説明

光学ガラス

【課題】画像、映写、センサ、鏡検法、医療技術、デジタル映写、フォトリソグラフィー、レーザ技術、ウェハー/チップ技術の応用分野や電気通信、光通信技術、自動車部門のオプチクス/照明用に適し、良好な耐薬品性、優れた結晶化安定性、屈折率1.83≦n≦1.95、アッベ数24≦ν≦35を有し、好適には鉛−及びヒ素−フリーの光学ガラスを提供する。
【解決手段】光学ガラスは、酸化物基準の質量%で組成:SiO:2〜8、B:15〜22、La:35〜42、ZnO:10〜18、TiO:9〜15、ZrO:3〜10、Nb:4〜10、WO>0.5〜3を有する。GeO、AgO、BaOを各最大5質量%、慣用の清澄剤、(Al、MgO、CaO、SrO、P)を合計5質量%以下、F、Taを合計5質量%以下含有できる。好適にはアルカリ金属酸化物、Bi、Y、Gd、Ybを含有しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、そのようなガラスの使用、光学素子もしくはそのような光学素子のプリフォーム(予備成形物)、そのような光学素子の製造方法及びそのような光学素子を含む光学部材又は光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
画像、センサー、鏡検法、医療技術、デジタル映写、フォトリソグラフィー、レーザー技術、ウェハー/チップ技術の応用分野や、電気通信、光通信技術及び自動車部門でのオプチクス/照明用の、本明細書にクレームされているような光学ポジションを有する従来の光学ガラス(低いアッベ数を有するランタンハードフリント範囲)は、所望の光学特性、即ち1.83≦n≦1.95の屈折率n及び/又は24≦ν≦35のアッベ数νを達成するために、しかし特に高い分散、即ち低いアッベ数のために、一般にPbOを含有する。これにより、これらのガラスの化学的安定性が悪くなる。さらに、清澄剤としてAsがしばしば用いられている。近年、ガラス成分PbO及びAsは環境的によくないとみなされているため、光学機器や製品の製造業者の殆どは、鉛フリー及びヒ素フリーのガラスを好んで用いる傾向がある。高価格領域の製品に用いるためには、化学的安定性が向上したガラスもまたコンスタントに重要性を増している。
【0003】
高い屈折率と低いアッベ数を有するランタンハードフリントポジションの公知の鉛フリーのガラスは、一般に珪酸塩マトリックス(母材)中に多量のTiOを含有しており、これにより、非常に結晶化しやすいガラスとなり、従ってしばしば二次熱間成形工程で加工できなくなり、また、高い硬度のために機械的に加工することが非常に困難になる。さらに、そのようなガラスは「青色端」での透過率が悪くなる。
【0004】
従来のブロック状もしくはインゴット状のガラスからの光学部品の慣用的な機械加工に代えて、直接プレスによる製造方法、即ちブランク・プレスされた、できるだけ最終形状に近い再プレス用の光学部品及び/又はプリフォーム、所謂「精密ゴブ」、をガラス溶融の最終段階で直接得ることができる製造方法が、最近ますます重要になってきている。「精密ゴブ」は、一般に、各種製造方法により得ることができる、好ましくは完全に火炎磨きされたセミフリー又はフリー・フォーミングされたガラス部分を意味する。
【0005】
このために、「ショート」ガラス、即ち温度と共に粘度が著しく変わるガラスに対する要望が、最近、溶融及び熱間成形プロセス技術の面からますます強くなっていると報告されている。この挙動は、最終幾何形状に近い精密熱間成形において、熱間成形時間、従って金型閉鎖時間を短縮できるという加工上の利点を有する。このようにして、一方では、処理量を増大でき、他方では、それにより金型材料が節約され、これらは全体の製造コストに非常に良い影響を有する。さらに、それにより得られるより急速な固化のために、相応してよりロングなガラスの場合におけるよりも結晶化傾向の強いガラスも加工でき、後の二次熱間成形段階で問題を生じ得る予備核形成が回避され、あるいは少なくとも著しく低減される。
【0006】
この光学ポジションを有するガラスは、最近、しばしばBiを用いて生産されてきた。しかしながら、これらのガラスは、溶解装置内での酸化還元条件に非常に敏感であるという重要な加工技術上の不利益を示し、好ましくない酸化還元条件下では、BiOの形成により透過率減少の危険性があり、従って加工技術上の意識を高める必要がある。
【0007】
本発明に関連する先行技術は、後述する先行技術文献(特許文献1〜11)にまとめられている。これらの特許文献によれば、ガラスは、同様の光学ポジション及び/又は比肩しえる化学組成で生産することができる。しかし、これらのガラスは、本発明に係るガラスに比べて著しい不利益を示す。
【0008】
ドイツ特許DE 3 343 418C2(特許文献1)には、高々13質量%だけの酸化ホウ素含有量を有するランタンホウ酸塩ガラスについて記載されている。ガラスは、さらに、常に酸化イットリウムを含有する(10質量%以下)。これは、同様に必須の酸化タンタル及び酸化イッテルビウム物の合計含有量(Ta+Yb)>9質量%に加えて、所望の光学ポジションを調節するために使用される。しかしながら、成分YとYbを使用するという不利益は、上記明細書に500〜2400nm(25mmのサンプル厚さ)の範囲にわたって一定に残存する70〜81%の純粋な透過率と記載されているように、それらの吸収にある。そのような不充分な透過率は、現代のガラスにはもはや受け入れられ得ないし、また、トータルコストもこれらの成分によって著しく増大する。
【0009】
ドイツ特許DE 2 265 703C2(特許文献2)には、少なくとも24質量%のホウ素含有量を有するガラスについて記載されている。ここでもさらに、Gd(50質量%以下)に応じて不充分な透過率の問題が同様に生じる。この先行技術に記載されたガラスは、本発明に係るガラスの高い屈折率の一端のみを達成する。
【0010】
ドイツ特許出願公開DE 2 756 161A1(特許文献3)には、同様に必須的にGdを含有するガラスが記載され、ドイツ特許DE 2 652 747B2(特許文献4)にはYを含有するガラスが記載されており、純粋な透過率及びトータルコストについて対応する不利益を有する。これらの明細書に記載されたガラスは、さらに、TiO含有量があまりにも低く、ZnO含有量(DE 2 756 161A1)又はGeO含有量(DE 2 652 747B2)に関する割合を満足していない。
【0011】
特開2003−238198号公報(特許文献5)には、より適度な光学ポジション(n<1.8;ν>35)を有するフッ化物含有ランタンホウ酸塩ガラスが記載されており、これは9〜15質量%のフッ素含有量を有している。本発明に係るガラスのより顕著な光学ポジションは、フッ化物を含有するランタンホウ酸塩ガラス組成によって達成することはできない。さらに、フッ化物を含有する原料の使用は、フッ化物を含有する原料及び成分自体の両方の高い揮発性が、溶解プロファイル/タンク移送の再生産及び安定をより困難にするアトマイズ化と蒸発の問題に加えて、チャージ調製及び溶解プロセスでの業務安全性に関しての支出及びコストの増大をもたらすという、著しい加工技術の不利益を被る。これらの理由のために、フッ化物の使用は、屈折率ポジションの微細調節のための僅かな含有量(高々5質量%)を除いて、本発明に係るガラスでは本質的に回避される。
【0012】
米国特許出願公開2004/0220041A1(特許文献6)は、13〜30質量%の酸化バリウム含有量を有するガラスをクレームしている。このために、これらのガラスは、プロセスに適応された粘度−温度プロファイルの調節においては非常に大きな柔軟性を提示するけれども、しかしながら、良好な結晶化安定性を示さない。13質量%以上のBaOを含有する特開2004−175632号公報(特許文献7)に記載のガラス、及び6質量%以上のBaOを含有する米国特許出願公開2006/0189473A1(特許文献8)に記載のガラスも、同様にこの不利益を持っている。
【0013】
ヨーロッパ特許出願公開EP 1 433 757A1(特許文献9)にクレームされているガラスは、0.5質量%未満の酸化タングステン含有量を有している。この明細書は、さらに、WOがスペクトルのUV端(「青色端」)での純粋な透過率に著しく不利益な作用があることを説明している。
【0014】
特開2005−047732号公報(特許文献10)に記載のガラスは、18〜23質量%のあまりにも高いZnO含有量及びほんの1〜6質量%の低すぎるTiO含有量を有している。
【0015】
ドイツ特許出願公開DE 10 2006 039 287A1(特許文献11)に記載されているガラスでは、通常は10質量%よりも多いが少なくとも7質量%及び23質量%までのGdを必須として含有するガラスの組成範囲について述べている。7質量%以上の最低限のWO含有量を有するガラスが、同様にここには記載されている。非常に高価であり、そしてWOの場合には透過率に関して非常に不利益であるこれらの原料は、所望の光学ポジションが著しく異なるので、本発明に係るガラスにおいては除去することができる:ホーヤ(株)は、はるかに低い分散(アッベ数35〜40)を有するポジションをクレームしており、これに対して、本発明に係るガラスは、目的とする系での色収差の修正のための高い分散(アッベ数24未満)とともに高い屈折率をクレームしている。他の識別できる特徴は異なる酸化ホウ素含有量であり、ホーヤ(株)の明細書の実施例では、単に例外的にたまたま15又は16質量%に達しているが、記載されている大多数のガラスにおいてはるかに低い。
【0016】
ドイツ特許出願公開DE 10 2006 024 805A1(特許文献12)には、ほんの0.1〜6質量%のZnO含有量及び13〜22質量%のBaO割合を有するガラスが記載されている。ドイツ特許DE 102 27 494C1(特許文献13)には、同様に高々ほんの9質量%のZnO含有量を有するガラスが記載されている。これらの明細書には、さらにかなり大きなLa:B比が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】ドイツ特許DE 3 343 418C2
【特許文献2】ドイツ特許DE 2 265 703C2
【特許文献3】ドイツ特許出願公開DE 2 756 161A1
【特許文献4】ドイツ特許DE 2 652 747B2
【特許文献5】特開2003−238198号公報
【特許文献6】米国特許出願公開2004/0220041A1
【特許文献7】特開2004−175632号公報
【特許文献8】米国特許出願公開2006/0189473A1
【特許文献9】ヨーロッパ特許出願公開EP 1 433 757A1
【特許文献10】特開2005−047732号公報
【特許文献11】ドイツ特許出願公開DE 10 2006 039 287A1
【特許文献12】ドイツ特許出願公開DE 10 2006 024 805A1
【特許文献13】ドイツ特許DE 102 27 494C1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、本発明の目的は、前記した従来技術の不利益を回避し、所望の光学特性を可能にする光学ガラスを提供することにある。特に、低いTiO含有量で、PbO、Bi、及びAsを使用することなく、できるだけ所望の光学特性(n/ν)を可能とするショート光学ガラスの組成範囲が見出されねばなせない。ガラスは、高い透過率、良好な化学安定性及び加工性、低い製造コスト、及び良好な環境適合性を有していなければならない。これらのガラスは、ブランクプレス法により好適に加工できなければならず、従って低い転移温度を有していなければならない。さらにこれらのガラスは、容易に溶解可能且つ加工可能であり、二次熱間成形工程及び/又は連続的に操業される装置における製造にとって充分な結晶化安定性を有さねばならない。107.6〜1013dPasの粘度範囲においてできるだけショートであるガラスがさらに望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的は、特許請求の範囲に記載の各種態様によって達成される。特に、本発明によれば、酸化物基準の質量%で以下の組成:
SiO 2〜8%、
15〜22%、
La 35〜42%、
ZnO 10〜18%、
TiO 9〜15%、
ZrO 3〜10%、
Nb 4〜10%、
WO 0.5〜5%
を有する光学ガラスが提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るガラスは、好ましくは、少なくとも1.83の屈折率nを有し;少なくとも1.85の屈折率及び/又は1.95以下、好ましくは1.94以下の屈折率nがより好ましい。本発明に係るガラスのアッベ数νは、好ましくは少なくとも24であり、より好ましくは少なくとも、36及び/又は35以下である。
【0021】
一つの態様によれば、本発明に係るガラスは、107.6〜1013dPasの粘度範囲においてできるだけ「ショート」である。「ショート・ガラス」は、特定の粘度範囲において比較的僅かの温度変化によりその粘度が大きく変化するガラスを意味するものとする。このガラスの粘度が107.6dPasから1013dPasへ減少する温度間隔ΔTは、好ましくは100K以下である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の説明において、表現「X−フリー」、「成分Xがフリー」又は「成分Xを含有しない」は、ガラスは実質的にこの成分Xを含有しない、即ちそのような成分はせいぜいガラス中に不純物として存在するが、個々の成分としてガラス組成物に添加されていないことを意味する。Xは、例えばLiOなどの任意の成分を指している。
【0023】
基本ガラス系は、ランタンホウ酸塩ガラスであり、ホウ酸塩はランタン酸化物の溶解性を確実なものにする。従来技術においては、これらのガラスにとって、このガラス系において5.0未満のLa:B比下ではかなり安定したガラスは形成することができ、約3.6のLa:B比下では安定した領域があり、従って2.4〜3.4のLa:B比が一般に望ましい、と考えられていた。一般原則として、結晶化安定性のガラスを得るためには、比較的大きなホウ酸塩割合がこのために必要になるけれども、より低いLa:B比でさえ望ましいであろうし、その結果、従来技術においては、高い屈折率を達成するための充分な高屈折成分とショートガラスを達成するための充分な網状構造修正成分をガラス中へ導入することは同時に可能ではないと考えられていた。
【0024】
驚くべきことに、本発明によれば、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.4以下のLa:B比でさえも、所望のポジションで安定で充分にショートなガラスを生産することができることが見出された。
【0025】
本発明に係るガラスは、15〜22質量%の割合でBを含有する。Bの割合は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは19質量%以下に制限される。本発明に係るガラスは、好ましくは少なくとも16質量%のBを含有する。
【0026】
本発明に係るガラスは、35〜32質量%の割合でLaを含有する。ガラスは、好ましくは少なくとも35質量%、より好ましくは少なくとも36質量%のLaを含有する。Laの割合は、好ましくは20質量%、より好ましくは19質量%に制限される。
【0027】
以外の他のガラス形成物質として、本発明に係るガラスは、2〜8質量%の割合でSiOを含有する。SiOは、ガラスの機械的強度を高めることにより加工性を改善する役目をし、好ましくは3質量%の割合で、より好ましくは4質量%の割合で含有する。従って良好な摩滅困難性及び良好な化学安定性を達成することが可能であり、好ましくはISO 8424によるクラス5未満、より好ましくはクラス4未満の耐酸性、及び/又は好ましくはISO 10629による2未満、より好ましくは1以下の耐アルカリ性を達成することができる。SiOの割合は、好ましくは7質量%、より好ましくは6質量%に制限される。より高いSiO割合では、ガラス・マトリックス中のランタン酸化物の溶解性が非常に低減し、その結果、一様に高いLa割合では、ガラスはより結晶化されやすくなり、あるいは低いLa割合では、それらはもはや充分に高い屈折率を持たなくなり、光学ポジションは全体としてシフトされるであろう。
好ましくは、SiOとBの合計量は、29質量%以下、好ましくは27質量%以下である。
【0028】
好ましくは、本発明に係るガラスは、0.12〜0.38、より好ましくは0.25〜0.35のSiO:B比を有する。より低いSiO:B比では、前記したSiOの積極的な効果、即ち結晶化を抑制し、かつガラスを形成する効果が有効でなくなり、より大きな比率では、Laの溶解性は不充分なホウ酸塩含有量に起因して低下し、ガラスは結晶化に対してより敏感になる。
【0029】
本発明の好適な実施態様によれば、本発明に係るガラスは、前記したようなSiO+Bの合計含有量及びSiO:B比の両方を有する。
(La+SiO)の合計量のB含有量に対する比は、結晶化リスクの基準を表わし、好ましくは2.0〜2.9、より好ましくは2.3〜2.7である。
【0030】
さらに他のガラス形成物質として、本発明に係るガラスは好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下の割合でGeOを含有することができる。この他のガラス形成物質を加えることにより、本発明に係るガラスを、SiOの場合には生じるようなランタン酸化物に関する溶解性を低下させる作用もなく、より結晶化安定性とすることができる。それと同時に、GeOはまた、ガラスの屈折率をさらに増大させることにより光学ポジションに悪影響を及ぼすが、前記割合においては分散に対する僅かな影響だけを及ぼす。5質量%を越える割合は、光学ガラスの分散(即ち、アッベ数)を35を超える値に増大させるであろう。
【0031】
ガラス形成物質のB、SiO及びGeOの合計量は、好ましくは32質量%以下、より好ましくは30質量%以下、そして最も好ましくは27質量%以下である。
【0032】
Laに加えて、最も重要な光学成分、即ちガラスの光学ポジションに対する実質的な影響を及ぼす成分として、本発明に係るガラスは9〜15質量%の割合でTiOを含有し、これによって、高い屈折率が低いアッベ数で達成される。TiOの割合は、好ましくは少なくとも10質量%である。9質量%未満のTiO割合では、所望の光学ポジションもガラスの所望のショート性も調節することができない。本発明に係るガラスは、好ましくは14質量%以下、より好ましくは13質量%以下の割合でTiOを含有する。TiOの割合がさらに増加すれば、ガラスの結晶化限界は、ガラスの(さらなる)加工のためのプロセス幅もしくは加工幅(process window)がもはや可能ではない程度に上がるであろう。アルカリ土類金属酸化物と組み合わされたTiOはさらにガラスをよりショートにするので、TiOのより高い割合では非常なショート性のためにガラスをもはや加工できなくするであろう。
【0033】
TiOに加えて、本発明に係るガラスはまた、光学ポジションを調節するために、少なくとも4質量%、より好ましくは少なくとも5質量%及び/又は10質量%以下、より好ましくは9質量%以下の割合でNbを含有する。しかしながら、この成分の割合は、好ましくは上記最大限度に制限され、さもなくば、本発明に係るガラスのための原料コストが大幅に増大するためである。
【0034】
ガラスの屈折率を増大させるさらに他の光学成分として、本発明に係るガラスは、10質量%以下、好ましくは8質量%以下の割合でZrOを含有する。これより高いZrO含有量は、ガラスの結晶化傾向を増大させるであろう。ガラスは、少なくとも3質量%、好ましくは少なくとも4質量%の割合でZrOを含有する。
【0035】
ガラスは、好ましくは、ガラスに対するそれらの積極的な効果に加えて結晶核形成剤としても作用することができる少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つの成分、特にZrO、Nb及び/又はTiOを含有し、何故ならば、そのような成分の多くは結晶化リスクを低減するためである。
【0036】
光学ポジションの調節のために、本発明に係るガラスは、さらに、少なくとも0.5質量%、好ましくは少なくとも1質量%を超え、より好ましくは少なくとも1.2質量%の割合でWOを含有する。しかしながら、WOの割合は、5質量%以下、好ましくは3質量%以下に制限され、何故ならば、これより高い割合では、透過率が特に「青色端」において、即ち420nm未満の波長λにおいて悪くなるからである。しかしながら、従来技術における想定に反して、WOによる透過率のそのような低下は、驚くべきことに、WO含有量が3質量%を超えるまでは始まらない。3質量%までのWOの割合は、驚くべきことに、透過率を改善する。
【0037】
本発明に係るガラスはまた、光学ポジションの微調節用のさらに他の光学成分としてTa及び/又はFを含有することができるが、これらの成分の合計量は5質量%に制限される。
【0038】
ガラス形成物質及び光学成分に加えて、本発明に係るガラスは、とりわけガラスの粘度−温度プロファイルに影響を及ぼす網状構造修正成分をさらに含有する。
TiOに加えて、アルカリ土類金属酸化物は、そのような網状構造修正成分として特に使用できる。
【0039】
しかしながら、BaO含有量が5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは2質量%以下の比較的低い割合に制限されるので、本発明に係るガラスは従来技術のガラスと異なる。実際、BaOの高い割合は、網状構造を修正する機能に加えて同時にガラスの屈折率を増大させるために、高屈折率ガラスにおいて一般に使用される。
【0040】
アルカリ土類金属MgO、CaO、BaO、SrOの合計量は、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下の割合に制限される。
【0041】
驚くべきことに、高いBaO割合は、本発明に従って少なくとも10質量%、より好ましくは少なくとも12質量%の比較的高いZnO割合で置き換えることができることが見出された。ZnOの割合は、18質量%以下、好ましくは16質量%以下に制限される。本発明に係るガラス中の前記割合のZnOは、ガラスの高い屈折率及び充分なショート性の両方をもたらす。さらに、この成分はまた結晶化を抑制するように作用し、これは、前記割合でのZnOの存在により本発明に係る低いLa:B比を可能にすると推測される。
【0042】
前記網状構造修正成分に加えて、本発明に係るガラスは、さらにガラス形成物質として作用する成分Al及び/又はPを含有することができ、この場合、Al、MgO、CaO、SrO及びPの合計量は、好ましくは5質量%以下に制限される。
【0043】
本発明に係るガラスは、好ましくはアルカリ金属酸化物、即ちLi、Na、K、Rb、Csの酸化物を含有しない。何故ならば、これらの成分は、屈折率低減作用に加えて、さらにフラックス(融剤)としても作用し、従ってガラスをより結晶化させやすくするためである。
【0044】
しかしながら、他の実施態様によれば、本発明に係るガラスは、合計量が5質量%以下の割合でアルカリ金属酸化物を含有することができる。アルカリ金属酸化物のそのような低い割合は、最終幾何形状に近いフレキシブルな熱間成形に有利にガラスを適応させするために温度−粘度プロファイルの僅かな調節のために使用することができる。
【0045】
アルカリ金属酸化物の添加は、ガラスがイオン交換のために使用されるように意図される場合にはさらに好ましい。そのような別の態様では、ガラスは、アルカリ金属酸化物を、3質量%を超えて、またある状況下ではそれ以上の質量%でさえ実際に含有することができる。
【0046】
イオン交換ガラスとしてのガラスの使用のためには、5質量%以下でAgOを添加することがさらに望ましい。この適用については、ガラスは好ましくは例えば少なくとも0.5質量%の割合でAl及び/又はPを含有する。何故ならば、これらの成分はガラス中にイオン交換に好都合な構造の形成を促進するためである。そのような実施態様によれば、しかしながら、上記上限を超えるべきではない。
【0047】
本発明に係るガラスは、好ましくはY、Yb及び/又はBiを含有せず、何故ならば、これらの成分は、特に「青色端」(λ<420nm)においてガラスの透過率を下げることができるためである。ガラスが前記成分のどれも含まないことが特に望ましい。YとYbは、さらに高い原料コストの不利益を有している。さらに、Biはガラス溶融体中でBi(0)に還元されることができ、従ってガラスの透過率を下げる。しかしながら、溶融体中のそのような酸化還元プロセスの回避するためには、溶解技術について大きな支出が必要となる。
【0048】
光学ガラスとして、本発明に係るガラスは、好ましくは着色剤及び/又は光学活性な、例えばレーザー活性な成分を含有しない。
【0049】
本発明の別の実施態様によれば、光学フィルタ又は固体レーザーの基礎ガラスとして、本発明に係るガラスは、5質量%以下の含有量で着色剤及び/又は光学活性な、例えばレーザー活性な成分を含有することができ、この場合、これらの量は、100質量%まで加えるガラス組成の他の成分に加えて添加する量とされる。
【0050】
本発明の一つの態様によれば、本発明に係るガラスの少なくとも90質量%、より好ましくは少なくとも95質量%が前記した成分からなる。
【0051】
本発明の他の態様によれば、本発明に係るガラスはまた、前述しなかった他の成分を含有せず、即ち、そのような態様によれば、ガラスは実質的に前記した成分からなる。表現「実質的に…からなる」は、他の成分はせいぜい不純物としては存在するが、ガラス組成物に個々の成分として故意に添加されていないことを意味する。
【0052】
本発明に係るガラスは、通常の清澄剤を少量で含有することができる。添加される清澄剤の合計量は、好ましくは、ガラス組成物の他の成分100質量%に添加する量として、2.0質量%以下、より好ましく1.0質量%以下である。本発明に係るガラスは、以下の成分の少なくとも1種を清澄剤として含有することができる(ガラス組成物の残部に加えて、質量%で)。
Sb 0〜1%及び/又は
SnO 0〜1%及び/又は
SO2− 0〜1%及び/又は
NaCl 0〜1%及び/又は
As 0〜1%及び/又は
0〜1%。
【0053】
本発明の好適な実施態様によれば、しかしながら、As含有量は最大0.1質量%であるか、あるいは、ガラスはAs−フリーであり、何故ならば、この成分は生態学的理由のために問題と見なされているためである。
【0054】
本発明に係るガラスは全て、さらに、良好な耐薬品性と結晶化に対する安定性、即ち結晶化安定性を有する。これらはさらに、良好な溶融性と最終寸法形状に近いフレキシブルな加工性、低いプロセスコストによる低い製造コスト、良好なイオン交換特性、良好なソラリゼーション安定性、及び良好な環境適合性によって識別される。
【0055】
本発明に係るガラスは、640℃以下のガラス転移温度Tgを有し、結晶化安定性であり、また良く加工できる。
【0056】
本発明に係るガラスは、約20K/hの冷却速度で冷却した測定サンプルについて、15〜105×10−4の負の異常相対部分分散ΔPg,Fを有する。
【0057】
本発明に係るガラスは、8×10−6/K以下の熱膨張率α20−300を有する。従って、さらなる加工及び組立技術における熱応力の問題が回避される。
【0058】
本発明に係るガラスは、5.0g/cm以下の比密度を有する。本発明に係るガラスは、鉛含有のものに比べて考えられる積載質量が低いため、それらから作製された光学素子(光学要素)及び/又は光学部品は、従って特に移動/携帯装置に適している。
【0059】
本発明に係るガラスにより、高感度な精密機械によってさえも最終寸法形状に近い高度に規定された熱間成形を確実に行えるように、光学ポジション、粘度−温度プロファイル及び加工温度の調整を達成できる。結晶化安定性と粘度−温度プロファイルの相関関係もさらに達成でき、それによってガラスのさらなる熱処理、例えばプレス又は再プレス、あるいはイオン交換プロセスも容易に可能である。
【0060】
本発明はさらに、本発明に係るガラスの画像、センサー、鏡検法、医療技術、デジタル映写、電気通信、光通信技術/情報伝達、自動車部門でのオプチクス/照明、フォトリソグラフィー、ステッパー、エキシマレーザー、ウェハー、コンピューター・チップ及び/又は集積回路、及びそのような回路やチップを含む電子機器の応用分野における使用にも関する。
【0061】
本発明はさらに、本発明に係るガラスを含む光学素子にも関する。光学素子は、特にレンズ、プリズム、光導波路ロッド、アレー、光ファイバー、勾配部材、光学窓及びコンパクト部品であり得る。本発明によれば、用語「光学素子」は、例えば、ゴブ、精密ゴブ、等のこの種の光学素子の半仕上げ部材もしくはプリフォームも包含する。
【0062】
本発明はさらに、
−本発明に係る光学ガラスをプランクプレスする工程
を含む光学素子の製造方法にも関する。
【0063】
本発明はさらに、光学部材や光学部品、例えばセンサー、鏡検法、医療技術、デジタル映写、電気通信、光通信技術/情報伝達、自動車部門でのオプチクス/照明、フォトリソグラフィー、ステッパー、エキシマレーザー、ウェハー、コンピューター・チップ及び/又は集積回路、及びそのような回路やチップを含む電子機器などを製造するための、そのような光学素子の使用にも関する。
【0064】
本発明はさらに、例えば画像用や、センサー、鏡検法、医療技術、デジタル映写、電気通信、光通信技術/情報伝達、自動車部門でのオプチクス/照明、フォトリソグラフィー、ステッパー、エキシマレーザー、ウェハー、コンピューター・チップ及び/又は集積回路、及びそのような回路やチップを含む電子機器用の光学部材や光学部品にも関する。
【実施例】
【0065】
好適な組成範囲にある7つの実施例を含む11の実施例を表2及び表3にまとめて示す。ガラスの特性(屈折率n、アッベ数ν、スペクトルの青色領域における部分分散Pg,F、異常部分分散ΔPg,F[10−4]、熱膨張率α20−300[10−6/K]、ガラス転移温度Tg[℃]及び密度ρ[g/cm]もこれらの表に示す。これら実施例に記載のガラスは以下のようにして製造した。
【0066】
酸化物用の原料、好ましくは対応する酸化物、窒化物、炭酸塩を計量し、Sbなどの1種以上の清澄剤を任意に加え、次いで充分に混合した。ガラスチャージをバッチ溶解装置内で約1250℃で溶解し、次いで清澄化し(1300℃)、均質化した。ガラスは約1000℃の注型温度で注型でき、所望の寸法に加工した。大容積の連続装置では、経験から、温度は少なくとも約100Kだけ低くでき、材料は熱間成形法により、例えば精密プレス法で最終形状に近く加工できる。表1は、計量ガラス100kgの溶解例(実施例6に対応)を示している。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%で以下の組成:
SiO 2〜8%、
15〜22%、
La 35〜42%、
ZnO 10〜18%、
TiO 9〜15%、
ZrO 3〜10%、
Nb 4〜10%、
WO 0.5〜5%
を有する光学ガラス。
【請求項2】
さらに以下の成分の1種以上を酸化物基準の質量%で以下の割合:
GeO 0〜5質量%、
BaO 0〜5質量%、
Ta+F 0〜5質量%
で含有する、請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
ガラス成分としてPbO、As、Bi、Y、Gd及び/又はYbを含有しない、請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
1.83≦n≦1.95の屈折率n及び/又は24≦ν≦35のアッベ数νを有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のガラス。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のガラスのレンズ、プリズム、光導波路ロッド、アレー、光ファイバー、勾配部材、及び光学窓等の光学素子としての使用。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学ガラスから形成された、再加熱後にプレスできるプレス成形されたゴブ。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のガラスを含む光学部品。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のガラス又はそのゴブをプランクプレスする工程を含む光学部品の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のガラスを含む、レンズ、プリズム、光導波路ロッド、アレー、光ファイバー、勾配部材、及び光学窓等の光学素子。
【請求項10】
請求項9に記載の1つ以上の光学素子を含む、画像、センサー、鏡検法、医療技術、デジタル映写、電気通信、光通信技術/情報伝達、自動車部門でのオプチクス/照明、太陽技術、フォトリソグラフィー、ステッパー、エキシマレーザー、ウェハー、コンピューター・チップ及び/又は集積回路、及びそのような回路やチップを含む電子機器用の光学部材又は光学部品。
【請求項11】
画像、センサー、鏡検法、医療技術、デジタル映写、電気通信、光通信技術/情報伝達、自動車部門でのオプチクス/照明、太陽技術、フォトリソグラフィー、ステッパー、エキシマレーザー、ウェハー、コンピューター・チップ及び/又は集積回路、及びそのような回路やチップを含む電子機器用の光学部材又は光学部品を製造するための請求項10に記載の光学素子の使用。

【公開番号】特開2010−202508(P2010−202508A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−42675(P2010−42675)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】