説明

光学活性なO−メチルセリンまたはその塩の製造法

【課題】 医薬中間体として有用な光学活性なO−メチルセリンまたはその塩を、入手容易な出発物質から安価な試剤を用いて、簡便且つ効率的に工業的規模で実施できる方法を提供する。
【解決手段】 入手が容易である光学活性なN,N−ジベンジル−セリンをO−メチル化し、必要に応じて加水分解した後、更に脱ベンジル化することにより、光学活性なO−メチルセリンまたはその塩を得る。これにより、O−メチルセリンまたはその塩が効率良く製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬中間体として有用な光学活性なO−メチルセリンまたはその塩とその製造に有用な化合物、特にてんかんや疼痛治療薬として有用な(R)−2−アセトアミド−N−ベンジル−3−メトキシプロピオンアミド(ラコサミド)の合成上有用な(R)−O−メチルセリンまたはその塩の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学活性なO−メチルセリンまたはその塩の製造法としては、以下が知られている。
(1)(R)−N−ベンジルオキシカルボニル−セリンメチルエステルに5倍モル量の酸化銀と10倍モル量のヨウ化メチルを3日間作用させることにより(R)−N−ベンジルオキシカルボニル−O−メチルセリンメチルエステルを製造する。続いて加水分解後、パラジウム触媒存在下に水素化することにより(R)−O−メチルセリンを製造する方法(非特許文献1)。
(2)ラセミの1−ベンジルアジリジン−2−カルボキシアミドをアミダーゼで光学分割し、次にルイス酸触媒存在下にメタノールで処理することにより光学活性なN−ベンジル−O−メチルセリンアミドを製造する。続いてパラジウム触媒存在下に水素化することで脱ベンジル化を行い、更に加水分解することにより(S)−O−メチルセリン塩酸塩を製造する方法(非特許文献2)。
(3)ラセミのO−メチルセリンをクロロアセチル化し、豚の腎臓由来のN−アチルアミノ酸アミドヒドロラーゼを用いて不斉水解することにより、(R)−N−クロロアセチル−O−メチルセリンを製造する。続いて塩酸で加水分解することにより(R)−O−メチルセリン塩酸塩を製造する方法(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法は高価な銀と毒性が強いヨウ化メチルを用いてメチル化を行っており、更に反応に長時間必要である点に課題を有する。非特許文献2に記載の方法は高価な出発原料を用い、更に工程が長いため工業的規模での実施に不適である。特許文献1に記載の方法はラセミ体の分割であるため、生産性が低い点とN−クロロアセチル−O−メチルセリンの水溶性が高いために抽出溶剤が大量に必要な点に課題を有している。
【特許文献1】特公昭61−36838
【非特許文献1】Tetrahedron Asymmetry 1998,9,3841−3854.
【非特許文献2】Organic Letters 2007,9(3),521−524.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記に鑑み、本発明の目的は医薬中間体として有用な光学活性なO−メチルセリンまたはその塩を、入手容易な出発原料から安価な試剤を用いて簡便且つ効率的に工業的規模で実施できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討の結果、入手が容易である光学活性なN,N−ジベンジル−セリンをO−メチル化し、更に脱ベンジル化するという簡便な方法で、効率良く光学活性なO−メチルセリンを製造する方法を開発するに至った。
【0006】
即ち本発明は、下記式(2);
【0007】
【化7】

(式中、Rは水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表し、*は不斉炭素原子を表す。)で表される光学活性なN,N−ジベンジル−セリン誘導体またはその塩をO−メチル化することにより、下記式(1);
【0008】
【化8】

(式中、R、*は前記に同じ。)で表される光学活性なN,N−ジベンジル−O−メチルセリン誘導体またはその塩を製造した後、必要に応じて加水分解を行って、下記式(3);
【0009】
【化9】

(式中、*は前記に同じ。)で表されるN,N−ジベンジル−O−メチルセリンまたはその塩を製造し、更に脱ベンジル化することを特徴とする、下記式(4);
【0010】
【化10】

(式中、*は前記に同じ。)で表される光学活性なO−メチルセリンまたはその塩の製造法に関する。
【0011】
また、本発明は、下記式(3);
【0012】
【化11】

(式中、*は不斉炭素原子を表す。)で表されるN,N−ジベンジル−O−メチルセリンの酸またはアルカリ水溶液に、塩基または酸を添加してpHを3〜7に調整することにより前記化合物(3)を結晶として取得することを特徴とする、前記式(3)で表されるN,N−ジベンジル−O−メチルセリンの単離精製法に関する。
【0013】
更に、本発明は、下記式(1);
【0014】
【化12】

(式中、Rは水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表し、*は不斉炭素原子を表す。)で表される光学活性なN,N−ジベンジル−O−メチルセリン誘導体またはその塩に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる方法によれば、医薬中間体として有用な光学活性なO−メチルセリンまたはその塩を、入手容易な出発原料から安価な試剤を用いて簡便且つ効率的に工業的規模で実施することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明で使用する出発物質、並びに生成物について説明する。
【0017】
本発明の出発物質である光学活性なN,N−ジベンジル−セリン誘導体またはその塩は、下記式(2);
【0018】
【化13】

で表される。
【0019】
ここで、Rは水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表す。具体的には例えば、水素原子、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ビニル基、アリル基、メタリル基、ベンジル基、1−フェネチル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。好ましくは水素原子、リチウム、ナトリウム、カリウム、メチル基、エチル基、ベンジル基、フェニル基であり、更に好ましくは水素原子、又はメチル基である。
【0020】
*は不斉炭素原子を表す。なお両対象体のうち、一方の対象体が過剰なものは全て本発明に含まれるものとする。
【0021】
また、前記塩として具体的には例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;蟻酸塩、酢酸塩、ピバル酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、マンデル酸塩、酒石酸塩、ジベンゾイル酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。またRが水素原子の場合は、アンモニウム塩、ジシクロヘキシルアミン塩、1−フェネチルアミン塩、1−(1−ナフチル)エチルアミン塩、エフェドリン塩、シンコニジン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩等のアミン塩も本発明に含まれる。
【0022】
前記化合物(2)は、例えばJ.Chem.Soc.,Perkin Trans I,1995,3073.に記載されているように、光学活性なセリンと塩化ベンジルを水酸化カリウムと相関移動触媒存在下に反応させて製造することにより得ることができる。または、WO2006/038872に記載されているように、光学活性なセリンのエステルと臭化ベンジルを炭酸水素ナトリウム存在下に反応させて製造してもよい。
【0023】
次に、本発明にかかる方法で得られる光学活性なN,N−ジベンジル−O−メチルセリン誘導体またはその塩は、下記式(1);
【0024】
【化14】

で表される。ここで、R、*、塩は前記に同じである。
【0025】
本発明にかかる方法で得られる光学活性なN,N−ジベンジル−O−メチルセリンまたはその塩は、下記式(3);
【0026】
【化15】

で表される。ここで、*、塩は前記に同じである。
【0027】
なお、前記化合物(1)及び(3)は文献に未記載の新規化合物である。
【0028】
本発明にかかる方法で最終的に得られる光学活性なO−メチルセリンまたはその塩は、下記式(4);
【0029】
【化16】

で表される。ここで、*、塩は前記に同じである。
【0030】
続いて本発明にかかる製造法について説明する。
【0031】
まず、前記式(2)で表される光学活性なN,N−ジベンジル−セリン誘導体またはその塩をO−メチル化することにより、前記式(1)で表される光学活性なN,N−ジベンジル−O−メチルセリン誘導体またはその塩を製造する工程について説明する。
【0032】
O−メチル化する方法としては、例えば、酸化銀とヨウ化メチル等のメチル化剤を用いる方法、若しくは塩基存在下にメチル化剤を作用させて行う方法を挙げることができるが、好ましくは塩基存在下にメチル化剤を作用させて行うとよい。
【0033】
塩基としては例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の水酸化アンモニウム;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、リチウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド; ナトリウムアミド、ナトリウムヘキサメチルジシラジド、カリウムヘキサメチルジシラジド、リチウムジイソプロピルアミド等の金属アミド;塩化n−ブチルマグネシウム、塩化tert−ブチルマグネシウム、臭化フェニルマグネシウム等のグリニャール試薬;メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム等のリチウム試薬等が挙げられる。好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水素化ナトリウム、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムヘキサメチルジシラジド、又はn−ブチルリチウムであり、更に好ましくは水素化ナトリウム、ナトリウムtert−ブトキシド、又はカリウムtert−ブトキシドである。塩基の使用量は前記化合物(2)に対して、好ましくは1〜10倍モル量であり、更に好ましくは1〜3倍モル量である。
【0034】
メチル化剤としては例えば、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル等のハロゲン化メチル;ジメチル硫酸、メタンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸メチル等のスルホン酸メチル;トリメチルオキソニウムテトラフルオロボレート等のトリメチルオキソニウム塩;リン酸トリメチル等が挙げられる。好ましくはヨウ化メチル、又はジメチル硫酸であり、更に好ましくはジメチル硫酸である。メチル化剤の使用量は前記化合物(2)に対して、好ましくは0.5〜10倍モル量であり、更に好ましくは1〜3倍モル量である。
【0035】
本反応に用いることができる反応溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;ジメチルプロピレンウレア等のウレア系溶媒;ヘキサメチルホスホン酸トリアミド等のホスホン酸トリアミド系溶媒が挙げられる。好ましくはテトラヒドロフラン、トルエン、又はN,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、その混合比は特に制限されない。前記反応溶媒の使用量としては、前記化合物(2)に対して、好ましくは50倍重量以下、更に好ましくは5〜20倍重量である。
【0036】
反応温度として好ましくは、反応時間短縮、及び収率向上の観点から−50〜50℃であり、更に好ましくは−10〜40℃である。
【0037】
反応時間として好ましくは、収率向上の観点から5分〜20時間であり、更に好ましくは30分〜5時間である。
【0038】
反応の際の化合物(2)、塩基、メチル化剤、及び溶媒の添加方法や添加順序は特に制限されない。
【0039】
反応後の処理としては、反応液から生成物を取得するための一般的な処理を行えばよい。例えば反応終了後の反応液に水、又は塩酸、硫酸、酢酸等の酸水溶液を加えて中和する。次に一般的な抽出溶媒、例えば酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、塩化メチレン、トルエン、ヘキサン等を加えて抽出操作を行う。得られた抽出液から減圧加熱等の操作により、反応溶媒及び抽出溶媒を留去すると目的物が得られる。このようにして得られた目的物は十分な純度を有しているが、純度をさらに高める目的で、晶析、分別蒸留、カラムクロマトグラフィー等の一般的な精製手法により精製してもよい。
【0040】
なお、本反応の出発物質である前記化合物(2)のRが水素原子、又はアルカリ金属である場合、化合物(2)の水酸基がメチル化されるのと同時にカルボキシル基もメチル化されて、Rがメチル基である前記化合物(1)が生成することもあるが、これも本発明の範囲に含まれるものとする。
【0041】
次に、前記式(1)で表される光学活性なN,N−ジベンジル−O−メチルセリン誘導体またはその塩を加水分解することにより、前記式(3)で表されるN,N−ジベンジル−O−メチルセリンまたはその塩を製造する工程について説明する。
【0042】
本加水分解工程は、前記式(1)で表される光学活性なN,N−ジベンジル−O−メチルセリン誘導体またはその塩においてRが水素原子でない場合に行う。
【0043】
加水分解は、酸、又はアルカリのいずれを用いて行ってもよい。
【0044】
酸としては、特に制限はないが、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等が好ましく、アルカリとしては、特に制限はないが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等が好ましい。酸又はアルカリの使用量は前記化合物(1)に対して、好ましくは0.5〜30倍モル量であり、更に好ましくは1〜5倍モル量である。
【0045】
また加水分解に使用する水の量は前記化合物(1)に対して、好ましくは50倍重量以下であり、更に好ましくは5〜20倍重量である。更に反応を加速させる目的で、水と相溶性のある溶媒を添加してもよい。
【0046】
溶媒としては例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。好ましくはメタノール、又はエタノールである。溶媒の使用量は前記化合物(1)に対して、好ましくは50倍重量以下であり、更に好ましくは5〜20倍重量である。
【0047】
反応温度として好ましくは、反応時間短縮、及び収率向上の観点から0〜120℃であり、更に好ましくは20〜80℃である。
【0048】
反応時間として好ましくは、収率向上の観点から5分〜48時間であり、更に好ましくは30分〜24時間である。
【0049】
反応の際の前記化合物(1)、酸またはアルカリ、水、及び溶媒の添加方法や添加順序は特に制限されない。
【0050】
反応後の処理としては、反応液から生成物を取得するための一般的な処理を行えばよい。例えば反応終了後の反応液に塩酸、硫酸、酢酸等の酸、又は水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア、又はトリエチルアミン等の塩基を加えて中和する。次に一般的な抽出溶媒、例えば酢酸エチル、ジエチルエーテル、塩化メチレン、トルエン、ヘキサン等を加えて抽出操作を行う。得られた抽出液から減圧加熱等の操作により、反応溶媒及び抽出溶媒を留去すると目的物が得られる。このようにして得られた目的物は十分な純度を有しているが、純度をさらに高める目的で、晶析、分別蒸留、カラムクロマトグラフィー等の一般的な精製手法により精製してもよい。また塩酸、硫酸、酢酸、シュウ酸、メタンスルホン酸等の酸との塩、若しくはトリエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、1−フェネチルアミン等のアミンとの塩を形成させて造塩晶析をしてもよい。
【0051】
反応後の処理としてより好ましくは、中和晶析にて前記式(3)で表されるN,N−ジベンジル−O−メチルセリンを結晶として単離する方法である。例えば、反応終了後の反応液がアルカリ性の場合、塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、クエン酸等の酸、好ましくは酢酸を添加してpHを3〜7、好ましくはpH4〜6に調整することにより、前記化合物(3)が結晶として析出する。また、反応終了後の反応液が酸性の場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア、又はトリエチルアミン等の塩基、好ましくは水酸化ナトリウムを加えてpHを3〜7、好ましくはpH4〜6に調整することにより、前記化合物(3)が結晶として析出する。析出した結晶は減圧濾過、加圧濾過、又は遠心分離等で濾別し、必要に応じて水やヘキサン、トルエン、メチルtert−ブチルエーテル等の有機溶媒で洗浄、減圧加熱等で乾燥することにより、純度の向上した前記化合物(3)を取得することができる。
【0052】
続いて、前記式(3)で表されるN,N−ジベンジル−O−メチルセリンまたはその塩を脱ベンジル化することにより、前記式(4)で表される光学活性なO−メチルセリンまたはその塩を製造する工程について説明する。
【0053】
脱ベンジル化の方法としては、例えば、遷移金属触媒存在下に水素化する方法が挙げられる。遷移金属触媒として好ましくは、パラジウム、ロジウム、白金であり、更に好ましくはパラジウムである。パラジウムとして好ましくは、パラジウムブラック、パラジウム/炭素、水酸化パラジウム/炭素であり、更に好ましくはパラジウム/炭素である。遷移金属触媒の使用量は、前記化合物(3)に対して0.1倍モル量以下であり、更に好ましくは0.05〜0.0001倍モル量である。
【0054】
本工程の水素圧として好ましくは、1〜100kg/cm2であり、更に好ましくは1〜30kg/cm2である。
【0055】
反応溶媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;ジメチルプロピレンウレア等のウレア系溶媒;ヘキサメチルホスホン酸トリアミド等のホスホン酸トリアミド系溶媒が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。好ましくは、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒であり、更に好ましくは水、メタノール、又は水とメタノールの混合溶媒である。溶媒の使用量としては、前記化合物(3)に対して、好ましくは50倍重量以下、更に好ましくは5〜20倍重量である。
【0056】
反応温度として好ましくは、反応時間短縮、及び収率向上の観点から0〜100℃であり、更に好ましくは10〜60℃である。
【0057】
反応時間として好ましくは、収率向上の観点から30分〜48時間であり、更に好ましくは1〜24時間である。
【0058】
反応の際の前記化合物(3)、遷移金属触媒、水素、及び溶媒の添加方法や添加順序は特に制限されない。
【0059】
反応後の処理としては、反応液から生成物を取得するための一般的な処理を行えばよい。例えば、反応終了後の反応液から減圧濾過、若しくは加圧濾過にて遷移金属触媒を除去した後、減圧加熱等の操作により、反応溶媒を留去すると目的物が得られる。このようにして得られた目的物は、後続工程に使用できる十分な純度を有しているが、後続工程の収率、若しくは後続工程で得られる化合物の純度をさらに高める目的で、晶析、分別蒸留、カラムクロマトグラフィー等の一般的な精製方法により、さらに純度を高めても良い。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0061】
参考例1 (R)−N,N−ジベンジル−セリンの製造
炭酸水素ナトリウム37.80g(450mmol)、水32mL、アセトニトリル80mL、臭化ベンジル34.20g(200mmol)からなる溶液を50℃に加温し、ここに(R)−セリンメチルエステル塩酸塩15.55g(100mmol、100%ee)を15分で添加した。この溶液を50℃で、16時間撹拌した後、反応液を室温まで冷却し、析出している無機塩を減圧濾別した。この無機塩をトルエン20mLで洗浄して、洗浄液を濾液と合わせ、更に洗浄液と濾液の混合液にトルエン40mL、水20mLを加えて抽出した。有機層を飽和食塩水40mLで洗浄後、減圧下に溶媒を留去することにより無色油状物41.51gを得た。この油状物に、水100mL、メタノール50mL、30重量%水酸化ナトリウム水溶液16.00g(120mmol)を加えて50℃で、16時間攪拌した。減圧下にメタノールを留去した後、酢酸を加えてpHを5に調整すると結晶が析出した。5℃に冷却して30分攪拌後、結晶を減圧濾別し、50℃で真空乾燥することにより標題化合物を白色結晶として得た(28.07g、収率97%)。
【0062】
実施例1 (R)−N,N−ジベンジル−O−メチルセリンの製造
60%水素化ナトリウム400mg(10mmol)、テトラヒドロフラン20mLからなる溶液を5℃に冷却し、参考例1にて製造した(R)−N,N−ジベンジル−セリン1.441g(5mmol)を加えて25℃まで昇温した。1時間攪拌後、再度5℃に冷却し、ジメチル硫酸1.260g(10mmol)を加えた。25℃に昇温して2時間攪拌後、水10mLを加えて水解した。減圧下にテトラヒドロフランを留去し、残渣に酢酸を加えてpHを4.5に調整、メチルtert−ブチルエーテル20mLを加えて抽出した。有機層を水10mLで2回洗浄後、減圧濃縮することにより無色油状物1.9878gを得た。この油状物は、分析の結果、(R)−N,N−ジベンジル−O−メチルセリンと(R)−N,N−ジベンジル−O−メチルセリンメチルエステルのモル比1:3.6の混合物であった。
【0063】
上記油状物にメタノール5mL、水5mL、30重量%水酸化ナトリウム水溶液1.33g(10mmol)を加えて50℃、20時間攪拌した。減圧下にメタノールを留去した後、酢酸を加えてpHを4.5に調整すると結晶が析出した。5℃に冷却して30分攪拌後、結晶を減圧濾別し、50℃で真空乾燥することにより標題化合物を白色結晶として得た(1.2916g、純度82.8重量%、収率71%)。
1H−NMR(CDCl3、400MHz/ppm):δ3.38(3H,s)、3.55(1H,m)、3.78−4.16(3H,m)、3.90(4H,dd)、5.7(1H,brs)、7.26−7.34(10H,m)
【0064】
実施例2 (R)−O−メチルセリンの製造
実施例1にて製造した(R)−N,N−ジベンジル−O−メチルセリン722mg(2mmol)、メタノール10mL、水5mL、10重量%パラジウム/炭素(50%含水品)60mgからなる溶液を常圧水素雰囲気下、25℃で、20時間攪拌した。パラジウムを減圧濾別後、水10mLで洗いこみ、濾液を減圧濃縮した。残渣にエタノール10mLを加えて減圧濃縮し、残渣にエタノール10mLを加えると結晶が析出した。5℃に冷却して30分攪拌後、結晶を減圧濾別し、50℃で真空乾燥することにより標題化合物を白色結晶として得た(185.8mg、収率78%)。このものの光学純度を測定(カラム:SUMICHIRAL OA5000 4.6×150mm、溶離液:2mM硫酸銅水溶液、カラム温度:35℃、流速:1.0mL/分、検出器:UV254nm、保持時間:(S)体=7.9分、(R)体=11.2分)すると、99.5%eeであった。
1H−NMR(D2O、400MHz/ppm):δ3.23(3H,s)、3.62−3.64(2H,m)、3.75−3.77(1H,m)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2);
【化1】

(式中、Rは水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表し、*は不斉炭素原子を表す。)で表される光学活性なN,N−ジベンジル−セリン誘導体またはその塩をO−メチル化することにより、下記式(1);
【化2】

(式中、R、*は前記に同じ。)で表される光学活性なN,N−ジベンジル−O−メチルセリン誘導体またはその塩を製造した後、必要に応じて加水分解を行って、下記式(3);
【化3】

(式中、*は前記に同じ。)で表されるN,N−ジベンジル−O−メチルセリンまたはその塩を製造し、更に脱ベンジル化することを特徴とする、下記式(4);
【化4】

(式中、*は前記に同じ。)で表される光学活性なO−メチルセリンまたはその塩の製造法。
【請求項2】
前記O−メチル化を塩基とジメチル硫酸を作用させて行うことを特徴とする、請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
Rが水素原子又はメチル基である、請求項1又は2に記載の製造法。
【請求項4】
下記式(3);
【化5】

(式中、*は不斉炭素原子を表す。)で表されるN,N−ジベンジル−O−メチルセリンの酸またはアルカリ水溶液に、塩基または酸を添加してpHを3〜7に調整することにより前記化合物(3)を結晶として取得することを特徴とする、前記式(3)で表されるN,N−ジベンジル−O−メチルセリンの単離精製法。
【請求項5】
下記式(1);
【化6】

(式中、Rは水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表し、*は不斉炭素原子を表す。)で表される光学活性なN,N−ジベンジル−O−メチルセリン誘導体またはその塩。
【請求項6】
Rが水素原子又はメチル基である、請求項5に記載の光学活性なN,N−ジベンジル−O−メチルセリン誘導体またはその塩。

【公開番号】特開2010−37206(P2010−37206A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197987(P2008−197987)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】