説明

光学活性エポキシ化合物の製造方法

【課題】光学活性エポキシ化合物の新規な製造方法の提供。
【解決手段】一般式(1−1)等:


で表される光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体を触媒として使用して、酸化剤と分子内に二重結合を有する不飽和化合物を反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性エポキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学活性エポキシ化合物は医薬、農薬、又は電子材料等の製造中間体として良く用いられていることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
光学活性エポキシ化合物を製造する方法の一つとして、光学活性(サレン)ルテニウム錯体を触媒に用いる不斉エポキシ化反応がある。
【0004】
光学活性クロロニトロシル(サレン)ルテニウム(II)錯体を触媒に用いる不斉エポキシ化反応において、酸化剤として2,6−ジクロロピリジンN−オキシド、又はテトラメチルピラジンN,N’−ジオキシドを用いて、光照射下で反応を実施することで反応速度が向上することが報告されている(非特許文献1、2参照)。
【0005】
非特許文献1には、光照射下について光照射を行わない比較実験の記載がある。式(Z−1):
【0006】
【化1】

【0007】
で表される光学活性クロロニトロシル(サレン)ルテニウム(II)錯体を触媒として使用して、酸化剤として2,6−ジクロロピリジンN−オキシドを用いて、光を照射せずに1,2−ジヒドロナフタレンの不斉エポキシ化反応を実施した記載があり、収率は3.3%であった。
【0008】
光学活性クロロニトロシル(サレン)ルテニウム(II)錯体を触媒に用いる不斉エポキシ化反応において、酸化剤として酸素を用いて、光照射下、酸素雰囲気下で反応を実施する報告がある。(非特許文献3参照)。
【0009】
非特許文献3には、光照射下について光照射を行わない実験の記載がある。光学活性クロロニトロシル(サレン)ルテニウム(II)錯体(Z−1)を触媒として使用して、酸化剤として酸素を用いて、光照射せずにトランス−β−メチルスチレンを、不斉エポキシ化反応を実施した記載があり、H NMRの分析よりエポキシ化合物の生成を確認しなかったと報告があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第03/087037号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Synlett 1999年,1157頁
【非特許文献2】Chem.Eur.J. 2001年,7巻,3776頁
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc. 2010年,132巻,12034頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来、光学活性クロロニトロシル(サレン)ルテニウム(II)錯体を触媒に用いて、酸化剤として酸素を用いる不斉エポキシ化反応においては、光を照射しないと収率が非常に低い例しか知られておらず、改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、光学活性エポキシ化合物の製造方法について鋭意研究した結果、酸化剤として酸素を用いて、光の存在がなくても反応が進行する新規な光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体を見出し、該錯体を用いて高いエナンチオ選択性で光学活性エポキシ化合物を製造できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は下記〔1〕〜〔8〕に関するものである。
【0014】
〔1〕
一般式(1−1):
【化2】

又は一般式(1−2):
【化3】

[式中、Rは、独立してフェニル基、又は(Zq1によって置換されたフェニル基を表し、
は、ハロゲン原子を表し、
q1は、1乃至5の整数を表す。]で表される光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体を触媒として使用して、酸化剤と分子内に二重結合を有する不飽和化合物を反応させることによる光学活性エポキシ化合物の製造方法。
【0015】
〔2〕
一般式(2−1):
【化4】

又は一般式(2−2):
【化5】

[式中、Rは、独立してフェニル基、又は(Zq1によって置換されたフェニル基を表し、
は、ハロゲン原子を表し、
q1は、1乃至5の整数を表す。]で表される光学活性サレン配位子と、テトラクロロニトリドルテニウム(VI)酸テトラn−ブチルアンモニウムを反応させることにより得られる光学活性ニトリド(サレン)ルテニウム(VI)ヘキサフルオロリン酸塩をさらにアセトン、水及びテトラn−ブチルアンモニウムクロリドと反応させることにより得られる光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体を触媒として使用して、酸化剤と分子内に二重結合を有する不飽和化合物を反応させることによる光学活性エポキシ化合物の製造方法。
【0016】
〔3〕
前記分子内に二重結合を有する不飽和化合物が、一般式(A):
【化6】

[式中、R、R、R、R、Re1、R、R及びRh1は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、C〜Cアルキル基、C〜Cハロアルキル基又はC〜Cアルコキシ基を表す。]で表される不飽和化合物であり、得られる光学活性エポキシ化合物が一般式(C):
【化7】

[式中のR、R、R、R、Re1、R、R及びRh1は、前記と同じ意味を表す。]で表される化合物である、上記〔1〕乃至〔2〕記載の光学活性エポキシ化合物の製造方法。
【0017】
〔4〕
前記分子内に二重結合を有する不飽和化合物が、一般式(B):
【化8】

[式中、R、R、R、R、Re1、Re2、R、R、Rh1及びRh2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、C〜Cアルキル基、C〜Cハロアルキル基又はC〜Cアルコキシ基を表す。]で表される不飽和化合物であり、得られる光学活性エポキシ化合物が一般式(D):
【化9】

[式中のR、R、R、R、Re1、Re2、R、R、Rh1及びRh2は、前記と同じ意味を表す。]で表される化合物である、上記〔1〕乃至〔2〕記載の光学活性エポキシ化合物の製造方法。
【0018】
〔5〕
q1は、1乃至2の整数を表す上記〔1〕乃至〔4〕記載の光学活性エポキシ化合物の製造方法。
〔6〕
光照射を行わない、上記〔1〕乃至〔5〕記載の光学活性エポキシ化合物の製造方法。
〔7〕
酸化剤が酸素である、上記〔1〕乃至〔6〕記載の光学活性エポキシ化合物の製造方法。
【0019】
〔8〕
一般式(2−1):
【化10】

又は一般式(2−2):
【化11】

[式中、Rは、独立してフェニル基、又は(Zq1によって置換されたフェニル基を表し、
は、ハロゲン原子を表し、
q1は、1乃至5の整数を表す。]で表される光学活性サレン配位子と、テトラクロロニトリドルテニウム(VI)酸テトラn−ブチルアンモニウムを反応させることにより得られる光学活性ニトリド(サレン)ルテニウム(VI)ヘキサフルオロリン酸塩をさらにアセトン、水及びテトラn−ブチルアンモニウムクロリドと反応させることにより得られる光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体。
【0020】
〔9〕
q1は、1乃至2の整数を表す上記〔8〕記載の光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体。
【0021】
〔10〕
式(1−1):
【化12】

[式中、Rは、独立してフェニル基、又は(Zq1によって置換されたフェニル基を表し、
は、ハロゲン原子を表し、
q1は、1乃至5の整数を表す。]で表される光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体。
〔11〕
式(1−2):
【化13】

[式中、Rは、独立してフェニル基、又は(Zq1によって置換されたフェニル基を表し、
は、ハロゲン原子を表し、
q1は、1乃至5の整数を表す。]で表される光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、新規な光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体を触媒として用いることで、医薬、農薬、医薬の製造中間体又は農薬の製造中間体として有用な光学活性エポキシ化合物の製造方法を提供できる。本発明の新規錯体は、これまで必要であった光の存在がなくても酸化反応が進行して、目的の光学活性エポキシ化合物を得ることができる。さらに環境保護の観点から、光照射のためのエネルギーを節約できるため、環境調和型製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書中及び化学構造式中に表記した「Me」はメチル基を意味する。本明細書中及び化学構造式中に表記した「(R)」及び「(S)」は絶対配置を、「(aR)」及び「(aS)」は、軸不斉化合物の絶対配置を意味する。本明細書中及び化学構造式中に表記した「*」は相対配置を意味する。
【0024】
本明細書において示した各置換基の具体例を以下に示す。ここで「n」はノルマルを、「s」はセカンダリーを、「t」はターシャリーを、「c」はシクロを、「o」はオルトを、「m」はメタを、「p」はパラを各々意味する。
【0025】
本明細書におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。尚、本明細書におけるハロの表記もこれらのハロゲン原子を表す。
【0026】
本明細書におけるC〜Cアルキル基の表記は、炭素原子数が1乃至6個よりなる直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素から水素1原子が失われて生ずる1価の基を表し、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、1,1−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基等が具体例として挙げられる。
【0027】
本明細書におけるC〜Cハロアルキル基の表記は、炭素原子に結合した水素原子がハロゲン原子によって任意に置換された、炭素原子数が1乃至6個よりなる直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素から水素1原子が失われて生ずる1価の基を表し、このとき、2個以上のハロゲン原子によって置換されている場合、それらのハロゲン原子は互いに同一でも、または互いに相異なっていてもよい。例えばフルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロメチル基、ジクロロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロジフルオロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモジフルオロメチル基、2−フルオロエチル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2−クロロ−2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基、2−クロロ−1,1,2−トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基、2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル基、1,2,2,2−テトラフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル基、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル基、ノナフルオロブチル基等が具体例として挙げられる。
【0028】
本明細書におけるC〜Cアルコキシ基の表記は、炭素原子数が1乃至4個よりなる前記の意味であるアルキル基が、酸素と結合した形の1価の基を表し、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が具体例として挙げられる。
【0029】
本発明化合物の光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体(1−1)を用いる不斉エポキシ化反応について詳細に説明する。
【0030】
光学活性エポキシ化合物の製造方法
【0031】
【化14】

【0032】
例えば、一般式(1−1)[式中、Rは前記と同じ意味を表す。]で表される本発明化合物の光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体を触媒として使用して、一般式(A)[式中、R、R、R、Re1、Re2、R、R、Rh1及びRh2は、前記と同じ意味を表す。]で表される不飽和化合物を、酸化剤の存在下で不斉エポキシ化反応をすることにより、一般式(C)[式中、R、R、R、Re1、Re2、R、R、Rh1及びRh2は、前記と同じ意味を表す。]で表される光学活性エポキシ化合物を合成することができる。該不斉エポキシ化反応では、光照射を必要としない。
【0033】
一般式(B)で表される不飽和化合物を出発原料とした場合は、一般式(D)で表される光学活性エポキシ化合物を合成することができる。
【0034】
本発明の不斉エポキシ化反応で使用する溶媒は、芳香族系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、又はエステル系溶媒が挙げられる。具体的には、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、酢酸エチル等が挙げられ、好ましい溶媒としては、芳香族系溶媒、ハロゲン系溶媒が挙げられ、さらに好ましい溶媒としては、クロロベンゼンが挙げられる。
【0035】
本発明の不斉エポキシ化反応の反応温度は、特に限定されるものではないが、0℃から溶媒の還流温度が挙げられ、好ましい反応温度としては、10℃から40℃が挙げられ、さらに好ましい温度としては、20℃から30℃が挙げられる。
【0036】
本発明の不斉エポキシ化反応で使用する酸化剤は、酸素である。
【0037】
次に、本発明化合物の光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体(1−1)の合成方法ついて詳細に説明する。
合成法(光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体(1−1))
【0038】
【化15】

【0039】
一般式(2−1)[式中、Rは前記と同じ意味を表す。]で表される光学活性サレン配位子と、テトラクロロニトリドルテニウム(VI)酸テトラn−ブチルアンモニウムを反応させて、一般式(1−1)[式中、Rは前記と同じ意味を表す。]で表される光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体を合成することができる。但し、中心のルテニウム上の配位子を置換するため、一般式(3−1)及び一般式(4−1)で表される化合物を中間体として経由すると考えられる。
【0040】
一般式(2−1)で表される光学活性サレン配位子の一部は公知化合物であり、例えば特許文献の特開2006―008589号公報に記載の方法で合成することができる。
【0041】
テトラクロロニトリドルテニウム(VI)酸テトラn−ブチルアンモニウムは、例えば非特許文献のJ.Chem.Soc.Dalton.Trans. 1973年,1315頁に記載の方法で合成することができる。
【0042】
より具体的には、一般式(2−1)で表される光学活性サレン配位子とテトラクロロニトリドルテニウム(VI)酸テトラn−ブチルアンモニウムをアルコール溶媒中で反応させた後、ヘキサフルオロリン酸カリウムを反応させて塩化した一般式(3−1)で表される化合物を得ることができる。次に、一般式(3−1)で表されるニトリド(サレン)ルテニウム(VI)ヘキサフルオロリン酸塩をアセトンと水の混合溶液に溶解させて還流することにより一般式(4−1)で表される化合物を得ることができる。さらに一般式(4−1)で表される化合物をアセトンと水の混合溶液に溶解させて、塩素源としてテトラn−ブチルアンモニウムクロリドと反応させることで、一般式(1−1)で表される光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体を合成することができる。
【0043】
好ましいRについて説明する。
【0044】
好ましいZは、塩素原子である。
【0045】
好ましいRは、フェニル、3,5−ジクロロフェニルである。
【0046】
光学活性ニトリド(サレン)ルテニウム(VI)ヘキサフルオロリン酸塩である化合物(3−1)の合成で使用する溶媒は、ハロゲン系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒又はニトリル系溶媒が挙げられる。具体的には、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等が挙げられ、好ましい溶媒としては、アルコール系溶媒が挙げられ、さらに好ましい溶媒としては、エタノールが挙げられる。
【0047】
光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体(1−1)の合成で使用する溶媒は、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、ニトリル系溶媒又は水が挙げられ、好ましい溶媒としては、ケトン系溶媒、水が挙げられ、さらに好ましい溶媒としては、アセトン、水が挙げられ、それらの混合溶媒を用いてもよい。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の合成例を実施例として具体的に述べることで、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0049】
実施例のプロトン核磁気共鳴(H NMR)ケミカルシフト値は、基準物質としてテトラメチルシラン(MeSi)を用い、重クロロホルム溶媒中で、400MHzにて測定した。
【0050】
[合成例]
(合成例1)
光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体(11−1)の製造
【0051】
【化16】

【0052】
工程1:
光学活性サレン配位子(12−1)(0.20g,0.21mmol)及びテトラクロロニトリドルテニウム(VI)酸テトラn−ブチルアンモニウム(0.11g,0.22mmol)を反応容器に入れ、エタノール(10mL)を添加した後、該反応混合物を還流温度に加熱して2時間、撹拌した。次に、該反応混合物を室温まで冷却した後、ヘキサフルオロリン酸カリウム(0.21g,1.14mmol)を添加し、室温で2時間撹拌
した。次に、該反応混合物を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を減圧下にて留去した。得られた粗生成物をジクロロメタン:エタノール〔1:0から50:1のグラジエント(体積比,以下同じである。)〕にて溶出するシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、化合物(13−1)0.21gを濃暗茶色の粉末固体として得た(収率82%)。
【0053】
MS(ESI):[M]=[C6040ClRu(N)(PF)]
m/z C6040ClRu [M−PF
計算値:1078.1
実測値:1078.1
【0054】
工程2:
化合物(13−1)(0.21g,0.17mmol)をアセトン(23mL)及び水(6mL)に溶解させた後、該反応混合物を還流温度に加熱して4時間、撹拌した。次に、該反応混合物を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を減圧下にて留去した。析出してきた固体をろ取した後、該固体を減圧乾燥して化合物(14−1)0.16gを濃暗茶色の粉末固体で得た(収率77%)。
【0055】
MS(ESI):[M]=[C6040ClRu(OH(PF)]m/z C6040ClRu(OH [M−PF
計算値:1100.1
実測値:1100.1
【0056】
工程3:
化合物(14−1)(0.21g,0.17mmol)をアセトン(23mL)及び水(6mL)に溶解させた後、該反応混合物にテトラn−ブチルアンモニウムクロリド(0.16g,0.58mmol)を添加し、還流温度に加熱して4時間撹拌した。次に、該反応混合物を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を減圧下にて留去した。析出してきた固体をろ取した後、該固体を減圧乾燥して化合物(11−1)0.14gを濃暗茶色の粉末固体で得た(収率96%)。
【0057】
MS(ESI):[M]=[C6042ClRu]
m/z C6042ClRuNa [M+Na]
計算値:1140.1
実測値:1140.1
【0058】
(合成例2)
(1S,2S)−トランス−1−フェニル−1,2−エポキシプロパン(62−1)の製造
【0059】
【化17】

【0060】
シュレンク反応容器に内部標準物質としてフェナントレン(3.6mg,0.020mmol)を添加し、容器内を酸素で置換した。該反応容器にクロロベンゼン(0.5mL)及びトランス−β−メチルスチレン(61)(13μL,0.10mmol)を添加した後、該反応混合物を攪拌して、サンプリング(40μL)をして、反応前のH NMRを測定した。次に該反応混合物に光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体(11−1)(5.6mg,5.0μmol)を添加し、25℃の恒温槽で24時間攪拌した。次に反応溶液のH NMRを測定し、内部標準物質を基準に計算して反応前の測定と比較することで収率を決定した(67%)。
【0061】
鏡像異性体過剰率及び絶対配置はキラルカラムInterCap CHIRAMIX(GLサイエンス社製)を装着したガスクロマトグラフィーにて決定した(鏡像異性体過剰率85%ee)。
カラム条件:
70℃(5.5分まで)から110℃まで(46/分で昇温)、133℃まで(1.0℃/分で昇温)非特許論文、J.Am.Chem.Soc. 2010年,132巻,12034項に記載の保持時間より(1S,2S)と決定した。
【0062】
(合成例3〜5)
各種光学活性エポキシ化合物の製造
【0063】
各種光学活性エポキシ化合物の製造を実施した。触媒としての光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体、不飽和化合物、又は分析条件を変更した以外は、実施例1と同じ条件で実施した。使用した光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体を表す。
【0064】
【化18】

【0065】
使用した不飽和化合物の一般式(A)
【0066】
【化19】

又は一般式(B)
【化20】

【0067】
の式中のR、R、R、R、Re1、Re2、R、R、Rh1及びRh2についての組み合わせ、化合物番号及び化合物の種類を表1へ記載する。
【0068】
【表1】

【0069】
表1にて、化合物(A)にはRe2とRh2が存在しないので、「−」で表記した。
不斉エポキシ化反応の結果を表2に記載する。表中の「ee」は鏡像異性体過剰率を意味する。
【0070】
【表2】

【0071】
合成例3〜5により得られた光学活性エポキシ化合物の分析条件をそれぞれ記載する。
【0072】
(合成例3)
(2S,3S)−2−メチル−3−(ナフタレン−2−イル)オキシラン(64−1)
絶対配置については、報告例がなく決定していない。化合物の表記は、相対配置を意味する。
鏡像異性体過剰率はキラルカラム(カラム名:DAICEL CHIRALCEL OB−H)を搭載したHPLCにて決定した。HPLCとは高速液体クロマトマトグラフィーである。
HPLC条件:
溶離液: ヘキサン:イソプロパノール=99.9:0.1(体積比)
流速:1.0mL/分,カラム温度:30℃
【0073】
(合成例4)
(2R,3S)−2−メチル−3−フェニルオキシラン(66−1)
絶対配置については決定していない。化合物の表記は、相対配置を意味する。
鏡像異性体過剰率はキラルカラムCHIRADEX B−DM(アスペック社製)を装着したガスクロマトグラフィーにて決定した。
カラム条件:
100℃(10分)
R major=7.9分, tR minor=7.4分
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明により、医薬、農薬又は電子材料等の製造中間体として有用な光学活性エポキシ化合物を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1−1):
【化1】

又は式(1−2):
【化2】

[式中、Rは、独立してフェニル基、又は(Zq1によって置換されたフェニル基を表し、
は、ハロゲン原子を表し、
q1は、1乃至5の整数を表す。]で表される光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体を触媒として使用して、酸化剤と分子内に二重結合を有する不飽和化合物を反応させることによる光学活性エポキシ化合物の製造方法。
【請求項2】
式(2−1):
【化3】

又は式(2−2):
【化4】

[式中、Rは、独立してフェニル基、又は(Zq1によって置換されたフェニル基を表し、
は、ハロゲン原子を表し、
q1は、1乃至5の整数を表す。]で表される光学活性サレン配位子と、テトラクロロニトリドルテニウム(VI)酸テトラn−ブチルアンモニウムを反応させることにより得られる光学活性ニトリド(サレン)ルテニウム(VI)ヘキサフルオロリン酸塩をさらにアセトン、水及びテトラn−ブチルアンモニウムクロリドと反応させることにより得られる光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体を触媒として使用して、酸化剤と分子内に二重結合を有する不飽和化合物を反応させることによる光学活性エポキシ化合物の製造方法。
【請求項3】
前記分子内に二重結合を有する不飽和化合物が、式(A):
【化5】

[式中、R、R、R、R、Re1、R、R及びRh1は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、C〜Cアルキル基、C〜Cハロアルキル基又はC〜Cアルコキシ基を表す。]で表される不飽和化合物であり、得られる光学活性エポキシ化合物が式(C):
【化6】

[式中のR、R、R、R、Re1、R、R及びRh1は、前記と同じ意味を表す。]で表される化合物である、請求項1乃至請求項2記載の光学活性エポキシ化合物の製造方法。
【請求項4】
前記分子内に二重結合を有する不飽和化合物が、式(B):
【化7】

[式中、R、R、R、R、Re1、Re2、R、R、Rh1及びRh2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、C〜Cアルキル基、C〜Cハロアルキル基又はC〜Cアルコキシ基を表す。]で表される不飽和化合物であり、得られる光学活性エポキシ化合物が式(D):
【化8】

[式中のR、R、R、R、Re1、Re2、R、R、Rh1及びRh2は、前記と同じ意味を表す。]で表される化合物である、請求項1乃至請求項2記載の光学活性エポキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
q1は、1乃至2の整数を表す請求項1乃至請求項4記載の光学活性エポキシ化合物の製造方法。
【請求項6】
光照射を行わない、請求項1乃至請求項5記載の光学活性エポキシ化合物の製造方法。
【請求項7】
酸化剤が酸素である、請求項1乃至請求項6記載の光学活性エポキシ化合物の製造方法。
【請求項8】
式(2−1):
【化9】

又は式(2−2):
【化10】

[式中、Rは、独立してフェニル基、又は(Zq1によって置換されたフェニル基を表し、
は、ハロゲン原子を表し、
q1は、1乃至5の整数を表す。]で表される光学活性サレン配位子と、テトラクロロニトリドルテニウム(VI)酸テトラn−ブチルアンモニウムを反応させることにより得られる光学活性ニトリド(サレン)ルテニウム(VI)ヘキサフルオロリン酸塩をさらにアセトン、水及びテトラn−ブチルアンモニウムクロリドと反応させることにより得られる光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体。
【請求項9】
q1は、1乃至2の整数を表す請求項8記載の光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体。
【請求項10】
式(1−1):
【化11】

[式中、Rは、独立してフェニル基、又は(Zq1によって置換されたフェニル基を表し、
は、ハロゲン原子を表し、
q1は、1乃至5の整数を表す。]で表される光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体。
【請求項11】
式(1−2):
【化12】

[式中、Rは、独立してフェニル基、又は(Zq1によって置換されたフェニル基を表し、
は、ハロゲン原子を表し、
q1は、1乃至5の整数を表す。]で表される光学活性アクアクロロ(サレン)ルテニウム(III)錯体。

【公開番号】特開2013−56849(P2013−56849A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196246(P2011−196246)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本化学会、「日本化学会第91春季年会 2011年 講演予稿集IV」、第1226頁、平成23年3月11日
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】