説明

光学異方性高分子成形体の製造方法

【課題】 高い生産性で光学異方性高分子成形体を得ることのできる光学異方性高分子成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 光学異方性高分子成形体の製造方法は、上側基板と、当該上側基板の下面よりも大きな上面を有する下側基板とを、上側基板の下面と下側基板の上面とが互いに対向し、その間に液晶性を有する単量体を含有する単量体材料が介在した状態となるよう重ね合わせ、この上側基板と下側基板とを接近させることにより単量体材料を展延する工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、CCD素子(電荷結合素子)、MOS素子(金属−酸化物−半導体素子)などよりなる撮像素子を始めとする光像処理装置に好適に用いられる光学異方性高分子成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、CCD素子やMOS素子などよりなる撮像素子を用いた撮像光学系においては、被写体光の高空間周波数成分を制限し、擬似信号の発生に伴う被写体による光とは異なる色光成分を除去するために、光学的ローパスフィルターを用いることが必要とされる。 このような光学的ローパスフィルターとしては、複屈折物質中における常光線と異常光線との分離による光学的ローパス特性を利用した、例えば水晶などによる複屈折型のものが多く使用されている。
【0003】
しかしながら、水晶板による光学的ローパスフィルターを得るためには、水晶の単結晶を合成し、これに切削加工、研磨加工などの後加工を施すことが必要であり、これらの作業にはそれぞれ多大な時間と労力が必要である。しかも、水晶板は、屈折率の異方性がおよそ9×10-3と小さいものであるので、所定の空間遮断周波数を有するものとするためには、水晶板の厚さを1〜2mmと相当に大きくすることが必要となり、その結果、光学的ローパスフィルターの小型化および軽量化を図ることは困難である。
【0004】
また、屈折率の異方性が大きい材料としては、方解石、ルチルなどが知られているが、これらは水晶と同様に無機材料であるため、単結晶の合成、後加工などに多大の時間と労力を要する問題がある。
【0005】
一方、有機材料、特に高分子材料を用いると、これに延伸処理を行うことによって複屈折性を有するフィルムを得ることができる。しかしながら、光学的に均一なフィルムが得られる延伸条件下では、水晶以上に高い複屈折性を有するものを得ることが困難であり、また、配向角を自由に設定することができず、実際上ほぼ0度に固定される、という問題点がある。
【0006】
而して、液晶性を有する重合性単量体(以下、「液晶性単量体」ともいう。)を用い、当該液晶性単量体の液晶分子を配向させた状態で重合させて硬化させることによって得られる複屈折性を有する重合体フィルムよりなる高分子製光学的ローパスフィルターが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
従来、このような高分子製光学的ローパスフィルターなどの光学異方性高分子成形体は、互いに対向するよう平行に配置された2枚の平板状の基板に対してその外周面にわたってシール用テープを共通に貼り付けることによってその内部に成型用空間が形成された構成のキャスト用セル内に、例えば光重合性を有する液晶性単量体を含む組成物(以下、「液晶組成物」ともいう。)を注入し、この成型用空間に液晶組成物が充填された状態のキャスト用セルに対して、例えば平行磁場を作用させることによって配向処理を施し、更に、例えば紫外線放射ランプよりの紫外線を照射することによって光重合処理を施し、その後、シール用テープを剥離させて2枚の基板間に成形された高分子成形体をキャスト用セルから取り出す手法によって製造されている。
【0008】
しかしながら、このような製法方法においては、特に、厚みの小さい光学異方性高分子成形体を得ようとする場合には、2枚の基板間の離間距離の小さいキャスト用セルを用意し、そのキャスト用セルにおける密閉された成型用空間内に液晶組成物を注入する必要があるため、その工程に多大な時間を要することから、高い生産性が得られない、という問題がある。
また、キャスト用セルを構成する基板は、通常、一の成形操作終了後に洗浄することによって再利用されているが、基板の外周面におけるテープ貼り付け領域にはシール用テープの粘着剤が汚れとして付着しており、このテープ貼り付け領域に付着した粘着剤は、通常の超音波洗浄機による洗浄処理によっては除去することが困難であり、人手によって削ぎ落とす必要があるため、高い生産性が得られない、という問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開2003−195049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであって、その目的は、高い生産性で光学異方性高分子成形体を得ることのできる光学異方性高分子成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光学異方性高分子成形体の製造方法は、上側基板と、当該上側基板の下面よりも大きな上面を有する下側基板とを、上側基板の下面と下側基板の上面とが互いに対向し、その間に液晶性を有する単量体を含有する単量体材料が介在した状態となるよう重ね合わせ、この上側基板と下側基板とを接近させることにより単量体材料を展延する工程を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の光学異方性高分子成形体の製造方法においては、上側基板と下側基板との間に、その下面から下垂した状態に単量体材料を保持した上側基板と、その上面に単量体材料を保持した下側基板とを重ね合わせることによって当該上側基板に保持されていた単量体材料および当該下側基板に保持されていた単量体材料よりなる単量体材料層が形成されることが好ましい。
【0013】
本発明の光学異方性高分子成形体の製造方法においては、上側基板と、下側基板とを、当該上側基板の下面が、当該下側基板の上面の占有する領域と同等の面積の領域内に位置し、かつ上側基板の下面における周縁部と下側基板の上面における周縁部との下側基板の上面の延びる方向におけるギャップが0.1〜10.0mmとなるよう重ね合わせることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光学異方性高分子成形体の製造方法によれば、上側基板と、当該上側基板より大きな表面を有する下側基板との間において、当該上側基板と下側基板とを接近させることによって単量体材料を展延し、これにより、所望の厚みの単量体材料よりなる薄層が形成されることから、2枚の基板間に予め密閉状態の成型用空間を形成しておく必要がなく、対向配置する前の上側基板および下側基板の少なくとも一方の一面に単量体材料を供給することができるため、厚みの小さい光学異方性高分子成形体をも多大な時間を要することなく形成することができ、また、上側基板および下側基板の各々に、成型用空間を形成するためのシール用テープを貼り付けることに起因する除去しにくい汚れが付着することがないため、成形操作完了後の基板の洗浄処理を容易に行うことができ、しかも、単量体材料を展延する過程において、上側基板と下側基板との間の間隙から単量体材料が漏出してしまうが、この漏出した単量体材料が下側基板の上面における上側基板の下面と対向していない領域において受容されることから、当該漏出した単量体材料が下側基板の側面に付着することおよびその周辺部を汚損することを防止することができるため、上側基板と下側基板との間の間隙から単量体材料が漏出することに起因する弊害を伴うことなく、高い生産性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の光学異方性高分子成形体の製造方法は、複屈折性を有すると共に特定の透明性を有し、この点において、特定の光学特性を有する高分子成形体を製造するための方法であって、上側基板と、当該上側基板の下面よりも大きな上面を有する下側基板とを、上側基板の下面と下側基板の上面とが互いに対向し、その間に液晶性を有する単量体を含有する単量体材料(以下、単に「単量体材料」ともいう。)が介在した状態となるよう重ね合わせ、この上側基板と下側基板とを接近させることにより、当該単量体材料を展延する工程(以下、「単量体材料展延工程」ともいう。)を有することを特徴とする。
ここに、「成形体」とは、高分子物質によって形成された具体的な形状、例えばフィルム状、シート状、板状などの形態を有するものである。
【0016】
以下、具体的に、単量体材料として、室温において液晶相を示す単量体よりなる液晶性単量体成分と、この液晶性単量体成分の単量体と共重合する多官能性単量体よりなる架橋性単量体成分とが含有されてなる光重合性液晶組成物を用いることにより光学異方性高分子成形体を製造する方法について説明する。
ここに、光重合性液晶組成物の液晶性単量体成分を構成する単量体としては、例えば単官能アクリレート化合物または単官能メタクリレート化合物であって、室温において液晶相を示すものが好ましく用いられる。
また、架橋性単量体成分を構成する単量体としては、例えば分子中に3つ以上のベンゼン核を有する多官能アクリレート化合物および多官能メタクリレート化合物が好ましく用いられる。
【0017】
先ず、表面の大きさの異なる、例えば平板状の透明なガラスよりなる2枚の基板を用意し、縦および横の寸法が共に小さくて表面積の小さな基板を上側基板とし、一方、縦および横の寸法が共に大きくて表面積の大きな基板を下側基板とする。
上側基板と下側基板との大きさは、後述するような上側基板と下側基板との重ね合わせ状態を得るめに、上側基板と下側基板との縦方向および横方向の長さの差が、共に0.2〜20mmであることが好ましい。
これらの上側基板および下側基板は、その表面に付着されている汚れや油分などを除去するために、例えば超音波洗浄機などを用いて洗浄処理することが好ましい。
【0018】
ここに、上側基板および下側基板を構成する材料としては、有機材料または無機材料を用いることができる。
有機材料の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロフルオロエチレン、ポリアリレート、ポリスルホン、セルロース、ポリエーテルケトンなどを挙げることができる。また、無機材料の具体例としては、シリコン、ガラス、サファイア、水晶、溶融石英などを挙げることができる。
【0019】
次いで、図1に示すように、下側基板11の一面11Aに、スペーサーとして、例えば、各々、下側基板11の縦方向(図1において上下方向)に伸びる縁部12A、12Bの各々に沿って伸びるよう、2本の線状体19A、19Bを平行に配置する。
この2本の線状体19A、19Bの離間距離は、上側基板15(図3参照)の横方向(図3において左右方向)の長さよりも小さいことが必要とされる。
【0020】
ここに、スペーサーとしての線状体19A、19Bとしては、弾性を有し、応力が加わることによって容易に変形する合成樹脂製のものが好適に用いられる。
線状体19A、19Bとして、合成樹脂製のものを用いた場合には、後述する単量体材料展延工程において上側基板15および下側基板11の間に形成された単量体材料薄層21を構成する単量体成分を重合させる工程(以下、「重合工程」ともいう。)において、この単量体成分が重合することによって当該上側基板15および下側基板11の間に形成される成形体層が単量体材料薄層21の厚みよりもその厚みが小さいものとなることに伴って線状体19A、19Bが変形し、上側基板15と下側基板11との間の間隙の下側基板11の厚み方向における大きさが小さくなるため、最終的に得られる光学異方性高分子成形体に問題が生じることがないが、例えば剛性の大きな金属製のものを用いた場合には、重合工程において、成形体層と上側基板15あるいは下側基板11との界面に剥離が生じてしまうことから、最終的に得られる光学異方性高分子成形体に不良が生じ、所望の特性が得られなくなるおそれがある。
線状体19A、19Bの好ましい具体例としては、合成樹脂製モノフィラメントが挙げられ、この合成樹脂製モノフィラメントの具体例としては、例えばポリフッ化ビニリデン製の釣り糸「シ−ガー」(呉羽化学工業社製)、ナイロン製の釣り糸「銀鱗」(東レ社製)などが挙げられる。
また、線状体19A、19Bとしては、形成すべき光学異方性高分子成形体の厚みの大きさに対応した外径を有するものが適宜用いられ、例えば外径20〜500μmのものが用いられる。
【0021】
次いで、図2(イ)に示すように、下側基板11の一面11Aにおける、2本の線状体19A、19Bの間に形成された領域内の一箇所に単量体材料M1を滴下することによって供給すると共に、図2(ロ)に示すように、上側基板15の一面15Aにおける、下側基板11の一面11Aの単量体材料M1が供給された領域に対応する領域内の一箇所(図3参照)に単量体材料M2を滴下することによって供給する。この上側基板15に対する単量体材料の滴下量は、下側基板11に対する供給量に比して少量であることが好ましい。
上側基板15に対する単量体材料の供給量が下側基板11に対する単量体材料の供給量に比して多量である場合には、後述するように上側基板15を反転させる際に、単量体材料M2が流動しやすくなることから当該上側基板15における一面15Aの縁部から単量体材料M2の一部が滴り落ちてしまうおそれがある。
【0022】
ここに、上側基板15および下側基板11に対して単量体材料を供給するための装置としては、例えばディスペンサーなどを用いることができる。
ディスペンサーを用いることによって滴下により単量体材料を供給する場合には、その滴下量を高い精度で制御する目的から、ディスペンサーに係る空気加圧圧力を一定に保持した状態で滴下を行うと共に、滴下時における単量体材料の粘度を一定とする必要がある。滴下時における単量体材料の粘度を一定とするためには、滴下に供する単量体材料の温度を設定温度に対して±2℃程度の範囲内に維持した状態で滴下を行うことが必要がある。
【0023】
そして、図3および図4に示すように、上側基板15を反転させることによって当該上側基板15を、その一面(すなわち下面)15Aから下垂した状態に単量体材料M2を保持している状態とし、更に下側基板11の単量体材料M1を保持している状態の一面(すなわち上面)11Aの直上に配置する。そして、図5に示すように、この上側基板15と下側基板11とを、上側基板15の下面15Aと下側基板11の上面11Aとが、上側基板15に保持されていた単量体材料M2と下側基板11に保持されていた単量体材料M1とが先ずは一点で接触して混合されることによって形成された単量体材料層21Aを介して互いに対向するよう重ね合わせ、最終的には、図6に示すように、下側基板11の上面11Aに配置された線状体19A、19Bに上側基板15の下面15Aが当接するよう接近させることにより、この上側基板15と下側基板11との間において単量体材料層21Aが展延され、これにより、図6に示すような均一な厚みを有する単量体材料の薄層(以下、「単量体材料薄層」ともいう。)21が形成される。
【0024】
ここに、上側基板15および下側基板11は、当該上側基板15の下面15Aが、当該下側基板11の上面11Aの占有する領域と同等の面積の領域内に位置し、かつ、上側基板15の下面15Aにおける周縁部と、下側基板の上面における周縁部との下側基板11の上面11Aの延びる方向(以下、「特定面方向」ともいう。)におけるギャップ(以下、「周縁部ギャップ」ともう。)が0.1〜10mm、特に0.5〜2mmとなる状態に重ね合わせられることが好ましい。
この図の例において、周縁部ギャップとは、下側基板11の縁部12Aと上側基板15の縁部16Aとの特定面方向におけるギャップG1、下側基板11の縁部12Bと上側基板15の縁部16Bとの特定面方向におけるギャップG2、下側基板11の縁部12Cと上側基板15の縁部16Cとの特定面方向におけるギャップG3および下側基板11の縁部12Dと上側基板15の縁部16Dとの特定面方向におけるギャップG4を示す。
【0025】
このような単量体材料展延工程は、例えば図7に示すような構成を有する装置を用いてて行うことができる。
この装置30は、その下方(図7において下方)に加熱機能および冷却機能を有する温度制御機構を備えた、下側基板11を載置するための下側基板支持台31と、吸着作用によって上側基板15を支持する支持部材34を備え、上側基板15を支持した状態で180度回転することによって反転し、下側基板支持台31の直上における適宜の位置に移動する回転移動機構を有する上側基板支持台33と、パルスモーター駆動方式によって下側基板支持台31を上下方向(図7における上下方向)に移動させるための下側基板支持台移動機構36とを備えてなるものである。
図7において、38は、下側基板支持台31に載置された下側基板11の温度を検知するための熱電対よりなる温度センサである。
【0026】
この装置30によれば、下側基板支持台31上に、単量体材料M1が供給された下側基板11を、単量体材料M1が供給された一面11Aを上方にした状態で載置すると共に、上側基板支持台33上に、単量体材料M2が供給された上側基板15を、単量体材料M2が供給された一面15Aを上方にした状態で載置し、その後、先ず、当該上側基板支持台33を回転移動機構によって反転させると共に下側基板支持台31の直上に移動させた後、適宜の位置まで下降させ、次いで、下側基板支持台移動機構36によって下側基板支持台31を上昇させることにより、上側基板15と下側基板11とを単量体材料層21Aを介して所期の状態に重ね合わせ、更に、単量体材料層21Aを展延して所期の厚みの単量体材料薄層21を形成するものである。
図7には、回転移動機構によって反転されて下降された状態の上側基板支持台31を一点鎖線によって示す。
【0027】
そして、上側基板15および下側基板11の間に形成された単量体材料薄層21に対しては、配向処理が行われる。
具体的には、図8に示すように、上側基板15および下側基板11に挟持された状態の単量体材料薄層21が磁力線の方向と特定の角度θをなす方向に伸びる状態となるよう平行磁場を作用させることにより、液晶性単量体成分の液晶分子Cを磁力線の方向と直角な方向に配向させる。
【0028】
この配向処理においては、単量体材料薄層21に作用される平行磁場の強度は3テスラ以上とされることが好ましく、特に5テスラ以上であることが好ましい。このような高い強度の平行磁場は、例えば超伝導磁石を用いた平行磁場処理装置によって形成することができる。平行磁場の強度の上限は特に規定されるものではないが、実際上、20テスラ以下が好ましく、より好ましくは15テスラ以下である。
【0029】
また、この配向処理においては、単量体材料薄層21の温度を、光重合性液晶組成物の液晶性単量体成分が等方性を示す状態となる温度(以下、「等方状態温度」ともいう。)、例えば60〜100℃程度にまで一旦上昇させ、その後、この液晶性単量体成分が液晶性を示す状態に維持される温度である室温(例えば25℃)にまで降温し、更に室温に維持することが必要である。
ここに、等方状態温度とは、光重合性液晶組成物を等方相状態とする温度以上であって、かつ、加熱することによる弊害、具体的には熱重合等の発生などを伴うことなく、所望の特性を有する光学異方性高分子成形体を得ることができる温度を示す。
【0030】
平行磁場の磁力線の方向に対する角度θの大きさは、得られる光学異方性高分子成形体の用途によって適宜設定することができるが、45度またはその近傍であることが好ましい。
【0031】
配向処理のために単量体材料薄層21に平行磁場が作用される時間は、液晶性単量体成分の液晶分子Cが十分に配向された状態が得られるのであれば、特に限定されるものではないが、例えば30秒〜10分間である。
【0032】
このようにして配向処理がなされた単量体材料薄層21に対して、例えば紫外線放射ランプよりの紫外線を、上側基板15または下側基板11を介して照射することにより、光重合性液晶組成物の光重合処理が行われ、この上側基板15および下側基板11の間には、単量体材料薄層21を構成する単量体成分が重合されてなる成形体層が形成される。
【0033】
この光重合処理における条件は、特に限定されるものではないが、照射される紫外線の強度は例えば10〜30mW/cm2 とされ、照射時間は例えば20〜360秒間とされる。
また、光重合反応時における単量体材料薄層21の温度は、用いられる光重合性液晶組成物の液晶状態が保持される範囲の温度とする必要があるが、できるだけ室温に近い温度を選択することが好ましい。
【0034】
そして、光重合処理が終了した後に上側基板15および下側基板11を取り外すことにより、光学異方性高分子成形体が得られ、この光学異方性高分子成形体を、例えば30mm、横20mmの大きさ、あるいは縦5mm、横5mmの大きさなどの用途に応じた寸法に断裁することにより、所望の形状を有する光学異方性高分子成形体が得られる。
【0035】
以上のような光学異方性高分子成形体の製造方法によれば、上側基板15と、当該上側基板15の下面15Aより大面積の上面11Aを有する下側基板11との間において、上側基板15および下側基板11の各々に対して供給された単量体材料M1および単量体材料M2よりなる単量体材料層21Aを形成し、この単量体材料層21Aを上側基板15と下側基板11とを接近させることによって展延し、これにより、所望の厚みの単量体材料薄層21が形成されることから、従来の製造方法のように、2枚の基板をその外周面にわたってシール用テープを共通に貼り付けることによって形成すべき光学異方性高分子成形体の厚みに対応した大きさの間隙よりなる密閉された状態の成型用空間を予め形成する必要がない。従って、対向配置する前の上側基板15の一面15Aおよび下側基板11の一面11Aの各々に対して滴下によって単量体材料を供給することができるため、厚みの小さい光学異方性高分子成形体をも多大な時間を要することなく形成することができ、また、上側基板15および下側基板11の各々に、シール用テープを貼り付けることに起因する、例えばシール用テープの粘着剤などの除去しにくい汚れが付着することがないため、一の成形操作完了後に、当該上側基板15および下側基板11を再利用するための洗浄処理を容易に行うことができ、しかも、単量体材料層21Aを展延する過程において、上側基板15と下側基板11との間の間隙から単量体材料が漏出してしまうが、図6に示したように、この漏出した単量体材料が下側基板11の上面11Aにおける上側基板15の下面15Aと対向していない領域に受容されることから、当該漏出した単量体材料が下側基板11の側面に付着すること、およびその周辺部を汚損することを防止することができるため、例えば漏出した単量体材料が異物となって配向処理および光重合処理に悪影響を及ぼすことなどの上側基板15と下側基板11との間の間隙から単量体材料が漏出することに起因する弊害を伴うことなく、高い生産性を得ることができる。
【0036】
また、単量体材料展延工程においては、上側基板15に下垂した状態に保持されている単量体材料M2と、下側基板11に保持されている単量体材料M1とが一点で接触し、この点状の接触面が次第に周囲に広がることによって単量体材料層21Aが形成されるため、当該単量体料層21A内に気泡が巻き込まれることがなく、また、単量体材料層21Aが、先ずは円形状に展延され、その端部が線状体19A、19Bの各々の中央部に接触した後には、線状体19A、19Bに沿って4つの角を有する長方形状に展延されるため、最終的には略矩形状のその内部に気泡が含まれていない均一な厚みを有する光学異方性高分子成形体が得られることから、矩形状であって、優れた特性を有する光学異方性高分子成形体を高い生産効率で得ることができる。
【0037】
以上、本発明について具体的な一例を挙げてに説明したが、本発明は以上の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、上側基板15の一面15Aに対する単量体材料の供給は、滴下された単量体材料が当該上側基板15の一面15Aにおいて、略円形状を描くように滴下することに限定されず、図9に示すように、2本の直線が互いに中央部において交差したX字形状を描くように、例えばディスペンサーによって供給することもできる。
この場合においては、供給された単量体材料M3に係る2本の直線が交差している部分(以下、「交差部分」ともいう。)Nが他の部分に比して突出して凸状となるため、図10に示すように、この交差部分Nが下側基板11の一面11Aにおける単量体材料M1が供給された領域に対応した適宜の箇所に位置するよう単量体材料M3を供給することにより、図2(ロ)に示したように一箇所に略円形状を描くように供給された単量体材料M2場合と同様に、単量体材料M3を単量体材料M1と一点において接触させて混合させることができる。そして、上側基板15の一面15Aに対してX字形状に単量体材料M3を供給することにより、この単量体材料M3と単量体材料M1とよりなる単量体材料層を効率的に矩形状に展延することができるという利点が得られる。
【0038】
以下、本発明の作用効果を明らかにするために行った実験例を以下に示す。
【0039】
〔実験例1〕
厚み3mmのフロートガラスを、縦80mm、横80mmの大きさに切断し、その4つの角部を半径10mmで丸めたガラス基板(以下、「大面積ガラス基板」ともいう。)を10枚用意すると共に、厚み3mmのフロートガラスを、縦78mm、横78mmの大きさに切断し、その4つの角部を半径10mmで丸めたガラス基板(以下、「小面積ガラス基板」ともいう。)を10枚用意し、これらの大面積ガラス基板および小面積ガラス基板の各々を、超音波洗浄機を用いて洗浄処理することにより、表面に付着していた汚れや油分を除去した。
また、外径136μmの合成樹脂製モノフィラメント(釣り糸「シーガー6号」、呉羽化学社製)を120mmの長さに切断し、得られた線状体の両端の各々に重さ20gの錘を取り付けたもの(以下、「スペーサー用線状体」ともいう。)を、大面積ガラス基板1枚に対して2本用意した。
また、展延対象材料として、25℃における粘度が180cps、70℃における粘度が30cpsである単量体(以下、「被展延材料」ともいう。)を用意した。
【0040】
大面積ガラス基板を、縦70mm、横70mm、高さ50mmの台の上に載置し、この大面積ガラス基板の一面に、当該大面積ガラス基板の縦方向に伸びる縁部の各々から5mmの位置に、これらの縁部に沿って2本のスペーサー用線状体を平行に配置(図1参照)した後、この2本のスペーサー用線状体の間に形成された領域内の中央部の一箇所に、モノマー温度調節機能付ディスペンサー「ML−50000X」(武蔵エンジニアリング社製)を用い、このディスペンサーに備えられている容積20mlのシリンジ内に被展延材料15mlを充填してシリンジ温度を40℃として加温した後、空気加圧圧力0.083MPa、滴下時間40秒間の条件で被展延材料を略円形状に0.98g滴下した。
一方、小面積ガラス基板の一面の中央部の一箇所に、モノマー温度調節機能付ディスペンサー「ML−50000X」(武蔵エンジニアリング社製)を用い、このディスペンサーに備えられている容積20mlのシリンジ内に被展延材料15mlを充填してシリンジ温度を40℃として加温した後、空気加圧圧力0.083MPa、滴下時間2秒間の条件で被展延材料0.05gを略円形状に滴下した。
【0041】
スペーサー用線状体が配置されると共に、被展延材料が滴下された大面積ガラス基板を、当該被展延材料が滴下された一面を上方とした状態で、図6に示した構成を有する装置の下側基板支持台上に載置し、また、被展延材料が滴下された小面積ガラス基板を、当該被展延材料が滴下された一面を上方にした状態で上側基板支持台上に載置し、その後、先ず、当該上側基板支持台を回転移動機構によって反転させると共に下側基板支持台の直上における周縁部ギャップが1mmとなり、大面積ガラス基板と小面積ガラス基板との離間距離が3mmとなる位置に移動させた。
次いで、下側基板支持台移動機構によって下側基板支持台を、上昇速度0.04mm/sの条件で上昇させ、大面積ガラス基板と小面積ガラス基板との様子を観察したところ、下方基板支持台が上昇を開始してから40秒間が経過した時点で上側基板に係る被展延材料と下側基板に係る被展延材料とが一点で接触して混合されることにより被展延材料層が形成され、その被展延材料層が円形状に展延され、更に、60秒間が経過した時点で円形状に展延された被展延材料層の端部が2本のスペーサー用線状体の各々の中央部に接触し、その後、ペーサー用線状体に沿って4つの角を有する長方形状に展延された。
そして、スペーサー用線状体と小面積ガラス基板とが当接した時点で下側基板支持台の移動を停止した。
【0042】
以上の展延操作を、用意した各々10枚の大面積ガラス基板および小面積ガラス基板を用いて10回行い、各展延操作後に、各大面積ガラス基板および小面積ガラス基板によって展延されることによって形成された被展延材料の薄層(以下、「被展延材料薄層」ともいう。)の様子を観察したところ、そのすべてにおいて、大面積ガラス基板と小面積ガラス基板との間に介在されている状態の被展延材料薄層中には、気泡が含まれておらず、また、大面積ガラス基板上の小面積ガラス基板と対向していない領域には、当該大面積ガラス基板および小面積ガラス基板の間の間隙から被展延材料が漏出してはいたが、この漏出された被展延材料が大面積ガラス基板の側面や下側基板支持台上の大面積ガラス基板の周辺には漏れ出てはいなかった。
【0043】
〔比較実験例1〕
実験例1において、大きさの異なる2種のガラス基板に代えて、厚み3mmのフロートガラスを、縦80mm、横80mmの大きさに切断し、その4つの角部を半径10mmで丸めた大面積ガラス基板のみを10枚用意し、小面積ガラス基板に代えて大面積ガラス基板を用いたこと、すなわち、2枚の大面積ガラス基板を用いたこと以外は実験例1と同様にして展延操作を行った。
【0044】
以上の展延操作を、用意した大面積ガラス基板を用いて5回行い、各展延操作後に、2枚の大面積ガラス基板によって展延されることによって形成された被展延材料薄層の様子を観察したところ、そのすべてにおいて、2枚の大面積ガラス基板の間に介在されている状態の被展延材料薄層中には気泡が含まれてはいなかったが、当該2枚の大面積ガラス基板の間の間隙から被展延材料が漏出しており、この漏出した被展延材料によって大面積ガラス基板の側面や下側基板支持台上の大面積ガラス基板の周辺が汚損されていた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の光学異方性高分子成形体の製造方法に用いられる下側基板の構成の一例を示す説明図である。
【図2】(イ)は、本発明の光学異方性高分子成形体の製造方法において、下側基板の一面に単量体材料が供給された状態を示す説明図であり、(ロ)は、本発明の光学異方性高分子成形体の製造方法において、上側基板の一面に単量体材料が供給された状態を示す説明図である。
【図3】上側基板と下側基板とを対向配置した状態を示す説明図である。
【図4】図3におけるA−A線断面図である。
【図5】上側基板の下面と下側基板の上面との間に単量体材料層が形成された状態を示す説明図である。
【図6】上側基板の下面と下側基板の上面との間に単量体材料薄層が形成された状態を示す説明図である。
【図7】本発明の光学異方性高分子成形体の製造方法に用いられる装置の構成の一例を示す説明図である。
【図8】光重合性液晶組成物における液晶化合物の液晶分子の配向処理についての説明図である。
【図9】本発明の光学異方性高分子成形体の製造方法において、上側基板の一面に単量体材料が供給された他の状態を示す説明図である。
【図10】図9の上側基板と図2(イ)の下側基板とを対向配置した状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
11 下側基板
11A 一面(上面)
12A、12B、12C、12D 縁部
15 上側基板
15A 一面(下面)
16A、16B、16C、16D 縁部
19A、19B 線状体
21 単量体材料薄層
21A 単量体材料層
30 装置
31 下側基板支持台
33 上側基板支持台
34 支持部材
36 下側基板支持台移動機構
38 温度センサ
M1、M2、M3 単量体材料
N 交差部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側基板と、当該上側基板の下面よりも大きな上面を有する下側基板とを、上側基板の下面と下側基板の上面とが互いに対向し、その間に液晶性を有する単量体を含有する単量体材料が介在した状態となるよう重ね合わせ、この上側基板と下側基板とを接近させることにより単量体材料を展延する工程を有することを特徴とする光学異方性高分子成形体の製造方法。
【請求項2】
上側基板と下側基板との間に、その下面から下垂した状態に単量体材料を保持した上側基板と、その上面に単量体材料を保持した下側基板とを重ね合わせることによって当該上側基板に保持されていた単量体材料および当該下側基板に保持されていた単量体材料よりなる単量体材料層が形成されることを特徴とする請求項1に記載の光学異方性高分子成形体の製造方法。
【請求項3】
上側基板と、下側基板とを、当該上側基板の下面が、当該下側基板の上面の占有する領域と同等の面積の領域内に位置し、かつ上側基板の下面における周縁部と下側基板の上面における周縁部との下側基板の上面の延びる方向におけるギャップが0.1〜10.0mmとなるよう重ね合わせることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学異方性高分子成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−301183(P2006−301183A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121067(P2005−121067)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】