説明

光学式ガスセンサおよびガス濃度測定方法

【課題】非接触型で、多種類のガスの濃度をほぼリアルタイムで測定することができる光学式ガスセンサの提供。
【解決手段】測定対象ガスが導入されるガスセルと、ガスセルにレーザー光を照射するレーザー装置と、ガスセルからのラマン散乱光を反射する反射機構と、反射機構により反射された前方および後方ラマン散乱光を集光するための波長選択フィルターを有する受光機構と、前方および/または後方ラマン散乱光に基づき測定対象ガスの濃度を算出する演算部と、を備えたガスセンサであって、検出対象となる一のガスの種別に応じた波長選択フィルターを選択可能に構成されたガスセンサ及びその方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多種類のガスからのラマン散乱光に基づき各ガスのガス濃度を測定することができる光学式ガスセンサおよびガス濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大気中の公害物質の測定や、プラント施設での可燃性ガスや毒性ガスの発生監視などにガス検出器が広く使用されている。微量ガス検出方法として光学的方法、特にレーザー分光分析技術が盛んに研究されている。レーザー光を用いたガス検出手法としては、レーザー吸収分光法、レーザー誘起蛍光法、ラマン散乱分光法などがある。
【0003】
ここで、ラマン散乱は、単色光を分子に照射したときに、散乱光の周波数が分子の振動周波数だけ変移する現象であり、この散乱光の周波数変移量は、照射した単色光の周波数に無関係で、物質に固有の量である。そのため、特定波長のレーザー光を測定対象の物質に照射すると、レーザー光が当たった物質から、レーザー光の波長と異なる波長のラマン散乱光が発生する。また、その散乱光の強度は、その物質の濃度に比例することが知られている。
【0004】
ラマン散乱分光法を利用したガスの可視化ないし計測に関する技術としては、出願人が提案した、監視対象空間にレーザー光を照射し、表1に記載の監視対象ガスの種別に応じて、照射したレーザー光の波長を表1に記載の数値だけラマンシフトした波長のラマン散乱光を集光し、電子画像に変換し、増幅し、再度光学像に変換することで特定波長のラマン散乱光の空間強度分布を画像化し、監視対象空間の背景画像と重ね合わせることにより、監視対象空間の背景画像上に漏洩ガスを表示することを特徴とするガス漏洩監視方法及びそのシステム(特許文献1参照)、
レーザー光により監視対象空間を走査し、当該レーザー光の波長をラマンシフトした波長に透過波長中心を有する第1の光学バンドパスフィルターによりラマン散乱光を集光し、1素子の受光素子により電気信号に変換し、第1の時間波形を測定すると共に、前記第1の光学バンドパスフィルターの透過光と波長域が異なる光を透過する第2の光学バンドパスフィルターにより特定波長の光を集光し、1素子の受光素子により電気信号に変換し、時間波形を測定し、続いて第1の時間波形と第2の時間波形との差分をとり、レーザー光の走査位置情報に基づいて監視対象空間の対応する位置座標を着色したラマン散乱光信号画像を作成し、それを監視対象空間の背景画像上に重畳表示することで水素ガスを可視化することを特徴とする水素ガス可視化方法及びそのシステム(特許文献2参照)、
対象空間にレーザー光を照射し、窒素ガスからの散乱光を集光機構で集光し、第一の受光機構でラマン散乱光信号強度を測定する第一工程、第一工程と同期して、対象空間にレーザー光を照射し、対象ガスの散乱光を集光機構で集光し、第二の受光機構でラマン散乱光信号強度を測定する第二工程、窒素ガスと対象ガスのラマン散乱光強度の強度比に基づいて対象空間における対象ガスの濃度を計算する第三工程、とを含むガス濃度遠隔計測方法およびその装置(特許文献3参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3783019号公報
【特許文献2】特開2007−232374号公報
【特許文献3】WO2009/101659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
濃度を測定可能なガスセンサとしては、接触型のものと非接触型のものがあるが、メンテナンスの必要性が少ない非接触型のセンサーのニーズが高い。本発明は、非接触型で、多種類のガスの濃度をほぼリアルタイムで測定することができる光学式ガスセンサを提供することを目的とする。
【0007】
また、ガスの存在箇所にガスセンサを携行することができること軽量・小型のガスセンサが求められており、さらに、可燃性ガスも測定できるように、ケーブルで接続された可動自在な検出部を電気・電子回路が存在しない完全防爆型とすることも求められている。
また、高濃度ガスのみならず低濃度のガスを測定することも求められている。例えば、水素ガスは常温常圧の空気中で濃度4%から75%の範囲では急激に燃焼反応が進むため、高圧ガス保安法では、ガスセンサとして爆発下限濃度の1/4の濃度(1%)以下を測定する能力が求められている。
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを可能とするガス濃度測定技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、測定対象ガスが導入されるガスセルと、ガスセルにレーザー光を照射するレーザー装置と、ガスセルからのラマン散乱光を反射する反射機構と、反射機構により反射された前方および後方ラマン散乱光を集光するための波長選択フィルターを有する受光機構と、前方および/または後方ラマン散乱光に基づき測定対象ガスの濃度を算出する演算部と、を備えたガスセンサであって、検出対象となる一のガスの種別に応じた波長選択フィルターを選択可能に構成されたガスセンサである。
第2の発明は、第1の発明において、前記受光機構が、前方ラマン散乱光を受光する第1の受光系および後方ラマン散乱光を受光する第2の受光系を備え、前記反射機構が、レーザー光を通過させ、かつ、第1の受光系へ前方ラマン散乱光を導光する第1の反射部材(2a)と、第2の受光系へ後方ラマン散乱光を導光する第2の反射部材(2b)を備えることを特徴とする。
第3の発明は、第1の発明において、前記反射機構が、レーザー光を通過させ、かつ、受光機構へ前方および後方散乱光を導光する第1の反射部材と、レーザー光およびガスセルからの前方ラマン散乱光を反射する第2の反射部材を備えることを特徴とする。
第4の発明は、第3の発明において、さらに、第1の反射部材とガスセルを光学的に接続し、レーザー光ならびに前方および後方ラマン散乱光を伝送する光ファイバーを備えることを特徴とする。
第5の発明は、第1の発明において、前記反射機構が、凹面回析格子(9)と反射部材(8)を含んで構成され、レーザー光と前方ラマン散乱光を異なる方向に反射する前方散乱光反射機構と、レーザー光を通過させ、前方散乱光反射機構から入射された前方ラマン散乱光およびガスセルからの後方ラマン散乱光を受光機構に導く反射部材(2)を備えることを特徴とする。
第6の発明は、第1の発明において、さらに、レーザー装置とガスセルを光学的に接続し、レーザー光ならびに前方および後方ラマン散乱光を伝送する光ファイバーを含んでなる光伝送経路と、光ファイバーを伝送されるラマン散乱光を分岐する光ファイバーカプラと、光ファイバーカプラと受光機構を光学的に接続する光ファイバーを含んでなるラマン散乱光伝送経路を備えることを特徴とする。
第7の発明は、第1の発明において、さらに、レーザー装置とガスセルを光学的に接続し、レーザー光を伝送する第1の光伝送経路と、ガスセルと受光機構を光学的に接続し、前方および後方ラマン散乱光を伝送する第2の光伝送経路を有する光ファイバーを備えることを特徴とする。
【0010】
第8の発明は、受光機構の有する複数の波長選択フィルターから検出対象となる一のガスの種別に応じて波長選択フィルターを選択する第1の工程、ガスセルに導入された混合ガスに所定の繰り返し周波数でレーザー光を照射し、ガスセルからのラマン散乱光を反射する反射機構により反射された前方および後方ラマン散乱光を受光機構へ伝送する第2の工程、前方および/または後方ラマン散乱光に基づき検出対象となる一のガスの濃度を算出する第3の工程、受光機構の有する複数の波長選択フィルターから検出対象となる一のガスの種別に応じて第1の工程とは異なる波長選択フィルターを選択する第4の工程、ガスセルに導入された混合ガスに所定の繰り返し周波数でレーザー光を照射し、ガスセルからのラマン散乱光を反射する反射機構により反射された前方および後方ラマン散乱光を受光機構へ伝送する第5の工程、前方および/または後方ラマン散乱光に基づき検出対象となる一のガスの濃度を算出する第6の工程、を含むガス濃度測定方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多種類のガス濃度をほぼリアルタイムで測定することができる非接触型のガスセンサを提供することが可能となる。
また、軽量・小型であり、ケーブルで接続された可動自在な検出部が完全防爆型のガスセンサを提供することが可能となる。
さらには、高濃度のガスから低濃度のガスまで測定可能なガス濃度測定技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るガスセンサの構成図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るガスセンサの構成図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係るガスセンサの構成図である。
【図4】本発明の第4の実施形態に係るガスセンサの構成図である。
【図5】本発明の第5の実施形態に係るガスセンサの構成図である。
【図6】本発明の第6の実施形態に係るガスセンサの構成図である。
【図7】ラマン散乱光の信号強度と受光面積、距離などの関係を説明するための模式図である。
【図8】分子数Nの測定対象ガスに強度Pのレーザー光線を照射し、O地点で発生したラマン散乱光を離隔距離Lで検出する場合の模式図である。
【図9】実施例1に係るガスセンサの構成図である。
【図10】実施例1に係る水素ガスの測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例1に係るガスセンサにおいて、バンドパスフィルターおよびガスセルを置き換えた場合の構成図である。
【図12】実施例1に係る窒素ガスの測定結果を示すグラフである。
【図13】実施例2に係るガスセンサの構成図である。
【図14】実施例2に係る水素ガスの測定結果を示すグラフである。
【図15】実施例2に係る窒素ガスの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光学式ガスセンサおよびガス濃度測定方法では、複数種類のガスからなる混合ガスにレーザー光を照射し、複数の狭帯域フィルターを用いて各分子スペクトルのピークを検出する。混合ガスにおいて、各ガスのラマンスペクトルがピークを備え、かつ、スペクトル線の重なりが無い場合には、各フィルターにより各ガスの濃度を測定することができる。表1に示すH、N、O、COなどのガスにおいては、レーザービームなどの光線の波長からラマンシフトした波長にピークが観測されることが知られている。
【表1】

【0014】
《第1の実施形態》
図1は、本発明に係る第1の実施形態の構成図である。第1の実施形態の光学式ガスセンサは、レーザー装置1からパルス状に発振されたレーザー光を、穴あきミラー2bの貫通孔を通過させてガス測定空間3に照射し、ガス測定空間3に発生したラマン散乱光を受光器7a、7bで受光するものである。受光器7aは、前方ラマン散乱光を受光するためのものであり、受光器7bは、後方ラマン散乱光を受光するためのものである。なお、穴あきミラーに代えてダイクロイックミラーを用いてもよい。
【0015】
本実施の形態は、レーザーカットフィルター4a、バンドパスフィルター5a、集光レンズ6a、および受光器7aからなる第1の受光系(前方散乱光用受光系)と、レーザーカットフィルター4b、バンドパスフィルター5b、集光レンズ6b、および受光器7bからなる第2の受光系(後方散乱光用受光系)と、を備えてなる受光機構を有する。すなわち、ガス測定空間3内の混合ガスに起因する前方ラマン散乱光は、第1の反射機構を構成する穴あきミラー2aに反射され、レーザーカットフィルター4a、バンドパスフィルター5a、集光レンズ6aを通過し受光器7aに検出され、後方ラマン散乱光は、第2の反射機構を構成する穴あきミラー2bに反射され、レーザーカットフィルター4b、バンドパスフィルター5b、集光レンズ6bを通過し受光器7bに検出される。なお、穴あきミラー2aに入射されたレーザー光は、穴あきミラー2aの貫通孔を通過するため、受光機構側には反射されない。
【0016】
レーザーカットフィルター4a、4bは、レーザー装置1から発せられたレーザー光が受光器7a、7bに入射するのを防ぐためのものである。微弱なラマン散乱光を精度良く測定するためには、レーザー光線によるノイズを完全に遮断することが望ましいからである。
バンドパスフィルター5a、5bは、狭帯域の光学フィルターで、検出するガスのラマンスペクトルのピークに透過波長中心を有している。ガスの種別毎に使用するバンドパスフィルターも異なるため、バンドパスフィルターは検出するガスの数と同じ数だけ用意される。例えば、複数の波長選択フィルターを備えた回転式あるいはスライド式のフィルタホルダー(切換機構)を設け、水素ガスの濃度を検出する場合には中心波長416.5nmのフィルターを選択し、窒素ガスの濃度を検出する場合には中心波長386.5nmのフィルターを選択することが開示される。
【0017】
ガス濃度の算出は、測定された前方散乱光と後方散乱光のいずれか、或いは、前方散乱光と後方散乱光の強度の和に基づき行われる。ガス濃度を算出するための検量線は、既知濃度の観測対象ガスを充填したガスセルにおいて、予めガス濃度とラマン散乱光強度の相関を求めることにより作成したものを用いる。
ガス濃度の測定時間は、レーザーの発振繰り返し周波数に依存する。機器の組み合わせや加算回数などの条件にもよるので一概にはいえないが、例えば、レーザーの発振繰り返し周波数は数百Hz以上とするのが好ましく、1kHz以上とするのがより好ましい。
第1の実施形態では、穴あきミラーの穴にレーザー光を通過させる構成によりレーザー光の反射・散乱光が低減されるので、SNの向上を図ることが可能である。
【0018】
《第2の実施形態》
図2は、本発明に係る第2の実施形態の構成図である。
レーザー装置1、穴あきミラー2、ガス測定空間3、レーザーカットフィルター4、バンドパスフィルター5、対物レンズ6、および受光器7は、第1の形態と同様である。本実施の形態では、前方散乱光を全反射ミラー8で反射し、前方散乱光と後方散乱光を同一の受光系で観察するので、受光機構は単一の受光系とする点で第1の実施形態と異なる。
本実施の形態では、散乱強度の大きい前方ラマン散乱光を全反射ミラーで後方に押し返して、後方散乱光と前方散乱光を合わせて測定することで大きな信号を得ることを可能としている。また、レーザー光も全反射ミラー8で後方に反射することによりさらに多くの前方散乱光を発生することができる。したがって、本実施の形態は、低濃度の測定に特に好適である。
【0019】
《第3の実施形態》
図3は、本発明に係る第3の実施形態の構成図である。
レーザー装置1、穴あきミラー2、ガス測定空間3、レーザーカットフィルター4、バンドパスフィルター5、対物レンズ6、および受光器7は、第2の形態と同様である。本実施の形態では、全反射ミラー8の代わりに、全反射ミラー8と凹面回析光子9を組み合わせてなる反射機構を用いて、レーザー光を受光機構とは異なる方向に反射させ、前方ラマン散乱光だけを穴あきミラー8に反射させる点で第2の実施形態と異なる。すなわち、本実施の形態では、レーザー光とラマン散乱光の波長が異なることを利用し、回折格子とミラーを用いて特定波長の光だけを後方に反射させることを可能とした。
凹面回析光子9あるいは全反射ミラー8を可動して反射角を変更することにより、任意のガスに起因するラマン散乱光を受光機構側に反射させることが可能である。
【0020】
《第4の実施形態》
図4は、本発明に係る第4の実施形態の構成図である。
本実施の形態では、レーザー光とラマン散乱光の伝送に光ファイバーを利用する構成であり、例えば、建造物の死角になった部分や暗渠部などにおけるガスを検知するのに適している。この実施の形態によれば、光ファイバーの先端に設けられた完全防爆型の非常に小さな検出部を構成することが可能である。
レーザー装置1からからパルス状に発振されたレーザー光は、ダイクロイックミラー10を透過し、光ファイバー12を伝送され、球レンズ13からガス測定空間3に入射される。ガス測定空間3で生じた前方ラマン散乱光は、全反射ミラー8により反射され、後方ラマン散乱光と共に球レンズ13を介して光ファイバー12に入射され、ダイクロイックミラー10により受光機構に反射される。
凸レンズ11は、レーザー光を光ファイバー端面に集光する集光レンズとして作用し、同時に光ファイバーから出るラマン散乱光の拡散を防止する(平行光に近くする)コリメートレンズとしての作用を奏する。レーザー光とラマン散乱光の波長が違うため焦点位置が異なるが、本実施の形態では、レーザー光の集光を優先し、ラマン散乱光の平行度を犠牲にしている(バンドパスフィルターは平行光が入射した場合に本来の特性が得られるが、実際の測定においては概ね平行光であれば問題はない)。
レーザー光を透過し、ラマン散乱光を反射するダイクロイックミラー10によって波長を選択する。前方および後方からのラマン散乱光測定強度はレーザー光の偏光に無関係であるので、シングルモード光ファイバーやマルチモード光ファイバーが利用できる(但し、レーザー光軸に対して横方向から測定する場合は、レーザー光の偏波面によって散乱光強度が大きく異なるため、偏波保持光ファイバーでレーザー光を伝送する必要がある)。
【0021】
光ファイバー12の先端に設けた球レンズ13は、光ファイバーから出るレーザー光の拡散を防止し(ビーム状にする)、ラマン散乱光を光ファイバー端面に集光する作用を奏する。ラマン散乱光の受光面積を広くすることにより強いラマン散乱光信号強度を得ることができる。レーザー光とラマン散乱光の波長が違うため焦点位置が異なるが、レーザー光の作用を優先した。球レンズ13の代わりにロッドレンズ(セルフォックレンズ)を用いてもよい。
ラマン散乱光の信号強度は、
(レーザー光強度(光子数))×(分子数)×(ラマン散乱断面積)×(受光面積)×(距離)−2
で求められる(ただし吸収が無い場合)。ここで、(ラマン散乱断面積)はcm・sr−1 、(受光面積)×(距離)−2は立体角となり、単位はsrである。この関係を図7に模式図的に示す。
【0022】
ラマン散乱光信号強度の見積は、次の手順で行う。
図8は、分子数Nの測定対象ガスに強度Pのレーザー光線を照射し、O地点で発生したラマン散乱光を離隔距離Lで検出する場合の模式図である。受光開口面積をs、光学系効率をK、受光素子の量子効率(光→電流変換率)をγ、負荷抵抗をRとした場合の信号強度S(R)は、下記式1により算出することができる。
【0023】
[式1]

【0024】
式1より、ラマン散乱光の受光面積sを大きくすることにより強いラマン散乱光信号強度を得ることができ、また観測距離Lを短くすることでより強いラマン散乱光信号強度が得られる。すなわち、図4のレンズ13を大きくしてガスに接触させることでより強いラマン散乱光信号強度が得られることとなるから、ラマン散乱光の集光部を小型化してガス中に挿入する方法が有効である。
【0025】
《第5の実施形態》
図5は、本発明に係る第5の実施形態の構成図である。
レーザー装置1からからパルス状に発振されたレーザー光は、光源側光ファイバー17に入射され、光ファイバーカプラ14、光ファイバー12および球レンズ13を介してガス測定空間3に照射される。ガス測定空間3で生じた前方ラマン散乱光は、全反射ミラー8により反射され、後方ラマン散乱光と共に球レンズ13を介して光ファイバー12に入射され、光ファイバーカプラ14により受光側光ファイバー18に入射され、受光機構に伝送される。
光学フィルターは平行光が入射した場合に本来の特性が得られるため、コリメートレンズ15により光ファイバーから出るラマン散乱光を平行光に近い状態にしている。
【0026】
《第6の実施形態》
図6は、本発明に係る第6の実施形態の構成図である。
第6の実施形態では、レーザー光の伝送とラマン散乱光の伝送を2芯の光ファイバー19を用いて行う構成である。第5の実施形態の光ファイバーカプラ14と光ファイバー12が2芯の光ファイバー19に置き換えられた点以外は、第6の実施形態と同じである。
【0027】
以下では、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
実施例1は、2枚の穴あきミラーを用いてラマン散乱光を測定するガスセンサに関し、上述の第1の実施形態に係る実施例である。
レーザー装置1からパルス状に発振された波長355nmのレーザー光は、球面両凹レンズ21および球面両凸レンズ22で拡径され、偏光ビームスプリッタ23、偏光解消板24、スペイシャルフィルター25を介して、照射断面積の大きい平行光としてガスセル3内に照射される。
本実施例では、ガスセル3からの前方ラマン散乱光を検出する第1の受光系と、後方ラマン散乱光を検出する第2の受光系を備える。第1の受光系は、カラーフィルター41a、エッジフィルター42a、バンドパスフィルター5a、球面平凸レンズ6aおよび受光器7aを備え、第2の受光系は、カラーフィルター41b、エッジフィルター42b、バンドパスフィルター5b、球面平凸レンズ6bおよび受光器7bを備える。
【0029】
波長355nmのレーザー光が受光器に入射するのを防ぐレーザーカットフィルターとして、390nmより短波長の光を吸収するカラーフィルター41と、359.6−800.8nmの透過帯域を有する3枚のエッジフィルター42が、各受光系に設けられている。
バンドパスフィルター5は、検出するガスに対応するものが選択されて使用される。異なるガスの濃度を順次測定できるように、受光器7a、7bの前には複数のバンドパスフィルターを備えたフィルター切換機構(図示せず)が設けられている。表2に各機器の仕様を示す。
【0030】
【表2】

【0031】
受光器7a、7bで検出された電気信号に基づき、演算部がガス濃度を算出する。演算部は、パーソナルコンピュータと専用のソフトウェアにより構成され、予め作成した検量線に基づきガス濃度を算出する。この専用のソフトウェアにおいては、分析を行う時間間隔、分析の回数、発光スペクトル強度の加算回数、発光スペクトル信号強度の平均回数、信号強度から濃度を求めるための係数を個々に入力しておき、分析対象ガスを指定することで最適分析条件に設定することも可能である。
実施例における測定条件は、レーザーの発振繰り返し周波数40Hz、光電子増倍管の印加電圧−650V、加算回数(平均化処理回数)256回、一回の測定時間6.4秒、データ処理時間0.1秒、測定間隔7秒であった。
ここで測定時間は、レーザーの発振繰り返し周波数を高くすることで短縮することができる。例えば、市販されているレーザー装置には、発振繰り返し周波数が1kHzのものがあり、これを使用すると測定時間は0.3秒程度となる。測定時間とデータ処理時間を合わせて0.4秒程度の時間となるので、0.5秒間隔での測定が実行可能となる。
【0032】
実施例1のガスセンサにおいて、水素ガス検出用のバンドパスフィルター(中心波長416.5nm)を選択し、水素ガスの濃度を測定した。図10は、濃度100%の水素ガスの前方および後方ラマン散乱光の測定結果を示すグラフである。
【0033】
続いて、実施例1のガスセンサにおいて、窒素ガス検出用のバンドパスフィルター(中心波長386.5nm)を選択し、窒素ガスの濃度を測定した。ここでは、便宜上ガスセル3を異なる形状のもの(図11参照)に置き換えて、窒素ガスの濃度測定を行った。図11のガスセル3には、アルゴンガスを供給するための管が接続されており、レーザー光が通過する窓以外の部分は、シグマサイバーテック社の遮光・吸光シート(SBIR)で覆われている。この測定においては、ガスセル3の窒素ガス(濃度80%)のラマン散乱光強度と、ガスセル3にアルゴンガスを放出して空気を排除したとき(窒素濃度0%)の信号強度との差を求めた。
図12は、大気中の窒素ガス(濃度約80%)の前方および後方ラマン散乱光の測定結果を示すグラフである。
【0034】
以上のとおり、実施例1のガスセンサにより、前方散乱光と後方散乱光のいずれか、或いは、前方散乱光と後方散乱光の強度の和から水素ガス、窒素ガスの濃度を計測できることが確認された。
実施例1のガスセンサによれば、穴あきミラーの穴にレーザー光を通過させる構成を採用することで、レーザー光の反射・散乱光を低減することでき、SNの向上を図ることが可能である。
【実施例2】
【0035】
実施例2は、1枚の穴あきミラーを用いてラマン散乱光を測定するガスセンサに関し、上述の第2の実施形態に係る実施例である。
符号1のレーザー装置、2の穴あきミラー、3のガスセル、5のバンドパスフィルター、6の対物レンズ、21の球面両凹レンズ、22の球面両凸レンズ、23の偏光ビームスプリッタ、24の偏光解消板、25のスペイシャルフィルターは、41のカラーフィルター、42のエッジフィルターおよびフィルター切換機構(図示せず)は、実施例1と同じである。
本実施例では、ガスセル3を挟んで穴あきミラー2と対向する全反射ミラー8を設けることにより、前方および後方ラマン散乱光を一の受光系により検出する点で実施例1と相違する。図13に、実施例2のガスセンサの構成図を、表3に全反射ミラー8の仕様を示す。
【0036】
【表3】

【0037】
実施例2のガスセンサにおいて、水素ガス検出用のバンドパスフィルター(中心波長416.5nm)を選択し、水素ガスの濃度を測定した。図14は、濃度100%の水素ガスの前方および後方ラマン散乱光の測定結果を示すグラフである。
【0038】
続いて、実施例1のガスセンサにおいて、窒素ガス検出用のバンドパスフィルター(中心波長386.5nm)を選択し、窒素ガスの濃度を測定した。ここでは、便宜上ガスセル3を異なる形状のもの(図11参照)に置き換えて、窒素ガスの濃度測定を行った。この測定においては、ガスセル3の窒素ガス(濃度80%)のラマン散乱光強度と、ガスセル3にアルゴンガスを放出して空気を排除したとき(窒素濃度0%)の信号強度との差を求めた。
図15は、大気中の窒素ガス(濃度約80%)濃度80%の窒素ガスの前方および後方ラマン散乱光の測定結果を示すグラフである。なお、後方散乱光のみの測定は、全反射ミラー8を外して行った。
【0039】
以上のとおり、実施例2のガスセンサにより、前方散乱光と後方散乱光のいずれか、或いは、前方散乱光と後方散乱光の強度の和から水素ガス、窒素ガスの濃度を計測できることが確認された。
【符号の説明】
【0040】
1 レーザー装置
2 穴あきミラー
3 ガス測定空間(ガスセル)
4 レーザーカットフィルター
5 バンドパスフィルター
6 集光レンズ
7 受光器
8 全反射ミラー
9 凹面回析格子
10 ダイクロイックミラー
11 凸レンズ
12 光ファイバー
13 集光レンズ(球レンズ)
14 光ファイバーカプラ(ビームスプリッタ)
15 コリメートレンズ
17 光源側光ファイバー
18 受光側光ファイバー
19 2芯光ファイバー
21 球面両凹レンズ
22 球面両凸レンズ
23 偏光ビームスプリッタ
24 偏光解消板
25 スペイシャルフィルター
26 レーザービームダンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象ガスが導入されるガスセルと、
ガスセルにレーザー光を照射するレーザー装置と、
ガスセルからのラマン散乱光を反射する反射機構と、
反射機構により反射された前方および後方ラマン散乱光を集光するための波長選択フィルターを有する受光機構と、
前方および/または後方ラマン散乱光に基づき測定対象ガスの濃度を算出する演算部と、を備えたガスセンサであって、
検出対象となる一のガスの種別に応じた波長選択フィルターを選択可能に構成されたガスセンサ。
【請求項2】
前記受光機構が、前方ラマン散乱光を受光する第1の受光系および後方ラマン散乱光を受光する第2の受光系を備え、
前記反射機構が、レーザー光を通過させ、かつ、第1の受光系へ前方ラマン散乱光を導光する第1の反射部材(2a)と、第2の受光系へ後方ラマン散乱光を導光する第2の反射部材(2b)を備えることを特徴とする請求項1のガスセンサ。
【請求項3】
前記反射機構が、レーザー光を通過させ、かつ、受光機構へ前方および後方散乱光を導光する第1の反射部材と、レーザー光およびガスセルからの前方ラマン散乱光を反射する第2の反射部材を備えることを特徴とする請求項1のガスセンサ。
【請求項4】
さらに、第1の反射部材とガスセルを光学的に接続し、レーザー光ならびに前方および後方ラマン散乱光を伝送する光ファイバーを備えることを特徴とする請求項3のガスセンサ。
【請求項5】
前記反射機構が、凹面回析格子(9)と反射部材(8)を含んで構成され、レーザー光と前方ラマン散乱光を異なる方向に反射する前方散乱光反射機構と、レーザー光を通過させ、前方散乱光反射機構から入射された前方ラマン散乱光およびガスセルからの後方ラマン散乱光を受光機構に導く反射部材(2)を備えることを特徴とする請求項1のガスセンサ。
【請求項6】
さらに、レーザー装置とガスセルを光学的に接続し、レーザー光ならびに前方および後方ラマン散乱光を伝送する光ファイバーを含んでなる光伝送経路と、光ファイバーを伝送されるラマン散乱光を分岐する光ファイバーカプラと、光ファイバーカプラと受光機構を光学的に接続する光ファイバーを含んでなるラマン散乱光伝送経路を備えることを特徴とする請求項1のガスセンサ。
【請求項7】
さらに、レーザー装置とガスセルを光学的に接続し、レーザー光を伝送する第1の光伝送経路と、ガスセルと受光機構を光学的に接続し、前方および後方ラマン散乱光を伝送する第2の光伝送経路を有する光ファイバーを備えることを特徴とする請求項1のガスセンサ。
【請求項8】
受光機構の有する複数の波長選択フィルターから検出対象となる一のガスの種別に応じて波長選択フィルターを選択する第1の工程、
ガスセルに導入された混合ガスに所定の繰り返し周波数でレーザー光を照射し、ガスセルからのラマン散乱光を反射する反射機構により反射された前方および後方ラマン散乱光を受光機構へ伝送する第2の工程、
前方および/または後方ラマン散乱光に基づき検出対象となる一のガスの濃度を算出する第3の工程、
受光機構の有する複数の波長選択フィルターから検出対象となる一のガスの種別に応じて第1の工程とは異なる波長選択フィルターを選択する第4の工程、
ガスセルに導入された混合ガスに所定の繰り返し周波数でレーザー光を照射し、ガスセルからのラマン散乱光を反射する反射機構により反射された前方および後方ラマン散乱光を受光機構へ伝送する第5の工程、
前方および/または後方ラマン散乱光に基づき検出対象となる一のガスの濃度を算出する第6の工程、
を含むガス濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−37344(P2012−37344A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176875(P2010−176875)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】