説明

光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩の製造方法

【課題】光学活性な2−アミノブタンアミドの塩として、光学活性な2−アミノブタンアミドを高い収率および高い光学純度で含有する光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を製造する方法を提供すること。
【解決手段】(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩をエピマー化することにより、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を製造する。原料となる(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩および生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩は、好ましくは、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が1:0.6〜0.95である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−アミノブタンアミドは、医薬品や農薬などの原料または中間体として有用な化合物である。一般に、医薬品や農薬などに用いられる化合物は、光学活性を示すことが多く、ラセミ体の最終生成物を光学分割するよりも、光学活性な原料または中間体から出発して光学活性な最終生成物を製造する方が効率的である。それゆえ、2−アミノブタンアミドの場合も、不斉炭素原子を有し、光学活性を示すことから、原料または中間体として、光学活性な形態で提供する必要がある。
【0003】
最近、医薬品の製造方法において、(S)−2−アミノブタンアミドもしくはその塩を原料にすることが提案されている。例えば、特許文献1には、(RS)−2−アミノブタンアミドを、(L)−酒石酸をモル比1:1で用いて、光学分割して、(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:1)を収率33%で得ることが開示されている(特に、特許文献1の実施例1の1)を参照)。また、特許文献2および3には、(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)をアンモニア水で分解して、(S)−2−アミノブタンアミドを単離することが開示されている(特に、特許文献2および3の実施例1の1.1を参照)。さらに、特許文献4には、(S)−2−アミノブタンアミド塩酸塩を、(L)−酒石酸をモル比1:1.37または1.11で用いて、光学分割して、(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:1)を得た後、塩酸を添加して、(S)−2−アミノブタンアミド・塩酸塩を収率35.1%または34.5%で得ることが開示されている(特に、特許文献4の実施例6および8を参照)。ここで、「モル比」および「組成比」とは、特に断らない限り、2−アミノブタンアミドと酒石酸とのモル比(すなわち、2−アミノブタンアミドの物質量(単位はモル):酒石酸の物質量(単位はモル))を意味する(以下同様である)。
【特許文献1】WO 2006/103696 A2
【特許文献2】WO 2005/121082 A1
【特許文献3】WO 2005/028435 A1
【特許文献4】CN 1583721 A
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、これらの方法では、光学活性な2−アミノブタンアミドもしくはその塩の収率が低いという問題点があった。
【0005】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、光学活性な2−アミノブタンアミドを高い収率および高い光学純度で含有する光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を簡便に効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討の結果、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩をエピマー化すれば、光学活性な2−アミノブタンアミドを高い収率および高い光学純度で含有する光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩が簡便に効率よく得られることを見出して、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩をエピマー化することを特徴とする光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩の製造方法を提供する。この製造方法において、前記(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、好ましくは1:(0.95またはそれ以下)、より好ましくは1:0.6〜0.95である。
【0008】
また、この製造方法において、(RS)−2−アミノブタンアミドを光学分割し、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を固液分離した後の分離液を用い、この分離液に含まれる(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩をエピマー化することもできる。この場合、前記(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、好ましくは1:(1またはそれ以下)、より好ましくは1:0.6〜1、さらに好ましくは1:0.6〜0.98である。
【0009】
さらに、本発明は、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が1:0.6〜0.95であることを特徴とする(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩、ならびに、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が1:0.6〜0.95であることを特徴とする光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光学活性な2−アミノブタンアミドを高い収率および高い光学純度で含有する光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩が簡便に効率よく得られる。また、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:0.6〜0.95)は、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:1)に比べて、エピマー化効率が高く、かつ、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れる。さらに、生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩(組成比1:0.6〜0.95)は、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明による光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩の製造方法(以下「本発明の製造方法」ということがある。)は、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩をエピマー化することを特徴とする。
【0012】
ここで、「光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩」とは、(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(以下「SL体」ということがある。)もしくは(R)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(以下「RL体」ということがある。)またはそれらの混合物、あるいは、(S)−2−アミノブタンアミド・(D)−酒石酸塩(以下「SD体」ということがある。)もしくは(R)−2−アミノブタンアミド・(D)−酒石酸塩(以下「RD体」ということがある。)またはそれらの混合物を意味する。光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドの光学純度は、好ましくは70%e.e.以上、より好ましくは80%e.e.以上、さらに好ましくは90%e.e.以上である。ここで、光学活性な2−アミノブタンアミドとは、(S)−2−アミノブタンアミド(以下「S体」ということがある。)もしくは(R)−2−アミノブタンアミド(以下「R体」ということがある。)または一方の鏡像異性体(すなわち、S体またはR体)を過剰に含有する混合物を意味する。また、光学純度とは、例えば、SL体とRL体との混合物におけるSL体またはRL体の過剰量、あるいは、SD体とRD体との混合物におけるSD体またはRD体の過剰量を百分率で表した値である。
【0013】
また、「(RS)−2−アミノブタンアミド」とは、2−アミノブタンアミドのS体とR体とを等量含有するラセミ体の混合物、あるいは、一方の鏡像異性体(すなわち、S体またはR体)を過剰に含有する混合物を意味する。それゆえ、「(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩」とは、2−アミノブタンアミドのS体とR体とを等量含有するラセミ体の混合物、あるいは、一方の鏡像異性体(すなわち、S体またはR体)を過剰に含有する混合物と、(L)−酒石酸(以下「L体」ということがある。)もしくは(D)−酒石酸(以下「D体」ということがある。)またはそれらの混合物とを反応させて得られるジアステレオマー塩の混合物(好ましくは、SL体とRL体との混合物、あるいは、SD体とRD体との混合物)を意味する。
【0014】
さらに、「エピマー化」とは、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸とを反応させて得られるジアステレオマー塩のうち、一方のジアステレオマー塩を構成する光学活性な2−アミノブタンアミドの不斉炭素原子の立体配置を反転させて他方のジアステレオマー塩を生成させることを意味する。このエピマー化を利用すれば、目的としないジアステレオマー塩(例えば、RL体)を目的とするジアステレオマー塩(例えば、SL体)に変換することができるので、目的とするジアステレオマー塩(例えば、SL体)またはそれを含むジアステレオマー塩の混合物(例えば、SL体とRL体との混合物であって、SL体を過剰に含有する混合物)、すなわち光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩の収率および光学純度が向上する。それゆえ、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドの収率および光学純度が向上する。
【0015】
本発明の製造方法において、エピマー化は、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸とを、適当な溶媒中、エピマー化触媒の存在下で反応させて、目的としないジアステレオマー塩を目的とするジアステレオマー塩に変換するか、あるいは、予め調製しておいた(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩を、適当な溶媒中、エピマー化触媒の存在下で反応させて、目的としないジアステレオマー塩を目的とするジアステレオマー塩に変換することにより行われる。あるいは、(RS)−2−アミノブタンアミドを適当な溶媒中でいったん光学分割を行い、析出した光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を固液分離した後の分離液を用い、この分離液に含まれるジアステレオマー塩の混合物を、エピマー化触媒の存在下で反応させて、目的としないジアステレオマー塩を目的とするジアステレオマー塩に変換することにより行われる。なお、(RS)−2−アミノブタンアミドの光学分割は、予め調製しておいた(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩から出発して行ってもよい。反応終了後、析出したジアステレオマー塩を分離すれば、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩が得られる。この場合、分離したジアステレオマー塩、すなわち光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩は、目的とするジアステレオマー塩と目的としないジアステレオマー塩との混合物である場合が多く、分離したジアステレオマー塩全体における目的とする2−アミノブタンアミドの鏡像異性体を含むジアステレオマー塩の割合は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0016】
(RS)−2−アミノブタンアミドは、例えば、市販されている(RS)−2−アミノブタン酸を利用するか、あるいは、プロピオンアルデヒドからStrecker法またはBucherer−Burgs法で(RS)−2−アミノブタン酸を合成し、次いで、この(RS)−2−アミノブタン酸をアミド化することにより、あるいはStrecker法で得られる中間体(RS)−2−アミノブチロニトリルのニトリル基を加水分解してアミド基に変換することにより、容易に製造することができる。
【0017】
(RS)−2−アミノブタンアミドは、2−アミノブタンアミドのS体とR体とを等量含有するラセミ体の混合物(光学純度0%e.e.)だけでなく、一方の鏡像異性体(すなわち、S体またはR体)を過剰に含有する混合物であってもよい。
【0018】
光学活性な酒石酸は、D体(光学純度100%e.e.)もしくはL体(光学純度100%e.e.)またはそれらの混合物である。ただし、D体とL体との混合物の場合、その光学純度は、好ましくは90%e.e.以上、より好ましくは95%e.e.以上、さらに好ましくは98%e.e.以上である。ここで、光学純度とは、D体とL体との混合物におけるD体またはL体の過剰量を百分率で表した値である。
【0019】
本発明の製造方法において、光学活性な酒石酸としては、好ましくは(L)−酒石酸または(D)−酒石酸が用いられる。例えば、(S)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩を製造する場合には、好ましくは(L)−酒石酸が用いられる。この場合、(L)−酒石酸は、(S)−2−アミノブタンアミドと反応して、溶解度が低いジアステレオマー塩(すなわち、(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩)を形成する。逆に、(R)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩を製造するには、好ましくは(D)−酒石酸が用いられる。この場合、(D)−酒石酸は、(R)−2−アミノブタンアミドと反応して、溶解度が低いジアステレオマー塩(すなわち、(R)−2−アミノブタンアミド・(D)−酒石酸塩)を形成する。あるいは、(S)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩を製造する場合に、好ましくは(D)−酒石酸を用いて、溶解度が高いジアステレオマー塩(すなわち、(S)−2−アミノブタンアミド・(D)−酒石酸塩)を形成してもよく、また、(R)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩を製造する場合に、好ましくは(L)−酒石酸を用いて、溶解度が高いジアステレオマー塩(すなわち、(R)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩)を形成してもよい。
【0020】
本発明者らの検討によれば、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:0.5)は、エピマー化効率が高いものの、吸湿性が高く、取り扱い性に劣るのに対し、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:1)は、吸湿性が低く、取り扱い性に優れるものの、エピマー化効率が低いことが判明した。また、2−アミノブタンアミドの酒石酸塩として、(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)および(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:1)は、従来公知であるが、特に(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)は、吸湿性が高く、取り扱い性に劣ることが判明した。
【0021】
そこで、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が1:0.5〜1の範囲内で、エピマー化効率および吸湿性の両方について良好な塩が存在するのではないかと考えて検討を行ったところ、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が1:0.6〜0.95である場合に、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩は、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:1)に比べて、エピマー化効率が高く、かつ、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れることが判明した。また、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が1:0.6〜0.95である場合に、生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩は、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れることが判明した。
【0022】
それゆえ、本発明の製造方法において、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、エピマー化効率だけを考慮すれば、好ましくは1:(0.95またはそれ以下)であり、エピマー化効率および吸湿性を考慮すれば、より好ましくは1:0.6〜0.95である。このような原料を用いれば、生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、好ましくは1:(0.95またはそれ以下)、より好ましくは1:0.6〜0.95となる。
【0023】
ただし、(RS)−2−アミノブタンアミドを光学分割し、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を固液分離した後の分離液を用い、この分離液に含まれる(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩をエピマー化する場合には、エピマー化により得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に、光学分割により得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を混合すれば、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩が高い収率で得られるので、エピマー化効率を考慮する必要はなく、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、好ましくは1:(1またはそれ以下)であり、吸湿性を考慮すれば、より好ましくは1:0.6〜1、さらに好ましくは1:0.6〜0.98である。
【0024】
なお、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析することにより、容易に求めることができる。
【0025】
エピマー化触媒としては、従来公知のエピマー化触媒の中から適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド;ベンズアルデヒド、3−ニトロベンズアルデヒド、4−ニトロベンズアルデヒド、3−クロロベンズアルデヒド、4−クロロベンズアルデヒド、3,5−ジクロロベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、5−クロロサリチルアルデヒド、5−ブロモサリチルアルデヒド、3,5−ジクロロサリチルアルデヒド、3,5−ジブロモサリチルアルデヒドなどの芳香族アルデヒド;アセトン、エチルメチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノンなどの脂肪族ケトン;アセトフェノン、ベンゾフェノンなどの芳香族ケトン;などが挙げられる。これらのエピマー化触媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのエピマー化触媒のうち、下記式(1):
【0026】
【化1】

【0027】
[式中、Yは、互いに独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基であり、mは0〜4の整数を表す]
で示される芳香族アルデヒドが特に好適である。
【0028】
エピマー化触媒の使用量は、(RS)−2−アミノブタンアミド1モルに対して、好ましくは0.005〜0.4モル、より好ましくは0.01〜0.2モルである。エピマー化触媒の使用量が0.005モル未満であると、エピマー化に要する反応時間が長くなることがある。逆に、エピマー化触媒の使用量が0.4モルを超えると、目的とするジアステレオマー塩の収率が低下することがある。
【0029】
エピマー化に用いる溶媒としては、(RS)−2−アミノブタンアミドおよび光学活性な酒石酸を溶解する限り、あるいは、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩を溶解する限り、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールなどのアルコール系溶媒;これらのアルコール系溶媒と水との混合溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0030】
エピマー化に用いる溶媒の使用量は、(RS)−2−アミノブタンアミドの使用量に応じて、あるいは、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩に含有される(RS)−2−アミノブタンアミドの含有量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、(RS)−2−アミノブタンアミド100質量部に対して、好ましくは50〜20,000質量部、より好ましくは100〜10,000質量部である。
【0031】
なお、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩を予め調製するには、例えば、上記のような溶媒に(RS)−2−アミノブタンアミドを溶解した溶液と、上記のような溶媒に光学活性な酒石酸を溶解した溶液とを、所定の割合で混合して反応させた後、析出した塩を分離すればよい。この場合、(RS)−2−アミノブタンアミドを溶解する溶媒と、光学活性な酒石酸を溶解する溶媒とは、同一であっても、異なっていてもよい。ただし、異なる溶媒を用いる場合には、相溶性を有する溶媒の組合せを用いることが好ましい。
【0032】
エピマー化を行う際には、例えば、上記のような溶媒中、エピマー化触媒の存在下で、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸とを反応させるか、あるいは、予め調製しておいた(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩を静置または攪拌することにより、一方のジアステレオマー塩を溶液から選択的に析出させる。ここで、「選択的に」とは、析出したジアステレオマー塩中における一方のジアステレオマー塩の含有量が他方のジアステレオマー塩の含有量より多いことを意味する。析出させる際には、必要に応じて、加熱、冷却、濃縮、希釈などの操作を行うこともできる。また、析出させる際には、種品を添加してもよい。なお、反応温度は、通常、0℃から溶媒の沸点の範囲内である。反応時間は、通常、30分間から100時間の範囲内である。
【0033】
その後、析出したジアステレオマー塩を分離する。分離は、従来公知の濾過または遠心分離などの方法を用いて行う。得られたジアステレオマー塩、すなわち光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩は、必要に応じて、再結晶などの精製を行うこともできる。
【0034】
以上、説明したように、本発明の製造方法によれば、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩をエピマー化することにより、光学活性な2−アミノブタンアミドを高い収率および高い光学純度で含有する光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を簡便に効率よく得ることができる。本発明の製造方法により得られる光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドの収率は、原料中の(RS)−2−アミノブタンアミドを基準にして、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上である。本発明の製造方法により得られる光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドの光学純度は、好ましくは70%e.e.以上、より好ましくは80%e.e.以上、さらに好ましくは90%e.e.以上である。このように、本発明の製造方法は、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドについて、高い収率および高い光学純度を両立させることができる。
【0035】
本発明の製造方法により得られる光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩は、例えば、医薬品や農薬などの原料または中間体として幅広く利用することができる。本発明の製造方法により得られる光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩は、そのまま医薬品や農薬などの原料または中間体として利用してもよいが、必要に応じて、光学活性な2−アミノブタンアミドもしくはその塩の形態に変換してもよい。
【0036】
光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩は、例えば、酸またはアルカリを作用させることにより、容易に分解して光学活性な2−アミノブタンアミドを与える。通常は、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩をアルカリ水溶液で分解し、適当な有機溶媒で抽出することにより、光学活性な2−アミノブタンアミドを光学活性な酒石酸と分離することができるが、2−アミノブタンアミドは、遊離アミンの形態であっても、水に対する溶解度が高いので、有機溶媒で抽出するのは効率が悪いことがある。それゆえ、例えば、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を適当な有機溶媒に懸濁し、得られた懸濁液に光学活性でない酸性化合物のガスを吹き込むか、あるいは光学活性でない酸を添加して塩交換を行い、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を酸性化合物または酸が付加した塩(以下「酸付加塩」ということがある。)に変換して析出させた後、分離することにより、光学活性な2−アミノブタンアミドを酸付加塩として得る方が工業的には有利である。
【0037】
また、本発明は、上記のような製造方法において、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:0.6〜0.95)および生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩(組成比1:0.6〜0.95)を提供する。なお、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析することにより、容易に求めることができる。
【0038】
(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:0.6〜0.95)は、例えば、上記のような溶媒に(RS)−2−アミノブタンアミドを溶解した溶液と、上記のような溶媒に光学活性な酒石酸を溶解した溶液とを、組成比が1:0.6〜0.95になるような割合で混合して反応させた後、析出した塩を分離することにより得られる。
【0039】
また、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩(組成比1:0.6〜0.95)は、例えば、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:0.6〜0.95)を用いて、本発明の製造方法を実施することにより得られる。
【0040】
上記したように、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:0.6〜0.95)は、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩(組成比1:1)に比べて、エピマー化効率が高く、かつ、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れる。また、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩(組成比1:0.6〜0.95)は、(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0042】
なお、以下では、含有率の単位「%」は質量基準であり、エピマー化触媒であるサリチルアルデヒドの当量とは、2−アミノブタンアミドに対するサリチルアルデヒドのモル比を意味する。
【0043】
≪実施例1≫
温度計、攪拌機、還流管を備えた4つ口フラスコに、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比1:0.62、2−アミノブタンアミドの含有率46.3%、SL体:RL体=55.0:45.0)20.03g、メタノール26.00g、サリチルアルデヒド1.672g(0.15当量)を加え、還流下、15時間反応させた。反応終了後、メタノールを60.00g追加し、40℃まで冷却した。同温度で2時間攪拌後、吸引濾過し、ケーキをメタノール10.14gで洗浄した。得られたケーキを60℃で2時間乾燥させ、質量を測定したところ、14.06gであった。乾燥ケーキ、すなわち光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、2−アミノブタンアミドの含有率は41.6%であり、SL体:RL体=98.9:1.1であった。また、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、1:0.74であった。
【0044】
従って、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドの収率は63.1%であり、光学純度は97.8%e.e.であった。
【0045】
また、本実施例において、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.62)および生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩(組成比1:0.74)は、いずれも、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れていた。
【0046】
≪実施例2≫
温度計、攪拌機、還流管を備えた4つ口フラスコに、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比=1:0.67、2−アミノブタンアミドの含有率46.3%、SL体:RL体=53.0:47.0)20.14g、メタノール26.18g、サリチルアルデヒド1.664g(0.15当量)を加え、還流下、15時間反応させた。反応終了後、メタノールを60.12g追加し、40℃まで冷却した。同温度で2時間攪拌後、吸引濾過し、ケーキをメタノール10.20gで洗浄した。得られたケーキを60℃で2時間乾燥させ、質量を測定したところ、13.84gであった。乾燥ケーキ、すなわち光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、2−アミノブタンアミドの含有率は41.0%であり、SL体:RL体=99.2:0.8であった。また、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、1:0.77であった。
【0047】
従って、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドの収率は60.9%であり、光学純度は98.4%e.e.であった。
【0048】
また、本実施例において、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.67)および生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩(組成比1:0.77)は、いずれも、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れていた。
【0049】
≪実施例3≫
温度計、攪拌機、還流管を備えた4つ口フラスコに、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比1:0.70、2−アミノブタンアミドの含有率43.9%、SL体:RL体=59.5:40.5)100.06g、メタノール150.06g、サリチルアルデヒド7.86g(0.15当量)を加え、還流下、24時間反応させた。反応終了後、メタノールを196.24g追加し、40℃まで冷却した。同温度で2時間攪拌後、吸引濾過し、ケーキをメタノール75.60gで洗浄した。得られたケーキを60℃で2時間乾燥させ、質量を測定したところ、68.94gであった。乾燥ケーキ、すなわち光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、2−アミノブタンアミドの含有率は39.6%であり、SL体:RL体=98.7:1.3であった。また、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、1:0.80であった。
【0050】
従って、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドの収率は62.2%であり、光学純度は97.4%e.e.であった。
【0051】
また、本実施例において、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.70)および生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩(組成比1:0.80)は、いずれも、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れていた。
【0052】
≪実施例4≫
温度計、攪拌機、還流管を備えた4つ口フラスコに、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比1:0.76、2−アミノブタンアミドの含有率42.8%、SL体:RL体=56.4:43.6)20.02g、メタノール26.02g、サリチルアルデヒド1.561g(0.15当量)を加え、還流下、15時間反応させた。反応終了後、メタノールを60.04g追加し、40℃まで冷却した。同温度で2時間攪拌後、吸引濾過し、ケーキをメタノール10.26gで洗浄した。得られたケーキを60℃で2時間乾燥させ、質量を測定したところ、13.38gであった。乾燥ケーキ、すなわち光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、2−アミノブタンアミドの含有率は39.7%であり、SL体:RL体=99.4:0.6であった。また、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、1:0.81であった。
【0053】
従って、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドの収率は62.0%であり、光学純度は98.8%e.e.であった。
【0054】
また、本実施例において、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.76)および生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩(組成比1:0.81)は、いずれも、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れていた。
【0055】
≪実施例5≫
温度計、攪拌機、還流管を備えた4つ口フラスコに、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比1:0.80、2−アミノブタンアミドの含有率41.6%、SL体:RL体=60.3:39.7)100.36g、メタノール130.04g、サリチルアルデヒド8.20g(0.16当量)を加え、還流下、15時間反応させた。反応終了後、メタノールを300.36g追加し、40℃まで冷却した。同温度で3.5時間攪拌後、吸引濾過し、ケーキをメタノール50.70gで洗浄した。得られたケーキを60℃で2時間乾燥させ、質量を測定したところ、62.42gであった。乾燥ケーキ、すなわち光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、2−アミノブタンアミドの含有率は41.4%であり、SL体:RL体=98.7:1.3であった。また、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、1:0.79であった。
【0056】
従って、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドの収率は61.8%であり、光学純度は97.4%e.e.であった。
【0057】
また、本実施例において、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.80)および生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩(組成比1:0.79)は、いずれも、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れていた。
【0058】
≪実施例6≫
温度計、攪拌機、還流管を備えた4つ口フラスコに、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比1:0.87、2−アミノブタンアミドの含有率39.2%、SL体:RL体=64.0:36.0)30.03g、メタノール40.40g、サリチルアルデヒド2.132g(0.15当量)を加え、還流下、24時間反応させた。反応終了後、メタノールを50.04g追加し、40℃まで冷却した。同温度で2時間攪拌後、吸引濾過し、ケーキをメタノール12.00gで洗浄した。得られたケーキを60℃で2時間乾燥させ、質量を測定したところ、20.04gであった。乾燥ケーキ、すなわち光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、2−アミノブタンアミドの含有率は37.6%であり、SL体:RL体=99.4:0.6であった。また、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、1:0.93であった。
【0059】
従って、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドの収率は70.4%であり、光学純度は98.8%e.e.であった。
【0060】
また、本実施例において、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.87)および生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩(組成比1:0.93)は、いずれも、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れていた。
【0061】
≪参考例1≫
温度計、攪拌機、還流管を備えた4つ口フラスコに、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比1:0.96、2−アミノブタンアミドの含有率39.3%、SL体:RL体=50.8:49.2)50.44g、メタノール65.44g、サリチルアルデヒド3.528g(2−アミノブタンアミドに対して0.15当量)を加え、還流下、15時間反応させた。反応終了後、メタノールを150.24g追加し、40℃まで冷却した。同温度で2時間攪拌後、吸引濾過し、ケーキをメタノール20.80gで洗浄した。得られたケーキを60℃で2時間乾燥させ、質量を測定したところ、31.94gであった。乾燥ケーキ、すなわち光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、2−アミノブタンアミドの含有率は36.4%であり、SL体:RL体=83.0:17.0であった。また、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、1:1.11であった。
【0062】
従って、得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドの収率は58.6%であり、光学純度は66.0%e.e.であった。
【0063】
≪実施例7≫
(RS)−2−アミノブタンアミドの光学分割
温度計、攪拌機、還流管を備えた4つ口フラスコに、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比1:0.85、2−アミノブタンアミドの含有率42.6%、SL体:RL体=58.5:41.5)517.9g、メタノール3,040.3gを加え、60℃で1時間攪拌した。同温度で吸引濾過し、ケーキをメタノール155.9gで洗浄した。洗浄液を濾液と合わせ、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩を含有する濾液(2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比1:0.97、2−アミノブタンアミドの含有率2.6%)を3,355.0g得た。また、得られたケーキを60℃で2時間乾燥させ、質量を測定したところ、183.2gであった。乾燥ケーキを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、2−アミノブタンアミドの含有率43.2%であり、SL体:RL体=97.7:2.3、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、1:0.66であった。
【0064】
濾液に含まれる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩のエピマー化
温度計、攪拌機、還流管を備えた4つ口フラスコに、上記(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩を含有する濾液2,591.0g、サリチルアルデヒド19.0g(0.24当量)を加え、加熱しながら攪拌し、常圧にてメタノール2,218.7gを留去した。さらに還流下、20時間反応させた。反応終了後、メタノールを187.2g追加し、40℃まで冷却した。同温度で2時間攪拌後、吸引濾過し、ケーキをメタノール148.2gで洗浄した。得られたケーキを60℃で2時間乾燥させ、質量を測定したところ、77.0gであった。乾燥ケーキを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、2−アミノブタンアミドの含有率は37.9%であり、SL体:RL体=92.7:7.3、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は1:1.03であった。
【0065】
従って、一連の操作を経て得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩(2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比1:0.76、2−アミノブタンアミドの含有率41.3%、SL体:RL体=95.9:4.1)に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドの収率は70.1%であり、光学純度は92.4%e.e.であった。
【0066】
また、本実施例において、光学分割の原料となる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.85)、光学分割の生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.66)、エピマー化の生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:1.03)、ならびに、光学分割の生成物とエピマー化の生成物との混合物である光学活性な2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.76)は、いずれも、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れていた。
【0067】
≪実施例8≫
(RS)−2−アミノブタンアミドの光学分割
温度計、攪拌機、還流管を備えた4つ口フラスコに、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比1:0.85、2−アミノブタンアミドの含有率42.6%、SL体:RL体=58.5:41.5)907.1g、メタノール7,104.0gを加え、60℃で1時間攪拌した。同温度で吸引濾過し、ケーキをメタノール360.8gで洗浄した。洗浄液を濾液と合わせ、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩を含有する濾液(2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比1:0.96、2−アミノブタンアミドの含有率2.6%)を7,881.0g得た。また、得られたケーキを60℃で2時間乾燥させ、質量を測定したところ、394.3gであった。乾燥ケーキを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、2−アミノブタンアミドの含有率47.4%であり、SL体:RL体=97.4:2.6、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は、1:0.66であった。
【0068】
濾液に含まれる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩のエピマー化
温度計、攪拌機、還流管を備えた4つ口フラスコに、上記(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩を含有する濾液7,864.4g、サリチルアルデヒド49.0g(0.20当量)を加え、加熱しながら攪拌し、常圧にてメタノール6,695.0gを留去した。さらに還流下、20時間反応させた。反応終了後、メタノールを791.0g追加し、40℃まで冷却した。同温度で2時間攪拌後、吸引濾過し、ケーキをメタノール443.0gで洗浄した。得られたケーキを60℃で2時間乾燥させ、質量を測定したところ、245.8gであった。乾燥ケーキを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、2−アミノブタンアミドの含有率は39.3%であり、SL体:RL体=92.3:7.7、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比は1:0.93であった。
【0069】
従って、一連の操作を経て得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩(2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比1:0.75、2−アミノブタンアミドの含有率41.3%、SL体:RL体=95.4:4.6)に含有される光学活性な2−アミノブタンアミドの収率は73.5%であり、光学純度は90.8%e.e.であった。
【0070】
また、本実施例において、光学分割の原料となる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.85)、光学分割の生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.66)、エピマー化の生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.93)、ならびに、光学分割の生成物とエピマー化の生成物との混合物である光学活性な2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.75)は、いずれも、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れていた。
【0071】
≪評価≫
以上のように、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.6〜0.95)をエピマー化した実施例1〜6では、光学活性な2−アミノブタンアミドを高い収率および高い光学純度で含有する光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を得ることができた。また、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.6〜0.95)および生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩(組成比1:0.6〜0.95)は、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れていた。
【0072】
これに対し、原料となる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.96)をエピマー化した参考例では、光学活性な2−アミノブタンアミドを実施例1〜6に比べて低い収率および低い光学純度で含有する光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩しか得られなかった。特に、参考例で得られた光学純度は、実施例1〜6で得られた光学純度に比べて非常に低く、その約67%程度にすぎなかった。
【0073】
そして、(RS)−2−アミノブタンアミドを光学分割し、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を固液分離した後の分離液を用い、この分離液に含まれる(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩をエピマー化した実施例7および8では、エピマー化の原料となる(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩の組成比が、それぞれ、1:0.97および1:0.96であったが、エピマー化により得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に、光学分割により得られた光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を混合することにより、光学活性な2−アミノブタンアミドを高い収率および高い光学純度で含有する光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を得ることができた。また、光学分割の原料となる(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.85)、光学分割の生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.66)、エピマー化の生成物である光学活性な2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:1.03および組成比1:0.93)、ならびに、光学分割の生成物とエピマー化の生成物との混合物である光学活性な2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.76および組成比1:0.75)は、いずれも、(RS)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)および従来公知の(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩(組成比1:0.5)に比べて、吸湿性が低く、取り扱い性に優れていた。
【0074】
かくして、本発明の製造方法によれば、光学活性な2−アミノブタンアミドを高い収率および高い光学純度で含有する光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を簡便に効率よく製造できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の製造方法は、光学活性な2−アミノブタンアミドを高い収率および高い光学純度で含有する光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を工業的規模で簡便に効率よく製造することができるので、この化合物を原料または中間体として用いる医薬品または農薬の製造分野に多大の貢献をなすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩をエピマー化することを特徴とする光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が1:(0.95またはそれ以下)である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が1:0.6〜0.95である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
(RS)−2−アミノブタンアミドを光学分割し、光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を固液分離した後の分離液を用い、この分離液に含まれる(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩をエピマー化する請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
前記(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が1:(1またはそれ以下)である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩における2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が1:0.6〜1である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が1:0.6〜0.95であることを特徴とする(RS)−2−アミノブタンアミドと光学活性な酒石酸との塩。
【請求項8】
2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が1:0.6〜0.95であることを特徴とする光学活性な2−アミノブタンアミド・酒石酸塩。

【公開番号】特開2009−19036(P2009−19036A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152682(P2008−152682)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(000227652)日宝化学株式会社 (34)
【Fターム(参考)】