説明

光学物品の製造方法および製造装置

【課題】組成物の状態に応じたポットライフを管理するとともに、コストを低減することができる光学物品の製造方法および製造装置を提供すること。
【解決手段】製造装置100は、樹脂原料を収納するタンク110と、タンク110内部で樹脂原料の反応により生成した原料組成物の粘度を測定する粘度計120と、原料組成物を重合硬化させるモールド130と、タンク110からモールド130の内部に原料組成物を供給する原料供給装置140と、原料組成物の供給や反応の進捗を制御する制御部150と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズなどの光学物品を形成する光学物品の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックレンズなどの光学物品を形成するには、複数の材料を混合し、この混合物(以下、原料組成物と記す)をモールドに注入し、モールド内で重合反応させることにより行っている。一定の品質の光学物品を製造するためには、原料組成物の重合反応の進行度を制御することが望ましい。
例えば、特許文献1では、モールドに注入する前に予備反応および脱気処理を行っており、反応の進行度合いを反応組成物の屈折率を測定することによって検知する方法が提示されている。つまり、予備反応や脱気処理を行う調合タンクにインライン屈折率計を取り付け、反応組成物に屈折率計の検出部が常に浸漬した状態とすることで、常時反応生成物の屈折率を測定・監視し、調合操作の進捗を管理する方法である。
【0003】
また、原料組成物は、調合完了後から使用可能な時間(以下、ポットライフという)として、あらかじめ実験で得られた結果に基づいた時間が設定されている。そして、設定時間を越えた原料組成物は廃棄処分している。
【0004】
【特許文献1】特開2004−137481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、原料組成物の状態にかかわらず、あらかじめ設定されたポットライフのみで管理を行うと、何らかの原因で原料組成物の状態が悪化した場合でも使用を継続してしまい、出来上がりのプラスチックレンズの品質が劣化する恐れがある。また、あらかじめ設定されたポットライフを超えていても実際には使用可能な場合があり、原料を無駄に廃棄することがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、組成物の状態に応じたポットライフを管理するとともに、コストを低減することができる光学物品の製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光学物品の製造方法は、タンク内に収納された原料組成物を、モールド型の内部に形成されたキャビティに注入する注入工程と、この注入工程で注入された原料組成物を重合硬化させる重合工程と、を備えた光学物品の製造方法であって、前記タンク内に収納される原料組成物の粘度を測定することを特徴とする。
【0008】
この発明では、タンク内に収納された原料組成物を調合した後、原料組成物がモールド型へ供給される。タンク内では、原料組成物を調合する工程、脱気反応工程などを実施することが可能となっている。また、原料の特性に応じて予備反応や冷却工程を実施することも可能である。そして、これらの工程の途中でも、タンク内の原料組成物の粘度を直接測定する。
したがって、実際に使用している原料組成物の粘度に応じたポットライフ(使用の可否)を判定することができる。例えば、調合完了後から長時間経過した場合でも、原料組成物の粘度が問題ない範囲であればその原料組成物を継続して使用することができる。また、原料組成物の粘度がある一定値を超えた場合のみ原料組成物を廃棄すればよい。すなわち、従来はあらかじめ設定された時間のみでポットライフ管理を行っていたので原料を無駄に廃棄してしまったり、劣化した原料組成物を使用してしまうというおそれがあったが、この発明であれば、原料を無駄なく使用することができ、原料コストの削減および廃棄物の排出量を抑えることができるとともに、高品質の光学物品を提供することができる。
【0009】
また、本発明の光学物品の製造方法において、前記粘度は、検出部が前記タンク内に収納された組成物に浸漬される粘度計により測定されることを特徴とする。
【0010】
この発明では、粘度計の検出部がタンク内の原料組成物に浸漬されており、タンク内の組成物の粘度を常時測定できるようになっている。その結果、調合または反応途中における原料組成物の粘度を常時監視することが可能となる。したがって、そのときの粘度に応じた制御が可能になるため、原料組成物をより確実に反応させることができ、高品質の光学物品を提供することができる。
【0011】
本発明の光学物品の製造方法は、前記粘度に応じて前記キャビティへの原料組成物の注入の可否を決定することが好ましい。
【0012】
この発明では、タンク内の原料組成物の粘度に応じて原料組成物の注入の可否を判断する。特に、キャビティへ注入する直前の粘度を測定することが好ましい。
すなわち、原料組成物の粘度が問題ない範囲であれば使用可能であると判断し、キャビティへの注入を行う。一方、粘度がある一定値を超えると品質が劣化するので、使用を取りやめる。
また、キャビティへ注入する直前の粘度を下げたい場合は、原料組成物をヒータで加熱すると、スムーズにキャビティへ注入することができる。
【0013】
本発明の光学物品の製造方法は、前記粘度に応じて前記タンク内に収納された原料組成物の攪拌を制御することが好ましい。
【0014】
タンク内の原料組成物の粘度を常時測定および監視するので、その粘度に応じて、タンク内の原料組成物の攪拌を制御することができる。具体的には、粘度が大きい場合、反応を均一に進めるため、攪拌回転数を上げる。ただし、脱気反応工程等では攪拌回転数を上げすぎると泡の巻き込みや泡上がりの問題が発生するため、工程に応じて攪拌回転数を制御する必要がある。また、ある一定の粘度に達したら攪拌をやめて次の工程に移る制御も可能である。
このように、タンク内の原料組成物の粘度に応じて攪拌の制御を行うので、確実に反応を進めることができる。したがって、より確実に高品質の光学物品を製造することができる。また、誤って反応を進めすぎるという失敗も起こりにくいので、原料を無駄にすることがなく、原料コストの低減を図ることができる。
【0015】
本発明の光学物品の製造方法は、前記粘度に応じて前記タンク内に収納された原料組成物の温度を制御することが好ましい。
【0016】
タンク内の原料組成物の粘度を常時測定および監視するので、その粘度に応じて、温度を制御することができる。具体的には、原料組成物の異常反応により、原料組成物の粘度が急激に上昇する場合、温度を下げて異常反応の進行を抑えることが可能である。
このように、タンク内の原料組成物の粘度に応じて温度の制御を行うので、より確実に反応を進めることができる。したがって、より確実に高品質の光学物品を製造することができる。また、誤って反応を進めすぎるという失敗も起こりにくいので、原料を無駄にすることがなく、原料コストの低減を図ることができる。
【0017】
本発明の光学物品の製造装置は、タンクと、このタンク内に収納された原料組成物をモールド型の内部に形成されたキャビティに注入する注入装置と、を備えた光学物品の製造装置であって、前記タンク内に収納される原料組成物の粘度を測定するとともに、検出部が前記タンク内に収納された組成物に浸漬される粘度計を有することを特徴とする。
【0018】
この発明では、粘度計の検出部がタンク内の組成物に浸漬されており、タンク内の組成物の粘度を常時測定できるようになっている。そして、この粘度計で検出された測定値を表示する表示装置に、タンク内の組成物の粘度が表示される。
したがって、タンク内の組成物の粘度を常時監視することができるので、前述のような作用効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の光学物品を製造する製造装置の一実施形態を図面に基づいて詳述する。(製造装置の構成)
図1は本発明の一実施形態にかかる光学物品の製造装置の概略図である。
図1に示すように、製造装置100は、樹脂原料を収納するタンク110と、タンク110内部で樹脂原料の反応により生成した原料組成物の粘度を測定する粘度計120と、原料組成物を重合硬化させるモールド130と、タンク110からモールド130の内部に原料組成物を供給する原料供給装置140と、原料組成物の供給や反応の進捗を制御する制御部150と、を備えている。
【0020】
タンク110は、底面111と、底面111から垂直に立ち上げられた壁面112とからなる略円筒状の容器である。壁面112の底面111側には、粘度計120を取り付けるための取付孔113が形成されている。また、タンクには、ウォータージャケット114等を用いて原料組成物の温度制御を行う温度制御装置170と、撹拌羽根161等によって樹脂組成物の撹拌を行う撹拌装置160が付いていることが望ましい。
【0021】
粘度計120は、取付孔113に嵌合する本体部121と、本体部121の先端で原料組成物の粘度を検出する検出部122と、検出部122での測定値を表示する表示装置123と、を備えている。本体部121と取付孔113との間は、タンク110内の原料が漏れないように密封されている。検出部122は、タンク110内の原料組成物(または原料)に浸漬されている。表示装置123は本体部121に接続され、検出部122で検出した粘度を数値化して表示している。
粘度計120としては、一般に市販されている粘度計を使用することができる。例えば、CBC株式会社製のシールド型粘度計「FVM80A−ST」(商品名)などのインライン型粘度計を好適に使用することができる。
【0022】
モールド130は、一対のレンズ型131の周縁部にテープ132が巻き付けられて形成される。
原料供給装置140は、モールド130の内部に原料組成物を注入するディスペンサ141と、このディスペンサ141の基端部に下端部が接続される原料流通管142と、を備え、原料流通管142の他端部は、タンク110内の原料組成物に浸漬された状態となっている。ディスペンサ141は、原料組成物の注入を調整する本体部1411と、原料組成物を吐出するノズル1412と、を有している。
【0023】
制御部150は、モールド130の内部に原料組成物を注入する工程を管理する第一の制御部151と、タンク110内の原料組成物の粘度に応じて進捗管理や付随装置の制御を行う第二の制御部152と、を備えている。
第一の制御部151は、ディスペンサ141からの原料組成物の注入量を調整したり、原料流通管142を流通する原料組成物の流量を調節したり、モールド130の内部に原料組成物が所定位置まで注入されたことを検知したりする。
【0024】
第二の制御部152は、粘度計120で測定した測定値に基づいて、攪拌装置160や温度制御装置170を介してウォータージャケット114の温度の制御を行う。
さらに、第二の制御部152は、原料組成物の粘度に応じて、モールド130への注入の可否の判断を行う。原料組成物の粘度が問題ない粘度であれば、モールド130に注入する。粘度がある一定値を超えると品質が劣化するため、モールド130に注入せず、使用をとりやめる。
【0025】
(材料)
本発明では、一般的に使用されている光学物品の材料を使用することができる。例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、(チオ)エポキシ基を有する化合物を含有する重合性組成物を重合して得られるチオエポキシ系樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する重合性組成物を重合して得られる樹脂などが挙げられる。本実施形態では、チオウレタン樹脂を用いる。
【0026】
さらに、必要に応じて重合触媒やその他添加剤を添加することができる。重合触媒としては、アミン類、ホスフィン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類、アルデヒドとアミン系化合物の縮合物、カルボン酸とアンモニアとの塩、ウレタン類、チオウレタン類、グアニジン類、チオ尿素類、チアゾール類、スルフェンアミド類、チウラム類、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩、第3級スルホニウム塩類、第2級ヨードニウム塩類、鉱酸類、ルイス酸類、有機酸類、ケイ酸類、四フッ化ホウ酸類、過酸化物、アゾ系化合物、酸性リン酸エステル類を挙げることができる。
【0027】
(光学物品の製造方法)
次に、製造装置100による光学物品の製造方法を説明する。
まず、原料組成物をタンク110で調合する。具体的には、各種のモノマー、オリゴマー等の重合性原料を必要量秤量し、タンク110内に投入する。この重合性原料は、必要に応じて、2種類以上を用いてもかまわない。1種、または2種以上の重合性原料をタンク110内に投入した後、温度制御装置170によってウォータージャケット114を制御することでタンク110の温度を適切な温度に調整し、投入された原料組成物が均一になるように充分に撹拌を行う。この際、必要に応じて、内部離型剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、架橋剤、ブルーイング剤等を添加しても良い。
撹拌時のタンク温度は、一般的には、−10℃〜80℃であり、より好ましくは、0℃〜40℃である。あまり高温で行うと、早期に重合反応が始まってしまったり、原料組成物が黄色に着色するといった問題点がある。また、あまり低温で行うと、粉末(固体)の重合性原料や、紫外線吸収剤等の粉末(固体)の各種添加剤の溶解が不可能であったり、溶解が可能にしても、非常に時間がかかるといった問題が起こり易い。また、撹拌前、もしくは撹拌途中に、重合開始剤、重合触媒を添加してもよい。ただし、これらは、原料組成物のポットライフとの関係で、後述する脱気工程の前、または、後で添加しても良い。
【0028】
タンク110を用いて、原料組成物を調合する際の撹拌時間は一般的に1分間〜48時間であり、より好ましくは、5分〜24時間である。短時間では、充分に均一にならず、また、長時間の場合は、重合反応が始まってしまう問題点がある。撹拌時のタンク内雰囲気は、大気、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが可能である。圧力についても、常圧の他、加減圧してもかまわない。
また、原料組成物の調合にあたっては、上記の様に最初からタンク110を用いても良いし、あるいは、他のタンクを用いて、原料組成物を調合した後で、調合済みの原料組成物をタンク110へ移送して使用することも可能である。
さらに、原料組成物によっては、タンク110内で予備反応を行ってもよい。予備反応を行う場合には、単に、タンク温度を加温することによって反応させることも可能であるが、必要に応じて、予備反応用の重合開始剤、または重合触媒を少量添加してもよい。予備反応を行うことによって、重合成型時の重合収縮を低減させ、モールドと成型材料が重合途中で剥がれることを防止する効果がある。また、原料の種類によっては、予備反応を行うことにより、成型後の樹脂の透明性を改善する効果もある。
【0029】
このようにして、原料組成物の調製後、または予備反応終了後に、続いて脱気工程を行うことが一般的である。脱気工程は、撹拌中に巻き込んだ、微小な気泡を原料組成物中から無くすことで、重合成型後の硬化物に気泡がそのまま残り、外観不良となることを避ける効果がある。また、ウレタン樹脂用またはチオウレタン樹脂用の原料性組成物を用いた場合には、原料組成物中に、極微量の水分が含まれていると、重合成型中に、気泡不良が発生することがあり、脱気工程を行うことで、水分量を減らすことが可能となり、気泡不良を低減する効果もある。
脱気工程は、一般的には、0.001torr〜100torrの減圧下で、−10℃〜80℃、1分間〜24時間行う。ただし、原料組成物によっては、あまり減圧をしすぎると、組成物中に含まれるモノマー自身が揮発してしまう問題があり、最適な圧力、温度、時間等は原料組成物によって異なる。
【0030】
脱気工程が終了した後、原料供給装置140により、タンク110内の原料組成物を、原料流通管142、ディスペンサ141を介してモールド130のキャビティ内に注入する。このとき、原料流通管142の内部を流通する原料組成物は、ヒータにより加温されてもよい。
なお、原料流通管142のディスペンサ141の直前における原料組成物の粘度を測定するために、原料流通管142に粘度計を設けてもよい。
【0031】
以上説明した本実施形態によれば、次のような作用効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、光学物品の製造段階において、タンク110内の原料組成物の粘度を測定する。すなわち、調合または反応途中の組成物の粘度を同時連続的に測定および監視することができる。
したがって、実際の原料組成物の粘度を把握することができるため、モールド130のキャビティ内へ注入する直前の粘度に応じた正確なポットライフを判定することができる。すなわち、時間経過によらず、原料組成物の状態に応じた調合および反応を行うことができるので、後の工程のモールド内での重合反応がより確実に行われ、より高品質の製品を製造することができる。
また、長時間経過した後であっても、粘度に応じてポットライフを判定できるため、原料を無駄にすることがなく、原料コストの低減を図ることができる。
【0032】
(2)さらに、実際の調合中または反応中の組成物の粘度に応じて攪拌、温度などの制御を行うことができるため、より確実に調合または反応させることができる。
したがって、より高品質の光学物品を製造することができる。
【0033】
(3)本実施形態では、タンク110に粘度計120を取り付け、検出部122がタンク110内の原料組成物(または原料)に常時浸漬する状態とした。また、測定値を表示装置123に表示することにより、タンク110内の原料組成物の粘度を常時測定および監視することができる。
したがって、タンク110内の原料組成物の粘度を測定するために原料組成物の一部をタンク110の外に取り出して粘度を測定するという手間を省くことができる。また、タンク110の外部に取り出して粘度を測定すると誤差が生じるおそれがあったが、本実施形態では、タンク110内の原料組成物の正確な粘度を測定することができる。その結果、モールド注入時の最適粘度により近づけることができるとともに、高品質の製品を製造することができる。
そして、このような製造装置を用いることで、前述のような作用効果を得ることができる。
【0034】
なお、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。
例えば、本実施形態では、粘度計120をタンク110にのみ取り付けたが、ディスペンサ141の直前の原料流通管142に取り付けてもよい。これによれば、モールド130に注入時の原料組成物の粘度を測定・監視することができるので、より確実なポットライフを判定することができる。
【0035】
また、このとき、ディスペンサ141の直前の原料流通管142にヒータを設けてもよい。これによれば、原料組成物をモールド130に注入時の最適粘度にすることができる。その結果、モールド注入がスムーズに行われるので、量産が容易となる。
【0036】
さらに、本実施形態では、タンク110に粘度計120のみを取り付けたが、屈折率計をさらに取り付けてもよい。これにより、粘度と屈折率との双方を監視することができ、量産可能かつより高品質な製品を製造することができる。
【実施例1】
【0037】
以下、実施例により本発明の有効性を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
〔試験1〕
試験1では、プラスチックレンズ原料として、チオウレタン樹脂を用いて以下の試験を行った。
[実施例1]
インライン型粘度計(CBC株式会社製、製品名「FVM80A−ST」)を装着した反応容器中で、プラスチックレンズ原料として、全体調合量40kgに対して、m−キシレンジイソシアネートを50.6質量部、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン或いは4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン或いは5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンのいずれか一種の中から選ばれる化合物を49.4質量部、紫外線吸収剤として商標名「SEESORB701」(シプロ化成工業製)を1.25質量部、内部離型剤として商標名「ゼレックUN」(Stepan社製)を0.085質量部添加し、混合した後、十分に撹拌して、完全に分散又は溶解させた。
その後、ジメチルチンジクロライド0.004質量部とN,N−ジメチルシクロヘキシルアミン0.004質量部を添加し、30℃に保持しながら良く攪拌して溶解させた後、5mmHgに減圧して攪拌しながら30分間脱気を行った。この時点の混合液を溶液Aとし、溶液Aをインライン型粘度計で測定した粘度(30℃変換値)は、15mPa・sであった。
得られた溶液Aを、二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後、得られたレンズ原料入りのレンズモールドを温風加熱炉により30℃から120℃まで12時間で昇温し、最高温度120℃で0.5時間保持した後、2時間で70℃まで放冷した後、レンズモールドから離型し、反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0039】
[実施例2]
実施例1で調合した溶液Aを30℃で2時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は17mPa・sであった。
そして、溶液Aを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0040】
[実施例3]
実施例1で調合した溶液Aを30℃で4時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は25mPa・sであった。
そして、溶液Aを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0041】
[実施例4]
実施例1で調合した溶液Aを30℃で6時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は56mPa・sであった。
そして、溶液Aを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0042】
[実施例5]
全体調合量を10kgとした以外は、実施例1と同様の原料を同様の割合で配合し、攪拌、溶解、脱気の処理を行い、溶液Bを調合した。
その後、この溶液Bを30℃で5時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は37mPa・sであった。
そして、溶液Bを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0043】
[実施例6]
実施例5で調合した溶液Bを30℃で6時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は52mPa・sであった。
そして、溶液Bを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0044】
[実施例7]
実施例5で調合した溶液Bを30℃で7時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は68mPa・sであった。
そして、溶液Bを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0045】
[実施例8]
全体調合量を80kgとした以外は、実施例1と同様の原料を同様の割合で配合し、攪拌、溶解、脱気の処理を行い、溶液Cを調合した。
その後、この溶液Cを30℃で5時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は51mPa・sであった。
そして、溶液Cを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0046】
[実施例9]
反応温度を28℃とした以外は、実施例1と同様の原料を同様の割合で配合し、攪拌、溶解、脱気の処理を行い、溶液Dを調合した。
その後、この溶液Dを28℃で5時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は35mPa・sであった。
そして、溶液Dを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0047】
[実施例10]
実施例9で調合した溶液Dを28℃で6時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は50mPa・sであった。
そして、溶液Dを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0048】
[実施例11]
実施例9で調合した溶液Dを28℃で7時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は66mPa・sであった。
そして、溶液Dを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0049】
[実施例12]
反応温度を32℃とした以外は、実施例1と同様の原料を同様の割合で配合し、攪拌、溶解、脱気の処理を行い、溶液Eを調合した。
その後、この溶液Eを32℃で5時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は59mPa・sであった。
そして、溶液Eを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0050】
[比較例1]
実施例1で調合した溶液Aを30℃で7時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は78mPa・sであった。
そして、溶液Aを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0051】
[比較例2]
実施例1で調合した溶液Aを30℃で8時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は100mPa・sであった。
そして、溶液Aを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0052】
[比較例3]
実施例8で調合した溶液Cを30℃で6時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は72mPa・sであった。
そして、溶液Cを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0053】
[比較例4]
実施例8で調合した溶液Cを30℃で7時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は94mPa・sであった。
そして、溶液Cを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0054】
[比較例5]
実施例12で調合した溶液Eを32℃で6時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は82mPa・sであった。
そして、溶液Eを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0055】
[比較例6]
実施例12で調合した溶液Eを32℃で7時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は98mPa・sであった。
そして、溶液Eを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後は、実施例1と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0056】
上記実施例1〜12および比較例1〜6について、注入性とレンズ外観について評価を行った結果を表1に示す。なお、従来の時間によるポットライフ管理であれば、プラスチックレンズ原料としてチオウレタン樹脂を用いた場合、触媒添加後6時間までは使用可としていた。
判定基準は以下の通りである。
【0057】
<注入性判定基準>
○:泡巻き込みなし
×:泡巻き込みあり
【0058】
<レンズ外観判定基準>
○:良好
△:薄い歪あり
×:不良(濃い歪あり)
【0059】
【表1】

【0060】
表1からわかるように、実施例1〜6、実施例8〜10および実施例12では、触媒添加後の経過時間が、従来のポットライフ管理の使用期限である6時間以内であるので、注入時粘度は適度で、注入性およびレンズ外観も良好であった。
また、実施例7および実施例11では、触媒添加後の経過時間が7時間で、従来のポットライフ管理の使用期限である6時間以内を超えていたが、注入時粘度が適度であったので、注入性およびレンズ外観も良好であった。
比較例1、2、4、6では、触媒添加後の経過時間が6時間を越えており、注入時粘度も大きいため、注入性またはレンズ外観のうち少なくともいずれか一方が不良であった。
また、比較例3および比較例5では、従来のポットライフ管理の使用期限である6時間以内であったが、注入時粘度が大きいためにレンズ外観が不良であった。
なお、本実施例から、注入時粘度が70mPa・s以下の原料組成物が使用可であると言える。
【0061】
〔試験2〕
試験2では、プラスチックレンズ原料として、チオエポキシ系樹脂を用いて以下の試験を行った。
【0062】
[実施例13]
インライン型粘度計(CBC株式会社製、製品名「FVM80A−ST」)を装着した反応容器中で、プラスチックレンズ原料として、全体調合量40kgに対して、硫黄20質量%、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド80質量%を65℃でよく混合し均一とした。次いで、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール0.5質量%を加え、60℃で約60分間反応させた(予備反応工程)。その後、得られた樹脂組成物を20℃に冷却した(冷却工程)。
一方、ベンジルメルカプタン5質量%、トリエチルベンジルアンモニウムクロライドを0.03質量%、ジn−ブチルスズジクロライド0.2質量%を加えてよく混合して均一とし、これをf溶液とした。
そして、このf溶液を前述の冷却した樹脂組成物に加えて均一な樹脂組成物とした。
次いで、得られた樹脂組成物を、10torr、10分間、20℃の条件下で脱気処理を行った(脱気工程)。この時点の混合液を溶液Fとし、溶液Fをインライン型粘度計で測定した粘度(30℃変換値)は、60mPa・sであった。
得られた溶液Fを、二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。
その後、得られたレンズ原料入りのレンズモールドを温風加熱炉により30℃から100℃まで20時間で昇温し、重合硬化させた。室温まで放冷した後、レンズモールドから離型し、反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0063】
[実施例14]
実施例13で調合した溶液Fを20℃で2時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は100mPa・sであった。
そして、溶液Fを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。その後は、実施例13と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0064】
[実施例15]
実施例13で調合した溶液Fを20℃で3時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は120mPa・sであった。
そして、溶液Fを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。その後は、実施例13と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0065】
[実施例16]
実施例13で調合した溶液Fを15℃で2時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は90mPa・sであった。
そして、溶液Fを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。その後は、実施例13と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0066】
[実施例17]
実施例13で調合した溶液Fを15℃で3時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は110mPa・sであった。
そして、溶液Fを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。その後は、実施例13と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0067】
[実施例18]
実施例13で調合した溶液Fを15℃で4時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は130mPa・sであった。
そして、溶液Fを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。その後は、実施例13と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0068】
[実施例19]
実施例13で調合した溶液Fを25℃で2時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は120mPa・sであった。
そして、溶液Fを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。その後は、実施例13と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0069】
[比較例7]
実施例13で調合した溶液Fを20℃で4時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は140mPa・sであった。
そして、溶液Fを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。その後は、実施例13と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0070】
[比較例8]
実施例13で調合した溶液Fを25℃で3時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は140mPa・sであった。
そして、溶液Fを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。その後は、実施例13と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0071】
[比較例9]
実施例13で調合した溶液Fを25℃で4時間保持してから使用を開始した。なお、この時点で測定した粘度(30℃変換値)は160mPa・sであった。
そして、溶液Fを二枚のガラス型を封止用テープで保持したレンズモールドに注入した。その後は、実施例13と同様にして反応生成物であるプラスチックレンズを得た。
【0072】
上記実施例13〜19および比較例7〜9について、注入性とレンズ外観について評価を行った結果を表2に示す。なお、従来の時間によるポットライフ管理であれば、プラスチックレンズ原料としてチオエポキシ系樹脂を用いた場合、触媒添加後3時間までは使用可としていた。
判定基準は、前述の試験1と同様である。
【0073】
【表2】

【0074】
表2からわかるように、実施例13〜17、実施例19では、脱気後の経過時間が、従来のポットライフ管理の使用期限である3時間以内であるので、注入時粘度は適度で、注入性およびレンズ外観も良好であった。
また、実施例18では、触媒添加後の経過時間が4時間で、従来のポットライフ管理の使用期限である3時間以内を超えていたが、注入時粘度が適度であったので、注入性およびレンズ外観も良好であった。
比較例7、9では、脱気後の経過時間が3時間を越えており、注入時粘度も大きいため、注入性またはレンズ外観のうち少なくともいずれか一方が不良であった。
また、比較例8では、従来のポットライフ管理の使用期限である3時間以内であったが、注入時粘度が大きいためにレンズ外観が不良であった。
なお、本実施例から、注入時粘度が130mPa・s以下の原料組成物が使用可であると言える。
【0075】
以上より、従来のポットライフ管理の使用期限を過ぎた原料組成物であっても、注入時粘度により使用可のものがあるので、注入時粘度に応じてポットライフの判定を行えば、原料を無駄にすることがない。また、使用期限を過ぎていない原料組成物であっても、注入時粘度が大きいために不良品となり得るものについては使用不可とすることで、不良品の生産率を低減することができることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、メガネレンズなどのプラスチック、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤、フィルター、接着剤等の光学物品に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施形態にかかる光学物品の製造装置の概略図。
【符号の説明】
【0078】
100…製造装置、110…タンク、120…粘度計、130…モールド、140…原料供給装置、150…制御部、160…攪拌装置、170…温度制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク内に収納された原料組成物を、モールド型の内部に形成されたキャビティに注入する注入工程と、この注入工程で注入された原料組成物を重合硬化させる重合工程と、を備えた光学物品の製造方法であって、
前記タンク内に収納される原料組成物の粘度を測定することを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学物品の製造方法において、
前記粘度は、検出部が前記タンク内に収納された組成物に浸漬される粘度計により測定されることを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学物品の製造方法において、
前記粘度に応じて前記キャビティへの原料組成物の注入の可否を決定することを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の光学物品の製造方法において、
前記粘度に応じて前記タンク内に収納された原料組成物の攪拌を制御することを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の光学物品の製造方法において、
前記粘度に応じて前記タンク内に収納された原料組成物の温度を制御することを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項6】
タンクと、このタンク内に収納された原料組成物をモールド型の内部に形成されたキャビティに注入する注入装置と、を備えた光学物品の製造装置であって、
前記タンク内に収納される原料組成物の粘度を測定するとともに、検出部が前記タンク内に収納された組成物に浸漬される粘度計を有することを特徴とする光学物品の製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−169391(P2009−169391A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261564(P2008−261564)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】