterner−13−ene)シンターゼ、E−β−オシメン、S−リナロールシンターゼ、ゲラニオールシンターゼ、γ−テルピネンシンターゼ、リナロールシンターゼ、E−β−オシメンシンターゼ、エピ−セドロール(epi−cedrol)シンターゼ、α−ジンギベレンシンターゼ、グアイアジエン(guaiadiene)シンターゼ、カスカリアジエン(cascarilladiene)シンターゼ、シス−ムウロラジエン(cis−muuroladiene)シンターゼ、アフィジコラン−16b−オール(aphidicolan−16b−ol)シンターゼ、エリザベスアトリエン(elizabethatriene)シンターゼ、サンドロール(sandalol)シンターゼ、パッチコウロール(patchoulol)シンターゼ、ジンザノール(zinzanol)シンターゼ、セドロールシンターゼ、スカレオール(scareol)シンターゼ、コパロール(copalol)シンターゼ、またはマノオール(manool)シンターゼであってもよい。
【0126】
本明細書で使用される経路は、細胞質中に、色素体(例えば、葉緑体)中に、または双方で存在する酵素を含んでもよい。本明細書に記載される実施形態の酵素を符号化する外因性の核酸は、符号化される酵素が細胞質中でもしくは色素体中でまたは双方で活性があるように、宿主細胞に導入されてもよい。ある実施形態では、1つの細胞内区画中(例えば、細胞質中)に存在する天然の酵素を、異なる細胞内の場所(例えば、葉緑体中)に、または宿主細胞の形質転換後の天然に存在する及び天然に存在しない場所双方に、発現させてもよい。
【0127】
本概念を詳細に説明するために、単に例として、無維管束光合成微細藻種を、リモネン(特殊化学及び石油工業で高価値のある分子)等の、イソプレノイドを製造するように遺伝子操作してもよい。リモネンは、水素及び炭素原子のみから構成される、純粋な炭化水素であるモノテルペンである。リモネンは、上記種、緑藻クラミドモナス(Chlamydomonas rheinhardii)で天然には生産されない。これらの微細藻でのリモネンの生産は、葉緑体中で異種の酵素であるリモネンシンターゼを発現するように微細藻を操作することによって達成できる。リモネンシンターゼは、テルペン前駆体である、ゲラニルピロリン酸をリモネンに変換できる。リモネンと異なり、ゲラニルピロリン酸は、微細藻の葉緑体中に天然に存在する。リモネンシンターゼの発現は、リモネンシンターゼを符号化する異種遺伝子を微細藻の葉緑体ゲノム中に挿入することによって、達成できる。次に、微細藻の修飾された株を、リモネン遺伝子がすべての子孫の葉緑体ゲノム中で安定して維持されるように、同質細胞質の(homoplasmic)にする。微細藻は、挿入遺伝子が葉緑体ゲノムのすべてのコピー中に存在する場合には、遺伝子に対して同質細胞質の(homoplasmic)である。葉緑体がそのゲノムの複数コピーを含んでもよいことは当業者には明らかであり、ゆえに「同質細胞質の」または「同質細胞質」という用語は、有益な特定位置のすべてのコピーが実質的に同一である状態を意味する。遺伝子が相同的組み換ええにより各植物細胞に存在する環状色素体ゲノムの数千コピーのすべてに挿入される色素体発現は、全可溶性植物タンパク質の10%を容易に超えることができる発現レベルを可能とするために、核が発現する遺伝子に勝る膨大なコピー数を利用する。
【0128】
発現
葉緑体は、光合成生物の生産性オルガネラや大量のタンパク質合成部位である。本明細書における発現ベクターのいずれかが葉緑体発現に選択的に適用されてもよい。高等植物由来の多数の葉緑体プロモーターがKung and Lin, Nucleic Acids Res. 13: 7543-7549 (1985)に記載されている。遺伝子産物を葉緑体で発現ベクターから発現させてもよい。発現ベクターによって符号化される遺伝子産物はまた、葉緑体ターゲット配列によって葉緑体にターゲットを絞られてもよい。例えば、発現ベクターまたは発現ベクターによって符号化される遺伝子産物を葉緑体にターゲットを絞ることは、調節制御配列および燃料分子の生産を可能にするあるいは向上するタンパク質またはペプチドを符号化する配列によって提供される効果をさらに促進してもよい。
【0129】
本明細書に記載される葉緑体標的の様々な組み合わせが具体的に示され、本明細書に記載される他の形態と組み合わせてもよい。例えば、テルペンシンターゼを符号化するヌクレオチド配列を、葉緑体標的配列を符号化するヌクレオチド配列に操作により連結してもよい。宿主細胞に、葉緑体にターゲットされるリモネンシンターゼを符号化する発現ベクターを形質転換してもよく、リモネンシンターゼは符号化するが葉緑体にターゲットさせる配列はコードしない発現ベクターを形質転換した宿主細胞に比べてより多くのリモネンシンターゼさせてもよい。向上したリモネンシンターゼの発現によりリモネンをより少なくしか生産しない宿主細胞に比べてリモネンのより多くを生産させてもよい。
【0130】
さらに他の形態では、基質として生物によって天然に生産する前駆体を用いて生物が天然には生産しない製品(例えば、燃料製品、芳香製品、殺虫剤製品)を生産する酵素を符号化するヌクレオチド配列を有する発現ベクターを、葉緑体にターゲットを絞らせてもよい。酵素を葉緑体にターゲットすることによって、製品の生産は、酵素を発現するが葉緑体にターゲットされない宿主細胞に比べて多くしてもよい。理論によって制限されず、これは、葉緑体中に生産されている前駆体の増加によるものであってもよく、ゆえに、より多くの製品が導入されたヌクレオチド配列によって符号化される酵素によって生産されてもよい。
【0131】
方法
製品(例えば、燃料製品、芳香製品、殺虫剤製品)を、本明細書における核酸の一以上で形質転換された無維管束生物を生育/培養する工程を有する方法によって生産してもよい。本明細書における方法は、さらに、上記生物を形質転換することを有していてもよい。形質転換は、当該分野において既知のまたは本明細書に記載される方法を用いて行われうる。本明細書における方法は、さらに、生物によって生産される製品を集める方法を有していてもよい。
【0132】
本明細書における方法は、さらに、燃料ガス等の、無機炭素源を生物に提供する工程を有していてもよい。ある事例では、無機炭素源は、製品(例えば、燃料製品)を生産するのに必要なすべての炭素を提供する。生育/培養工程は、好ましくは、無機物および/またはビタミンを有する培地など、適当な培地中で行われる。
【0133】
関連するさらに異なる態様では、光合成生物に発現ベクターを形質転換し、該生物を生育させ、さらに該生物から製品を集めることを有する、製品(例えば、燃料製品、芳香製品、殺虫剤製品)を製造する方法が提供される。発現ベクターは、具体的には、本明細書に記載される発現ベクターであり、光合成生物による分子の製造を向上するまたは可能にする強さで、生物に別の生合成能を付与するまたは生物内の既存の生合成経路を修飾するのに特に使用される。
【0134】
本明細書における方法は、燃料、芳香剤、及び殺虫剤等の、製品を製造するのに有用な遺伝子を選択し、生合成生物の細胞にこのような遺伝子を形質転換し、さらに製品を製造されるのに適当な条件下でこのような生物を生育させることを有する。生物は、公知の発酵バイオリアクターで培養でき、この発酵バイオリアクターとしては、以下に制限されないが、バッチ、フェッド−バッチ、細胞リサイクル、及び連続発酵槽が挙げられる。さらに、生物を光バイオリアクターで生育させてもよい(例えば、米国特許出願公開第2005/0260553号;米国特許第5,958,761;米国特許第6,083,740号を参照)。また、培養は、振盪フラスコ、試験管、マイクロタイタープレート、及びペトリ皿で行ってもよい。培養は、組み換え細胞に適する温度、pH、及び酸素含量で行われる。このような培養条件は、当業者の専門知識の範囲内に十分含まれる。
【0135】
宿主生物はまた、陸上で、例えば、埋立地で生育するものであってもよい。ある形態では、宿主生物は、エタノール製造プラントまたはCO2を発生する他の施設もしくは地域(例えば、町、高速道路など)の近くで生育するものであってもよい。このように、本明細書における方法は、エタノール製造プラント近くで本明細書に記載される修飾生物の一以上を生育させることによって燃料を生産しながら、炭素クレジットをエタノールプラントまたはCO2を発生する他の施設もしくは領域に販売するビジネス方法を包含する。
【0136】
さらに、生物は、池、海洋、海、川、水分の多い土壌開放水域で生育するものであってもよい。水中で生育する場合には、生物は、レゴ様粒子を構成する物体のようなハローに含まれてもよい。ハロー物体は、藻を取り巻き、藻を解放太陽光に保持しつつ水面下から栄養を保持させることができる。
【0137】
ある形態では、生物は、各容器が1もしくは2または複数の生物を含む容器中で生育させてもよい。容器は、水面に浮く構造を有していてもよい。例えば、容器は、空気及び水の組み合わせで満たし、容器及び容器中の宿主生物を浮かせてもよい。ゆえに、新鮮な水中で生育するのに使用される宿主生物は塩水(例えば、海洋)中で生育しても、また、逆でもよい。このメカニズムは、容器にダメージがある場合には、生物の自然死を可能にする。
【0138】
ある形態では、複数の容器は、上記したような内に含まれてもよい。例えば、100、1,000、10,000、100,000、または1,000,000以下の容器をハロー様構造物1m2に配置してもよい。
【0139】
ある実施形態では、製品(例えば、燃料製品、芳香製品、殺虫剤製品)を、生物を集めることによって集める。次に、製品を生物から抽出する。
【0140】
ある実施形態では、製品(例えば、燃料製品、芳香製品、殺虫剤製品)の発現は誘導性である。製品は、発現するように誘導される。発現は、光で誘導されてもよい。さらに他の実施形態では、製品の製造は自動調節可能である。製品は、製品(例えば、燃料製品、芳香製品、殺虫剤製品)が特定レベルに到達すると、製品の発現が阻害される、フィードバックループを形成してもよい。他の実施形態では、生物の代謝産物のレベルが製品の発現を阻害する。例えば、エネルギー製造の増加により製品を発現した結果生物によって製造される内因性ATPは、製品の発現を阻害するフィードバックループを形成してもよい。さらに他の実施形態では、製品の製造は、例えば、光または外因性物質によって、誘導性であってもよい。例えば、宿主生物で製品を製造する発現ベクターは、外因性物質によって活性化するまたは不活性化する誘導性調節制御配列を有していてもよい。
【0141】
また、本明細書に記載される方法またはプロセスは、新規な遺伝子/発現ベクターが本明細書に記載される燃料製品のいずれかを生産するためのスクリーニング方法にも関する。このような方法は、(1)候補となる核酸の発現ベクターを光合成生物に挿入し、(2)これから製造される推定上の燃料製品を集め、(3)この推定上の燃料製品を質量分析計に適用して、推定上の燃料製品の特性、およびこれが燃料製品として使用できるか否かを決定する工程を有する。ある実施形態では、工程(2)は、既知の燃料製品を集め、候補となる発現ベクターが候補となる発現ベクターなしの場合の光合成生物に比べて燃料製品の製造を向上するかどうかを含んでもよい。
【0142】
III.ビジネス方法
また、本明細書では、組成物のδ13C分布の測定結果を得;前記組成物のδ13C分布を参照δ13C分布と比較し;さらに前記組成物のδ13C分布が前記参照δ13C分布未満である場合には、炭素クレジットを、前記組成物の所有者または使用者である事業体に販売することを有する、炭素クレジット販売のビジネス方法が提供される。ある形態では、参照δ13C分布は約−32‰である。他の実施形態では、参照δ13C分布は、石油のδ13C分布の最大値である。さらに他の場合では、参照δ13C分布は、約−32‰、−35‰、−40‰、−45‰、−50‰、−55‰、または−60‰である。上記方法は、さらに、測定結果を用いて組成物を標識化することを有してもよい。上記方法は、さらに、組成物を追跡することを有してもよい。
【0143】
燃料製品を生産するのに使用される無維管束光合成生物を成長させる団体に炭素クレジットを提供することを有するビジネス方法もまた提供される。ある形態では、光合成生物は、遺伝子が修飾される。燃料製品の製造方法は、現在の方法に対して燃料製品を生成するより環境に優しい可能性のある方法を提供する。このように、本明細書に記載される方法および組成物は、炭素クレジットに関する交換におけるビジネス方法に使用されてもよい。
【0144】
炭素クレジットは、ある関連する主権団体(sovereign entity)(以下に制限されないが、地方の、多国籍の、または国際連合または欧州連合等の他の国際機関に加えて、町(法人及び非法人の自治体双方を含むすべての大きさ及びタイプの自治体を含む)、国、州もしくは地方、または国家)によって認められる、認可される、もしくは承認されるまたは認められている、認可されている、もしくは承認されている容認(allowance)、許可(permit)、クレジット(credit)などであってもよい。
【0145】
炭素クレジットは、規制機関または行政法人から直接実質的に受け入れられていてもよい。他の場合では、炭素クレジットは間接的に受け入れられてもよく、例えば、本明細書おける方法または組成物を用いた団体が、規制機関から直接炭素クレジットを受け入れて、次に、この炭素クレジットを他の団体に移してもよい。炭素クレジットの移動は、所定のプロセスに関連して、燃料製品を製造するのに使用された遺伝的に修飾された無維管束光合成生物を用いた製品であってもよい。
【0146】
例えば、エンドユーザーのモバイルプラットフォームでの消費のために分布する消費可能な製品を提供する第1の団体が同定されてもよく、この際、消費可能な製品の消費および/または製造は相当する結果として得られる放出を含む。例えば、ディーゼル燃料の燃焼により、しばしば、相当する窒素酸化物が環境に放出され、ガソリンの燃焼により、しばしば、相当する硫黄酸化物が環境に放出される。
【0147】
第1の団体は、上記無維管束光合成生物を用いたその製品の製造方法を採用する、またはその組成物に上記無維管束光合成生物によって生成する製品を使用して、これにより例えば、ディーゼル燃料、ガソリン、ジェット燃料などを生成する公知の方法に比べて環境への有害な影響を少なくする。ゆえに、方法は、最終産物の環境への効果を相殺する。次に、第1の団体は、全放出の減少の結果、炭素、または放出、クレジットを受けてもよい。炭素クレジットは、規制機関または行政機関から受けてもよく、または第2の団体から第1の団体へ移してもよく、この際、第2の団体は無維管束光合成生物または無維管束光合成生物の製品を第1の団体に売ってもよい。
【0148】
炭素クレジットは、実質的に流動性のある通貨代替物に交換されてもよい。例えば、炭素クレジットは、現金、小切手などの、現金同等物に交換されてもよい。炭素クレジットはまた、知的所有権に関する合法的地位、例えば、以下に制限されないが、譲渡またはライセンスに交換されてもよい。炭素クレジットはまた、政府の租税補助金または所定の市場の購入者への接近手段に交換されてもよい。炭素クレジットはまた、生物を成長させることを含まないものなどの、他の炭素放出プロセスの使用に交換されてもよい。例えば、ある団体が、例えば、一か月または一年の期間放出してもよいが、期限を超えると罰金またはペナルティーを科されるという限られた数の放出権を有していてもよい。しかしながら、炭素クレジットでは、その期限を超えた団体が罰金またはペナルティーを相殺するために炭素クレジットを交換してもよいまたはその団体が発生させる特定放出量を測定する際に考慮されてもよい。
【0149】
本ビジネス方法はまた、炭素クレジットを販売しながら、燃料製品、芳香剤等の製品を製造することを包含する。
【0150】
本明細書におけるビジネス方法はまた、芳香剤や殺虫剤等の燃料製品以外の製品を販売することを包含する。炭素クレジットを使用することに関わるものなどの、燃料製品に関連するビジネス方法はまた、他のタイプの有用な製品及び材料の製造に関する。
【0151】
本明細書で提供される別の方法としては、組成物のδ13C分布の測定結果を得;前記測定結果を用いて前記組成物を標識化することを有する、組成物の標識化方法がある。ある実施形態では、標識化は、組成物のδ13C分布を示すことを有する。ある実施形態では、標識化は、組成物のδ13C分布を示し、この際の組成物のδ13C分布の測定結果は−32‰未満である。ある形態では、組成物は、燃料成分を含んでもよい燃料製品である。標識化は、物質のラベル(physical label)を組成物に付加してもまたは物質のラベルを組成物を含むパッケージに付加してもよい。標識化工程は、コンピューターで解読可能なラベルおよび/または再生可能資源を示すラベルを有していてもよい。態様によっては、本明細書に記載される方法は、さらに、組成物を追跡する工程を有していてもよい。ある形態では、上記追跡は、1)未知の組成物の炭素同位体分布を上記測定結果と比較し;2)組成物の位置を同定し、および/または;3)コンピューターシステムを用いて組成物をモニターすることを有していてもよい。
【0152】
本発明の具体的な実施形態を本明細書で示し、説明してきたが、このような実施形態は例示によってのみ提供されることは当業者には自明であろう。多数のバリエーション、変更、および置換が本発明から逸脱しないかぎり当業者に起こるであろう。本明細書に記載される本発明の実施形態の様々な置換が本発明を実施するにあたって使用されてもよいと、理解されるべきである。
【実施例1】
【0153】
C.reinhardtiiにおけるモノテルペンシンターゼの製造
本実施例では、M.spicata由来のリモネンシンターゼを符号化する核酸を、C.reinhardtiiに導入した。形質転換用DNAを模式的に図1Aに示す。この例において、「トランス遺伝子」で示されるセグメントは、C.reinhardtii由来のpsbA遺伝子用の5’UTRおよびプロモーター配列、並びに、C.reinharditii由来のpsbA遺伝子用の3’UTRにより制御されるリモネンシンターゼを符号化する遺伝子であり、「選択可能マーカー」で示されるセグメントは、細菌由来のカナマイシン耐性コード遺伝子であり、これはC.reinhardtii由来のatpA遺伝子用の5’UTRおよびプロモーター配列、並びに、C.reinhardtii由来のrbcL遺伝子用の3’UTRにより制御されている。このトランス遺伝子カセットは、「ホモロジーA」および「ホモロジーB」で示されるセグメントを介してC.reinhardtiiのpsbA領域に標的化されており、これらのセグメントはそれぞれ5’末端および3’末端のpsbA領域に位置するDNAの配列と同一である。この形質転換DNAの構築において行なったすべてのDNA操作は、実質的にSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989)およびCohen et al., Meth. Enzymol. 297, 192−208, 1998に記載されている。
【0154】
これらの実験について、すべての形質転換はC.reinhardtii株137c(mt+)に対して行なった。細胞を、0.5mM 5−フルオロデオキシウリジンの存在下、TAP培地(本明細書に参照により引用される、Gorman and Levine, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 54:1665−1669, 1965)中で23℃にて450ルクスの一定照度のもと、100rpmに設定されたロータリーシェーカー上で後期対数期まで(約7日間)増殖させた。この細胞50mLを、23℃にて5分間、4000×gの遠心分離により回収した。上清をデカントにより除去し、4mLのTAP培地に細胞を再懸濁させて、その後の粒子衝突による葉緑体の形質転換(Cohen et al., supra, 1998)に用いた。すべての形質転換は、カナマイシン選択(100μg/mL)のもとで行なわれた。この耐性は、図1Aにおける「選択可能マーカー」(Chlamydomonas Stock Center, Duke University)で示されるセグメントにより符号化される遺伝子により与えられたものである。
【0155】
形質転換された株の同定にはPCRを用いた。PCR分析用には、106個の藻細胞(寒天プレートまたは液体培地から)を10mM EDTAに懸濁させ、95℃で10分間加熱した後、23℃付近まで冷却した。反応緩衝液、MgCl2、dNTP、PCRプライマー対、DNAポリメラーゼ、および水からなるPCRカクテルを調製した。ECTA中の藻溶解物を添加して、反応用のテンプレートとして用いた。添加したEDTA中の藻溶解物の量および濃度を補償するためには、マグネシウム濃度を変化させる。アニーリング温度の勾配を用いて、特定のプライマー対に対する最適アニーリング温度を決定した。
【0156】
リモネンシンターゼ遺伝子を含有する株を同定する目的で、プライマー対を用いた。このプライマー対のうちの1つはpsbAの5’UTR内の領域にアニールし、他方のプライマーはリモネンシンターゼコードセグメント内にアニールする。所望のクローンでは、予想されたサイズのPCR産物が得られる。内因性の遺伝子座が置換された程度(ヘテロプラズミック対ホモプラズミック)を決定すべく、2セットのプライマー対を含むPCR反応を行なった(同じ反応)。第1のプライマー対は、発現ベクターにより標的化された内因性領域を増幅するもので、psbAの5’UTR内にアニールするプライマーおよびpsbAのコード領域内にアニールするプライマーからなる。第2のプライマー対は、発現ベクターにより標的化されていない、定常の(つまり、コントロールの)領域を増幅するものであり、よってすべての場合において予想されたサイズの産物を生成するはずである。この反応により、PCR反応を阻害する細胞および/またはその他の汚染物質により内因性領域からのPCR産物の不存在が生じたのではなかったことを確認する。プライマー対の濃度を変化させて、双方の反応を同一のチューブ内で進行させるが、内因性領域用のプライマー対の濃度は定常領域用のプライマー対濃度の5倍である。感度を上げるため、30を超えるサイクル数を用いた。最も望まれるクローンは、定常領域に対しては産物を生成するが内因性の遺伝子座に対しては生成しないものである。コントロール反応に対して内因性の遺伝子座の産物の強度が低いものもまた、望まれるクローンである。
【0157】
リモネンシンターゼの発現用のC.reinhardtiiの形質転換体の培養は、特に記載しない限り、液体TAP培地中、23℃で、暗所において100rpmに設定されたロータリーシェーカー上で行なった。回収前の少なくとも48時間は、培養を1×107細胞/mLに維持した。
【0158】
形質転換された藻細胞においてリモネンシンターゼ遺伝子がリモネンシンターゼの発現を誘導したかどうかを調べるために、双方の可溶性タンパク質を免疫沈降させて、ウエスタンブロットにより可視化した。概説すれば、500mLの藻細胞培養物を4℃にて15分間、4000×gの遠心分離により回収した。上清をデカントにより除去し、細胞を10mLの溶解緩衝液(100mM Tris−HCl、pH=8.0、300mM NaCl、2%Tween−20)に再懸濁させた。超音波(35%強度で10×30秒)によって細胞を溶解させた。溶解物を4℃にて1時間、14000×の遠心分離によって清浄化させた。上清を除去し、4℃にて10時間、抗FLAG抗体共役アガロース樹脂とともにインキュベートした。重力濾過によって溶解物から樹脂を分離し、洗浄緩衝液(100mM Tris−HCl、pH=8.0、300mM NaCl、2%Tween−20)を用いて3回洗浄した。複数のサンプルのウエスタンブロット解析による結果(図2)から、リモネンシンターゼが実際に製造されていることがわかる。
【0159】
藻の葉緑体で製造されたリモネンシンターゼが機能を有する酵素であるかどうかを調べるために、GPPからのリモネンの生成を評価した。概説すれば、50μLのリモネンシンターゼ結合アガロース(上記で調製したのと同一のサンプル)を、300μLの反応緩衝液(25mM HEPES、pH=7.2、100mM KCl、10mM MnCl2、10%グリセロール、および5mM DTT)に0.33mg/mL GPPとともに懸濁させて、ガラスバイアルに移した。反応をヘプタンで重層し、23℃にて12時間インキュベートした。反応を停止させ、混合物をボルテックスにより抽出した。0.1mLのヘプタンを除去し、サンプルをGC−MSにより分析した。結果を図3に示す。
【0160】
粗細胞溶解物からのリモネンシンターゼの活性についても評価した。概説すれば、50mLの藻細胞培養物を4℃にて15分間、4000×gの遠心分離により回収した。上清をデカントにより除去し、細胞を0.5mLの反応緩衝液(25mM HEPES、pH=7.2、100mM KCl、10mM MnCl2、10%グリセロール、および5mM DTT)に再懸濁させた。超音波(35%の強度で10×30秒)によって細胞を溶解させた。溶解物に0.33mg/mLのGPPを添加し、混合物をガラスバイアルに移した。反応をヘプタンで重層し、23℃にて12時間インキュベートした。反応を停止させ、混合物をボルテックスにより抽出した。0.1mLのヘプタンを除去し、サンプルをGC−MSにより分析した。結果を図3に示す。
【実施例2】
【0161】
C.reinhardtiiにおけるFPPシンターゼおよびセスキテルペンシンターゼの製造
本実施例では、G.gallus由来のFPPシンターゼ、およびO.basilicum由来のジンギベレンシンターゼを符号化する核酸を、C.reinhardtiiに導入した。形質転換用のDNAを模式的に図1Cに示す。この例において、「トランス遺伝子1」で示されるセグメントは、C.reinhardtii由来のpsbD遺伝子用の5’UTRおよびプロモーター配列、並びに、C.reinharditii由来のpsbA遺伝子用の3’UTRにより制御されるFPPシンターゼを符号化する遺伝子であり、「トランス遺伝子2」で示されるセグメントは、C.reinhardtii由来のpsbD遺伝子用の5’UTRおよびプロモーター配列、並びに、C.reinharditii由来のpsbA遺伝子用の3’UTRにより制御されるジンギベレンシンターゼを符号化する遺伝子であり、「選択可能マーカー」で示されるセグメントは、細菌由来のカナマイシン耐性コード遺伝子であり、これはC.reinhardtii由来のatpA遺伝子用の5’UTRおよびプロモーター配列、並びに、C.reinhardtii由来のrbcL遺伝子用の3’UTRにより制御されている。このトランス遺伝子カセットは、「ホモロジーC」および「ホモロジーD」で示されるセグメントを介してC.reinhardtiiの3HB領域に標的化されており、これらのセグメントはそれぞれ5’末端および3’末端の3HB領域に位置するDNAの配列と同一である。この形質転換DNAの構築において行なったすべてのDNA操作は、実質的にSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989)およびCohen et al., Meth. Enzymol. 297, 192−208, 1998に記載されている。
【0162】
これらの実験について、すべての形質転換はC.reinhardtii株137c(mt+)に対して行なった。細胞を、0.5mM 5−フルオロデオキシウリジンの存在下、TAP培地(本明細書に参照により引用される、Gorman and Levine, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 54:1665−1669, 1965)中で23℃にて450ルクスの一定照度のもと、100rpmに設定されたロータリーシェーカー上で後期対数期まで(約7日間)増殖させた。この細胞50mLを、23℃にて5分間、4000×gの遠心分離により回収した。上清をデカントにより除去し、4mLのTAP培地に細胞を再懸濁させて、その後の粒子衝突による葉緑体の形質転換(Cohen et al., supra, 1998)に用いた。すべての形質転換は、カナマイシン選択(100μg/mL)のもとで行なわれた。この耐性は、図1Cにおける「選択可能マーカー」(Chlamydomonas Stock Center, Duke University)で示されるセグメントにより符号化される遺伝子により与えられたものである。
【0163】
形質転換された株の同定にはPCRを用いた。PCR分析用には、106個の藻細胞(寒天プレートまたは液体培地から)を10mM EDTAに懸濁させ、95℃で10分間加熱した後、23℃付近まで冷却した。反応緩衝液、MgCl2、dNTP、PCRプライマー対、DNAポリメラーゼ、および水からなるPCRカクテルを調製した。ECTA中の藻溶解物を添加して、反応用のテンプレートとして用いた。添加したEDTA中の藻溶解物の量および濃度を補償するためには、マグネシウム濃度を変化させる。アニーリング温度の勾配を用いて、特定のプライマー対に対する最適アニーリング温度を決定した。FPPシンターゼ遺伝子を含有する株を同定する目的で、プライマー対を用いた。このプライマー対のうちの1つはpsbDの5’UTR内の領域にアニールし、他方のプライマーはFPPシンターゼコードセグメント内にアニールする。ジンギベレンシンターゼ遺伝子を含有する株を同定する目的で、プライマー対を用いた。このプライマー対のうちの1つはpsbDの5’UTR内の領域にアニールし、他方のプライマーはジンギベレンシンターゼコードセグメント内にアニールする。所望のクローンでは、予想されたサイズのPCR産物が得られる。内因性の遺伝子座が置換された程度(ヘテロプラズミック対ホモプラズミック)を決定すべく、2セットのプライマー対を含むPCR反応を行なった(同じ反応)。第1のプライマー対は、発現ベクターにより標的化された内因性領域を増幅するものである。第2のプライマー対は、発現ベクターにより標的化されていない、定常の(つまり、コントロールの)領域を増幅するものであり、よってすべての場合において予想されたサイズの産物を生成するはずである。この反応により、PCR反応を阻害する細胞および/またはその他の汚染物質により内因性領域からのPCR産物の不存在が生じたのではなかったことを確認する。プライマー対の濃度を変化させて、双方の反応を同一のチューブ内で進行させるが、内因性領域用のプライマー対の濃度は定常領域用のプライマー対濃度の5倍である。感度を上げるため、30を超えるサイクル数を用いた。最も望まれるクローンは、定常領域に対しては産物を生成するが内因性の遺伝子座に対しては生成しないものである。コントロール反応に対して内因性の遺伝子座の産物の強度が低いものもまた、望まれるクローンである。
【0164】
FPPシンターゼおよびジンギベレンシンターゼの遺伝子によってFPPシンターゼおよびジンギベレンシンターゼの酵素の発現が誘導されていることを確認すべく、ウエスタンブロットを行なった。約1×108個の藻細胞をTAP寒天培地から回収し、0.05mLの溶解緩衝液(Bugbuster, Novagen)に懸濁させた。溶液を95℃まで5分間加熱し、次いで23℃まで冷却した。溶解物をローディング緩衝液(XTサンプル緩衝液、Bio−Rad)と3:1で混合し、サンプルを95℃まで1分間加熱し、23℃まで冷却し、不溶性タンパク質を遠心分離により除去した。可溶性タンパク質をSDS−PAGEにより分離し、次いでPVDF膜に転写した。この膜をTBST+5%乾燥脱脂乳で23℃にて30分間ブロックし、抗FLAG抗体(TBST+5%乾燥脱脂乳中、1:2500希釈)とともに4℃にて10時間インキュベートし、TBSTで3回洗浄し、セイヨウワサビ共役抗マウス抗体(TBST+5%乾燥脱脂乳中、1:5000希釈)とともに23℃にて1時間インキュベートし、TBSTで3回洗浄した。化学発光検出によりタンパク質を可視化した。複数のクローンによる結果(図4)から、C.reinhardtii細胞におけるGPPシンターゼ遺伝子の発現により該タンパク質の製造がもたらされていることがわかる。
【0165】
特に記載しない限り、FPPシンターゼおよびジンギベレンシンターゼの発現のためのC.reinhardtii形質転換体の培養を、液体TAP培地中、23℃にて、5000ルクスの一定照度のもと、100rpmに設定されたロータリーシェーカー上で行なった。回収前の少なくとも48時間は、1×107細胞/mLの密度に培養を維持した。
【0166】
藻の葉緑体において生成したFPPシンターゼおよびジンギベレンシンターゼが機能するかどうかを調べる目的で、DMAPPおよびIPPからのセスキテルペンの生成を評価した。概説すれば、50mLの藻細胞培養物を、4℃にて15分間、4000×gの遠心分離により回収した。上清をデカントにより除去し、細胞を0.5mLの反応緩衝液(25mM HEPES、PH=7.2、100mM KCl、10mM MnCl2、10%グリセロール、および5mM DTT)に再懸濁させた。超音波(35%の強度で10×30秒)により細胞を溶解させた。0.33mg/mLのFPPを溶解物に添加し、混合物をガラスバイアルに移した。反応をヘプタンで重層し、23℃にて12時間インキュベートした。反応を停止させ、混合物をボルテックスにより抽出した。0.1mLのヘプタンを除去し、サンプルをガスクロマトグラフィ−質量分析(GC−MS)により分析した。
【実施例3】
【0167】
煙道ガスと接触して生長した藻を含むサンプルのδ13C分布の測定
液体サンプル用の技術としては、EA−IRMS(元素分析器−同位体質量分析)を用いた。この技術では、サンプルおよび対照をカプセル中に秤量し、封止し、ユーロパサイエンティフィック元素分析器のオートサンプラー中にロードする。次いでこのサンプルは、1000℃に維持された炉内に順に落とされ、酸素の存在下で燃やされる。薄いカプセルは一瞬で燃焼し、サンプル領域の温度は1700℃にまで上昇する。燃焼ガスをヘリウム流によって燃焼触媒(Cr23)、銅酸化物ワイヤ(炭化水素を酸化する)、および銀ウール上を掃引して、硫黄およびハライドを除去する。得られたガスと、N2、NOx、H2O、O2、およびCO2を600℃に維持された純銅ワイヤの還元ステージ中を掃引する。これにより酸素が除去され、NOx種はN2へと変換される。過塩素酸マグネシウムの化学トラップを用いて水を除去する。100℃の一定温度に維持された、充填カラムガスクロマトグラフを用いて、窒素および二酸化炭素を分離する。得られた二酸化炭素のピークをユーロパサイエンティフィック20−20IRMSのイオン源に導入し、イオン化して加速させる。異なる質量のガス種を磁場で分離し、これと同時にファラデーカップ収集器アレイを用いてCO2のアイソトポマーをm/z44、45および46で測定する。この分析はバッチプロセスで進め、参照を分析し、次いで多くのサンプル、次いで他の参照を分析する。分析に用いた参照用材料はIA−R001(Iso−Analytical、常用標準小麦粉、δ13VPDB=−26.43‰)を含んでいた。サンプルの分析時の品質管理用にはIAEA−CH−6(IAEAスクロース標準、δ13VPDB=−10.43‰)およびIA−R005(Iso−Analytical、常用標準甜菜糖標準)を測定した。IAEA−CH−6は、国際エネルギー機関(IAEA)により頒布されているラボ間での比較用標準である。IA−R001およびIA−R006をIAEA−CH−6に対して較正すると、追跡可能である。炭素−13分析に用いた参照用材料は、δ13C値が対PDBで−28.06‰のIso−Analytical鉱油標準(IA−R002)を含んでいた。IA−R002は許容できるδ13C値(対PDBで−29.81‰)を有するNBS−22(鉱油;IAEAにより頒布されている)に対して追跡可能である。サンプルの各バッチ分析における品質管理チェック用サンプルとしては、IA−R002、IA−R024(Iso−Analytical、オリーブ油標準、−29.27‰のδ13C、NBS−22に対して追跡可能)およびIA−R044(Iso−Analytical、トウモロコシ油標準、−16.27‰のδ13C、NBS−22に対して追跡可能)を用いた。
【0168】
二酸化炭素サンプルの分析に用いた技術は、GC−IRMS(ガスクロマトグラフィ−同位体比質量分析)であった。この技術では、サンプルガスのアリコートをシリンジおよび針を用いてガスバッグ(セプタムが装着されている)から採取する。このガスサンプルを、二酸化炭素を分解充填カラムガスクロマトグラフ(カラムタイプ:Porapak Q、80/100メッシュ、6’×1/4”SS)に注入し、40℃の等温GC温度に維持する。20psiのカラム圧力で、カラム内の流速は約60mL/minであった。得られたCO2のクロマトグラフィピークをユーロパサイエンティフィック20−20IRMSのイオン源に導入し、イオン化して加速させる。異なる質量のガス種を磁場で分離し、これと同時にファラデーカップ収集器アレイを用いて44、45および46の質量を13C分析用に測定する。参照用ガス(CO2)のサンプルを、サンプルと同一の流通パスを用いてGC−IRMS中に注入する。サンプルガスのδ13C値の測定に用いた参照用ガスはIA−R060(δ13C=−35.63‰(対V−PDB))であった。IA−R060は、国際エネルギー機関(ウィーン)により同位体参照用標準として頒布されているNBS−19(+1.95‰のδ13C値(対V−PDB))に対して追跡可能である。IA−R060のサンプルを、チェックサンプルとして品質管理用のサンプルと併せて分析した。
【0169】
穀物(甜菜糖、スクロース、オリーブ油、トウモロコシ油、小麦粉、甘薯糖など)、ガスサンプル(大気、煙道ガスなど)、および粗製石油などの種々のサンプル化合物のδ13C分布を測定した実験の結果。比較用として、藻サンプル(大気中で成長した藻、二酸化炭素量が制限された煙道ガス中で成長した藻、および二酸化炭素量が過剰な煙道ガス中で成長した藻)のδ13C分布を測定し、本明細書に記載の燃料製品または組成物などの有機分子への無機炭素源からの炭素の炭素固定の導入を評価した。この結果を図5にまとめた。
【0170】
通常は大気中で成長する穀物では、平均で−20.02‰のδ13C分布を示した。穀物のδ13C分布の値の範囲は、−10.43‰(スクロース)〜−29.28‰(オリーブ油)であった。穀物に関する他のδ13C値は、甘薯糖について−11.66‰、トウモロコシ油について−16.22‰、甜菜糖について−26.03‰、および小麦粉について−26.47‰であった。これらのδ13Cの値はすべて、−32‰より大きい。
【0171】
粗製石油サンプルについては、9つの異なる源から採取した。原油サンプルの平均δ13C値は−27.76‰であり、−26.77〜−30.18‰だった。これらの値は、化石燃料のδ13C値の既知の値と整合するものである。これらのδ13Cの値は−32‰超のことから、煙道ガスまたは本明細書に記載の化石燃料由来の無機炭素源と接触しながらここ最近(50年以内)に成長した光合成生物から抽出される製品または組成物のδ13C分布を示すことはない。
【0172】
図5に示すように、煙道ガスは−35.92‰のδ13C分布を示した。煙道ガスは、石油燃料製品または化石燃料製品の燃焼によるものでありうる。比較として、大気のδ13C分布は約−8〜−8.5‰であると考えられる。
【0173】
フォトバイオリアクター中にガスを泡立て、藻を成長させた。3つの異なるタイプの藻を成長させ、1つは大気と接触させて、1つは制限された煙道ガスと接触させて、もう1つは過剰な煙道ガスと接触させて成長させた。例えば、制限された煙道ガス中で成長した藻には、煙道ガス由来の二酸化炭素を含むガスを泡立て、この際、該ガス中の二酸化炭素の量は大気中の二酸化炭素の量と同様(つまり、約1%未満)であった。例えば、過剰な煙道ガス中で成長した藻には、煙道ガス由来の二酸化炭素を含むガスを泡立て、この際、供給されたガス中の二酸化炭素の量は、ガスの全量に対して約3〜7%(つまり、約5%)であった。また、2つの他の藻サンプル(開放された池における分離施設で制限された煙道ガス中で成長した藻;および、分離施設で過剰な煙道ガス中で成長した藻)も分析した。次いで、この藻サンプルを乾燥し、燃焼させて、本明細書の実施例に記載のように該サンプルのδ13C分布を測定した。
【0174】
大気中で、制限された煙道ガス中で、および過剰な煙道ガス中で成長した藻サンプルのδ13C分布を測定した結果を図5に示す。大気中で成長した藻のあるサンプルのδ13C分布は−12.90‰であった。この結果は予想されたものである。これは例えば、上述したように、光合成生物は本明細書に記載のRuBisCO酵素によって光合成時には13Cよりも12Cを好むことによる。したがって、光合成生物および有機分子は、無機炭素源のδ13C分布よりも小さいδ13C分布を有するはずである。
【0175】
制限された煙道ガス中で成長した6つの藻サンプルを分析したところ、平均で−22.57‰のδ13C分布を有し、その範囲は−14.87〜−32.03‰だった。このように分散しているのは、供給された煙道ガスの量、煙道ガスの速度、より効率的な炭素固定またはRuBisCOが可能だったかもしれない藻の種類の違い、または成長時に生物に照射した光の量などによる可能性がある。一例として、2つの藻サンプルは最大で−14.87‰および−16.28‰のδ13Cを示したが、これらのサンプルはいずれも、他の4つのサンプルよりも多い量の重炭酸塩と接触して成長したものである。重炭酸塩は煙道ガスよりも大きいδ13C値を有し、かつ、藻にとっての無機炭素源であることから、これらの生物における重炭酸塩および煙道ガスの双方の炭素固定により、この値はおそらく、より小さい。
【0176】
過剰な煙道ガス中で成長した5つの藻サンプルを分析したところ、平均で−52.06‰のδ13C分布を有し、その範囲は−40.65〜−55.34‰だった。過剰な煙道ガスは、化石燃料の燃焼により得られる煙道ガスであった。過剰な煙道ガス中で成長した藻のδ13C値はすべて、−32‰未満である。藻の内部の有機分子は煙道ガスの無機炭素を用いて炭素固定されたものであり、よって該分子のδ13C分布は小さく、石油または他の化石燃料で見られるのよりも小さいδ13分布である。組成物および/または燃料の製品は−32‰未満のδ13C分布(例えば、−40.65〜−55.34‰)を有する藻から抽出、精製することができる。この組成物は、δ13C分布が石油における既知のδ13C分布および本実施例において測定した石油のδ13C分布よりも小さいことを除けば、燃料製品に用いられる石油組成物と同一であるか、または類似していてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素原子および炭素原子を含む分子を含む組成物であって、前記水素原子および炭素原子は前記組成物の重量の少なくとも80%であり、前記組成物のδ13C分布は−32‰未満である、組成物。
【請求項2】
イソプレン単位を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記水素原子および炭素原子が前記組成物の重量の少なくとも90%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記水素原子および炭素原子が前記組成物の重量の少なくとも95%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記水素原子および炭素原子が前記組成物の重量の少なくとも99%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記水素原子および炭素原子が前記組成物の重量の100%である、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物は液体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は燃料添加物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は燃料製品である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物はテルペンまたはテルペノイドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物は脂肪酸ではない、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物は脂肪酸エステルではない、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物のδ13C分布は−35‰未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物のδ13C分布は−40‰未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物は85〜120のオクタン価を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物は90超のオクタン価を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
(a)水素原子および炭素原子を含む分子を含む組成物であって、前記水素原子および炭素原子は前記組成物の重量の少なくとも80%であり、前記組成物のδ13C分布は−32‰未満である、組成物と、
(b)燃料成分と
を含む燃料製品。
【請求項18】
前記燃料成分は、化石燃料、燃料ブレンドの混合物、ガソリン、ディーゼル、エタノール、ジェット燃料、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択されるブレンド燃料である、請求項17に記載の燃料製品。
【請求項19】
前記ブレンド燃料は−32‰超のδ13C分布を有する、請求項18に記載の燃料製品。
【請求項20】
前記燃料成分は、MTBE、酸化防止剤、帯電防止剤、腐食防止剤、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される燃料添加剤である、請求項17に記載の燃料製品。
【請求項21】
前記組成物はイソプレン単位を含む、請求項17に記載の燃料製品。
【請求項22】
前記水素原子および炭素原子は前記組成物の重量の少なくとも90%である、請求項17に記載の燃料製品。
【請求項23】
前記水素原子および炭素原子は前記組成物の重量の少なくとも95%である、請求項17に記載の燃料製品。
【請求項24】
前記水素原子および炭素原子は前記組成物の重量の少なくとも99%である、請求項17に記載の燃料製品。
【請求項25】
前記水素原子および炭素原子は前記組成物の重量の100%である、請求項22に記載の燃料製品。
【請求項26】
前記組成物はテルペンまたはテルペノイドである、請求項17に記載の燃料製品。
【請求項27】
前記組成物は液体である、請求項17に記載の燃料製品。
【請求項28】
前記組成物は脂肪酸ではない、請求項17に記載の燃料製品。
【請求項29】
前記組成物は脂肪酸エステルではない、請求項17に記載の燃料製品。
【請求項30】
組成物を燃焼させて二酸化炭素を生成させる工程を含む、二酸化炭素の生成方法であって、前記二酸化炭素は−32‰未満のδ13C分布を有する、方法。
【請求項31】
前記二酸化炭素は−35‰未満のδ13C分布を有する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記二酸化炭素は−40‰未満のδ13C分布を有する、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記燃焼工程は、ガソリンエンジン中で行われる、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記燃焼工程は、ディーゼルエンジン中で行われる、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記燃焼工程は、ジェットエンジン中で行われる、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物を無維管束光合成生物から抽出する工程をさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
前記生物において酵素をアップレギュレートする工程をさらに含み、前記酵素の産生物が前記組成物である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記酵素は前記生物中に天然には存在しない、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
組成物をラベル化する方法であって、
(a)前記組成物のδ13C分布の測定結果を得る工程と、
(b)前記測定結果を用いて前記組成物をラベル化する工程と
を含む方法。
【請求項40】
前記ラベル化する工程は、前記組成物のδ13C分布の測定結果を示す工程を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記組成物のδ13C分布の測定結果は−32‰未満である、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記組成物は燃料製品である、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記組成物は燃料成分を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記ラベル化する工程は再生可能資源を示す工程を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項45】
前記組成物を追跡する工程をさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項46】
前記追跡する工程は、未知の組成物の炭素同位体分布を前記測定結果と比較する工程を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記追跡する工程は、前記組成物の位置を同定する工程を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記追跡する工程は、前記組成物をコンピュータシステムを用いてモニターする工程を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
(a)無維管束光合成生物を成長させる工程であって、前記生物が第1の燃料製品を製造する、工程と、
(b)前記生物を無機炭素源と接触させる工程と、
(c)前記無機炭素源からの炭素を前記第1の燃料製品中に導入する工程であって、前記第1の燃料製品は−32‰未満のδ13C分布を有する、工程と
を含む、無維管束光合成生物からの燃料製品の製造方法。
【請求項50】
前記無機炭素源は13Cを含む二酸化炭素および12Cを含む二酸化炭素を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記生物を無機炭素源に接触させる工程が、前記生物を過剰な無機炭素源に接触させる工程を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記生物は最終産物が前記第1の燃料製品である1または2以上の酵素をコードする1または2以上の核酸を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記核酸は異種である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記第1の燃料製品は、前記生物によって天然に製造されるものではない、請求項49に記載の方法。
【請求項55】
前記第1の燃料製品はテルペンまたはテルペノイドを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項56】
前記無機炭素は化石燃料の無機炭素である、請求項49に記載の方法。
【請求項57】
前記化石燃料の無機炭素は、−32‰超のδ13C分布を有する、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記第1の燃料製品を抽出する工程をさらに含む、請求項49に記載の方法。
【請求項59】
前記第1の燃料製品を精製する工程をさらに含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記精製する工程は、水素化分解、接触分解、水蒸気クラッキング、クラッキング、画分化、蒸留、水素処理およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される処理の少なくとも1つを含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記第1の燃料製品および燃料成分を含む燃料製品を製造する工程をさらに含む、請求項58に記載の方法。
【請求項62】
前記第1の燃料製品を燃焼させて、δ13Cリッチな無機炭素を製造する工程をさらに含む、請求項49に記載の方法。
【請求項63】
前記δ13Cリッチな無機炭素は−32‰未満のδ13C分布を有する、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
炭素クレジットを販売するビジネス方法であって、
(a)組成物についてのδ13C分布の測定結果を得ることと、
(b)前記組成物の前記δ13C分布を参照用δ13C分布と比較することと、
(c)前記組成物のδ13C分布が参照用δ13C分布よりも小さい場合に、炭素クレジットを事業者に販売することであって、前記事業者は、前記組成物の所有者または使用者である、工程と
を含む、方法。
【請求項65】
前記参照用δ13C分布は約−32‰である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記測定結果を用いて前記組成物をラベル化する工程をさらに含む、請求項64に記載の方法。
【請求項67】
前記組成物を追跡する工程をさらに含む、請求項64に記載の方法。
【請求項68】
燃料製品の製造方法であって、
(a)無維管束光合成生物を成長させる工程と、
(b)前記生物を排ガスと接触させる工程と、
(c)前記無維管束光合成生物から燃料製品を抽出する工程と
を含む、方法。
【請求項69】
前記生物を遺伝的に修飾する工程をさらに含む、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記燃料製品は前記生物において天然には産生されない、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記燃料製品は、水素原子および炭素原子を含み、前記水素原子および炭素原子は前記組成物の重量の少なくとも90%であり、前記組成物のδ13C分布は−32‰未満である、請求項68に記載の方法。
【請求項72】
前記燃料製品を精製する工程をさらに含む、請求項68に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−539294(P2010−539294A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524967(P2010−524967)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/075888
【国際公開番号】WO2009/036087
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(509328308)サファイア エナジー,インコーポレイティド (5)
【Fターム(参考)】