説明

光学活性アミン誘導体の製造方法

【課題】 副生成物の生成を制御した、純度の高い光学活性アミン誘導体の製造方法の提供。
【解決手段】 (E)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)エチルアミンを不斉還元反応に付し、さらに得られた反応生成物を反応温度40℃〜100℃、pH3〜9で接触還元して得られた(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンをプロピオニル化反応に付し、反応液から結晶を晶出させることにより、副生成物の生成を制御した、高純度の光学活性アミン誘導体の収率の高い工業的製造法の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副生成物の生成を制御した、純度の高い光学活性アミン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(E)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)エチルアミン塩酸塩を出発原料として不斉還元により(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミン塩酸塩を製造する方法については特許文献1および2に開示されているが、いずれも副生成物の生成を抑え、高純度の(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミン塩酸塩の結晶を高収率で製造する工業的製造法としては十分とはいえず、特に下記式(III’)および(IV’)で表される副生成物の制御が課題であった。
【化1】

一方、ベンゾフラン化合物のPd触媒存在下におけるダイマー化については、非特許文献1および2に記載に記載されているが、これらの事例は芳香環同士の結合による二量化であり、上記式(IV’)で表される化合物のような芳香環とベンジル位との反応により生成するダイマーとは構造が異なっている。また、非特許文献3ではPd触媒存在下においてベンゾフラン化合物のベンジル位の酸化が起こることは記載されているが、ダイマーの生成については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−140073号公報
【特許文献2】特開2002−212063号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Liebigs. Ann. Chem., 10,945 (1989)
【非特許文献2】J. Chem. Soc. (A), 1324 (1968)
【非特許文献3】J. Chem. Soc. D, 736 (1970)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、副生成物の生成を制御した、高収率で、かつ、高純度の光学活性アミン誘導体の工業的製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、光学活性アミン誘導体の製造工程において、Pd−Cを用いた接触還元時における反応液およびその反応液の後処理における溶液のpHおよび温度を制御することにより、上記式(III’)および(IV’)で表される副生成物の生成が制御できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)工程(i):(E)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)エチルアミンまたはその塩を、触媒を用いて不斉還元する工程、および
工程(ii):工程(i)で得られた反応生成物を反応温度40℃〜100℃、pH3〜9で触媒を用いて接触還元する工程を含む(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンまたはその塩の製造方法、
(2)工程(ii)における反応温度が50℃〜70℃であることを特徴とする上記(1)記載の製造方法、
(3)工程(ii)におけるpHが5〜7であることを特徴とする上記(1)記載の製造方法、
(4)工程(i)における触媒が、Ru−BINAP触媒であることを特徴とする上記(1)記載の製造方法、
(5)工程(ii)における触媒が、Pd−C触媒であることを特徴とする上記(1)記載の製造方法、
(6)工程(a):上記(1)記載の製造方法で得られた(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンまたはその塩のアミノ基をプロピオニル化する工程と、
工程(b):工程(a)で得られた反応液に水系溶媒を添加し、結晶を晶出させる工程とを含む(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド結晶の製造方法、
(7)下記式(I)、(II)、(III)および(IV)で表される化合物の各含有量が0.15重量%以下であり、かつ下記式(I)〜(IV)で表される化合物の総含有量が0.2重量%以下である(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドの結晶、
【化2】

(8)下記式(I)、(III)および(IV)で表される化合物の各含有量が0.15重量%以下であり、下記式(II)で表される化合物の含有量が0.02〜0.15重量%であって、かつ下記式(I)〜(IV)で表される化合物の総含有量が0.2重量%以下である(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドの結晶、
【化3】

(9)式(I)で表される化合物の含有量が0.10重量%以下である上記(7)または(8)記載の結晶、
(10)(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド、ならびに下記式(I)、(II)、(III)および(IV)で表される化合物を含有し、
(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド 100重量部に対して、
下記式(I)、(II)、(III)および(IV)で表される化合物の量がそれぞれ0〜0.15重量部であり、
かつ下記式(I)〜(IV)で表される化合物の量の合計が0〜0.2重量部である組成物、
【化4】

(11)(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド、ならびに下記式(I)、(II)、(III)および(IV)で表される化合物を含有し、
(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド100重量部に対して、下記式(I)、(III)および(IV)で表される化合物の量がそれぞれ0〜0.15重量部であり、下記式(II)で表される化合物の量が0.02〜0.15重量部であり、
かつ下記式(I)〜(IV)で表される化合物の量の合計が0〜0.2重量部である組成物、
【化5】

(12)(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド100重量部に対して、下記式(I)で表される化合物の量が0〜0.10重量部である上記(10)または(11)記載の組成物、
【化6】

(13)商業的規模で調製される上記(7)記載の結晶または上記(10)記載の組成物、
(14)4,5−ジブロモ−1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オンを、条件:
水素圧(MPa)>−0.02×気液間の総括物質移動容量係数(1/hr)+0.43
の下で、Pd−C触媒を用いて還元する工程を含む1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オンの製造方法、
(15)睡眠障害の予防または治療剤の製造のための上記(7)記載の結晶の使用、
(16)睡眠障害の予防または治療剤である上記(10)記載の組成物、および
(17)上記(8)記載の結晶または上記(10)記載の組成物を投与することを特徴とする、睡眠障害の予防または治療の方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド結晶中の化合物(I)〜(IV)の分析結果を示すHPLCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンの塩としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸との塩、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸との塩などが挙げられる。
また、本発明の(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンまたはその塩の製造に使用する原料化合物である(E)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)エチルアミンは、例えば、特開2002−212063号公報等に記載の方法、すなわち、4,5−ジブロモ−1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オンをPd−Cなどの接触還元触媒で接触還元し、得られた1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オンをシアノメチルホスホン酸ジエチルと反応させ、ついでコバルト触媒によって水素化する方法、またはそれに準じた方法で製造することができる。
【0009】
当該接触還元工程においては、4,5−ジブロモ−1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オンの接触還元は、4,5−ジブロモ−1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オン、有機溶媒、および所望により塩基を混合し、好ましくは系内を窒素置換した後、接触還元触媒を添加して、水素で加圧し、攪拌して行う。
ここで、副生成物(具体的には二量体)の生成抑制の観点から、
水素圧(MPa)>−0.02×気液間の総括物質移動容量係数(1/hr)+0.43
の不等式を満たす水素圧および気液間の総括物質移動容量係数の下で反応を行わせることが好ましい。ここで、気液間の総括物質移動容量係数は、後記する実施例1で詳述するように、NaSO法で測定される。
また、本反応における水素圧は、通常0.1〜1MPa、好ましくは0.3〜0.5MPaである。
【0010】
気液系において、ガスが単位接触面積当たりに溶液中に溶解する速度NAは、固液系の溶解速度や液液系の抽出速度、さらには対流伝熱などの移動現象を考える場合と同様に表現することができ、(物質移動係数)×(濃度差)の形で与えられる。
NA=KL(C1-C) (1)
ここで、KLは液側物質移動係数、C1は気泡中のガス分圧と平衡な濃度、Cは任意の時刻における飽和濃度であり、(C1-C)がガス吸収推進力となる。
また、Aを気液の接触面積、VLを液体積とすれば、液中のガス濃度が増加していく速度VLdC/dtはガスの溶解速度に等しいので、
NAA=VLdC/dt (2)
と考えることができる。
よって、(1)(2)式より
dC/dt=KLA(C1-C)/VL (3)
が成立する。
さらにA/VLを単位面積当たりの気液界面積 aとおけば、
dC/dt=KLa(C1-C) (4)
となる。
気液撹拌操作において、単独で気液界面積aを求めることは困難なため、aと液側物質移動係数KLの積である液側物質移動容量係数KLaが、ガス吸収性能を表現する指標として用いられる。
また、一般に撹拌速度を上げれば、気液界面積 aは大きくなることから、撹拌速度と共にKLaは大きくなるといえる。
【0011】
本反応で使用する有機溶媒としては、ギ酸、酢酸、メタノール、エタノール、N−メチルピロリドンなどが挙げられ、特に好ましくはメタノールである。これらの溶媒は、単独でも、また2種以上を混合して用いてもよい。溶媒の使用量としては、原料化合物1gに対し5〜100mL、好ましくは15〜25mLである。
本反応で使用する塩基としては、無水酢酸ナトリウム、EtN、ピリジン、NaHCO、NaCO等が挙げられる。特に好ましくは無水酢酸ナトリウムあるいはEtNである。塩基の使用量としては、通常、例えば2〜3倍molである。
本反応で使用する接触還元触媒としては、Pd−C、PtO、Rh−Al、(RhCl[P(C)などが挙げられる。接触還元触媒の使用量としては、工程(i)で使用する原料化合物1molに対して1/10倍mol〜5/1000倍mol、好ましくは1/100倍mol〜3/100倍molである。
本反応の反応温度は、通常10℃〜100℃、好ましくは30℃〜50℃であり、反応時間は通常1〜50時間、好ましくは2〜10時間である。
【0012】
本発明で用いられる(E)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)エチルアミンは、フリー体であっても塩を形成していても使用することができる。このような塩としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸との塩、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸との塩などが挙げられる。
【0013】
本発明に係る(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンまたはその塩の製造方法は、原料化合物の(E)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)エチルアミンまたはその塩を不斉還元する工程(i)と、工程(i)で得られた反応生成物中の副生成物を接触還元することによって目的化合物に導く工程(ii)を含んでいる。
工程(i)における不斉還元は触媒を用いて行うが、このような不斉還元触媒としては、例えば、ルテニウム−光学活性ホスフィン錯体(Ru−BINAP)、ロジウム−光学活性ホスフィン錯体(Rh−BINAP)、イリジウム−光学活性ホスフィン錯体(Ir−BINAP)などが挙げられる。
Ru−BINAP触媒としては、具体的には、RuCl[(R)−BINAP]N(C、{RuCl(Benzene)[(R)−BINAP]}Cl、{RuCl(p−Cymene)[(R)−BINAP]}Cl、{RuBr(p−Cymene)[(R)−BINAP]}Br、{RuI(p−Cymene)[(R)−BINAP]}I、{RuI(p−Cymene)[(R)−BINAP]}I等が挙げられ、これらの触媒は公知の方法、例えば、特公平7−57758、特開平11−140073等に記載の方法に従って製造することができる。
不斉還元触媒としては、好ましくは{RuCl(Benzene)[(R)−BINAP]}Clが用いられる。
【0014】
工程(i)の不斉還元反応は、原料化合物として(E)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)エチルアミンの塩を使用する場合は、これをアルカリ処理によりフリー体とし、有機溶媒に溶解した後、不斉還元触媒を添加して加圧下の水素雰囲気下で行う。
該有機溶媒としては、芳香族炭化水素(トルエン、ベンゼン等)、アルコール類(メタノール、エタノール等)、脂肪族エステル類(酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル等)、エーテル類(イソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、ジクロロエタン等)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド等)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でも、また2種以上を混合して用いてもよいが、好ましくはトルエンとメタノールの混合溶媒、テトラヒドロフランとメタノールの混合溶媒などである。溶媒の使用量としては、原料化合物1gに対し1〜1000ml、好ましくは2〜20mlである。
【0015】
本反応で使用する不斉還元触媒の添加量としては、原料化合物1molに対して1/2倍mol〜1/2000倍mol、好ましくは1/10倍mol〜1/1000倍molであり、水素圧は、0.5〜15MPa、好ましくは3〜11MPaである。
また、反応温度は、0〜150℃、好ましくは10〜80℃であり、反応時間は0.5〜200時間、好ましくは5〜50時間である。
【0016】
上記工程(ii)の接触還元反応は、工程(i)で得られた反応液を用いて行う。工程(i)で得られた反応液中には、下記式(III’)で表される化合物が副生成物として含有されており、本工程(ii)はこの副生成物を接触還元により目的化合物である(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンに導くものである。
【化7】

【0017】
上記工程(ii)の反応は以下のようにして行う。すなわち、工程(i)で得られた反応液に、10℃以下の温度で反応生成物を溶解するのに十分な量の希塩酸を添加し、撹拌または震盪して反応生成物を水層に移した後、水層を分離する。次いで、得られた水層は希苛性ソーダ水溶液などのアルカリでpH3〜9、好ましくはpH5〜7に調整し、接触還元触媒を添加して加圧下の水素雰囲気下で行う。
本反応で使用する接触還元触媒としては、Pd−C、PtO、Rh−Al、(RhCl[P(C)などが挙げられる。接触還元触媒の使用量としては、工程(i)で使用する原料化合物1molに対して1/2倍mol〜1/2000倍mol、好ましくは1/10倍mol〜1/500倍molであり、水素圧は、0.5〜15MPa、好ましくは3〜11MPaである。
また、反応温度は、40〜100℃、好ましくは50〜70℃であり、反応時間は0.5〜200時間、好ましくは3〜20時間である。
接触還元反応によって得られた反応液は、ろ過によって触媒を除いた後、自体公知の方法(濃縮、晶出、再結晶、クロマトグラフィーなど)を用いて処理を行うことにより、(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンを得ることができる。
また、得られた(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンは、慣用の方法により所望の塩に変換することができる。
【0018】
上記工程(ii)の反応および反応液の後処理をpHのコントロールを行わずに、すなわち、約pH1以下の強酸性の条件下で行うと、副生成物である上記ベンゾフラン誘導体(III’)が5〜10%程度、ジヒドロベンゾフラン二量体(IV’)が0.2%程度生成するが、本発明のpH3〜9、好ましくはpH5〜7の条件下で行うことによりこれらの副生成物の生成量をそれぞれ0.07%以下、0.02%以下とすることができる。
【0019】
次に、本発明に係る(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド結晶の製造方法について説明する。該製造方法は(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンのアミノ基をプロピオニル化する工程(a)と工程(a)で得られた反応液から結晶を晶出させる工程(b)からなる。すなわち、工程(a)では、上記の製造方法で得られた(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンのアミノ基をプロピオニル化剤と反応させてプロピオニル化する。原料の(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンが塩を形成している場合は、慣用の方法によりフリー体とした後、プロピオニル化反応に付す。プロピオニル化剤としてはプロピオニルクロライド、プロピオニルブロマイドなどのプロピオニルハライドが挙げられる。プロピオニル化剤の使用量は、(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミン1molに対して1〜2molの割合である。
反応は溶媒中で行うが、該溶媒としてはテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサンなどの炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類などの溶媒もしくはそれらの混合溶媒などが挙げられ、なかでもテトラヒドロフランが好ましい。反応時間は通常5分〜48時間、好ましくは30分〜6時間である。反応温度は通常−20〜200℃、好ましくは−10〜50℃である。
【0020】
工程(b)では、工程(a)で得られた反応液中に水系溶媒を添加し、(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドの結晶を晶出させる。該水系溶媒としては、市水、純水、精製水などが挙げられる。水系溶媒の添加量は、工程(a)で得られた反応液に対して容積比で0.5〜5である。晶出温度は通常−20〜60℃、好ましくは−10〜40℃である。
析出した結晶をろ取することにより(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドの結晶が97%という高収率で得られる。得られた結晶は、さらにエタノール−水(1:2)から再結晶することにより高純度の(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドの結晶を得ることができる。
【0021】
本発明の製造方法で得られた(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドの結晶は、不純物として下記式(I)〜(IV)で表される化合物(本明細書中、それぞれ化合物(I)〜(IV)と称する場合がある)を含有する可能性が考えられるが、化合物(I)〜(IV)の各含有量は全て0.15重量%以下であって、かつ、化合物(I)〜(IV)の総含有量としては約0.20重量%以下である。
【化8】

例えば、本発明の製造方法で得られた(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドの結晶は、化合物(III)および(IV)の含有量はいずれも0.02重量%未満の検出限界(HPLC)以下であり、化合物(I)の含有量は約0.1重量%以下(好ましくは、約0.03重量%以下)で、化合物(II)の含有量は約0.02〜約0.15重量%であり、かつ化合物(I)〜(IV)の総含有量としては約0.20重量%以下である。
上記のように、不純物の含有量を制御することによって、より高品質の(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドの結晶を製造することが可能となり、その結果として純度の向上に伴う結晶化度の向上、安定性の向上等が期待される。さらに、(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドを医薬として使用する場合、不純物の削減は患者への品質保証の観点からも極めて重要な意義を有している。本発明によれば、かかる結晶は、商業規模においても、製造可能である。また、かかる結晶を用いることによって、公知の方法により、本発明の組成物を製造することができる。
【0022】
本発明に係る(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドは、メラトニン受容体親和性などの生理活性を有し、また毒性が低く、副作用も少ないため、例えば睡眠覚醒リズム障害、時差ボケ(jet lag)、三交替勤務等による体調の変調、季節的憂鬱病、生殖および神経内分泌疾患、老人性痴呆、アルツハイマー病、老化に伴う各種障害(例えば、老化防止など)、脳循環障害(脳卒中など)、頭部外傷、骨髄損傷、ストレス、てんかん、痙攣、不安、うつ病、パーキンソン病、高血圧、緑内症、癌、不眠症、糖尿病、群発頭痛などの予防・治療に使用でき、さらに、免疫調節、向知能、精神安定または排卵調整(例、避妊)に対しても有効である。
【0023】
本発明化合物は、抗うつ剤(例、イミプラミン、クロミプラミン、ノキシプチリン、フェネルジン、塩酸アミトリプチリン、塩酸ノルトリプチリン、アモキサピン、塩酸ミアンセリン、塩酸マプロチリン、スルピリド、マレイン酸フルボキサミン、塩酸トラゾドン、塩酸パロキセチン、塩酸ミルナシプラン、フロキセチン、ベンラファキシン、ミトラザピン、サートラリン、シタロプラム、デュロキセチン、レボキセチン、モクレベマイド)、
抗不安薬(例、ジアゼパム、オキサゾラム、ブロマゼパム、アルプラゾラム、クロナゼパム、ブスピロン、クエン酸タンドスピロン)、気分安定薬(例、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)、抗痴呆剤(例、タクリン(tacrine)、ドネペジル(donepezil)、リバスチグミン(rivastigmine)、ガランタミン(galantamine)、メマンチン)、抗精神病薬(例、ハロペリドール、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、ジプラシドン、クロルプロマジン、スルピリド、アリピプラゾール)、抗てんかん薬(例、フェノバルビタール、ギャバペンチン、チアガビン、プレギャバリン)、脳循環改善剤、脳代謝賦活剤などと併用して用いることができる。投与形態としては、例えば、(1)本発明化合物と併用薬物とを同時に製剤化して得られる単一の製剤の投与、(2)本発明化合物と併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、(3)本発明化合物と併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、(4)本発明化合物と併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、(5)本発明化合物と併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与(例えば、本発明化合物→併用薬物の順序での投与、あるいは逆の順序での投与)などが挙げられる。併用薬物の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、本発明化合物と併用薬物との配合比は、投与対象、投与ルート、対象疾患、症状、組み合わせなどにより適宜選択することができる。例えば、投与対象がヒトである場合、本発明化合物1重量部に対し、併用薬物を0.01〜100重量部用いればよい。
【0024】
本発明に係る(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドは、医薬品原料としてJet mil等で粉砕して使用することが可能で、1〜10μm程度の粒子径(メジアン径)に調整して製剤の含量均一性等を保証することができる。
粒度は、次のようにして、市販の測定装置を用いて測定できる。
本品0.05gを100mLの共栓付き三角フラスコに量り入れ、分散媒50mLを加え、振り混ぜながら超音波を約5分照射し、懸濁液とする。分散媒40mL中にこの懸濁液を約100μL加え、以下に示す条件で試験を行う。
[分散媒]
(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドを飽和させた0.1%ラウリル硫酸ナトリウム溶液
[装置]
HELOS system KF (Sympatec GmbH)
HELOS sensor
CUVETTE dispersion unit (wet disperser)
HELOS standard software: WINDOX 3.2 (for Windows) or equivalent
[測定条件]
Focal length: 100 mm
Stirring speed: 50%
Sampling time: 1 second
Measurement time: 10 seconds
当該化合物は、単独で、または常法(例えば、日本薬局方記載の方法等)に従って、薬理学的に許容される担体を混合した医薬組成物、例えば錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、乳剤、懸濁剤、注射剤、坐剤、徐放剤、貼布剤などとして、経口的または非経口的(例、局所、直腸、静脈投与等)に安全に投与することができる。当該化合物の医薬組成物中の含有量は、通常、組成物全体の約0.01ないし100重量%である。
【0025】
次に、参考例および実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。なお、各参考例、実施例中の各略称は次の意味を表す。
DBF:2,3−ジヒドロベンゾフラン、
FBA:2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−カルバルデヒド、
PPN:(E)−3−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)プロペン酸エチル、
PPE:3−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)プロピオン酸エチル、
DBA:3−(6,7−ジブロモ−2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)プロピオン酸、
BIF:4,5−ジブロモ−1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オン、
THI:1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オン、
ICN:(E)−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)アセトニトリル、
EAI・HCl:(E)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)エチルアミン塩酸塩、
(S)−AMI・HCl:(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミン塩酸塩
【実施例】
【0026】
参考例1
2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−カルバルデヒド
【化9】

2,3−ジヒドロベンゾフラン100g(832mmol),N,N−ジメチルホルムアミド 134g(1830mmol)を混合して加熱し、オキシ塩化リン255g(1643mmol)を内温 70〜80℃で2時間かけて滴下した。混合物を内温80〜90℃で加熱し7.5時間攪拌した後冷却下、 水 1000g中に滴下し室温で5時間攪拌した。トルエンを用いて抽出し、水,飽和重曹水,水を用いて順次洗浄後、有機層を減圧下濃縮し表題化合物のトルエン溶液(収量340g,見掛け収率100%)を得た。
【0027】
参考例2
(E)−3−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)プロペン酸エチル
【化10】

前工程の2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−カルバルデヒド(832mmol)/トルエン溶液340gに冷却下でトリエチルホスホノアセタート205g(916mmol)を滴下した。続いて、t−ブトキシナトリウム88.0g(1187mmol)をトルエン530gに懸濁した液を滴下し1時間攪拌した後、さらに酢酸20g,水500gを滴下した。室温に昇温してから分液し、有機層を飽和重曹水、水の順に洗浄後、有機層を300mL以下まで減圧下濃縮し、メタノール396gを加え加熱溶解した。室温で水500gを滴下して攪拌し結晶を析出させ、ろ取後減圧乾燥して表題化合物(収量161g,収率88.1%)を得た。
【0028】
参考例3
3−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)プロピオン酸エチル
【化11】

(E)−3−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)プロペン酸エチル(50.0g,227mmol)を酢酸312gに溶解させ、系内を窒素置換した後、5%Pd/C4.96g(乾燥重量として)を添加し、水素で196〜294kPaまで加圧する。50℃、圧力196〜294kPaで1時間反応させ、触媒を濾過し酢酸208gで洗浄して表題化合物(収量569g,見掛け収率100%)の酢酸溶液を得た。
【0029】
参考例4
3−(6,7−ジブロモ−2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)プロピオン酸
【化12】

前工程からのPPE/酢酸溶液(569g,227mmol)に無水酢酸ナトリウム18.6gを加え、撹拌冷却下に臭素222gを2時間かけて滴下後室温で4時間反応し、冷却した15%亜硫酸ナトリウム水溶液670mLに滴下し、30分撹拌した。アセトニトリル118gを加え、2時間加熱還流下反応後、徐冷し1時間撹拌して晶出させ濾過し水で洗浄後減圧乾燥を行い、表題化合物(収量 63.3g、収率73.2%)を得た。
【0030】
参考例5
4,5−ジブロモ−1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オン
【化13】

3−(6,7−ジブロモ−2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)プロピオン酸40.0g、114mmol)、o−ジクロロベンゼン182g、N,N−ジメチルホルムアミド0.1gを混合し、内温42℃で塩化チオニル17.7g(149mmol)を滴下し、30〜40分攪拌し酸クロリド溶液を得た。次に、氷冷下で無水塩化アルミニウム17.5g(132mmol)を数回に分けて添加し30分攪拌した。別途メタノール475gを準備し、このメタノール中に反応液を滴下して晶出させた。晶出液に冷却下水76gを滴下し30分撹拌した後濾過し、湿結晶を順次メタノール,水,飽和重曹水,水,メタノールで洗浄後減圧下乾燥を行い、表題化合物31.6g(収率92.2%)を得た。
【0031】
実施例1
1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オン
【化14】

(1)4,5−ジブロモ−1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オン280kg(843mol)、無水酢酸ナトリウム173kg(2109mol)、メタノール6384Lを混合し、系内を窒素置換後10%Pd/C 30.8kg(乾燥重量として)を添加し、水素で0.29〜0.49MPaまで加圧し、気液間の総括物質移動係数Ka(1/hr)がおよそ15になる攪拌速度で攪拌しながら、約40℃で8時間接触還元した。触媒を濾過し、濾過液を減圧下濃縮し、更に水を加え減圧下濃縮して溶媒置換を行い、冷却し1時間攪拌し熟成させた。晶出液を濾過し、表題化合物の湿結晶を得た(収量127kg(乾燥重量として),収率86.6%)。当該湿結晶中の二量体含量はそれぞれ0.1重量%未満であった。
(2)精製工程
湿結晶(乾燥重量として127kg)、活性炭白鷺A(商品名)6kg、メタノール1723Lを混合し、還流下1時間攪拌後濾過した。濾洗液を減圧下濃縮後1時間還流し冷却した。冷却下水306Lを滴下し、1時間熟成後析出物を濾過し減圧乾燥を行い表題化合物を得た。(収量117kg,収率92.1%)
(3)気液間の総括物質移動係数
ここで、気液間の総括物質移動係数はNaSO法によって測定した。
1)NaSO法(亜硫酸ソーダ法)
(a)原理
亜硫酸ソーダ(NaSO)は、その水溶液において、空気中から取り込まれた酸素と反応して硫酸ソーダ(NaSO)となるが、その反応速度は酸素の吸収速度に比べ十分に速い(酸素吸収が律速段階)。そのため、亜硫酸ソーダの濃度変化を測定することにより、酸素の吸収速度(N)を知ることができる。
このとき、気液間の総括物質移動容量係数Kaは次式によって定義される。
=Ka(C−C)
この測定系では実際上、亜硫酸ソーダ水溶液中の溶存酸素の濃度は0とみなせるので
a=N/C
となる。一方、水溶液中の酸素の溶解度は、ヘンリーの法則を用いると
=p/H
と表せるから、これらよりKaを算出することができる。
なお、上記式中の記号は以下の意味を有する。
a:気液間総括物質移動容量係数[1/Hr]
:酸素吸収速度[mol/L・Hr]
C:液体中の酸素濃度[mol/L]
:酸素の飽和溶解度[mol/L]
p:気相中の酸素の分圧[Pa]
H:ヘンリー定数[Pa・L/Hr]
【0032】
(b)測定法
(i)1Lオートクレーブ(ハイパーグラスター TEM−V−1000型)に純水475ml(BIF23.34g仕込スケールと同じ液量)を仕込む。
(ii)NaSO9.5gを投入し約2分間掻き混ぜて溶解する。
(iii)予め調整した0.1mol/LCuSO溶液4.75mlをNaSO水溶液に加えた後(添加後のCuSO濃度=1×10−3M)、1分間ゆっくり攪拌する(反応開始)。
(iv)直ちに溶解液から10mlを正確にサンプリングし、下記(c)の要領で滴定する。(滴定量=T[ml])
(v)所定の回転速度で一定時間△θ(=1.0[Hr])攪拌する。この時、オートクレー部内気相部の酸分圧の低下を防止するため、容器上部に一定量の空気を流す。(200ml/L程度)
(vi)(v)の液から10mlを正確にサンプリングし、下記(c)の要領で滴定する。(滴定量=T[ml])
(vii)滴定結果から、次式により酸素吸収速度Nを算出する。ここでFはN/10ヨウ素溶液試薬のファクターを示す。
【数1】

【0033】
(c)滴定法(亜硫酸ソーダの滴定法)*1
(i)純水100ml、酢酸‐酢酸ソーダ緩衝液*2 10ml、N/10ヨウ素溶液試薬40mlを入れた200ml三角フラスコを予め用意しておく。
(ii)これにサンプル液10mlを静かに加える。
(iii)約5分後、デンプン溶液*3を指示薬(0.5〜1ml)としてN/10チオ硫酸ナトリウム溶液で滴定する。
*1:滴定原理としては、サンプリング液中に存在する亜硫酸根をヨウ素で酸化した後、残ったヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定するもので、各段階はそれぞれ次のような反応式で表される。
亜硫酸根の酸化:NaSO+I+HO→2NaI+HSO
ヨウ素の滴定:I+2Na→2NaI+Na
*2:酢酸ソーダ(CHCOONa・3HO)75gを酢酸水(CHCOOH:HO=1:2)500mlに溶解する。
*3:デンプン1.0gを水10mlで擦り混ぜたものを200mlの熱湯中に攪拌しながら仕込む。これが半透明になるまで煮沸した後、放冷する。
【0034】
参考例6
(E)−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)アセトニトリル
【化15】

トルエン184g、1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オン8.5g(48.9mmol)およびシアノメチルホスホン酸ジエチル10.4g(58.7mmol)溶液に氷冷下で28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液11.3gを1時間かけて滴下し4時間反応した。反応液に水85gを滴下後加温し、分液して有機層を水で洗浄し、有機層を加圧下除塵濾過を行った。有機層を減圧下で濃縮し、メタノールを加え減圧下濃縮して溶媒置換を行った。加熱還流下1時間攪拌した後、冷却して1時間熟成した。晶出液を濾過し減圧下乾燥を行い表題化合物 (収量8.1g、収率84.4%)を得た。
【0035】
参考例7
(E)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)エチルアミン塩酸塩
【化16】

(E)−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)アセトニトリル(10.0g,50.7mmol)のトルエン(37.5mL)及びメタノール(12.5mL)混合懸濁液に活性コバルト(7.22g)および14.4%水酸化カリウム水溶液(1.4g)を加えて、水素雰囲気下(0.2MPa)、34〜50℃で6.5時間攪拌した。反応液をろ過した後、ろ液にトルエン(170mL)およびメタノール(35mL)を加えて分液した。有機層に0.5N塩酸(101mL)を加えて25〜30℃下で30分間攪拌した後分液し、水層に活性炭(1g)を加えて攪拌した。活性炭をろ過し、表題化合物の水溶液(246g、Net12.0g、収率99.6%)を得た。
【0036】
実施例2
(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミン塩酸塩
【化17】

(E)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)エチルアミン塩酸塩の水溶液1979kg(Net122kg,513mol)にトルエン(532L)および5%水酸化ナトリウム水溶液(456L)を加えて攪拌後分液し、有機層にメタノール(155kg)および[RuCl(benzene)(R)−BINAP]Cl(894g)を窒素雰囲気下で加えて、水素雰囲気下(4.9MPa),80℃で15時間攪拌した。反応液を冷却し、30℃以下で水(330L)および濃塩酸(52.3kg)を加え30分間攪拌後、分液した。水層をトルエン(195L)で洗浄後、水層に5%NaOH水溶液を加えてpHを6.0付近に調整した(化合物III’5.0%含有)。5%Pd−C(50% wet,9.7kg)を加えて、水素雰囲気下(4.9MPa),60℃で6時間攪拌した。濾過後、5%NaOH水溶液あるいは希塩酸でpH6.0付近に調整後、減圧下で濃縮し残留物をノルマルブタノールおよび水の混合液から再結晶して、表題化合物(88.6kg,収率73.0%,化合物(III’)未検出、化合物(IV’)未検出)を得た。
なお、得られた表題化合物の結晶中の化合物(III’)および化合物(IV’)(二量体)の含有量は以下の条件下でHPLCにより測定を行った。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220nm)
カラム:Develosil UG−3,4.6mmi.d.x 75mm
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:0.1mol/L リン酸二水素カリウム(pH 3.0)/メタノール混液(75:25)
【0037】
実施例3
(i)(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド
【化18】

(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミン塩酸塩(74kg,309mol)のテトラヒドロフラン(185L)および市水(259L)混合液に、30%水酸化ナトリウム水溶液(70L)およびプロピオニルクロライド(32.8kg)を加えて、室温下で1時間攪拌した。反応液に市水(592L)を加えて冷却した。析出結晶をろ取後、減圧下で乾燥して、表題化合物(78.0kg,収率97.4%)を得た。
(ii)精製工程
(i)で得られた結晶77.3kg(298mol)をエタノール−精製水(10:1)混合液178kgの混液に溶解し、活性炭0.78kgを加えて10分間攪拌後ろ過した(エタノール−精製水(10:1)混合液74kgで洗浄した)。加温下でろ液に水588Lを加えて冷却し、析出結晶をろ取後、減圧下で乾燥した。取得結晶をjet milで粉砕し、表題化合物(74.0kg,収率95.7%,化合物(I)0.02%、化合物(II)0.06%、化合物(III)および(IV)0.02%未満、総類縁物質0.08%)を得た。
(iii)分析条件
(ii)で得られた表題化合物の結晶中の化合物(I)〜(IV)の含有量は、以下の条件下でHPLCにより測定を行った。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:288nm)
カラム:YMC−Pack ODS−AM AM−302.5μm,4.6mm
i.d.x150mm(ワイエムシイ社製)
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:A;0.01mol/L リン酸塩緩衝液(pH7.0)/アセトニトリル混液(4:1)
B;0.01mol/L リン酸塩緩衝液(pH7.0)/アセトニトリル混液(3:7)
【表1】

得られたHPLCチャ−トを図1に示す。図1から明らかなように、(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドのメインピークの両側に化合物(I)および(II)が検出されたが、化合物(III)および(IV)は0.02%未満の検出限界以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の製造法によれば、接触還元工程に於ける反応液およびその後処理液のpHをコントロールすることにより、医薬として有用な高純度の光学活性アミン誘導体を高収率で製造することができ、工業的に高品質な医薬品原料を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(i):(E)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イリデン)エチルアミンまたはその塩を、触媒を用いて不斉還元する工程、および
工程(ii):工程(i)で得られた反応生成物を反応温度40℃〜100℃、pH3〜9で触媒を用いて接触還元する工程を含む方法により、(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンまたはその塩を製造し、
工程(a):得られた(S)−2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチルアミンまたはその塩のアミノ基をプロピオニル化する工程と、
工程(b):工程(a)で得られた反応液に水系溶媒を添加し、結晶を晶出させる工程とを含む(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド結晶の製造方法。
【請求項2】
下記式(I)、(II)、(III)および(IV)で表される化合物の各含有量が0.15重量%以下であり、かつ下記式(I)〜(IV)で表される化合物の総含有量が0.2重量%以下である(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドの結晶。
【化1】

【請求項3】
下記式(I)、(III)および(IV)で表される化合物の各含有量が0.15重量%以下であり、下記式(II)で表される化合物の含有量が0.02〜0.15重量%であって、かつ下記式(I)〜(IV)で表される化合物の総含有量が0.2重量%以下である(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミドの結晶。
【化2】

【請求項4】
式(I)で表される化合物の含有量が0.10重量%以下である請求項2または3記載の結晶。
【請求項5】
(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド、ならびに下記式(I)、(II)、(III)および(IV)で表される化合物を含有し、
(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド 100重量部に対して、
下記式(I)、(II)、(III)および(IV)で表される化合物の量がそれぞれ0〜0.15重量部であり、
かつ下記式(I)〜(IV)で表される化合物の量の合計が0〜0.2重量部である組成物。
【化3】

【請求項6】
(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド、ならびに下記式(I)、(II)、(III)および(IV)で表される化合物を含有し、
(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド100重量部に対して、下記式(I)、(III)および(IV)で表される化合物の量がそれぞれ0〜0.15重量部であり、下記式(II)で表される化合物の量が0.02〜0.15重量部であり、
かつ下記式(I)〜(IV)で表される化合物の量の合計が0〜0.2重量部である組成物。
【化4】

【請求項7】
(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド100重量部に対して、下記式(I)で表される化合物の量が0〜0.10重量部である請求項5または6記載の組成物。
【化5】

【請求項8】
商業的規模で調製される請求項2記載の結晶または請求項5記載の組成物。
【請求項9】
4,5−ジブロモ−1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オンを、条件:
水素圧(MPa)>−0.02×気液間の総括物質移動容量係数(1/hr)+0.43
の下で、Pd−C触媒を用いて還元する工程を含む1,2,6,7−テトラヒドロ−8H−インデノ[5,4−b]フラン−8−オンの製造方法。
【請求項10】
睡眠障害の予防または治療剤の製造のための請求項2記載の結晶の使用。
【請求項11】
睡眠障害の予防または治療剤である請求項5記載の組成物。
【請求項12】
請求項3記載の結晶または請求項5記載の組成物を投与することを特徴とする、睡眠障害の予防または治療の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−116848(P2012−116848A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−14435(P2012−14435)
【出願日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【分割の表示】特願2006−535875(P2006−535875)の分割
【原出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】