説明

光学活性なジフェニルアラニン化合物の製造方法

【課題】ジフェニルアラニン化合物を工業的に有利に収率よく得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるジフェニルメチレンハライド化合物と、下記式(2)で表されるマロン酸ジエステル化合物を、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる有機溶媒、並びに水素化アルカリ金属及びt−ブトキシアルカリ金属から選ばれる塩基の存在下で反応させて、下記式(3)で表されるジエステル化合物を得、次いで該ジエステル化合物を加水分解及び脱炭酸に供して、下記式(4)で表されるジフェニルアラニン化合物を得る。
【化1】


[式中、各記号は本明細書の定義と同義である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフェニルアラニン化合物及びその製造方法、並びに抗HIV薬、ジペプチジルペプチターゼ阻害剤等の合成中間体として有用な光学活性なジフェニルアラニン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジフェニルアラニン化合物、特に光学活性なジフェニルアラニン化合物(アミノ基の保護体を含む。)は医薬化合物の合成中間体として有用な化合物であり、例えば、抗HIV薬(特許文献1)、ジペプチジルペプチターゼ阻害剤(特許文献2)の合成中間体として用いられている。
【0003】
3,3−ジフェニルアラニンの製造方法として、特許文献3には、下記反応スキームに示すように、ジエチルアセトアミドマロン酸エステルと、ジフェニルブロモメタンとをエタノール中、ナトリウムエトキシド存在下で反応させて、ジエチル2−アセトアミド−2−(ジフェニルメチル)マロン酸エステルを得、これを臭化水素存在下で加水分解し、水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、カラム精製により3,3−ジフェニルアラニンを得る方法が記載されているが、その収率について具体的な記載はない。
【0004】
【化1】

【0005】
そこで、本発明者らは、上記反応スキームに従い、ジエチルアセトアミドマロン酸エステルとジフェニルクロロメタン又はジフェニルブロモメタンを反応させて、3,3−ジフェニルアラニンの製造を試みた。しかしながら、ジフェニルメチルエチルエーテルが主生成物として得られ、目的物とする3,3−ジフェニルアラニンは極めて低収率でしか得られなかった。
また、他の方法として、下記反応スキームに示すように、ベンゾフェノンイミンとグリシンエステルから合成されるN−(ジフェニルメチレン)グリシンエステルにジフェニルブロモメタンを反応させる方法が知られている(特許文献4)。
【0006】
【化2】

【0007】
しかしながら、上記方法においては、原料化合物であるベンゾフェノンイミンの入手が困難であり、またベンゾフェノンイミンが脱離基として使用されるに過ぎないため、原料化合物を有効に利用した効率的な製造方法とは言い難い。
【0008】
一方、光学活性なジフェニルアラニンの製造方法として、前述した特許文献4号明細書には、(−)−シンコニジンを用いたN−アセチルジフェニルアラニンの光学分割法が記載されている。しかしながら、この方法は光学分割工程の収率が25〜30%と効率的とは言えない。また、同文献には、3,3−ジフェニルアラニン化合物の豚腎臓アシラーゼ、カルボキシペプチダーゼによる光学分割ができなかった旨が記載されている。
【0009】
また、別の方法として、非特許文献1および非特許文献2には、N−Boc−ジフェニルメチルアラニンの不斉合成法が記載されている。しかしながら、これらの方法は、化学量論量の不斉源を使用し、また工程数が多く、加えて−78℃で反応させるための低温反応槽やKHMDS(ヘキサメチルジシラザンカリウム)等の高価な試薬が必要であるためコストが高くなり、工業的に有利な方法とは言い難い。
【0010】
このように、生物学的手法による光学活性なジフェニルアラニン化合物の製造方法は未だ報告されていない。
【特許文献1】国際公開04/056764号パンフレット
【特許文献2】国際公開03/002531号パンフレット
【特許文献3】米国特許第4766109号明細書
【特許文献4】米国特許第5198548号明細書
【非特許文献1】HETEROCYCLES, vol.57, No.6, pp1143 (2002)
【非特許文献2】Tetrahedron Letter, vol.33, No.23, pp3293 (1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような実情に鑑みなされたものであり、その解決しようとする課題は、ジフェニルアラニン化合物及び光学活性なジフェニルアラニン化合物を工業的に有利に収率よく得ることができる製造方法を提供することにある。また、ラセミ体のN−アセチルジフェニルアラニンおよびラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンを結晶として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ジフェニルメチレンハライド化合物とマロン酸ジエステル化合物を、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる有機溶媒、並びに水素化アルカリ金属及びt−ブトキシアルカリ金属から選ばれる塩基の存在下で反応させることにより、ジフェニルアラニン化合物が収率よく簡便に得られることを見出した。また、ペニシリンアミダーゼが特定構造を有するジフェニルアラニン化合物に対して基質特異的に反応し、光学活性なジフェニルアラニン化合物を収率よく簡便に製造できることも見出した。さらに、ラセミ体のN−アセチルジフェニルアラニンおよびラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンについて、特定の方法により結晶化できることを見出した。これらの知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]下記式(1):
【0014】
【化3】

【0015】
[式中、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示し、かつXは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。]
で表されるジフェニルメチレンハライド化合物と、下記式(2):
【0016】
【化4】

【0017】
[式中、R及びRはそれぞれ独立してアルキル基又はアラルキル基を示すか、あるいはRとRとが一緒になってアルキレン基を形成し、かつPはアミノ基の保護基を示す。]
で表されるマロン酸ジエステル化合物を、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる有機溶媒、並びに水素化アルカリ金属及びt−ブトキシアルカリ金属から選ばれる塩基の存在下で反応させる、下記式(3):
【0018】
【化5】

【0019】
[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるジエステル化合物の製造方法。
【0020】
[2]塩基が、水素化ナトリウム、t−ブトキシナトリウム及びt−ブトキシカリウムから選ばれる、上記[1]記載の製造方法。
[3]有機溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン及びN−エチル−2−ピロリドンから選ばれる、上記[1]記載の製造方法。
[4]R及びRがフッ素原子である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]R及びRがエチル基である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]Pがアセチル基又はフェニルアセチル基である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]Xが塩素原子又は臭素原子である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]ヨウ素化合物又は臭素化合物の共存下に行う、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]金属ヨウ化物又はヨウ化4級アンモニウムの共存下に行う、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
【0021】
[10]下記工程(a)及び(b)を含む、下記式(4)で表されるジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法;
工程(a):下記式(1):
【0022】
【化6】

【0023】
[式中、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示し、かつXは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。]
で表されるジフェニルメチレンハライド化合物と、下記式(2):
【0024】
【化7】

【0025】
[式中、R及びRはそれぞれ独立してアルキル基又はアラルキル基を示すか、あるいはRとRとが一緒になってアルキレン基を形成し、かつPはアミノ基の保護基を示す。]
で表されるマロン酸ジエステル化合物を、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる有機溶媒、並びに水素化アルカリ金属及びt−ブトキシアルカリ金属から選ばれる塩基の存在下で反応させて、下記式(3):
【0026】
【化8】

【0027】
[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるジエステル化合物を得る工程、及び
工程(b):該ジエステル化合物を加水分解及び脱炭酸に供して、下記式(4):
【0028】
【化9】

【0029】
[式中、R、R、n及びnは前記定義と同義を示し、かつPは水素原子又はアミノ基の保護基を示す。]
で表されるジフェニルアラニン化合物またはその塩を得る工程。
【0030】
[11]Pが水素原子、アセチル基又はフェニルアセチル基である、上記[10]記載の製造方法。
【0031】
[12]下記式(4):
【0032】
【化10】

【0033】
[式中、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示し、かつPは、水素原子又はアミノ基の保護基(但し、下記式(5):
【0034】
【化11】

【0035】
(式中、Rは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつnは0〜5の整数を示す。)で表される基を除く)を示す。]
で表されるジフェニルアラニン化合物またはその塩のPを上記式(5)で表される置換フェニルアセチル基に変換する、下記式(6):
【0036】
【化12】

【0037】
[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるアシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法。
【0038】
[13]下記式(6):
【0039】
【化13】

【0040】
[式中、R、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつn、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示す。]
で表されるアシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩にペニシリンアミダーゼを作用させる、下記式(7a):
【0041】
【化14】

【0042】
[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるL−ジフェニルアラニン化合物またはその塩及び下記式(6b):
【0043】
【化15】

【0044】
[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるD−アシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法。
【0045】
[14]下記工程(a)、(b)、(c)及び(d)を含む、下記式(7a)及び(6b)で表される光学活性なジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法;
工程(a):下記式(1):
【0046】
【化16】

【0047】
[式中、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示し、かつXは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。]
で表されるジフェニルメチレンハライド化合物と、下記式(2):
【0048】
【化17】

【0049】
[式中、R及びRはそれぞれ独立してアルキル基又はアラルキル基を示すか、あるいはRとRとが一緒になってアルキレン基を形成し、かつPはアミノ基の保護基を示す。]
で表されるマロン酸ジエステル化合物を、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる有機溶媒、並びに水素化アルカリ金属及びt−ブトキシアルカリ金属から選ばれる塩基の存在下で反応させて、下記式(3):
【0050】
【化18】

【0051】
[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるジエステル化合物を得る工程、
工程(b):該ジエステル化合物を加水分解及び脱炭酸に供して、下記式(4):
【0052】
【化19】

【0053】
[式中、R、R、n及びnは前記定義と同義を示し、かつPは水素原子又はアミノ基の保護基を示す。]
で表されるジフェニルアラニン化合物またはその塩を得る工程、
工程(c):該ジフェニルアラニン化合物[但し、Pが下記式(5):
【0054】
【化20】

【0055】
(式中、Rは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつnは0〜5の整数を示す。)で表される基である化合物を除く。]またはその塩のPを上記式(5)で表される置換フェニルアセチル基に変換して、下記式(6):
【0056】
【化21】

【0057】
[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるアシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩を得る工程、及び
工程(d):該アシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩にペニシリンアミダーゼを作用させて、下記式(7a):
【0058】
【化22】

【0059】
[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるL−ジフェニルアラニン化合物またはその塩、及び下記式(6b):
【0060】
【化23】

【0061】
[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるD−アシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩を得る工程。
【0062】
[15]上記[13]記載の方法に従って、下記式(7a):
【0063】
【化24】

【0064】
[式中、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつn及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示す。]
で表されるL−ジフェニルアラニン化合物またはその塩を得た後、当該化合物またはその塩のアミノ基を保護する、下記式(8a):
【0065】
【化25】

【0066】
[式中、R、R、n及びnは前記定義と同義を示し、かつPはアミノ基の保護基を示す。]
で表されるL−N保護ジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法。
【0067】
[16]Pがtert−ブトキシカルボニル基である、上記[15]記載の製造方法。
【0068】
[17]上記[13]記載の方法に従って、下記式(6b):
【0069】
【化26】

【0070】
[式中、R、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつn、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示す。]
で表されるD−アシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩を得た後、当該化合物またはその塩を脱アシル化する、下記式(7b):
【0071】
【化27】

【0072】
[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるD−ジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法。
【0073】
[18]上記[17]記載の方法に従って、下記式(7b):
【0074】
【化28】

【0075】
[式中、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつn及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示す。]
で表されるD−ジフェニルアラニン化合物またはその塩を得た後、当該化合物またはその塩のアミノ基を保護する、下記式(8b):
【0076】
【化29】

【0077】
[式中、R、R、n及びnは前記定義と同義を示し、かつPはアミノ基の保護基を示す。]
で表されるD−N保護ジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法。
【0078】
[19]Pがtert−ブトキシカルボニル基である、上記[18]記載の製造方法。
【0079】
[20]下記式(6):
【0080】
【化30】

【0081】
[式中、R、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつn、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示す。]
で表されるアシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩。
【0082】
[21]Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、5.8°、11.5°、21.6°、23.2°及び28.7°に回折角2θの特徴的ピークを有する、ラセミ体のN−アセチルジフェニルアラニンの結晶。
[22]ラセミ体のN−アセチルジフェニルアラニンの酢酸エステル溶液に貧溶媒を添加することにより得られる、上記[21]記載の結晶。
[23]Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、17.1°、21.8°、22.0°、22.7°、23.1°及び25.4°に回折角2θの特徴的ピークを有する、ラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンの結晶。
[24]Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、12.8°、17.6°、19.2°及び24.3°に回折角2θの特徴的ピークを有する、ラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンの結晶。
[25]ラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンの酢酸エステル溶液に貧溶媒を添加することにより得られる、上記[23]記載の結晶。
[26]ラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンの酢酸エステル溶液を冷却することにより得られる、上記[24]記載の結晶。
【発明の効果】
【0083】
本発明によれば、ペニシリンアミダーゼと基質特異的に反応可能な新規ジフェニルアラニン化合物またはその塩が提供される。また、該ジフェニルアラニン化合物またはその塩及び光学活性ジフェニルアラニン化合物またはその塩を高収率で簡便に製造することができる。さらに、ラセミ体のN−アセチルジフェニルアラニンおよびラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンを、純度が高く、保存・輸送に便利な結晶の形態で取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0084】
以下、本発明について詳細に説明する。
先ず、本明細書において使用する、各式中の記号の定義を説明する。
【0085】
、R及びRにおけるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0086】
、R、R、R及びRにおけるアルキル基としては、炭素数が好ましくは1〜10、より好ましくは1〜7、更に好ましくは1〜4である、直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられ、中でもメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基等が好ましい。また、該アルキル基は、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルコキシ基(例えば、メトキシ基)等で1又はそれ以上置換されていてもよい。
【0087】
、R及びRにおけるアルコキシ基としては、炭素数が好ましくは1〜10、より好ましくは1〜7、更に好ましくは1〜4である、直鎖状又は分岐状のアルコキシ基が好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等が挙げられ、中でもメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が好ましい。また、該アルコキシ基は、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルコキシ基(例えば、メトキシ基)等で1又はそれ以上置換されていてもよい。
【0088】
、R及びRにおけるアミノ基は、前述のアルキル基、アリール基又はアラルキル基で1または2置換されていてもよく、また、後述のP、P及びPにおけるアミノ基の保護基として挙げられる基で保護されていてもよい。
【0089】
、R及びRにおけるヒドロキシル基は保護されていてもよく、その保護基としては、従来から公知のものが挙げられ、具体的には、ベンジル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
【0090】
なお、n個のRは、同一でも異なっていてもよく、n個のRおよびn個のRも同様に、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。
【0091】
及びRにおけるアラルキル基とは、アリール基で置換されたアルキル基をいう。該アルキル基の炭素数は好ましくは1〜6、より好ましく1〜3であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。該アリール基としては、炭素数6〜14(好ましくは6〜8)が好ましく、具体的には、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。該アラルキル基の合計炭素数は、好ましくは7〜20、より好ましくは7〜11である。具体的には、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基等が挙げられ、中でもベンジル基が好ましい。また、該アラルキル基は、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基(例えば、メチル基)、炭素数1〜6のアルコキシ基(例えば、メトキシ基)、ハロアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基)、ハロアルコキシ基(例えば、トリフルオロメトキシ基)等で1又はそれ以上置換されていてもよい。
【0092】
及びRが一緒になって形成するアルキレン基としては、炭素数が好ましくは2〜6、より好ましくは2〜4である、直鎖状又は分岐状のアルキレン基が挙げられる。具体的には、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基が挙げられ、中でもトリメチレン基、テトラメチレン基が好ましい。
【0093】
、P及びPにおけるアミノ基の保護基としては、Protecting Groups in Organic Chemistry 2nd edition (John Wiley&Sons, Inc. 1991)に記載の基が挙げられる。具体的には、アシル基、アルキル基、アラルキル基、シリル基等が挙げられる。アシル基としては、例えば、ホルミル基、C1−6アルキル−カルボニル基(例えば、アセチル基)、C6−8アリール−カルボニル基、C7−11アラルキル−カルボニル基(例えば、フェニルアセチル基)等が挙げられる。アルキル基としては、例えば、R、R、R、R及びRにおけるアルキル基と同様のものが挙げられる。アラルキル基としては、R及びRにおけるアラルキル基と同様のものが挙げられる。シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基等のトリアルキル置換シリル基が挙げられ、該アルキル基としては、炭素数1〜4が好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。その他、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、ベンジルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、メトキシカルボニル基(Moc基)、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)、tert−ブトキシカルボニル基(Boc基)等も挙げられる。
【0094】
各記号における特に好適な態様は、以下のとおりである。
及びRとしては、それぞれハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、ハロゲン原子がより好ましく、フッ素原子が特に好ましい。なお、R及びRは同一でも異なっていてもよい。
及びRとしては、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、エチル基が特に好ましい。なお、R及びRは同一でも異なっていてもよい。
としては、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基が好ましい。
としては、炭素数1〜7のアシル基が好ましく、アセチル基、フェニルアセチル基が特に好ましい。
としては、水素原子、炭素数1〜7のアシル基が好ましく、水素原子、アセチル基、フェニルアセチル基が特に好ましい。
としては、Moc基、Fmoc基、Cbz基、Boc基が好ましく、Boc基が特に好ましい。
Xとしては、塩素原子、臭素原子が好ましい。
、n及びnとしては、それぞれ独立して0、1又は2が好ましい。n及びnは、それぞれ独立して0または1が特に好ましく、nは、0が特に好ましい。
【0095】
次に、本発明の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、下記反応スキームに表される。
【0096】
【化31】

【0097】
[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
【0098】
工程(a)
工程(a)は、式(1)で表されるジフェニルメチレンハライド化合物(以下、「化合物(1)」という。)と、式(2)で表されるマロン酸ジエステル化合物(以下、「化合物(2)」という。)を、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる有機溶媒、並びに水素化アルカリ金属及びt−ブトキシアルカリ金属から選ばれる塩基の存在下で反応させて、式(3)で表されるジエステル化合物(以下、「化合物(3)」という。)を得る工程である。
【0099】
工程(a)の反応は、水素化アルカリ金属及びt−ブトキシアルカリ金属から選ばれる塩基の存在下で行われる。ここで、水素化アルカリ金属としては、例えば、水素化リチウム、水素化カリウム、水素化ナトリウム等が挙げられ、水素化ナトリウム、水素化カリウムが好ましく、水素化ナトリウムが特に好ましい。t−ブトキシアルカリ金属としては、t−ブトキシナトリウム、t−ブトキシカリウム等が挙げられ、t−ブトキシカリウムが特に好ましい。上記塩基の使用量は、化合物(2)に対して通常1〜1.5当量、好ましくは1.1〜1.3当量である。
【0100】
また、上記反応は、反応を促進させるために、ヨウ素化合物又は臭素化合物の共存下で行うこともできる。この場合、Xが塩素原子の場合にはヨウ素化合物及び/又は臭素化合物の共存下で行われ、好適にはヨウ素化合物の存在下で行われる。Xが臭素原子の場合にはヨウ素化合物の存在下で行われる。
【0101】
ヨウ素化合物としては、金属ヨウ化物、ヨウ化4級アンモニウムが好適に使用される。金属ヨウ化物としては、アルカリ金属のヨウ化物が好ましく、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム等が挙げられ、中でもヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。ヨウ化4級アンモニウムとしては、例えば、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラヘプチルアンモニウム等が挙げられ、中でもヨウ化テトラブチルアンモニウムが特に好ましい。臭素化合物としては、金属臭化物、臭化4級アンモニウムが好適に使用される。金属臭化物としては、アルカリ金属の臭化物が好ましく、例えば、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム等が挙げられ、中でも臭化カリウム、臭化ナトリウムが特に好ましい。臭化4級アンモニウムとしては、例えば、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラヘプチルアンモニウム等が挙げられ、中でも臭化テトラブチルアンモニウムが特に好ましい。ヨウ素化合物又は臭素化合物の使用量は、化合物(1)に対して通常0.05〜1.0当量、好ましくは0.5〜1.0当量である。
【0102】
工程(a)の反応は、N−メチル−2−ピロリドン(別名:N−メチルピロリジノン又は1−メチルピロリジノン)、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる有機溶媒下で行われる。収率を向上させる観点から、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンが好ましく、特にN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドはこれらのうち2種以上を適当な割合で混合して使用してもよい。また、本反応の効果が発揮される範囲内で、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミド以外の溶媒を混合して使用してもよい。このような溶媒としては、非プロトン性の有機溶媒が好適に使用され、例えば、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、アセトニトリル、トルエン等が挙げられる。有機溶媒の使用量は、化合物の種類に応じて適宜選択することができるが、化合物(1)に対して通常3〜20倍重量、好ましくは5〜10倍重量である。
【0103】
化合物(2)の使用量は、化合物(1)に対して通常1〜1.5当量、好ましくは1.1〜1.3当量である。化合物(2)の使用量が上記範囲よりも少ないと、反応が不十分となる傾向にある。
【0104】
反応条件としては、塩基が水素化アルカリ金属の場合、反応温度は、通常30〜60℃、好ましくは40〜50℃であり、反応時間は、通常1〜16時間、好ましくは3〜6時間である。塩基がt−ブトキシアルカリ金属の場合、反応温度は、通常30〜80℃、好ましくは60〜70℃であり、反応時間は、通常3〜24時間、好ましくは3〜8時間である。
【0105】
反応終了後、反応液に有機溶媒(例えば、トルエン等の炭化水素類)及び水を加えて分液し、得られた有機層を水等で洗浄した後、濃縮することにより、化合物(3)を得ることができる。あるいは、反応終了後、上記の後処理を行うことなく、同じ反応容器中で引き続いて工程(b)を行うこともできる。
【0106】
工程(b)
工程(b)は、化合物(3)を加水分解及び脱炭酸に供して、式(4)で表されるジフェニルアラニン化合物またはその塩(以下、「化合物(4)」という。)を得る工程である。これにより、化合物(4)を収率よく簡便に得ることができる。
【0107】
加水分解及び脱炭酸は従来公知の方法で行うことができるが、例えば、化合物(3)をアルコール(例えば、エタノール)又はこれと水との混合溶媒中で、塩基(例えば、水酸化ナトリウム)と反応させる方法が挙げられる。上記反応は、通常80℃から用いる溶媒の還流温度の範囲内(好ましくは85〜90℃)で行われ、反応時間は、通常1〜16時間、好ましくは3〜6時間である。反応終了後、反応液に有機溶媒(例えば、トルエン等の炭化水素類)及び水を加えて分液し、得られた水層に酢酸エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル)及び水を加え、さらに酸(例えば、塩酸、硫酸)を加えて酸性(通常pH0.5〜3、好ましくは1〜2)にした後、抽出する。得られた有機層を水等で洗浄した後、濃縮することにより、化合物(4)を得ることができる。
【0108】
工程(a)と工程(b)は同じ反応容器中で連続して行うこともできる。例えば、工程(a)の反応終了後、塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加し、反応させる方法が挙げられる。この反応は、通常50℃から用いる溶媒の還流温度の範囲内(好ましくは60〜70℃)で行われ、反応時間は、通常1〜16時間、好ましくは3〜6時間である。
【0109】
反応終了後、分液し、得られた水層に酸(例えば、塩酸、硫酸)を加えて中性(通常pH6〜8、好ましくは7〜8)にした後、酢酸エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル)を加え、さらに酸(例えば、塩酸、硫酸)を加えて酸性(通常pH0.5〜3、好ましくは1〜2)にした後、抽出する。得られた有機層を酸(例えば、塩酸)と飽和食塩水で洗浄した後、濃縮することにより、化合物(4)を得ることができる。
【0110】
濃縮により得られる化合物(4)の性状はアモルファスであるが、濃縮を最後まで行わずにある程度まで行った後、この酢酸エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル)溶液をそのまま冷却するか、あるいはこの酢酸エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル)溶液に特定の貧溶媒(例えば、トルエン)を添加することによる晶析を行って、化合物(4)を結晶として得ることもできる。
【0111】
例えば、ラセミ体のN−アセチルジフェニルアラニン(別名、2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸)の結晶は、酢酸エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル)溶液に貧溶媒としてトルエンを添加する晶析方法により得られ、Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、5.8°、11.5°、21.6°、23.2°及び28.7°に回折角2θの特徴的ピークを有する。
【0112】
また、ラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニン(別名、2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸)の結晶については、晶析方法の違いにより、2種の結晶型が存在することが判明した。
【0113】
例えば、酢酸エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル)溶液に貧溶媒としてトルエンを添加する晶析方法により得られるラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンの結晶は、Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、17.1°、21.8°、22.0°、22.7°、23.1°及び25.4°に回折角2θの特徴的ピークを有する。
【0114】
また、酢酸エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル)溶液を冷却する晶析方法により得られるラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンの結晶は、Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、12.8°、17.6°、19.2°及び24.3°に回折角2θの特徴的ピークを有する。
【0115】
このように、ラセミ体のN−アセチルジフェニルアラニンおよびラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンを、純度が高く、保存・輸送に便利な結晶として得ることができる。
【0116】
なお、粉末X線回折スペクトルにおける回折角(2θ)の値は、±0.2度程度の測定誤差を有し得るものであり、このような誤差が結晶形の同一性を否定するものでないことは明らかである。
【0117】
工程(c)
工程(c)は、化合物(4)のPを置換フェニルアセチル基に変換して、式(6)で表されるアシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩(以下、「化合物(6)」という。)を得る工程である。
【0118】
即ち、化合物(4)のうち、Pが式(5):
【0119】
【化32】

【0120】
(式中、各記号は前記定義と同義を示す。)
で表される基以外である化合物は、下記反応スキームに示すように、アミノ基を脱保護して(Pが水素原子である化合物は不要)、式(4c)で表される化合物またはその塩(以下、「化合物(4c)」という。)を得、次いで、化合物(4c)に式(5c)で表されるアシルハライド(以下、「化合物(5c)」という。)を反応させて上記式(5)で表される置換フェニルアセチル基を導入することにより、化合物(6)を収率よく簡便に得ることができる。
【0121】
【化33】

【0122】
(式中、X’は、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示し、その他の各記号は前記定義と同義を示す。)
【0123】
化合物(4)のアミノ基の脱保護は公知の方法で行うことができるが、例えば、酸処理、接触還元等の方法が挙げられる。
【0124】
例えば、酸処理は、化合物(4)に酸(例えば、塩酸、硫酸)を加え、通常80〜100℃(好ましくは90〜100℃)で、通常1〜16時間(好ましくは3〜6時間)反応させることにより行われる。ここでは、化合物(4c)を酸付加塩として得てもよい。
【0125】
接触還元は、従来公知の方法、例えば、化合物(4)にパラジウム炭素等の還元触媒の存在下で水素を導入することにより行われる。
【0126】
次いで、塩基性条件(通常pH10〜13、好ましくはpH11〜12)下で、化合物(4c)を化合物(5c)と反応させることにより、化合物(6)を収率よく得ることができる。塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。化合物(5c)の使用量は、化合物(4)に対して通常1〜1.2当量、好ましくは1.05〜1.1当量である。化合物(5c)の使用量が上記範囲よりも少ないと、反応が不十分となる傾向にある。反応温度は、通常0〜40℃、好ましくは20〜30℃である。反応時間は、通常1〜5時間、好ましくは2〜3時間である。
【0127】
反応終了後、反応液に酢酸エステル類(例えば、酢酸エチル)を加え、更に酸(例えば、塩酸、硫酸)を加えて酸性(通常pH0.5〜3、好ましくは1〜2)にした後、分液し、得られた有機層を濃縮するか、あるいは晶析溶媒(例えば、ヘキサン等の炭化水素類)を加えて晶析することにより、化合物(6)を得ることができる。
【0128】
なお、化合物(4)のうち、Pが式(5)で表される基である化合物は、工程(b)の終了後、工程(c)を行うことなく、後述する工程(d)を行えばよい。
【0129】
工程(d)
工程(d)は、化合物(6)のラセミ体にペニシリンアミダーゼを作用させて、式(7a)で表されるL−ジフェニルアラニン化合物またはその塩(以下、「化合物(7a)」という。)と、式(6b)で表されるD−アシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩(以下、「化合物(6b)」という。)を得る工程である。ペニシリンアミダーゼは、化合物(6)に対して基質特異的に作用し、L体、即ち、式(6a)で表される化合物(以下、「化合物(6a)」という。)を加水分解により脱アシル化して化合物(7a)を生成するが、D体、即ち、化合物(6b)は加水分解されにくい。
【0130】
【化34】

【0131】
[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
【0132】
ペニシリンアミダーゼとしては、細菌類、放線菌類、菌類等の微生物から生成したE.C.番号3.5.1.11に分類される酵素であれば特に制限なく使用することができる。かかる微生物としては、例えば、アセトバクター(Acetobactor)、ザントモナス(Xanthomonas)、ミコプラナ(Mycoplana)、プロタミノバクター(Protaminobacter)、アエロモナス(Aeromonas)、シュウドモナス(Pseudomonas)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)、アファノクラジュム(Aphanocladium)、セファロスポリウム(Cephalosporium)、アセトバクター・パステリアヌム(Acetobacter pasteurianum)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、ザントモナス・シトリー(Xanthomonas citrii)、クルイベーラ・シトロフィーラ(Kluyvera citrophila)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)が挙げられる。ペニシリンアミダーゼは、遊離した水溶性酵素として、あるいは水不溶の固定化酵素として用いることができる。
【0133】
上記反応は、塩基性条件(通常pH6.8〜8.5、好ましくはpH7.2〜7.9)下で、例えば、化合物(6)にペニシリンアミダーゼを加えて、通常30〜40℃(好ましくは36〜38℃)で、通常2〜48時間(好ましくは8〜24時間)行う。塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0134】
化合物(6)の基質濃度は、通常0.01〜0.2モル/L(好ましくは0.02〜0.1モル/L)である。ペニシリンアミダーゼの濃度は、通常10〜1000U/mL(好ましくは10〜100U/mL)である。また、上記反応は、リン酸緩衝液等の通常用いられる緩衝液を用いても行うことができる。
【0135】
反応終了後、化合物(7a)と化合物(6b)とを分離する。具体的には、反応液に有機溶媒(例えば、酢酸エチル等の酢酸エステル)を加え、酸(例えば、塩酸、硫酸)で酸性(通常pH0.5〜2.0、好ましくはpH1.0〜2.0)にした後、分液し、次いで、水層から化合物(7a)を、有機層から化合物(6b)をそれぞれ単離する。更に、必要に応じて再結晶に付して精製してもよいが、抽出操作により得た水層を後述する工程(e)にそのまま用いてもよい。
【0136】
なお、固定化酵素を用いた場合には、反応終了後、例えば固定化したペニシリンアミダーゼを濾過して除去し、次いで前述と同様の操作により化合物(7a)及び化合物(6b)を得ることができる。また、固定化したペニシリンアミダーゼは、水等で洗浄することにより再使用することができる。
【0137】
このような方法により、抗HIV薬、ジペプチジルペプチターゼ阻害剤等の医薬品の合成中間体として有用な化合物(7a)を収率よく簡便に得ることができる。
【0138】
工程(e)
工程(e)は、化合物(7a)のアミノ基を保護して、式(8a)で表されるL−N保護ジフェニルアラニン化合物またはその塩(以下、「化合物(8a)」という。)を得る工程である。工程(e)は、公知の方法、例えば、Protecting Groups in Organic Chemistry 2nd edition (John Wiley&Sons, Inc. 1991)に記載の方法により行うことができる。
【0139】
以下、工程(e)の好適な態様として、Boc基によるアミノ基の保護について説明する。Boc基によるアミノ基の保護は、例えば、工程(d)で得られた化合物(7a)の水溶液(工程(d)の抽出操作により得た水層をそのまま使用してもよい)を塩基性(通常pH7〜9、好ましくはpH8)にした後、これにアルコール(例えば、メタノール)及びジ−t−ブチルジカーボネートを加え、通常0〜50℃(好ましくは20〜40℃)で通常1〜24時間(好ましくは1〜6時間)反応させて行うことができる。塩基としては、例えば、炭酸水素カリウム等が使用される。ジ−t−ブチルジカーボネートの使用量は、化合物(7a)に対して通常1〜1.2当量(好ましくは1.05〜1.1当量)である。アルコールの使用量は、化合物(7a)に対して通常2〜100倍重量(好ましくは5〜20倍重量)である。反応終了後、反応液に酸(例えば、塩酸、硫酸)を加えて酸性(通常pH0.5〜3、好ましくはpH1〜2)にした後、分液する。得られた有機層を水で洗浄した後、濃縮することにより、化合物(8a)を得ることができる。更に、必要に応じて、晶析やカラムクロマトグラフィーに付すことにより化合物(8a)を精製してもよい。これにより、抗HIV薬、ジペプチジルペプチターゼ阻害剤等の医薬品の合成中間体として有用な化合物(8a)を収率よく簡便に得ることができる。また、化合物(8a)は結晶であることから、純度が高く、保存・運搬等の取扱い性にも優れる。
【0140】
工程(f)
工程(f)は、化合物(6b)を脱アシル化して、式(7b)で表されるD−ジフェニルアラニン化合物またはその塩(以下、「化合物(7b)」という。)を得る工程である。脱アシル化は、工程(c)で述べたアミノ基を脱保護するための酸処理と同様の方法により行うことができる。
【0141】
工程(g)
工程(g)は、化合物(7b)のアミノ基を保護して、式(8b)で表されるD−N保護ジフェニルアラニン化合物またはその塩(以下、「化合物(8b)」という。)を得る工程である。工程(g)は、工程(e)と同様の方法にて、アミノ基の保護基を導入することにより行われる。これにより、光学活性な化合物(8b)を収率よく簡便に得ることができる。
【0142】
各工程において、化合物(4)、化合物(4c)、化合物(6)、化合物(6a)、化合物(6b)、化合物(7a)、化合物(7b)、化合物(8a)および化合物(8b)は、塩の形態であってもよい。また、化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)、化合物(5c)も、置換基にアミノ基を有する場合には、塩の形態であってもよい。酸付加塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、硫酸)、有機酸(例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸)等との塩が挙げられ、塩基塩としては、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩)、有機塩(例えば、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩)等の塩が挙げられる。
【実施例】
【0143】
以下、本発明の実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0144】
実施例1
2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸の合成
アセトアミドマロン酸ジエチル(6.79g,31.25mmol)のN−メチル−2−ピロリドン(25mL,1.25M)溶液に60%水素化ナトリウム(1.25g,31.25mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した後、ジフェニルメチレンクロリド(4.45mL,25.0mmol)とヨウ化カリウム(4.15g,25mmol)を加えて、50℃で7時間撹拌した。反応終了後、反応液にトルエン(75mL)と水(31.5mL)を加えて分液し、有機層を水(31.5mL)で2回洗浄し、濃縮した。その濃縮液にエタノール(31.5mL)と2M水酸化ナトリウム水溶液(37.5mL)を加えて、80℃で11時間撹拌した。その後、25℃まで冷却し、トルエン(9mL)を加えて分液した。水層を半分量に濃縮し、濃塩酸でpHを1.1にしたところで、白色結晶が析出した。結晶をろ過し、真空乾燥して5.0gの標題化合物を得た。
【0145】
実施例2
2−アミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸塩酸塩の合成
2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸(2.83g,10mmol)の濃塩酸溶液(21mL)を90℃で5時間撹拌した後、反応液を氷冷して固体を析出させた。固体をろ過し、乾燥して2.65gの標題化合物を得た。
【0146】
実施例3
2−フェニルアセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸の合成
2−アミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸塩酸塩(2.0g,7.2mmol)の水溶液(14mL)に1M水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを12に調整した後、1M水酸化ナトリウム水溶液でpH11〜12に調整しつつ、フェニルアセチルクロリド(1.05mL,7.9mmol)を0〜10℃で滴下し、室温で4時間撹拌した。その後、反応液に酢酸エチル40mLを加えて、濃塩酸でpHを1.1に調整し、分液した。得られた有機層を50℃に加温し、ヘキサン(30mL)を加え、氷冷して固体を析出させた。固体をろ過し、乾燥して2.41gの標題化合物を得た。
融点173℃
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 3.26-3.34 (m, 2H), 4.33 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 5.19 (dd, 2H, J = 5.6 Hz, 10.7 Hz), 6.88-7.34 (m, 15H), 8.51 (d, 1H, J = 5.6 Hz)
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ172.62, 170.00, 162.53, 141.54, 141.43, 136.45, 129.05, 128.74, 128.64, 128.53, 128.51, 128.37, 127.03, 126.81, 126.43, 55.52, 53.43, 42.13
MS(FAB), m/z 360[M++H]
【0147】
実施例4
L−2−アミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸の合成
2−フェニルアセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸(0.80g,2.2mmol)にリン酸バッファー(pH7.2,80mL)を加えて溶解し、37℃に加温した。その後、ペニシリンアミダーゼ(1250U,SIGMA製)を加えて、37℃で6時間撹拌した。HPLC分析により変換率30.2%で目的物が生成していることが判明した(92.9%ee,ダイセルCHIRALPAK WH,2mM硫酸銅水溶液:アセトニトリル=6:4,220nm,1.0mL/min,rt)。その後、反応液に酢酸エチル(100mL)を加え、濃硫酸でpHを1に調整し、分液して水層に目的物を抽出した。その後、水層をpH7に調整し、分液して有機層に抽出し、濃縮して、標題化合物を得た。
【0148】
実施例5
L−2−t−ブトキシカルボニルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸の合成
L−2−アミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸(0.10g,0.28mmol, 92.9%ee)の水溶液に炭酸水素ナトリウムを加えてpHを8から9に調整した後、これに酢酸エチル(1.0mL)とジ−t−ブチルジカーボネート(0.1g,0.45mmol)を加えて、37℃で16時間撹拌した。その後、反応液を室温に戻し、6N塩酸でpHを2に調整し、分液して有機層に目的物を抽出した。有機層を濃縮後、ヘプタンを加えて一晩撹拌したところ結晶が析出した。その結晶をろ過し、乾燥して97%ee(SUMICHIRAL OA−4100,ヘキサン:メタノール:2−プロパノール:トリフルオロ酢酸=98:1:1:0.1,220nm,1.0mL/min,rt)の標題化合物を得た。
【0149】
実施例6
2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸の合成
アセトアミドマロン酸ジエチル(10.94g,50.57mmol)のN−メチル−2−ピロリドン(40mL,1.25M)溶液にt−ブトキシカリウム(5.90g,52.60mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した後、ジフェニルメチレンブロミド(10.0g,46.46mmol)を加えて、70℃で5時間撹拌した。反応終了後、反応液に2Mの水酸化ナトリウム水溶液(45mL)を加えて、70℃で3時間撹拌した。室温まで冷却した後、トルエン(19mL)を加え、分液し、水層に濃塩酸(8.8mL)を加えてpHを7.0にし、酢酸エチル(80mL)を加え、更に濃塩酸(13.0mL)を加えて分液した。水層を更に酢酸エチル(40mL)で抽出したのち、有機層を合わせ、有機層を2M塩酸(40mL)で3回洗浄し、飽和食塩水(10mL)で洗浄し、濃縮した。その濃縮液にトルエン(30mL)を加えて、50℃で濃縮し、更にトルエン(30mL)を加えて、30分撹拌した。その後、0℃まで5時間かけて冷却することにより白色結晶が析出した。結晶をろ過し、減圧下で乾燥させ、9.18gの標題化合物を得た。
【0150】
実施例7
2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸の合成
アセトアミドマロン酸ジエチル(13.33g,61.8mmol)のN−メチル−2−ピロリドン(40mL,1.25M)溶液にt−ブトキシカリウム(7.20g,64.3mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した後、ジフェニルメチレンクロリド(10.0g,49.3mmol)とヨウ化カリウム(4.10g,24.7mol)を加えて、70℃で6時間撹拌した。反応終了後、反応液に2Mの水酸化ナトリウム水溶液(45mL)を加えて、60℃で5時間撹拌した。室温まで冷却した後、分液し、水層に濃塩酸(4.4mL)を加えてpHを7.0にし、酢酸エチル(80mL)を加え、更に濃塩酸(6.9mL)を加えて分液した。水層を更に酢酸エチル(40mL)で抽出したのち、有機層を合わせ、2M塩酸(20mL)で3回洗浄し、飽和食塩水(10mL)で洗浄し、濃縮した。その濃縮液にトルエン(30mL)を加えて、50℃で濃縮し、更にトルエン(30mL)を加えて、30分撹拌した。その後、0℃まで5時間かけて冷却することにより白色結晶が析出した。結晶をろ過して減圧下で乾燥させ、11.69gの標題化合物を得た。乾燥結晶の粉末X線(Cu−Kα線)は、図1に示すように、5.8°、11.5°、21.6°、23.2°及び28.7°に特徴的なピークを示した。
【0151】
実施例8
2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
アセトアミドマロン酸ジエチル(22.79g,105.4mmol)のN−メチル−2−ピロリドン(84mL)溶液に55%水素化ナトリウム(4.58g,105.2mmol)を加え、室温で1時間撹拌した後、ビス(4−フルオロフェニル)メチレンクロリド(16.5mL,84.7mmol)とヨウ化カリウム(13.95g,84.0mmol)を加えて、50℃で5時間撹拌した。反応終了後、反応液にトルエン(200mL)と水(100mL)を加えて分液した。得られた有機層を水(100mL)で2回洗浄した後、濃縮した。その濃縮液にエタノール(108mL)と2M水酸化ナトリウム水溶液(127mL)を加えて、90℃で2.5時間撹拌した。その後、反応液を25℃まで冷却し、トルエン(200mL)と水(50mL)を加えて分液した。水層を半分量まで濃縮し、酢酸イソプロピル(60mL)と水(130mL)を加えて、濃塩酸でpHを1.1に調整して分液し、水(200mL)で洗浄した。有機層を濃縮し、真空乾燥して28.24gの標題化合物を得た。
【0152】
実施例9
2−アミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸塩酸塩の合成
2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸(25.34g,79.9mmol)の濃塩酸溶液(144mL)を90℃で5時間撹拌した後、氷冷して固体を析出させた。固体をろ過し、乾燥して22.79gの標題化合物を得た。
【0153】
実施例10
2−フェニルアセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
2−アミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸塩酸塩(21.50g,68.9mmol)の水溶液(188mL)に1M水酸化ナトリウム水溶液(154.2g)を加えてpHを12.2に調整した後、1M水酸化ナトリウム水溶液でpHを11から12に調整しつつ、フェニルアセチルクロリド(10.8mL,81.7mmol)を0〜10℃で滴下し、室温で3時間撹拌した。その後、反応液に酢酸エチル400mLを加えて、濃塩酸でpHを1.1に調整し、分液した。得られた有機層を40℃に加温し、ヘキサン(525mL)を加え、氷冷して固体を析出させた。固体をろ過し、乾燥して21.75gの標題化合物を得た。
融点187℃
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 3.25-3.35 (m, 2H), 4.35 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 5.13 (dd, 2H, J = 5.6 Hz, 10.7 Hz), 6.68-7.39 (m, 13H), 8.52 (d, 1H, J = 5.6 Hz)
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ172.49, 170.04, 162.53, 160.16, 160.12, 137.57, 137.39, 136.39, 130.45, 130.38, 130.30, 129.02, 128.29, 126.47, 115.60, 115.44, 115.39, 115.23, 55.67, 51.82, 42.18
MS(FAB), m/z 396[M++H]
【0154】
実施例11
L−2−アミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
2−フェニルアセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸(5g,12.6mmol)の水溶液(500mL)に0.8M水酸化カリウム水溶液(6mL)を加えてpHを7.8に調整した後、ペニシリンアミダーゼ(10000U,SIGMA製)を加えて、37℃で24時間撹拌した。HPLC分析により変換率47%で目的物が生成していることが判明した(88%ee,ダイセルCHIRALPAK WH,2mM硫酸銅水溶液:アセトニトリル=6:4,220nm,1.0mL/min,rt)。その後、反応液に酢酸エチル(400mL)と活性炭(500mg)を加えて、濃塩酸でpHを1.1に調整し、ろ過した。ろ液を分液して水層に標題化合物を抽出した。
【0155】
実施例12
L−2−t−ブトキシカルボニルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
実施例11で得られたL−2−アミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の水溶液を炭酸水素カリウム水溶液でpHを8に調整し、メタノール(50mL)とジ−t−ブチルジカーボネート(1.37g,6.3mmol)を加えて、37℃で3時間撹拌した。その後、反応液を濃塩酸でpHを1.1に調整し、分液して有機層に目的物を抽出した。有機層を濃縮し、乾燥して固体(1.75g)を得た。この固体を再結晶して光学純度99.3%ee(SUMICHIRAL OA−4100,へキサン:メタノール:2−プロパノール:トリフロオロ酢酸=98:1:1:0.2,210nm,1.0mL/min,rt)の標題化合物を得た。
【0156】
実施例13
D−2−アミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
先の実施例11で分液した有機層をHPLCで分析した結果、D−2−フェニルアセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸が収率50%で存在していることが判明した(78%ee:ダイセルCHIRALPAK WH,2mM 硫酸銅水溶液:アセトニトリル=6:4,220nm,1.0mL/min,rt)。有機層を濃縮して、濃塩酸を加えて、100℃で16時間攪拌した。析出した結晶をろ過し、乾燥することにより、標題化合物を0.99g得た(78%ee:ダイセルCHIRALPAK WH,2mM 硫酸銅水溶液:アセトニトリル=6:4,220nm,1.0mL/min,rt)。
【0157】
実施例14
2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
アセトアミドマロン酸ジエチル(1.09g,5mmol)のN−メチル−2−ピロリドン(4mL)溶液に55%水素化ナトリウム(219mg,5mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した後、ビス(4−フルオロフェニル)メチレンブロミド(990mg,4mmol)を加えて、50℃で4時間撹拌した。反応終了後、反応液にトルエン(20mL)と水(10mL)を加えて分液した。得られた有機層を水(10mL)で2回洗浄した後、濃縮した。その濃縮液にエタノール(4.5mL)と2M水酸化ナトリウム水溶液(5mL)を加えて、90℃で16時間撹拌した。その後、反応液を25℃まで冷却し、トルエン(8mL)と水(5mL)を加えて分液した。水層を半分量まで濃縮し、酢酸イソプロピル(8mL)と水(10mL)を加え、濃塩酸でpHを1.1に調整して分液し、水(10mL)で洗浄した。有機層を濃縮し、真空乾燥して973mgの標題化合物を得た。
【0158】
実施例15
(アセチルアミノ)(ビス(4−フルオロフェニル)メチル)マロン酸ジエチルの合成
アセトアミドマロン酸ジエチル(238mg,1.1mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(1mL)溶液に55%水素化ナトリウム(44mg,1.1mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した後、ビス(4−フルオロフェニル)メチレンクロリド(93μL,0.5mmol)とヨウ化テトラn−ブチルアンモニウム(24mg)を加えて、50℃で16時間撹拌し、さらに80℃で16時間撹拌した。反応終了後、HPLCにて定量分析を行ったところ161mgの標題化合物を確認した(Inertsil ODS−2,0.03Mリン酸緩衝液:アセトニトリル=90:10〜25:75(20分),220nm,1.0mL/min,rt)。
【0159】
実施例16
2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
アセトアミドマロン酸ジエチル(5.17g,23.80mmol)のN−メチル−2−ピロリドン(18.2mL,1.25M)溶液にt−ブトキシカリウム(2.77g,24.69mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した後、ビス(4−フルオロフェニル)メチレンクロリド(4.54g,19.02mmol)のトルエン溶液(21.79g)とヨウ化カリウム(3.19g,19.10mol)を加えて、70℃で6時間撹拌した。反応終了後、反応液に2Mの水酸化ナトリウム水溶液(45mL)を加えて、60℃で5時間撹拌した。室温まで冷却した後、分液し、水層に濃塩酸(4.4mL)を加えてpHを7.0にし、酢酸エチル(30mL)を加え、更に濃塩酸(6.9mL)を加えて分液した。水層を更に酢酸エチル(6mL)で抽出したのち、有機層を合わせ、HPLCにて標題化合物の含量を調べた結果、5.678gが有機層中に含まれていることが判明した。有機層を2M塩酸(9mL)で3回洗浄し、飽和食塩水(4.5mL)で洗浄し、濃縮した。その濃縮液にトルエン(13.5mL)を加えて、50℃で濃縮し、更にトルエン(13.5mL)を加えて、30分撹拌した。その後、0℃まで5時間かけて冷却することにより白色結晶が析出した。結晶をろ過して湿結晶を得た。湿結晶の粉末X線(Cu−Kα線)は、図2に示すように、17.1°、17.6°、18.8°、20.7°、21.8°、22.0°、22.7°、23.1°及び25.4°に特徴的なピークを示した。この湿結晶を減圧下で乾燥させ、乾燥結晶5.39gの標題化合物を得た。乾燥結晶の粉末X線(Cu−Kα線)は、図3に示すように、17.1°、21.8°、22.0°、22.7°、23.1°及び25.4°に特徴的なピークを示した。
【0160】
実施例17
2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
アセトアミドマロン酸ジエチル(5.14g,23.66mmol)のN−メチル−2−ピロリドン(19.0mL,1.25M)溶液にt−ブトキシナトリウム(2.38g,24.76mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した後、ビス(4−フルオロフェニル)メチレンクロリド(4.54g,19.02mmol)のトルエン溶液(22.07g)とヨウ化カリウム(3.17g,19.10mol)を加えて、60℃で6時間撹拌した。反応終了後、反応液に2Mの水酸化ナトリウム水溶液(45mL)を加えて、60℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、分液し、水層に濃塩酸(4.4mL)を加えてpHを7.0にし、酢酸エチル(30mL)を加え、更に濃塩酸(6.9mL)を加えて分液した。水層を更に酢酸エチル(6mL)で抽出したのち、有機層を合わせ、HPLCにて標題化合物の含量を調べた結果、5.914gが有機層中に含まれていることが判明した。有機層を2M塩酸(9mL)で3回洗浄し、飽和食塩水(4.5mL)で洗浄し、40℃で濃縮し、4分の1程度になったところで冷却することにより結晶が析出した。0℃まで冷却し、結晶をろ過して湿結晶を得た。湿結晶の粉末X線(Cu−Kα線)は、図4に示すように、12.8°、17.6°、19.2°及び24.3°に特徴的なピークを示した。
【0161】
実施例18
2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
アセトアミドマロン酸ジエチル(1.15g,5.29mmol)のN−エチル−2−ピロリドン(4.0mL,1.1M)溶液にt−ブトキシカリウム(0.58g,5.41mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した後、ビス(4−フルオロフェニル)メチレンクロリド(1.0g,4.21mmol)とヨウ化カリウム(0.70g,4.21mol)を加えて、60℃で6時間撹拌した。反応終了後、反応液にトルエン(5mL)と2Mの水酸化ナトリウム水溶液(5mL)を加え、60℃で5時間撹拌した。室温まで冷却した後、分液し、水層に濃塩酸を加えてpHを7.0にし、酢酸エチル(8mL)を加え、更に濃塩酸を加えて分液した。水層を更に酢酸エチル(2mL)で抽出したのち、有機層を合わせ、HPLCにて標題化合物の含量を調べた結果、1.10gが有機層中に含まれていることが判明した(Inertsil ODS−2,0.03Mリン酸緩衝液:アセトニトリル=90:10〜25:75(20分),220nm,1.0mL/min,rt)。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明によれば、新規ジフェニルアラニン化合物から、ペニシリンアミダーゼとの基質特異的な反応により、抗HIV薬、ジペプチジルペプチターゼ阻害剤等の合成中間体として有用な光学活性なジフェニルアラニン化合物を高収率で簡便に製造することができる。さらに、ラセミ体のN−アセチルジフェニルアラニンおよびラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンを、純度が高く、保存・輸送に便利な結晶の形態で取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】図1は、実施例7におけるラセミ体のN−アセチルジフェニルアラニン乾燥結晶の粉末X線回折図である。縦軸は回折強度を、横軸は回折角度2θ[deg]を示す。
【図2】図2は、実施例16におけるラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニン湿結晶の粉末X線回折図である。縦軸は回折強度を、横軸は回折角度2θ[deg]を示す。
【図3】図3は、実施例16におけるラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニン結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。縦軸は回折強度を、横軸は回折角度2θ[deg]を示す。
【図4】図4は、実施例17におけるラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニン湿結晶の粉末X線回折図である。縦軸は回折強度を、横軸は回折角度2θ[deg]を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】


[式中、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示し、かつXは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。]
で表されるジフェニルメチレンハライド化合物と、下記式(2):
【化2】


[式中、R及びRはそれぞれ独立してアルキル基又はアラルキル基を示すか、あるいはRとRとが一緒になってアルキレン基を形成し、かつPはアミノ基の保護基を示す。]
で表されるマロン酸ジエステル化合物を、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる有機溶媒、並びに水素化アルカリ金属及びt−ブトキシアルカリ金属から選ばれる塩基の存在下で反応させる、下記式(3):
【化3】


[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるジエステル化合物の製造方法。
【請求項2】
塩基が、水素化ナトリウム、t−ブトキシナトリウム及びt−ブトキシカリウムから選ばれる、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
有機溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン及びN−エチル−2−ピロリドンから選ばれる、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
及びRがフッ素原子である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
及びRがエチル基である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
がアセチル基又はフェニルアセチル基である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
Xが塩素原子又は臭素原子である、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
ヨウ素化合物又は臭素化合物の共存下に行う、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
金属ヨウ化物又はヨウ化4級アンモニウムの共存下に行う、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
下記工程(a)及び(b)を含む、下記式(4)で表されるジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法;
工程(a):下記式(1):
【化4】


[式中、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示し、かつXは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。]
で表されるジフェニルメチレンハライド化合物と、下記式(2):
【化5】


[式中、R及びRはそれぞれ独立してアルキル基又はアラルキル基を示すか、あるいはRとRとが一緒になってアルキレン基を形成し、かつPはアミノ基の保護基を示す。]
で表されるマロン酸ジエステル化合物を、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる有機溶媒、並びに水素化アルカリ金属及びt−ブトキシアルカリ金属から選ばれる塩基の存在下で反応させて、下記式(3):
【化6】


[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるジエステル化合物を得る工程、及び
工程(b):該ジエステル化合物を加水分解及び脱炭酸に供して、下記式(4):
【化7】


[式中、R、R、n及びnは前記定義と同義を示し、かつPは水素原子又はアミノ基の保護基を示す。]
で表されるジフェニルアラニン化合物またはその塩を得る工程。
【請求項11】
が水素原子、アセチル基又はフェニルアセチル基である、請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
下記式(4):
【化8】


[式中、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示し、かつPは、水素原子又はアミノ基の保護基(但し、下記式(5):
【化9】


(式中、Rは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつnは0〜5の整数を示す。)で表される基を除く)を示す。]
で表されるジフェニルアラニン化合物またはその塩のPを上記式(5)で表される置換フェニルアセチル基に変換する、下記式(6):
【化10】


[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるアシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法。
【請求項13】
下記式(6):
【化11】


[式中、R、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつn、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示す。]
で表されるアシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩にペニシリンアミダーゼを作用させる、下記式(7a):
【化12】


[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるL−ジフェニルアラニン化合物またはその塩及び下記式(6b):
【化13】


[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるD−アシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法。
【請求項14】
下記工程(a)、(b)、(c)及び(d)を含む、下記式(7a)及び(6b)で表される光学活性なジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法;
工程(a):下記式(1):
【化14】


[式中、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示し、かつXは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。]
で表されるジフェニルメチレンハライド化合物と、下記式(2):
【化15】


[式中、R及びRはそれぞれ独立してアルキル基又はアラルキル基を示すか、あるいはRとRとが一緒になってアルキレン基を形成し、かつPはアミノ基の保護基を示す。]
で表されるマロン酸ジエステル化合物を、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる有機溶媒、並びに水素化アルカリ金属及びt−ブトキシアルカリ金属から選ばれる塩基の存在下で反応させて、下記式(3):
【化16】


[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるジエステル化合物を得る工程、
工程(b):該ジエステル化合物を加水分解及び脱炭酸に供して、下記式(4):
【化17】


[式中、R、R、n及びnは前記定義と同義を示し、かつPは水素原子又はアミノ基の保護基を示す。]
で表されるジフェニルアラニン化合物またはその塩を得る工程、
工程(c):該ジフェニルアラニン化合物[但し、Pが下記式(5):
【化18】


(式中、Rは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつnは0〜5の整数を示す。)で表される基である化合物を除く。]またはその塩のPを上記式(5)で表される置換フェニルアセチル基に変換して、下記式(6):
【化19】


[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるアシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩を得る工程、及び
工程(d):該アシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩にペニシリンアミダーゼを作用させて、下記式(7a):
【化20】


[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるL−ジフェニルアラニン化合物またはその塩、及び下記式(6b):
【化21】



[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるD−アシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩を得る工程。
【請求項15】
請求項13記載の方法に従って、下記式(7a):
【化22】


[式中、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつn及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示す。]
で表されるL−ジフェニルアラニン化合物またはその塩を得た後、当該化合物またはその塩のアミノ基を保護する、下記式(8a):
【化23】


[式中、R、R、n及びnは前記定義と同義を示し、かつPはアミノ基の保護基を示す。]
で表されるL−N保護ジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法。
【請求項16】
がtert−ブトキシカルボニル基である、請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
請求項13記載の方法に従って、下記式(6b):
【化24】


[式中、R、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつn、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示す。]
で表されるD−アシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩を得た後、当該化合物またはその塩を脱アシル化する、下記式(7b):
【化25】


[式中、各記号は前記定義と同義を示す。]
で表されるD−ジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法に従って、下記式(7b):
【化26】


[式中、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつn及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示す。]
で表されるD−ジフェニルアラニン化合物またはその塩を得た後、当該化合物またはその塩のアミノ基を保護する、下記式(8b):
【化27】


[式中、R、R、n及びnは前記定義と同義を示し、かつPはアミノ基の保護基を示す。]
で表されるD−N保護ジフェニルアラニン化合物またはその塩の製造方法。
【請求項19】
がtert−ブトキシカルボニル基である、請求項18記載の製造方法。
【請求項20】
下記式(6):
【化28】


[式中、R、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、かつn、n及びnはそれぞれ独立して0〜5の整数を示す。]
で表されるアシル置換ジフェニルアラニン化合物またはその塩。
【請求項21】
Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、5.8°、11.5°、21.6°、23.2°及び28.7°に回折角2θの特徴的ピークを有する、ラセミ体のN−アセチルジフェニルアラニンの結晶。
【請求項22】
ラセミ体のN−アセチルジフェニルアラニンの酢酸エステル溶液に貧溶媒を添加することにより得られる、請求項21記載の結晶。
【請求項23】
Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、17.1°、21.8°、22.0°、22.7°、23.1°及び25.4°に回折角2θの特徴的ピークを有する、ラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンの結晶。
【請求項24】
Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、12.8°、17.6°、19.2°及び24.3°に回折角2θの特徴的ピークを有する、ラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンの結晶。
【請求項25】
ラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンの酢酸エステル溶液に貧溶媒を添加することにより得られる、請求項23記載の結晶。
【請求項26】
ラセミ体のN−アセチルビス(4−フルオロフェニル)アラニンの酢酸エステル溶液を冷却することにより得られる、請求項24記載の結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−51126(P2007−51126A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128992(P2006−128992)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】