説明

光学反射膜の形成方法

【目的】アルミニウム反射膜を大きな成膜速度で形成することができるスパッタリング成膜法を改良して、PMMA基板の面に対するアルミニウム反射膜の密着力を高くかつ一定に制御する手段を提供する。
【構成】真空中でプラスチックス基板に対向する電極に電力を供給してグロー放電させることにより該基板の表面を改質する第1工程と、ヘリウムを含有しない不活性ガス雰囲気中で該基板の表面に対してアルミニウム又はアルミニウム合金膜をスパッタリング成膜する第2工程と、ヘリウム含有不活性ガス雰囲気中で該基板の表面に対してアルミニウム又はアルミニウム合金膜をスパッタリング成膜する第3工程と、ヘリウムを含有しない不活性ガス雰囲気中で該基板の表面に対してアルミニウム又はアルミニウム合金膜をスパッタリング成膜する第4工程とを順に実施して光学反射膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は光学式情報ディスクや光学機器等における光学反射膜およびその形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】光学式ビデオディスクなどの光学式情報ディスクは、たとえばアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等のプラスチックス基板の面上に情報ピットを形成し、その上にアルミニウムまたはアルミニウム合金の光学反射膜を設けてなるものである。中でも光学式ビデオディスクにおいては、基板用材料として光学特性やコスト等の点からアクリル樹脂、すなわちPMMA(ポリメチルメタクリレート樹脂)を使用することが一般的であり、また光学反射膜用材料として反射率や耐久性及びコストなどの点から高純度のアルミニウムを用いることが一般的となっている。
【0003】このようなPMMA基板に対してアルミニウム反射膜を形成する方法としては真空蒸着法やスパッタリング法などの真空成膜法が挙げられるが、PMMA基板とアルミニウム反射膜との密着性の面から真空蒸着法を利用して成膜する方法が採用されることが多い。しかし密着性が真空蒸着法よりも劣るとされているスパッタリング法は成膜速度を大きく取ることができるところから、スパッタリング法を用いて成膜したアルミニウム反射膜の密着性を改善する方法が提案されており、例えば第1工程でアルゴンガス雰囲気中でごく僅かにアルミニウム薄膜を形成させ、続く第2工程でヘリウムガス雰囲気中で予定する反射膜の厚さの約半分までのアルミニウム膜を成膜し、更に第2工程で再びアルゴンガス雰囲気として残りの厚さ分のアルミニウム膜を成膜する方法がある(ドイツ特許出願第4004116.6号)。
【0004】しかしながら、このような改良方法によれば確かにPMMA基板に対するアルミニウム反射膜の密着性の改善は認められるものの、第1工程で形成されるアルミニウム薄膜の厚さを制御することは単にスパッタリング操作条件を厳密に制御するだけでは困難であって、このアルミニウム薄膜の厚さの変動によって最終的に形成される反射膜の密着力がばらつくことが防止できなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、アルミニウム反射膜を大きな成膜速度で形成することができるスパッタリング成膜法を改良して、PMMA基板の面に対するアルミニウム反射膜の密着力を高くかつ一定に制御する手段を提供しようとするものであり、更にその手段を利用して品質の優れたアルミニウム反射膜を再現性よく形成する方法を提供することを目的としたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記のような本発明の目的は、真空中でプラスチックス基板に対向する電極に電力を供給してグロー放電させることにより該基板の表面を改質する第1工程と、ヘリウムを含有しない不活性ガス雰囲気中で該基板の表面に対してアルミニウム又はアルミニウム合金膜をスパッタリング成膜する第2工程と、ヘリウム含有不活性ガス雰囲気中で該基板の表面に対してアルミニウム又はアルミニウム合金膜をスパッタリング成膜する第3工程と、ヘリウムを含有しない不活性ガス雰囲気中で該基板の表面に対してアルミニウム又はアルミニウム合金膜をスパッタリング成膜する第4工程とを含むことを特徴とする光学反射膜の形成方法によって達成することができる。
【0007】更に上記のプラスチックス基板表面の改質する第1工程を、放電時の電圧または電流の変化を信号として取り出し、該信号の変化が一定値以下になった時点で表面処理を停止するようにして実施することによって、一層効率的に光学反射膜の形成を行うことができる。
【0008】本発明において用いられるプラスチックス基板は特に限定されるものではないが、光学式ディスクの光学反射膜として利用する場合にはPMMAやポリカーボネート樹脂(PC)が好ましく、特にPMMAであるときは極めて優れた効果が発揮される。
【0009】また本発明において用いられる光学反射膜用の材料であるアルミニウムまたはアルミニウム合金としては、反射率の点からは高純度のアルミニウムであることが好ましいが、耐食性や密着性などの改善するためにアルミニウム合金を適宜選択して使用することもできる。
【0010】雰囲気ガス中に含まれる不活性ガスは周期律表第0族のガスであって、アルゴンが好ましく用いられるが、ネオン、クリプトン、キセノン等とアルゴンとの混合ガスであってもよい。またヘリウム含有不活性ガスはヘリウムを単独で含むガスであってもよいが、ヘリウムと上記の不活性ガスとの混合ガスであってもよい。
【0011】本発明においては、まず第1工程において前記のようなプラスチックス基板を真空室内に取り付け、基板に対向する電極に高電圧を印加してグロー放電させるが、この放電によって発生するプラズマの作用によってプラスチックス基板の表面が改質される。しかしこうした表面改質時間は一般にプラスチックス基板の品質や経歴のみならず保管環境条件等によっても変化し一定とはならないのが普通である。そして、グロー放電時の電圧は徐々に上昇して安定したレベルに到達すると同時に、放電電流も放電開始時には一時的に高くなるが徐々に低下して安定したレベルに落ち着くものである。
【0012】ところでこのようなグロー放電による表面改質においては、グロー放電時の電圧または電流が安定したレベルに到達したときにグロー放電を停止することにより、プラスチックス基板の表面を傷つけることなく充分な改質効果を挙げることができることがわかった。そこで本発明においてはグロー放電時の電圧または電流の変化を信号として取り出し、該信号の変化が一定値以下になった時点で表面処理を終了することとしたものであり、例えば図1に示すような装置を利用することによって確実に表面改質の終了時点をとらえることができる。
【0013】なお図1の装置において、1は真空室であり、図示しない真空ポンプと不活性ガス供給装置とが接続されていて、真空室1内の圧力を一定とするために不活性ガスの導入量と真空ポンプの吸引量とが釣り合うように制御されている。2は真空室1内に設けられた電極であり、3は同じく真空室1内に電極2と対向して取り付けられたプラスチック基板である。4は電極2に電力を供給する電源回路、5は電源回路4から電極2に供給される電力の電圧あるいは電流を検出する検出回路、6は検出回路5で検出された電圧あるいは電流信号をクロックパルス毎に掃引すると共に掃引毎の信号を比較して、その差が一定値以下になった時に電源装置4に停止信号を送出する制御回路である。なお、このような第1工程を実施する際に対向する電極としてターゲット材を用いれば、ターゲットの表面も同時に清浄化されるという利点もある。
【0014】こうして第1工程が終了したのち、真空室内にヘリウムを含有しない例えばアルゴンのような不活性ガスを導入して基板の表面に対してアルミニウム又はアルミニウム合金膜をスパッタリング成膜する第2工程を実施する。この第2工程においては、改質済の基板表面に対してアルミニウムのスパッタリング成膜をおこなうが、例えば10〜10-1Pa程度の圧力の不活性ガスを雰囲気ガスとして導入した真空容器内で通常の条件に従って実施することができ、その膜厚は通常5〜15nmであることが好ましい。
【0015】次に第2工程に続いて、真空室内にヘリウム含有不活性ガスを導入して基板の表面に対してアルミニウム又はアルミニウム合金膜をスパッタリング成膜する第3工程を実施する。この工程においては第2工程で成膜したアルミニウム薄膜の上に更にアルミニウムのスパッタリング成膜をおこなうが、例えば10〜10-1Pa程度の圧力のヘリウム含有不活性ガスを雰囲気ガスとして導入した真空容器内で、通常の条件に従って実施することができる。
【0016】更に第3工程に続いて第4工程のスパッタリング成膜を実施するが、その際には雰囲気ガスとして例えば10〜10-1Pa程度の圧力のヘリウムを含まない不活性ガスを導入するほかは第3工程と同様な条件に従って実施することができる。また第3工程と第4工程とで成膜されるそれぞれのアルミニウム膜の厚さはこれらの工程全体で形成される膜の厚さの約半分ずつとなるようにするのが好ましく、また全体の厚さが60〜150nmとなるようにするのがよい。この反射膜厚がこれより小さ過ぎるときは耐久性や欠陥発生の点で信頼性が劣り、またこれより厚過ぎても特に反射率の改良は望めないうえに経済的でない。
【0017】
【作用】このような本発明の方法に従ってプラスチックス基板の表面上にアルミニウム又はアルミニウム合金をスパッタリングすることにより形成された薄膜は、プラスチックス基板の材料の品質、保管環境、保管時間などのばらつきによる影響を受けることなく、ばらつきが少なくて良好な密着性と高い光反射率を有しているばかりでなく、厚さの揃った均質な反射膜となる。
【0018】
【実施例】直径30cm、厚さ1.2mmのPMMA基板を射出成形した後、温度23℃、湿度50%RHの無塵室内にそれぞれ所定時間保管し、これをDCスパッタ装置の中に取り付け、装置内を一旦10-3Paまで排気したのち、アルゴンで置換して装置内の圧力を1Pa程度に維持し、グロー電極として用いるアルミニウムのターゲットに高電圧を印加してグロー放電を開始させてPMMA基板の面をプラズマ処理した(第1工程)。こうして改質処理が終了すると同時に印加電力10kWでアルミニウムのスパッタリング成膜を0.3秒間行ない、厚さ10nmのアルミニウム薄膜を形成した(第2工程)。
【0019】次に装置内に導入するガスをアルゴンからヘリウムに変更し、装置内の圧力を1Pa程度に維持しながら、基板の面上に更に厚さが35nmのアルミニウム膜が形成されるように6.0秒間のスパッタリング成膜を行なった(第3工程)。その後、装置内に導入するガスをヘリウムとアルゴンとの混合ガスからアルゴンに変更し、装置内の圧力を1Pa程度に維持しながら、基板面上のアルミニウム膜の上に更に厚さが35nmのアルミニウム膜が形成されるように1.1秒間のスパッタリング成膜を行なって(第4工程)、合計の膜厚が80nmのアルミニウム光学反射膜を有する光学ディスクを形成した。
【0020】一方、第1工程の表面処理と第2工程のアルミニウム薄膜の形成とを行う代わりに、装置内の圧力がアルゴンで1Pa程度となった後に初めから印加電力10kWでアルミニウムのスパッタリング成膜を1.0秒間行なってアルミニウム薄膜を形成し、その後上記の第3工程及び第4工程と全く同様の方法でスパッタリング成膜して膜厚が70〜85nmのアルミニウム光学反射膜を有する光学ディスクを形成した。
【0021】このようにして本発明の方法に従って基板の表面改質処理を行った後にスパッタリング成膜を実施した光学ディスクと、従来の方法に従って初めからスパッタリング成膜を実施した光学ディスクとについて、それぞれ信号対ノイズ比(CNR)を測定し、試料3個の平均値とその標準偏差とを算出して保管時間との関係を調べた。その結果を表1に示した。
【0022】
【表1】
信号対ノイズ比(dB)
─────────────────────────────────── 基板保管 本発明による光学ディスク 従来方法による光学ディスク 時間(分) 平均 標準偏差 平均 標準偏差 ─────────────────────────────────── 0 38.5 0.06 38.0 0.26 5 38.6 0.12 38.8 0.36 10 38.4 0.20 37.8 0.45 30 38.5 0.10 37.4 0.56 60 38.4 0.12 38.0 0.56 360 38.7 0.06 38.4 0.20 ─────────────────────────────────── 平均 0.13 0.51 ───────────────────────────────────
【0023】この結果から、本発明の光学反射膜の形成方法によって、プラスチック基板の表面性状の微妙なばらつきに影響されることなく高品質で性能の均一なアルミニウム反射膜が得られることがわかる。
【0024】
【発明の効果】本発明によれば、密着力が改善されても品質の均一性に問題があったスパッタリング成膜法によって、密着力が良いうえに高品質で性能の均一な光学反射膜をプラスチック基板の表面上に形成することができ、特にビデオディスクの反射膜として利用するときには再生信号の忠実度が高くかつばらつきの少ない製品を安定して提供できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光学反射膜の形成方法を実施する装置の例を示す構成図である。
【符号の説明】
1 真空室
2 電極
3 基板
4 電源回路
5 電圧あるいは電流の検出回路
6 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】 真空中でプラスチックス基板に対向する電極に電力を供給してグロー放電させることにより該基板の表面を改質する第1工程と、ヘリウムを含有しない不活性ガス雰囲気中で該基板の表面に対してアルミニウム又はアルミニウム合金膜をスパッタリング成膜する第2工程と、ヘリウム含有不活性ガス雰囲気中で該基板の表面に対してアルミニウム又はアルミニウム合金膜をスパッタリング成膜する第3工程と、ヘリウムを含有しない不活性ガス雰囲気中で該基板の表面に対してアルミニウム又はアルミニウム合金膜をスパッタリング成膜する第4工程とを含むことを特徴とする光学反射膜の形成方法。
【請求項2】 プラスチックス基板表面の改質する第1工程を、放電時の電圧または電流の変化を信号として取り出し、該信号の変化が一定値以下になった時点で表面処理を停止するようにして実施する請求項1記載の光学反射膜の形成方法。
【請求項3】 プラスチックス基板がアクリル樹脂から形成されたものである請求項1又は2に記載の光学反射膜の形成方法。

【図1】
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