説明

光学特性測定方法及び光学特性測定装置

【課題】インクの分光透過特性を、測定される印刷試料の印刷条件に即して充分な精度で求める。
【解決手段】単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の分光透過特性を該着色層の分光反射特性を用いて算出する光学特性測定方法における、第1の工程において、各着色層と同一の又は近似された、基準として定める基準着色層の分光透過特性及び分光反射特性を予め取得し、第2の工程において、該着色層の分光反射特性を測定する。そして、第3の工程において、該着色層の分光透過特性を算出するべく、該着色層の分光反射特性と該基準着色層の分光反射過特性とに基づいて該基準着色層の分光透過特性を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光増白基材上の着色面の光学特性を測定する光学特性測定方法及び光学特性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産されている紙や繊維の多くは、蛍光増白剤によって蛍光増白されており、これら及びこれらを基材とする着色面の色彩を蛍光の影響を無視して評価することができないという事情から、蛍光の影響を配慮した当該紙や繊維及びこれらを基材とする着色面に対する測色技術の向上が求められている。
【0003】
一般的に、反射試料の視覚的な光学特性は、白色との相対比、すなわち或る照明・受光条件において照明、受光された該反射試料からの放射光の、同一条件で照明、受光された完全拡散反射体からの放射光に対する波長λ毎の比である全分光放射輝度率B(λ)で表される。
【0004】
ところで、蛍光は自発光するので光源色であるが、上記蛍光増白された、つまり蛍光物質を含む試料(以降、蛍光試料という)では、蛍光は反射光に重畳されて物体色として観察される。すなわち、蛍光試料からの放射光は、該蛍光試料からの反射光(反射光成分)と蛍光(蛍光成分)との和として与えられることから、蛍光試料の全分光放射輝度率B(λ)は、上記と同様、或る照明・受光条件において照明、受光された蛍光試料からの反射光及び蛍光それぞれの、同一条件で照明、受光された完全拡散反射体からの放射光に対する比である反射分光放射輝度率R(λ)と蛍光分光放射輝度率F(λ)との和として与えられる。これは以下の式(1)で示される。
B(λ)=R(λ)+F(λ)…(1)
【0005】
ただし、上記完全拡散反射体は蛍光を放射せず、その反射率は照明光の波長に依存しないので、比例定数を別にすれば、これら全分光放射輝度率B(λ)、反射分光放射輝度率R(λ)、及び蛍光分光放射輝度率F(λ)は、それぞれ波長λの放射光、反射光、及び蛍光の、同じ波長の照明光に対する比として表される。なお、当該測色の目的は目視に準じる測定値を得ることにあり、物体色として感じられる蛍光試料の場合、求められるべきは全分光放射輝度率B(λ)であり、このB(λ)から色彩値が導かれる。
【0006】
測色用の照明光としては、CIE(国際照明委員会)が分光分布(分光強度)を定義しているD65(昼光)やA(白色光源)、或いはD50、D75、F11、Cなどの標準照明光が用いられる(蛍光試料には通常、標準照明光D65が用いられる)。照明光により照明された蛍光試料(蛍光物質)の励起・蛍光特性は、該蛍光試料面を単位強度で照明する波長μの励起光(入射光)、すなわち単位エネルギーをもつ単波長光により励起される波長λの蛍光の強度を表すマトリクスデータ、二分光蛍光放射輝度率(Bispectral Luminescent Radiance Factor)F(μ,λ)によって記述される。
【0007】
上記マトリクスデータは、例えば図8に示す3次元データであり、特定の蛍光波長λに沿った断面(例えばλ=550nmの断面)は、波長λの蛍光を励起する励起光の波長毎の励起効率である分光励起効率を表し、励起波長μに沿った断面(例えばμ=450nmの断面)は、450nmの照明光により励起される、蛍光の分光強度を表す。このことからも、蛍光現象は波長μから波長λへの波長変換を伴う現象であると言える。したがって、分光分布I(μ)を有する照明光Iで照明された、二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)を有する蛍光試料の蛍光分光放射輝度率F(λ)は、比例定数を別にすれば、以下の式(2)により求められる。
F(λ)=∫F(μ,λ)・I(μ)dμ/I(λ)…(2)
つまり、F(λ)は、照明光Iの分光分布I(μ)と二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)との畳み込み積分とI(λ)との比で与えられる。また、I(λ)は、比例定数を別にすれば、前記完全拡散反射体(面)からの反射光と等価である。また、式中、「・」、「/」及び「∫」の記号は、それぞれ乗算、除算及び積分を示すものとする(以降も同様)。
【0008】
上記式(2)が示すように、蛍光分光放射輝度率F(λ)は、照明光Iの分光分布I(μ)に依存するため、この蛍光分光放射輝度率F(λ)と、それ自身は照明光Iの分光分布I(μ)に依存しない反射分光放射輝度率R(λ)との和である全分光放射輝度率B(λ)も分光分布I(μ)に依存する。つまり、蛍光試料に対する照明光の違いによって、測定される全分光放射輝度率B(λ)及びこれから導かれる色彩値も異なるものとなる。
【0009】
したがって、蛍光試料に対する光学特性の評価においては、照明光(以降、F(λ)やB(λ)等の光学特性の評価に用いる照明光のことを評価用照明光という)の分光分布を特定する必要があり、実際の測定では、測定装置の照明光の分光分布をこの特定の評価用照明光と一致させる必要がある。しかしながら、当該特定の評価用照明光に一致させること、すなわち評価用照明光として一般的に用いられる上記標準照明光(D65やC等)と同じ分光分布の照明光を実現することは非常に困難である。
【0010】
そこで、他の方法として、二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)或いは二分光放射輝度率B(μ,λ)を求め、このF(μ,λ)あるいはB(μ,λ)と、数値的に与えた評価用照明光の分光分布I(λ)とから、上記式(2)を用いて、蛍光分光放射輝度率F(λ)、或いは全分光放射輝度率B(λ)を数値的に求める方法がある。ただし、この二分光放射輝度率B(μ,λ)は、上記二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)と同様、蛍光試料面を単位強度で照明する波長μの照明光による、波長λの蛍光と反射光との和として与えられる波長λの全放射光の強度を表すマトリクスデータであり、全分光放射輝度率B(λ)は、以下の式(2-1)に示すように照明光Iの分光分布I(μ)と二分光放射輝度率B(μ,λ)との畳み込み積分とI(λ)との比で与えられる。
B(λ)=∫B(μ,λ)・I(μ)dμ/I(λ)…(2-1)
【0011】
しかしながら、二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)や二分光放射輝度率B(μ,λ)の測定は、照明、受光系の双方に分光手段を備え、大掛かりで測定時間のかかる二分光器法測定器(ダブルモノクロメーター)を必要とすることから実用的ではなく、例えば、代表的な蛍光試料である蛍光増白紙等の品質管理などには、専ら以下の2つの簡易手法が採られる。
【0012】
<Gaertner−Grisserの測定方法>
例えば図10の光学特性測定装置600に示すように、蛍光試料601が積分球602の試料用開口603に配設される。キセノンランプなど紫外域(UV域)に十分な強度を有する光源604からの光束605は、光源用開口を通って積分球602内に入射される。この光束605中には紫外カットフィルタ606が所定長挿入される。光束605のうちの紫外カットフィルタ606を通過した部分は紫外成分が除去されるので、紫外カットフィルタ606の挿入の程度を調節することで、照明光の可視域に対する紫外域(励起域)強度の相対比(相対紫外強度)が調整される。紫外カットフィルタ606を透過した光束と透過しなかった光束とは、それぞれ積分球602の内部で拡散多重反射され、合成されて蛍光試料601を拡散照明する。そして、当該合成された照明光によって照明されることで得られる蛍光試料601からの試料放射光の所定方向の成分(放射光成分607)が、放射光分光部608に入射し、該放射光成分607の分光分布Sx(λ)が測定される。一方、照明光と略同じ分光分布を有する光束609が、参照用光ファイバ610に入射してさらにこの参照用光ファイバ610を経て照明光分光部611に入射し、該光束609の分光分布Mx(λ)が測定される。そして、これらSx(λ)及びMx(λ)の測定情報に基づいて演算制御部612により全分光放射輝度率Bx(λ)が求められる(例えば、特許文献1の図4参照)。
【0013】
上記相対紫外強度の校正は、蛍光試料601に近似した励起・蛍光特性(二分光蛍光放射輝度率)を有し、評価用照明光で照明したときの色彩値(例えばCIEの白色度WI)が既知である蛍光基準試料を用い、該蛍光基準試料を試料用開口603に配設してこれに対する全分光放射輝度率B(λ)を測定し、この全分光放射輝度率B(λ)から算出した白色度WIが上記既知の白色度WIsと一致するように、紫外カットフィルタ606の挿入度を調節することで行われる。
【0014】
しかしながら、Gaertner−Grisserの方法は、機械的に複雑であり信頼性に問題があるだけでなく、上記白色度WIが既知の白色度WIsと一致するまで、紫外カットフィルタ606の挿入度の調節と測定とを繰り返し行う煩雑な校正作業が必要となる。また、自由度が「1」であるため、白色度WIや色度Tintなどの2つ以上の色彩値を同時に校正したり、或いは全分光放射輝度率B(λ)そのものを既知の評価用照明光で照明したときの全分光放射輝度率Bs(λ)と一致させるような校正を行うことは原理的に不可能である。
【0015】
<特許文献1の方法>
上記Gaertner−Grisserの測定方法では、紫外カットフィルタ606の挿入度に応じて照明光を合成し、結果的に全分光放射輝度率B(λ)を合成するが、特許文献1の方法は、原理はGaertner−Grisserの測定方法と同様であり、また自由度も「1」であるものの、まず全分光放射輝度率B(λ)を数値的に合成し、結果的にこれを与える照明光を合成するという点で異なる。具体的に説明すると、例えば図11の光学特性測定装置700に示すように、積分球702に、紫外強度をもつ光束703を出力する第1照明部704、紫外強度をもたない光束705を出力する第2照明部706、試料用開口707に配設された蛍光試料701からの放射光(放射光成分708)の分光分布を測定する放射光分光部709、そのときの照明光の光束710の分光分布を光ファイバ711を介して測定する照明光分光部712、及び演算制御部713を備える。
【0016】
そして、蛍光試料701を第1及び第2照明部704、706で照明して、該試料からの放射光の分光分布Sx1(λ)、Sx2(λ)と、そのときの照明光の分光分布Mx1(λ)、Mx2(λ)とを測定し、これらSx1(λ)、Sx2(λ)とMx1(λ)、Mx2(λ)とから蛍光試料701に対する第1及び第2照明部704、706での全分光放射輝度率Bx1(λ)、Bx2(λ)を求める。そして、この全分光放射輝度率Bx1(λ)及びBx2(λ)を、以下の式(3)に示すように、予め波長毎に設定して記憶しておいた重み係数W(λ)(以降、重み係数のことを「重み」と表現する)を用いて線形結合することで合成分光放射輝度率Bxc(λ)を求め、このBxc(λ)を、評価用照明光で照明された蛍光試料701の全分光放射輝度率とする。
Bxc(λ)=W(λ)・Bx1(λ)+(1−W(λ))・Bx2(λ)…(3)
【0017】
但し、上記重みW(λ)は、蛍光試料701に近似した励起・蛍光特性を有し、評価用照明光で照明された場合の全分光放射輝度率Bs(λ)が既知である蛍光基準試料を用いて設定される。すなわち、重みW(λ)は、蛍光基準試料を第1及び第2照明部704、706により照明して測定した分光放射輝度率B1(λ)、B2(λ)を該重みW(λ)により線形結合させて得られるW(λ)・B1(λ)+(1−W(λ))・B2(λ)の値が、上記既知の全分光放射輝度率Bs(λ)と等しくなるように、波長毎に数値的に求められる(例えば、特許文献1の図1参照)。
【0018】
この方法は、上述のGaertner−Grisserの測定方法による相対紫外強度の校正を、全分光放射輝度率B(λ)をパラメータとして波長毎に数値的に行うことに相当する。したがって、全分光放射輝度率B(λ)について校正されるので、これから算出される全ての色彩値に対しても校正がなされるという特徴がある。また、測定に際しての機械的可動部や、煩雑な紫外カットフィルタ挿入度の調節作業が不要になるなど、Gaertner−Grisserの測定方法の多くの欠点を解決するが、蛍光基準試料を必要とすることには変わりがなく、蛍光基準試料を用いた相対紫外強度の校正後に、蛍光試料に対する測定を行うので、校正時と測定時との照明光に分光分布の差があると測定誤差が生じてしまうといった問題は依然として存在する。
【0019】
ところで、印刷用紙が蛍光増白されていると、該印刷用紙(蛍光増白基材)上の印刷色は蛍光の影響を免れない。印刷用紙におけるインクで覆われた部分はインクの分光透過率に応じた励起光が、また、覆われていない部分はそのままの励起光が蛍光増白紙に到達するので、印刷用紙の測定域における分光的な励起・蛍光特性(分光励起効率及び分光蛍光強度)は、印刷用紙自身の励起・蛍光特性だけでなく、当該インク層についても考慮された、測定域の平均的な分光透過特性に依存する。この測定域の平均的な分光透過特性は、該インクによる面積率100%の印刷面の分光透過特性、及びこのインクの該測定域内の面積率(面積比率)に依存するので、結局、測定域の分光的な励起・蛍光特性は、該インクによる面積率100%の印刷面における分光透過特性、及びその測定域内の面積率(面積比率)に依存する。また、1種類以上のインクで印刷する場合は、印刷用紙は各インク及びこれらインク同士の重なりで覆われることになるので、測定域の分光的な励起・蛍光特性は、当該各インク及びこれらインク同士の重なりの、面積率100%の印刷面の分光透過特性と面積率とに依存する。すなわち印刷用紙(蛍光増白基材)上に1種類以上のインクで印刷された印刷面の光学特性を蛍光の影響を考慮して測定するには、各インク及びこれらインク同士の重なりによる面積率100%の印刷面の分光透過特性の情報が必要となる。
【0020】
透過特性に波長依存性がないインクは、インクを透過した照明光の相対的な分光分布を変えないため、上記特許文献1の方法で合成された照明光の分光積分励起効率と評価用照明光の分光積分励起効率とに対して同じ影響を及ぼす。したがって、印刷面の当該合成照明光による全分光放射輝度率Bc(λ)は、印刷されていない面とは異なるものの、評価用照明光による全分光放射輝度率と同じであり、評価用照明光で照明されたときの印刷面の全分光放射輝度率とすることができる。ここで、分光積分励起効率E(λ)は、照明光が、全体として蛍光の各波長成分にもたらす励起効率であり、照明光の分光分布をI(μ)とすると、以下、式(4)で表される。
E(λ)=∫Q(μ,λ)・I(μ)dμ …(4)
但し、Q(μ,λ)は、二分光励起効率、すなわち波長μ、波長幅dμの単位強度の励起光成分の、蛍光の波長λの成分に対する励起効率を示す。
【特許文献1】特開平8−313349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述の蛍光増白基材上の印刷色について、特許文献1の方法やGaertner−Grisserの測定方法のように頻繁な更新や経時変化に対する管理等が必要な蛍光基準試料及びこれを用いた煩雑な校正作業を必要とすることなく、蛍光の影響を考慮した測色が求められる。そのためには、印刷用紙の励起・蛍光特性や各インクの面積率だけでなく、各インクの分光透過特性を正確に求めることが必要となる。ところが、インクの濃度はロット毎にばらつき、またインク層の厚みも印刷機(例えばプリンター)や環境温度等によって異なるため、特定の印刷条件(印刷機、インク、環境温度等)で用紙に印刷された面積率100%の印刷面の分光透過特性と異なる分光透過特性を、すなわち同じ面積率100%であってもこの場合の分光透過特性とは異なる印刷条件で印刷された印刷面の分光透過特性を典型値として用いることは、無視できない誤差の原因となる。
【0022】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、必要とする各インクの分光透過特性を、測定される印刷試料の(インクの)印刷条件に即して充分な精度で求めることができ、ひいては蛍光増白基材上の印刷色に対する測色を正確に行うことができる光学特性測定方法及び光学特性測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係る光学特性測定方法は、単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の分光透過特性を、該着色層の分光反射特性を用いて算出する光学特性測定方法であって、前記着色層と同一の又は近似された、基準として定める基準着色層の分光透過特性及び分光反射特性を予め取得する第1の工程と、前記着色層の分光反射特性を測定する第2の工程と、前記着色層の分光透過特性を算出するべく、前記着色層の分光反射特性と前記基準着色層の分光反射特性とに基づいて前記基準着色層の分光透過特性を補正する第3の工程とを有することを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の分光透過特性を該着色層の分光反射特性を用いて算出する光学特性測定方法における、第1の工程において、着色層と同一の又は近似された、基準として定める基準着色層の分光透過特性及び分光反射特性が予め取得され、第2の工程において、着色層の分光反射特性が測定される。そして、第3の工程において、着色層の分光透過特性を算出するべく、着色層の分光反射特性と基準着色層の分光反射過特性とに基づいて基準着色層の分光透過特性が補正される。
【0025】
また、上記構成において、前記分光透過特性は、前記分光反射特性が与えられる測定波長域と前記分光反射特性が与えられない非測定波長域とにおける分光透過特性を含むものであって、前記第3の工程は、前記測定波長域では、前記着色層及び基準着色層それぞれの分光反射特性に基づいて、且つ、前記非測定波長域では、前記測定波長域における当該非測定波長域に隣接する隣接波長域の前記着色層及び基準着色層それぞれの分光反射特性に基づいて、前記基準着色層の分光透過特性を補正する工程であることが好ましい。(請求項2)
【0026】
これによれば、分光透過特性が、分光反射特性が与えられる測定波長域と分光反射特性が与えられない非測定波長域とにおける分光透過特性を含むものとされ、第3の工程において、測定波長域では、着色層及び基準着色層それぞれの分光反射特性に基づいて、且つ、非測定波長域では、測定波長域における当該非測定波長域に隣接する隣接波長域の着色層及び基準着色層それぞれの分光反射特性に基づいて、基準着色層の分光透過特性が補正される。
【0027】
また、上記構成において、前記光学特性測定方法は、蛍光増白基材上に単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせにより着色されてなる着色面の分光透過特性を算出する方法であって、前記第3の工程は、前記測定された着色層の分光透過特性と、前記単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせの面積率とに基づいて前記着色面の平均的な分光透過特性を算出する工程であることが好ましい。(請求項3)
【0028】
これによれば、光学特性測定方法が、蛍光増白基材上に単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせにより着色されてなる着色面の分光透過特性を算出する方法とされ、第3の工程において、上記測定された着色層の分光透過特性と、上記単数若しくは複数種類の着色材又は複数種類の着色材の組み合わせの面積率とに基づいて着色面の平均的な分光透過特性が算出される。
【0029】
また、上記構成において、前記光学特性測定方法は、蛍光増白基材上に単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせにより着色されてなる着色面の励起蛍光特性を算出する方法であって、前記算出された平均的な分光透過特性と、前記蛍光増白基材の励起蛍光特性とに基づいて前記着色面の実効的な励起蛍光特性を算出する第4の工程をさらに有することが好ましい。(請求項4)
【0030】
これによれば、光学特性測定方法が、蛍光増白基材上に単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせにより着色されてなる着色面の励起蛍光特性を算出する方法とされ、第4の工程において、上記算出された平均的な分光透過特性と、蛍光増白基材の励起蛍光特性とに基づいて着色面の実効的な励起蛍光特性が算出される。
【0031】
また、上記構成において、前記分光透過特性は分光透過率であり、前記分光反射特性は分光反射輝度率であることが好ましい。(請求項5)
【0032】
これによれば、分光透過特性が分光透過率とされ、分光反射特性が分光反射輝度率とされる。
【0033】
また、上記構成において、前記光学特性測定方法は、前記単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の前記分光透過率を前記分光反射輝度率の測定値に基づいて推定的に算出する方法であって、前記第3の工程は、下記(1)式に基づいて、前記基準着色層の分光透過率を、前記着色層の分光反射輝度率と前記基準着色層の分光反射輝度率とを用いて補正することで前記着色層の分光透過率を算出する工程であることが好ましい。(請求項6)
T(λ)=(R(λ)/R0(λ))1/2・T0(λ)・・・(1)
但し、記号「/」:除算
記号「・」:乗算
T(λ):着色層の分光透過率
R(λ):着色層の分光反射輝度率
T0(λ):基準着色層の分光透過率
【0034】
これによれば、光学特性測定方法が、単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の分光透過率を分光反射輝度率の測定値に基づいて推定的に算出する方法とされ、第3の工程において、上記(1)式に基づいて、基準着色層の分光透過率が、着色層の分光反射輝度率と基準着色層の分光反射輝度率とを用いて補正されることで着色層の分光透過率が算出される。
【0035】
また、上記構成において、前記光学特性測定方法は、前記単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の前記分光透過率を前記分光反射輝度率の測定値に基づいて推定的に算出する方法であって、前記第3の工程は、下記(2)式に基づいて、透過率の異なる少なくとも2つの前記基準着色層である第1及び第2の基準着色層の分光透過率を、所定の重み係数を用いて線形結合することにより補正することで前記着色層の分光透過率を算出する工程であることが好ましい。(請求項7)
T(λ)=A(λ)・T0(λ)+(1−A(λ))・T1(λ)・・・(2)
但し、記号「/」:除算
記号「・」:乗算
T(λ):着色層の分光透過率
T0(λ):第1の基準着色層の分光透過率
T1(λ):第2の基準着色層の分光透過率
A(λ):第1及び第2の基準着色層それぞれの分光反射輝度率R0(λ)及びR1(λ)と、前記着色層の分光反射輝度率R(λ)とによって与えられる重み係数
【0036】
これによれば、光学特性測定方法が、単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の分光透過率を分光反射輝度率の測定値に基づいて推定的に算出する方法とされ、第3の工程において、上記(2)式に基づいて、透過率の異なる少なくとも2つの基準着色層である第1及び第2の基準着色層の分光透過率が、所定の重み係数を用いて線形結合されることにより補正されることで着色層の分光透過率が算出される。
【0037】
また、上記構成において、前記光学特性測定方法は、前記単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の前記分光透過率を前記分光反射輝度率の測定値に基づいて推定的に算出する方法であって、前記第3の工程は、前記着色層の分光透過率を、透過率の異なる1つ以上の基準着色層における分光透過率及び分光反射輝度率と、前記着色層の分光反射輝度率との関数によって与える工程であることが好ましい。(請求項8)
【0038】
これによれば、光学特性測定方法が、単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の分光透過率を分光反射輝度率の測定値に基づいて推定的に算出する方法とされ、第3の工程において、着色層の分光透過率が、透過率の異なる1つ以上の基準着色層における分光透過率及び分光反射輝度率と、着色層の分光反射輝度率との関数によって与えられる。
【0039】
さらに、本発明に係る光学特性測定装置は、単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の分光透過特性を、該着色層の分光反射特性を用いて算出する光学特性測定装置であって、前記着色層と同一の又は近似された、基準として定める基準着色層の分光透過特性及び分光反射特性を記憶する記憶手段と、前記着色層の分光反射特性を測定する測定手段と、前記着色層の分光透過特性を算出するべく、前記着色層の分光反射特性と前記基準着色層の分光反射過特性とに基づいて前記基準着色層の分光透過特性を補正する補正手段とを備えることを特徴とする。(請求項9)
【0040】
上記構成によれば、単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の分光透過特性を該着色層の分光反射特性を用いて算出する光学特性測定装置において、記憶手段によって、着色層と同一の又は近似された、基準として定める基準着色層の分光透過特性及び分光反射特性が記憶され、測定手段によって、着色層の分光反射特性が測定される。そして、補正手段によって、着色層の分光透過特性を算出するべく、着色層の分光反射特性と基準着色層の分光反射過特性とに基づいて基準着色層の分光透過特性が補正される。
【発明の効果】
【0041】
請求項1及び9に記載の発明によれば、着色層の分光透過特性が、予め取得された基準着色層の分光反射特性と測定された着色層の分光反射特性とに基づいて、予め取得された基準着色層の分光透過特性が補正されることで算出されるので、すなわち着色層の分光透過特性が、予め与えられた基準着色層の分光反射特性と、測定された着色層の分光反射特性とに基づいて、予め与えられた基準着色層の分光透過特性から推定されるので、着色層の分光透過特性の情報を、測定される試料(印刷試料)の印刷条件に即して充分な精度で求めることができる。すなわち、着色層の分光透過特性が、印刷機や環境温度等によって異なる着色層の厚みや濃度の影響を受けてばらついているような場合であっても、当該着色層の分光透過特性を精度良く求めることができ、ひいてはこの分光透過特性を用いて、蛍光試料(蛍光増白基材)上の印刷色(着色面)に対する測色を正確に行うことができる。
【0042】
請求項2に記載の発明によれば、基準着色層の分光透過特性の補正が、該分光反射特性の測定波長域では、着色層及び基準着色層の分光反射特性に基づいて、また非測定波長域では、測定波長域における当該非測定波長域に隣接する隣接波長域の着色層及び基準着色層の分光反射特性に基づいて行われるので、基準着色層の分光透過特性の補正において、分光反射特性が与えられないすなわち実測値が得られない非測定波長域についても、分光反射特性が与えられる測定波長域における(隣接波長域の)分光反射特性を代用することができ、ひいては着色層及び基準着色層の分光反射特性を用いて容易に基準着色層の測定波長域と非測定波長域とにおける分光透過特性を補正することが可能となる。
【0043】
請求項3記載の発明によれば、算出された着色層の分光透過特性と、1つ以上の着色材又は該着色材の組み合わせの面積率とに基づいて着色面の平均的な分光透過特性が算出されるので、着色面の分光透過特性が、印刷機や環境温度等によって異なる着色層の厚みや濃度の影響を受けてばらついているような場合であっても、着色面の平均的な分光透過特性を精度良く求めることができる。
【0044】
請求項4記載の発明によれば、算出された平均的な分光透過特性と、蛍光増白基材の励起蛍光特性とに基づいて着色面の実効的な励起蛍光特性が算出されるので、着色面の分光透過特性が、印刷機や環境温度等によって異なる着色層の厚みや濃度の影響を受けてばらついているような場合であっても、着色面の実効的な励起蛍光特性を精度良く求めることができる。
【0045】
請求項5記載の発明によれば、分光透過特性が分光透過率とされ、分光反射特性が分光反射輝度率とされるので、蛍光増白基材(蛍光試料)からの影響を含まない分光反射輝度率によって精度良く求めた分光透過率によって、蛍光増白基材上に単数又は複数種類の着色材によって着色された着色面の平均的な分光透過率を求めることができ、さらに実効的な励起蛍光特性として二分光蛍光放射輝度率や実効二分光蛍光放射輝度率を精度良く求めることができる。
【0046】
請求項6記載の発明によれば、上記(1)式に基づいて、基準着色層の分光透過率が、着色層の分光反射輝度率と基準着色層の分光反射輝度率とを用いて補正されることで着色層の分光透過率が算出されるので、予め基準着色層の分光透過率及び分光反射輝度率を測定して記憶させるなどして与えておくことで、着色層の分光反射輝度率から該着色層の分光透過率を精度良く求めるといったことが可能となる。
【0047】
請求項7記載の発明によれば、上記(2)式に基づいて、透過率の異なる少なくとも2つの基準着色層である第1及び第2の基準着色層の分光透過率が、所定の重み係数を用いて線形結合されることにより補正されることで着色層の分光透過率が算出されるので、予め少なくとも2つの基準着色層それぞれの分光透過率と分光反射輝度率とを測定して記憶させるなどして与えておくことで、着色層の分光反射輝度率から該着色層の分光透過率を精度良く求めるといったことが可能となる。
【0048】
請求項8記載の発明によれば、着色層の分光透過率が、透過率の異なる1つ以上の基準着色層における分光透過率及び分光反射輝度率と、着色層の分光反射輝度率との関数によって与えられるので、予め透過率の異なる1つ以上の基準着色層における各分光透過率及び分光反射輝度率を測定して記憶させるなどして与えておくことで、着色層の分光反射輝度率から該着色層の分光透過率を精度良く求めるといったことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
(光学特性測定装置の全体的な説明)
図1は、本発明に係る蛍光試料の光学特性測定装置の一例を示す概略構成図である。図1に示すように、光学特性測定装置10は、被測定試料1、第1照明部2、第2照明部3、参照面部4、受光部5、2チャンネル分光部6及び制御部7を備えて構成されている。被測定試料1は、蛍光物質を含む繊維や紙製品等からなる測定対象となる試料である。被測定試料1は、所定の測定位置に配置される。第1照明部2は、被測定試料1を照明するものであり、光源としての白熱ランプ21と、該白熱ランプ21を駆動して点灯(例えばパルス点灯)させるための第1駆動回路22とを備える。第2照明部3は、第1照明部2と同様、被測定試料1を照明するものであり、紫外域の光束を出力する光源(紫外光源)としての紫外LED31と、該紫外LED31を駆動して点灯(例えばパルス点灯)させるための第2駆動回路32とを備える。なお、第2照明部3の光源は、紫外LED31に限定されず、紫外域の光束が出力可能であれば、キセノンフラッシュランプなど、いずれの光源でもよい。
【0050】
参照面部4は、白色拡散面からなる参照面(反射面)を有するものであり、被測定試料1の測定域の近傍に配設されている。受光部5(受光系)は、光学レンズ(又はレンズ群)からなり、第1及び第2照明部2、3によって照明された被測定試料1の放射光、及び参照面部4からの反射光における法線方向の成分を受光するとともに、該受光した光束を後述の2チャンネル分光部6へ向けて入射させるものである。
【0051】
2チャンネル分光部6は、受光部5からの入射光に対する分光測定を行うものである。2チャンネル分光部6は、第1入射スリット61及び第2入射スリット62を備える。後述の照明光LA又は照明光LBによって照明された被測定試料1からの放射光は、第1入射スリット61に入射し、一方、この照明光LA又は照明光LBによって照明された参照面部4(参照面)からの反射光は第2入射スリット62に入射する。2チャンネル分光部6は、この第1入射スリット61に入射した試料放射光に対する分光測定を行い、第1チャンネル出力として当該試料放射光の分光分布データを出力するとともに、第2入射スリット62に入射した参照面反射光(参照光)、すなわち後述の照明光LA又は照明光LBに対する分光測定を行い、第2チャンネル出力として当該照明光の分光分布データを出力する。このように、2チャンネル分光部6は、放射光分光手段及び照明光分光手段として機能する。
【0052】
制御部7は、各制御プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)、演算処理や制御処理用のデータを格納するRAM(Random Access Memory)、及び当該制御プログラム等をROMから読み出して実行するCPU(中央演算処理装置)等からなり、光学特性測定装置10全体の動作制御を司るものである。具体的には、第1及び第2照明部2、3の点灯動作や2チャンネル分光部6の受光・分光動作に関する駆動制御を行ったり、2チャンネル分光部6からの情報(分光情報)に基づいて、被測定試料1に対する全分光放射輝度率の算出や相対分光感度の校正等に関する各種演算処理を実行する。制御部7のこれら各種演算機能等については後に詳述する。
【0053】
このような各部を備える光学特性測定装置10において、制御部7が第1駆動回路22を介して(駆動させて)白熱ランプ21を点灯させると、白熱ランプ21は、被測定試料1を、該被測定試料1の法線に対して約45°の方向から(入射角度で)光束23で照明する。同様に、制御部7が第2駆動回路32を駆動させて紫外LED31を点灯すると、紫外LED31は、被測定試料1を、上記45°よりも法線に近い位置での方向(符号αに示す入射角度の方向)から光束33により照明する。
【0054】
ここで、本実施形態において、第1照明部2を照明部Aとし、第1照明部2と第2照明部3とを合わせたものを照明部Bと表現するものとする。白熱ランプ21(白熱光源)のみを光源とする照明部Aによる照明光LAは、励起域(紫外域)に殆ど強度を有さず、一方、白熱ランプ21と紫外LED31とを光源とする照明部Bの照明光LB、すなわち白熱ランプ21と紫外LED31とを同時に点灯させた場合の照明光LBは、励起域に十分な強度を有する。照明部A、Bは、いずれも白熱光源を備えて可視域に強度を有し、励起強度を可視域の各波長の強度で相対化することができるため、蛍光分光放射輝度率又は全分光放射輝度率を求めることができる(可視域に分光強度をもたない照明光を用いた測定では、上記相対化の演算が行えず、蛍光分光放射輝度率や全分光放射輝度率を求めることができない)。
【0055】
上記照明光LA又は照明光LBによって照明された被測定試料1からの放射光のうち、略法線方向の成分が受光部5によって2チャンネル分光部6の第1入射スリット61に入射して分光測定され、第1チャンネル出力としてその分光分布Sx1(λ)又はSx2(λ)が制御部7に出力される。一方、被測定試料1の測定域の近傍に配置された参照面部4が、被測定試料1の試料面と同時に照明光LA又は照明光LBによって照明される。そして、この参照面からの反射光のうち、略法線方向の成分が受光部5によって2チャンネル分光部6の第2入射スリット62に入射して分光測定され、第2チャンネル出力としてその分光分布Mx1(λ)又はMx2(λ)が制御部7に出力される。
【0056】
なお、第2照明部3における紫外LED31の中心波長は約375nmであり、図9の白熱光源及び紫外LEDの分光分布図に示すように(符号Aは白熱光源の分光分布、符号Lは紫外LEDの分光分布を示す)、該紫外LED31の中心波長301は一般的な蛍光増白剤の分光励起効率(相対分光励起効率)302のピーク近傍に位置する。分光励起効率とは、波長λの蛍光を励起する励起光の波長毎の励起効率を示し、照明光の分光分布との畳み込み積分によって、その照明光により励起される波長λの蛍光強度(積分励起)が求められるものである。なお、符号303に示すグラフは、上記蛍光増白剤の蛍光分光分布(相対蛍光分光分布)を示している。
【0057】
また、本発明の技術は、照明光の分光分布を把握する必要性があるので、2チャンネル分光部6は、紫外LED31による放射光の波長域を含む、約360nmから740nmの波長域をカバーする(この波長域の分光が可能である)。白熱ランプ21及び紫外LED31を光源とする照明部Bは、強い短パルス光で蛍光物質を照明したときに発生して問題となる(目視との互換性を崩す要因となる)トリプレット効果を生じない発光時間で発光する。このトリプレット効果とは、概略的に説明すると、発光時間が短く励起エネルギーの高い照明光により、分子の電子状態におけるS(Singlet)準位とT(Triplet)準位との間での遷移が起こるが(通常はこのS準位及びT準位間の遷移の確率は極めて低い)、これに伴って生じる励起(吸収)現象のことを言う。
【0058】
また、光学特性測定装置10での光学系は、上述のように第1照明部2と受光部5との組み合わせ(配置)により、45/0ジオメトリー(反射特性の測定ジオメトリー45°/0°)を構成している。このようなジオメトリーの目的は、被測定試料1からの正反射光の制御にあるが、可視域に分布をもたない第2照明部3による正反射光は測色に影響を与えることがないので、この第2照明部3は、ジオメトリーの制約を受けることなく任意に配置することができる。
【0059】
ここで、制御部7における各機能部の詳細について説明する。制御部7は、図1に示すように、CPU70、分光データメモリ71、評価用照明光データメモリ72、二分光データメモリ73、係数メモリ74及び面積率メモリ75等を備えている。CPU70は、第1及び第2照明部2、3、並びに2チャンネル分光部6の駆動制御に関する演算、或いは被測定試料1に対する全分光放射輝度率の算出や相対分光感度の校正等に関する演算等の各種演算処理を行う上記中央演算処理装置(CPU)である。分光データメモリ71は、2チャンネル分光部6で分光測定され、該2チャンネル分光部6から送信されてきた放射光及び照明光の分光分布データを記憶するものである。評価用照明光データメモリ72は、予め与えられた評価用照明光の分光分布データを記憶するものである。二分光データメモリ73は、予め求められた、被測定試料1(蛍光試料)と近似の二分光蛍光放射輝度率データを記憶するものである。
【0060】
係数メモリ74は、2チャンネル分光部6の相対分光感度を校正する感度校正係数、参照面部4からの反射光(以降、参照面反射光という)の分光分布を、被測定試料1に対する照明光(以降、試料面照明光という)の分光分布に変換する変換係数、及び被測定試料1からの放射光(以降、試料放射光という)と参照面反射光との分光分布から、被測定試料1の全分光放射輝度率を求める校正係数等の係数データを記憶するものである。面積率メモリ75は、後述の印刷面の測色で用いられる各インクとそれらの組み合わせによる印刷部分の面積率(面積率データ)を記憶するものである。
【0061】
制御部7は、上記各メモリ部に記憶された、放射光及び照明光の分光分布データ、評価用照明の分光分布データ、二分光蛍光放射輝度率データ、感度校正係数、変換係数及び校正係数等のデータに基づいて、以下、(A)、(B)に関する測定制御(演算)を行う。
【0062】
(A)評価用照明光で照明したときの全分光放射輝度率
<測定の原理>
一般に、蛍光試料は、或る評価用照明光Isで照明したときの該蛍光試料の分光放射輝度率を得るために、上記二分光器法測定器、或いは評価用照明光Isと同じ分光分布の照明光をもつ測定器を用いなければならないが、本実施形態においては、特定の二分光蛍光放射輝度率に近似した励起・蛍光特性を有する蛍光試料について、特定の評価用照明光と同じ蛍光分光放射輝度率を与える仮想的な照明光を数値的に合成する。すなわち、蛍光試料の二分光蛍光放射輝度率をF(μ,λ)とし、評価用照明光Isと、上記数値的に合成される照明光(以降、合成照明光という)Icとの分光分布をそれぞれIs(λ)、Ic(λ)とすると、上記式(2)から、各照明光による蛍光分光放射輝度率F(λ)(=∫F(μ,λ)・I(μ)dμ/I(λ))が以下の式(5)となる合成照明光Icを、分光分布、特に励起域と蛍光域の相対強度の異なる2つの照明光I1、I2の線形結合による合成によって求める。ただし、分光分布I(λ)は、上述で説明したように比例定数を別にすれば、完全拡散反射体(面)からの反射光と等価である。
∫F(μ,λ)・Is(μ)dμ/Is(λ)=∫F(μ,λ)・Ic(μ)dμ/Ic(λ)…(5)
【0063】
この照明光I1、I2の重みつき線形結合による合成においては、波長毎に設定される線形結合の重みをW(λ)及び1−W(λ)とすると、合成照明光Icの分光分布Ic(λ)は、照明光I1、I2の分光分布I1(λ)、I2(λ)を用いて以下の式(6)で表される。
Ic(λ)=W(λ)・I1(λ)+(1−W(λ))・I2(λ)…(6)
【0064】
これにより、合成照明光Icによる蛍光分光放射輝度率Fc(λ)は、以下の式(7)で表され、
Fc(λ)=∫F(μ,λ)・Ic(μ)dμ/Ic(λ)=∫F(μ,λ)・[W(λ)・I1(μ)+(1−W(λ))・I2(μ)]dμ/[W(λ)・I1(λ)+(1−W(λ))・I2(λ)]…(7)
【0065】
したがって、上記式(5)は以下の式(8)に書き換えられる。
∫F(μ,λ)・Is(μ)dμ/Is(λ)=∫F(μ,λ)・[W(λ)・I1(μ)+(1−W(λ))・I2(μ)]dμ/[W(λ)・I1(λ)+(1−W(λ))・I2(λ)]…(8)
【0066】
そして、上記式(8)から重みW(λ)を算出する、すなわち式(8)の二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)と評価用照明光Isの分光分布Is(λ)=Is(μ)とを予め数値データとして与えておき(設定して記憶しておき)、一方、照明光(実照明光)I1、I2の分光分布I1(λ)、I2(λ)は実測により求めておき(具体的には、実測した参照面反射光の分光分布から変換してI1(λ)、I2(λ)を求める)、演算処理のみによって重みW(λ)を算出する。そして、この重みW(λ)を用いて、当該算出に用いた二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)と近似の二分光蛍光放射輝度率をもつ蛍光試料を同じ評価用照明光Isで照明したときの全分光放射輝度率Bxs(λ)を算出する。すなわち、蛍光試料を照明光I1、I2で照明したときの試料面放射光の分光分布Sx1(λ)、Sx2(λ)と当該照明光I1、I2の分光分布I1(λ)、I2(λ)とを、それぞれ重みW(λ)、(1−W(λ))による線形結合によって合成する以下の式(9)、(10)が与えるSxc(λ)及びIc(λ)と、
Sxc(λ)=W(λ)・Sx1(λ)+(1−W(λ))・Sx2(λ)…(9)
Ic(λ)=W(λ)・I1(λ)+(1−W(λ))・I2(λ)…(10)
(但し、Sxc(λ)は合成照明光Icで照明されるときの前記試料の放射光の分光分布を、Ic(λ)は照明光I1、I2の重みつき線形結合によって合成される合成照明光Icの分光分布を示す。)
校正定数C(λ)とによって、以下の式(11)により全分光放射輝度率Bs(λ)が求められる。
Bs(λ)=C(λ)・Sc(λ)/Ic(λ)…(11)
【0067】
ところで、上述での各演算処理は、本発明のように照明光I1、I2が共に可視域に強度を有するものとすることにより(具体的には、例えば照明光I1を上記照明光LA、照明光I2を照明光LBとする)、簡略化することが可能となる。すなわち、照明光I1、I2を可視域における波長λでの強度で相対化した、照明光I1(μ)/I1(λ)、I2(μ)/I2(λ)を想定し、I1λ(μ)、I2λ(μ)とする(I1λ(μ)=I1(μ)/I1(λ)、I2λ(μ)=I2(μ)/I2(λ)。したがって、I1λ(λ)=I2λ(λ)=1)。このことで、可視域での波長λ毎に異なる光源が想定されことになる。この場合、上記式(8)の右辺の分母は[W(λ)・I1λ(λ)+(1−W(λ))・I2λ(λ)]となり、その値は常に「1」となる。したがって、式(7)は以下の式(12)に示すように書き換えられ、合成照明光Icによる蛍光分光放射輝度率Fc(λ)は、各照明光I1、I2による蛍光分光放射輝度率の線形結合で表されるものとなる。
∫F(μ,λ)・Ic(μ)dμ/Ic(λ)=W(λ)・∫F(μ,λ)・I1λ(μ)dμ+(1−W(λ))・∫F(μ,λ)・I2λ(μ)dμ=W(λ)・∫F(μ,λ)・I1(μ)dμ/I1(λ)+(1−W(λ))・∫F(μ,λ)・I2(μ)dμ/I2(λ) …(12)
【0068】
これにより、上記式(5)は以下の式(13)に書き換えることができる。
∫F(μ,λ)・Is(μ)dμ/Is(λ)=W(λ)・∫F(μ,λ)・I1(μ)dμ/I1(λ)+(1−W(λ))・∫F(μ,λ)・I2(μ)dμ/I2(λ) …(13)
【0069】
なお、式(12)は、蛍光分光放射輝度率Fc(λ)が、波長λでの強度が共に「1」で波長λ毎に異なる2つの仮想的な照明光、I1λ(μ)=I1(μ)/I1(λ)とI2λ(μ)=I2(μ)/I2(λ)を重みW(λ)、1−W(λ)で加算した、以下の式(12’)に示す可視域の波長λ毎に異なる合成照明光Ic(μ)によって得られることを示している。
Ic(μ)=W(λ)・I1(μ)/I1(λ)+(1−W(λ))・I2(μ)/I2(λ)…(12’)
【0070】
上述における式(8)から重みW(λ)を求めた場合と同様、上記式(13)についても、蛍光試料の二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)と、評価用照明光Isの分光分布Is(λ)と、2つの照明光I1、I2の分光分布I1(λ)、I2(λ)とが与えられれば、重みW(λ)を演算処理だけで求めることができる。
【0071】
なお、従来(特許文献1)の方法では、実照明光I1、I2の分光分布I1(λ)、I2(λ)が未知であるため、式(13)の右辺の積分を、蛍光基準試料の全分光放射輝度率の実測に置き換えているものと考えることができる。
【0072】
このようにして式(13)から算出したW(λ)を、当該算出に用いた二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)と近似の二分光蛍光放射輝度率をもつ蛍光試料に対して用い、合成照明光Icによる蛍光試料の蛍光分光放射輝度率Fxc(λ)を、各照明光I1、I2(照明光LA、LB)による試料の蛍光分光放射輝度率Fx1(λ)、Fx2(λ)の線形結合で表すことができる(以下、式(14)参照)。
Fxc(λ)=W(λ)・Fx1(λ)+(1−W(λ))・Fx2(λ)…(14)
【0073】
また、蛍光分光放射輝度率Fxc(λ)と照明光に依存しない反射分光放射輝度率Rxc(λ)との和である全分光放射輝度率Bxc(λ)についても、上記と同じ重みW(λ)を用いて、各照明光I1、I2により蛍光試料を実測して得た全分光放射輝度率Bx1(λ)とBx2(λ)との線形結合により求めることができる(以下、式(15)参照)。
Bxc(λ)=W(λ)・Bx1(λ)+(1−W(λ))・Bx2(λ)…(15)
【0074】
上述では、二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)を与えて式(8)或いは式(13)によって重みW(λ)を求めているが、式(1)からFc(λ)=Fs(λ)であればBc(λ)=Bs(λ)であるので、式(8)或いは式(13)のF(μ,λ)を二分光放射輝度率B(μ,λ)に置き換え、上述と同様に重みW(λ)を求めることができる。
【0075】
ところで、上記蛍光試料の光学特性測定に先立って2種類の校正が必要となる。これら校正について以下に説明する。
<1.分光手段の相対分光感度校正>
上述したように本実施形態の方法では、測定器の実照明光の分光分布を把握することが必要であり、そのために、製造時等において予め放射光分光手段(ここでは2チャンネル分光部6)の相対分光感度の校正が行われる。まず、放射光分光手段を公知の方法によって波長校正し、更にA光源など既知の分光分布A(λ)を有する光源からの光束を入射させて得た出力Sa(λ)から、感度校正係数G(λ)が求められる(以下、式(16)参照)。
G(λ)=A(λ)/Sa(λ)…(16)
【0076】
<2.白色校正>
測定に先立って(前段階で)行われる白色校正では、反射分光放射輝度率Rw(λ)が既知であり、蛍光特性をもたない白色校正板を、照明光I1及びI2(照明光LA及び照明光LB)で照明したときの、試料放射光(白色校正板からの放射光)の分光分布Sw1(λ) 、Sw2(λ)と、参照面反射光(参照面部4からの反射光)の分光分布Mw1(λ)、Mw2(λ)とから、以下、<1>、<2>に示す2種類の係数が求められる。
【0077】
<1>参照面反射光の分光分布Mx1(λ)、Mx2(λ)を分光分布I1(λ)、I2(λ)に変換するための変換係数D1(λ)、D2(λ)。
【0078】
この場合、既知の反射分光放射輝度率Rw(λ)を有する白色校正板を照明光I1及びI2で照明したときの、当該試料面反射光の分光分布Sw1(λ)、Sw2(λ)と、参照面反射光の分光分布Mw1(λ)、Mw2(λ)と、上記式(16)に示す感度校正係数G(λ)とから、以下の式(17)、(18)によって、測定時の参照面反射光の分光分布Mx1(λ)、Mx2(λ)を、試料面照明光の分光分布I1(λ)、I2(λ)に変換する変換係数D1(λ)、D2(λ)を求める。
D1(λ)=[G(λ)・Sw1(λ)]/[Mw1(λ)・Rw(λ)]…(17)
D2(λ)=[G(λ)・Sw2(λ)]/[Mw2(λ)・Rw(λ)]…(18)
【0079】
これにより、蛍光試料測定時、参照面反射光の分光分布がMx1(λ)、Mx2(λ)であるとすると、試料面照明光の分光分布I1(λ)、I2(λ)が、該変換係数D1(λ)、D2(λ)を用いて以下の式(19)、(20)により求められる。
I1(λ)=D1(λ)・Mx1(λ)…(19)
I2(λ)=D2(λ)・Mx2(λ)…(20)
【0080】
<2>測定時、照明光I1及びI2で照明した試料放射光の分光分布Sx1(λ)、Sx2(λ)と参照面反射光の分光分布Mx1(λ)、Mx2(λ)とから、蛍光試料の全分光放射輝度率Bx1(λ)、Bx2(λ)を求めるための校正係数C1(λ)、C2(λ)。
【0081】
この場合、上記<1>における、既知の反射分光放射輝度率Rw(λ)と、白色校正板を照明光I1及びI2で照明したときの試料面反射光の分光分布Sw1(λ)、Sw2(λ)と参照面反射光の分光分布Mw1(λ)、Mw2(λ)とから、以下の式(21)、(22)によって校正係数C1(λ)、C2(λ)を求める。
C1(λ)= Rw(λ)/[Sw1(λ)/Mw1(λ)] …(21)
C2(λ)= Rw(λ)/[Sw2(λ)/Mw2(λ)] …(22)
【0082】
これにより、蛍光試料測定時、照明光I1及びI2で照明された試料面放射光及び参照面反射光の分光分布が、Sx1(λ)、Sx2(λ)、及びMx1(λ)、Mx2(λ)とすれば、試料面の全分光放射輝度率Bx1(λ)、Bx2(λ)は以下の式(23)、(24)により求められる。
Bx1(λ)=C1(λ)・Sx1(λ)/Mx1(λ)…(23)
Bx2(λ)=C2(λ)・Sx2(λ)/Mx2(λ)…(24)
【0083】
なお、上述の評価用照明光で照明したときの全分光放射輝度率の測定原理は、以下のように要約されるものであると言うこともできる。
a1.任意の照明光で照明された蛍光試料が放射する蛍光の分光特性は、照明光の分光分布と試料の二分光蛍光放射輝度率によって求められる(式(2)参照)。
a2.したがって、照明光の分光分布が既知であれば、既知の二分光蛍光放射輝度率をもつ仮想的な蛍光基準試料の全分光放射輝度率を算出でき、現実の蛍光基準試料に置き換えることができる。
a3.仮想的な蛍光基準試料について、上述の特許文献1の方法を適用する。
a4.評価用照明光の分光分布は予めデータとして与えておき、測定装置の照明光(実照明光)の分光分布は実測で求める。
【0084】
<蛍光試料の全分光放射輝度率の測定手順>
光学特性測定装置10による蛍光試料の全分光放射輝度率の測定手順としては、予め行われる図3のフローに示す白色校正後、図4に示すフローに沿って当該全分光放射輝度率の測定を行う。図3は、白色校正に関する動作の一例を示すフローチャートである。まず、制御部7は、測定開口に配設した白色校正用の試料、すなわち反射分光放射輝度率Rw(λ)が既知であり蛍光特性のない白色校正板に対して、第1照明部2(白熱ランプ21)を点灯させて照明光LA(照明光I1)によって照明する(ステップS1)。そして、2チャンネル分光部6(放射光分光手段)によって、当該照明光LAによる試料反射光(ここでは、蛍光特性のない白色校正板に対する試料放射光であるので、試料反射光となる)の分光分布Sw1(λ)を測定するとともに、照明光LAの参照面反射光の分光分布Mw1(λ)を測定し、これらSw1(λ)及びMw1(λ)の分光分布情報を分光データメモリ71に保存する(ステップS2)。
【0085】
続いて、制御部7は、上記ステップS1での第1照明部2の点灯を維持した状態で、第2照明部3(紫外LED31)を点灯して、その結果、第1及び第2照明部2、3による照明光LB(照明光I2)によって被測定試料1を照明し(ステップS3)、ステップS2と同様に、2チャンネル分光部6によって、当該照明光LBによる試料反射光の分光分布Sw2(λ)を測定するとともに、照明光LBの参照面反射光の分光分布Mw2(λ)を測定し、これらSw2(λ)及びMw2(λ)の分光分布情報を分光データメモリ71に保存する(ステップS4)。そして、第1及び第2照明部2、3を消灯する(ステップS5)。
【0086】
そして、上記ステップS2及びS4において求めた試料面反射光の分光分布Sw1(λ)、Sw2(λ)と参照面反射光の分光分布Mw1(λ)、Mw2(λ)と、上述の式(16)に示す感度校正係数G(λ)とから、上述の式(17)、(18)によって、測定時の参照面反射光の分光分布Mx1(λ)、Mx2(λ)を、試料面照明光の分光分布I1(λ)、I2(λ)に変換するための変換係数D1(λ)、D2(λ)を算出する(ステップS6)。
【0087】
さらに、上記ステップS2及びS4において求めた試料面反射光の分光分布Sw1(λ)、Sw2(λ)と参照面反射光の分光分布Mw1(λ)、Mw2(λ)と、上記既知の反射分光輝度率Rw(λ)とから、上述の式(21)、(22)によって校正係数C1(λ)、C2(λ)を算出する(ステップS7)。そして、上記ステップS6において算出した変換係数D1(λ)、D2(λ)及びステップS7において算出した校正係数C1(λ)、C2(λ)のデータを所定の記憶部、例えば係数メモリ74に記憶しておく(ステップS8)。
【0088】
図4は、光学特性測定装置による蛍光試料の全分光放射輝度率の測定に関する動作の一例を示すフローチャートである。まず、測定に先立って評価用照明光Isを選択する。すなわち制御部7は、評価用照明光データメモリ72から、選択する評価用照明光Isの分光分布データIs(λ)(すなわち分光分布Is(μ))を読み出す(ステップS11)。続いて、被測定試料1のタイプ(種類)を選択する。すなわち制御部7(CPU70)は、二分光データメモリ73から、被測定試料に近似するタイプの二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)のデータを読み出す(ステップS12)。次に、制御部7は、測定開口に配設された被測定試料1に対し、第1照明部2(白熱ランプ21)を点灯して照明光LA(照明光I1)によって照明する(ステップS13)。そして、2チャンネル分光部6(放射光分光手段)によって、当該照明光LAによる試料放射光の分光分布Sx1(λ)を測定するとともに、照明光LAの参照面反射光の分光分布Mx1(λ)を測定し、これらSx1(λ)及びMx1(λ)の分光分布情報を分光データメモリ71に保存する(ステップS14)。
【0089】
続いて、制御部7は、上記ステップS13での第1照明部2の点灯を維持した状態で、第2照明部3(紫外LED31)を点灯して、第1及び第2照明部2、3による照明光LB(照明光I2)によって被測定試料1を照明し(ステップS15)、ステップS14と同様に、2チャンネル分光部6によって、当該照明光LBによる試料放射光の分光分布Sx2(λ)を測定するとともに、照明光LBの参照面反射光の分光分布Mx2(λ)を測定し、これらSx2(λ)及びMx2(λ)の分光分布情報を分光データメモリ71に保存する(ステップS16)。そして、第1及び第2照明部2、3を消灯する(ステップS17)。
【0090】
次に、制御部7は、上記ステップS11、S12においてそれぞれ読み出した分光分布データIs(λ)=Is(μ)と二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)とから、以下の式(25)によって評価用照明光による蛍光分光放射輝度率Fs(λ)を算出する(ステップS18)。
Fs(λ)=∫F(μ,λ)・Is(μ)dμ/Is(λ)…(25)
【0091】
そして、上述の式(19)、(20)によって、それぞれ照明光LA、LBの参照面反射光の分光分布Mx1(λ)、Mx2(λ)を、試料面照明光(照明光LA、LB)の分光分布I1(λ)、I2(λ)に変換し(ステップS19)、当該変換して求めた分光分布I1(λ)、I2(λ)(すなわち分光分布I1(μ)、I2(μ))と二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)とから、以下の式(26)、(27)によって照明光LA、LB(照明光I1、I2)による蛍光分光放射輝度率F1(λ)、F2(λ)を算出する(ステップS20)。
F1(λ)=∫F(μ,λ)・I1(μ)dμ/I1(λ)…(26)
F2(λ)=∫F(μ,λ)・I2(μ)dμ/I2(λ)…(27)
【0092】
次に、当該算出した蛍光分光放射輝度率F1(λ)、F2(λ)と、上記ステップS18で求めた蛍光分光放射輝度率Fs(λ)とによる以下の式(28)を波長毎に解くことで、重みW(λ)を求める(ステップS21)。
W(λ)・F1(λ)+(1−W(λ))・F2(λ)=Fs(λ)…(28)
そして、上記ステップS14、16において保存されたMx1(λ)、Mx2(λ)と、Sx1(λ)、Sx2(λ)とから、上述の式(23)、(24)を用いて、照明光LA、LBによる全分光放射輝度率Bx1(λ)、Bx2(λ)を算出し(ステップS22)、当該算出されたBx1(λ)、Bx2(λ)と、上記ステップS21において算出した重みW(λ)とから、以下の式(29)によって評価用照明光による全分光放射輝度率Bxs(λ)を算出する(ステップS23)。
Bxs(λ)= W(λ)・Bx1(λ)+(1−W(λ))・Bx2(λ)…(29)
【0093】
(B)蛍光増白紙上の印刷面の分光放射輝度率
<測定の原理>
通常、印刷の着色は、Y、M、C、Kの4種のインクが用紙の上に大きさの異なるドットとして付着することによる。Kインクは吸収特性が波長に依存しないため、蛍光増白紙に到達する照明光の相対分光分布に影響しないので、ここでは図12(a)に示すように、YMCインクについて考える。この場合、例えば図12(b)に示すように、インクは互いに重なることがあり、印刷面は、Y、M及びCと、各インクの重なり部分のYM、MC、CY、及びYMCと、非印刷面とで構成される。蛍光増白紙における印刷面も上述のように各インクが付着しているので、測定域の励起は、各インク及び各インクの重なり部分の分光透過率、及び測定域に占めるそれらによる印刷部分の面積率、つまり色に依存する。
【0094】
ここで、図2を用いて、上記各インク及び各インクの重なりについての概念を説明する。ここでは、YMCインクのうちのY、Mインクの場合について説明する。図2(a)は、蛍光増白紙上にY、Mインクが付着している場合を概略的に示す断面図であり、図2(b)は、図2(a)に示すY、Mインクが付着した蛍光増白紙の上面図である。
【0095】
照明光の単位面積あたりの分光強度をI(λ)とし、また、Yインク及びMインクの分光透過率をそれぞれTy(λ)、Tm(λ)とすると、非印刷部Wでは、I(λ)がそのまま蛍光増白紙に到達するが、Yインクのみの部分であるYインク印刷部Pyでは、このI(λ)の一部であるI(λ)・Ty(λ)が蛍光増白紙に到達する。同様に、Mインクのみの部分であるMインク印刷部Pmと、YインクとMインクとの重なり部分であるYMインク印刷部Pymに入射した照明光も、それぞれI(λ)・Tm(λ)、I(λ)・Ty(λ)・Tm(λ)が蛍光増白紙に到達する。
【0096】
したがって、測定域全体で、蛍光増白紙の単位面積に到達する実効的な照明光の分光強度Ie(λ)は、上記I(λ)・Ty(λ)、I(λ)・Tm(λ)、I(λ)・Ty(λ)・Tm(λ)、及びI(λ)に対し、図2(b)に示す各印刷部Py、Pm、Pym及び非印刷部Wの面積率P%y、P%m、P%ym、及びP%w(=1−(P%y+P%m+P%ym))に応じた重みをつけて合計したものとなる(以下、式(30)参照)。
Ie(λ)=[P%y・I(λ)・Ty(λ)+P%m・I(λ)・Tm(λ)+P%ym・I(λ)・Ty(λ)・Tm(λ)+P%w・I(λ)]…(30)
【0097】
上記式(2)の関係から、この照明光によって励起される蛍光の分光分布F(λ)は以下の式(31)で与えられるが、
F(λ)=∫Ie(μ)・F(μ,λ)dμ
=I(λ)・[P%y・Ty(μ)+P%m・Tm(μ)+P%ym・Ty(μ)・Tm(μ)+P%w]・F(μ,λ)…(31)
【0098】
上記式(31)の右辺の[P%y・Ty(μ)+P%m・Tm(μ)+P%ym・Ty(μ)・Tm(μ)+P%w]・F(μ,λ)を、実効二分光蛍光放射輝度率Fe(μ,λ)とすると、以下の式(32)で表される。
F(λ)=∫I(μ)・Fe(μ,λ)dμ…(32)
【0099】
ここで、インクの種類を上記Y、Mの2種類から、実際の測色におけるY、M、C、Kの全インク(4種類)に拡張する。当該各インクとそれらの組み合わせ(y、m、c、ym、mc、cy、ymc及びkで表す)の面積率を上記と同様に、P%y、P%m、P%c、P%ym、P%mc、P%cy、P%ymc及びP%kとすると、これらの面積率を、白熱ランプ21を光源とする第1照明部2の照明による実測の全分光放射輝度率から公知の方法で求める。
【0100】
白熱ランプ21は相対紫外強度が極めて低いため、この実測全分光放射輝度率から求めた面積率は蛍光の影響に起因する誤差を殆ど含まない。この面積率算出の基準として、非印刷部と各インク及び各インクの組み合わせ(例えば重ね合わせ)によって面積率100%で印刷した面(基準印刷面)の第1照明部2による全分光放射輝度率Bw1(λ)とBy1(λ)、Bm1(λ)、Bc1(λ)、Bym1(λ)、Bmc1(λ)、Bcy1(λ)、Bymc1(λ)及びBk1(λ)とを予め測定して、例えば二分光データメモリ73に記憶しておく。
【0101】
上記公知の方法で求めた印刷部分の面積率P%y、P%m、P%c、P%ym、P%mc、P%cy、P%ymc及びP%kと、非印刷部Wの面積率P%w=1−ΣP%(但し、ΣP%は全ての印刷部の面積率の合計)と、予め設定、記憶されている印刷用紙の二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)と、各インクの分光透過率Ty(λ)、Tm(λ)及びTc(λ)とから、被測定印刷面の実効的な二分光蛍光放射輝度率(以降、実効二分光蛍光放射輝度率という)Fe(μ,λ)を以下の式(33)によって推定(算出)する。ただし、当該各インクの分光透過率Ty(λ)、Tm(λ)及びTc(λ)も予め設定、記憶(例えば面積率メモリ75に記憶)されている(数値データとして与えられている)。また、分光透過率に波長依存性がないKインクは、非印刷部Wの面積率P%wにのみ影響するので、YMCインクのような処理は必要ない。
Fe(μ,λ)=[P%y・Ty(μ)+P%m・Tm(μ)+P%c・Tc(μ)+P%ym・Ty(μ)・Tm(μ)+P%mc・Tm(μ)・Tc(μ)+P%cy・Tc(μ)・Ty(μ)+P%ymc・Ty(μ)・Tm(μ)・Tc(μ)+P%w]・F(μ,λ)…(33)
【0102】
また、上述では各インクの組み合わせの分光透過率Tym(λ)、Tmc(λ)、Tcy(λ)及びTymc(λ)を、各インク分光透過率Ty(λ)、Tm(λ)及びTc(λ)の積で求めているが、各インクの組み合わせの分光透過率Tym(λ)、Tmc(λ)、Tcy(λ)及びTymc(λ)を設定・記憶してもよい(以下、式(33’)参照)。
Fe(μ,λ)=[P%y・Ty(μ)+P%m・Tm(μ)+P%c・Tc(μ)+P%ym・Tym(μ)+P%mc・Tmc(μ)+P%cy・Tcy(μ)+P%ymc・Tymc(μ)+P%w]・F(μ,λ)…(33’)
【0103】
このように推定した実効二分光蛍光放射輝度率Fe(μ,λ)に基づき、上述の(A)における測定の場合と同様の手順によって、評価用照明光で照明したときの被測定印刷面の全分光放射輝度率を算出する。
【0104】
また、上記YMCK各インクの面積率と、予め求められたYMC各インク及びそれらの組み合わせによる面積率100%の印刷面の二分光蛍光放射輝度率Fy(μ,λ)、Fm(μ,λ)、Fc(μ,λ)、Fym(μ,λ)、Fmc(μ,λ)、Fcy(μ,λ)及びFymc(μ,λ)とから、上記実効二分光蛍光放射輝度率Fe(μ,λ)を求めてもよい(以下、式(34)参照)。
Fe(μ,λ)=P%y・Fy(μ,λ)+P%m・Fm(μ,λ)+P%c・Fc(μ,λ)+P%ym・Fym(μ,λ)+P%mc・Fmc(μ,λ)+P%cy・Fcy(μ,λ)+P%ymc・Fymc(μ,λ)+P%w・F(μ,λ)…(34)
【0105】
各インクの分光透過率Ty(λ)、Tm(λ)、Tc(λ)、或いは、各インク及び各インクの組み合せの分光透過率Ty(λ)、Tm(λ)、Tc(λ)、Tym(λ)、Tmc(λ)、Tcy(λ)及びTymc(λ)は、それぞれ同じインクによる、すなわち、各インク単体でのインク層及び各インクを組み合わせて(例えば重ね合わせて)なる組み合わせインク層による、面積率100%の基準印刷面(当該インク層と同一の又はこのインク層に近似した基準印刷面)の分光透過率として予め与えておくことができる。しかしながら、上述のように同じインクを用いた面積率100%の印刷面であっても、インクのロットや印刷機の、環境温度などの印刷条件によって、インク層の厚みやインク濃度が異なるため、被測定印刷面とは印刷条件の異なる基準印刷面の分光透過率を用いて求めた上記実効二分光蛍光放射輝度率Fe(μ,λ)やこれに基づく全分光放射輝度率は無視できない誤差を含むことになる。以下にその一例として、各インク及びこれらインクの組み合わせの分光透過率Ty(λ)、Tm(λ)、Tc(λ)、Tym(λ)、Tmc(λ)、Tcy(λ)及びTymc(λ)を、測定される蛍光試料の印刷条件に即して精度良く求める方法を説明する。
【0106】
上述のように、各インク及びこれらインクの組み合わせで、面積率100%で印刷された基準試料の分光透過率を予め測定して、これを一律に適用することは、これを用いて求められる実効二分光蛍光放射輝度率Fe(μ,λ)やこのFe(μ,λ)に基づく全分光放射輝度率Bt(μ,λ)に問題となる誤差を将来する。もちろん、光学特性測定装置10により、実際の印刷面の分光透過率を測定することは困難であり、励起に関する紫外域を含めて測定することはさらに現実的ではない。
【0107】
このことから、本実施形態では、予め上記基準試料の分光透過特性を励起に関与する紫外域を含めて測定するとともに、光学特性測定装置10と同じ構成の基準測定装置によって(光学特性測定装置10自身を使用してもよい)、照明光LA(照明光l1)による全分光放射輝度率(照明光LAは殆ど蛍光を励起しないので実質的には分光反射輝度率である)を測定して記憶しておく。そして、被測定印刷面と同じ印刷条件での面積率100%の印刷面(100%印刷面)の分光透過率を、上記100%印刷面の分光反射輝度率測定値と、記憶された上記基準印刷面の分光反射輝度率とに基づいて、上記基準試料の分光透過率を修正することによって求める。このことは、印刷面のインク濃度やインク層の厚みが透過率及び反射輝度率それぞれに与える影響の間には一定の関係があることに基づく。
【0108】
具体的には、予め透過性の高い非蛍光基材(半透過紙など)に、基準印刷面用の印刷機により、各インク及びこれらインクの組み合わせを面積率100%で印刷して基準印刷面とし、この基準印刷面の分光透過率Ty(λ)、Tm(λ)、Tc(λ)、Tym(λ)、Tmc(λ)、Tcy(λ)及びTymc(λ)と非印刷面の分光透過率Tw(λ)とを、紫外域を含む例えば約300〜700nmの波長域で上記基準測定装置によって測定し、各印刷面の分光透過率を非印刷面の分光透過率によって相対化したT0y(λ)(=Ty(λ)/Tw(λ))、T0m(λ)(=Tm(λ)/Tw(λ))、T0c(λ)(=Tc(λ)/Tw(λ))、T0ym(λ)(=Tym(λ)/Tw(λ))、T0mc(λ)(=Tmc(λ)/Tw(λ))、T0cy(λ)(=Tcy(λ)/Tw(λ))、及びT0ymc(λ)(=Tymc(λ)/Tw(λ))を、印刷面の分光透過率基準値として例えば面積率メモリ75に記憶しておく。
【0109】
さらに、上記基準測定装置によって(光学特性測定装置10自身を使用してもよい)、上記と同じ基準印刷面と非印刷面との約400〜700nm(紫外域を含まない)の波長域での分光反射輝度率By1(λ)、Bm1(λ)、Bc1(λ)、Bym1(λ)、Bmc1(λ)、Bcy1(λ)、Bymc1(λ)及びBk1(λ)とBw1(λ)とを、白熱ランプ21を光源とする第1照明部2の照明光LA(照明光l1)により測定し、各印刷面の分光反射輝度率を非印刷面の分光反射輝度率(Bw1(λ))によって相対化したR0y(λ)(=By1(λ)/Bw1(λ))、R0m(λ)(=Bm1(λ)/Bw1(λ))、R0c(λ)(=Bc1(λ)/Bw1(λ))、R0ym(λ)(=Bym1(λ)/Bw1(λ))、R0mc(λ)(=Bmc1(λ)/Bw1(λ))、R0cy(λ)(=Bcy1(λ)/Bw1(λ))、R0ymc(λ)(=Bymc1(λ)/Bw1(λ))、及びB0k(λ)(=Bk1(λ)/Bw1(λ))を、印刷面の分光反射輝度率基準値として上記と同様に例えば面積率メモリ75に記憶しておく。
【0110】
また、上記被測定印刷面の測定に先立って(被測定印刷面を測定する前段階として)、該被測定印刷面と同じ印刷条件である各インク及びこれらインクの組み合わせによる100%印刷面と上記非印刷面との約400〜700nmの波長域での分光反射輝度率を、光学特性測定装置10によって照明光LA(照明光l1)により測定し、同様に各印刷面の分光反射輝度率を非印刷面の分光反射輝度率で相対化したRy(λ)(=By1(λ)/Bw1(λ))、Rm(λ)(=Bm1(λ)/Bw1(λ))、Rc(λ)(=Bc1(λ)/Bw1(λ))、Rym(λ)(=Bym1(λ)/Bw1(λ))、Rmc(λ)(=Bmc1(λ)/Bw1(λ))、Rcy(λ)(=Bcy1(λ)/Bw1(λ))、Rymc(λ)(=Bymc1(λ)/Bw1(λ))、及びRk(λ)(=Bk1(λ)/Bw1(λ))を求める。
【0111】
ところで、図13に示すように、透過光は印刷されたインク層を1回通過し、反射光は同インク層を2回通過することから、各インク層の反射率Rと透過率Tとには、以下の式(35)の関係がある。
R≒T …(35)
【0112】
上記式(35)の関係から、インク層の厚みの差やインク濃度の差等に起因して被測定印刷面と基準印刷面との分光反射輝度率R(λ)とR0(λ)とが異なる場合、この被測定印刷面と基準印刷面との分光透過率の比を(R(λ)/R0(λ))1/2によって近似することができる。印刷面の推定の分光透過率T(λ)は、基準印刷面の分光透過率T0(λ)を当該分光透過率比の近似値(R(λ)/R0(λ))1/2を用いて補正した以下の式(36)によって与えられる(後述の式(39)では、この式(36)におけるT(λ)及びR(λ)が、Yインクの場合のTy(λ)及びRy(λ)となっている)。
T(λ)=(R(λ)/R0(λ))1/2・T0(λ)…(36)
【0113】
波長が上記400nm未満の紫外域(ここでは上記波長域300〜700nmを300〜390nmと400〜700nmとに区分する場合の紫外域300〜390nm)については、分光反射輝度率R(λ)及びR0(λ)を測定できないが、すなわち分光反射特性が与えられない非測定波長域ではR(λ)及びR0(λ)を測定できないが、測定可能な短波長端の波長或いはその近傍の波長域、すなわち、分光反射特性が与えられる測定波長域における当該非測定波長域と隣接する波長域(隣接波長域)での反射輝度率で代用することができる。
【0114】
上述のように算出された各インク及びこれらインクの組み合わせによる面積率100%印刷面の分光透過特性T(λ)と、各インク及び各インクの組み合わせの面積率(面積比率)P%m、P%c、P%ym、P%mc、P%cy、P%ymc及びP%kとに基づいて着色面(測定域)の平均的な分光透過特性を算出することができる。この平均的な分光透過特性は、該インク及び各インクの組み合わせによる面積率100%の印刷面の分光透過特性、及びその測定域内の面積率に依存するので、結局、測定域の分光的な励起・蛍光特性は、上記面積率100%の印刷面における分光透過特性、及びその測定域内の面積率に依存することになる。
【0115】
また、上述の蛍光増白紙上の印刷面の分光放射輝度率の測定原理は、以下のように要約されるものであると言うこともできる。
b1.蛍光増白基材上の印刷面の実効的な二分光蛍光放射輝度率を、蛍光増白基材の二分光蛍光放射輝度率と各インクとそれらの組み合わせの分光透過特性及び面積率とから推定する。
b2.推定した実効二分光蛍光放射輝度率に対し、上述の評価用照明光で照明したときの全分光放射輝度率の測定原理の要約のa1.〜a4.の項目を適用する。
b3.殆ど励起エネルギーのない照明光による、つまり蛍光の影響を殆ど受けない実測全分光放射輝度率から面積率を推定する。
【0116】
<蛍光増白紙上の印刷面に対する全分光放射輝度率の測定手順>
光学特性測定装置による蛍光増白紙(蛍光試料)上の印刷面に対する全分光放射輝度率の測定手順としては、まず、図5に示すフローに従って、100%印刷面と非印刷面の測定を行った後、図6に示すフローに沿って当該被測定印刷面の測定を行う。
図5は、100%印刷面の測定に関する動作の一例を示すフローチャートである。図3に示すフローチャートによる白色校正後、まず、測定開口に配設された非印刷面(蛍光増白紙)に対し、第1照明部2(白熱ランプ21)を点灯して照明光LA(照明光I1)によって照明する(ステップS51)。そして、2チャンネル分光部6(放射光分光手段)によって、当該照明光LAによる試料放射光の分光分布Sx1(λ)を測定するとともに、照明光LAの参照面反射光の分光分布Mx1(λ)を測定し、このSx1(λ)及びMx1(λ)の分光分布情報を分光データメモリ71に保存し(ステップS52)、第1照明部2を消灯する(ステップS53)。
【0117】
そして、上記ステップS52において保存されたSx1(λ)及びMx1(λ)から、上述の式(23)に対応する以下の式(37)によって、照明光LAにより照明された当該非印刷面の全分光放射輝度率Bw1(λ)を算出し、これを所定の記憶部、例えば面積率メモリ75に記憶する(ステップS54)。
Bw1(λ)=C1(λ)・Sx1(λ)/Mx1(λ)…(37)
【0118】
続いて、Yインクの面積率P%yが100%である印刷面(100%印刷面)に対して、第1照明部2を点灯して照明光LA(照明光I1)によって照明する(ステップS55)。そして、2チャンネル分光部6(放射光分光手段)によって、当該照明光LAによる試料放射光の分光分布Sx1(λ)を測定するとともに、照明光LAの参照面反射光の分光分布Mx1(λ)を測定し、このSx1(λ)及びMx1(λ)の分光分布情報を分光データメモリ71に保存し(ステップS56)、第1照明部2を消灯する(ステップS57)。
【0119】
そして、上記ステップS56において保存されたSx1(λ)及びMx1(λ)から、上記ステップS54と同様に、照明光LAにより照明された当該100%印刷面に対する全分光放射輝度率By1(λ)を算出し、これを所定の記憶部、例えば面積率メモリ75に記憶する(ステップS58)。
【0120】
次に、以下の式(38)によって、非印刷面の全分光放射輝度率で相対化されたYインクの100%印刷面の分光反射輝度率Ry(λ)を求める(ステップS59)。
Ry(λ)=By1(λ)/Bw1(λ)…(38)
続いて、面積率メモリ75からYインクの100%基準印刷面の分光透過率(分光透過率基準値)T0y(λ)と相対化された分光反射輝度率(分光反射輝度率基準値)R0y(λ)とを読み出し(ステップS60)、以下の式(39)によって、当該100%印刷面の分光透過率Ty(λ)を求める(ステップS61)。
Ty(λ)=(Ry(λ)/R0y(λ))1/2・T0y(λ)…(39)
ただし、全分光放射輝度率の測定波長域は上記400〜700nmであり、300〜390nmの波長域についてはRy1(λ)及びR0y(λ)の実測値がないため、この300〜390nmの波長域のRy1(λ)及びR0y(λ)として、波長λが400nmであるときの値Ry1(400)及びR0y(400)を用いるものとする。
【0121】
同様に、面積率P%m、P%c、P%ym、P%mc、P%cy、P%ymc及びP%kが100%の印刷面に対し、上記ステップS51〜S61の動作を繰り返し、全分光放射輝度率Bm1(λ)、Bc1(λ)、Bym1(λ)、Bmc1(λ)、Bcy1(λ)、Bymc1(λ)及びBk1(λ)と分光透過率Tm(λ)、Tc(λ)、Tym(λ)、Tmc(λ)、Tcy(λ)及びTymc(λ)とを算出し、これを面積率メモリ75等に記憶する(ステップS62)。
【0122】
図6は、光学特性測定装置による蛍光増白紙上の印刷面に対する全分光放射輝度率の測定に関する動作の一例を示すフローチャートである。まず、測定に先立って評価用照明光Isを選択する。すなわち制御部7は、評価用照明光データメモリ72から、選択する評価用照明光Isの分光分布データIs(λ)(すなわち分光分布Is(μ))を読み出す(ステップS31)。次に、印刷用紙のタイプとYMCKインクセットとを選択する。すなわち制御部7は、二分光データメモリ73或いは面積率メモリ75から、被測定印刷面の印刷用紙(蛍光増白紙)に近似する二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)と、使用されているYMCKインクで被測定面と同じ方法(印刷条件)で印刷したYMCK各インク及び各インクの組み合わせによる面積率100%の印刷面のインク層の分光透過率Ty(λ)、Tm(λ)、Tc(λ)、Tym(λ)、Tmc(λ)、Tcy(λ)及びTymc(λ)のデータを読み出す(ステップS32)。また、面積率メモリ75から、面積率算出の基準として、YMCKインク及び当該各インクの組み合わせによる面積率100%の印刷面(面積率基準)を第1照明部2で照明して測定して記憶しておいた全分光放射輝度率By1(λ)、Bm1(λ)、Bc1(λ)、Bym1(λ)、Bmc1(λ)、Bcy1(λ)、Bymc1(λ)、Bk1(λ)及びBw1(λ)のデータを読み出す(ステップS33)。
【0123】
次に、制御部7は、測定開口に配設された被測定試料1(ここでは、上記印刷面をもつ蛍光増白紙)に対し、第1照明部2(白熱ランプ21)を点灯して照明光LA(照明光I1)によって照明する(ステップS34)。そして、2チャンネル分光部6(放射光分光手段)によって、当該照明光LAによる試料放射光の分光分布Sx1(λ)を測定するとともに、照明光LAの参照面反射光の分光分布Mx1(λ)を測定し、これらSx1(λ)及びMx1(λ)の分光分布情報を分光データメモリ71に保存する(ステップS35)。続いて、制御部7は、上記ステップS34での第1照明部2の点灯を維持した状態で、第2照明部3(紫外LED31)を点灯して、第1及び第2照明部2、3による照明光LB(照明光I2)によって被測定試料1を照明し(ステップS36)、ステップS35と同様に、2チャンネル分光部6によって、当該照明光LBによる試料放射光の分光分布Sx2(λ)を測定するとともに、照明光LBの参照面反射光の分光分布Mx2(λ)を測定し、これらSx2(λ)及びMx2(λ)の分光分布情報を分光データメモリ71に保存する(ステップS37)。そして、第1及び第2照明部2、3を消灯する(ステップS38)。
【0124】
次に、上述の式(19)、(20)によって、それぞれ照明光LA、LBの参照面反射光の分光分布Mx1(λ)、Mx2(λ)を、試料面照明光(照明光LA、LB)の分光分布I1(λ)、I2(λ)に変換する(ステップS39)(なお、この変換により得られた分光分布I1(λ)、I2(λ)のデータは所定の記憶部、例えば分光データメモリ71に保存される)。そして、上記ステップS35、37において保存されたMx1(λ)、Mx2(λ)と、Sx1(λ)、Sx2(λ)とから、上述の式(23)、(24)を用いて、照明光LA、LBによる全分光放射輝度率Bx1(λ)、Bx2(λ)を算出する(ステップS40)。
【0125】
次に、制御部7は、当該測定(算出)したBx1(λ)と、上記ステップS33において読み出した面積率基準に対する全分光放射輝度率By1(λ)〜Bw1(λ)とから、YMCK各インク及びこれらの組み合わせによる印刷部分の面積率P%y、P%m、P%c、P%ym、P%mc、P%cy、P%ymc及びP%kを算出する。そして、当該算出したP%y〜P%kと、上記ステップS32において二分光データメモリ73から読み出した二分光蛍光放射輝度率F(μ,λ)及びY、M、C各インク印刷面の分光透過率Ty(λ)、Tm(λ)、Tc(λ)、Tym(λ)、Tmc(λ)、Tcy(λ)及びTymc(λ)から、被測定試料1の実効二分光蛍光放射輝度率Fe(μ,λ)を上記式(33’)によって算出する(ステップS42)。さらに、この算出した実効二分光蛍光放射輝度率Fe(μ,λ)と、上記ステップS31において評価用照明光データメモリ72から読み出した評価用照明光Isの分光分布Is(λ)とから、以下の式(40)によって評価用照明光による蛍光分光放射輝度率Fs(λ)を算出する(ステップS43)。
Fs(λ)=∫Fe(μ,λ)・Is(μ)dμ/Is(λ)…(40)
【0126】
次に、当該算出した蛍光分光放射輝度率Fe(μ,λ)と、上記ステップS39において求めた(分光データメモリ71から読み出した)分光分布I1(λ)、I2(λ)とから、以下の式(41)、(42)によって照明光LA、LB(照明光I1、I2)による蛍光分光放射輝度率F1(λ)、F2(λ)を算出する(ステップS44)。
F1(λ)=∫Fe(μ,λ)・I1(μ)dμ/I1(λ)…(41)
F2(λ)=∫Fe(μ,λ)・I2(μ)dμ/I2(λ)…(42)
【0127】
そして、当該算出した蛍光分光放射輝度率F1(λ)、F2(λ)と、上記ステップS43で求めた蛍光分光放射輝度率Fs(λ)とによる以下の式(43)を波長毎に解くことで、重みW(λ)を求める(ステップS45)。
W(λ)・F1(λ)+[1−W(λ)]・F2(λ)=Fs(λ)…(43)
そして、上記ステップS40において算出した全分光放射輝度率Bx1(λ)、Bx2(λ)と、上記ステップS45において算出した重みW(λ)とから、以下の式(44)によって、評価用照明光による全分光放射輝度率Bxs(λ)を算出する(ステップS46)。
Bxs(λ)= W(λ)・Bx1(λ)+(1−W(λ))・Bx2(λ)…(44)
【0128】
以上のように本実施形態における光学特性測定方法は、単数若しくは複数種類(色)のインク(着色材)又は前記複数種類のインクの組み合わせ(例えば重ね合わせ)によるインク層(着色層)の分光透過特性を該インク層の分光反射特性を用いて算出する光学特性測定方法であって、第1の工程において、各インク層と同一の又は近似された、基準として定める基準インク層(基準着色層;基準印刷面)の分光透過特性(T0(λ))及び分光反射特性(R0(λ))が予め取得(記憶)され、第2の工程において、各インク層の分光反射特性(R(λ))が該インク層の光学測定情報(例えば上記図5に示すステップS55、S56における試料放射光の分光分布Sx1(λ)や参照面反射光の分光分布Mx1(λ))に基づいて測定(算出)される。そして、第3の工程において、該インク層の分光透過特性(T(λ))を算出するべく、該インク層の分光反射特性(R(λ))と該基準インク層の分光反射過特性(R0(λ))とに基づいて該基準インク層の分光透過特性(T0(λ))が補正される。
【0129】
また、本実施形態における光学特性測定装置10は、単数若しくは複数種類のインク又は前記複数種類のインクの組み合わせによるインク層の分光透過特性を該インク層の分光反射特性を用いて算出する光学特性測定装置であって、分光データメモリ71や面積率メモリ75等の記憶部(記憶手段)によって、各インク層と同一の又は近似された、基準として定める基準インク層の予め取得された分光透過特性(T0(λ))及び分光反射特性(R0(λ))が記憶され、CPU70(測定(算出)手段、制御部7)によって、該インク層の分光反射特性(R(λ))が該インク層の光学測定情報(上述と同様、Sx1(λ)やMx1(λ))に基づいて測定(算出)される。そして、CPU70(補正手段、制御部7)によって、該インク層の分光透過特性(T(λ))を算出するべく、該インク層の分光反射特性(R(λ))と該基準インク層の分光反射過特性(R0(λ))とに基づいて該基準インク層の分光透過特性(T0(λ))が補正される。
【0130】
このように、光学特性測定方法又は光学特性測定装置によれば、各インク層の分光透過特性が、予め取得された基準インク層の分光反射特性と光学測定情報に基づき測定(算出)された該インク層の分光反射特性とに基づいて、予め取得された該基準インク層の分光透過特性が補正されることで算出されるので、すなわち各インク層の分光透過特性が、予め与えられた基準インク層の分光反射特性と、光学測定情報に基づき測定(算出)算出された該インク層の分光反射特性とに基づいて、予め与えられた該基準インク層の分光透過特性から謂わば推定されて求められるので、各インク層の分光透過特性の情報を、測定される印刷試料の印刷条件(印刷機、インク、環境温度等の違いによる蛍光増白紙に対するインクの印刷状態つまりインク厚みやインク濃度等)に即して充分な精度で求めることができる。すなわち、各インク層の分光透過特性が、印刷機や環境温度等によって異なるインク層の厚みや濃度の影響を受けてばらついているような場合であっても、当該インク層の分光透過特性を精度良く求めることができ、ひいてはこの分光透過特性を用いて、印刷試料(蛍光増白基材)上の印刷色(着色面)に対する測色を正確に行うことができる。
【0131】
また、分光透過特性が、分光反射特性が与えられる測定波長域と分光反射特性が与えられない非測定波長域とにおける分光透過特性を含むものとされ、上記第3の工程において、測定波長域では、各インク層及び基準インク層それぞれの分光反射特性に基づいて、且つ、非測定波長域では、測定波長域における当該非測定波長域に隣接する隣接波長域の該インク層及び基準インク層それぞれの分光反射特性に基づいて、該基準インク層の分光透過特性が補正される。
【0132】
これによれば、各基準インク層の分光透過特性の補正が、該分光透過特性の測定波長域(例えば400〜700nm)では、各インク層及び基準インク層の分光反射特性に基づいて、また非測定波長域(上記400nm未満例えば300〜390nmの紫外域)では、測定波長域における当該非測定波長域に隣接する隣接波長域の該インク層及び基準インク層の分光反射特性に基づいて行われるので、該基準インク層の分光透過特性の補正において、分光反射特性が与えられないすなわち実測値が得られない非測定波長域についても、分光反射特性が与えられる測定波長域における(隣接波長域の)分光反射特性を代用することができ、ひいては測定波長域と非測定波長域とにおける各基準インク層の分光透過特性を容易に補正することが可能となる。
【0133】
また、光学特性測定方法が、蛍光増白基材上に単数若しくは複数種類のインク又は該複数種類のインクの組み合わせにより着色されてなる着色面の分光透過特性を算出する方法とされ、上記第3の工程において、上記光学測定情報に基づき算出された各インク層の分光透過特性と、上記単数若しくは複数種類のインク又は該複数種類のインクの組み合わせの面積率とに基づいて着色面の平均的な分光透過特性が算出される。
【0134】
これによれば、算出された各インク層の分光透過特性と、単数若しくは複数種類のインク又は該複数種類のインクの組み合わせ(重ね合わせ)部分の面積率とに基づいて着色面の平均的な分光透過特性が算出されるので、着色面の分光透過特性が、印刷機や環境温度等によって異なるインク層の厚みや濃度の影響を受けてばらついているような場合であっても、着色面の平均的な分光透過特性を精度良く求めることができる。
【0135】
また、光学特性測定方法が、蛍光増白基材上に単数若しくは複数種類のインク又は該複数種類のインクの組み合わせにより着色されてなる着色面の励起蛍光特性を算出する方法とされ、上記算出された平均的な分光透過特性と、蛍光増白基材の励起蛍光特性とに基づいて着色面の実効的な励起蛍光特性が算出される。
【0136】
これによれば、算出された平均的な分光透過特性と、蛍光増白基材の励起蛍光特性とに基づいて着色面の実効的な励起蛍光特性が算出されるので、着色面の分光透過特性が、印刷機や環境温度等によって異なるインク層の厚みや濃度の影響を受けてばらついているような場合であっても、着色面の実効的な励起蛍光特性を精度良く求めることができる。
【0137】
また、分光透過特性が分光透過率とされ、分光反射特性が分光反射輝度率とされるので、蛍光増白基材(蛍光試料)からの影響を含まない分光反射輝度率によって精度良く求めた各インク層の分光透過率によって、蛍光増白基材上に単数又は複数種類のインクにより着色された着色面の平均的な分光透過率を求めることができ、さらに実効的な励起蛍光特性として二分光蛍光放射輝度率(F(μ,λ))や実効二分光蛍光放射輝度率(Fe(μ,λ))を精度良く求めることができる。
【0138】
また、光学特性測定方法が、単数若しくは複数種類のインク又は該複数種類のインクの組み合わせによるインク層の分光透過率を分光反射輝度率の測定値に基づいて推定的に算出する方法とされ、上記第3の工程において、上記(36)式に基づいて、各基準インク層の分光透過率(T0(λ))が、各インク層の分光反射輝度率(R(λ))と該基準インク層の分光反射輝度率(R0(λ))とを用いて補正されることで該インク層の分光透過率(T(λ))が算出されるので、予め該基準インク層の分光透過率(T0(λ))及び分光反射輝度率(R0(λ))を測定して記憶させるなどして与えておくことで、該インク層の分光反射輝度率(R(λ))から該インク層の分光透過率(T(λ))を精度良く求めるといったことが可能となる。
【0139】
また、上記光学特性測定方法が、単数若しくは複数種類のインク又は該複数種類のインクの組み合わせによるインク層の分光透過率を分光反射輝度率の測定値に基づいて推定的に算出する方法とされ、上記第3の工程において、各インク層の分光透過率(T(λ))が、透過率の異なる1つ以上の基準インク層における分光透過率(T0(λ)、T1(λ)、・・・)及び分光反射輝度率(R0(λ)、R1(λ)、・・・)と、インク層の分光反射輝度率(R(λ))との関数(例えば上記式(36)や後述の式(47)、(471))によって与えられる。
【0140】
このように、インク層の分光透過率(T(λ))が、透過率の異なる1つ以上の基準インク層における分光透過率(T0(λ)、T1(λ)、・・・)及び分光反射輝度率(R0(λ)、R1(λ)、・・・)と、インク層の分光反射輝度率(R(λ))との関数によって与えられるので、予め透過率の異なる1つ以上の基準インク層における各分光透過率(T0(λ)、T1(λ)、・・・)及び分光反射輝度率(R0(λ)、R1(λ)、・・・)を測定して記憶させるなどして与えておくことで、インク層の分光反射輝度率(R(λ))から該インク層の分光透過率(T(λ))を精度良く求めるといったことが可能となる。
【0141】
なお、上記実施形態は、以下の態様をとることができる。
(1)上記実施形態では、照明光l1及びl2による試料面照明光の分光分布l1(λ)及びl2(λ)を参照面反射光の分光分布Mx1(λ)及びMx2(λ)から、変換係数D1(λ)及びD2(λ)を用いて式(19)、(20)によって測定の都度求めているが、白色校正板を照明光l1及びl2で照明したときの、試料面反射光の分光分布Sw1(λ)及びSw2(λ)と、式(16)による感度校正係数G(λ)と既知の反射分光放射輝度率Rw(λ)とから、以下の式(45)、(46)により求められる白色校正時の試料面照明光の分光分布l1(λ)及びl2(λ)を、測定時の試料面照明光の分光分布として用いることもできる。
l1(λ)=G(λ)/Rw(λ)・Sw1(λ)…(45)
l2(λ)=G(λ)/Rw(λ)・Sw2(λ)…(46)
この方法は、上記実施形態のように測定毎の試料面照明光の分光分布l1(λ)及びl2(λ)を用いないものの、第1及び第2の照明手段の光源が白熱光源と紫外LEDとで構成されている場合など、白色校正の間隔程度の短時間においては経時的に安定している場合には大きな誤差を招来しない一方、参照系を必要としないので、参照系を備えない低コストな測定器にも本発明の技術が適用できる。
【0142】
(2)上記実施形態では、各インクの被測定印刷面と同じ印刷条件の各100%印刷面の分光透過率Ty(λ)、Tm(λ)及びTc(λ)、或いは各インク及び各インクの組み合わせの各100%印刷面の分光透過率Ty(λ)、Tm(λ)、Tc(λ)、Tym(λ)、Tmc(λ)、Tcy(λ)及びTymc(λ)を、対応する基準印刷面の分光反射輝度率(分光反射輝度率基準値)R0(λ)と該100%印刷面の分光反射輝度率R(λ)とを用い、上記式(39)によって該基準印刷面の分光透過率(分光透過率基準値)T0(λ)を補正して与えているが、これに限らず、別の関係式で与えることもできる。
【0143】
以下、別の関係式の例をYインクについて説明する。この例では、同じインクの100%印刷面でありながら、異なるインク厚さ及び/又はインク濃度を有する第1及び第2の基準印刷面を使用する。この第1及び第2の基準印刷面の分光透過率をT0y(λ)及びT1y(λ)、同基準印刷面の分光反射輝度率をR0y(λ)及びR1y(λ)とすると、分光反射輝度率がRy(λ)である場合の100%印刷面の分光透過率Ty(λ)を以下の式(47)によって与える。
Ty(λ)=Ay(λ)・T0y(λ)+(1−Ay(λ))・T1y(λ)…(47)
但し、Ay(λ)=((Ry(λ))1/2−(R1y(λ))1/2)/((R0y(λ))1/2−(R1y(λ))1/2)…(471)
【0144】
すなわち、式(47)は、上記第1及び第2の基準印刷面の分光透過率T0y(λ)及びT1y(λ)を、100%印刷面の分光反射輝度率Ry(λ)と第1及び第2の基準印刷面の分光反射輝度率R0y(λ)及びR1y(λ)との距離の1/2乗に応じた重みを用いて合成している。この例でも上述のようにR0y(λ)、R1y(λ)及びRy(λ)の実測値がない300〜390nmの波長域については、400nmの値R0y(400)、R1y(400)及びRy(400)を用いる。
【0145】
このように、光学特性測定方法が、単数若しくは複数種類のインク又は該複数種類のインクの組み合わせによるインク層の分光透過率を分光反射輝度率の測定値に基づいて推定的に算出する方法とされ、上述した第3の工程において、上記(47)式に基づいて、すなわち、各インク及び各インクの組み合わせについて、以下(47’)式に基づいて透過率の異なる少なくとも2つの対応する基準インク層である第1及び第2の基準インク層(第1及び第2の基準印刷面)の分光透過率(第1の基準インク層の分光透過率:T0(λ)、第2の基準インク層の分光透過率:T1(λ))が、所定の重み係数(A(λ))を用いて線形結合されることにより補正されることで各インク層の分光透過率(T(λ))が算出されるので、予め少なくとも2つの対応する基準インク層それぞれの分光透過率(T0(λ)、T1(λ))と分光反射輝度率(R0(λ)、R1(λ))とを測定して記憶させるなどして与えておくことで、各インク層の分光反射輝度率から該インク層の分光透過率(T(λ))を精度良く求めるといったことが可能となる。但し、A(λ)は、前記第1及び第2の基準インク層それぞれの分光反射輝度率R0(λ)及びR1(λ)と、前記インク層の分光反射輝度率R(λ)とによって与えられる重み係数を示す(上記式(471)参照)。
T(λ)=A(λ)・T0(λ)+(1−A(λ))・T1(λ)・・・(47’)
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】本発明に係る蛍光試料の光学特性測定装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】各色のインク及びこれら各インクの重なりについて説明する図であり、(a)は、蛍光増白紙上にY、Mインクが付着している場合を概略的に示す断面図、(b)は、(a)に示すY、Mインクが付着した蛍光増白紙の上面図である。
【図3】白色校正に関する動作の一例を示すフローチャートである。
【図4】光学特性測定装置による蛍光試料の全分光放射輝度率の測定に関する動作の一例を示すフローチャートである。
【図5】100%印刷面の測定に関する動作の一例を示すフローチャートである。
【図6】光学特性測定装置による蛍光増白紙上の印刷面に対する全分光放射輝度率の測定に関する動作の一例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の方法を、従来の測定方法に適用した場合の光学特性測定装置の一例を示す概略構成図である。
【図8】二分光蛍光放射輝度率の強度マトリクスの一例を示すグラフ図である。
【図9】白熱光源及び紫外LEDの分光分布を示すグラフ図である。
【図10】従来の光学特性測定装置を示す概略構成図である。
【図11】従来の光学特性測定装置を示す概略構成図である。
【図12】蛍光増白紙上の各色のインクの重なりについて説明する概念図である。
【図13】蛍光増白紙上のインクが透過光と反射光とに及ぼす影響について説明する概念図である。
【符号の説明】
【0147】
1 被測定試料(蛍光増白基材)
2 第1照明部
21 白熱ランプ
22 第1駆動回路
3 第2照明部
31 紫外LED
32 第2駆動回路
4 参照面部
5 受光部
6 2チャンネル分光部
61 第1入射スリット
62 第2入射スリット
7 制御部(補正手段、測定(算出)手段)
70 CPU(補正手段、測定(算出)手段)
71 分光データメモリ(記憶手段)
72 評価用照明光データメモリ
73 二分光データメモリ
74 係数メモリ
75 面積率メモリ(記憶手段)
10 光学特性測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の分光透過特性を、該着色層の分光反射特性を用いて算出する光学特性測定方法であって、
前記着色層と同一の又は近似された、基準として定める基準着色層の分光透過特性及び分光反射特性を予め取得する第1の工程と、
前記着色層の分光反射特性を測定する第2の工程と、
前記着色層の分光透過特性を算出するべく、前記着色層の分光反射特性と前記基準着色層の分光反射特性とに基づいて前記基準着色層の分光透過特性を補正する第3の工程とを有することを特徴とする光学特性測定方法。
【請求項2】
前記分光透過特性は、前記分光反射特性が与えられる測定波長域と前記分光反射特性が与えられない非測定波長域とにおける分光透過特性を含むものであって、
前記第3の工程は、
前記測定波長域では、前記着色層及び基準着色層それぞれの分光反射特性に基づいて、且つ、前記非測定波長域では、前記測定波長域における当該非測定波長域に隣接する隣接波長域の前記着色層及び基準着色層それぞれの分光反射特性に基づいて、前記基準着色層の分光透過特性を補正する工程であることを特徴とする請求項1に記載の光学特性測定方法。
【請求項3】
前記光学特性測定方法は、蛍光増白基材上に単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせにより着色されてなる着色面の分光透過特性を算出する方法であって、
前記第3の工程は、
前記測定された着色層の分光透過特性と、前記単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせの面積率とに基づいて前記着色面の平均的な分光透過特性を算出する工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学特性測定方法。
【請求項4】
前記光学特性測定方法は、蛍光増白基材上に単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせにより着色されてなる着色面の励起蛍光特性を算出する方法であって、
前記算出された平均的な分光透過特性と、前記蛍光増白基材の励起蛍光特性とに基づいて前記着色面の実効的な励起蛍光特性を算出する第4の工程をさらに有することを特徴とする請求項3に記載の光学特性測定方法。
【請求項5】
前記分光透過特性は分光透過率であり、前記分光反射特性は分光反射輝度率であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学特性測定方法。
【請求項6】
前記光学特性測定方法は、前記単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の前記分光透過率を前記分光反射輝度率の測定値に基づいて推定的に算出する方法であって、
前記第3の工程は、
下記(1)式に基づいて、前記基準着色層の分光透過率を、前記着色層の分光反射輝度率と前記基準着色層の分光反射輝度率とを用いて補正することで前記着色層の分光透過率を算出する工程であることを特徴とする請求項5に記載の光学特性測定方法。
T(λ)=(R(λ)/R0(λ))1/2・T0(λ)・・・(1)
但し、記号「/」:除算
記号「・」:乗算
T(λ):着色層の分光透過率
R(λ):着色層の分光反射輝度率
T0(λ):基準着色層の分光透過率
R0(λ):基準着色層の分光反射輝度率
【請求項7】
前記光学特性測定方法は、前記単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の前記分光透過率を前記分光反射輝度率の測定値に基づいて推定的に算出する方法であって、
前記第3の工程は、
下記(2)式に基づいて、透過率の異なる少なくとも2つの前記基準着色層である第1及び第2の基準着色層の分光透過率を、所定の重み係数を用いて線形結合することにより補正することで前記着色層の分光透過率を算出する工程であることを特徴とする請求項5に記載の光学特性測定方法。
T(λ)=A(λ)・T0(λ)+(1−A(λ))・T1(λ)・・・(2)
但し、記号「/」:除算
記号「・」:乗算
T(λ):着色層の分光透過率
T0(λ):第1の基準着色層の分光透過率
T1(λ):第2の基準着色層の分光透過率
A(λ):第1及び第2の基準着色層それぞれの分光反射輝度率R0(λ)及びR1(λ)と、前記着色層の分光反射輝度率R(λ)とによって与えられる重み係数
【請求項8】
前記光学特性測定方法は、前記単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の前記分光透過率を前記分光反射輝度率の測定値に基づいて推定的に算出する方法であって、
前記第3の工程は、
前記着色層の分光透過率を、透過率の異なる1つ以上の基準着色層における分光透過率及び分光反射輝度率と、前記着色層の分光反射輝度率との関数によって与える工程であることを特徴とする請求項5に記載の光学特性測定方法。
【請求項9】
単数若しくは複数種類の着色材又は前記複数種類の着色材の組み合わせによる着色層の分光透過特性を、該着色層の分光反射特性を用いて算出する光学特性測定装置であって、
前記着色層と同一の又は近似された、基準として定める基準着色層の分光透過特性及び分光反射特性を記憶する記憶手段と、
前記着色層の分光反射特性を測定する測定手段と、
前記着色層の分光透過特性を算出するべく、前記着色層の分光反射特性と前記基準着色層の分光反射過特性とに基づいて前記基準着色層の分光透過特性を補正する補正手段とを備えることを特徴とする光学特性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−145225(P2008−145225A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331756(P2006−331756)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(303050160)コニカミノルタセンシング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】