説明

光変調素子および光変調素子の駆動方法

【課題】視野角の広さを調整可能な光変調素子、並びに、光変調素子の駆動方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一方が透光性を有する一対の基板11および21を有し、且つ前記一対の基板11および21にて挟まれる領域に、液晶を含有する第1の調光層30Aおよび第2の調光層30Bと、少なくとも前記第1の調光層30Aに電圧を印加する電極層22と、を有すると共に、前記電極層22から前記第1の調光層30Aに印加する印加電圧の高さを制御する制御部60を有する光変調素子、並びに、前記電極層20から前記第1の調光層30Aに印加する印加電圧の高さを調整して、前記第1の調光層30Aに含有される液晶のドメインサイズを制御する光変調素子の駆動方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調素子および光変調素子の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙パルプの原料である森林資源の破壊や、ごみの廃却、焼却による環境汚染などから、オフィスを中心とする大量の紙の消費が問題になっている。しかしながら、パーソナルコンピュータの普及、インターネットを始めとする情報化社会の発達により、電子情報の一時的な閲覧を目的とする、いわゆる短寿命文書としての紙の消費は、益々増加する傾向にあり、紙に代わる書き換え可能な表示媒体の実現が望まれている。
【0003】
ところで、コレステリック光変調素子は無電源で表示を保持できるメモリ性を有すること、偏光板を使用しないため明るい表示が得られること、カラーフィルターを用いずにカラー表示が可能なことなどの特長を有することから近年注目を集めている。
【0004】
液晶分子が螺旋構造を持つコレステリック液晶は、入射した光を右円偏光と左円偏光に分け、螺旋の捩じれ方向の円偏光成分をブラッグ反射し、残りの光を透過させる選択反射現象を起こす。反射光の中心波長λ、および反射波長幅Δλは、螺旋ピッチをp、平均屈折率をn、複屈折率をΔnとすると、それぞれλ=n・p、Δλ=Δn・pで表され、コレステリック液晶層による反射光は螺旋ピッチに依存した鮮やかな色を呈する。
【0005】
正の誘電異方性を有するコレステリック液晶は、図3(A)に示すように、螺旋軸がセル表面に垂直になり、入射光に対して上記の選択反射現象を起こすプレーナ状態、図3(B)に示すように、螺旋軸がセル表面に平行になり、入射光を少し前方散乱させながら透過させるフォーカルコニック状態、および図3(C)に示すように、螺旋構造がほどけて液晶ダイレクタが電界方向を向き、入射光を透過させるホメオトロピック状態、の3つの状態を示す。
【0006】
上記の3つの状態のうち、プレーナ状態とフォーカルコニック状態は、無電圧で双安定に存在することができる。したがって、コレステリック液晶の配向状態は、液晶層に印加される電圧に対して一義的に決まらず、プレーナ状態が初期状態の場合には、印加電圧の増加に伴って、プレーナ状態、フォーカルコニック状態、ホメオトロピック状態の順に変化し、フォーカルコニック状態が初期状態の場合には、印加電圧の増加に伴って、フォーカルコニック状態、ホメオトロピック状態の順に変化する。一方、液晶層に印加した電圧をゼロにした場合には、プレーナ状態とフォーカルコニック状態はそのままの状態を維持し、ホメオトロピック状態はプレーナ状態に変化する。そして、印加するパルス電圧の高さによって上記3つの状態を相互に遷移させることができる。
【0007】
この電気光学応答を示したものが図4である。図4中、曲線Aは初期状態がプレーナ状態の場合を示し、曲線Bは初期状態がフォーカルコニック状態の場合を示す。
【0008】
図4において(a)で示す領域はプレーナ状態またはフォーカルコニック状態(選択反射状態または透過状態)を、(b)で示す領域は遷移領域を、(c)で示す領域はフォーカルコニック状態(透過状態)を、(d)で示す領域は遷移領域を、(e)で示す領域はホメオトロピック状態を示し、ホメオトロピック状態で電圧を0にするとプレーナ状態(選択反射状態)に変化する。また、Vpf,90 、Vpf,10 、Vfh,10 、Vh,90とは、前記の2つの遷移領域の前後において、正規化反射率が90または10になる電圧(正規化反射率が90以上を選択反射状態とし、10以下を透過状態とする)を意味する。
【0009】
そして、コレステリック液晶層の背面に、少なくとも選択反射色が有する波長の光を吸収する層を配置することで、プレーナ状態とフォーカルコニック状態を利用した反射型メモリ表示を実現できる。
【0010】
コレステリック光変調素子は、一対の支持基板間に液晶を連続相として封入する構造のほかに、高分子バインダ中にコレステリック液晶をドロップ状に分散したPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)や、高分子バインダ中に液晶マイクロカプセル化された液晶を分散したPDMLC(Polymer Dispersed Microencapsulated Liquid Crystal)と称される表示方法が知られている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。
【0011】
ここで、色純度を低下させずに視野角を広くする方法として、モノドメインとポリドメインを混在させる液晶素子が開示されている(例えば、特許文献4参照)。具体的には、視野側にポリドメインを、対向側にモノドメインを配置させている。
【特許文献1】特公平7−009512号公報
【特許文献2】特開平09−236791号公報
【特許文献3】特許第3178530号公報
【特許文献4】特許第3386055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、視野角の広さを調整可能な光変調素子および光変調素子の駆動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、以下の本発明により達成される。
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、
少なくとも一方が透光性を有する一対の基板を有し、
且つ前記一対の基板にて挟まれる領域に、液晶を含有する第1の調光層および第2の調光層と、少なくとも前記第1の調光層に電圧を印加する電極層と、を有すると共に、
前記電極層から前記第1の調光層に印加する印加電圧の高さを制御する制御部を有する光変調素子である。
【0014】
請求項2に係る発明は、
少なくとも一方が透光性を有する一対の基板を有し、
且つ前記一対の基板にて挟まれる領域に、第1の電極層と、前記第1の調光層と、中間層と、前記第2の調光層と、第2の電極層と、をこの順に有すると共に、
前記第1の電極層から前記第1の調光層に印加する印加電圧の高さを制御する制御部を有する請求項1に記載の光変調素子である。
【0015】
請求項3に係る発明は、
少なくとも一方が透光性を有する一対の基板を有し、且つ前記一対の基板にて挟まれる領域に、液晶を含有する第1の調光層および第2の調光層と、少なくとも前記第1の調光層に電圧を印加する電極層と、を有する光変調素子に対し、
前記電極層から前記第1の調光層に印加する印加電圧の高さを調整して、前記第1の調光層に含有される液晶のドメインサイズを制御する光変調素子の駆動方法である。
【0016】
請求項4に係る発明は、
少なくとも一方が透光性を有する一対の基板を有し、且つ前記一対の基板にて挟まれる領域に、第1の電極層と、前記第1の調光層と、中間層と、前記第2の調光層と、第2の電極層と、をこの順に有する光変調素子に対し、
前記第1の電極層から前記第1の調光層に印加する印加電圧の高さを調整して、前記第1の調光層に含有される液晶のドメインサイズを制御する請求項3に記載の光変調素子の駆動方法である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、視野角の広さを調整することができる。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、視野角の広さをより簡易に調整することができる。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、視野角の広さを調整することができる。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、視野角の広さをより簡易に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る光変調素子は、少なくとも一方が透光性を有する一対の基板を有し、且つ前記一対の基板にて挟まれる領域に、液晶を含有する第1の調光層および第2の調光層と、少なくとも前記第1の調光層に電圧を印加する電極層と、を有すると共に、前記電極層から前記第1の調光層に印加する印加電圧の高さを制御する制御部を有することを特徴とする。
【0022】
また、本実施形態に係る光変調素子の駆動方法は、少なくとも一方が透光性を有する一対の基板を有し、且つ前記一対の基板にて挟まれる領域に、液晶を含有する第1の調光層および第2の調光層と、少なくとも前記第1の調光層に電圧を印加する電極層と、を有する光変調素子に対し、前記電極層から前記第1の調光層に印加する印加電圧の高さを調整して、前記第1の調光層に含有される液晶のドメインサイズを制御することを特徴とする。
【0023】
従来の光変調素子においては、調光層に含有される液晶のドメインサイズを大きくすると良好な色純度が得られるものの視野角が狭くなり、一方ドメインサイズを小さくすると視野角は広くなるものの色純度が悪化してしまうとの問題を有していた。これに対し、色純度を低下させずに視野角を広くする方法として、モノドメインとポリドメインを混在させる光変調素子が提案されている。しかし、光変調素子が用いられる状況によって求められる視野角の広さは異なるものであり、視野角の広さを調整可能な光変調素子が求められていたが、未だに提供されていないのが実状であった。
【0024】
これに対し、本実施形態に係る光変調素子は、液晶を含有する第1の調光層および第2の調光層と、少なくとも前記第1の調光層に電圧を印加する電極層と、を有すると共に、前記電極層から前記第1の調光層に印加する印加電圧の高さを制御する制御部を有する。前記制御部は、前記電極層から前記第1の調光層に印加する印加電圧の高さを調整して、前記第1の調光層に含有される液晶のドメインサイズを制御する機能を有する。上記のごとく、第1の調光層に含有される液晶のドメインサイズを制御することによって、視野角の広さを調整することができる。
本発明者らの鋭意検討により、調光層に含有される液晶に対して印加する印加電圧の高さを制御することにより、該液晶のドメインサイズを制御できることが判明した。具体的には、印加電圧を高くすることにより液晶のドメインサイズが大きくなり、一方印加電圧を低くすることにより液晶のドメインサイズが小さくなる。液晶のドメインサイズが大きくなれば光の直進性が上がるために視野角は狭くなり、一方液晶のドメインサイズが小さくなれば光の直進性が下がるために視野角は広くなる。これにより、本実施形態によれば、視野角の広さを調整することができるものと推察される。
【0025】
尚、液晶のドメインサイズを確認するには、顕微鏡観察によってドメインサイズを測定する或いは確認する方法が挙げられる。
【0026】
<第1実施形態>
ここで、本実施形態に係る光変調素子の構成として、第1実施形態に係る光変調素子について説明する。第1実施形態に係る光変調素子は、少なくとも一方が透光性を有する一対の基板を有し、且つ前記一対の基板にて挟まれる領域に、第1の電極層と、液晶を含有する第1の調光層と、中間層と、液晶を含有する第2の調光層と、第2の電極層と、をこの順に有すると共に、前記第1の電極層から前記第1の調光層に印加する印加電圧の大きさを制御する制御部を有する。
【0027】
尚、第1実施形態に係る光変調素子では、前記第1の調光層に含有される液晶のドメインサイズが、印加される電圧の大きさによって制御される。具体的には、前記第1の電極層から前記第1の調光層に印加される印加電圧の大きさが制御されることにより、第1の調光層に含有される液晶のドメインサイズが制御され、その結果視野角の広さを調整することができる。
【0028】
また、第1実施形態に係る光変調素子では、前記第2の調光層は、含有される液晶のドメインサイズが印加される電圧の大きさによって調整されない態様であってもよい。
尚、第2の調光層には、良好な色純度を得る観点からドメインサイズの大きい液晶を用いることが好ましい。
【0029】
本実施形態の光変調素子にはこの他に、必要に応じて非表示面側の基板の電極上に遮光層を設けてもよく、更に、遮光層と調光層、電極と調光層等が接着層を介して設けられていてもよい。
また、本実施形態の光変調素子に用いる液晶はコレステリック液晶、ネマチック液晶、ゲスト・ホスト液晶など、特に制限なく用いられるが、以下ではコレステリック液晶を例にとって説明する。
【0030】
次いで、図を用いて前記第1実施形態に係る光変調素子について説明する。
図1に示すように、第1実施形態の光変調素子10は、対向して設けられた一対の非表示面基板11と表示面基板21とで挟まれる領域に、液晶を含む第1の調光層30Aおよび第2の調光層30Bが設けられている。非表示面基板11上には第2の電極12を積層し、表示面基板21上には第1の電極22を積層した構成となっている。
【0031】
なお、図示は省略するが、非表示面基板11上には遮光層を設けてもよく、また表示面基板21と調光層30Aとは、接着層を介して積層された構成となっていてもよい。電極22と調光層30A、および電極12と前記遮光層等が接着層を介して設けられていてもよい。更に、前記遮光層は非表示面基板11の外側、即ち電極12が形成されていない側、あるいは表示面基板21側の電極22と調光層30Aとに挟まれる領域に設けてられていてもよい。
【0032】
このように構成された光変調素子10において、制御部60から、対向する電極22および電極12へ電圧に印加される印加電圧を調整することにより、印加電圧に応じてコレステリック液晶の配向状態が制御され、調光層30Aおよび30Bへ入射された入射光が、コレステリック液晶により選択反射される。
【0033】
次に、前記で説明した光変調素子に用いる各構成部材について説明する。
−基板−
基板は、絶縁性を有する、ガラス、およびシリコーン、またはポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネートなどの高分子フィルムを用いて形成され、少なくとも一方、特に視認される側の支持基板(表示面基板を構成する支持基板)は、入射光および反射光に対して透過性を有する材料により形成される。また必要に応じて、支持基板の表面に、防汚膜、耐磨耗膜、光反射防止膜、ガスバリア膜など公知の機能性膜を形成してもよい。
【0034】
−電極−
電極は、導電性を有する、金やアルミなどの金属薄膜、酸化インジウムや酸化スズなどの金属酸化物、またはポリピロール、ポリアセチレン、ポリアニリンなどの導電性有機高分子を用いて形成され、少なくとも表示面側にある電極は、入射光および反射光に対して透過性を有する材料により形成する。また必要に応じて、その表面に、密着力改善膜、光反射防止膜、ガスバリア膜など公知の機能性膜を形成してもよい。
【0035】
−調光層−
調光層は、液晶を含有してなる。調光層の層厚は、1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0036】
(液晶)
第1実施形態において用いることができる液晶材料としては、屈折率異方性があり、電圧印加によって配向が変化するものであればどの液晶材料であってもよいが、好ましくは、コレステリック液晶(カイラルネマチック液晶を含む)が挙げられる。
【0037】
なお、第1実施形態で用いられるコレステリック液晶材料として、ステロイド系コレステロール誘導体、あるいはシッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、安息香酸エステル系、ビフェニル系、ターフェニル系、シクロヘキシルカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ビフェニルシクロヘキサン系、ピリミジン系、ジオキサン系、シクロヘキシルシクロヘキサンエステル系、シクロヘキシルエタン系、シクロヘキサン系、トラン系、アルケニル系、スチルベン系、縮合多環系などのネマチック液晶やスメクチック液晶、またはこれらの混合液晶に、シッフ塩基系、アゾ系、エステル系、ビフェニル系などの光学活性材料からなるカイラル成分を添加した材料を用いることができる。
【0038】
尚、第1実施形態における第1の調光層に含有する液晶としては、印加電圧によってドメインサイズを制御しやすいとの観点から、抵抗値が高いほうがよく、望ましくは第2の調光層の3倍以上の抵抗値であることが好ましい。
一方、第1実施形態における第2の調光層に含有する液晶としては、良好な色純度を得る観点からドメインサイズの大きい液晶を用いることが好ましい。好ましい液晶としては屈折率異方性が大きく、抵抗値が第1の調光層よりも低いほうがよい。
【0039】
−中間層−
中間層とは、第1の電極層から第1の調光層に印加される印加電圧が第2の調光層に影響を与えないように介在される層であり、且つ第2の電極層から第2の調光層に印加される印加電圧が第1の調光層に影響を与えないように介在される層である。
該中間層の材料としては、例えば、ガラス製またはプラスチック製など公知の透明基板が使用され、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルムをはじめとするフレキシブル基板が適用される。
中間層の膜厚としては、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0040】
−接着層−
接着層は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂など、熱や圧力によって調光層と遮光層を密着させることができる材料を用いる。なお、接着層を挿入する位置はこの実施形態に限らず、電極と調光層、電極と遮光層等が該接着層を介して設けられていてもよい。電極と調光層とが接着層を介して設けられる場合は、少なくとも入射光および反射光に対して透過性を有する材料により形成する。
【0041】
−遮光層−
遮光層は、絶縁性を有する、カドミウム系、クロム系、コバルト系、マンガン系、カーボン系などの無機顔料、またはアゾ系、アントラキノン系、インジゴ系、トリフェニルメタン系、ニトロ系、フタロシアニン系、ペリレン系、ピロロピロール系、キナクリドン系、多環キノン系、スクエアリウム系、アズレニウム系、シアニン系、ピリリウム系、アントロン系などの有機染料や有機顔料、あるいはこれらをゼラチンに分散した材料を用いて形成され、少なくとも反射光に対して、光吸収性を有するように構成する。
【0042】
−光導電層−
光導電層は、a−Si:H、a−Se、Te−Se、As2Se3、CdSe、CdS
などの無機光導電体、あるいはアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、キナクリドン顔料、ピロロピロール顔料、インジゴ顔料、アントロン顔料などの電荷発生材料とアリールアミン、ヒドラゾン、トリフェニルメタン、PVKなどの電荷輸送材料を組合せた有機光導電体などにより構成する。
【0043】
次に第1施形態の光変調素子の作製方法について説明する。なお、第1実施形態では、説明を簡略化するために、図1に示すように、対向して設けられた非表示面基板と表示面基板とで挟まれる領域に、液晶ドロップを含む調光層が設けられている場合を説明する。
第1実施形態の光変調素子の作製方法は、表面に電極を有する支持基板としての非表示面基板上に遮光層を積層した後更に第2の調光層を積層し、また、表面に電極を有する支持基板としての表示面基板上に第1の調光層を積層した後に、中間層を介して、表面に電極を有する支持基板としての表示面基板を電極が形成された側と表面に電極を有する支持基板としての非表示面基板の電極が形成された面とが対向するように重ね合わせて接着することにより作製される。
【0044】
次に、前記光変調素子の調光層の作製方法について説明する。
なお、第1の調光層と第2の調光層とは、それぞれ用いる液晶やゼラチン、架橋剤、溶媒等が同じであっても異なっていてもよいが、それぞれの調光層の形成方法は以下に順ずるものである。よって説明を簡略化するために、第1の調光層を表示面基板上に形成する場合を例にとって説明する。
まず、調光層用塗布液の調製について詳細に説明する。
【0045】
[調光層用塗布液の調製]
第1実施形態に用いる調光層用塗布液は、ゼラチン、ゼラチンを架橋するための架橋剤、および液体を含有する溶液に、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルを分散することによって調製される。
まず、液晶ドロップおよび液晶マイクロカプセルの調製方法について説明する。
【0046】
<液晶ドロップエマルジョンの調製>
液晶ドロップエマルジョンは、少なくともコレステリック液晶を含む分散相を、分散相と相溶しない連続相、例えば、水相中にドロップ状に乳化分散させることにより調製される。乳化する手段として、分散相と連続相を混合した後、ホモジナイザ−などの機械的なせん断力で分散相を微小な液滴として分散させる方法や、分散相を連続相中に多孔質膜を通して押出し、微小な液滴として分散させる膜乳化法などを用いることができる。特に膜乳化法は乳化液滴の粒径ばらつきが小さくなるため、均一な粒径の液晶ドロップを形成することができるため好ましい。なお、乳化時の連続相中に、乳化を安定させるための界面活性剤や保護コロイドを混合しておいてもよい。
【0047】
<液晶マイクロカプセルスラリーの調製>
高分子シェル内にコレステリック液晶が内包された液晶マイクロカプセルの調製には、公知の液晶マイクロカプセル化手法、例えば、相分離法、界面重合法、in situ重合法を用いることができる。具体的には、前記のごとくして作製した液晶ドロップを、高分子シェル材料を含む溶液中に分散させ、または前記材料に応じて熱硬化などさせ、液晶ドロップの周囲に高分子シェルを形成する。また、ウレタン・ウレア系の高分子シェルを作る場合には、あらかじめ液晶ドロップに多価イソシアネート化合物を含ませておき、液晶ドロップを、多価アルコールを含む溶液中に添加してウレタン・ウレア生成反応を起こさせることが好ましい。
【0048】
高分子シェルとしては内包する液晶材料に溶解しない材料を用い、例えば、ゼラチン、セルロース誘導体、ゼラチン−アラビアゴム、ゼラチン−ゲランゴム、ゼラチン−ペプトン、ゼラチン−カルボキシメチルセルロース、ポリスチレン、ポリアミド、ナイロン、ポリエステル、ポリフェニルエステル、ポリウレタン、ポリウレア、メラミンホルマリン樹脂、フェノールホルマリン樹脂、尿素ホルマリン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂などが挙げられる。
【0049】
液晶マイクロカプセルの粒径は小さすぎると充分な反射特性が得られず、表示特性を悪化させると共に、コントラストの低下を招く。一方、高分子シェルによる液晶マイクロカプセルの壁厚は、厚すぎると液晶マイクロカプセル内に内包される液晶材料の量が少なくなり、薄すぎると強度が低下する。したがって、コントラストが高く且つ強度の低下を抑制するには、液晶マイクロカプセルの壁厚は、液晶マイクロカプセルの半径の1%以上25%以下が好ましく、更に3%以上21%以下の範囲内にすることが好ましい。
【0050】
なお、液晶マイクロカプセルおよび液晶ドロップの体積平均一次粒径は、1μm以上100μm以下が好ましく、更に好ましくは3μm以上20μm以下、特に好ましくは10μm以上15μm以下である。液晶マイクロカプセルおよび液晶ドロップの体積平均一次粒径が20μmを超えると駆動電圧の上昇を生じ、3μm未満であると充分な反射特性が期待できないおそれがある。
【0051】
<濃縮>
上記工程後の液晶ドロップエマルジョン、または液晶マイクロカプセルスラリーの不揮発分濃度が低く、塗布時の調光層用塗布液で必要となる不揮発分濃度に調整できない場合は濃縮を行う。液晶ドロップ、または液晶マイクロカプセルと連続相の比重差を利用して、静置や遠心分離によって沈殿、あるいは沈降させて分離した連続相を除去する方法や、メンブランフィルタで濾過する方法などを用いる。
【0052】
<調光層用塗布液の調製>
前記のごとくして得られた液晶ドロップエマルジョンまたは液晶マイクロカプセルスラリーを、ゼラチン、ゼラチンを架橋するための架橋剤、および溶媒を含む溶液に分散することにより調光層用塗布液を調製する。
【0053】
(調光層用塗布液の調製方法)
第1実施形態では、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルを支持基板上に塗布する。そこで、密度計や比重計を用いて、前記液晶ドロップエマルジョンまたは液晶マイクロカプセルスラリー内の各成分の含有量を測定し、調光層用塗布液のゼラチン、溶媒および液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルの混合割合を調整する。
【0054】
調光層用塗布液体積に対する不揮発成分体積の比率(体積率)をSr、不揮発成分体積に対する液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルの体積の比率(体積率)をLr、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルの平均粒径(μm)をD、背面基板上へのウェット塗布厚(μm)をtとすると、塗布面積に対する液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルの被覆面積の比率Aは、
【0055】
[式]
=(3/2)・(t・Sr・Lr/D)…式(1)
となる。そして、ALが、
【0056】
[式]
0.8<A<1.0…式(2)
の範囲になるように塗布調光層用塗布液を調整することが好ましい。
前記Srは、調光層用塗布液Xccから溶媒を蒸発させた場合に残る不揮発成分がYccの場合、Sr=Y/Xを意味し、また不揮発成分YccにZccの液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルが含まれる場合Lr=Z/Yを意味する。
【0057】
また、圧力などによる破壊を防ぐため、前記不揮発成分体積に対する液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルの体積の比率(体積率)Lrを0.9以下にすることが好ましい。
算出した混合割合に基づき、液晶ドロップエマルジョン、または液晶マイクロカプセルスラリーに対する、ゼラチン、溶媒、および架橋剤の混合量を調整して塗布調光層用塗布液を作製する。ここで、増粘剤、濡れ性改善剤、乾燥速度調整剤など、公知の調光層用塗布液特性改質剤を添加してもよい。
【0058】
(溶媒)
第1実施形態の調光層用塗布液に含有される溶媒としては、ゼラチンを溶解し、液晶ドロップの場合は液晶を溶解させないものが用いられ、液晶マイクロカプセルを用いる場合は少なくとも液晶マイクロカプセルの高分子シェルを溶解させないものが用いられる。
この溶媒としては、純水、イオン交換水、蒸留水、水道水等の水、水溶性有機溶媒、あるいはイオン交換水、蒸留水、水道水等の水と水溶性有機溶媒を混合した液体、非水溶性有機溶媒、およびイオン性液体等が用途や使用条件等に応じて選択される。
【0059】
第1実施形態において、上記溶媒は、調光層用塗布液に対して、75質量%以上95質量%以下含有されることが好ましく、80質量%以上90質量%以下含有されることがより好ましい。溶媒の含有量が75質量%以上90質量%以下の範囲内であると、調光層用塗布液を塗布できる粘度に調整することができる
【0060】
<調光層の形成方法>
次に第1実施形態の光変調素子の調光層(前述の通り一例として第1の調光層)を設ける工程について説明する。
第1実施形態の光変調素子の調光層を設ける工程は、光変調素子の調光層を設ける工程が、表示面基板上に、ゼラチン、ゼラチンを架橋しうる架橋剤、および溶媒を含む溶液に液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルが分散された調光層用塗布液を塗布する第1の塗布工程と、基板上に塗布された調光層用塗布液によって形成された塗布層中の溶媒をゼラチンの凝固点より高い温度で揮発させて乾燥させると共に調光層用塗布液中に含まれるゼラチンを架橋剤によって架橋する架橋乾燥工程と、ゼラチンを膨潤させるための液体を架橋乾燥工程により乾燥および架橋された塗布層に塗布する第2の塗布工程と、塗布層中の液体をゼラチンの凝固点以下の温度で揮発させて乾燥させる乾燥工程と、を有している。
この調光層を設ける工程について、以下に詳細に説明する。
【0061】
(第1の塗布工程)
前記のごとく濃度調製を行った調光層用塗布液の表示面基板への塗布は、アプリケータ、エッジコータ、スクリーンコータ、ロールコータ、カーテンコータ、ダイコータなど所望のウェット厚に塗布できる公知の装置を用いて行う。
【0062】
なお、第1の塗布工程では、調光層塗布液のゼラチンを融点より高い温度に加熱して流動性のあるゾル状態に保持する必要がある。ゼラチンは、融点より高い温度に温めるとゾル化し、凝固点以下の温度に下げるとゲル化し流動性を失う。ゼラチン水溶液の濃度、pHなどによって変化するが、市販ゼラチンの凝固点は20℃以上30℃以下で、融点はそれよりも約5℃高い。このため、塗布工程では、調光層塗布液は、凝固点20℃以上の温度として、20℃以上80℃以下の調光層用塗布液温度に保持することが好ましい。更に好ましくは、30℃℃以上70℃以下の調光層用塗布液温度に保持することが好ましく、特に好ましくは、40℃℃以上60℃以下の調光層用塗布液温度に保持することが好ましい。調光層用塗布液の温度が20℃未満であると、ゼラチンのゾル化が不十分なため塗布インクとしての適度な粘性が得られず、80℃を超えると液晶材料の揮発などが発生しやすくなり液晶化合物の組成比が変化してしまうという問題がある。
【0063】
(架橋乾燥工程)
次に、前記塗布工程により表示面基板上に形成された塗布層を密閉容器の中に保持し、且つ表示面基板上への加熱を継続することにより塗布層を融点より高い温度に加熱して、40℃以上60℃以下の温度となる状況下に塗布層を保持し、且つ、塗布層を、塗布層中の飽和蒸気圧と同一またはこの溶媒の飽和蒸気圧に近い雰囲気中で、5分間以上25分間以下加熱処理を続けることによって、塗布層中の溶媒を揮発させて乾燥させると共に、塗布膜中のゼラチンを架橋剤によって架橋する架橋乾燥工程を行う。
【0064】
加熱するための加熱装置としては、オーブン、温風ブロー装置、ホットプレートなどを用いることができる。
なお、塗布層温度は、20℃以上80℃以下が好ましく、特に好ましくは30℃以上70℃以下、更に好ましくは40℃以上60℃以下となるように調整することが好ましい。80℃を超えると液晶化合物の組成比が揮発により変化してしまうという問題があり、20℃未満であると塗布層中の粘性が低いため流動性が低く液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルが稠密に配置しにくくなるため好ましくない。
【0065】
この条件で乾燥を行うと、調光層用塗布液中に含まれる溶媒の揮発とともに、分散していた液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルがお互いの位置関係を少しずつ変えながら稠密状態へと自然に変化していく。
なお、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルの動きが不十分な場合、乾燥架橋工程の一部または全部において、前記塗布層に振動、例えば超音波振動子などによる機械的な振動を加えれば、溶剤が完全に揮発したときに、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルが単層稠密に配置し、表面凹凸が小さく、フラットな高分子分散型の調光層を得ることができる。
【0066】
なお、乾燥速度が大きすぎる条件では、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルが、乾燥端部の激しい液流動によって歪んだ形状になりやすく、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセル中の液晶の配向方向が支持基板面に対して傾斜する傾向がある。たとえばコレステリック液晶を用いた場合には、選択反射光に大きい視野角依存性が生じる問題がある。したがって、穏和な乾燥条件に制御して急激な溶媒揮発を抑えることが好ましい。急激な溶媒揮発を抑えるには、塗布部を、その蒸気圧が調光層用塗布液に含まれる溶媒の飽和蒸気圧と同じかまたは前記飽和蒸気圧に近い雰囲気中に保持すればよい。このためには、塗布部を、できる限り小さい容積の容器内で保持する方法、溶媒の蒸気発生部をもつチャンバー内で保持する方法、あるいは、溶媒の飽和蒸気圧を大気圧以下にする方法などを用いることができる。
【0067】
この高湿度下で架橋乾燥されることによって、塗布層中に含まれるゼラチンは、架橋剤により架橋されて、ゼラチンが架橋剤によって架橋されたゾル状態(架橋ゾル状態)の塗布層が得られる
【0068】
(第2の塗布工程)
次に、表示面基板を冷却することによって塗布層中のゼラチンをゼラチンの凝固点以下の温度に冷却し、このゼラチンの凝固点以下の温度下で、上記架橋乾燥工程によってゼラチンが架橋ゾル状態とされた塗布層に、塗布層中に含有されるゼラチンを膨潤させるための液体を塗布する。
【0069】
なお、第2の塗布工程では、表示面基板を室温による自然冷却、あるいは冷却装置を用いて強制冷却することによって、ゼラチンの凝固点以下の30℃以下の塗布層温度にすることが好ましい。
表示面基板を冷却するための冷却装置としては、ペルチェなどを用いた冷却プレート、冷風ブロー装置等を用いることができる。
【0070】
ゼラチンが架橋ゾル状態にある塗布層に塗布する液体は、ゼラチンを膨潤しうる液体であればよく、この液体としては、純水、イオン交換水、蒸留水、水道水等の水、水溶性有機溶媒、あるいはイオン交換水、蒸留水、水道水等の水と水溶性有機溶媒を混合した液体、非水溶性有機溶媒、およびイオン性液体等が用途や使用条件等に応じて選択される。また、ゼラチンを膨潤しうる液体には、粘度を調節するための高分子材料が添加されていてもよい。高分子材料には、架橋ゾル状態となった塗布層を汚染したり溶解したりしないものであればなんでもよく、例えばゼラチン、ポリビニルアルコールなどがあげられる。
さらに、増粘剤、濡れ性改善剤、乾燥速度調整剤など、公知の溶液特性改質剤を添加してもよい。
【0071】
第1実施形態において、上記液体は、ゾル−ゲル変化をさせるために充分な量が必要であるため、塗布膜厚に対して、0.5倍以上20倍以下の割合で塗布層上に塗布されることが好ましく、特に1倍以上10倍以下の割合で塗布されることがより好ましい。
上記液体の塗布層への塗布は、アプリケータ、エッジコータ、スクリーンコータ、ロールコータ、カーテンコータ、ダイコータ等の所望の量を塗布できる公知の装置を用いて行う。第2の塗布工程では、ゼラチンが架橋ゾル状態にある塗布層に液体を塗布することにより、塗布層中のゼラチンが液体を吸収して膨潤すると共に、この第2の塗布工程は、ゼラチンの凝固点以下の温度下において行われるので、塗布層中のゼラチンが架橋ゲル状態となる。
【0072】
また、コーティング以外の方法として、調光層への蒸気の噴霧、高湿状態で調光層を保管するゼラチンのゾル−ゲル変化が生じることができる公知の装置を用いて行うようにしてもよい。このように第2の塗布工程では、ゾル状態のゼラチンが液体を吸収して膨潤するときに、ゼラチンは架橋された状態にあることから、この架橋乾燥工程において形成された稠密構造が崩壊することなく塗布層が膨潤される。また、この膨潤工程は、ゼラチンの凝固点以下の温度下において行われるので、ゼラチンはゾル状態からゲル状態に変化する。
【0073】
ここで、前記ゼラチンおよび架橋剤について説明する。
−ゼラチン−
本実施形態の調光層に用いられるゼラチンとしては、ゼラチンの物性として、ゼリー強度が大きく、ゾル粘度が低いものが好ましい。
【0074】
このゼラチンとしては、α鎖の多量体である高分子量のβ鎖・γ鎖や、α鎖の主鎖が途中で切れた低分子量成分が少なく、α鎖残量の多いものが適している。牛骨を酸処理して製造されたゼラチン材料は、この条件を満たし、とくにゼリー強度が大きく、ゾル粘度が低いため好ましい。また、原料のコラーゲンを加水分解する際に最初に抽出される第一抽出品がよい。なお、液晶材料のイオン汚染を防止するため、ゼラチン中に残留するイオン成分をイオン交換樹脂など公知の手法を用いて除去してもよい。
【0075】
−架橋剤−
本実施形態の調光層用塗布液に含有され、ゼラチンを架橋しうる架橋剤としては、ゼラチンとの関係で好適なものを選択すればよいが、中でも、ゼラチン分子間で架橋を形成し、ゼラチンを難溶化するものが好ましく、例えば、アルデヒド系化合物(アルデヒド基を有する化合物)のホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グルタルアルデヒド、およびグリオキサールや、多価金属塩化合物のカリミョウバン水和物、あるいはアジピン酸ジヒドラジド、メラミンホルマリンオリゴマ、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアミドエピクロロヒドリン、ポリカルボジイミド等を挙げることができる。
【0076】
中でも、コレステリック液晶中へのイオン性不純物の溶出がなく、調光層中に含有されていても電気特性に影響を与えない点で、アルデヒド基を持つ化合物(アルデヒド系化合物)が好ましい。この理由としては、アルデヒド基を持つ化合物は、アルコールを酸化して精製しているため、イオン性物質が混入しにくいのではないかと予想している。また、ゼラチン分子のアミノ基との反応からも副生成物の発生はしない。
【0077】
さらには、単官能アルデヒド化合物(例えばホルムアルデヒド)では、充分な架橋効果が得られず、下記一般式(1)で表される多官能アルデヒド(nは0以上)では、nで示される官能基間鎖長が大きいと、ゼラチン分子との架橋機会が増すため架橋反応が早すぎて調光層用塗布液がゲル化してしまう。
【0078】
[式]
OHC−(CH−CHO 一般式(1)
【0079】
そのため、塗布工程での凝固点以上での加熱による架橋反応の進行が緩やかであり、加熱を長時間行っても調光層塗布液の粘性を著しく増加させない点で、アルデヒド基を持つ化合物のグリオキサールが好適である。
【0080】
本実施形態において、上記架橋剤は、調光層塗布液中の不揮発成分に対して、0.1質量%以上20質量%以下含有されることが好ましく、1質量%以上10質量%以下含有されていることがより好ましい。架橋剤の含有量が、0.1質量%未満だと充分な架橋効果が得られず、また20質量%を超えると調光層塗布液の粘性を著しく増加させてしまう。
【0081】
(乾燥工程)
最後に、上記第2の塗布工程により表示面基板上に形成された塗布層をゲル状態に維持したまま、塗布層中のゼラチンに吸収されている液体を、ゼラチンの凝固点以下の温度下で揮発させて乾燥させる。
【0082】
ここで、ゼラチンはコラーゲンの熱変性物であるため、ゾル状態でのゼラチンの分子構造はランダムコイル状となっているが、ゲル状態でのゼラチンは分子の一部が元のコラーゲンのらせん構造をとりネットワークが形成される。そのため、ゾル状態よりもゲル状態で乾燥工程を行ったほうが、塗布層中の液体の揮発に伴うゼラチンの体積収縮は大きい。上記保持工程で稠密配列された液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルは、乾燥工程をゲル状態にすることでゾル状態での乾燥に比べて、厚み方向には圧縮力が、面方向には引っ張り力が働くため変形し、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセル各々が多面体化される。
【0083】
以上の各工程(第1の塗布工程、架橋乾燥工程、第2の塗布工程、および乾燥工程)を、液晶ドロップがゼラチン、架橋剤、および溶媒を含む溶液に分散された調光層用塗布液を用い、塗布部をできる限り小さい容積の容器内で保持する場合について、図2を用いて説明する。
【0084】
図2(A)は第1の塗布工程を示す概念図である。第1の塗布工程では、図2(A)に示すように、表示面基板20上に、ゼラチン、架橋剤、および溶媒を含む溶液37中に液晶ドロップ32が分散された調光層用塗布液を、塗布装置60によって塗布することにより、表示面基板20上に塗布層39を形成する。
【0085】
次に、架橋乾燥工程では、図2(B)および図2(C)に示すように、図2(A)に示される第1の塗布工程で形成された塗布層39を密閉容器70の中に保持すると共に、表示面基板20を、図示を省略する加熱装置によって加熱することにより塗布層39をゼラチンの凝固点より高い温度に加熱する。密閉容器内の雰囲気は、塗布層39中の溶媒の初期揮発によって飽和蒸気圧に近い状態になっている。この状態では、塗布層39から溶媒が急速に揮発しないため、各液晶ドロップ32が激しい液流動によって歪むことはない。溶媒の揮発とともに塗布層39の厚みが減少し、それに伴って各液晶ドロップ32はお互いの位置関係を少しずつ変えながら稠密状態へと自然に配列する。
【0086】
架橋乾燥工程では、さらに、図2(C)に示すように、図2(B)に示されるゼラチンの凝固点より高い温度で且つ飽和蒸気圧に近い状態、すなわち高温高湿状態下で塗布層39をゼラチンの凝固点より高い温度となるように表示面基板20の加熱を継続することにより、塗布層39中に含まれるゼラチンを、塗布層39中に含まれる架橋剤によって架橋する。溶媒が完全に揮発すると、液晶ドロップ32が稠密に配列された凹凸の少ないフラットな塗布層39が得られる。このように、図2(B)および図2(C)に示す架橋乾燥工程により、ゼラチンが架橋剤によって架橋され且つゼラチンがゾル状態(架橋ゾル状態)の塗布層が得られる。
【0087】
次に、第2の塗布工程では、図2(D)に示すように、上記架橋乾燥工程によってゼラチンが架橋ゾル状態となった塗布層39が形成された表示面基板20を、密閉容器70外に保持し、塗布層39上に、塗布装置62によって塗布層中のゼラチンをゾル−ゲル変化させるための液体41を塗布する。なお、この第2の塗布工程は、塗布層39をゼラチンの凝固点以下の温度となる環境下において行われる。この第2の塗布工程によって、塗布層39中のゼラチンは塗布された液体を吸収して膨潤すると共に、塗布層39がゼラチンの凝固点以下の温度下に置かれることにより、架橋ゾル状態のゼラチンは架橋ゲル状態となる。
【0088】
最後に、乾燥工程では、図2(E)に示すように、上記第2の塗布工程によってゼラチンをゾル−ゲル変化させるために塗布され、塗布層39中のゼラチンに吸収されている液体を、ゼラチンの凝固点以下の温度で揮発させる。
【0089】
上記第2の塗布工程において、ゼラチンは、架橋剤により架橋された状態のまま液体で膨潤すると共に、ゾル状態からゲル状態へと変化するので、該塗布層39中に含まれる液晶ドロップ32の稠密状態が崩されることなくゲル化される。ゼラチンは、ゾル状態に比べてゲル状態で乾燥させたほうが塗布層中の液体の揮発に伴うゼラチンの体積収縮が大きいことから、乾燥工程により液体が揮発されると、液体の揮発と共に塗布層39の厚みが減少し、ゼラチンの体積収縮に伴って、厚み方向には圧縮力が、面方向に引っ張り力がそれぞれ働き、各液晶ドロップ32は扁平化される。このとき、上記架橋乾燥工程により、液晶ドロップ32は稠密状態となっているので、液体の揮発に伴うゼラチンの体積収縮によって、各液晶ドロップは図2(E)に示すように稠密に配置された状態で多面体化される。
【0090】
第1実施形態に用いるゼラチン材料は、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルの動きを阻害しないようゾル粘度の小さいものが好ましく、且つ乾燥工程終了後の調光層表面に液晶滴の漏れ出しを抑制するゼリー強度の高いものが好ましく、以上の観点から牛骨を原料として酸処理を行ったゼラチンが好適である。
【0091】
第1実施形態の特徴である、ゼラチンのゾル−ゲル変化による液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルの多面体化の理由については、厳密に解明できていない。
ゼラチンはコラーゲンの熱変性物であるため、ゾル状態で乾燥させたゼラチンの分子構造はランダムコイル状となっているが、ゲル状態で乾燥させたゼラチンは、分子の一部が元のコラーゲンのらせん構造をとりネットワークが形成されている。ゼラチンがゾル状態からゲル状態へと変化すると体積収縮が生じると考えられる。そのため、塗布層を、ゾル−ゲル変化をさせずにゾル状態のまま乾燥しただけでは、塗布層中の液体の揮発に伴うゼラチンの体積収縮が生じないことから、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルを扁平化し、多面化することは困難であると考えられる。
【0092】
また、架橋剤を含めないように調光層用塗布液を調製し、塗布、乾燥工程を行った調光層では、ゾル−ゲル変化させるための液体を調光層に塗布したときに、ゼラチンの膨潤によって調光層中のゼラチンのネットワークが解けてしまい、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルの保持が不可能となるため、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルの合体が生じ、その結果、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルが稠密に配列されたPDLC構造が崩れると考えられる。
【0093】
一方、第1実施形態によれば、第1の塗布工程において支持基板上に、ゼラチン、ゼラチンを架橋しうる架橋剤、および溶媒を含む溶液に液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルが分散された調光層用塗布液を塗布し、次に架橋乾燥工程において、塗布層をゼラチンの凝固点よりも高い温度下において乾燥するとともに、塗布層中のゼラチンを架橋剤によって架橋することによって、塗布層中のゼラチンを架橋ゾル状態にし、さらに第2の塗布工程においてゼラチンをゾル−ゲル変化させるための液体を塗布した後に、乾燥工程においてゼラチンの凝固点以下の温度で揮発させて乾燥させるので、ゾル−ゲル変化させるための液体を塗布しても、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルが稠密に配列されたPDLC構造を崩すことなく塗布層中のゼラチンをゲル状態に変化させることができ、ゾル−ゲル変化させるための液体が揮発するのに伴って、厚み方向には圧縮力が、面方向には引っ張り力がそれぞれ働くため、液晶ドロップまたは液晶マイクロカプセルを扁平化し、最終的には多面体化することができる。
【0094】
また、前述の通り、非表示面基板上に第2の調光層を形成する方法も、上記の方法に順じて行われる。
【0095】
<第2実施形態>
また、本実施形態に係る光変調素子の別の構成として、第2実施形態に係る光変調素子が上げられる。該第2実施形態に係る光変調素子の構成としては、少なくとも一方が透光性を有する一対の基板を有し、且つ前記一対の基板にて挟まれる領域に、第1の液晶を含有する第1の調光層と、前記第1の液晶より閾値の大きい第2の液晶を含有する第2の調光層と、電極層と、を有すると共に、前記電極層から前記第1および第2の調光層に印加する印加電圧の大きさを制御する制御部を有する構成が上げられる。
尚、前記「閾値」とは、反応を起こさせる最低の刺激量を指し、即ち、ドメインサイズを大きくする(変化させる)最低の印加電圧を意味する。
【0096】
前記電極層から前記第1の調光層および第2の調光層に印加される印加電圧の大きさを、前記第2の液晶のドメインサイズが変化しない範囲において、前記第1の液晶のドメインサイズを変化させるよう制御することにより、第1の調光層に含有される液晶のドメインサイズのみ制御され、その結果視野角の広さを調整することができる。
【0097】
〔実験例〕
以下、前述の第1実施形態に係る光変調素子である液晶表示素子の具体例を示し、その効果について検証する。
【0098】
−液晶材料の調製−
図1に示す第1の調光層30Aおよび第2の調光層30Bを形成する液晶材料として、ネマチック液晶にカイラル剤を混合して、波長550nmのグリーンの色光を選択反射するコレステリック液晶を調製した。その際、第1の調光層30Aに用いる液晶材料には、第2の調光層30Bに用いる液晶材料の3倍の抵抗値を持つ液晶材料を選んだ。
【0099】
−液晶表示素子の作製−
表示面基板21としてのガラス基板上に、ITO電極膜を厚さ20nmとなるように作製して第1の電極層22を形成した。次いで、表示面基板21としてのガラス基板のITO電極膜上に、前記第1の調光層30A用の液晶を5μmの厚さで形成し、更に5μmの球状のスペーサビーズを散布した。該液晶の層の上に、中間層50として厚さ2μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを前記スペーサビーズに接着するように密着させた。
【0100】
一方、非表示面基板11としてのガラス基板上に、ITO電極膜を厚さ20nmとなるように作製して第2の電極層12を形成した。次いで、非表示面基板11としてのガラス基板のITO電極膜上に、前記第2の調光層30B用の液晶を5μmの厚さで形成し、更に5μmの球状のスペーサビーズを散布した。
【0101】
次いで、前記非表示面基板11としてのガラス基板の第2の調光層30B形成面に、前記表示面基板21としてのガラス基板の中間層50形成面を対向させ、該中間層50が第2の調光層30B中のスペーサビーズに接着するように密着させた。
更に非表示面基板11としてのガラス基板の第2の調光層30B形成面とは反対側の面に遮光層を形成した。
その後、スペーサビーズと、第1の電極層22としてのITO電極膜、第2の電極層12としてのITO電極膜および中間層50としてのポリエチレンテレフタレートフィルムと、を密着させるため、110℃に加熱して30分間保持し液晶表示素子を得た。
【0102】
−評価−
図5に、印加電圧の大きさを変化させた場合における第1の調光層30Aの液晶材料のドメインサイズの様子を示す。(a)は印加電圧を200Vとした場合、(b)は印加電圧を500Vとした場合である。(a)では細かなドメインサイズの液晶が見えるのに対し、(b)では(a)と比べて大きなドメインサイズとなっていることが分かる。
【0103】
また、反射特性の測定結果を図6に示す。図6は、第1の調光層30Aへの印加電圧を変化させた場合において、視野角度を変化させながら反射率(%)を測定したものである。図6から、印加電圧が低い場合(100Vおよび200V)では、反射率のピークがブロードとなり、即ち視野角が広がっていることが分かる。一方、印加電圧が高い場合(300Vおよび500V)では、反射率のピークがシャープとなり、即ち視野角が狭くなっていることが分かる。
【0104】
以上の結果から、第1の電極層22から第1の調光層30Aおよび第2の調光層30Bに印加される印加電圧の大きさを、前記第2の調光層30Bにおける液晶のドメインサイズが変化しない範囲において、前記第1の調光層30Aにおける液晶のドメインサイズを変化させるよう制御することにより、第1の調光層30Aに含有される液晶のドメインサイズのみ変化させることができ、その結果視野角の広さを調整することができることが分かった。
尚、図6から分かるように、その場合の色純度は大きく変化しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】(A)は第1実施形態の光変調素子の第1の調光層に(B)より低い印加電圧を印加した状態を示す概略断面図であり、(B)は第1実施形態の光変調素子の第1の調光層に(A)より高い印加電圧を印加した状態を示す概略断面図である。
【図2】本実施形態の光変調素子の調光層を製造する各工程を示す模式図であり、図2(A)は第1の塗布工程を示し、図2(B)は架橋乾燥工程の途中を示し、図2(C)は架橋乾燥工程が終了した状態を示し、図2(D)は第2の塗布工程を示し、図2(E)は、乾燥工程を示す模式図である。
【図3】コレステリック液晶の配列状態を示す模式図であり、(A)は、プレーナ状態を示し、(B)は、フォーカルコニック状態を示し、(C)は、ホメオトロピック状態を示す模式図である。
【図4】正の誘電異方性をもつコレステリック液晶の電気光学応答を示すグラフである。
【図5】印加電圧の大きさを変化させた場合における第1の調光層の液晶材料のドメインサイズの様子を示す拡大図である。
【図6】第1の調光層への印加電圧を変化させた場合において視野角度に応じた反射率(%)を示したグラフである。
【符号の説明】
【0106】
10 光変調素子
11、21 基板
12、22 電極
30A、30B 調光層
32 液晶ドロップ
34 ゼラチン
36 液晶マイクロカプセル
37 溶液
39 塗布層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が透光性を有する一対の基板を有し、
且つ前記一対の基板にて挟まれる領域に、液晶を含有する第1の調光層および第2の調光層と、少なくとも前記第1の調光層に電圧を印加する電極層と、を有すると共に、
前記電極層から前記第1の調光層に印加する印加電圧の高さを制御する制御部を有する光変調素子。
【請求項2】
少なくとも一方が透光性を有する一対の基板を有し、
且つ前記一対の基板にて挟まれる領域に、第1の電極層と、前記第1の調光層と、中間層と、前記第2の調光層と、第2の電極層と、をこの順に有すると共に、
前記第1の電極層から前記第1の調光層に印加する印加電圧の高さを制御する制御部を有する請求項1に記載の光変調素子。
【請求項3】
少なくとも一方が透光性を有する一対の基板を有し、且つ前記一対の基板にて挟まれる領域に、液晶を含有する第1の調光層および第2の調光層と、少なくとも前記第1の調光層に電圧を印加する電極層と、を有する光変調素子に対し、
前記電極層から前記第1の調光層に印加する印加電圧の高さを調整して、前記第1の調光層に含有される液晶のドメインサイズを制御する光変調素子の駆動方法。
【請求項4】
少なくとも一方が透光性を有する一対の基板を有し、且つ前記一対の基板にて挟まれる領域に、第1の電極層と、前記第1の調光層と、中間層と、前記第2の調光層と、第2の電極層と、をこの順に有する光変調素子に対し、
前記第1の電極層から前記第1の調光層に印加する印加電圧の高さを調整して、前記第1の調光層に含有される液晶のドメインサイズを制御する請求項3に記載の光変調素子の駆動方法。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−145727(P2010−145727A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322632(P2008−322632)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】