説明

光学活性なジフェニルアラニン化合物の製造方法

【課題】光学活性ジフェニルアラニン化合物の製造方法の提供。
【解決手段】ジフェニルアラニン化合物(例えば、2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸)を、光学活性アミン化合物(例えば、(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン)と有機溶媒の存在下で反応させて、ジアステレオマー塩を得、次いで該ジアステレオマー塩を酸性条件下で処理することにより、光学活性ジフェニルアラニン化合物(例えば、L−2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸)を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗HIV薬、ジペプチジルペプチターゼ阻害剤等の合成中間体として有用な光学活性ジフェニルアラニン化合物の製造方法及び該化合物の製造に有用な該化合物のジアステレオマー塩に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性なジフェニルアラニン化合物(アミノ基の保護体を含む。)は医薬化合物の合成中間体として有用な化合物であり、例えば、抗HIV薬(特許文献1)、ジペプチジルペプチターゼ阻害剤(特許文献2)の合成中間体として用いられている。
【0003】
光学活性な3,3−ジフェニルアラニンの製造方法としては、下記反応スキームに示すように、ベンゾフェノンイミン及びグリシンエステルから合成されるN−(ジフェニルメチレン)グリシンエステルにジフェニルブロモメタンを反応させ、3,3−ジフェニルアラニンのラセミ体を合成し、シンコニジンとジアステレオマー塩を形成させて光学分割を行う方法が記載されている(特許文献3)。しかしながら、本発明者等が該光学分割方法を追試した結果、得られたD−3,3−ジフェニルアラニンの光学純度は86%eeであった。
【0004】
【化1】

【0005】
また、別の方法として、非特許文献1及び非特許文献2には、N−Boc−ジフェニルメチルアラニンの不斉合成法が記載されている。しかしながら、これらの方法は、化学量論量の不斉源を使用し、また工程数が多く、加えて−78℃で反応させるための低温反応槽やKHMDS等の高価な試薬が必要であるためコストが高くなり、工業的に有利な方法とは言い難い。
【0006】
【特許文献1】国際公開第04/056764号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/002531号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5198548号明細書
【非特許文献1】ヘテロサイクルズ、57巻、6頁、2002年(HETEROCYCLES,57,6,2002)
【非特許文献2】テトラへドロン レター、33巻、23号、3293頁、1992年(Tetrahedron Letter,33,23,3293,1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような実情に鑑みなされたものであり、その解決しようとする課題は光学活性なジフェニルアラニン化合物を工業的に有利に収率よく得ることの可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、N−保護ジフェニルアラニン化合物を特定の光学活性フェニルエチルアミン化合物とジアステレオマー塩を形成させることにより、光学活性N−保護ジフェニルアラニン化合物が効率的に光学分割できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の内容を含むものである。
[1] 下記式(3):
【化2】

[式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、nはそれぞれ独立して1〜5の整数を示し、Pはアミノ基の保護基を示し、*は不斉炭素原子であることを示し、立体配置はS又はRである。]
で表される光学活性ジフェニルアラニン化合物の製造方法であって、下記式(1):
【化3】

[式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、nはそれぞれ独立して1〜5の整数を示し、Pはアミノ基の保護基を示す。]
で表されるジフェニルアラニン化合物を、下記式(2):
【化4】

[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基又はアシル基を示し、或いは隣接する2つのRが縮環してベンゼン環を形成してもよく、nは1〜5の整数を示し、*は不斉炭素原子であることを示し、立体配置はS又はRである。]
で表される光学活性アミン化合物と反応させ、生成したジアステレオマー塩を分割することを含む、光学活性ジフェニルアラニン化合物の製造方法。
[2] 光学活性アミン化合物が、1−フェニルエチルアミン、1−(4−メチルフェニル)エチルアミン、1−(4−エチルフェニル)エチルアミン、1−(4−プロピルフェニル)エチルアミン、1−(4−イソプロピルフェニル)エチルアミン、1−(4−メトキシフェニル)エチルアミン、1−(4−ブロモフェニル)エチルアミン、1−(4−クロロフェニル)エチルアミン、1−(4−フルオロフェニル)エチルアミン、1−(4−ヒドロキシフェニル)エチルアミン、1−(4−シアノフェニル)エチルアミン、1−(4−ニトロフェニル)エチルアミン、1−(4−アセチルフェニル)エチルアミン、1−(1−ナフチル)エチルアミン及び1−(2−ナフチル)エチルアミンの各光学活性体からなる群より選択される1種以上である、上記[1]記載の製造方法。
[3] 光学活性アミン化合物が、(−)−1−フェニルエチルアミン、(+)−1−フェニルエチルアミン、(−)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン、(−)−1−(4−イソプロピルフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−イソプロピルフェニル)エチルアミン、(−)−1−(4−メトキシフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−メトキシフェニル)エチルアミン、(−)−1−(4−ブロモフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−ブロモフェニル)エチルアミン、(−)−1−(4−クロロフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−クロロフェニル)エチルアミン、(−)−1−(1−ナフチル)エチルアミン、(+)−1−(1−ナフチル)エチルアミン、(−)−1−(2−ナフチル)エチルアミン及び(+)−1−(2−ナフチル)エチルアミンからなる群より選択される1種以上である、上記[1]記載の製造方法。
[4] 光学活性アミン化合物が、(−)−1−フェニルエチルアミン、(+)−1−フェニルエチルアミン、(−)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン及び(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミンからなる群より選択される1種以上である、上記[1]記載の製造方法。
[5] 分割が、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジクロロエタン、tert−ブチルメチルエーテル、イソブチルメチルケトン、酢酸ブチル、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン及びアセトニトリルからなる群より選択される1種以上の溶媒中でジアステレオマー塩を晶析により分離することにより行われる、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 上記[1]〜[5]記載のいずれかに記載の製造方法に従って、式(3)で表される光学活性ジフェニルアラニン化合物を得た後、該化合物のアミノ基の保護基を除去することを特徴とする、下記式(4):
【化5】

[式中、R、R、*及びnは前記定義と同義を示す。]
で表される光学活性ジフェニルアラニン化合物又はその塩の製造方法。
[7] R及びRがそれぞれ独立してフッ素原子又は水素原子であり、Pがアセチル基である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 下記式(5):
【化6】

[式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基又はアシル基を示し、或いは隣接する2つのRが縮環してベンゼン環を形成してもよく、nはそれぞれ独立して1〜5の整数を示し、Pはアミノ基の保護基を示し、*は不斉炭素原子であることを示し、立体配置はS又はRである。]
で表されるジアステレオマー塩。
[9] 下記式(6a):
【化7】

[式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、nはそれぞれ独立して1〜5の整数を示す。]
で表される、光学活性N−アセチルジフェニルアラニン化合物・(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩。
[10] 下記式(6b):
【化8】

[式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、nはそれぞれ独立して1〜5の整数を示す。]
で表される、光学活性N−アセチルジフェニルアラニン化合物・(S)−(−)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩。
[11] R及びRがそれぞれ独立してフッ素原子又は水素原子である、上記[9]又は[10]記載の塩。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、純度の高い光学活性ジフェニルアラニン化合物を高収率で簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。先ず、本明細書において使用する、各式中の記号の定義を説明する。
【0012】
、R及びRにおけるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子が好ましく、特にフッ素原子が好ましい。
【0013】
、R及びRにおけるアルキル基とは、炭素数が好ましくは1〜10、より好ましくは1〜7、更に好ましくは1〜4である、直鎖状又は分岐状のアルキル基をいう。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられ、中でもメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基等が好ましい。また、該アルキル基は、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)、水酸基、炭素数1〜6のアルコキシ基(例えば、メトキシ基)等で1又はそれ以上置換されていてもよい。本発明において、アルキル基には、置換されたアルキル基も包含される。
【0014】
、R及びRにおけるアルコキシ基としては、アルキル部分が前述したアルキル基であるアルコキシ基が好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソブロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基が挙げられ、中でもメトキシ基、エトキシ基がより好ましい。また、該アルコキシ基は、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)、水酸基、炭素数1〜6のアルコキシ基(例えば、メトキシ基)等で1又はそれ以上置換されていてもよい。本発明において、アルコキシ基には、置換されたアルコキシ基も包含される。
【0015】
及びRにおけるアミノ基は、前述したアルキル基、アリール基又はアラルキル基でモノ又はジ置換されていてもよく、後述するP1におけるアミノ基の保護基で置換されていてもよい。本発明において、アミノ基には、置換されたアミノ基も包含される。アリール基としては、フェニル基、トリル基等の炭素数6〜14(好ましくは6〜8)のアリール基が挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基等が挙げられる。
また、R、R及びRにおけるヒドロキシル基も、後述するP1におけるアミノ基の保護基で例示された保護基で同様に置換されていてもよい。本発明において、ヒドロキシル基には、保護されたヒドロキシル基も包含される。
【0016】
1におけるアミノ基の保護基としては、Protecting Groups in Organic Chemistry 2nd edition (John Wiley&Sons, Inc. 1991)に記載の置換基が挙げられる。具体的には、アシル基、アルキル基、アラルキル基、シリル基等が挙げられる。アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、フェニルアセチル基等の炭素数1〜8のアシル基が挙げられる。アルキル基及びアラルキル基としては、例えば、前述したアルキル基及びアラルキル基が挙げられる。シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基等の3置換シリル基が挙げられる。その他、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、ベンジルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、メトキシカルボニル基(Moc基)、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)、tert−ブトキシカルボニル基(Boc基)等が挙げられる。
【0017】
におけるアシル基としては、P1におけるアミノ基の保護基として例示されたアシル基と同様のものが挙げられる。
【0018】
各記号における特に好適な態様は、以下のとおりである。
及びRとしては、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子がより好ましく、水素原子、フッ素原子が特に好ましい。なお、R及びRは同一でも異なっていてもよい。
としては、炭素数1〜8のアシル基、Moc基、Fmoc基、Cbz基、Boc基が好ましく、アセチル基が特に好ましい。
としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、臭素原子、塩素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、アセチル基又は隣接する2つのRが縮環してベンゼン環を形成する場合が好ましく、更に水素原子、メチル基、イソプロピル基、メトキシ基、臭素原子、塩素原子又はは隣接する2つのRが縮環してベンゼン環を形成する場合が好ましく、水素原子、メチル基が特に好ましい。
【0019】
また、式(4)で表される化合物は酸付加塩であってもよく、例えば、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩)、有機酸塩(例えば、酸酸塩、トリフルオロ酢酸塩、トシル酸塩、メシル酸塩)等の塩を形成していてもよい。
【0020】
次に、本発明の製造方法について説明する。
式(1)で表されるジフェニルアラニン化合物は、光学分割に付されるべき化合物であり、典型的にはラセミ体のジフェニルアラニン化合物が挙げられるが、光学純度の低い光学活性体のジフェニルアラニン化合物を、その光学純度を高めるために使用することもできる。光学純度の低い光学活性体のジフェニルアラニン化合物としては、例えば、光学純度が80%e.e.以下の(R)体と(S)体の混合物が挙げられる。
【0021】
本発明においては、式(1)で表されるジフェニルアラニン化合物(以下、「化合物(1)」という)と式(2)で表される光学活性アミン化合物(以下、「化合物(2)」という)を反応させ、生成した式(5)で表されるジアステレオマー塩(以下、「ジアステレオマー塩(5)」という)を分割し、該塩を式(3)で表される光学活性ジフェニルアラニン化合物(以下、「化合物(3)」という)に変換し、化合物(3)を得る。
【0022】
反応は通常有機溶媒中で行われる。有機溶媒としては、本反応を阻害しない溶媒であればいずれでも使用できるが、アルコール系有機溶媒が好適に使用される。アルコール系有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、t−ブタノールが挙げられ、中でもメタノールが特に好ましい。なお、これらの有機溶媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらアルコール系有機溶媒に、水又は非アルコール系有機溶媒を混合して用いてもよい。非アルコール系有機溶媒としては酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジクロロエタン、tert−ブチルメチルエーテル、イソブチルメチルケトン、酢酸ブチル、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びアセトニトリルなどが挙げられる。有機溶媒の使用量は、化合物の種類に応じて適宜選択することができるが、化合物(1)に対して通常1〜20倍重量、好ましくは3〜10倍重量である。
【0023】
化合物(2)の使用量は、化合物(1)に対して通常0.5〜1.5当量、好ましくは0.5〜1.0当量である。反応温度は、40〜70℃、好ましくは50〜60℃である。反応時間は、0.1〜2時間、好ましくは0.5〜1時間である。
【0024】
生成したジアステレオマー塩(5)の分割は、溶媒中でジアステレオマー塩(5)を晶析により分離することにより行われる。
【0025】
ジアステレオマー塩(5)の分割に使用される溶媒としては、上記反応溶媒と同様の溶媒が挙げられる。なかでも、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジクロロエタン、tert−ブチルメチルエーテル、イソブチルメチルケトン、酢酸ブチル、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン及びアセトニトリルからなる群より選択される1種以上の溶媒が好ましい。特に、メタノールが好ましい。
【0026】
晶析は、例えば以下のような条件にて行うことができる。反応終了後、まず反応液をゆっくり徐冷する。徐冷時間は1〜10時間、好ましくは、2〜5時間である。冷却到達温度は0〜30℃、好ましくは20〜30℃である。その後、その温度で撹拌し晶析を行う。撹拌時間は0.5〜24時間、好ましくは1〜5時間である。析出した結晶をろ過することにより、ジアステレオマー塩(5)が得られる。必要に応じて種晶を使用してもよい。
【0027】
ジアステレオマー塩(5)の結晶を得た後、該塩を化合物(3)に変換し、化合物(3)を単離する。変換及び単離は、例えば、ジアステレオマー塩(5)を酸性条件下、非プロトン性有機溶媒で抽出することにより行うことができる。
【0028】
変換及び単離は従来公知の方法で行うことができるが、例えば、ジアステレオマー塩(5)に、非プロトン性有機溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン等)と水との混合溶媒中で、酸(例えば、塩酸、硫酸等)を添加する方法が挙げられる。酸性(通常pH0.5〜3、好ましくは1〜2)にした後、抽出する。得られた有機層を水で洗浄した後、濃縮あるいは非極性有機溶媒を添加することにより化合物(3)を得ることができる。
【0029】
化合物(3)のアミノ基の保護基の除去は公知の方法で行うことができるが、例えば、酸処理、接触還元等の方法が挙げられる。例えば、酸処理は、化合物(3)に酸(例えば、塩酸、硫酸)を加え、通常80〜100℃(好ましくは90〜100℃)で、通常1〜16時間(好ましくは3〜6時間)反応させることにより行われる。ここでは、化合物(4)を酸付加塩として得てもよい。例えば、酸として濃塩酸を2〜20倍重量(好ましくは5〜7倍重量)使用した場合には、化合物(4)の塩酸塩が析出するので、ろ過し、乾燥して、化合物(4)の塩酸塩を得ることができる。接触還元は、従来公知の方法、例えば、化合物(4)をパラジウム炭素等の還元触媒の存在下で水素を導入することにより行われる。
【0030】
本発明によれば、光学純度90%e.e.以上、好ましくは95%e.e.以上、より好ましくは98%e.e.以上の化合物(4)を得ることができる。
【0031】
本発明における好ましい化合物(2)としては、1−フェニルエチルアミン、1−(4−メチルフェニル)エチルアミン、1−(4−エチルフェニル)エチルアミン、1−(4−プロピルフェニル)エチルアミン、1−(4−イソプロピルフェニル)エチルアミン、1−(4−メトキシフェニル)エチルアミン、1−(4−ブロモフェニル)エチルアミン、1−(4−クロロフェニル)エチルアミン、1−(4−フルオロフェニル)エチルアミン、1−(4−ヒドロキシフェニル)エチルアミン、1−(4−シアノフェニル)エチルアミン、1−(4−ニトロフェニル)エチルアミン、1−(4−アセチルフェニル)エチルアミン、1−(1−ナフチル)エチルアミン及び1−(2−ナフチル)エチルアミンの各光学活性体からなる群より選択される1種以上を挙げることができる。
【0032】
より好ましい化合物(2)としては、(−)−1−フェニルエチルアミン、(+)−1−フェニルエチルアミン、(−)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン、(−)−1−(4−イソプロピルフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−イソプロピルフェニル)エチルアミン、(−)−1−(4−メトキシフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−メトキシフェニル)エチルアミン、(−)−1−(4−ブロモフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−ブロモフェニル)エチルアミン、(−)−1−(4−クロロフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−クロロフェニル)エチルアミン、(−)−1−(1−ナフチル)エチルアミン、(+)−1−(1−ナフチル)エチルアミン、(−)−1−(2−ナフチル)エチルアミン及び(+)−1−(2−ナフチル)エチルアミンからなる群より選択される1種以上を挙げることができる。
【0033】
特に好ましい化合物(2)としては、(−)−1−フェニルエチルアミン、(+)−1−フェニルエチルアミン、(−)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン及び(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミンからなる群より選択される1種以上を挙げることができる。
【0034】
本発明の製造方法によって得られる、本発明の下記式(5):
【化9】

[式中、各記号は上記と同義を示す。]
で表されるジアステレオマー塩は新規化合物である。
【0035】
特に好ましいジアステレオマー塩(5)としては、下記式(6a):
【化10】

[式中、各記号は上記と同義を示す。]
で表される、光学活性N−アセチルジフェニルアラニン化合物・(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩、及び下記式(6b):
【化11】

[式中、各記号は上記と同義を示す。]
で表される、光学活性N−アセチルジフェニルアラニン化合物・(S)−(−)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩が挙げられる。これらも新規化合物である。
【0036】
本発明における式(1)で表されるジフェニルアラニン化合物は、米国特許第5198548号明細書、HETEROCYCLES,57,6,2002またはTetrahedron Letter,33,23,3293,1992に記載の公知の方法に準じて製造することができるが、より好ましくは以下のスキームで示す方法にて製造することができる。
【0037】
【化12】

[式中、Xはハロゲン原子を示し、R及びRはそれぞれ独立してアルキル基又はアラルキル基を示すか、あるいはR及びRとが一緒になってアルキレン基を形成し、その他の記号は上記と同義を示す。]
【0038】
Xにおけるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましく、塩素原子又は臭素原子が特に好ましい。
及びRにおけるアルキル基としては、R、R又はRにおけるアルキル基と同様のものが挙げられる。
及びRにおけるアラルキル基としては、アリール基で置換されたアルキル基をいう。該アルキル基の炭素数は好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。該アリール基としては、炭素数6〜14(好ましくは6〜8)が好ましく、具体的には、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。該アラルキル基の合計炭素数は、好ましくは7〜20、より好ましくは7〜11である。具体的には、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基等が挙げられ、中でもベンジル基が好ましい。また、該アラルキル基は、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子)、炭素数1〜6のアルコキシ基(例えば、メトキシ基)、ハロアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基)、ハロアルコキシ基(例えば、トリフルオロメトキシ基)等で1又はそれ以上置換されていてもよい。
及びRが一緒になって形成するアルキレン基としては、炭素数が好ましくは2〜6、より好ましくは2〜4である、直鎖状又は分岐状のアルキレン基が挙げられる。具体的には、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基が挙げられ、中でもトリメチレン基、テトラメチレン基が好ましい。
【0039】
工程(a)
工程(a)は、式(7)で表されるジフェニルメチレンハライド化合物(以下、「化合物(7)」という。)と、式(8)で表されるマロン酸ジエステル化合物(以下、「化合物(8)」という。)を、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる有機溶媒、並びに水素化アルカリ金属及びt−ブトキシアルカリ金属から選ばれる塩基の存在下に反応させて、式(9)で表されるジエステル化合物(以下、「化合物(9)」という。)を得る工程である。
【0040】
工程(a)の反応は、水素化アルカリ金属及びt−ブトキシアルカリ金属から選ばれる塩基の存在下で行われる。ここで、水素化アルカリ金属としては、例えば、水素化リチウム、水素化カリウム、水素化ナトリウム等が挙げられ、水素化ナトリウム、水素化カリウムが特に好ましい。t−ブトキシアルカリ金属としては、t−ブトキシナトリウム、t−ブトキシカリウム等が挙げられ、t−ブトキシカリウムが特に好ましい。上記塩基の使用量は、化合物(8)に対して通常1〜1.5当量、好ましくは1.1〜1.3当量である。
【0041】
また、上記反応は、反応を促進させるために、ヨウ素化合物又は臭素化合物の共存下で行うこともできる。この場合、Xが塩素原子の場合にはヨウ素化合物及び/又は臭素化合物の共存下で行われ、好適にはヨウ素化合物の存在下で行われる。Xが臭素原子の場合にはヨウ素化合物の存在下で行われる。
【0042】
ヨウ素化合物としては、金属ヨウ化物、ヨウ化4級アンモニウムが好適に使用される。金属ヨウ化物としては、アルカリ金属のヨウ化物が好ましく、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが挙げられ、中でもヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。ヨウ化4級アンモニウムとしては、例えば、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラヘプチルアンモニウムが挙げられ、中でもヨウ化テトラブチルアンモニウムが特に好ましい。臭素化合物としては金属臭化物、臭化4級アンモニウムが好適に使用される。金属臭化物としては、アルカリ金属の臭化物が好ましく、例えば、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウムが挙げられ、中でも臭化カリウム、臭化ナトリウムが特に好ましい。臭化4級アンモニウムとしては、例えば、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラヘプチルアンモニウムが挙げられ、中でも臭化テトラブチルアンモニウムが特に好ましい。ヨウ素化合物又は臭素化合物の使用量は、化合物(7)に対して通常0.05〜1.0当量、好ましくは0.5〜1.0当量である。
【0043】
工程(a)の反応は、N−メチル−2−ピロリドン(別名:N−メチルピロリジノン又は1−メチルピロリジノン)、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる有機溶媒下で行われる。収率を向上させる観点から、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンが好ましく、特にN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドはこれらのうち2種以上を混合して使用してもよい。また、本反応の効果が発揮される範囲内で、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミド以外の溶媒を混合して使用してもよい。このような溶媒としては、非プロトン性の有機溶媒が好適に使用され、例えば、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、アセトニトリル、トルエン等が挙げられる。有機溶媒の使用量は、化合物の種類に応じて適宜選択することができるが、化合物(7)に対して通常3〜20倍重量、好ましくは5〜10倍重量である。
【0044】
化合物(8)の使用量は、化合物(7)に対して通常1〜1.5当量、好ましくは1.1〜1.3当量である。化合物(8)の使用量が上記範囲よりも少ないと、反応が不十分となる傾向にある。
【0045】
反応条件としては、塩基が水素化アルカリ金属の場合、反応温度は、通常30〜60℃、好ましくは40〜50℃であり、反応時間は、通常1〜16時間、好ましくは3〜6時間である。塩基がt−ブトキシアルカリ金属の場合、反応温度は、通常30〜80℃、好ましくは60〜70℃であり、反応時間は、通常3〜24時間、好ましくは3〜8時間である。反応終了後、反応液に有機溶媒(例えば、トルエン等の炭化水素類)及び水を加えて分液し、得られた有機層を水等で洗浄した後、濃縮することにより、化合物(9)を得ることができる。あるいは、反応終了後、上記の後処理を行うことなく、同じ反応容器中で引き続いて工程(b)を行うこともできる。
【0046】
工程(b)
工程(b)は、化合物(9)を加水分解及び脱炭酸に供して、化合物(1)を得る工程である。これにより、化合物(1)を収率よく簡便に得ることができる。
【0047】
加水分解及び脱炭酸は従来公知の方法で行うことができるが、例えば、化合物(9)をアルコール系有機溶媒(例えば、エタノール)又はこれと水との混合溶媒中で、塩基(例えば、水酸化ナトリウム)と反応させる方法が挙げられる。上記反応は、通常80℃から用いる溶媒の還流温度の範囲内(好ましくは85〜90℃)で行われ、反応時間は、通常1〜16時間、好ましくは3〜6時間である。反応終了後、反応液に有機溶媒(例えば、トルエン等の炭化水素類)及び水を加えて分液し、得られた水層に酢酸エステル類(例えば、酢酸イソプロピル)及び水を加え、さらに酸(例えば、塩酸、硫酸)を加えて酸性(通常pH0.5〜3、好ましくは1〜2)にした後、抽出する。得られた有機層を水等で洗浄した後、濃縮することにより、化合物(1)を得ることができる。
【0048】
工程(a)と工程(b)は同じ反応容器中で連続して行うこともできる。例えば、工程(a)の反応終了後、塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又はこれらの水溶液等)を添加し、反応させる方法が挙げられる。この反応は、通常50℃から用いる溶媒の還流温度の範囲内(好ましくは60〜70℃)で行われ、反応時間は、通常1〜16時間、好ましくは3〜6時間である。
【0049】
反応終了後、分液し、得られた水層に酸(例えば、塩酸、硫酸)を加えて中性(通常pH6〜8、好ましくは7〜8)にした後、酢酸エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル)を加え、さらに酸(例えば、塩酸、硫酸)を加えて酸性(通常pH0.5〜3、好ましくは1〜2)にした後、抽出する。得られた有機層を酸(例えば、塩酸)と飽和食塩水で洗浄した後、濃縮することにより、化合物(1)を得ることができる。
【0050】
濃縮により得られる化合物(1)の性状はアモルファスであるが、濃縮を最後まで行わずにある程度まで行った後、この酢酸エステル溶液をそのまま冷却するか、あるいはこの酢酸エステル溶液に特定の貧溶媒(例えば、トルエン)を添加することによる晶析を行って、化合物(1)を結晶として得ることもできる。
【0051】
以下、本発明の実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
<参考例1>
2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸の合成
アセトアミドマロン酸ジエチル(13.33g,61.8mmol)のN−メチル−2−ピロリドン(40mL,1.25M)溶液にt−ブトキシカリウム(7.20g,64.3mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した後、ジフェニルメチレンクロリド(10.0g,49.3mmol)とヨウ化カリウム(4.10g,24.7mol)を加えて、70℃で6時間撹拌した。反応終了後、反応液に2Mの水酸化ナトリウム水溶液(45mL)を加えて、60℃で5時間撹拌した。室温まで冷却した後、分液し、水層に濃塩酸(4.4mL)を加えてpHを7.0にし、酢酸エチル(30mL)を加え、更に濃塩酸(6.9mL)を加えて水層を抽出した。水層を更に酢酸エチル(40mL)で抽出したのち、有機層を合わせ、2M塩酸(20mL)で3回洗浄し、飽和食塩水(10mL)で洗浄し、濃縮した。その濃縮液にトルエン(30mL)を加えて、50℃で濃縮し、更にトルエン(30mL)を加えて、30分撹拌した。その後、0℃まで5時間かけて冷却することにより白色結晶が析出した。結晶をろ過して減圧下で乾燥させ、11.69gの標題化合物を得た。乾燥結晶の粉末X線(Cu−Kα線)は、5.8°、11.5°、21.6°、23.2°及び28.7°に特徴的なピークを示した。
【0053】
<参考例2>
2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
アセトアミドマロン酸ジエチル(5.17g,23.80mmol)のN−メチル−2−ピロリドン(18.2mL,1.25M)溶液にt−ブトキシカリウム(2.77g,24.69mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した後、ビス(4−フルオロフェニル)メチレンクロリド(4.54g,19.02mmol)のトルエン溶液(21.79g)とヨウ化カリウム(3.19g,19.10mol)を加えて、70℃で6時間撹拌した。反応終了後、反応液に2Mの水酸化ナトリウム水溶液(45mL)を加えて、60℃で5時間撹拌した。室温まで冷却した後、分液し、水層に濃塩酸(4.4mL)を加えてpHを7.0にし、酢酸エチル(30mL)を加え、更に濃塩酸(6.9mL)を加えて水層を抽出した。水層を更に酢酸エチル(6mL)で抽出したのち、有機層を合わせ、HPLCにて標題化合物の含量を調べた結果、5.678gが有機溶媒中に含まれていることが判明した。有機層を2M塩酸(9mL)で3回洗浄し、飽和食塩水(4.5mL)で洗浄し、濃縮した。その濃縮液にトルエン(13.5mL)を加えて、50℃で濃縮し、更にトルエン(13.5mL)を加えて、30分撹拌した。その後、0℃まで5時間かけて冷却することにより白色結晶が析出した。結晶をろ過して湿結晶を得た。湿結晶の粉末X線(Cu−Kα線)は、17.1°、17.6°、18.8°、20.7°、21.8°、22.0°、22.7°、23.1°及び25.4°に特徴的なピークを示した。この湿結晶を減圧下で乾燥させ、乾燥結晶5.39gの標題化合物を得た。乾燥結晶の粉末X線(Cu−Kα線)は、17.1°、21.8°、22.0°、22.7°、23.1°及び25.4°に特徴的なピークを示した。
融点187℃
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 3.25-3.35 (m, 2H), 4.35 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 5.13 (dd, 2H, J = 5.6 Hz, 10.7 Hz), 6.68-7.39 (m, 13H), 8.52 (d, 1H, J = 5.6 Hz)
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 172.49, 170.04, 162.53, 160.16, 160.12, 137.57, 137.39, 136.39, 130.45, 130.38, 130.30, 129.02, 128.29, 126.47, 115.60, 115.44, 115.39, 115.23, 55.67, 51.82, 42.18
MS(FAB) m/z 396[M++H]
【実施例1】
【0054】
L−2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸・(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩の合成
2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸(1.0g,3.5mmol)のメタノール溶液(3mL)を60℃に加熱し、(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン(508μL,3.5 mmol)を加え、撹拌しながら4時間かけて20℃まで冷却し、16時間撹拌した。析出した結晶をろ過して、乾燥し、456mgの表題化合物を得た。
【実施例2】
【0055】
L−2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸の合成
L−2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸・(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩(418mg,1.0mmol)に2M硫酸(1mL)と酢酸エチル(3mL)を加え、水層を抽出し、2M硫酸(1mL)と飽和食塩水で洗浄し、濃縮して、真空乾燥し、光学純度96.6%ee(SUMICHIRAL OA−4100,へキサン:メタノール:2−プロパノール:トリフロオロ酢酸=92:4:4:0.2,210nm,1.0mL/min,rt)の表題化合物(270mg)を得た。
【実施例3】
【0056】
L−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸・(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩の合成
2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸(4.59g,14.4mmol)のメタノール溶液(10mL)を60℃に加熱し、(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン(2.09mL,14.4mmol)を加え、種晶を加えて、一時間撹拌した後、撹拌しながら4時間かけて20℃まで冷却し、16時間撹拌した。析出した結晶をろ過して、乾燥し、2.9gの表題化合物を得た。
【実施例4】
【0057】
L−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
L−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸・(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩(2.0g,4.4mmol)に1M塩酸(4mL)と酢酸エチル(8mL)を加え、水層を抽出し、1M塩酸(2mL)と飽和食塩水で洗浄し、濃縮して、真空乾燥し、光学純度99.5%ee(SUMICHIRAL OA−4100,へキサン:メタノール:2−プロパノール:トリフロオロ酢酸=92:4:4:0.2,210nm,1.0mL/min,rt)の表題化合物(1.40g)を得た。
【実施例5】
【0058】
L−2−アミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸塩酸塩の合成
L−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸(1.65g,5.2mmol)の濃塩酸溶液(10mL)を90℃で16時間撹拌した後、氷冷し、固体を析出させた。固体をろ過し、乾燥して1.32gの表題化合物を得た。
【実施例6】
【0059】
L−2−t−ブトキシカルボニルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
L−2−アミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸(1.27g,4,05mmol, 95.7%ee)の水溶液に炭酸水素ナトリウムを加え、pHを8から9に調整した後、これにメタノール(1.0mL)とジ−t−ブチルジカーボネート(1.3g,5.26mmol)とを加え、37℃で16時間撹拌した。その後、反応液を室温に戻し、6N塩酸でpHを2に調整し、酢酸エチルを加え、分層して、有機層に目的物を抽出した。有機層を濃縮後、ヘプタンを加え一晩撹拌したところ結晶が析出した。その結晶をろ過し、乾燥して99%ee(SUMICHIRAL OA−4100,ヘキサン:メタノール:2−プロパノール:トリフルオロ酢酸=98:1:1:0.1,220nm,1.0mL/min,rt)の表題化合物1.24gを得た。
【実施例7】
【0060】
L−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
L−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸・(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩(2.40g,5.3mmol)に2M硫酸(9.6mL)と酢酸エチル(19.2mL)を加え、水層を抽出し、2M硫酸(9.6mL)と飽和食塩水で洗浄し、濃縮して、t−ブタノールで溶媒置換し、水(4.8mL)と硫酸(0.8mL)を加え、100℃で14.5時間撹拌した後、水酸化ナトリウムを加え、pHを8から9に調整した後、これにメタノール(12mL)とジ−t−ブチルジカーボネート(1.46g,6.34mmol)を加え、35℃で16時間撹拌した。その後、反応液を室温に戻し、6N塩酸でpHを2に調整し、酢酸エチルを加え、分層して、有機層に目的物を抽出した。有機層を濃縮後、ヘプタンを加え一晩撹拌したところ結晶が析出した。その結晶をろ過し、乾燥して99%ee(SUMICHIRAL OA−4100,ヘキサン:メタノール:2−プロパノール:トリフルオロ酢酸=98:1:1:0.1,220nm,1.0mL/min,rt)の表題化合物1.72gを得た。
【実施例8】
【0061】
L−2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸・(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩の合成
2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸(283mg,1.0mmol)のメタノール溶液(1mL)を60℃に加熱し、(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン(145μL,1.0 mmol)を加え、撹拌しながら4時間かけて20℃まで冷却し、16時間撹拌した。析出した結晶をろ過して、乾燥し、126mgの表題化合物を得た。
【実施例9】
【0062】
L−2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸の合成
L−2−アセチルアミノ−3,3−ジフェニルプロパン酸・(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩(126mg,0.30mmol)に1M塩酸(1mL)と酢酸エチル(2mL)を加え、水層を抽出し、1M塩酸(1mL)と飽和食塩水で洗浄し、濃縮して、真空乾燥し、光学純度96.9%ee(SUMICHIRAL OA−4100,へキサン:メタノール:2−プロパノール:トリフロオロ酢酸=90:5:5:0.2,210nm,1.0mL/min,rt)の表題化合物(66.9mg)を得た。
【実施例10】
【0063】
D−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸・(S)−(−)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩の合成
2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸(4.85g,15.3mmol)のメタノール溶液(10mL)を60℃に加熱し、(S)−(−)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン(2.19mL,15.3mmol)を加え、撹拌しながら4時間かけて20℃まで冷却し、16時間撹拌した。析出した結晶をろ過して、乾燥し、2.96gの表題化合物を得た。
【実施例11】
【0064】
D−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
D−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸・(S)−(−)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩(2.96g,6.5mmol)に2M硫酸(6mL)と酢酸エチル(24mL)を加え、水層を抽出し、2M硫酸(6mL)と飽和食塩水で洗浄し、濃縮して、真空乾燥し、光学純度95%ee(SUMICHIRAL OA−4100,へキサン:メタノール:2−プロパノール:トリフロオロ酢酸=90:5:5:0.2,210nm,1.0mL/min,rt)の表題化合物(1.97g)を得た。
[比較例1]
【0065】
D−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸・(−)−シンコニジン塩の合成
2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸(317mg,1.0mmol)のメタノール溶液(1.0mL)を60℃に加熱し、(−)−シンコニジン(295mg,1.0mmol)を加え、撹拌しながら4時間かけて20℃まで冷却し、16時間撹拌した。析出した結晶をろ過して、乾燥し、244mgの表題化合物を得た。
[比較例2]
【0066】
D−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸の合成
D−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(4−フルオロフェニル)プロパン酸・(−)−シンコニジン塩(224g,0.40mmol)に1M塩酸(1mL)と酢酸エチル(2mL)を加え、水層を抽出し、1M塩酸(1mL)と飽和食塩水で洗浄し、濃縮して、真空乾燥し、光学純度86%ee(SUMICHIRAL OA−4100,へキサン:メタノール:2−プロパノール:トリフロオロ酢酸=90:5:5:0.2,210nm,1.0mL/min,rt)の表題化合物(129mg)を得た。
[比較例3]
【0067】
D−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(フェニル)プロパン酸・(−)−シンコニジン塩の合成
2−アセチルアミノ−3,3−ビス(フェニル)プロパン酸(283mg,1.0mmol)のメタノール溶液(1mL)を60℃に加熱し、(−)−シンコニジン(301mg,1.0mmol)を加え、撹拌しながら4時間かけて20℃まで冷却し、16時間撹拌した。析出した結晶をろ過して、乾燥し、203mgの表題化合物を得た。
[比較例4]
【0068】
D−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(フェニル)プロパン酸の合成
D−2−アセチルアミノ−3,3−ビス(フェニル)プロパン酸・(−)−シンコニジン塩(203mg,0.35mmol)に1M塩酸(1mL)と酢酸エチル(2mL)を加え、水層を抽出し、1M塩酸(2mL)と飽和食塩水で洗浄し、濃縮して、真空乾燥し、光学純度62%ee(SUMICHIRAL OA−4100,へキサン:メタノール:2−プロパノール:トリフロオロ酢酸=90:5:5:0.2,210nm,1.0mL/min,rt)の表題化合物(93.6mg)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、抗HIV薬、ジペプチジルペプチターゼ阻害剤等の合成中間体として有用な、純度の高い光学活性ジフェニルアラニン化合物を収率良く簡便に製造することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(3):
【化1】

[式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、nはそれぞれ独立して1〜5の整数を示し、Pはアミノ基の保護基を示し、*は不斉炭素原子であることを示し、立体配置はS又はRである。]
で表される光学活性ジフェニルアラニン化合物の製造方法であって、下記式(1):
【化2】

[式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、nはそれぞれ独立して1〜5の整数を示し、Pはアミノ基の保護基を示す。]
で表されるジフェニルアラニン化合物を、下記式(2):
【化3】

[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基又はアシル基を示し、或いは隣接する2つのRが縮環してベンゼン環を形成してもよく、nは1〜5の整数を示し、*は不斉炭素原子であることを示し、立体配置はS又はRである。]
で表される光学活性アミン化合物と反応させ、生成したジアステレオマー塩を分割することを含む、光学活性ジフェニルアラニン化合物の製造方法。
【請求項2】
光学活性アミン化合物が、1−フェニルエチルアミン、1−(4−メチルフェニル)エチルアミン、1−(4−エチルフェニル)エチルアミン、1−(4−プロピルフェニル)エチルアミン、1−(4−イソプロピルフェニル)エチルアミン、1−(4−メトキシフェニル)エチルアミン、1−(4−ブロモフェニル)エチルアミン、1−(4−クロロフェニル)エチルアミン、1−(4−フルオロフェニル)エチルアミン、1−(4−ヒドロキシフェニル)エチルアミン、1−(4−シアノフェニル)エチルアミン、1−(4−ニトロフェニル)エチルアミン、1−(4−アセチルフェニル)エチルアミン、1−(1−ナフチル)エチルアミン及び1−(2−ナフチル)エチルアミンの各光学活性体からなる群より選択される1種以上である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
光学活性アミン化合物が、(−)−1−フェニルエチルアミン、(+)−1−フェニルエチルアミン、(−)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン、(−)−1−(4−イソプロピルフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−イソプロピルフェニル)エチルアミン、(−)−1−(4−メトキシフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−メトキシフェニル)エチルアミン、(−)−1−(4−ブロモフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−ブロモフェニル)エチルアミン、(−)−1−(4−クロロフェニル)エチルアミン、(+)−1−(4−クロロフェニル)エチルアミン、(−)−1−(1−ナフチル)エチルアミン、(+)−1−(1−ナフチル)エチルアミン、(−)−1−(2−ナフチル)エチルアミン及び(+)−1−(2−ナフチル)エチルアミンからなる群より選択される1種以上である、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
光学活性アミン化合物が、(−)−1−フェニルエチルアミン、(+)−1−フェニルエチルアミン、(−)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン及び(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミンからなる群より選択される1種以上である、請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
分割が、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジクロロエタン、tert−ブチルメチルエーテル、イソブチルメチルケトン、酢酸ブチル、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン及びアセトニトリルからなる群より選択される1種以上の溶媒中でジアステレオマー塩を晶析により分離することにより行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5記載のいずれか1項記載の製造方法に従って、式(3)で表される光学活性ジフェニルアラニン化合物を得た後、該化合物のアミノ基の保護基を除去することを特徴とする、下記式(4):
【化4】

[式中、R、R、*及びnは請求項1と同義を示す。]
で表される光学活性ジフェニルアラニン化合物又はその塩の製造方法。
【請求項7】
及びRがそれぞれ独立してフッ素原子又は水素原子であり、Pがアセチル基である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
下記式(5):
【化5】

[式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基又はアシル基を示し、或いは隣接する2つのRが縮環してベンゼン環を形成してもよく、nはそれぞれ独立して1〜5の整数を示し、Pはアミノ基の保護基を示し、*は不斉炭素原子であることを示し、立体配置はS又はRである。]
で表されるジアステレオマー塩。
【請求項9】
下記式(6a):
【化6】

[式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、nはそれぞれ独立して1〜5の整数を示す。]
で表される、光学活性N−アセチルジフェニルアラニン化合物・(R)−(+)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩。
【請求項10】
下記式(6b):
【化7】

[式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基を示し、nはそれぞれ独立して1〜5の整数を示す。]
で表される、光学活性N−アセチルジフェニルアラニン化合物・(S)−(−)−1−(4−メチルフェニル)エチルアミン塩。
【請求項11】
及びRがそれぞれ独立してフッ素原子又は水素原子である、請求項9又は10記載の塩。


【公開番号】特開2007−63267(P2007−63267A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212689(P2006−212689)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】