説明

光学活性スピロビスイソオキサゾール誘導体およびその製造法、並びにその金属錯体を用いた不斉触媒反応

【課題】光学活性スピロビスイソオキサゾール誘導体およびその製造法、並びにその金属錯体を用いた不斉触媒反応。
【解決手段】下記式(1)で表されるスピロビスイソオキサゾール誘導体とその光学活性体。


(式中、nは0〜3の整数であり、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、置換もしくは無置換アラルキル基、または置換もしくは無置換アリール基を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬等の合成中間体として有用な光学活性化合物を与える不斉触媒反応およびその触媒である光学活性スピロビスイソオキサゾール誘導体、更にはその触媒の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、不斉合成反応の触媒としてC対称軸を持つものがさかんに用いられており、その中でも、Coreyら(非特許文献1)、Evansら(非特許文献2)によるビスオキサゾリン誘導体は、触媒能が高く、多くの不斉合成反応に用いられている。
【非特許文献1】J. Am.Chem. Soc., 113, 728(1991)
【非特許文献2】J. Am.Chem. Soc., 115, 5328(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、これら不斉触媒には反応目的に応じた、種々多様性が要求されるところ、本発明者らによる光学活性スピロビスイソオキサゾール誘導体に関しては、合成例もその触媒反応についても報告例がなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、光学活性スピロビスイソオキサゾール誘導体の遷移金属錯体が不斉合成反応の触媒として有効にはたらくことを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、本発明は下記式(1)で表されるスピロビスイソオキサゾール誘導体とその光学活性体である。
【化1】

(式中、nは0〜3の整数であり、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、置換もしくは無置換アラルキル基、または置換もしくは無置換アリール基を表わす。)
【0005】
また、本発明は、
下記式(2)
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表わす。)
で表されるマロン酸ジエステルと、下記式(3)
【化3】

(式中、nは0〜3の整数であり、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、置換もしくは無置換アラルキル基、または置換もしくは無置換アリール基を表わす。Xはハロゲン原子もしくは炭素数1〜4のアルキルスルホニル基、または置換もしくは無置換アリールスルホニル基を表す。)
で表されるアルキニル化合物を塩基存在下で作用させて、下記式(4)
【化4】

(式中、nおよびRは上述に同じである。)
で表されるジアルキニルマロン酸ジエステルを得、
次いで、該ジアルキニルマロン酸ジエステルを還元により下記式(5)
【化5】

(式中、nおよびRは上述に同じである。)
で表されるジアルキニルジオールとし、
さらに、該ジアルキニルジオールを酸化によりジアルデヒドとした後、ヒドロキシルアミンと反応させ、下記式(6)
【化6】

(式中、nおよびRは上述に同じである。)
で表されるジアルキニルジオキシムを得、
次いで、該ジオキシムを酸化条件下で環化することを特徴とする、下記式(1)
【化7】

(式中、nは0〜3の整数であり、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、置換もしくは無置換アラルキル基、または置換もしくは無置換アリール基を表わす。)
で表されるスピロ骨格を有するスピロビスイソオキサゾール誘導体を得、
次いで、当該誘導体を光学分割してなる光学活性な不斉スピロビスイソオキサゾール誘導体の製造法である。
【0006】
更に、本発明は不斉触媒反応において、下記式(1)で表される光学活性スピロビスイソオキサゾール誘導体に遷移金属が配位した錯体の触媒としての使用に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の成果である光学活性な不斉スピロビスイソオキサゾール誘導体は不斉合成触媒の一端としての意義を有し、また、比較的汎用な化合物から、平易な反応工程により、容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を更に詳細に説明する。
式(1)で表されるスピロ環骨格を有するスピロビスイソオキサゾール誘導体およびその光学活性体のnは0〜3の整数を表し、特に好ましくはn=2である。この場合、1分子中の二つのnは互いに同一でも異なってもよい。
【0009】
また、Rは、水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、置換または無置換アラルキル基、置換または無置換アリール基から選ばれる基を表す。この場合、1分子中の二つのRは互いに同一でも異なってもよい。
具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられ、アルケニル基としては、ビニル基、イソプロペニル基、アリル基、メタリル基等が挙げられる。また、置換または無置換アラルキル基としてはベンジル基、m-クロロベンジル基、p-ブロモベンジル基、o-メチルベンジル基、p-シアノベンジル基等が挙げられ、置換または無置換アリール基としては、フェニル基、m-クロロフェニル基、p-ブロモフェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、p-シアノフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、6−ブロモ−1−ナフチル基、6−クロロ−2−ナフチル基、6−メチル−1−ナフチル基等が挙げられる。
特に水素原子、アルキル基が好ましく、さらに好ましくは水素原子、メチル基である。
【0010】
次に、式(1)で表される光学活性ビスイソオキサゾール誘導体の製造方法について更に詳細に述べる。
第1段階は、マロン酸ジエステル(2)とアルキニル化合物(3)を塩基存在下で作用させ、ジアルキニルマロン酸ジエステルを得る反応である。
ここで用いられるマロン酸ジエステルとしては、特に制限はされないが、一般に、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジtert-ブチル、マロン酸ジベンジルが挙げられ、特にマロン酸ジエチルが好ましい。
【0011】
また、アルキニル化合物(3)については、nは、0〜3の整数であり、特に好ましくは2である。Rについては、上述の式(1)中のRに対応する。従ってRは、特に水素原子、アルキル基が好ましく、さらに好ましくは水素原子、メチル基である。Xは、ハロゲン原子もしくは炭素数1〜4のアルキルスルホニル基、置換または無置換アリールスルホニル基を表し、特に好ましくは、ヨウ素原子である。
【0012】
ここで用いられる塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水素化物、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムtert-ブトキシド等のアルカリ金属アルコラート類が挙げられ、特に好ましくは水素化ナトリウムである。
【0013】
溶媒としては、非プロトン性であれば特に選ばないが、一般にジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が好ましく用いられる。反応温度は例えば0〜40℃、好ましくは20〜30℃である。反応の具体例としては、マロン酸ジエステルに対して、塩基を例えば1.8〜3.0等量、好ましくは2.0〜2.2等量使用し、これにマロン酸ジエステルを30分間作用させ、さらにアルキニル化合物(3)を1.8〜3.0等量、好ましくは2.0〜2.2等量加え8〜12時間攪拌させることで進行しジアルキニルマロン酸ジエステルが得られる。
【0014】
第2段階は、ジアルキニルマロン酸ジエステルを還元によりジオールとする反応である。用いられる還元剤は、例えば水素化リチウムアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、ビットライド、水素化ホウ素ナトリウムが挙げられるが、特に好ましくは水素化リチウムアルミニウムである。使用する有機溶媒としてはテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が好ましく、特にテトラヒドロフランが好ましい。反応温度は例えば−10〜30℃、好ましくは0〜20℃であり、有機溶媒中のジアルキニルマロン酸ジエステルに対して還元剤を例えば1.0〜3.0等量、好ましくは1.2〜1.8等量加え、これを好ましくは8〜12時間攪拌させることによりジアルキニルジオールが得られる。
【0015】
第3段階は、第2段階で得られたジオールを一旦ジアルデヒドまで酸化し、その後ジオキシムにする反応である。
酸化は、1級アルコールをアルデヒドに酸化する条件であれば特に方法は選ばないが、例えば、シュウ酸ジクロライドとジメチルスルホキシドから調製される試薬と第2段階で得られたジオールとを塩化メチレン中、低温で、トリエチルアミン存在下で反応させる方法が挙げられる。具体例を挙げれば、ジオールに対して、1.0〜5.0等量、好ましくは3.0〜4.0等量のシュウ酸ジクロライドの塩化メチレン溶液を−50〜−70℃まで冷却し、これに1.0〜8.0等量、好ましくは3.0〜5.0等量のジメチルスルホキシドの塩化メチレン溶液を加え酸化試薬を調製し、これにジオールの塩化メチレン溶液を滴下し40分後、さらに1.0〜15等量、好ましくは8.0〜10等量のトリエチルアミンの塩化メチレン溶液加え、−10〜40℃、好ましくは0〜20℃で1〜2時間攪拌することにより、アルデヒドへの酸化が進行する。
一方、ジオキシム化は、ジアルデヒドをヒドロキシルアミンによってジオキシムに変える反応であり、一般的な方法をとることができ、具体例を挙げれば、ジアルデヒドのピリジン溶液を−10〜40℃、好ましくは0〜20℃とし、これにヒドロキシルアミン塩酸塩をジアルデヒドに対して10〜40等量、好ましくは20〜25等量加え6〜7日間攪拌することによってジオキシムを得ることができる。
【0016】
第4段階は、第3段階で得られたジオキシムを酸化条件下でニトリルオキシドを発生させ、2+3環化付加反応により一気にスピロ環とイソオキサゾール環を構築する反応である。ここで用いられる酸化剤は特に制限はされないが、次亜塩素酸ナトリウムに代表される次亜塩素酸塩が好ましい。使用する有機溶媒としてはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系炭化水素、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系炭化水素が好ましく、特にジクロロメタンが好ましい。反応の具体例としては−10〜40℃、好ましくは0〜10℃に冷却した有機溶媒中のジオキシムに対し有効塩素含量5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を1.0〜3.0等量、好ましくは1.5〜1.8等量加え、これを−10〜40℃、好ましくは20〜30℃で一晩攪拌させることによりオキシムのニトリルオキシドへの酸化と、引き続き環化反応が生じスピロビスイソオキサゾール生成物が得られる。
【0017】
第5段階は、第4段階で得られたラセミ体混合物であるスピロビスイソオキサゾール誘導体を光学分割する工程である。ラセミ体を光学分割する方法であれば特に制限されないが、例えばキラル固定相カラムを装着した液体クロマトグラフを用いる方法が挙げられる。
【0018】
次に、本発明の化合物であるスピロ骨格を有する光学活性スピロビスイソオキサゾール誘導体の金属錯体を用いる不斉触媒反応について説明する。
光学活性スピロビスイソオキサゾール誘導体の金属錯体を用いると不斉触媒反応を行うことができる。不斉求核付加反応および不斉求電子付加反応が好ましく、特にその中でもアルデヒド化合物への不斉カルボニルエン型求核付加反応および、アルケニルアルコール化合物の不斉環化反応が好ましい。
【0019】
金属錯体形成のために用いる金属としては、遷移金属が挙げられ、好ましくはMn、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Pd、Znからなる群から選ばれる金属であり、さらに好ましくはPd、Cuである。
【0020】
この反応で用いられる本発明化合物である光学活性スピロビスイソオキサゾール誘導体の金属錯体の量であるが、基質である求電子剤に対して0.5 mol%〜50 mol%が好ましく、特に好ましくは10 mol%〜25 mol%である。
【0021】
特に、不斉カルボニルエン型求核付加反応を行う際に好ましく用いられるアルデヒド化合物としては、エチルグリオキシレートである。
使用する有機溶媒としてはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系炭化水素、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系炭化水素が好ましく、特にジクロロメタンが好ましい。
反応温度は例えば−10〜10℃、好ましくは−5〜5℃であり、2−メチルスチレンのような共役末端オレフィンに対し、アルデヒド化合物を例えば4.0〜10.0等量、好ましくは5.0〜7.0等量使用し、これに光学活性スピロビスイソオキサゾール誘導体を例えば0.05〜0.2等量、好ましくは0.1〜0.15等量、そして遷移金属化合物を例えば0.05〜0.2等量、好ましくは0.1〜0.15等量加え、好ましくは24〜36時間攪拌させることで反応は進行し求核付加生成物が得られる。
【0022】
また、アルケニルアルコール化合物の不斉環化反応を行う際に好ましく用いられるアルケニルアルコールとしては、安息香酸2、2−(ビス−3−メチル−2−ブテニル)−2−ヒドロキシプロピルである。
使用する有機溶媒としてはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系炭化水素、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系炭化水素が好ましく、特にジクロロメタンが好ましい。
反応温度は例えば0〜40℃、好ましくは20〜30℃であり、アルケニルアルコールに対し光学活性スピロビスイソオキサゾール誘導体を例えば0.05〜0.5等量、好ましくは0.20〜0.25等量、そして遷移金属化合物を例えば0.05〜0.5等量、好ましくは0.2〜0.25等量加える。これに通常活性化剤を添加してよい。例えばp−ベンゾキノンを好ましく使用することができ、例えば1.0〜10.0等量、好ましくは4.0〜5.0等量加え、これらの混合物を好ましくは24〜36時間攪拌させることで反応は進行し不斉環化生成物が得られる。
【0023】
[作用]
本発明のスピロビスイソオキサゾールは、堅固なスピロ環骨格と配位性官能基であるイソオキサゾール環からなり、その構造中にスピロ環骨格由来の軸不斉を有しており、それが不斉反応の触媒として有効にはたらく理由として考えられる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
2,2−ビス(4−ヘキシニル)マロン酸ジエチルの合成。
ジメチルスルホキシド(20ml)と60%水素化ナトリウムオイルディスパージョン(546mg、13.6mmol)の混合物にマロン酸ジエチル(940μl,
6.20mmol)をゆっくり滴下し、30分後さらに6−ヨード−2−ヘキシン(2.70g, 13.0mmol)をキャヌラを使って滴下した。室温で一晩攪拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を終結させ、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過後、濃縮し、シリカゲルクロマト精製(溶出液;ヘキサン/酢酸エチル=7/1)により、表記化合物を無色オイルとして1.76g、収率90%で得た。
1H-NMR(CDCl3):δ1.23
(t, J=7.0 Hz, 6H), 1.31−1.43 (m,4H), 1.76−1.81 (m,4H), 1.93−1.98 (m,4H), 2.09−2.17
(m,4H), 4.19 (q, J=7.0Hz, 4H) ;13C-NMR(CDCl3):δ3.5, 14.2,
19.1, 23.9, 31.6, 57.1, 61.1, 75.9, 78.4, 171.4; IR(neat): 2947, 2361, 1728,
1447, 1259, 1220, 1177, 1099, 1026, 864 cm-1; FAB−LRMS: m/z 321[M+H]+;
Anal. Calcd for C19H28O4:
C, 71.22; H, 8.81. Found: C, 72.18; H, 8.81。
【0025】
[実施例2]
2,2−ビス(4−ヘキシニル)−1,3−プロパンジオールの合成。
2,2−ビス(4−ヘキシニル)マロン酸ジエチル(1.06 mmol)のTHF(4ml)溶液に水素化リチウムアルミニウム(60.3 mg, 1.59 mmol)を0℃で添加した。室温で一晩攪拌し、水(300ml)を加え、反応を終結させた。1時間攪拌後、混合液をセライトによりろ過し、濃縮した。濃縮液をシリカゲルクロマト(溶出液;ヘキサン/酢酸エチル=1/1)にて精製し、表記化合物を白色結晶として収率82%で得た。
mp 60−61℃;1H-NMR(CDCl3):δ1.32−1.53
(m,8H), 1.78 (s, 6H), 2.05−2.13(m,4H), 2.46−2.57 (m,2H), 3.56 (s,4H);13C-NMR(CDCl3):δ3.5,
19.6, 22.7, 29.9, 41.1, 68.8, 75.8, 79.0; IR(neat): 3323, 2939, 2864, 2368,
1460, 1115, 1062, 1028, 995, 709 cm-1; FAB−LRMS: m/z 237[M+H]+;
Anal. Calcd for C15H24O2:
C, 76.23; H, 10.24. Found: C, 76.16; H, 10.25。
【0026】
[実施例3]
2,2−ビス(4−ヘキシニル)マロノジオキシムの合成。
塩化オキサリル(1.5ml,
17.1mmol)の塩化メチレン(13ml)溶液に、ジメチルスルホキシド(1.7ml, 23.4mmol)の塩化メチレン(3ml)溶液を−78℃でゆっくり添加し、そのまま40分間攪拌した。2,2−ビス(4−ヘキシニル)−1,3−プロパンジオール(4.5mmol)の塩化メチレン(9ml)溶液を−78℃で加え、さらに40分間攪拌した。トリエチルアミン(5.6
ml, 41mmol)を−78℃で加え、室温にて1.5時間攪拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え反応を終結させた。反応液を塩化メチレンで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過後濃縮した。濃縮液をピリジン(11mL)に溶解し、ヒドロキシルアミン塩酸塩(3.1g、45mmol)を0℃で加え、さらに室温で6日間ヒドロキシルアミン塩酸塩(625mg、9.0mmol)を1日毎に加えながら攪拌した。反応液を塩化メチレンで希釈し、1N塩酸、飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過後濃縮した。濃縮液をシリカゲルクロマト(溶出液;ヘキサン/酢酸エチル=3/1〜2/1)により精製し、表記化合物を白色結晶として収率79%で得た。
1H-NMR(CDCl3):δ1.43−1.54(m,4H),
1.72−1.79 (m,8H), 2.10−2.16 (m,4H), 7.40 (brs,2H);13C-NMR(CDCl3):δ3.6,
19.2, 23.6, 35.1, 45.5, 76.1, 78.4, 153.9; IR(neat): 3389, 2951, 2916, 2864,
2358, 1435, 1281, 934, 793, 669 cm-1; FAB−LRMS: m/z 263[M+H]+;
Anal. Calcd for C15H22N2O2:
C, 68.67; H, 8.45; N, 10.68. Found: C, 68.78; H, 8.37; N, 10.33。
【0027】
[実施例4]
スピロビスイソオキサゾール誘導体(下記式1-A)の合成。
【化8】

2,2−ビス(4−ヘキシニル)マロノジオキシム(3.2mmol)の塩化メチレン(64ml)溶液に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(ca.5%,
6.4ml)を0℃で加え、室温で一晩攪拌した。水を加えて反応を終結させ、塩化メチレンで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過後、濃縮した。濃縮残さをヘキサンとエーテルの混合液から再結晶し、目的物を白色結晶として収率69%で得た。
1H-NMR(CDCl3):δ1.60−1.85(m,4H),
2.07−2.17 (m,2H), 2.24−2.37 (m,2H), 2.30 (s,6H), 2.37−2.62 (m,4H);13C-NMR(CDCl3):δ11.1,
18.8, 19.0, 35.6, 35.9, 109.82, 163.2, 165.4; IR(neat): 2943, 2853, 2245, 1638,
1452, 1209, 905, 723, 646 cm-1; FAB−LRMS: m/z 259 [M+H]+;
Anal. Calcd for C15H18N2O2:
C, 69.74; H, 7.02; N, 10.84. Found: C, 69.40; H, 7.24; N, 10.89。
それぞれの鏡像体は、DAICEL
CHIRALPAK AD (ヘキサン/イソプロピルアルコール=10/1, 8.0ml/min)で分割され、最初に現われるピークの旋光度は[α]D18−136°(c 1.01, CHCl3)であった。
【0028】
[実施例5]
光学活性ビシクロ化合物(7)の合成。
下記式(8)で表されるジアルケニルアルコールに、式(1-A)で表される光学活性な不斉スピロビスイソオキサゾール誘導体の(+)体(22 mol%)とトリフルオロ酢酸パラジウム(20 mol%)をパラベンゾキノン(4等量)存在下、塩化メチレン中、室温で7時間攪拌し、下記式(7)で表される光学活性化合物を、収率78%、光学純度59%eeで得た。
【化9】


【化10】

【0029】
[実施例6]
光学活性α−ヒドロキシエステル化合物(9)の合成。
α−メチルスチレンとエチルグリオキシレート(6等量)に、式(1-A)で表される活性スピロビスイソオキサゾール誘導体の(−)体(11〜12 mol%)と銅トリフラート(10 mol%)存在下、塩化メチレン中、0℃で30時間反応させ、下記式(9)で表される光学活性α−ヒドロキシ化合物を、収率58%、光学純度14%eeで得た。
【化11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるスピロ環骨格を有するスピロビスイソオキサゾール誘導体またはその光学活性体。
【化1】

(式中、nは0〜3の整数であり、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、置換もしくは無置換アラルキル基、または置換もしくは無置換アリール基を表わす。)
【請求項2】
下記式(2)
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表わす。)
で表されるマロン酸ジエステルと、下記式(3)
【化3】

(式中、nは0〜3の整数であり、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、置換もしくは無置換アラルキル基、または置換もしくは無置換アリール基を表わす。Xはハロゲン原子もしくは炭素数1〜4のアルキルスルホニル基、または置換もしくは無置換アリールスルホニル基を表す。)
で表されるアルキニル化合物を塩基存在下で作用させて、下記式(4)
【化4】

(式中、nおよびRは上述に同じである。)
で表されるジアルキニルマロン酸ジエステルを得、
次いで、該ジアルキニルマロン酸ジエステルを還元により下記式(5)
【化5】

(式中、nおよびRは上述に同じである。)
で表されるジアルキニルジオールとし、
さらに、該ジアルキニルジオールを酸化によりジアルデヒドとした後、ヒドロキシルアミンと反応させ、下記式(6)
【化6】

(式中、nおよびRは上述に同じである。)
で表されるジアルキニルジオキシムを得、
次いで、該ジオキシムを酸化条件下で環化することを特徴とする、下記式(1)
【化7】

(式中、nは0〜3の整数であり、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、置換もしくは無置換アラルキル基、または置換もしくは無置換アリール基を表わす。)
で表されるスピロ骨格を有するスピロビスイソオキサゾール誘導体の製造法。
【請求項3】
下記式(2)
【化8】

(式中、Rは炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表わす。)
で表されるマロン酸ジエステルと、下記式(3)
【化9】

(式中、nは0〜3の整数であり、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、置換もしくは無置換アラルキル基、または置換もしくは無置換アリール基を表わす。Xはハロゲン原子もしくは炭素数1〜4のアルキルスルホニル基、または置換もしくは無置換アリールスルホニル基を表す。)
で表されるアルキニル化合物を塩基存在下で作用させて、下記式(4)
【化10】

(式中、nおよびRは上述に同じである。)
で表されるジアルキニルマロン酸ジエステルを得、
次いで、該ジアルキニルマロン酸ジエステルを還元により下記式(5)
【化11】

(式中、nおよびRは上述に同じである。)
で表されるジアルキニルジオールとし、
さらに、該ジアルキニルジオールを酸化によりジアルデヒドとした後、ヒドロキシルアミンと反応させ、下記式(6)
【化12】

(式中、nおよびRは上述に同じである。)
で表されるジアルキニルジオキシムを得、
次いで、該ジオキシムを酸化条件下で環化することを特徴とする、下記式(1)
【化13】

(式中、nは0〜3の整数であり、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、置換もしくは無置換アラルキル基、または置換もしくは無置換アリール基を表わす。)
で表されるスピロ骨格を有するスピロビスイソオキサゾール誘導体を得、
次いで、当該誘導体を光学分割してなる光学活性な不斉スピロビスイソオキサゾール誘導体の製造法。
【請求項4】
式(2)におけるXがヨウ素原子である請求項2または3記載のスピロビスイソオキサゾール誘導体の製造法またはその光学活性体の製造法。
【請求項5】
不斉触媒反応において、請求項1記載の式(1)で表されるスピロビスイソオキサゾール誘導体の光学活性体に遷移金属が配位した錯体の触媒としての使用。
【請求項6】
不斉触媒反応が、不斉求核付加反応であることを特徴とする請求項5記載の使用。
【請求項7】
不斉求核付加反応が、アルデヒド化合物への不斉カルボニルエン型求核付加反応であることを特徴とする請求項6記載の使用。
【請求項8】
不斉求核付加反応が、アルケニルアルコール化合物の不斉環化反応である請求項6記載の使用。

【公開番号】特開2006−76915(P2006−76915A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262328(P2004−262328)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第84春季年会 講演予稿集2」に発表
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】