説明

光学ガラス

【課題】屈折率(nd)が1.50〜1.65未満、アッベ数(νd)が40〜60の範囲の光学定数を有し、化学的耐久性、溶融性、耐失透性に優れた光学ガラスを提供する。
【解決手段】
屈折率(nd)が1.50〜1.65未満、アッベ数(νd)が40〜60の範囲の光学定数を有し、質量%で、NaO+KOが8%以上、かつKO/NaO比が1.2以上で、BaO+CaOが25%以下であることを特徴とする光学ガラス。質量%でNaOが2%以上かつBaO/CaOが0.6以上、KO/NaOが1.2以上であることを特徴とする前記記載光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は屈折率(nd)が1.50〜1.65未満、アッベ数(νd)が40〜60の範囲の光学定数を示し、優れた溶融性、耐失透性、化学的耐久性を有する光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器をはじめ、各種光学機器に用いられるレンズ等の光学素子に対する高精度化、軽量、及び小型化の要求は、ますます強まっている。
屈折率(nd)が1.50〜1.65未満、アッベ数(νd)が40〜60のいわゆる中屈折率ガラスも依然として大きな需要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特開昭59−169953には屈折率が1.57〜1.62、アッベ数が50〜62の光学ガラスが記載されている。しかし、この公報に記載の光学ガラスは有害性の強いPbOやAsを含んでいる。また、特開平6−107426には屈折率が1.50〜1.65、アッベ数が44〜60の光学ガラスが記載されている。しかし、この公報に記載の光学ガラスはKOが8%以下、かつCaOが17%以上であり、耐失透性、化学的耐久性の面で後述の本願発明における所望の特性を十分に満たすものではない。
【特許文献1】特開昭59−169953号公報
【特許文献2】特開平06−107426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、前記従来技術に記載した光学ガラスに見られる諸欠点を総合的に解消し、前記の光学定数を有し、優れた溶融性、耐失透性、化学的耐久性を有する光学ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、特定量のSiO2、B23、TiO2、CaO、BaO、B23、NaO、KOを含有させることにより、前記の光学定数を有し、有毒性の強い物質を含まない光学ガラスを作成しうることを見出した。さらに本発明者は、前記組成系において、CaO及びBaO、並びにNaO及びKOを所定量含有し、さらに所定の比率で含有させることにより、所望の光学定数を維持しつつ優れた溶融性、耐失透性、化学的耐久性を実現できることを見出した。
【0006】
本発明の第1の構成は、屈折率(nd)が1.50〜1.65未満、アッベ数(νd)が40〜60の範囲の光学定数を有し、質量%でNaO+KOが8%以上、かつKO/NaO比が1.2以上で、BaO+CaOが25%以下であることを特徴とする光学ガラス
【0007】
本発明の第2の構成は、質量%でKOが8%以上であることを特徴とする前記構成1の光学ガラスである。
【0008】
本発明の第3の構成は、質量%でNaOが2%以上かつBaO/CaOが0.6以上、KO/NaOが1.2以上であることを特徴とする前記構成1〜2いずれかの光学ガラスである。
【0009】
本発明の第4の構成は、質量%で、
SiO2 45〜60%、
TiO2 0〜15%、
CaO 0〜22%、
BaO 0〜22%
23 0〜16%及び/又は、
Al23 0〜6%及び/又は、
NaO 0〜20%及び/又は
O 0〜20%及び/又は、及び
Sb23 0〜1%及び/又は
Li2O 0〜5%
の各成分を含有することを特徴とする光学ガラスである。
【0010】
本発明の第5の構成は、質量%で、
SiO2 45〜60%、
TiO2 0〜15%、
CaO 0〜22%、
BaO 0〜22%
23 0〜16%及び/又は、
Al23 0〜6%及び/又は、
NaO 0〜20%及び/又は
O 0〜20%及び/又は、及び
Sb23 0〜1%及び/又は
Li2O 0〜5%
の各成分を含有することを特徴とする前記構成1〜3いずれかの光学ガラスである。
【0011】
本発明の第6の構成は、質量%で、
GeO2 0〜5%及び/又は
Nb25 0〜15%、及び
Ta25 0〜15%
ZrO2 0〜15%及び/又は
WO3 0〜15%及び/又は
La23 0〜10%及び/又は、
Gd23 0〜15%及び/又は
23 0〜15%及び/又は
Yb23 0〜15%及び/又は
MgO 0〜22%及び/又は
ZnO 0〜10%及び/又は
SrO 0〜10%及び/又は
TeO 0〜5%及び/又は
Ga 0〜1%
の各成分を含有することを特徴とする前記構成1〜5いずれかの光学ガラスである。
【0012】
本発明の第7の構成は、前記構成1〜6いずれかの光学ガラスからなるレンズプリフォーム材である。
【0013】
本発明の第8の構成は前記構成7のレンズプリフォーム材を精密プレス成形してなる光学素子である
【0014】
本発明の第9の構成は前記構成1〜6いずれかの光学ガラスからなる光学素子である
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の光学ガラスの各成分について説明する。以下、特に断らない限り各成分の含有率は酸化物基準の質量%を意味する。
なお、本明細書中において「酸化物基準の質量%」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0016】
SiO2成分は、本発明の光学ガラスにおいて、ガラスの粘度を高め、耐失透性および化学的耐久性を向上させるのに有効なであり欠かすことできない成分である。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性、溶融性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは45%、より好ましくは47%、最も好ましくは48.5%を下限として含有することができ、好ましくは60%、より好ましくは56%、最も好ましくは53%を上限として含有することができる。
【0017】
SiOは、原料として例えばSiO等を使用してガラス内に導入される。
【0018】
23成分は、ガラスの溶融性及び耐失透性を向上させるのに有効な成分である。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性および化学的耐久性が悪くなりやすい。従って、好ましくは16%、より好ましくは11%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0019】
23は、原料として例えばH3BO3、B23等を使用してガラス内に導入される。
【0020】
Al23成分は、化学的耐久性の改善に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは6%、より好ましくは5%、最も好ましくは4.5%を上限として含有することができる。
【0021】
またAl23は、原料として例えばAl23、Al(OH)3等を使用してガラス内に導入される。
【0022】
TiO成分は、光学定数を調整し、耐失透性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると可視光短波長域の透過率が悪化しやすくなると共に耐失透性が悪くなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは14%、最も好ましくは13%を上限として含有することができる。
【0023】
TiO2は、原料として例えばTiO2等を使用してガラス内に導入される。
【0024】
CaO成分は光学定数の調整および化学的耐久性を改善するのに有効な成分である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは22%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0025】
CaO成分は、原料として例えばCaOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0026】
BaO成分は光学定数を調整し耐失透性を改善する効果がある成分である。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性および化学的耐久性が悪くなりやすい。従って、好ましくは22%、より好ましくは17.5%、最も好ましくは17%を上限として含有することができる。
【0027】
BaO成分は、原料として例えばBaOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0028】
Na2O成分は、ガラス転移温度(Tg)を下げ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは13%、最も好ましくは6%を上限として含有することができる。
【0029】
またNa2Oは、原料として例えばNa2Oまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0030】
2O成分は、ガラス転移温度(Tg)を下げ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは17%、最も好ましくは14%を上限として含有することができる。
【0031】
またK2Oは、原料として例えばK2Oまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0032】
Sb23成分は、ガラス溶融時の脱泡のために任意に添加しうるが、その量が多すぎると可視光領域の短波長領域における透過率が悪化しやすくなる。従って、好ましくは1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは0.3%を上限として含有できる。
【0033】
Li2O成分は、ガラス転移温度(Tg)を大幅に下げ、かつ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満、最も好ましくは0.1%未満を上限として含有することができる。
【0034】
またLi2Oは、原料として例えばLi2Oまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0035】
GeO2成分は、屈折率を高め、耐失透性を向上させる効果を有する成分であるが原料が非常に高価であるため、好ましくは5%、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限として含有することができる。
【0036】
またGeO2は、原料として例えばGeO2等を使用してガラス内に導入される。
【0037】
Nb25成分は、屈折率を高め、化学的耐久性及び耐失透性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなりやすく、可視光短波長域の透過率も悪化することがある。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0038】
またNb25は、原料として例えばNb25等を使用してガラス内に導入される。
【0039】
Ta25成分は、屈折率を高め、化学的耐久性及び耐失透性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0040】
またTa25は、原料として例えばTa25等を使用してガラス内に導入される。
【0041】
ZrO2成分は、光学定数を調整し、耐失透性を改善し、化学的耐久性を向上させる効果がある。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0042】
またZrO2は、原料として例えばZrO2等を使用してガラス内に導入される。
【0043】
WO3成分は、光学定数を調整し、耐失透性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性や可視光領域の短波長域の光線透過率が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0044】
またWO3は、原料として例えばWO3等を使用してガラス内に導入される。
【0045】
La23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに有効な成分である。しかし、その量が多すぎるとガラスの光学定数の値を前記範囲内に維持し難く、耐失透性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは10%、より好ましくは6%、最も好ましくは3%を上限として含有することができる。
【0046】
La23は、原料として例えばLa23、硝酸ランタン又はその水和物等を使用してガラス内に導入される。
【0047】
Gd23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0048】
またGd23は、原料として例えばGd23等を使用してガラス内に導入される。
【0049】
23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0050】
23は、原料として例えばY23等を使用してガラス内に導入される。
【0051】
Yb23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性および化学的耐久性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%未満を上限として含有することができる。
【0052】
またYb23は、原料として例えばYb23等を使用してガラス内に導入される。
【0053】
MgO成分は光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなることがある。従って、好ましくは22%、より好ましくは15%、最も好ましくは8%未満を上限として含有することができる。
【0054】
またMgOは、原料として例えばMgOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0055】
ZnO成分は、ガラス転移温度(Tg)を低くし、化学的耐久性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは6.5%を上限として含有することができる。
【0056】
またZnOは、原料として例えばZnO等を使用してガラス内に導入できる。
【0057】
SrO成分は光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0058】
SrO成分は、原料として例えばSrOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0059】
TeO成分は、屈折率を高める効果を有する成分であるが、白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を溶融する際、テルルと白金が合金化し、合金となった箇所は耐熱性が悪くなるため、その箇所に穴が開き、溶融ガラスが流出する事故が起こる危険性が憂慮される。従って、好ましくは5%を上限とし、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限として含有できる。
【0060】
またTeOは、原料として例えばTeO等を使用してガラス内に導入される。
【0061】
Ga成分は、屈折率を高める効果を有する成分であるが、原料が非常に高価であるため、好ましくは1%を上限とし、より好ましくは0.5%、最も好ましくは0.1%を上限として含有できる。
【0062】
またGaは、原料として例えばGa等を使用してガラス内に導入される。
【0063】
なお、上記ガラス中に存在する各成分を導入させるために使用される原料は、例示の目的で記載したものであり、上記列挙された酸化物等に限定されるものではない。従って、ガラス製造の条件の諸変更に適宜対応させて、公知の原料から選択できる。
【0064】
本発明者は、前記範囲内の光学定数において、NaO成分とKO成分の合計含有量、NaOとKOの成分比およびCaO成分とBaO成分の合計含有量を所定の値に調節することにより、ガラスの溶融性を保ちながら、化学的耐久性が向上することを見出した。すなわちKO+NaOの値を好ましくは8%、より好ましくは11%、最も好ましくは14%を下限に含有することができ、かつKO/NaOの値を好ましくは1.2、より好ましくは1.8%、最も好ましくは2.3%を下限に含有することができ、CaO+BaOが成分を好ましくは25%、より好ましくは23%、最も好ましくは21%を上限に含有することができる。
【0065】
本発明者は、前記範囲内の光学定数において、KO成分の含有量、CaO成分とBaO成分の合計含有量を所定の値に調節することにより化学的耐久性を悪化させることなく耐失透性が向上することを見出した。すなわちKO成分を好ましくは8%、より好ましくは9%、最も好ましくは10%を下限に含有することができ、BaO+CaOを、好ましくは25%、より好ましくは23%、最も好ましくは21%を上限として含有することができる。
【0066】
本発明者は、前記範囲内の光学定数において、NaO成分量とBaO/CaOの成分比、KO/NaOの成分比を所定の値に調節することにより溶融性、耐失透性、化学的耐久性それぞれに富んだガラスが得られることを見出した。すなわちNaO成分を好ましくは2%、より好ましくは3%、最も好ましくは3.5%を下限として含有することができ、BaO/CaOの値が好ましくは0.6、より好ましくは1.0、最も好ましくは1.4を下限として含有することができ、さらにKO/NaOの値が好ましくは1.2、より好ましくは1.8、最も好ましくは2.3を下限として含有することができる。
【0067】
さらに、所望の光学定数を維持し、より生産性に富んだガラスを得るためには、KO、CaO、NaO、BaO+CaO、BaO/CaO、KO/NaOの値を同時に上記所定の好ましい範囲内にするほうがよい。
【0068】
Lu23、SnO2、BeOの各成分は含有させることは可能であるが、Lu23、Hf23は高額原料であるため原料コストが高くなり実際の製造においては現実的ではなく、SnO2は白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を溶融する際に錫と白金が合金化して合金となった箇所は耐熱性が悪くなり、その箇所に穴が開き溶融ガラス流出する事故がおこる危険性が憂慮され、BeOは、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分である、という問題がある。従って、好ましくは0.1%未満、より好ましくは0.05%を上限として含有され、最も好ましくは含有しない。
次に、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない成分について説明する。
【0069】
鉛化合物は、精密プレス成形時に金型と融着しやすい成分であるという問題並びにガラスの製造のみならず、研磨等のガラスの冷間加工及びガラスの廃棄に至るまで、環境対策上の措置が必要となり、環境負荷が大きい成分であるという問題があるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0070】
As23、カドミウム及びトリウムは、共に、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分であるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0071】
さらに本発明の光学ガラスにおいては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Eu、Nd、Sm、Tb、Dy、Er等の着色成分は、含有しないことが好ましい。ただし、ここでいう含有しないとは、不純物として混入される場合を除き、人為的に含有させないことを意味する。
【0072】
また、本発明のガラス組成物は、その組成が質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
SiO2 50〜70%、
TiO2 0〜20%、
CaO 0〜22%、
BaO 0〜10%
23 0〜20%及び/又は、
Al23 0〜5%及び/又は、
NaO 0〜20%及び/又は
O 0〜20%及び/又は、及び
Sb23 0〜1%
Li2O 0〜7%
並びに
GeO2 0〜5%及び/又は
Nb25 0〜15%、及び
Ta25 0〜15%
ZrO2 0〜15%及び/又は
WO3 0〜15%及び/又は
La23 0〜10%及び/又は、
Gd23 0〜15%及び/又は
23 0〜15%及び/又は
Yb23 0〜15%及び/又は
MgO 0〜22%及び/又は
ZnO 0〜10%及び/又は
SrO 0〜10%及び/又は
TeO 0〜5%及び/又は
Ga 0〜1%
【0073】
SiO2成分は、本発明の光学ガラスにおいて、ガラスの粘度を高め、耐失透性および化学的耐久性を向上させるのに有効なであり欠かすことできない成分である。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性、溶融性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは50%、より好ましくは54%、最も好ましくは58%を下限として含有することができ、好ましくは70%、より好ましくは67%、最も好ましくは64%を上限として含有することができる。
【0074】
23成分は、ガラスの溶融性及び耐失透性を向上させるのに有効な成分である。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性および化学的耐久性が悪くなりやすい。従って、好ましくは20%、より好ましくは11%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0075】
Al23成分は、化学的耐久性の改善に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは5%、より好ましくは4%、最も好ましくは3%を上限として含有することができる。
【0076】
TiO成分は、光学定数を調整し、耐失透性を改善する効果があり欠かすことできない成分である。しかし、その量が少なすぎるとその効果が不十分となりやすく、多すぎると可視光短波長域の透過率が悪化しやすくなる。従って、好ましくは0.5%、より好ましくは1%、最も好ましくは5%を下限として含有することができ、好ましくは20%、より好ましくは14%、最も好ましくは11%を上限として含有することができる。
【0077】
CaO成分は光学定数の調整および化学的耐久性を改善するのに有効であり欠かすことできない成分である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは0.5%、より好ましくは1%、最も好ましくは5%を下限として含有することができ、好ましくは22%、より好ましくは14%、最も好ましくは6%を上限として含有することができる。
【0078】
BaO成分は光学定数を調整し耐失透性を改善する効果があり欠かすことできない成分である。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性および化学的耐久性が悪くなりやすい。従って、好ましくは3%、より好ましくは2%、最も好ましくは1%を下限として含有することができ、好ましくは10%、より好ましくは8.5%、最も好ましくは8%を上限として含有することができる。
【0079】
Na2O成分は、ガラス転移温度(Tg)を下げ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは14%、最も好ましくは7%を上限として含有することができる。なお、Na2O成分は任意成分であり、含有しなくとも本発明のガラスを製造することは可能であるが、前記効果を発揮させやすくするためにも、好ましくは0%を超え、より好ましくは1%、最も好ましくは4%を下限とする。
【0080】
2O成分は、ガラス転移温度(Tg)を下げ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限として含有することができる。なお、K2O成分は任意成分であり、含有しなくとも本発明のガラスを製造することは可能であるが、前記効果を発揮させやすくするためにも、好ましくは0%を超え、より好ましくは4%、最も好ましくは8%を下限とする。
【0081】
Sb23成分は、ガラス溶融時の脱泡のために任意に添加しうるが、その量が多すぎると可視光領域の短波長領域における透過率が悪化しやすくなる。従って、好ましくは0.2%、より好ましくは0.1%、最も好ましくは0.05%を上限として含有できる。
【0082】
Li2O成分は、ガラス転移温度(Tg)を下げ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、好ましくは7%、より好ましくは6%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。なお、Li2O成分は任意成分であり、含有しなくとも本発明のガラスを製造することは可能である。またLi2Oは、原料として例えばLi2Oまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0083】
GeO2成分は、屈折率を高め、耐失透性を向上させる効果を有する成分であるが原料が非常に高価であるため、好ましくは5%、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限として含有することができる。
【0084】
Nb25成分は、屈折率を高め、化学的耐久性及び耐失透性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなりやすく、可視光短波長域の透過率も悪化することがある。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0085】
Ta25成分は、屈折率を高め、化学的耐久性及び耐失透性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0086】
ZrO2成分は、光学定数を調整し、耐失透性を改善し、化学的耐久性を向上させる効果がある。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0087】
WO3成分は、光学定数を調整し、耐失透性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性や可視光領域の短波長域の光線透過率が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0088】
La23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに有効な成分である。しかし、その量が多すぎるとガラスの光学定数の値を前記範囲内に維持し難く、耐失透性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは10%、より好ましくは6%、最も好ましくは3%を下限として含有することができる。
【0089】
Gd23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0090】
23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0091】
Yb23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性および化学的耐久性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%未満を上限として含有することができる。
【0092】
MgO成分は光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなることがある。従って、好ましくは22%、より好ましくは15%、最も好ましくは8%未満を上限として含有することができる。
【0093】
ZnO成分は、ガラス転移温度(Tg)を低くし、化学的耐久性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは6.5%を上限として含有することができる。
【0094】
SrO成分は光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなりやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0095】
TeO成分は、屈折率を高める効果を有する成分であるが、白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を溶融する際、テルルと白金が合金化し、合金となった箇所は耐熱性が悪くなるため、その箇所に穴が開き、溶融ガラスが流出する事故が起こる危険性が憂慮される。従って、好ましくは5%を上限とし、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限として含有できる。
【0096】
Ga成分は、屈折率を高める効果を有する成分であるが、原料が非常に高価であるため、好ましくは1%を上限とし、より好ましくは0.5%、最も好ましくは0.1%を上限として含有できる。
【0097】
次に本発明の光学ガラスの物性について説明する。
【0098】
前述のとおり、本発明の光学ガラスは光学設計上の有用性の観点から、好ましくは屈折率(nd)が1.50〜1.65かつアッベ数(νd)が40〜60の範囲の光学定数を有し、より好ましくは屈折率(nd)が1.56〜1.62かつアッベ数(νd)が41〜53の範囲の光学定数を有し、最も好ましくは屈折率(nd)が1.58〜1.61かつアッベ数(νd)が43〜47の範囲の光学定数を有する。
【0099】
本発明の光学ガラスは精密プレス成形用のプリフォーム材としても使用することができる。プリフォーム材として使用する場合、その製造方法及び精密プレス成形方法は特に限定されるものではなく、公知の製造方法及び成形方法を使用することができる。例えば、熔融ガラスから直接プリフォーム材を製造することもでき、また板状に成形されたガラスを冷間加工して製造しても良い。
【0100】
本発明の光学ガラスは洗浄性の観点から、耐酸性(SR)値が1であることが望ましい
【0101】
本発明の光学ガラスを成形することにより得られる光学素子はカメラ、ビデオ用のレンズ、顕微鏡や望遠鏡用のレンズなどに使用できることはもちろんであるが、その用途は限定されない。
【実施例】
【0102】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0103】
本発明のガラスの実施例(No.1〜8)の組成を、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)および耐酸性(SR)値と共に表1に示す。表中、各成分の組成は質量%で表示するものとする。
【0104】
また、比較例のガラス(No.AおよびB)の組成を、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)および耐酸性(SR)値と共に表2に示す。
【0105】
【表1】












【0106】
【表2】

【0107】
表1に示した本発明の実施例の光学ガラス(No.1〜8)は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の通常の光学ガラス用原料を表1に示した各実施例の組成の割合となるように秤量し、混合し、白金るつぼに投入し、組成による溶融性に応じて、1100〜1350℃で、2〜5時間溶融、清澄、攪拌して均質化した後、金型等に鋳込み徐冷することにより得ることができた。
【0108】
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は徐冷降温速度を−25℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
【0109】
耐酸性(SR)値はISO―8424:1987(E)の測定方法に準拠して測定したものである。
【0110】
表1に見られる通り、本発明の実施例の光学ガラスは前記範囲内の光学定数(屈折率(nd)及びアッベ数(νd))を有し、質量%で、NaO+KOが8%以上、かつKO/NaO比が1.2以上で、BaO+CaOが25%以下、KOが8%以上、NaOが2%以上かつBaO/CaOが0.6以上、KO/NaOが1.2以上である。従って耐酸性(SR)値が1であり化学的耐久性に優れ、また耐失透性、溶融性に優れる。
【0111】
これに対し、表2に示す組成の比較例AおよびBの各試料について、上記実施例と同じ条件にてガラスを作製し、同一の評価方法により、作製したガラスを評価した。比較例AおよびBに見られる通り、NaO+KOが8%以下、かつKO/NaO比が1.2以下で、BaO+CaOが25%以上、KOが8%以下であるため耐酸性(SR)値が5であり化学的耐久性に劣り、また耐失透性に問題があるので工業的には使用できない。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上、述べたとおり、本発明の光学ガラスは、組成がSiO−TiO−CaO−BaO−NaOおよび/またはKO系ガラスであり、かつ、鉛成分、ヒ素成分を含まないガラスであって、屈折率(nd)が1.50〜1.65未満、アッベ数(νd)が40〜60の範囲の光学定数を有し、耐酸性(SR)値が1であり化学的耐久性に優れ、さらに溶融性、耐失透性も良好であり量産性に優れるので産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率(nd)が1.50〜1.65未満、アッベ数(νd)が40〜60の範囲の光学定数を有し、質量%でNaO+KOが8%以上、かつKO/NaO比が1.2以上で、BaO+CaOが25%以下であることを特徴とする光学ガラス
【請求項2】
質量%でKOが8%以上であることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量%でNaOが2%以上かつBaO/CaOが0.6以上、KO/NaOが1.2以上であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量%で、
SiO2 45〜60%、
TiO2 0〜15%、
CaO 0〜22%、
BaO 0〜22%
23 0〜16%及び/又は、
Al23 0〜6%及び/又は、
NaO 0〜20%及び/又は
O 0〜20%及び/又は、及び
Sb23 0〜1%及び/又は
Li2O 0〜5%
の各成分を含有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項5】
質量%で、
SiO2 45〜60%、
TiO2 0〜15%、
CaO 0〜22%、
BaO 0〜22%
23 0〜16%及び/又は、
Al23 0〜6%及び/又は、
NaO 0〜20%及び/又は
O 0〜20%及び/又は、及び
Sb23 0〜1%及び/又は
Li2O 0〜5%
の各成分を含有することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
質量%で、
GeO2 0〜5%及び/又は
Nb25 0〜15%、及び
Ta25 0〜15%
ZrO2 0〜15%及び/又は
WO3 0〜15%及び/又は
La23 0〜10%及び/又は、
Gd23 0〜15%及び/又は
23 0〜15%及び/又は
Yb23 0〜15%及び/又は
MgO 0〜22%及び/又は
ZnO 0〜10%及び/又は
SrO 0〜10%及び/又は
TeO 0〜5%及び/又は
Ga 0〜1%
の各成分を含有することを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項の光学ガラスからなるレンズプリフォーム材。
【請求項8】
請求項7のレンズプリフォーム材を精密プレス成形してなる光学素子
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項の光学ガラスからなる光学素子

【公開番号】特開2010−202417(P2010−202417A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46341(P2009−46341)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】