説明

光学式酸素センサーチップ、その製造方法及びそれを用いた光学式酸素センサー

【課題】塗布プロセスがシングルステップでも作製可能な高感度酸素センサーチップと、前記センサーチップの製造方法と、前記センサーチップを用いて、気体や液体雰囲気中の酸素濃度を簡単、正確に測定できる光学式酸素センサーとを提供すること
【解決手段】基材上に、発光色素とニッケル錯体とを含む、シランアルコキシドの加水分解・重合膜を備える光学式酸素センサーチップ。発光色素を含むシランアルコキシド溶液を加水分解・重合した後、好ましくは前記加水分解・重合液を濃縮し、さらにニッケル錯体を添加して得られたコーティング液を基材上にコーティングして前記センサーチップを製造する。及び、光源と、ガラスファイバからなる光源導光路と、試料流路に設けられた前記の光学式酸素センサーチップと、ガラスファイバからなる、光学式酸素センサーチップで発生した発光用導光路と、受光器と、演算手段とを具備する光学式酸素センサー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体関連分野や流体計測分野等で使用される光学式酸素センサーチップ、その製造方法、及びそれを用いた光学式酸素センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、科学技術の高度化に伴う多様なセンサーへの需要、及び生化学、医学分野における研究への応用から、光学式酸素センサーのニーズが高まっている。光学式酸素センサーは、電気的、磁気的攪乱を受けない、高感度である、高速応答である、及び酸素を消費しない等の長所に加えて、センサーチップの微小化が可能である等の、他の酸素センサーにはない優れた特徴があり、その開発が望まれている。
光学式酸素センサーチップは、一般的に、発光色素を樹脂等のマトリクスに分散させ、基材に固定化したものである。この発光色素が分散したマトリクスに光を照射すると、発光色素が励起される。この励起された発光色素は、周りの酸素濃度により異なった発光強度や発光寿命を示す。そのため、発光強度や発光寿命を測定することによって酸素センシングを行うことができる。
【0003】
このような光学式酸素センサーチップとして、これまで、ゾルゲル(TEOS:テトラエトキシシラン)をマトリクスとして色素分子を固定化して製造する発明が開示されている(非特許文献1)。これは燐光の消光により、酸素センシングを行っている。
また、ガラス基板上に固定された、色素分子を含むポリマー層の上に、酸素透過性の遮光層を設けることにより、ノイズの原因となる外部からの迷光を低減して、測定精度を高める光学式酸素センサーの提案がある(特許文献1)。
さらに、多孔質フィルタ内に分散された色素分子膜の上に被膜層をコーティングして、蛍光の反射、外光の遮断及び蛍光分子膜層の保護を行うことにより、測定感度及び測定精度を高くした光学式酸素センサーが提案されている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、非特許文献1記載の方法では、色素分子自体のセンシング能を利用して酸素濃度を測定するものであり、色素と酸素の最大反応速度は色素によって決まってしまうため、色素のみの理論センシング能が足りない場合には、それ以上のセンシング能の改善は見込めず、センシング感度が不十分となることがある。
特許文献1及び2に記載の方法については、色素を含むマトリクス層の上に、オーバーコートしなければならないので、製造プロセスが多段階となり、製造コストが上がってしまう。加えて、特許文献1、2は、外部や内部からの迷光を遮断することによって、ノイズの低減を図っているだけであって、基本的にシグナルと酸素に対するレスポンスが大きくなるわけではない。特に、光学式酸素センサーは低濃度領域においてシグナルが大きくなるため、ノイズ低減のみでは不十分と言わざるを得ない。従って、迷光の低減だけでは、酸素センシング能の大幅な改善は見込めない。
なお、本出願人は、先に高感度に酸素センシングができる光学式酸素センサーチップに関する発明を出願した(特許文献3)が、光センシング能の更なる向上を目指し、本発明を完成させたものである。
【0005】
【非特許文献1】Analytica Chimica Acta、Vol.342、Issues2-3、pp181-188、(1997)
【特許文献1】特開平10−132742号公報
【特許文献2】特開2001−194304号公報
【特許文献3】特開2008−14896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況下になされたものであって、塗布プロセスがシングルステップでも作製可能な高感度光学式酸素センサーチップと、前記センサーチップの製造方法と、前記センサーチップを用いて、液体や気体中の酸素濃度を正確に、かつ簡単に測定できる酸素センサーと、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に想達し、当該目的を達成し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、以下を要旨とするものである。
1.基材上に、発光色素とニッケル錯体とを含む、シランアルコキシドの加水分解・重合膜を備える光学式酸素センサーチップ。
2.前記シランアルコキシドの加水分解・重合膜が、アルキル基又はアリール基を有する上記1に記載の光学式酸素センサーチップ。
3.前記アリール基が、フェニル基である上記2に記載の光学式酸素センサーチップ。
4.前記発光色素が、ポルフィリン化合物の金属錯体である上記1から3のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップ。
5.前記ニッケル錯体が、ニッケル有機錯体である上記1から4のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップ。
6.前記基材が、板状の基材である上記1から5のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップ。
7.前記板状の基材が、ガラス材料である上記6に記載の光学式酸素センサーチップ。
8.上記1〜7のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップを備えることを特徴とする光学式酸素センサー。
9.光源と、ガラスファイバからなる光源導光路と、試料流路に設けられた上記1〜7のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップと、ガラスファイバからなる、光学式酸素センサーチップで発生した発光用導光路と、受光器と、演算手段と、を具備する請求項8に記載の光学式酸素センサー。
10.気体中又は液体中の酸素濃度を測定する上記8又は9に記載の光学式酸素センサー。
11.気体中の酸素濃度を測定する場合、該気体中の酸素濃度変動の測定可能範囲がppb〜ppmレベルである上記10に記載の光学式酸素センサー。
12.液体中の溶存酸素濃度を測定する場合、該液体中の酸素濃度の測定可能範囲が、ppt〜ppbレベルである上記10に記載の光学式酸素センサー。
なお、本明細書において、「加水分解・重合」とは、加水分解によりシランアルコキシド化合物からアルコキシドを遊離させ、その後アルコキシドが遊離したシラン同士を重合させることを意味する。また、「固形分」とは、シランアルコキシドの加水分解・重合物と発光色素とニッケル錯体とを足したものを意味する。
また、「酸素センシング能」は、下記式の通り、ある酸素濃度[O2nと[O2mにおける発光強度の差ΔIとして表される。
ΔI = In−Im
= I0/(Ksv[O2n)− I0/(Ksv[O2m
ここで、I0は、酸素濃度が0の時の発光強度、Ksvは、光学式酸素センサーにおいて一般的に成り立つ、下記のStern−Volmer式の傾きを表す。
0/I = 1 + Ksv[O2n
なお、発光寿命から酸素センシング能を算出する場合も、Stern−Volmer則に従い、下記式を用いて、同様に算出することができる。
τ0/τ = 1 + Ksv[O2n
【発明の効果】
【0008】
塗布プロセスがシングルステップでも作製可能な高感度光学式酸素センサーチップと、前記センサーチップの製造方法と、前記センサーチップを用いて、液体や気体中の酸素濃度を正確に、かつ簡単に測定できる光学式酸素センサーと、を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、従来よりも、より一層の光センシング能の向上を図ったもので、酸素センサーチップに、センシング能増強剤としてニッケル錯体を加えることにより、それを実現したものである。すなわち、本発明は、発光色素と、マトリクス溶液としてのシランアルコキシド溶液とを混合し、加水分解・重合後、ニッケル錯体を加えて得られたコーティング液を、基材にコーティングして作製された、該発光色素とニッケル錯体を含むシランアルコキシドの加水分解・重合膜を備える光学式酸素センサーチップである。
【0010】
前記基材に用いる材料としては、ガラス、セラミックス、金属、樹脂等を挙げることができる。さらにシリコン、InP、GaAs等の半導体材料も使用することが可能である。
前記樹脂材料としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂等を挙げることができる。これらの基材材料の中でも、耐熱性、透明性、及び化学的安定性に優れたガラスを用いることが好ましい。
前記基材は、板状、曲面状、及びファイバ状等の形態のものを用いることができる。これらの中でも、シランアルコキシドの加水分解・重合膜を均一にコーティングすることのできる板状の基材を用いることが好ましい。
【0011】
本発明に用いる発光色素の具体例としては、ポリフィリン化合物、フタロシアニン類、及びルテニウム錯体等が挙げられる。
ここで、ポルフィリン化合物としては、オクタエチルポルフィリン、テトラペンタフルオロフェニルポルフィリン等が例示できる。その中でも、重原子効果により発光効率を増加させ、酸素センシング能を増加させることのできるポルフィリン化合物の金属錯体が好ましい。前記金属の例としては、Pt、Pd、Au、Ag、Cu、Zn、Mo、Nb、V、Co等が挙げられる。これらのポルフィリン化合物及びポルフィリン化合物の金属錯体は、一種だけでなく、複数種の混合物として用いることができる。
また、ルテニウム錯体としては、トリス(2,2’−ビピリジル)ジクロロルテニウムやトリス(4,7−ジフェニルー1,10−フェナントロリン)ジクロロルテニウム等が挙げられる。
前記発光色素は、トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、酢酸エチル、アセトニトリル、イソプロピルアルコール、クロロホルム、ジエチルエーテル、又はブタノール等の適当な溶媒に、通常、1〜1000ppm程度の濃度となるように溶解してポルフィリン化合物溶液を得る。
【0012】
本発明に用いるニッケル錯体は、ニッケル有機錯体が好ましく、例えば、ニッケルビス(ジチオベンジル)、ニッケルジメチルジチオカーバメート、ニッケルジブチルジチオカーバメート、ニッケル3,5−ジ−t−ブチルー4−ヒドロキシベンジル−O−エチルホスホナート、ニッケル3,5−ジ−t−ブチルー4−ヒドロキシベンジル−O−ブチルホスホナート、ニッケル[2,2’−チオビス(4−t−オクチルフェノラート)]シクロヘキシルアミン、ニッケル[2,2’−チオビス(4−t−オクチルフェノラート)](n−チルアミン)、ニッケルビス[O−エチル−(3,5−ジ−t−ブチルー4−ヒドロキシベンジル)]ホスホネート、ニッケル[2,2’−チオビス(4−t−オクチルフェノラート)](2−エチルヘキシルアミン)、ニッケル[2,2’−スルホンビス(4−t−オクチルフェノラート)]、ニッケルビス(ジチオベンジル)、ニッケルビス(オクチルフェニル)スルフィド、ニッケル3,5−ジ−t−ブチルー4−ヒドロキシベンジルモノエチレート、ニッケル2,2’―チオビス(4−t−オクチルフェノラート)ジエタノールアミン、ニッケル2,2’―チオビス(4−t−オクチルフェノラート)トリエタノールアミン、ニッケル2,2’―チオビス(4−t−オクチルフェノラート)フェニルジエタノールアミン、ニッケル2,2’―チオビス(4−t−オクチルフェノラート)−i―オクチルエタノールアミン、等が挙げられる。中でもニッケルビス(ジチオベンジル)が取り扱い性や性能上、好ましい。
これらのニッケル錯体は、通常粉末状であり、任意の段階で対象溶液に添加することができ、例えば、前記ポルフィリン化合物等の発光色素を含むシランアルコキシドの加水分解・重合液に所定量を添加する。この添加量としては、下記シランアルコキシドの加水分解・重合液等の溶液中で、金属ニッケルとして0.01〜10mmol/L程度が好ましく、0.1〜5mmol/Lが特に好ましい。
【0013】
本発明に用いるシランアルコキシドとしては、低い極性を示し、ポルフィリン化合物やニッケル錯体を高濃度に分散・溶解させることのできるアルキル基、又はアリール基を有するシランアルコキシドを用いることが好ましい。さらにその中でも、ポルフィリン化合物と強い相互作用を有するので、ポルフィリンの溶解性及び分散性が向上するフェニル基(Ph)を有するシランアルコキシドを用いることがより好ましい。このようなフェニル基を有するシランアルコキシドの例として、下記の化合物が例示できる。
PhSi(OCH33
PhCH2Si(OCH33
Ph(CH22Si(OCH33
Ph(CH23Si(OCH33
Ph(CH24Si(OCH33
Ph(CH25Si(OCH33
Ph(CH26Si(OCH33PhSi(O・CH2CH33
PhCH2Si(O・CH2CH33
Ph(CH22Si(O・CH2CH33
Ph(CH23Si(O・CH2CH33
Ph(CH24Si(O・CH2CH33
Ph(CH25Si(O・CH2CH33
Ph(CH26Si(O・CH2CH33
2PhSi(O・CH33
2PhCH2Si(O・CH33
2Ph(CH22Si(O・CH33
2Ph(CH23Si(O・CH33
2Ph(CH24Si(O・CH33
2Ph(CH25Si(O・CH33
2Ph(CH26Si(O・CH33
2PhSi(O・CH2CH33
2PhCH2Si(O・CH2CH33
2Ph(CH22Si(O・CH2CH33
2Ph(CH23Si(O・CH2CH33
2Ph(CH24Si(O・CH2CH33
2Ph(CH25Si(O・CH2CH33
2Ph(CH26Si(O・CH2CH33
【0014】
本発明においては、前記シランアルコキシドを発光色素及び有機溶媒、又は水、及び酸触媒、あるいはアルカリ触媒と混合し、10〜100℃にて加水分解・重合して、ポルフィリン化合物等の発光色素を含むシランアルコキシド加水分解・重合液とする。
ここで、酸触媒、あるいはアルカリ触媒としては、塩酸、水酸化ナトリウム、蟻酸、及び水酸化カリウム等を挙げることができる。
【0015】
このようなシランアルコキシドの加水分解・重合液は、発光強度 I0 が増加し、酸素センシング能を高くすることができるとの観点から、基材へコーティングする前に濃縮することが好ましい。
前記濃縮手段としては、加熱蒸発方法や真空濃縮方法(真空脱気方法)を採用することができる。
なお、濃縮することが好ましい理由については明らかではないが、発明者らは、以下のように考えている。
すなわち、濃縮することによって、シランアルコキシド加水分解・重合液の粘度が上昇し、発光色素が移動しにくくなるために、発光色素同士が凝集しにくくなる。但し、ある程度は凝集しているので、発光色素が単分散している状態に比べれば、発光色素分子間の平均距離を長くすることができ、濃度消光が起こりがたいので、結果的に発光強度を大きくすることができる。
【0016】
なお、発光色素は、トルエン、アセトン又はアセトニトリル等の適当な溶媒に溶解した後、溶液の形態でシランアルコキシド溶液と混合し、シランアルコキシドを加水分解・重合した後、好ましくは前記加水分解・重合液を濃縮した液に、ニッケル錯体粉末を添加して得られたコーティング液を基材にコーティングする。
前記コーティング液を、基材にコーティングする方法としては、湿式法を用いることが好ましい。具体的には、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、フロートコート法、メニスカスコート法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等を例示できる。これらの中でも、シランアルコキシドの加水分解・重合膜が均一な膜厚となるスピンコート法が好ましい。
膜厚は、酸素センサーチップで測定したい環境や、得たい吸光係数等に応じて適宜決めることができるが、通常、0.1〜5μm程度である。必要に応じて、複数回塗布して膜厚を厚くすることができる。
塗布した後、10〜300℃の環境において乾燥する。こうして、本発明の光学式酸素センサーチップが得られる。
なお、本発明で得られる上記酸素センサーチップは、このまま使用に供しても良いし、さらに外光、迷走光を遮断して精度を上げるために、上記色素分子を含むポリマー層の上に、公知の方法に従って、酸素透過性の遮光層を設けても良い。
【0017】
本発明の測定対象となる酸素は、水溶液等の液体中でも、大気等のガス中でも、いずれでも測定可能である。
【0018】
このように、本発明に関わる光学式酸素センサーチップは、製造プロセスが多段階とならずに極めて容易で、しかも、色素分子単体だけでは不可能であった高感度の酸素センシング能を有している。
【0019】
本発明においては、また、上記の方法で得られた酸素センサーチップを備えた光学式酸素センサーが提供される。
より詳しくは、本発明の光学式酸素センサーは、光源と、好ましくはガラスファイバからなる光源導光路と、試料流路に設けられた前記光学式酸素センサーチップと、好ましくはガラスファイバからなる、光学式酸素センサーチップで発生した発光用導光路と、受光器と、演算手段と、を具備する。
このように、本発明の光学式酸素センサーは、好ましくは光ファイバ型光学系を用いたものであって、前記光学式酸素センサーの実施態様を図1及び図2を用いてさらに説明する。なお、図1及び図2においては、共通部材には同一番号を付してある。
図1に示す光学式酸素センサー10は、励起光源1から、結合レンズ2を介して光源導光路である光ファイバ3に励起光を入射し、光分波合波器4で光ファイバ5に励起光を結合した上で、対物レンズ6を介して、ガラス基材8上に前記酸素センシング材料9を塗布した光学式酸素センサーチップ7に照射する。そして酸素センシング材料9で発生した発光の消光作用を利用して、再度対物レンズ6を介して光ファイバ5に結合した後、光分波合波器4で、発光用導光路である光ファイバ11に結合し、結合レンズ12を介して受光器13で検出されるように構成されている。酸素を含む試料は試料流路14を通って流れ、途中で光学式酸素センサーチップ7と直接接触するようにされている。
【0020】
一方、図2の光学式酸素センサー10は、励起光源1から照射された励起光のうち、必要以外の不要なスペクトルを励起用フィルタ21によりカットし、光源導光路であり、かつ発光用導光路でもあるバンドルファイバ22を介して前記光学式酸素センサーチップ中の酸素センシング材料9を照射する。そして酸素センシング材料9で発生した発光の消光作用を利用して、バンドルファイバ22を経由して受光用フィルタ23に送り、そこで励起光の迷光等の不要なスペクトル成分をカットし、所定の波長のみの発光量を選択的に受光器13で検出するように構成されている。なお、酸素を含む試料は上記の図1と同様である。
受光器で得られたデータは、図示しない演算手段で演算され、演算結果は、表示手段や印刷手段等に出力される。
【0021】
上記において、励起光源1としては、ガラス基材8表面に分散担持された、前記光学式酸素センシング材料9に適した波長の光を出す光源であれば、任意のものを採用することができる。一例としては、緑色LED、白色LED、ハロゲンランプ、放電管、緑色レーザ等が挙げられる。
受光器13としては、光学式酸素センシング材料9が酸素を検出することにより発生した発光の消光作用を検知できるものであれば、任意のものを使用できるが、一例としてはフォトマルチプライヤ、アバランシェフォトダイオード、フォトダイオード等が挙げられる。
バンドルファイバ22及び光ファイバ3、5、11としては、任意の光ファイバが使用できるが、自家蛍光の少ない石英製の大口径口ファイバや石英製のイメージバンドル等が好適な例として示される。
【0022】
本発明の光学式酸素センサーにおいては、光学式酸素センサーチップの酸素センシング能が増加したうえに、好ましくは光ファイバ型光学系を採用したことで、小型で容易に測定できるうえ、光路変更が非常に容易となり、しかも装置の設置場所を選ばない。また、光が光ファイバに閉じ込められているため、外部の影響を受けにくくなり、精度向上に寄与する。
ちなみに、空間光学系の場合には、光路変更の場合には、ミラー調整等をし直さねばならず、しかも各光学系が連動していないため、温度変化等で1箇所がずれると全体を調整しなおす必要があり、非常に面倒であるが、本発明に係る光学式酸素センサーでは、このような問題は解消される。
本発明の光学式酸素センサーでは、試料が気体の場合は、該試料中の酸素濃度変動の測定可能範囲が、ppb〜ppmレベルで測定可能である。
又、本発明の光学式酸素センサーでは、試料が液体の場合は、該試料中の溶存酸素変動の測定可能範囲が、ppt〜ppbレベルで測定可能である。
なお、本発明の酸素センサーとして、上記では、好ましい例として、光ファイバ型光学系を用いた装置を説明したが、調整の面倒さをいとわないのであれば、上記の従来のミラー等を用いた空間光学系の酸素センサーチップとして、本発明の光学式酸素センサーチップを採用することももちろん可能であり、調整さえ行えば、上記と同じように高精度の測定結果が得られる。
【0023】
本発明では、発光色素に加えてニッケル錯体を用いたことにより、酸素に対するレスポンス(Ksv)が大きく、また発光強度(I0)も大きいため、従来方法に比べてより高い酸素センシング能が得られる。
また、本発明では、マトリクスにシランアルコキシド、好ましくはフェニル基を有するシランアルコキシドの加水分解・重合膜を用いたことにより、発光色素と相互作用を示し、高濃度に発光色素を分散させることができる。加えて、ニッケル錯体の顕著な効果により、発光強度が大きく、高い酸素センシング能を発揮する光学式酸素センサーチップ、及びそれを具備した光学式酸素センサーが得られる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例と比較例により、さらに本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1][比較例1]
【0025】
エタノール(キシダ化学製、特級)3g、純水0.55g、フェニルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製)3gをサンプル瓶に入れ、磁気撹拌子を用いて10分間撹拌した。これに、0.1mol/L塩酸0.1gを加えた後、更に70℃で2時間撹拌した(以下この液をA液という)。
一方、Pt(II)オクタエチルポルフィリン(Frontier Scientific、以下PtOEPと略称する)3mgをトルエン(キシダ化学社製、特級)10mlに溶解したものを、2mlの液Aと混合した(以下、この液をB液という)。
このB液を100℃に昇温したホットプレート(DATAPLATE、iuchi)に乗せ、蒸発させることにより濃縮液とした後、ニッケルビス(ジチオベンジル)粉末を、0mmol/L(比較例1)、0.1mmol/L、 0.5mmol/L及び1.0mmol/Lとなるように加え、攪拌下に溶解し、コーティング液を調製した。このコーティング液中の固形分濃度は40質量%であった。
次に、前記コーティング液をスピンコート法によりガラス基板上(ソーダライムガラス基板、厚さ:1mm、サイズ:25mm×75mm)にコーティングした。スピンコートは500rpmで30秒間行った。スピンコート法によりコーティング液をコートした基板を150℃で1時間焼成し、膜厚が1.5μmの酸素センサーチップを得た。
【0026】
得られた光学式酸素センサーチップを、図1に示した光学式酸素センサーに装着して試験を行った。窒素20L/minと、空気0.1〜0.4mL/minの任意割合で混合した気体をセンサーチップと接触させることで、Ksvを測定した。
また、得られた光学式酸素センサーチップの酸素濃度が0の時の発光強度( I0 )を、純窒素ガスを用いて測定した。
ここで、励起光源は波長530nmの緑色LEDを使用し、光分波合波器は、カットオフ波長を580nmとして、650nmの赤色の燐光成分のみの発光量を選択的に測定した。受光器にはフォトマルチプライヤを使用し、光ファイバには、自家蛍光の少ない石英製の大口径光ファイバ(コア径200μm)を使用した。
【0027】
各サンプルのKsvは、前記に示した下式を用いた。
0/I = 1 + Ksv[O2n
各酸素濃度における発光強度をプロットし、Ksvを得た。
結果を表1に示す。表1では、比較例1で得られたKsvを基準として、ニッケルビス(ジチオベンジル)の添加量を変えた時のKsvの相対評価を行っている。
表1から、本発明の光学式酸素センサーチップにおいては、Ksvが大きく、ガス雰囲気中において高い酸素センシング能を持つ酸素センサーチップであることがわかる。また、酸素センシング能は、ニッケル錯体の添加量に比例せずに、極大を有することが分かる。
【0028】
【表1】

[比較例2]
【0029】
実施例1において、ニッケルビス(ジチオベンジル)に替えてβ―カロチンを0.1mmol/L及び4.0mmol/L添加した以外は、実施例1と同様にして、光学式酸素センサーチップを得て、これを用いて同様に光学式酸素センサーを作製し、酸素センシング能を評価した。
結果を表2に示す。表2から、β―カロチンを添加しても、ほとんど酸素センシング能を上げることはできないことが分かる。
【0030】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、気体や液体雰囲気中の酸素濃度を測定するための光学式酸素センサーとして、特に、生体関連分野及び流体計測分野において使用される光学式酸素センサーとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の光学式酸素センサーの一実施態様を示す図
【図2】本発明の光学式酸素センサーの他の実施態様を示す図
【符号の説明】
【0033】
1 励起光源
2 結合レンズ
3、5、11 光ファイバ
4 光分波合波器
6 対物レンズ
7 酸素センサーチップ
8 ガラス基材
9 酸素センシング材料
10 酸素センサー
12 結合レンズ
13 受光器
14 試料流路
21 励起用フィルタ
22 バンドルファイバ
23 受光用フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、発光色素とニッケル錯体とを含む、シランアルコキシドの加水分解・重合膜を備える光学式酸素センサーチップ。
【請求項2】
前記シランアルコキシドの加水分解・重合膜が、アルキル基又はアリール基を有する請求項1に記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項3】
前記アリール基が、フェニル基である請求項2に記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項4】
前記発光色素が、ポルフィリン化合物の金属錯体である請求項1から3のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項5】
前記ニッケル錯体が、ニッケル有機錯体である請求項1から4のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項6】
前記基材が、板状の基材である請求項1から5のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項7】
前記板状の基材が、ガラス材料である請求項6に記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップを備えることを特徴とする光学式酸素センサー。
【請求項9】
光源と、ガラスファイバからなる光源導光路と、試料流路に設けられた請求項1〜7のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップと、ガラスファイバからなる、光学式酸素センサーチップで発生した発光用導光路と、受光器と、演算手段と、を具備する請求項8に記載の光学式酸素センサー。
【請求項10】
気体中又は液体中の酸素濃度を測定する請求項8又は9に記載の光学式酸素センサー。
【請求項11】
気体中の酸素濃度を測定する場合、該気体中の酸素濃度変動の測定可能範囲がppb〜ppmレベルである請求項10に記載の光学式酸素センサー。
【請求項12】
液体中の溶存酸素濃度を測定する場合、該液体中の酸素濃度の測定可能範囲が、ppt〜ppbレベルである請求項10に記載の光学式酸素センサー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−222429(P2009−222429A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64724(P2008−64724)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】