説明

光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体の製造方法

【課題】高効率でかつ不斉収率の良い触媒的不斉合成方法による光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体の製造方法の提供。
【解決手段】β−ケト化合物類を、2,3−ビス(ジアルキルホスフィノ)ピラジン誘導体を配位子として有する遷移金属錯体化合物からなる触媒の存在下に不斉水素化反応に付することを特徴とする光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体の製造方法。ピラジン誘導体がキノキサリン誘導体であり、遷移金属がルテニウムであることが好ましい。キノキサリン誘導体としては、(S,S)−2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン、(R,R)−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン、(S,S)−2,3−ビス(アダマンチルメチルホスフィノ)キノキサリン、(R,R)−ビス(アダマンチルメチルホスフィノ)キノキサリンなどが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬や生理活性物質の中間原料として重要で、例えば抗生物質の合成中間体として極めて有用な光学活性なβ−ヒドロキシカルボン酸誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学活性なβ−ヒドロキシカルボン酸誘導体を合成する方法としては、1)所望のβ−ヒドロキシカルボン酸誘導体のラセミ体を一旦合成し、これを光学活性な分割剤や酵素などを用いて光学分割する方法、2)不斉化合物を原料とする方法、3)不斉触媒を用いる方法等が考えられるか又は知られている。
【0003】
1)の方法としては、例えば酵素を用いてラセミ体を光学分割する方法として、リパーゼを用いてエステル化したβ−ヒドロキシカルボン酸誘導体の一方の光学異性体のみを選択的に加水分解する方法などが考えられる。
【0004】
しかしながら、1)の方法において、光学活性な分割剤を用いてラセミ体を光学分割する方法では、分割剤がβ−ヒドロキシカルボン酸誘導体に対して当量以上必要である。しかも光学活性なβ−ヒドロキシカルボン酸誘導体を得るためには、晶析、分離、精製など煩雑な操作が必要である。また、酵素を用いてラセミ体を光学分割する方法では、比較的高い光学純度のβ−ヒドロキシカルボン酸誘導体を得ることができるものの、反応基質の種類に制約がある。しかも得られるβ−ヒドロキシカルボン酸誘導体の絶対配置も特定のものに限られるという問題点を有している。
【0005】
2)の方法も考えられるが、この方法では、原料として高価な光学活性体を用いなければならないばかりか、用いる光学活性体が化学量論量以上必要であるという問題点を有している。
【0006】
3)の方法としては、高効率でかつ不斉収率のよい触媒的不斉合成方法による光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体の製造方法が近年詳細に研究されている。例えば、2、2’− ビス(ジフェニルホスフィノ)−1、1’−ビナフチル)−ルテニウム錯体(以下、BINAP−Ru触媒という)を使用し、β−ケト化合物類を不斉水素化して、光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体を製造する技術が特許文献1に開示されている。この方法は、光学純度が高いβ−ヒドロキシカルボン酸誘導体を温和な条件にて調製することができるので、有用性が高いものである。しかし水素圧が5−40気圧下で数十時間という比較的長時間反応させるものである。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−310847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来技術に鑑み、本発明は、光学活性なβ−ヒドロキシカルボン酸誘導体を、一般性が高く、しかも高活性な触媒を用いて製造し得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体の触媒的不斉合成方法について鋭意検討を行った結果、β−ケト化合物類を特定の触媒の存在下に不斉水素化反応に付すことにより、目的の光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体を短工程でかつ高効率で不斉収率良く得られることを見出し本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、一般式(1)
【0011】
【化5】

【0012】
で表されるβ−ケト化合物類を、一般式(2)
【0013】
【化6】

で表されるピラジン誘導体を配位子として有する遷移金属錯体化合物からなる触媒の存在下に不斉水素化反応に付することを特徴とする、一般式(3)
【0014】
【化7】

【0015】
で表される光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、光学純度に優れた光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体を低い触媒使用量で、短工程で製造することができる。また光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体を高効率でかつ不斉収率よく製造することができる。更に本発明の製造方法は、優れた触媒活性及びエナンチオ又はジアステレオ選択性を発揮する。本発明の製造方法により得られた光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体は医農薬や生理活性物質の中間原料として重要であり、例えば抗生物質の合成中間体として極めて有用な化合物である。したがって本発明は産業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の製造方法における出発物質であるβ−ケト化合物類は、前記の一般式(1)で表される。また、本発明の製造方法により得られる光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体は、前記の一般式(3)で表される。一般式(1)及び(3)において、R1、R2、R3で示される基について説明する。
【0018】
アルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、tert−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、5−メチルペンチル基等が挙げられる。
【0019】
置換アルキル基としては、前記アルキル基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基又は保護基を有するアミノ基等の置換基で置換されたアルキル基が挙げられる。保護基としては、アミノ保護基として用いられるものであれば特に制限なく使用可能である。例えば「PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS Second Edition(JOHN WILEY & SONS, INC.)」にアミノ保護基として記載されているものが挙げられる。アミノ保護基の具体例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0020】
シクロアルキル基としては、例えば炭素数3〜16のシクロアルキル基が挙げられる。具体的にはシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル、2−メチルシクロペンチル基、3−メチルシクロペンチル基、シクロヘプチル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−メチルシクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基が挙げられる。シクロアルキル基には多環アルキル基も含まれる。その例としては、メンチル基、ボルニル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0021】
置換シクロアルキル基としては、前記シクロアルキル基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基又は保護基を有するアミノ基等の置換基で置換されたシクロアルキル基が挙げられる。
【0022】
アラルキル基としては、例えば炭素数7〜12のアラルキル基が挙げられ、具体的にはベンジル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基、1−フェニルブチル基、2−フェニルブチル基、3−フェニルブチル基、4−フェニルブチル基、1−フェニルペンチル基、2−フェニルペンチル基、3−フェニルペンチル基、4−フェニルペンチル基、5−フェニルペンチル基、1−フェニルヘキシル基、2−フェニルヘキシル基、3−フェニルヘキシル基、4−フェニルヘキシル基、5−フェニルヘキシル基、6−フェニルヘキシル基等が挙げられる。
【0023】
置換アラルキル基としては、前記アラルキル基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基置換アミノ基等の置換基で置換されたアラルキル基が挙げられる。
【0024】
アリール基としては、例えば炭素数6〜14のアリール基が挙げられる。具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられる。
【0025】
置換アリール基としては、前記アリール基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基置換アミノ基等の置換基で置換されたアリール基、又は前記アリール基の隣接した2個の水素原子がアルキレンジオキシ基等の置換基で置換されたアリール基が挙げられる。
【0026】
脂肪族複素環基としては、例えば5員又は6員の脂肪族複素環基が好ましく、異種原子として1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる脂肪族複素環基が挙げられる。その具体例としては、ピロリジル−2−オン基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。
【0027】
置換脂肪族複素環基としては、前記脂肪族複素環基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基で置換された脂肪族複素環基が挙げられる。
【0028】
芳香族複素環基としては、例えば5員又は6員の単環の芳香族複素環基や多環の芳香族複素環基が好ましく、異種原子として1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる芳香族複素環基が挙げられる。その具体例としては、ピリジル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、フルフリル基、ピラニル基、フリル基、ベンゾフリル基、チエニル基等が挙げられる。
【0029】
置換芳香族複素環基としては、前記芳香族複素環基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基で置換された芳香族複素環基が挙げられる。
【0030】
次に、一般式(1)及び(3)において、R4で示される基について説明する。R4は上述したR1〜R3と同種の基であるか、又はR1〜R3と同種の基が酸素を介して結合する基であり得る。またR4は、アミノ基又は置換アミノ基であり得る。
【0031】
4が、上述のR1〜R3と同種の基が酸素を介して結合する基である場合、当該基としては、例えばヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、フェニルオキシ基、ベンジルオキシ基、p−メトキシベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0032】
4が、上述のR1〜R3と同種の基である場合、当該基としては、R1とR4が異なる場合は、R1に近い側のケトン基がより優先的に還元反応に付されるようにするために、R1と比較して嵩高いアルキル基が選ばれる。そのような基としては好ましくは例えばイソプロピル基、tert−ブチル基、2,2,4,4−テトラメチルブチル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等が挙げられる。
【0033】
置換アミノ基としては、アミノ基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基で置換されたアミノ基が挙げられる。
【0034】
一般式(1)及び(3)において、R1〜R3は同一でもよく又は異なっていてもよい。R4がアルキル基の場合は、R1〜R3のうち一つ又は二つ以上と同一でもよい。R1〜R4はそれぞれ独立でもよいし、それらのうちの2個以上が架橋により連結していてもよい。
【0035】
一般式(1)で表されるβ−ケト化合物類の具体例としては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸n−ブチル、アセト酢酸n−ペンチル、アセト酢酸n−ヘキシル、アセト酢酸n−ヘプチル、アセト酢酸n−オクチル、2−メチルアセト酢酸エチル、3−オキソペンタン酸メチル、3−オキソヘキサン酸メチル、3−オキソヘプタン酸メチル、3−オキソオクタン酸エチル、3−オキソノナン酸エチル、3−オキソデカン産エチル、3−オキソ−3−フェニルプロパン酸エチル、3−オキソ−3−(p−メチルフェニル)プロパン酸エチル、3−オキソ−3−(p−メトキシフェニル)プロパン酸エチル、3−オキソ−3−(3,4−ジメトキシフェニル)プロパン酸エチル、3−オキソ−3−(p−ブロモフェニル)プロパン酸エチル、3−オキソ−3−(p−クロロフェニル)プロパン酸エチル、3−オキソ−3−(p−フルオロフェニル)プロパン酸エチル、4−フェニル−3−オキソブタン酸エチル、5−フェニル−3−オキソペンタン酸メチル、4−ヒドロキシ−3−オキソブタン酸エチル、4−ベンジルオキシ−3−オキソブタン酸メチル、4−ベンジルオキシ−3−オキソブタン酸エチル等が挙げられる。
【0036】
次に一般式(2)において、R5及びR6で示される基について説明する。R5及びR6で示されるアルキル基又は置換アルキル基としては、前記のR1〜R3と同種のものが挙げられる。R5及びR6は同一でもよく或いは異なっていてもよい。R5とR6は独立でもよく又は架橋により連結していてもよいが、R5とR6はそれらが存在することによりリン原子上に不斉が発現するか又はリン原子が軸不斉の対称面の一点を構成するように選択されることが必須である。
【0037】
リン原子上に不斉を発現させる場合には、不斉を効果的に誘起するために、R5とR6を立体的な嵩高さが大きく異なるように組み合わせることが好ましい。具体例としては、メチル基とtert−ブチル基との組み合わせ、又はメチル基とアダマンチル基との組み合わせが挙げられる。
【0038】
一方、リン原子が軸不斉の対称面の一点を構成するようにする場合には、不斉を効果的に誘起するために、R5又はR6にある不斉を構成する部分がリン原子にできるだけ近いことが好ましい。具体例としては、R5とR6が架橋により連結し、それらとリン原子を含めた一団が、2,5−ジメチルホスホラン(phospholane)である場合が挙げられる。
【0039】
次に一般式(2)において、R7及びR8で示される基について説明する。上述のとおりR7及びR8は前記のR1〜R3と同種の基であり得る。この場合、R7とR8は同一でもよく又は異なっていてもよい。R7及びR8は、これらが一体となり縮合環を形成する基であってもよい。そのような基としては、具体的にはR7とR8が一体となりベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、メチレンジオキシ環、エチレンジオキシ環又はシクロヘキサン環を形成する基が挙げられる。
【0040】
7及びR8として特に好ましいものは、両者が結合してベンゼン環を形成している場合である。その場合の一般式(2)で表されるピラジン誘導体は、以下の一般式(4)で表されるキノキサリン誘導体である。
【0041】
【化8】

【0042】
一般式(4)においてR9で示される一価の置換基としては、例えばアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、保護基を有するアミノ基又はニトロ基等の基が挙げられる。置換基は1個又は2個以上であり得る。置換基が2個以上である場合に、各置換基は同一でもよく、又は異なっていてもよい。
【0043】
一般式(2)で表されるピラジン誘導体において、リン原子上に不斉を導入した場合の化合物の構造式を以下に例示する。
【0044】
【化9】

【0045】
一般式(2)で表されるピラジン誘導体において、リン原子が軸不斉の対称面の一点を構成する場合の化合物の構造式を以下に例示する。
【0046】
【化10】

【0047】
一般式(4)で表されるキノキサリン誘導体を含む、一般式(2)で示されるピラジン誘導体は、例えば本出願人の先の出願に係る特開2007−56007号公報に記載の方法に従い製造することができる。
【0048】
一般式(4)で表されるキノキサリン誘導体を含む、一般式(2)で示されるピラジン誘導体は、遷移金属と錯体化合物を形成し不斉合成触媒として用いられる。錯体を形成することができる遷移金属としては、例えば、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ニッケル、鉄等が挙げられる。好ましい金属はロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ニッケル等のVIII族元素であり、特に好ましい金属はルテニウムである。一般式(2)で表されるピラジン誘導体を配位子として用い、ルテニウムと共に錯体を形成させる方法としては、例えば一般式(2)で示されるピラジン誘導体と、ベンゼン又は置換ベンゼンの配位したルテニウム化合物、例えば[RuCl2(η6−C66)]2を混合する方法が挙げられる。
【0049】
前記の遷移金属錯体化合物からなる触媒の添加量は、基質に対し好ましくは0.0001〜100モル%、更に好ましくは0.001〜10モル%である。一層好ましくは、遷移金属錯体化合物の使用量を抑えながら反応が適度に促進される量である0.02〜5モル%である。
【0050】
不斉水素化反応に使用される溶媒としては、一般の有機化学反応においてよく使われる溶媒、例えばトルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトン、酢酸エチル、クロロベンゼン、ジメチルホルムアミド(DMF)、酢酸、水などが挙げられる。好ましくはメタノール、エタノール、ジクロロメタンである。
【0051】
溶媒の添加量は、反応時における反応混合物の流動性及び溶媒の反応に与える効果を考慮して適度に設定される。反応前混合物が溶媒を入れずとも粘性の低い均一の流動体である場合等、無溶媒でも反応が良好に進行する状況であれば無溶媒でもかまわない。
【0052】
不斉水素化反応の反応温度は、好ましくは−80〜150℃であり、更に好ましくは反応が促進されかつ副反応及びラセミ化が抑制される温度である0〜120℃である。
【0053】
不斉水素化反応の反応時間は、好ましくは1分〜1ヶ月であり、更に好ましくは反応が完結するのに十分な時間である3時間〜3日である。
【0054】
本発明の製造方法にて合成されたβ−ヒドロキシカルボン酸誘導体は、反応液のまま使用することができる。或いは、溶媒除去、分液洗浄、晶析、蒸留、昇華、カラムクロマトグラフィーといった一般的な後処理、精製手順を経た上で使用することもできる。
【0055】
本発明の製造方法は、反応形式がバッチ式においても連続式においても実施することができる。
【0056】
本発明の製造方法により得られた光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体は、医農薬や生理活性物質の中間原料として用いられ、例えば抗生物質の合成中間体として有用である。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、あくまで例示であって、本発明の適用範囲はこれらに限定されない。
【0058】
すべての合成操作はよく乾燥させたガラス容器を使って行った。反応はアルゴン又は窒素雰囲気下で行った。ホスフィン配位子である(R,R)−2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン((R,R)−t−Bu−QuinoxP*)は、シグマ−アルドリッチ社の試薬品をそのまま使用した。溶媒及び[RuCl2(η6−C66)]2などの金属化合物は、一般の試薬を使用した。
【0059】
NMRスペクトル測定はJEOL製(1H;300MHz、13C;75.4MHz、31P;121.4MHz)NMR装置で行った。内部標準としてテトラメチルシラン(1H)を使用した。GC分析は島津製作所(株)製GC−14B FID検出器で行った。質量分析は島津製作所(株)製GC−MSで行った。
【0060】
〔実施例1〕
(S)−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸エチルの合成
(R,R)−t−Bu−QuinoxP*(1)(4.9mg、15μmol)と[RuCl2(η6−C66)]2(3.4mg、6.7μmol)を、乾燥し脱気したDMF(0.5mL)に窒素雰囲気下に溶解させた。混合物を100℃で10分加熱した。50℃まで冷やし、溶媒を減圧留去し、赤〜紫色の固体として触媒を得た。この触媒をグローブボックス内で脱気エタノール(3mL)に溶解させた。この溶液に、3−オキソ−3−フェニルプロピオン酸エチル(129mg、0.67mmol)のジクロロメタン(1mL)溶液を添加し、混合物をステンレスのオートクレーブに移した。オートクレーブ内を水素で4回パージした後に水素圧を20atmとした。オートクレーブ内を50℃で24時間撹拌し、室温まで冷やした後に水素を排気した。溶媒を除去し、残留物をジエチルエーテルに溶解させた。この溶液を水、次いで食塩水で洗い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。揮発物を留去後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。このようにして、目的物である(S)−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸エチルを合成した。
【0061】
〔実施例2ないし12〕
基質、水素圧、温度など種々変更した以外は実施例1と同様に合成を行った。結果を実施例1の結果と併せてまとめて表1に示した。
【0062】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

で表されるβ−ケト化合物類を、一般式(2)
【化2】

で表されるピラジン誘導体を配位子として有する遷移金属錯体化合物からなる触媒の存在下に不斉水素化反応に付することを特徴とする、一般式(3)
【化3】

で表される光学活性β−ヒドロキシカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項2】
一般式(2)で表されるピラジン誘導体が一般式(4)
【化4】

で表されるキノキサリン誘導体である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属錯体化合物がルテニウム錯体化合物である請求項1又は2記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−29744(P2009−29744A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195233(P2007−195233)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】