説明

光学ガラス

【課題】本発明は、屈折率(nd)が1.70〜1.74、アッベ数(νd)が44〜49であり、良好な着色度及び耐水性を兼ね備えたリヒートプレス成形及び/又は精密モールドプレス成形に適した光学ガラスを提供する。
【解決手段】SiO2、B23、La23、BaO及びZnOを必須成分として含有し、前記各成分の含有率の総和が酸化物換算組成におけるモル%で表して90%以上である光学ガラスであって、光学ガラス中のLa23、BaO及びZnOの含有率の和に対するSiO2及びB23含有率の和の比が1.35以上かつ1.42未満である該光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率(nd)が1.70〜1.74、アッベ数(νd)が44〜49であり、良好な着色度及び耐水性を兼ね備えたリヒートプレス成形及び/又は精密モールドプレス成形に適した光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
光学ガラスに求められる物性には様々ものが考えられるが、着色度及び化学的耐久性もそのひとつである。
【0003】
近年、光学機器の小型軽量化が著しく進行している中で、光学機器の光学系を構成するレンズの枚数を減少させる目的でガラス製の非球面レンズが多く用いられるようになってきている。ガラス製の非球面レンズは、加熱軟化したガラスプリフォーム材を、高精度な成形面をもつ金型でプレス成形し、金型の高精度な成形面の形状をガラスプリフォーム材に転写して得る方法、すなわち、精密プレス成形によって製造されることが主流となっている。
【0004】
しかし、精密プレス成形用の光学ガラスは、通常、低Tg化が要求される。そのためアルカリ金属酸化物を含有することが多くなり、化学的耐久性が悪化し、洗浄などを行う場合にレンズプリフォーム材表面にヤケを生じ、鏡面あるいは鏡面に近い状態を保てなくなるという欠点がある。つまり、所望の光学恒数を維持しつつ、優れた化学的耐久性を維持していくことは未だ当業界における課題のひとつである。
【0005】
また、特に高屈折率の光学ガラスを所望の場合には、所望の屈折率を維持しかつ低Tg化するためにBiやTiO成分を多量に用いる場合がある。しかしこれら成分を多量に含有する光学ガラスは著しく着色度が悪くなるため、撮影系のレンズとして使用するには不向きであるといった欠点を有している。
【0006】
上述のように、光学設計上の有用性の観点から、従来から高屈折率を有し、ガラス転移温度(Tg)が低く、なおかつ化学的耐久性及び着色度が優れた光学ガラスが強く求められている。
【0007】
特に本発明においては、屈折率(nd)が1.70〜1.74、アッベ数(νd)が44〜49という限定的な範囲の光学恒数が要求されており、かつ化学的耐久性、特に耐水性に優れ、着色度、すなわち分光透過率80%を示す波長が400nm以下であり、かつ分光透過率5%を示す波長が350nm以下である光学ガラスが所望である。
【0008】
上記屈折率及びアッベ数を有する光学ガラスは光学設計上非常に有用であるため、既に種々のガラスが提案されている。
【0009】
特公昭43−7124には屈折率が1.65〜1.85、アッベ数が29〜48の光学ガラスが記載されている。しかし、この光学ガラスはNb、Taを比較的多量に含有するため製造コストが高くなるほか、熔融性が悪いため均質なガラスが得にくいという欠点がある。
【0010】
特開昭59−50048号公報には屈折率が1.70〜1.95、アッベ数が25〜50の光学ガラスが記載されている。しかし、この光学ガラスはNb、Taを比較的多量に含有するため上記同様の不利益を有するほか、TiOを多量に含有するため着色度が悪いといった欠点がある。
【0011】
特開昭54−6244号公報には、Nb、Taを含有しない光学ガラスが記載されているが、この光学ガラスはガラスの化学的耐久性が悪いという欠点がある。
【0012】
特開平8−26765号公報には、屈折率が1.68〜1.80、アッベ数が44〜53の光学ガラスが記載されている。このガラスはガラス転移点を下げるために比較的多量のアルカリ金属酸化物を含有している。しかしこの発明により得られた光学ガラスでは化学耐久性、特に所望の耐水性において本発明の要求を満たすには不十分である。
【0013】
特開平11−43344号公報には屈折率が1.67〜1.75、アッベ数が42〜50の光学ガラスが記載されている。このガラスはNb、Taを含有しないため、低粘性で熔融性に優れている。しかし、この光学ガラスでは着色度がまだ不十分である。
【0014】
特開2002−249337号公報には、屈折率が1.74〜1.80、アッベ数が45〜52、ガラス転移温度(Tg)が630℃以下および液相温度における粘度が0.6Pa・s以上の光学ガラスが記載されている。しかし、この光学ガラスでは所望の物性を有するためにSiO含有量に比べ多量のBを含有しなければならない。しかしこれでは本願発明において所望の化学耐久性、特に所望の耐水性を得ることはできない。またこの光学ガラスはGdを多量に含むため製造コストが高くなるという欠点がある。
【0015】
このように、本発明において目的とする所望の光学恒数を有する光学ガラスは、既に上記公報において公知であるが、たとえそれらが所望の光学恒数を有していたとしても化学的耐久性、着色度、製造コストなどの点において改良すべき課題は未だ多数存在する。
【特許文献1】特公昭43−7124号公報
【特許文献2】特開昭59−50048号公報
【特許文献3】特開昭54−6244号公報
【特許文献4】特開平8−26765号公報
【特許文献5】特開平11−43344号公報
【特許文献6】特開2002−249337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記従来の光学ガラスが有する諸欠点を改善したものであり、所定の光学恒数を有し、化学的耐久性に優れ、良好な着色度を有し、かつ安価に製造可能な光学ガラス及びその光学ガラスからなる光学部品等を提供するものである。
【0017】
本発明者は、鋭意研究の結果、光学ガラス中においてSiO、B、La、ZnO及びBaOを必須成分として酸化物換算組成で90モル%以上含有し、かつLa23、BaO及びZnOの含有率の和に対するSiO2及びB23含有率の和の比を所定の範囲に調節することにより、従来の類似構成成分の光学ガラスに比べてはるかに耐水性及び着色度が優れ、かつ所望の光学恒数は維持されたままの光学ガラスを安価に製造し得ることを今般見出した。
【0018】
さらに、本発明者は前記条件の下でガラス中のB23含有率に対するSiO2含有率の比を所定の範囲に調節することにより、より着色度が優れた光学ガラスを製造し得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の光学ガラスについて、以下、具体的に説明する
【0020】
本発明の第1の態様は、SiO2、B23、La23、BaO及びZnOを必須成分として含有し、前記各成分の含有率の総和が酸化物換算組成におけるモル%で表して90%以上であって、光学ガラス中のLa23、BaO及びZnOの含有率の和に対するSiO2及びB23含有率の和の比が1.35以上かつ1.42未満である光学ガラスである。
【0021】
本発明の第2の態様は、酸化物換算組成におけるモル%で表されたガラス中のB23含有率に対するSiO2含有率の比が1.40〜2.00である前記光学ガラスである。
【0022】
本発明の第3の態様は、光学ガラス中のSiO2含有率が酸化物換算組成におけるモル%で表して30〜45%であり、かつB23含有率が18〜30%である前記光学ガラスである。
【0023】
本発明の第4の態様は、光学ガラス中のLa含有率が酸化物換算組成におけるモル%で表して1〜7%であり、かつBaOの含有率が18〜32%であり、ZnO含有率が9〜18%の前記光学ガラスである。
【0024】
本発明の第5の態様は、屈折率(nd)が1.70〜1.74、かつアッベ数(νd)が44〜49である前記光学ガラスである。
【0025】
本発明の第6の態様は、ガラス転移点(Tg)が650℃未満である前記光学ガラスである。
【0026】
本発明の第7の態様は、酸化物換算組成におけるモル%で表して
ZrO 0〜6%、及び/又は
TiO 0〜4%未満、及び/又は
O(R=Li、Na、K) 0〜1%、及び/又は
CaO 0〜3%、及び/又は
SrO 0〜3%、及び/又は
MgO 0〜3%、及び/又は
Sb 0〜0.5%
の各成分を含有し、かつAlを含有しない前記光学ガラスである。
【0027】
本発明の第8の態様は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02−2003「光学ガラスの着色度の測定方法」により測定して、分光透過率80%を示す波長が400nm以下であり、かつ分光透過率5%を示す波長が350nm以下である前記光学ガラスである。
【0028】
本発明の第9の態様は、日本光学硝子工業会規格JOGIS06−1999「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)」により測定して、耐水性が1級である前記光学ガラスである。
【0029】
本発明の第10の態様は、前記光学ガラスからなるレンズプリフォーム材である。
【0030】
本発明の第11の態様は、前記光学ガラスからなる光学部品である。
【0031】
本明細書中において「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、炭酸塩等が熔融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量(モル)を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0032】
本発明の光学ガラスの各成分について説明する。以下、特に断らない限り、各成分の含有率は酸化物換算組成におけるモル%を意味する。
【0033】
SiO2成分は、本発明の光学ガラスにおいてガラス形成酸化物成分として欠かすことのできない成分である。しかし、過剰に含有すると屈折率を下げてしまい所望の光学恒数を満たすことができなくなってしまう。また少なすぎると着色度が悪くなる。従って、酸化物換算組成で光学ガラス全体に対して好ましくは30%、より好ましくは31%、最も好ましくは32%を下限として含有することができ、好ましくは45%、より好ましくは44%、最も好ましくは43%を上限として含有することができる。
【0034】
SiOは、原料として例えばSiO等を使用してガラス内に導入される。
【0035】
23成分は、ランタン系ガラスである本発明の光学ガラスにおいて、ガラス形成酸化物成分として欠かすことのできない成分である。しかし、過剰に含有させると化学的耐久性の悪化やガラスの着色のみならず、再加熱による乳白(分相及び失透発生)を招く、また少なすぎると所望の屈折率の実現が困難である。従って、好ましくは18%、より好ましくは18.5%、最も好ましくは19%を下限として含有することができ、好ましくは30%、より好ましくは29.5%、最も好ましくは29%を上限として含有することができる。
【0036】
23は、原料として例えばH3BO3、B23等を使用してガラス内に導入される。
【0037】
La23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに有効である。しかし、その含有率が少なすぎるとガラスの光学定数の値を前記特定範囲内に維持し難く、また、その含有率が多すぎると耐失透性が悪くなる。従って、光学ガラス全体に対して好ましくは1%、より好ましくは2%、最も好ましくは3を下限として含有することができ、好ましくは7%、より好ましくは6.5%、最も好ましくは6%を上限として含有することができる。
【0038】
La23は、原料として例えばLa23、硝酸ランタン又はその水和物等を使用してガラス内に導入される。
【0039】
ZnO成分は、熔解時のガラス粘性を低下させる効果がありガラスの溶融性を向上し、またガラスの軟化温度を低下させる効果もある。しかしその含有率が多すぎると耐失透性が悪くなる。したがって光学ガラス全体に対して好ましくは9%、より好ましくは9.5%、最も好ましくは10%を下限として含有することができ、好ましくは18%、より好ましくは17%、最も好ましくは16%を上限として含有することができる。
【0040】
またZnOは、原料として例えばZnO等を使用してガラス内に導入できる。
【0041】
BaOは、ガラスの光線透過率を高め、熔融中のガラスを安定化させ、光学恒数を維持させるうえでも最も重要な成分の1つである。しかし過剰に添加すると熔融性及び耐失透性を悪化させることになる。したがって光学ガラス全体に対して好ましくは18%、より好ましくは19%、最も好ましくは20%を下限として含有することができ、好ましくは32%、より好ましくは31%、最も好ましくは30%を上限として含有することができる。
【0042】
BaOは、原料として例えばBa(NO)、BaCO等を使用してガラス内に含有させる。
【0043】
本発明の光学ガラスにおいては、所望の光学恒数、すなわち屈折率(nd)を1.70〜1.74、かつアッベ数(νd)を44〜49に維持しつつ、良好な化学的耐久性及び着色度を兼ね備えるためにはSiO2、B23、La23、BaO及びZnOの合計物質量が、酸化物換算組成で90モル%以上、より好ましくは91モル%以上、最も好ましくは92モル%以上であることが好ましく、同時に光学ガラス中のLa23、BaO及びZnOの含有率の和に対するSiO2及びB23含有率の和の比が1.35以上かつ1.42未満、より好ましくは1.36〜1.42未満%、最も好ましくは1.37〜1.42未満である。
【0044】
本発明において、La23、BaO及びZnOの含有率の和に対するSiO2及びB23含有率の和の比と製造される光学ガラスの物性との因果関係は必ずしも明確ではない。しかし当該比を所定の範囲内に限定することにより、本発明において狭く限定された屈折率及びアッベ数を実現しつつ、着色度や耐水性等の所望の物性を有し、しかもその値が公知技術に対して極めて良好な値を示すことが今般見出されたことは驚くべき事実である。
【0045】
本発明において特に要求される「化学的耐久性」とは特に耐水性であり、具体的には、日本光学硝子工業会規格JOGIS06−1999「化学的耐久性の測定方法(粉末法)」により測定して、耐水性が1級であることが好ましい。
【0046】
本発明において特に要求される「着色度」とは所定の分光透過率を示す波長によって表される。具体的には日本光学硝子工業会規格JOGIS02−2003「光学ガラスの着色度の測定方法」により測定して、分光透過率80%を示す波長が400nm以下、好ましくは395nm以下、最も好ましくは390nm以下であり、及び/又は分光透過率5%を示す波長が350nm以下、より好ましくは345nm以下、最も好ましくは340nm以下であることが好ましい。
【0047】
酸化物換算組成におけるモル%で表されたガラス中のB23含有率に対するSiO2含有率の比は、本発明の光学ガラスの諸物性に大きく影響する要素であることが今般見出された。当該比と光学ガラスの諸物性との因果関係は必ずしも明確ではないが、恐らく当該成分の含有量の比を所定の範囲に限定することにより、特に着色度において、前記必須5成分の比の限定との相乗効果があるものと考える。当該比は、好ましくは1.40、より好ましくは1.45、最も好ましくは1.48を下限とし、好ましくは2.00、より好ましくは1.95、最も好ましくは1.90を上限とする。
【0048】
本発明の光学ガラスはリヒートプレス成形によってガラス成形品を製造する材料として使用することが想定される。この場合、光学ガラスの軟化温度が高いとプレス成形時に高い温度を必要とするため、熱処理炉の早期劣化をもたらし、安定生産に支障がある。このため、ガラス転移温度(Tg)が低いほど低温でリヒートプレス成形が可能であり、熱処理炉に対する負荷を低減できる。従ってガラス転移温度(Tg)は好ましくは650℃以下、より好ましくは640℃以下、最も好ましくは635℃以下である。
【0049】
ZrO2成分は、光学定数を調整し、耐失透性を改善し、化学的耐久性を向上させる効果があるため、本発明の光学ガラスにおいても適宜含有させることができる。しかし過剰に添加すると逆に耐失透性が悪くなるうえ、ガラス転移温度(Tg)を低く維持できなくなる。従って、好ましくは6%、より好ましくは5.5%、最も好ましくは5%を上限として任意に含有させることができる。
【0050】
TiO2成分は、光学定数を調整し、耐失透性を改善する効果があるため、本発明の光学ガラスにおいても適宜含有させることができる。しかし、過剰に添加すると耐失透性が悪くなる。従って、好ましくは4%、より好ましくは3.8%、最も好ましくは3.5%を上限として任意に含有することができる。
【0051】
O成分、すなわちLiO、NaO、KOは、ガラスの熔融性を良好にし、ガラスの軟化温度を低下させる効果があり、ガラス溶融時やリヒートプレス加工時の製造コストを低減できるので適宜使用できる。しかし、過剰に添加するとガラスの化学的耐久性を著しく低下させる傾向がある。従って、本発明の光学ガラスにおいては、好ましくは1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは0.3%を上限として任意に含有することができる。
【0052】
O成分はRCO、RNO等を使用して、光学ガラス中に添加することができる。
【0053】
CaOは光学恒数の調整及びガラスの化学的耐久性を向上させ、光線透過率を向上させる成分であり本発明の光学ガラス中に任意成分として含有させることができる。しかし過剰の添加はガラスの熔融性及び透過率を悪化させる。従って好ましくは3%、より好ましくは2%、最も好ましくは1%を上限とて含有させることができる。
【0054】
CaOは、原料として例えばCaCO等を使用してガラス内に含有させる。
【0055】
SrO及びMgOは、光学恒数の調整及びガラスの化学的耐久性を向上させるために有用な成分であり本発明の光学ガラス中に任意成分として導入できる。しかし過剰の添加はガラスの熔融性を悪化させる。従って、SrO、MgOはそれぞれ好ましくは3%、より好ましくは2%、最も好ましくは1%を上限として含有することができる。
【0056】
SrO及びMgOは、は、原料として例えばSr(NO、MgO、MgCO等を使用してガラスに含有させることができる。
【0057】
Sb23成分は、ガラス溶融時の脱泡のために任意に添加しうるが、その量が多すぎると可視光領域の短波長領域における透過率が悪くなる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対して0.5%、好ましくは0.4%、最も好ましくは0.2%を上限として含有できる。
【0058】
なお、上記ガラス中に存在する各成分を導入させるために使用される原料は、例示の目的で記載したものであり、上記列挙された酸化物、炭酸塩等に限定されるものではない。従って、ガラス製造の条件の諸変更に適宜対応させて、公知の材料から選択できる。
【0059】
次に、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない成分について説明する。
【0060】
Al23成分は、一般的に機械的強度や化学的耐久性の向上効果が得られるため、当業界において広く使用されている成分である。しかし、本発明の光学ガラスに含有させると、そのガラス転移点を著しく上げてしまうばかりでなく、耐失透性を急激に悪化させてしまう。従って含有しないことが好ましい。
【0061】
23成分は、一般的にガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに有効であり、当業界において広く使用されている成分である。しかし、本発明の光学ガラスに含有させると耐失透性を急激に悪化させてしまうため含有しないことが好ましい。
【0062】
Gd23成分は、一般的にガラスの屈折率を高め、低分散化させると共に耐失透性を向上させるのに有効である。しかし、本発明の光学ガラスに含有させると耐失透性を急激に悪化させてしまうのみならず製造コストが高くなる。従って含有しないことが好ましい。
【0063】
Yb23成分は、一般的にガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに有効である。しかし、本発明の光学ガラスに含有させると耐失透性を急激に悪化させてしまうため含有しないことが好ましい。
【0064】
GeO2成分は、一般的に屈折率を高め耐失透性向上させる効果を有する成分であるが、原料が非常に高価であるため製造コストが高くなる。従って含有しないことが好ましい。
【0065】
Nb25成分は、一般的にガラスの屈折率を高める効果があるが、本発明のガラス中に含有させると耐失透性が悪くなる。従って含有しないことが好ましい。
【0066】
Ta25成分は、屈折率を高め、化学的耐久性及び耐失透性を改善する効果がある。しかし、原料が非常に高価であるため製造コストが高くなる。従って含有しないことが好ましい。
【0067】
WO3成分は、本発明のガラス中に含有させると可視光領域の短波長域の光線透過率が悪くなる。従って含有しないことが好ましい。
【0068】
F成分は、プリフォームを成形する際にガラス表面からF成分が揮発し、プリフォームや金型に付着してレンズに不具合を生じさせる。また、揮発による屈折率の変動が大きいこと、化学的耐久性を劣化させやすいこと等の問題の為、レンズ又は光学素子の用途としては使用する場合、安定した生産に不向きである。従って、本発明の光学ガラスにおいてはF成分を含有しない。
【0069】
鉛化合物は、精密プレス成形時に金型と融着しやすい成分であるという問題並びにガラスの製造のみならず、研磨等のガラスの冷間加工及びガラスの廃棄に至るまで、環境対策上の措置が必要となり、環境負荷が大きい成分であるという問題があるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0070】
As23、カドミウム及びトリウムは、共に、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分であるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0071】
25は、本発明の光学ガラスに含有させると、耐失透性を悪化させやすいので含有させないことが好ましい。
【0072】
TeO2は、白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を溶融する際、テルルと白金が合金化し、合金となった箇所は耐熱性が悪くなるため、その箇所に穴が開き溶融ガラス流出する事故がおこる危険性が憂慮されるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0073】
さらに本発明の光学ガラスにおいては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Eu、Nd、Sm、Tb、Dy、Er等の着色成分は、含有しないことが好ましい。ただし、ここでいう含有しないとは、不純物として混入される場合を除き、人為的に含有させないことを意味する。
【0074】
また、本発明のガラス組成物は、その組成がモル%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、概ね以下の値をとる。
SiO 17〜22%
12〜17%
La 15〜20%
BaO 28〜33%
ZnO 7〜12%及び
ZrO 0〜5%、及び/又は
TiO 0〜4%未満、及び/又は
O(R=Li、Na、K) 0〜1%、及び/又は
CaO 0〜2%、及び/又は
SrO 0〜2%、及び/又は
MgO 0〜2%、及び/又は
Sb 0〜0.5%
【0075】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。



【0076】
【表1】

【0077】
表1に示した本発明の実施例の光学ガラス(No.1〜No.5)及び比較例1〜4の光学ガラスについて、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の通常の光学ガラス用原料を、酸化物換算組成で表1に示した各実施例の組成の割合となるように秤量し、混合し、白金るつぼに投入し、組成による熔融性に応じて、1100〜1300℃で、3〜5時間溶融、清澄、攪拌して均質化した後、金型等に鋳込み徐冷することにより得た。
【0078】
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は徐冷降温速度を−25℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
【0079】
ガラス転移温度(Tg)は日本光学硝子工業会規格JOGIS08−2003(光学ガラスの熱膨張の測定方法)に記載された方法により測定した。ただし試験片として長さ50mm、直径4mmの試料を使用した。
【0080】
着色度の評価は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02−2003「光学ガラスの着色度の測定方法」により行った。当該規格中に記載されるように、着色度は透過率80%及び5%を示す波長をそれぞれ整数第1位を四捨五入し10nmを単位として表示したものである。例えば透過率80%の波長が400nmで透過率5%の波長が360nmの場合には40/36のように表示した。
【0081】
耐水性の評価は、日本光学硝子工業会規格JOGIS06−1999「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)」により行い、それぞれを級で表示した。
【0082】
表1より、実施例1、3、5の光学ガラスは、所定の範囲内のSiO+B+LA+BaO+ZnO及び/又は(SiO+B)/(LA+BaO+ZnO)値を有するため、着色度及び/又は耐水性に優れた光学ガラスが得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
屈折率(nd)が1.70〜1.74、アッベ数(νd)が44〜49であり、良好な着色度及び耐水性を兼ね備えており、生産性に優れかつ撮影系のレンズとして優れている。
【0084】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2、B23、La23、BaO及びZnOを必須成分として含有し、前記各成分の含有率の総和が酸化物換算組成におけるモル%で表して90%以上であって、光学ガラス中のLa23、BaO及びZnOの含有率の和に対するSiO2及びB23含有率の和の比が1.35以上かつ1.42未満である光学ガラス。
【請求項2】
酸化物換算組成におけるモル%で表されたガラス中のB23含有率に対するSiO2含有率の比が1.40〜2.00である請求項1の光学ガラス。
【請求項3】
光学ガラス中のSiO2含有率が酸化物換算組成におけるモル%で表して30〜45%であり、かつB23含有率が18〜30%である請求項1又は2の光学ガラス。
【請求項4】
光学ガラス中のLa含有率が酸化物換算組成におけるモル%で表して1〜7%であり、かつBaOの含有率が18〜32%であり、ZnO含有率が9〜18%である請求項1〜3のいずれか1項の光学ガラス。
【請求項5】
屈折率(nd)が1.70〜1.74、かつアッベ数(νd)が44〜49である請求項1〜4のいずれか1項の光学ガラス。
【請求項6】
ガラス転移点(Tg)が650℃未満である請求項1〜5のいずれか1項の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物換算組成におけるモル%で表して
ZrO 0〜6%、及び/又は
TiO 0〜4%未満、及び/又は
O(R=Li、Na、K) 0〜1%、及び/又は
CaO 0〜3%、及び/又は
SrO 0〜3%、及び/又は
MgO 0〜3%、及び/又は
Sb 0〜0.5%
の各成分を含有し、かつAlを含有しない請求項1〜6のいずれか1項の光学ガラス。
【請求項8】
日本光学硝子工業会規格JOGIS02−2003「光学ガラスの着色度の測定方法」により測定して、分光透過率80%を示す波長が400nm以下であり、かつ分光透過率5%を示す波長が350nm以下である請求項1〜7のいずれか1項の光学ガラス。
【請求項9】
日本光学硝子工業会規格JOGIS06−1999「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)」により測定して、耐水性が1級である請求項1〜8のいずれか1項の光学ガラス
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項の光学ガラスからなるレンズプリフォーム材。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項の光学ガラスからなる光学部品。





【公開番号】特開2006−36595(P2006−36595A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219789(P2004−219789)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】