説明

光学ガラス

【課題】屈折率(n)が1.56以上、アッベ数(ν)が57以上、屈伏点(At)が560℃以下で、成形時の耐失透性が良好で、精密モールドプレス成形等のモールド成形及び微細構造の転写に適した光学ガラスの提供を課題とする。
【解決手段】SiO:4.5〜17.0重量%、ただし4.5重量%を除く、B:45.0〜60.0重量%、ただし45.0重量%を除く、LiO+:NaO+KO:1.0〜20.0重量%、BaO:5.0〜25.0重量%、ZnO:4.5〜25.0重量%、Y+La+Gd:1.0〜17.0重量%、含有する光学ガラスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラスに関し、特に高屈折率・低分散、低屈伏点で、且つ成形時における耐失透性に優れ、モールド成形及び微細構造の転写に適した組成を有する光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学機器の小型軽量化が著しく進展している中で、非球面レンズが多く用いられるようになってきている。これは、非球面レンズは光線収差の補正が容易であり、レンズの枚数を少なくし、機器をコンパクトにすることができるためである。
また、非球面レンズを含む光学ガラスの新たな用途も多々開発されてきており、そのような状況の中で、金型の微細構造を精度よく転写できるガラスが望まれている。
非球面レンズ等のガラスの製造は、ガラスのプリフォームを加熱軟化させ、これを所望形状に精密モールドプレス成形することによってなされている。
プリフォームを得る方法は大きく2種類に分けられ、その1つはガラスのブロック或いは棒材等からガラス片を切り出してプリフォーム加工する方法である。もう1つはガラス融液をノズル先端から滴下して球状のガラスプリフォームを得る方法である。
ところで、精密モールド成形によってガラス成形品を得るためには、プリフォームの加圧成形を屈伏点(At)近傍の温度で行うことが必要である。従って、プリフォームの屈伏点(At)やガラス転移点(Tg)が高いほど、これに接する金型が高温に曝され、金型表面が酸化消耗され易くなる。即ち、屈伏点(At)やガラス転移点(Tg)が高くなると、金型の耐久性低下に伴うメンテナンスがより必要となり、低コストでの大量生産が実現できなくなる。このため、プリフォームを構成する光学ガラスは、比較的低温で成形できること、従ってガラス転移点(Tg)や屈伏点(At)が低いことが望まれている。
【0003】
一方、モールドレンズに用いられるガラスとしては、その用途に応じて種々の光学特性を有するものが求められている。例えば積層構造を持つレンズを得るのに適したガラスとして、屈折率(n)が1.56以上、アッベ数(ν)が57以上で、且つ屈伏点(At)が低いガラスが要求されている。このような要求に対して、従来、例えばBaFタイプのガラスが提供されている。しかし、このBaFタイプのガラスは屈伏点(At)の高いガラスが多く、上記した金型の耐久性の低下、それに伴うメンテナンスの増大、大量生産性の低下、コスト増の問題があった。
【0004】
またB−La−Y−LiO−RO系ガラスで、屈折率(n)が1.62〜1.85、アッベ数(ν)が35〜65の範囲を有する光学ガラスが開示されている(特許文献1)。
【0005】
またB−SiO−La−ZnO系ガラスで、屈折率(n)が1.6〜1.8、アッベ数(ν)が40〜60、ガラス転移点(Tg)が500℃以下を有する光学ガラスが開示されている。またB−SiO−La−ZnO−RO系ガラスで、屈折率(n)が1.60〜1.68、アッベ数(ν)が48〜56、ガラス転移温度(Tg)が520℃以下を有する光学ガラスが開示されている(特許文献2、3)。
【0006】
またB−SiO−La−LiO系ガラスで、屈折率(n)が1.60〜1.75、アッベ数(ν)が50〜60、ガラス転移点(Tg)が535℃以下を有する光学ガラスが開示されている(特許文献4)。
またB−SiO−La−LiO−CaO−ZnO系ガラスで、屈折率(n)が1.57〜1.67以上、アッベ数(ν)が55〜65、ガラス転移点(Tg)が560℃以下を有する光学ガラスが開示されている(特許文献5)。
【0007】
またB−SiO−La−Gd−LiO−RO系ガラスで、屈折率(n)が1.57〜1.67、アッベ数(ν)が55〜65という光学ガラス、屈折率(n)が1.60〜1.70、アッベ数(ν)が50〜62という光学ガラス、及び屈折率(n)が1.60〜1.65、アッベ数(ν)が55以上の光学恒数を有する光学ガラスが開示されている(特許文献6、7、8)。
【0008】
またB−SiO−La−Y−LiO−RO系ガラスで、屈折率(n)が1.60〜1.70、アッベ数(ν)が45〜60、ガラス転移点(Tg)が500℃以下、ガラス屈伏点(At)が530℃以下という光学ガラスが開示されている(特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭60−221338号公報
【特許文献2】特開2004−161506号公報
【特許文献3】特開2007−8761号公報
【特許文献4】特開2006−321710号公報
【特許文献5】特開2004−35318号公報
【特許文献6】特開2005−206427号公報
【特許文献7】特開2006−21969号公報
【特許文献8】特開2004−2178号公報
【特許文献9】WO2010/035770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら特許文献1の場合、モールド成形について何ら具体的な記載がなされていない。
特許文献2、5、6の場合、ガラス転移点(Tg)や屈伏点(At)が高く、金型が劣化し易い問題がある。
特許文献3、4、9の場合、アッベ数(ν)が実質的に57を超える光学ガラスは開示されていない。
特許文献7の場合、ガラス転移温度を下げるためにLiOを比較的多量に含んでいるために、失透し易い問題がある。
特許文献8の場合、特にGdを多量に含んでおり、原料コストが高くなる。
【0011】
そこで本発明は上記従来の光学ガラスにおける欠点を解消し、屈折率(n)が1.56以上、アッベ数(ν)が57以上、屈伏点(At)が560℃以下で、成形時の耐失透性が良好で、精密モールドプレス成形等のモールド成形及び微細構造の転写に適した光学ガラスの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ガラス製造にあたって、その組成を特定のものとすること、具体的にはB−SiO−LiO−BaO−ZnO−Y−La−Gd系ガラスを基本とすることにより、またアルカリ金属酸化物の組み合わせと希土類酸化物の適切な量の組み合わせにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち本発明の光学ガラスは、SiO:4.5〜17.0重量%、ただし4.5重量%を除く、B:45.0〜60.0重量%、ただし45.0重量%を除く、LiO+NaO+KO:1.0〜20.0重量%、BaO:5.0〜25.0重量%、ZnO:4.5〜25.0重量%、Y+La+Gd:1.0〜17.0重量%含有することを第1の特徴としている。
また本発明の光学ガラスは、上記第1の特徴に加えて、SiO:5.0〜15.0重量%、B:45.0〜58.0%、ただし45.0重量%を除く、LiO+NaO+KO:2.0〜16.0重量%、BaO:5.0〜23.0重量%、ZnO:4.5〜22.0重量%、Y+La+Gd:1.0〜16.5重量%含有することを第2の特徴としている。
また本発明の光学ガラスは、上記第1又は第2の特徴に加えて、Y:6.0重量%以下、La:15.0重量%以下、Gd:7.0重量%以下、Yb:3.0重量%以下のうち、何れか1つ若しくは2つ以上を含有することを第3の特徴としている。
また本発明の光学ガラスは、上記第1〜第3の何れかの特徴に加えて、GeO:5.0重量%以下、Al:5.0重量%以下のうち、何れか一方若しくは両方を含有することを第4特徴としている。
また本発明の光学ガラスは、上記第1〜第4の何れかの特徴に加えて、LiO:10.0重量%以下、NaO:10.0重量%以下、KO:12.0重量%以下のうち、何れか1つ若しくは2つ以上を含有することを第5特徴としている。
また本発明の光学ガラスは、上記第1〜第5の何れかの特徴に加えて、MgO:10.0重量%以下、CaO:15.0重量%以下、SrO:15.0重量%以下のうち、何れか1つ若しくは2つ以上を含有することを第6特徴としている。
また本発明の光学ガラスは、上記第1〜第6の何れかの特徴に加えて、ZrO:5.0重量%以下、Ta:5.0重量%以下、WO:5.0重量%以下のうち、何れか1つ若しくは2つ以上を含有することを第7特徴としている。
また本発明の光学ガラスは、上記第1〜第7の何れかの特徴に加えて、屈折率(n)が1.56〜1.63、アッベ数(ν)が57.0〜63.0、ガラス転移点(Tg)が510℃以下、ガラス屈伏点(At)が560℃以下であることを第8の特徴としている。
【0014】
上記において、屈折率(n)とは、ヘリウムの587.6nmの輝線に対する屈折率を言う。またアッベ数(ν)は、ν=(n−1)/(n−n)で定義され、n、nは、それぞれ水素の486.1nm及び656.3nmの輝線に対する屈折率である。またガラス転移点(Tg)とは、熱機械分析装置(TMA)で熱膨張測定をしたとき、ガラスの伸び率が急激に増大することによって膨張曲線が屈曲する部分の、低温側と高温側の直線のそれぞれの延長線の交点に相当する温度である。また屈伏点(At)とは、熱機械分析装置(TMA)で熱膨張測定をしたとき、ガラスの軟化によって膨張曲線が上昇から下降に転じる極大点である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の光学ガラスによれば、そこに記載された組成としたので、屈折率(n)が1.56以上、アッベ数(ν)が57以上、屈伏点(At)が560℃以下で、成形時の耐失透性が良好で、精密モールドプレス成形等のモールド成形及び微細構造の転写に適した光学ガラスを提供することが可能となった。
また請求項2に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1に記載の構成による効果に加えて、そこに記載された構成とすることにより、より高い屈折率(n)やアッベ数(ν)と、より低い屈伏点(At)による良好な光学特性と良好な成形性、またガラスの安定性、化学的耐久性の向上を図ることが可能となる。
また請求項3に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1又は2に記載の構成による効果に加えて、Y:6.0重量%以下、La:15.0重量%以下、Gd:7.0重量%以下、Yb:3.0重量%以下のうち、何れか1つ若しくは2つ以上を含有することにより、光学ガラスの安定性、成形性を一層向上させることができ、所望の光学恒数(屈折率、アッベ数)を持つ光学ガラスに調整するのが容易である。
また請求項4に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1〜3の何れかに記載の構成による効果に加えて、GeO:5.0重量%以下、Al:5.0重量%以下のうち、何れか一方若しくは両方を含有することにより、耐白濁性、精密モールドプレス成形性の各特性を一層向上させることが可能となる。
また請求項5に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1〜4の何れかに記載の構成による効果に加えて、LiO:10.0重量%以下、NaO:10.0重量%以下、KO:12.0重量%以下のうち、何れか1つ若しくは2つ以上を含有することにより、ガラス転移点(Tg)、屈伏点(At)を一層低下させることが可能となる。
また請求項6に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1〜5の何れかに記載の構成による効果に加えて、MgO:10.0重量%以下、CaO:15.0重量%以下、SrO:15.0重量%以下のうち、何れか1つ若しくは2つ以上を含有することにより、より低分散で、ガラス転移点、屈伏点を一層低下させることが可能となる。
また請求項7に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1〜6の何れかに記載の構成による効果に加えて、ZrO:5.0重量%以下、Ta:5.0重量%以下、WO:5.0重量%以下のうち、何れか1つ若しくは2つ以上を含有することにより、屈折率を一層高くすることが可能となる。
また請求項8に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1〜7の何れかに記載の構成による効果に加えて、屈折率(n)が1.56〜1.63、アッベ数(ν)が57.0〜63.0、ガラス転移点(Tg)が510℃以下、ガラス屈伏点(At)が560℃以下であることにより、現に高屈折率・低分散で、且つ低温度での成形性に優れて、金型の寿命を長くすることができる光学ガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光学ガラスにおける成分とその含有量について説明する。
成分SiOはガラスの網目構造形成成分であり、ガラスに製造可能な安定性をもたせるための必須成分である。
SiOは4.5〜17.0重量%(ただし4.5重量%を除く)含有させる。
4.5重量%以下ではガラスの安定性が悪化する。また17.0重量%を超えると、ガラスの屈伏点が高くなるうえに、屈折率の充分高いものが得られなくなる。
SiOの含有量は、ガラスの安定性、屈折率等を考慮すると、5.0〜15.0重量%がより好ましい。更に好ましくは5.0〜12.0重量%含有させるのがよい。
【0017】
成分BはSiOと同様にガラスの網目構造を形成して、ガラスを安定化させる必須成分である。
は45.0〜60.0重量%(ただし45.0重量%を除く)含有させる。
45.0重量%以下では、ガラスの安定性を損なう。また60.0重量%を超えると、屈折率の充分高いものが得られなくなる。
の含有量は、ガラスの安定性、屈折率等を考慮すると、前記範囲の上限は58.0重量%がより好ましく、56.0重量%が更に好ましい。
【0018】
成分BaOはガラスの安定性を高め、且つ屈伏点や液相温度を低下させるために必須である。
BaOは5.0〜25.0重量%含有させる。
5.0重量%未満では、屈伏点が高くなり、ガラスの安定性の点で好ましくない。また25.0重量%を超えるとガラスの安定化を損なう。
BaOの含有量は、ガラスの成形性、屈折率等を考慮すると、5.0〜23.0重量%がより好ましい。更に好ましくは7.0〜22.0重量%含有させるのがよい。
【0019】
成分ZnOはガラス成形時の失透の発生を抑制し、屈伏点を低下させてガラスの成形性をよくするために必須である。
ZnOは4.5〜25.0重量%含有させる。
4.5重量%未満では、屈伏点を低下させる効果が不十分となる。また25.0重量%を超えると、ガラスの安定化を損なうため好ましくない。
ZnOの含有量は、ガラスの成形性、安定性、ガラスの転移点、屈伏点を考慮すると、4.5〜22.0重量%がより好ましい。更に好ましくは5.0〜15.0重量%がよい。
【0020】
成分LiO、NaO、KO等のアルカリ金属酸化物は、ガラス転移点、屈伏点を低下させると同時に、良好な屈折率を保持するために必須な成分である。
LiO、NaO、KOの3成分は、その合計量で1.0〜20.0重量%含有させる。
3成分の合計量が1.0重量%未満の場合は、ガラスの転移点、屈伏点を有効に低下させることができない。また合計量で20.0重量%を超えると、ガラスの安定化を損なう。
3成分の合計量は、ガラスの安定性、屈折率等を考慮すると、2.0〜16.0重量%がより好ましい。更に好ましくは合計で3.0〜15.0重量%含有させるのがよい。
【0021】
LiOはガラス転移点、屈伏点を低下させると同時に、良好な屈折率を保持するために有効である。
LiOは10.0重量%以下で含有させることができる。10.0重量%を超えると、ガラスの安定化を損なう。
LiOの含有量は、ガラスの安定性、屈折率等を考慮すると、2.0〜9.0重量%がより好ましい。更に好ましくは3.0〜8.0重量%含有させるのがよい。
【0022】
成分NaOはガラス転移点、屈伏点を低下させるために有効である。
NaOは10.0重量%以下で含有させることができる。10.0重量%を超えると、ガラスの屈折率の低下を招く。
NaOの含有量は、ガラスの転移点、屈伏点、屈折率を考慮すると、0.1〜10.0重量%がより好ましく、更に好ましくは1.0〜8.0重量%とするのがよい。
【0023】
成分KOもガラス転移点、屈伏点を低下させるために有効である。
Oは12.0重量%以下で含有させることができる。12.0重量%を超えると、ガラスの屈折率の低下を招く。
Oの含有量は、ガラスの転移点、屈伏点、屈折率を考慮して、0.1〜12.0重量%がより好ましく、更に好ましくは1.0〜10.0重量%とするのがよい。
なお、成分LiOを10.0重量%以下、成分NaOを10.0重量%以下、成分KOを12.0重量%以下の含有量で、何れか1つ若しくは2つ以上を含有させることができる。
【0024】
成分Y、La、Gdは、ガラスの屈折率とアッベ数を高めるために必須である。
、La、Gdの3成分は、その合計量で1.0〜17.0重量%含有させる。
3成分の合計量が1.0重量%未満の場合は、所望の光学恒数(屈折率、アッベ数)を得られなくなる。また17.0重量%を超えると、ガラスの安定化、ガラス原料の価格の上昇、ガラスの安定供給性の面で好ましくない。
3成分の合計量は、ガラスの成形性、屈折率等を考慮すると、1.0〜16.5重量%がより好ましい。更に好ましくは合計で1.0〜14.0重量%含有させるのがよい。
【0025】
成分Yはガラスの屈折率とアッベ数を高めるために有効である。
は6.0重量%以下で含有させることができる。6.0重量%を超える場合には、ガラスの安定性の点で好ましくない。
の含有量は、ガラスの成形性、屈折率等を考慮すると、1.0〜6.0重量%がより好ましく、1.0〜4.5重量%が更に好ましく、1.0〜3.0重量%が特に好ましい。
【0026】
成分Laはガラスの屈折率とアッベ数を高めるために有効である。
Laは15.0重量%以下で含有させることができる。15.0重量%を超えると、屈伏点が高くなり、またガラスの安定性の点でも好ましくない。
Laの含有量は、ガラスの成形性、屈折率等を考慮すると、1.0〜15.0重量%がより好ましく、2.0〜12.0重量%が更に好ましく、4.0〜10.0重量%が特に好ましい。
【0027】
成分Gdは、ガラスの安定性を高め、屈折率とアッベ数を高めるために有効である。
Gdは、7.0重量%以下で含有させることができる。7.0重量%を超えると、ガラスの安定性の低下を招く。
Gdの含有量は、ガラスの安定性、成形性を考慮して、1.0〜7.0重量%が好ましく、2.0〜6.0重量%が更に好ましく、2.5〜5.5重量%が特に好ましい。
【0028】
成分Ybは、ガラスの安定性を高め、成形性の向上に有効である。
任意成分であるが、3.0重量%以下で含有させることができる。3.0重量%を超えると、ガラスの屈折率の安定性を低下させる。
Ybの含有量は、ガラスの安定性、成形性を考慮して、0.1〜3.0重量%がより好ましい。更に好ましくは0.1〜2.0重量%がよい。
なお、成分Yを6.0重量%以下、成分Laを15.0重量%以下、成分Gdを7.0重量%以下、成分YbOを3.0重量%以下の含有量で、何れか1つ若しくは2つ以上を含有させることができる。
【0029】
成分GeOもガラス網目構造を形成してガラスを安定化させる成分であり、高屈折率化に効果があるが、経済的に高価な成分である。
任意成分として5.0重量%以下で含有させることができる。5.0重量%を超えると、ガラス製作にはコスト高になる。
GeOの含有量は、ガラスの安定化、コストを考慮して、4.0重量%以下がより好ましい。更に好ましくは3.8重量%以下で含有させるのがよい。
【0030】
成分Alは成形時の失透の発生を抑制するために有効であり、また耐候性にも効果がある。
任意成分として5.0重量%以下で含有させることができる。5.0重量%を超えると、ガラスの液相温度を上げ、また屈折率を低下させるので好ましくない。
Alの含有量は、ガラスの液相温度、屈折率を考慮して、4.0重量%以下がより好ましく、更に好ましくは3.0重量%以下含有させるのがよい。
なお、成分GeOを5.0重量%以下、成分Alを5.0重量%以下の含有量で、何れか一方若しくは両方を含有させることができる。
【0031】
成分MgOは、ガラスの安定性を高め、成形性の向上に有効である。
任意成分として10.0重量%以下で含有させることができる。10.0重量%を超えると、ガラスの屈折率の低下を招く。
MgOの含有量は、ガラスの成形性、屈折率を考慮して、0.1〜10.0重量%がより好ましく、更に好ましくは1.0〜9.0重量%とするのがよい。
【0032】
成分CaOは、ガラスの安定性を高め、成形性の向上に有効である。
任意成分として15.0重量%以下で含有させることができる。15.0重量%を超えると、ガラスの屈折率の低下を招く。
CaOの含有量は、ガラスの成形性、屈折率を考慮して、0.1〜12.0重量%がより好ましく、更に好ましくは1.0〜9.0重量%とするのがよい。
【0033】
成分SrOは、ガラスの安定性を高め、成形性の向上に有効である。
任意成分として15.0重量%以下で含有させることができる。15.0重量%を超えると、ガラスの屈折率の低下を招く。
SrOの含有量は、ガラスの成形性、屈折率を考慮して、0.1〜12.0重量%がより好ましく、更に好ましくは1.0〜9.0重量%とするのがよい。
なお、成分MgOを15.0重量%以下、成分CaOを15.0重量%以下、成分SrOを15.0重量%以下の含有量で、その何れか1つ若しくは2つ以上を含有させることができる。
【0034】
成分ZrOは、ガラスの屈折率とアッベ数を高め、ガラスの安定性を高めるのに有効である。
任意成分として5.0重量%以下で含有させることができる。5.0重量%を超えると、ガラスの安定性の低下を招く。
ZrOの含有量は、ガラスの屈折率、アッベ数、成形性を考慮して、0.1〜4.5重量%がより好ましく、更に好ましくは0.1〜4.0重量%とするのがよい。
【0035】
成分Taは、ガラスの屈折率とアッベ数を高め、ガラスの安定性を高めるのに有効であるが、経済的に高価な成分であり、ガラス製作にはコスト高になる。
任意成分として5.0重量%以下で含有させることができる。5.0重量%を超えると、ガラスの安定性の低下を招く。
Taの含有量は、ガラスの屈折率、アッベ数、安定性を考慮して、0.1〜4.0重量%がより好ましく、更に好ましくは0.1〜3.5重量%とするのがよい。
【0036】
成分WOは、ガラスに高屈折率をもたらし、また低屈伏点による成形性をもたらすのに有効な成分である。
任意成分として5.0重量%以下で含有させることができる。5.0重量%を超えると、ガラスの安定性を損なう。
WOの含有量は、ガラスの屈折率、成形性、安定性を考慮して、0.1〜4.0重量%がより好ましく、更に好ましくは1.0〜3.5重量%とするのがよい。
なお、成分ZrOを5.0重量%以下、成分Taを5.0重量%以下、成分WOを5.0重量%以下の含有量で、その何れか1つ若しくは2つ以上を含有させることができる。
【0037】
ガラスに含まれるFは、ガラスの溶融性を高める効果と、ガラスの耐候性を高めるのに有効な成分である。
任意成分として4.0重量%以下で添加することができる。4.0重量%を超えると、ガラスの安定性を損なう。
Fの含有量は、ガラスの安定性を考慮して、0.1〜3.0重量%がより好ましく、更に好ましくは0.1〜2.0重量%とするのがよい。
【0038】
本発明の目的を満たす光学恒数の範囲については、屈折率(n)が1.56〜1.63、アッベ数(ν)が57.0〜63.0である。例えば屈折率(n)が1.56未満、アッベ数(ν)が57.0以下のガラスでは、十分な回折効率を持つ積層構造のレンズには好ましく用いることができない。
好ましくは屈折率(n)が1.57〜1.63、アッベ数(ν)が57.5〜63.0、更に好ましくは屈折率(n)が1.58〜1.63、アッベ数(ν)が58.0〜63.0、ガラス転移点(Tg)が510℃以下、ガラス屈伏点(At)が560℃以下のガラスとすることで、成形時の耐失透性が改善され、特に精密モールドプレス成形等のモールド成形及び微細構造の転写に適したガラスとして用いることができる。このようなガラスは、例えば微細構造等を成形した積層構造レンズの構成要素として、低屈伏点ガラス、ゾルゲルガラス、樹脂等と共に用いることができる。
【0039】
実施形態における光学ガラスの製造原料については、例えば成分BのためにはHBO、B等を用いることができる。他の成分についても、原料として各種酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の通常に用いられる光学ガラス原料を用いることができる。
上記原料を、既述した成分範囲となるように調合、混合し、1100〜1200℃で溶融し、清澄(ガス抜き)、攪拌の各工程を経て均質化させた後、金型に流し込み徐冷することにより、無色、高屈折率で低屈伏点、透明で均質、加工性に優れた本発明の光学ガラスを得ることができる。
【0040】
本発明の目的を満たす高屈折率・低分散で、且つ低屈伏点である光学ガラスとして、非常に好ましい組成の具体例としては、次の(1)、(2)、(3)、(4)がある。これらの光学ガラスは化学的耐久性にも優れる。
(1)SiO:5.0〜15.0重量%、B:45.0〜55.0重量%(ただし45.0重量%を除く)、LiO+NaO+KO:1.0〜15.0重量%、BaO:7.0〜22.0重量%、ZnO:5.0〜15.0重量%、Y+La+Gd:1.0〜16.5重量%からなるガラス。
(2)SiO:5.0〜15.0重量%、B:45.0〜55.0重量%(ただし45.0重量%を除く)、LiO+NaO+KO:1.0〜15.0重量%、BaO:7.0〜22.0重量%、ZnO:5.0〜15.0重量%、Y+La+Gd:1.0〜16.5重量%、Al:0.1〜4.0重量%からなるガラス。
(3)SiO:5.0〜15.0重量%、B:45.0〜55.0重量%(ただし45.0重量%を除く)、LiO+NaO+KO:1.0〜15.0重量%、BaO:7.0〜22.0重量%、ZnO:5.0〜15.0重量%、Y+La+Gd:1.0〜16.5重量%、ZrO:0.5〜5.0重量%からなるガラス。
(4)SiO:5.0〜15.0重量%、B:45.0〜55.0重量%(ただし45.0重量%を除く)、LiO+NaO+KO:1.0〜15.0重量%、BaO:7.0〜22.0重量%、ZnO:5.0〜15.0重量%、Y+La+Gd:1.0〜16.5重量%、Al:0.1〜4.0重量%、ZrO:0.5〜5.0重量%からなるガラス。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例をあげて本発明を更に説明する。本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
表1〜4に示した実施例1〜21、比較例1〜2の成分組成となるように、原料を調合、混合し、これを白金ルツボに入れて、電気炉中で1100℃〜1200℃で溶融し、その後750℃〜950℃にして金型に流し込んで徐冷することで光学ガラスを得た。
得られた各光学ガラスについて、屈折率(n)、アッベ数(ν)、屈伏点(At)、及びガラス転移点(Tg)の測定を行った。また白濁等の欠点の有無を顕微鏡で確認した。
次に各ガラス板を賽の目状に切断加工し、複数個の同一寸法を有するカットピースを得た。更に複数個のカットピースの成形面を鏡面研磨し、洗浄したサンプルをプレス成形用ガラスプリフォームとした。
この成形用ガラスプリフォームを、貴金属系の離型膜が設けられた上コア・下コアを備えたプレス成形機に投入し、Nガス若しくは真空雰囲気中にて屈伏点(At)〜屈伏点(At)+約20℃まで加熱後、加圧してプレス成形し、冷却後、プレス成形品として取り出した。
前記コア面に曇りが生じた場合には、ガラスからの成分揮発が原因であり、プレス成形面に微小な荒れが生じていることを示すものである。
なお、比較例1は特許文献8の実施例2に記載のガラス、比較例2は特許文献6の実施例7に記載のガラスと同一組成のものである。
【0042】
実施例、比較例において、屈折率(n)、アッベ数(ν)の測定は、屈折率計(カルニュー社製、KPR−200)を用いて行った。
またガラス転移点(Tg)及び屈伏点(At)の測定は、長さ15〜20mm、直径(辺)3〜5mmの棒状試料を毎分5℃の一定速度で昇温加熱しつつ、試料の伸びと温度を測定して得られた熱膨張曲線から求めた。
これらの測定結果を表1〜4に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
表1〜表4により明らかなように、本発明の実施例のガラスは、何れも1.56以上の屈折率(n)を有する一方、アッベ数(ν)も57以上で高く、光学ガラスとして十分な光学恒数を有していることが確認された。
また成形時における成形表面の白濁発生が十分に抑制されていることが明らかであった。
更に本発明の実施例の何れのガラスも、屈伏点(At)が560℃以下という比較的低い温度範囲内にあることが確認された。
これらの結果、本発明の光学ガラスが屈折率(n)、アッベ数(ν)が共に高く、光学特性に優れると共に、大量生産にも適した加工特性を備えていることを示している。
よって以上より、本願発明のガラスは光学特性の他、精密モールドプレス成形用として、また積層構造レンズの構成要素としても好適なガラスであることが判る。
一方、比較例1のガラスは屈伏点(At)が比較的低いが、希土類酸化物を18%以上含有しており、ガラスの安定性に問題がある。比較例2のガラスは屈伏点(At)が高く、金型の劣化が問題となる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の光学ガラスは、高屈折率、高アッベ数で、ガラス転移温度及び屈伏点が低く、精密モールドプレス成形時に白濁を生じ難く、耐失透性に優れ、非球面レンズ等の精密モールドプレスや積層構造レンズの構成要素としても適し、且つ量産に適した光学ガラスとして、産業上の利用性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO :4.5〜17.0重量%、ただし4.5重量%を除く
:45.0〜60.0重量%、ただし45.0重量%を除く
LiO+NaO+KO :1.0〜20.0重量%
BaO :5.0〜25.0重量%
ZnO :4.5〜25.0重量%
+La+Gd :1.0〜17.0重量%
含有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
SiO :5.0〜15.0重量%、
:45.0〜58.0重量%、ただし45.0重量%を除く
LiO+NaO+KO :2.0〜16.0重量%
BaO :5.0〜23.0重量%
ZnO :4.5〜22.0重量%、
+La+Gd :1.0〜16.5重量%
含有することを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
:6.0重量%以下
La :15.0重量%以下
Gd :7.0重量%以下
Yb :3.0重量%以下
のうち、何れか1つ若しくは2つ以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
GeO :5.0重量%以下
Al :5.0重量%以下
のうち、何れか一方若しくは両方を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
LiO :10.0重量%以下
NaO :10.0重量%以下
O :12.0重量%以下
のうち、何れか1つ若しくは2つ以上を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
MgO :10.0重量%以下
CaO :15.0重量%以下
SrO :15.0重量%以下
のうち、何れか1つ若しくは2つ以上を含有することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
ZrO :5.0重量%以下
Ta :5.0重量%以下
WO :5.0重量%以下
のうち、何れか1つ若しくは2つ以上を含有することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項8】
屈折率(n)が1.56〜1.63、アッベ数(ν)が57.0〜63.0、ガラス転移点(Tg)が510℃以下、ガラス屈伏点(At)が560℃以下であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の光学ガラス。

【公開番号】特開2012−76939(P2012−76939A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221305(P2010−221305)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000178826)日本山村硝子株式会社 (140)
【Fターム(参考)】