説明

光学系

【課題】励起光の波長と同じ波長の反射・散乱光を高効率で除去すること。
【解決手段】励起用の光(3)が照射された試料(4)からの反射・散乱光であって、前記励起用の光(3)の波長とは異なる波長の光を含む光(5)が入射され、前記励起用の光(3)の波長を含む波長領域の光の透過を妨げる第1のフィルター(11)と、第1のフィルター(11)を透過した光が入射され、光を吸収して減衰させる吸収フィルター(12)と、前記吸収フィルター(12)を通過した光が入射され且つ前記第1のフィルター(11)と平行に配置され、前記励起用の光(3)の波長を含む波長領域の光の透過を妨げる第2のフィルター(13)と、を備えた光学系(7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起用のレーザー光が照射された試料からのラマン光等の微弱光の測定光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン光を測定するラマン分光分析装置では、試料に励起用のレーザー光を照射し、試料からの反射・散乱光を検出している。このとき、試料からの反射・散乱光には、励起用のレーザー光の波長と同一の波長を持つ反射・散乱光であるレイリー光と、励起用レーザー光の波長に対して、試料固有の振動数に応じて波長がシフトしたラマン光とが含まれている。したがって、ラマン光を分光分析することで、試料の分析が可能になるが、ラマン光は、レイリー光に比べて、強度が10-6〜10-12倍と極めて微弱な光であるため、ラマン光を測定するには、レイリー光をフィルター等で除去、分離する必要がある。
レイリー光を分離する技術に関して、下記の特許文献1〜4記載の技術が従来公知である。
【0003】
特許文献1としての特開平6−230219号公報には、レイリー散乱光をカットするために、屈折率が異なる第1物質と第2物質とを交互に被膜して多層膜化した多層膜誘電体フィルターを使用する技術や、ゼラチンの厚膜中に光の干渉によって周期的に屈折率の変化をつけて定着することで特定波長の光をカットするホログラフィックノッチフィルターを使用する技術が記載されている。
特許文献2としての特開平9−145619号公報には、カメラレンズ(12)と集光レンズ(14)との間に、励起光成分を除去するためのホログラフィックノッチフィルター(34)を使用する技術が記載されている。
【0004】
特許文献3としての特開平9−184809号公報には、2つの収束レンズ(5a、5b)の間に、試料から発生した散乱光から測定対象のラマン散乱光を透過させるバンドパスフィルターを使用する技術が記載されている。
特許文献4としての特開2008−191041号公報には、高屈折率材料膜としてのシリコン(302)を一対平行に並べ、その間に低屈折率材料膜としての空気層(301)を挟み、光学的膜厚をカットしたい波長の1/2に光学的膜厚を設定した光共振器(330)や、高屈折率材料膜としての酸化膜(402)を一対平行に並べ、その間に低屈折率材料膜としての空気層(401)を挟み、光学的膜厚をカットしたい波長の1/4に光学的膜厚を設定した光共振器(430)により、レイリー散乱光を透過、または反射させてカットする技術が記載されている。また、特許文献4には、高反射層としてのアルミ(702,703)を一対平行に並べ、その間に空気層(701)を挟み、高反射層間の距離を可動とした光共振器(730)により、レイリー散乱光を透過させてカットする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−230219号公報(「0003」〜「0008」)
【特許文献2】特開平9−145619号公報(「0026」、図2)
【特許文献3】特開平9−184809号公報(「0032」、図6)
【特許文献4】特開2008−191041号公報(「0041」〜「0050」、「0060」〜「0062」、図3、図4、図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(従来技術の問題点)
特許文献1〜4に記載された従来の技術では、1つのフィルターや光共振器を使用して、レイリー光を除去しようとしているが、レイリー光の強度は、前述のように、ラマン光の106倍以上の強度であり、現実には、1つのフィルターでは、除去しきれないことが多い。よって、従来の技術では、強いレイリー光を遮断することが困難であった。
【0007】
図7は従来のレイリー光の除去方法に関する説明図であり、図7Aは2つのフィルターを平行に並べた状態の説明図、図7Bはフィルター透過率の波長特性を示すグラフ、図7Cはフィルター反射率の波長特性を示すグラフである。
ここで、レイリー光の強度を弱めるために、複数のフィルターを並べて、レイリー光を複数回通過させることで、レイリー光の強度を弱めることが考えられる。図7Aに示すように波長λ1の励起用レーザー光01を試料02に照射し、試料02からの反射・散乱光03をコリメータ04で平行にした光を図7Aの例では第1のハイパスフィルター06に入射する。ここで、図7Bに示すように、第1のハイパスフィルター06は、波長λ1よりやや長波長であるλc以下の波長の光を反射して透過を妨げると共に、波長λc以上の波長の光を透過させる特性を持つ。したがって、波長λcより長い波長のラマン光は第1のハイパスフィルター06を透過するが、除去しきれないレイリー光も透過する。この透過成分は、第1のハイパスフィルター06と同様に配置された第2のハイパスフィルター07に入射し、ラマン光が透過すると共に、レイリー光は反射する。
【0008】
しかしながら、図7に示す構成では、第1のハイパスフィルター06と第2のハイパスフィルター07の間で反射が繰り返され、いわゆる、多重反射が発生する。したがって、複数のフィルターを並べて配置しても、除去されるレイリー光は、高々1/2程度であり、残りの1/2程度のレイリー光は透過してしまう問題がある。すなわち、レイリー光の強度を例えば、3オーダー(1000倍)程度低下させようとすると、ハイパスフィルターを10枚((1/2)10=1/1024)程度並べなければならない。
【0009】
図8は従来のレイリー光の除去方法を示す説明図であり、図8Aは2枚のフィルターを傾けて配置した状態の説明図、図8Bは傾けた場合のフィルター透過率の波長特性グラフである。
図8Aに示すように、第2のハイパスフィルター07を第1のハイパスフィルター06に対して傾斜させると多重反射が発生しない。このように傾斜して配置すると第2のハイパスフィルター07で反射した光は、第1のハイパスフィルター06に斜めに入射するため、多重反射の回数が限定されレイリー光の除去率は改善される。一方、第2のハイパスフィルター07を傾斜させると、入射光の入射角が増すため、入射光に対する第2のハイパスフィルター07自体の厚みが減少して見えることになるので、図8Bに示すように、ハイパスフィルターのエッジ波長λcが短波長側にシフトする。そのため、波長λ1のレイリー光が漏れて、第2のハイパスフィルター07を配置したにもかかわらず、レイリー光を十分に除去できなくなる問題がある。
【0010】
前述の事情に鑑み、本発明は、励起光の波長と同じ波長の反射・散乱光を高効率で除去することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記技術的課題を解決するために、請求項1記載の発明の光学系は、
励起用の光が照射された試料からの反射・散乱光であって、前記励起用の光の波長とは異なる波長の光を含む反射・散乱光が入射され、前記励起用の光の波長を含む波長領域の光の透過を妨げる第1のフィルターと、
第1のフィルターを透過した光が入射され、光を吸収して減衰させる吸収フィルターと、
前記吸収フィルターを通過した光が入射され且つ前記第1のフィルターと平行に配置され、前記励起用の光の波長を含む波長領域の光の透過を妨げる第2のフィルターと、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光学系において、
前記試料からの反射・散乱光をコリメートして、前記第1のフィルターに入射させるコリメータ、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
前記技術的課題を解決するために、請求項3に記載の発明の光学系は、
励起光の照射によって試料からの反射・散乱する波長成分を透過し且つ前記励起光の波長成分を反射する2枚のフィルターを平行に配置し、前記2枚のフィルターの中間に前記各フィルターの透過成分を吸収して減衰させる吸収フィルターを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1、3に記載の発明によれば、吸収フィルターを2つのフィルター間に配置しない従来の構成に比べて、励起用の光の波長と同じ波長の反射・散乱光を高効率で除去することができる。
請求項2に記載の発明によれば、コリメートされた光が第1のフィルターに入射されても多重反射による影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の実施例1の光学系を備えたラマン分析装置の概略説明図である。
【図2】図2は実施例1の吸収フィルターの特性を説明する説明図である。
【図3】図3は実施例1の作用説明図であり、図3Aは3つのフィルターの配置関係の模式図、図3Bはフィルター群に入射される前の散乱光の一例の説明図、図3Cはフィルター群から射出される散乱光の一例の説明図である。
【図4】図4は実施例の構成におけるレイリー光の除去の数値計算で用いる記号の説明図であり、図4Aは光学系の構成の説明図、図4Bはハイパスフィルターの透過率特性の模式図である。
【図5】図5は透過光の透過率の説明図である。
【図6】図6は吸収フィルターの透過率と、全体の透過率との関係を示すグラフであり、横軸に吸収フィルターの透過率、縦軸に全体の透過率の比をとったグラフである。
【図7】図7は従来のレイリー光の除去方法に関する説明図であり、図7Aは2つのフィルターを平行に並べた状態の説明図、図7Bはフィルターの波長と透過率の特性を、図7Cはフィルターの波長と反射率の特性を示すグラフである。
【図8】図8は従来のレイリー光の除去方法を示す説明図であり、図8Aは2枚のフィルターを傾けて配置した状態の説明図、図8Bは傾けた場合のフィルター透過率の波長特性グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略する。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明の実施例1の光学系を備えたラマン分析装置の概略説明図である。
図1において、実施例1のラマン分析装置1では、レーザー光源2から光の一例としての励起用のレーザー光3が試料4に照射される。レーザー光3が照射された試料4からの反射・散乱光5は、コリメータ6でコリメートされ(平行光にされ)、反射散乱光に含まれるレイリー光を除去するための光学系の一例としてのフィルター群7に入射される。フィルター群7を透過した光は、分光器Gを通った後、集光レンズ8で集光されて、測定装置の一例としてのCCDカメラ9等の検出器で測定される。
【0018】
前記フィルター群7は、コリメータ6からの光が入射される第1のフィルターの一例としての第1のハイパスフィルター11と、第1のハイパスフィルター11からの光が入射する吸収フィルター12と、吸収フィルター12からの光が入射する第2のフィルターの一例としての第2のハイパスフィルター13とを有する。なお、実施例1のフィルター群7は、吸収フィルター12の表面にハイパスフィルター11,13を貼り付けて作製したり、成膜して作製する等で、ユニット化されているが、各フィルター11〜13を、間隔を空けて並べて配置する構成とすることも可能である。
実施例1の各ハイパスフィルター11,13は、同一のハイパスフィルターにより構成されており、前記図7Bに示すように、励起用のレーザー光3の波長λ1よりも大きな波長λc以下の波長領域の光の透過を妨げると共に、波長λc以上の波長領域の光を透過させる。第1のフィルターや第2のフィルターとして、励起用のレーザー光3の波長λ1の近傍の波長領域以外の光に対して透過させるノッチフィルターの使用も可能である。
【0019】
図2は実施例1の吸収フィルターの特性を説明する説明図である。
また、実施例1の吸収フィルター12は、透過する光を吸収する光吸収物質が分散された吸収型のフィルターであり、図2に示すように、全ての波長領域の光を吸収する吸収型ND(Neutral Density:減光)フィルター21や、励起用のレーザー光3の波長λ1を含む短波長側の波長領域の光を吸収する吸収型のハイパスフィルター22や吸収型のバンドパスフィルター等の吸収型のフィルターが使用可能である。
また、図1において、実施例1のフィルター群7では、第1のハイパスフィルター11と、吸収フィルター12と、第3のハイパスフィルター13とが平行に配置されている。
【0020】
(実施例1の作用)
図3は実施例1の作用説明図であり、図3Aは3つのフィルターの配置関係の模式図、図3Bはフィルター群に入射される前の散乱光の一例の説明図、図3Cはフィルター群から射出される散乱光の一例の説明図である。
前記構成を備えた実施例1のラマン分光装置1では、励起用レーザー光3が照射された試料4からの反射・散乱光5は、第1のハイパスフィルター11に入射される。図3において、第1のハイパスフィルター11に入射された反射・散乱光5は、第1のハイパスフィルター11を通過する際に、強度の強いレイリー光の一部がカットされ、カットし切れなかった残りのレイリー光とラマン光が吸収フィルター12を透過する。吸収フィルター12を通過する際に、レイリー光とラマン光が減光され、第2のハイパスフィルター13に入射される。第2のハイパスフィルター13に入射されたラマン光は、そのまま透過してCCDカメラ9で測定される。そして、第2のハイパスフィルター13に入射されたレイリー光は、第2のハイパスフィルター13で一部が反射して、再び吸収フィルター12内を通過する。したがって、反射されたレイリー光は吸収フィルター12で吸収されて減衰する。よって、第1のハイパスフィルター11と、第2のハイパスフィルター13との間で多重反射した光は、吸収フィルター12で吸収され、減衰する。したがって、フィルター群7を透過した光には、図3Cに示すように、ラマン光と、従来に比べて十分に減衰したレイリー光とを含む光が含まれ、CCDカメラ9で測定される。
【0021】
(レイリー光の除去についての数値計算)
図4は実施例の構成におけるレイリー光の除去の数値計算で用いる記号の説明図であり、図4Aは光学系の構成の説明図、図4Bはハイパスフィルターの透過率特性の模式図である。
次に、レイリー光の除去の効率について、数値計算を行う。
まず、図4Aにおいて、波長λ1のレイリー光と、波長λ2のラマン光が、フィルター群7を透過する状態を考える。ここで、図4Bに示すように、ハイパスフィルター(エッジフィルター)11、13は、波長λ1が反射帯、波長λ2が透過帯に対応するものであり、それぞれの透過率を、T1、T2とする。なお、今回の数値計算では、ハイパスフィルター11、13の透過率は、T1=10-5、T2=1とする。すなわち、レイリー光は、入射光の強度に対して10-5分だけ透過されるものと仮定する。
次に、吸収フィルター12の内部透過率をTaとすると、吸収がある場合はTa<1、吸収がない場合はTa=1となる。波長λ1、λ2の光について、吸収フィルターを含めたフィルター群7全体の透過率を、それぞれ、I1、I2とすると、微弱なラマン散乱光を検出するためには、I1/I2≪1が要求条件である。
【0022】
図5は透過光の透過率の説明図である。
ここで、透過率I1、I2は以下のように演算される。
図5において、強度Xの波長λ1の光が入射した場合、第1のハイパスフィルター11を透過した光の強度は、X・T1で表され、同様にして、吸収フィルター12、第2のハイパスフィルター13を透過した光の強度はそれぞれ、
X・T1・Ta、X・T12・Ta
で表される。
第2のハイパスフィルター13で反射された光の強度は、
X・T1・Ta(1 - T1)
で表され、この反射光が吸収フィルター12を透過すると、強度は、
X・T1・Ta2(1 - T1)
となる。
この光が、第1のハイパスフィルター11で反射されると、光の強度は、
X・T1・Ta2(1 - T1)2
となり、さらにこの光が吸収フィルター12、第2のハイパスフィルター13を透過すると、光の強度はそれぞれ
X・T1・Ta3(1 - T1)2、X・T12・Ta3(1 - T1)2
となる。
同様に反射を繰り返すたびに第2のハイパスフィルター13からの透過成分はTa2 (1 - T1)2だけ減少することになる。
【0023】
第2のハイパスフィルター13を透過した光の総強度Yはこれらの合計なので、Yは次式(1)で表される。
Y = X・T12・Ta + X・T12・Ta3(1 - T1)2 + X・T12・Ta5(1 - T1)4
+ X・T12・Ta7(1 - T1)6+ …
= X・T12・Ta [1 + Ta2(1 - T1)2+ Ta4(1 - T1)4 + …] …式(1)
ここで、z = Ta2(1 - T1)2< 1と置くと、初項 = 1とするzの無限等比級数の和の公式
1 + z + z2 + z3 + … = 1/(1 - z)
を用いて式(1)は(2)で表される。
Y = X・T12・Ta/[1 - Ta2(1 - T1)2] …式(2)
【0024】
したがって、透過率I1、I2は以下の式(3)、(4)で表される。
I1 = Y/X = T12・Ta/[1 - Ta2(1 - T1)2] …式(3)
I2 = T22・Ta/[1 - Ta2(1 - T2)2] …式(4)
ここで、レイリー線の除去効率を考察する指標として、I1とI2の比を考える。
I1/I2 = {[1 - Ta2(1 - T2)2]/[1 - Ta2(1 - T1)2]}(T1/T2)2 …式(5)
【0025】
ここで、吸収フィルター12において、吸収がない場合、すなわち、吸収フィルター12が配置されていない図7に示す従来の場合について計算する。この場合、Ta = 1となるため、式(5)は、以下の式(6)となる。
I1/I2 = {[1 - (1 - T2)2]/[1 - (1 - T1)2]}(T1/T2)2
≒ (1/2T1) (T1/T2)2= (1/2)・T1/T22 …式(6)
ここでは、T1 ≪ 1および(1 - T2) ≪ 1として式(6)を導出した。たとえば、T1= 10-5およびT2 = 1を式(6)に代入すると、以下の式(7)が得られる。
I1/I2 = (1/2)×10-5 …式(7)
よって、図7に示すように2枚のフィルターを配置した場合には、多重反射の影響で、フィルター1枚分の減衰効果10-5に対して、1/2にしかならず、べき乗、すなわち、(10-5) 2の効果は得られないことが確認される。
【0026】
次に、吸収フィルター12において吸収がある場合、すなわち、実施例1の場合について計算する。この場合、式(6)の導出と同様に、T1と1−T2を微小量として取り扱うと、式(5)から以下の式(8)が得られる。
I1/I2 = {[1 - Ta2(1 - T2)2]/[1 - Ta2(1 - T1)2]}(T1/T2)2
= [1/(1 - Ta2)]・(T1/T2)2 …式(8)
よって、式(8)の右辺の最終項(T1/T2)2の因子が存在するため、T1、T2の数値を代入すると、(10-5)2= 10-10の効果が得られ、2つのハイパスフィルター11,13により、レイリー光が効率よく除去されることが確認される。
【0027】
図6は、式(6)、式(8)から吸収フィルター12の透過率Taの値と、二つの波長の透過率の比I1/I2を指数で表したグラフである。
グラフから明らかなように、吸収フィルター12の透過率Taが1より小さくなると透過率の比I1/I2が急激に低下することが分かる。すなわち、レイリー光の除去効率が急激に高まることが確認され、透過率Ta=0.8程度でも10-9オーダーとなり、十分に高いレイリー光の除去効率が達成されることが確認された。
【0028】
したがって、実施例1のフィルター群7は、ハイパスフィルター11,13の間に吸収フィルター12を配置することで、従来1/2程度であった減衰が、べき乗の効率でレイリー光を減衰させることが可能となり、レイリー光の減衰効率が著しく向上する。なお、従来のラマン分光分析では、ラマン光をできるだけ減衰させないようにすることが当業者にとって技術常識であり、ラマン光まで減光される吸収フィルター12を配置することは行われていなかったが、実施例1のラマン分光装置1では、吸収フィルター12を配置することで、ハイパスフィルター11,13の効率を著しく向上させることができた。
【0029】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H08)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、例示した具体的な数値や材料については、例示した値や材料に限定されず、設計や仕様、用途等に応じて、適宜変更可能である。
(H02)前記実施例において、例示したラマン分光装置1以外の構成にも適用可能であり、設計や仕様等に応じて、ミラーやハーフミラーや絞り、複数のレンズ等の光学系や、分光器として実施例に例示した構成以外の公知の分光器、例えば、波長可変バンドパスフィルターを設けたり、検出器としてCCDカメラ以外の測定装置に変更したり等、任意の変更が可能である。
【0030】
(H03)前記実施例において、フィルター群7は2つのハイパスフィルター11,13を有する構成を例示したが、この構成に限定されず、3つ以上のハイパスフィルター11,13や2つ以上の吸収フィルター12を有する構成とすることも可能である。
(H04)前記実施例において、フィルターとして、ハイパスフィルターを例示したが、これに限定されず、レイリー光を除去可能且つラマン光を透過可能な任意のフィルター、例えば、ノッチフィルター、ローパスフィルター、バンドパスフィルター、バンドエリミネーションフィルター等、任意のフィルターを使用可能である。
(H05)前記実施例において、吸収フィルターとしてNDフィルターの他に、吸収型ハイパスフィルターや吸収型バンドパスフィルターを用いることも可能である。
(H06)前記実施例において、ラマン測定だけでなく、蛍光測定など強いバックグラウンド信号が存在する元で非常に微弱な信号を測定する光学装置に対しても使用可能である。本願発明は、レイリー光に対するラマン光やバックグラウンド(X線、紫外線、可視光線等の励起用の光(電磁波)と同一波長の反射・散乱光)に対する蛍光等のように、レイリー光やバックグラウンドを除去しなければ、測定が困難な微弱な光を測定する測定装置における光学系に適用可能である。
(H07)前記実施例において、フィルター群7として、2つの2つのハイパスフィルター11,13と吸収フィルター12を一列に配列した組み合わせで示したが、吸収フィルターの両面にハイパスフィルターを蒸着するなどして、一体にしたフィルターを使用することも可能である。
(H08)前記実施例において、フィルター群7として、2つのハイパスフィルター11,13と吸収フィルター12を一列に配列した組み合わせで示したが、一組のハイパスフィルターの中間に吸収膜を蒸着するなどして、一体化したフィルターを使用することも可能である。
【符号の説明】
【0031】
3…励起用のレーザー光、
4…試料、
5…光、
6…コリメータ、
7…光学系、
11…第1のフィルター、
12…吸収フィルター、
13…第2のフィルター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起用の光が照射された試料からの反射・散乱光であって、前記励起用の光の波長とは異なる波長の光を含む反射・散乱光が入射され、前記励起用の光の波長を含む波長領域の光の透過を妨げる第1のフィルターと、
第1のフィルターを透過した光が入射され、光を吸収して減衰させる吸収フィルターと、
前記吸収フィルターを通過した光が入射され且つ前記第1のフィルターと平行に配置され、前記励起用の光の波長を含む波長領域の光の透過を妨げる第2のフィルターと、
を備えたことを特徴とする光学系。
【請求項2】
前記試料からの反射・散乱光をコリメートして、前記第1のフィルターに入射させるコリメータ、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
励起光の照射によって試料からの反射・散乱する波長成分を透過し且つ前記励起光の波長成分を反射する2枚のフィルターを平行に配置し、前記2枚のフィルターの中間に前記各フィルターの透過成分を吸収して減衰させる吸収フィルターを備えたことを特徴とする光学系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−232239(P2011−232239A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104163(P2010−104163)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(593230855)株式会社エス・テイ・ジャパン (13)
【Fターム(参考)】