説明

光学式パイロメータ

【課題】広い環境温度範囲でフォトダイオードの温度補正ができる光学式パイロメータを提供する。
【解決手段】タービンブレードに一端を臨ませた光ファイバ2の他端に設けられて光強度を検出するフォトダイオード3と、フォトダイオード3の温度を検出する電流出力式温度センサ4と、あらかじめフォトダイオード3の温度をパラメータとしてタービンブレードの温度とフォトダイオード3の検出信号との関係を設定した温度補正付き光強度温度変換テーブル7と、フォトダイオード3の温度とフォトダイオード3の検出信号に基づいてテーブル7からタービンブレードの温度を求める演算部8とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広い環境温度範囲でフォトダイオードの温度補正ができる光学式パイロメータに関する。
【背景技術】
【0002】
航空エンジンのタービンブレードの温度を測定するパイロメータには、タービンブレードから放射される赤外線を受光することによりタービンブレードの温度を測定する光学式パイロメータがある。
【0003】
光学式パイロメータのような光学式温度センサには光電変換素子が内蔵される。光電変換素子は、光(赤外線)の強度を電圧信号に変換するものであり、例えば、フォトダイオードである。フォトダイオードのような光電変換素子には、温度依存性があり、光電変換素子の温度によって感度(光強度に対する電圧信号の変化の割合)が変動する。このため、光学式温度センサが置かれている環境温度によって測定した対象物の温度が変動する。これを温度ドリフトという。
【0004】
この変動を防ぐために、一般の光学式温度センサでは、温度補正素子を用いた温度補正回路を付加する。
【0005】
図5に示されるように、従来の光学式温度センサ41は、対象物(図示せず)の光強度を検出するフォトダイオード42と、該フォトダイオード42の検出信号を電流/電圧変換して対象物の温度を表す電圧信号を出力する電流/電圧変換器43と、上記フォトダイオード42と熱結合させた電流出力式温度センサと44、該電流出力式温度センサ44を介して上記電流/電圧変換器43の電圧を入力しゲイン調節するゲイン調整アンプ45とを備える。
【0006】
電流出力式温度センサ44は、例えば、サーミスタである。
【0007】
このようにフォトダイオード42の温度を電流出力式温度センサと44で検出してゲイン調整しフォトダイオード42の温度依存した出力を補正することで、フォトダイオード42の温度依存を補正して対象物の温度を求めることができる。
【0008】
【特許文献1】特開平11−72390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、タービンブレードの温度を測定する光学式パイロメータは、−54℃から+200℃の過酷な環境温度範囲で使用される。
【0010】
一般の工場や家庭などで使用される光学式温度センサ41は、環境温度が常温かその近傍である。この程度の狭い温度範囲では、フォトダイオード42の温度依存性による出力変動は小さく、温度依存した出力を図4の回路で十分に補正できる。
【0011】
しかし、タービンブレードの温度を測定する光学式パイロメータは、環境温度の温度範囲が広い。このように広い環境温度範囲では、フォトダイオードの温度依存性が非常に大きい。このため、タービンブレードの温度を測定する光学式パイロメータに図5の回路を適用しても、温度依存した出力を補正できない。
【0012】
このように、航空エンジンの分野では、一般の工場や家庭などで使用される機器にはない使用環境温度であるため、新規な光学式パイロメータが望まれる。
【0013】
一方、光学式パイロメータは航空機に搭載するものであるため、小型軽量である必要があり、複雑なものや重量が重いものは採用できない。従って、フォトダイオードの温度依存性による出力変動を補正する回路が複雑化するのは好ましくない。
【0014】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、広い環境温度範囲でフォトダイオードの温度補正ができる光学式パイロメータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明は、航空エンジンのタービンブレードに一端を臨ませた光ファイバと、該光ファイバの他端に設けられて上記タービンブレードの光強度を検出するフォトダイオードと、該フォトダイオードに添わせて設けられ該フォトダイオードの温度を検出する電流出力式温度センサと、上記フォトダイオードの検出信号を数値化するA/D変換器と、上記電流出力式温度センサの検出信号を上記フォトダイオードの温度として数値化するA/D変換器と、あらかじめ上記フォトダイオードの温度をパラメータとして上記タービンブレードの温度と上記フォトダイオードの検出信号との関係を設定した温度補正付き光強度温度変換テーブルと、上記フォトダイオードの温度と上記フォトダイオードの検出信号に基づいて上記温度補正付き光強度温度変換テーブルを参照することにより、上記タービンブレードの温度を求める演算部とを備えたものである。
【0016】
上記2つのA/D変換器と温度補正付き光強度温度変換テーブルと演算部とが1チップのLSIに形成されてもよい。
【0017】
上記温度補正付き光強度温度変換テーブルは、上記フォトダイオードの温度が航空エンジン搭載時の環境温度範囲における上記タービンブレードの温度と上記フォトダイオードの検出信号との関係を設定されてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0019】
(1)広い環境温度範囲でフォトダイオードの温度補正ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0021】
図1に示されるように、本発明に係る光学式パイロメータ1は、航空エンジン(図2参照)のタービンブレード(図示せず)に一端を臨ませた光ファイバ2と、該光ファイバ2の他端に設けられて上記タービンブレードの光強度を検出するフォトダイオード3と、該フォトダイオード3に添わせて設けられ該フォトダイオード3の温度を検出する電流出力式温度センサ4と、上記フォトダイオード3の検出信号を数値化するA/D変換器5と、上記電流出力式温度センサ4の検出信号を上記フォトダイオード3の温度として数値化するA/D変換器6と、あらかじめ上記フォトダイオード3の温度をパラメータとして上記タービンブレードの温度と上記フォトダイオード3の検出信号との関係を設定した温度補正付き光強度温度変換テーブル(パラメータテーブルとも言う)7と、上記フォトダイオード3の温度と上記フォトダイオード3の検出信号に基づいて上記温度補正付き光強度温度変換テーブル7を参照することにより、上記タービンブレードの温度を求める演算部8とを備えたものである。
【0022】
本実施形態では、上記2つのA/D変換器5,6と温度補正付き光強度温度変換テーブル7と演算部8とが1チップのLSI9に形成されている。LSI9は、所望のソフトウェアを搭載可能なCPUとメモリ、あるいは所望の回路形態にカスタマイズ可能なデジタル演算処理回路網を有することにより、演算部8を形成するものである。また、LSI9は、複数チャンネルのA/D変換器と複数チャンネルのD/A変換器とを内蔵している。この内蔵A/D変換器をA/D変換器5,6として使用されている。また、内蔵D/A変換器の一つは、演算部8で得られたタービンブレードの温度(数値)をアナログの温度出力信号として外部に出力するためのD/A変換器10として使用されている。LSI9として、A/D変換器とD/A変換器とを内蔵したワンチップマイコンであるサイプレスセミコンダクタ社のPSoC(登録商標)を用いても良い。
【0023】
フォトダイオード3は電流/電圧変換器11の入力端に接続され、電流/電圧変換器11の出力端がA/D変換器5に接続されている。電流出力式温度センサ4は電流/電圧変換器12の入力端に接続され、電流/電圧変換器12の出力端がA/D変換器6に接続されている。
【0024】
図2に示されるように、本発明に係る光学式パイロメータ1は、センサヘッド部21と回路部22とからなる。センサヘッド部21には光ファイバ2の一端が収容されている。センサヘッド部21は、航空エンジン23の外部から航空エンジン23の内部に挿入されている。センサヘッド部21は、航空エンジン23の内部でタービンブレード(図示せず)に光ファイバ2の一端を臨ませた状態で固定されている。
【0025】
光ファイバ2は航空エンジン23の外部を引き回されて回路部22まで配線されている。光ファイバ2の他端は回路部22内に固定されている。回路部22は、図1に示したフォトダイオード3、電流出力式温度センサ4、LSI9などを収容したものである。回路部22は、航空エンジン23の外壁に取り付けられる。
【0026】
図3に、光学式パイロメータ1のLSI9における処理フローを示す。
【0027】
ステップS1では、フォトダイオード3の出力Xの取り込みが行われる。出力Xは、例えば0〜5Vの範囲で変化するアナログ量である。ステップS2では、出力Xが物理量xに変換される。物理量xは、例えばμAの単位で表される電流のデジタル量である。
【0028】
一方、ステップS3では、フォトダイオード3の温度(電流出力式温度センサ4の温度)Yの取り込みが行われる。温度Yは、例えば0〜5Vの範囲で変化するアナログ量である。ステップS4では、温度Yが物理量yに変換される。物理量yは、例えばKの単位で表される温度のデジタル量である。
【0029】
ステップS5では、光源温度(タービンブレードの温度)f(x,y)が計算される。光源温度fは、例えばKの単位で表される温度のデジタル量である。ステップS6では、出力単位の変換が行われる。例えば、出力Fは、光源温度fを電圧(単位V)に変換したアナログ量である。
【0030】
ステップS7では、オフセット電圧Zが用意される。オフセット電圧Zは、例えば単位Vのアナログ量である。ステップS8では、出力Fとオフセット電圧Zが加算される。
【0031】
なお、図3の処理フローにおいて、ステップS5で行う計算は、フォトダイオード3の温度依存性特性を表した演算式を用いても良いし、この温度依存性特性に基づいて物理量xと物理量yと光源温度fとを対応付けたマップをあらかじめ温度補正付き光強度温度変換テーブル7に用意しておき、このマップを物理量xと物理量yで検索して光源温度fを求めても良い。
【0032】
図4に、フォトダイオード3の温度をパラメータとして、タービンブレードの温度とフォトダイオード3の検出信号(電流)との関係をグラフにして示す。なお、電流値は、タービンブレードの温度が1000℃、フォトダイオード温度が25℃のときを1とした。温度補正付き光強度温度変換テーブル7には、このグラフが数値化(離散化)されて設定される。パラメータとするフォトダイオード3の温度範囲は、回路部22が設置される航空エンジン23の外壁における環境温度の範囲が好ましい。
【0033】
本発明の光学式パイロメータ1の動作を説明する。
【0034】
センサヘッド部21に収容されている光ファイバ2の一端は、航空エンジン23の内部でタービンブレードに臨んでいる。タービンブレードからは温度に応じて光強度が変化する放射光が放射され、その放射光が光ファイバ2に入射する。光ファイバ2を伝送された放射光は、航空エンジン23の外壁に取り付けられている回路部22のフォトダイオード3に入射する。
【0035】
フォトダイオード3は、入射光の光強度にほぼ比例(ただし、温度に依存する)した電力を生じる。その電流が電流/電圧変換器11で電圧に変換されて受光出力電圧、すなわちタービンブレードの光強度を示す検出信号となる。この検出信号がLSI9に入力される。タービンブレードの光強度の検出信号は、LSI9内のA/D変換器5で数値化され、その数値が演算部8にいったん蓄積される。
【0036】
一方、電流出力式温度センサ4は、フォトダイオード3の温度によって変化する電流を生じる。その電流が電流/電圧変換器12で電圧に変換されてフォトダイオード3の温度を示す検出信号となる。この検出信号がLSI9に入力される。フォトダイオード3の温度の検出信号は、LSI9内のA/D変換器6で数値化され、その数値が演算部8にいったん蓄積される。
【0037】
演算部8では、フォトダイオード3の温度とフォトダイオード3の検出信号(タービンブレードの光強度を示す検出信号)に基づいて温度補正付き光強度温度変換テーブル7が参照される。
【0038】
温度補正付き光強度温度変換テーブル7には、フォトダイオード3の温度が航空エンジン搭載時の環境温度範囲におけるタービンブレードの温度とフォトダイオード3の検出信号との関係があらかじめ数値化されて設定されている。従って、演算部8がフォトダイオード3の温度とフォトダイオード3の検出信号に基づいて温度補正付き光強度温度変換テーブル7を参照すると、タービンブレードの温度が求まる。
【0039】
演算部8が出力したタービンブレードの温度値がD/A変換器10でアナログの温度出力信号に変換され、外部に出力される。
【0040】
本発明によれば、フォトダイオード3の近傍に電流出力式温度センサ4を配置し、フォトダイオード3の出力と電流出力式温度センサ4の出力を数値化し、フォトダイオード3の温度依存性に基づく数値を設定した温度補正付き光強度温度変換テーブル7を参照するようにしたので、環境温度に依存しないでタービンブレードの温度が測定される。
【0041】
また、本発明によれば、演算部8をA/D変換器・D/A変換器付きのワンチップマイコンで実現したので、回路構成が簡素になると共に重量が軽減され、航空機には好適な小型軽量の光学式パイロメータ1が提供される。
【0042】
また、本発明によれば、演算部8をワンチップマイコンで実現したので、温度依存性が異なるフォトダイオードを使用する場合も、微調整(校正)がソフトウェアの部分的変更あるいは温度補正付き光強度温度変換テーブル7の書き換えで簡単に対応できる。
【0043】
また、本発明によれば、温度補正付き光強度温度変換テーブル7に、フォトダイオード3の温度が航空エンジン搭載時の広い環境温度範囲のデータを書き込んだので、環境温度範囲が広い航空エンジンに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態を示す光学式パイロメータの構成図である。
【図2】図1の光学式パイロメータを取り付けた航空エンジンの中心線の片側を示した側面図である。
【図3】図1の光学式パイロメータのLSIが実行する処理のフローチャートである。
【図4】フォトダイオードの温度依存性を示す特性グラフである。
【図5】従来の光学式温度センサの構成図である。
【符号の説明】
【0045】
1 光学式パイロメータ
2 光ファイバ
3 フォトダイオード
4 電流出力式温度センサ
5,6 A/D変換器
7 温度補正付き光強度温度変換テーブル
8 演算部
9 LSI
10 D/A変換器
11 電流/電圧変換器
12 電流/電圧変換器
21 センサヘッド部
22 回路部
23 航空エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空エンジンのタービンブレードに一端を臨ませた光ファイバと、該光ファイバの他端に設けられて上記タービンブレードの光強度を検出するフォトダイオードと、該フォトダイオードに添わせて設けられ該フォトダイオードの温度を検出する電流出力式温度センサと、上記フォトダイオードの検出信号を数値化するA/D変換器と、上記電流出力式温度センサの検出信号を上記フォトダイオードの温度として数値化するA/D変換器と、あらかじめ上記フォトダイオードの温度をパラメータとして上記タービンブレードの温度と上記フォトダイオードの検出信号との関係を設定した温度補正付き光強度温度変換テーブルと、上記フォトダイオードの温度と上記フォトダイオードの検出信号に基づいて上記温度補正付き光強度温度変換テーブルを参照することにより、上記タービンブレードの温度を求める演算部とを備えたことを特徴とする光学式パイロメータ。
【請求項2】
上記2つのA/D変換器と温度補正付き光強度温度変換テーブルと演算部とが1チップのLSIに形成されたことを特徴とする請求項1記載の光学式パイロメータ。
【請求項3】
上記温度補正付き光強度温度変換テーブルは、上記フォトダイオードの温度が航空エンジン搭載時の環境温度範囲における上記タービンブレードの温度と上記フォトダイオードの検出信号との関係を設定されることを特徴とする請求項1又は2記載の光学式パイロメータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−244168(P2009−244168A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92529(P2008−92529)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(503223223)株式会社IHIエスキューブ (27)
【Fターム(参考)】