説明

光学用成形体

【課題】
本発明は、透明性が良好で熱によって変形を起こしにくく、成形時に成形不良を起こしにくい光学用成形体を提供する
【解決手段】
(I)スチレン系単量体単位とメタクリル酸エステル系単量体単位の質量比が1:99〜25:75であり、(II)残存メタクリル酸エステル系化合物濃度が1000ppm以下であり、(III)ビカット軟化点が107°C以上であるスチレン−メタクリル酸エステル系共重合体からなる光学用成形体を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明性に優れた樹脂としてメタクリル樹脂が知られている。この樹脂は導光板をはじめとする光学用途、あるいは家電、OA機器用途に広く使用されている。しかしながら、市販のメタクリル樹脂は熱安定性を向上させるためにアクリル酸エステルが共重合されており、その結果耐熱性が低くなる。耐熱性が低いことから、上記機器からの発熱によって反りなどの変形が生じやすいという欠点がある。また、アクリル酸エステルは、樹脂組成を複雑にするため、透明性低下の要因になり得る。更に、成形する際に成形不良を起こしやすいという欠点も付与する。耐熱性を改善する手段として、メタクリル樹脂をイミド化剤によってイミド化するという手法が挙げられる。しかし、この手法は操作が多段階になるため煩雑であり、また、不純物も多くなるため、透明性低下を引き起こしてしまうという課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−342263
【特許文献2】特開2003−075648
【特許文献3】特開2006−052349
【特許文献4】特開2006−052350
【特許文献5】特願2007−252848
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、透明性が良好で熱によって変形を起こしにくく、成形時に成形不良を起こしにくい光学用成形体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、(1)(I)スチレン系単量体単位とメタクリル酸エステル系単量体単位の質量比が1:99〜25:75であり、(II)残存メタクリル酸エステル系化合物濃度が1000ppm以下であり、(III)ビカット軟化点が107°C以上であるスチレン−メタクリル酸エステル系共重合体からなる光学用成形体。(2)導光板である(1)記載の光学用成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の光学用成形体は、耐熱性が良好であり、また、残存メタクリル酸エステル化合物量が低いことから透明性が高いため、光学、家電、OA機器用途に広く使用できる。更に、残存メタクリル酸エステル化合物量が低いことは該成形体の成形時に成形不良を起こしにくくするという効果も付与した。そのため、操作性、生産性が向上し、ひいてはコストダウンにもつながる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<用語の説明>
本願明細書において、「〜」という記号は「以上」及び「以下」を意味する。例えば、「A〜B」なる記載は、A以上でありB以下であることを意味する。
本願明細書において、「光学用成形体」とは、例えば、導光板、拡散板、レンズ等に代表される、光学用途に用いる部材を意味する。
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する光学用成形体は、スチレン系単量体単位およびメタクリル酸エステル系単量体単位で構成されるスチレン−メタクリル酸エステル系共重合体からなる。
【0009】
スチレン系単量体単位としては、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどが挙げられるが、好ましくはスチレンである。これらのスチレン系単量体単位は単独であっても、二種類以上混合した単位であっても良い。
【0010】
メタクリル酸エステル系単量体単位としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレートなどが挙げられるが、好ましくはメチルメタクリレートである。これらのメタクリル酸エステル系単量体単位は単独であっても二種類以上混合した単位であっても良い。
【0011】
スチレン系単量体単位とメタクリル酸エステル系単量体単位との比率は、質量比にして、スチレン系単量体単位:メタクリル酸エステル系単量体単位=1:99〜25:75であり、好ましくは2:98〜15:85である。スチレン系単量体単位が1質量%以上であると、成形不良を起こしにくくなる。メタクリル酸エステル系単量体単位が75質量%以上であると、透明性が向上し、また、熱によって変形しにくくなる。
【0012】
スチレン系単量体単位およびメタクリル酸エステル系単量体単位からなる共重合体の製造方法には特に制限はないが、懸濁重合あるいは乳化重合を採用すると、重合の際に用いる分散剤や乳化剤が光学用成形体の内部に残り、光学用成形体の透明性低下の要因になる場合があるため、塊状重合や溶液重合が好ましい。製造コストや、フィルター濾過などの観点から、少量のトルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、アセトン等の溶剤を使用した連続塊状重合が更に好ましい。
【0013】
単量体単位として、他の共重合可能な単量体についても用いることができる。
【0014】
スチレン−メタクリル酸エステル系共重合体の分子量はGPC(ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー)にて測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が7万〜15万であることが好ましく、分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.7〜2.3であることが好ましい。
Mwが7万以上であると強い成形体が得られ、15万以下であると射出成形時の加工性が良好となる。またMw/Mnが1.7以上であると押出成形時の加工性が良好となり、2.3以下であると強い成形体を得ることができる。なお、MwやMw/Mnは重合時の温度や重合開始剤量等で調整できる。
【0015】
残存メタクリル酸エステル系化合物は、共重合体に含まれるメタクリル酸エステル系単量体や二量体などの揮発性の不純物のことをいう。
【0016】
スチレン−メタクリル酸エステル系共重合体に含まれる残存メタクリル酸エステル系化合物濃度は1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは800ppm以下、更に好ましくは500ppm以下である。残存メタクリル酸エステル濃度は少なければ少ないほど好ましい。残存メタクリル酸エステル系化合物濃度が1000ppm以下であると、成形不良を起こしにくくなる。
【0017】
スチレン−メタクリル酸エステル系共重合体の残存メタクリル酸エステル系化合物を削減する方法として、真空度の異なる脱揮槽を二槽使用しての二段脱揮、あるいは重合によって得た共重合体を脱揮しながら再び押出しする方法など、公知の手法が採用できる。
【0018】
スチレン−メタクリル酸エステル系共重合体のビカット軟化点は107℃以上であることが好ましい。ビカット軟化点が107℃以上であると、熱による変形を起こしにくくなる。
【0019】
ビカット軟化点の調整方法として、共重合体におけるメタクリル酸エステル系単量体単位の組成比を変化させる方法や、共重合体中の残存メタクリル酸エステル系化合物濃度を低減させる方法、あるいは熱安定化を目的とし、同時に共重合する事があるアクリル酸エステルを共重合しないという方法などが挙げられる。
【0020】
光学用成形体として、導光板、拡散板、プロジェクションテレビのスクリーンレンズなどが挙げられる。中でも液晶ディスプレイ用の導光板や照明用の導光板として有用であり、特に、LEDを光源とする中〜大型液晶ディスプレイ用の導光板として有用である。
【0021】
導光板の形状として、板型、くさび型など通常導光板として用いられる形状を採用できる。また、表面に何らかの賦形を施しても良い。
【0022】
光学用成形体の成形方法として、押出成形や射出成形など通常用いられる成形方法を採用できる。
【0023】
射出成形では、シリンダー温度230°C〜300°Cで成形するのが好ましい。温度が230°Cより高いと粘度が低くなり成形加工性が良い。また、300°Cより低いと、共重合体の分解が起こりにくくなり、成形体中における残存メタクリル酸エステル系化合物などの不純物が低減される。
【0024】
共重合体に含まれる不純物は、光学用成形体の透明性低下を引き起こしてしまうため、少なければ少ないほど良い。これらを削減する方法として、押出しの際に目の細かいフィルターを用いて押出す方法が挙げられる。更に、この手法は、段落0015に示した残存メタクリル酸エステル系化合物を削減する手段としても用いることができるため、不純物の低減方法として効率が良い。
【0025】
本発明に用いる共重合体には、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、耐光剤、帯電防止剤、摺動剤、光拡散剤など通常用いられる添加剤を使用することができる。
【0026】
以下、本発明の詳細な内容について実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
[試験例1]
攪拌翼に多段パドルを備えた容積20Lの完全混合型連続反応槽、容積11Lの塔式プラグフロー型連続反応槽、および予熱器を付したフラッシュ型脱揮槽を直列に接続した。メタクリル酸メチル79.2質量%、スチレン8.8質量%、およびエチルベンゼン12.0質量%で構成する溶液に対し、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(1時間半減期温度118°C)0.009質量%、およびn-ドデシルメルカプタン0.32質量%を混合し、原料溶液とした。温度125°Cに制御した完全混合型連続反応槽に、上記の原料溶液を毎時3.9kgで供給した。完全混合型連続反応槽出口における転化率は57質量%であった。入り口から出口への温度勾配が、120°Cから150°Cの勾配がつく様に調整した塔式プラグフロー型連続反応槽に、この重合溶液を導いたところ、塔式プラグフロー型連続反応槽出口での転化率は77質量%であった。この重合溶液を予熱器で230°Cに加温しながら、1.3kPa.Aに減圧したフラッシュ型脱揮槽に導入し、槽内温度235°Cで未反応単量体および溶剤のエチルベンゼンを除去した。樹脂をギアポンプで抜き出し、ストランド状に押出し、切断することでペレット形状の共重合体を得た。
得られた共重合体は、Mw=7.8万、Mw/Mn=1.9であった。
【0028】
[試験例2]
メタクリル酸メチル79.8質量%、スチレン2.2質量%、およびエチルベンゼン18.0質量%で構成する溶液に対し、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(1時間半減期温度118°C)0.006質量%、およびn-ドデシルメルカプタン0.32質量%を混合し、原料溶液とした。それ以外は、試験例1に示した方法と同様に行った。
得られた共重合体は、Mw=8.4万、Mw/Mn=2.0であった。
【0029】
[試験例3]
メタクリル酸メチル65.5質量%、スチレン19.5質量%およびエチルベンゼン15%で構成する溶液に対し、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(1時間半減期温度118°C)0.02質量%、およびn-ドデシルメルカプタン0.32質量%を混合し、原料溶液とした。それ以外は、試験例1に示した方法と同様に行った。
得られた共重合体は、Mw=7.6万、Mw/Mn=2.1であった。
【0030】
[試験例4]
メタクリル酸メチル76.6質量%、スチレン8.8質量%、アクリル酸メチル2.6質量%およびエチルベンゼン12.0質量%で構成する溶液に対し、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(1時間半減期温度118°C)0.009質量%、およびn-ドデシルメルカプタン0.32質量%を混合し、原料溶液とした。それ以外は、試験例1に示した方法と同様に行った。
得られた共重合体は、Mw=8.0万、Mw/Mn=2.0であった。
【0031】
[試験例5]
メタクリル酸メチル80質量%およびエチルベンゼン20%で構成する溶液に対し、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(1時間半減期温度118°C)0.006質量%、およびn-ドデシルメルカプタン0.32質量%を混合し、原料溶液とした。それ以外は、試験例1に示した方法と同様に行った。
得られた共重合体は、Mw=8.3万、Mw/Mn=2.0であった。
【0032】
[試験例6]
メタクリル酸メチル51質量%、スチレン34質量%およびエチルベンゼン15%で構成する溶液に対し、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(1時間半減期温度118°C)0.05質量%、およびn-ドデシルメルカプタン0.32質量%を混合し、原料溶液とした。それ以外は、試験例1に示した方法と同様に行った。
得られた共重合体は、Mw=7.7万、Mw/Mn=1.9であった。
【0033】
[実施例1]
試験例1に示したペレット形状の共重合体を真空脱揮しながら、目開き5μmのメッシュを通じて再び押出し、ペレット形状の樹脂生成物とした。これを80°Cで3時間以上乾燥し、東芝機械社製射出成形機(IS130)を用いて、シリンダー温度250°C、金型温度70°Cの条件で縦126mm×横126mm×厚さ3mmの平板を成形した。
この平板を用いて、下記(1)〜(6)の測定および評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0034】
[比較例1]
試験例1に示したペレット形状の共重合体を80°Cで3時間以上乾燥し、東芝機械社製射出成形機(IS130)を用いて、シリンダー温度250°C、金型温度70°Cの条件で縦126mm×横126mm×厚さ3mmの平板を成形した。この平板を用いて、下記(1)〜(6)の測定および評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0035】
[実施例2]
試験例2に示したペレット形状の共重合体を用いた以外は、実施例1に示した条件で成形体を得た。得られた結果を表1に示す。
【0036】
[実施例3]
試験例3に示したペレット形状の共重合体を用いた以外は、実施例1に示した条件で成形体を得た。得られた結果を表1に示す。
【0037】
[比較例2]
試験例4に示したペレット形状の共重合体を用いた以外は、実施例1に示した条件で成形体を得た。得られた結果を表1に示す。
【0038】
[比較例3]
試験例5に示したペレット形状の共重合体を用いた以外は、比較例1に示した条件で成形体を得た。得られた結果を表1に示す。
【0039】
[比較例4]
試験例6に示したペレット形状の共重合体用いた以外は、実施例1に示した条件で成形体を得た。得られた結果を表1に示す。
【0040】
なお、上記成形体の特性評価は下記の方法により行った。
(1)残存メタクリル酸エステル系化合物量
共重合体中の残存メタクリル酸エステル系化合物量は、下記のGC測定条件で測定した。
装置:島津製作所社製 GC12A FID検出器
カラム:ガラスカラム 3mmφ×3m
充填剤:ポリエチレングリコール
キャリアー:窒素
温度:カラム115 °C、注入口220 °C
試料ペレット0.5g、シクロペンタン0.001gをN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させ、シクロペンタンを内部標準として測定した。
【0041】
(2)ビカット軟化点
東芝機械株社製射出成形機(IS−80CNV)を用いて、シリンダー温度220°Cで縦12.7mm×横64mm×厚さ6.4mmの試験片を成形した。この試験片を用いてJIS−K7206に準拠し、荷重49.0Nの条件で測定した。
【0042】
(3)光損失率
各実施例および比較例の成形体の端面を研磨し滑らかにした。
次に、以下に示す測定方法で平行光線透過率Y(%)を測定した。
装置:日本電色工業社製測定器(ASA−300A)
光路:研磨面を垂直に通過する部分

平行光線透過率をY (%)、屈折率をn、反射率をR(%)として、光損失率(%)を次の計算式によって算出した。
光損失率(%)= 100 − (Y +2R)
但し、R(%) =(n−1)2 /(n+1)2 ×100
【0043】
(4)平均分子量
共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)は下記のGPC測定条件で測定した。
装置:昭和電工製 SYSTEM−21 Shodex
カラム:PLGel MIXED−Bを3本直列
温度:40℃
検出器:示差屈折率
溶媒:テトラヒドロフラン
濃度:2質量%
検量線:PL社製標準ポリスチレンを用いて作成し、平均分子量はポリスチレン換算値で表した。
【0044】
(5)熱変形
ビカット軟化点測定において、ビカット軟化点が107℃以上のものを○、104℃以下のものを×とした。
【0045】
(6)成形不良
実施例、比較例に示した成形の条件において、ある時点からの成形品を5個連続で採取し、これを1サイクルとする。1サイクル中の成形品の中で成形不良が一つも発生しない場合、そのサイクルを「可」とし、一つ以上発生した場合、そのサイクルを「不可」とする。これを5サイクル繰り返し、5サイクル中で「不可」が1度もないものに「0」、1度以上あるものに「1」を付した。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の樹脂成形体は耐熱性が良好であり、また、残存メタクリル酸エステル化合物量が低いことから透明性が高いため、光学、家電、OA機器用途に広く使用できる。透明性が高いことから、光学用成形体、とりわけ導光板に適する。更に、該成形体の成形時に成形不良を起こしにくいという利点もある。そのため、操作性、生産性の面でも効果的である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)スチレン系単量体単位とメタクリル酸エステル系単量体単位の質量比が1:99〜25:75であり、(II)残存メタクリル酸エステル系化合物濃度が1000ppm以下であり、(III)ビカット軟化点が107°C以上であるスチレン−メタクリル酸エステル系共重合体からなる光学用成形体。
【請求項2】
導光板である請求項1記載の光学用成形体。

【公開番号】特開2010−248318(P2010−248318A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97198(P2009−97198)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】