説明

光学式センサ

【課題】測定対象物の使用の少量化を図ることができるとともに、平面のセンサチップの測定領域上に測定対象物を均一に素早く広げてそのまま保持し、センシング光以外の光による影響をできるだけ受けないようにして高精度な測定を行うことを可能とした光学式センサを提供する。
【解決手段】光導波路層21と、光導波路層21に接して互いに離間して設けられた入射側グレーティング22a及び出射側グレーティング22bと、光導波路層21上にあって、入射側グレーティング22a及び出射側グレーティング22bとの間に設けられる測定対象物量を光学的変化として検出する反応試薬23とを有するセンサチップ2と、センサチップ2を組み合わせたときに、光導波路層21と対向する位置に対向面Fを有し、光導波路層21と対向面Fとの間に空隙Iを形成するチャンバ3とを備え、反応試薬23は、空隙内に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の発色反応を検出する際に使用する光学式センサに関する。
【背景技術】
【0002】
インシュリン等の各種ホルモン、タンパク質、血糖等の測定対象物質の濃度測定方法として、例えば、電極反応で発生する電圧を測定する方法や物質と反応して吸着される色素を用いてその色変化をレーザ光等の光量の変化で測定する光学式濃度測定方法等を挙げることができる。このうち、光学式濃度測定方法は、測定の分解能が高いという利点がある。
【0003】
この光学式濃度測定方法においては、測定中測定対象物を保持しておくとともにレーザ光を導波させるためのセンサチップが使用される。図8は説明のために簡単に表わしたセンサチップの例である。図8に示すように、センサチップ100は、レーザ光が導波するガラスチップ101と、このガラスチップ101上に設けられこのセンサチップ100に入射したレーザ光の向きを変化させるグレーティング102a,102bと、測定対象物Sを保持する測定領域103とから構成される。
【0004】
この光学式濃度測定方法について簡単に説明すると以下の通りである。まず、測定領域103内に液体状の測定対象物Sを注入し、測定対象物Sに例えば色素を反応させて測定対象物Sの濃度に応じて入射光が吸収されるようにする。その後、ガラスチップ101内に図8の矢印に示すようにレーザ光を導き、測定対象物Sが注入された測定領域103を通過したレーザ光をガラスチップ101の外側に取り出して光量の検出を行う。この検出された光量の値から測定対象物Sの濃度を算出する。
【0005】
この光学式濃度測定方法を用いて濃度を測定する際には、液体状の測定対象物がガラスチップ等の上で流れ出すことを防止する必要がある。そこで、例えば図8に示す測定領域103のように上面のみが開口した領域に測定対象物を滴下してその内部に測定対象物を保持して測定する。
【0006】
また、以下の特許文献1の発明のように、検体を直接光導波路型グルコースセンサのメッシュ状導電性薄膜側に接触させながら濃度測定を行う方法も開示されている。この発明の場合、検体に例えばパルス状電界を印加して、検体から測定対象物であるグルコースを含む体液を抽出する。
【特許文献1】特開2004−212188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示された発明に開示されるような測定方法は、検体に対していわゆる微侵襲作用をなさなければ測定対象物を得ることができないため、必ずしも一般的な濃度測定方法とは言えない面があった。
【0008】
また、より一般的な方法であるガラスチップ等の上に液体状の測定対象物を配置することによって測定する場合も、測定中測定対象物をガラスチップ等の上に保持しておくことが困難な場合が見受けられる。例えば、ガラスチップ及び測定領域が平面状であると、この上に液体状の測定対象物を保持しておくことは測定対象物の液量の多少に拘わらず困難である。
【0009】
一方、上面のみが開口した測定領域に測定対象物を滴下してその内部に測定対象物を保持して測定する場合であっても、滴下された液体とその壁面との表面張力によって測定対象物の液面が測定領域内において凸状、或いは、凹状となることが見受けられる。このように液体状の測定対象物が測定領域内において凸状、或いは、凹状となってしまうと、導波路に入射されたレーザ光が散乱光となったり或いは迷光となって受光部に入ることもあり、精度の良い測定を行うことは困難となる。
【0010】
また、測定領域に滴下する測定対象物は所定の量がないと後述するように測定に支障を来すことも生ずるため、100μl以上の液を必要とすることも多い。一方で、測定対象物によっては、例えば貴重なものである場合には、測定のために測定対象物を大量に入手することができないこともあり、より少量で測定することが可能であることが求められることもある。そして、少量の測定対象物を用いて測定を行う場合、上面が開口した測定領域に滴下してもその液面は低くならざるをえないため、空気層からの液面から光が反射し精度の良い測定ができないことがある。
【0011】
さらに、図8に示すようなセンサチップの場合、測定対象物を所定の測定領域に滴下することが難しく、測定領域に上手く測定対象物が入らない場合や、滴下位置によっては測定領域内の必要な部分に広がらず、これらも測定精度の低下を招く原因となっていた。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、測定対象物の使用の少量化を図ることができるとともに、平面のセンサチップの測定領域上に測定対象物を均一に素早く広げてそのまま保持し、測定光以外の光による影響をできるだけ受けないようにして高精度な測定を行うことを可能とした光学式センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施の形態に係る特徴は、光学式センサにおいて、光導波路層と、光導波路層に接して互いに離間して設けられた入射側グレーティング及び出射側グレーティングと、光導波路層上にあって、入射側グレーティング及び出射側グレーティングとの間に設けられる測定対象物量を光学的変化として検出する反応試薬とを有するセンサチップと、センサチップを組み合わせたときに、光導波路層と対向する位置に対向面を有し、光導波路層と対向面との間に空隙を形成するチャンバとを備え、反応試薬は、空隙内に設けられている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、測定対象物の使用の少量化を図ることができるとともに、平面のセンサチップの測定領域上に測定対象物を均一に素早く広げてそのまま保持し、測定光以外の光による影響をできるだけ受けないようにして高精度な測定を行うことを可能とした光学式センサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
まず、第1の実施の形態に係る光学式センサについて説明する。本発明の実施の形態に係る光学式センサ1は、測定を行うための測定光を通すとともに測定領域を備えるセンサチップ2と、より高精度な測定を可能とするためにセンサチップ2と組み合わせて測定対象物を保持するチャンバ3とから構成される。
【0017】
光学式センサ1は、例えば図1の斜視図に示すような形状をしている。光学式センサ1は、センサチップ2を、このセンサチップ2において反応試薬が設けられる面(以下、この面をセンサチップ2における「上面T」という。)がチャンバ3と対向するようにその底面から嵌め込むことで構成される。また、図2は、図1に示す光学式センサ1をA−A線で切断して示す断面図である。なお、図1及び図2ではチャンバ3の構成を明示するためにセンサチップ2についてはチャンバ3との結合態様がわかる程度の簡易な表示にとどめている。センサチップ2は、図1では鎖線で、また、図2では斜線で示している。
【0018】
図1に示すように、チャンバ3は、略直方体の形状をしている。本発明の第1の実施の形態におけるチャンバ3では、その上面(Z軸方向のセンサチップ2が結合される面(この面を以下、便宜上「底面」という。)と対向する面)には、結合されたセンサチップ2のセンシング膜に測定対象物を注入するための注入口31が形成されている。この注入口31は、図1または、よりよくは図2に示されているように、チャンバ3の上面から底面へ、+X方向から−X方向に向けて斜めにチャンバ3を貫くように設けられている。
【0019】
これは、例えば、ピペットを使用してセンサチップ2に測定対象物を注入する場合に操作性の向上を図るために採用された構造である。すなわち、測定対象物を注入する者(以下、便宜上適宜、「操作者」という。)が右手にピペットを持ってその先端をこの注入口31に差込み測定対象物を注入する。この際、注入口31が垂直に設けられていると、ピペットを持った右手を返さなければならず不自然な姿勢で注入しなければならなくなる。操作性が悪くなると測定対象物を指定された量以上、或いは足りない量注入することになり、いずれにしろ測定精度の低下をもたらす。
【0020】
そこで、操作者が右手に持ったピペットを自然な形で保持したままセンサチップ2に向けて測定対象物を注入することができるように、図2の右上から左下に向けて斜めとなるように注入口31が設けられている。
【0021】
なお、第1の実施の形態においては、チャンバ3の注入口31を上述したような状態に形成しているが、操作者の利き手に拘わらず使用することができるようにチャンバ3の上面の他の部分に形成し、或いは、注入口31を複数形成しても構わない。
【0022】
チャンバ3の底面には、センサチップ2を嵌め込むための場所がくりぬかれて形成されている。この部分にセンサチップ2の上面Tをチャンバ3の内部に向けて嵌め込む。本発明の実施の形態においては、図2に示すようにチャンバ3の長辺とセンサチップ2の短辺とが平行となるような位置関係でセンサチップ2がチャンバ3の内部にはめ込まれている。但し、チャンバ3に対してどのような位置関係でセンサチップ2を嵌め込むかは任意に設定することができる。また、チャンバ3からセンサチップ2が脱落しないように、接着剤等を用いたり、或いは、チャンバ3自体がセンサチップ2を保持するようにしてセンサチップ2をチャンバ3の底面に嵌め込むようにしても良い。
【0023】
また、チャンバ3の底面には、さらにセンサチップ2を嵌め込み測定対象物を注入した際に生ずる圧力を逃がすための排出口32が形成されている。図1及び図2に示されているように、第1の実施の形態における排出口32は、嵌め込まれるセンサチップ2の位置との関係で、Y軸方向の中央部であってX軸方向にチャンバ3の長辺の全体にわたって形成されている。但し、排出口32は、圧力を逃がすことができればチャンバ3のいずれの部分に設けられていても良い。この排出口32からは上述した圧力の他に、センサチップ2とチャンバ3との間にあった気体や液体等も抜ける。
【0024】
チャンバ3は、例えば、アクリルで形成されている。そして、少なくともチャンバ3においてセンサチップ2の上面Tと対向する位置にある面(以下、この面をチャンバ3における「対向面F」という。)の領域が黒色に着色されている。或いは、チャンバ3の全体が黒色の材質で形成されている。チャンバ3の色として黒色を採用するのは、例えばチャンバ3が透明なアクリルで形成されていると発色反応を検出する測定装置(以下、単に「測定装置」という。)から出射されたレーザ光がセンサチップ2の光導波路層に入射した際に、その光が散乱したり迷光となってしまい、精度の高い測定を行うことができなくなってしまうからである。チャンバ3が黒色とされていれば、散乱光や迷光を減らすことができ、測定の高精度化に寄与することができる。
【0025】
さらに、この対向面Fの領域に対して親水化処理を施すことで測定領域上に測定対象物を均一に素早く広げることが可能となるため、高精度な測定を行うことができる。通常接触角が65°以下となれば親水性を備える。そこで対向面Fの領域に対して、例えば、酸やアルカリ溶液を用いたウェット処理、UV、オゾンを用いたドライ処理、親水性を備える塗布剤を塗る処理か、或いは、親水性フィルム、及び上記のような親水処理を施したフィルム(ここでは、親水性ではないフィルムに上記のような親水性処理を施すものを用いることができる。)の少なくとも何れかを貼り付ける等の方法を用いて親水化処理が行われる。
【0026】
図3は、センサチップ2の上面が見えるように表わした平面図である。この平面図には、光導波路層21と、光導波路層21に接して互いに離間して設けられた入射側グレーティング22a及び出射側グレーティング22bと、光導波路層21に接して入射側グレーティング22a及び出射側グレーティング22bとの間に設けられる測定対象物量を光学的変化として検出する反応試薬23が示されている。
【0027】
光導波路層21は、測定装置から出射されたレーザ光が通る層である。光導波路層21は、例えば、無アルカリガラスや有機系の樹脂(例:エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂)を好適に使用することができる。この光導波路層21を通ったレーザ光は出射側グレーティング22bによってその方向を変えられ光導波路層21から再び出て測定装置の受光手段に入射する。光学式濃度測定方法は、上述したように、光導波路層21を通るレーザ光が後述する反応試薬23が設けられる領域(以下、この領域を適宜「センシングエリア」と表わす。)を通ることによるレーザ光の減衰量を測定することで、測定対象物の濃度を測定する方法である。
【0028】
入射側グレーティング22a及び出射側グレーティング22b(以下、適宜「グレーティング22」と表わす。)は、出射されたレーザ光の方向を変更するために設けられる。グレーティング22は、光導波路層21に接して、例えば、酸化チタンで形成され、その上を熱硬化性樹脂で覆われる。ここで、グレーティング22は、酸化チタンの他、酸化錫、酸化亜鉛、ニオブ酸リチウム、ガリウム砒素(GaAs)、インジウム錫酸化物(ITO)、ポリイミド等の材料から適宜選択して、形成されることも可能である。入射側グレーティング22aと出射側グレーティング22bとは、間にセンシングエリアを挟むように互いに離間して形成される。なお、例えば図3では一方を入射側グレーティング22aとし、他方を出射側グレーティング22bとしているが、これは便宜的なものであり、どちらが入射側グレーティング22a及び出射側グレーティング22bとされても良い。
【0029】
上述したように入射側グレーティング22a及び出射側グレーティング22bとの間はセンシングエリアとされる。このセンシングエリアには反応試薬23が設けられており、注入された測定対象物と反応試薬23との反応を光学的に検出して測定対象物の濃度を測定する。測定対象物と反応試薬23との反応としては、発色、発光、吸収、散乱、屈折率変化、蛍光といった反応が挙げられる。
【0030】
なお、以下ではまず反応試薬を用いて発色反応を生ぜしめる例を挙げて本発明の実施の形態を説明する。反応試薬23はそのままの状態でセンサチップ2に設けられても良く、或いは、反応試薬23を保持する保持体に含めてセンサチップ2に設けられても良い。ここでは、反応試薬23を保持する保持体として膜が用いられる例を挙げて説明する。以下では説明の便宜上、このような反応試薬23及び膜状の保持体を含めた全体を「センシング膜23」と、表わす。
【0031】
このセンシング膜23に対して液体状の測定対象物が注入されることによって、センシング膜23が測定対象物に浸ることになる。センシング膜23は、例えば、オキシターゼ(GOD)、ペルオキシターゼ(POD)、3、3’、 5、5’−テトラメチルベンジン(TMBZ)、バインダーとしてヒドロキシエチルセルロース(HEC)が用いられて形成される。なお、センシング膜23の大きさはセンシングエリア内にあればどのような面積を持つものであっても良い。
【0032】
第1の実施の形態におけるセンサチップ2では、さらに図4に示すように、センシング膜23の全領域を覆うように親水性の膜24を配置している。この親水性の膜24は、例えば、メッシュのようにチャンバ3の注入口31を通して注入された測定対象物を保持しておくことができる素材であればどのような素材であっても良い。また、センシング膜23のどの領域を親水性の膜24で覆うかは、測定対象物をどのくらいの量、センシングエリアに保持しておくか等、様々な要因によって異なってくる。従って、その配置領域は任意に定めることができる。
【0033】
但し、この親水性の膜24をセンシング膜23上に配置するか否か自体も任意である。すなわち、例えばセンシング膜23が疎水性の性質を有している場合、測定対象物をセンシング膜23上に注入してもその液ははじかれてしまい、気体が含まれることにもなる。この状態で測定を行ってもセンシングエリア上に測定対象物を保持しておくことが困難となってしまい、従って高精度な測定は望めない。そこで、そのような場合にはセンシング膜23上に親水性の膜24を載置することによって、センシングエリア上に測定対象物を保持しておくことが容易となる。一方、センシング膜23が親水性である場合には、センシング膜23に測定対象物を保持しておき易いことから場合によっては親水性の膜24を設けなくとも足りる。
【0034】
この親水性の膜24の上には、さらに図5に示すように、遮光手段25が設けられている。遮光手段25は、測定装置から入射されるレーザ光が散乱光、或いは迷光となって測定精度が低下することを防止するために設けられる。本発明の実施の形態におけるセンサチップ2では、例えば遮光手段25として遮光性に優れた遮光テープを使用し、主にグレーティング22の領域に貼付することとしている。このようにグレーティング22の領域を主として遮光手段25を設けているのは、このグレーティング22は測定装置からのレーザ光が直接入射或いは出射する領域だからである。この意味では、少なくとも入射側グレーティング22aの領域を遮光するようにすれば良い。なお、この遮光手段25をセンサチップ2をチャンバ3に嵌め込む際の接続材として使用することでチャンバ3からセンサチップ2が脱落することを防止することも可能である。例えば、遮光手段25が黒色の両面テープである場合は、レーザ光の遮光を行うとともにセンサチップ2とチャンバ3とを接続固定することができる。
【0035】
次に、光学式センサ1におけるセンサチップ2とチャンバ3との嵌め合わせ及び測定対象物の保持について説明する。
【0036】
本発明の実施の形態における光学式センサ1は、図1及び図2に示すようにチャンバ3の底面にセンサチップ2を嵌め込むことで構成されている。このセンサチップ2は、センサチップ2においてグレーティング22、センシング膜23、親水性の膜24が設けられている面(上面T)をチャンバ3の内部に向けて押し込むようにして嵌め込む。
【0037】
従って、センサチップ2の上面と対向する面(以下、この面をセンサチップ2における「底面」という。)はチャンバ3の底面と同一の側に位置することになる。なお、図2に示すように、本発明の実施の形態における光学式センサ1では、センサチップ2の底面とチャンバ3の底面とは同一平面を構成するように嵌め込まれているが、センサチップ2がチャンバ3に嵌め込まれることによってセンサチップ2の底面がチャンバ3の底面との間で同一平面を構成しない状態となっても構わない。
【0038】
チャンバ3にセンサチップ2が嵌め込まれると、センサチップ2を嵌め込むために設けられている窪みとの関係において、センサチップ2の上面はチャンバ3の内部においてセンサチップ2の上面Tと対向する面(対向面F)との間で空隙Iが形成される。この形成される空隙Iの領域には、チャンバ3の注入口31が通じており、注入口31から測定対象物が注入されると、この空隙Iに入る。
【0039】
この空隙Iに注入される測定対象物の性質や上述した親水性の膜24の存在にも左右されるが、非常に狭い空間であることから注入された測定対象物は、センサチップ2の上面T及びその対向面Fとの間で表面張力により保持される。
【0040】
この空隙Iは、センサチップ2の光導波路層21からチャンバ3の内部における対向面Fまでの距離は、測定対象物の注入量等、様々な要因を勘案して任意に定めることができる。すなわち、測定対象物をセンサチップ2の上面T及びその対向面Fとの間において表面張力によって保持するものであることから、この測定対象物の保持を空隙Iにおいて維持することができる距離であれば良い。なお、発明者による実験においては空隙Iの距離を0.1mmとして測定対象物を測定した。その結果、測定を複数回行っても測定結果にバラツキが少なく、精度の高い測定を行うことができた。
【0041】
さらに、このセンサチップ2の上面T及びその対向面Fとの間の距離を短くすると空隙Iの容積は小さくなることから、この距離が短ければ短いほど測定対象物の少量化に寄与することになる。また、高精度な測定が担保されるのであれば、センサチップ2の上面T及びその対向面Fとが接した状態になり、測定対象物が注入される空隙Iが微小なものとなっても良い。
【0042】
測定対象物に反応試薬が反応することによって、上述のセンシング膜23では発色反応が生ずる。この発色反応をセンサチップ2の入射側グレーティング22aに向けて測定装置からレーザ光等を照射して、出射側グレーティング22bからの反射光を測定装置の受光素子で受光し、発色後光強度を測定する。そしてこの測定された発色後光強度と予め測定されてある基準光強度との差により測定対象物の濃度を算出する。
【0043】
上述したように、測定対象物と反応試薬23との反応としては発色反応の他に、発光、吸収、散乱、屈折率変化、蛍光といった反応が挙げられる。本発明の実施の形態における光学式センサはいずれの反応に対しても使用可能である。そこで併せてこれらの反応についても説明する。
【0044】
発光反応については、例えば2種の発光反応を測定することによって測定対象物の濃度を測定することができる。1つ目の発光反応は、上述したGODの触媒作用によってグルコースはグルコン酸と過酸化水素水となり、この過酸化水素水にPODが加わるとその触媒作用によりアミノフタル酸となり発光する反応である。この発光強度は過酸化水素水、すなわちグルコースの濃度に依存するため、発光強度を測定することにより測定対象物の濃度を測定することができる。
【0045】
2つ目の発光反応は、抗原抗体反応を利用するものである。センサチップに抗体を固定化し、その抗体に抗原を反応させ、さらにPODで標識した抗体を反応させる。その後洗浄して未反応物質を分離する。そして分離されず残った反応物質にルミノール及び過酸化水素水を反応させると、ルミノールが抗原の量に依存して発光する。この発光強度を測定することにより測定対象物の濃度を測定することができる。
【0046】
吸収反応は、上述した発色反応における反応試薬によって生成される反応生成物が測定装置から照射されるレーザ光等を吸収する反応である。反応生成物によって吸収された光を測定装置の受光素子で受光しその光強度を測定する。この光強度と上述した基準光強度との差から測定対象物の濃度を測定する。
【0047】
散乱、屈折率変化反応は、測定対象物に反応試薬が反応して生ずる沈殿物、或いは、一度、測定対象物と反応試薬が反応(例:一次反応)した後に、更なる反応(例:二次以降の何れかの反応)によって生じる沈殿物を利用した反応である。すなわち、何れかの反応において、沈殿物が生ずると測定装置から入射した光はその沈殿物に当たって散乱、或いは屈折率の変化を生ずる。これら散乱或いは屈折率変化を捉えて測定対象物の濃度を算出する。
【0048】
蛍光反応は、上述した抗原抗体反応を利用するものである。センサチップに抗体を固定化し、その抗体に抗原を反応させ、さらに蛍光物質で標識した抗体を反応させる。すると抗原の量に依存して蛍光物質が蛍光反応を起こす。この蛍光の強度を測定することにより測定対象物の濃度を測定することができる。なお、蛍光物質の例としては、例えば、GFP(緑色蛍光タンパク)やAllophycocyanin等を挙げることができる。
【0049】
このように、液体状の測定対象物を互いに対向する面(センサチップの上面とその面に対向するチャンバの対向面)の間(空隙)に注入し、それら両面と測定対象物との表面張力によってその領域に測定対象物を保持することによって、センサチップに平面状に設けられる反応試薬上に常に測定対象物を存在させることが可能となる。
【0050】
さらにセンシング膜を親水性の材質とし、或いは親水性の膜を用いることにより、測定対象物を保持しつつセンシングエリアに均一にすばやく広げることができるため、測定対象物の使用を少量にとどめることができるとともに、これまで以上に高精度な測定を行うことが可能な光学式センサを提供することが可能となる。
【0051】
また、チャンバを黒色とし、或いは、遮光手段を用いることによってセンシング光以外の光による影響をできるだけ受けないようにすることも高精度な測定を行うことのできる光学式センサを提供することに寄与する。
【0052】
本実施の形態の場合、センサチップ2とチャンバ3との空隙に対して、略垂直な方向から液体状の測定対象物を供給し、前述と同様の要領で、測定対象物の濃度測定を行うこともできる。この場合、チャンバ3において、注入口31が、その上面から底面へと略垂直に貫くように設けられているような部材を用いて、測定対象物の濃度測定を行うことができる。
【0053】
(第2の実施の形態)
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態において、上述の第1の実施の形態において説明した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付し、同一の構成要素の説明は重複するので省略する。
【0054】
第2の実施の形態においては、チャンバに設ける注入口及び排出口の形状及び位置が第1の実施の形態におけるチャンバ3の注入口31及び排出口32と相違する。すなわち、図6及びそのB−B線断面図である図7に示すように、第2の実施の形態においては、光学式センサ10を構成するチャンバ4の注入口41は、嵌め込まれるセンサチップ2との間に形成される空隙Iに対してX軸方向或いは−X軸方向に向けて測定対象物を注入することができるように、注入口41はX軸方向にチャンバ4を貫くように形成されている。
【0055】
注入口41をこのように形成することによって、例えば、操作者のピペットによる測定対象物の注入ではなく、例えば、ポンプ等を使用して測定対象物をセンシングエリアに注入することができる。
【0056】
また、排出口42は、空隙Iからチャンバ4の上面に向けて設けられている。排出口42は第1の実施の形態においても説明したように、チャンバ4のいずれの部分に設けても良いが、注入口41を上述した位置に設けたことから、加工の容易さ等にも鑑み第2の実施の形態においては図6または図7に示す位置に設けたものである。
【0057】
このような位置に注入口41及び排出口42を設けることにより、例えば、測定対象物の注入を自動化することができる等、光学式センサ10を使用するに当たって新たな効果を奏する。
【0058】
その他の構成は、第1の実施の形態における光学式センサと同じであることから、測定対象物の使用の少量化を図ることができるとともに、平面のセンサチップの測定領域上に測定対象物を均一に素早く広げてそのまま保持し、センシング光以外の光による影響をできるだけ受けないようにして高精度な測定を行うことを可能とした光学式センサを提供することができる。また、チャンバを黒色とし、或いは、遮光手段を用いることによってセンシング光以外の光による影響をできるだけ受けないようにすることも高精度な測定を行うことのできる光学式センサを提供することに寄与する。
【0059】
また、この発明は、上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。さらに、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の形態における光学式センサの全体構成を示す斜視図である。
【図2】光学式センサを図1に示すA−A線で切断して示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るセンサチップを示す平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るセンサチップを示す平面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るセンサチップを示す平面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態における光学式センサの全体構成を示す斜視図である。
【図7】光学式センサを図6に示すB−B線で切断して示す断面図である。
【図8】従来の光学式センサの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1…光学式センサ、2…センサチップ、3…チャンバ、21…光導波路層、22…グレーティング、23…センシング膜、24…親水性の膜、25…遮光手段、31…注入口、32…排出口、F…対向面、I…空隙、T…センサチップの上面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路層と、前記光導波路層に接して互いに離間して設けられた入射側グレーティング及び出射側グレーティングと、前記光導波路層上にあって、前記入射側グレーティング及び前記出射側グレーティングとの間に設けられる測定対象物量を光学的変化として検出する反応試薬とを有するセンサチップと、
前記センサチップを組み合わせたときに、前記光導波路層と対向する位置に対向面を有し、前記光導波路層と前記対向面との間に空隙を形成するチャンバとを備え、
前記反応試薬は、前記空隙内に設けられていることを特徴とする光学式センサ。
【請求項2】
前記光学的な変化は、発色、吸収、散乱、屈折率変化のいずれかの変化であることを特徴とする請求項1に記載の光学式センサ。
【請求項3】
前記光学的な変化は、蛍光反応によるものであることを特徴とする請求項1に記載の光学式センサ。
【請求項4】
前記センサチップは、前記反応試薬上に前記測定対象物を吸収する親水性の吸収膜を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の光学式センサ。
【請求項5】
前記センサチップは、前記光導波路層の面であって前記入射側グレーティングと前記出射側グレーティングの一方或いは両方を含む領域を覆う遮光手段を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の光学式センサ。
【請求項6】
前記遮光手段は、黒色であることを特徴とする請求項5に記載の光学式センサ。
【請求項7】
前記遮光手段は、前記センサチップ及び前記チャンバを接続固定するための接続材であることを特徴とする請求項6に記載の光学式センサ。
【請求項8】
前記空隙は、前記センサチップの前記光導波路層の面から前記チャンバの前記対向面までの間に前記測定対象物を保持することのできる距離をもって形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の光学式センサ。
【請求項9】
前記空隙を構成する前記チャンバの前記対向面は、親水化処理を施されていることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の光学式センサ。
【請求項10】
前記チャンバは、前記測定対象物を前記空隙に注入する注入口を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の光学式センサ。
【請求項11】
前記チャンバは、前記測定対象物の注入時に前記空隙からの圧力を逃がす排出口を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の光学式センサ。
【請求項12】
前記チャンバは、少なくとも前記空隙を形成する前記対向面の領域が黒色とされていることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の光学式センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−133836(P2009−133836A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272205(P2008−272205)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】