説明

光周波数コム発生方法、光周波数コム発生装置及び高密度波長多重送信システム

【課題】 チャンネル間隔を拡大した多波長レーザーを生成する。
【解決手段】 光周波数コム発生器12は、レーザー光源11から入射されるレーザー光をファブリ・ペロー共振器内で変調周波数fmの変調信号で変調することにより、上記変調周波数fmの周波数間隔の光周波数コムを生成し、上記変調周波数の整数倍に一致した自由スペクトル域(FSR:Free spectral range)を持つファブリ・ペローフィルタ13を通すことにより、上記変調周波数の整数倍の周波数間隔の光周波数コムを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光周波数コム発生方法、光周波数コム発生装置及びこの光周波数コム発生装置を用いた高密度波長多重(DWDM:Dense wavelength division multiplexing)送信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の光通信ネットワークは、通信容量を増大させるため一本の光ファイバに波長の異なる多くのチャネルを一括して伝送するDWDM通信システムが利用されている。このようなDWDMシステムは、International Telecommunication Unit(ITU)と呼ばれる規格に定められた周波数に一致する一定周波数間隔(ITUグリッド)の光源を必要とする。例えば、Cバンドと呼ばれる波長帯域は周波数191THzから195THzまでで、この周波数帯域に100GHz間隔で50チャネルや50GHz間隔で100チャネル、または25GHz間隔で200チャネルの光源を用意して伝送を行う。
【0003】
また、光周波数を高精度に測定する場合に光周波数コム発生器(Optical Frequency Comb Generator)が使用されている。
【0004】
光周波数コム発生器は、入射したレーザー光のサイドバンドを等周波数間隔毎に数百本発生させるもので、発生されるサイドバンドの周波数安定度はもとのレーザー光のそれとほぼ同等である。
【0005】
そこで、光周波数コム発生器により発生したサイドバンドは、WDM通信用の周波数基準として用いたり、光の差周波数測定に用いている。
【0006】
光周波数コム発生器を用いた光の差周波数測定では、光検出器の帯域よりもはるかに大きな差周波数であっても、サイドバンドとのビート信号によって差周波数を正確に測ることができる。すなわち、サイドバンドと被測定レーザー光をヘテロダイン検波することにより、数THzに亘る広帯域なヘテロダイン検波系を構築することができる2つのレーザー光をヘテロダイン検波してその差周波数を測定する場合、その帯域は受光素子の帯域で制限され、おおむね数十GHz程度であるので、光周波数コム発生器を用いて広帯域なヘテロダイン検波系を構築するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2002−174552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、一本の光ファイバに波長の異なる多くのチャネルを一括して伝送する高密度波長多重(DWDM)通信システムでは、各チャネルに対して1台のレーザーを用意する必要があり、チャネル数に応じたたくさんのレーザー駆動電源やレーザー光源を用いるため大型で複雑となる問題があった。また、各レーザーの波長や光学素子の特性を全てITUのグリッドに一致させることも極めて困難な問題である。
【0009】
ここで、一台の光コム発生器は、そのようなたくさんのレーザーを置き換えることが可能である。光周波数コム発生器はファブリ・ペロー型の電気光学変調器であり、周波数軸上で変調周波数間隔に並んだサイドバンドを極めて効率よく発生する。時間的には1ps以下の短パルス発生器でもある。これまで光周波数コム発生器は、周波数間隔の正確さを応用した光周波数計測に用いられてきた。
【0010】
しかし、最近では波長多重通信の容量増大とともに、多波長光源としての応用に期待が高まっている。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上述の如き従来の実情に鑑み、チャンネル間隔を拡大した多波長レーザーを生成する光周波数コム発生方法、光周波数コム発生装置及びこの光周波数コム発生装置を用いたDWDM送信システムを提供することにある。
【0012】
本発明の更に他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る光周波数コム発生方法は、入射されるレーザー光をファブリ・ペロー共振器内で変調周波数の変調信号で変調することにより、上記変調周波数の周波数間隔の光周波数コムを生成し、上記変調周波数の整数倍に一致した自由スペクトル域を持つファブリ・ペローフィルタを通すことにより、上記変調周波数の整数倍の周波数間隔の光周波数コムを生成することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る光周波数コム発生装置は、レーザー光を出射するレーザー光源と、上記レーザー光源から入射されるレーザー光を変調周波数の変調信号で変調して光周波数コムを生成する光周波数コム発生器と、上記光周波数コム発生器により生成された光周波数コムが入射されるファブリ・ペローフィルタとを備え、上記ファブリ・ペローフィルタは、上記変調周波数の整数倍に一致した自由スペクトル域を持ち、上記変調周波数の整数倍の周波数間隔の光周波数コムを出力することを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明に係るDWDM送信システムは、レーザー光を出射するレーザー光源と、上記レーザー光源から入射されるレーザー光を変調周波数の変調信号で変調して光周波数コムを生成する光周波数コム発生器と、上記変調周波数の整数倍に一致した自由スペクトル域を持ち、上記光周波数コム発生器により生成された光周波数コムが入射され、上記変調周波数の整数倍の周波数間隔の光周波数コムを出力するファブリ・ペローフィルタと、上記ファブリ・ペローフィルタを介して入射される光周波数コムのサイドバンドを各チャンネルの光に分離する分波器と、上記分波器により分離された光が入射される各チャンネルの変調器と、上記各チャンネルの変調器により変調された光変調信号を合波して光伝送信号として出力する合波器とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、光周波数コム発生器により生成される周波数コムのチャンネル間隔を拡大した多波長レーザーを生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0018】
本発明は、例えば図1に示すように構成のDWDM送信システム10に適用される。
【0019】
このDWDM送信システム10は、基準となる周波数f0のレーザー光Lを出射するレーザー光源(半導体レーザLD)11、上記レーザー光源11から出射されたレーザー光Lが入射される光周波数コム発生器12、上記光周波数コム発生器12により生成された光周波数コムLcomが入射されるファブリ・ペローフィルタ13、上記光周波数コム発生器12により生成された光周波数コムLcomが上記ファブリ・ペローフィルタ13を介して入射される分波器14、上記分波器14により分離された光L〜Lが入射される各チャンネルの変調器15〜15、上記各チャンネルの変調器15〜15により変調された光変調信号Lmod1〜Lmodnが入射される合波器16などからなる。
【0020】
このDWDM送信システム10において、レーザー光源11から出射されるレーザーLの波長λ0は、ITU規格に定められた一定周波数間隔(ITUグリッド)のどれか1つに一致させておく。
【0021】
この実施の形態では、レーザー光源11は、波長1550nm、出力5mWの半導体レーザーであり、その出力はエルビウム添加光ファイバ増幅器によって+23dBmにまで増幅されている。増幅されたレーザー光Lが光周波数コム発生器12に入力されるようになっている。
【0022】
光周波数コム発生器12は、レーザー光源11から入射されたレーザー光Lから一定周波数間隔の光周波数コムLcomを生成する。
【0023】
この光周波数コム発生器12は、図2に示すように、ファブリ・ペロー共振器12Aとファブリ・ペロー共振器12Aに挿入された電気光学位相変調器12Bから構成される。電気光学位相変調器12Bは、共振器の自由スペクトル域(FSR:Free spectral range)の整数倍の周波数で駆動される。FSRの整数倍の周波数に一致したマイクロ波が加えられえると、共振器内を周回する光の周期とマイクロ波電圧の周期が一致するため極めて深い位相変調がかけられる。その結果、光周波数コム発生器12は、周波数軸ではきわめて広い周波数スパンの光周波数コム、時間軸では1ps以下の超短光パルスを発生する。光周波数コムの周波数間隔は変調周波数fmに一致するため、周波数間隔は極めて安定である。したがって発生した光周波数コムLcomの周波数安定度は、入力されたレーザー光Lの周波数安定度に一致する。
【0024】
この実施の形態において、上記光周波数コム発生器12は、上記電気光学位相変調器12BがLiNbO結晶を用いて作られている。LiNbO結晶はzカットのウエハから切り出され、その寸法は22×0.7×0.7mmである。LiNbO結晶の端面は、鏡面に研磨され、入力側には反射率95.5%のミラーコーティング、出力側には反射率0.1%以下の無反射コーティングが施されている。出力側に、反射率95.5%の外部反射鏡を取り付けることによってファブリ・ペロー共振器12Aを構成している。このファブリ・ペロー共振器12AのFSRは、3.125GHzに調整され、FSRの8倍が変調周波数fm(25GHz)に一致している。この光周波数コム発生器12は、周波数25GHz、出力3Wのマイクロ波で駆動し、その出力を光スペクトラムアナライザで観測したところ、図3の(A),(B)に示すような25GHz間隔の光周波数コムLcomが観測された。
【0025】
図3の(A)はファブリ・ペロー共振器12Aのフィネスが60のとき、図3の(B)はファブリ・ペロー共振器12Aのフィネスが200のときのスペクトルを示している。
【0026】
ここで、図3の(A),(B)に示す出力スペクトルから、サイドバンドの信号対雑音比が50dB以上であり、一般的に光通信で要求される信号対雑音比よりも20dB良い信号対雑音比を持っていることがわかる。光増幅器を利用することによって、通信に使用可能なチャネル数は40に達することを確認した。サイドバンドの本数は、マイクロ波のパワー(変調指数)と共振器のフィネスに依存している。例えば共振器のフィネスを10倍に上げるとサイドバンドの本数は10倍に増えるが、パワーは低下する。スペクトルに示されているように、光周波数コム発生器出力のサイドバンドパワーは、次数が大きくなると指数関数的に減少する。
【0027】
上記光周波数コム発生器12により生成された光周波数コムLcomが入射されるファブリ・ペローフィルタ13は、変調周波数fmの整数倍に一致したFSRを持つものである。このように変調周波数fmの整数倍に一致したFSRを持つファブリ・ペローフィルタ13を通過させることにより、光周波数コムLcomから元の周波数間隔の整数倍の周波数間隔の光周波数コムLcomoutを生成することができる。例えば、25GHzの光周波数コムをFSR50GHzのファブリ・ペローフィルタ13に通すと、ファブリ・ペローフィルタ13の透過モードに一致した周波数だけが取り出され、周波数間隔50GHzの光周波数コムLcomoutを生成することができる。
【0028】
ここで、上記ファブリ・ペローフィルタ13の出力を図4の(A),(B)に示す。図4の(A)はファブリ・ペローフィルタ13のフィネスが40のとき、図4の(B)はファブリ・ペローフィルタ13のフィネスが80のときのスペクトルを示している。いずれの場合にも50GHz間隔の光周波数コムLcomoutが発生できている。フィネス80の場合のほうが、中間モードの抑圧度が大きいが、全体的に挿入損失が大きいため、サイドバンドのパワーはフィネス40の場合に比べて若干低下している。
【0029】
このように光周波数コムLcomにおけるサイドバンドの周波数間隔は、変調周波数fmの整数倍に一致したFSRを持つファブリ・ペローフィルタ13を使って広くすることができる。
【0030】
すなわち、ファブリ・ペローフィルタ13は、上記光周波数コム発生器12により生成された光周波数コムLcomのサイドバンドからコムの本数を間引くフィルタとして機能する。また、ファブリ・ペローフィルタ13は、光コムのモード間を非通過帯域とするので、上記光コムのモード間にある雑音を除去する効果もある。
【0031】
このDWDM送信システム10において、上記光周波数コム発生器12により生成された周波数間隔が25GHzの光周波数コムLcomは、上記ファブリ・ペローフィルタ13を介することにより、周波数間隔50GHzの光周波数コムLcomoutとして分波器14に入射される。
【0032】
分波器14は、上記ファブリ・ペローフィルタ13により生成された50GHz間隔の光周波数コムLcomoutのサイドバンドをチャンネル毎に分離して、各チャンネルの変調器15〜15に入射する。
【0033】
また、各チャンネルの変調器15〜15は、上記分波器14により分離されたら各チャンネルの光L〜Lを変調する。
【0034】
そして、合波器16は、上記各チャンネルの変調器15〜15により変調された光変調信号L〜Lmodnを合波して光伝送信号LOUTとして出力する。
【0035】
ここで、上記分波器14は、例えばアレイ導波路格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)型分波器が用いられており、また、上記合波器16は、AWGはスターカプラからなる。
【0036】
このDWDM送信システム10では、サイドバンドのパワーは入力パワーが+23dBmのとき−30dBmから0dBmであり、信号対雑音比は50dB以上であった。また、チャネル間隔は、ファブリ・ペローフィルタ13の使用によって50GHzに拡大することができた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を適用したDWDM送信システムの構成を示すブロック図である。
【図2】上記DWDM送信システムにおける光周波数コム発生器の構成を示す模式図である。
【図3】上記光周波数コム発生器の出力を光スペクトラムアナライザで観測した結果を示す図である。
【図4】上記DWDM送信システムにおけるファブリ・ペローフィルタの出力を光スペクトラムアナライザで観測した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10 DWDM送信システム、11 レーザー光源、12 光周波数コム発生器、13 ファブリ・ペローフィルタ、14 分波器、15〜15 変調器、16 合波器、12A ファブリ・ペロー共振器、12B 電気光学位相変調器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射されるレーザー光をファブリ・ペロー共振器内で変調周波数の変調信号で変調することにより、上記変調周波数の周波数間隔の光周波数コムを生成し、
上記変調周波数の整数倍に一致した自由スペクトル域を持つファブリ・ペローフィルタを通すことにより、上記変調周波数の整数倍の周波数間隔の光周波数コムを生成することを特徴とする光周波数コム発生方法。
【請求項2】
レーザー光を出射するレーザー光源と、
上記レーザー光源から入射されるレーザー光を変調周波数の変調信号で変調して光周波数コムを生成する光周波数コム発生器と、
上記光周波数コム発生器により生成された光周波数コムが入射されるファブリ・ペローフィルタとを備え、
上記ファブリ・ペローフィルタは、上記変調周波数の整数倍に一致した自由スペクトル域を持ち、上記変調周波数の整数倍の周波数間隔の光周波数コムを出力することを特徴とする光周波数コム発生装置。
【請求項3】
レーザー光を出射するレーザー光源と、
上記レーザー光源から入射されるレーザー光を変調周波数の変調信号で変調して光周波数コムを生成する光周波数コム発生器と、
上記変調周波数の整数倍に一致した自由スペクトル域を持ち、上記光周波数コム発生器により生成された光周波数コムが入射され、上記変調周波数の整数倍の周波数間隔の光周波数コムを出力するファブリ・ペローフィルタと、
上記ファブリ・ペローフィルタを介して入射される光周波数コムのサイドバンドを各チャンネルの光に分離する分波器と、
上記分波器により分離された光が入射される各チャンネルの変調器と、
上記各チャンネルの変調器により変調された光変調信号を合波して光伝送信号として出力する合波器と
を備えることを特徴とする高密度波長多重送信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−208656(P2006−208656A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19493(P2005−19493)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(503249810)株式会社光コム研究所 (28)
【Fターム(参考)】