説明

光学式情報記録再生装置

【課題】 多層記録媒体の各記録層に対し、良好な収差補正を可能とし、安定な記録又は再生を実現可能な光学式情報記録再生装置を提供する。
【解決手段】 対物レンズ10への入射光の発散角ないし収束角を変化させることによって光ディスク11の複数の記録層にフォーカスする際に発生する球面収差を補正するビームエキスパンダー6と、光ディスク11の傾きによって発生するコマ収差を補正する補正手段を具備する。コマ収差補正手段を駆動する場合には、光ディスクの記録層に応じて駆動信号の大きさを異ならせて駆動する。そうすることで、多層記録媒体において透過層厚が異なる場合でも、いずれかの記録層でコマ収差が残留することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的情報記録媒体に情報を記録又は再生する光学式情報記録再生装置、特に、複数の記録層を有する情報記録媒体に情報を記録又は再生する場合のコマ収差の補正技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスクの大容量化への要求は益々大きくなっている。光ディスクの記録密度を向上させるには、例えば、対物レンズのNA(開口数)を上げることにより、ビームスポットを小径化することが有効である。近年においては、対物レンズのNAが0.85のシステムが実用化されるに至っている。
【0003】
また、光ディスクの記録層を多層化することも、光学系をほとんど変えずに容量が倍増するため、大容量化に非常に有効である。しかし、基板厚の違いによる球面収差の発生量はNAに比例するため、高NA化に伴ってその影響は著しく増大する。例えば、波長405nm、NA0.85の光学系の場合、基板厚誤差は数μmで回折限界を超えてしまうため、単層ディスクであっても球面収差の補正が必要となっている。
【0004】
光ディスクの記録層を多層化した場合、層間距離は10μm以上必要とされ、球面収差の補正量は更に増大する。球面収差の補正手段には、対物レンズへの入射光の発散角ないし収束角を変化させるビームエキスパンダーが実用化されている。
【0005】
更に、最近では、システムマージンの向上のため、記録系DVDを始めとして、コマ収差の補正機構を設けることも主流となってきている。コマ収差の補正には、光ピックアップ全体を傾ける方法が従来から用いられている。しかし、傾ける部分が大きく重いため、その駆動機構及び駆動源を設けるためのスペースが必要となり、装置が大型化するという問題がある。
【0006】
それに対し、対物レンズのみを傾ける方式、或いは液晶によるコマ補正方式が実用化されてきている。対物レンズのみを傾ける方式の場合には、チルトアクチュエータ上に対物レンズを搭載し、ディスクチルトの量に応じて対物レンズを傾けることによりコマ収差を補正する。
【0007】
一般的な対物レンズ及び無限系の光学系の場合、特開2005−108398号公報にはディスクのチルトによって発生するコマ収差量と、対物レンズのチルトによって発生するコマ収差量はほぼ等しいことが記載されている(特許文献1)。そのため、ディスクと対物レンズを平行となるように駆動すれば、コマ収差はほぼ最適に補正することが可能となる。
【0008】
液晶によるコマ補正方式には、例えば、特開2000−090479号公報に記載されたものがある(特許文献2)。同公報のものでは、液晶素子はディスクチルトによって発生するコマ収差の分布の形状に対応した形状を有する複数のパターン電極を有し、ディスクチルトの量に応じて液晶素子への印加電圧を変えて逆符号のコマ収差を発生させて、コマ収差を補正する。
【0009】
以上のように、近年の対物レンズの高NA化と光ディスクの多層化の流れにより、今後コマ収差と球面収差を同時に補正する機構を有することが光ピックアップにとって必要な機能となってくると予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−108398号公報
【特許文献2】特開2000−090479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のようにビームエキスパンダー等により非平行光とすることで球面収差を補正する場合には、ディスクの透過層厚に応じてディスクのチルトによって発生するコマ収差量と、対物レンズのチルトによって発生するコマ収差量の比率が変化してしまう。
【0012】
このため、多層ディスクを読み書きする時異なる透過層厚の条件となる場合、最適なレンズチルト量或いは液晶素子への印加電圧は層によって異なり、同じレンズチルト量或いは液晶素子への印加電圧でコマ収差を補正しようとすると、いずれかの層でコマ収差が残留してしまう。このため、結像性能が低下し、安定な記録再生が困難になる。
【0013】
本発明の目的は、多層記録媒体の各記録層に対し、対物レンズを傾けることによって収差を補正する場合でも、全ての層で良好な収差補正を可能とし、安定な記録又は再生を実現可能な光学式情報記録再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するため、光源からの出射光を対物レンズにより情報記録媒体の複数の記録層上にそれぞれ集光することによって前記複数の記録層に情報を記録又は記録情報を再生する光学式情報記録再生装置において、前記記録媒体の複数の記録層に前記出射光をフォーカスする際に発生する球面収差を補正する球面収差補正手段と、前記記録媒体の傾きによって発生するコマ収差を補正するコマ収差を発生させるために、前記対物レンズを傾動させることによりコマ収差を発生させる手段、或いは、前記記録媒体の傾きによって発生するコマ収差と類似の形状の電極パターンを備える液晶素子を有し、前記電極へ印加する電圧を変化させることによりコマ収差を発生させる手段からなるコマ収差補正手段と、前記記録媒体の記録層に応じて前記コマ収差補正手段を駆動信号の大きさを異ならせて駆動する駆動手段と、予め前記記録媒体の記録層毎に前記コマ収差補正手段の駆動信号を検出する手段と、前記記録媒体の記録層毎の駆動信号を記憶手段と、を含み、
前記駆動手段は、前記記録媒体の記録層毎に、前記記憶手段に記憶している駆動信号により前記コマ収差補正手段を駆動し、前記検出する手段は、前記球面収差補正手段により球面収差が補正された後に、前記コマ収差補正手段の駆動信号を変化させながら、前記対物レンズの傾動量、或いは前記コマ収差補正手段の液晶素子の電極に印加する電圧と相関のある所定指標を測定し、前記所定指標の測定結果に基づいて前記記録媒体の記録層毎の駆動信号を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、記録媒体の記録層に応じてコマ収差補正手段の駆動信号の大きさを変化させて駆動することにより、記録媒体の全ての記録層で良好な収差補正が可能となり、安定した記録又は再生を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る光学式情報記録再生装置の第1の実施形態を示すブロック図である。
【図2】RF・サーボセンサの受光面を示す図である。
【図3】光ディスクの第1層に光ビームを集光し、ビームエキスパンダーよって球面収差を最適化した場合のディスクチルトに対する収差の変化を示す図である。
【図4】光ディスクの第1層に光ビームを集光し、ビームエキスパンダーによって球面収差を最適化した場合の対物レンズチルトに対する収差の変化を示す図である。
【図5】光ディスクの第2層に光ビームを集光し、ビームエキスパンダーによって球面収差を最適化した場合のディスクチルトに対する収差の変化を示す図である。
【図6】光ディスクの第2層に光ビームを集光し、ビームエキスパンダーによって球面収差を最適化した場合の対物レンズチルトに対する収差の変化を示す図である。
【図7】光ディスクの第2層に光ビームを集光し、ビームエキスパンダーによって球面収差を最適化した場合のディスクチルトと同量の対物レンズチルト与えた時の収差の変化を示す図である。
【図8】光ディスクの第2層に光ビームを集光し、ビームエキスパンダーによって球面収差を最適化した場合の収差の変化を示す図である。
【図9】本発明の第4の実施形態を示すブロック図である。
【図10】液晶コマ補正素子の電極パターンを示す図である。
【図11】コマ収差による波面収差及び液晶コマ補正素子によって発生する位相差を示す図である。
【図12】液晶コマ補正素子による補正後の波面収差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は本発明に係る光学式情報記録再生装置の第1の実施形態を示すブロック図である。図中1は光源である半導体レーザであり、例えば、波長は405nmである。11は情報記録媒体である光ディスクであり、図1に示すように第1層11aと第2層11bの記録層を有する2層ディスクである。第2層11bは光入射側とし、透過層厚は70μmとする。第2層11aは光入射側の反対側の記録層とし、透過厚層は100μmとする。
【0019】
また、2は回折格子、3は偏光ビームスプリッター、4はフロントモニター用センサ、5はコリメータレンズである。6は球面収差を補正するためのビームエキスパンダーであり、凹レンズ6aと凸レンズ6bから構成されている。
【0020】
2つのレンズのうち凸レンズ6bは駆動機構19の駆動により光軸方向に可動し、凹レンズ6aと凸レンズ6bのレンズ間隔を可変することができる。光軸方向に可動するレンズとしては、他方の凹レンズ6aでも良い。
【0021】
駆動機構19はステッピングモータ等の駆動源及びその駆動力を凸レンズ6bの光軸方向の直線運動に変換するギア機構等から構成されている。コントローラ21はSA駆動回路20を制御し、駆動機構19の駆動により凸レンズ6bの光軸方向の位置を調整することで光ディスク11の各記録層での球面収差を補正する。
【0022】
7は1/4波長板、8は跳ね上げミラー、9は対物レンズアクチュエータ、10は対物レンズである。対物レンズ10のNAは0.85で、透過層厚100μmのとき無限系で無収差となるように設計されている。
【0023】
また、対物レンズアクチュエータ9は、フォーカス方向と、光ディスク11の半径方向への2軸並進と、光ディスク11の半径方向への傾動の計3軸の駆動機構を有するアクチュエータであり、対物レンズ10は対物レンズアクチュエータ9上に搭載されている。対物レンズアクチュエータ9のチルトコイルにはコントローラ21の制御に基づいてチルト駆動回路22から駆動信号が供給され、対物レンズ10を傾動させることでコマ収差の補正を行う。
【0024】
更に、12はセンサレンズ、13はRF・サーボセンサを示す。RF生成回路23は後述するようにRF・サーボセンサ13の出力からRF再生信号を生成する。サーボエラー生成回路24は同様にRF・サーボセンサ13の出力からフォーカスエラー信号とトラッキングエラー信号を生成する。
【0025】
コントローラ21は装置内の各部を制御する制御回路であり、光ディスク11の各記録層に情報を記録又は情報を読み出すための制御を行う。また、詳しく後述するように球面収差の補正制御或いはコマ収差の補正制御等を行う。メモリ25は光ディスク11の各記録層毎にコマ収差を補正するための最適駆動信号値を記憶する。
【0026】
更に、コントローラ21は上述のフォーカスエラー信号とトラッキングエラー信号に基づいて対物レンズアクチュエータ9のフォーカスアクチュエータとトラッキングアクチュエータを駆動し、フォーカス制御とトラッキング制御を行う。図1ではこれらのサーボ制御の詳しい構成に関しては省略している。
【0027】
また、図1では記録データを所定の変調方式によって変調する変調回路、その変調回路からの記録信号に応じて半導体レーザ1を駆動するレーザ駆動回路、或いは復調処理を行う復調回路等については省略している。更に、光ディスク11を回転駆動するスピンドルモータ等の機構についても省略している。
【0028】
半導体レーザ1から出射した光束は、回折格子2を透過して3ビームに分割され、偏光ビームスプリッター3に入射する。偏光ビームスプリッター3に入射した光束は一部が反射され、フロントモニター用センサ4に入射する。このフロントモニター用センサ4の出力に基づいて半導体レーザ1の出力のAPC制御が行われる。
【0029】
偏光ビームスプリッター3を透過した光束は、コリメータレンズ5によって平行光束にされ、コリメータレンズ5を透過した平行光束は凹レンズ6aと凸レンズ6bからなるビームエキスパンダー6に入射する。ビームエキスパンダー6は上述のように凸レンズ6bが光軸方向に可動となっており、対物レンズ10への入射光束の発散角ないし収束角を変えることが出来る。
【0030】
ビームエキスパンダー6を透過した光束は、1/4波長板7を透過し、跳ね上げミラー8で反射され、更に対物レンズ10によって光ディスク11の情報記録面に集光される。光ディスク11からの反射光は、対物レンズ10、1/4波長板7、跳ね上げミラー8、ビームエキスパンダー6を経由して偏光ビームスプリッター3に入射する。
【0031】
その入射光は、偏光ビームスプリッター3により反射され、センサレンズ12を介してRF・サーボセンサ13に集光される。上述のようにRF・サーボセンサ13の出力からRF再生信号、フォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号等が得られる。
【0032】
図2はRF・サーボセンサ13の受光面を示す。RF・サーボセンサ13は中央の4分割センサとその両側の2分割センサから構成されている。RF・サーボセンサ13の受光面をa〜hとし、各受光面からの出力をそれぞれA〜Hとすると、フォーカスエラー信号FEは非点収差法により、
FE=(A+C)−(B+D) …(1)
なる演算により得られる。
【0033】
また、トラッキングエラー信号TEはディファレンシャル・プッシュプル法により、
TE={(A+D)−(B+C)}−k{(F−E)+(H−G)} …(2)
なる演算により得られる。これらフォーカスエラー信号とトラッキングエラー信号はサーボエラー生成回路24にて生成され、コントローラ21に出力される。なお、(2)式のトラッキングエラー信号はプッシュプル信号と呼び、そのプッシュプル信号振幅に基づいて光ディスク11の各記録層でのコマ収差の補正を行う。
【0034】
更に、RF再生信号は4分割センサの総和により、
RF再生信号=A+B+C+D …(3)
なる演算により得られる。このRF再生信号は上述のようにRF生成回路23により生成され、コントローラ21に出力される。
【0035】
コントローラ21は、詳しく後述するように電源投入時等のチルト量最適化動作時にプッシュプル信号の振幅を検出し、光ディスク11の各記録層でプッシュプル信号振幅が最大となる最適駆動信号を検索する。そして、記録又は再生時には各記録層でチルトコイルに最適駆動信号を印加することでコマ収差の補正を行う。
【0036】
また、コントローラ21は後述するようにRF再生信号振幅を検出し、RF再生信号振幅が最大となるように凸レンズ6bの位置を調整することで光ディスク11の各記録層で球面収差の補正を行う。
【0037】
ここで、半導体レーザ1からの光ビームを光ディスク11の第1層11aに集光し、ビームエキスパンダー6によって球面収差を最適化した場合のディスクチルトに対する収差の変化、及び対物レンズチルトに対する収差の変化を図3、図4に示す。
【0038】
凡例のrmsは、波面収差の最小二乗誤差値で、COMA、ASはそれぞれ3次のコマ収差、非点収差成分の最小二乗誤差値を示す。図3、図4よりディスクチルト量にほぼ等しい量が、最適な対物レンズチルト量となる。
【0039】
同様に、半導体レーザ1からの光ビームを光ディスク11の第2層11bに集光し、エキスパンダーレンズ6によって球面収差を最適化した場合のディスクチルトに対する収差の変化、及び対物レンズチルトに対する収差の変化を図5、図6に示す。
【0040】
図5、図6によれば、例えば、対物レンズを0.55度傾けた場合、81mλrmsのコマ収差が発生するが、光ディスク11を0.5度傾けた場合には、37mλrmsのコマ収差しか発生しないことが分かる。
【0041】
図7は光ディスク11の第2層11bにおいてディスクチルトと同量の対物レンズチルトを与えた場合の収差の変化を示す。図7より分かるように、光ディスク11の第2層11bでは、0.5度のディスクチルトを同量の対物レンズチルトで補正した場合、44mλrmsのコマ収差が残留してしまう。
【0042】
次に、光ディスク11のチルトに対し、0.45倍の対物レンズチルトを与えた場合の収差の変化を図8に示す。図8から分かるように第2層11bでの対物レンズ10の傾動量を、第1層11aの0.45倍とすることによりコマ収差をほぼ完全に補正でき、0.6度以上光ディスク11がチルトした場合でも8mλrmsに収まっている。本実施形態では対物レンズ10を傾動させることでコマ収差の補正を行う。
【0043】
このように、本発明では、光ディスク11の第2層11bでの対物レンズ10の傾動量を、第1層11aの0.45倍とすることにより対物レンズチルト量の最適化を行っている。
【0044】
次に、本実施形態の動作について説明する。電源投入時或いはディスク交換時等に対物レンズチルト量の最適化動作を行う。まず、コントローラ21はSA駆動回路20を制御し、光ディスク11の第1層11aでの球面収差を補正するようにビームエキスパンダー6の凸レンズ6bの位置を合わせ、第1層11aにフォーカスを引き込む。
【0045】
具体的には、コントローラ21は駆動回路20を制御して駆動機構19の駆動により凸レンズ6bを光軸方向に可動し、その際のRF再生信号をRF生成回路23から取り込み、RF再生信号振幅を検出する。そして、コントローラ21はRF再生信号振幅が最大となるように凸レンズ6bの位置を調整し、第1層11aでの球面収差の補正を行う。以下の説明において光ディスク11の各記録層における球面収差の補正は同様の方法で行う。
【0046】
また、コントローラ21はチルト駆動回路22を制御し、対物レンズアクチュエータ9のチルトコイルに駆動電圧を印加する。そして、その駆動電圧を変化させてチルト量を変化させながらサーボエラー生成回路24からプッシュプル信号を取り込み、プッシュプル信号振幅を検出して最適駆動電圧を検索する。即ち、コントローラ21はプッシュプル信号振幅が最大となる時の駆動電圧値を検出し、最適駆動信号値とする。
【0047】
次に、コントローラ21は光ディスク11の第2層11bにビームエキスパンダー6の凸レンズ6bの位置を合わせ、第2層11bにフォーカスを引き込む。その場合も、同様にRF再生信号振幅値が最大となるように凸レンズ6bの位置調整を行う。
【0048】
また、コントローラ21は、同様にチルト駆動回路22を制御し、チルト量を変化させながらプッシュプル信号振幅を検出し、プッシュプル信号振幅が最大となる時の駆動電圧を最適駆動信号として検出する。光ディスク11の第1層11a、第2層11bそれぞれの最適駆動信号値はメモリ25に蓄えておく。
【0049】
次に、光ディスク11にデータを書き込み或いは読み出す場合には、光ディスク11のフォーカスする記録層に合わせて、メモリ25に記憶している最適駆動信号を対物レンズアクチュエータ9のチルトコイルに印加する。
【0050】
まず、光ディスク11の第1層11aに読み書きする場合には、コントローラ21はチルト駆動回路22を制御して、メモリ25に記憶している第1層11aに対応する最適駆動信号を対物レンズアクチュエータ9のチルトコイルに印加する。続いて、コントローラ21は光ディスク11の第1層11aに対して球面収差を補正するためビームエキスパンダー6の凸レンズ6bの位置調整を行い、第1層11aにフォーカスを引き込む。その後、目的のトラックにトラッキング制御を行い、データの読み書きを行う。
【0051】
次に、光ディスク11の第2層11bに読み書きする場合には、同様にメモリ25に記憶している第2層11bに対応する最適駆動信号をチルト駆動回路22から対物レンズアクチュエータ9のチルトコイルに印加する。続いて、光ディスク11の第2層11bに対して球面収差を補正するためビームエキスパンダー6の凸レンズ6bの位置調整を行い、第2層11bにフォーカスを引き込む。また、目的のトラックにトラッキング制御を行い、データの読み書きを行う。
【0052】
なお、本実施形態では、チルトの最適化の指標としてプッシュプル信号を用いたが、チルト量と相関のある信号であれば、例えば、RF再生信号振幅等の他の指標でも構わない。また、2層媒体を用いているが、3層以上の多層媒体の場合でも本発明は使用可能である。更に、球面収差補正のため、ビームエキスパンダーを用いて有限系としているが、液晶素子等その他の方法を用いる場合でも効果は同様である。
【0053】
本実施形態では、光ディスク11の複数の記録層に対してそれぞれ異なる対物レンズチルト量を与えるようにしたので、大きな球面収差補正時も有限光束入射によるコマ発生量変動の影響を受けず、多層媒体の全ての層に対して安定な記録再生が可能となる。
【0054】
第2の実施形態
図9は本発明の第2の実施形態の構成を示すブロック図である。図9では図1と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。本実施形態では、ビームエキスパンダー6と跳ね上げミラー8の間に液晶コマ補正素子17を設けている点が図1と異なっている。27は液晶コマ補正素子17に駆動電圧を印加する液晶駆動回路である。
【0055】
また、対物レンズアクチュエータ18には、フォーカス方向と光ディスク11の半径方向への2軸並進の駆動機構を有するものを用いている。対物レンズ10はその対物レンズアクチュエータ18に搭載されている。
【0056】
半導体レーザ1の波長は405nm、光ディスク11の透過層厚は第1層11aが100μm、第2層11bが70μmである。対物レンズ10のNAは0.85で、透過層厚100μmのとき無限系で無収差となるように設計されている。
【0057】
液晶コマ補正素子17の電極パターンを図10に示す。電極パターンはディスクチルトによって発生するコマ収差と類似の形状としており、電極に印加する電圧に応じて位相差を発生させることができる。
【0058】
ディスクラジアル方向を軸にとった時のマ収差による波面収差及び液晶コマ補正素子17によって発生する位相差を図11に示す。同様に補正後の波面収差の様子を図12に示す。発生したコマ収差の逆符号の位相差を与えることによってコマ収差を補正することが可能となる。なお、液晶コマ補正素子17については、例えば、特開2000−090479号公報、特開2000−3526号公報等に詳述されている。
【0059】
次に、対物レンズ10への入射光軸が調整誤差により0.5度傾いた場合について説明する。対物レンズ10の傾きは、ディスク面と平行になるように調整されている。
【0060】
まず、ディスクチルトが無い場合について説明する。半導体レーザ1からの光ビームを光ディスク11の第1層11aに集光し、ビームエキスパンダー6によって球面収差を最適化した状態及び第2層11bに集光し、ビームエキスパンダー6によって球面収差を最適化した状態で比較する。その場合、第1層11aではコマ収差の発生量がほぼ0なのに対し、第2層11bでは44mλrmsのコマ収差が発生する。
【0061】
次に、ディスクチルトが0.3度の場合について説明する。同様に光ディスク11の第1層11aに光ビームを集光し、ビームエキスパンダー6によって球面収差を最適化した状態、及び第2層11bに光ビームを集光し、ビームエキスパンダー6によって球面収差を最適化した状態で比較する。その場合、第1層11aでは32mλrmsのコマ収差が発生するのに対し、第2層11bでは66mλrmsのコマ収差が発生する。
【0062】
次に、本実施形態の動作について説明する。同様に電源投入時或いはディスク交換時等に液晶コマ補正素子17への印加電圧の最適化動作を行う。まず、コントローラ21は光ディスク11の第1層11aでの球面収差を補正するようにビームエキスパンダー6の凸レンズ6bの位置を合わせ、第1層11aにフォーカスを引き込む。その場合も、上述のようにRF再生信号振幅が最大となるように凸レンズ6bの位置調整を行う。
【0063】
また、コントローラ21は液晶コマ補正素子17を駆動する液晶駆動回路27を制御し、液晶コマ補正素子17に印加する電圧を変化させながらプッシュプル信号振幅を検出する。そして、プッシュプル信号振幅が最大となる時の液晶コマ補正素子17への駆動電圧を第1層11aの最適駆動信号として検出する。
【0064】
次に、光ディスク11の第2層11bに対してビームエキスパンダー6の凸レンズ6bの位置調整を行い、第2層11bにフォーカスを引き込む。また、同様に液晶コマ補正素子17に印加する電圧を変化させながらプッシュプル信号振幅を検出し、プッシュプル信号振幅が最大となる時の液晶コマ補正素子17への印加電圧を第2層11bの最適駆動信号として検出する。第1層、第2層それぞれの最適駆動信号はメモリ25に蓄えておく。
【0065】
例えば、ディスクチルトがほとんど無い場合には、第1層11aでの印加電圧はほぼ0となり、第2層11bでの印加電圧は44mλrmsのコマ収差を補正するように最適化される。また、ディスクチルトが0.3度の場合には、第1層11aでの印加電圧は32mλrmsのコマ収差を補正するように最適化され、第2層11bでの印加電圧は66mλのコマ収差を補正するように最適化される。
【0066】
次に、光ディスク11にデータを書き込み或いは読み出す場合には、光ディスク11の記録又は再生する記録層に応じてメモリ25に記憶している最適駆動電圧を液晶駆動回路27から液晶コマ補正素子17に印加する。
【0067】
まず、光ディスク11の第1層11aに読み書きする場合について説明する。コントローラ21は液晶駆動回路27を制御し、メモリ25に記憶している第1層11aに対応する最適駆動信号を液晶コマ補正素子17に印加する。続いて、光ディスク11の第1層11aに対してビームエキスパンダー6の凸レンズ6bの位置調整を行い、第1層11aにフォーカスを引き込み、情報の読み書きを行う。
【0068】
また、光ディスク11の第2層11bに読み書きする場合には、同様にメモリ25に記憶している第2層11bに対応する最適駆動信号を液晶駆動回路27から液晶コマ補正素子17に印加する。続いて、第2層11bに対してビームエキスパンダー6の凸レンズ6bの位置調整を行い、第2層11bにフォーカスを引き込み、情報の読み書きを行う。
【0069】
なお、本実施形態では、チルトの最適化の指標としてプッシュプル信号を用いたが、チルト量と相関のある信号であれば、例えば、RF信号振幅等の他の指標でも構わない。また、2層媒体を用いているが、3層以上の多層媒体の場合でも適用は可能である。更に、球面収差補正のため、エキスパンダーを用いて有限系としているが、対物レンズへの入射光のパワーを変えて補正する系であれば液晶素子等その他の方法を用いても効果は同様である。
【0070】
以上のように本実施形態によれば、光ディスクの読み書きを行う記録層に対してそれぞれ異なる駆動電圧を液晶コマ補正素子に与えている。そのため、液晶素子でコマ収差を補正する場合でも大きな球面収差補正時での有限光束入射によるコマ発生量変動の影響を受けず、多層媒体の全ての層に対して安定な記録再生を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0071】
1 半導体レーザ
2 回折格子
3 偏光ビームスプリッター
4 フロントモニタ用センサ
5 コリメータレンズ
6 ビームエキスパンダー
6a 凹レンズ
6b 凸レンズ
7 1/4波長板
8 跳ね上げミラー
9 対物レンズアクチュエータ
10 対物レンズ
11 光ディスク
11a 第1層
11b 第2層
12 センサレンズ
13 サーボ・RFセンサ17 液晶コマ補正素子
18 2軸対物レンズアクチュエータ
19 駆動機構
20 SA駆動回路
21 コントローラ
22 チルト駆動回路
23 RF生成回路
24 サーボエラー生成回路
25 メモリ
27 液晶駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの出射光を対物レンズにより情報記録媒体の複数の記録層上にそれぞれ集光することによって前記複数の記録層に情報を記録又は記録情報を再生する光学式情報記録再生装置において、
前記記録媒体の複数の記録層に前記出射光をフォーカスする際に発生する球面収差を補正する球面収差補正手段と、
前記記録媒体の傾きによって発生するコマ収差を補正するコマ収差を発生させるために、前記対物レンズを傾動させることによりコマ収差を発生させる手段、或いは、前記記録媒体の傾きによって発生するコマ収差と類似の形状の電極パターンを備える液晶素子を有し、前記電極へ印加する電圧を変化させることによりコマ収差を発生させる手段からなるコマ収差補正手段と、
前記記録媒体の記録層に応じて前記コマ収差補正手段を駆動信号の大きさを異ならせて駆動する駆動手段と、
予め前記記録媒体の記録層毎に前記コマ収差補正手段の駆動信号を検出する手段と、
前記記録媒体の記録層毎の駆動信号を記憶手段と、を含み、
前記駆動手段は、前記記録媒体の記録層毎に、前記記憶手段に記憶している駆動信号により前記コマ収差補正手段を駆動し、
前記検出する手段は、前記球面収差補正手段により球面収差が補正された後に、前記コマ収差補正手段の駆動信号を変化させながら、前記対物レンズの傾動量、或いは前記コマ収差補正手段の液晶素子の電極に印加する電圧と相関のある所定指標を測定し、前記所定指標の測定結果に基づいて前記記録媒体の記録層毎の駆動信号を検出することを特徴とする光学式情報記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−108359(P2011−108359A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49143(P2011−49143)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【分割の表示】特願2005−326100(P2005−326100)の分割
【原出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】