説明

光変調素子

【課題】スピン注入磁化反転素子による、光変調度を向上させた光変調素子を提供する。
【解決手段】光変調素子5は、基板7上に、磁化自由層13、中間層12、および磁化固定層11の順に積層したスピン注入磁化反転素子構造1を備え、磁化自由層13を下部電極3とし、磁化固定層11の上に積層された透明電極層を上部電極4とする。光変調素子5は、誘電体層2をさらに備えて、この上に前記磁化自由層13が積層される。光変調素子5に入射した光は、スピン注入磁化反転素子構造1および誘電体層2を透過して基板7で反射し、さらに誘電体層2と磁化自由層13との界面で反射して、誘電体層2で多重反射することにより、磁化自由層13のカー回転角での旋光を累積させて出射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光を磁気光学効果により光の位相や振幅等を空間的に変調して出射する空間光変調器に用いる光変調素子に関する。
【背景技術】
【0002】
空間光変調器は、画素として光学素子(光変調素子)を用い、これをマトリクス状に2次元配列して光の位相や振幅等を空間的に変調するものであって、ホログラフィ装置等の露光装置、ディスプレイ技術、記録技術等の分野で広く利用されている。また、2次元で並列に光情報を処理することができることから光情報処理技術への応用も研究されている。空間光変調器として、従来より液晶が用いられ、表示装置として広く利用されているが、ホログラフィや光情報処理用としては、応答速度や画素の高精細性が不十分であるため、近年では、高速処理かつ画素の微細化の可能性が期待される磁気光学材料を用いた磁気光学式空間光変調器の開発が進められている。
【0003】
磁気光学式空間光変調器(以下、空間光変調器)においては、磁気光学材料すなわち磁性体に入射した光が透過または反射する際にその偏光の向きを変化(旋光)させて出射する、ファラデー効果(反射の場合はカー効果)を利用している。すなわち、選択された画素(選択画素)における光変調素子の磁化方向とそれ以外の画素(非選択画素)における光変調素子の磁化方向を異なるものとして、選択画素から出射した光と非選択画素から出射した光で、その偏光の回転角(旋光角)に差を生じさせる。このような光変調素子の磁化方向を変化させる方法として、光変調素子に磁界を印加する磁界印加方式の他に、近年では光変調素子に電流を供給することでスピンを注入するスピン注入方式(例えば、特許文献1)がある。
【0004】
スピン注入方式の光変調素子は、具体的には、TMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗効果)素子やCPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant MagnetoResistance:垂直通電型巨大磁気抵抗効果)素子等の、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)にも適用されるスピン注入磁化反転素子(非特許文献1)を適用することができる。例えばスピン注入磁化反転素子101は、図9に断面図で示すように上下に一対の電極104,103を接続して膜面に垂直に電流を供給することによりスピンを注入され、少なくとも一方の電極(図9では上部電極104)を透明電極材料で形成することで、スピン注入磁化反転素子101に入射した光を変調して出射する光変調素子105として機能する。このようなスピン注入磁化反転素子を適用した光変調素子は、磁界を発生させるために各光変調素子の外周に沿って電極(配線)を備える磁界印加方式よりもいっそうの微細化を可能とする。
【0005】
さらに、スピン注入方式の光変調素子について、光変調度を高くするために、近年、MRAMにおいてさらなる微細化および省電力化のために適用される、膜面に垂直方向の磁化を示す(垂直磁気異方性を有する)磁性材料を適用することが好ましい。垂直磁気異方性を有するスピン注入磁化反転素子を適用した光変調素子は、画素の微細化、高速応答、および省電力化を可能とし、さらに膜面に略垂直に光を入射することにより、極カー効果で旋光角が大きくなり、光変調度を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−83686号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K.Aoshima et. al, “Spin transfer switching in current-perpendicular-to-plane spin valve observed by magneto-optical Kerr effect using visible light”, Applied Physics Letters 91, 052507 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、極カー効果を利用しても、磁性体表面での1回の反射による旋光角(カー回転角)は極めて小さい。また、透過する膜厚に旋光角(ファラデー回転角)が比例するファラデー効果については、一般的にスピン注入磁化反転素子における磁化方向の変化する層(磁化自由層)が十数nm以下に制限されているため、旋光角は極めて小さい(非特許文献1)。そのため、スピン注入磁化反転素子は、光変調素子としては光変調度が不十分で、選択画素からの出射光の取り出し効率が低く、画素の選択性の点で改良の余地がある。
【0009】
本発明は前記問題点に鑑み創案されたもので、スピン注入磁化反転素子による光変調度を向上させた光変調素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明者らは、スピン注入磁化反転素子の磁化自由層の下に誘電体層を設けることで、磁化自由層との界面にて光を多重反射させて旋光角を大きくできることに知見し、そのために磁化自由層の側に電極材料を設けず、磁化自由層を電極の1つとすることに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る光変調素子は、基板上に形成され、磁化自由層、中間層、および磁化固定層の順に積層したスピン注入磁化反転素子構造、ならびに前記磁化固定層上に透明電極層を備え、前記磁化自由層と前記透明電極層とを一対の電極として電流を供給することにより、前記磁化自由層の磁化方向を変化させて、入射した光をその偏光の向きを変化させて反射して出射する。そして、前記光変調素子は、前記磁化自由層が積層される1層以上の誘電体材料からなる誘電体層をさらに備え、前記入射した光を前記誘電体層と前記基板との界面を反射面として反射することを特徴とする。
【0012】
かかる構成により、光変調素子に光が入射すると、透明電極層およびスピン注入磁化反転素子構造を透過し、さらに誘電体層を透過して基板との界面で反射して誘電体層を逆行して透過し、スピン注入磁化反転素子構造との界面すなわち磁化自由層を反射面として反射して再び誘電体層を透過する。したがって、光は、基板、磁化自由層それぞれとの界面で反射を繰り返して誘電体層内を往復するため、磁化自由層での反射の際のカー回転が累積されて旋光角が大きくなって出射する。
【0013】
さらに、前記誘電体層は、屈折率をn、厚さをdで表し、前記入射した光の波長がλ、当該誘電体層を透過する光の進行方向の膜面垂直方向に対する角度がαであるとき、n・d・cosα=0.5N・λ(N=1,2,3,…)が成立することが好ましい。
【0014】
かかる構成により、光変調素子は、当該光変調素子における反射回数の異なる出射光同士が干渉により強め合うことになって光量が増大した出射光が取り出される。
【0015】
さらに、本発明に係る光変調素子は、磁化自由層の側面に接続する金属電極層をさらに備えることが好ましく、この金属電極層は誘電体層の側面にも接続することがより好ましい。
【0016】
かかる構成により、光変調素子は、下部電極に電極材料として好適な金属電極層をさらに備えるため、下部電極の導電性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る光変調素子によれば、公知のスピン注入磁化反転素子構造を適用して、光変調度を向上させた、選択性に優れた空間光変調器の画素とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光変調素子の構成を説明する模式図であり、(a)は断面図、(b)は斜視図である。
【図2】本発明に係る光変調素子に入射した光の経路を説明する模式図であり、(a)は第1実施形態の断面図、(b)は第1実施形態の変形例の断面図である。
【図3】本発明に係る光変調素子の断面図で、磁化反転および光変調の動作を説明する模式図である。
【図4】本発明に係る光変調素子の誘電体層による光の干渉を説明するためのモデルの断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る光変調素子の構成を説明する模式図であり、(a)は断面図、(b)は部分断面斜視図である。
【図6】本発明の第2実施形態の変形例に係る光変調素子の断面図である。
【図7】本発明に係る光変調素子を用いた空間光変調器の構成を説明する平面図である。
【図8】(a)、(b)は、本発明の第3実施形態およびその変形例に係る光変調素子の断面図である。
【図9】スピン注入磁化反転素子を用いた従来の光変調素子の断面図で、磁化反転および光変調の動作を説明する模式図である。
【図10】実施例の光変調素子による旋光角と誘電体層の膜厚との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る光変調素子は、上方から入射した光を反射して異なる2値の光(偏光成分)に変調して上方へ出射し、例えば空間光変調器の画素(空間光変調器による表示の最小単位での情報(明/暗)を表示する手段を指す。)として用いられる。以下、本発明に係る光変調素子を実現するための形態について図を参照して説明する。
【0020】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る光変調素子5は、図1(a)に示すように、基板7上に、誘電体層2、磁化自由層13、中間層12、磁化固定層11、保護層14、上部電極4(下地金属層42、透明電極層41)の順に積層された構成である。光変調素子5は、磁化が一方向に固定された磁化固定層11および磁化の方向が回転可能な磁化自由層13を、非磁性または絶縁体である中間層12を挟んで備えたCPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant Magneto-Resistance:垂直通電型巨大磁気抵抗効果)素子やTMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗効果)素子等のスピン注入磁化反転素子構造1を備える。そして、光変調素子5は、スピン注入磁化反転素子構造1に、磁化自由層13と上部電極4とを一対の電極として、膜面に垂直に可逆的に電流を供給される。スピン注入磁化反転素子構造1はさらに、光変調素子5の製造工程におけるダメージからこれらの層を保護するために、最上層に保護層14が設けられている。なお、図1(a)は光変調素子5の積層構造を説明する断面図であり、平面視における形状を限定するものではない(図1(b)および図7参照)。
【0021】
(スピン注入磁化反転素子構造)
ここで、スピン注入磁化反転素子の磁化反転の動作を、図9を参照して説明する。なお、図9において保護層は図示を省略する。一般的なスピン注入磁化反転素子101は、逆方向のスピンを持つ電子を注入することにより、磁化自由層13の磁化方向を反転(スピン注入磁化反転、以下、適宜磁化反転という)させて、磁化固定層11の磁化方向と同じ方向または180°異なる方向にする。そのために電子の注入方向と反対向きに電流を供給すればよく、具体的には、図9(a)に示すように、上部電極104を「+」、下部電極103を「−」にして、磁化自由層13側から磁化固定層11へ電流を供給すると、磁化自由層13は磁化固定層11の磁化方向と同じ方向の磁化を示す。以下、この状態をスピン注入磁化反転素子の磁化が平行である(P:Parallel)という。反対に、図9(b)に示すように、上部電極104を「−」、下部電極103を「+」にして、磁化固定層11側から磁化自由層13へ電流を供給すると、磁化自由層13は磁化固定層11の磁化方向と逆方向の磁化を示す。以下、この状態をスピン注入磁化反転素子の磁化が反平行である(AP:Anti-Parallel)という。
【0022】
このように、スピン注入磁化反転素子は、膜面垂直方向に電流を供給されることで磁化自由層13の磁化方向を変化させる(磁化反転させる)ことができるので、一般的に上下に電極材料を積層することで一対の電極104,103を接続する。また、スピン注入磁化反転素子101の磁化が平行、反平行いずれかの磁化を示していれば、その磁化を反転させる電流が供給されるまでは、磁化自由層13の保磁力により磁化が保持される。そのため、スピン注入磁化反転素子に供給する電流としては、パルス電流のように、磁化方向を反転させる電流値に一時的に到達する電流を用いることができる。
【0023】
このようなスピン注入磁化反転素子101を光変調素子に適用する場合、1つの偏光成分(偏光の向き)の光(以下、このような光を適宜、偏光という)を入射する。入射偏光が、磁性体である磁化自由層13で反射して出射すると、カー効果(磁気カー効果)により、入射光はその偏光の向きが回転する(旋光する)。さらに、図9(a)、(b)にそれぞれ示すように、磁化が平行、反平行なスピン注入磁化反転素子101にそれぞれ入射した光は、磁化自由層13の磁化方向が180°異なるため、同じ大きさの旋光角すなわち磁化自由層13のカー回転角θkで互いに逆方向に回転した2値(+θk,−θk)の偏光となって出射する。そして、スピン注入磁化反転素子101からの出射光は、供給される電流の向きに応じて2値の偏光のいずれかになることで空間光変調器の画素(光変調素子105)として機能する。これら2値の偏光の向きの差、すなわち入射偏光に対する旋光角の差が大きいほど、光変調度が高い。磁化自由層13で1回反射して出射した場合は、旋光角の差は2θkとなる。また、入射偏光が磁化自由層13を透過して下部電極103で反射し、再び磁化自由層13を透過して出射した場合は、磁化自由層13を1回透過した際にファラデー回転角+θf,−θfで旋光するため、旋光角の差は4θfとなる。
【0024】
光変調素子105においては、入射偏光をスピン注入磁化反転素子101(磁化自由層13)に照射するために、透明電極材料からなる上部電極104がスピン注入磁化反転素子101の上面に接続され、入射偏光を反射させるために、金属電極材料からなる下部電極103がスピン注入磁化反転素子101の下面に接続される。また、磁化自由層13と磁化固定層11とは、その積層順序を入れ替えても磁化反転動作には影響しないが、光変調素子としては、図9に示すように、光の入出射側(図9では上側)に磁化自由層13を積層することが一般的である。
【0025】
本発明に係る光変調素子5は、上方から上部電極4を透過してスピン注入磁化反転素子構造1に到達した光がその表面(上面)および底面(下面)で多くが反射せず、スピン注入磁化反転素子構造1を透過してその下に設けた誘電体層2もさらに透過して基板7との界面で反射するように構成される。そして反射した光は、上方へ向けて誘電体層2を透過して、誘電体層2とスピン注入磁化反転素子構造1との界面に到達すると、この界面で反射して再び下方へ向けて誘電体層2を透過し、基板7との界面で反射して上方へ進行する、という挙動を繰り返し(多重反射)、最終的には誘電体層2からスピン注入磁化反転素子構造1との界面を通過して出射する(図2(a)参照)。
【0026】
光変調素子5からの出射光は、誘電体層2の上下の界面で1回〜多数回反射した光である。そして、誘電体層2の側からスピン注入磁化反転素子構造1との界面で反射する度に、光はカー回転を繰り返して旋光角が累積される。スピン注入磁化反転素子構造1において、磁化反転によりカー回転の向きを変えることができるのは磁化自由層13である。したがって、光変調素子5において、スピン注入磁化反転素子構造1は、磁化自由層13を誘電体層2の側すなわち下側に設け、中間層12、磁化固定層11の順に積層する。
【0027】
また、光変調素子5は、スピン注入磁化反転素子構造1の下に光を透過させる誘電体層2を設けるため、スピン注入磁化反転素子構造1の下側には図9の下部電極103のような金属電極材料からなる層を接続できない。そこで、磁性体である磁化自由層13は導電体でもあるので、本実施形態に係る光変調素子5は、磁化自由層13を一対の電極の一方としても作用させる。そのために、図1(b)に示すように、スピン注入磁化反転素子構造1(保護層14は図示省略)において、磁化自由層13は、磁化固定層11等の他の層のように当該スピン注入磁化反転素子構造1の平面視形状に加工されず、膜面における所定の方向に延設するように形成されて外部から電流を供給できるように構成される。したがって、本実施形態に係る光変調素子5においては、電流の供給経路すなわち配線としての磁化自由層13を適宜、下部電極3と表す。なお、磁化自由層13がこのように膜面方向に拡張した形状であっても、磁化反転する領域は、磁化固定層11および中間層12が積層された領域、すなわちスピン注入磁化反転素子構造1の領域に略一致して限定される。このような光変調素子5の製造方法については後記する。以下、光変調素子5を構成する要素について詳しく説明する。
【0028】
(スピン注入磁化反転素子構造)
スピン注入磁化反転素子構造1は、前記したように、公知のスピン注入磁化反転素子において垂直磁気異方性を有するものが適用できる。ただし、本実施形態においては、電極の一方(下部電極3)が一般的な電極(配線)よりも薄い磁化自由層13で兼用されるため、金属電極材料からなる通常の配線よりも抵抗が大きい。したがって、スピン注入磁化反転素子構造1は、CPP−GMR素子よりも、抵抗変化率の大きいTMR素子構造を適用することが好ましい。スピン注入磁化反転素子構造1の各層11〜14は、例えばスパッタリング法や分子線エピタキシー(MBE)法等の公知の方法で連続的に成膜されて積層され、電子線リソグラフィおよびイオンビームミリング法等で所望の平面視形状に加工される。スピン注入磁化反転素子構造1(磁化固定層11、中間層12)の平面視形状は、本実施形態においては図1(b)および図7に示すように矩形(正方形)であるが、これに限定されるものではない。
【0029】
磁化固定層11は、垂直磁気異方性を有するCPP−GMR素子やTMR素子等の磁化固定層として公知の磁性材料にて構成することができ、その厚さを1〜50nmとすることが好ましいが、透光性の高い材料を適用するか、厚さを20nm以下として光を透過し易くすることがより好ましい。具体的には、Fe,Co,Ni等の遷移金属とPt,Pd等を含む、例えばCoPt,CoPd合金、または[Co/Pt]×n、[Co/Pd]×nの多層膜、あるいは希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)が挙げられる。
【0030】
中間層12は、磁化固定層11と磁化自由層13との間に設けられる。スピン注入磁化反転素子構造1をTMR素子構造とする場合、中間層12は、MgO,Al23,HfO2のような絶縁体や、Mg/MgO/Mgのような絶縁体を含む積層膜からなり、その厚さは0.1〜2nmとすることが好ましい。また、スピン注入磁化反転素子構造1をCPP−GMR素子構造とする場合、中間層12は、Cu,Ag,Alのような非磁性金属からなり、その厚さは1〜10nmとすることが好ましい。
【0031】
磁化自由層13は、磁化固定層11と同様に垂直磁気異方性を有するCPP−GMR素子やTMR素子等の磁化自由層として公知の磁性材料、特に磁気光学材料にて構成することができ、その厚さを1〜20nmとすることが好ましい。具体的には、Fe,Co,Ni等の遷移金属とPt,Pd等を含む、例えばCoPt,CoPd合金、または[Co/Pt]×n、[Co/Pd]×nの多層膜、あるいはRE−TM合金、磁気光学効果(旋光角)の大きいGdFe,GdFeCo合金、そしてMnBi,PtMnSb合金のようなMn含有磁性合金が挙げられる。
【0032】
保護層14は、Ta,Ru,Cuの単層、または、Cu/Ta,Cu/Ruの2層等から構成される。なお、前記の2層構造とする場合は、いずれもCuを内側(下層)とする。保護層14の厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えて厚くしても、製造工程において磁化固定層11等を保護する効果がそれ以上には向上しない上、光の透過が妨げられるので好ましくない。したがって、保護層14の厚さは1〜10nmとすることが好ましい。
【0033】
(誘電体層)
誘電体層2は、図2(a)に示すように、磁化自由層13との界面で光を繰り返し反射させることで磁化自由層13の磁気光学カー効果による旋光角(カー回転角)を累積させて増幅させる層である。誘電体層2は、一般的な光学材料として用いられる公知の誘電体材料を適用でき、進入した光を基板7との界面および磁化自由層13との界面、すなわち当該誘電体層2の上下面で多重反射させるために、透光性(光透過率)が高い材料が好ましい。また、誘電体層2は、光変調素子5の動作(スピン注入磁化反転素子構造1の磁化反転)のための直流パルス電流の供給において、絶縁体として作用する材料が好ましいが、これに限らない。また、後記するように本実施形態に係る光変調素子5においては、誘電体層2は、スピン注入磁化反転素子構造1(磁化自由層13)よりも屈折率が低く、材料として、具体的には、MgF2,SiO2,CaF2,BaF2,LiF,NaCl,KBr,KClが挙げられ、これらの材料は屈折率1.38〜1.52の範囲で比較的低い。一方、誘電体層2は、スピン注入磁化反転素子構造1よりも屈折率が高くてもよく、例えば屈折率2.20のSi34も適用することができる。
【0034】
また、誘電体層2は、2種以上の材料を積層して構成されてもよい。図2(b)に示す第1実施形態の変形例に係る光変調素子5Aは、第2誘電体層22と第1誘電体層21とを積層した誘電体層2Aを備える構成である。これらの誘電体層21,22は、互いの屈折率の差が大きいと、誘電体層21,22間の界面で反射する光が多くなる。したがって、2種以上の材料を積層してなる誘電体層2Aにおいては、光の屈折率が互いに近似する材料を選択することが好ましく、このような構成とすることで、誘電体層2Aを一体の媒質として光がほぼ直進して透過する。
【0035】
誘電体層2,2Aの厚さ(誘電体層2Aにおいては合計の厚さ)は、旋光角の増幅効果を得るため、百数十nmから500nm程度までの範囲における所定の厚さ(詳しくは後記する)とすることが好ましい。誘電体層2,2A(21,22)は、公知の方法で成膜でき、例えばスパッタリングのようなPVD法やCVD法等の膜厚の制御が容易な方法が好ましく、連続してスピン注入磁化反転素子構造1の各層13,12,11,14を成膜、積層してもよい。また、SiO2のような酸化膜であれば、後記するように基板7にSi基板を適用して、これを熱酸化することで形成することができる。誘電体層2,2Aは、少なくともスピン注入磁化反転素子構造1と同じ平面視形状に設けられ(図1(a)参照)、例えば図1(b)に示すように磁化自由層13と同じ平面視形状に加工されてもよく、図2(a)に示すように、基板7全面に積層されてもよい。あるいは誘電体層2Aにおいては、下層の第2誘電体層22は基板7全面に形成し、上層の第1誘電体層21はスピン注入磁化反転素子構造1と同じ平面視形状に加工されてもよい(図2(b)参照)。いずれの場合も、後記するように、空間光変調器の画素アレイ50(図7参照)として1つの基板7上に設けられた複数の光変調素子5,5間で、直流パルス電流にて短絡することがなければよい。
【0036】
(基板)
本実施形態において、基板7は、光変調素子5を製造するための土台となる広義の基板であるだけでなく、上面すなわち誘電体層2との界面が、光変調素子5に入射して透過した光を反射させる反射面となる。したがって、基板7を適宜、反射層Sと称する。このような基板7は表面の光反射率の高いことが好ましく、基板材料として公知のSi基板が好適で、鏡面研磨を施したものが好ましい。あるいは、透明な基板材料として公知の、GGG(ガドリニウムガリウムガーネット)基板、SiC(シリコンカーバイド)基板、MgO(酸化マグネシウム)基板、Ge(ゲルマニウム)単結晶基板等の絶縁性の基板71に、Al,Ag,Au,Cu等の反射率の高い金属で薄膜を成膜して反射層Sを備えた基板7(図8(a)に示す基板7D参照)としてもよい。また、一般的な基板材料として、表面を熱酸化して300nm程度の厚さのSiO2膜を形成されたSi基板を用いて、このSiO2膜を誘電体層2として、あるいは誘電体層2Aの一部(第2誘電体層22)とすることができる。
【0037】
(上部電極)
透明電極層41は、光が透過するように透明電極材料で構成される。透明電極材料は、例えば、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:IZO)、インジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化スズ(SnO2)、酸化アンチモン−酸化スズ系(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(In23)等の公知の透明電極材料からなる。特に、比抵抗と成膜の容易さとの点からIZOが最も好ましい。これらの透明電極材料は、スパッタリング法、真空蒸着法、塗布法等の公知の方法により成膜される。
【0038】
上部電極4のように、電極(配線)を透明電極材料で構成する場合、当該電極とこの電極に接続するスピン注入磁化反転素子構造1との間に金属膜を設けることが好ましい。すなわち上部電極4においては、図1に示すように、下地として下地金属層42を設けてその上に透明電極層41を積層することが好ましい。スピン注入磁化反転素子構造1との間に下地金属層42を介在させることで、電極用金属材料より抵抗が大きい透明電極材料を主体に構成した上部電極4においても、上部電極4−スピン注入磁化反転素子構造1間の接触抵抗を低減させて光変調素子5の応答速度を上げることができる。
【0039】
下地金属層42を構成する金属としては、例えば、Au,Ru,Ta、またはこれらの金属の2種以上からなる合金等を用いることができ、これらの金属はスパッタリング法等の公知の方法により成膜される。そして、下地金属層42とその上の透明電極層41との密着性をよくして接触抵抗をさらに低減するため、下地金属層42となる金属膜は、透明電極材料と連続的に真空処理室にて成膜されることが好ましい。下地金属層42の厚さは、1nm未満であると連続した(ピンホールのない)膜を形成し難く、一方、10nmを超えると光の透過量を低下させる。したがって、下地金属層42の厚さは1〜10nmとすることが好ましい。
【0040】
(絶縁層)
絶縁層6は、図1(a)および図7に示すように、上下電極4,3(13)間、および複数個を配列されたときに光変調素子5,5間の隙間を充填するように設けられる。具体的には、隣り合う上部電極4,4間、スピン注入磁化反転素子構造1,1間、および誘電体層2,2間に配され、例えば、Al23やSi34等の絶縁材料、あるいはSiO2やMgF2等の誘電体層2と同じ誘電体材料を適用できる。
【0041】
本実施形態に係る光変調素子5を空間光変調器の画素に備える場合、マトリクス状に配列されて電流を供給される。詳しくは、図7に示すように、光変調素子5は複数個(図中では4×4=16個)を基板7上に2次元配列されて画素アレイ50となる(誘電体層2は図示省略)。画素アレイ50において、上部電極4は、列(横)方向に延設されたストライプ状に形成されて4個の光変調素子5で共有され、4本の配線が設けられる。一方、行(縦)方向の配線とするために、スピン注入磁化反転素子構造1の磁化自由層13は、行方向に延設されたストライプ状に形成されて4個の光変調素子5で共有されて下部電極3として機能し、これら4個の光変調素子5においては、保護層14から磁化固定層11、中間層12までが光変調素子5毎に分割される。画素アレイ50の下部電極3(磁化自由層13)および上部電極4は、電源81、駆動する画素(光変調素子)を選択する画素選択部82、および選択された画素に正負の所定の方向に切り換えて直流パルス電流を電源81から供給する電極選択部83,84を備えた電流制御部80に接続される。
【0042】
(光変調素子の製造方法)
本発明に係る光変調素子の製造方法として、第1実施形態の変形例に係る光変調素子5A(図2(b)参照)をマトリクス状に配列した画素アレイ50(図7参照)について、製造方法の一例を説明する。画素アレイ50は、例えば、基板7上に、誘電体層2(2A)を形成する工程S20(S20A)、スピン注入磁化反転素子構造1を形成する工程S30、上部電極4を形成する工程S40、をこの順に行い、さらにスピン注入磁化反転素子構造1,1間等の隙間に絶縁層6を形成する工程S51,S52を適宜行うことによって製造できる。なお、各工程には説明のために符号を付す。
【0043】
まず、基板7としてSi基板の表面を熱酸化して熱酸化膜(SiO2)を形成し、第2誘電体層22とする(工程S21)。次に、第1誘電体層21としてMgF2をスパッタリング法で成膜して(工程S22)誘電体層2Aを形成し、引き続いて、磁化自由層13、中間層12、磁化固定層11、保護層14をそれぞれ形成する材料を連続して成膜する(工程S31)。
【0044】
電子線リソグラフィおよびイオンビームミリング法により、成膜した保護層14から中間層12までの層を光変調素子5毎に分割された正方形(図1(b)、図7参照)等の所望の平面視形状(スピン注入磁化反転素子構造1の平面視形状)に加工し(工程S322)、次に磁化自由層13をストライプ状に加工する(工程S321)。磁化自由層13の加工と共に、第1誘電体層21、さらに第2誘電体層22の表面からの一部または全部を加工してもよい。または、先に保護層14から磁化自由層13までの層をストライプ状に加工してから(工程S321A)、保護層14から中間層12までの層を光変調素子5毎に分割された正方形に加工してもよい(工程S322A)。あるいは、スピン注入磁化反転素子構造1の各層の連続成膜(工程S31)を行わず、リフトオフ法等により、誘電体層2A上にストライプ状の磁化自由層13を形成してから(工程S311A)、光変調素子5毎に分割された形状の中間層12および磁化固定層11を形成する(工程S312A)こともできる。
【0045】
磁化自由層13,13間(下部電極3,3間)およびスピン注入磁化反転素子構造1,1間にSiO2等の絶縁膜(絶縁層6となる)を堆積させる(工程S51)。次に、スピン注入磁化反転素子構造1(保護層14)および絶縁層6の上面に、金属膜、透明電極材料を連続して成膜し、磁化自由層13と直交するストライプ状に加工して上部電極4(下地金属層42、透明電極層41)を形成する(工程S40)。最後に、上部電極4,4間に絶縁膜(絶縁層6)を堆積して(工程S52)、光変調素子5が配列された画素アレイ50とする。
【0046】
このような製造方法によれば、スピン注入磁化反転素子構造1において、磁化自由層13のみを行方向に延設されたストライプ状に形成して、下部電極3とすることができる。また、Si基板の熱酸化により、第2誘電体層22を十分な膜厚に生産性よく形成し、第1誘電体層21をスパッタリング法により膜厚の精度よく形成して、誘電体層2Aとして好適な厚さとすることができる。なお、SiC基板のような透明基板(基板71)に光変調素子5を形成する場合は、前記基板71上に金属膜を成膜して反射層Sを形成する工程S13を行ってから、前記工程S20等を行えばよい。
【0047】
(光変調素子の動作)
本発明に係る光変調素子の動作を、図3を参照して説明する。なお、図3において保護層14は図示を省略する。まず、スピン注入磁化反転素子構造1の磁化反転動作について説明する。第1実施形態およびその変形例に係る光変調素子5,5Aのスピン注入磁化反転素子構造1の磁化反転動作は、従来の光変調素子105のスピン注入磁化反転素子101(図9参照)と同様である。ただし、本発明に係る光変調素子5(5A)においては磁化固定層11と磁化自由層13の積層順が逆であるので、図3(a)に示すように、上部電極4を「−」、下部電極3(磁化自由層13)を「+」にして、上向きに電流を供給すると、磁化が平行となる。反対に、図3(b)に示すように、上部電極4を「+」、下部電極3を「−」にして、下向きに電流を供給すると、磁化が反平行となる。また、前記した通り、磁化自由層13は下部電極3として、隣り合う光変調素子5,5間で連続して形成されているが、膜面垂直方向に電流が供給された領域に限定されて磁化反転するため、光変調素子5毎に磁化方向を切り替えることができる。
【0048】
そして、光変調素子105(図9参照)と同様に、光は、図3(a)に示す磁化方向が上向き(スピン注入磁化反転素子構造1の磁化が平行)の磁化自由層13の上面または下面で1回反射したときにカー回転角+θkで旋光し、1回透過したときにファラデー回転角+θfで旋光する。反対に、図3(b)に示す磁化方向が下向き(スピン注入磁化反転素子構造1の磁化が反平行)の磁化自由層13で1回反射したときにカー回転角−θkで旋光し、1回透過したときにファラデー回転角−θfで旋光する。なお、磁化固定層11を透過したときにも旋光する場合があるが、旋光角が向きを含めて一定であるので、旋光しないものとする。したがって、従来の光変調素子105と同様に、光変調素子5は、スピン注入磁化反転素子構造1の磁化反転動作により、入射光に対して偏光の向きを異なる旋光角(θp,θapと表す)で旋光させた出射光が得られる。以下、本発明に係る光変調素子に入射した光の経路による旋光角の増幅を説明する。
【0049】
光変調素子に入射した光の経路について、図2(a)を参照して説明する。光変調素子5に所定の入射角で入射した光は、次のように多重反射して出射する。図2(a)に示す断面図においては、上部電極4(透明電極層41)は、外部(大気)と屈折率の差がないものとし、またスピン注入磁化反転素子構造1の各層間の界面での屈折および反射はないものとして説明する。
【0050】
入射光は上部電極4を透過して直進し、スピン注入磁化反転素子構造1に進入し、当該スピン注入磁化反転素子構造1、さらに誘電体層2を透過して、基板7との界面(基板7上面)に到達する。このとき光は、スピン注入磁化反転素子構造1の上面(上部電極4とスピン注入磁化反転素子構造1との界面)、およびスピン注入磁化反転素子構造1と誘電体層2との界面をそれぞれ通過する際に、屈折率の変化により屈折して進入する。スピン注入磁化反転素子構造1は外部(上部電極4)よりも屈折率が高いので、進入する光は入射角よりも垂直に近い角度へ屈折する。ここで、スピン注入磁化反転素子構造1等の媒質に進入する角度(膜面垂直方向に対する角度)を進入角という。一方、誘電体層2はスピン注入磁化反転素子構造1よりも屈折率が低いので、進入する光は水平に近い角度へ屈折する。そして、誘電体層2における進入角で基板7との界面(基板7上面)に到達した光は反射(正反射)して、誘電体層2を上方へ透過してスピン注入磁化反転素子構造1との界面に到達する。
【0051】
スピン注入磁化反転素子構造1は、誘電体層2と比較して、屈折率が高く光透過率が低いため、誘電体層2からスピン注入磁化反転素子構造1との界面に到達した光は、一部は屈折してスピン注入磁化反転素子構造1に進入し、そのままスピン注入磁化反転素子構造1、さらに上部電極4を透過して光変調素子5から出射する。前記光の別の一部は界面で反射して再び誘電体層2を下方へ進行して基板7との界面で反射し、そしてスピン注入磁化反転素子構造1との界面に到達して屈折する光と反射する光とに再び分岐する。
【0052】
したがって、光変調素子5から出射した光(出射光)は、誘電体層2において基板7およびスピン注入磁化反転素子構造1のそれぞれとの界面で反射を1回または2回以上繰り返した光が混在する。図2(a)では、基板7(反射層S)で3回反射した光を出射光として示す。スピン注入磁化反転素子構造1の磁化が平行であるとき(図3(a)参照)、入射光は、前記した通り、上方からスピン注入磁化反転素子構造1(磁化自由層13)を透過したときにファラデー回転角+θfで旋光し、基板7で反射した光が誘電体層2からスピン注入磁化反転素子構造1との界面で反射したときにカー回転角+θkで旋光し、誘電体層2側(下方)からスピン注入磁化反転素子構造1を透過したときにさらにファラデー回転角+θfで旋光する。そのため、出射光は、誘電体層2とスピン注入磁化反転素子構造1との界面で反射した回数によって、カー回転角+θkが累積されるので入射光に対して異なる角度で旋光した光となる。詳しくは、基板7でi回(i≧1)反射して出射した光は、入射光に対して角度+(2θf+(i−1)θk)で旋光した光となるため、光変調素子5からは、偏光の向きの異なる光が混在して出射することになる。同様に、スピン注入磁化反転素子構造1の磁化が反平行であるとき(図3(b)参照)、光変調素子5から出射した光は、角度−(2θf+(i−1)θk)で旋光した光となる。
【0053】
光変調度を向上させるためには、出射光の旋光角が大きいことが好ましく、したがって、誘電体層2における反射回数が多い出射光を多く取り出すことが好ましい。しかし、各々の出射光は界面に到達する度に反射と透過とで分岐した光であるので光量が小さく、特に反射回数が多くなるほど、分岐が繰り返され、さらに誘電体層2等の透過や界面での反射の度に光の一部が吸収されるために、光量は段階的に減衰して小さくなる。そのため、本発明に係る光変調素子5は、誘電体層2を以下のように構成することが好ましい。
【0054】
図4を参照して、誘電体層2での1次反射による光の挙動をモデル化して説明する。図4では、誘電体層2を模擬した透光性の媒質層M(屈折率n>1)が基板7を模擬した反射層Sに積層されている。波長λの光を媒質層Mへ、上方の大気(屈折率n0=1とする)中の点A,Fからそれぞれ入射角α0で入射して、媒質層Mを透過して反射層Sとの界面で反射した光(経路ABCDE)と、媒質層Mの表面で反射した光(経路FDE)とが、出射光DEにおいて干渉するものとする。なお、ここでは、光の旋光および媒質層M等への吸収による減衰はないものとする。
【0055】
2つの入射光AB,FDは、点B,Iにそれぞれ到達したとき、大気中の波面BIにおいて同位相である。そして、入射光ABが媒質層Mに進入して点Hに到達したとき、ならびに入射光FDが媒質層Mの表面の点Dに到達したとき、媒質層M中の波面HDにおいて同位相となる。この入射光と媒質層Mにおける屈折光との位相差をもたらす道のり(経路長)の差をφとすると、φ=|HC|+|CD|である。点Dから下へ延長した垂線と屈折光BCの延長線との交点をGと表すと、|CD|=|CG|より、φ=|HG|=|DG|・cosαで表せ、媒質層Mの厚さをdとすると、φ=2d・cosαで表せる。また、低屈折率媒質からの光の高屈折率媒質との界面での反射は固定端反射となるので、大気から媒質層Mの表面で反射した光DE、そして媒質層Mから反射層Sとの界面で反射した光CDは、それぞれ位相がπ(半波長分)だけずれる。したがって、経路ABCDEの光と、経路FDEの光とでは、反射による位相の変化が同じである。これらのことから、経路長の差φが媒質層Mでの波長λn(=λ/n)の整数倍(N倍)の場合、すなわちφ=N・λnの場合に、経路ABCDEと経路FDEの光のそれぞれの出射光DEは同位相となる。同位相の2つの出射光DE,DEは互いに干渉により強め合うことになって、光量が相加的に増大する。このとき、φ=2d・cosα=N・λn=N・λ/nより、下記の条件式(1)が成立する。
n・d・cosα=N/2・λ(=0.5N・λ) ・・・式(1)
【0056】
このような干渉は、前記条件式(1)が成立する厚さd(=N・λ/(2n・cosα))の媒質層Mにおいて生じる。なお、経路長の差φが半波長ずれる(φ=(N+1/2)・λn)と、2つの出射光DE,DEが相殺するため、光量が0となる。
【0057】
この現象を図2(a)に示す光変調素子5に当てはめると、基板7で反射して誘電体層2からスピン注入磁化反転素子構造1に進入し、当該スピン注入磁化反転素子構造1を上方へ透過する光について、経路の異なる、すなわち誘電体層2における反射回数の異なる光同士が同位相となればよい。誘電体層2から基板7との界面での反射、ならびに誘電体層2からスピン注入磁化反転素子構造1との界面での反射は、共に固定端反射であり、誘電体層2における反射回数に関係なく合計で奇数回反射するので、反射による位相の変化は常に半波長である。したがって、誘電体層2の厚さについて、前記条件式(1)が成立する図4の媒質層Mの厚さd(=N・λ/(2n・cosα))をそのまま適用できる(n:誘電体層2の屈折率)。Nの値については、1以上の整数であればよく、上限は規定されないが、大きくなると誘電体層2が厚膜化して透過する光が減衰するため、誘電体層2の厚さdが500nm程度以下となるように設定することが好ましい。なお、誘電体層2(媒質層M)における進入角αについては、光変調素子5への入射角をα0で表したとき、n・sinα=sinα0の関係より算出できる。したがって、誘電体層2の厚さdは、入射光(光源)の波長λと入射角α0、および誘電体層2の屈折率nに基づいて設計できる。
【0058】
また、図2(b)に示す光変調素子5Aのように、2層の誘電体層21,22を積層した誘電体層2Aの場合は、誘電体層21,22のそれぞれの屈折率をn1,n2、厚さをd1,d2とし、光の進入角をα1,α2(n1・sinα1=n2・sinα2=sinα0)で表した場合、前記条件式(1)を近似して、下記の条件式(2)が成立する厚さd1,d2とすればよい。
11・cosα1+n22・cosα2=N/2・λ ・・・式(2)
【0059】
さらに誘電体層21,22の屈折率が互いに近似する場合は(n1≒n2)、進入角も近似する(α1≒α2)。そこで、誘電体層21,22の屈折率n1,n2の平均値((n1+n2)/2)を共通の屈折率nとして、さらに一体の誘電体層2と同様に入射角α0より算出した進入角αを適用し、d1+d2=N・λ/(2n・cosα)となるようにそれぞれの厚さd1,d2を設計できる。
【0060】
誘電体層2(2A)をこのように構成することで、光変調素子5(5A)は、基板7表面(反射層S)での反射回数の異なる出射光同士が互いに干渉により強め合って光量が相加的に増大し、全体として入射光に対して減衰の抑えられた光量の出射光(適宜、総出射光と称する)が得られる。ここで、前記した通り、基板7での反射回数の異なる出射光は互いに偏光の向きが異なるが、これらの出射光が干渉して得られる総出射光は、各出射光の偏光の向きおよび光量をそれぞれベクトルの向きおよび大きさとしたときのベクトルの和(合成)で換算された偏光の向きおよび光量となる。すなわち総出射光は、入射光に対して旋光角θp,θapでそれぞれ旋光した1つの偏光の向きの光となる。したがって、総出射光の旋光角θp,θapは、反射を最大回数繰り返した出射光ほど大きくならないが、基板7で1,2回反射した出射光(±2θf,±(2θf+θk))よりは十分に大きくなり得て、その差|θp−θap|も大きくなり、スピン注入磁化反転素子構造1の各層の材料等の構造を従来と同じとしても、光変調度を高くすることができる。なお、経路長の差φが半波長ずれて出射光同士が相殺される場合は、偏光の向きが異なるので光量が0にはならないが各々の出射光よりもさらに減少することになる。また、本実施形態に係る光変調素子5では、固定端反射による多重反射としたが、これに限られず、誘電体層2の材料(屈折率)等の選択により自由端反射となる構成としてもよい。
【0061】
また、本実施形態に係る光変調素子5のスピン注入磁化反転素子構造1は垂直磁化膜で構成されるので、膜面に垂直(α0=0°)により近付けて光を入射することが、極カー効果で反射1回あたりのカー回転角θkを大きくするために望ましく、具体的にはα0≦30°とすることが好ましい。入射角α0が小さくなると、誘電体層2における進入角αはさらに小さくなって0°に近付き(α≒0°)、cosα≒1となる。したがって、入射角が垂直に近い場合には、条件式(1)が成立する誘電体層2の厚さdは、d≒N/2・λ/nで近似できる。光変調素子5Aの誘電体層2Aの場合は、条件式(2)について、cosα1≒cosα2≒1となるので、n11+n22=N/2・λが成立すればよい。
【0062】
以上のように、第1実施形態およびその変形例に係る光変調素子によれば、厚さを制御した誘電体層に公知のスピン注入磁化反転素子構造を直接に積層することで、容易に光変調度を向上させた光変調素子とすることができる。
【0063】
[第2実施形態]
次に、図5を参照して、本発明の第2実施形態およびその変形例に係る光変調素子について説明する。本実施形態および後記第3実施形態においては、第1実施形態(図1、図2参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。図5(a)に示すように、本発明の第2実施形態に係る光変調素子5Bは、第1実施形態と同様に、基板7上に誘電体層2、スピン注入磁化反転素子構造1(層13,12,11,14)、上部電極4の順に積層されている。なお、図5(b)において、保護層14は図示を省略する。
【0064】
本実施形態に係る光変調素子5Bは、スピン注入磁化反転素子構造1において磁化自由層13も磁化固定層11等の他の層と同じ光変調素子5B毎に分割された平面視正方形に成形加工され、この磁化自由層13の4側面に金属電極層31を接続してさらに備える。詳しくは図5(b)に示すように、金属電極層31は、スピン注入磁化反転素子構造1(磁化自由層13)の平面視形状と同じ形状の孔が形成され、この孔に磁化自由層13が埋め込まれた状態で側面に接続される。さらに金属電極層31は、磁化自由層13に対して膜面における所定の方向に延設するように形成されて、外部から電流を供給できるように構成される。すなわち、金属電極層31は、図1(b)に示す光変調素子5における磁化自由層13のスピン注入磁化反転素子構造1の領域外の部分が置き換えられたものであり、したがって、金属電極層31を適宜、下部電極3Bと表す。このように、下部電極3Bは、光変調素子5における磁化自由層13(下部電極3)から電極材料として好適な金属を選択することができる金属電極層31に置き換えられたので、配線抵抗を低減することができる。また、光変調素子5Bにおいて、誘電体層2は、基板7の全面に成膜されているが、これに限らず、例えば下部電極3B(金属電極層31)の配線幅に合わせて成形加工されてもよい(図示せず)。
【0065】
金属電極層31は、例えば、Cu,Al,Au,Ag,Ta,Cr等の金属やその合金のような一般的な電極用金属材料からなる。そして、スパッタリング法等の公知の方法により成膜、フォトリソグラフィ、およびエッチングまたはリフトオフ法等により、スピン注入磁化反転素子構造1の位置および平面視形状に合わせて孔が形成されたストライプ状に加工される。
【0066】
第2実施形態に係る光変調素子5Bの金属電極層31は、誘電体層2上に、磁化自由層13と略面一に形成され、スピン注入磁化反転素子構造1の中間層12等に接触しないように、その厚さが磁化自由層13の厚さ以下に制限される。そのため、下部電極3Bは、第1実施形態に係る光変調素子5の磁化自由層13のみで形成された下部電極3と同程度の厚さであり、材料の選択による以外では配線抵抗が低減されない。そこで、金属電極層31を下方(深さ方向)に拡張して厚膜化することにより配線抵抗をさらに低減することもできる。図6に示すように、第2実施形態の変形例に係る光変調素子5Cは、さらに誘電体層2Aの一部(第1誘電体層21)もスピン注入磁化反転素子構造1の平面視形状に合わせて成形加工され、この平面視形状と同じ形状の孔を形成された金属電極層31が、磁化自由層13および第1誘電体層21の4側面に接続される。誘電体層2Aにおける金属電極層31の孔に埋め込まれる深さ領域(第1誘電体層21の厚さ)は特に規定されず、所望の厚さの金属電極層31を形成できればよい。また、第1誘電体層21または第2誘電体層22のいずれかにおける厚さ方向の一部、あるいは一体の誘電体層2における厚さ方向の一部までがスピン注入磁化反転素子構造1の平面視形状に加工されて、金属電極層31の孔に磁化自由層13と共に埋め込まれてもよい(図示せず)。
【0067】
光変調素子5B,5Cは、前記第1実施形態に係る光変調素子5を配列した画素アレイ50の製造方法に、金属電極層31を形成する工程S10をさらに行う方法によって製造することができる。光変調素子5B(5C)をマトリクス状に配列した画素アレイ50B(図7参照)について、製造方法の一例を説明する。後記第3実施形態も含め、同一の工程については同じ符号を付し、説明を簡略化する。
【0068】
まず、基板7上に誘電体層2およびスピン注入磁化反転素子構造1の各層13,12,11,14の材料を成膜する(工程S20,S31)。そして、成膜した層(保護層14)の上の、スピン注入磁化反転素子構造1を設ける領域にレジストマスクを形成し、保護層14から磁化自由層13までを、あるいはさらに誘電体層2の所望の深さまでを成形加工して(工程S32)スピン注入磁化反転素子構造1を形成する。次に金属電極層31を形成する金属電極材料を磁化自由層13の高さまで成膜し(工程S11)、スピン注入磁化反転素子構造1上のレジストマスクを除去する(リフトオフ)。金属電極材料の配線間(下部電極3B,3B間)となる領域を除去して(工程S12)、金属電極層31を形成する。そして、金属電極層31,31間およびスピン注入磁化反転素子構造1,1間に絶縁層6を堆積させる(工程S51)。最後に、第1実施形態と同様に、上部電極4および上部電極4,4間の絶縁層6を形成して(工程S40,S52)、画素アレイ50Bとする。
【0069】
あるいは、基板7上に誘電体層2を形成(工程S20)、または第2誘電体層22を形成した(工程S21)後、この誘電体層2(22)上に、スピン注入磁化反転素子構造1の平面視形状の孔を空けたストライプ状の金属電極層31をリフトオフ法等により形成してもよい(工程S11A)。そして、磁化自由層13を、または第1誘電体層21および磁化自由層13を金属電極層31の孔に埋め込むように成膜し、さらに中間層12、磁化固定層11、保護層14を形成して(工程S22A,S31A)、スピン注入磁化反転素子構造1を形成することもできる。
【0070】
第2実施形態に係る光変調素子5Bは、下部電極3の一部を金属電極層31に換え、磁化自由層13の平面視形状を縮小してスピン注入磁化反転素子構造1に合わせたこと以外は、第1実施形態に係る光変調素子5と同じ構成である。さらに第2実施形態の変形例に係る光変調素子5Cは、光変調素子5Bに対して金属電極層31を厚く形成し、誘電体層2,2Aの形状を変えただけである。特に、スピン注入磁化反転素子構造1およびその上下の積層構造については光変調素子5と同じであるので、光変調素子5B,5Cにおける磁化反転動作、ならびに光の旋光および多重反射も第1実施形態またはその変形例と同様であり、説明を省略する(図2,3参照)。
【0071】
以上のように、第2実施形態およびその変形例に係る光変調素子によれば、第1実施形態と同様に光変調度を向上させた光変調素子とすることができ、さらに抵抗を抑えた光変調素子とすることができる。
【0072】
[第3実施形態]
図8(a)に示す第3実施形態に係る光変調素子5Dは、第2実施形態の変形例に係る光変調素子5C(図6参照)と比較して、誘電体層2(2A)の厚さ方向の全部がスピン注入磁化反転素子構造1の平面視形状に成形加工されて、金属電極層31を誘電体層2と磁化自由層13との合計の厚さに形成したものである。ただし、この場合は、複数の光変調素子5Dが配列されたときに、下部電極3B,3B(金属電極層31,31)同士が短絡しないように、透明基板のような絶縁性の基板71を適用し、この基板71表面に金属膜で反射層Sが形成された基板7Dとする。基板7Dにおいて、反射層Sは、基板71上に形成された金属電極層31の孔内に設けられる。あるいは、反射層Sは配線(下部電極3B)領域に設けられて、反射層S上に金属電極層31が設けられてもよい。反射層Sをこれらのように形成すれば、下部電極3Bの一部とすることができ、さらに反射層Sを厚膜化すれば下部電極3Bの配線抵抗を低減することができる。
【0073】
さらに第3実施形態の変形例に係る光変調素子5Eは、図8(b)に示すように、基板7Eの表面から一部の深さ領域までが、スピン注入磁化反転素子構造1、誘電体層2の平面視形状に合わせて加工されている。正しくは、基板7Eはスピン注入磁化反転素子構造1の領域外が深くなるように加工され、金属電極層31が基板7Eの加工された深さまで形成される。この場合も、基板7Eは、絶縁性の基板71の金属電極層31の孔内における表面(基板7Eの頂面)に反射層Sが設けられる。また、図8(b)に示す光変調素子5Eにおいては、金属電極層31を上面が誘電体層2と面一になる厚さに形成して、金属電極層31および誘電体層2の上に磁化自由層13が形成されている。すなわち、光変調素子5Eは、図1(b)に示す第1実施形態に係る光変調素子5のように、磁化自由層13をスピン注入磁化反転素子構造1の平面視形状よりも広く、下部電極3(3B)の平面視形状に形成して、スピン注入磁化反転素子構造1の領域の外側で下面にて金属電極層31に接続する構造である。このような構造とすることで、磁化自由層13が薄くて側面(端面)の面積が小さい場合でも、比較的広い面積で金属電極層31に接続される。このような形状の磁化自由層13および金属電極層31は、前記第3実施形態に係る光変調素子5Dおよび第2実施形態の変形例に係る光変調素子5Cについても適用できる。
【0074】
光変調素子5Dは、光変調素子5Cの製造方法と同様に製造することができ、絶縁性の基板71上に反射層Sを形成する工程S13を、誘電体層2の形成(工程S20)前に行えばよい。さらに、前記工程S32のスピン注入磁化反転素子構造1および誘電体層2を加工する際には、反射層Sまで加工する。このときに、光変調素子5Eを製造する場合は、さらに基板の一部まで加工して基板7Eを形成する。また、図8(b)に示す光変調素子5Eの製造方法は、絶縁性の基板71上に反射層Sおよび誘電体層2の各材料のみを成膜して(工程S13,S20)、誘電体層2および基板7Eを加工、形成する。そして、金属電極層31を形成してから(工程S11,S12)、第1実施形態に係る光変調素子5の製造方法と同様に、スピン注入磁化反転素子構造1の磁化自由層13とそれ以外の層12,11,14とを分けて形成すればよい。
【0075】
第3実施形態およびその変形例に係る光変調素子5D,5Eは、金属電極層31の厚さ、誘電体層2,2Aの形状、あるいはさらに基板7D,7E以外は、第2実施形態に係る光変調素子5Bと同じ構成であり、さらにスピン注入磁化反転素子構造1およびその上下の積層構造については第1実施形態に係る光変調素子5と同じであるので、光変調素子5D,5Eにおける磁化反転動作、ならびに光の旋光および多重反射も第1実施形態またはその変形例と同様であり、説明を省略する(図2,3参照)。
【0076】
以上のように、第3実施形態およびその変形例に係る光変調素子によれば、第2実施形態と同様に光変調度を向上させた光変調素子とすることができ、いっそう抵抗を抑えた光変調素子とすることができる。
【0077】
以上、本発明の光変調素子を実施するための各実施形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0078】
本発明の効果を確認するために、本発明の第1実施形態の変形例に係る光変調素子(図2(b)参照)を模擬したサンプルを作製し、その反射光の旋光角を評価した。磁化自由層を磁化反転させる必要はないので、サンプルは、中間層、磁化固定層、および電極を設けず、またフォトリソグラフィ等による加工は施さないものとした。詳しくは、表面を熱酸化して熱酸化膜(SiO2、屈折率n2=1.46)を形成したSi基板に、第1誘電体層としてMgF2(屈折率n1=1.38)、磁化自由層として[Pt/Co]×5の多層膜、さらに保護層としてRuをDCマグネトロンスパッタリング法で連続して成膜した。磁化自由層のPt膜は各1.3nm、Co膜は各0.26nmの厚さ、保護層(Ru)は2.7nmの厚さとした。Si基板表面のSiO2膜の厚さd2は330nm(±10%)であり、MgF2膜の厚さd1を0(成膜せず)から100nmまで変化させたサンプルを作製した。
【0079】
作製したサンプルに、外部から一様な磁界を印加することによって、磁化自由層の磁化方向が一方向となるようにした。そして、垂直磁界マイクロKerr効果測定装置(ネオアーク株式会社製)を用いて、サンプルに波長(λ)405nmの青色レーザー光を略垂直に入射して、反射光の旋光角を測定した。略垂直とは、入射するレーザー光が、垂直(入射角0°)に対して、測定装置の対物レンズ上でサンプルからの反射光と重複しない程度に傾斜した状態(入射角5°以内)を指す。旋光角のMgF2膜厚依存性のグラフを図10に示す。
【0080】
サンプルの磁化自由層とした[Pt/Co]×5の多層膜は、多重反射しないように金属膜上に形成された場合の反射光の旋光角(カー回転角)が約0.2°である。一方、図10に示すように、SiO2/MgF2上に形成されたサンプルは、MgF2膜の厚さに依存して旋光角が大きく変化し、MgF2膜の厚さd1が67nmのサンプルが突出して磁化自由層の旋光角が大きく、0.9°を超えた。これは、入射角α0が5°以下であることからcosα1≒cosα2≒1と近似して、n11+n22=1.38×67+1.46×330=574となり、(n11+n22)が、前記条件式(2)が成立する入射光の波長λの3/2倍(405×1.5=608)に近付いたことによると考えられる。したがって、このサンプルに使用されたSi基板の表面のSiO2膜の実際の厚さd2は353nm近傍と推測される(1.38×67+1.46×353=608)。反対に、MgF2膜の厚さd1が20nmのサンプルからの反射光はほとんど旋光しなかった。これは、n11+n22=1.38×20+1.46×330=509より、入射光の波長λの(1+1/4)倍(405×1.25=506)に近付いて、反射光がほとんど相殺されたことによると考えられる。これらの結果から、MgF2膜とSiO2膜とからなる誘電体層を設けて、反射回数の異なる出射光を干渉により強め合うように各膜厚を制御することによって、多重反射した出射光を含んで旋光角の大きな光を十分な光量で取り出せることが確認できた。
【符号の説明】
【0081】
1 スピン注入磁化反転素子構造
11 磁化固定層
12 中間層
13 磁化自由層
2,2A 誘電体層
3,3B 下部電極
31 金属電極層
4 上部電極
41 透明電極層
50,50B 画素アレイ
5,5A,5B,5C,5D,5E 光変調素子
7,7D,7E 基板
S 反射層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成され、磁化自由層、中間層、および磁化固定層の順に積層したスピン注入磁化反転素子構造、ならびに前記磁化固定層上に透明電極層を備え、前記磁化自由層と前記透明電極層とを一対の電極として電流を供給することにより、前記磁化自由層の磁化方向を変化させて、前記透明電極層の側から入射した光をその偏光の向きを変化させて反射して出射する光変調素子であって、
前記磁化自由層が積層される1層以上の誘電体材料からなる誘電体層をさらに備え、前記入射した光を前記誘電体層と前記基板との界面を反射面として反射することを特徴とする光変調素子。
【請求項2】
前記誘電体層は、屈折率をn、厚さをdで表し、前記入射した光の波長がλ、当該誘電体層を透過する光の進行方向の膜面垂直方向に対する角度がαであるとき、n・d・cosα=0.5N・λ(N=1,2,3,…)が成立することを特徴とする請求項1に記載の光変調素子。
【請求項3】
前記磁化自由層の側面に接続する金属電極層をさらに備える請求項1または請求項2に記載の光変調素子。
【請求項4】
前記金属電極層が、前記誘電体層の側面に接続する請求項3に記載の光変調素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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