説明

光学材料、光学素子、及び物品の屈折率を変化させる方法

【課題】第1には、外部から光や熱等のエネルギーの供給を受けることによって、屈折率が大きくなる特性を有する光学材料を提供することを目的とする。第2には、外部から光や熱等のエネルギーの供給を受けることによって、屈折率が大きくなる特性を有する化合物を利用して物品の屈折率を変化させる方法を提供することを目的とする
【解決手段】外部からエネルギーを供給されることにより生じる構造変化により、C=Xで表される極性基(XはO又はSである。)を生成し屈折率が大きくなる有機化合物を光学材料に含ませる。また、このような有機化合物を物品に適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料、光学素子、及び物品の屈折率を変化させる方法に関する。より具体的には、外部からエネルギーを供給されることにより生じる構造変化により屈折率が大きくなる有機化合物を使用した、光学材料、そのような光学材料を含む光学素子、及び物品の屈折率を変化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自身の屈折率を変化させる機能を有する材料は、高分子導波路や光スイッチのような光通信デバイスや、光ディスクのように高密度な記録容量を有する記録デバイス等の開発に有用である。近年、通信技術や情報技術の急激な発展に伴い、光信号を光のまま変換、加工することのできるデバイスの中核を担うこうした材料の開発が強く求められている。
【0003】
このような材料の一つとして、例えば、非特許文献1には、高分子中にフォトクロミック色素を分散させたものが提案されているが、フォトクロミック色素は光を吸収する性質があるとの観点や、デバイス作製のために十分な成膜性を確保する必要があるとの観点から、高分子中に分散させることのできるフォトクロミック色素の上限量が存在し、得られる屈折率変換性能には限界がある。
【0004】
また、自身の屈折率を増加させる材料については数例しか知られておらず、例えば、非特許文献2には、ナフチルエステル化合物の光フリース転位反応を利用した屈折率変換材料が提案されている。しかし、この光フリース転位反応は、ナフチルエステル化合物の転化率は高いものの、屈折率の増加した転位生成物であるヒドロキシケトンの生成率は低く、屈折率の増加に寄与しない、脱炭酸によって生じた化合物が主生成物になるという問題を有する。この問題は、材料を実用化する上で大きな障害となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Murase,S.;Shibata,K.;Miyashita,Y.;Horie,K.Polym.J.,2003,35,203−207.
【非特許文献2】Griesser,T.;Hofler,T.;Jakopic,G.;Belzik,M.;Kern,W.;Trimmel,G.J.Mater.Chem.,2009,19,4557−4565
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、外部から光や熱等のエネルギーの供給を受けることによって、屈折率が大きくなる特性を有する光学材料を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、外部から光や熱等のエネルギーの供給を受けることによって、屈折率が大きくなる特性を有する化合物を利用して物品の屈折率を変化させる方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、外部からエネルギーを供給されることにより生じる構造変化に伴い、C=Xで表される極性基(XはO又はSである。)を生成し、屈折率が大きくなる有機化合物を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1)本発明は、外部からエネルギーを供給されることにより生じる構造変化により、C=Xで表される極性基(XはO又はSである。)を生成し屈折率が大きくなる有機化合物を含む光学材料である。
【0009】
上記有機化合物は、置換されていてもよいエノール又はチオエノール基を有し、前記構造変化により、この置換されていてもよいエノール又はチオエノール基がケト又はチオケト基に変換され、上記極性基を生成させるものであることが好ましい。
【0010】
また、上記有機化合物が下記一般式(1)で表される化合物又は下記一般式(2)で表される骨格を有する化合物であることが好ましい。
【化1】

(上記一般式(1)中、Xは硫黄原子又は酸素原子であり、Xは>CH又は窒素原子であり、Xは酸素原子、硫黄原子、>NH、>SO又は>CRであり、Xは、酸素原子又は硫黄原子であり、Rは一価の有機基、又はシルセスキオキシル基を含む一価の基であり、R及びRは、それぞれ水素原子、一価の有機基、ハロゲン原子、アルコキシ基、チオアルキル基、N−置換アミド基であり、Rは水素原子、一価の有機基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基であり、R及びRは互いに結合して環構造を形成してもよい。)
【化2】

(上記一般式(2)中、結合a又は結合bの一方が二重結合で他方が単結合であり、結合fと結合gの一方が二重結合で他方が単結合であり、結合c、d及びeは化学結合の法則に従うことを前提にそれぞれ独立に単結合又は二重結合であり、
は、一価の有機基、シルセスキオキシル基を含む一価の基又は二価の有機基若しくは原子であり、
、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、一価の有機基、シルセスキオキシル基を含む一価の基、アルコキシ基、チオアルキル基、N−置換アミド基、二価の有機基若しくは原子であり、
及びRは互いに結合して環構造を形成してもよく、R及びRは互いに結合して環構造を形成してもよく、R及びRは互いに結合して環構造を形成してもよい。)
【0011】
また、上記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【化3】

(上記一般式(3)中、X、X及びRは上記一般式(1)と同様であり、Rはそれぞれ独立に一価の有機基、ハロゲン原子、アルコキシ基、チオアルキル基、N−置換アミド基であり、nは0〜4の整数である。)
【0012】
(2)また、本発明は、上記の光学材料を、外部からエネルギーを供給されることにより屈折率を変化させる部材として含む光学素子である。
【0013】
(3)また、本発明は、外部からエネルギーを供給されることにより生じる構造変化により、C=Xで表される極性基(XはO又はSである。)を生成し屈折率が大きくなる有機化合物を利用して物品の屈折率を変化させる方法である。
【0014】
上記有機化合物は、置換されていてもよいエノール又はチオエノール基を有し、前記構造変化により、この置換されていてもよいエノール又はチオエノール基がケト又はチオケト基に変換され、上記極性基を生成させるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1には、外部から光や熱等のエネルギーの供給を受けることによって、屈折率が大きくなる特性を有する光学材料が提供される。また、本発明によれば、第2には、外部から光や熱等のエネルギーの供給を受けることによって、屈折率が大きくなる特性を有する化合物を利用して物品の屈折率を変化させる方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、光学材料、光学素子、及び物品の屈折率を向上させる方法の順に説明する。
【0017】
<光学材料>
本発明の光学材料は、外部からエネルギーを供給されることにより生じる構造変化により、C=Xで表される極性基(XはO又はSである。)を生成し、屈折率が大きくなる有機化合物を含む。このため、本発明の光学材料は、外部からエネルギーを供給されることにより、屈折率が大きくなる特性を有する。
【0018】
光学材料の外部から供給されるエネルギーとしては、上記有機化合物の構造変化をもたらすものであれば特に限定されず、紫外線、エックス線、ガンマ線、電子線等の活性エネルギー線、赤外線等の熱線、熱等が挙げられる。
【0019】
本発明の光学材料は、外部からこれらのエネルギーを供給されることにより、屈折率が増加するので、外部から供給されるエネルギーをトリガーとして屈折率を変化させることが求められる用途に好ましく使用することができる。このような光学材料は、高分子導波路や光スイッチのような光通信デバイスや、光ディスクのように高密度な記録容量を有する記録やデバイス光情報の伝達、変換等といった光学素子の構成要素として使用される。
【0020】
上記有機化合物は、外部から供給されたエネルギーによって構造変化を生じ、C=X(XはO又はSである。)で表される極性基、具体的にはC=Oで表されるケト基又はC=Sで表されるチオケト基を生成する。このような極性基が分子内に生成されることにより、上記有機化合物はその屈折率を増大させる。
【0021】
上記有機化合物に生じる構造変化としては、置換されていてもよいエノール又はチオエノール基がケト又はチオケト基に変換される化学反応である、ケト/エノール又はチオケト/チオエノール互変異性に基づくものを好ましく例示できる。なお、置換されたエノール又はチオエノール基がケト又はチオケト基に変換される反応は、厳密には、ケト/エノール又はチオケト/チオエノール互変異性反応と異なるが、ケト/エノール又はチオケト/チオエノール互変異性反応と類似の反応様式でケト又はチオケト基を生成する反応である。そこで、以下の説明では、通常のケト/エノール又はチオケト/チオエノール互変異性反応のみならず、置換されたエノール又はチオエノール基がケト又はチオケト基に変換される反応を含めて「ケト/エノール又はチオケト/チオエノール互変異性反応」と呼ぶ。
【0022】
ケト/エノール互変異性は、化合物に含まれる準安定状態のエノール構造(二重結合を有する炭素原子に水酸基が結合した構造)が、外部からのエネルギーを刺激として、安定状態のケト構造に変換される反応である。このとき、エノール構造において、水酸基の結合していた炭素原子がC=Oで表されるケト基に変化するとともに、当該水酸基に含まれていた水素原子が、形成されたC=Oのα位に位置する原子に転位する。
【0023】
チオケト/チオエノール互変異性は、化合物に含まれる準安定状態のチオエノール構造(二重結合を有する炭素原子にチオール基が結合した構造)が、外部からのエネルギーを刺激として、安定状態のチオケト構造に変換される反応である。このとき、チオエノール構造において、チオール基の結合していた炭素原子がC=Sで表されるチオケト基に変化するとともに、当該チオール基に含まれていた水素原子が、形成されたチオケト基のα位に位置する原子に転位する。
【0024】
なお、エノール構造又はチオエノール構造に含まれる水酸基又はチオール基は、有機基で修飾されていてもよい。このような修飾の例としては、エノール構造又はチオエノール構造に含まれる水酸基又はチオール基が、アシル基、アシル基のカルボニル酸素が硫黄原子に置換されたチオアシル基、フェニルメチル基、ナフチルメチル基、アントラセニルメチル基等で修飾されていることを挙げることができる。例えば、チオール基がアシル基で修飾されてチオエステル構造を形成している場合、チオケト/チオエノール互変異性によって、チオール基の結合していた炭素原子がチオケト基(C=S)に変換されるとともに、チオール基に結合していたアシル基が、形成されたチオケト基のα位に位置する原子に転位する。
【0025】
このようなケト/エノール又はチオケト/チオエノール互変異性に基づく構造変化により、上記有機化合物の分子内にケト基(C=O)又はチオケト基(C=S)が生成し、それに伴って、当該有機化合物の屈折率が増加することが本発明のポイントとなる。本発明の光学材料は、このような有機化合物を含むことにより、外部からエネルギーを供給された際に屈折率を増加させることができる。上記ケト/エノール又はチオケト/チオエノール互変異性に基づく構造変化の理解を助けるために、次に、上記有機化合物の例を挙げてより具体的に説明する。なお、下記例示の有機化合物はあくまでも例示であり、本発明は、下記例示の有機化合物を使用する形態に限定されるものではない。
【0026】
上記有機化合物の第一の例は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【化4】

(上記一般式(1)中、Xは硫黄原子又は酸素原子であり、Xは>CH又は窒素原子であり、Xは酸素原子、硫黄原子、>NH、>SO又は>CRであり、Xは、酸素原子又は硫黄原子であり、Rは一価の有機基であり、R及びRは、それぞれ水素原子、一価の有機基、ハロゲン原子、アルコキシ基、チオアルキル基、N−置換アミド基であり、Rは水素原子、一価の有機基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基であり、R及びRは互いに結合して環構造を形成してもよい。)
【0027】
上記一般式(1)で表される化合物では、Xで表される硫黄原子又は酸素原子にアシル基(R(C=O)−)又はチオアシル基(R(C=S)−)が結合しており、チオエステル、エステル構造等を形成している。このアシル基は、化合物が外部からエネルギーの供給を受けることにより、Xで表される原子に転位する。そして、アシル基の結合していた炭素原子が極性基であるチオケト基又はケト基(C=X)となり、化合物の屈折率が増加する。この構造変化を化学式で表すと、下記のようになる。
【0028】
【化5】

【0029】
上記のように、一般式(1)で表される化合物では、チオケト基又はケト基の一部となるX、転位をするアシル基(R(C=O)−)又はチオアシル基(R(C=S)−)、及びチオエノール又はエノールに含まれる二重結合に結合したXの存在が鍵となる。したがって、Xは、二重結合を形成できる原子価を有する>CH又は窒素原子であることが必要であるが、X及び置換基R〜Rは、上記一般式(1)の括弧書きとして挙げたものであればよい。例えば、一価の有機基であってもよいRは、樹脂の主鎖若しくは側鎖に結合する結合基、樹脂の主鎖若しくは側鎖そのもの、又は樹脂の末端であってもよい。また、一価の有機基であってもよいRは、カリックスアレーンやカリックスレゾルシンアレーンを含む基であってもよい。この場合、カリックスアレーンやカリックスレゾルシンアレーンの有する独特な立体構造に基づく、独特な機能を発現することが期待される。さらに、Rは、シルセスキオキシル基を含む一価の基であってもよい。この場合、シルセスキオキサンの有する独特な立体構造に基づく、独特な機能を発現することが期待される。なお、「シルセスキオキシル基を含む一価の基」とは、当該一価の基がシルセスキオキサン構造を有するということを意味する。また、一価の有機基であってもよいR及びRは、互いに結合して脂肪環や芳香環のような環構造を形成してもよい。この場合、形成された環構造に他の置換基が結合していてもよい。
【0030】
上記一般式(1)で表される化合物のより具体的な例として、下記一般式(3)で表される化合物を挙げることができる。
【0031】
【化6】

(上記一般式(3)中、X、X及びRは上記一般式(1)と同様であり、Rはそれぞれ独立に一価の有機基、ハロゲン原子、アルコキシ基、チオアルキル基、N−置換アミド基であり、nは0〜4の整数である。)
【0032】
上記有機化合物の第二の例は、下記一般式(2)で表される化合物である。
【化7】

(上記一般式(2)中、結合a又は結合bの一方が二重結合で他方が単結合であり、結合fと結合gの一方が二重結合で他方が単結合であり、結合c、d及びeは化学結合の法則に従うことを前提にそれぞれ独立に単結合又は二重結合であり、Rは、一価の有機基、シルセスキオキシル基を含む一価の基、又は二価の有機基若しくは原子であり、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、一価の有機基、シルセスキオキシル基を含む一価の基、アルコキシ基、チオアルキル基、N−置換アミド基、二価の有機基若しくは原子であり、R及びRは互いに結合して環構造を形成してもよく、R及びRは互いに結合して環構造を形成してもよく、R及びRは互いに結合して環構造を形成してもよい。)
【0033】
上記一般式(2)で表される化合物では、二重結合である結合a又はbと水酸基とがエノール構造を形成する。そして、このエノール構造は、水酸基に含まれる水素原子が窒素原子と水素結合を形成することにより、安定化されている。水酸基に含まれる水素原子は、化合物が外部からエネルギーの供給を受けることにより窒素原子に転位し、それに伴って、水酸基が結合していた炭素原子は、極性基であるケト基(C=O)となり、化合物の屈折率が増加する。水酸基に含まれる水素原子が窒素原子に転位して、窒素原子−水素原子間に新たな結合を形成することを可能とするために、結合f又はgは二重結合になる。
【0034】
以上が一般式(2)で表される化合物における構造変化の鍵となるので、結合c、d、eは、化学結合の法則に従うことを前提に、それぞれ単結合でも二重結合でもよい。また、R〜Rは、上記一般式(2)の括弧書きとして挙げたものであればよい。例えば、一価の有機基であってもよいR〜Rは、樹脂の主鎖若しくは側鎖に結合する結合基、樹脂の主鎖若しくは側鎖そのもの、又は樹脂の末端であってもよい。また、一価の有機基であってもよいR〜Rは、カリックスアレーンやカリックスレゾルシンアレーンを含む基であってもよい。この場合、カリックスアレーンやカリックスレゾルシンアレーンの有する独特な立体構造に基づく、独特な機能を発現することが期待される。さらに、R〜Rは、シルセスキオキシル基を含む一価の基であってもよい。この場合、シルセスキオキサンの有する独特な立体構造に基づく、独特な機能を発現することが期待される。なお、「シルセスキオキシル基を含む一価の基」とは、当該一価の基がシルセスキオキサン構造を有するということを意味する。また、一価の有機基であってもよいR〜Rは、互いに結合して脂肪環や芳香環のような環構造を形成してもよい。このとき、R〜Rのいずれか二つが環構造を形成して単環構造となってもよいし、R〜Rの三つ以上が環構造を形成して縮合環構造となってもよい。環構造を形成する場合、形成された環構造に他の置換基が結合していてもよい。なお、R〜Rが二価の有機基又は原子となる場合は、結合a、c、e及びgのうち、対応するものが二重結合となる。
【0035】
上記一般式(2)で表される化合物の一例を使用して、上記で述べた構造変化を化学式で表すと、下記のようになる。
【0036】
【化8】

【0037】
構造変化前の化合物において、水酸基に含まれる水素原子は、窒素原子と水素結合を形成することでエノール構造を安定化している。そして、この水素原子は、化合物に外部からのエネルギーが供給されることにより、ベンゾキノリン環に含まれる窒素原子へと転位して、窒素原子−水素原子間に新たな結合を生成する。これに伴って、水酸基の結合していた炭素原子が極性基であるケト基(C=O)となり、化合物の屈折率が増加する。
【0038】
次に、上記有機化合物を含む光学材料の製法について説明する。上記有機化合物を含む光学材料の製法としては、光学材料を構成するための基材に上記有機化合物を添加する方法と、上記有機化合物に重合性基を導入した重合性前駆体を重合させ、上記有機化合物自体を光学材料とする方法と、光学材料を構成するための基材に上記重合性前駆体を塗布し重合させる方法が例示できる。
【0039】
まず、光学材料を構成するための基材に上記有機化合物を添加する方法から説明する。この方法では、樹脂やガラス等の基材に上記有機化合物を添加し混合することにより、光学材料が製造される。
【0040】
基材としては、光学材料を構成する際に使用される公知のものを特に制限なく使用することができる。このような基材としては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、ガラス、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂が例示されるが限定されない。これらの基材に上記有機化合物を添加し混合するには、公知の手段を適宜使用すればよい。
【0041】
また、重合することにより基材となる「基材の前駆体」に上記有機化合物を添加して重合性の組成物を作製し、得られた重合性の組成物を重合硬化させたり、得られた重合性の組成物を他の基材に塗布して重合させたりする方法によって光学材料を作製してもよい。このような用途に使用される基材の前駆体としては、公知の(メタ)アクリルモノマー及び/又はオリゴマーに重合開始剤を添加したものや、公知のエポキシ樹脂に硬化剤又は重合開始剤を添加したものが例示される。
【0042】
次に、上記有機化合物に重合性基を導入した重合性前駆体を重合させ、上記有機化合物自体を光学材料とする方法について説明する。このような用途に使用される重合性前駆体としては、例えば、上記一般式(1)や(2)におけるR〜Rのいずれかを重合性の置換基とした化合物が挙げられる。重合性の置換基としては、エチレン性の不飽和結合を有する置換基やエポキシ基を有する置換基が挙げられ、具体的には、ビニル基、スチリル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシメチル基、メチル(メタ)アクリロイルオキシメチル基、エポキシ基、グリシジル基、オキセタニル基等が挙げられる。
【0043】
重合性前駆体を重合させて光学材料とするには、重合性前駆体に公知の重合開始剤又は硬化剤を添加して、重合又は硬化させればよい。
【0044】
また、下記式で表されるような、ビニル基を有するチオエステル化合物である重合性前駆体にラジカル重合開始剤及び連鎖移動剤を加えた上で、RAFT重合を行ってもよい。これにより、上記一般式(1)で表される構造が側鎖となる重合体が得られる。この重合体は、上記一般式(1)のRが重合体の主鎖に結合したフェニレン基(すなわち、一価の有機基)となるので、上記一般式(1)の一例となる。
【0045】
【化9】

【0046】
また、下記式で表されるような二種類の化合物の混合物に紫外線を照射して、光ラジカル重合を行ってもよい。この場合、ビニル基を有するチオエステル化合物が重合性前駆体となり、メトキシ基を有するチオエステル化合物が重合開始剤となる。これらの化合物をラジカル重合させることにより、高度に分岐し、末端が上記一般式(1)で表される構造となるハイパーブランチポリマーが得られる。このようなハイパーブランチポリマーは、上記一般式(1)のRがハイパーブランチポリマーの末端に結合したフェニレン基(すなわち、一価の有機基)となるので、上記一般式(1)の一例となる。なお、下記式では、メトキシ基を有するチオエステル化合物を重合開始剤として使用したが、メトキシ基を有するチオエステル化合物は必ずしも必要でなく、重合性前駆体であるビニル基を有するチオエステル化合物のみを用いて光ラジカル重合を行ってもよい。
【0047】
【化10】

【0048】
最後に、光学材料を構成するための基材に重合性前駆体を塗布し重合させる方法について説明する。これは、既に説明した光学材料を構成するための基材に、上記重合性前駆体と重合開始剤との混合物を塗布し重合させることにより、本発明で使用される有機化合物の膜を基材に形成させる方法である。
【0049】
なお、この方法は、基材の表面に有機化合物の膜を形成させるものであってもよいし、複数に分割された基材の接合面に有機化合物の膜を形成させるものであってもよい。後者の場合、複数に分割された基材の接合面に上記重合性前駆体と重合開始剤との混合物を塗布し、これらの基材を接合させてから重合性前駆体を重合させればよい。この場合、重合性前駆体は、基材を接合させるための接着剤としても機能することになる。
【0050】
<光学素子>
上記光学材料から作製された光学素子も本発明の一つである。このような光学素子は、外部から供給されたエネルギーによって屈折率を増加させる能力を有するので、外部から供給されるエネルギーをトリガーとして屈折率を変化させることが求められる用途に好ましく使用される。このような光学素子としては、高分子導波路や光スイッチ等の光通信デバイスや、光ディスクのように高密度な記録容量を有する記録デバイスや、光情報の伝達デバイス、変換デバイス等が挙げられる。
【0051】
<物品の屈折率を向上させる方法>
以上の通り、本発明の光学材料及び光学素子について説明したが、本発明は、外部からエネルギーを供給されることにより生じる構造変化により、C=Xで表される極性基(XはO又はSである。)を生成し屈折率が大きくなる有機化合物を使用して、物品の屈折率を変化させるという点に特徴を有するものである。このような観点から、外部からエネルギーを供給されて生じる構造変化により、C=Xで表される極性基(XはO又はSである。)を生成し屈折率が大きくなる有機化合物を利用して、物品の屈折率を変化させる方法も本発明の一つである。
【0052】
屈折率を変化させる物品としては特に限定されず、また、当該物品に対して本発明で使用される有機化合物を適用する手段も特に限定されない。つまり、本発明で使用される有機化合物が何らかの物品に対して適用され、それによりその物品が屈折率を変化させる能力を獲得する方法であれば、本発明の範囲に含まれる。これらについては、上記で詳細に説明した通りであるので、ここでの説明を割愛する。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げることにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]S,S’−ビス(2−ベンゾオキサゾリル)ジチオイソフタレートの合成
【化11】

【0055】
300mL三つ口フラスコに、イソフタルクロライド3.052g(15mmol)を秤取り、窒素雰囲気下、脱水テトラヒドロフラン(THF)80mLを加えて均一溶液とした。この溶液をドライアイスとエタノールとを混合した寒剤で冷却した後、滴下ロートを用いて2−メルカプトベンゾオキサゾール5.037g(33mmol)及びトリエチルアミン(TEA)5.1mL(36mmol)のTHF溶液(20mL)をゆっくり滴下した。滴下後、反応溶液を−30℃以下に保ちながら60分間反応させた。その後反応混合物を、300mLの氷水に注ぎ撹拌した。析出した固体を、グラスフィルターを用いて回収し、減圧乾燥した。回収した固体を酢酸エチル300mLで洗浄後、回収、減圧乾燥することにより、白色固体のS,S’−ビス(2−ベンゾオキサゾリル)ジチオイソフタレートを得た(収量2.178g、収率33%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。この化合物を実施例1の有機化合物とした。
【0056】
[実施例2]2−ベンズオキサゾリル−4−ビニルチオベンゾエート(BVT)の合成
・4−ビニルベンゾイルクロリド(VBC)の合成
【化12】

【0057】
200mLのナスフラスコに、p−ビニル安息香酸(VBA)14.87g(0.1mol)と塩化チオニル150mLを入れオイルバスで85℃にて1時間加熱還流した。その間発生する気体は水酸化ナトリウム水溶液で中和した。その後過剰の塩化チオニルを減圧留去した後、減圧蒸留(初留67℃、本留66℃、8.0mmHg)により精製を行った。得られた化合物はH−NMRにより構造を確認した。
【0058】
・2−ベンズオキサゾリル−4−ビニルチオベンゾエート(BVT)の合成
【化13】

【0059】
300mLの三つ口フラスコに、2−メルカプトベンゾオキサゾール9.1636g(60.5mmol)、トリエチルアミン10mL(28.2mmol)、THF100mLを入れて撹拌した。氷浴下、滴下ロートを用いて4−ビニルベンゾイルクロリド(VBC)10.087g(60.5mmol)のTHF溶液(30mL)を三つ口フラスコにゆっくり滴下した。滴下後、反応溶液を5℃以下に保ちながら90分間反応した。その後グラスフィルターを用いて析出した固体を除去した後、ろ液をエバポレーターで濃縮すると淡黄色固体が析出した。この固体に酢酸エチル30mLを加えて溶解し(<40℃)、冷蔵庫に一晩入れ再結晶を行った。ろ過して回収した固体は減圧乾燥し、ろ液は再度エバポレーターで濃縮し、析出した固体をエタノールで洗浄、ろ過後、減圧乾燥し白色固体の目的物を得た(収量14.447g、収率85%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。この化合物を実施例2の有機化合物とした。
【0060】
[実施例3]2−ベンゾオキサゾリル−4−ビニルチオベンゾエート(BVT)のラジカル重合による直鎖ポリマーの合成
【化14】

【0061】
ガラス製の反応管に、2−ベンゾオキサゾリル−4−ビニルチオベンゾエート0.6034g(2.14mmol)、開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)0.0129g(0.04mmol)、及び溶媒として1,4−ジオキサン4.2mLを加え室温で撹拌し溶解させた。この溶液を凍結脱気した後、30℃のオイルバスで18時間反応させた。反応終了後、貧溶媒としてジエチルエーテル(300mL)を用いて沈殿精製し、沈殿物のろ別、減圧乾燥(一晩)後、白色固体の目的物を得た(収量0.365g、収率61%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。GPC(溶媒:THF)から算出した分子量及び分子量分布は、Mn=19,000、Mw=110,000、Mw/Mn=5.79だった。このポリマーを実施例3の有機化合物とした。
【0062】
なお、凍結脱気は、次の手順で行った。まず、(1)反応溶液の入った反応管を液体窒素に浸漬し、反応管内部の溶液を凍結させた。次に、(2)反応管のコックを開けて脱気後、反応管の内部にアルゴンガスを注入し、次いで脱気させた。(3)上記(2)の工程を3回繰り返した後に、反応管のコックを閉じ、反応溶液を解凍した。(4)上記(1)〜(3)の工程を4回繰り返した後に、(5)反応溶液を凍結させた後脱気し、その後解凍させ、さらに、凍結、脱気及び解凍の工程を3回繰り返した。最後に、(6)反応溶液を解凍し、反応に用いた。以下、凍結脱気は、これと同様の手順で行った。
【0063】
[実施例4]2−ベンゾオキサゾリル−4−ビニルチオベンゾエート(BVT)のRAFT重合によるポリマーの合成
【化15】

【0064】
ガラス製の反応管に、2−ベンゾオキサゾリル−4−ビニルチオベンゾエート(BVT)0.3012g(1.02mmol)、開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)0.006g(0.02mmol)、連鎖移動剤としてクミルジチオベンゾエート(CDB)32mg(0.012mmol)、及び溶媒として1,4−ジオキサン2.1mLを加え室温で撹拌し溶解させた。この溶液を凍結脱気した後、30℃のオイルバスで18時間反応させた。反応終了後、貧溶媒としてジエチルエーテル(300mL)を用いて沈殿精製し、沈殿物のろ別、減圧乾燥(一晩)後、薄紫色固体の目的物を得た(収量0.13g、収率42%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。GPC(溶媒:THF)から算出した分子量及び分子量分布は、Mn=7,800、Mw=13,000、Mw/Mn=1.67だった。このポリマーを実施例4の有機化合物とした。
【0065】
[実施例5]2−ベンゾオキサゾリル−4−ビニルチオベンゾエート(BVT)の光ラジカル重合によるハイパーブランチポリマーの合成
【化16】

【0066】
ガラス製の反応管に、2−ベンゾオキサゾリル−4−ビニルチオベンゾエート(BVT)0.701g(2.5mmol)、2−ベンゾオキサゾリル−4−メトキシベンゾエート(BMT)0.0145g(0.05mmol)、及び溶媒としてTHF6.0mLを加えて室温で均一になるまで撹拌した。この溶液を凍結脱気した後、光源として500W超高圧水銀灯(ウシオ電機株式会社製、製品名USHIP USH−500D、HA−50、20mW/cm at 350nm)を用い、光ラジカル重合を5時間行った。反応終了後、貧溶媒としてジエチルエーテル(300mL)を用いて沈殿精製し、沈殿物のろ別、減圧乾燥(一晩)後、白色固体の目的物を得た(収量0.2634g、収率37%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。GPC(溶媒:THF)から算出した分子量及び分子量分布は、Mn=6,500、Mw=52,000、Mw/Mn=8.00だった。このポリマーを実施例5の有機化合物とした。
【0067】
[比較例1]N,N’−イソフタロイルビス[ベンゾオキサゾリン−2−チオン]の合成
【化17】

【0068】
300mL三つ口フラスコに、メルカプトベンゾオキサゾール5.001g(33mmol)、THF(80mL)及びトリエチルアミン(TEA)5.1mL(36mmol)を加え、この溶液を氷とエタノールとを混合した寒剤で冷却(−10℃)した後、滴下ロートを用いてイソフタルクロライド3.06g(15mmol)のTHF(20mL)溶液をゆっくり滴下した。滴下後、反応溶液を−10℃に保ちながら60分間反応させた。その後反応混合物を、300mLの氷水に注ぎ撹拌した。析出した固体を、グラスフィルターを用いて回収し、減圧乾燥することにより、白色固体のN,N’−イソフタロイルビス[ベンゾオキサゾリン−2−チオン]を得た(収量3.798g、収率59%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。この化合物を比較例1の有機化合物とした。なお、比較例1の有機化合物は、チオエノール構造を有する実施例1の有機化合物が構造変化によりチオケト構造となったものに相当する。
【0069】
[比較例2]3−(4−ビニルベンゾイル)ベンゾキサゾリン−2−チオンのラジカル重合による直鎖ポリマーの合成
【化18】

【0070】
ガラス製の反応管に、3−(4−ビニルベンゾイル)ベンゾキサゾリン−2−チオン0.6088g(2.16mmol)、開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)0.0127g(0.04mmol)、及び溶媒として1,4−ジオキサン4.2mLを加え室温で撹拌した。この溶液を凍結脱気した後、30℃のオイルバスで20時間反応させた。反応終了後、貧溶媒としてジエチルエーテル(300mL)を用いて沈殿精製し、沈殿物のろ別、減圧乾燥(一晩)後、白色固体の目的物を得た(収量0.4785g、収率79%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。GPC(溶媒:THF)から算出した分子量及び分子量分布は、Mn=23,000、Mw=43,000、Mw/Mn=1.87だった。このポリマーを比較例2の有機化合物とした。なお、比較例2の有機化合物は、チオエノール構造を有する実施例3の有機化合物が構造変化によりチオケト構造となったものに相当する。
【0071】
[比較例3]3−(4−ビニルベンゾイル)ベンゾキサゾリン−2−チオンの光ラジカル重合によるハイパーブランチポリマーの合成
【化19】

【0072】
ガラス製の反応管に、3−(4−ビニルベンゾイル)ベンゾキサゾリン−2−チオン1.02g(3.6mmol)、溶媒としてTHF4.2mLを加えて室温で均一になるまで撹拌した。この溶液を凍結脱気した後、光源として500W超高圧水銀灯(ウシオ電機株式会社製、製品名USHIP USH−500D、HA−50、20mW/cm at 350nm)を用い、光ラジカル重合を4時間行った。反応終了後、貧溶媒としてジエチルエーテル(300mL)を用いて沈殿精製し、沈殿物のろ別、減圧乾燥(一晩)後、白色固体の目的物を得た(収量0.2081g、収率20%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。GPC(溶媒:THF)から算出した分子量及び分子量分布は、Mn=17,000、Mw=36,000、Mw/Mn=2.12だった。このポリマーを比較例3の有機化合物とした。なお、比較例3の有機化合物は、チオエノール構造を有する実施例5の有機化合物が構造変化によりチオケト構造となったものに相当する。
【0073】
[実施例1の有機化合物における構造変化及びそれに伴う屈折率変化]
実施例1の有機化合物のTHF溶液をKBr板に塗布して調製したフィルムの加熱前後でのFT−IR測定(日本分光株式会社製、FT/IR4100型を使用)を行った。加熱は、DSC測定(セイコーインスツルメンツ株式会社製、EXSTAR6000、DSC6200を使用、測定条件:窒素雰囲気下、昇温速度10℃/min、アルミパン)より134℃付近に転位に基づく発熱ピークが観察されたことに基づいて、135℃に設定した。
【0074】
実施例1の有機化合物を135℃で加熱し、構造変化をFT−IRで追跡したところ、加熱開始から30分後に、実施例1の有機化合物におけるC=O伸縮振動のピークが1706cm−1から1714cm−1にシフトした。そして、シフト後のスペクトルは、比較例1の有機化合物におけるIRスペクトルと一致した。このことから、チオエノール構造を有する実施例1の有機化合物を加熱することにより、チオケト構造を有する比較例1の有機化合物に構造変化したことがわかった。
【0075】
次に、実施例1の有機化合物について、ポリマーマトリックス中での加熱による屈折率変化を観察した。まず、実施例1の有機化合物をクロロホルムに溶解させ、これにポリメタクリル酸メチル(PMMA)をマトリックスとして加えて、溶液を作製した。この溶液をシリコンウェーハ上に滴下した後、スピンコートによりフィルム化(膜厚約0.1μm)し、得られたフィルムの屈折率を加熱(135℃、10分間)の前後で測定した。屈折率の測定には、自動エリプソメーター(株式会社溝尻光学工業所製、DHA−OLX/S4)を使用した。なお、実施例1の有機化合物/PMMAの質量比を0/1、1/1、2/1、3/1とした4種類のフィルムを作製し、加熱前後の屈折率変化をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
表1に示すように、実施例1の有機化合物を含むフィルムは、加熱により屈折率が増加し、その効果は、フィルムに含まれる実施例1の有機化合物が増加するほど顕著になった。
【0078】
[実施例3及び5の有機化合物における構造変化及びそれに伴う屈折率変化]
実施例3及び5の有機化合物(チオエノール構造を有する直鎖状ポリマー及びハイパーブランチポリマー)について、上記実施例1の有機化合物と同様に、加熱による構造変化をFT−IRで追跡したところ、30分間の加熱で、実施例3の有機化合物におけるC=O伸縮振動のピークが1702cm−1から1715cm−1にシフトし、実施例5の有機化合物におけるC=O伸縮振動のピークが1703cm−1から1718cm−1にシフトした。そして、シフト後のスペクトルは、チオケト構造を有する比較例2及び3の有機化合物におけるスペクトルと一致した。このことから、本発明における有機化合物は、ポリマータイプであっても外部からのエネルギー供給によって構造変化をすることがわかった。
【0079】
次に、実施例3及び5の有機化合物のそれぞれについて、加熱前後の屈折率変化を測定した。まず、実施例3及び5の有機化合物のクロロホルム溶液をそれぞれ作製し、得られた溶液をシリコンウェーハ上に滴下した後、スピンコートによりフィルム化(膜厚約0.1μm)し、得られたフィルムの屈折率を加熱(135℃、10分間)の前後で測定した。屈折率の測定には、自動エリプソメーター(株式会社溝尻光学工業所製、DHA−OLX/S4)を使用した。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
表2に示すように、実施例3及び5の有機化合物からなるフィルムは、いずれも加熱により屈折率が増加した。このことから、本発明における有機化合物がポリマータイプのものであっても、屈折率増加の効果が得られることがわかる。
【0082】
[実施例6]2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(2−ベンゾオキサゾリルカルボニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
・カリックス[4]レゾルシンアレーン(CRA)の合成
【化20】

【0083】
300mL三つ口フラスコに、レゾルシノール16.5g(0.15mol)を秤取り、水40mL及びエタノール60mLの混合溶媒を加え、系中が均一となるまで、室温で撹拌した。次に滴下ロートを用いて、触媒として濃塩酸20mL(0.2mol)、及びパラアルデヒド6.60g(0.05mol)の混合溶液を5℃で滴下し、オイルバスを用いて80℃で1時間加熱還流した。反応溶液は最初から無色透明のままだった。反応後、室温まで冷却して固体を析出させた。生成した固体を吸引ろ過により回収し、蒸留水、氷メタノールで洗浄を行った後、60℃で24時間減圧乾燥した。得られた結晶をメタノールで2回再結晶し、60℃で24時間減圧乾燥した後、黄色固体の目的物を得た(収量8.08g、収率40%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。
【0084】
・2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(メトキシカルボニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
【化21】

【0085】
100mL三つ口フラスコに、CRA1.95g(3.6mmol)を秤取り、窒素雰囲気下で脱水N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)30mL、炭酸セシウム7.35g(22.5mmol)、及びテトラブチルアンモニウムブロマイド0.48g(0.15mmol)を加え、系中が均一に分散するまで室温で撹拌した。次にブロモ酢酸メチル(BBAC)6.88g(45mmol、1.5当量)を加え、オイルバスを用いて80℃で48時間加熱還流した。反応溶液は、白色から薄い茶色に変化した。反応溶液を、室温まで冷却した後、200mL分液ロートを用い、反応混合物をクロロホルムで抽出し、蒸留水にて洗浄を3回行い、クロロホルム層を硫酸マグネシウム(無水)で乾燥した。乾燥剤を除去後、クロロホルムを減圧除去し、貧溶媒としてヘキサンを用いて沈殿精製を行った。得られた固体を、メンブレンフィルターを用いた吸引ろ過により回収、室温で24時間減圧乾燥した後、薄茶色固体の目的物を得た(収量2.72g、収率67%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。
【0086】
・2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(カルボキシメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
【化22】

【0087】
500mLナスフラスコに、2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(メトキシカルボニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーン1.95g(3.6mmol)を秤取り、THF75mL及びエタノール75mLを加え、室温で撹拌した。続いて0.5M水酸化ナトリウム水溶液75mL(0.04mol)をゆっくり加え、オイルバスを用いて100℃で24時間加熱還流した。反応溶液は無色から薄い赤色に変化した。反応溶液を氷浴で室温まで冷却した後、濃塩酸10mL(0.1mol)を加えると、黄色の固体が析出し、メンブレンフィルターを用いて吸引ろ過により当該固体を回収し、蒸留水にて洗浄を数回行った。得られた固体を室温で24時間減圧乾燥した後、白色の目的物を得た(収量0.46g、収率90%)。構造確認はFT−IR、H−NMRにより行った。
【0088】
・2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(カルボニルメチルクロリド)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
【化23】

【0089】
30mLナスフラスコに、2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(カルボキシメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーン0.45g(0.45mmol)及び塩化チオニル10mLを加えて、オイルバスを用いて80℃で4時間半加熱還流した。その間発生する気体は水酸化ナトリウム水溶液で中和した。反応終了後、過剰の塩化チオニルを減圧除去し、残留物を石油エーテルにて数回洗浄し、得られた固体を室温で24時間減圧乾燥した後、灰色固体の目的物を得た(収量0.44g、収率76%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。
【0090】
・2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(2−ベンゾオキサゾリルカルボニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
【化24】

【0091】
窒素雰囲気下、100mL三つ口フラスコに、2−メルカプトベンゾオキサゾール0.8g(5.3mmol)、脱水トリエチルアミン(TEA)0.89mL(6.36mmol)及び脱水THF8mL(5.3mmol)を秤取り、氷浴下、滴下ロートを用いて2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(カルボニルメチルクロリド)カリックス[4]レゾルシンアレーン0.68g(0.53mmol)のTHF溶液(3mL)をゆっくり滴下した。反応溶液は無色から薄い黄色に変化した。滴下後、反応溶液を5℃以下に保ちながら5時間反応させた。反応終了後、200mLの氷水へ反応溶液を注いだ。その後、析出した固体を、メンブレンフィルターを用いた吸引ろ過により回収し、得られた固体を室温で24時間減圧乾燥後、茶色固体の目的物を得た(収量0.52g、収率47%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。得られた化合物を実施例6の有機化合物とした。
【0092】
[実施例7]2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(4−(2−ベンゾオキサゾリルカルボニル)フェニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
・p−(ブロモメチル)安息香酸メチルの合成
【化25】

【0093】
100mLナスフラスコに、p−(ブロモメチル)安息香酸10.00g(0.05mol)を秤取り、メタノール50mL及び濃硫酸0.2mL(4mmol)を加え、オイルバスを用いて70℃で5時間加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却した後に、200mL分液ロートを用い、反応混合物をクロロホルムで抽出し、蒸留水にて洗浄を3回行い、クロロホルム層を硫酸マグネシウム(無水)で乾燥した。乾燥剤を除去後、クロロホルムを減圧除去し、得られた固体を室温で24時間減圧乾燥した。得られた粗生成物は、メタノールで2回再結晶し、室温で24時間減圧乾燥した後、白色固体の目的物を得た(収量7.96g、収率74%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。
【0094】
・2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(4−メトキシカルボニルフェニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
【化26】

【0095】
100mL三つ口フラスコに、CRA1.96g(3.6mmol)を秤取り、窒素雰囲気下でN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)30mL、炭酸セシウム7.35g(22.5mmol)、及びテトラブチルアンモニウムブロマイド0.48g(0.15mmol)を加え、均一に分散するまで室温で撹拌した。次にp−ブロモ安息香酸メチル10.00g(43.6mmol)を加え、オイルバスを用いて80℃で48時間加熱還流した。反応溶液は、薄い桃色から薄い黄色に変化した。反応溶液を室温まで冷却した後、200mL分液ロートを用い、反応混合物をクロロホルムで抽出し、蒸留水にて洗浄を3回行い、クロロホルム層を硫酸マグネシウム(無水)で乾燥した。乾燥剤を除去後、クロロホルムを減圧除去し、貧溶媒としてメタノールを用いて沈殿精製を行った。得られた固体を、メンブレンフィルターを用いた吸引ろ過により回収、室温で24時間減圧乾燥した後、白色固体の目的物を得た(収量4.22g、収率68%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。
【0096】
・2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(4−カルボキシフェニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
【化27】

【0097】
500mLナスフラスコに、2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(4−メトキシカルボニルフェニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーン4.22g(2.4mmol)を秤取り、THF75mL及びエタノール75mLを加え、室温で撹拌した。続いて0.5M水酸化ナトリウム水溶液40mL(0.17mol)をゆっくり加え、オイルバスを用いて100℃で24時間加熱還流した。反応溶液は無色から薄い赤色に変化した。反応溶液を氷浴で冷却した後、濃塩酸50mL(0.5mol)を加えることで、黄色の固体が析出した。吸引ろ過により固体を回収し、蒸留水にて洗浄を数回行い、室温で24時間減圧乾燥した後、白色固体の目的物を得た。FT−IR及びH−NMRによる構造確認の結果、反応が十分に進んでいなかったので、さらに下記操作を行った。
300mLナスフラスコに回収した固体を加え、THF75mL、水75mLを加え、室温で撹拌した。続いて濃塩酸60mL(0.6mol)を加えると、黄色の固体が析出し、メンブレンフィルターを用いた吸引ろ過により固体を回収し、蒸留水にて洗浄を数回行い、室温で24時間減圧乾燥した後、白色固体の目的物を得た(収量2.90g、収率75%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。
【0098】
・2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(カルボニルフェニルメチルクロリド)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
【化28】

【0099】
50mLナスフラスコに、2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(4−カルボキシフェニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーン0.2g(0.12mmol)、及び塩化チオニル20mLを加えて、オイルバスを用いて80℃で6時間半加熱還流した。その間発生する気体は水酸化ナトリウム水溶液で中和した。反応溶液は灰色から黒色に変化した。反応終了後、過剰の塩化チオニルを減圧除去し、淡黄色の目的物を得た(収量0.19g、収率83%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。
【0100】
・2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(4−(2−ベンゾオキサゾリルカルボニル)フェニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
【化29】

【0101】
窒素雰囲気下、50mL三つ口フラスコに、2−メルカプトベンゾオキサゾール0.19g(1.28mmol)、脱水トリエチルアミン(TEA)0.2mL(1.41mmol)、脱水THF10mL(6.53mmol)を秤取り、氷浴下、滴下ロートを用いて2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(カルボニルフェニルメチルクロリド)カリックス[4]レゾルシンアレーン0.19g(0.12mmol)のTHF溶液(2mL)をゆっくり滴下した。反応溶液は無色から薄い黄色に変化した。滴下後、均一な反応溶液を5℃以下に保ちながら5時間反応させた。反応終了後、200mLの氷水へ反応溶液を注いだ。その後、析出した固体を、メンブレンフィルターを用いた吸引ろ過により回収し、得られた固体を室温で24時間減圧乾燥後、茶色固体の目的物を得た(収量0.17g、収率59%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。得られた化合物を実施例7の有機化合物とした。
【0102】
[実施例8]2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(4−(2−ベンゾオキサゾリルカルボニル)フェニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
・n−ブチル−カリックス[4]レゾルシンアレーン(n−Bu−CRA)の合成
【化30】

【0103】
300mL三つ口フラスコに、レゾルシノール16.5g(0.15mol)を秤取り、水75mL及びエタノール75mLの混合溶媒を加え、系中が均一となるまで、室温で撹拌した。次に滴下ロートを用いて、触媒である濃塩酸35mL(0.35mol)、及びバレルアルデヒド12.9g(0.15mol)の混合溶液を滴下し、オイルバスをいて80℃で22時間加熱還流した。反応溶液は無色から赤色に変化した。反応後、室温まで冷却して固体を析出させた。生成した固体を吸引ろ過により回収し、蒸留水、氷メタノールで洗浄を行った後、60℃で24時間減圧乾燥した。得られた粗生成物を、メタノールで2回再結晶を行い、60℃で24時間減圧乾燥した後、赤色固体の目的物を得た(収量12.3g、収率33%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。
【0104】
・2,8,14,20−テトラ−n−ブチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(4−メトキシカルボニルフェニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
【化31】

【0105】
100mL三つ口フラスコに、n−Bu−CRA2.57g(3.6mmol)を秤取り、N−メチル−2−ピロリジノン30mL、炭酸セシウム7.35g(22.5mmol)、及びテトラブチルアンモニウムブロマイド0.48g(0.15mmol)を加え、均一になるまで室温で撹拌した。次にp−ブロモ安息香酸メチル10.00g(43.6mmol)を加え、窒素雰囲気下でオイルバスを用いて80℃で48時間加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却した後に、200mL分液ロートを用い、反応混合物をクロロホルムで抽出し、蒸留水にて洗浄を3回行い、クロロホルム層を硫酸マグネシウム(無水)で乾燥した。乾燥剤を除去後、クロロホルムを減圧除去し、貧溶媒としてメタノールを用いて沈殿精製を行った。得られた固体を、メンブレンフィルターを用いた吸引ろ過により回収し、室温で24時間減圧乾燥した後、白色固体の目的物を得た(収量6.13g、収率91%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。
【0106】
・2,8,14,20−テトラ−n−ブチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(4−カルボキシフェニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
【化32】

【0107】
300mLナスフラスコに、2,8,14,20−テトラ−n−ブチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(4−メトキシカルボニルフェニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーン2.00g(1.06mmol)を秤取り、THF100mL及びエタノール100mLを加え、室温で撹拌した。続いて0.5M水酸化ナトリウム水溶液60mL(0.12mol)をゆっくり加え、オイルバスを用いて100℃で24時間加熱還流した。反応溶液は無色から薄い赤色に変化した。反応溶液を氷浴で室温まで冷却した後、濃塩酸150mL(1.5mol)を加えることで、薄い黄色の固体が析出した。吸引ろ過により固体を回収し、蒸留水にて洗浄を数回行い、室温で24時間減圧乾燥した後、白色固体の目的物を得た(収量1.88g、収率99%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。
【0108】
・2,8,14,20−テトラメチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(4−(2−ベンゾオキサゾリルカルボニル)フェニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーンの合成
【化33】

【0109】
50mLナスフラスコに、2,8,14,20−テトラ−n−ブチル−4,6,10,12,16,18,22,24−オクタキス(4−カルボキシフェニルメチル)カリックス[4]レゾルシンアレーン0.5g(0.29mmol)、及び塩化チオニル20mLを加えて、オイルバスを用いて75℃で1時間加熱還流した。その間発生する気体は水酸化ナトリウム水溶液で中和した。反応溶液は薄茶色から濃茶色に変化した。反応終了後、過剰の塩化チオニルを減圧除去し、濃茶色の酸クロライド体を得た。別途、窒素雰囲気下、100mL三つ口フラスコに、2−メルカプトベンゾオキサゾール0.63g(3.5mmol)、脱水トリエチルアミン(TEA)0.35mL(3.5mmol)、及び脱水THF20mL(13mmol)を秤取り、氷浴下、滴下ロートを用いて先に調製した酸クロライド体0.5g(0.25mmol)のTHF溶液(15mL)ゆっくり滴下した。反応溶液は無色から薄い黄色に変化した。滴下後、均一な反応溶液を0℃に保ちながら24時間反応させた。反応終了後、200mLの氷水へ反応溶液を注いだ。その後、析出した固体を、メンブレンフィルターを用いた吸引ろ過により回収し、得られた固体を室温で24時間減圧乾燥後、リサイクル分取HPLCを用いた精製を行い、薄茶色固体の目的物を得た(収量0.7g、収率99%)。構造確認はFT−IR及びH−NMRにより行った。得られた化合物を実施例8の有機化合物とした。
【0110】
[実施例8の有機化合物における構造変化]
実施例8の有機化合物2.9mgを使用して45〜200℃の範囲でDSC測定(セイコーインスツルメンツ株式会社製、EXSTAR6000、DSC6200を使用、測定条件:窒素雰囲気下、昇温速度10℃/min、アルミパン)を行った。その結果、温度上昇に伴い、発熱ピーク(開始温度92.4℃、終了温度141.2℃)が観察され、その面積から発熱量が12.9mJ/mgと算出された。そして、ピークトップは119.8℃に観察された。このことから、下記化学式で表されるように、実施例8の有機化合物の活性エステル部位に、S−アシル体(チオエノール構造)からN−アシル体(チオケト構造)へ熱的に転位する成分が含まれていることを確認した。
【0111】
【化34】

【0112】
また、実施例8の有機化合物のCDCl溶液をKBr板に塗布して調製したフィルムの加熱前後でのFT−IR測定(日本分光株式会社製、FT/IR4100型を使用)を行った。この測定では、DSC測定より120℃付近に転位に基づく発熱ピークが観察された結果に基づいて、加熱温度を135℃に設定した。その結果、加熱前には1695cm−1及び1714cm−1に観察された2つのC=O伸縮振動のピークが、加熱後では1716cm−1にシフトした。このことは、実施例8の有機化合物の活性エステル部位に、上記化学式で表されるように、S−アシル体(チオエノール構造)からN−アシル体(チオケト構造)へ熱的に転位する成分が含まれていることを支持している。なお、加熱前に、1695cm−1及び1714cm−1という二つのC=O伸縮振動のピークが観察されたのは、合成中又は単離精製中に、一部のS−アシル体がN−アシル体に転位したためと推察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からエネルギーを供給されることにより生じる構造変化により、C=Xで表される極性基(XはO又はSである。)を生成し屈折率が大きくなる有機化合物を含む光学材料。
【請求項2】
前記有機化合物は、置換されていてもよいエノール又はチオエノール基を有し、前記構造変化により、この置換されていてもよいエノール又はチオエノール基がケト又はチオケト基に変換され、前記極性基を生成させるものである請求項1記載の光学材料。
【請求項3】
前記有機化合物が下記一般式(1)で表される化合物又は下記一般式(2)で表される骨格を有する化合物である請求項1又は2記載の光学材料。
【化1】

(上記一般式(1)中、Xは硫黄原子又は酸素原子であり、Xは>CH又は窒素原子であり、Xは酸素原子、硫黄原子、>NH、>SO又は>CRであり、Xは、酸素原子又は硫黄原子であり、Rは一価の有機基、又はシルセスキオキシル基を含む一価の基であり、R及びRは、それぞれ水素原子、一価の有機基、ハロゲン原子、アルコキシ基、チオアルキル基、N−置換アミド基であり、Rは水素原子、一価の有機基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基であり、R及びRは互いに結合して環構造を形成してもよい。)
【化2】

(上記一般式(2)中、結合a又は結合bの一方が二重結合で他方が単結合であり、結合fと結合gの一方が二重結合で他方が単結合であり、結合c、d及びeは化学結合の法則に従うことを前提にそれぞれ独立に単結合又は二重結合であり、
は、一価の有機基、シルセスキオキシル基を含む一価の基又は二価の有機基若しくは原子であり、
、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、一価の有機基、シルセスキオキシル基を含む一価の基、アルコキシ基、チオアルキル基、N−置換アミド基、二価の有機基若しくは原子であり、
及びRは互いに結合して環構造を形成してもよく、R及びRは互いに結合して環構造を形成してもよく、R及びRは互いに結合して環構造を形成してもよい。)
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(3)で表される化合物である請求項3記載の光学材料。
【化3】

(上記一般式(3)中、X、X及びRは上記一般式(1)と同様であり、Rはそれぞれ独立に一価の有機基、ハロゲン原子、アルコキシ基、チオアルキル基、N−置換アミド基であり、nは0〜4の整数である。)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の光学材料を、外部からエネルギーを供給されることにより屈折率を変化させる部材として含む光学素子。
【請求項6】
外部からエネルギーを供給されることにより生じる構造変化により、C=Xで表される極性基(XはO又はSである。)を生成し屈折率が大きくなる有機化合物を利用して物品の屈折率を変化させる方法。
【請求項7】
前記有機化合物は、置換されていてもよいエノール又はチオエノール基を有し、前記構造変化により、この置換されていてもよいエノール又はチオエノール基がケト又はチオケト基に変換され、前記極性基を生成させるものである請求項6記載の方法。

【公開番号】特開2012−180327(P2012−180327A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45401(P2011−45401)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】