説明

光学ドライブ装置

【課題】DPD信号とDPP信号の切り替えを行わずに、DPP法とDPD法のデメリットを相互に補完する。
【解決手段】光学ドライブ装置は、光ディスクの記録面に対して光ビームを照射する光学系と、記録面で反射した光ビームを受光し、受光量に応じた信号を出力する光検出器5と、光検出器5の出力信号からDPP信号及びDPD信号を生成する信号生成部30と、DPD信号から取得される補正値に基づいてDPP信号を補正することによりトラッキング誤差信号TEを生成するトラッキング誤差信号生成部31と、トラッキング誤差信号TEに基づいてトラッキングサーボを行うトラッキングサーボ部35とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ドライブ装置に関し、特にトラッキングサーボを行う光学ドライブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクの再生を行う光学ドライブ装置では、光ディスクの記録面と垂直に対物レンズを移動させることで記録面に焦点を合わせるフォーカスサーボと、光ディスクの記録面と平行に対物レンズを移動させることで再生対象の符号(ピットまたは記録マーク)、若しくはランド又はグルーブの中心に光ビームの焦点を合わせるトラッキングサーボとが行われる。
【0003】
トラッキングサーボの具体的な方法としては、差動プッシュプル法(DPP法)や位相差検出法(DPD法)が挙げられる。前者は、光ビームを回折格子に通して得られる0次回折光及び±1次回折光を用いるもので、対物レンズの記録面内での移動(レンズシフト)による影響をあまり受けない、記録マークの有無によらずトラッキング制御が可能である、というメリットを有する一方、アクセス対象層以外の場所で反射した光ビーム(迷光)により大きなオフセットが生じてしまうというデメリットを有する。このデメリットは、多層化された光ディスク(多層光ディスク)の記録・再生を行う場合に顕著になる。後者は、記録層に記録されている符号による回折を利用するもので、レンズシフトや迷光による影響がほとんどないというメリットを有する一方、符号がない領域(未記録領域)では制御できないというデメリットを有する。このデメリットのため、DPD法は通常、記録領域が予め確定しているROMディスクのみで用いられる。
【0004】
特許文献1には、光ビームの照射位置が未記録領域にある場合にはDPP法、記録領域にある場合にはDPD法、というように両者を切り替えながら用いることで、両者のデメリットを相互に補完しながらトラッキングサーボを行えるようにした例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4527184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的の一つは、特許文献1に開示されるような切り替えを行わずに、DPP法とDPD法のデメリットを相互に補完できる光学ドライブ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明による光学ドライブ装置は、光ディスクの記録面に対して光ビームを照射する光学系と、前記記録面で反射した前記光ビームを受光し、受光量に応じた信号を出力する光検出器と、前記光検出器の出力信号からDPP信号を生成するDPP信号生成手段と、前記光検出器の出力信号からDPD信号を生成するDPD信号生成手段と、前記DPD信号から取得される補正値に基づいて前記DPP信号を補正することによりトラッキング誤差信号を生成するトラッキング誤差信号生成手段と、前記トラッキング誤差信号に基づいてトラッキングサーボを行うトラッキングサーボ手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、DPD信号から取得される補正値に基づいてDPP信号を補正するので、DPD信号とDPP信号の切り替えを行わずに、DPP法とDPD法のデメリットを相互に補完できる。
【0009】
上記光学ドライブ装置において、前記補正値は、前記補正を行わないとした場合に得られる前記DPD信号の振幅を示す値であることとしてもよい。
【0010】
上記光学ドライブ装置においてさらに、前記トラッキング誤差信号生成手段は、前記DPD信号の振幅が所定範囲内に収まるように前記補正値を取得することとしてもよい。
【0011】
上記光学ドライブ装置においてさらに、前記トラッキング誤差信号生成手段は、前記DPD信号の振幅が前記所定範囲を超えて変化した場合に、前記DPD信号の振幅に基づいて前記補正値を取得する補正値取得手段を有することとしてもよい。
【0012】
上記光学ドライブ装置においてさらに、前記補正値取得手段は、前記補正値を記憶する補正値記憶手段を有し、前記補正値取得手段は、前記DPD信号の振幅が前記所定範囲を超えて変化した場合に、前記DPD信号の振幅と、前記補正値記憶手段に記憶される前記補正値との合計値を前記補正値として取得するとともに、取得された前記補正値により、前記補正値記憶手段に記憶される補正値を更新するとを有することとしてもよい。
【0013】
また、上記各光学ドライブ装置において、前記トラッキング誤差信号生成手段は、前記DPP信号に前記補正値に応じた値を加算することにより前記トラッキング誤差信号を生成する補正手段を有することとしてもよい。
【0014】
上記光学ドライブ装置においてさらに、前記補正値に応じた値は、前記補正値に所与の係数を乗算することによって得られる値であり、前記係数は、該係数を前記DPD信号に乗算することによって得られる信号の傾きと、前記DPP信号の傾きとが、トラック中心付近で互いに等しくなるように決定されることとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、DPD信号から取得される補正値に基づいてDPP信号を補正するので、DPD信号とDPP信号の切り替えを行わずに、DPP法とDPD法のデメリットを相互に補完できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態による光学ドライブ装置の模式図である。
【図2】本発明の実施の形態による光検出器の上面図である。
【図3】本発明の実施の形態による処理部が有する各種機能のうち、トラッキング誤差信号TEの生成及びトラッキングサーボに関わる部分の機能ブロックを示す図である。
【図4】DPP信号とDPD信号それぞれについて、光ビームの焦点位置が光ディスク11の半径方向に移動する場合(トラックジャンプ)の変化の様子を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態による光ディスク表面におけるメインビームMBのスポットの移動の軌跡を示す図であり、迷光がない場合を示している。
【図6】本発明の実施の形態による光ディスク表面におけるメインビームMBのスポットの移動の軌跡を示す図であり、迷光がある場合を示している。
【図7】本発明の実施の形態による補正値取得部の処理フローを示す図である。
【図8】本発明の実施の形態による係数kの説明図である。
【図9】本発明の実施の形態による補正値取得部及び補正部の具体的な回路構成を示す図である。
【図10】図9に示す各回路要素を流れる信号の時間変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態による光学ドライブ装置1の模式図である。
【0019】
光学ドライブ装置1は、光ディスク11の再生及び記録の少なくとも一方を行う。光ディスク11としてはCD、DVD、BD等の各種光記録媒体を用いることができるが、本実施の形態では特に、多層膜によって多層化された記録面を有する円盤状の光ディスク(多層光ディスク)を用いる。
【0020】
図1に示すように、光学ドライブ装置1は、レーザ光源2、光学系3、対物レンズ4、光検出器5、及び処理部6を備えて構成される。これらのうち、レーザ光源2、光学系3、対物レンズ4、及び光検出器5は光ピックアップを構成する。
【0021】
光学系3は、回折格子21、ビームスプリッタ22、コリメータレンズ23、1/4波長板24、センサレンズ(非点収差光学素子。シリンドリカルレンズ)25を有している。光学系3は、レーザ光源2が発生した光ビームを光ディスク11に導く往路光学系として機能するとともに、光ディスク11で反射した光ビームである反射光ビームを光検出器5に導く復路光学系としても機能する。
【0022】
往路光学系では、回折格子21は、レーザ光源2が発した光ビームを3ビーム(0次回折光及び±1次回折光)に分解しS偏光としてビームスプリッタ22に入射させる。ビームスプリッタ22は、入射されたS偏光を反射して、その進路を光ディスク11方向に折り曲げる。コリメータレンズ23は、ビームスプリッタ22から入射される光ビームを平行光とする。1/4波長板24は、コリメータレンズ23を通過した光ビームを円偏光とする。1/4波長板24を通過した光ビームは対物レンズ4に入射する。
【0023】
対物レンズ4は、コリメータレンズ23とともに、レーザ光源2が発生した光ビームを、光ディスク11の複数の記録層のうちのアクセス対象層に集光させるとともに、光ディスク11で反射した反射光ビームを光検出器5に集光させるレンズ系を構成する。具体的には、対物レンズ4は、光学系3から入射される光ビーム(コリメータレンズ23を通過して平行光となった光ビーム)を光ディスク11上に集光させ、光ディスク11の記録面で反射してきた反射光ビームを平行光に戻す。平行光に戻された反射光ビームは、コリメータレンズ23を通過することによって、光検出器5に集光する。
【0024】
ここで、反射光ビームは記録面のランド・グループで回折されており、0次回折光及び±1次回折光に分解されている。この0次回折光及び±1次回折光は、回折格子21により生ずる0次回折光及び±1次回折光とは異なるものである。紛らわしいので、本明細書では、回折格子21により分解された0次回折光,+1次回折光,−1次回折光をそれぞれメインビームMB,サブビームSB1,サブビームSB2と称し、0次回折光及び±1次回折光という場合には記録面のランド・グループでの回折によって生じた回折光を指すことにする。メインビームMB,サブビームSB1,サブビームSB2は、それぞれ独立して反射光ビームを生ずる。
【0025】
復路光学系では、対物レンズ4を通過し、1/4波長板24を往復することによりP偏光となった反射光ビームがコリメータレンズ23に入射する。コリメータレンズ23を通過した反射光ビームは、集光しつつビームスプリッタ22に入射する。ビームスプリッタ22は、入射してきた反射光ビームを透過してセンサレンズ25(シリンドリカルレンズ)に入射させる。センサレンズ25は、ビームスプリッタ22から入射された反射光ビームに非点収差を付与する。非点収差を付与された反射光ビームは光検出器5に入射する。
【0026】
図2は、光検出器5の上面図である。同図に示すように、光検出器5は、いずれも正方形である受光面5a〜5cを有している。受光面5aは、図2に示すように、いずれも正方形である4つの受光領域に分割されている。一方、受光面5b,5cはそれぞれ、上下方向(受光面5aに対向する辺と垂直な方向)の中央線で2つの受光領域に分割されている。光検出器5は、これらの受光領域ごとに、光ビームの強度を受光面で面積分して得られる値(受光量)の振幅を有する信号を出力するよう構成される。
【0027】
受光面5a〜5cは、それぞれメインビームMB、サブビームSB1、サブビームSB2を受光する目的で設けられているもので、それぞれ対応する反射光ビームの信号光スポットが形成される場所に配置される。受光面5aの4つの受光領域は、左上から反時計回りに受光領域A〜Dである。また、受光面5bの2つの受光領域は、上から順に受光領域E1,E2である。同様に、受光面5cの2つの受光領域は、上から順に受光領域F1,F2である。
【0028】
図1に戻る。処理部6は、一例として多チャンネル分のアナログ信号をデジタルデータに変換するA/D変換機能を備えたDSP(Digital Signal Processor)で構成されており、光検出器5の出力信号を受け付けて、フォーカス誤差信号FE、全加算信号(プルイン信号PI、RF信号RF)、トラッキング誤差信号TEを生成する。
【0029】
このうち、本発明の効果を直接受けるのは、トラッキング誤差信号TEである。これについては後に詳しく説明するとして、初めにフォーカス誤差信号FEと全加算信号について説明しておくと、処理部6は、次の式(1)によりフォーカス誤差信号FEを、次の式(2)により全加算信号を、それぞれ生成することが好適である。ただし、Iは受光領域(又は補正用受光面)Xの受光量を示す。以下の説明でも同様である。
【0030】
【数1】

【0031】
CPU7はコンピュータやDVDレコーダー等に内臓される処理装置であり、図示しないインターフェイスを介し、処理部6に対して再生又は書き込みのいずれか一方を指示するとともに光ディスク11上のアクセス位置を特定するための指示信号を送信する。この指示信号を受信した処理部6は、フォーカスサーボ及びトラッキングサーボを行う。フォーカスサーボは、フォーカス誤差信号FEがゼロとなる位置まで対物レンズ4を光ディスク11の表面に垂直に移動させることにより、アクセス対象層の表面に焦点を合わせる処理である。トラッキングサーボは、トラッキング誤差信号TEがゼロとなる位置まで対物レンズ4を光ディスク11の表面に平行に移動させる(この移動を「レンズシフト」という)ことによってトラックオン状態を実現する処理である。トラッキングサーボは、フォーカスサーボオンの状態(アクセス対象層の表面に焦点が合い、フォーカス誤差信号がゼロとなっている状態)で実行される。トラックオン状態になると、CPU7は処理部6が生成するRF信号RFをデータ信号として取得する。
【0032】
さて、トラッキング誤差信号TEについて説明する。図3は、処理部6が有する各種機能のうち、トラッキング誤差信号TEの生成及びトラッキングサーボに関わる部分の機能ブロックを示す図である。同図に示すように、処理部6は、信号生成部30(DPP信号生成手段、DPD信号生成手段)、トラッキング誤差信号生成部31(トラッキング誤差信号生成手段)、及びトラッキングサーボ部35(トラッキングサーボ手段)を有する。トラッキング誤差信号生成部31は、補正値取得部32(補正値取得手段)及び補正部33(補正手段)を有する。
【0033】
信号生成部30は、差動プッシュプル法により差動プッシュプル(DPP)信号DPP(以下、「DPP信号」と記述する)を生成するとともに、位相差検出法により位相差(DPD)信号DPD(以下、「DPD信号」と記述する)を生成する。具体的に説明すると、まずDPP信号について、信号生成部30は、受光領域A〜Dの出力信号に基づいて式(3)により、メインプッシュプル(MPP)信号MPPを生成するとともに、受光領域E1,E2,F1,F2の出力信号に基づいて式(4)により、サブプッシュプル(SPP)信号SPPを生成する。そして、式(5)に示すように、SPP信号SPPをm倍(mは定数)した信号をMPP信号MPPから減算することにより、DPP信号を生成する。
【0034】
【数2】

【0035】
DPD信号については、信号生成部30は、次の式(6)に示すように、受光領域Aの出力信号と受光領域Bの出力信号の位相差を示す信号と、受光領域Cの出力信号と受光領域Dの出力信号の位相差を示す信号とを加算することにより、DPD信号を生成する。ただし、P(X,Y)は信号Xと信号Yの位相差を示す関数である。
【0036】
【数3】

【0037】
図4は、DPP信号とDPD信号それぞれについて、光ビームの焦点位置が光ディスク11の半径方向に移動する場合(トラックジャンプ)の変化の様子を示す図である。同図では、横方向が光ディスク11の半径方向に対応している。また、図面の下部には、ランド及びグルーブと、ランド表面に形成された符号Cとを示している。なお、本実施の形態ではランド表面に符号Cが形成されるとしているが、符号Cはグルーブ底面に形成されることとしてもよく、或いは、ランド表面とグルーブ底面の両方に形成されることとしてもよい。また、図4では、DPP信号とDPD信号の振幅が同一であるとしている。
【0038】
図4に示すように、DPP信号は、ランド中心(ランドの光ディスク半径方向の中心=トラック中心)及びグルーブ中心(グルーブの光ディスク半径方向の中心)にある場合に所定値Vref(中間値)となり、光ビームの焦点位置がランドとグルーブの境界付近にある場合に最大値(又は最小値)となる。一方、DPD信号は、ランド中心及びグルーブ中心にある場合に所定値Vref(中間値)となる点ではDPP信号と同様であるが、トラック中心付近での傾き(DPP信号とDPD信号の振幅が同一であるとした場合の傾き)がDPP信号とは少し異なっている。これは、DPP信号とDPD信号とで、光ビームの回折に利用するものが異なっている(DPP信号ではランドとグルーブの境界、DPD信号では符号Cの外縁)ために起こる現象である。
【0039】
上述したように、DPP信号は、アクセス対象層以外の場所(多層光ディスクでは、特にアクセス対象層以外の記録層)で反射した光ビーム(迷光)により大きなオフセットが生ずるという特性を有する。DPD信号では、このようなオフセットはほとんど生じない。これによる影響を、図5及び図6を参照しながら詳しく説明する。
【0040】
図5及び図6はともに、光ディスク11表面におけるメインビームMBのスポットの移動の軌跡を示す図であり、DPP信号をトラッキング誤差信号TEとして用いてトラッキングサーボを行うと仮定して描いたものである。ここでは、サブビームSB1、SB2は省略しているが、メインビームMBと同様に考えることができる。
【0041】
図5は、迷光がない場合を示している。この場合、DPP信号にオフセットは生じず、メインビームMBのスポットはトラック中心付近を移動する。
【0042】
図6は、迷光がある場合を示している。この場合、DPP信号にはオフセットが生ずる。迷光がない場合のDPP信号をDPP、迷光によるオフセットの量をaとすると、この場合のDPP信号は次の式(7)のように表される。
【0043】
【数4】

【0044】
トラッキングサーボは、トラッキング誤差信号TE(この場合はDPP信号)がゼロとなるように対物レンズ4の位置を制御する処理である。したがって、DPP信号が式(7)で表される場合、処理部6は、DPP=aとなるように対物レンズ4の位置を制御することになる。これではメインビームMBのスポットはトラック中心に来ず、図6に示すように、光ディスク11の表面において、オフセットa分だけずれた位置を移動することになる。処理部6は、DPP信号をトラッキング誤差信号TEとして用いてトラッキングサーボを行う場合に生ずるこのような位置ずれを防止するために、DPD信号によってDPP信号を補正する機能を有する。以下、この機能を実現するための処理について、補正値取得部32、補正部33、及びトラッキングサーボ部35の順で詳しく説明する。
【0045】
図7は、補正値取得部32の処理フローを示す図である。補正値取得部32の処理については、この図7と図3を参照しながら説明する。
【0046】
補正値取得部32は、図3に示すように、補正値DISを記憶する補正値記憶部34(補正値記憶手段)を有している。ここで、補正値DISは、補正部33による補正を行わないとした場合に得られるDPD信号の振幅(中間値Vrefからの変位量)を示す値である。補正値記憶部34が初期状態で記憶している補正値DISは、図7に示すように、0である(ステップS1)。
【0047】
補正値取得部32には、図3に示すように、後述するトラッキングサーボ部35からトラックオン信号Tonが入力される。トラックオン信号Tonは、詳しくは後述するが、トラッキング誤差信号TEの値が所定値Vrefと等しい状態を所定時間にわたって維持した場合(トラックオン状態)に活性化される信号である。補正値取得部32は、トラックオン信号Tonが非活性である間(トラックオン状態でない間)、補正値取得部32は特段の処理を行わない(ステップS2の否定判定)。
【0048】
トラックオン状態となってトラックオン信号Tonが活性化されると(ステップS2の肯定判定)、補正値取得部32は、信号生成部30によって生成されるDPD信号の監視を開始する(ステップS3)。そして、DPD信号の振幅が所定範囲を超えて変化した場合に、DPD信号の振幅に基づいて補正値DISを取得する。ここでいう所定範囲は、DPD信号の振幅の中間値である所定値Vrefから上下に所定値αの範囲とすればよい。つまり、補正値取得部32は、DPD信号の振幅がVref−α以下又はVref+α以上となった場合に、DPD信号の振幅に基づいて補正値DISを取得する。
【0049】
補正値DISの取得について具体的に説明すると、補正値取得部32はまず、図7に示すように、DPD信号の振幅と保持している補正値DISとの合計値を取得する(ステップS4)。そして、この合計値を新たな補正値DISとして取得して出力するとともに、新たな補正値DISにより、補正値記憶部34に記憶される補正値DISを更新する(ステップS5)。
【0050】
次に、補正部33(図3)の処理について説明する。補正部33は、補正値取得部32が取得した補正値DISに基づいてDPP信号を補正することにより、トラッキング誤差信号TEを生成する機能を有する。具体的には、DPP信号に補正値DISに応じた値を加算することにより、トラッキング誤差信号TEを生成する。
【0051】
ここで、「補正値DISに応じた値」とは、補正値DISに所与の係数kを乗算することによって得られる値kDISである。この係数kは、該係数kをDPD信号に乗算することによって得られる信号の傾きと、DPP信号の傾きとが、トラック中心付近で互いに等しくなるように決定される。
【0052】
図8は、係数kの説明図である。同図に示すDPD信号及びDPP信号は、図4に示したものと同一のものである。同図に示すように、係数kを適切に決定することにより、係数kをDPD信号に乗算することによって得られる信号(kDPP)の傾きと、DPP信号の傾きとを、トラック中心付近で揃えることが可能である。係数kは、このようにして決定される。
【0053】
補正部33によって生成されるトラッキング誤差信号TEを数式によって表すと、次の式(8)のようになる。補正部33は、生成したトラッキング誤差信号TEをトラッキングサーボ部35に出力する。
【0054】
【数5】

【0055】
次に、トラッキングサーボ部35(図3)の処理について説明する。トラッキングサーボ部35は、補正部33から入力されたトラッキング誤差信号TEに基づいてトラッキングサーボを行う。具体的には、トラッキング誤差信号TEがゼロとなる位置まで、対物レンズ4を光ディスク11の表面に平行に移動させる。このトラッキングサーボでは、図6の例とは異なり、迷光があっても、メインビームMBのスポットをトラック中心に持ってくることが可能である。以下、詳しく説明する。
【0056】
メインビームMBのスポットが図6のようにトラック中心からずれている場合、DPD信号の振幅はVref+bとなる。ただし、b=a/kである。仮に上述した所定値αがbに等しいとすると、DPD信号の振幅がVref+bとなった時点で、補正値取得部32は補正値DISとしてbを取得する。したがって、その後生成されるトラッキング誤差信号TEは、次の式(9)で表される。
【0057】
【数6】

【0058】
式(9)に、式(7)及びb=a/kを代入すると、次の式(10)となる。
【0059】
【数7】

【0060】
式(10)に示されるように、補正後のDPP信号であるトラッキング誤差信号TEは、迷光がない場合のDPP信号である信号DPPに等しくなっている。これにより、光学ドライブ装置1では、迷光があっても、メインビームMBのスポットをトラック中心に持ってくることが可能になっている。
【0061】
その他、トラッキングサーボ部35は、上述したトラックオン信号Tonを生成する処理を行う。具体的には、トラッキング誤差信号生成部31から供給されるトラッキング誤差信号TEの値を監視し、振幅の中間値である所定値Vrefと等しい状態が所定時間にわたって継続した場合(トラックオン状態)に、トラックオン信号Tonを活性化する。トラッキング誤差信号TEの値が所定値Vrefと等しくなくなった場合にはトラックオン信号Tonを非活性化するが、トラッキング誤差信号生成部31には所定のヒステリシスが設定されており、所定時間内であれば、トラッキング誤差信号TEの値が所定値Vrefから外れてもトラックオン信号Tonが活性化された状態を維持する。これにより、トラックオン信号Tonの状態の頻繁な切り替わりが防止されている。
【0062】
以上、補正値取得部32、補正部33、及びトラッキングサーボ部35の処理について詳しく説明した。次に、補正値取得部32及び補正部33を実現するための具体的な回路構成について説明する。
【0063】
図9は、補正値取得部32及び補正部33の具体的な回路構成を示す図である。また、図10は、図9に示す各回路要素を流れる信号の時間変化の一例を示す図である。この例では、迷光の影響によりDPP信号のオフセットが一定の割合で増加し続けていると仮定している。また、図10に示す符号Oは、図9に符号Xで示される構成要素の出力信号を示している。
【0064】
まず、補正値取得部32について説明する。補正値取得部32は、図9に示すように、コンパレータ50,51、オア回路52、アンド回路53、ディレイ回路54〜58、スイッチ59〜63,71,72,75,76,79,82,84、減算器69、加算器70、バッファ74,78,81、及びキャパシタ73,77,80,83を有している。
【0065】
コンパレータ50の非反転入力端子及びコンパレータ51の反転入力端子には、信号生成部30からDPD信号が供給される。コンパレータ50の反転入力端子には、図示しない定電圧回路から電圧Vref+αが供給される。コンパレータ51の非反転入力端子には、図示しない定電圧回路から電圧Vref−αが供給される。オア回路52には、コンパレータ50,51の各出力信号が供給される。
【0066】
アンド回路53には、トラッキングサーボ部35からトラックオン信号Tonが供給されるとともに、オア回路52の出力信号が供給される。アンド回路53の出力信号Vo1は、ディレイ回路54〜58からなるディレイ回路アレイの初段であるディレイ回路54に供給される。
【0067】
図4には、出力信号Vo1の例を示している。同図に示すように、出力信号Vo1は、DPD信号の振幅が電圧Vref−αと電圧Vref+αの間にある場合にロウとなり、そうでない場合にハイとなる2値信号となる。
【0068】
図9に戻る。ディレイ回路54〜58はそれぞれ、入力信号を所定時間だけ遅延させて出力する回路である。図9に示すように、ディレイ回路54には出力信号Vo1、ディレイ回路55にはディレイ回路54の出力信号、ディレイ回路56にはディレイ回路55の出力信号、ディレイ回路57にはディレイ回路56の出力信号、ディレイ回路58にはディレイ回路57の出力信号がそれぞれ供給される。このような構成としたことにより、ディレイ回路54〜58の出力信号O54〜O58は、図10に示すように、順に所定時間ずつ出力信号Vo1を遅延させた信号となる。
【0069】
スイッチ59〜63は、出力信号Vo1の値に応じて入力元を切り替える1回路2接点式のスイッチである。具体的に説明すると、スイッチ59は、出力信号Vo1がハイである場合にディレイ回路55の出力信号を出力し、ロウである場合に出力信号Vo1を出力する。これにより、図10の例によるスイッチ59の出力信号O59は、同図に示すように、出力信号O55の立ち上がりで立ち上がり、出力信号Vo1の立ち下がりで立ち下がる信号となる。
【0070】
スイッチ60は、出力信号Vo1がハイである場合にディレイ回路54の出力信号を出力し、ロウである場合にディレイ回路55の出力信号を出力する。これにより、図10の例によるスイッチ60の出力信号O60は、同図に示すように、出力信号O54の立ち上がりで立ち上がり、出力信号O55の立ち下がりで立ち下がる信号となる。
【0071】
スイッチ61は、出力信号Vo1がハイである場合に出力信号Vo1を出力し、ロウである場合にディレイ回路54の出力信号を出力する。これにより、図10の例によるスイッチ61の出力信号O61は、同図に示すように、出力信号Vo1の立ち上がりで立ち上がり、出力信号O54の立ち下がりで立ち下がる信号となる。
【0072】
スイッチ62は、出力信号Vo1がハイである場合にディレイ回路57の出力信号を出力し、ロウである場合にディレイ回路56の出力信号を出力する。これにより、図10の例によるスイッチ62の出力信号O62は、同図に示すように、出力信号O57の立ち上がりで立ち上がり、出力信号O56の立ち下がりで立ち下がる信号となる。
【0073】
スイッチ63は、出力信号Vo1がハイである場合にディレイ回路56の出力信号を出力し、ロウである場合にディレイ回路57の出力信号を出力する。これにより、図10の例によるスイッチ63の出力信号O63は、同図に示すように、出力信号O56の立ち上がりで立ち上がり、出力信号O57の立ち下がりで立ち下がる信号となる。
【0074】
スイッチ59〜63の出力信号はそれぞれ、図9に示すように、スイッチ75、スイッチ72、スイッチ71、スイッチ79、スイッチ82に供給される。
【0075】
減算器69には、信号生成部30からDPD信号が供給されるとともに、図示しない定電圧回路から電圧Vrefが供給される。減算器69は、DPD信号の電位を電圧Vrefの分だけマイナス側にシフトし、その結果得られる信号DPD−Vrefを出力する。
【0076】
加算器70には、減算器69から信号DPD−Vrefが供給されるとともに、スイッチ84の出力信号が供給される。加算器70は、これらの信号を加算し、その結果である加算信号をスイッチ71に出力する。
【0077】
スイッチ71は、自身の入力端を、スイッチ61の出力信号O61がハイである場合に加算器70の出力端と接続し、ロウである場合にスイッチ75の出力端と接続する1回路2接点式のスイッチである。
【0078】
スイッチ72は、スイッチ71の出力端とバッファ74の入力端との間に挿入される1回路1接点式のスイッチであり、スイッチ60の出力信号O60がハイである場合に非導通となり、ロウである場合に導通する。
【0079】
キャパシタ73は、スイッチ72の出力端とバッファ74の入力端とを結ぶ信号線と、接地電位が供給される電源配線(以下、「接地配線」という)との間に挿入される。以下では、キャパシタ73の電極間電圧によって示される信号を信号S1と称する。
【0080】
バッファ74は、信号S1をバッファリングする回路である。バッファ74を設けたことにより、バッファ74の出力端に電流が流れても、信号S1の電位は維持される。バッファ78,81も同様であり、それぞれ信号S2,S3をバッファリングする回路である。バッファ78,81それぞれの出力端に電流が流れても、対応する信号の電位は維持される。
【0081】
スイッチ75は、バッファ74の出力端とスイッチ76の一方入力端との間に挿入される1回路1接点式のスイッチであり、スイッチ59の出力信号O59がハイである場合に導通し、ロウである場合に非導通となる。
【0082】
スイッチ76には、トラッキングサーボ部35からトラックオン信号Tonが供給されるとともに、ディレイ回路58の出力信号O58が供給される。スイッチ76は、自身の入力端を、トラックオン信号Tonがハイである場合に、出力信号O58が立ち上がるタイミングでスイッチ75の出力端と接続し、トラックオン信号Tonがロウである場合に接地配線と接続する1回路2接点式のスイッチである。トラックオン信号Tonがロウからハイに遷移した後であっても、出力信号O58が立ち上がるタイミングまでは、スイッチ76の入力端は接地配線に接続される。
【0083】
キャパシタ77は、スイッチ76の出力端とバッファ78の入力端とを結ぶ信号線と、接地配線との間に挿入される。以下では、キャパシタ77の電極間電圧によって示される信号を信号S2と称する。トラックオン信号Tonがロウである場合、スイッチ76の出力端が接地配線に接続されることから、信号S2の電位は、図10にも例示するように0となる。信号S2は、バッファ78を通じて、補正値DISとして補正部33に供給される。
【0084】
スイッチ79は、バッファ78の出力端とバッファ81の入力端との間に挿入される1回路1接点式のスイッチであり、スイッチ62の出力信号O62がハイである場合に導通し、ロウである場合に非導通となる。
【0085】
キャパシタ80は、スイッチ79の出力端とバッファ81の入力端とを結ぶ信号線と、接地配線との間に挿入される。以下では、キャパシタ80の電極間電圧によって示される信号を信号S3と称する。
【0086】
スイッチ82は、バッファ81の出力端とスイッチ84の一方入力端との間に挿入される1回路1接点式のスイッチであり、スイッチ63の出力信号O63がハイである場合に非導通となり、ロウである場合に導通する。
【0087】
キャパシタ83は、スイッチ82の出力端とスイッチ84の一方入力端とを結ぶ信号線と、接地配線との間に挿入される。以下では、キャパシタ83の電極間電圧によって示される信号を信号S4と称する。キャパシタ83は、図3に示した補正値記憶部34に相当する。
【0088】
スイッチ84には、トラッキングサーボ部35からトラックオン信号Tonが供給される。スイッチ84は、トラックオン信号Tonがハイである場合に、出力信号O58が立ち上がるタイミングで信号S4の出力を開始し、トラックオン信号Tonがロウである場合に入力端を接地配線に接続する1回路2接点式のスイッチである。トラックオン信号Tonがロウからハイに遷移した後であっても、出力信号O58が立ち上がるタイミングまでは、スイッチ84の入力端は接地配線に接続される。したがって、トラックオン信号Tonがロウである場合の加算器70の出力信号O70は、図10にも例示するように、DPD信号からVrefを減算してなる信号と同一の信号となる。
【0089】
以上説明した補正値取得部32の各構成要素の動作について、図9及び図10を参照しながら、詳しく説明する。なお、コンパレータ50,51、オア回路52、アンド回路53、ディレイ回路54〜58、スイッチ59〜63の動作については上述した通りであるので、割愛する。
【0090】
トラッキング制御が開始されると、ほどなくしてトラックオン信号Tonがハイになる。この時点では、通常、DPD信号の電位は電圧Vref−αと電圧Vref+αの間にあり、出力信号Vo1はロウとなっている。スイッチ76,84それぞれの入力端は接地配線に接続されており、したがって、信号S2の電位と加算器70の一方入力端の電位とはともに0となっている。
【0091】
次に、DPD信号の電位が(迷光が大きくなってDPP信号のオフセットが増加し、そのためにトラッキングサーボの位置ずれが大きくなったことによって)増加してVref+αを超え、それによって出力信号Vo1が活性化されると、まず初めにスイッチ61の出力信号O61が活性化される。これにより、スイッチ71の出力信号O71として加算器70の出力信号O70が出力されるようになる。この時点で、スイッチ84の入力端はまだ接地配線に接続されている。したがって、出力信号O70は、上述した減算器69によって生成される信号DPD−Vrefとなる。DPD信号の電位がVref+αに等しければ、出力信号O70の電位はαとなる。
【0092】
一方、この時点ではまだスイッチ60の出力信号O60がロウであるので、スイッチ72は導通状態である。したがって、出力信号O71(=出力信号O70)によってキャパシタ73が充電され、しばらくの後、図10に示すように、信号S1の電位が出力信号O70の電位に到達する。なお、図10ではこの到達電位をαとしているが、厳密に言えば、充電の間にもDPD信号が変化するので、実際には必ずしもαに等しくなるわけではない。しかしながら、近似的にはαに等しいとして差し支えないので、図10では、簡単のために、到達電位がαに等しいとして図示している。他の信号S2〜S4についても同様である。
【0093】
出力信号O61が活性化して所定時間が経過すると、次に出力信号O60が活性化される。すると、スイッチ72が非導通となり、キャパシタ73の充電が終了する。これ以降、信号S1の電位はαにホールドされる。
【0094】
次に、出力信号O61,O60がともにハイを保った状態で、図10に示すように出力信号O59,O63,O62が順次ハイになると、スイッチ75,82,79が順次、それぞれ非導通状態から導通状態、導通状態から非導通状態、非導通状態から導通状態に変化する。その後さらに、出力信号O58がハイとなったことに応じてスイッチ76の入力端の接続先が接地配線からスイッチ75の出力端に切り替えられ、導通状態のスイッチ75を通じて、信号S1によるキャパシタ77の充電が開始される。このとき同時に、キャパシタ80の充電も開始される。しばらくの後、図10に示すように、信号S2及び信号S3の電位が出力信号O70の電位に到達する。信号S2は、図9に示すように、バッファ78を介して、補正部33に補正値DISとして供給される。これ以降、補正部33では、DPP信号に電位αを加算する補正が実施され、DPD信号の振幅は、図10に示すように一旦Vref近くまで戻ることとなる。
【0095】
なお、図10では、キャパシタ77,80の充電開始タイミングとDPD信号の振幅の変化が開始するタイミングとの間には若干のタイムラグがあることを前提としている。信号S2,S3の電位は、このタイムラグの間に出力信号O70の電位に到達する。タイムラグがないとすると、信号Vo1が頻繁に切替わり、DPD信号の電位はVref+αの付近で制御されるようになるが、このような場合であっても、本発明の効果を得ることは可能である。
【0096】
DPD信号の振幅が電圧Vref−αから電圧Vref+αまでの範囲内に戻ると、図10に示すように、出力信号Vo1がロウに戻る。すると、まず出力信号O59がロウに戻り、スイッチ75が非導通となる。続いて、出力信号O61,O60が順次ロウになる。出力信号O60がロウになった後においては、スイッチ71の入力端がスイッチ75の出力端と接続され、かつスイッチ72が導通することから、キャパシタ73とキャパシタ77とが信号線と接地配線の間に並列に接続された状態となる。しかし、この時点では両者の電極間電圧は互いに等しくなっているので、電荷の移動は発生しない。つまり、この時点で、信号S1,S2の電位はホールドされることになる。
【0097】
次に、出力信号O62がロウに戻り、スイッチ79が非導通となる。バッファ81を通じて電荷が移動することはないので、キャパシタ80の電荷が逃げ場を失い、信号S3の電位がホールドされる。この状態で次に出力信号O63がロウに戻ると、スイッチ82が導通し、信号S3がキャパシタ83に供給され始める。これによりキャパシタ83が充電され、しばらくの後、図10に示すように、信号S4の電位が補正値DIS(信号S2)の電位に到達する。この後、スイッチ82は導通状態のまま、スイッチ84の入力端はキャパシタ83側に接続されたまま、それぞれ維持されるが、バッファ81及び加算器70を通じてキャパシタ83の電荷が流出することはないので、これ以降、信号S4の電位は補正値DISの電位でホールドされる。これにより、補正値記憶部34としてのキャパシタ83に補正値DISが記憶される。この時点での補正値DISは、近似的に上記αに等しい値となる。
【0098】
この後、図10に示すように、迷光がさらに大きくなってDPD信号が再度増加し、再度Vref+αを上回ると、出力信号O76,O84が初めからそれぞれ出力信号O75及び信号S4に固定されている点を除き、上記と同様の動作が繰り返されることになる。この場合には、初期状態としてキャパシタ83に補正値DIS≒αが記憶されているので、図10に示すように、最終的に得られる信号S1〜S4及び補正値DISは、いずれも2αと等しくなる。その結果、迷光のさらなる増加にも関わらず、図10に示すように、DPD信号を再度Vrefまで戻すこと、つまりメインビームMBのスポットをトラック中心に戻すことが可能になる。
【0099】
次に、補正部33について説明する。補正部33は、図9に示すように、逓倍器90及び加算器91を有している。
【0100】
逓倍器90は、補正値取得部32から出力される補正値DISに上述した係数kを乗算することにより、上述した値kDISを生成する回路である。また、加算器91は、DPP信号に値kDISを加算し、トラッキング誤差信号TEとして出力する回路である。具体的には、上述した式(8)の演算を行う。
【0101】
以上説明したように、本実施の形態による光学ドライブ装置1によれば、DPD信号から取得される補正値に基づいてDPP信号を補正するので、DPD信号とDPP信号の切り替えを行わずに、DPP法とDPD法のデメリットを相互に補完できる。より具体的に言えば、迷光によってDPP信号に生ずるオフセットを、補正値によってキャンセルすることが可能になる。
【0102】
なお、本発明において適切な補正を行うためには、補正値DISを用いて補正を行う構成が必須である。つまり、例えば次の式(11)に示すように、DPD信号(をk倍した信号)そのものを用いてDPP信号を補正しても、適切な補正結果は得られない。式(11)に示すトラッキング誤差信号TEが0となるようトラッキングサーボを行うことはkDPD=−DPPとなるようトラッキングサーボを行うことに他ならず、迷光がある場合、この等式がトラック中心で成り立たないことは明らかだからである。逆に言えば、本発明では、補正値DISを用いて補正を行う構成を採用したことにより、適切な補正を行うことが可能になっている。
【0103】
【数8】

【0104】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【0105】
例えば、上記実施の形態では補正値DISの取得タイミングを決定付ける「所定範囲」として、DPD信号の振幅の中間値である所定値Vrefから上下に所定値αの範囲を用いたが、所定値Vrefから上又は下のいずれか一方に所定値αの範囲を「所定範囲」として用いてもよい。
【符号の説明】
【0106】
1 光学ドライブ装置
2 レーザ光源
3 光学系
4 対物レンズ
5 光検出器
5a〜5c 受光面
6 処理部
11 光ディスク
21 回折格子
22 ビームスプリッタ
23 コリメータレンズ
24 波長板
25 センサレンズ
30 信号生成部
31 トラッキング誤差信号生成部
32 補正値取得部
33 補正部
34 補正値記憶部
35 トラッキングサーボ部
50,51 コンパレータ
52 オア回路
53 アンド回路
54〜58 ディレイ回路
59〜63,71,72,75,76,79,82,84 スイッチ
69 減算器
70,91 加算器
73,77,80,83 キャパシタ
74,78,81 バッファ
90 逓倍器
A〜D,E1,E2,F1,F2 受光領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクの記録面に対して光ビームを照射する光学系と、
前記記録面で反射した前記光ビームを受光し、受光量に応じた信号を出力する光検出器と、
前記光検出器の出力信号からDPP信号を生成するDPP信号生成手段と、
前記光検出器の出力信号からDPD信号を生成するDPD信号生成手段と、
前記DPD信号から取得される補正値に基づいて前記DPP信号を補正することによりトラッキング誤差信号を生成するトラッキング誤差信号生成手段と、
前記トラッキング誤差信号に基づいてトラッキングサーボを行うトラッキングサーボ手段と
を備えることを特徴とする光学ドライブ装置。
【請求項2】
前記補正値は、前記補正を行わないとした場合に得られる前記DPD信号の振幅を示す値である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学ドライブ装置。
【請求項3】
前記トラッキング誤差信号生成手段は、前記DPD信号の振幅が所定範囲内に収まるように前記補正値を取得する
ことを特徴とする請求項2に記載の光学ドライブ装置。
【請求項4】
前記トラッキング誤差信号生成手段は、前記DPD信号の振幅が前記所定範囲を超えて変化した場合に、前記DPD信号の振幅に基づいて前記補正値を取得する補正値取得手段を有する
ことを特徴とする請求項3に記載の光学ドライブ装置。
【請求項5】
前記補正値取得手段は、前記補正値を記憶する補正値記憶手段を有し、
前記補正値取得手段は、前記DPD信号の振幅が前記所定範囲を超えて変化した場合に、前記DPD信号の振幅と、前記補正値記憶手段に記憶される前記補正値との合計値を前記補正値として取得するとともに、取得された前記補正値により、前記補正値記憶手段に記憶される補正値を更新する
ことを特徴とする請求項4に記載の光学ドライブ装置。
【請求項6】
前記トラッキング誤差信号生成手段は、前記DPP信号に前記補正値に応じた値を加算することにより前記トラッキング誤差信号を生成する補正手段を有する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光学ドライブ装置。
【請求項7】
前記補正値に応じた値は、前記補正値に所与の係数を乗算することによって得られる値であり、
前記係数は、該係数を前記DPD信号に乗算することによって得られる信号の傾きと、前記DPP信号の傾きとが、トラック中心付近で互いに等しくなるように決定される
ことを特徴とする請求項6に記載の光学ドライブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−51020(P2013−51020A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189848(P2011−189848)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】