説明

光学式ディスク基板の製造方法及び光学式情報記録媒体

【課題】アルミ膜の剥離およびピンホールの発生を最小限に抑制し得る、信頼性の高い光学式ディスク基板及び光学式情報記録媒体を提供する。
【解決手段】芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造されるポリカーボネート樹脂で構成されてなる光学式ディスク基板において、該ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物量及び芳香族ジヒドロキシ化合物量がそれぞれ30ppm以下であることを特徴とする光学式ディスク基板、並びに当該光学式ディスク基板の表面に反射膜としてアルミ膜が形成されていることを特徴とする光学式情報記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間にわたって高い信頼性を維持できる光学式ディスク基板、及び該ディスク基板を用いた光学式情報記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーディオディスク,レーザディスク,光ディスクメモリ,または光磁気ディスク等のレーザ光を利用して情報の再生,追記書換えを行なう光学式情報記録媒体に用いられる光学式ディスク基板には、成形性,強度,光線透過率及び耐湿性等の点で優れているポリカーボネート樹脂が多く用いられている。
【0003】
しかしながら、このように優れた性質を有するポリカーボネート樹脂製の基板も、高温,高湿下において白点を発生するという欠点があった。一方、光学式ディスク基板、およびこの基板を用いた光学式情報記録媒体に要求される特性の一つとして、長期間(十年以上)にわたって高い信頼性を維持できるようにすることが必要である。ところが、上述したようにポリカーボネート樹脂は高温,高湿下において、成形品に白点を発生させるためビットエラー率の増加をもたらし、光学式情報記録媒体の使用寿命を縮める大きな原因となっていた。
【0004】
このため、従来より芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの界面重合により製造されるポリカーボネート樹脂の精製処理法が種々研究されており、次のようなディスク基板用のポリカーボネート樹脂あるいはその製造方法が提案されている。例えば、(1)特開平1−146926号公報においては、重合鎖の繰り返し単位数が1〜3の低分子量体を0.2重量%以下、未反応ビスフェノールを10ppm以下としたポリカーボネート樹脂成形材料が、また、(2)特開昭64−56729号公報においては、低分子量成分4〜8重量%、未反応ビスフェノール類70〜150ppm、及び塩化メチレン50〜150ppmを含有する粉末状ポリカーボネートを40℃以上でケトン類を用いて抽出処理する方法が、さらに、(3)特開昭63−316313号公報においては、低分子量成分3重量%以下、未反応ビスフェノール類20ppm以下、及び塩化メチレン20ppm以下としたポリカーボネート樹脂がそれぞれ提案されてきた。
【0005】
最近、本発明者らは、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造されるポリカーボネート樹脂を光学式ディスク基板として、さらに反射膜としてアルミニウム膜(以下「アルミ膜」とも言う)を蒸着させた光学式情報記録媒体を、高温,高湿下において、信頼性試験を実施すると、アルミ膜の剥離およびピンホールが発生する現象を発見した。この現象が起きると、ビットエラー率の増加をもたらし、光学式情報記録媒体の使用自体が危ぶまれる可能性がある。これまで、ポリカーボネート樹脂の最終用途、製品である光学式ディスク基板の高温,高湿下、白点を発生するという現象は広く認識されており、種々の対策が講じられてきたが、上述したアルミ膜の剥離およびピンホールが発生する現象発生については、なんら認識されていなかった。
【特許文献1】特開平1−146926号公報
【特許文献2】特開昭64−56729号公報
【特許文献3】特開昭63−316313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、アルミ膜の剥離およびピンホールの発生を最小限に抑制し得る、信頼性の高い光学式ディスク基板及び光学式情報記録媒体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねてきた結果、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造されるポリカーボネート樹脂を用いた光学式ディスク基板に、さらに反射膜としてアルミ膜を蒸着させた光学式情報記録媒体が、高温,高湿下においての信頼性試験で発生するアルミ膜の剥離およびピンホールの原因は、樹脂中に含まれる芳香族モノヒドロキシ化合物量および芳香族ジヒドロキシ化合物量によるものであることを見い出した。
【0008】
そして、光学式ディスク基板を構成するポリカーボネート樹脂中における芳香族モノヒドロキシ化合物量および芳香族ジヒドロキシ化合物量を、それぞれ特定量以下にすると、発生するアルミ膜の剥離およびピンホールを最小限に抑制できることを知見し、本発明に至った。即ち、本発明の要旨は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造されるポリカーボネート樹脂で構成されてなる光学式ディスク基板において、該ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物量及び芳香族ジヒドロキシ化合物量がそれぞれ30ppm以下であることを特徴とする光学式ディスク基板、に存する。
【0009】
また、本発明の他の要旨は、前記光学式ディスク基板の表面に、反射膜としてアルミ膜が形成されていることを特徴とする光学式情報記録媒体、に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリカーボネート樹脂を用いた光学式ディスク基板を用いた光学式情報記録媒体は、高温,高湿下でのアルミ膜中の剥離ないしはピンホールの発生、さらにビットエラー率の悪化が抑制され、長期間の使用に際して信頼性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の光学式ディスク基板において使用されるポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造される。
【0012】
本発明で用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物は、通常、下記式(1)で表される。
【0013】
【化1】

【0014】
上記式中、Xは単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基又は、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO−で示される2価の基からなる群から選ばれるものである。上記式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,4’−ジヒドロキシ−2,2−ジフェニルプロパン(以下、「2,4’−ビスフェノールA」と略称する。)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビスフェノール;4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のビフェノール;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が例示されるが、特に好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略称する。)があげられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は単独でも2種以上の混合物でもよい。
【0015】
本発明で使用される炭酸ジエステルは下記の一般式(2)で表される。
【0016】
【化2】

上記式中、A及びA’は炭素数1〜18の脂肪族基あるいは置換脂肪族基、又は芳香族基あるいは置換芳香族基であり、A及びA’は同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
上記一般式(2)で表される炭酸ジエステルは、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネート、ジ−p−t−ブチルフェニルカーボネート、p−クミルフェニルフェニルカーボネートおよびジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが例示されるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特にジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルは単独、あるいは2種以上を混合してもよい。
【0018】
本発明でのポリカーボネート樹脂の製造にあたって、炭酸ジエステルは芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して(以下、「炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのモル比」という。)、1.01〜1.30モル、好ましくは1.02〜1.20の量で用いられることが好ましい。本発明においてポリカーボネート樹脂を得るためには、通常、エステル交換触媒が使用される。該触媒としては、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が使用され、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、あるいはアミン系化合物などの塩基性化合物を併用することも可能であるが、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が単独で使用されることが特に好ましい。
【0019】
アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩などが挙げられる。
【0020】
また、アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウムなどが挙げられる。
【0021】
塩基性ホウ素化合物の具体例としては、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素などのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0022】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩などが挙げられる。塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドなどが挙げられる。
【0023】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリンなどが挙げられる。
【0024】
エステル交換触媒の量は、通常、ビスフェノールA1モルに対して、1×10-8〜1×10-5モルの範囲であり、好ましくは1×10-7〜8×10-6であり、特に好ましくは3×10-7〜2×10-6である。触媒が少な過ぎれば、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性が得られず、多過ぎる場合は、ポリマー色相が悪化し、ゲルの発生による異物量も増大してしまう。
【0025】
エステル交換反応は、一般的には二段階以上の多段工程で実施される。具体的には第一段目の反応は140〜260℃、好ましくは180〜240℃の温度で0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間反応させる。次第に反応系の圧力を下げながら反応温度を高め、最終的には133Pa以下の減圧下、240〜320℃の温度で重縮合反応を行うことが好ましい。
【0026】
反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でも良く、使用する装置は、槽型、管型、あるいは塔型のいずれの形式であってもよい。本発明におけるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは12,000〜20,000の範囲であり、さらに好ましくは、13,000〜19,000の範囲である。粘度平均分子量が低すぎると強度が実用上、耐えられなくなり、高すぎると成形性,光学的特性の点で十分な性能を得られなくなる。製造されるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量を所望の範囲にするためには、前述した反応条件において、適切な反応温度、減圧度、滞留時間を設定し製造する。
【0027】
本発明の光学式ディスク基板に用いる原料ポリカーボネート樹脂は、上記のように従来公知の方法により製造した後、通常、射出成形により光学式ディスク基板とする。成形前の原料は、異物,不純物,溶媒などの含有量を極力低くしておくことが必要である。本発明において、以上のようにして製造された光学式ディスク基板を構成するポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物量及び芳香族ジヒドロキシ化合物量をそれぞれ30ppm以下とする。さらに好ましい芳香族モノヒドロキシ化合物量及び芳香族ジヒドロキシ化合物量は、それぞれ27ppm以下であり、特に好ましくは、それぞれ25ppm以下である。
【0028】
ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物量及び芳香族ジヒドロキシ化合物量がそれぞれ30ppmを越えると、光学式情報記録媒体に発生するアルミ膜の剥離およびピンホールが急激に増加し、さらにはビットエラー率が悪化することが判明した。本発明において芳香族ジヒドロキシ化合物とは、主として上述した未反応のポリカーボネート樹脂原料である。また、本発明において芳香族モノヒドロキシ化合物は、主として芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの反応により生成する化合物である。その例としてはフェノール、o−n−ブチルフェノール、m−n−ブチルフェノール、p−n−ブチルフェノール、o−イソブチルフェノール、m−イソブチルフェノール、p−イソブチルフェノール、o−t−ブチルフェノール、m−t−ブチルフェノール、p−t−ブチルフェノール、o−n−ペンチルフェノール、m−n−ペンチルフェノール、p−n−ペンチルフェノール、o−n−ヘキシルフェノール、m−n−ヘキシルフェノール、p−n−ヘキシルフェノール、o−シクロヘキシルフェノール、m−シクロヘキシルフェノール、p−シクロヘキシルフェノール、o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、o−n−ノニルフェノール、m−n−ノニルフェノール、p−n−ノニルフェノール、o−クミルフェノール、m−クミルフェノール、p−クミルフェノール、o−ナフチルフェノール、m−ナフチルフェノール、p−ナフチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,5−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチルフェノール、2,5−ジクミルフェノール、3,5−ジクミルフェノールなどが挙げられるが、通常はフェノールである。
【0029】
本発明において、上述した芳香族モノヒドロキシ化合物量及び芳香族ジヒドロキシ化合物量をそれぞれ30ppm以下に低減させるためには、例えば炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのモル比を高めに設定したり、押出機や薄膜蒸発機を用いて脱揮したりすることもできる。また、押出機においては、さらに水を適当量添加し、脱揮することもできる。
【0030】
なお、必要により、ポリカーボネート樹脂には例えばリン系等の酸化防止剤などの添加剤や脂肪酸モノグリセリドなどの離型剤を加えることも可能である。上述したポリカーボネート樹脂からなる光学式ディスク基板の表面に反射膜としてアルミ膜を真空蒸着,スパッタリング等により形成し、さらに好ましくは保護膜をアルミ膜上に蒸着した光学式情報記録媒体が、本発明の効果を奏しやすい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何らの制限を受けるものではない。なお以下において得られたポリカーボネートの物性、及び光学式ディスク基板の評価は以下のようにして測定した。
(1)ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物量及び芳香族ジヒドロキシ化合物量:カラムに三菱化学(株)社製MCI GEL(ODS)を用い、高速液体クロマトグラフにて測定した。表2中に検出された芳香族モノヒドロキシ化合物及び芳香族ジヒドロキシ化合物の名称と量を示す。
(2)粘度平均分子量(Mv):6g/lの塩化メチレン溶液をウベローデ粘度計を用い固有粘度を測定し、次式により粘度平均分子量を求めた。
【数1】

【0032】
(3)信頼性試験
オートクレーブ(TABAI ESPEC CORPORATION製)中で、高温高湿条件(70℃、80%RH)で200時間放置した後、サンプルを取り出し、目視でアルミ膜中のピンホール数を測定した。これを10枚の光学式ディスク基板について行ない、その平均値を求めた。
(4)ビットエラー率(BER)
上記の信頼性試験後のサンプルを用いて、初期値(信頼性試験前の値)に対する倍率としてビットエラー率を求めた。
【0033】
なお、用いたポリカーボネート樹脂は以下の方法で製造した。
製造例1
コンデンサーを具備したステンレス製20リットルの竪型攪拌反応装置にジフェニルカーボネートとビスフェノールAとのモル比が1.07になるように、ビスフェノールA2283g(10.0モル)、ジフェニルカーボネート2292g(10.7モル)、さらに触媒として0.01N水酸化ナトリウム0.7ml(ビスフェノールA1モルに対して7×10-6モル)を仕込み、窒素置換を行った。この混合物を220℃で40分かけて原料モノマーを溶融した後、220℃/13.3kPaで60分、240℃/2.0kPaで60分、260℃/67Paで2時間反応を行った。続いて反応器からギアポンプで抜き出した後、ベント付き二軸押出機で触媒失活剤としてp−トルエンスルホン酸ブチル(触媒として使用した水酸化ナトリウムに対して2倍モル量)と離型剤としてステアリン酸モノグリセリドを100重量ppmの濃度で溶融混練した。該押出機のダイより出てきた溶融樹脂ストランドを、カッターでカットしてポリカーボネートペレットを得た。その結果、粘度平均分子量(Mv)15,200のポリカーボネート樹脂が得られた。
【0034】
このポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物はフェノールが検出され、その量は19ppm、芳香族ジヒドロキシ化合物はビスフェノールAが検出され、その量は16ppmであった。
製造例2,3および比較例1〜3
製造例1において、ジフェニルカーボネートとビスフェノールAとのモル比を表1に示すように、ビスフェノールAとジフェニルカーボネートの量を変更した以外は、製造例1と同様にしてポリカーボネート樹脂を製造した。
【0035】
製造例4
製造例1において、芳香族ジヒドロキシ化合物として、ビスフェノールA2055g(9モル)と2,4’−ビスフェノールA228g(1モル)を使用した以外は、製造例1と同様にしてポリカーボネート樹脂を製造した。その結果、粘度平均分子量(Mv)15300のポリカーボネート樹脂が得られた。
【0036】
このポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物はフェノールが検出され、その量は17ppm、芳香族ジヒドロキシ化合物としてはビスフェノールAと2,4’−ビスフェノールAが検出され、それらの量はそれぞれ14ppm及び3ppm(芳香族ジヒドロキシ化合物の合計量として17ppm)であった。
【0037】
製造例5
製造例1において、炭酸ジエステルとして、ジ−p−t−ブチルフェニルカーボネート3493g(10.7モル)を使用した以外は、製造例1と同様にしてポリカーボネート樹脂を製造した。その結果、粘度平均分子量(Mv)15200のポリカーボネート樹脂が得られた。
【0038】
このポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物はp−t−ブチルフェノールが検出され、その量は23ppmであり、芳香族ジヒドロキシ化合物はビスフェノールAが検出され、その量は15ppmであった。
比較製造例4
製造例4において、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのモル比を表1に示すように1.04と変更した以外は、製造例1と同様にしてポリカーボネート樹脂を製造した。
【0039】
比較製造例5
製造例5において、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのモル比を表1に示すように1.04と変更した以外は、製造例1と同様にしてポリカーボネート樹脂を製造した。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例1〜5及び比較例1〜5
製造例1〜5及び比較製造例1〜5で得られたポリカーボネート樹脂を用いて、射出成形(成形温度:330℃,金型温度:80℃)し、光ディスク基板(基板サイズ:130mmφ,厚み0.6mm)を得た後、反射膜としてアルミ膜(膜厚600Å)をスパッタリングした。得られた光学式ディスク基板を用いて、光学式情報記録媒体の信頼性試験を行い、アルミ膜中のピンホール数とビットエラー率(初期値に対する倍率)を測定した。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造されるポリカーボネート樹脂で構成されてなる光学式ディスク基板において、該ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物量及び芳香族ジヒドロキシ化合物量がそれぞれ30ppm以下であることを特徴とする光学式ディスク基板。
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が12,000〜20,000であることを特徴とする請求項1に記載の光学式ディスク基板。
【請求項3】
前記芳香族ジヒドロキシ化合物が2,2−ビス(4ーヒドロキシフェニル)プロパンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学式ディスク基板。
【請求項4】
前記芳香族モノヒドロキシ化合物がフェノールであることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の光学式ディスク基板。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れかに記載の光学式ディスク基板の表面に、反射膜としてアルミニウム膜が形成されていることを特徴とする光学式情報記録媒体。

【公開番号】特開2008−146829(P2008−146829A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6432(P2008−6432)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【分割の表示】特願2000−374418(P2000−374418)の分割
【原出願日】平成12年12月8日(2000.12.8)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】