説明

光学フィルムの製造方法

【課題】画像表示装置に組み込まれるなど、熱が加わる環境下においても位相差の変化が生じにくい、アクリル樹脂からなる光学フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】アクリル樹脂フィルムを延伸する工程と、延伸後の当該フィルムを、その面内方向であって当該フィルムに含まれる重合体の配向方向に垂直な方向に張力を加えながら熱処理する工程とを含み、熱処理を式(1)および(2)に示す条件下で行う方法とする:A≧t≧18.7×e0.0868Tg×e-0.09T(1);0.50≦F≦12.0(2)。式(1)のtは熱処理時間(秒)、Tは熱処理温度(℃)、Tgはアクリル樹脂のガラス転移温度(℃)である。Aは、熱処理時間tの上限であって、T≦Tgのとき120秒、T>Tgのとき30秒である。式(2)におけるFは、熱処理の際に延伸後のアクリル樹脂フィルムに加える張力(N/mm2)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置に、色調の補償、視野角の補償などを目的として位相差フィルムが組み込まれる。位相差フィルムは、一般に、樹脂フィルムを延伸して形成される。樹脂フィルムの延伸時に当該フィルムに含まれる重合体が配向して位相差が生じる。樹脂フィルムが2以上の重合体を含む場合、その組み合わせによっては、各重合体の配向により生じる位相差を互いに相殺させて、位相差が実質的にゼロである光学フィルムを得ることもできる。このような光学フィルムは、例えば、LCDに用いる偏光子保護フィルムとして好適である。
【0003】
位相差フィルムをはじめとする光学フィルムを画像表示装置に組み込む際には、当該装置の光学的な設計事項に従って適切な光学フィルムが選択される。画像表示装置の性能を維持するためには、当該装置に組み込まれた後も位相差が変化しない光学フィルムが求められる。ここで問題となるのは、画像表示装置の使用時に光学フィルムに加わる熱である。画像表示装置は、バックライト光源、回路基板などの発熱体が多数集積された構造を有しており、使用時に装置内部が高温となる。また、使用環境によっては、装置内部の温度がさらに上昇する。これらの熱によって光学フィルムに含まれる重合体の配向が緩和すると、当該フィルムが示す位相差が変化し、画像表示装置の性能が保てなくなる。
【0004】
特許文献1(特開2006-341393号公報)には、セルロースアセテート樹脂フィルムを2N/cm2以上120N/cm2以下の張力で搬送しながら、セルロースアセテート樹脂のガラス転移温度Tg−30℃以上Tg+20℃以下の温度で10秒以上600秒以下の時間熱処理を行うことを特徴とする、セルロースアセテート樹脂フィルムの製造方法が開示されている。特許文献1には、この製造方法によって、セルロースアセテート樹脂フィルムにおける額縁故障や色ムラの原因となる熱収縮が抑制されることが記載されている。
【0005】
特許文献2(特開2010-26098号公報)には、互いに相分離した2種類の樹脂を含み、一方の樹脂が熱可塑性エラストマーである位相差フィルムが開示されている。特許文献2には、特許文献1の方法では熱処理時の熱により位相差フィルムの位相差値が低下するため好ましくないこと(段落0012)、これに対して特許文献2の方法では、このような位相差値の低下が生じることなく、液晶表示パネル内の熱暴露に対して光学補償性能が劣化することのない高耐久性の位相差フィルムが得られること(段落0088など)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-341393号公報
【特許文献2】特開2010-26098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光学フィルムの一種に、(メタ)アクリル重合体を主成分とするアクリル樹脂から構成される光学フィルムがある。当該光学フィルムは、アクリル樹脂に由来する高い透明性および表面強度ならびに低い光弾性係数を有し、画像表示装置への使用に好適である。しかし、アクリル樹脂は延伸によって位相差を発現し難いため、他の樹脂に比べて高倍率の延伸を行う必要がある。そして高倍率の延伸が必要であるが故に、画像表示装置に組み込まれた後、当該装置の使用時に加わる熱による位相差の変化が大きくなりやすい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学フィルムの製造方法は、(メタ)アクリル重合体を主成分とするアクリル樹脂から構成される光学フィルムの製造方法であって、アクリル樹脂フィルムを延伸する工程(延伸工程)と、前記延伸後のアクリル樹脂フィルムを、当該フィルムの面内方向であって、当該フィルムに含まれる重合体の配向方向に垂直な方向に張力を加えながら熱処理する工程(熱処理工程)とを含む。前記熱処理工程では、前記熱処理を、以下の式(1)および(2)に示す条件下で行う。
A≧t≧18.7×e0.0868Tg×e-0.09T (1)
0.50≦F≦12.0 (2)
【0009】
式(1)において、tは熱処理時間(秒)、Tは熱処理温度(℃)、Tgは前記アクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂のガラス転移温度(℃)である。Aは、熱処理時間tの上限であって、T≦Tgのとき120秒、T>Tgのとき30秒である。式(2)におけるFは、前記熱処理の際に前記延伸後のアクリル樹脂フィルムに加える前記張力(N/mm2)である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、画像表示装置に組み込まれるなど、熱が加わる環境下においても位相差の変化が生じにくい光学フィルム(例えば位相差フィルム)を製造できる。このような光学フィルムによって、例えば、長期にわたって性能の変化が生じにくい、耐久性に優れる画像表示装置が実現される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書における「樹脂」は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、例えば1種または2種以上の重合体から構成されてもよいし、必要に応じて、重合体以外の材料、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤、相溶化剤、安定化剤などを含んでいてもよい。
【0012】
[延伸工程]
延伸工程では、アクリル樹脂フィルムを延伸する。延伸により、アクリル樹脂フィルムに含まれる重合体が配向し、当該フィルムは重合体の当該配向に基づく位相差を示す。なお、アクリル樹脂フィルムが2以上の重合体を含む場合、その組み合わせによっては、各重合体の配向により生じる位相差が互いに相殺するため、当該フィルムが示す位相差は実質的にゼロ(絶対値にして0nmから0.5nm)となる。本発明の製造方法は、このような光学フィルムを製造する形態を含む。
【0013】
アクリル樹脂フィルムの延伸は、公知の方法に従えばよい。延伸は、例えば、一軸延伸または二軸延伸である。一軸延伸は、典型的には、アクリル樹脂フィルムの幅方向の変化を自由とする自由端一軸延伸であるが、アクリル樹脂フィルムの幅方向の変化を固定した固定端一軸延伸であってもよい。二軸延伸は、典型的には、逐次二軸延伸であるが、縦横延伸を同時に行う同時二軸延伸であってもよい。
【0014】
アクリル樹脂フィルムの延伸には、公知の延伸機を適用できる。延伸機には縦延伸機と横延伸機とがあり、いずれも使用可能である。縦延伸機は、アクリル樹脂フィルムの搬送方向に当該フィルムを延伸する装置であり、典型的には、樹脂フィルムを搬送する方向に順次配置された搬送ロールを備える。当該延伸機では、搬送ロール間に周速差を与えることによって樹脂フィルムがその搬送方向に延伸される。横延伸機は、アクリル樹脂フィルムの面内方向であって、その搬送方向に垂直な方向に当該フィルムを延伸する装置であり、例えば、テンター延伸機である。テンター延伸機は、グリップ式であってもピン式であっても構わないが、樹脂フィルムの引き裂けが生じ難いことから、グリップ式が好ましい。グリップ式のテンター延伸機は、一般に、横延伸用のクリップ走行装置を備える。クリップ走行装置では、樹脂フィルムの横端部がクリップで挟まれた状態で当該樹脂フィルムが搬送される。このとき、クリップ走行装置のガイドレールを開き、左右2列のクリップ間の距離を広げることによって、樹脂フィルムが横延伸される。グリップ式のテンター延伸機では、樹脂フィルムの搬送方向に対してクリップの拡縮機能を持たせることで、樹脂フィルムを同時二軸延伸することも可能である。
【0015】
延伸の程度は、アクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂の組成および光学フィルムとして最終的に得たい位相差に応じて調整できる。
【0016】
延伸温度は、アクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂のガラス転移温度Tgの近傍が好ましい。具体的には、(Tg−30)℃〜(Tg+100)℃が好ましく、(Tg−20)℃〜(Tg+80)℃がより好ましい。延伸温度が(Tg−30)℃未満の場合、望む位相差が得られないことがある。延伸温度が(Tg+100)℃を超えると、フィルムを構成する樹脂の流動(フロー)が起こり、安定した延伸が行えないことがある。
【0017】
延伸倍率は、アクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂の組成および光学フィルムとして最終的に得たい位相差に応じて、例えば1.1〜25倍の範囲、好ましくは1.3〜10倍の範囲内で調整できる。
【0018】
延伸工程において延伸されるアクリル樹脂フィルムは、典型的には未延伸フィルムであるが、予め延伸を加えたアクリル樹脂フィルムを延伸工程において延伸してもよい。
【0019】
延伸工程において延伸されるアクリル樹脂フィルムは帯状であってもよく、この場合、延伸機にアクリル樹脂フィルムを連続的に供給することで、当該フィルムを連続的に延伸できる。アクリル樹脂フィルムが帯状である場合、その流れ方向(MD方向)への延伸が縦延伸であり、その幅方向(TD方向)への延伸が横延伸である。
【0020】
アクリル樹脂フィルムは、(メタ)アクリル重合体を主成分として含むアクリル樹脂から構成されるフィルムである。アクリル樹脂における(メタ)アクリル重合体の含有率は、通常、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。(メタ)アクリル重合体は、光線透過率が高く、屈折率の波長依存性が低いなどの優れた光学特性を有しており、光学フィルムへの使用に好適である。なお、「主成分」とは、樹脂における最も含有率が大きい成分をいう。
【0021】
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位((メタ)アクリル酸エステル単位)を有する重合体である。(メタ)アクリル重合体における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率は、通常、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。(メタ)アクリル重合体は、主鎖に環構造を有していてもよい。当該環構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体と環構造を有する単量体とを共重合することによって、あるいは(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体群を重合した後に環化反応を進行させることによって、(メタ)アクリル重合体の主鎖に導入される。重合体が主鎖に環構造を有する場合、(メタ)アクリル酸エステル単位および当該環構造の含有率の合計が50重量%以上であれば、当該重合体は(メタ)アクリル重合体である。
【0022】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルの各単量体に由来する構成単位である。(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸メチル単位を有することが好ましく、この場合、最終的に得られた光学フィルムの光学特性および熱安定性が向上する。(メタ)アクリル重合体は、2種以上の(メタ)アクリル酸エステル単位を有していてもよい。
【0023】
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位を有していてもよい。このような構成単位は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールの各単量体に由来する構成単位である。(メタ)アクリル重合体は、これらの構成単位を2種以上有していてもよい。(メタ)アクリル重合体が、N−ビニルピロリドン単位あるいはN−ビニルカルバゾール単位を有する場合、最終的に得られた光学フィルムにおける複屈折の波長分散性の制御の自由度が向上する。例えば、可視光域において、光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(位相差が小さくなる)波長分散性(いわゆる逆波長分散性)を示す位相差フィルムが得られる。
【0024】
重合後の環化反応により主鎖に環構造を導入する場合、(メタ)アクリル重合体は、水酸基および/またはカルボン酸基を有する単量体を含む単量体群の共重合により形成することが好ましい。水酸基を有する単量体は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ブチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル、メタリルアルコール、アリルアルコールである。カルボン酸基を有する単量体は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸である。これらの単量体を2種以上使用してもよい。なお、これらの単量体は、環化反応によって(メタ)アクリル重合体の主鎖に位置する環構造となるが、環化反応時に当該単量体の全てが環構造に変化する必要はなく、環化反応後の(メタ)アクリル重合体がこれらの単量体に由来する構成単位を有していてもよい。
【0025】
(メタ)アクリル重合体の重量平均分子量は、好ましくは1万〜50万であり、より好ましくは5万〜30万である。
【0026】
(メタ)アクリル重合体は、主鎖に環構造を有することが好ましい。すなわち、アクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂が、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を含むことが好ましく、主成分として含むことがより好ましい。この場合、最終的に得られる光学フィルムの耐熱性および硬度が向上する。また、主鎖の環構造は、アクリル樹脂が含むその他の重合体との組み合わせにもよるが、延伸によってアクリル樹脂フィルムが大きな位相差を発現することに寄与する。
【0027】
(メタ)アクリル重合体が主鎖に有していてもよい環構造は、例えば、N−置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造およびラクトン環構造から選ばれる少なくとも1種である。N−置換マレイミド構造は、例えば、シクロヘキシルマレイミド構造、メチルマレイミド構造、フェニルマレイミド構造、ベンジルマレイミド構造である。最終的に得られる光学フィルムの耐熱性の観点からは、当該環構造は、ラクトン環構造、N−アルキル置換マレイミド構造、グルタルイミド構造、無水マレイン酸構造および無水グルタル酸構造が好ましい。最終的に得られる光学フィルムに対して正の位相差が付与される観点からは、当該環構造は、ラクトン環構造、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造が好ましい。最終的に得られる光学フィルムにおける複屈折の波長分散性が向上する観点からは、当該構造はラクトン環構造が好ましい。
【0028】
ラクトン環構造は、通常、4〜8員環であり、環構造の安定性の観点から5〜6員環が好ましく、6員環がより好ましい。ラクトン環構造は、例えば、以下の式(3)に示す構造である。
【0029】
【化1】

【0030】
式(3)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0031】
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基または上記芳香族炭化水素基における水素原子の1つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
【0032】
式(3)に示すラクトン環構造は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させて形成できる。このとき、R1はH、R2はCH3、R3はCH3である。
【0033】
(メタ)アクリル重合体が主鎖に環構造を有する場合、当該重合体における環構造の含有率は特に限定されないが、通常、5〜90重量%であり、10〜70重量%が好ましく、10〜60重量%がより好ましく、10〜50重量%がさらに好ましい。環構造の含有率が過度に大きくなると、アクリル樹脂フィルムの延伸性、ハンドリング性が低下する。
【0034】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体は、公知の方法により形成できる。
【0035】
主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体は、例えば、特開2000-230016号公報、特開2001-151814号公報、特開2002-120326号公報、特開2002-254544号公報、特開2005-146084号公報に記載されている重合体であり、当該公報に記載されている方法により形成できる。
【0036】
主鎖に無水グルタル酸構造を有する(メタ)アクリル重合体は、例えば、特開2006-283013号公報、特開2006-335902号公報、特開2006-274118号公報に記載されている重合体であり、当該公報に記載されている方法により形成できる。
【0037】
主鎖にグルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル重合体は、例えば、特開2006-309033号公報、特開2006-317560号公報、特開2006-328329号公報、特開2006-328334号公報、特開2006-337491号公報、特開2006-337492号公報、特開2006-337493号公報、特開2006-337569号公報、特開2007-009182号公報に記載されている重合体であり、当該公報に記載されている方法により形成できる。
【0038】
アクリル樹脂フィルムは、本発明の効果が得られる限り、(メタ)アクリル重合体以外の他の熱可塑性重合体を含んでいてもよい。他の熱可塑性重合体は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン重合体;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩素化ビニルなどのハロゲン化ビニル重合体;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴムあるいはアクリル系ゴムを配合したABS樹脂、ASA樹脂などのゴム質重合体;である。
【0039】
アクリル樹脂フィルムがスチレン系重合体を含む場合、(メタ)アクリル重合体との相溶性の観点から、スチレン系重合体はスチレン−アクリロニトリル共重合体が好ましい。
【0040】
アクリル樹脂フィルムにおける他の熱可塑性重合体の含有率は、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0〜40重量%、さらに好ましくは0〜30重量%、特に好ましくは0〜20重量%である。
【0041】
アクリル樹脂フィルムは、重合体以外の材料、例えば添加剤、を含んでいてもよい。添加剤は、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤から構成される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;アンチブロッキング剤;樹脂改質剤;有機充填剤、無機充填剤;可塑剤;滑剤;難燃剤である。
【0042】
アクリル樹脂フィルムにおける添加剤の含有率は、好ましくは0〜5重量%、より好ましくは0〜2重量%、さらに好ましくは0〜0.5重量%である。
【0043】
アクリル樹脂フィルムのTg(ガラス転移温度)は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、特に好ましくは120℃以上である。アクリル樹脂フィルムのTgの上限値は特に限定されないが、当該フィルムの延伸性の観点から、好ましくは170℃以下である。
【0044】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体は、アクリル樹脂フィルムならびに当該フィルムを延伸して得た光学フィルムのTgを上昇させ、耐熱性を向上させる。
【0045】
アクリル樹脂フィルムの厚さは特に限定されず、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μmである。
【0046】
アクリル樹脂フィルムは、公知の方法(例えば、溶融押出、キャスト)により形成できる。
【0047】
[熱処理工程]
次に、延伸工程により延伸したアクリル樹脂フィルムを熱処理する。熱処理は、アクリル樹脂フィルムの面内方向であって、当該フィルムに含まれる重合体の配向方向に垂直な方向に張力を加えながら、以下の式(1)および(2)に示す条件下で行う。
A≧t≧18.7×e0.0868Tg×e-0.09T (1)
0.50≦F≦12.0 (2)
【0048】
式(1)において、tは熱処理時間(秒)、Tは熱処理温度(℃)、Tgはアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂のガラス転移温度(℃)である。Aは、熱処理時間tの上限であって、T≦Tgのとき120秒、T>Tgのとき30秒である。式(2)におけるFは、熱処理の際にアクリル樹脂フィルムに加える張力(N/mm2)である。
【0049】
延伸工程後にこのような熱処理を行うことによって、画像表示装置に組み込まれるなど、熱が加わる環境下においても位相差の変化が生じにくい光学フィルム(例えば位相差フィルム)が得られる。
【0050】
式(1)は、熱処理の時間tおよび温度T、すなわち熱処理の条件と、熱処理の対象物であるアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂のTg、すなわち熱処理対象物の熱的特性と、の関係を規定する。熱処理時間tがこの下限未満の場合、熱処理の効果が不十分となり、本発明の効果を得ることができない。一方、熱処理時間tが上限であるAを超えると、延伸により生じたアクリル樹脂中の重合体の配向が失われ、望む位相差を示す光学フィルムが得られなくなる。熱処理時間の上限Aは、熱処理温度Tが、アクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂のTg以下であるか、Tgを超えるかによって大きく変化する。これは、Tgを境に、重合体の配向に対する熱処理温度の影響が大きく変化するためである。
【0051】
熱処理は、所定の温度に保持した加熱炉にアクリル樹脂フィルムを収容し、あるいは搬送して実施することができる。加熱炉へのアクリル樹脂フィルムの搬送は、連続的であっても断続的であってもよい。加熱炉を用いて熱処理を行う場合、熱処理温度は、炉の保持温度である。熱処理時間は、アクリル樹脂フィルムを炉に収容する時間、あるいはアクリル樹脂フィルムが炉の入口から出口までを通過する時間である。
【0052】
式(2)は、熱処理の際にアクリル樹脂フィルムに加える張力を規定する。熱処理の条件を式(1)のようにするとともに、その際にアクリル樹脂フィルムに加える張力が特定の方向かつ式(2)に規定する範囲にあるとき、当該フィルムに含まれる重合体の配向が安定化して、熱による位相差の変化が少ない光学フィルムが得られる。
【0053】
熱処理工程において張力を加える方向は、アクリル樹脂フィルムの面内方向であって、当該フィルムに含まれる重合体の配向方向に垂直な方向である。この方向は、重合体の配向を緩和する方向であるが、上記所定の熱処理温度/時間の条件下において延伸することなく当該方向に上記張力を加えることにより、光学フィルムとなった後の時点における熱による重合体の配向の緩和が抑制され、位相差の変化が小さくなる。なお、「延伸することなく」とは、熱処理工程の前後において、アクリル樹脂フィルムの寸法が実質的に変化しないことをいう。例えば、張力を加える方向に対する延伸倍率で表現したときに、熱処理工程における当該延伸倍率は0.95倍〜1.05倍の範囲であり、0.98倍〜1.02倍が好ましく、0.99倍〜1.01倍がより好ましい。
【0054】
熱処理工程において張力を加える方向は、延伸後のアクリル樹脂フィルムが示す固有複屈折が正であるとき、当該フィルムの遅相軸方向(フィルム面内において最大の屈折率を示す方向)に直交する面内方向(進相軸方向)である。延伸後のアクリル樹脂フィルムが示す固有複屈折が負であるとき、当該フィルムの遅相軸方向である。延伸後のアクリル樹脂フィルムが帯状であるなど、熱処理工程に当該フィルムが連続的に搬送される場合、張力を加える方向は当該フィルムの搬送方向とは関係がない。アクリル樹脂の組成および延伸の状態によっては、搬送方向とは垂直な方向に張力が加えられる。本発明の製造方法では、延伸後のアクリル樹脂フィルムに含まれる重合体の配向方向によって、張力を加える方向が決定される。
【0055】
樹脂フィルムの、すなわち樹脂フィルムを構成する樹脂の固有複屈折の正負は、当該樹脂に含まれる重合体が(重合体の分子鎖が)一軸配向した層(例えばフィルム)において、当該層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層における重合体が配向する方向(配向軸)に平行な振動成分に対する層の屈折率n1から、配向軸に垂直な振動成分に対する層の屈折率n2を引いた値「n1−n2」に基づいて判断できる。樹脂の固有複屈折の正負は、当該樹脂に含まれる重合体が有する固有複屈折の兼ね合いにより決定される。
【0056】
熱処理方法は、式(1)、(2)の条件が実現できる限り、特に限定されない。例えば、上述した延伸機を利用できる。帯状のアクリル樹脂フィルムに対して、その搬送方向に張力を加えながら熱処理を実施する場合、例えば、熱処理温度に保持した延伸機を用い、搬送ロール間に周速差を与えることによって、当該熱処理を実施できる。搬送方向に張力を加える熱処理は、延伸機が横延伸機であっても実施可能である。具体的には、樹脂フィルムの横端部をクリップで挟むことなく開放するか、あるいは樹脂フィルムの横端部を挟むクリップ間の間隔を狭めることで、樹脂フィルムの幅方向に張力が加わらないように熱処理すればよい。帯状のアクリル樹脂フィルムに対して、その幅方向(搬送方向に垂直な方向)に張力を加えながら熱処理を実施する場合、例えば、熱処理温度に保持した横延伸機を用い、樹脂フィルムの横端部をクリップで挟むとともにクリップ間の距離を制御することによって、当該熱処理を実施できる。
【0057】
アクリル樹脂フィルムが帯状である場合、延伸工程と熱処理工程とを連続的に実施することも可能である。例えば、帯状のアクリル樹脂フィルムを搬送して、延伸装置および熱処理装置を連続的に通過させればよい。延伸装置と熱処理装置は同一の装置であってもよく、この場合、例えば、当該装置において延伸工程を行うゾーンと熱処理を行うゾーンとを分けて定めればよい。このような装置として、例えば、複数の加熱炉により構成され、各加熱炉の温度を個別に制御できる延伸機がある。熱処理温度は、熱処理を行うゾーンの保持温度である。熱処理時間は、アクリル樹脂フィルムが、熱処理を行うゾーンの入口から出口までを通過する時間である。
【0058】
一方、本発明の製造方法では、延伸工程と熱処理工程とを別個に実施しても構わない。延伸工程の後、熱処理工程を行う前にアクリル樹脂フィルムは一旦冷却されてもよい。
【0059】
本発明の製造方法は、本発明の効果が得られる限り、延伸工程および熱処理工程以外の任意の工程を含んでいてもよい。
【0060】
本発明の製造方法により得た光学フィルムは、例えば、位相差フィルムである。得られた位相差フィルムが示す面内位相差は、波長589nmの光に対して、例えば0nmを超え1000nm以下であり、20〜500nmが好ましく、50〜300nmがより好ましい。得られた位相差フィルムが示す厚さ方向の位相差は、波長589nmの光に対する絶対値にして、例えば30〜1000nmであり、30〜500nmが好ましく、70〜200nmがより好ましい。このような位相差フィルムは、LCDなどの画像表示装置における光学補償の用途に好適である。
【0061】
アクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂の組成によっては、本発明の製造方法により得た光学フィルムは、面内方向および/または厚さ方向に実質的にゼロの位相差(絶対値にして0〜0.5nm)を示す。このような光学フィルムは、LCDなどの画像表示装置における偏光子保護フィルムの用途に好適である。
【0062】
本発明の製造方法により得た光学フィルムの厚さは、例えば、10〜500μmであり、20〜300μmが好ましく、30〜100μmがより好ましい。
【0063】
本発明の製造方法により得た光学フィルムは、熱雰囲気下における位相差の変動が少ない。光学フィルムを構成するアクリル樹脂のTgから22℃低い温度(すなわち(Tg−22)℃)に当該フィルムを20時間静置した際における、静置前後の位相差(波長589nmの光に対する当該フィルムの面内位相差)の変化率{(Re2−Re1)/Re1×100(%)}は、例えば±5.0%未満であり、アクリル樹脂の組成ならびにアクリル樹脂フィルムの延伸条件および熱処理条件によっては±4.0%未満、さらには±3.0%未満となる。なお、上記式において、Re1は静置前の面内位相差、Re2は静置後の面内位相差である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0065】
最初に、本実施例において作製した重合体および光学フィルムの評価方法を示す。光学フィルムの評価は、当該フィルムにおける幅方向の中央部から評価用フィルム片を取得して行った。
【0066】
[重量平均分子量]
製造例で作製したアクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、以下の条件で求めた。
システム:東ソー社製GPCシステム HLC-8220、
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)、流量0.6ml/分、
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製、PS−オリゴマーキット)、
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー社製、TSKguardcolumn SuperHZ-L)、分離カラム(東ソー社製、TSKgel SuperHZM-M)2本直列接続、
リファレンス側カラム構成:リファレンスカラム(東ソー社製、TSKgel SuperH-RC)
【0067】
[ガラス転移温度]
製造例で作製したアクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC-8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温速度20℃/分で昇温して得られたDSC曲線から始点法により算出した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0068】
[厚さ]
作製した光学フィルムの厚さは、ミツトヨ製デジマチックマイクロメーター(最小表示量0.001mm)を用いて評価用フィルム片を20mm間隔で測定し、その平均値とした。
【0069】
[面内位相差]
作製した光学フィルムの面内位相差Reは、位相差測定装置(王子計測機器製、KOBRA-WR)を用いて測定波長589nmで測定した。
【0070】
[面内位相差変化率]
作製した光学フィルムの面内位相差変化率は、作製した光学フィルムを、当該フィルムを構成する樹脂のTgから22℃低い温度、すなわち(Tg−22)℃に20時間静置し、静置前後における光学フィルムの面内位相差Re1(静置前)およびRe2(静置後)をそれぞれ上記のように測定して求めた。面内位相差変化率は、式(Re2−Re1)/Re1×100(%)により求められる値である。なお、樹脂のTgから22℃低い温度での20時間の静置は、光学フィルムを画像表示装置に組み込んで1000時間使用する際の環境を想定した加速試験に対応している。
【0071】
[固有複屈折]
製造例で作製したアクリル樹脂の固有複屈折は、以下のようにして求めた。
【0072】
作製した樹脂を、280℃に設定した単軸押出機(φ=20mm、L/D=25)およびコートハンガータイプTダイ(幅150mm)を用いて、当該Tダイから、110℃に保持した冷却ロール上にフィルム状に押出、吐出して、厚さ100μmの原フィルム(未延伸フィルム)を作製した。次に、作製した未延伸フィルムを、二軸延伸機(東洋精機製作所製、TYPE EX4)を用いて、当該樹脂のTgより7℃高い延伸温度ならびにMD方向(Tダイからの押出、吐出方向)に2.0倍の延伸倍率で自由端一軸延伸して、厚さ70μmの一軸延伸性の延伸フィルムを作製した。次に、作製した延伸フィルムの配向角を、全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA-WR)により求め、その値に基づいて、樹脂の固有複屈折の正負を評価した。測定された配向角が延伸方向に対して0°近傍である場合、樹脂の固有複屈折は正であり、90°近傍である場合、樹脂の固有複屈折は負である。
【0073】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積1000Lの反応釜に、40重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、10重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、重合溶媒として50重量部のトルエンおよび0.025重量部の酸化防止剤(旭電化工業製、アデカスタブ2112)を仕込み、これに窒素を通じつつ105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.05重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、0.10重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエートを3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0074】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として0.05重量部のリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-8)を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、環化縮合反応(重合体を分子内脱アルコール反応させ、重合体分子内にラクトン環構造を形成させる反応)を進行させた後、240℃のオートクレーブにより重合溶液を30分間加熱し、環化縮合反応をさらに進行させた。
【0075】
次に、得られた重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーが設けられており、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm、濾過面積1.5m2)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=50.0mm、L/D=30)に、樹脂量換算で45kg/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を0.68kg/時の投入速度で第1ベントの後ろから、イオン交換水を0.22kg/時の投入速度で第2および第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、50重量部の酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ製、Irganox1010)と、失活剤として35重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とを、トルエン200重量部に溶解させた溶液を用いた。また、上記サイドフィーダーから、スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン/アクリロニトリルの比率は73重量%/27重量%、重量平均分子量22万)のペレットを投入速度19kg/時で投入した。
【0076】
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある樹脂を押出機の先端からポリマーフィルターにより濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体70重量%と、スチレン−アクリロニトリル共重合体30重量%とを含む透明なアクリル樹脂(A)のペレットを得た。アクリル樹脂のTgは122℃、重量平均分子量は16.1万、固有複屈折は負であった。
【0077】
(製造例2)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積1m2の反応容器に、MMA150kg、MHMA75kg、メタクリル酸n−ブチル(BMA)25kg、および重合溶媒としてトルエン250kgを仕込み、これに窒素を通じつつ105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.15kgのt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、0.30kgのt−アミルパーオキシイソノナノエートと3.5kgのトルエンとからなる重合開始剤溶液を6時間かけて滴下しながら、約105〜111℃の環流下で溶液重合を進行させ、重合開始剤溶液の滴下後、さらに2時間の熟成を行った。
【0078】
次に、得られた重合溶液に、環化触媒として0.25kgのリン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物(堺化学工業製、Phoslex A-8)を加え、約85〜105℃の環流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0079】
次に、得られた重合溶液を、熱交換器に通して220℃まで昇温した後、バレル温度250℃、回転速度170rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で15kg/時の処理速度で導入し、さらなる環化縮合反応と脱揮処理とを行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を0.46kg/時の処理速度で第1ベントと第2ベントとの間から投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、酸化防止剤として0.8重量部のチバスペシャリティケミカルズ製Irganox1010および0.8重量部の旭電化工業製アデカスタブAO−412Sと、失活剤として9.8重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛18%)とを、トルエン88.6重量部に溶解させた溶液を用いた。
【0080】
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある樹脂を押出機の先端から排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体からなる透明なアクリル樹脂(B)のペレットを得た。アクリル樹脂のTgは133℃、重量平均分子量は12.8万、固有複屈折は正であった。
【0081】
(実施例1)
製造例1で作製したアクリル樹脂ペレット(A)を溶融押出して、厚さ180μmの未延伸フィルムを得た。次に、得られた未延伸フィルムを、縦延伸装置ならびに横延伸装置を用いて連続的に縦延伸ならびに横延伸および熱処理して、二軸延伸性のアクリル樹脂延伸フィルムから構成される光学フィルムを作製した。縦延伸(溶融押出方向の延伸)は、延伸温度に保持した縦延伸装置内に、樹脂フィルムの搬送方向に対して間隔をあけて配置した一対のニップロールの周速差を利用して行った。横延伸は、設定温度(保持温度)が互いに異なる2つのゾーン(延伸ゾーンおよび熱処理ゾーン)が設けられた横延伸機における延伸ゾーンで行った。横延伸(幅方向の延伸)はテンター法を利用し、アクリル樹脂フィルムの横端部をクリップで挟んで行った。延伸条件は、縦延伸について延伸温度140℃、延伸倍率1.9倍、横延伸について延伸温度140℃、延伸倍率2.2倍とした。
【0082】
横延伸後、延伸フィルムを125℃に設定した熱処理ゾーンに搬送し、当該ゾーンにおいて15秒の熱処理を実施した。熱処理の時間は、搬送される延伸フィルムが熱処理ゾーンに入ってから当該ゾーンを出るまでの時間とした。熱処理の際には、延伸フィルムの流れ方向(遅相軸方向、アクリル樹脂(A)に含まれる重合体の配向方向に垂直な方向)に7.1N/mm2の張力を、横延伸機の前後に配置した一対の搬送ロールの周速差を利用して加えた。熱処理の前後において、アクリル樹脂フィルムの寸法の変化は当該フィルムの流れ方向、幅方向共にほとんどなく、延伸倍率により表現して当該倍率がおよそ0.98倍〜1.02倍の範囲内であった。熱処理の前後における当該寸法の変化の状態は、以降の各実施例、比較例(比較例4を除く)においても同様であった。
【0083】
このようにして得た延伸性の光学フィルムの厚さは60μm、Tgは122℃、面内位相差Re1は107.0nm、位相差変化率は−2.43%(加熱雰囲気における静置後の面内位相差Re2が104.4nm)であった。
【0084】
(比較例1)
熱処理の時間を40秒とし、熱処理の際に延伸フィルムに加える張力を7.0N/mm2とした以外は実施例1と同様にして、延伸性の光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの厚さは60μm、Tgは122℃、面内位相差Re1は105.1nm、位相差変化率は−5.14%(加熱雰囲気における静置後の面内位相差Re2が99.7nm)であった。
【0085】
(実施例2)
製造例1で作製したアクリル樹脂ペレット(A)を用い、実施例1と同様にして、二軸延伸性の光学フィルムを作製した。縦延伸および横延伸の条件は実施例1と同一とした。横延伸後、延伸フィルムを120℃に設定した熱処理ゾーンに搬送し、当該ゾーンにおいて20秒の熱処理を実施した。熱処理の際には、延伸フィルムの流れ方向(遅相軸方向、アクリル樹脂(A)に含まれる重合体の配向方向に垂直な方向)に7.1N/mm2の張力を、横延伸機の前後に配置した一対の搬送ロールの周速差を利用して加えた。
【0086】
このようにして得た延伸性の光学フィルムの厚さは60μm、Tgは122℃、面内位相差Re1は107.5nm、位相差変化率は−2.05%(加熱雰囲気における静置後の面内位相差Re2が105.3nm)であった。
【0087】
(比較例2)
熱処理ゾーンの温度を112℃に設定することで熱処理温度を112℃とし、熱処理の際に延伸フィルムに加える張力を7.8N/mm2とした以外は、実施例2と同様にして、延伸性の光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの厚さは60μm、Tgは122℃、面内位相差Re1は107.7nm、位相差変化率は−5.76%(加熱雰囲気における静置後の面内位相差Re2が101.5nm)であった。
【0088】
(実施例3)
製造例2で作製したアクリル樹脂ペレット(B)を溶融押出して、厚さ200μmの未延伸フィルムを得た。次に、得られた未延伸フィルムを、縦延伸装置ならびに横延伸装置を用いて連続的に縦延伸ならびに横延伸および熱処理して、二軸延伸性のアクリル樹脂延伸フィルムから構成される光学フィルムを作製した。縦延伸(溶融押出方向の延伸)は、延伸温度に保持した縦延伸装置内に、樹脂フィルムの搬送方向に対して間隔をあけて配置した一対のニップロールの周速差を利用して行った。横延伸は、設定温度(保持温度)が互いに異なる2つのゾーン(延伸ゾーンおよび熱処理ゾーン)が設けられた横延伸機における延伸ゾーンで行った。横延伸(幅方向の延伸)はテンター法を利用し、アクリル樹脂フィルムの横端部をクリップで挟んで行った。延伸条件は、縦延伸について延伸温度155℃、延伸倍率1.8倍、横延伸について延伸温度155℃、延伸倍率2.2倍とした。
【0089】
横延伸後、延伸フィルムを135℃に設定した熱処理ゾーンに搬送し、当該ゾーンにおいて15秒の熱処理を実施した。熱処理の時間は、搬送される延伸フィルムが熱処理ゾーンに入ってから当該ゾーンを出るまでの時間とした。熱処理の際には、延伸フィルムの幅方向(進相軸方向、アクリル樹脂(B)に含まれる重合体の配向方向に垂直な方向)に9.5N/mm2の張力を、延伸フィルムの横端部を挟むクリップ間の間隔を調整することで加えた。
【0090】
このようにして得た延伸性の光学フィルムの厚さは70μm、Tgは133℃、面内位相差Re1は82.2nm、位相差変化率は−2.43%(加熱雰囲気における静置後の面内位相差Re2が80.2nm)であった。
【0091】
(比較例3)
熱処理時に延伸フィルムに対して加える張力の大きさを0.2N/mm2とした以外は、実施例3と同様にして、延伸性の光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの厚さは70μm、Tgは133℃、面内位相差Re1は82.8nm、位相差変化率は−6.52%(加熱雰囲気における静置後の面内位相差Re2が77.4nm)であった。
【0092】
(実施例4)
熱処理時の延伸フィルムに対して加える張力の大きさを0.8N/mm2とした以外は、実施例3と同様にして、延伸性の光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの厚さは70μm、Tgは133℃、面内位相差Re1は82.5nm、位相差変化率は−4.85%(加熱雰囲気における静置後の面内位相差Re2が78.5nm)であった。
【0093】
(実施例5)
熱処理時の延伸フィルムに対して加える張力の大きさを11.0N/mm2とした以外は、実施例3と同様にして、延伸性の光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの厚さは70μm、Tgは133℃、面内位相差Re1は81.7nm、位相差変化率は−4.53%(加熱雰囲気における静置後の面内位相差Re2が78.0nm)であった。
【0094】
(比較例4)
熱処理時の延伸フィルムに対して加える張力の大きさを15.0N/mm2とした以外は、実施例3と同様にして延伸性の光学フィルムを得ようとしたが、熱処理中にフィルムが破断し、光学フィルムを得ることが出来なかった。
【0095】
各実施例および比較例の結果を、以下の表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1に示すように、式(1)および(2)に示す条件での熱処理を行うことにより、位相差変化率が小さい、すなわち熱が加わる環境下においても位相差の変化が生じにくい光学フィルム(位相差フィルム)が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の製造方法により製造された光学フィルムは、LCDなどの画像表示装置を始め、従来の方法により製造された光学フィルムが使用されていた各種の用途に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル重合体を主成分とするアクリル樹脂から構成される光学フィルムの製造方法であって、
アクリル樹脂フィルムを延伸する工程と、
前記延伸後のアクリル樹脂フィルムを、当該フィルムの面内方向であって、当該フィルムに含まれる重合体の配向方向に垂直な方向に張力を加えながら熱処理する工程と、を含み、
前記熱処理を以下の式(1)および(2)に示す条件下で行う、光学フィルムの製造方法。
A≧t≧18.7×e0.0868Tg×e-0.09T (1)
0.50≦F≦12.0 (2)
式(1)において、tは熱処理時間(秒)、Tは熱処理温度(℃)、Tgは前記アクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂のガラス転移温度(℃)である。Aは、熱処理時間tの上限であって、T≦Tgのとき120秒、T>Tgのとき30秒である。式(2)におけるFは、前記熱処理の際に前記延伸後のアクリル樹脂フィルムに加える前記張力(N/mm2)である。
【請求項2】
前記アクリル樹脂が、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を含む、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−96461(P2012−96461A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246272(P2010−246272)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】