光吸収膜、その製造方法およびそれを用いた太陽光集熱器
【課題】光吸収率の高い光吸収膜およびそれを備える太陽光集熱器を提供する。
【解決手段】酸化チタニウム100重量部と、カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜、その光吸収膜を備える太陽光集熱器である。別の形態は、酸化チタニウム100重量部と、カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜を製造する方法であって、カーボンナノチューブを溶媒に混合する混合ステップと、酸化チタニウムを生成するための酸化チタニウム前駆体溶液と、カーボンナノチューブを混合した溶媒とを基板に塗布し加熱する塗布ステップと、を有する光吸収膜の製造方法である。
【解決手段】酸化チタニウム100重量部と、カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜、その光吸収膜を備える太陽光集熱器である。別の形態は、酸化チタニウム100重量部と、カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜を製造する方法であって、カーボンナノチューブを溶媒に混合する混合ステップと、酸化チタニウムを生成するための酸化チタニウム前駆体溶液と、カーボンナノチューブを混合した溶媒とを基板に塗布し加熱する塗布ステップと、を有する光吸収膜の製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収膜、その製造方法およびそれを用いた太陽光集熱器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題および化石エネルギー資源の枯渇等の観点から、化石燃料代替エネルギーの必要性が高まっている。そこで、太陽光エネルギー利用のひとつとして、太陽光を集光して熱源として利用するための太陽光集熱器が注目されている。また、太陽光を熱に変換する場合、太陽光を電気に変換する場合よりも、太陽光エネルギーを高効率で変換できる。太陽光を集光して得られた熱は、たとえば、給油するために用いることができる。
【0003】
太陽光集熱器に用いられる光吸収膜として、たとえば、窒化クロムを含む膜が用いられているが、窒化クロムは、環境負荷が大きいことが懸念されている。そこで、可視光を吸収する性質を有するチタニウムオキシナイトライド薄膜が提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。また、チタニウムオキシナイトライドにカーボンを添加することで、可視光吸収率を向上させることが開示されている(たとえば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平9−507095号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2006−1820号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の光吸収膜では、チタニウムオキシナイトライドが可視光を吸収できる。特許文献2の光吸収膜では、チタニウムオキシナイトライドが可視光を吸収することに加え、カーボンの添加により、可視光吸収率と赤外光輻射を向上することができる。しかし、光吸収膜の光吸収率をさらに向上させることにより、効率よく集熱することが要望されている。
【0006】
本発明は、かかる要望に応じてなされたものであって、光吸収率の高い光吸収膜、その製造方法、およびそれを用いた太陽光集熱器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、酸化チタニウム100重量部と、カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜とすることで、従来品よりも高い光吸収率を達成できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、酸化チタニウム100重量部と、カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜である。
【0009】
さらに、カーボンナノチューブは、光を照射する面側よりもその裏面側により多く含まれ得る。
【0010】
さらに、光吸収膜は、三次元網目状に形成されると共に、複数の孔が形成されているのが好ましい。
【0011】
さらに、光吸収膜は、表面積が投影面積に対し3倍以上である光照射面を有するのが好ましい。
【0012】
また、別の本発明の一実施の形態は、酸化チタニウム100重量部と、カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜を製造する方法であって、カーボンナノチューブを溶媒に混合する混合ステップと、酸化チタニウムを生成するための酸化チタニウム前駆体溶液と、カーボンナノチューブを混合した溶媒とを基板に塗布し加熱する塗布ステップと、を有する光吸収膜の製造方法である。
【0013】
さらに、混合ステップは、カーボンナノチューブを混合した溶媒に対して圧力を付与し、流れ込んだ溶媒を相互に衝突させて流れ方向を変えるステップを含み得る。
【0014】
さらに、塗布ステップは、加熱された基板にスプレーにより塗布するのが好ましい。
【0015】
また、別の本発明は、酸化チタニウム100重量部とカーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜と、光吸収膜を支持する基板と、を含む太陽光集熱器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光吸収率の高い光吸収膜およびそれを用いた太陽光集熱器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係る光吸収膜の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【図2】ステップS103におけるスプレー方法を説明する概略図である。
【図3】(A)は、0.5wt%カーボンナノチューブ(VGCF−X)混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。(B)は、0.5wt%カーボンナノチューブ(Arkema製)混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。(C)は、0.5wt%カーボンファイバー(VGCF)混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。(D)は、0.5wt%ケッチェンブラック混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。(E)は、図3(A)の混合溶液を分散処理していない状態を示すSEM写真である。(E)は、図3(D)の混合溶液を分散処理していない状態を示すSEM写真である。
【図4】(A)は、実施例1の条件にて得られた光吸収膜の外観を示す写真である。(B)は、実施例2の条件にて得られた光吸収膜の外観を示す写真である。(C)は、実施例3の条件にて得られた光吸収膜の外観を示す写真である。(D)は、実施例4の条件にて得られた光吸収膜の外観を示す写真である。(E)は、比較例1の条件にて得られた光吸収膜の外観を示す写真である。(F)は、比較例2の条件にて得られた光吸収膜に光を当てた状態の外観を示す写真である。(G)は、図4(F)の光吸収膜を、光を消した状態で見た場合の外観を示す写真である。(H)は、比較例3の光吸収膜の外観を示す写真である。
【図5】(A)は、実施例1の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。(B)は、実施例2の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。(C)は、実施例2の条件にて得られた光吸収膜の断面のSEM写真である。(D)は実施例3条件にて得られた光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。(E)は、実施例3の条件にて得られた光吸収膜の断面のSEM写真である。(F)は、実施例4の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。
【図6】(A)は、比較例1の条件にて得られた光吸収膜の断面のSEM写真である。(B)は、図6(A)の光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。(C)は、比較例2の条件にて得られた光吸収膜の断面のSEM写真である。(D)は、図6(C)の光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。(E)は、比較例3の光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。
【図7】(A)は、実施例1の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(B)は、実施例2の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(C)実施例3の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(D)は、実施例4の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。
【図8】(A)は、比較例1の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(B)は、比較例2の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(C)比較例3の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(D)は、比較例4の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。
【図9】実施例2,3,6および比較例2,4の条件にて得られた光吸収膜のXRDチャートである。
【図10】実施例2,比較例1および比較例2の条件にて得られた光吸収膜について、縦軸に光の拡散光の拡散反射率、横軸に照射した光の波長を示すグラフである。
【図11】実施例1〜4,比較例3の条件にて得られた光吸収膜について、縦軸に光の拡散光の拡散反射率、横軸に照射した光の波長を示すグラフである。
【図12】実施例6〜8の条件にて得られた光吸収膜について、縦軸に光の拡散光の拡散反射率、横軸に照射した光の波長を示すグラフである。
【図13】実施例7,8の条件にて得られた光吸収膜のXRDチャートである。
【図14】(A)は、実施例7の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(B)は、実施例8の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。
【図15】実施例2および比較例1〜3の条件にて得られた各光吸収膜にキセノンランプを照射した場合の光吸収膜の表面および裏面の温度変化を測定し、縦軸に試料の温度、横軸に照射時間を示すグラフである。
【図16】実施例1〜3,比較例3および比較例5の条件にて得られた各光吸収膜にキセノンランプを照射した場合の光吸収膜の表面および裏面の温度変化を測定し、縦軸に試料の温度、横軸に照射時間を示すグラフである。
【図17】実施例1〜3,比較例3および比較例5の条件にて得られた各光吸収膜に太陽光を照射した場合の光吸収膜の表面および裏面の温度変化を測定し、縦軸に試料の温度、横軸に照射時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の光吸収膜、その製造方法、および光吸収膜を用いた太陽光集熱器の好適な実施の形態について説明する。
【0019】
1.光吸収膜
本実施の形態に係る光吸収膜は、酸化チタニウムおよびカーボンナノチューブを主に含む。以下、酸化チタニウムおよびカーボンナノチューブについてそれぞれ説明する。
【0020】
(A)酸化チタニウム
この実施の形態で使用可能な酸化チタニウムは、酸化雰囲気にて熱分解して酸化チタニウムとなることができる酸化チタニウム前駆体を原料とする。このような酸化チタニウム前駆体としては、有機チタニウム化合物および無機チタニウム化合物が存在する。
【0021】
有機チタニウム化合物としては、テトライソプロポキシチタニウム、テトラブトキシチタニウム、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタニウム、テトラステアリルオキシチタニウム、ジイソプロポキシチタニウムビス(アセチルアセトナト)、ジノルマルブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタニウム、チタニウムステアレート、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコレート、テトライソプロポキシチタニウム重合体、テトラノルマルブトキシチタニウム重合体、ジヒドロキシビス(ラクタト)チタニウム、プロパンジオキシチタニウムビス(エチルアセトアセテート)、オキソチタニウムビス(モノアンモニウムオキサレート)、トリノルマルブトキシチタニウムモノステアレート、ジイソプロポキシチタニウムジステアレート、ジヒドロキシビス(ラクタト)チタニウムアンモニウム塩、およびテトラ−メトキシチタニウム等が挙げられる。これらの有機チタニウム化合物は、単独で、または2種以上からなる化合物を組み合わせて用いられる。これらの有機チタニウム化合物の内でも、ジイソプロポキシチタニウムビス(アセチルアセトナト)、テトラノルマルブトキシチタニウム、テトライソプロポキシチタニウム、ジノルマルブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタニウム、およびチタニウムイソプロポキシオクチレングリコレートの内から選ばれた1種以上からなるものは、材料の保存安定性、溶剤の選択性、熱分解温度と結晶化温度の関係および基板への付着性の点等から好ましく用いることができる。
【0022】
無機チタニウム化合物としては、塩化チタニウム(TiCl4)等が挙げられる。なお、無機チタニウム化合物と有機チタニウム化合物とを混合して用いても良い。
【0023】
酸化チタニウム前駆体は、そのまま用いてもよいし、溶媒や分散媒を用いて、溶液または、コロイド溶液、乳濁液もしくは懸濁液といった分散液として用いてもよい。特に、酸化チタニウム前駆体をスプレーにて吹き付ける場合には、流動性を向上させるために、酸化チタニウム前駆体を溶液や分散液として用いるのが好ましい。
【0024】
酸化チタニウム前駆体を溶液あるいは分散液として用いるための溶媒あるいは分散媒としては、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノールといったアルコール類、ヘキサン、トルエン、クロロベンゼン、塩化メチルあるいはパークロロエチレン等を好適に用いることができる。また、溶媒や分散媒は少量の水を含んでいても良い。しかし、酸化チタニウム前駆体の溶液あるいは分散液をスプレーにより吹きつけた際に、溶媒あるいは分散媒が基板に到達する前に揮発しないよう、ある程度沸点が高い有機溶媒を用いるのが好ましい。また、スプレーによる吐出が容易であるために、粘性の低い有機溶剤を用いるのがさらに好ましい。
【0025】
溶媒や分散媒へのチタニウム化合物の溶解濃度あるいは分散濃度は、基板への塗布のしやすさ、形成する光吸収膜の厚さ、酸化チタニウムの結晶化状態等から適宜選択することができる。前述したチタニウム化合物を液体の場合はそのまま、あるいは溶液や分散液として、一方、固体の場合は、粉体としてそのまま、あるいは溶液や分散液として、熱分解可能な温度に熱した基板上に、酸化雰囲気下にて塗布することにより、酸化チタニウムが生成される。
【0026】
溶媒や分散媒へのチタニウム化合物の溶解濃度あるいは分散濃度は、基板への塗布のし易さ、形成する光吸収膜の厚さ、結晶化の状態等から適宜選択することができる。酸化チタニウム前駆体は、たとえば、0.2〜1.0mol/lのチタニウムを含むように調製される。
【0027】
酸化チタニウム前駆体をそのまま、あるいは溶液や分散液として、熱分解可能な温度に熱した基板上に、酸化雰囲気下にて塗布することにより、酸化チタニウムが生成する。また、酸化チタニウムを生成するためには、基板の温度が、例えば、400〜600℃であるのが好ましく、酸化チタニウム前駆体の分解性に応じて適宜選択できる。また、基板の温度により、生成する酸化チタニウムの結晶度を制御できる。酸化雰囲気としては、熱分解により酸化チタニウムが生成するための酸素が空気中に存在すればよい。
【0028】
(B)カーボンナノチューブ
この実施の形態で使用可能な炭素材料としてのカーボンナノチューブは、単層型、二層型、多層型の1種類または2種類以上を混合して用いてもよい。カーボンナノチューブはその直径が1〜50nm、長さが20〜500nmのものを好適に用いることができる。その中でも、直径が10〜15nmのカーボンナノチューブを用いるのがより好ましい。
【0029】
カーボンナノチューブは、酸化チタニウム前駆体溶液に混合されて、酸化チタニウム前駆体溶液と共に基板に吹きつけられる。カーボンナノチューブを分散する目的で、カーボンナノチューブを酸化チタニウム前駆体溶液に混合する前に、カーボンナノチューブを分散媒に混合するのがより好ましい。カーボンナノチューブを分散するための分散媒は、酸化チタニウム前駆体を溶解または分散するための溶媒あるいは分散媒と同じものまたは異なるものを用いることができる。
【0030】
カーボンナノチューブは、酸化チタニウム100重量部に対し、2〜10重量部、さらには、2.5〜5重量部混合されているのが好ましい。光吸収膜が酸化チタニウム100重量部に対し2重量部以上、さらには、2.5重量部以上の炭素材料を含む場合には、光吸収膜の光吸収率を向上できる。また、光吸収膜が酸化チタニウム100重量部に対し10重量部以下、さらには、5重量部以下のカーボンナノチューブを含む場合には、光吸収膜の基板に対する密着性を向上できる。
【0031】
さらに、光吸収膜は、光の照射面側(以後、「表面側」という)よりも基板側(以後、「裏面側」という。)により高い密度でカーボンナノチューブを含むのが好ましい。裏面側よりも表面側にカーボンナノチューブを少なく含む場合には、カーボンナノチューブが光吸収膜から脱離しにくくなる。また、表面側よりも裏面側にカーボンナノチューブを多く含む場合には、光吸収膜が受光することにより光を熱に変換した場合に、その熱を表面側から裏面側へ積極的に伝導するための熱伝導パスとして、カーボンナノチューブが機能できる。
【0032】
上述の組成の光吸収膜は、酸化チタニウムと炭素とから主に構成されるため、環境負荷が小さい。また、上述の組成の光吸収膜は、樹状あるいは三次元網目状に形成され、複数の細孔が形成されている。かかる構造により、光吸収膜の光吸収率を向上できる。なぜなら、かかる構造により、光吸収膜の受光可能な面積を増やすことができるからである。かかる構造の光吸収膜は、各方面から入射してきた光や反射した光を、細孔から受光可能である。また、細孔により、光吸収膜の受光面積が大きくなり、また、光吸収膜に照射された光が正反射せずに、光吸収膜の奥まで到達できるので、光吸収膜の裏面へ熱を伝えやすくなる。特に、炭素材料としてカーボンナノチューブを用いた光吸収膜は、三次元網目構造が密に構成される。
【0033】
光吸収膜の光吸収面は、表面積が投影面積に対し3倍以上、好ましくは、7倍以上である。さらに、光吸収膜の光吸収面は、算術平均粗さ(Ra)が1.0以上であるが好ましく、最大高さ(Rz)が15以上であるのが好ましい。なお、「投影面積」は、基板の表面に垂直な方向(基板板の厚さ方向)から見た、ある測定領域(顕微鏡視野)の面積である。「表面積が投影面積に対し3倍以上」とは、その測定領域での実表面積が、測定領域の投影面積の3倍以上であることを意味する。投影面積に対する表面積、RaおよびRzは、走査型共焦点レーザー顕微鏡を用いて測定される値を用いることができる。
【0034】
2.光吸収膜の製造方法
次に、本実施の形態に係る光吸収膜の製造方法について説明する。図1は、本実施の形態に係る光吸収膜の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【0035】
まず、カーボンナノチューブを分散媒に混合する(ステップS101:混合ステップ)。ステップS101において、カーボンナノチューブ混合溶液に、外部から超音波等により振動を加える、分散剤を添加するあるいは、カーボンナノチューブ混合溶液を撹拌等することにより、カーボンナノチューブを分散媒中に分散させてもよい。
【0036】
カーボンナノチューブは、ファン・デル・ワールス力やクーロン力等の粒子間力によって集まることにより凝集しやすい。カーボンナノチューブを分散媒中に均一に分散させるために、分散媒に対して圧力を付与する圧力付与装置と、圧力付与装置によって加圧された分散媒を導入する複数の導入流路と、導入流路を介して流れ込んだ分散媒を相互に衝突させる衝突部とを備える装置を用いて、カーボンナノチューブを含んだ分散媒を衝突させて流れ方向を変えることにより、カーボンナノチューブを分散媒中に分散させるのが好ましい。かかる装置に供給されるカーボンナノチューブ分散溶液は、カーボンナノチューブ同士の衝突力を高め、かつ、溶液の粘性を保持するため、溶液全重量に対しカーボンナノチューブが0.001%以上30%以下であるのが好ましい。カーボンナノチューブ分散溶液は、圧力付与装置により100MPa以上、好ましくは100〜200MPaに加圧される。カーボンナノチューブ分散溶液は、このように加圧された状態で衝突することにより、カーボンナノチューブが破断処理されて分散されやすくなる。かかる方法では、乱流、高速流、超音波、衝撃波あるいはキャビテーション等が生じることから、カーボンナノチューブを分散媒中に分散させることができる。上述のように分散処理したカーボンナノチューブ混合溶液を用いて作製した光吸収膜は、分散処理しない場合と比較して、基板との密着性が高いことに加え、表面積が大きくなる。
【0037】
次に、ステップS101にて分散したカーボンナノチューブ混合溶液と、酸化チタニウム前駆体溶液とを混合することにより原料溶液を調製する(ステップS102)。後述のステップでスプレーしやすくするため、カーボンナノチューブは、分散媒に対し0.25〜1.0wt%含まれるように分散されるのが好ましい。
【0038】
図2は、ステップS103におけるスプレー方法を説明する概略図である。
【0039】
次に、図2に示すように、約500℃に加熱したホットプレート10の上に基板1を置き、基板1の温度を500℃まで昇温する。そして、その昇温した基板1に対し、ステップS102にて調製した原料溶液を、スプレー20にて所定回数噴霧する(ステップS103:塗布ステップ)。基板1に噴霧された原料溶液は、原料溶液中の有機溶媒が揮発し、熱分解により生成した酸化チタニウムが基板1上にて結晶化する。スプレー20にて基板1に原料溶液を噴霧することにより、均一な酸化チタニウムとカーボンナノチューブとの複合膜が形成される。また、ステップS103では、原料溶液を噴霧した後、基板1の温度が上昇するまで待って(例えば、3秒間待って)、次の噴霧を行うのが好ましい。ステップS103では、たとえば、500〜2000回噴霧を繰り返すことで、基板1上に5〜25μmの膜厚の光吸収膜を形成できる。また、基板1に均一な光吸収膜を形成するために、スプレー20を動かしながら基板1に原料溶液を噴霧するのが好ましい。
【0040】
表面側よりも裏面側により高い密度でカーボンナノチューブを含むように、光吸収膜を形成する場合には、ステップS103において、原料溶液のカーボンナノチューブの含有濃度を、段階的あるいは徐々に低くして基板に噴霧する。たとえば、ステップS103において、最初の200回噴霧するのに用いられた原料溶液の二分の一のカーボンナノチューブの含有濃度の溶液で、201〜400回目の噴霧を行う。さらに、201〜400回目まで用いた原料溶液の二分の一のカーボンナノチューブの含有濃度の溶液により、401〜600回目迄の噴霧を行うことにより、表面側よりも裏面側により高い密度でカーボンナノチューブを含む光吸収膜を基板1上に形成できる。
【0041】
光吸収膜を形成するための基板1としては、どのようなものを用いてもよい。たとえば、鋼板、銅板、アルミニウム板、アルミニウムめっき鋼板、アルミニウム系合金めっき鋼板、銅めっき鋼板、錫めっき鋼板、クロムめっき鋼板あるいはステンレス鋼板等の熱伝導率の高い金属材料を、基板1として用いるのが好ましい。熱伝導率の高い金属材料を基板1として用いることにより、光吸収膜により伝導された熱をさらに基板1から加熱物へ伝導させやすくなる。その中でも、基板1として、めっき鋼板、ステンレス鋼板あるいはアルミニウム板等の耐食性の良好な材料を用いるのがより好ましい。
【0042】
上述の製造方法により、熱分解により生成した酸化チタニウムと、カーボンナノチューブとから主になる光吸収膜を基板1上に形成できる。また、上述の製造方法により製造された光吸収膜は、従来の光吸収膜よりも高い光吸収率を有している。特に、上述の製造方法により製造された光吸収膜は、紫外領域および近赤外領域の光を効率よく吸収できる。また、上述の製造方法により、基板1上に対し強固に密着した光吸収膜を得ることができる。
【0043】
また、上述の製造方法により基板1上に形成された光吸収膜は、細孔を多く有する三次元網目形状に形成されることにより、光吸収膜の受光面積が大きくなり、また、光吸収膜に照射された光が正反射しにくくなり、効率よく光を吸収できる。特に、上述の製造方法により、スパッタリング等の手法を用いずに容易かつ安価に光吸収膜の受光面積を大きくすることができる。また、上述の製造方法では、スパッタリング等と比較してより微細な孔を光吸収膜に多く設けることができる。
【0044】
また、上述の形態では、原料溶液をスプレー20により基板1に噴霧することにより、基板1に光吸収膜を形成できるため、PVD法(Physical Vapor Deposition法:物理蒸着法)やスパッタリング法と比較して容易にかつ安価に光吸収膜を形成できる。しかし、光吸収膜の形成方法は、スプレー20に限定されず、他の方法を用いてもよい。
【0045】
3.太陽光集熱器
次に、本実施の形態に係る太陽光集熱器について説明する。
【0046】
太陽光集熱器は、酸化チタニウム100重量部およびカーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜と、光吸収膜を支持する基板と、を含む。かかる太陽光集熱器は、効率よく太陽光を吸収し、集熱できる。なぜなら、酸化チタニウム100重量部およびカーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜は、光吸収率が高く、かつ、光吸収膜の裏面側へ熱を伝えやすいからである。
【0047】
太陽光集熱器は、たとえば、基板のうち、光吸収膜が設けられていない方の面に、熱を伝導するための液体等を循環させるパイプを接触させている。かかる場合には、光吸収膜により集熱された熱は、基板を介してパイプの中の液体を加熱する。パイプは、熱交換器に直結しているため、加熱された液体は、熱交換器部分において、水等を加熱することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0049】
まず、実施例および比較例で使用した化合物とその略称および各試料の調製方法について説明する。
【0050】
(1)使用した化合物とその略称
[酸化チタニウム前駆体]
「Dlbacac」:ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトネート75% 2-プロパノール溶液(Sigma−Aldrich社製)
[酸化チタニウム前駆体用溶剤]
「IPA」:2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)
【0051】
[カーボンナノチューブ]
「CNT1」:カーボンナノチューブ(直径10〜15nm、長さ3μm)(商品名:VGCF(登録商標)−X、昭和電工株式会社製)
「CNT2」:カーボンナノチューブ(直径20nm、長さ1〜10μm)(商品名:Graphistrength(登録商標)C100、ARKEMA社製)
【0052】
[その他の炭素材料]
「CF」:カーボンファイバー(直径150nm、長さ10〜20μm)(商品名:VGCF(登録商標)、昭和電工株式会社製)
「CB」:ケッチェンブラック(商品名:EC300J、三菱化学株式会社製)
[カーボンチューブおよびその他の炭素材料の溶媒]
[カーボンナノチューブおよび炭素材料用分散媒]
「IPA」:2−プロパノール(和光純薬工業株式会社社製)
【0053】
次に、光吸収膜の作製方法、ならびに光吸収膜の各特性評価について説明する。
【0054】
(2)光吸収膜の作製方法
Dlbacacを109.2gとIPAを267.75g混合し、ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトネート濃度が0.5mol/lの酸化チタニウム前駆体溶液を調製した。また、カーボンナノチューブおよびその他の炭素材料(以後、カーボンナノチューブとその他の炭素材料とを両方指す場合には、「各炭素材料」という。)1gを200mlのIPAに混合することにより、各炭素材料の0.5wt%混合溶液を調製した。
【0055】
また、実施例1〜4および比較例1〜2の各炭素材料の混合溶液は、分散媒に対して圧力を付与する圧力付与装置と、圧力付与装置によって加圧された分散媒を導入する複数の導入流路と、導入流路を介して流れ込んだ混合溶液を相互に衝突させる衝突部とを備える装置を用いて、各炭素材料をIPA中に分散させた。実施例5および比較例4の各炭素材料の混合溶液は、上述の分散処理を行わなかった。図3(A)は、0.5wt%のCNT1混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。図3(B)は、0.5wt%のCNT2混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。図3(C)は、0.5wt%のCF混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。図3(D)は、0.5wt%のCB混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。図3(E)は、分散処理を行っていない0.5wt%のCNT1混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。図3(F)は、分散処理を行っていない0.5wt%のCB混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。
【0056】
次に、表1の各組成になるように、酸化チタニウム前駆体溶液100mlに、0.5wt%各炭素材料混合溶液を所定量の混合することにより原料溶液を調製した。調製した原料溶液は、スプレー装置(HARDER & STEENBECK社製スプレーガン、0.4mmノズル、商品名:コラーニ)に投入した。基板としてのアルミニウム板を、500℃のホットプレート上に配置し、基板の表面を500℃まで昇温させた。
【0057】
原料溶液は、基板温度が500℃に上昇するまで3秒待ち、基板の一端側から他端側までスプレーを移動させながら、基板に1秒間噴霧することを、表1に示す回数だけ行った。このように形成された光吸収膜の外観写真を図4(A)〜(H)に示す。また、実施例1の条件にて得られた光吸収膜の光照射面側から観察したSEM写真を図5(A)に示す。実施例2の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真およびその断面のSEM写真をそれぞれ図5(B)および(C)に示す。実施例3の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真およびその断面のSEM写真の断面および光照射面側から観察したSEM写真をそれぞれ図5(D)および(E)に示す。実施例4の条件にて得られた光吸収膜の光照射面側から観察したSEM写真を図5(F)に示す。また、比較例1の条件にて得られた光吸収膜の断面および光照射面側から観察したSEM写真をそれぞれ図6(A)および(B)に示す。比較例2の条件にて得られた光吸収膜の断面および光照射面側から観察したSEM写真をそれぞれ図6(C)および(D)に示す。比較例3の光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真を図6(E)に示す。なお、図4(A)および(C)の光吸収膜に視認される白い跡は、後述の実験に用いた熱電対を貼り付けたバインダーの跡である。
【0058】
さらに、レーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、型式「VK−9710」)により表面の形態を観察すると共に、光吸収膜の光照射面側における投影面積6656.360μm2に対し、表面積、最大高さ(Rz)および算術平均粗さ(Ra)の値を測定した。実施例1〜4の各光吸収膜をレーザー顕微鏡により観察した写真を図7(A)〜(D)に示す。比較例1〜4の各光吸収膜をレーザー顕微鏡により観察した写真を図8(A)〜(D)に示す。表2に得られた各試料の単位面積あたりの表面積、最大高さ(Rz)および算術平均粗さ(Ra)を示す。
【0059】
また、CuKαを線源としたX線回折装置(株式会社リガク製、型式「RINT2500HF」)を用いて、X線回折(XRD)を行うことにより、酸化チタニウムの結晶形を同定した。測定条件は、操作速度が毎分2°/minおよびステップ幅が0.02°とした。実施例2,3,6および比較例2,4のXRDチャートを図9に示す。なお、XRDチャートに付された下向きの矢印は、アナターゼ型酸化チタニウムを示すピークが現れる位置を示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
(3)作製された光吸収膜の形態比較
(実施例1〜4)
カーボンナノチューブの種類および濃度を変えた実施例1〜4の各試料を作製した。カーボンナノチューブを用いた実施例1〜4では、その濃度およびカーボンナノチューブの種類に関わらず、光吸収層は、黒色であった。また、図4(A)〜(D)に示すように、光吸収層に光を当てた場合に、光が反射して光らなかった。さらに、実施例1〜4の試料に対し、JIS K5600−5−6に準拠したクロスカット試験を行ったところ、分類0(剥がれなし)であったことから、光吸収層と基板とが強固に密着していた。また、図9に示すように、実施例2、実施例3の光吸収層に含まれる酸化チタニウムは、アナターゼ型の酸化チタニウムを含んでいた。
【0063】
図5(C)に示されるように、酸化チタニウム100重量部に対して5重量部のCNT1を含む実施例2の試料では、平均膜厚25μmの光吸収膜が形成されていた。また、図5(B)に示されるように、実施例2の試料では、光吸収膜が三次元網目状に形成されていた。また、表2に示されるように、実施例1の表面積は、実施例1〜4の中で最も大きかった。
【0064】
図5(E)に示されるように、表面側よりも裏面側により高い密度でCNT1を含む実施例3の試料では、平均膜厚23μmの光吸収膜が形成されていた。また、図5(D)および図5(E)に示されるように、実施例3の試料では、光吸収膜が三次元網目状に形成されていた。実施例3の表面積は、実施例1〜3の中で最も小さく、Ra値およびRz値も小さかった。しかし、図7(A)〜(C)を比較すると、実施例3の光吸収膜は、他の光吸収膜よりも三次元網目状の目が細かい、言い換えると、各凸部および凹部の光吸収面側から見た投影面積が小さい。また、図5(E)に示されるように、光照射方向ではなく、基板に対し略水平方向の孔が多く形成されている。さらに、図9に示されるように、実施例3の光吸収膜は、実施例2の光吸収膜よりもアナターゼ型チタニウムに起因するピークが大きく検出されていた。
【0065】
(実施例5)
実施例2と同じ組成で、分散処理を行わなかった実施例5の試料では、実施例2の試料と比較して光吸収層と基板との密着強度が低かった。
【0066】
(比較例1)
その他の炭素材料として、CFを用いた比較例1の試料の光吸収層は、灰色だった。また、図4(E)に示すように、比較例1の試料に光を当てると、光吸収層が光を反射して光った。図6(A)に示すように、比較例1の試料は、膜厚15〜20μmの光吸収層が形成されていた。さらに、図6(A)、図6(B)および図8(A)に示すように、比較例1の試料では、光吸収膜が平滑ではなく、三次元的に形成されていた。
【0067】
(比較例2)
その他の炭素材料として、CBを用いた比較例2の試料の光吸収層は、灰色だった。また、図4(F)に示すように、比較例2の試料に光を当てると、光吸収層が光を反射して光った。さらに、図4(G)に示すように、光を消した状態で比較例2の試料を見ると、光照射面に酸化チタニウムの干渉跡が視認された。図6(C)に示すように、比較例2の試料は、平均膜厚9μmの光吸収層が形成されていた。さらに、図6(C)、図6(D)および図8(B)に示すように、比較例2の試料の光吸収膜は、光吸収膜が平滑ではなく、立体的に形成されていた。
【0068】
(比較例3)
既存の集光板として、既存の集熱器に用いられている集光板を比較例3の試料とした。比較例3の試料の光吸収膜は、窒化クロムを含むため、濃青だった。また、図4(H)に示すように、比較例3の試料に光をあてると、光吸収膜は、光を反射して光った。さらに、図6(E)および図8(C)に示すように、比較例3の試料は、平滑だった。
【0069】
(比較例4)
比較例2の組成で、分散処理を行わずに比較例4の試料を作成した。表2に示されるように、比較例2と比較例3とを比較すると、分散処理を行った比較例2の試料の方が大きな表面積を有していた。また、図8(B)と図8(D)とを比較すると、分散処理を行った比較例2の方が、光吸収層の表面全体に凹凸が散らばっていた。これは、分散処理により炭素材料が凝集せずに分散したため、光吸収層全体に炭素材料が分散して存在するためであると考えられる。
【0070】
表2に示されるように、実施例1〜4の各試料では、光照射面側の表面積が投影面積に対し3倍以上だった。一方、比較例1〜4の試料では、光照射面側の表面積が投影面積の2.5倍以下だった。さらに、比較例1〜4の各試料では、Raが1.0未満およびRzが15未満であったのに対し、実施例1〜4では、Raが2.0以上およびRzが15以上だった。
【0071】
(4)光吸収膜の拡散反射率測定方法およびその結果
光の拡散反射率は、分光度計(SolidSpec−3700DUV、株式会社島津製作所製)により絶対反射率を測定した。各炭素材料の種類を変えて拡散反射率測定を行った結果を、図10に示す。カーボンナノチューブの濃度および種類を変えた実施例1〜4および比較例3の拡散反射率測定を行った結果を図11に示す。
【0072】
図10に示すように、各炭素材料の種類を変えて拡散反射率測定を行った結果、カーボンナノチューブ以外の炭素材料(CFおよびCB)を含む比較例1および比較例2の光吸収膜よりも、CNT1を含む実施例2の光吸収膜は、光の拡散反射率が低かった。また、実施例2の光吸収膜は、波長250〜2500nmの広範囲において、光の拡散反射率が10%未満にて安定していた。
【0073】
図10に示す結果より、酸化チタニウムとカーボンナノチューブとを含む光吸収膜は、カーボンナノチューブ以外の炭素材料と酸化チタニウムとを含む光吸収膜よりも光吸収率が高いことがわかった。また、酸化チタニウムとカーボンナノチューブとを含む光吸収膜は、カーボンナノチューブ以外の炭素材料と酸化チタニウムとを含む光吸収膜よりも、波長250〜2500nmのどの範囲においても、光の拡散反射率が低く安定していることがわかった。また、表面積がより大きい光吸収膜は、より高い光吸収率を有していた。
【0074】
図11に示すように、カーボンナノチューブを含む実施例1〜4の各試料は、カーボンナノチューブの種類および濃度に関わらず、低い拡散反射率を有していた。そのため、実施例1〜4の各試料は、紫外線領域(波長が10〜360nm)の範囲で95%、可視光領域(波長が360nm〜760nm)および近赤外線領域(波長が760〜2500nm)で約98%の安定した光吸収率を示した。酸化チタニウム100重量部に対して2.5重量部のCNT1を含む実施例1の試料は、酸化チタニウム100重量部に対して2.5重量部のCNT1を含む実施例4の試料とほぼ同じ拡散反射率であった。酸化チタニウム100重量部に対して5重量部のCNT1を含む実施例2の試料は、実施例1および実施例4の試料よりも低い拡散反射率だった。さらに、膜厚方向でCNT1の含有量が異なる実施例3の試料は、実施例1および実施例2の試料よりも小さい表面積を有するにも関わらず、実施例1〜4の中で最も低い拡散反射率を示した。これより、投影面積に対する表面積の値がある程度以上の場合には、光吸収率は、表面積の値よりも他の要因により変化するものであると考えられる。たとえば、三次元構造の緻密さや孔径の大きさが1つの要因であると考えられる。一方、比較例3の試料では、可視光領域における光の拡散反射率は1%程度であるが、紫外線領域における光の拡散反射率は13%、近赤外線領域における光の拡散反射率は2〜14%であった。
【0075】
図11の結果より、カーボンナノチューブを含む実施例1〜4の各試料は、従来品からなる比較例3の試料よりも光吸収率が高いことがわかった。
【0076】
次に、実施例2の試料のうち、表3に示すように基板の種類を変えた実施例6〜8について拡散反射率測定を行った結果を図12に示す。また、実施例7および実施例8についてのXRDチャートを図13に示す。また、実施例7および実施例8についてレーザー顕微鏡を用いて測定した写真を図13に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
(実施例6〜8)
実施例6は、鉄およびニッケルの合金であるステンレス鋼(SUS430)を基板として用いた。実施例7は、真鍮から主になる基板を用いた。実施例8は、鉄およびニッケルの他に、クロムを含むステンレス鋼(SUS304)を基板として用いた。図12に示すように、基板の種類を変えた実施例6〜8の各試料は、アルミニウム基板を用いた実施例2の試料とほぼ同様の光吸収率を示した。図9および図13に示すように、実施例6〜8の各試料において、酸化チタニウムは、アナターゼ型だった。また、表3に示すように、実施例7,8の各試料の表面積は、実施例2の表面積と比較して大きな違いはなかった。すなわち、酸化チタニウムとカーボンナノチューブとを含む光吸収膜は、アルミニウム基板以外の基板にも適用可能であることがわかった。
【0079】
(4)キセノンランプ照射による光吸収膜の温度測定方法およびその結果
炭素材料を変えて作製した実施例2、比較例1,2および比較例3の各試料に、試料から光源を50cm離間させて、室温18.3℃にて20分間キセノンランプを照射した。光吸収膜の表面側と、その裏面側に熱電対を取り付け、それぞれの温度を測定した。結果を図15に示す。
【0080】
図15に示すように、CNT1を含む実施例2の試料は、カーボンナノチューブ以外の炭素材料を含む比較例1および比較例2や従来品からなる比較例3の各試料よりも、キセノンランプの光を吸収し、高温になった。
【0081】
図15の結果から、酸化チタニウムとカーボンナノチューブとを含む光吸収膜は、カーボンナノチューブ以外の炭素材料を含む光吸収膜よりも、光吸収率が高く、効率よく集熱できることがわかった。
【0082】
次に、実施例1〜3、比較例3および比較例5(光吸収層を設けていないブランクのアルミニウム板から構成される)の各試料に、キセノンランプを照射し、光吸収膜の光照射面側(表側)と、その裏側との温度をそれぞれ測定した。キセノンランプの光源は、試料から50cm離間させ20分間試料に照射した。室温は、26.8℃だった。結果を図16に示す。
【0083】
図16に示すように、従来品から成る比較例3の試料よりも、CNT1を含む実施例2および実施例3の試料の方が、キセノンランプの光を吸収し、高温になった。また、膜厚方向でCNT1の含有量が異なる実施例3の試料は、膜厚方向でCNT1の含有量が同じ実施例1および実施例2の試料よりも高温になった。酸化チタニウム100重量部に対して2.5重量部のCNT1を含む実施例1の試料の温度は、比較例3の試料の温度と同程度の範囲内であった。
【0084】
図16の結果から、実施例2の試料の表面における平均温度は、56.11℃だった。一方、比較例3の試料の表面における平均温度は、49.61℃だった。実施例2の試料の表面と裏面との温度差は、比較例3の試料の表面と裏面との温度差よりも約0.2%大きかった。この結果から、表面側よりも裏面側により高い密度でカーボンナノチューブを含む光吸収膜は、特に高い光吸収率を有し、効率よく集熱できることがわかった。また、酸化チタニウム100重量部に対して5重量部以上のカーボンナノチューブを含む実施例2および実施例3の試料は、従来品からなる比較例3の試料よりも効率よく集熱できることがわかった。
【0085】
(5)太陽光照射による光吸収膜の温度測定方法
CNT1の含有量を変化させた実施例1〜3、比較例3および比較例5に、太陽光を1時間照射し、光吸収膜の光照射面側(表側)と、その裏側との温度を測定した。なお、測定は、気温が27.2℃、天気が薄曇り、微風の中で行った。結果を図17に示す。
【0086】
図17に示すように、従来品から成る比較例3の試料よりも、CNT1を含む実施例3および実施例1の試料の方が、太陽光を吸収し、高温になった。実施例1〜3の中では、膜厚方向でCNT1の含有量が異なる実施例3の試料が最も高温になった。酸化チタニウム100重量部に対して5重量部のCNT1を含む実施例2の試料の温度は、比較例3の試料の温度と同程度の範囲内であった。
【0087】
図17の結果から、表面側よりも裏面側により高い密度でカーボンナノチューブを含む光吸収膜は、特に高い光吸収率を有し、太陽光を照射した場合にも効率よく集熱できることがわかった。また、酸化チタニウム100重量部に対して2.5重量部のカーボンナノチューブを含む実施例1および実施例3の試料は、太陽光を照射した場合に、従来品からなる比較例3の試料よりも効率よく集熱できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、例えば、太陽光集熱板等に利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 基板
20 スプレー
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収膜、その製造方法およびそれを用いた太陽光集熱器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題および化石エネルギー資源の枯渇等の観点から、化石燃料代替エネルギーの必要性が高まっている。そこで、太陽光エネルギー利用のひとつとして、太陽光を集光して熱源として利用するための太陽光集熱器が注目されている。また、太陽光を熱に変換する場合、太陽光を電気に変換する場合よりも、太陽光エネルギーを高効率で変換できる。太陽光を集光して得られた熱は、たとえば、給油するために用いることができる。
【0003】
太陽光集熱器に用いられる光吸収膜として、たとえば、窒化クロムを含む膜が用いられているが、窒化クロムは、環境負荷が大きいことが懸念されている。そこで、可視光を吸収する性質を有するチタニウムオキシナイトライド薄膜が提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。また、チタニウムオキシナイトライドにカーボンを添加することで、可視光吸収率を向上させることが開示されている(たとえば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平9−507095号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2006−1820号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の光吸収膜では、チタニウムオキシナイトライドが可視光を吸収できる。特許文献2の光吸収膜では、チタニウムオキシナイトライドが可視光を吸収することに加え、カーボンの添加により、可視光吸収率と赤外光輻射を向上することができる。しかし、光吸収膜の光吸収率をさらに向上させることにより、効率よく集熱することが要望されている。
【0006】
本発明は、かかる要望に応じてなされたものであって、光吸収率の高い光吸収膜、その製造方法、およびそれを用いた太陽光集熱器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、酸化チタニウム100重量部と、カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜とすることで、従来品よりも高い光吸収率を達成できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、酸化チタニウム100重量部と、カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜である。
【0009】
さらに、カーボンナノチューブは、光を照射する面側よりもその裏面側により多く含まれ得る。
【0010】
さらに、光吸収膜は、三次元網目状に形成されると共に、複数の孔が形成されているのが好ましい。
【0011】
さらに、光吸収膜は、表面積が投影面積に対し3倍以上である光照射面を有するのが好ましい。
【0012】
また、別の本発明の一実施の形態は、酸化チタニウム100重量部と、カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜を製造する方法であって、カーボンナノチューブを溶媒に混合する混合ステップと、酸化チタニウムを生成するための酸化チタニウム前駆体溶液と、カーボンナノチューブを混合した溶媒とを基板に塗布し加熱する塗布ステップと、を有する光吸収膜の製造方法である。
【0013】
さらに、混合ステップは、カーボンナノチューブを混合した溶媒に対して圧力を付与し、流れ込んだ溶媒を相互に衝突させて流れ方向を変えるステップを含み得る。
【0014】
さらに、塗布ステップは、加熱された基板にスプレーにより塗布するのが好ましい。
【0015】
また、別の本発明は、酸化チタニウム100重量部とカーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜と、光吸収膜を支持する基板と、を含む太陽光集熱器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光吸収率の高い光吸収膜およびそれを用いた太陽光集熱器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係る光吸収膜の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【図2】ステップS103におけるスプレー方法を説明する概略図である。
【図3】(A)は、0.5wt%カーボンナノチューブ(VGCF−X)混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。(B)は、0.5wt%カーボンナノチューブ(Arkema製)混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。(C)は、0.5wt%カーボンファイバー(VGCF)混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。(D)は、0.5wt%ケッチェンブラック混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。(E)は、図3(A)の混合溶液を分散処理していない状態を示すSEM写真である。(E)は、図3(D)の混合溶液を分散処理していない状態を示すSEM写真である。
【図4】(A)は、実施例1の条件にて得られた光吸収膜の外観を示す写真である。(B)は、実施例2の条件にて得られた光吸収膜の外観を示す写真である。(C)は、実施例3の条件にて得られた光吸収膜の外観を示す写真である。(D)は、実施例4の条件にて得られた光吸収膜の外観を示す写真である。(E)は、比較例1の条件にて得られた光吸収膜の外観を示す写真である。(F)は、比較例2の条件にて得られた光吸収膜に光を当てた状態の外観を示す写真である。(G)は、図4(F)の光吸収膜を、光を消した状態で見た場合の外観を示す写真である。(H)は、比較例3の光吸収膜の外観を示す写真である。
【図5】(A)は、実施例1の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。(B)は、実施例2の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。(C)は、実施例2の条件にて得られた光吸収膜の断面のSEM写真である。(D)は実施例3条件にて得られた光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。(E)は、実施例3の条件にて得られた光吸収膜の断面のSEM写真である。(F)は、実施例4の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。
【図6】(A)は、比較例1の条件にて得られた光吸収膜の断面のSEM写真である。(B)は、図6(A)の光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。(C)は、比較例2の条件にて得られた光吸収膜の断面のSEM写真である。(D)は、図6(C)の光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。(E)は、比較例3の光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真である。
【図7】(A)は、実施例1の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(B)は、実施例2の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(C)実施例3の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(D)は、実施例4の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。
【図8】(A)は、比較例1の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(B)は、比較例2の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(C)比較例3の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(D)は、比較例4の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。
【図9】実施例2,3,6および比較例2,4の条件にて得られた光吸収膜のXRDチャートである。
【図10】実施例2,比較例1および比較例2の条件にて得られた光吸収膜について、縦軸に光の拡散光の拡散反射率、横軸に照射した光の波長を示すグラフである。
【図11】実施例1〜4,比較例3の条件にて得られた光吸収膜について、縦軸に光の拡散光の拡散反射率、横軸に照射した光の波長を示すグラフである。
【図12】実施例6〜8の条件にて得られた光吸収膜について、縦軸に光の拡散光の拡散反射率、横軸に照射した光の波長を示すグラフである。
【図13】実施例7,8の条件にて得られた光吸収膜のXRDチャートである。
【図14】(A)は、実施例7の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。(B)は、実施例8の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側からレーザー顕微鏡にて観察した写真である。
【図15】実施例2および比較例1〜3の条件にて得られた各光吸収膜にキセノンランプを照射した場合の光吸収膜の表面および裏面の温度変化を測定し、縦軸に試料の温度、横軸に照射時間を示すグラフである。
【図16】実施例1〜3,比較例3および比較例5の条件にて得られた各光吸収膜にキセノンランプを照射した場合の光吸収膜の表面および裏面の温度変化を測定し、縦軸に試料の温度、横軸に照射時間を示すグラフである。
【図17】実施例1〜3,比較例3および比較例5の条件にて得られた各光吸収膜に太陽光を照射した場合の光吸収膜の表面および裏面の温度変化を測定し、縦軸に試料の温度、横軸に照射時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の光吸収膜、その製造方法、および光吸収膜を用いた太陽光集熱器の好適な実施の形態について説明する。
【0019】
1.光吸収膜
本実施の形態に係る光吸収膜は、酸化チタニウムおよびカーボンナノチューブを主に含む。以下、酸化チタニウムおよびカーボンナノチューブについてそれぞれ説明する。
【0020】
(A)酸化チタニウム
この実施の形態で使用可能な酸化チタニウムは、酸化雰囲気にて熱分解して酸化チタニウムとなることができる酸化チタニウム前駆体を原料とする。このような酸化チタニウム前駆体としては、有機チタニウム化合物および無機チタニウム化合物が存在する。
【0021】
有機チタニウム化合物としては、テトライソプロポキシチタニウム、テトラブトキシチタニウム、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタニウム、テトラステアリルオキシチタニウム、ジイソプロポキシチタニウムビス(アセチルアセトナト)、ジノルマルブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタニウム、チタニウムステアレート、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコレート、テトライソプロポキシチタニウム重合体、テトラノルマルブトキシチタニウム重合体、ジヒドロキシビス(ラクタト)チタニウム、プロパンジオキシチタニウムビス(エチルアセトアセテート)、オキソチタニウムビス(モノアンモニウムオキサレート)、トリノルマルブトキシチタニウムモノステアレート、ジイソプロポキシチタニウムジステアレート、ジヒドロキシビス(ラクタト)チタニウムアンモニウム塩、およびテトラ−メトキシチタニウム等が挙げられる。これらの有機チタニウム化合物は、単独で、または2種以上からなる化合物を組み合わせて用いられる。これらの有機チタニウム化合物の内でも、ジイソプロポキシチタニウムビス(アセチルアセトナト)、テトラノルマルブトキシチタニウム、テトライソプロポキシチタニウム、ジノルマルブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタニウム、およびチタニウムイソプロポキシオクチレングリコレートの内から選ばれた1種以上からなるものは、材料の保存安定性、溶剤の選択性、熱分解温度と結晶化温度の関係および基板への付着性の点等から好ましく用いることができる。
【0022】
無機チタニウム化合物としては、塩化チタニウム(TiCl4)等が挙げられる。なお、無機チタニウム化合物と有機チタニウム化合物とを混合して用いても良い。
【0023】
酸化チタニウム前駆体は、そのまま用いてもよいし、溶媒や分散媒を用いて、溶液または、コロイド溶液、乳濁液もしくは懸濁液といった分散液として用いてもよい。特に、酸化チタニウム前駆体をスプレーにて吹き付ける場合には、流動性を向上させるために、酸化チタニウム前駆体を溶液や分散液として用いるのが好ましい。
【0024】
酸化チタニウム前駆体を溶液あるいは分散液として用いるための溶媒あるいは分散媒としては、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノールといったアルコール類、ヘキサン、トルエン、クロロベンゼン、塩化メチルあるいはパークロロエチレン等を好適に用いることができる。また、溶媒や分散媒は少量の水を含んでいても良い。しかし、酸化チタニウム前駆体の溶液あるいは分散液をスプレーにより吹きつけた際に、溶媒あるいは分散媒が基板に到達する前に揮発しないよう、ある程度沸点が高い有機溶媒を用いるのが好ましい。また、スプレーによる吐出が容易であるために、粘性の低い有機溶剤を用いるのがさらに好ましい。
【0025】
溶媒や分散媒へのチタニウム化合物の溶解濃度あるいは分散濃度は、基板への塗布のしやすさ、形成する光吸収膜の厚さ、酸化チタニウムの結晶化状態等から適宜選択することができる。前述したチタニウム化合物を液体の場合はそのまま、あるいは溶液や分散液として、一方、固体の場合は、粉体としてそのまま、あるいは溶液や分散液として、熱分解可能な温度に熱した基板上に、酸化雰囲気下にて塗布することにより、酸化チタニウムが生成される。
【0026】
溶媒や分散媒へのチタニウム化合物の溶解濃度あるいは分散濃度は、基板への塗布のし易さ、形成する光吸収膜の厚さ、結晶化の状態等から適宜選択することができる。酸化チタニウム前駆体は、たとえば、0.2〜1.0mol/lのチタニウムを含むように調製される。
【0027】
酸化チタニウム前駆体をそのまま、あるいは溶液や分散液として、熱分解可能な温度に熱した基板上に、酸化雰囲気下にて塗布することにより、酸化チタニウムが生成する。また、酸化チタニウムを生成するためには、基板の温度が、例えば、400〜600℃であるのが好ましく、酸化チタニウム前駆体の分解性に応じて適宜選択できる。また、基板の温度により、生成する酸化チタニウムの結晶度を制御できる。酸化雰囲気としては、熱分解により酸化チタニウムが生成するための酸素が空気中に存在すればよい。
【0028】
(B)カーボンナノチューブ
この実施の形態で使用可能な炭素材料としてのカーボンナノチューブは、単層型、二層型、多層型の1種類または2種類以上を混合して用いてもよい。カーボンナノチューブはその直径が1〜50nm、長さが20〜500nmのものを好適に用いることができる。その中でも、直径が10〜15nmのカーボンナノチューブを用いるのがより好ましい。
【0029】
カーボンナノチューブは、酸化チタニウム前駆体溶液に混合されて、酸化チタニウム前駆体溶液と共に基板に吹きつけられる。カーボンナノチューブを分散する目的で、カーボンナノチューブを酸化チタニウム前駆体溶液に混合する前に、カーボンナノチューブを分散媒に混合するのがより好ましい。カーボンナノチューブを分散するための分散媒は、酸化チタニウム前駆体を溶解または分散するための溶媒あるいは分散媒と同じものまたは異なるものを用いることができる。
【0030】
カーボンナノチューブは、酸化チタニウム100重量部に対し、2〜10重量部、さらには、2.5〜5重量部混合されているのが好ましい。光吸収膜が酸化チタニウム100重量部に対し2重量部以上、さらには、2.5重量部以上の炭素材料を含む場合には、光吸収膜の光吸収率を向上できる。また、光吸収膜が酸化チタニウム100重量部に対し10重量部以下、さらには、5重量部以下のカーボンナノチューブを含む場合には、光吸収膜の基板に対する密着性を向上できる。
【0031】
さらに、光吸収膜は、光の照射面側(以後、「表面側」という)よりも基板側(以後、「裏面側」という。)により高い密度でカーボンナノチューブを含むのが好ましい。裏面側よりも表面側にカーボンナノチューブを少なく含む場合には、カーボンナノチューブが光吸収膜から脱離しにくくなる。また、表面側よりも裏面側にカーボンナノチューブを多く含む場合には、光吸収膜が受光することにより光を熱に変換した場合に、その熱を表面側から裏面側へ積極的に伝導するための熱伝導パスとして、カーボンナノチューブが機能できる。
【0032】
上述の組成の光吸収膜は、酸化チタニウムと炭素とから主に構成されるため、環境負荷が小さい。また、上述の組成の光吸収膜は、樹状あるいは三次元網目状に形成され、複数の細孔が形成されている。かかる構造により、光吸収膜の光吸収率を向上できる。なぜなら、かかる構造により、光吸収膜の受光可能な面積を増やすことができるからである。かかる構造の光吸収膜は、各方面から入射してきた光や反射した光を、細孔から受光可能である。また、細孔により、光吸収膜の受光面積が大きくなり、また、光吸収膜に照射された光が正反射せずに、光吸収膜の奥まで到達できるので、光吸収膜の裏面へ熱を伝えやすくなる。特に、炭素材料としてカーボンナノチューブを用いた光吸収膜は、三次元網目構造が密に構成される。
【0033】
光吸収膜の光吸収面は、表面積が投影面積に対し3倍以上、好ましくは、7倍以上である。さらに、光吸収膜の光吸収面は、算術平均粗さ(Ra)が1.0以上であるが好ましく、最大高さ(Rz)が15以上であるのが好ましい。なお、「投影面積」は、基板の表面に垂直な方向(基板板の厚さ方向)から見た、ある測定領域(顕微鏡視野)の面積である。「表面積が投影面積に対し3倍以上」とは、その測定領域での実表面積が、測定領域の投影面積の3倍以上であることを意味する。投影面積に対する表面積、RaおよびRzは、走査型共焦点レーザー顕微鏡を用いて測定される値を用いることができる。
【0034】
2.光吸収膜の製造方法
次に、本実施の形態に係る光吸収膜の製造方法について説明する。図1は、本実施の形態に係る光吸収膜の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【0035】
まず、カーボンナノチューブを分散媒に混合する(ステップS101:混合ステップ)。ステップS101において、カーボンナノチューブ混合溶液に、外部から超音波等により振動を加える、分散剤を添加するあるいは、カーボンナノチューブ混合溶液を撹拌等することにより、カーボンナノチューブを分散媒中に分散させてもよい。
【0036】
カーボンナノチューブは、ファン・デル・ワールス力やクーロン力等の粒子間力によって集まることにより凝集しやすい。カーボンナノチューブを分散媒中に均一に分散させるために、分散媒に対して圧力を付与する圧力付与装置と、圧力付与装置によって加圧された分散媒を導入する複数の導入流路と、導入流路を介して流れ込んだ分散媒を相互に衝突させる衝突部とを備える装置を用いて、カーボンナノチューブを含んだ分散媒を衝突させて流れ方向を変えることにより、カーボンナノチューブを分散媒中に分散させるのが好ましい。かかる装置に供給されるカーボンナノチューブ分散溶液は、カーボンナノチューブ同士の衝突力を高め、かつ、溶液の粘性を保持するため、溶液全重量に対しカーボンナノチューブが0.001%以上30%以下であるのが好ましい。カーボンナノチューブ分散溶液は、圧力付与装置により100MPa以上、好ましくは100〜200MPaに加圧される。カーボンナノチューブ分散溶液は、このように加圧された状態で衝突することにより、カーボンナノチューブが破断処理されて分散されやすくなる。かかる方法では、乱流、高速流、超音波、衝撃波あるいはキャビテーション等が生じることから、カーボンナノチューブを分散媒中に分散させることができる。上述のように分散処理したカーボンナノチューブ混合溶液を用いて作製した光吸収膜は、分散処理しない場合と比較して、基板との密着性が高いことに加え、表面積が大きくなる。
【0037】
次に、ステップS101にて分散したカーボンナノチューブ混合溶液と、酸化チタニウム前駆体溶液とを混合することにより原料溶液を調製する(ステップS102)。後述のステップでスプレーしやすくするため、カーボンナノチューブは、分散媒に対し0.25〜1.0wt%含まれるように分散されるのが好ましい。
【0038】
図2は、ステップS103におけるスプレー方法を説明する概略図である。
【0039】
次に、図2に示すように、約500℃に加熱したホットプレート10の上に基板1を置き、基板1の温度を500℃まで昇温する。そして、その昇温した基板1に対し、ステップS102にて調製した原料溶液を、スプレー20にて所定回数噴霧する(ステップS103:塗布ステップ)。基板1に噴霧された原料溶液は、原料溶液中の有機溶媒が揮発し、熱分解により生成した酸化チタニウムが基板1上にて結晶化する。スプレー20にて基板1に原料溶液を噴霧することにより、均一な酸化チタニウムとカーボンナノチューブとの複合膜が形成される。また、ステップS103では、原料溶液を噴霧した後、基板1の温度が上昇するまで待って(例えば、3秒間待って)、次の噴霧を行うのが好ましい。ステップS103では、たとえば、500〜2000回噴霧を繰り返すことで、基板1上に5〜25μmの膜厚の光吸収膜を形成できる。また、基板1に均一な光吸収膜を形成するために、スプレー20を動かしながら基板1に原料溶液を噴霧するのが好ましい。
【0040】
表面側よりも裏面側により高い密度でカーボンナノチューブを含むように、光吸収膜を形成する場合には、ステップS103において、原料溶液のカーボンナノチューブの含有濃度を、段階的あるいは徐々に低くして基板に噴霧する。たとえば、ステップS103において、最初の200回噴霧するのに用いられた原料溶液の二分の一のカーボンナノチューブの含有濃度の溶液で、201〜400回目の噴霧を行う。さらに、201〜400回目まで用いた原料溶液の二分の一のカーボンナノチューブの含有濃度の溶液により、401〜600回目迄の噴霧を行うことにより、表面側よりも裏面側により高い密度でカーボンナノチューブを含む光吸収膜を基板1上に形成できる。
【0041】
光吸収膜を形成するための基板1としては、どのようなものを用いてもよい。たとえば、鋼板、銅板、アルミニウム板、アルミニウムめっき鋼板、アルミニウム系合金めっき鋼板、銅めっき鋼板、錫めっき鋼板、クロムめっき鋼板あるいはステンレス鋼板等の熱伝導率の高い金属材料を、基板1として用いるのが好ましい。熱伝導率の高い金属材料を基板1として用いることにより、光吸収膜により伝導された熱をさらに基板1から加熱物へ伝導させやすくなる。その中でも、基板1として、めっき鋼板、ステンレス鋼板あるいはアルミニウム板等の耐食性の良好な材料を用いるのがより好ましい。
【0042】
上述の製造方法により、熱分解により生成した酸化チタニウムと、カーボンナノチューブとから主になる光吸収膜を基板1上に形成できる。また、上述の製造方法により製造された光吸収膜は、従来の光吸収膜よりも高い光吸収率を有している。特に、上述の製造方法により製造された光吸収膜は、紫外領域および近赤外領域の光を効率よく吸収できる。また、上述の製造方法により、基板1上に対し強固に密着した光吸収膜を得ることができる。
【0043】
また、上述の製造方法により基板1上に形成された光吸収膜は、細孔を多く有する三次元網目形状に形成されることにより、光吸収膜の受光面積が大きくなり、また、光吸収膜に照射された光が正反射しにくくなり、効率よく光を吸収できる。特に、上述の製造方法により、スパッタリング等の手法を用いずに容易かつ安価に光吸収膜の受光面積を大きくすることができる。また、上述の製造方法では、スパッタリング等と比較してより微細な孔を光吸収膜に多く設けることができる。
【0044】
また、上述の形態では、原料溶液をスプレー20により基板1に噴霧することにより、基板1に光吸収膜を形成できるため、PVD法(Physical Vapor Deposition法:物理蒸着法)やスパッタリング法と比較して容易にかつ安価に光吸収膜を形成できる。しかし、光吸収膜の形成方法は、スプレー20に限定されず、他の方法を用いてもよい。
【0045】
3.太陽光集熱器
次に、本実施の形態に係る太陽光集熱器について説明する。
【0046】
太陽光集熱器は、酸化チタニウム100重量部およびカーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜と、光吸収膜を支持する基板と、を含む。かかる太陽光集熱器は、効率よく太陽光を吸収し、集熱できる。なぜなら、酸化チタニウム100重量部およびカーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜は、光吸収率が高く、かつ、光吸収膜の裏面側へ熱を伝えやすいからである。
【0047】
太陽光集熱器は、たとえば、基板のうち、光吸収膜が設けられていない方の面に、熱を伝導するための液体等を循環させるパイプを接触させている。かかる場合には、光吸収膜により集熱された熱は、基板を介してパイプの中の液体を加熱する。パイプは、熱交換器に直結しているため、加熱された液体は、熱交換器部分において、水等を加熱することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0049】
まず、実施例および比較例で使用した化合物とその略称および各試料の調製方法について説明する。
【0050】
(1)使用した化合物とその略称
[酸化チタニウム前駆体]
「Dlbacac」:ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトネート75% 2-プロパノール溶液(Sigma−Aldrich社製)
[酸化チタニウム前駆体用溶剤]
「IPA」:2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)
【0051】
[カーボンナノチューブ]
「CNT1」:カーボンナノチューブ(直径10〜15nm、長さ3μm)(商品名:VGCF(登録商標)−X、昭和電工株式会社製)
「CNT2」:カーボンナノチューブ(直径20nm、長さ1〜10μm)(商品名:Graphistrength(登録商標)C100、ARKEMA社製)
【0052】
[その他の炭素材料]
「CF」:カーボンファイバー(直径150nm、長さ10〜20μm)(商品名:VGCF(登録商標)、昭和電工株式会社製)
「CB」:ケッチェンブラック(商品名:EC300J、三菱化学株式会社製)
[カーボンチューブおよびその他の炭素材料の溶媒]
[カーボンナノチューブおよび炭素材料用分散媒]
「IPA」:2−プロパノール(和光純薬工業株式会社社製)
【0053】
次に、光吸収膜の作製方法、ならびに光吸収膜の各特性評価について説明する。
【0054】
(2)光吸収膜の作製方法
Dlbacacを109.2gとIPAを267.75g混合し、ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトネート濃度が0.5mol/lの酸化チタニウム前駆体溶液を調製した。また、カーボンナノチューブおよびその他の炭素材料(以後、カーボンナノチューブとその他の炭素材料とを両方指す場合には、「各炭素材料」という。)1gを200mlのIPAに混合することにより、各炭素材料の0.5wt%混合溶液を調製した。
【0055】
また、実施例1〜4および比較例1〜2の各炭素材料の混合溶液は、分散媒に対して圧力を付与する圧力付与装置と、圧力付与装置によって加圧された分散媒を導入する複数の導入流路と、導入流路を介して流れ込んだ混合溶液を相互に衝突させる衝突部とを備える装置を用いて、各炭素材料をIPA中に分散させた。実施例5および比較例4の各炭素材料の混合溶液は、上述の分散処理を行わなかった。図3(A)は、0.5wt%のCNT1混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。図3(B)は、0.5wt%のCNT2混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。図3(C)は、0.5wt%のCF混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。図3(D)は、0.5wt%のCB混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。図3(E)は、分散処理を行っていない0.5wt%のCNT1混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。図3(F)は、分散処理を行っていない0.5wt%のCB混合溶液の混合状態を示すSEM写真である。
【0056】
次に、表1の各組成になるように、酸化チタニウム前駆体溶液100mlに、0.5wt%各炭素材料混合溶液を所定量の混合することにより原料溶液を調製した。調製した原料溶液は、スプレー装置(HARDER & STEENBECK社製スプレーガン、0.4mmノズル、商品名:コラーニ)に投入した。基板としてのアルミニウム板を、500℃のホットプレート上に配置し、基板の表面を500℃まで昇温させた。
【0057】
原料溶液は、基板温度が500℃に上昇するまで3秒待ち、基板の一端側から他端側までスプレーを移動させながら、基板に1秒間噴霧することを、表1に示す回数だけ行った。このように形成された光吸収膜の外観写真を図4(A)〜(H)に示す。また、実施例1の条件にて得られた光吸収膜の光照射面側から観察したSEM写真を図5(A)に示す。実施例2の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真およびその断面のSEM写真をそれぞれ図5(B)および(C)に示す。実施例3の条件にて得られた光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真およびその断面のSEM写真の断面および光照射面側から観察したSEM写真をそれぞれ図5(D)および(E)に示す。実施例4の条件にて得られた光吸収膜の光照射面側から観察したSEM写真を図5(F)に示す。また、比較例1の条件にて得られた光吸収膜の断面および光照射面側から観察したSEM写真をそれぞれ図6(A)および(B)に示す。比較例2の条件にて得られた光吸収膜の断面および光照射面側から観察したSEM写真をそれぞれ図6(C)および(D)に示す。比較例3の光吸収膜を光照射面側から観察したSEM写真を図6(E)に示す。なお、図4(A)および(C)の光吸収膜に視認される白い跡は、後述の実験に用いた熱電対を貼り付けたバインダーの跡である。
【0058】
さらに、レーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、型式「VK−9710」)により表面の形態を観察すると共に、光吸収膜の光照射面側における投影面積6656.360μm2に対し、表面積、最大高さ(Rz)および算術平均粗さ(Ra)の値を測定した。実施例1〜4の各光吸収膜をレーザー顕微鏡により観察した写真を図7(A)〜(D)に示す。比較例1〜4の各光吸収膜をレーザー顕微鏡により観察した写真を図8(A)〜(D)に示す。表2に得られた各試料の単位面積あたりの表面積、最大高さ(Rz)および算術平均粗さ(Ra)を示す。
【0059】
また、CuKαを線源としたX線回折装置(株式会社リガク製、型式「RINT2500HF」)を用いて、X線回折(XRD)を行うことにより、酸化チタニウムの結晶形を同定した。測定条件は、操作速度が毎分2°/minおよびステップ幅が0.02°とした。実施例2,3,6および比較例2,4のXRDチャートを図9に示す。なお、XRDチャートに付された下向きの矢印は、アナターゼ型酸化チタニウムを示すピークが現れる位置を示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
(3)作製された光吸収膜の形態比較
(実施例1〜4)
カーボンナノチューブの種類および濃度を変えた実施例1〜4の各試料を作製した。カーボンナノチューブを用いた実施例1〜4では、その濃度およびカーボンナノチューブの種類に関わらず、光吸収層は、黒色であった。また、図4(A)〜(D)に示すように、光吸収層に光を当てた場合に、光が反射して光らなかった。さらに、実施例1〜4の試料に対し、JIS K5600−5−6に準拠したクロスカット試験を行ったところ、分類0(剥がれなし)であったことから、光吸収層と基板とが強固に密着していた。また、図9に示すように、実施例2、実施例3の光吸収層に含まれる酸化チタニウムは、アナターゼ型の酸化チタニウムを含んでいた。
【0063】
図5(C)に示されるように、酸化チタニウム100重量部に対して5重量部のCNT1を含む実施例2の試料では、平均膜厚25μmの光吸収膜が形成されていた。また、図5(B)に示されるように、実施例2の試料では、光吸収膜が三次元網目状に形成されていた。また、表2に示されるように、実施例1の表面積は、実施例1〜4の中で最も大きかった。
【0064】
図5(E)に示されるように、表面側よりも裏面側により高い密度でCNT1を含む実施例3の試料では、平均膜厚23μmの光吸収膜が形成されていた。また、図5(D)および図5(E)に示されるように、実施例3の試料では、光吸収膜が三次元網目状に形成されていた。実施例3の表面積は、実施例1〜3の中で最も小さく、Ra値およびRz値も小さかった。しかし、図7(A)〜(C)を比較すると、実施例3の光吸収膜は、他の光吸収膜よりも三次元網目状の目が細かい、言い換えると、各凸部および凹部の光吸収面側から見た投影面積が小さい。また、図5(E)に示されるように、光照射方向ではなく、基板に対し略水平方向の孔が多く形成されている。さらに、図9に示されるように、実施例3の光吸収膜は、実施例2の光吸収膜よりもアナターゼ型チタニウムに起因するピークが大きく検出されていた。
【0065】
(実施例5)
実施例2と同じ組成で、分散処理を行わなかった実施例5の試料では、実施例2の試料と比較して光吸収層と基板との密着強度が低かった。
【0066】
(比較例1)
その他の炭素材料として、CFを用いた比較例1の試料の光吸収層は、灰色だった。また、図4(E)に示すように、比較例1の試料に光を当てると、光吸収層が光を反射して光った。図6(A)に示すように、比較例1の試料は、膜厚15〜20μmの光吸収層が形成されていた。さらに、図6(A)、図6(B)および図8(A)に示すように、比較例1の試料では、光吸収膜が平滑ではなく、三次元的に形成されていた。
【0067】
(比較例2)
その他の炭素材料として、CBを用いた比較例2の試料の光吸収層は、灰色だった。また、図4(F)に示すように、比較例2の試料に光を当てると、光吸収層が光を反射して光った。さらに、図4(G)に示すように、光を消した状態で比較例2の試料を見ると、光照射面に酸化チタニウムの干渉跡が視認された。図6(C)に示すように、比較例2の試料は、平均膜厚9μmの光吸収層が形成されていた。さらに、図6(C)、図6(D)および図8(B)に示すように、比較例2の試料の光吸収膜は、光吸収膜が平滑ではなく、立体的に形成されていた。
【0068】
(比較例3)
既存の集光板として、既存の集熱器に用いられている集光板を比較例3の試料とした。比較例3の試料の光吸収膜は、窒化クロムを含むため、濃青だった。また、図4(H)に示すように、比較例3の試料に光をあてると、光吸収膜は、光を反射して光った。さらに、図6(E)および図8(C)に示すように、比較例3の試料は、平滑だった。
【0069】
(比較例4)
比較例2の組成で、分散処理を行わずに比較例4の試料を作成した。表2に示されるように、比較例2と比較例3とを比較すると、分散処理を行った比較例2の試料の方が大きな表面積を有していた。また、図8(B)と図8(D)とを比較すると、分散処理を行った比較例2の方が、光吸収層の表面全体に凹凸が散らばっていた。これは、分散処理により炭素材料が凝集せずに分散したため、光吸収層全体に炭素材料が分散して存在するためであると考えられる。
【0070】
表2に示されるように、実施例1〜4の各試料では、光照射面側の表面積が投影面積に対し3倍以上だった。一方、比較例1〜4の試料では、光照射面側の表面積が投影面積の2.5倍以下だった。さらに、比較例1〜4の各試料では、Raが1.0未満およびRzが15未満であったのに対し、実施例1〜4では、Raが2.0以上およびRzが15以上だった。
【0071】
(4)光吸収膜の拡散反射率測定方法およびその結果
光の拡散反射率は、分光度計(SolidSpec−3700DUV、株式会社島津製作所製)により絶対反射率を測定した。各炭素材料の種類を変えて拡散反射率測定を行った結果を、図10に示す。カーボンナノチューブの濃度および種類を変えた実施例1〜4および比較例3の拡散反射率測定を行った結果を図11に示す。
【0072】
図10に示すように、各炭素材料の種類を変えて拡散反射率測定を行った結果、カーボンナノチューブ以外の炭素材料(CFおよびCB)を含む比較例1および比較例2の光吸収膜よりも、CNT1を含む実施例2の光吸収膜は、光の拡散反射率が低かった。また、実施例2の光吸収膜は、波長250〜2500nmの広範囲において、光の拡散反射率が10%未満にて安定していた。
【0073】
図10に示す結果より、酸化チタニウムとカーボンナノチューブとを含む光吸収膜は、カーボンナノチューブ以外の炭素材料と酸化チタニウムとを含む光吸収膜よりも光吸収率が高いことがわかった。また、酸化チタニウムとカーボンナノチューブとを含む光吸収膜は、カーボンナノチューブ以外の炭素材料と酸化チタニウムとを含む光吸収膜よりも、波長250〜2500nmのどの範囲においても、光の拡散反射率が低く安定していることがわかった。また、表面積がより大きい光吸収膜は、より高い光吸収率を有していた。
【0074】
図11に示すように、カーボンナノチューブを含む実施例1〜4の各試料は、カーボンナノチューブの種類および濃度に関わらず、低い拡散反射率を有していた。そのため、実施例1〜4の各試料は、紫外線領域(波長が10〜360nm)の範囲で95%、可視光領域(波長が360nm〜760nm)および近赤外線領域(波長が760〜2500nm)で約98%の安定した光吸収率を示した。酸化チタニウム100重量部に対して2.5重量部のCNT1を含む実施例1の試料は、酸化チタニウム100重量部に対して2.5重量部のCNT1を含む実施例4の試料とほぼ同じ拡散反射率であった。酸化チタニウム100重量部に対して5重量部のCNT1を含む実施例2の試料は、実施例1および実施例4の試料よりも低い拡散反射率だった。さらに、膜厚方向でCNT1の含有量が異なる実施例3の試料は、実施例1および実施例2の試料よりも小さい表面積を有するにも関わらず、実施例1〜4の中で最も低い拡散反射率を示した。これより、投影面積に対する表面積の値がある程度以上の場合には、光吸収率は、表面積の値よりも他の要因により変化するものであると考えられる。たとえば、三次元構造の緻密さや孔径の大きさが1つの要因であると考えられる。一方、比較例3の試料では、可視光領域における光の拡散反射率は1%程度であるが、紫外線領域における光の拡散反射率は13%、近赤外線領域における光の拡散反射率は2〜14%であった。
【0075】
図11の結果より、カーボンナノチューブを含む実施例1〜4の各試料は、従来品からなる比較例3の試料よりも光吸収率が高いことがわかった。
【0076】
次に、実施例2の試料のうち、表3に示すように基板の種類を変えた実施例6〜8について拡散反射率測定を行った結果を図12に示す。また、実施例7および実施例8についてのXRDチャートを図13に示す。また、実施例7および実施例8についてレーザー顕微鏡を用いて測定した写真を図13に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
(実施例6〜8)
実施例6は、鉄およびニッケルの合金であるステンレス鋼(SUS430)を基板として用いた。実施例7は、真鍮から主になる基板を用いた。実施例8は、鉄およびニッケルの他に、クロムを含むステンレス鋼(SUS304)を基板として用いた。図12に示すように、基板の種類を変えた実施例6〜8の各試料は、アルミニウム基板を用いた実施例2の試料とほぼ同様の光吸収率を示した。図9および図13に示すように、実施例6〜8の各試料において、酸化チタニウムは、アナターゼ型だった。また、表3に示すように、実施例7,8の各試料の表面積は、実施例2の表面積と比較して大きな違いはなかった。すなわち、酸化チタニウムとカーボンナノチューブとを含む光吸収膜は、アルミニウム基板以外の基板にも適用可能であることがわかった。
【0079】
(4)キセノンランプ照射による光吸収膜の温度測定方法およびその結果
炭素材料を変えて作製した実施例2、比較例1,2および比較例3の各試料に、試料から光源を50cm離間させて、室温18.3℃にて20分間キセノンランプを照射した。光吸収膜の表面側と、その裏面側に熱電対を取り付け、それぞれの温度を測定した。結果を図15に示す。
【0080】
図15に示すように、CNT1を含む実施例2の試料は、カーボンナノチューブ以外の炭素材料を含む比較例1および比較例2や従来品からなる比較例3の各試料よりも、キセノンランプの光を吸収し、高温になった。
【0081】
図15の結果から、酸化チタニウムとカーボンナノチューブとを含む光吸収膜は、カーボンナノチューブ以外の炭素材料を含む光吸収膜よりも、光吸収率が高く、効率よく集熱できることがわかった。
【0082】
次に、実施例1〜3、比較例3および比較例5(光吸収層を設けていないブランクのアルミニウム板から構成される)の各試料に、キセノンランプを照射し、光吸収膜の光照射面側(表側)と、その裏側との温度をそれぞれ測定した。キセノンランプの光源は、試料から50cm離間させ20分間試料に照射した。室温は、26.8℃だった。結果を図16に示す。
【0083】
図16に示すように、従来品から成る比較例3の試料よりも、CNT1を含む実施例2および実施例3の試料の方が、キセノンランプの光を吸収し、高温になった。また、膜厚方向でCNT1の含有量が異なる実施例3の試料は、膜厚方向でCNT1の含有量が同じ実施例1および実施例2の試料よりも高温になった。酸化チタニウム100重量部に対して2.5重量部のCNT1を含む実施例1の試料の温度は、比較例3の試料の温度と同程度の範囲内であった。
【0084】
図16の結果から、実施例2の試料の表面における平均温度は、56.11℃だった。一方、比較例3の試料の表面における平均温度は、49.61℃だった。実施例2の試料の表面と裏面との温度差は、比較例3の試料の表面と裏面との温度差よりも約0.2%大きかった。この結果から、表面側よりも裏面側により高い密度でカーボンナノチューブを含む光吸収膜は、特に高い光吸収率を有し、効率よく集熱できることがわかった。また、酸化チタニウム100重量部に対して5重量部以上のカーボンナノチューブを含む実施例2および実施例3の試料は、従来品からなる比較例3の試料よりも効率よく集熱できることがわかった。
【0085】
(5)太陽光照射による光吸収膜の温度測定方法
CNT1の含有量を変化させた実施例1〜3、比較例3および比較例5に、太陽光を1時間照射し、光吸収膜の光照射面側(表側)と、その裏側との温度を測定した。なお、測定は、気温が27.2℃、天気が薄曇り、微風の中で行った。結果を図17に示す。
【0086】
図17に示すように、従来品から成る比較例3の試料よりも、CNT1を含む実施例3および実施例1の試料の方が、太陽光を吸収し、高温になった。実施例1〜3の中では、膜厚方向でCNT1の含有量が異なる実施例3の試料が最も高温になった。酸化チタニウム100重量部に対して5重量部のCNT1を含む実施例2の試料の温度は、比較例3の試料の温度と同程度の範囲内であった。
【0087】
図17の結果から、表面側よりも裏面側により高い密度でカーボンナノチューブを含む光吸収膜は、特に高い光吸収率を有し、太陽光を照射した場合にも効率よく集熱できることがわかった。また、酸化チタニウム100重量部に対して2.5重量部のカーボンナノチューブを含む実施例1および実施例3の試料は、太陽光を照射した場合に、従来品からなる比較例3の試料よりも効率よく集熱できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、例えば、太陽光集熱板等に利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 基板
20 スプレー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタニウム100重量部と、
カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含むことを特徴とする光吸収膜。
【請求項2】
請求項1に記載の光吸収膜において、
前記カーボンナノチューブは、光を照射する面側よりもその裏面側により多く含まれることを特徴とする光吸収膜。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光吸収膜において、
三次元網目状に形成されると共に、複数の孔が形成されていることを特徴とする光吸収膜。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光吸収膜において、
表面積が投影面積の3倍以上である光照射面を有することを特徴とする光吸収膜。
【請求項5】
酸化チタニウム100重量部と、カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜を製造する方法であって、
上記カーボンナノチューブ溶媒に混合する混合ステップと、
上記酸化チタニウムを生成するための酸化チタニウム前駆体溶液と、上記カーボンナノチューブを混合した溶媒とを基板に塗布し加熱する塗布ステップと、
を有することを特徴とする、光吸収膜の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の光吸収膜の製造方法において、
前記混合ステップは、前記カーボンナノチューブを混合した溶媒に対して圧力を付与し、流れ込んだ上記溶媒を相互に衝突させて流れ方向を変えるステップを含むことを特徴とする光吸収膜の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の光吸収膜の製造方法において、
前記塗布ステップは、加熱された前記基板にスプレーにより塗布することを特徴とする光吸収膜の製造方法。
【請求項8】
酸化チタニウム100重量部とカーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜と、
上記光吸収膜を支持する基板と、を含む太陽光集熱器。
【請求項1】
酸化チタニウム100重量部と、
カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含むことを特徴とする光吸収膜。
【請求項2】
請求項1に記載の光吸収膜において、
前記カーボンナノチューブは、光を照射する面側よりもその裏面側により多く含まれることを特徴とする光吸収膜。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光吸収膜において、
三次元網目状に形成されると共に、複数の孔が形成されていることを特徴とする光吸収膜。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光吸収膜において、
表面積が投影面積の3倍以上である光照射面を有することを特徴とする光吸収膜。
【請求項5】
酸化チタニウム100重量部と、カーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜を製造する方法であって、
上記カーボンナノチューブ溶媒に混合する混合ステップと、
上記酸化チタニウムを生成するための酸化チタニウム前駆体溶液と、上記カーボンナノチューブを混合した溶媒とを基板に塗布し加熱する塗布ステップと、
を有することを特徴とする、光吸収膜の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の光吸収膜の製造方法において、
前記混合ステップは、前記カーボンナノチューブを混合した溶媒に対して圧力を付与し、流れ込んだ上記溶媒を相互に衝突させて流れ方向を変えるステップを含むことを特徴とする光吸収膜の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の光吸収膜の製造方法において、
前記塗布ステップは、加熱された前記基板にスプレーにより塗布することを特徴とする光吸収膜の製造方法。
【請求項8】
酸化チタニウム100重量部とカーボンナノチューブ2〜10重量部とを含む光吸収膜と、
上記光吸収膜を支持する基板と、を含む太陽光集熱器。
【図1】
【図2】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−201589(P2012−201589A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71018(P2011−71018)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(507224864)ナノフロンティアテクノロジー株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(507224864)ナノフロンティアテクノロジー株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
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