説明

光学用部材、それを用いた光学系

【課題】 任意の基材に対し長期にわたり高性能の反射防止効果を維持することができる光学用部材を提供する。
【解決手段】 基材表面に積層体が形成された光学部材であり、少なくとも一層が空隙を有する金属酸化物層27であり、前記基材25と前記金属酸化物層27との間に少なくとも一層の有機樹脂26を主成分とする層を含む光学用部材。金属酸化物層が、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶から形成されている板状結晶層であり、かつ前記板状結晶層の表面が凹凸形状からなる。有機樹脂が少なくとも一部に芳香環または/およびヘテロ環を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反射防止性能を有する光学用部材及びそれを用いた光学系に関し、さらに詳述すると可視領域から近赤外領域で高い反射防止性能を長期に安定して得るのに適した光学用部材及びそれを用いた光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光領域の波長以下の微細周期構造を用いた反射防止構造体は、適切なピッチ、高さの微細周期構造を形成することにより、広い波長領域ですぐれた反射防止性能を示すことが知られている。微細周期構造を形成する方法としては、波長以下の粒径の微粒子を分散した膜の塗布(特許文献1)などが知られている。
【0003】
また、微細加工装置(電子線描画装置やレーザー干渉露光装置,半導体露光装置,エッチング装置など)によるパターン形成によって微細周期構造を形成する方法は、ピッチ、高さの制御が可能である。また、すぐれた反射防止性を持つ微細周期構造を形成することが出来ることが知られている(特許文献2)。
【0004】
それ以外の方法として、アルミニウムの水酸化酸化物であるベーマイトを基材上に成長させて反射防止効果を得ることも知られている。これらの方法では、真空成膜法(特許文献3)あるいは液相法(ゾルゲル法)により(特許文献4)成膜した酸化アルミニウム(アルミナ)の膜を水蒸気処理あるいは温水浸漬処理により、表層をベーマイト化して微細周期構造を形成し、反射防止膜を得ている。
【0005】
また、基材とベーマイトの間にSiOを主成分とする基材とベーマイトの中間の屈折率を有する膜を設けた反射防止膜が提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第03135944号公報
【特許文献2】特開昭50−70040号公報
【特許文献3】特公昭61−48124号公報
【特許文献4】特開平9−202649号公報
【特許文献5】特開2006−259711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微粒子を利用した技術や、ベーマイトを基材上に成長させる方法で形成した金属酸化物やハロゲン化金属層は、簡便で高い生産性を有し、優れた光学性能を示す。その反面、緻密性が低く、多数の空隙を有するため、外界からの水分などが容易に基材に達し、基材の侵食、アルカリイオンなどの基材成分の溶出が容易に発生する。さらに溶出成分により微細構造の維持が困難になり性能が低下するという問題があった。
【0008】
また、基材とベーマイトの間にSiOを主成分とする膜を設けた反射防止膜においては、温水処理によってSiOを主成分とする膜から膜成分が溶出し光学特性が変化してしまうことがあった。
【0009】
より簡便に形成でき、かつ低温焼成で高い信頼性を有する微細周期構造を用いた反射防止膜が望まれている。
【0010】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、任意の基材に対し長期にわたり高性能の反射防止効果を維持することができる光学用部材、それを用いた光学系及び光学用部材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、次のように構成した光学用部材を提供するものである。
【0012】
本発明は基材表面に積層体が形成された光学部材であり、少なくとも一層が酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶から形成されている板状結晶層であり、前記基材と前記板状結晶層との間に少なくとも一層の有機樹脂を主成分とする層を含み、かつ前記有機樹脂が主鎖中に芳香環または/およびイミド環を有することを特徴とする光学用部材である。
【0013】
また、本発明は上記のいずれかに記載の光学用部材を有する、観察光学系、撮影光学系、投影光学系、走査光学系の中から選ばれる1であることを特徴とする光学系である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い反射防止効果を長期にわたり安定して発揮することが出来る光学用部材を提供することができる。
また、本発明によれば、上記の光学用部材を有する光学系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の光学用透明部材の一実施態様を示す概略図である。
【図2】本発明の光学用透明部材の一実施態様の屈折率分布を示す概略図である。
【図3】本発明の光学用透明部材の一実施態様を示す概略図である。
【図4】実施例1における、ガラス基板上に形成された、表面に微細な凹凸を有する薄膜のFE−SEMによる上面からの観察結果を示す写真(倍率:10万倍)である。
【図5】実施例1における、ガラス基板上に形成された、表面に微細な凹凸を有する薄膜のFE−SEMによる断面観察結果を示す写真(倍率:15万倍)である。
【図6】本発明実施例16の正面図である。
【図7】本発明実施例16の断面図である。
【図8】本発明実施例17の正面図である。
【図9】本発明実施例17の断面図である。
【図10】本発明実施例18の正面図である。
【図11】本発明実施例18の断面図である。
【図12】本発明実施例19の正面図である。
【図13】本発明実施例19の断面図である。
【図14】本発明実施例20の正面図である。
【図15】本発明実施例21の断面図である。
【図16】本発明実施例22の断面図である。
【図17】本発明実施例23の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は本実施形態に係る光学用部材を示す模式的な概略断面図である。同図1において、本発明の光学用部材は、基材25表面に、有機樹脂を主成分とする層26、その表面に酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶が形成されている板状結晶層27からなる積層体が形成されている。積層体の一層である板状結晶層27を形成する板状結晶とは、酸化アルミニウムを主成分とする膜を温水に浸漬することより、酸化アルミニウム膜の表層が解膠作用等を受け、膜の表層に析出、成長する板状の結晶のことを言う。
【0017】
板状結晶層27は、表層側から基材側に向かって屈折率が連続的に上昇する層であることが好ましく、図2に示すように膜厚に対する屈折率変化が(a)のような直線または(b)(c)のような曲線で表すことができる。表層側から基材側に向かって屈折率が連続的に上昇することで、表層側から順に屈折率の高い層を積層した時に比べ反射率低減効果が大きい。
【0018】
さらに、板状結晶層27は表層側から基材側に向かって屈折率が連続的に上昇するために表面が凹凸形状となっていることが好ましい。その場合の本実施形態に係る光学用部材を示す模式的な概略断面図を図3に示す。
【0019】
同図3において、本発明の光学用部材は、基材28上に、有機樹脂を主成分とする層29、および酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶から形成されている板状結晶層30を有する。
【0020】
該板状結晶層30の表面は凹凸形状31となっている。
【0021】
酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶層30は、アルミニウムの酸化物または水酸化物またはそれらの水和物を主成分とする結晶から形成される。特に好ましい結晶として、ベーマイトがある。また、これらの板状結晶を配することで、その端部が微細な凹凸形状31を形成するので、微細な凹凸の高さを大きくし、その間隔を狭めるために板状結晶は選択的に基材の表面に対して特定の角度で配置される。本願では、アルミニウムの酸化物または水酸化物またはそれらの水和物を酸化アルミニウムと称することとする。また、酸化アルミニウム単独/或いはZrO、SiO、TiO、ZnO、MgOの何れかを含み、酸化アルミニウムが70モル%以上である一層以上の酸化物層のことを酸化アルミニウムを主成分とする層と称することとする。
【0022】
基材28の表面が平板、フィルムないしシートなどの平面の場合を、図3(a)で示す。板状結晶は基材の表面に対して、すなわち板状結晶の傾斜方向32と基材表面との間の角度θ1の平均角度が45°以上90°以下、好ましくは60°以上90°以下となるように配置されることが望ましい。
【0023】
また、基材28の表面が二次元あるいは三次元の曲面を有する場合を、図3(b)で示す。板状結晶は基材の表面に対して、すなわち板状結晶の傾斜方向32と基材表面の接線33との間の角度θ2の平均角度が45°以上90°以下、好ましくは60°以上90°以下となるように配置されることが望ましい。なお、上記の角度θ1およびθ2の値は、板状結晶の傾きにより90°をこえる場合があるが、この場合90°以下となるように測定された値とする。
【0024】
板状結晶層30の層厚は、好ましくは20nm以上1000nm以下であり、より好ましくは50nm以上1000nm以下である。凹凸を形成する層厚が20nm以上1000nm以下では、微細な凹凸構造による反射防止性能が効果的であり、また凹凸の機械的強度が損なわれる恐れが無くなり、微細な凹凸構造の製造コストも有利になる。また、層厚が50nm以上1000nm以下とすることにより、反射防止性能をさらに高めることとなり、より好ましい。
【0025】
本発明の微細凹凸の面密度も重要であり、これに対応する中心線平均粗さを面拡張した平均面粗さRa’値が5nm以上、より好ましく10nm以上、さらに好ましくは15nm以上100nm以下、また表面積比Srが1.1以上である。より好ましくは1.15以上、さらに好ましくは1.2以上3.5以下である。
【0026】
得られた微細凹凸組織の評価方法の一つとして、走査型プローブ顕微鏡による微細凹凸組織表面の観察があり、該観察により該膜の中心線平均粗さRaを面拡張した平均面粗さRa’値と表面積比Srが求められる。すなわち、平均面粗さRa’値(nm)は、JIS B 0601で定義されている中心線平均粗さRaを、測定面に対し適用し三次元に拡張したもので、「基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値」と表現し、次の式(1)で与えられる。
【0027】
【数1】

【0028】
Ra’:平均面粗さ値(nm)、
:測定面が理想的にフラットであるとした時の面積、|X−X|×|Y−Y|、F(X,Y):測定点(X,Y)における高さ、XはX座標、YはY座標、
からX:測定面のX座標の範囲、
からY:測定面のY座標の範囲、
:測定面内の平均の高さ
【0029】
また、表面積比Srは、Sr=S/S〔S:測定面が理想的にフラットであるときの面積。S:実際の測定面の表面積。〕で求められる。なお、実際の測定面の表面積は次のようにして求める。先ず、最も近接した3つのデータ点(A,B,C)より成る微小三角形に分割し、次いで各微小三角形の面積△Sを、ベクトル積を用いて求める。△S(△ABC)=[s(s−AB)(s−BC)(s−AC)]0.5〔但し、AB、BCおよびACは各辺の長さで、s≡0.5(AB+BC+AC)〕となり、この△Sの総和が求める表面積Sになる。微細凹凸の面密度がRa’が5nm以上で、Srが1.1以上になると、凹凸構造による反射防止を発現することができる。また、Ra’が10nm以上で、Srが1.15以上であると、その反射防止効果は前者に比べ高いものとなる。そしてRa’が15nm以上で、Srが1.2以上になると実際の使用に耐えうる性能となる。しかしRa’が100nm以上で、Srが3.5以上になると反射防止効果よりも凹凸構造による散乱の効果が勝り十分な反射防止性能を得ることが出来ない。
【0030】
本発明中の酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶から形成されている板状結晶層30は、有機樹脂を主成分とする層29に金属Al単独の膜/或いは金属Alと金属Zn、金属Mgの何れかを含む金属膜を形成する。その後、50℃以上の温水に浸漬する/或いは水蒸気にさらすことにより形成される。この時上記金属表面には水和、溶解、再析出によって凹凸形状31が形成される。有機樹脂を主成分とする層29上に酸化アルミニウムを主成分とする層を形成する。そして、その表面を選択的に溶解または析出させることによって板状結晶層30を形成する事ができる。上記酸化アルミニウムを主成分とする層は公知のCVD、PVDの気相法、及びゾル−ゲル法などの液相法、無機塩を用いた水熱合成などにより形成する事ができる。このような酸化アルミニウムの板状結晶を設ける方法では、板状結晶層30中の凹凸形状31の下部に不定形の酸化アルミニウム層が残存することがある。
【0031】
大面積や、非平面状の基材に均一な反射防止層を形成できる点から、酸化アルミニウムを含むゾル−ゲルコーティング液を塗布して形成したゲル膜を温水で処理させて、アルミナ板状結晶を成長させる方法が好ましい。
【0032】
酸化アルミニウムを含むゾル−ゲルコーティング液から得られるゲル膜の原料には、Al化合物を/或いはAl化合物とともにZr、Si、Ti、Zn、Mgの各々の化合物の少なくとも1種の化合物とを用いる。Al、ZrO、SiO、TiO、ZnO、MgOの原料として、各々の金属アルコキシドや塩化物や硝酸塩などの塩化合物を用いることができる。製膜性の観点から、特にZrO、SiO、TiO原料としては金属アルコキシドを用いるのが好ましい。
【0033】
アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム−n−ブトキシド、アルミニウム−sec−ブトキシド、アルミニウム−tert−ブトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート。またこれらのオリゴマー、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0034】
ジルコニウムアルコキシドの具体例として、以下のものが挙げられる。ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラn−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラn−ブトキシド、ジルコニウムテトラt−ブトキシド等。
【0035】
シリコンアルコキシドとしては、一般式Si(OR)で表される各種のものを使用することができる。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等の同一または別異の低級アルキル基が挙げられる。
【0036】
チタニウムアルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラn−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン等が挙げられる。
【0037】
亜鉛化合物としては、例えば酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛などが挙げられ、特に酢酸亜鉛、塩化亜鉛が好ましい。
【0038】
マグネシウム化合物としてはジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジプロポキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウム等のマグネシウムアルコキシド、マグネシウムアセチルアセトネート、塩化マグネシウム等が挙げられる。
【0039】
有機溶媒としては、上記アルコキシドなどの原料をゲル化させないものであれば良い。例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、もしくはエチレングリコール−モノ−n−プロピルエーテルなどのアルコール類。n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタンのような各種の脂肪族系ないしは脂環族系の炭化水素類。トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの各種の芳香族炭化水素類。ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどの各種のエステル類。アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどの各種のケトン類。ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテルのような各種のエーテル類。クロロホルム、メチレンクロライド、四塩化炭素、テトラクロロエタンのような、各種の塩素化炭化水素類。N−メチルピロリドン、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチレンカーボネートのような、非プロトン性極性溶剤等が挙げられる。溶液の安定性の点から上述した各種の溶剤類のうちアルコール類を使用することが好ましい。
【0040】
アルコキシド原料を用いる場合、特にアルミニウム、ジルコニウム、チタニウムのアルコキシドは水に対する反応性が高く、空気中の水分や水の添加により急激に加水分解され溶液の白濁、沈殿を生じる。また、アルミニウム塩化合物、亜鉛塩化合物、マグネシウム塩化合物は有機溶媒のみでは溶解が困難で、溶液の安定性が低い。これらを防止するために安定化剤を添加し、溶液の安定化を図ることが好ましい。
【0041】
安定化剤としては、例えば、アセチルアセトン、ジピロバイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタンなどのβ−ジケトン化合物類。アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸アリル、アセト酢酸ベンジル、アセト酢酸−iso−プロピル、アセト酢酸−tert−ブチル、アセト酢酸−iso−ブチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル、3−ケト−n−バレリック酸メチルなどの、β−ケトエステル化合物類。さらには、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの、アルカノールアミン類等を挙げることができる。安定化剤の添加量は、アルコキシドや塩化合物に対しモル比で1程度にすることが好ましい。また、安定化剤の添加後には、適当な前駆体を形成するために、反応の一部を促進する目的で触媒を加えることが好ましい。触媒としては、たとえば、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸、酢酸、アンモニア等を例示することができる。上記ゾル−ゲルコーティング液を用い膜を形成する方法としては、例えばディッピング法、スピンコート法、スプレー法、印刷法、フローコート法、ならびにこれらの併用等、既知の塗布手段を適宜採用することができる。
【0042】
上記ゾル−ゲルコーティング液を塗布後は、120℃以上230℃以下の範囲で熱処理することが好ましい。熱処理温度は高いほど膜は高密度化しやすくなるが、熱処理温度が230℃を超えると基材に変形などのダメージが生じる。より好ましくは150℃以上210℃以下である。加熱時間は加熱温度にもよるが、10分以上が好ましい。
【0043】
乾燥もしくは熱処理を行ったゲル膜は温水に浸漬処理することにより、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶を析出させ最表面の凹凸形状を形成させる。温水に浸漬することで、酸化アルミニウムを含むゲル膜の表層が解膠作用等を受け、一部の成分は溶出する。各種水酸化物の温水への溶解度の違いにより、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶が該ゲル膜の表層に析出、成長する。なお、温水の温度は40℃から100℃とすることが好ましい。温水処理時間としては5分間ないし24時間程度である。
【0044】
酸化アルミニウムを主成分とする膜に異種成分としてTiO、ZrO、SiO、ZnO、MgOなどの酸化物を添加したゲル膜の温水処理では、各成分の温水に対する溶解度の差を用いて結晶化を行っている。そのため酸化アルミニウム単成分膜の温水処理とは異なり、無機成分の組成を変化させることにより板状結晶のサイズを広範な範囲にわたって制御することができる。その結果、板状結晶の形成する凹凸形状を前記の広範な範囲にわたって制御することが可能となる。さらに、副成分としてZnOを用いた場合、酸化アルミニウムとの共析が可能となるため、屈折率の制御がさらに広範囲にわたって可能となり優れた反射防止性能を実現できる。
【0045】
本発明の有機樹脂を主成分とする層29に用いられる有機樹脂としては、基材28と酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶層30との屈折率を調整する機能を有し、また使用する光の波長領域で透明であれば良い。
【0046】
本発明の有機樹脂を主成分とする層29は基材28と酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶層30との屈折率差を調整することで、高い反射防止性能の発現に寄与することから、最適な膜厚と屈折率を有すること。かつそれらが製膜時から安定的に維持されることが望まれる。本願では、有機樹脂が80重量%以上の樹脂成分を含む層のことを有機樹脂を主成分とする層と称することとする。
【0047】
本発明の有機樹脂を主成分とする層には主鎖中に芳香環または/およびイミド環を有する有機樹脂を用いることが好ましい。芳香環やイミド環の例としては下記化学式で表される構造が挙げられる。
【0048】
【化1】

【0049】
芳香環やイミド環は平面構造を持つため、主鎖中にこれらの構造を導入した有機樹脂は製膜時に分子鎖同士が基板に対して平行に配向し易い。そのため、本発明の有機樹脂層29のような数100nm以下の膜厚で用いる場合でも、膜厚、屈折率の均一性が高い。さらに、耐溶剤性に優れ、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れた膜厚、屈折率の変化の起こり難い。
【0050】
主鎖中に芳香環または/およびイミド環を有しない有機樹脂を用いると、分子鎖同士がランダムに絡み合うために、薄膜化した時に密度低下が原因と思われる屈折率低下が見られる。また、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶から形成されている板状結晶層30を酸化アルミニウムを含むゾル−ゲルコーティング液から作製する場合も同様である。つまり前記と同様の原因でゾル−ゲルコーティング液に含まれる溶媒への溶解、膨潤による膜厚や屈折率変化、加熱乾燥時の変形や、分解、着色が起こり易い。
【0051】
さらに、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶から形成されている板状結晶層30を得るためには前記酸化アルミニウムを含むゲル膜を水蒸気に暴露したり、温水に浸漬したりするが、この時に有機樹脂層の膜厚や屈折率は極力変化しないことが望まれる。この観点からも、主鎖に芳香環または/およびイミド環を有する有機樹脂のように温水などで容易に分解や膨潤が起こらない有機樹脂層29が好ましい。また、前記板状結晶層は膜の緻密性が低いため、外界からの水分などが容易に金属酸化物層を通り抜けて基材表面に到達する。この際に、基材表面が水分などによって侵食を受けたり、基材成分が溶出したりすることで光学用部材の性能劣化を引き起こすことが問題であった。そこで、本発明の有機樹脂を主成分とする層3または5は、外界から板状結晶層を経由して来る水分などを遮断する効果が望まれる。そのような効果を得るためには吸水率が低い有機樹脂を用いることが好ましい。そのような有機樹脂としては吸水率が0.05%以上2%以下の有機樹脂である。吸水率が2%以下であれば、外部から進入してくる水分を遮断することができる。ここで述べる吸水率とは、製膜後23℃/24時間放置した膜の吸水率である。一方、吸水率が0.05%未満の有機樹脂の場合、基板との密着性が著しく低くいために、仮に基板表面の前処理を行ったとしても、温水処理時などに基板から剥離してしまう。
【0052】
有機樹脂の種類としては主鎖に芳香環または/およびイミド環を有する有機樹脂であれば硬化樹脂または熱可塑性樹脂いずれを用いることもできる。硬化樹脂としては1個以上のエポキシ基、オキセタニル基、エピスルフィド基、メチロール基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、ビニルエーテル基、アクリロイル、メタクリロイル基、マレイミド基などの反応性または重合反応性の置換基を有する化合物あるいはオリゴマーの硬化物が挙げられる。一つの化合物あるいはオリゴマーに二種類以上の反応性または重合反応性の置換基が含まれていても、異なる反応性または重合反応性の置換基を有する化合物あるいはオリゴマーを2種類以上混合して硬化させた硬化樹脂を用いることができる。主鎖に芳香環または/およびイミド環を有する硬化樹脂の例としてビスフェノールAエポキシの硬化物、m−フェニレンジイソシアネートの硬化物、メチロールメラミン樹脂、グアナミン樹脂やマレイミド樹脂の硬化物が挙げられる。
【0053】
硬化樹脂を用いる場合、上記化合物を硬化する際に開始剤や硬化剤を併用することができる。開始剤は上記化合物の置換基の反応性によってラジカル、カチオン、アニオン開始剤から選ばれることが多い。また、熱硬化の場合には熱分解型の開始剤が広く用いられる。熱分解型の開始剤の例としては、ラジカル開始剤としてN,N−アゾビスブチロニトリル、カチオン開始剤としてp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩などが挙げられる。また、熱硬化ではカチオン開始剤としてp−トルエンスルホン酸などの有機酸やアニオン開始剤としてジアザビシクロウンデセンのような有機アミンを少量混合する場合もある。硬化を紫外線などの光で行う場合は、光感受性の開始剤を使用する。
【0054】
一方、主鎖に芳香環または/およびイミド環を有する熱可塑性樹脂としてはポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンなどの芳香族ポリエーテル類、ポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル類、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリウレタン、芳香族ポリ尿素、ポ芳香族リアミド、熱可塑性ポリイミドなどが挙げられる。中でも芳香族ポリエーテル類、芳香族ポリスルフィド類、ポリカーボネート、熱可塑性ポリイミドが耐熱性の観点からより好ましい。
【0055】
また、ベーク条件で屈折率や膜厚が変化しないことや、未硬化モノマーの残留などが少ない点から熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0056】
また、基材25と有機樹脂を主成分とする層29の密着性を向上するために、シロキサン構造を(−SiR−O−)を含む有機樹脂を用いることが好ましい。(ただし、Rはメチル基またはフェニル基であり、mは1以上6以下の整数である。)
基材との密着性を向上することで、特に高温高湿下での膜剥がれや、クラックなどを抑制することができる。
(−SiR−O−)を含む有機樹脂は、(−SiR−O−)を含む繰り返し単位が、全繰り返し単位当り30モル%以下が好ましい。30モル%以上ではガラス転移温度低下による耐熱性低下と、ガラス基材への濡れ性低下が発生する。
【0057】
また、有機樹脂の構造を変えることによって、有機樹脂を主成分とする層2または5の屈折率を変化させることができる。例えば、有機樹脂中に含まれる芳香環の数やヘテロ環の数を増やすことで屈折率は高くなる。一方、脂肪族鎖、脂環構造、前記のシロキサン構造やフルオロアルキル基などを増やすことによって透明性が向上し、屈折率は低下する。主鎖に芳香環または/およびイミド環を有する有機樹脂の中で構造によって比較的容易に屈折率を変化させられる例として、ポリイミドや芳香族ポリエーテル類、芳香族ポリスルフィド類、芳香族ポリカーボネートが挙げられる。これらのポリマーはモノマーを介して芳香環やイミド環と合わせて前記構造を主鎖や側鎖に導入することができる。
【0058】
ポリイミドは一般的に酸二無水物とジアミンとの重付加反応と脱水縮合反応によって合成されるが、ジアミンおよび/または酸二無水物に脂肪族鎖、脂環構造やフルオロアルキル基を導入することで可視光領域で透明なポリイミドが得られる。特に酸二無水物に脂環構造を有する酸二無水物を用い、ジアミンにシロキサン構造、脂肪族鎖、脂環構造、芳香環などの各種構造を単独もしくは複数種導入することによって屈折率も1.5から1.7まで任意に変化させることができる。
【0059】
熱可塑性ポリイミドの合成に用いられる酸二無水物の例としては、ピロメリット酸無水物、3,3‘−ビフタル酸無水物、3,4‘−ビフタル酸無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’−オキシジフタル酸 無水物などの芳香族酸に無水物、meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸無水物などの脂肪族酸二無水物が挙げられる。ポリイミドの溶解性、塗布性や透明性を向上する観点から、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸無水物がより好ましい。
【0060】
熱可塑性ポリイミドの合成に用いられるジアミンの例としては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジフェニルメタン、o−トリジン、m−トリジン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、3,4’−ジアミノジフェニル エーテル、4,4’−ジアミノジフェニル エーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンなどの芳香族ジアミン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂肪族ジアミン、1,3−ビス (3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,4−ビス (3−アミノプロピルジメチルシリル)ベンゼンなどの−SiR−O−基含有ジアミンが挙げられる。ガラスなどの無機基材に対する密着性の観点から、1,3−ビス (3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,4−ビス (3−アミノプロピルジメチルシリル)ベンゼンなどの−SiR−O−基含有ジアミンを少なくとも含むことがより好ましい。
【0061】
芳香族ポリエーテル類は一般的にビスフェノールと芳香族ジハライドを炭酸カリウムなどの塩基存在下、溶媒中で縮合反応することで合成される。ビスフェノールを芳香族ジスルフィドに置き換えると芳香族ポリスルフィドが合成される。ビスフェノールまたは芳香族ジスルフィドと芳香族ジハライドに各種構造を単独もしくは複数種導入することによって屈折率も1.5から1.7まで任意に変化させることができる。
【0062】
芳香族ポリエーテル類の合成に用いられるビスフェノールの例としては、レゾルシノール、ハイドロキノン、4,4’−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、4,4’−(1−α−メチルベンジリデン)ビスフェノール、1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル) スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル) スルホン、オクタフルオロ−4,4’−ビフェノール、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどが挙げられる。
【0063】
芳香族ポリスルフィドの合成に用いられる芳香族ジスルフィドの例としては、p−ベンゼンジチオール、m−ベンゼンジチオール、4,4’−オキシビスベンゼンチオール、4,4’−チオビスベンゼンチオール、4,4’−ビフェニルジチオールなどが挙げられる。
【0064】
芳香族ポリエーテル類または芳香族ポリスルフィドの合成に用いられる芳香族ジハライドの例としては、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニル スルホン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロ−3−ニトロフェニル) スルホン、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、テトラフルオロイソフタロニトリル、パーフルオロビフェニル、3,5−ジクロロ−1−メトキシトリアジンなどが挙げられる。また、ジハライドの代わりに2,4−ジニトロベンゾニトリル、2,6−ジニトロベンゾニトリルなどのジニトロ化合物を用いることができる。
【0065】
芳香族ポリカーボネートは一般的にビスフェノールとホスゲンを溶液中で反応させる方法や、ビスフェノールとジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルを溶融状態で反応させる方法により合成される。ビスフェノールに各種構造を単独もしくは複数種導入することによって屈折率も1.5から1.65まで任意に変化させることができる。
【0066】
芳香族ポリカーボネートの合成に用いられるビスフェノールには、前述の芳香族ポリエーテルの合成に用いられるビスフェノールが用いられる。
【0067】
芳香族ポリエーテル、芳香族ポリスルフィド、芳香族ポリカーボネートには前述のビスフェノールまたは芳香族ジスルフィド以外に脂肪族ジオールや脂肪族ジスルフィドを併用することができる。
【0068】
また、ビスフェノールまたは芳香族ジスルフィドの一部をo−ヒドロキシフェノキシプロピルシロキシ基を1つ以上有する化合物に置き換えることがより好ましい。この方法により樹脂中に(−SiR−O−)基を導入することができ、基材への密着性が向上する。
【0069】
本発明の有機樹脂を主成分とする層29の屈折率niは基材25の屈折率nb、該酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶から形成されている板状結晶層30の屈折率nsに対して、nb≧ni≧nsとなることが好ましい。このようになるように有機樹脂または有機樹脂中の構造を選択することが好ましい。この範囲にniを調整することでより高い反射防止性能を発現することができる。
【0070】
また、有機樹脂を主成分とする層29には有機樹脂以外に密着性を改善するために、シランカップリング剤を含ませることが出来る。また、屈折率の調整や吸水率を低減するためにSiO、TiO、ZrO、SiO、ZnO、MgO、Alなどの無機微粒子を少量混ぜることができる。有機樹脂層全体を100重量部とした時に混合できる有機樹脂以外の成分は20重量部未満であり、それ以上混合すると透明性や膜厚の均一性が損なわれる恐れがある。
【0071】
有機樹脂は溶液にして基材上にコーティングする方法が簡便であり、薄膜を形成するのに適しているため好ましい。硬化樹脂の場合、反応性または重合反応性の化合物あるいはオリゴマーを開始剤や硬化剤などと共に有機溶媒に溶解して用いることができる。一方、熱可塑性樹脂は単独もしくは有機樹脂以外の成分と共に有機溶媒に溶解して用いることができる。熱可塑性樹脂自体が有機溶媒に不溶もしくは溶け難い場合は、熱可塑性樹脂前駆体を有機溶媒に溶解して用いることができる。ただし、後者の場合は前駆体を熱可塑性樹脂に変換する過程が必要である。
【0072】
本発明の有機樹脂を主成分とする層29を形成する際に使用される有機溶媒は2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類。酢酸エチル、酢酸n−ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチルなどのエステル類。テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類。トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの各種の芳香族炭化水素類。クロロホルム、メチレンクロライド、テトラクロロエタンなどの塩素化炭化水素類。その他、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの溶媒が挙げられる。さらに、1−ブタノール、メチルセロソルブ、ジグライム、メトキシプロパノールなどのアルコール類も用いることができる。
【0073】
有機樹脂の溶液を用いて有機樹脂を主成分とする層29を形成する方法としては、例えばディッピング法、スピンコート法、スプレー法、印刷法、フローコート法、ならびにこれらの併用等、既知の塗布手段を適宜採用することができる。
【0074】
有機樹脂溶液を塗布後は、溶媒の除去のために60℃から240℃で5分から2時間程度の加熱を行うことが好ましい。熱で硬化する樹脂の場合、この熱処理によって溶媒の除去と硬化を同時に行うことができる。一方、熱以外で硬化を行う樹脂の場合、紫外線、レーザー、電子線、エックス線、マイクロ波などの光、放射線または電磁波照射を適宜選択して行うことが必要である。熱以外で硬化を行った場合でも、さらに熱処理を行うことで、反応を促進することができる。
【0075】
本発明の有機樹脂を主成分とする層29の厚みは10nm以上150nm以下、さらには20nm以上100nm以下であることが好ましい。これより薄いと均一な塗膜の形成が困難であるため、所望な光学特性を得ることが出来ない。また、これより厚いと干渉などにより反射低減効果への寄与が少なくなる。
【0076】
本発明で使用される基材としては、ガラス、樹脂、ガラスミラー、樹脂製ミラー等が挙げられる。樹脂基材の代表的なものとしては以下のものが挙げられる。ポリエステル、トリアセチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリシクロオレフィン、ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂のフィルムや成形品。また、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、架橋型ポリウレタン、架橋型のアクリル樹脂、架橋型の飽和ポリエステル樹脂など各種の熱硬化性樹脂から得られる架橋フィルムや架橋した成形品等も挙げられる。ガラスの具体例として、無アルカリガラス、アルミナケイ酸ガラスを挙げることができる。本発明に用いられる基材は、最終的に使用目的に応じた形状にされ得るものであれば良く、平板、フィルムないしシートなどが用いられ、二次元あるいは三次元の曲面を有するものであっても良い。厚さは、適宜に決定でき5mm以下が一般的であるが、これに限定されない。
【0077】
本発明の光学用透明部材は、以上説明した層の他に、各種機能を付与するための層を更に設けることができる。例えば、膜硬度を向上させるために、板状結晶の層上にハードコート層を設けたり、撥水性を付与するためにフルオロアルキルシランやアルキルシランなどの撥水性膜層を設けたりすることができる。また、汚れの付着を防止する目的などのために酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶よりも低屈折率の材料の層や、両親媒性の化合物から成る層を設けることができる。一方、基材と有機樹脂を主成分とする層との密着性を向上させるために接着剤層やプライマー層を設けたりすることができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はかかる実施例に限定されるものではない。各実施例、比較例で得られた、表面に微細な凹凸を有する光学膜について、下記の方法で評価を行った。
【0079】
(1)ポリイミド1から5の合成
合計で0.012molのジアミン(1)、ジアミン(2)およびジアミン(3)をN,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略す)に溶解した。このジアミン溶液を水冷しながら0.012molの酸二無水物を加えた。DMAcの量はジアミンと酸二無水物の質量の合計が20重量%になるように用いた。この溶液を15時間室温で攪拌し、重合反応を行った。さらに、DMAcで希釈して8重量%になるように調整した後、7.4mlのピリジンと3.8mlの無水酢酸を加え、室温で1時間攪拌した。さらに、オイルバスで50℃に加熱しながら5時間攪拌した。重合溶液をメタノール中に再沈殿しポリマーを取り出した後、メタノール中で数回洗浄した。100℃で真空乾燥後、淡黄色粉末状のポリイミドを得た。H−NMRスペクトルからカルボキシル基残量を測定し、イミド化率を求めた。ポリイミド1から5の組成表を表1に示した。
【0080】
【表1】

【0081】
(2)ポリエーテルエーテルケトン6の合成
2.18gの4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、3.79gの9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンと1.72gの炭酸カリウムを15mlのDMAcに加えて室温で攪拌した。さらにトルエン7.5mlを加えてから120℃に加熱しながら系内の水分を共沸除去した。150℃まで昇温し、トルエンを完全に除去した。さらに、165℃まで昇温し8時間重合を行った。15mlのDMAcで希釈した後、重合溶液を酸性メタノール中に注いで白色の繊維状ポリマーを得た。メタノールで繰り返し洗浄した後、乾燥して収率95%でポリエーテルエーテルケトン6を得た。
【0082】
(3)ポリイミド溶液6から10の調製
2.5gのポリイミド1から5粉末を10gのシクロヘキサノンに溶解することでポリイミド溶液6から10を調製した。
【0083】
(4)ポリカーボネート溶液11の調製
2.5gのビスフェノールZポリカーボネート(商品名:Z−400、三菱瓦斯化学製)を10gのシクロヘキサノンに溶解することでポリカーボネート溶液11を調製した。
【0084】
(5)熱硬化樹脂溶液12の調製
5gのメラミン樹脂(商品名:ニカラックMX−750LM、日本カーバイド製)と0.025gのp−トルエンスルホン酸を95gの1−メトキシ−2−プロパノールに溶解して熱硬化樹脂溶液12を調製した。
【0085】
(6)SiO−TiOゾル液13の調製
14.6gのケイ酸エチルに3.15gの0.01M希塩酸〔HClaq.〕と29.5gの1−ブタノール/2−プロパノール(以下、IPAと略す)の1/1(wt.)混合溶媒をゆっくり加えてから、室温で攪拌した。6時間攪拌した後、92.5gの1−ブタノール/IPAの1/1(wt.)混合溶媒で希釈してA液とした。10.2gのテトラn−ブトキシチタンと3.9gのエチルアセトアセテートを順に25.5gの1−ブタノール/IPAの1/1(wt.)混合溶媒中に溶解させた。この溶液を室温で3時間攪拌しB液とした。A液を攪拌しながらB液をゆっくり加え、さらに室温で3時間攪拌することでSi/Tiモル比が7/3のSiO−TiOゾル液13を調製した。
【0086】
(7)酸化アルミニウム(アルミナ(Al))ゾル液14の調製
24.6gのAl(O−sec−Bu)を115.3gの1−ブタノール/2−プロパノール(以下、IPAと略す)の1/1(wt.)混合溶媒中に溶解させ、6.51gの3−オキシブタン酸エチルエステルを添加し、約1時間室温で攪拌した。その後、この溶液に0.01M希塩酸〔HClaq.〕を添加し、約3時間室温で攪拌した。さらに120℃のオイルバス中で6時間攪拌することによってアルミナ(Al)ゾル液13を調製した。
【0087】
(8)酸化アルミニウム(アルミナ(Al))ゾル液15の調製
17.2gのAl(O−sec−Bu)を122.3gの1−ブタノール/2−プロパノール(以下、IPAと略す)の1/1(wt.)混合溶媒中に溶解させ、4.56gの3−オキシブタン酸エチルエステルを添加し、約1時間室温で攪拌した。その後、この溶液に0.01M希塩酸〔HClaq.〕を添加し、約3時間室温で攪拌した。さらに120℃のオイルバス中で6時間攪拌することによってアルミナ(Al)ゾル液14を調製した。
【0088】
(9)シランカップリング剤溶液16の調製
0.5gの3−アミノプロピルトリエトキシシランを99.5gのエタノールに溶解し、さらに0.5gのイオン交換水を加えた。この溶液を室温で一晩攪拌し、シランカップリング剤15溶液とした。
【0089】
(10)ポリエーテルエーテルケトン溶液17の調製
2.5gのポリエーテルエーテルケトン6の粉末を10gのシクロヘキサノンに溶解することでポリエーテルエーテルケトン溶液17を調製した。
【0090】
(11)ポリスルホン溶液18の調製
2.5gのペレット状のポリスルホン(Mn〜16,000:シグマアルドリッチ社製)を10gのγ−ブチロラクトンに溶解することでポリスルホン溶液18を調製した。
【0091】
(12)ポリスチレン溶液19の調製
2.5gのポリスチレン(シグマアルドリッチ社製)の粉末を10gのシクロヘキサノンに溶解することでポリスチレン溶液19を調製した。
【0092】
(13)有機樹脂の吸水率の測定
シリコン基板上に各種有機樹脂塗膜を形成。200℃/60分焼成後、23℃のイオン交換水中に24時間浸漬した膜の吸水量を熱重量分析装置(TG/DTA、リガク製サーモプラス2)で測定し、膜の吸水率を求めた。
【0093】
(14)基板の洗浄
両面を研磨した大きさ約φ30mm、厚さ約2mmの各種ガラス基板をアルカリ洗剤およびIPAで超音波洗浄した後、オーブン中で乾燥した。
【0094】
(15)被膜形状観察
走査型電子顕微鏡(FE−SEM、日立製作所製S4500)を用いて被膜の表層表面の写真観察(加速電圧;10.0kV、倍率;3万倍)を行った。
【0095】
(16)透過率測定
自動光学素子測定装置(V−570、日本分光製)を用い、350nmから850nmの範囲の透過率測定を行った。円盤状ガラス板を使用した。透過率測定における光の入射角は、0°であった。
【0096】
(17)膜厚および屈折率の測定
分光エリプソメータ(VASE、ジェー・エー・ウーラム・ジャパン製)を用い、波長380nmから800nmまで測定した。
【0097】
実施例1
前記の方法で洗浄したS−TIH53(n550nm=1.84)基板の片方の面にポリイミド溶液6を適量滴下し、3000rpmで20秒間スピンコートを行った。この基板を80℃で10分間予備乾燥した後、もう一方の面にも同様にポリイミド溶液6をスピンコートした。その後、200℃の熱風循環オーブンで30分間焼成することで、ポリイミド1が両面に付いた有機樹脂層付き基板を作製した。ポリイミド1膜の膜厚、屈折率、吸水率を表2に示した。
【0098】
ポリイミド1膜付き基板の片方の面にアルミナゾル液14を適量滴下し、4000rpmで20秒間スピンコートを行った後、80℃で10分間予備乾燥した。もう一方の面にも同様にアルミナゾル液をスピンコートした。その後、200℃の熱風循環オーブンで30分間焼成し、透明なアモルファスAl膜を被膜した。
【0099】
次に、80℃の熱水中に30分間浸漬したのち、60℃で10分間乾燥させた。
【0100】
得られた膜表面のFE−SEM観察を行ったところ、図4に示すようなAlを主成分とする板状結晶がランダム状にかつ複雑に入り組んだ微細な凹凸組織が観測された。断面のFE−SEM観察を行ったところ、図5に示すようなAlを主成分とする板状結晶が選択的に基材の表面に対して平均角度75°の方向に配置されている像が観察された。
【0101】
次いで得られた膜についてエリプソメトリーを用い膜厚、屈折率測定を行った。各々の膜厚、屈折率を表3に示した。
【0102】
この基板について光学性能の耐久性検討の加速試験として60℃、湿度90%の高温高湿試験を行い開始時、250時間後、500時間後に透過率の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0103】
実施例2
ポリイミド溶液6の代わりにポリイミド溶液7を用い、ポリイミド2からなる有機樹脂層を形成した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0104】
実施例3
基板をS−LAH65(n550nm=1.80)に代えた以外は実施例2と同様の操作を行った。
【0105】
実施例4
ポリイミド溶液7の代わりにポリイミド溶液8を用い、ポリイミド3からなる有機樹脂層を形成した以外は実施例3と同様の操作を行った。
【0106】
実施例5
ポリイミド溶液7の代わりにポリイミド溶液9を用い、ポリイミド4からなる有機樹脂層を形成した以外は実施例3と同様の操作を行った。
【0107】
実施例6
洗浄したS−LAH65(n550nm=1.80)基板の片方の面にシランカップリング剤溶液16を適量滴下し、4000rpmで20秒間スピンコートを行った。80℃で10分間乾燥した後、もう一方の面にも同様にシランカップリング剤溶液16をスピンコートした。その後、80℃で10分間焼成した。この基板の片方の面にポリカーボネート溶液11を適量滴下し、3000rpmで20秒間スピンコートを行った。80℃で10分間予備乾燥を行った後、もう一方の面にも同様にポリカーボネート溶液11をスピンコートした。この基板を200℃の熱風循環オーブンで60分間焼成することで、ビスフェノールZポリカーボネートからなる有機樹脂層付き基板を作製した。熱硬化樹脂膜の膜厚、屈折率、吸水率を表2に示した。
【0108】
以下、実施例1と同様の方法で透明なアモルファスAl膜を被膜し、評価を行った。
【0109】
実施例7
ポリカーボネート溶液11の代わりに熱硬化樹脂溶液12を用い、熱硬化樹脂からなる有機樹脂層を形成した以外は実施例6と同様の操作を行った。
【0110】
実施例8
基板をS−LAH66(n550nm=1.77)に代えた以外は実施例4と同様の操作を行った。
【0111】
実施例9
ポリイミド溶液8の代わりにポリイミド溶液9を用い、ポリイミド4からなる有機樹脂層を形成した以外は実施例8と同様の操作を行った。
【0112】
実施例10
基板をS−LAH66(n550nm=1.77)に代えた以外は実施例6と同様の操作を行った。
【0113】
実施例11
基板をS−LAH66(n550nm=1.77)に代えた以外は実施例7と同様の操作を行った。
【0114】
実施例12
基板をS−TIH1(n550nm=1.71)に代え、ポリイミド溶液6の代わりにポリイミド溶液10を用い、ポリイミド5からなる有機樹脂層を形成した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0115】
実施例13
基板をS−TIH1(n550nm=1.71)に代えた以外は実施例6と同様の操作を行った。
【0116】
実施例14
洗浄したS−LAH65(n550nm=1.80)基板の片方の面にポリイミド溶液7を適量滴下し、3000rpmで20秒間スピンコートを行った。この基板を80℃で10分間予備乾燥した後、もう一方の面にも同様にポリイミド溶液7をスピンコートした。その後、200℃の熱風循環オーブンで30分間焼成することで、ポリイミド2が両面に付いた有機樹脂層付き基板を作製した。
【0117】
ポリイミド2膜付き基板の片方の面にアルミナゾル液15を適量滴下し、2700rpmで20秒間スピンコートを行った後、80℃で10分間予備乾燥した。もう一方の面にも同様にアルミナゾル液15をスピンコートした。その後、200℃の熱風循環オーブンで10分間焼成した。さらにアルミナゾル液15を同様の方法で両面に重ね塗りを行い、最後に200℃で30分間焼成を行い、透明なアモルファスAl膜を被膜した。
【0118】
次に、80℃の熱水中に30分間浸漬したのち、60℃で10分間乾燥させた。
以下、実施例1と同様の評価を行った。
【0119】
実施例15
ポリイミド溶液9の代わりにポリカーボネート溶液11を用い、ポリカーボネートからなる有機樹脂層を形成した以外は実施例14と同様の操作を行った。
【0120】
実施例16
ポリカーボネート溶液11の代わりにポリエーテルエーテルケトン溶液17を用い、ポリエーテルエーテルケトンからなる有機樹脂層を形成した以外は実施例6と同様の操作を行った。
【0121】
実施例17
ポリカーボネート溶液11の代わりにポリスルホン溶液18を用い、ポリスルホンからなる有機樹脂層を形成した以外は実施例6と同様の操作を行った。
【0122】
比較例1
洗浄したS−TIH53(n550nm=1.84)基板の片方の面にアルミナゾル液14を適量滴下し、4000rpmで20秒間スピンコートを行った後、80℃で10分間予備乾燥した。もう一方の面にも同様にアルミナゾル液をスピンコートした。その後、200℃の熱風循環オーブンで30分間焼成し、透明なアモルファスAl膜を被膜した。
【0123】
次に、80℃の熱水中に30分間浸漬したのち、60℃で10分間乾燥させた。
以下、実施例1と同様の評価を行った。
【0124】
比較例2
基板をS−LAH65(n550nm=1.80)に代えた以外は比較例1と同様の操作を行った。
【0125】
比較例3
洗浄したS−TIH53(n550nm=1.84)基板の片方の面にSiO−TiOゾル液13を適量滴下し、3000rpmで20秒間スピンコートを行った。この基板を80℃で10分間予備乾燥した後、もう一方の面にも同様にSiO−TiOゾル液13をスピンコートした。その後、200℃の熱風循環オーブンで60分間焼成することで、アモルファスSiO−TiO膜が両面に付いた基板を作製した。アモルファスSiO−TiO膜の膜厚、屈折率、吸水率を表2に示した。
【0126】
以下、アモルファスAl膜を被覆する以降実施例1と同様の方法で反射防止膜を形成し、評価を行った。
【0127】
比較例4
基板をS−LAH65(n550nm=1.80)に代えた以外は比較例3と同様の操作を行った。
【0128】
比較例5
ポリカーボネート溶液11の代わりにポリスチレン溶液19を用い、ポリスチレンからなる有機樹脂層を形成した以外は実施例6と同様の操作を行った。しかし、アモルファスAl膜を被覆した後に温水に浸漬したところ有機中間層から膜剥離が起こり、反射防止膜が得られなかった。
【0129】
【表2】

【0130】
(注)吸水率:23℃のイオン交換水中に24時間浸漬後
【0131】
【表3】

【0132】
(注)板状結晶の結晶層の屈折率は、傾斜屈折率部の始点と終点の値を示す。例えば、実施例1の1.42−1.0は屈折率が1.42から1.0まで連続的に減少していることを示す。
【0133】
〔性能評価〕
作製した光学膜について550nmでの透過率を比較すると、実施例1から17では高温高湿による加速耐久試験後でも高い透過率が維持された光学部材が得られた。一方、比較例5では膜剥離により、性能評価できる反射防止膜が得られなかった。比較例1および2は初期から透過率が低く、比較例3および4では加速耐久試験後の透過率が低下した。
【0134】
実施例18
図6は,本発明の実施例16の光学部材の正面図である。同図において,光学部材1は凹レンズであり、基板2に光学用部材3が設けられた構造となっている。
【0135】
図7は、実施例18の光学部材を図6中のA−A’断面で切断した断面を示すものである。光学面には有機樹脂を主成分とする膜、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶を配した層を形成し、最表面は凹凸形状となっている光学用部材3を形成したことにより、光学面での光の反射を低減している。
【0136】
本実施例では、凹レンズの場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、レンズは凸レンズでもメニスカスレンズでも構わない。
【0137】
実施例19
図8は、本発明の実施例19の光学部材の正面図である。同図において、光学部材1はプリズムであり、基体2に光学用部材3が設けられた構造となっている。
【0138】
図9は、実施例19の光学部材を図8中のA−A’断面で切断した断面を示すものである。光学面には有機樹脂を主成分とする膜、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶を配した層を形成し、最表面は凹凸形状となっている光学用部材3を形成したことにより、光学面での光の反射を低減している。
【0139】
本実施例では、プリズムの各光学面のなす角度が、90°、45°の場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、光学面がどんな角度で構成されたプリズムでも構わない。
【0140】
実施例20
図10は、本発明の実施例20の光学部材の正面図である。同図において、光学部材1はフライアイインテグレータであり、基板2に光学用部材3が設けられた構造となっている。
【0141】
図11は、実施例20の光学部材を図10中のA−A’断面で切断した断面を示すものである。光学面には有機樹脂を主成分とする膜、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶を配した層を形成し、最表面は凹凸形状となっている光学用部材3を形成したことにより、光学面での光の反射を低減している。
【0142】
実施例21
図12は、本発明の実施例21の光学部材の正面図である。同図において、光学部材1はfθレンズであり、基板2に光学用部材3が設けられた構造となっている。
【0143】
図13は、実施例21の光学部材を図12中のA−A’断面で切断した断面を示すものである。光学面には有機樹脂を主成分とする膜、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶を配した層を形成し、最表面は凹凸形状となっている光学用部材3を形成したことにより、光学面での光の反射を低減している。
【0144】
実施例22
本発明の実施例22として、本発明の光学部材を観察光学系に用いた例を示す。図14は、双眼鏡の一対の光学系のうち、一方の断面を示したものである。
【0145】
同図において、4は観察像を形成する対物レンズ、5は像を反転させるためのプリズム(展開して図示)、6は接眼レンズ、7は結像面、8は瞳面(評価面)である。図中3(凡例で示す)は本発明に関わる光学用透明部材である。有機樹脂を主成分とする膜、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶を配した層を形成し、最表面は凹凸形状となっていることにより、各光学面での光の反射を低減している。また、本実施例では、対物レンズの最も物体側の光学面9および接眼レンズの最も評価面側の光学面10には微細凹凸構造からなる光学用部材3を設けていない。これは、光学用部材3が使用中の接触などにより性能が劣化するので設けなかったが、これに限定されるものではなく、光学面9、10に光学用透明部材3を設けてもよい。
【0146】
実施例23
本発明の実施例23として、本発明の光学部材を撮像光学系に用いた例を示す。図15は、カメラなどの撮影レンズ(ここでは望遠レンズを示す)の断面を示したものである。
【0147】
同図において、7は結像面であるフィルム、またはCCD、CMOSなどの固体撮像素子(光電変換素子)、11は絞りである。図中3(凡例で示す)は本発明に関わる光学用部材である。有機樹脂を主成分とする膜、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶を配した層を形成し、最表面は凹凸形状となっていることにより、各光学面での光の反射を低減している。また、本実施例では、対物レンズの最も物体側の光学面9には微細凹凸構造からなる光学用部材3を設けていない。これは、光学用部材3が使用中の接触などにより性能が劣化するので設けなかったが、これに限定されるものではなく、光学面9に光学用部材3を設けてもよい。
【0148】
実施例24
本発明の実施例24として、本発明の光学部材を投影光学系(プロジェクター)に用いた例を示す。図16は、プロジェクター光学系の断面を示したものである。
【0149】
同図において、12は光源、13a、13bはフライアイインテグレータ、14は偏光変換素子、15はコンデンサーレンズ、16はミラー、17はフィールドレンズ、18a、18b、18c、18dはプリズム、19a、19b、19cは光変調素子。20は投影レンズである。図中3(凡例で示す)は本発明に関わる光学用透明部材である。有機樹脂を主成分とする膜、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶を配した層を形成し、最表面は凹凸形状となっていることにより各光学面での光の反射を低減している。
【0150】
また、本実施例の光学用部材3は、シリカやアルミナなど無機成分を主成分として構成されているので、耐熱性も高く、光源12に近く、高熱に曝させる13aの位置に用いても、性能劣化の心配がない。
【0151】
実施例25
本発明の実施例25として、本発明の光学部材を走査光学系(レーザービームプリンタ)に用いた例を示す。図17は、走査光学系の断面を示したものである。
【0152】
同図において、12は光源、21はコリメーターレンズ、11は開口絞り、22はシリンドリカルレンズ、23は光偏向器、24a、24bはfθレンズ、7は像面である。図中3(凡例で示す)は本発明に関わる光学用透明部材である。有機樹脂を主成分とする膜、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶を配した層を形成し、最表面は凹凸形状となっていることにより各光学面での光の反射を低減し、高品位な画像形成を実現している。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の光学用部材は、任意の屈折率を有する透明基材に対応でき、可視光に対して優れた反射防止効果を示すとともに、長期的な耐候性を有するので、ワープロ、コンピュータ、テレビ、プラズマディスプレイパネル等の各種ディスプレイ。液晶表示装置に用いる偏光板、各種光学硝材及び透明プラスチック類からなるサングラスレンズ、度付メガネレンズ、カメラ用ファインダーレンズ、プリズム、フライアイレンズ、トーリックレンズ、各種光学フィルター、センサーなどの光学部材。さらにはそれらを用いた撮影光学系、双眼鏡などの観察光学系、液晶プロジェクタなどに用いる投射光学系。レーザービームプリンターなどに用いる走査光学系等の各種光学レンズ。各種計器のカバー、自動車、電車等の窓ガラスなどの光学部材に利用することができる。
【符号の説明】
【0154】
1 光学部材
2 基板、基体
3 光学用部材
4 対物レンズ
5 プリズム
6 接眼レンズ
7 結像面
8 瞳面
9 最も物体側の光学面
10 最も評価面(瞳面もしくは結像面)側の光学面
11 絞り
12 光源
13 フライアイインテグレータ
14 偏光変換素子
15 コンデンサーレンズ
16 ミラー
17 フィールドレンズ
18 プリズム
19 光変調素子
20 投影レンズ
21 コリメーターレンズ
22 シリンドリカルレンズ
23 光偏向器
24 fθレンズ
25 基材
26 有機樹脂を主成分とする層
27 酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶層
28 基材
29 有機樹脂を主成分とする層
30 酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶層
31 凹凸形状
32 板状結晶の傾斜方向
32 基材表面の接線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に積層体が形成された光学用部材において、少なくとも一層が酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶から形成されている板状結晶層であり、前記基材と前記板状結晶層との間に少なくとも一層の有機樹脂を主成分とする層を含み、かつ前記有機樹脂が主鎖中に芳香環または/およびイミド環を有することを特徴とする光学用部材。
【請求項2】
前記板状結晶は、アルミニウムの水酸化物、またはアルミニウム酸化物の水和物を主成分とする結晶であることを特徴とする請求項1記載の光学用部材。
【請求項3】
前記有機樹脂の吸水率が0.05%以上2%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の光学用部材。
【請求項4】
前記有機樹脂が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の光学用部材。
【請求項5】
前記有機樹脂の少なくとも一部に
(−SiR−O−)
の繰り返し単位を有する、
ただし、Rはメチル基またはフェニル基であり、mは1以上6以下の整数であることを特徴とする請求項4記載の光学用部材。
【請求項6】
前記有機樹脂は、ポリイミドであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の光学用部材。
【請求項7】
前記ポリイミドは、下記化学式で表わされる構造を有することを特徴とする請求項6記載の光学用部材。
【化1】

【請求項8】
前記ポリイミドは、芳香環を含むことを特徴とする請求項6または7記載の光学用部材。
【請求項9】
前記ポリイミドは、脂環構造を含むことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項記載の光学用部材。
【請求項10】
前記有機樹脂を主成分とする層の厚みが10nm以上150nm以下であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の光学用部材。
【請求項11】
前記基材がガラスであることを特徴とする請求項1乃至10いずれか1項記載の光学用部材。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項記載の光学用部材を有する、観察光学系、撮影光学系、投影光学系、走査光学系の中から選ばれる1であることを特徴とする光学系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−81406(P2011−81406A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264125(P2010−264125)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【分割の表示】特願2008−33290(P2008−33290)の分割
【原出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】