説明

光学ガラス、プレス成形用ガラス素材および光学素子

【課題】ガラス中の異物欠陥・残留物欠陥が抑制されると共に、従来よりもSb酸化物の含有量がより少ない光学ガラスを提供すること。
【解決手段】屈折率ndが1.70以上2.20以下、アッベ数νdが15以上60以下であり、ガラス成分として、Bを1質量%以上45質量%以下、La、Gd、YおよびYbから選択される1種以上の酸化物を0質量%以上60質量%以下の割合で含むと共に、外割で、Sn酸化物、Ce酸化物およびSb酸化物が、下式(1)〜(3)を満たすように含む光学ガラス。
・式(1) 0<A(Sn)+A(Ce)+A(Sb)≦3.6
・式(2) 0<A(Sn)+A(Ce)≦3.5
・式(3) 0≦A(Sb)≦0.1
〔但し、上記式(1)〜(3)中、A(Sn)は、上記Sn酸化物の含有量(質量%)を表し、A(Ce)は、上記Ce酸化物の含有量(質量%)を表し、A(Sb)は、上記Sb酸化物の含有量(質量%)を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プレス成形用ガラス素材および光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラや撮像機能付きの携帯電話の撮像光学系に用いられるレンズ等に使用する目的で、高屈折率・低分散タイプのガラス製の光学素子の需要が高まっている。このような光学素子に用いられる高屈折率・低分散タイプのガラスとしては、ホウ酸ランタン系ガラスが知られている(例えば、特許文献1〜6参照)。
【特許文献1】特開2001−348244号公報
【特許文献2】特開2005−179142号公報
【特許文献3】特開2006−225220号公報
【特許文献4】特開2007−022846号公報
【特許文献5】特開2007−254197号公報
【特許文献6】特開2008−001551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような光学素子に用いられるガラスでは、ガラス中の残留泡、異物等の欠陥の存在は、製品不良となる。このため、ガラス中の欠陥は抑制されることが必要である。特に、CCDや、CMOSなどのイメージセンサーに用いられる撮像光学系を構成する光学素子に用いられるガラスでは、より一層、異物欠陥の抑制が求められている。
【0004】
上述したガラス中の異物は、ガラス原料の溶解時に、例えば、溶融容器がガラス融液により侵蝕されることにより、容器の一部が微細粒子や破片としてガラス中に混入することなどにより発生する。それゆえ、ガラス中や異物欠陥の発生を抑制するためには、ガラス原料の溶解時間を短くすることが必要である。しかし、ガラス原料の溶解時間を短くすると、ガラス融液中の脱泡が不十分となり、残留泡欠陥が発生する。残留泡欠陥を抑制するために、通常は、ガラス原料中に、脱泡剤(清澄剤)としてSb酸化物が添加される(例えば、特許文献1等参照)。しかしながら、近年、光学素子に用いるガラスとして、ガラス中のSb酸化物の含有量のより少ないガラスが求められつつある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ガラス中の異物欠陥・残留物欠陥が抑制されると共に、従来よりもSb酸化物の含有量がより少ない光学ガラス、並びに、これを用いたプレス成形用ガラス素材および光学素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は以下の本発明により達成される。
すなわち、本発明の光学ガラスは、屈折率ndが1.70以上2.20以下、アッベ数νdが15以上60以下であり、ガラス成分として、Bを1質量%以上45質量%以下、La、Gd、YおよびYbから選択される1種以上の酸化物を0質量%以上60質量%以下の割合で含むと共に、外割で、Sn酸化物、Ce酸化物およびSb酸化物が、下式(1)〜(3)を満たすように含む。
・式(1) 0<A(Sn)+A(Ce)+A(Sb)≦3.6
・式(2) 0<A(Sn)+A(Ce)≦3.5
・式(3) 0≦A(Sb)≦0.1
〔但し、式(1)〜(3)中、A(Sn)は、Sn酸化物の含有量(質量%)を表し、A(Ce)は、Ce酸化物の含有量(質量%)を表し、A(Sb)は、Sb酸化物の含有量(質量%)を表す。〕
【0007】
また、本発明のプレス成形用ガラス素材は、本発明の光学ガラスからなる。
【0008】
また、本発明の光学素子は、本発明の光学ガラスを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガラス中の異物欠陥・残留物欠陥が抑制されると共に、従来よりもSb酸化物の含有量がより少ない光学ガラス、並びに、これを用いたプレス成形用ガラス素材および光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<光学ガラス>
本実施の形態の光学ガラスは、屈折率ndが1.70以上2.20以下、アッベ数νdが15以上60以下であり、ガラス成分として、Bを1質量%以上45質量%以下、La、Gd、YおよびYbから選択される1種以上の酸化物を0質量%以上60質量%以下の割合で含むと共に、外割で、Sn酸化物、Ce酸化物およびSb酸化物が、下式(1)〜(3)を満たすように含むことを特徴とする。
・式(1) 0<A(Sn)+A(Ce)+A(Sb)≦3.6
・式(2) 0<A(Sn)+A(Ce)≦3.5
・式(3) 0≦A(Sb)≦0.1
〔但し、上記式(1)〜(3)中、A(Sn)は、上記Sn酸化物の含有量(質量%)を表し、A(Ce)は、上記Ce酸化物の含有量(質量%)を表し、A(Sb)は、上記Sb酸化物の含有量(質量%)を表す。〕
【0011】
−屈折率ndおよびアッベ数νd−
本実施の形態の光学ガラスは、屈折率ndが1.70以上2.20以下、アッベ数νdが15以上60以下である。言い換えれば、本実施の形態の光学ガラスは、高屈折率かつ低分散特性を有するものである。ここで、より高い屈折率を得る観点から、屈折率ndは、1.70以上が好ましく、2.00以上が好ましい。なお、屈折率ndは大きければ大きい方が好ましいが、高い屈折率を達成しつつ、その他の特性や製造性を両立させることができるガラス組成の選択が困難になるため、実用上は2.20以下である。また、低い分散性を得る観点から、アッベ数νdは44以下が好ましく、25以下がより好ましい。
【0012】
−ガラス成分−
本実施の形態の光学ガラスには、ネットワーク形成成分としてBが1質量%以上45質量%以下の割合で含まれることが必要であり、2.7質量%以上34.9質量%以下が好ましく、12.4質量%以上8.3質量%以下がより好ましい。Bの含有量が1質量%未満では、溶融性が悪化すると共に、失透し易くなる。また、Bの含有量が45質量%を超える場合は、屈折率ndが低下してしまうため、高屈折率特性が得られない。これに加えて、溶融時の粘性が低下して成形が困難となる場合もある。
【0013】
なお、ネットワーク形成成分としては必須成分であるBと共に、耐失透性の向上等を目的として任意成分であるSiOを併用することも好ましい。この場合、SiOの含有量は、0質量%以上18.1質量%以下が好ましく、6.7質量%以上8.0質量%以下がより好ましい。
【0014】
ネットワーク形成成分として任意成分であるSiOを併用する場合、SiOの含有量に対するBの含有量の割合(B含有量/SiO含有量)は、1.9以上であることが好ましく、2.3以上であることがより好ましく、3.5以上であることが更に好ましい。なお、ネットワーク形成成分としては、SiO以外に、必要に応じてGeOも0質量%以上5質量%以下の割合で用いることができる。
【0015】
また、本実施の形態の光学ガラスには、屈折率ndを1.78以上1.92以下、アッベ数νdを32以上52以下の範囲に調整するために、高屈折率・低分散特性を付与する成分として、Laが0質量%以上60質量%以下の割合で含まれることが必要である。なお、Laの含有量は、4質量%以上55質量%以下が好ましく、19.3質量%以上49.0質量%以下がより好ましい。
【0016】
なお、Laと同様に高屈折率・低分散特性を付与する成分としては、Y、Gd、Ybが挙げられる。Laと共にこれらの成分も併用する場合には、上述したLaと同様の観点から、La、Y、GdおよびYbの合計含有量が0質量%を超え60質量%以下(但し、この場合のLa含有量は0質量%以上60質量%未満)であることが好ましく、25質量%以上45質量%以下がより好ましい。
【0017】
また、上述した成分以外にも、特許文献1〜7に示されるように、種々の特性を改善する目的で、必要に応じて下記に示す成分がガラス中に含まれていてもよい。例えば、高屈折率特性の付与、耐失透性の改善、化学的耐久性の向上などを目的とした成分としては、ZrO、Ta、Nb、WO、Al、BaO、TiO等が挙げられる。なお、これらの成分は、ガラス中に過剰に含まれると、その他の特性との両立が困難となる場合がある。また、ガラス原料として炭酸塩や硝酸塩の態様で用いることによりガラス溶融時の脱泡を促進することを目的とした成分としては、BaO、SrO、CaO、MgOが挙げられる。
【0018】
また、ガラスの熔融温度およびガラスの液相温度(LT)を低下させることを目的として、本実施の形態の光学ガラスには、LiO、NaOおよびKOからなる群より選択される1種以上のアルカリ金属酸化物が含まれていることが好ましい。しかし、LiO、NaOおよびKOの合計含有量が10質量%を超えると目的とする高屈折率特性が得られなくなる場合がある。このため、LiO、NaOおよびKOの合計含有量は10質量%以下であることが好ましい。なお、LiOの好ましい含有量は0質量%以上3質量%以下であり、NaOの好ましい含有量は0質量%以上9質量%以下であり、KOの含有量は0質量%以上9質量%以下である。アルカリ金属酸化物としては、NaOのみ、KOのみ、または、NaOおよびKOが含有されていることが好ましく、KOのみ、または、NaOおよびKOが含有されていることがより好ましく、NaOおよびKOが含有されていることがさらに好ましい。
【0019】
なお、以上に説明したSn酸化物、Ce酸化物およびSb酸化物を除く各種成分のより好適な配合割合としては、特に限定されないが、例えば、特許文献1〜7などに開示される光学ガラスと同様の配合割合を挙げることができ、具体的には、下記(1)〜(7)に示すガラス組成が挙げられる。
【0020】
(1)La、Gd、YおよびYbの中から選ばれる少なくとも2種(但しLaは必須成分である)と、ZrO、TaおよびNbの中から選ばれる少なくとも1種を含み、SiOとBとの合計含有量に対し、LaとGdとYとYbとの合計含有量の割合(質量比)が2〜4であり、かつZrOとTaとNbとの合計含有量の割合(質量比)が1〜2であるガラス組成。なお、このガラス組成では、更にガラス転移温度が低く、ガラスをアニール処理する場合に用いる熱処理炉の長期安定稼働が可能であるという効果が得られる。
【0021】
(2)SiOを1質量%以上10質量%未満;Bを10質量%以上35質量%未満;BaOを13質量%以上30質量%未満;Laを10質量%以上40質量%未満;TiOを5質量%以上15質量%未満の割合で含むガラス組成。なお、このガラス組成では、更にPb化合物用いなくても、経済性と量産性とに優れるという効果が得られる。
【0022】
(3)Bを2質量%以上45質量%以下、SiOを0質量%以上30質量%以下(ただし、B含有量>SiO含有量)、Laを10質量%以上50質量%以下、TiOを0質量%以上30質量%以下、ZnOを0質量%以上15質量%以下、ZrOを0質量%以上15質量%以下、Nbを0質量%以上35質量%以下、BaOを0質量%以上35質量%以下、SrOを0質量%以上5質量%以下、CaOを0質量%以上8質量%未満、MgOを0質量%以上13質量%未満(ただし、BaO、SrO、CaOおよびMgOの合計含有量0質量%以上40質量%以下)、Gdを0質量%以上20質量%以下、Yを0質量%以上15質量%以下、Taを0質量%以上18質量%以下、WOを0質量%以上3質量%以下、NaOとKOとLiOを合計で0質量%以上3%質量以下、GeOを0質量%以上10質量%以下、Biを0質量%以上20質量%以下、Ybを0質量%以上10質量%以下、Alを0質量%以上10質量%以下の割合で含むガラス組成。なお、このガラス組成では、更に屈折率が高く且つガラスの着色も抑制されるという効果が得られる。
【0023】
(4)ガラス成分として、CaO、SrOの少なくとも一方と、SiO、B、La、Nb、TiOおよびBaOが共存し、SiO 1質量%以上18質量%以下、B 3質量%以上24質量%以下(ただし、SiOの含有量に対するBの含有量の割合B/SiOが1超)、La 10質量%以上50質量%以下、Nb1質量%以上30質量%以下、TiO1質量%以上30質量%以下、BaO 6質量%を超え25質量%以下、CaO 7質量%未満、SrO 6質量%以下、MgO 0質量%以上13質量%以下(ただし、BaO、CaO、SrOおよびMgOの合計含有量が40質量%以下)、ZnO 0質量%以上15質量%以下、ZrO0質量%以上15質量%以下、Al 0質量%以上10質量%以下、Gd 0質量%以上20質量%以下、Y0質量%以上2質量%未満、Yb 0質量%以上5質量%以下、Ta 0質量%以上18質量%以下、Bi 0質量%以上20質量%以下、GeO0質量%以上10質量%以下、の割合で含まれるガラス組成。なお、このガラス組成では、更に高光透過率、高屈折率および優れた製造安定性という効果が得られる。
【0024】
(5)La、Gd、Y、Yb、TiO、NbおよびWOの中から選ばれる少なくとも1種の酸化物、MgO、CaO、SrOおよびBaOの中から選ばれる少なくとも1種の酸化物、およびBを必須成分として含むと共に、SiOを任意成分として含み、且つ、質量基準で下記(a)〜(c)を満たすガラス組成。
(a)BとSiOの合計含有量が1%以上25%%以下
(b)La、Gd、Y、Yb、TiO、NbおよびWOの合計含有量に対するBとSiOの合計含有量の比率「(B+SiO)/(La+Gd+Y+Yb+TiO+Nb+WO)」が0.05〜0.3
(c)La、Gd、Y、Yb、TiO、NbおよびWOの合計含有量に対するMgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量の比率「(MgO+CaO+SrO+BaO)/(La+Gd+Y+Yb+TiO+Nb+WO)」が0.1〜0.4
なお、このガラス組成では、更にPbOによらなくても屈折率が極めて高く、しかも安定性に優れるという効果が得られる。
【0025】
(6)質量%表示で、SiO2 2%以上22%以下、B23 3%以上24%以下、ZnO 8%超30%以下、CaO+BaO+ZnO 10%以上50%以下、MgO 0%以上3%以下、La23+Y23+Gd23+Yb23 1%以上33%以下、TiO2 2%以上20%以下、ZrO2 0%以上10%以下、Nb25 2%以上32%以下、Li2O 0%以上5%以下、Na2O 0%以上8%以下、K2O 0%以上10%以下、WO3 0%以上20%以下、を含み、かつ質量基準で、La23、Y23、Gd23およびYb23の合計含有量に対するLa23含有量の割合が0.7〜1の範囲であるガラス組成。なお、このガラス組成では、更に熔融性、熔融状態からガラスを成形する際の失透安定性、低着色性、加熱軟化して成形する際の失透安定性を同時に満足させることができるという効果が得られる。
【0026】
(7)質量%表示で、BとSiOを合計量で12%以上30%以下、La、Gd、Y、Yb、ZrO、NbおよびWOを合計量で55%以上80%以下、ZrOを2%以上10%以下、Nbを0%以上15%以下、ZnOを0%以上15%以下、Taを0%以上13%未満含み、La、Gd、Y、Yb、ZrO、NbおよびWOの合計含有量に対するTa含有量の比が0.23以下、BとSiOの合計含有量に対するLa、Gd、YおよびYbの合計含有量の比が2〜4であるガラス組成。なお、このガラス組成では、更に耐失透性に優れるという効果が得られる。
【0027】
−Sn酸化物、Ce酸化物およびSb酸化物−
次に、外割で添加されるSn酸化物、Ce酸化物およびSb酸化物について説明する。まず、本願明細書において、Sn酸化物、Ce酸化物、Sb酸化物とは、これら酸化物を構成する金属元素の価数によらず、ガラス中に酸化物の状態で存在するものを意味する。例えば、Sn酸化物としては、SnO、SnOなどの態様が挙げられ、Ce酸化物としては、CeO、Ceなどの態様が挙げられ、Sb酸化物としては、Sb、Sbなどの態様が挙げられる。それゆえ、Sn酸化物の含有量A(Sn)とは、SnO、SnOなどの酸化物の合計量を意味し、Ce酸化物の含有量A(Ce)とは、CeO、Ceなどの酸化物の合計量を意味し、Sb酸化物の含有量A(Sb)とは、Sb、Sbなどの酸化物の合計量を意味する。
【0028】
これら3種類の金属酸化物(以下、「添加剤」と称す場合がある)は、ガラス溶解時の清澄効果を高める作用を有する。これに加えて、光学ガラス中に、ガラス溶解時の還元反応によってガラスを着色する可能性のある成分(例えば、Nb、TiO、WO、Biなど)が含まれている場合には、その着色を抑制する作用も有する。なお、優れた清澄効果を有する金属酸化物としては、As酸化物が知られている。しかし、本実施の形態の光学ガラスでは、上述した3種類の添加剤を式(1)〜式(3)を満たすように用いることで清澄効果を確保するため、As酸化物を用いる必要が無い。
【0029】
これら3種の添加剤の含有量は、既述したように式(1)〜式(3)に示す関係を満たすことが必要である。すなわち、A(Sn)+A(Ce)+A(Sb)は、0質量%を超え3.6質量%以下であることが必要である。A(Sn)+A(Ce)+A(Sb)が0質量%では、ガラス溶解時の清澄を促進できないため、残留泡欠陥が発生する。また、残留泡欠陥の発生を回避するために、ガラス原料の溶解時間を長くすると、異物欠陥が発生する。更に、ガラス溶解時の還元反応によってガラスを着色する可能性のある成分が、ガラス中に含まれる場合には、ガラスが着色してしまう。一方、A(Sn)+A(Ce)+A(Sb)が、3.6質量%を超えると、添加剤がガラス中に溶け残り、異物欠陥となる上に、この異物が光の散乱源になる。これに加えて、添加剤自体による着色も生じる。さらに、Sn酸化物やCe酸化物を多量に用いている場合には、SnやCeが結晶核形成剤として機能し易くなる。このため、本実施の形態の光学ガラスが、プレス成形用ガラス素材などのように再加熱処理を経て光学素子として利用される場合には、失透してしまう場合がある。
【0030】
また、式(2)に示されるように、A(Sn)+A(Ce)は0質量%を超え3.5質量%以下であることが必要である。A(Sn)+A(Ce)が、3.5質量%を超えると、添加剤がガラス中に溶け残り、異物欠陥となる上に、この異物が光の散乱源になる。これに加えて、添加剤自体による着色が生じる。さらに、SnやCeが結晶核形成剤として機能し易くなる。このため、本実施の形態の光学ガラスが、プレス成形用ガラス素材などのように再加熱処理を経て光学素子として利用される場合には、失透してしまう場合がある。
【0031】
また、A(Sn)およびA(Ce)共に0質量%を超える(すなわち、Sn酸化物およびCe酸化物の双方を組み合わせて利用する)場合、Sn酸化物とCe酸化物を共存させることにより、高温域から低温域にわたり広い温度範囲でガラスの清澄効果を高めることができるためである。また、この結果、As酸化物を用いた場合や、Sb酸化物の含有量を式(3)に示すように0.1質量%以下に抑制せずに、これよりも多く用いた場合と比べても、本実施の形態に係る光学ガラスでは、優れた清澄効果を確保することが可能である。
【0032】
このような効果が得られる理由についてはその詳細は不明であるが、本発明者らは以下のように推定している。まず、Sn酸化物は、高温で酸素ガスを放出し、ガラス中に含まれる微小な泡を取り込んで大きな泡にすることで浮上しやすくすることにより清澄を促す働きに優れている。これに対して、Ce酸化物は、低温でガラス中にガスとして存在する酸素をガラス成分として取り込むことにより泡を消す働きに優れている。このように、Sn酸化物とCe酸化物とでは、温度域に対する清澄効果を相互に補う関係にある。これに加えて、泡の大きさ(固化したガラス中に残留する泡(空洞)の最大径)が0.3mm以下の範囲において、Sn酸化物は比較的大きな泡も極小の泡も除く働きが強い。このためSn酸化物とともにCe酸化物を用いると、最大径が50μm以上0.3mm以下程度の大きな泡の密度が数十分の一程度にまで激減させることもできる。以上のことから、上述した効果が得られるものと推定される。
【0033】
また、A(Sn)およびA(Ce)は、式(2)を満たすのであれば、その値は特に限定されず、各々0質量%を超え3.5質量%以下の範囲で任意に選択できる。しかし、上述した効果の発揮を目的としてSn酸化物とCe酸化物とを同時に用いる場合には、A(Sn)およびA(Ce)は、各々0質量%を超え3.5質量%未満の範囲が好ましい。なお、A(Sn)が3.5質量%を超えると、Sn酸化物がガラス中に溶け残り、異物として光散乱源になる。それゆえ、A(Sn)は、2.5質量%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。また、A(Ce)が3.5質量%を超えると、熔融容器を構成する耐火物や白金との反応が起こり、光学ガラス中の不純物濃度が増大する。これに加えて、このような不純物の増加は、得られた光学ガラスの表面状態に悪影響を与える。このため、金型を利用して光学ガラスを成形する場合には、光学ガラスと金型との反応も大きくなる。それゆえ、A(Ce)は、2.5質量%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。
【0034】
更に、式(3)に示されるように、A(Sb)は0質量%以上0.1質量%以下であることが必要である。本実施の形態では、清澄剤としてSn酸化物やCe酸化物を用いることができるため、Sb酸化物の使用量を低減あるいはゼロにすることができる。Sb酸化物の含有量A(Sb)は0.1質量%以下であることが必要であり、0.05質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以下であることが更に好ましく、0質量%であることが最も好ましい。A(Sb)が、0.1質量%を超えた場合、Sb酸化物の使用量の低減が図れない。なお、A(Sn)+A(Ce)の値が少ない場合は、Sn酸化物やCe酸化物による清澄効果を補う意味で、Sb酸化物を用いてもよい。
【0035】
−光学ガラスの製造方法−
本実施の形態の光学ガラスは、ガラス原料(バッチ原料と呼ばれるガラス化原料やカレット原料等)を熔解する熔解工程と、熔解して得られた熔融ガラスを清澄する清澄工程と、清澄した熔融ガラスを均質化する均質化工程と、均質化した熔融ガラスを流出して成形する成形工程とを経て作られる。このうち、清澄工程は均質化工程よりも高温で行われる。清澄工程では、ガラス中に積極的に泡を発生させて、ガラス中に含まれる微小な泡を取り込んで大きな泡にすることで浮上しやすくすることにより清澄を促す。一方、流出に向けてガラスの温度を低下させた状態では、ガラス中にガスとして存在する酸素をガラス成分として取り込むことにより泡を消す手法が有効である。
【0036】
なお、ガラス原料として利用するSn酸化物としては、SnOを利用することが好適である。SnOは 高温で酸素ガスを効果的に放出するため、清澄効果を向上させることができるためである。
【0037】
<プレス成形用ガラス素材>
次に、本実施の形態のプレス成形用ガラス素材について説明する。
本実施の形態のプレス成形用ガラス素材は、上述した本実施の形態の光学ガラスからなる。プレス成形用ガラス素材は、清澄した均質な溶融ガラスを鋳型に流し込んで成形し、得られたガラス成形体をアニールした後、切断もしくは割断してガラス片とし、このガラス片をバレル研磨して目的とするプレス成形品1個分の質量のガラス塊とすることにより得られる。こうして得られたガラス素材を加熱、軟化し、プレス成形、アニールし、研削、研磨することにより球面レンズ、プリズムなどの所望の光学素子を作ることができる。また、上記ガラス片を研削、研磨して表面を滑らかに仕上げ、精密プレス成形用のガラス素材とすることもできる。
【0038】
<光学素子>
次に本実施の形態の光学素子について説明する。本実施の形態の光学素子は、上述した本実施の形態の光学ガラスを、研削、研磨、成型等により加工して得られるものである。このような光学素子としては、具体的には凸メニスカスレンズ、平凸レンズ、両凸レンズ、凹メニスカスレンズ、平凹レンズ、両凹レンズ、マイクロレンズ、レンズアレイなどの各種レンズ、プリズムなどを例示することができる。上記各種レンズは球面レンズ、非球面レンズに分類することができる。これら光学素子の表面には必要に応じて反射防止膜などのコートを施してもよい。
【0039】
これら光学素子は、前述のプレス成形用ガラス素材を加熱、軟化してプレス成形し、得られた成形品をアニールした後、研削、研磨することにより得ることもできるし、精密プレス成形用ガラス素材を精密プレス成形し、必要に応じて非光学機能面を研削(例えば、レンズの心取り加工など)して得ることもできる。あるいは、清澄、均質化した溶融ガラスをプレス成形し、得られた成形品をアニールした後、研削、研磨することにより得ることもできる。
【0040】
これらの光学素子は残留泡や溶解時の溶け残りなどの異物を含まず、着色が低減された光学ガラスを用いて作製されるため、高精細な撮像光学系、例えば、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載カメラや、プロジェクタなどの投射光学系を構成する光学素子として好適である。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0042】
<ガラスの作製>
表1〜7に示すガラス組成の各々に、表8〜16に示す量の添加剤を外割で添加した組成を有するガラスが得られるようにリン酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酸化物等を用いてガラス原料を調合した。続いて、このガラス原料を熔融容器(白金製坩堝またはシリカ坩堝)に投入して900〜1300℃の範囲で大気雰囲気中にて所定の時間熔融し、清澄、攪拌して均質化した。その後、この熔融したガラスを金型に流し込んで30℃/hrの降温速度で徐冷することによりガラス塊を得た。なお、ここで作製した36,292種のガラスについていずれのガラス塊も失透していないことが確認された。
【0043】
次に、表8〜16に示す添加剤に、さらに0.03質量%(外割)のSbを添加したガラス、0.06質量%(外割)のSbを添加したガラス、0.10質量%(外割)のSbを添加したガラスについてもガラス塊を作製し、失透が認められないことを確認した。
【0044】
<評価>
得られた145,168種の評価サンプルの残留泡欠陥、異物欠陥および着色について評価した。その結果、Sn酸化物、Ce酸化物の少なくとも一方を添加したサンプル、また、さらにSb酸化物を添加したサンプルについては、いずれも残留泡欠陥や異物欠陥が観察されず、また、着色についても光学素子として問題ないレベルであることが確認された。これに対して、Sn酸化物、Ce酸化物およびSb酸化物のいずれも添加していないサンプルについては、残留泡欠陥や異物欠陥が観察されたり、光学素子として問題となるレベルの着色が確認された。
【0045】
<評価方法および評価基準>
なお、残留泡欠陥、異物欠陥および着色の評価方法・評価基準は以下の通りである。
【0046】
−残留泡欠陥−
得られたガラス塊を、表面が平坦且つ平滑となるように研磨して評価用サンプルを得た。次に、この評価サンプルの研磨面側から光学顕微鏡により、評価サンプルの深さ方向の任意の位置(ガラス内部)に焦点を合わせて残留泡欠陥の有無を観察した。なお、この時の観察倍率は100倍とした。
【0047】
−異物欠陥−
得られたガラス塊を、表面が平坦且つ平滑となるように研磨して評価用サンプルを得た。次に、この評価サンプルの研磨面側から光学顕微鏡により、評価サンプルの深さ方向の任意の位置(ガラス内部)に焦点を合わせて異物欠陥の有無を観察した。なお、この時の観察倍率は100倍とした。
【0048】
−着色−
得られたガラス塊を、厚みが5mmの板状に表面を鏡面研磨し、評価用サンプルを準備した。これを別途準備した限度見本(光学素子として用いた場合に問題となるレベルのサンプル)と目視で着色度合の差を比較して、同程度の着色が観察される場合を問題ありとして判断した。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
【表6】

【0055】
【表7】

【0056】
【表8】

【0057】
【表9】

【0058】
【表10】

【0059】
【表11】

【0060】
【表12】

【0061】
【表13】

【0062】
【表14】

【0063】
【表15】

【0064】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率ndが1.70以上2.20以下、アッベ数νdが15以上60以下であり、ガラス成分として、Bを1質量%以上45質量%以下、La、Gd、YおよびYbから選択される1種以上の酸化物を0質量%以上60質量%以下の割合で含むと共に、
外割で、Sn酸化物、Ce酸化物およびSb酸化物が、下式(1)〜(3)を満たすように含むことを特徴とする光学ガラス。
・式(1) 0<A(Sn)+A(Ce)+A(Sb)≦3.6
・式(2) 0<A(Sn)+A(Ce)≦3.5
・式(3) 0≦A(Sb)≦0.1
〔但し、上記式(1)〜(3)中、A(Sn)は、上記Sn酸化物の含有量(質量%)を表し、A(Ce)は、上記Ce酸化物の含有量(質量%)を表し、A(Sb)は、上記Sb酸化物の含有量(質量%)を表す。〕
【請求項2】
請求項1に記載の光学ガラスからなることを特徴とするプレス成形用ガラス素材。
【請求項3】
請求項1に記載の光学ガラスを含むことを特徴とする光学素子。

【公開番号】特開2010−83702(P2010−83702A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253499(P2008−253499)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】