説明

光学的に透明なナノ粒子を分散した複合材料

光学的に透明な固溶体の無機ナノ粒子がそれに対して不活性なホストマトリックス中に分散した複合材料であって、前記ナノ粒子が1以上の活性イオンで約60モル%までの量でドープされ、前記ナノ粒子が約1〜約100nmの分散粒子径を有する粒子からなり、前記ナノ粒子を分散した前記複合材料が前記活性イオンの励起、蛍光または発光の起こる波長で光学的に透明である、複合材料である。前記複合材料を用いた発光装置もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本発明は、1以上の活性イオンでドープされた光学的に透明な固溶体の無機ナノ粒子が分散された複合材料に関する。本発明はまた、前記複合材料が組み込まれた発光装置に関する。
【0002】
ハロゲン化物塩は、無数のフォトニック応用のための材料として世界的に注目されている。これは、前記イオン種が、一般に酸化物系化合物に比べて、より大きい原子量およびより弱い結合を示すという化学に起因する。これは、本質的に、非常に強化された理論的な透明度をもたらし、したがって、長距離通信のための超低損失ハロゲン化物(おもにフッ化物)光ファイバーを探索している通信会社から非常に関心を持たれている。ハロゲン化物が発光イオン(例えば希土類)でドープされると、相対的に重い原子との間の弱い結合によって、さらにホストのドーパントへの影響が低減され、それによって放射発光がおこる。したがって、ハロゲン化物は低フォノンエネルギーであり、それによって様々な応用を可能にしているといえる。該当する例として、1.3μm帯における光増幅器、近紫外、可視、および近赤外のスペクトルにわたる実質的にすべての発光を提供するアップコンバージョン光源、カラーディスプレイ材料(フラットパネル発光体およびボリュメトリックモノリス)、ならびに赤外イメージング、大気のセンシング、および軍事的な対策のための長波長光源がある。 合わせると、これらのいくつかの応用は、年間数兆ドルの取引になる。
【0003】
残念ながらほとんどの場合、従来の加工方法では、有望な、不純物をほとんど含まない材料特性を有するファイバーなどの光学部品をはるかに安価に製造することができなかった。したがって、希土類がドープされたハロゲン化物の増幅器は、ごく少数の会社でごく小さなスケールで販売されている。比較的小さいスケールのハロゲン化物材料を用いる応用のみが、一般にハロゲン化物の低フォノンエネルギーである性質と、そのことによる発光特性をもとに、現在探索されている。
【0004】
特に、従来の加工方法では、金属ハロゲン化物塩中に有効な濃度の希土類元素イオンを導入することができなかった。Jones et al.J.Crystal Growth,2,361−368(1968)には、溶融体から成長したLaF結晶中の希土類イオンの濃度は、サマリウム(Sm)での25モル%からイッテルビウム(Yb)での1モル%未満の範囲の値に限られることが開示されている。セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)およびネオジウム(Nd)のみが、LaFに完全に溶解することが開示されている。
【0005】
Kudryavtseva et al.,Sov.Phys.Crystallogr.,18(4),531(1974)には、溶融成長した結晶が水中でクエンチされると高い溶解度が得られうることが開示されている。LaF中の溶解度は、Smでの65モル%からルテチウム(Lu)での5モル%の範囲に改善されたことが開示されている。
【0006】
いずれの従来技術の文献にも希土類元素がドープされた金属ハロゲン化物塩のナノ粒子の直接的な調製は開示されていない。テルビウム(Tb)からLuまでの希土類元素のドーパントのレベルが改善された材料と同時に、このような粒子が直接調製されうる方法が必要とされている。
【0007】
さらに、光学的透明性が要求される場合に有効な光学的機能を得るためには、光がほとんど減衰せずに十分な距離を伝播できなければならない。光の減衰は光学損失の指標であり、単位長さあたりデシベル数で表される。減衰は対数で定義され、減衰が二倍違えば強度は100倍違うことになる。
【0008】
従来の蛍光体粒子は、例えば電界発光ディスプレイ、印刷用インク、および生物学的マーカーなど、光学的な透明性が厳密ではない応用における用途で開示されている。本発明の目的のために、「光学的透明性」は、通常可視およびIR波長で用いられる通信部品に要求される透明性として定義され、人の目に透明であるものとは異なる。例えば、窓ガラスは減衰が1000db/kmであり通信には適さない。通信に用いられる光ファイバーは、減衰が0.2db/kmの高純度シリカガラスから作製される。どちらの材料も人の目には透明であるが、一方のみが通信に適する。
【0009】
電界発光ディスプレイ、印刷用インクおよび生物学的マーカーの用途で開示されている従来の発光粒子を用いると、光学損失を通信目的で十分に制御することはできない。100nmの小さいサイズの粒子が開示されているが、これは無機粒子の一次粒子径であって、凝集して直径100nmよりも有意に大きい二次粒子を形成する。したがって、分散粒子径が100nmより小さい発光粒子が必要である。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
本発明は、上述の必要性に取り組む。現在では、分散粒子径が100nmより小さい粒子を用いることの重要性は、当初考えられていたよりも大きいことがわかっている。ポリマーマトリックスに分散された粒子は、ある一定の屈折率の差を有する。この屈折率の差が光の散乱を引き起こし、複合材料における光の減衰の主な原因となる。10nmから1ミクロンの粒子では、散乱される光の量はおおまかに粒子の直径の6乗に比例する。したがって、粒子径を1/10に変化させると、散乱は100万分の1に減少し、粒子径を1/100に変化させると、散乱は10億分の1に減少する。
【0011】
本発明では、分散粒子径が100nmより大きい粒子よりも分散粒子径が100nmより小さい粒子を選択することによって複合材料中の光散乱および減衰に非常に大きな差が生じることだけでなく、分散粒子径が100nmより小さいことが、通信の用途に要求される光学的透明性のレベルを有する複合材料を形成するためには臨界的であることを発見した。したがって、本発明の一実施形態によれば、固溶体無機ナノ粒子がそれに対して不活性なホストマトリックス中に分散し、前記ナノ粒子が1以上の活性イオンで約60モル%までの量でドープされ、前記ナノ粒子が約1〜100nmの分散粒子径を有する粒子からなり、前記ナノ粒子を分散した前記複合材料が前記活性イオンの励起、蛍光または発光の起こる波長で光学的に透明である、複合材料が提供される。
【0012】
原則的には、本明細書中で定義された光学的に透明な材料であればいずれもホストマトリックスとしての使用に適する。ホストマトリックスは、ポリマー、ガラス、または結晶性の材料でありうる。本発明は、100nmより小さい粒子径は、マトリックスと粒子との間の大きな屈折率差であっても、所定の方向以外の方向に光を散乱させない程度に十分に小さいことを発見したことを含む。
【0013】
ナノ粒子は、1以上の活性イオンでドープされうる原則的に任意の光学的に透明な無機材料から調製されうる。適当な無機材料としては、ランタン(La)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)などの金属、ならびに周期表のII族の金属、例えばベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびバリウム(Ba)の酸化物、ハロゲン化物、オキシ酸化物、およびカルコゲニドなどのセラミック材料が挙げられる。アルミノケイ酸塩などのIII族の金属のセラミクスも用いられうる。特に制限されないが、例えば、シリコン(Si)、ヒ素(As)、ガリウム(Ga)、ヒ化ガリウム(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)などのIV族およびV族の半導体元素ならびにIII−V族、II−V族、およびII−VI族の半導体化合物もまた用いられうる。
【0014】
活性イオンは典型的には希土類元素である。しかしながら、例えばクロムなど、IR波長を吸収しIRまたは可視スペクトルを放出するものであれば原則的には任意のイオンが用いられうる。本発明では、活性イオンは全体が個々の低フォノンエネルギーのナノ粒子の中に存在するため、他の粒子のイオンの影響を受けない。それぞれの活性種がそれぞれドープされた粒子中に存在する場合、ナノ粒子をパッシブホストマトリックスに封入することで、イオン−イオンエネルギー移動、交差緩和、アップコンバージョンなどを生じる問題を避けることができる。
【0015】
本発明のナノ粒子を分散させうるガラスマトリックスは、ユビキタスである。結晶性材料もまた知られており、材料が光を散乱しない程度に小さい粒径であれば原則的に任意の透明な多結晶性材料が用いられる。例えば、酸化イットリウム、酸窒化アルミニウム(ALON)などが挙げられる。本発明での使用に適したマトリックスポリマーとしては、希土類元素の吸収、蛍光または発光に影響するような固有の光吸収のない、熱硬化性および熱可塑性の有機ポリマーが挙げられる。例えば、赤外波長では、赤外に吸収のないポリマーが用いられうる。ポリマーマトリックス中に分散されるそれぞれのナノ粒子は、異なった活性種でドープされうる。本発明のコンポジットは、容易に成形され、容易に繊維化できる。
【0016】
本発明の複合材料は、1つには光学的な透明性から低濃度でドープされた対応する従来の材料で観察される吸収および発光に比べてより広い吸収および発光を示す、高い濃度でドープされたナノ粒子を含み、これまでにない程度の効率で送信され、それによって赤外信号の伝送および受信を向上させる。さらに、ナノ粒子の光学的な透明性によって、この効果をさらに高めるように粒子のローディングレベルを上げることができる。粒子のローディングレベルが60体積%と高い光学的に透明な複合材料が得られうる。典型的には、粒子のローディングは、約1〜30体積%の範囲になる。
【0017】
この広がった発光バンドは、多くの発光装置に有用であり、前記装置はまた多様な低フォノンエネルギー環境を利用する。ホスト材料または希土類元素の選択によって、発光が互いに近い、異なる粒子の化学特性を組み合わせることによって、発光バンドをさらに広くすることができる。ホスト材料または希土類元素の選択によって、発光バンドを異なるスペクトル線に分離することもできる。
【0018】
したがって、本発明のさらに他の実施形態によれば、本発明のコンポジットを含む発光装置が提供される。発光装置の例としては、ゼロロスリンク、波長分割多重化装置、アップコンバージョン光源、標準的な光源などが挙げられる。本発明のコンポジットに基づくボリュームディスプレイは、性能が大幅に向上し、加工がより容易であり、軽量である。
【0019】
異なった活性種をドープしたナノ粒子のコンポジットは、すべてが高い効率で送信される個々のドーパントの相加的な効果のために非常にブロードな発光バンドを示す。この発光バンドの広がりは、 波長分割多重化機構を動作させる光源の製造に有益である。
【0020】
本発明の、上述のおよび他の目的、性質、ならびに利点は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明から、添付した図面を参照して、より容易に理解できるであろう。
【0021】
図面の簡単な説明
図1は、IR発光を、フルオロポリマーマトリックス中に分散したSAEナノ粒子の粒子ローディングの関数として示す。
【0022】
図2は、フルオロポリマーマトリックス中に分散したEr−YbをドープしたCaFナノ粒子のIRスペクトルと、エタノールに分散した同じ粒子のIRスペクトルとの比較を示す。
【0023】
最良の実施形態の詳細な説明
希土類元素がドープされた金属ハロゲン化物およびオキシハライドは米国特許第6,699,496号に開示されている2つの異なる方法で調製されうる。いずれの方法もまた容易に他の活性イオンに適用されうる。一方の方法では、多成分金属水和酸化物の反応性雰囲気処理によって、例えばハロゲン化ガスとの反応によって、合成が行われる。この方法は、ハロゲン化物を生成する金属およびハロゲン化物を生成する活性イオン化合物を含む実質的に均質な多成分の出発物質を、ハロゲン化が起こる温度で実質的に水蒸気を含まない雰囲気下で、過剰のハロゲン化水素またはハロゲン化ガスととともに加熱する。この温度は、混合物の最も低融点の成分の融点より低いことが好ましい。
【0024】
出発物質は、個々の成分の化合物の均一な物理的な混合物(例えばナノサイズの粒子の混合物)、またはすべて原子スケールで均一な成分を合わせた単一の化合物でありうる。ハロゲン化物を生成する化合物としては酸化物、水和酸化物、および水酸化物が挙げられる。
【0025】
好ましいハロゲン化物を生成する金属および活性イオンはまた、水に不溶の水酸化物の沈殿を形成する。この工程によれば、金属の水溶性の塩を、前記塩が溶解する温度で水に溶解させ、モル当量のNHOHを水に加えて金属水酸化物を沈殿させる。
【0026】
例えば、La、Pb、Zn、Cd、またはII族の金属、すなわちBe、Mg、Ca、SrおよびBaのハロゲン化物塩、好ましくは塩化物塩を、水、好ましくは3回脱イオン化した水に溶解させる。例えば、CaClを、塩が溶解する温度、典型的には室温から約90℃で水に溶解させる。本発明の目的には、室温を20℃と定義する。
【0027】
また、前記溶液に、所望の活性イオンの1以上の水溶性の塩を、所望のドーピング量に対して化学量論で加える。希土類元素のハロゲン化物塩、例えば、好ましくは塩化物塩が用いられうる。希土類元素の中でも、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuが好ましい。しかしながら、いずれの希土類元素も単独でまたは組み合わせて用いることができ、好ましい希土類元素と好ましくない希土類元素の組み合わせや、他の活性イオン種を含むものまたは含まないものの組み合わせも用いられうる。
【0028】
10モル%の活性イオンドーパントを含む金属ハロゲン化物塩のナノ粒子を得るためには、溶液に含まれる金属イオンの総量に対して活性イオンが10モル%になる量で、活性イオンのハロゲン化物塩および金属ハロゲン化物塩を前記溶液に加える。適当な水溶性の希土類元素としては、RECl・6HO(ここでREは希土類元素である)などの塩化物塩が挙げられる。
【0029】
活性イオンおよび金属ハロゲン化物のイオンは、化学量論的に過剰のNHOHを加えることによって、不溶性の多成分の酸化物、水和酸化物、および水酸化物として、溶液から沈殿する。沈殿を、水、好ましくは3回脱イオン化した水で洗浄して、反応の副生成物であるハロゲン化アンモニウムを除去する。好ましくは、沈殿を数回洗浄し、その後、好ましくは加熱によって、例えば90℃で24時間乾燥する。または、前記ハロゲン化アンモニウムを昇華によって除去してもよい。
【0030】
次いで、乾燥した沈殿に反応性雰囲気処理を行う。前記沈殿を、窒素ガスなどの不活性ガスでパージした、例えばマッフルチューブ炉などのオーブンに入れ、その後約1〜約50℃/分、好ましくは10℃/分の速度で、混合物の最も低融点の成分が溶けることなく水酸化物のハロゲン化が起こる温度まで加熱する。好ましくは、前記水酸化物を、約100〜約600℃の温度まで、より好ましくは約200〜約300の温度まで加熱する。
【0031】
次いで、生成するハロゲン化物塩に対応するハロゲン化水素を窒素フローに導入し、混合ガスを形成させる。したがって、1以上の希土類元素でドープされた金属フッ化物塩を形成するためにはフッ化水素を窒素フローに導入し、1以上の希土類元素でドープされた金属塩化物塩を形成するためには塩化水素を窒素フローに導入する。ハロゲン化水素は、好ましくは無水であり、フッ素および塩素のハロゲン化物が好ましい。SFまたはNFなどの非プロトン性のガスを含む他のハロゲン化ガスもまた用いられうる。HSは金属硫化物を形成するために用いられうる。他のカルコゲニドは関連する水素化合物を用いて形成されうる。
【0032】
前記沈殿は、対応するハロゲン化物に定量的に変換される。用いられるハロゲン化水素の量に応じて、ハロゲン化物化合物またはオキシハロゲン化物化合物が形成される。オーブンを加熱する温度によるが、ハロゲン化水素の窒素フローへの導入を止め、オーブンを窒素フロー雰囲気下で室温まで冷却してから、約0.5〜約2時間以内に変換が起こる。
【0033】
他の方法によれば、活性イオンがドープされた金属ハロゲン化物およびオキシハロゲン化物塩は、ハロゲン化物を形成する金属のイオンとドーパントの活性イオンとの水溶液が形成されるように、ハロゲン化物を形成する金属の水溶性の塩を、過剰の1以上の活性イオンドーパントの水溶性の塩とともに水に溶解させ、その後前記水溶液に過剰のハロゲン化アンモニウムを溶解させ、水溶液から1以上の活性イオンでドープされた金属ハロゲン化物塩のナノ粒子を沈殿させることによって、水溶液から調製されうる。ここでも、ハロゲン化物を生成する金属は、好ましくはLa、Pb、Zn、CdまたはII族の金属、すなわちBe、Mg、Ca、SrおよびBaである。また、希土類元素の中でもTb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuが好ましい。しかしながら、ここでも、いずれの希土類元素も単独でまたは組み合わせて用いることができ、好ましい希土類元素と好ましくない希土類元素の組み合わせや、他の活性イオン種を含むものまたは含まないものの組み合わせも用いられうる。
【0034】
活性イオンおよびハロゲン化物を生成する金属イオンの水溶液は、反応性雰囲気法の場合と同様に調製される。化学量論的に過剰の活性イオンが用いられうる。その後、希土類元素がドープされたハロゲン化物塩を得るための所望のハロゲン化物アニオンを与えるために選択される溶液に、過剰のハロゲン化アンモニウムを加える。ハロゲン化には、フッ化アンモニウムおよび塩化アンモニウムが好ましい。
【0035】
次いで、すべてのハロゲン化アンモニウムの塩が用いられた量で水に溶解する温度で、典型的には室温付近〜約90℃で、前記溶液を撹拌する。活性イオンおよびホストの金属イオンのハロゲン化が実質的に完了するまで、ハロゲン化物またはオキシハロゲン化物のいずれを所望するかによるが、典型的には約15分〜約5時間、撹拌を続ける。温度を上げると反応時間は短くなる。
【0036】
その後、ナノサイズの粒子の形態で粒子を溶液から沈殿させる。ハロゲン化物がフッ化物の場合、フッ化物は水に不溶なので沈殿は必要ない。塩化物および重ハロゲン化物では、ドープされた金属塩を沈殿させることができる量の極性有機溶媒を前記溶液に加えることによって、沈殿を得る。
【0037】
反応性雰囲気処理の沈殿を精製するのに用いられた方法と同じ方法で、沈殿を水で洗浄する。ただし、NHOHまたは他のあらゆるアンモニウム副生成物の完全な除去を確実にするために、その後沈殿した粒子を遠心分離する。
【0038】
ナノ粒子サイズの活性イオンがドープされた酸化物、カルコゲニド、ならびにIII−V族、II−V族、およびII−VI族の半導体化合物、ならびにIV族およびV族の半導体元素の調製は、当業者によく知られている。例えばアルミノケイ酸塩を含む酸化物は、水熱法、炎酸化法、プラズマ合成法、金属アルコキシドの加水分解および重合、ならびにマイクロエマルジョン沈殿によって作製されうる。関連する技術はナノ粒子サイズでドープされたカルコゲニドの調製にも用いられうる。
【0039】
アルミノケイ酸塩のほかに、希土類元素でドープした金属酸化物およびカルコゲニドは、La、Pb、Zn、CdまたはII族の金属、すなわちBe、Mg、Ca、SrおよびBaの酸化物およびカルコゲニドを含む。ナノ粒子サイズの活性イオンをドープしたIII−V族、II−V族、およびII−VI族の半導体化合物、ならびに活性イオンをドープしたIV族およびV族の半導体元素は、これらの材料のナノ粒子を調製する既知の技術を、ドーパントの活性イオンの可溶性の化合物を組み込むために変化させて調製される。ここでも、希土類元素のTb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuが好ましい。いずれの希土類元素も単独でまたは組み合わせて用いることができ、好ましい希土類元素と好ましくない希土類元素の組み合わせや、他の活性種を含むものまたは含まないものの組み合わせも用いられうる。
【0040】
本発明によるナノ粒子は、100nm未満の分散粒子径を有する粒子として定義される。好ましいナノ粒子は、約10〜約50nm、より好ましくは約15〜約25nmの分散粒子径を有する。60モル%の高い活性イオンの量を達成する一方、活性イオンの量が1000分の1、100万分の1、または10億分の1の粒子も、1つには複合材料の透明性の理由で、有用である。
【0041】
本発明のナノサイズの粒子がそれに対して化学的に不活性なマトリックスに分散される複合材料は、原則的に従来の技術で調製されうる。ガラスおよび多結晶性のマトリックスへの分散は、通常の粉末および溶融法、ならびに固体および粘性焼結法のほか、ゾルゲル法によっても調製され、いずれの場合も、ナノ粒子はマトリックス材料とともに加工される。または、ナノサイズの粒子はマトリックス材料中に沈殿されうる。
【0042】
マトリックス材料としては、ガラス、結晶性材料、またはポリマー材料が挙げられる。ポリマー材料は、活性イオンがドープされたナノ粒子に対して不活性であるため好ましい。マトリックス材料は、希土類元素の励起、蛍光または発光が起こる波長での高い光学的透明性、および良好な成膜特性を有する必要がある。本発明による「光学的に透明な」複合材料は、100dB/cm未満、好ましくは10dB/cm未満、より好ましくは1dB/cm未満の減衰を有する。材料の特定の最終用途の要求に応じて他の特性が考慮されるが、これらの特性は当業者に十分に理解されている。
【0043】
結晶性材料の例としては、酸化イットリウム、酸窒化アルミニウムなどが挙げられる。典型的には、赤外波長でのホストポリマーは、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデンなどのフルオロポリマー、パーフルオロシクロブチルポリマーおよびコポリマー、フッ素化ポリイミド、Bellex International Corp.(Wilmington,DE)製のCYTOPアモルファスフルオロポリマー、TEFLON AF(アモルファスポリ(フッ化ビニル))、TEFLON PFA(パーフルオロアルコキシコポリマー)などである。 他の適当なポリマーとしては、アクリレート類(PMMAなど)、ハロゲン化アクリレート類、ベンゾシクロブテン類、ポリエーテルイミド類、重水素化ポリシロキサンなどのシロキサン類などが挙げられる。
【0044】
コンポジットを形成するためのナノサイズの粒子のマトリックスへの分散は、活性イオンドーパントおよび無機ナノ粒子の相分離がおこる温度よりも低い温度で行われなければならないことは、当業者であれば容易に理解できるであろう。
【0045】
本発明の複合材料から組み立てられる発光装置もまた、新規なものであって自明なものではなく、組み込まれる装置の光学特性に干渉しないようにナノ構造化された発光特性を有する製品の要求に合致する。複合材料は、有益な光学的特性を有するさまざまな有用な製品を製造するために採用されうる。コンポジットは、従来の技術で容易に加工でき、光ファイバー、バルクの光学部品、フィルム、モノリスなどが得られうる。したがって、光学的な応用としては、前記複合材料を用いてゼロロスリンク、アップコンバージョン光源、標準的な光源、ボリュームディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、波長分割多重化機構を動作させる光源などの部品を形成することが挙げられる。
【0046】
以下の非制限的な実施例は発明の一実施形態を説明するものである。特に明記しない限り部およびパーセントはすべてモルであり、温度はすべて摂氏である。
【実施例】
【0047】
実施例
材料:
マトリックスポリマーは、サウスカロライナ州クレムソンのテトラマー テクノロジーズ社製の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンと共重合させたパーフルオロシクロブチル(PFCB)ポリマーである、6Fを用いた。ポリマーのMは31,000であり、Tは114Cであった。ポリマーの屈折率は、1550nmで約1.4であった。広い波長領域でそれ自体の吸収が低いポリマーとして選択した。SAE粉末(SiO−Al−Er;シリカ96重量%、Al2重量%、Er2重量%)は10〜20nmの範囲の粒子径を有し、Combustion Flame−Chemical Vapor Condensation(CF−CVC)法で調製した。Ho−ドープされたLaFナノ粉末(ホルミウム2mol%)を、エチレングリコール/水(10/1,v/v)の混合液中でソルボサーマル法を用いて調製した。TEM観察によれば、粒子径は5〜10nmの範囲であった。N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)およびトルエンは、Aldrich Chemicals社製のものをそのままセラミック/6Fナノコンポジットの調製に用いた。
【0048】
実施例1 SAE/6Fナノコンポジットの調製
10重量%の6Fポリマー溶液をすべてのセラミック/ポリマーナノコンポジットの調製に用いた。6Fポリマー中のSAE固体のローディングは、3、5、10、および20重量%であった。例えば、0.192gの6Fポリマーを1mlのトルエンに溶解させた。10重量%(0.021g)のSAEを1mlのトルエンに混合し、15分間超音波処理した(超音波洗浄機、モデル FS30、フィッシャー サイエンティフィック、フェア ローン、ニュージャージー州)。さらに15分間超音波処理することによってSAE/トルエン懸濁液を6Fポリマー溶液に混合した。10重量%のSAEローディングのSAE/6Fコンポジットをガラススライドにキャストして50℃でオーブン乾燥させた(Isotemp−Oven、モデル230Gm フィッシャー サイエンティフィック、ピッツバーグ、ペンシルバニア州)。それぞれのSAEローディングの値について繰り返した。IR発光スペクトルを図1に示す。3.9E−5は20重量%のSAEに、2.0E−5は10重量%のSAEに、5.3E−6は5重量%のSAEに、そして3.7E−6は3重量%のSAEに対応する。
【0049】
実施例2 Ho−ドープされたLaF/6Fナノコンポジットの調製
Ho−LaF/6Fコンポジットを実施例1と同様に調製した。例えば、0.192gの6Fポリマーを1mlのトルエンに溶解させた。10重量%(0.021g)のHo−LaFを1mlのトルエンに混合し、15分間超音波処理した。さらに15分間超音波処理することによってHo−LaF/トルエン懸濁液を6Fポリマー溶液に混合した。Ho−LaF/6Fコンポジットをガラススライドにキャストして50℃でオーブン乾燥させた。
【0050】
実施例3 Er−Yb−ドープされたCaFナノコンポジットの調製
Er−Yb−CaF(Er8mol%;Yb4mol%)を、エチレングリコール/水(6.5/1、v/v)混合溶媒中でソルボサーマル法で調製した。Er(OAc)(0.64mmol)、Ca(NO(8mmol)およびYb(NO(0.32mmol)を22mlの水に溶解させた溶液を、NHF(18mmol)エチレングリコール/水の溶液に、室温で撹拌しながら滴下した。反応混合液を還流温度で2時間撹拌し、室温まで冷却した。沈殿を遠心分離(18,000rpmで15分)で分離し、エタノール/水(v/v,1:1)で2回、DI水で2回洗浄した。生成物を48時間凍結乾燥した。
【0051】
XRD分析は、Kristalloflex D−500粉末回折計で、Niフィルターを用いたCuKα線を用いて行った。試料を10〜70°の2θレンジで、0.05(/ステップ)のステップサイズでスキャンした。調製されたCaF 粉末の結晶学的な同定は、実測のXRDパターンを、Joint Committee on Powder Diffraction and Standardsによる標準(JCPDS;CaF,PDF#75−0363)と比較することで行った。
【0052】
水中のEr−Yb−ドープされたCaFの粒子径および分布を、動的光散乱(DLS,ZetaPals Particle Sizer,Brookheven Instruments Corp)で、658nmの波長で決定した。DLS測定の試料は、少量のHoドープされたCaF粉末を水中に分散させ、10分間超音波処理して調製した。
【0053】
透過電子顕微鏡(TEM)像を高分解能分析電子顕微鏡(モデルEM−002B、インターナショナル サイエンティフィック インスツルメンツ)を用いて加速電圧200kVで得た。試料は、カーボンフィルムを有する銅のグリッドの上にサンプル懸濁液を滴下し、ゆっくりと蒸発させて調製した。粒子径はTEM測定によると10〜20nmの範囲であった。
【0054】
実施例1と同様に、DMAをEr−Yb−CaF/6Fナノコンポジットの調製のための溶媒として用いた。例えば、0.168gの6Fポリマーを0.5mlのDMAに溶解させた。10重量%(0.0187g)のEr−Yb−CaFを0.5mlのDMAと混合し、15分間超音波処理した。さらに15分間超音波処理することでEr−Yb−CaF/DMA懸濁液を6Fポリマー溶液と混合した。Er−Yb−CaF/6Fコンポジットをガラススライドにキャストし、70℃でオーブン乾燥させた。
【0055】
ポリマーコンポジットの発光スペクトル(1)と、同じEr−Yb−CaFナノ粒子をエタノールに分散させたものの発光スペクトル(2)との比較を図2に示す。ポリマーコンポジットのスペクトルは、粒子のローディングが多いために、より強度が高い。しかしながら、この比較はコンポジットの光学的透明性を示している。図2はまた、液体のコンポジットが適当であることを示している。
【0056】
したがって、本発明は、これまで達成されなかった量子効率の値を有する複合材料を提供する。発光強度が向上したことによって、増幅器間の距離をより長くとることができるようになり、光可読フォーマットにおける情報のより高密度のパッキング、レーザーパワー出力の増加、ディスプレイの色の質および波長の関数としての個々のスペクトル線の強度の制御(ゲイン調整)の改善が可能になる。
【0057】
本発明の粒子の広がった発光バンド幅によって、さらに適当なマトリックスに分散させることで、これまで達成されなかったバンド幅の広がりを有するバルク材料が製造される。これによって、波長分割多重化によって伝送されうる信号の数が増大する。このような特性は、多くの光学的な最終用途に有利である。
【0058】
上述の実施例および好ましい実施形態の説明は、特許請求の範囲で定義された本発明を説明するものであり、制限するものではないと理解されるべきである。容易に理解されるように、上述した性質の多くの変形および組み合わせが、特許請求の範囲に記載された本発明から逸脱することなく用いられうる。上述の変形は、本発明の精神および範囲から逸脱するものではないと理解されるべきであり、このような変形はすべて本発明の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】IR発光を、フルオロポリマーマトリックス中に分散したSAEナノ粒子の粒子ローディングの関数として示した図である。
【図2】フルオロポリマーマトリックス中に分散したEr−YbをドープしたCaFナノ粒子のIRスペクトルと、エタノールに分散した同じ粒子のIRスペクトルとの比較を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的に透明な固溶体の無機ナノ粒子がそれに対して不活性なホストマトリックス中に分散した複合材料であって、前記ナノ粒子が1以上の活性イオンで約60モル%までの量でドープされ、前記ナノ粒子が約1〜約100nmの分散粒子径を有する粒子からなり、前記ナノ粒子を分散した前記複合材料が前記希土類元素の励起、蛍光または発光の起こる波長で光学的に透明である、複合材料。
【請求項2】
少なくとも1つの活性イオンが希土類元素である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記無機ナノ粒子が、少なくとも1つの金属酸化物、ハロゲン化物、オキシハロゲン化物、またはカルコゲニド塩を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
前記金属無機ナノ粒子が、アルミノケイ酸塩、ZnS、ZnSe、PbS、PbSe、CdS、およびCdSeのナノ粒子からなる群から選択される、請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
前記無機ナノ粒子が、少なくとも1つの金属フッ化物または塩化物塩を含む、請求項3に記載の複合材料。
【請求項6】
前記無機ナノ粒子が、少なくとも1つのIV族もしくはV族の半導体元素、またはIII−V族、II−V族、もしくはII−VI族の半導体化合物を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項7】
前記無機ナノ粒子が、Si、Ga、およびAsからなる群から選択される少なくとも1つのIV族もしくはV族の半導体元素を含む、請求項6に記載の複合材料。
【請求項8】
前記無機ナノ粒子が、GaAs、GaN、およびInNからなる群から選択される少なくとも1つのIII−V族の半導体化合物を含む、請求項6に記載の複合材料。
【請求項9】
前記ホストマトリックスが、光学的に透明なガラス、光学的に透明な結晶性物質、および光学的に透明なポリマーからなる群から選択される光学的に透明な材料である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項10】
前記ホストマトリックスがフルオロポリマーである、請求項9に記載の複合材料。
【請求項11】
10dB/cm未満の減衰を有する、請求項1に記載の複合材料。
【請求項12】
約1〜約60体積%のナノ粒子を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項13】
請求項1の複合材料から形成された光学部品を含む発光装置。
【請求項14】
前記装置が、ゼロロスリンク、アップコンバージョン光源、標準的な光源、ボリュームディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、または波長/分割/多重化機構で動作する光源である、請求項13に記載の発光装置。
【請求項15】
励起、蛍光、または発光によって複数のオーバーラップする発光バンドを発光する複数の活性イオンを含む、請求項13に記載の発光装置。
【請求項16】
励起、蛍光、または発光によって複数の分離した異なる発光バンドを発光する複数の活性イオンを含む、請求項13に記載の発光装置。
【請求項17】
前記装置が、ボリュームディスプレイまたはフラットパネルディスプレイである、請求項16に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−530716(P2007−530716A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501796(P2007−501796)
【出願日】平成17年2月11日(2005.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2005/004326
【国際公開番号】WO2005/119861
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(505421375)ラトガース,ザ ステート ユニバーシティ (9)
【Fターム(参考)】