光学素子およびその製造方法
【課題】 再生時に高い回折効率を得ることができ、製造プロセスが比較的容易で、生産性に優れた光学素子を提供する。
【解決手段】 記録面20と原画像(図示せず)とを、ピッチCvをもった複数のスライス面で切断し、同一スライス面による切断によって得られたセル配置線f(i)と原画像側の画像輪郭線とを対応させる。セル配置線f(i)上に、ピッチPhでセル配置点Qを定義する。個々のセル配置点Qについて、対応する画像輪郭線上の複数のサンプル点から放出された物体光の合成波の振幅Aおよび位相θを演算によって求める。個々のセル配置点Qには、振幅Aに応じた面積を有する有効領域E内に、位相θに応じた位相をもった回折格子Gが形成された三次元セルCを配置する。回折格子Gは、周期ξをもつ階段状のステップを周期的に配置することにより構成する。三次元セルCの長さCvは20μm、幅Chは0.4μm、周期ξは1μm程度に設定する。
【解決手段】 記録面20と原画像(図示せず)とを、ピッチCvをもった複数のスライス面で切断し、同一スライス面による切断によって得られたセル配置線f(i)と原画像側の画像輪郭線とを対応させる。セル配置線f(i)上に、ピッチPhでセル配置点Qを定義する。個々のセル配置点Qについて、対応する画像輪郭線上の複数のサンプル点から放出された物体光の合成波の振幅Aおよび位相θを演算によって求める。個々のセル配置点Qには、振幅Aに応じた面積を有する有効領域E内に、位相θに応じた位相をもった回折格子Gが形成された三次元セルCを配置する。回折格子Gは、周期ξをもつ階段状のステップを周期的に配置することにより構成する。三次元セルCの長さCvは20μm、幅Chは0.4μm、周期ξは1μm程度に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子およびその製造方法に関し、特に、ホログラムとして立体像を記録し、これを再生することが可能な光学素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立体像を媒体上に記録し、これを再生する方法として、ホログラフィーの技術が古くから知られており、この方法で作成されたホログラムは、観賞用アートや偽造防止用シールなど、様々な分野で利用されている。光学的にホログラムを作成する方法としては、物体から発せられる物体光と参照光との干渉縞を感光性媒体に記録する方法が一般的である。物体光および参照光の光源としては、通常、可干渉性に優れたレーザ光が利用される。一般に、光などの電磁波の挙動は、振幅と位相とをもった波面の伝播として捉えることができ、ホログラムは、このような波面を再生する機能をもった光学素子と言うことができる。したがって、ホログラムの記録媒体には、空間のそれぞれの位置における物体光の位相と振幅とを正確に再現するための情報を記録しておく必要がある。感光性媒体上に、物体光と参照光とによって生じる干渉縞を記録すれば、物体光の位相と振幅との双方を含んだ情報を記録することができ、この媒体に参照光と同等の再生用照明光を照射することにより、この再生用照明光の一部が物体光と等価な波面をもった光として観測できる。
【0003】
このように、レーザ光などを用いた光学的な方法でホログラムを作成する場合、物体光の位相と振幅は、参照光との干渉縞としてしか記録することはできない。これは、ホログラムを記録する感光性媒体が、光の強度に応じて感光する特性があるためである。これに対して、最近、コンピュータを用いた演算により、ホログラムを作成する手法も実用化されつつある。この手法は、計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram )と呼ばれており、コンピュータを利用して物体光の波面を計算し、その位相と振幅とを何らかの方法で物理的な媒体上に記録することにより、ホログラムの作成が行われる。この計算機ホログラムの手法を用いれば、もちろん、物体光と参照光との干渉縞として像の記録を行うことも可能であるが、参照光を用いずに、物体光の位相と振幅に関する情報を直接記録面に記録することも可能になる。
【0004】
たとえば、下記の特許文献1および2(本願と同一発明者による発明に係る特許出願)には、任意の原画像と、所定ピッチで代表点が配置された記録面とを定義し、コンピュータを利用して、個々の代表点位置について、原画像の各部分から発せられた物体光の合成波の波面に関する複素振幅を計算し、記録面上に複素振幅分布(振幅Aと位相θの分布)を求め、これを三次元セルの集合体によって記録する発明が開示されている。以下、この発明を先願発明という。この先願発明に開示された方法では、一面に溝をもった三次元セルを用意し、これを個々の代表点位置に配置することにより、多数の三次元セルの集合体からなる光学素子を構成する。このとき、個々の代表点位置について求められた位相θは、三次元セルの溝の深さとして記録され、振幅Aは、三次元セルの溝の幅として記録される。こうして、記録面上の個々の代表点位置に、それぞれ固有の位相θと振幅Aとが記録されることになるので、再生用照明光を照射すると、原画像のホログラム再生像が得られる。
【特許文献1】特開2002−072837号公報
【特許文献2】特開2005−215569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した先願発明の方法では、振幅Aと位相θとが記録された三次元セルの集合体により光学素子が構成されるため、再生時に高い回折効率を得ることができる素子が製造できるという利点が得られる。しかしながら、そのような三次元セルからなる光学素子を物理的に製造するためには、微細加工を行う技術が必要であり、高精度の製造プロセスが必要になる。たとえば、前掲の特許文献1には、0.6×0.25×0.25μmという微小サイズの三次元セルの上面に、振幅Aの値に応じて様々な幅をもった溝を形成する例が示されている。このような微小サイズの物理的なセルの上面に溝を形成するだけでも高精度の加工が必要であるのに、その溝の幅を振幅Aの値に応じた正確な幅に制御するには、極めて高い加工精度が要求される。
【0006】
そこで本発明は、再生時に高い回折効率を得ることができ、しかも、製造プロセスが比較的容易で、生産性に優れた光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明の第1の態様は、複数の三次元セルの集合から構成され所定の原画像の再生が可能な光学素子を製造する方法において、
三次元空間内に所定の物体光を放出する原画像を定義する原画像定義段階と、
三次元空間内に原画像を記録するための記録面を定義する記録面定義段階と、
原画像および記録面を切断することが可能な平面からなる複数N枚のスライス面を定義するスライス面定義段階と、
原画像を各スライス面で切断して得られる切断部にそれぞれ画像輪郭線を定義する画像輪郭線定義段階と、
各画像輪郭線上にそれぞれ複数のサンプル点Sを定義するサンプル点定義段階と、
記録面を各スライス面で切断して得られる切断部にそれぞれセル配置線を定義するセル配置線定義段階と、
各セル配置線上にそれぞれ複数のセル配置点Qを定義するセル配置点定義段階と、
同一のスライス面による切断によって定義された画像輪郭線とセル配置線とを対応させ、各セル配置点Qのそれぞれについて、当該セル配置点Qが所属するセル配置線に対応する画像輪郭線上に定義されたサンプル点Sを対応サンプル点と決定する対応サンプル点決定段階と、
各セル配置点Qのそれぞれについて、その対応サンプル点から放出された物体光のうち当該セル配置点Qの位置に到達する物体光の合成波の所定時刻における振幅Aおよび位相θを演算によって求める振幅位相演算段階と、
記録面上の各セル配置点Qの位置に配置すべき三次元セルの構造を、当該セル配置点Qについて求められた振幅Aおよび位相θに基づいて決定することにより、記録面上に配置された複数の三次元セルの集合から構成される立体構造を決定する立体構造決定段階と、
決定された立体構造を有する物理的な光学素子を形成する素子形成段階と、
を行い、
立体構造決定段階において、振幅Aに応じた面積を有する有効領域に、位相θに応じた位相をもった回折格子が形成された三次元セルの構造を決定するようにしたものである。
【0008】
(2) 本発明の第2の態様は、上述の第1の態様に係る光学素子の製造方法において、
原画像定義段階で、三次元立体画像もしくは二次元平面画像を原画像として定義するようにしたものである。
【0009】
(3) 本発明の第3の態様は、上述の第1の態様に係る光学素子の製造方法において、
原画像定義段階で、方向によって異なる物体光を放出する原画像を定義するようにしたものである。
【0010】
(4) 本発明の第4の態様は、上述の第3の態様に係る光学素子の製造方法において、
それぞれが複数通りの画素値をもったサンプル点の集合として原画像を定義し、放出方向に応じていずれか1つの画素値を選択する規則を定め、選択された画素値に基づいて放出する物体光が定まるようにしたものである。
【0011】
(5) 本発明の第5の態様は、上述の第3の態様に係る光学素子の製造方法において、
原画像定義段階で、離散的に分布するサンプル点が定義された主原画像と、表面各部に所定の画素値が定義された副原画像と、によって原画像を定義し、所定のサンプル点から所定のセル配置点Qに向かう物体光を、セル配置点Qと所定のサンプル点とを結ぶ直線と副原画像との交点に定義された画素値に基づいて決定するようにしたものである。
【0012】
(6) 本発明の第6の態様は、上述の第1〜第5の態様に係る光学素子の製造方法において、
記録面定義段階で、平面からなる記録面を定義し、
スライス面定義段階で、互いに平行な平面からなる複数N枚のスライス面を定義し、
セル配置線定義段階で、記録面上に互いに平行な直線からなるN本のセル配置線を定義するようにしたものである。
【0013】
(7) 本発明の第7の態様は、上述の第6の態様に係る光学素子の製造方法において、
スライス面定義段階で、一定のピッチPvで配置され、記録面に対して直交するN枚のスライス面を定義し、
セル配置線定義段階で、記録面上に、ピッチPvで配置されたN本のセル配置線を定義し、
セル配置点定義段階で、各セル配置線上に、一定のピッチPhで配置されたセル配置点Qを定義することにより、記録面上に、縦方向ピッチPv、横方向ピッチPhで二次元マトリックス状に配置されたセル配置点Qを定義し、
立体構造決定段階で、縦方向寸法CvがピッチPvに等しく、横方向寸法ChがピッチPhに等しい直方体を基本形状とする三次元セルを、二次元マトリックス上に配置した立体構造を決定するようにしたものである。
【0014】
(8) 本発明の第8の態様は、上述の第1〜第7の態様に係る光学素子の製造方法において、
振幅位相演算段階で、各対応サンプル点から放出される物体光の放出角度に制限を付加した演算を行うようにしたものである。
【0015】
(9) 本発明の第9の態様は、上述の第1〜第8の態様に係る光学素子の製造方法において、
振幅位相演算段階で、サンプル点Sからセル配置点Qに向かう物体光の振幅の減衰量を演算する際に、線光源から発せられた物体光の振幅減衰項を用いるようにしたものである。
【0016】
(10) 本発明の第10の態様は、上述の第9の態様に係る光学素子の製造方法において、
所定のセル配置点Qに到達する物体光を放出する全K個のサンプル点のうち、第k番目(k=1〜K)のサンプル点S(k)から発せられる物体光について、その波長をλ、サンプル点S(k)から単位距離だけ離れた位置の振幅をAk、サンプル点S(k)における位相をθkとし、セル配置点Qと第k番目のサンプル点S(k)との距離をrkとしたときに、セル配置点QにおけるK個のサンプル点からの物体光の合成複素振幅を、Σ(k=1〜K)(Ak/√rk・cos(θk±2πrk/λ)+iAk/√rk・sin(θk±2πrk/λ))なる式で定義し、この式を用いた演算によって、セル配置点Qにおける振幅Aおよび位相θを求めるようにしたものである。
【0017】
(11) 本発明の第11の態様は、上述の第1〜第10の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、所定周期ξで同一の凹凸形状変化を繰り返す凹凸構造面を有する回折格子を、振幅Aに応じた面積を有する有効領域内の、三次元セルの基準位置に対して位相θをもつ位置に配置することにより、三次元セルの構造を決定するようにしたものである。
【0018】
(12) 本発明の第12の態様は、上述の第11の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、
寸法Cvの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる格子形成面を含み、縦方向寸法Cv、横方向寸法Ch、奥行寸法Cdをもった直方体を基本形状とする三次元セルを、格子形成面が記録面に対して平行になり、横辺がセル配置線に平行になるように配置し、
格子形成面に、振幅Aに応じた面積を有する部分からなる有効領域と、それ以外の部分からなる余白領域と、を定義し、
有効領域に、凹凸構造面を有する回折格子を配置することにより、三次元セルの構造を決定するようにしたものである。
【0019】
(13) 本発明の第13の態様は、上述の第12の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、寸法Ceの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる有効領域を定義し、全ての三次元セルについて、有効領域の横幅が三次元セルの横幅Chに等しくなるようにし、個々の三次元セルごとの有効領域の面積が縦寸法Ceによって規定されるようにしたものである。
【0020】
(14) 本発明の第14の態様は、上述の第12または第13の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、
記録面上に定義された全てのセル配置点Qについて、それぞれ求められた振幅Aの2乗値A2を求め、その最大値をA2maxとし、A2max≧A2baseなる値A2baseを設定し、
個々のセル配置点Qに配置すべき三次元セルについて、格子形成面の全面積の「A2/A2base」に相当する領域(但し、A2>A2baseの場合は、全面積に相当する領域)を有効領域とするようにしたものである。
【0021】
(15) 本発明の第15の態様は、上述の第12〜第14の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、セル配置線に直交する方向に凹凸形状変化が生じるように、回折格子を形成するようにしたものである。
【0022】
(16) 本発明の第16の態様は、上述の第15の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、セル配置線に直交する方向に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少するスロープを形成し、当該スロープを繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成したものである。
【0023】
(17) 本発明の第17の態様は、上述の第16の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、所定の標準波長λの再生用照明光を用いることを前提とする標準観察条件を設定し、スロープの最浅部から最深部までの深さhを、標準観察条件において、最深部を経て観察位置に到達する光と最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるように設定するものである。
【0024】
(18) 本発明の第18の態様は、上述の第15の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、セル配置線に直交する方向に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが段階的に単調減少する階段を形成し、当該階段を繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成したものである。
【0025】
(19) 本発明の第19の態様は、上述の第18の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、所定の標準波長λの再生用照明光を用いることを前提とする標準観察条件を設定し、セル配置線に直交する方向に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部までの深さがhであり、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少し、標準観察条件において、最深部を経て観察位置に到達する光と最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるようなスロープを定義し、このスロープに近似する階段を配置することにより凹凸構造面を形成するものである。
【0026】
(20) 本発明の第20の態様は、上述の第17または第19の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、屈折率n2を有する物質からなる透光層の表面に凹凸構造面が形成され、透光層を透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/|n2−n1|」で求まる値に設定するものである。
【0027】
(21) 本発明の第21の態様は、上述の第17または第19の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層との界面として凹凸構造面が形成され、第1の透光層と第2の透光層との双方を透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/|n2−n1|」で求まる値に設定するものである。
【0028】
(22) 本発明の第22の態様は、上述の第17または第19の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、再生用照明光を反射する性質を有する反射層の表面に凹凸構造面が形成され、空間内から反射層で反射した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×n1)」で求まる値に設定するものである。
【0029】
(23) 本発明の第23の態様は、上述の第17または第19の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、屈折率n2を有する物質からなる透光層と再生用照明光を反射する性質を有する反射層との界面として凹凸構造面が形成され、透光層を透過して、反射層により反射し、透光層を再び透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×n2)」で求まる値に設定するものである。
【0030】
(24) 本発明の第24の態様は、上述の第17または第19の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、屈折率n2を有する物質からなる透光層の表面に凹凸構造面が形成され、透光層の凹凸構造面とは反対側の面に再生用照明光を反射する性質を有する反射層が形成され、透光層を透過して、反射層により反射し、透光層を再び透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×|n2−n1|)」で求まる値に設定するものである。
【0031】
(25) 本発明の第25の態様は、上述の第17または第19の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層との界面として凹凸構造面が形成され、第2の透光層の第1の透光層に接する面とは反対側の面に再生用照明光を反射する性質を有する反射層が形成され、第1の透光層と第2の透光層との双方を透過して、反射層により反射し、第1の透光層と第2の透光層との双方を再び透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×|n2−n1|)」で求まる値に設定するものである。
【0032】
(26) 本発明の第26の態様は、上述の第22〜第25の態様に係る光学素子の製造方法において、
反射層を、各三次元セルの有効領域内にのみ形成し、余白領域内には形成しないようにしたものである。
【0033】
(27) 本発明の第27の態様は、上述の第12〜第26の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、
所定の標準波長λの再生用照明光を所定の照射方向から光学素子に照射したときに所定の観察方向から観察することを前提とする標準観察条件を設定し、
回折格子の凹凸形状変化の周期ξを、照射方向から入射した光を観察方向へと導くために必要な回折角を得るのに適した値に設定し、
三次元セルの縦方向寸法Cvを、回折格子により十分な回折現象が生じるために必要な寸法以上の値に設定し、
三次元セルの横方向寸法Chを、横方向に関して必要な立体視角度を得るために必要な寸法以上の値に設定するものである。
【0034】
(28) 本発明の第28の態様は、上述の第27の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、回折格子の凹凸形状変化の周期ξを0.6〜2μm、三次元セルの縦方向寸法Cvを3〜300μm、横方向寸法Chを0.2〜4μm、に設定するものである。
【0035】
(29) 本発明の第29の態様は、上述の第12〜第28の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、余白領域に遮光層もしくは吸光層を形成するようにしたものである。
【0036】
(30) 本発明の第30の態様は、複数の三次元セルの集合からなる光学素子において、
個々のセルには、それぞれ特定振幅および特定位相が定義されており、特定振幅に応じた面積をもった有効領域内に特定位相に応じた位相をもった回折格子が形成されており、個々のセルに所定の入射光を与えると、当該セルに定義された特定振幅および特定位相に応じて入射光の振幅および位相を変化させた射出光が得られるようにしたものである。
【0037】
(31) 本発明の第31の態様は、上述の第30の態様に係る光学素子において、
所定周期ξで同一の凹凸形状変化を繰り返す凹凸構造面を有する回折格子を、有効領域内の、所定の基準位置に対して位相θをもつ位置に配置することにより、個々の三次元セルを形成したものである。
【0038】
(32) 本発明の第32の態様は、上述の第31の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルが、縦方向寸法Cv、横方向寸法Ch、奥行寸法Cdをもった直方体を基本形状となし、寸法Cvの縦辺および寸法Chの横辺を有し直方体の一面に対して平行な長方形からなる格子形成面を含み、この格子形成面に沿って凹凸構造面が形成されており、各三次元セルを二次元マトリックス状に配置したものである。
【0039】
(33) 本発明の第33の態様は、上述の第32の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルの格子形成面には、寸法Ceの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる有効領域が定義されており、全ての三次元セルについて、有効領域の横幅がセル自身の横幅Chに等しく設定されており、縦辺に沿った方向に凹凸形状変化が生じるように、凹凸構造体からなる回折格子が形成されているようにしたものである。
【0040】
(34) 本発明の第34の態様は、上述の第33の態様に係る光学素子において、
有効領域の縦辺に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少するスロープを形成し、当該スロープを繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成したものである。
【0041】
(35) 本発明の第35の態様は、上述の第33の態様に係る光学素子において、
有効領域の縦辺に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが段階的に単調減少する階段を形成し、当該階段を繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成したものである。
【0042】
(36) 本発明の第36の態様は、上述の第33〜第35の態様に係る光学素子において、
回折格子の凹凸形状変化の周期ξを0.6〜2μm、三次元セルの縦方向寸法Cvを3〜300μm、横方向寸法Chを0.2〜4μm、に設定したものである。
【0043】
(37) 本発明の第37の態様は、上述の第31〜第36の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルを、表面に凹凸構造面が形成された透光層もしくは反射層によって構成したものである。
【0044】
(38) 本発明の第38の態様は、上述の第31〜第36の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルを、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層との積層構造体を含み、第1の透光層と第2の透光層との界面に凹凸構造面が形成されてセルによって構成したものである。
【0045】
(39) 本発明の第39の態様は、上述の第31〜第36の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルを、透光層と反射層との積層構造体を有し、透光層と反射層との界面として凹凸構造面が形成されているセルによって構成したものである。
【0046】
(40) 本発明の第40の態様は、上述の第31〜第36の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルを、透光層と反射層との積層構造体を有し、透光層の反射層に接する面とは反対側の面に凹凸構造面が形成されているセルによって構成したものである。
【0047】
(41) 本発明の第41の態様は、上述の第31〜第36の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルを、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と、屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層と、反射層と、の積層構造体を有し、第1の透光層と第2の透光層との界面に凹凸構造面が形成されており、第2の透光層の第1の透光層に接する面とは反対側の面に反射層が形成されているセルによって構成したものである。
【0048】
(42) 本発明の第42の態様は、上述の第31〜第36の態様に係る光学素子において、
有効領域を経ない光を遮る遮光層もしくは有効領域以外の部分に到達した光を吸収する吸光層を形成したものである。
【0049】
(43) 本発明の第43の態様は、上述の第37、第39〜第41の態様に係る光学素子において、
反射層を各三次元セルの有効領域内のみに形成したものである。
【0050】
(44) 本発明の第44の態様は、上述の第30〜第43の態様に係る光学素子において、
所定の視点位置から観測したときに物体像が再生されるように、当該物体像からの物体光の複素振幅分布を記録し、ホログラムとして利用することができるようにしたものである。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、原画像が干渉縞としてではなく物体光の複素振幅分布として記録されるため、再生時に高い回折効率が得られる。しかも、複素振幅分布は、三次元セル上に回折格子として記録され、この回折格子が形成されている有効面積として振幅が表現され、回折格子の空間的な位置として位相が表現される。このため、振幅を記録するための領域を比較的広く設定することが可能になり、それほど高い加工精度のプロセスでなくても、物理的な光学素子の製造が可能になる。かくして、本発明によれば、製造プロセスが比較的容易で、生産性に優れた光学素子を提供することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
【0053】
<<< §1.複素振幅分布を記録する基本原理 >>>
図1は、参照光を利用して、光学的に干渉縞として物体像を記録する一般的なホログラフィーの手法を示す斜視図である。物体10の立体像を記録媒体20上に記録する場合、物体10を参照光Rと同一波長の光(通常は、レーザ光)で照らし、物体10からの物体光と参照光Rとによって記録媒体20上に形成される干渉縞を記録することになる。ここでは、記録媒体20上にXY座標系を定義し、座標(x,y)に位置する任意の点P(x,y)に着目すると、この点P(x,y)には、物体10上の各点O(1),O(2),…,O(k),…,O(K)からの各物体光と参照光Rとの干渉による合成波の振幅強度が記録されることになる。記録媒体20上の別な点P(x′,y′)にも、同様に、各点からの物体光と参照光Rとの干渉による合成波の振幅強度が記録されるが、光の伝播距離が異なるため、点P(x,y)に記録される振幅強度と点P(x′,y′)に記録される振幅強度とは異なる。このようにして、記録媒体20上には、振幅強度分布が記録されることになり、この振幅強度分布によって、物体光の振幅と位相とが表現されていることになる。再生時には、参照光Rと同一波長の再生照明光を参照光Rと同一方向(もしくは、記録媒体20に関して面対称となる方向)から照射することにより、物体10の立体再生像が得られる。
【0054】
光学的な方法により、記録媒体20上に干渉縞を記録するには、記録媒体20として感光性材料を用いることになり、干渉縞は記録媒体20上の濃淡パターンとして記録されることになる。一方、計算機合成ホログラムの手法を利用する場合には、この図1に示す光学系で生じる現象を、コンピュータ上でシミュレーションすればよい。具体的には、現実の物体10や記録媒体20の代わりに、コンピュータ上の仮想三次元空間内において、原画像となる物体像10および記録面20を定義し、物体像10上に多数の点光源O(1),O(2),…,O(k),…,O(K)を定義する。そして、各点光源について、所定の波長、振幅、位相をもった物体光(球面波)を定義し、更に、この物体光と同一波長をもった参照光を定義する。一方、記録面20上に、多数の代表点P(x,y)を定義し、個々の代表点の位置に到達する物体光と参照光との合成波の振幅強度を演算によって求める。こうして、記録面20上には、演算によって振幅強度分布(干渉縞)が求まることになるので、この振幅強度分布を物理的な記録媒体上に、濃淡分布あるいは凹凸分布として記録すれば、物理的なホログラム記録媒体を作成することができる。
【0055】
もっとも、計算機ホログラムの手法を用いれば、必ずしも参照光Rを用いて干渉縞として記録を行う必要はなく、物体像10からの物体光そのものを記録面20に直接記録することも可能である。すなわち、光学的にホログラムを作成する場合には、感光性材料からなる記録媒体20上に、感光に必要な一定時間にわたって干渉波を発生させ、これを干渉縞として記録しなければならない。このため、参照光を利用して定在波となる干渉波を発生させる必要がある。ところが、計算機ホログラムの手法を利用すれば、記録面20上に存在するある瞬間の波の状態を、あたかも時間を静止させて観測することができ、これを記録することができる。別言すれば、所定の基準時刻における記録面20上の各代表点位置における物体光の振幅および位相を演算によって求めることができる。本発明では、このような計算機ホログラムの利点を生かし、物体光を参照光との干渉縞として記録する手法を採らずに、物体光の振幅と位相とを直接記録する手法を採っている。
【0056】
いま、たとえば、図2の斜視図に示すように、点光源Oと記録面20とが定義されている場合に、記録面20上の代表点P(x,y)に到達した物体光の振幅と位相がどのように計算されるかを考えてみよう。一般に、振幅と位相とを考慮した波動は、
Acosθ + i Asinθ
なる複素関数で表現される(iは虚数単位)。ここで、Aが振幅を示すパラメータであり、θが位相を示すパラメータである。そこで、点光源Oから発せられる物体光を、上記複素関数で定義すれば、代表点P(x,y)の位置における物体光は、
A/r・cos(θ+2πr/λ)
+ i A/r・sin(θ+2πr/λ)
なる複素関数で表される。ここで、Aは基準となる振幅値、rは、点光源Oと代表点P(x,y)との距離であり、λは物体光の波長である。物体光の振幅は距離rが大きくなるにしたがって減衰し、位相は距離rと波長λとの関係で決定される。この複素関数には、時間を示す変数が入っていないが、これは、前述したように、所定の基準時刻において時間を静止させたときに観測される波の瞬間状態を示す式だからである。
【0057】
結局、物体像10の情報を記録面20上に記録するには、図3の斜視図に示されているように、物体像10上に多数の点光源O(1),O(2),…,O(k),…,O(K)を定義し、記録面20上の各代表点位置において、各点光源から発せられる物体光の合成波の振幅および位相を演算によって求め、これを何らかの方法で記録すればよい。いま、物体像10上に合計K個の点光源が定義され、第k番目の点光源O(k)から発せられる物体光が、図3に示すように、
Ak cosθk + i Ak sinθk
なる複素関数で表現されたとしよう。物体像10が、それぞれ所定の階調値(濃度値)をもった画素の集合から構成されていたとすれば、振幅を示すパラメータAkは、当該点光源O(k)の位置に存在する画素の階調値に対応して定められる。位相θkは、一般的には、θk=0なる設定でかまわないが、必要に応じて、物体像10の各部から異なる位相の物体光が発せられているような設定を行うことも可能である。全K個の点光源について、それぞれ上記複素関数で表現される物体光が定義できたら、記録面20上の任意の代表点P(x,y)の位置における全K個の物体光の合成波は、図3に示すように、
Σ k=1〜K (Ak/rk cos(θk+2πrk/λ)
+i Ak/rk sin(θk+2πrk/λ))
なる複素関数で表現されることになる。ここで、Akは第k番目の点光源O(k)から単位距離だけ離れた位置の振幅、rkは第k番目の点光源O(k)と代表点P(x,y)との距離である。なお、上述の式は、物体像10を記録媒体の奥に再生させる場合の式に相当する。物体像10を記録媒体の手前側に浮き出すように再生させる場合には、
Σ k=1〜K (Ak/rk cos(θk−2πrk/λ)
+i Ak/rk sin(θk−2πrk/λ))
なる式により複素関数を計算すればよい(位相の項の符号が負になっている)。したがって、両方の場合を考慮した複素関数は、
Σ k=1〜K (Ak/rk cos(θk±2πrk/λ)
+i Ak/rk sin(θk±2πrk/λ))
となる。この関数の実数部をRxy,虚数部をIxyとして、Rxy+iIxyなる形にすれば、この合成波の代表点P(x,y)の位置における複素振幅(位相を考慮した振幅)は、図4に示すように、複素座標平面上における座標点Tで示されることになる。結局、代表点P(x,y)における物体光合成波の振幅は、図4に示す座標平面における原点Oと座標点Tとの距離A(x,y)で与えられ、位相はベクトルOTと実数軸とのなす角度θ(x,y)で与えられることになる。
【0058】
かくして、記録面20上に定義された任意の代表点P(x,y)位置における物体光合成波の振幅A(x,y)と位相θ(x,y)とが、計算によって求められることになる。したがって、記録面20上には、物体像10から発せられる物体光の複素振幅分布(物体光合成波の振幅および位相の分布)が得られる。こうして得られた複素振幅分布を、何らかの形で物理的な記録媒体上に記録し、所定の再生照明光を与えたときに、物体光の波面が再生されるようにすれば、物体像10をホログラムとして記録できることになる。
【0059】
そこで、本願発明者は、記録面20上に物体像10から発せられる物体光の複素振幅分布を記録するために、三次元セルを用いる方法を着想した。三次元セルを用いて複素振幅分布を記録し、物体像10をホログラムとして記録するには、次のような手順を行えばよい。まず、たとえば、図5に示すように、記録面20の位置に、三次元仮想セル集合30を定義する。この三次元仮想セル集合30は、所定寸法をもったブロック状の仮想セルを縦横に並べることにより、セルを二次元的に配列したものである。そして、個々の仮想セルについて、それぞれ代表点を定義する。代表点の位置は、セル内の任意の1点でかまわないが、ここでは、セル前面(物体像10に向かい合った面)の中心点位置に当該セルの代表点を定義することにする。たとえば、三次元仮想セル集合30の前面(物体像10に向かい合った面)にXY座標系を定義し、この座標系における座標(x,y)の位置にある代表点P(x,y)をもつ仮想セルを、仮想セルC(x,y)と呼ぶことにすれば、この仮想セルC(x,y)の前面の中心点に代表点P(x,y)がくることになる。
【0060】
一方、物体像10を点光源の集合として定義する。図5に示す例では、物体像10は、K個の点光源O(1),O(2),…,O(k),…,O(K)の集合として定義されている。これら各点光源からは、それぞれ所定の振幅および位相をもった物体光が発せられ、代表点P(x,y)には、これら物体光の合成波が到達することになる。この合成波の複素振幅は、前述した式により計算することができ、図4に示す複素座標平面における座標点Tとして示され、この座標点Tに基づいて、振幅A(x,y)と位相θ(x,y)が得られることは既に述べたとおりである。ここでは、代表点P(x,y)について得られた振幅A(x,y)および位相θ(x,y)を、当該代表点P(x,y)を含む仮想セルC(x,y)についての特定振幅A(x,y)および特定位相θ(x,y)と呼ぶことにする。
【0061】
以上の手順は、実際にはコンピュータを用いた演算処理として実行されることになる。結局、この演算処理により、三次元仮想セル集合30を構成するすべての仮想セルについて、それぞれ特定振幅と特定位相とを求めることができる。そこで、これら個々の仮想セルをそれぞれ実体のある物理セルに置き換えれば、三次元物理セルの集合からなる光学素子(物体像10が記録されたホログラム記録媒体)が作成できる。ここで、仮想セルに取って代わる物理セルは、仮想セルに定義されている特定振幅および特定位相に応じて、入射光の振幅および位相を変調することができるような光学的特性を有している必要がある。別言すれば、置き換えられた個々の物理セルは、所定の入射光を与えたときに、置換前の仮想セルに定義されていた特定振幅および特定位相に応じて、この入射光の振幅および位相を変化させることにより射出光を生み出す機能をもった特定の光学的特性を有している必要がある。
【0062】
このような特定の光学的特性をもった物理セルの集合からなる光学素子に対して、所定の再生用照明光(理想的には、上記演算処理において用いた物体光波長λと同じ波長をもった単色光平面波)を照射すれば、個々の物理セルでは、再生用照明光が特定振幅および特定位相によって変調されるので、もとの物体光の波面が再生されることになる。かくして、この光学素子に記録されていたホログラムが再生されることになる。
【0063】
<<< §2.三次元セルの具体的な構成例 >>>
続いて、複素振幅(振幅Aと位相θ)を記録するのに適した三次元セルの具体的な構成例について述べる。ここで述べるセルは、三次元の立体セルであり、それぞれ特定振幅および特定位相が定義されており、個々のセルに所定の入射光を与えると、当該セルに定義された特定振幅および特定位相に応じて入射光の振幅および位相を変化させた射出光が得られるような特定の光学的特性を有している。たとえば、図6に示すような三次元セルC(x,y)について、振幅A(x,y)および位相θ(x,y)が記録されていたとし、このセルに振幅Ain、位相θinなる入射光Linが与えられた場合には、振幅Aout =Ain・A(x,y)、位相θout =θin±θ(x,y)なる射出光Lout が得られる。入射光の振幅Ainは、セルに記録されていた特定振幅A(x,y)による変調を受けて振幅Aout に変化し、入射光の位相θinは、セルに記録されていた特定位相θ(x,y)による変調を受けて位相θout に変化することになる。
【0064】
三次元セル内において振幅を変調する一つの方法は、セル内に特定振幅に応じた透過率をもった振幅変調部を設けておく方法である(セル全体を振幅変調部として用いてもよいし、セルの一部分に振幅変調部を設けるようにしてもよい)。たとえば、透過率がZ%の振幅変調部をもったセルは、A(x,y)=Z/100なる特定振幅が記録されているセルとして機能し、振幅Ainをもった入射光がこのセルを通ると、Aout =Ain・Z/100なる振幅をもった射出光に振幅変調されることになる。個々の三次元セルの透過率を任意の値に設定するには、たとえば、着色剤の含有率をそれぞれ変えることにより対応することができる。
【0065】
三次元セル内において振幅を変調する別な方法は、セル内に特定振幅に応じた反射率をもった振幅変調部を設けておく方法である。たとえば、反射率がZ%の振幅変調部をもったセルは、A(x,y)=Z/100なる特定振幅が記録されているセルとして機能し、振幅Ainをもった入射光がこの振幅変調部で反射して射出したとすれば、Aout =Ain・Z/100なる振幅をもった射出光に振幅変調されることになる。個々の三次元セルの反射率を任意の値に設定するには、たとえば、セル内に反射面を用意しておき(この反射面が振幅変調部として機能することになる)、この反射面の反射率を任意の値に設定すればよい。具体的には、たとえば、反射面の表面粗さを変えることにより、反射光と散乱光との割合を調節することができるので、この表面粗さを調節することにより、任意の反射率をもったセルを用意することが可能になる。
【0066】
三次元セル内において振幅を変調する更に別な方法は、セル内に特定振幅に応じた有効面積をもった振幅変調部を設けておく方法である。たとえば、入射光の全入射領域の面積を100%としたときに、このうちのZ%の有効面積をもった部分に入射した入射光だけから物体像の再生に有効な射出光が得られるような構造からなる振幅変調部をもったセルは、A(x,y)=Z/100なる特定振幅が記録されているセルとして機能する。すなわち、振幅Ainをもった入射光がこの振幅変調部に入射光しても、そのうちのZ%の光だけが有効な射出光として出て行くことになるので、Aout =Ain・Z/100なる振幅をもった射出光に振幅変調されたことになる。
【0067】
一方、三次元セル内において位相を変調する一つの方法は、セル内に特定位相に応じた屈折率をもった位相変調部を設けておく方法である(セル全体を位相変調部として用いてもよいし、セルの一部分に位相変調部を設けるようにしてもよい)。たとえば、屈折率がn1の材料からなる位相変調部をもったセルと、屈折率がn2の材料からなる位相変調部をもったセルとでは、同一位相をもった入射光を与えても、それぞれ射出光の位相に差が生じることになる。したがって、屈折率の異なる種々の材料からセルを構成するようにすれば、入射光に対して任意の位相変調を施すことが可能になる。
【0068】
三次元セル内において位相を変調する別な方法は、セル内に特定位相に応じた光路長をもった位相変調部を設けておく方法である(セル全体を位相変調部として用いてもよいし、セルの一部分に位相変調部を設けるようにしてもよい)。たとえば、屈折率nをもった同一材料からなる位相変調部をもったセルであっても、この位相変調部の光路長が異なれば、同一位相をもった入射光を与えても、それぞれ射出光の位相に差が生じることになる。たとえば、第1のセルに設けられた位相変調部の光路長がL、第2のセルに設けられた位相変調部の光路長が2Lであったとすると、同一位相をもった入射光が与えられたとしても、第1のセルからの射出光に比べて、第2のセルからの射出光は、屈折率nをもった材料中を進んだ距離が2倍になるので、それだけ大きな位相差が生じていることになる。任意の光路長をもった位相変調部を実現するには、物理的な凹凸構造をもったセルを用いればよい。
【0069】
このように、特定振幅に基づく振幅変調機能をもった三次元セルや、特定位相に基づく位相変調機能をもった三次元セルは、いくつかの方法によって実現可能である。たとえば、振幅変調方法として、セル内に特定振幅に応じた透過率をもった振幅変調部を設けておく方法を採り、位相変調方法として、セル内に特定位相に応じた屈折率をもった位相変調部を設けておく方法を採り、セル全体を振幅変調部および位相変調部として用いるのであれば、図7の表に示されているような16通りの物理セルを選択的に配列することにより、光学素子を形成することができる。この表の横軸は振幅A、縦軸は位相θに対応しており、振幅Aおよび位相θともに、4つのレンジに分けられている。
【0070】
ここで、振幅Aが「0〜25%」に対応するレンジに描かれたセル(表の第1列目のセル)は、透過率が非常に低い材料からなるセルであり、振幅Aが「25〜50%」に対応するレンジに描かれたセル(表の第2列目のセル)は、透過率がやや低い材料からなるセルであり、振幅Aが「50〜75%」に対応するレンジに描かれたセル(表の第3列目のセル)は、透過率がやや高い材料からなるセルであり、振幅Aが「75〜100%」に対応するレンジに描かれたセル(表の第4列目のセル)は、透過率が非常に高い材料からなるセルである。
【0071】
一方、位相θが「0〜π/2」に対応するレンジに描かれたセル(表の第1行目のセル)は、空気に非常に近い屈折率n1をもつ材料からなるセルであり、位相θが「π/2〜π」に対応するレンジに描かれたセル(表の第2行目のセル)は、空気よりやや大きい屈折率n2をもつ材料からなるセルであり、位相θが「π〜3π/2」に対応するレンジに描かれたセル(表の第3行目のセル)は、空気よりかなり大きい屈折率n3をもつ材料からなるセルであり、位相θが「3π/2〜2π」に対応するレンジに描かれたセル(表の第4行目のセル)は、空気より非常に大きい屈折率n4をもつ材料からなるセルである。
【0072】
このように、図7に示す例では、4通りの透過率、4通りの屈折率をもった合計16個のセルが用意されているが、より高い精度で振幅と位相をセルに記録するには、透過率および屈折率のステップを更に細かく設定し、より多数種類のセルを用意すればよい。このような16通りの物理セルを用いて仮想セルを置き換えるには、個々の仮想セルに定義された特定振幅および特定位相による変調を行うために必要とされる光学的特性に最も近い光学的特性を有する物理セルを選択すればよい。
【0073】
<<< §3.先願発明で提案されている三次元セル >>>
上述したとおり、複素振幅を記録するための三次元セルは、原理的には、特定振幅および特定位相に応じて入射光を変調する機能をもったセルであれば、どのような構成で実現してもかまわない。図7には、特定振幅に応じた変調を透過率により制御し、特定位相に応じた変調を屈折率により制御する例が示されている。このように、理論的には、振幅や位相を変調する方法は、何通りも存在するが、工業的に量産することを考慮すると、必ずしもすべての方法が実用的であるとは言えない。複素振幅を記録した光学素子を用いて、ある程度の解像度をもった物体像を再生するためには、個々の三次元セルの寸法をある程度以下に制限せざるを得ない(大まかに言って、セル寸法が100μm以上になると、視認性の良い物体像の再生は困難である)。したがって、図7に示す16通りの物理セルを組み合わせて光学素子を作成する場合、微小なセルを部品として二次元的に配列する作業が必要になり、しかも、特定の位置には、16通りのセルのうちの特定のセルを配置する必要がある。このような作業を考えれば、図7に示すような物理セルを用いて光学素子を構成する方法は、工業的な量産には適していないことがわかる。
【0074】
そこで、前掲の特許文献1(先願発明:特開2002−072837号公報)には、最適な実施形態として、図8に示すような構造をもった三次元セルC(x,y)が開示されている。図示のとおり、この三次元セルは、ほぼ直方体のブロック状をしており、その上面には、溝G(x,y)が形成されている。各部の具体的な寸法は、図において、C1=0.6μm、C2=0.25μm、C3=0.25μmであり、溝G(x,y)の寸法は、G1=0.2μm、G2=0.05μm、G3=C3=0.25μmである。このような構造をもった三次元セルC(x,y)を用いれば、振幅の情報は、溝G(x,y)の横方向の幅G1の値として記録することができ、位相の情報は、溝G(x,y)の深さG2の値として記録することができる。別言すれば、特定振幅および特定位相が定義された仮想セルを、このような構造をもった物理セルで置き換える際には、特定振幅に応じた寸法G1を有し、特定位相に応じた寸法G2を有する物理セルによる置き換えが行われることになる。
【0075】
この図8に示す三次元セルにおいて、振幅の情報が溝G(x,y)の幅G1として記録され、位相の情報が溝G(x,y)の深さG2として記録される理由を、図9の正面図を参照して説明しよう。いま、この物理セルC(x,y)が屈折率n2をもった物質から構成されており、この物理セルC(x,y)の外側が屈折率n1をもった物質(たとえば、空気)から構成されているものとする。このとき、溝G(x,y)の内部の面S1に垂直に入射した光L1と、溝G(x,y)の外部の面S2に垂直に入射した光L2とについて、屈折率n2の媒質中を通過する光路長を比較すると、光L1の光路長の方が、光L2の光路長よりも、溝G(x,y)の深さG2の分だけ短くなることがわかる。したがって、屈折率n1,n2が異なっていれば、物理セルC(x,y)から透過光として射出される光L1と光L2との間には、所定の位相差が生じることになる。
【0076】
一方、図10は、三次元セルC(x,y)からの反射光として射出光が得られる場合を示す正面図である。この例では、三次元セルC(x,y)の上面、すなわち、面S1およびS2が反射面となっており、溝G(x,y)の内部の面S1にほぼ垂直に入射した光L1と、溝G(x,y)の外部の面S2にほぼ垂直に入射した光L2とが、それぞれ各面にほぼ垂直に反射して射出することになる。このとき、入射および反射の経路に沿った全光路長を比較すると、光L1の光路長の方が、光L2の光路長よりも、溝G(x,y)の深さG2の2倍に相当する分だけ長くなることがわかる。したがって、物理セルC(x,y)から反射光として射出される光L1と光L2との間には、所定の位相差が生じることになる。
【0077】
このように、三次元セルC(x,y)が透過型のセルであっても、反射型のセルであっても、溝G(x,y)の内部の面S1に入射した光L1と、溝G(x,y)の外部の面S2に入射した光L2との間には、所定の位相差が生じることになり、この位相差は溝G(x,y)の深さG2に応じて決まることになる。そこで、三次元セルC(x,y)の上面に入射した光のうち、溝G(x,y)の内部の面S1への入射光に基づいて得られる射出光のみを、物体像10の再生に有効な射出光として取り扱うことにすれば(別言すれば、図9または図10において、光L1のみを像の再生に有効な射出光として取り扱うようにすれば)、像の再生に有効な射出光L1は、この三次元セルC(x,y)において、溝G(x,y)の深さG2に対応した特定位相による位相変調を受けたことになる。かくして、物体光の位相の情報は、溝G(x,y)の深さG2として記録することができる。
【0078】
また、上述のように、溝G(x,y)の内部の面S1への入射光に基づいて得られる射出光のみを、物体像10の再生に有効な射出光として取り扱うことにすれば、物体光の振幅の情報を、溝G(x,y)の幅G1として記録することができる。なぜなら、溝G(x,y)の幅G1が大きくなればなるほど、溝G(x,y)の内部の面S1の面積も大きくなり、物体像10の再生に有効な射出光の割合が増えるためである。すなわち、図9または図10に示す射出光L2には、何ら意味のある位相成分が含まれていないため、再生時に視点位置においてこれら射出光L2が観測されたとしても、いわゆるバックグラウンドのノイズ成分として観測されるだけであり、意味のある像を再生する有効な光としては認識されないことになる。これに対し、射出光L1には、意味のある位相成分が含まれているため、像の再生に有効な信号成分として観測されることになる。結局、溝G(x,y)の幅G1は、当該物理セルC(x,y)から射出される光のうちの信号成分として観測される光L1の割合を決定する要素ということになり、信号波の振幅の情報を与えるパラメータになる。
【0079】
図8に示すような溝G(x,y)をもった物理セルC(x,y)では、溝の幅G1および深さG2は連続的に変化させることができるので、理論的には、無限種類の物理セルを用意することが可能である。このような無限種類の物理セルを用いれば、仮想セルに定義された特定振幅に応じた正確な溝幅G1をもち、特定位相に応じた正確な深さG2をもった物理セルによって、当該仮想セルを置き換えることが可能である。しかしながら、実用上は、a通りの溝幅、b通りの深さを予め定め、合計a×b通りの物理セルを用意しておき、これらの物理セルの中から必要とされる光学的特性が最も近い物理セルを選択して用いることになる。図11は、7通りの溝幅と、4通りの深さとを定め、合計28通りの物理セルを用意した例を示す斜視図である。この28通りの物理セルは、いずれも図8に示す形態をしたブロック状の物理セルであり、図11には、これらの物理セルを4行7列の行列状に配置した状態が示されている。
【0080】
この図11に示された行列の7つの列は、振幅Aのバリエーションを示し、4つの行は、位相θのバリエーションを示している。たとえば、列W1に位置するセルは、振幅Aの最小値に対応するセルであり、溝幅G1=0、すなわち、溝Gが全く形成されていないセルになっている。列W2〜W7へと右側へ移動するにしたがって、より大きな振幅Aに対応するセルとなっており、溝幅G1は徐々に広がっている。列W7に位置するセルは、振幅Aの最大値に対応するセルであり、溝幅G1=セル幅C1、すなわち、全面が掘られたセルになっている。また、この図11に示された行列の行に着目すると、たとえば、行V1に位置するセルは、位相θの最小値に対応するセルであり、溝の深さG2=0、すなわち、溝Gが全く形成されていないセルになっている。行V2〜V4へと下側へ移動するにしたがって、より大きな位相θに対応するセルとなっており、溝の深さG2は徐々に大きくなっている。
【0081】
しかしながら、この先願発明に係る構造をもった三次元セルの集合体からなる光学素子を物理的に製造するためには、微細加工を行う技術が必要であり、高精度の製造プロセスが必要になる。たとえば、図8に示す三次元セルの場合、セルの横幅C1は0.6μmに設定されている。したがって、図11に示す例のように、振幅Aの値を7段階の精度で記録するためには、溝幅G1のバリエーションを7通り用意する必要があり、たとえば、列W1のセルではG1=0,列W2のセルではG1=0.1μm,列W3のセルではG1=0.2μm,列W4のセルではG1=0.3μm,列W5のセルではG1=0.4μm,列W6のセルではG1=0.5μm,列W7のセルではG1=0.6μm(すなわち、セルの横幅C1と同じ)、というような設定が必要になる。
【0082】
ところが、0.1μm,0.2μm,0.3μm,0.4μm,0.5μmといった微小な幅を有する溝を高い精度で形成するためには、極めて高い加工精度をもった装置が必要になる。このため、図8に示すような構造をもった三次元セルの集合体によって光学素子を形成すると、生産性を向上することが困難である。本発明は、この先願発明に開示されている光学素子に比べて、製造プロセスが比較的容易で、生産性に優れた光学素子を提供する新たな方法を提案するものである。以下、この方法を§4以降で詳述する。
【0083】
<<< §4.本発明で用いる三次元セルの基本構造 >>>
図12は、本発明の基本的実施形態で用いる物理的な三次元セルC(x,y)の構造の一例を示す斜視図である。図8に示す先願発明で提案されていた三次元セルC(x,y)と、図12に示す本発明に係る三次元セルC(x,y)とを比較すると、いずれも直方体を基本形状とする三次元セルであり、個々のセルごとに特定振幅および特定位相が記録されている、という点では共通する。ただ、特定振幅および特定位相の記録形態が異なっている。
【0084】
すなわち、前者では、図8に示すとおり、直方体を基本形状とするセルの上面に溝G(x,y)を形成し、その幅G1により振幅Aを表現し、深さG2により位相θを表現していた。これに対して、後者では、図12に示すとおり、直方体を基本形状とするセルの上面に回折格子G(x,y)を形成し、振幅Aおよび位相θの記録を行うことになる。このように、前者における溝の役割を、後者では回折格子が果たすことになるので、ここでは、説明の便宜上、図12の回折格子について、図8の溝と同じ符号G(x,y)を用いて示すことにする。なお、回折格子G(x,y)および三次元セルC(x,y)の符号(x,y)は、当該セルが、図5に示すXY座標系上の代表点P(x,y)の位置に配置されるセルであることを示している。
【0085】
図12において、寸法C1,C2,C3は、この三次元セルC(x,y)の基本形状となる直方体の寸法であり、寸法G1は回折格子G(x,y)が形成されている領域の長さであり、寸法G2は回折格子G(x,y)を構成する凹凸構造の最浅部から最深部までの深さであり、寸法G3は回折格子G(x,y)が形成されている領域の幅である。結局、回折格子G(x,y)は、図の上方にハッチングを施して示すとおり、寸法G1×G3をもった長方形の領域E(x,y)に形成されていることになる。ここでは、この長方形の領域を有効領域E(x,y)と呼ぶことにし、セル上面の有効領域E(x,y)以外の領域を、余白領域B(x,y)と呼ぶことにする。
【0086】
本発明では、この三次元セルC(x,y)についての特定振幅Aを、有効領域E(x,y)の面積として記録する。すなわち、特定振幅Aが小さいセルの場合、有効領域E(x,y)の面積を小さく設定し、特定振幅Aが大きいセルの場合、有効領域E(x,y)の面積を大きく設定すればよい。有効領域E(x,y)の最小値は0であり(この場合、回折格子は全く形成されない)、最大値はセルの上面全体の面積である(この場合、余白領域B(x,y)がなくなる)。したがって、図示の例の場合、特定振幅Aの大きさのダイナミックレンジは、0〜「C1×C3」となる。後述するように、本発明に係る光学素子の観察者には、この回折格子G(x,y)による回折光が観測されるので、有効領域E(x,y)の面積が大きいセル程、強い回折光が観測されることになる。したがって、この図12に示す三次元セルは、振幅Aに関して、図6に示すモデル通りのセルとして機能する。
【0087】
もちろん、本発明を実施する上では、必ずしも三次元セルとして、基本形状が直方体のセルを用いる必要はない。ただ、実用上は、図5に示すように、この三次元セルをマトリックス状に配置して光学素子を形成することになるので、セルの基本形状は直方体とするのが最も好ましい。また、有効領域E(x,y)の形状も、必ずしも長方形にする必要はないが、物理的に回折格子を形成するプロセスを単純にするため、実用上は、長方形が最も好ましい。更に、図12に示す例では、有効領域E(x,y)を、セルの長さC1の区間のほぼ中央部に設定し、両側に余白領域B(x,y)が配置される構成をとっているが、たとえば、有効領域E(x,y)を、セルC(x,y)の上面の左端まで移動し、図の右側部分のみに余白領域B(x,y)が配置される構成をとってもかまわない。
【0088】
なお、ここに示す実施形態では、回折格子の凹凸形状の変化が、有効領域E(x,y)の寸法G1の辺に沿った方向に生じるような構造をとっており、寸法G3の辺に沿った方向に関しては、凹凸形状の変化は全くない。また、有効領域E(x,y)の幅G3は常にセルの幅C3に等しくなるように設定している。したがって、どのセルの場合も、セルの全幅(寸法C3)にわたって回折格子が形成され、有効領域E(x,y)の面積は、専ら、寸法G1によって規定されることになる(有効領域E(x,y)の面積は、寸法G1に比例する)。
【0089】
もちろん、有効領域E(x,y)の幅G3は、必ずしもセルの幅C3に常に等しくなるように設定する必要はない。ただ、後述するように、本発明を実施する上では、三次元セルC(x,y)の寸法C3は、寸法C1に比べてかなり小さく設定するのが好ましい(立体視の効果を高めるため)。したがって、実用上は、有効領域E(x,y)の幅G3が常にセルの幅C3に等しくなるように設定し、記録すべき振幅Aの値にかかわらず、どのセルの場合も、セルの全幅(寸法C3)にわたって回折格子が形成されるようにするのが好ましい。なお、ここでは、回折格子G(x,y)を、多数のスロープによる凹凸構造(断面が三角形を連ねた鋸歯状となる構造)によって形成した例を示したが、回折格子を形成する凹凸構造は、このような例に限定されるものではない(後に、階段状の構造例を示す)。
【0090】
続いて、この図12に示す三次元セルにおける特定位相θの記録方法を説明する。図13は、この位相θの記録原理を示す拡大正面図である。図の上段は、図12に示す回折格子G(x,y)の部分の拡大正面図であり、長さG1をもった有効領域E(x,y)内に、スロープによる凹凸構造を有する回折格子Gが形成されている状態が示されている。図示のとおり、この回折格子Gは、周期ξをもった周期的な凹凸形状変化をなす構造体であり、この凹凸構造体の最浅部から最深部までの深さがh(図12における寸法G2に対応)となっている。このように、所定周期ξをもった周期的な凹凸形状を有する構造体には、位相θを空間的な配置位相として定義することができる。
【0091】
たとえば、この図13の上段に示されている凹凸構造部分(長さG1をもった有効領域内の部分)を右方向にξ/4だけ移動させると、図13の下段に示されている構造体を得ることができる。周期ξが2πの位相差に相当するので、移動量ξ/4は、π/2の位相差に相当する。結局、図13の上段に示す回折格子の位相θを基準値0と定義すれば、図13の下段に示す回折格子の位相θはπ/2ということになる。このように、周期ξの範囲内の所定量だけ、凹凸構造部分を図の横方向にシフトさせることにより、0〜2πの範囲内の位相θに対応した構造を得ることができる。したがって、たとえば、特定位相θ=0を記録すべき三次元セルについては、図13の上段のような構造をもった回折格子を形成すればよいし、特定位相θ=π/2を記録すべき三次元セルについては、図13の下段のような構造をもった回折格子を形成すればよい。
【0092】
このように、周期的な凹凸形状変化の空間的な配置位相として位相θが記録された三次元セルは、位相θに関して、図6に示すモデル通りのセルとして機能する。以下にその理由を説明する。まず、このような構造をもった物理的な三次元セルを二次元マトリックス状に配列することにより光学素子を構成し、この光学素子に再生用照明光を当て、ホログラムとして記録されている物体像10を再生する環境を考えてみる。
【0093】
図14は、このような再生を行う場合の光学素子40(物理セルを用いたホログラム記録媒体)と、再生用照明光LtまたはLrと、視点Eとの関係を示す側面図である。光学素子40が、透過型セルを用いた透過型タイプの場合、図示のとおり、視点Eとは反対側の面に再生用照明光Ltを照射し、光学素子40を透過してきた光を視点Eにおいて観察することになり、光学素子40が、反射型セルを用いた反射型タイプの場合、図示のとおり、視点Eと同じ側の面に再生用照明光Lrを照射し、光学素子40から反射してきた光を視点Eにおいて観察することになる。いずれにせよ、図6に示すモデル通りのセルとして機能する物理的なセルを用いて光学素子40を構成した場合、再生用照明光LtまたはLrを単色光の平面波として与え、図14に示されているように、光学素子40の記録面(物理セルが配列されている二次元配列面)の法線方向から再生用照明光LtまたはLrを照射し(別言すれば、波面が光学素子40の記録面に平行になるように再生用照明光を照射し)、記録面の法線方向から像の観察を行うと、正しい再生像が観測されることになる。
【0094】
しかしながら、ホログラムとして物体像10が記録されている光学素子40の実際の再生環境は、必ずしも図14に示すような理想的な環境にはならない。特に、反射型タイプの場合、視点Eの位置には観測者の頭が位置するため、図14に示す方向から再生用照明光Lrを照射しても、光学素子40には観測者の影ができてしまい、良好な再生を行うことができない。したがって、実際の再生環境は、図15に示すように、光学素子40の記録面に対して斜め方向から再生用照明光LtもしくはLrを照射し、法線方向に位置する視点Eにおいて再生像を観察するか、図16に示すように、光学素子40の記録面の法線方向から再生用照明光LtもしくはLrを照射し、斜め方向に位置する視点Eにおいて再生像を観察するか、あるいは、再生用照明光Lt,Lrの照射方向も、視点Eからの観察方向も、いずれも斜め方向に設定する、という形式になるのが一般的である。
【0095】
このような実際の再生環境において、良好な再生像が得られるような光学素子40を作成するためには、光学素子40から放射される再生用照明光が、所定の視点Eの方向へ向かうような何らかの工夫を行う必要がある。先願発明では、このような工夫を行うために、個々の三次元セル(図8に示す溝を有するセル)の溝の深さとして記録すべき特定位相に対して、修正処理を行う方法を採っていた。これに対して、本発明に係る三次元セルでは、溝の代わりに回折格子が形成されるので、この回折格子の回折機能を利用して、再生用照明光が所定の視点Eの方向へ向かうようにすることができる。
【0096】
たとえば、図17に示すように、斜め方向から再生用照明光L1〜L4を照射し、光学素子40を透過することにより振幅および位相の変調を受けた光LL1〜LL4(物体像10からの物体光の波面を再現した光)を、法線方向に位置する視点Eにおいて観察する場合を考えてみよう。この場合、光学素子40が回折格子として機能することに着目すれば、回折格子に入射した再生用照明光L1〜L4が回折して、回折光LL1〜LL4として視点Eへ向かうようにすればよい。
【0097】
ここでは、再生用照明光L1〜L4が波長λをもった単色平面波である単純な例を考える。このような再生用照明光を斜め方向から光学素子40に照射したとすると、光学素子40上の各点P1〜P4に到達した時点で光路差が生じることになり、各点P1〜P4における入射光自体が既に位相差を生じていることになる。たとえば、点P2,P3,P4の位置への入射光は、点P1の位置への入射光に比べて、光路長がd2,d3,d4だけ長くなっているため、この光路差の分だけ入射光自体が既に位相差を生じていることになる。光の回折現象とは、そもそも、このような位置によって生じる位相差を解消するような方向に光が射出する現象ということができる。したがって、光学素子40の回折機能によって、図示のような方向に回折光LL1〜LL4が得られたとすれば、これらの回折光LL1〜LL4間に生じていた位相差は既に解消されており、視点Eに到達する光には、光路長d2,d3,d4に起因する位相差は生じない。
【0098】
一方、図18は、法線方向から再生用照明光L1〜L4を照射し、光学素子40を透過することにより振幅および位相の変調を受けた光LL1〜LL4(物体像10からの物体光の波面を再現した光)を、斜め方向に位置する視点Eにおいて観察する場合を示す側面図である。この場合も、再生用照明光L1〜L4が波長λをもった単色平面波であるとし、このような再生用照明光を法線方向から光学素子40に照射したとしよう。すると、光学素子40上の各点P1〜P4に到達した時点では、何ら光路差は生じておらず、各点P1〜P4における入射光の位相は揃っているが、各点P1〜P4の位置から発せられる射出光が視点Eに到達するまでの光路長にはそれぞれ差が生じてしまう。たとえば、点P2,P3,P4の位置からの射出光は、点P1の位置からの射出光に比べて、光路長がd2,d3,d4だけ長くなっている。しかしながら、光学素子40の回折機能によって、図示のような方向に回折光LL1〜LL4が得られたということは、この方向に射出する回折光LL1〜LL4については、光路長d2,d3,d4に起因する位相差が相殺されるということであり、視点Eに到達する光には、光路長d2,d3,d4に起因する位相差は生じない。
【0099】
以上、透過型の光学素子40についての現象を説明したが、反射型の光学素子40であっても、その基本的な現象は全く同じである。そこで、本発明では、回折格子を有する三次元セルを用い、特定の観察環境に適した回折角を予め設定しておくことにより、図17や図18に示す観察環境を前提とした光学素子を作成する。
【0100】
なお、回折格子による光の回折現象とは、図17や図18に示す位置P1〜P4を経て観察される光の光路差に基づく位相差を解消する現象と言うことができるが、本発明において、個々の三次元セルに記録される位相θは、この回折現象によって解消される位相差とは無関係である。すなわち、観察時に最終的に視点Eに到達する光に着目すると、図17や図18に示す光路差d2〜d4に起因して生じる位相差は回折現象によって解消することになり、光学素子40上の幾何学的な位置に起因した位相差は生じない。しかしながら、個々の三次元セルには、それぞれ特定位相θが記録されており(図13に示す例のように、凹凸構造部分のシフト量として記録される)、この特定位相θに起因して生じる位相差は、観察時に最終的に視点Eに到達する光の位相に影響を与えることになる。視点Eにおいて、物体像10がホログラム像として観察できるのは、そのためである。
【0101】
この点を、図19および図20を参照して、より詳細に説明しよう。いずれの図も、図17に示す観察環境を前提として作成された光学素子40の一部を示す図、すなわち、三次元セルに形成された回折格子の1周期ξに相当する部分の拡大図であるが、両者は、回折格子の位相が異なっている。図19は、図13の上段に示すように、位相θ=0が記録されたセルを示し、図20は、図13の下段に示すように、位相θ=π/2が記録されたセルを示す。いずれの図も、記録面20の右側部分に、ハッチングを施した三角形の部分50が示されているが、この三角形の部分50が回折格子の凹凸構造を構成する部分であり、所定の屈折率をもった透光性の材質から構成されているものとする。ここでは、この三角形の部分50が屈折率n1をもった媒質中に置かれているものとし(この光学素子を空気中で観察する一般的な場合であれば、n1は空気の屈折率)、この三角形の部分50自身の屈折率がn2であるものとする。
【0102】
なお、実際には、記録面20の左側部分に、同じ材質からなるセルの本体部分が存在するが、ここでは、説明の便宜上、ハッチングを施した三角形の部分50のみに関する光の挙動を考えることにする。この三角形の部分50の横方向の寸法hは、この凹凸構造体の最浅部から最深部までの深さであり、縦方向の寸法ξは、凹凸形状変化の1周期になる。
【0103】
まず、図19に示す位相θ=0が記録されたセルの場合を考える。図示の例では、この三角形の部分の左上斜め方向から再生用照明光L1〜L3を照射すると、図の右方向に回折光LL1〜LL3が得られることになる。この場合、再生用照明光L1〜L3の入射角をφとすれば、再生用照明光L1〜L3は、回折格子により回折角φだけ回折して射出したことになる。一般に、周期ξの周期構造を有する回折格子による波長λの光の回折角φは、回折光の次数をm(m=0,±1,±2,±3,……)として、
ξsinφ=mλ
なる式で与えられる。
【0104】
ところで、図17や図18に示す観察環境において、比較的、明るい再生像を得ることができるのは、視点Eに一次回折光(m=±1)が得られる場合であるので、実用上は、m=1の場合(もしくはm=−1の場合でもよい)を想定した設計を行うのが好ましい。そこで、以下、上式において、m=1の場合を考えることにすると、
ξsinφ=λ
なる式が得られる。
【0105】
ここで、図19における入射点P1に到達した再生用照明光L1と、入射点P3に到達した再生用照明光L3との光路差をdとすれば、幾何学的に、d=ξsinφであるから、上式は、結局、光路差d=λなる関係を示している。これは、ξだけ離れた点P1,P3に到達した再生用照明光L1,L3の位相差が、波長λになることを意味している。波長λに相当する位相差2πは位相差0と等価であるから、上式は、ξだけ離れた点P1,P3に到達した再生用照明光L1,L3間には、位相差が生じないための条件という意味をもつ。
【0106】
一方、点P1に到達した再生用照明光L1は、角度φだけ回折して回折光LL1として射出する。このとき、屈折率n2をもった透光性の材質から構成されている三角形の部分50を通過した後、屈折率n1をもった媒質中(一般的には空気中)へと進むことになる。この場合、三角形の部分50(屈折率n2をもった材質)の通過距離はhである。これに対して、点P3に到達した再生用照明光L3は、角度φだけ回折して回折光LL3として射出するが、三角形の部分50(屈折率n2をもった材質)の通過距離は0である。そこで、波長λの光が、「屈折率n1をもった材質中を距離hだけ進んだ場合」と「屈折率n2をもった材質中を距離hだけ進んだ場合」との位相差が、2πとなるような距離hを求めておき、三角形の部分50の高さが、この距離hに等しくなるように設定すれば、点P1,P3から射出して、三角形の部分50を通り抜けた回折光LL1,LL3間には、位相差が生じないことになる(入射時に生じた位相差2πが相殺される)。
【0107】
次に、点P1とP3との間の任意の中間点に入射した再生用照明光の位相差を考えてみよう。たとえば、図19に示す再生用照明光L2は、入射点P2(ここでは、点P1,P3の中点であるものとする)に到達した時点で、入射点P1に到達した再生用照明光L1に対して、d/2の光路差を生じている。ここで、上述したとおり、光路差d=λであるから、光路差d/2はλ/2に相当する。したがって、入射点P2に到達した再生用照明光L2は、入射点P1に到達した再生用照明光L1に対して、πだけの位相差を生じていることになる。
【0108】
ところが、このπの位相差は、三角形の部分50を進行することにより解消する。すなわち、三角形の部分50の高さhは、「屈折率n1をもった材質中を距離hだけ進んだ場合と、屈折率n2をもった材質中を距離hだけ進んだ場合との位相差が、2πとなるような距離」に設定されているので、三角形の部分50をh/2の距離だけ進行する回折光LL2は、この進行中にπだけの位相差を生じることになり、光路差d/2に起因して生じていた位相差πが相殺されるのである。このように、記録面20に入射した時点で生じていた光路差が、三角形の部分50を通過することにより相殺される現象は、再生用照明光L2に対してのみ生じるわけではなく、点P1とP3との間の任意の位置に入射した再生用照明光についても同様に生じる。
【0109】
結局、記録面20上における幾何学的な入射位置の相違に起因して生じる位相差は、三角形の部分50を通過することにより相殺されることになる。これは、図示のような周期的な構造をもった回折格子の基本機能であり、このような位相差の相殺が生じる方向に光が曲がる現象が、光の回折の本質である。ただ、このような幾何学的な入射位置の相違に起因して生じる位相差の相殺現象が生じていても、個々の三次元セルに記録された特定位相θは、視点Eに到達した回折光の位相として観測される。その理由は、図19に示す回折格子で生じる現象と、図20に示す回折格子で生じる現象とを比較すると容易に理解できよう。
【0110】
図20に示す回折格子においても、図19に示す回折格子と全く同じ形状をなす三角形の部分50が配置されている。両者の唯一の相違は、三角形の部分50の配置が、ξ/4だけずれている(すなわち、π/2の位相差が存在する)点だけである。したがって、図20に示すセルに着目すると、記録面20上における幾何学的な入射位置の相違に起因して生じる位相差は、三角形の部分50を通過することにより相殺されるので、視点Eに到達した回折光LL1′,LL2′,LL3′の相互間に位相差は生じていない。しかしながら、図19に示す再生用照明光L1,L2,L3および入射角φと、図20に示す再生用照明光L1,L2,L3および入射角φとが、全く同じであったとしても、図19に示す回折光LL1の位相と図20に示す回折光LL1′の位相とは異なったものになる。もちろん、図19に示す回折光LL2の位相と図20に示す回折光LL2′の位相も異なったものになり、図19に示す回折光LL3の位相と図20に示す回折光LL3′の位相も異なったものになる。これらの間に生じる位相差は、各セルに記録されている特定位相θに相当するものである。
【0111】
たとえば、図19に示すセルに記録されている特定位相θをθ=0として基準にすれば、図20に示すセルに記録されている特定位相θは、θ=π/2になる(ξ/4のずれ量は、π/2の位相に相当する)。ここで、図19に示す回折光LL1の位相と、図20に示す回折光LL1′の位相を比較してみると、入射点P1の位置における位相は両者で等しい。ところが、図19に示す回折光LL1は、視点Eに到達した時点では、三角形の部分50を距離hだけ通過したことにより、2πの位相シフトを生じるのに対して、回折光LL1′は、視点Eに到達した時点では、三角形の部分50を距離(3/4)hだけ通過したことにより、(3/4)×2πの位相シフトを生じることになる。したがって、両者間には、視点Eに到達した時点で、2π−(3/4)×2π=π/2の位相差が生じていることになる。
【0112】
全く同様に、視点Eに到達した時点では、図19に示す回折光LL2と図20に示す回折光LL2′との間にもπ/2の位相差が生じる。すなわち、図19に示す回折光LL2の位相と、図20に示す回折光LL2′の位相を比較してみると、入射点P2の位置における位相は両者で等しい。ところが、図19に示す回折光LL2は、視点Eに到達した時点では、三角形の部分50を距離h/2だけ通過したことにより、πの位相シフトを生じるのに対して、回折光LL2′は、視点Eに到達した時点では、三角形の部分50を距離h/4だけ通過したことにより、(1/4)×2πの位相シフトを生じることになる。したがって、両者間には、視点Eに到達した時点で、π−(1/4)×2π=π/2の位相差が生じていることになる。
【0113】
図19に示す回折光LL3と図20に示す回折光LL3′との間にも、全く同様にして、π/2の位相差が生じていることがわかる。結局、全く同じ位相をもった再生用照明光を、全く同じ入射角φで照射したとしても、図19に示すセルから観察される回折光の位相に対して、図20に示すセルから観察される回折光の位相は、幾何学的な位置にかかわらず、常にπ/2だけずれていることになる。これは、図19に示すセルに記録されている特定位相θがθ=0であるのに対し、図20に示すセルに記録されている特定位相θが、θ=π/2であるためである。
【0114】
このように、回折格子の空間的な配置位相として位相θが記録された三次元セルは、位相θに関して、図6に示すモデル通りのセルとして機能することがわかる。結局、図12に示すような構造を有する三次元セルを用いて、特定振幅Aを有効領域E(x,y)の面積として記録し、特定位相θを回折格子G(x,y)の空間的な配置位相として記録するようにすれば、当該三次元セルは、図6に示すモデル通りのセルとして機能することになり、入射光の振幅Ainは、セルに記録されていた特定振幅A(x,y)による変調を受けて振幅Aout に変化し、入射光の位相θinは、セルに記録されていた特定位相θ(x,y)による変調を受けて位相θout に変化することになる。
【0115】
<<< §5.本発明で用いる三次元セルの利点および適切な寸法 >>>
続いて、図12に示す構造を有する三次元セルの利点を述べておく。この三次元セルの最大の利点は、図8に示す先願発明の三次元セルに比べて、製造時の加工精度が緩くなるため、製造プロセスが比較的容易になり、生産性を向上させることができる、という点である。
【0116】
先願発明の実施例によると、図8に示す三次元セルの各部の寸法として、C1=0.6μm、C2=0.25μm、C3=0.25μm、G1=0.2μm、G2=0.05μm、G3=0.25μmといった値が例示されている。図11に示す例のように、振幅Aの値を7段階の精度で記録するためには、溝幅G1のバリエーションを7通り用意する必要があるので、たとえば、0.0μm(溝なし),0.1μm,0.2μm,0.3μm,0.4μm,0.5μm,0.6μm(全面溝)といった微小な幅を有する溝を高い精度で形成する必要がある。現在、このような微細加工を行うために、電子線描画装置などが利用されているが、そのような高精度な装置を用いたとしても、0.1μm刻みで異なる幅をもった溝を正確に形成することは困難である。
【0117】
このように、振幅Aの値を7段階の精度で記録するだけでも困難であるので、振幅Aの値をより高い精度で記録することは、現在の技術では極めて困難である。たとえば、振幅Aの値を13段階の精度で記録するためには、0.05μm刻みで異なる幅をもった溝(0.0μm,0.05μm,0.10μm,0.15μm,……)を正確に形成する必要がある。
【0118】
もちろん、三次元セルのサイズを大きく設定することができれば、溝幅G1の最大値も広げることができるが、図8に示す溝構造を有する三次元セルを用いた場合、三次元セルのサイズを大きくすると、個々のセルの配置ピッチも大きくせざるを得なくなるので、ホログラム画像を記録した光学素子としての機能が損なわれてしまう。ホログラム画像を再生するためには、このような三次元セルの集合体全体が、光学的に干渉縞が記録されたホログラム記録媒体と同等の機能を果たす必要がある。そのため、図8に示す溝構造を有する三次元セルを用いる以上、個々のセルの寸法は、可視光の波長に近い寸法に設定せざるを得ない。
【0119】
具体的には、個々のセルの配置ピッチを、0.2μm〜4μmの範囲に設定すれば、光学的に干渉縞が記録されたホログラム記録媒体と比べても、遜色のない立体視効果をもった再生像が得られる。セルの配置ピッチが、0.2μm未満になると、可視光では、明瞭なホログラム再生像を形成することが困難になってくる。逆に、セルの配置ピッチが4μmを超えると、十分な立体視効果をもった再生像を形成することが困難になってくる。これは、セルの配置ピッチが大きくなるほど、立体視が得られる角度が狭くなってくるためである。たとえば、再生用照明光の波長λ=555nmの場合、セルの配置ピッチを0.4μmに設定すると、立体視が得られる角度が±44°程度になるのに対して、セルの配置ピッチを4μmに設定すると、立体視が得られる角度は±4°程度になってしまう。
【0120】
このような理由から、図8に示す溝構造を有する三次元セルを用いた場合、単純にセルのサイズを大きくして、加工精度の条件を緩和するという方法をとるわけにはゆかない。そこで本発明では、記録面上の縦横2方向に関して、1方向に関する立体視を犠牲にする代わりに、加工精度の条件を緩和するという手法をとることにする。図12に示す本発明に係る三次元セルは、このような手法に利用するための三次元セルである。このようなセルを記録面上にマトリックス状に配置して光学素子を構成した場合、図12の奥行き方向(長さC3をもった辺に平行な方向)に関する立体視効果は得られるが、図12の左右方向(長さC1をもった辺に平行な方向)に関する立体視効果は犠牲になる。
【0121】
このように、一方向に関する立体視効果を犠牲にする、という前提であれば、図12に示す本発明に係る三次元セルにおいて、セルの長さC1を、かなり大きな値に設定することが可能である。本願発明者が実際に作成した図12に示す構造の三次元セル(紫外線硬化樹脂:波長λ=555nmの光についての屈折率は1.52)の場合、各部の寸法は、C1=20μm、C2=0.25μm、C3=0.4μm、G1=0〜20μm、G2=0.18μm、G3=0.4μm、ξ=1μmである。ここで、有効領域E(x,y)の長さG1は、記録すべき特定振幅Aに応じて個々のセルごとに異なる値になり、最小値は0μm、最大値は20μmである。G1=0(最小値)になるのは、セルに記録すべき特定振幅Aが0の場合であり、この場合、当該セルには、回折格子は全く形成されないことになる。また、G1=20μm(最大値)になるのは、セルに記録すべき特定振幅Aが最大値の場合であり、この場合、セルの上面全面に回折格子が形成され、余白領域B(x,y)はなくなる。一方、回折格子を形成する凹凸構造体の深さG2は、図19および図20に示す三角形の部分50の高さhに相当する値であり、前述したとおり、2π分の位相差を生じさせるのに適した値に設定される。深さG2(高さh)の具体的な値は、三次元セルの構造、用いる材料の屈折率、そして光の波長を考慮して定める必要があるが、詳細は、§7で説明する。
【0122】
図8に示す先願発明に係る三次元セルと、図12に示す本発明に係る三次元セルとは、いずれも直方体を基本形状としており、図面上は、ほぼ同じサイズに描かれているが、実際には、両者の形状および寸法は大きく異なっている。特に、図の横方向に関するセルの長さC1に着目すると、図8に示す先願発明に係る三次元セルの場合、C=0.6μmであるのに対し、図12に示す本発明に係る三次元セルの場合、C=20μmと顕著な差がある。すなわち、図12に示す本発明に係る三次元セルの場合、セルの幅がC3=0.4μmであるのに対して、セルの長さはC1=20μmとなっており、このような寸法をもつ実施例に関しては、図12は寸法比を無視して描いた図になっている。この寸法どおりに作成した三次元セルは、図12において、横方向に細長いスティック状のセルになる。
【0123】
ここでは、まず、セル各部の寸法を、上述した値に設定した理由を述べておく。上述した各寸法値は、クレジットカードなどの偽造防止シールとして利用される反射型の光学素子を作成する場合の最適値として決定した値である。クレジットカードの内容を目視確認する場合、通常、手に保持したクレジットカード(光学素子40)の正面に視点を置き、室内の天井に設置された照明からの再生用照明光を用いて観察する。この場合の観察環境は、図17に示す透過型の例において、再生用照明光L1〜L4の位置を光学素子40の記録面に対して面対称の位置に変更した例に相当する。そこで、たとえば、入射角φ=40°という観察環境を前提とし(天井照明から鉛直下方に向かう再生用照明光が、クレジットカード(光学素子40)の法線方向に対して入射角40°で照射されるものとし)、波長λとして、555nm(一般に、肉眼による視感度が最も高いとされている波長)を与え、前掲の回折の式
ξsinφ=λ
に、これらの値を入れると、
ξsin40°=555nm
なる式が得られる。そこで、この式から回折格子の凹凸形状変化の周期ξを求めると、ξ=864nmなる値が得られる。
【0124】
もっとも、このξ=864nmという計算結果は、再生用照明光が、555nmの波長をもった単色光であり、入射角φ=40°という観察環境を前提とした場合のものであるから、おおよその数値としての意味しかもたない。実際の観察環境では、ほぼ白色に近い再生用照明光が用いられるのが普通であり、また、完全な平面波ではないから、入射角φも一義的に定めることはできない。ただ、一応の目安として、上記観察条件では、ξ=864nmという計算結果が得られているので、本願発明者は、ξ=1μmという区切りのよい値を設定することにした。実際には、クレジットカード用の偽造防止シールなど、日常生活において肉眼観察の対象となる光学素子として利用する場合、ξの値を、0.6〜2μm程度の範囲内に設定すれば、問題が生じないことが確認できた。
【0125】
このように、回折格子の凹凸形状変化の周期ξを1μmに設定すると、回折格子を形成する場合の有効領域E(x,y)の長さG1の最小値は、5μm程度になる。これは、ある程度の回折効率をもった回折格子として機能させるためには、せいぜい5周期分くらいの凹凸形状変化が必要になるからである。したがって、ξ=0.6μmに設定した場合のG1の最小値は3μm、ξ=2μmに設定した場合のG1の最小値は10μmになる。よって、有効領域E(x,y)の長さG1の絶対的な最小値は、3μmということになる。振幅Aの値を2段階の精度で記録すれば十分である場合、回折格子が形成されているか、いないかの2通りのセルが用意できれば足りるので、結局、本発明で用いる三次元セルの長さC1の最小値は3μmということになる。
【0126】
一方、有効領域E(x,y)の長さG1の最大値(別言すれば、セルC(x,y)の長さC1)は、振幅Aの値をできるだけ高い精度で記録するという観点では、大きいほど好ましい。たとえば、C1=1mmに設定すれば、長さG1を1μm刻みで異なる値に設定したとしても、1000段階の高精度で振幅Aの値を記録することが可能である。ただ、セルの長さC1を1mm程の値にしてしまうと、個々のセルが肉眼で観察されてしまうことになり、光学素子全体を肉眼観察したときに、筋が見えてしまうことになる。したがって、実用上、セルの長さC1は、セルが肉眼観察されない程度の値に設定するのが好ましく、具体的には、300μm以下に設定するのが好ましい。このように、本発明に用いる三次元セルの長さC1(回折格子の周期的な凹凸形状変化が生じる方向に関する長さ)の実用的な寸法範囲は、3μm〜300μmである。
【0127】
続いて、本発明に用いる三次元セルの幅C3の適切な寸法範囲を考える。既に述べたとおり、本発明では、図12の左右方向(長さC1をもった辺に平行な方向)に関する立体視効果は犠牲にするが、図12の奥行き方向(長さC3をもった辺に平行な方向)に関する立体視効果は確保する。したがって、図12の奥行き方向に隣接配置される各セルのピッチは、前述したとおり立体視効果が得られる0.2μm〜4μmの範囲に設定する必要がある。したがって、本発明に用いる三次元セルの幅C3の適切な寸法範囲は、0.2μm〜4μmである。
【0128】
なお、図12に示す三次元セルが、図の奥行き方向に多数配置されると、回折格子G(x,y)も図の奥行き方向へと伸びてゆくことになる。ここで、隣接配置された各セルには、それぞれ異なる振幅Aと位相θとが記録されているので、回折格子の空間的な配置は少しずつずれている。したがって、記録面上に多数の三次元セルを配置すると、結果的に、記録面上に干渉縞(回折格子)が形成された状態に近似した状態になる。ただ、1つ1つのセルに着目すると、有効領域E(x,y)の幅G3は、0.2μm〜4μm程度ということになる。一般的には、長さが0.2μm〜4μm程度しかない複数の格子線を隣接して配置したものを「回折格子」と呼ぶ例は少ないかもしれないが、本願では、「回折格子」という用語を、このようなものまで含む広義の意味で用いている。
【0129】
最後に、三次元セルの寸法C2の適切な値を考えよう。寸法C2は、これまで述べてきた光学的な現象を左右するパラメータではないので、理論的には、どのような値に設定してもかまわない。ただ、この寸法C2は、最終的な製品である光学素子の厚みを規定する値になる。したがって、この光学素子を、クレジットカードなどの偽造防止用シールとして用いるのであれば、当該用途に適した値に設定する必要がある。ここで述べた実施例では、C2=0.25μmに設定しているが、これはこの偽造防止用シールに適した値としたためである。
【0130】
結局、本発明で用いる三次元セルの各部の寸法を適切な値に設定するには、まず、所定の標準波長λ(たとえば、555nm)の再生用照明光を所定の照射方向から光学素子に照射したときに所定の観察方向から観察することを前提とする標準観察条件を設定し、回折格子の凹凸形状変化の周期ξを、再生用照明光の照射方向から入射した光を観察方向へと導くために必要な回折角を得るのに適した値に設定し、三次元セルの長さC1を、回折格子により十分な回折現象が生じるために必要な寸法以上の値に設定し、三次元セルの幅C3を、横方向に関して必要な立体視角度を得るために必要な寸法以下の値に設定すればよい。
【0131】
以上、図12に示す本発明に係る三次元セルの適切な寸法を具体的に示したが、この三次元セルの最大の利点は、このような寸法設定を行うと製造時の加工精度が緩くなるため、製造プロセスが比較的容易になり、生産性を向上させることができる、という点である。特に、セルの長さC1をかなり長く確保することができ(実施例では20μm)、セルの幅C3も、0.4μm程度で十分なので、回折格子G(x,y)を形成するための加工精度は、図8に示す先願発明に係る三次元セルの溝G(x,y)を形成するための加工精度に比べて、大幅に緩和されることになる。
【0132】
前述したとおり、図8に示す先願発明に係る三次元セルを用いた場合、振幅Aのバリエーションを7通り用意するには、0.1μm刻みで異なる幅をもった溝を正確に形成する必要がある。これに対して、図12に示す本発明に係る三次元セルの場合、たとえば、ξ=1μmの周期をもった回折格子を形成すればよい。寸法G1の最大値が20μmになるので、振幅Aのバリエーションも十分に確保することが可能である。たとえば、G1=0μm(回折格子を全く形成しない場合)の他に、G1=5μm,6μm,7μm,…,20μmと1μm刻みで振幅Aを記録することにすれば、17段階のバリエーションを確保することができる。
【0133】
なお、本発明では、位相θを正確に記録するために、回折格子の空間的な配置位置を正確に制御する必要があるが、電子線描画装置などを用いて所望のパターン形成を行う場合に、当該パターンの位置制御は比較的容易に行うことができるので、位相θの記録には、大きな困難性は生じない。たとえば、周期ξ=1μmに設定し、位相θをθ=0,π/2,π,3π/2の4段階の精度で記録する場合、回折格子の空間的な配置位置を、それぞれ0μm,0.25μm,0.5μm,0.75μmだけずらしたセルを作成する必要があるが、一般的な電子線描画装置では、露光パターンの位置を、この程度の精度で制御することは比較的容易である。したがって、先願発明の方法の代わりに、本発明に係る方法を用いれば、製造時の加工精度が緩くなり、生産性を向上させることができる。
【0134】
また、本発明を利用すると、再生用照明光を所望の角度だけ回折させることを前提とした設計が容易になるという付随的な利点も得られる。前述したとおり、クレジットカードなどの偽造防止シールなどに本発明に係る光学素子を利用する場合は、図14に示すような観察環境を前提とすることは不適切である。実用上は、図15や図16に示すような観察環境を前提とせざるを得ず、再生時には、図17や図18に示すように、再生用照明光が所望の角度だけ回折するような設計が必要になる。本発明では、回折格子の周期ξを適切な値に設定するだけで、所望の回折角φだけ回折させることを前提とした設計が可能になる。
【0135】
<<< §6.本発明に係る光学素子の製造方法 >>>
続いて、本発明に係る光学素子の製造方法を、図21の流れ図を参照して説明する。この製造方法は、複数の三次元セルの集合から構成され所定の原画像の再生が可能な光学素子を製造する方法であり、その基本原理は、§1で述べた先願発明の基本原理と同じである。ただ、本発明では、§5で述べたとおり、記録面上の縦横2方向に関して、1方向に関する立体視を犠牲にする代わりに、加工精度の条件を緩和するという手法をとっているため、この部分について、固有のプロセスを実行することになる。もちろん、先願発明と本発明とでは、用いる三次元セルの構造が異なるため、その点においても異なるプロセスが実行される。以下、本発明に係るプロセスを詳述する。なお、実用上、図21に示す流れ図のステップS1〜S10までの手順は、コンピュータによって実行されるべき手順であり、各手順のアルゴリズムに応じたコンピュータプログラムが用意されることになる。最後のステップS11の手順は、物理的な三次元セルの集合体により光学素子を製造する段階である。
【0136】
まず、ステップS1において、三次元空間内に所定の物体光を放出する原画像(物体像)を定義する原画像定義段階が実行され、続くステップS2において、この三次元空間内に原画像を記録するための記録面を定義する記録面定義段階が実行される。具体的には、図3に示すように、XYZ三次元座標系を定義し、原画像10となる三次元立体画像データと、記録面20となる平面データとを用意すればよい。なお、ここに示す実施例は、原画像10として三次元立体画像を用いた例であるが、原画像10は、必ずしも三次元立体画像である必要はなく、たとえば二次元平面画像を原画像として用いてもかまわない。なお、記録面20は、必ずしも平面である必要はなく、最終的に作成する光学素子が曲面からなる製品の場合は、曲面からなる記録面を定義してもかまわない。ただ、実用上は、平面からなる光学素子を作成するケースがほとんどであり、ここでは記録面20として平面を定義した例を述べる。
【0137】
次のステップS3では、原画像10および記録面20を切断することが可能な平面からなる複数N枚のスライス面を定義するスライス面定義段階が実行される。図22は、原画像10,記録面20,N枚のスライス面SL(1)〜SL(N)の位置関係を示す正面図である。図示のとおり、各スライス面SL(1)〜SL(N)は、原画像10と記録面20との双方を切断することが可能な平面から構成される。ここに示す例では、垂直方向に一定ピッチPvで配置された互いに平行な平面からなる複数N枚のスライス面を定義している。ここに示す例では、XYZ三次元座標系におけるXY平面上に記録面20を定義し、各スライス面SL(1)〜SL(N)を、XZ平面に平行な平面として定義している。したがって、各スライス面SL(1)〜SL(N)と記録面20とは直交する。
【0138】
もちろん、各スライス面の定義は、図22の実施例に限定されるものではない。たとえば、各スライス面の間隔は必ずしも一定ピッチPvにする必要はなく、各部で間隔が異なるようにしてもかまわない。また、各スライス面は必ずしも記録面20に対して直交する必要はなく、相互に平行にする必要もない。ただ、後述する演算処理の負担を軽減する上では、図22に示す実施例に示すようなスライス面の定義を行うのが好ましい。なお、三次元セルを隙間なく埋め尽くした光学素子を形成する上では、スライス面のピッチPvは、三次元セルの長さC1(図12参照)に等しくなるように設定する。前述の実施例では、C1=20μmに設定しているため、スライス面のピッチPvも20μmに設定することになる。
【0139】
次のステップS4では、原画像10を各スライス面SL(1)〜SL(N)で切断して得られる切断部にそれぞれ画像輪郭線F(1)〜F(N)を定義する画像輪郭線定義段階が実行され、続くステップS5では、各画像輪郭線F(1)〜F(N)上にそれぞれ複数のサンプル点Sを定義するサンプル点定義段階が実行される。また、ステップS6では、記録面20を各スライス面SL(1)〜SL(N)で切断して得られる切断部にそれぞれセル配置線f(1)〜f(N)を定義するセル配置線定義段階が実行され、続くステップS7では、各セル配置線f(1)〜f(N)上にそれぞれ複数のセル配置点Qを定義するセル配置点定義段階が実行される。
【0140】
図22では、3本の画像輪郭線F(1),F(i),F(N)が太線で例示されており、3本のセル配置線f(1),f(i),f(N)が黒いドットで例示されている。ここに示す実施例では、各スライス面SL(1)〜SL(N)を互いに平行な平面として定義しているため、記録面20上に形成されるN本のセル配置線f(1)〜f(N)は、互いに平行な直線になる(図22では、紙面に垂直方向(X軸方向)に伸びる線になる)。
【0141】
図23の斜視図には、第i番目のスライス面SL(i)による切断によって、原画像10側に定義された第i番目の画像輪郭線F(i)と、記録面20側に定義された第i番目のセル配置線f(i)とが、それぞれ破線で示されている。また、この第i番目の画像輪郭線F(i)上には、x印の点として、複数のサンプル点Sが定義された状態が示されている。図に符号を記して例示したサンプル点S(i,k−1),S(i,k),S(i,k+1)は、この画像輪郭線F(i)上に定義されたそれぞれ第(k−1)番目,第k番目,第(k+1)番目のサンプル点である。一方、第i番目のセル配置線f(i)上には、黒いドットとして、複数のセル配置点Qが定義された状態が示されている。図に符号を記して例示したセル配置点Q(i,j−1),Q(i,j),Q(i,j+1)は、このセル配置線f(i)上に定義されたそれぞれ第(j−1)番目,第j番目,第(j+1)番目のセル配置点である。
【0142】
ここに示す実施例では、各画像輪郭線F上に一定間隔でサンプル点Sを定義しているが、サンプル点Sの間隔は必ずしも一定にする必要はない。ただ、画像にむらを生じさせないためには、できるだけ均一にサンプル点Sが分布するようにするのが好ましい。なお、サンプル点Sの間隔を一定にする場合、画像輪郭線Fに沿った距離を一定にしてもよいし、直線距離を一定にしてもよい。サンプル点Sの間隔は、原画像10の解像度を決定する要因になるので、解像度の高い原画像を記録したい場合には、サンプル点Sの間隔を小さく設定して密度を高めるようにすればよい。ただ、サンプル点Sの密度が高まれば、それだけ演算負担が重くなる。
【0143】
一方、セル配置線f上に定義された各セル配置点Qは、それぞれ1つの三次元セルを配置する位置指標として機能する。したがって、三次元セルを隙間なく埋め尽くした光学素子を形成する上では、各セル配置点Qの図の水平方向のピッチPh(セル配置線fに沿ったX軸方向のピッチ)は、三次元セルの幅C3(図12参照)に等しくなるように設定する。前述の実施例では、C3=0.4μmに設定しているため、セル配置点QのピッチPhも0.4μmに設定することになる。もちろん、セル配置点Qの間隔は、必ずしも一定にする必要はないが、同一サイズの三次元セルで埋め尽くすような光学素子を形成する上では、一定にするのが好ましい。
【0144】
次に、ステップS8で、同一のスライス面による切断によって定義された画像輪郭線とセル配置線とを対応させ、各セル配置点Qのそれぞれについて、当該セル配置点Qが所属するセル配置線に対応する画像輪郭線上に定義されたサンプル点Sを対応サンプル点と決定する対応サンプル点決定段階が実行される。たとえば、図23に示す例の場合、同一のスライス面SL(i)による切断によって定義された画像輪郭線F(i)とセル配置線f(i)とが対応づけられる。そして、セル配置線f(i)上に定義された各セル配置点Qのそれぞれについて、対応する画像輪郭線F(i)上に定義された各サンプル点Sが対応サンプル点として決定されることになる。したがって、たとえば、図示のセル配置点Q(i,j)については、画像輪郭線F(i)上に定義されたすべてのサンプル点(……,S(i,k−1),S(i,k),S(i,k+1),……)が、対応サンプル点として決定される。なお、図示のセル配置点Q(i,j−1)やQ(i,j+1)についての対応サンプル点も、全く同様に、画像輪郭線F(i)上に定義されたすべてのサンプル点(……,S(i,k−1),S(i,k),S(i,k+1),……)ということになる。
【0145】
次のステップS9では、各セル配置点Qのそれぞれについて、その対応サンプル点から放出された物体光のうち当該セル配置点Qの位置に到達する物体光の合成波の所定時刻における振幅Aおよび位相θを演算によって求める振幅位相演算段階が実行される。
【0146】
たとえば、図23に示すセル配置点Q(i,j)は、第i番目のスライス面SL(i)による切断によって定義されたセル配置線f(i)上の第j番目のセル配置点であるが、このセル配置点Q(i,j)の対応サンプル点は、前述したとおり、画像輪郭線F(i)上に定義されたすべてのサンプル点(……,S(i,k−1),S(i,k),S(i,k+1),……)である。そこで、まず、これら各対応サンプル点から放出された物体光が、セル配置点Q(i,j)まで到達するか否かの判断が行われる。セル配置点Q(i,j)から原画像10を見たときに、隠面となる部分に位置するサンプル点からの物体光は、原画像10の他の部分に遮られ、セル配置点Q(i,j)まで到達することはない。したがって、各対応サンプル点からの物体光のすべてが必ずしもセル配置点Q(i,j)まで到達するとは限らない。セル配置点Q(i,j)まで到達する物体光の取捨選択ができたら、当該到達する物体光のセル配置点Q(i,j)の位置における合成波を求め、所定時刻における振幅Aおよび位相θを求めることになる。
【0147】
図24は、画像輪郭線F(i)上の第k番目の対応サンプル点S(i,k)から放出された物体光が、セル配置点Q(i,j)へ到達するまでの光路を示す斜視図である。サンプル点S(i,k)から放出される物体光は、§1で述べたとおり、
Ak cosθk + i Ak sinθk
なる複素関数で表現される。ここで、Akはサンプル点S(i,k)から単位距離だけ離れた位置の振幅を示すパラメータであり、サンプル点S(i,k)の位置に存在する画素の階調値に対応して定められる。θkは物体光の初期位相を示すパラメータであり、一般的には、θk=0なる設定でかまわない。画像輪郭線F(i)上の全対応サンプル点のうち、セル配置点Q(i,j)に到達する物体光を放出するK個の対応サンプル点について、それぞれ上記複素関数で表現される物体光が定義できたら、セル配置点Q(i,j)の位置における全K個の物体光の合成複素振幅は、§1で説明したとおり、
Σ k=1〜K (Ak/rk cos(θk±2πrk/λ)
+i Ak/rk sin(θk±2πrk/λ))
なる複素関数で表現される。ここで、λ,Ak,θkは、第k番目(k=1〜K)の対応サンプル点S(i,k)から発せられる物体光のそれぞれ波長、振幅、位相であり、rkは、図24に示されているように、当該サンプル点S(i,k)とセル配置点Q(i,j)との距離である。
【0148】
なお、前述したとおり、セル配置点Q(i,j)から原画像10を見たときに、隠面となる部分に位置するサンプル点からの物体光は、演算対象から除外される。上記式における全K個の物体光は、これらを除外した残りの物体光ということになる。たとえば、図25に示す第i番目のスライス面SL(i)の平面図において、第k番目の対応サンプル点S(i,k)からの物体光は、セル配置線f(i)上の全J個のセル配置点Q(i,1)〜Q(i,J)のすべてに到達するので、これらJ個のセル配置点Q(i,1)〜Q(i,J)についての演算で考慮されることになる。しかしながら、記録面20側から見たときに隠面に位置する対応サンプル点S(i,m)からの物体光は、セル配置線f(i)上の全J個のセル配置点Q(i,1)〜Q(i,J)のいずれにも到達しない。したがって、対応サンプル点S(i,m)からの物体光は、J個のセル配置点Q(i,1)〜Q(i,J)についての演算では全く考慮されることはない。
【0149】
§1で述べたとおり、上記関数の実数部をRxy,虚数部をIxyとして、Rxy+iIxyなる形にすれば、この合成波のセル配置点Q(i,j)の位置における複素振幅(位相を考慮した振幅)は、図4に示すように、複素座標平面上における座標点Tで示されることになる。したがって、セル配置点Q(i,j)における物体光合成波の振幅は、図4に示す座標平面における原点Oと座標点Tとの距離A(x,y)で与えられ、位相はベクトルOTと実数軸とのなす角度θ(x,y)で与えられることになる。
【0150】
なお、上記関数は、物体光を放出するサンプル点が点光源であるものと仮定した場合の式である。本発明を実施するにあたって、サンプル点を点光源(放出された物体光が球面状に広がってゆく光源)と仮定した演算を行っても大きな支障は生じないが、本願発明者が行った実験によると、サンプル点を線光源(放出された物体光が円柱側面状に広がってゆく光源)と仮定した演算を行った場合の方が、原画像10の情報をより正確に記録できることがわかった。本願発明者は、その理由は、本発明ではスライス面を用いた処理を行っているためであると考えている。
【0151】
§5で述べたとおり、本発明では、記録面上の縦横2方向に関して、1方向に関する立体視を犠牲にする代わりに、加工精度の条件を緩和するという手法をとっている。図21に示す手順において、スライス面を定義し(ステップS3)、画像輪郭線およびサンプル点を定義し(ステップS4,5)、セル配置線およびセル配置点を定義し(ステップS6,7)、対応サンプル点を決定し(ステップS8)、振幅位相演算段階(ステップS9)を実行する場合に、対応サンプル点からの物体光のみを考慮した演算を行うと、図22,図23における縦方向(Y軸方向)に関する立体視が犠牲になる。すなわち、図23において、セル配置点Q(i,j)には、本来であれば、原画像10の全体に分布するサンプル点から放出された物体光の情報を記録すべきであるが、実際には、スライス面SL(i)による切断面上のサンプル点から放出された物体光の情報のみが記録されることになる。したがって、記録面20に記録された情報を再生した場合、スライス面に沿った水平方向に関する立体視は得られるが、垂直方向に関する立体視は犠牲になる。
【0152】
このように、本発明では、垂直方向に関する立体視は犠牲になるが、垂直方向に関して幅Pv(スライス面の間隔)にわたる領域には、同一の振幅および位相を記録すればよいので、セル配置点Q(i,j)の位置に、図12に示す構造をもった三次元セル(ピッチPvと等しい長さC1をもった細長いセル)を配置することが可能になるのである。図23において、セル配置点Q(i,j)の位置について特定振幅A(i,j)および特定位相θ(i,j)が求められると、後述するように、このセル配置点Q(i,j)の位置に、特定振幅A(i,j)および特定位相θ(i,j)が記録された三次元セル(i,j)が配置される。この三次元セルの垂直方向の長さはピッチPvに等しくなる。したがって、図23に示す記録面20上の領域において、特定振幅A(i,j)および特定位相θ(i,j)が記録される箇所は、セル配置点Q(i,j)の1点だけでなく、その上下方向にピッチPvの幅をもった領域ということになる。このように、記録面20の上下方向に一定の幅をもった領域に、同一の振幅および位相が定義される現象は、本来、原画像上のサンプル点が線光源(Pvに相当する長さをもった線分光源)である場合に生じる現象である。
【0153】
本願発明者は、本発明を実施する上で、原画像上の個々のサンプル点を点光源として取り扱うよりも、線光源として取り扱う方が、よりよい結果が得られたのは、上述した理由によるものであると考えている。もっとも、図25に示す平面図を見ればわかるとおり、第i番目のサンプル点S(i,k)から放出された物体光は、第i番目のスライス面SL(i)のみを伝播してセル配置点Q(i,j)に到達することになるので、実際の演算では、各スライス面以外を通る物体光は全く考慮する必要はない。したがって、サンプル点S(i,k)を点光源として取り扱う代わりに線光源として取り扱う場合の変更点は、振幅の減衰量の演算だけである。
【0154】
サンプル点S(i,k)を点光源として取り扱う場合、放出された物体光の波面は球状に広がってゆくため、光の強度(振幅の2乗)は球の表面積に反比例して減衰する(振幅は、球の半径rに反比例する)。一方、サンプル点S(i,k)を線光源として取り扱う場合、放出された物体光の波面は円柱側面状に広がってゆくため、光の強度(振幅の2乗)は円柱側面の面積に反比例して減衰する(振幅は、円柱の半径rの平方根に反比例する)。したがって、サンプル点S(i,k)を線光源として取り扱う場合は、振幅位相演算段階で、サンプル点S(i,k)からセル配置点Q(i,j)に向かう物体光の振幅の減衰量を演算する際に、線光源から発せられた物体光の振幅減衰項を用いるようにすればよい。具体的には、上掲の複素関数の代わりに、
Σ(k=1〜K)(Ak/√rk・cos(θk±2πrk/λ)+iAk/√rk・sin(θk±2πrk/λ))
なる関数を用いた演算によって、セル配置点Q(i,j)における振幅A(i,j)および位相θ(i,j)を求めるようにすればよい。
【0155】
また、上述の実施例では、各対応サンプル点S(i,k)からは、物体外側のすべての方向に対して物体光が放出されるという前提で説明を行ったが、振幅位相演算段階で、各対応サンプル点S(i,k)から放出される物体光の放出角度に制限を付加した演算を行うようにしてもかまわない。このように、物体光の放出角度に制限を付加した演算を行うと、立体視の効果は弱まるが、演算負担を軽減する効果が得られる。
【0156】
図26は、このように物体光の放出角度に制限を付加する方法を説明するための平面図であり、第i番目のスライス面SL(i)上において、対応サンプル点S(i,k)から放出される物体光の放出角度を制限角α以内とした例を示す。この例では、図示のとおり、画像輪郭線F(i)上のサンプル点S(i,k)の位置に法線Nを立て、この法線Nを中心として制限角αの範囲内にのみ、サンプル点S(i,k)からの物体光が放出されるものとして、振幅位相演算段階を実行している。したがって、図に示すセル配置点Q(i,J)についての振幅位相演算では、サンプル点S(i,k)からの物体光を考慮した演算が行われるが、セル配置点Q(i,1),Q(i,j)についての振幅位相演算では、サンプル点S(i,k)からの物体光が到達しないため、当該物体光は演算対象から除外されることになる。
【0157】
こうして、ステップS9の振幅位相演算段階S9が完了すると、記録面20上に定義された個々のセル配置点Qについて、それぞれ特定振幅Aおよび特定位相θが求まることになる。図27は、記録面20上に定義されたセル配置線およびセル配置点の一例を示す平面図である。図示のとおり、記録面20上には、垂直方向にピッチPvでセル配置線f(i−1),f(i),f(i+1)が定義され、各セル配置線上には、水平方向にピッチPhでセル配置点Qが定義されている。図示のセル配置点Q(i,j−1),Q(i,j),Q(i,j+1)は、第i番目のセル配置線f(i)上に定義されたそれぞれ第(j−1)番目,第(j)番目,第(j+1)番目のセル配置点である。
【0158】
次のステップS10では、記録面20上の各セル配置点Qの位置に配置すべき三次元セルの構造を、当該セル配置点Qについて求められた振幅Aおよび位相θに基づいて決定することにより、記録面20上に配置された複数の三次元セルの集合から構成される立体構造を決定する立体構造決定段階が実行される。図27に示す記録面20上に実線で描かれている多数の矩形は、各セル配置点Q上に配置された三次元セルの輪郭を示している。たとえば、セル配置点Q(i,j)の位置には、三次元セルC(i,j)が配置されることになる。
【0159】
ここで、三次元セルC(i,j)の形状は、セル配置点Q(i,j)について求められた振幅A(i,j)および位相θ(i,j)に基づいて決定される。具体的には、三次元セルC(i,j)の具体的な立体形状は、振幅A(i,j)に応じた面積を有する有効領域E(i、j)に、位相θ(i,j)に応じた位相をもった回折格子を形成することによって決定される。
【0160】
図28は、記録面20上のセル配置点Q(i,j)の位置に、三次元セルC(i,j)を配置する状態を示す斜視図である。三次元セルC(i,j)の基本形状は、図12に示す三次元セルC(x,y)と全く同じであり、寸法Cv、寸法Ch、寸法Cdをもった直方体を基本形状とするセルになっている。ここでは、説明の便宜上、寸法Cvをもった辺に沿った方向をセルの縦方向、寸法Chをもった辺に沿った方向をセルの横方向、寸法Cdをもった辺に沿った方向をセルの奥行方向と呼ぶことにする。§4で述べたとおり、ここで述べる実施例の場合、三次元セルC(i,j)の縦方向寸法Cv=20μm、、横方向寸法Ch=0.4μm、奥行寸法Cd=0.25μmとなっており、実際には、幅Chに比べて長さCvがかなり大きく、全体としてスティック状をしている(図は、実際の寸法比を無視して描かれている)。
【0161】
ここで述べる実施例の場合、セルの長さCvは、セル配置点Qの垂直方向ピッチPvに等しくなり、セルの幅Chは、セル配置点Qの水平方向ピッチPhに等しくなるように設定されている。したがって、この三次元セルC(i,j)を、図のように上面を上に向けて、記録面20上に二次元マトリックス状に配置すれば、記録面20上を隙間なくセルで埋め尽くすことができる。ステップS10では、これら多数の三次元セルの集合から構成される立体構造を示すデータが得られることになる。
【0162】
図示の例の場合、三次元セルC(i,j)の上面が格子形成面となっており、この格子形成面に回折格子が形成されている。三次元セルC(i,j)を記録面20上に配置すると、セルの格子形成面(この例では上面)が記録面20に対して平行になり、セルの横辺(長さChをもった辺)がセル配置線f(i)に平行になる。格子形成面自体は、寸法Cvの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなり、その面積はCv×Chで与えられる。この格子形成面は、有効領域E(i,j)と、それ以外の部分からなる余白領域B(i,j)とに分割されており、有効領域E(i,j)の部分に、回折格子G(i,j)が形成されている。有効領域E(i,j)は、図28の上部にハッチングを施して示すとおり、寸法Ceの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなり、その面積はCe×Chで与えられる。ここに示す実施例では、全ての三次元セルについて、有効領域の横幅が三次元セルの横幅Chに等しくなるように設定している。別言すれば、回折格子G(i,j)は、常に三次元セルの横幅Ch一杯に形成される。したがって、個々の三次元セルごとの有効領域の面積は、有効領域の縦寸法Ceによって規定される。
【0163】
回折格子G(i,j)は、周期ξをもった凹凸形状変化を、セルの縦方向に繰り返し配置することによって構成されている。三次元セルC(i,j)は、その横辺(長さChをもった辺)がセル配置線f(i)に平行になるように配置されているため、結局、セル配置線f(i)に直交する方向(Y軸方向)に沿って周期ξをもった凹凸形状変化が生じている状態になる。図示の例の場合、セル配置線f(i)に直交する方向(Y軸方向)に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少するスロープが形成され、当該スロープを繰り返し配置することにより断面が鋸歯状の凹凸構造面が形成されている。回折格子G(i,j)は、この凹凸構造面により、所定の回折現象を生じさせることになる。
【0164】
セル配置点Q(i,j)について求められた振幅A(i,j)は、三次元セルC(i,j)の有効領域E(i,j)の面積(縦寸法Ce)として記録される。ここで、有効領域E(i,j)の面積は、必ずしも振幅A(i,j)に比例させる必要はなく、振幅A(i,j)が大きくなれば、有効領域E(i,j)の面積も大きくなる、という関係になっていればよい。本願発明者が実験したところ、有効領域E(i,j)の面積を振幅A(i,j)の2乗に比例させると、原画像10の階調情報を忠実に再現する上で最も好ましいことが判明した。これは、有効領域Eの面積によって変調されるのは、光のエネルギー量(振幅Aの2乗に対応する値)であるからである。
【0165】
そこで、ここで述べる実施例の場合、まず、記録面20上に定義された全てのセル配置点Qについて、それぞれ求められた振幅Aの2乗値A2を求め、その最大値A2maxを求めることにした。そして、個々のセル配置点Qに配置すべき三次元セルについては、格子形成面の全面積(Cv×Ch)の「A2/A2max」に相当する領域を有効領域とするようにした。たとえば、セル配置点Q(i,j)について求められた振幅A(i,j)=8の場合、2乗値A2=64になるので、もし最大値A2max=100であったとすれば、三次元セルC(i,j)の上面(格子形成面)の64/100の部分が有効領域E(i,j)になり、残りの36/100の部分が余白領域B(i,j)になる。この場合、有効領域E(i,j)の縦幅寸法Ce=Cv×(64/100)である。
【0166】
一方、セル配置点Q(i,j)について求められた位相θ(i,j)は、三次元セルC(i,j)に形成される回折格子G(i,j)の空間的な配置位相として記録される。具体的には、三次元セル上に何らかの基準位置を定義し、この基準位置に対して位相θをもつ位置に回折格子G(i,j)を配置する必要がある。セル上の基準位置は、有効領域E(i,j)に関連した位置ではなく、すべての三次元セルに共通した所定位置に設定する。有効領域E(i,j)の位置は、その縦寸法Ceが振幅A(i,j)の大きさに応じて変動するため、必ずしも固定されているわけではない。そこで、本実施例では、図28に示すように、セルの一面(この例では、最もX軸に近い面)を基準面SSと定義し、この基準面SSから回折格子G(i,j)の最浅部もしくは最深部までの距離uに基づいて位相を定義している(断面が鋸歯状の凹凸構造体の場合、最浅部の位置と最深部の位置とは同じになる)。すなわち、距離uを周期ξで除して整数からなる商を求めたときの剰余をRとすれば(R=u mod ξ)、位相θ=2πRで与えられる。
【0167】
なお、図27や図28に示す例では、三次元セルC(i,j)の底面の中心点を基準点として、この基準点がセル配置点Q(i,j)の上に重なるようにしているが、記録面20上への各セルの配置は、必ずしもこのようにする必要はない。たとえば、三次元セルC(i,j)の底面の1隅点を基準点として、この基準点がセル配置点Q(i,j)の上に重なるようにすることも可能である。
【0168】
こうして、ステップS10において、多数の三次元セルの集合から構成される立体構造が決定されたら、最後のステップS11において、決定された立体構造を有する物理的な光学素子が形成される。前述したとおり、図21の流れ図におけるステップS1〜S10までの手順は、コンピュータによって実行されるべき手順であるが、ステップS11は、物理的な三次元セルの集合体により光学素子を製造する工程になる。ステップS10が終了した段階で、コンピュータから、決定された立体構造を示す構造データを出力し、この構造データに基づいて、物理的なホログラム記録媒体を作成すればよい。このようなホログラム記録媒体を作成する方法は、既に公知の方法であるため、ここでは詳しい説明は省略するが、通常、立体構造データを電子線描画装置などに与え、物理的な媒体上に凹凸パターンを形成する工程が行われる。本発明によれば、この工程における加工精度を緩和することができるメリットが得られる点は、既に述べたとおりである。
【0169】
<<< §7.三次元セルのバリエーション >>>
ここでは、本発明に用いる三次元セルの種々のバリエーションを述べる。本発明に用いる三次元セルの典型例は、既に図28に示したとおりである。このような三次元セルの集合体によって、所定の視点位置から観測したときに物体像が再生されるように、当該物体像からの物体光の複素振幅分布を記録するようにすれば、ホログラムとして利用することができる光学素子が得られる。この場合、個々のセルには、それぞれ特定振幅および特定位相が定義され、特定振幅に応じた面積をもった有効領域内に特定位相に応じた位相をもった回折格子が形成される。個々のセルに所定の入射光を与えると、当該セルに定義された特定振幅および特定位相に応じて入射光の振幅および位相を変化させた射出光が得られ、これを観測することにより物体像の再生が行われることになる。
【0170】
個々の三次元セルに形成される回折格子は、所定周期ξで同一の凹凸形状変化を繰り返す凹凸構造面を有しており、このような回折格子が、個々の三次元セルにおける所定の有効領域内の、所定の基準位置に対して位相θをもつ位置に配置される。
【0171】
図28に示す三次元セルC(i,j)は、縦方向寸法Cv、横方向寸法Ch、奥行寸法Cdをもった直方体を基本形状となし、寸法Cvの縦辺および寸法Chの横辺を有し直方体の一面(底面)に対して平行な長方形からなる格子形成面(上面)を含み、この格子形成面に沿って凹凸構造面が形成されている。そして、このような構造の三次元セルを、記録面20上に二次元マトリックス状に配置することにより光学素子が得られる。また、この三次元セルC(i,j)の格子形成面(上面)には、寸法Ceの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる有効領域E(i,j)が定義されており、全ての三次元セルについて、有効領域の横幅がセル自身の横幅Chに等しく設定されている。また、寸法Ceの縦辺に沿った方向(Y軸方向)に凹凸形状変化が生じるように、凹凸構造体からなる回折格子G(i,j)が形成されている。
【0172】
このような三次元セルC(i,j)の各部の寸法は、既に述べたとおり、回折格子の凹凸形状変化の周期ξが0.6〜2μm、三次元セルの縦方向寸法Cvが3〜300μm、横方向寸法Chが0.2〜4μm、といった範囲になるように設定するのが好ましい。
【0173】
(1)タイプ1A(透過型)
図29は、本発明で用いる三次元セルの物理的構造例「タイプ1A(透過型)」を示す部分正断面図である(セルの左側部分の一部のみが示されている)。本願でいう「透過型」とは、光学素子の一方の面から再生用照明光を照射し、他方の面へ透過してくる光を観察するタイプを指す。図29に示すセルを用いた場合も、上方から再生用照明光を照射し、下方へと抜け出てくる光を観察するか、もしくは、下方から再生用照明光を照射し、上方へと抜け出てくる光を観察することになる。一方、本願でいう「反射型」とは、光学素子の一方の面から再生用照明光を照射し、同じ面から反射して戻ってくる光を観察するタイプを指す。
【0174】
図29に示す三次元セルは、この「タイプ1A(透過型)」に対応するセルであり、表面に凹凸構造面が形成された透光層110によって構成されている。図29に示す三次元セルと、図28に示す三次元セルC(i,j)とは、各部の寸法比が異なっているが、その基本構成は全く同じである。図29にBと記された部分は、このセルの余白領域、図にEと記された部分は、このセルの有効領域である。また、凹凸形状変化の周期ξは、0.6〜2μm程度の値に設定され、基準面SSと、凹凸構造を形成するスロープの最浅部もしくは最深部との距離uは、当該セルに記録すべき特定位相θに応じて設定される点は、既に述べたとおりである。
【0175】
この図29に示す「タイプ1A(透過型)」のセルは、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子用のセルである。たとえば、クレジットカード用の偽造防止シールなどの一般的な用途の場合、空気中で利用されることが前提となるので、屈折率n1は空気の屈折率ということになる。もちろん、水中で観察されることを前提とする光学素子用のセルの場合、屈折率n1は水の屈折率ということになる。これに対して、セル本体は、屈折率n2をもった透光層110によって構成されており、その表面に凹凸構造面が形成され、透光層110を透過した再生用照明光が観察される。
【0176】
§4で述べたとおり、この凹凸構造における深さh(最浅部と最深部と隔たり)は、理論的には、「屈折率n1をもった材質中を距離hだけ進んだ場合と、屈折率n2をもった材質中を距離hだけ進んだ場合との位相差が、2πとなるような距離」に設定するのが最適である。これは、「最深部を経て観察位置に到達する光と最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるように設定すること」により、光学素子のいずれの箇所を経て観察位置に到達した光についても、位置に起因して生じる光路差を相殺し、観察位置において、各位置から来た光の相互の位相差をキャンセルするためである(図19,図20の説明参照)。
【0177】
もっとも、位相差は波長λに依存して定まる物理量であるから、このような条件に基づいて理論的な深さhを算出するには、波長λを決める必要がある。そこで、実際に三次元セルを設計する際には、所定の標準波長λの再生用照明光を用いることを前提とする標準観察条件を設定し、この標準観察条件で観察される前提で、理論的な深さhを算出すればよい。もちろん、実際の観察条件は、通常、標準観察条件に合致するわけではないが、標準観察条件の下で算出した深さhをもつセルを設計しておけば、可能な範囲で最も理想的な再生像が得られることになる。
【0178】
実際の観察環境では、ほぼ白色に近い照明光の下で観察が行われるケースがほとんどであるが、本願発明者は、視感度が最も高いとされている555nmを標準波長λに設定するのが最も好ましいと考えている。この555nmなる波長は、視感度が最も高いとともに、可視波長域のほぼ中間点に位置する波長であり、全可視波長の平均的な波長値という性質も有しており、標準波長λに最適な波長値である。図29に示す「タイプ1A(透過型)」の場合、標準波長λと、外部空間の屈折率n1(たとえば、空気の屈折率)と、セル本体を構成する透光層110の屈折率n2とが定まれば、理想的な深さhは、「h=λ/|n2−n1|」なる式で求めることができる。これは、前述した「最深部を経て観察位置に到達する光と最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるように設定すること」という条件によって光学的に導かれる式である。たとえば、n1=1.0(空気の屈折率)、n2=1.46(合成石英の屈折率)、λ=555nmを用いて計算すると、理想的な深さh=約1.2μmになる。
【0179】
(2)タイプ1B(透過型)
一方、図30に示す「タイプ1B(透過型)」のセルは、図29に示す「タイプ1A(透過型)」のセルの透光層110の上部に、別な透光層120を積層した構造を有している。すなわち、上層となる透光層120は、屈折率n1を有する透光性の物質から構成されており、下層となる透光層110は、屈折率n2を有する透光性の物質から構成されている。そして、この積層構造体を構成する両層の界面として凹凸構造面が形成されており、光学素子としては、透光層120と透光層110との双方を透過した再生用照明光が観察される透過型タイプのものになる。図29に示す「タイプ1A(透過型)」のセルの場合、透光層110の上面が凹凸構造面となり露出した状態になっているが、図30に示す「タイプ1B(透過型)」のセルの場合、凹凸構造面が両層の界面に形成されており、外部に露出していない。このように、凹凸構造面が外部に露出しないタイプのセルは、凹凸構造面の破損を受けにくいというメリットを有する。
【0180】
もっとも、セルを透過する光について生じる光学的な現象という観点からは、図29に示す「タイプ1A(透過型)」も、図30に示す「タイプ1B(透過型)」も、全く同じである。すなわち、図30の下層にある透光層110は、図29に示す透光層110と全く同じものである。そして、図30の上層にある透光層120は、図29に示す外部空間の媒質(たとえば、空気)と同等の機能を果たす。結局、凹凸構造面を界面として、第1の屈折率n1をもった透光層と第2の屈折率n2をもった透光層とが形成されている、という物理的構造に関しては、タイプ1A,1Bに差はない。したがって、この図30に示す「タイプ1B(透過型)」のセルを設計する場合も、標準波長λと、上層の透光層120の屈折率n1と、下層の透光層110の屈折率n2とが定まれば、理想的な深さhは、「h=λ/|n2−n1|」なる式で求めることができる。
【0181】
(3)タイプ2A(反射型)
続いて、図31に、「タイプ2A(反射型)」のセルを示す。このセルは、図29に示す「タイプ1A(透過型)」の透過層110の上面に、反射層130を形成したものであり、透光層110と反射層130との積層構造体から構成される。そして、この透光層110と反射層130との界面として凹凸構造面が形成されている。ここで、反射層130の膜厚は比較的小さく、透過層110の上面に形成された凹凸構造面が、反射層130の上面にもそのまま現れる形態になっている。この「タイプ2A(反射型)」のセルは、2通りの観察態様が可能である。第1の観察態様は、図の上方から再生用照明光を照射し、反射層130の上面で反射して上方へと戻ってきた光を観察する態様である。そして、第2の観察態様は、図の下方から再生用照明光を照射し、透光層110を透過して、反射層130の下面で反射し、再び透光層110を透過し、図の下方へと戻ってきた光を観察する態様である。いずれの観察態様を前提とするかによって、理想的な深さhを算出する式が異なる。
【0182】
まず、第1の観察態様を前提とする場合は、屈折率n1を有する外部媒体(たとえば、空気)の中を進む距離が最深部と最浅部とで異なり、そのために光路差が生じることになる。この光路差は往路と復路との双方で生じる。したがって、「最深部を経て観察位置に到達する光と最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるように設定すること」という条件を満たすような理想的な深さhは、「h=λ/(2×n1)」なる式で求めることができる。なお、この第1の観察態様を前提とする場合、屈折率n1を有する外部媒体が満たされた空間内において、反射層130で反射した再生用照明光が観察されることになるので、透光層110内に光が進行することはない。したがって、透光層110は、上面が凹凸構造面をなし、反射層130を支持するための支持基板として機能するだけであるので、透光性を有している必要はない。このような観点から見れば、図31に示すような2層構造にする必要もなく、上面が凹凸構造面をなし、当該凹凸構造面が反射面となっている1層構造体のセル(要するに、表面に反射性の凹凸構造面が形成された板によって構成されているセル)を用いても、この第1の観察態様を前提とした利用が可能である。この場合の理想的な深さhは、やはり「h=λ/(2×n1)」なる式で求めることができる。
【0183】
次に、第2の観察態様を前提とする場合を考える。この図31に示すセルは、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とし、屈折率n2を有する物質からなる透光層110と再生用照明光を反射する性質を有する反射層130との界面として凹凸構造面が形成されている。そして、第2の観察態様では、透光層110を透過して、反射層130により反射し、透光層110を再び透過した再生用照明光が観察されることになる。このとき、図31の透光層110の底面より下方で生じる光学的現象には、凹凸構造の影響は全く及ばないので、屈折率n1は考慮する必要はない。凹凸構造の最深部で反射した光と最浅部で反射した光の光路差は、屈折率n2をもった透光層110内を進行中に生じることになる。よって、この第2の観察態様を前提とする場合の理想的な深さhは、「h=λ/(2×n2)」なる式で求めることができる。
【0184】
(4)タイプ2B(反射型)
一方、図32に示す「タイプ2B(反射型)」のセルは、図31に示す「タイプ2A(反射型)」のセルの上部に、別な透光層120を積層した構造を有している。すなわち、上層となる透光層120は、屈折率n1を有する透光性の物質から構成されており、下層となる透光層110は、屈折率n2を有する透光性の物質から構成されている。そして、透光層110,120の間に挟まれて、反射層130が形成されている。前述したように、凹凸構造面が両層の間に挟まれ、外部に露出しないタイプのセルは、凹凸構造面の破損を受けにくいというメリットを有する。
【0185】
やはり光学的な現象という観点からは、図31に示す「タイプ2A(反射型)」も、図32に示す「タイプ2B(反射型)」も、全く同じである。すなわち、図32の透光層110および反射層130は、図31に示す透光層110および反射層130と全く同じものである。そして、図32の上層にある透光層120は、図31に示す外部空間の媒質(たとえば、空気)と同等の機能を果たす。結局、光学的な見地からは、タイプ2A,2Bに差はない。したがって、この図32に示す「タイプ2B(反射型)」のセルを設計する場合も、2通りの観察態様ごとに別個に検討する必要がある。
【0186】
まず、上方から照明光を照射して上方に反射する光を観察する第1の観察態様を前提とするのであれば、理想的な深さhは、「h=λ/(2×n1)」なる式で求めることができる。この場合、透光層110は、単なる支持基板としての機能を果たすだけであるので、必ずしも透光性材料で構成する必要はない。一方、下方から照明光を照射して下方に反射する光を観察する第2の観察態様を前提とするのであれば、理想的な深さhは、「h=λ/(2×n2)」なる式で求めることができる。この場合、透光層120は、単なる支持基板としての機能を果たすだけであるので、必ずしも透光性材料で構成する必要はない。要するに、図32に示す「タイプ2B(反射型)」のセルの場合、光学的に重要な事項は、透光層110もしくは120と、反射層130との積層構造体が形成され、両者の界面として凹凸構造面が形成されている点ということになる。
【0187】
(5)タイプ3A(反射型)
図33に、「タイプ3A(反射型)」のセルを示す。このセルは、図29に示す「タイプ1A(透過型)」の透過層110の下面に、反射層140を形成したものであり、屈折率n2を有する物質からなる透光層110と、再生用照明光を反射する性質を有する反射層140との積層構造体から構成される。そして、凹凸構造面は、この透光層110の表面、すなわち、透光層110の反射層140に接する面とは反対側の面に形成されている。この「タイプ3A(反射型)」のセルは、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内(たとえば、空気中)で利用されることを前提としたセルであり、図の上方から再生用照明光を照射し、透光層110を透過して、反射層140の上面で反射し、再び透光層110を透過し、図の上方へと戻ってきた光を観察する態様で利用される。
【0188】
このような観察態様で利用した場合、屈折率n1を有する外部媒体(たとえば、空気)の中を進む距離と、屈折率n2を有する透光層110内を進む距離との割合が最深部と最浅部とで異なり、そのために位相差が生じることになる。この位相差は往路と復路との双方で生じる。したがって、「最深部を経て観察位置に到達する光と最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるように設定すること」という条件を満たすような理想的な深さhは、「h=λ/(2×|n2−n1|)」なる式で求めることができる。
【0189】
(6)タイプ3B(反射型)
一方、図34に示す「タイプ3B(反射型)」のセルは、図33に示す「タイプ3A(反射型)」のセルの上部に、別な透光層120を積層した構造を有している。すなわち、このセルは、屈折率n1を有する物質からなる透光層120と、屈折率n2を有する物質からなる透光層110と、反射層140と、の積層構造体によって構成されている。そして、透光層110と透光層120との界面に凹凸構造面が形成されており、透光層110の透光層120に接する面とは反対側の面に反射層140が形成されている。
【0190】
この「タイプ3B(反射型)」のセルは、図の上方から再生用照明光を照射し、透光層120と透光層110との双方を透過して、反射層140により反射し、透光層110と透光層120との双方を再び透過して、図の上方へと戻ってきた光を観察する態様で利用される。
【0191】
ここでも、光学的な現象という観点からは、図33に示す「タイプ3A(反射型)」も、図34に示す「タイプ3B(反射型)」も、全く同じである。すなわち、図34の透光層110および反射層140は、図33に示す透光層110および反射層140と全く同じものである。そして、図34の上層にある透光層120は、図33に示す外部空間の媒質(たとえば、空気)と同等の機能を果たす。結局、光学的な見地からは、タイプ3A,3Bに差はない。したがって、この図34に示す「タイプ3B(反射型)」のセルを設計する場合も、理想的な深さhは、「h=λ/(2×|n2−n1|)」なる式で求めることができる。
【0192】
(7)タイプ4A(透過型)
図35に示す「タイプ4A(透過型)」のセルは、図29に示す「タイプ1A(透過型)」のセルの余白領域Bの部分に、遮光層150を形成したものである。本発明で用いる三次元セルにおいて、余白領域Bは、回折格子が形成されない領域であり、本来であれば、観察位置に何ら情報を提供する役目を果たさない領域である。しかしながら、実際には、この余白領域を透過した光が観察位置で観察される場合もあり、そのような光は再生された原画像に対するノイズ成分を発生する要因になる。
【0193】
図35に示すセルでは、余白領域Bの部分に、遮光層150が形成されているため、余白領域Bを透過しようとする光は遮蔽され、観察位置まで到達しないことになる。これにより、再生された原画像に対するノイズ成分の発生を抑制することができる。
【0194】
(8)タイプ4B(透過型)
図36に示す「タイプ4B(透過型)」のセルは、図30に示す「タイプ1B(透過型)」のセルの余白領域Bの部分に、遮光層150を形成したものである。この例では、
透過層110と透過層120との間に遮光層150が挿入されており、ノイズ成分の抑制効果が得られる。
【0195】
(9)タイプ5A(反射型)
図37に示す「タイプ5A(反射型)」のセルは、図31に示す「タイプ2A(反射型)」のセルの余白領域Bの部分に、吸光層160を形成したものである。反射型の場合、余白領域Bで反射した光が観察位置まで到達すると、ノイズ成分を発生する要因になる。この図37に示すセルでは、余白領域Bの部分における、透過層110と反射層130との間に吸光層160が挿入されているため、この部分まで到達した光はここで吸収され、外部に出てくることはない。これにより、再生された原画像に対するノイズ成分の発生を抑制することができる。
【0196】
(10)タイプ5B(反射型)
図38に示す「タイプ5B(透過型)」のセルは、図32に示す「タイプ2B(反射型)」のセルの余白領域Bの部分に、吸光層160を形成したものである。この例では、
透過層110と透過層120との間に吸光層160が挿入されており、ノイズ成分の抑制効果が得られる。
【0197】
(11)タイプ6A(反射型)
図39に示す「タイプ6A(反射型)」のセルは、図37に示す「タイプ5A(反射型)」のセルにおける吸光層160を、反射層130の上面に形成したものである。上方から照明光を当てる場合に限られるが、やはり再生された原画像に対するノイズ成分の発生を抑制する効果が得られる。
【0198】
(12)タイプ6B(反射型)
図40に示す「タイプ6B(反射型)」のセルは、図38に示す「タイプ5B(反射型)」のセルにおける吸光層160を、反射層130の上面に形成したものである。上方から照明光を当てる場合に限られるが、やはり再生された原画像に対するノイズ成分の発生を抑制する効果が得られる。
【0199】
(13)タイプ7A(反射型)
図41に示す「タイプ7A(反射型)」のセルは、図33に示す「タイプ3A(反射型)」のセルの余白領域Bの部分に、吸光層160を形成したものである。やはり再生された原画像に対するノイズ成分の発生を抑制する効果が得られる。
【0200】
(14)タイプ7B(反射型)
図42に示す「タイプ7B(反射型)」のセルは、図34に示す「タイプ3B(反射型)」のセルの余白領域Bの部分に、吸光層160を形成したものである。吸光層160は、透光層110と透光層120との間に挿入されている。やはり再生された原画像に対するノイズ成分の発生を抑制する効果が得られる。
【0201】
以上、セルの余白領域Bの部分に、遮光層もしくは吸光層を形成する例をいくつか示したが、遮光層は光の透過を遮蔽する性質をもった材料であれば、どのような材料によって構成してもかまわない。同様に、吸光層は光を吸収する性質をもった材料であれば、どのような材料によって構成してもかまわない。要するに、回折格子形成面における有効領域を経ない光を遮る遮光層もしくは有効領域以外の部分に到達した光を吸収する吸光層を形成することにより、観察位置にノイズ成分の要因となる光が到達することを妨げることができればよい。
【0202】
(15)タイプ2A′,2B′,3A′,3B′(反射型)
図43に示す「タイプ2A′(反射型)」のセルは、図31に示す「タイプ2A(反射型)」のセルにおける余白領域Bの部分の反射層130を除去したものである。同様に、図44に示す「タイプ2B′(反射型)」のセルは、図32に示す「タイプ2B(反射型)」のセルにおける余白領域Bの部分の反射層130を除去したものであり、図45に示す「タイプ3A′(反射型)」のセルは、図33に示す「タイプ3A(反射型)」のセルにおける余白領域Bの部分の反射層140を除去したものであり、図46に示す「タイプ3B′(反射型)」のセルは、図34に示す「タイプ3B(反射型)」のセルにおける余白領域Bの部分の反射層140を除去したものである。余白領域Bからの光は、再生時にノイズ成分を発生する要因になるので、各反射層を余白領域Bには形成せずに、有効領域E内にのみ形成すれば、ノイズ成分を除去する効果が得られる。
【0203】
<<< §8.本発明の変形例 >>>
最後に、本発明を実施する上でのいくつかの変形例を述べておく。
【0204】
(1) 階段状の回折格子を用いる例
これまで述べた実施形態では、図12や図28に示すように、断面が鋸歯状形状をなす凹凸構造面によって回折格子を形成していた。すなわち、三次元セルとして、有効領域の縦辺に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少するスロープを形成し、当該スロープを繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成していた。このように、断面が鋸歯状形状をなす凹凸構造面によって回折格子を形成すると、理論的には、図19および図20で説明したとおりの回折現象が起こり、理想的な回折効率が得られ、明るく鮮明な再生像を得ることができる。
【0205】
しかしながら、光学素子を量産することを考えると、このような理想的な凹凸構造面を有するセルを作成することは非常に困難である。すなわち、深さが連続的に単調減少するスロープは、機械的な切削工程などでは比較的容易に形成することができるが、本発明で用いる光学的なセルの場合、スロープの周期ξは1μm程度の長さであり、機械的な切削工程を利用して量産品を製造することは現実的ではない。したがって、現在のところ、商業的に光学素子を量産するためには、電子線描画装置による描画、現像といったプロセスを用いて、回折格子を構成する凹凸構造面を作成するのが最も現実的な手法になるが、この手法では、スロープの構造を形成することはできない。
【0206】
そこで、本願発明者は、これまでの実施例で示したスロープ構造の代わりに、これに近似した階段構造を利用して、本発明に係る光学素子を試作してみた。図47は、三次元セルに形成する回折格子の凹凸形状を、スロープ構造の代わりに4段階の階段構造によって実現した実施例の拡大正面図である。図に破線で示す形状が、これまでの実施例で用いられていたスロープ構造による凹凸であり、図に実線で示す形状が、ここで述べる変形例に係る階段構造による凹凸である。この階段構造は、図示のとおり、ステップST1,ST2,ST3,ST4の4段階からなる。この例の場合、4段階の段差をすべて等しく設定してあるので、ステップの段差Δは、Δ=h/4であり、ステップの幅はξ/4である。凹凸形状変化の周期ξを1μmに設定した場合、ステップの幅は0.25μmということになる。
【0207】
このように、図47に示す階段構造の回折格子では、周期ξの区間内に、最浅部から最深部までの深さが段階的に単調減少する階段が形成されており、当該階段を繰り返し配置することにより凹凸構造面が形成されていることになる。図47の実線を破線と比較すると、若干のずれがあるため、この階段構造からなる回折格子は、スロープ構造からなる回折格子のような理想的な回折効率を得ることはできない。しかしながら、本願発明者による試作品では、実用上、全く支障のない良好な再生像を得ることができた。
【0208】
なお、図47に示す4段階の階段構造を電子線描画装置による描画、現像といったプロセスを用いて形成するには、たとえば、ステップST4の位置を最上面として、ステップST1,ST2を形成するための領域を(2/4)hの深さだけ掘り下げる第1のプロセスと、ステップST1,ST3を形成するための領域を(1/4)hの深さだけ掘り下げる第2のプロセスとを実行すればよい。
【0209】
図48は、図29に示すタイプ1Aのセルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。4通りのステップST1,ST2,ST3,ST4が配置された区間が1周期ξになる。特定位相θは、「セルの基準面SS」と「最浅部と最深部との境界位置」との距離uに基づいて定義される。図49は、図30に示すタイプ1Bのセルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図であり、図50は、図31に示すタイプ2Aのセルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。また、図51は、図28に示す三次元セルC(i,j)のスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す斜視図である。このように、これまで述べてきたいずれの実施例についても、スロープ構造を階段構造に置き換えることが可能である。
【0210】
なお、階段構造の段階は、必ずしも4段階にする必要はなく、任意の段階に設定可能である。一般的には、深さhのスロープ構造をL段の階段構造に置き換えるのであれば、h/Lの段差をもった階段を形成すればよい。この場合、階段構造の最浅部から最深部までの深さは、(L−1)h/Lになる。段階の数Lを増やせば増やすほど、理想的なスロープ構造に近くなり、回折効率が高まることになるが、製造プロセスはそれだけ複雑になる。製造プロセスを最も簡単にする上では、階段構造を2段階のみにすればよい。
【0211】
図52は、三次元セルに形成する回折格子の凹凸形状を、スロープ構造の代わりに2段階の階段構造によって実現した実施例の拡大正面図である。図に破線で示す形状が、スロープ構造による凹凸であり、図に実線で示す形状が、2段階の階段構造による凹凸である。この階段構造は、図示のとおり、ステップST1,ST2の2段階のみからなるので、ステップの段差はh/2に等しく、ステップの幅はξ/2になる。凹凸形状変化の周期ξを1μmに設定した場合、ステップの幅は0.5μmということになる。図の破線と実線とを比べると、かなりのずれを生じているが、このような2段階の階段構造でもある程度の回折効率が得られ、用途によっては、利用価値のある光学素子を得ることができる。
【0212】
図53は、図29に示すタイプ1Aのセルのスロープ構造を2段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。2通りのステップST1,ST2が配置された区間が1周期ξになる。特定位相θは、「セルの基準面SS」と「最浅部と最深部との境界位置」との距離uに基づいて定義される。
【0213】
(2) 特殊な原画像を用いる例
本発明に係る方法で光学素子を作成する場合、三次元空間内に所定の物体光を放出する像として機能することができるものであれば、どのような像を原画像として用いてもかまわない。ここでは、特殊な原画像を用いる例を2例だけ開示しておく。この2例で用いられている原画像は、いずれも方向によって異なる物体光を放出する特殊な原画像である。
【0214】
第1の例は、特開2004−309709号公報に開示されている方法で用いられる原画像である。いま、図54に示すように、第i番目のスライス面SL(i)上に、画像輪郭線F(i)とセル配置線f(i)とが定義されているものとしよう。画像輪郭線F(i)上には、サンプル点S(i,k)が定義されており、セル配置線f(i)上には、セル配置点Q(i,1),…,Q(i,j),Q(i,j+1),…,Q(i,J)が定義されている。このとき、サンプル点S(i,k)から、各セル配置点Qに向けて物体光が放出されることになるが、この物体光が、放出方向によって異なるように、原画像の定義を行うのである。
【0215】
具体的には、図55(a) ,(b) に示すように、同一形状同一サイズの2通りの原画像10A,10Bを用意しておく。これら原画像の表面の各部には、それぞれ所定の画素値(いわゆる濃淡階調や色を示す画素値のみではなく、たとえば、反射率などを示すパラメータも含めた広義の画素値である)を定義しておく。このとき、原画像10Aの表面に定義された画素値と原画像10Bの表面に定義された画素値とは、別個独立した異なる画素値になるようにする。したがって、図55(a) に示すサンプル点SA(i,k)の位置に定義された画素値と、図55(b) に示すサンプル点SB(i,k)の位置に定義された画素値とは、全く異なる値になる。
【0216】
サンプル点S(i,k)から、各セル配置点Qに向けて放出される物体光は、サンプル点S(i,k)の位置に定義された画素値に基づいて決定されることになるが、このとき、放出方向に基づいて、サンプル点SA(i,k)の位置に定義された画素値か、サンプル点SB(i,k)の位置に定義された画素値か、のいずれか一方を選択し、選択した画素値に基づいて物体光を定義するようにする。たとえば、図54に示すように、画像輪郭線F(i)上のサンプル点S(i,k)の位置に法線Nを立て、この法線Nを境界として、図の上方に向かう物体光についてはサンプル点SA(i,k)の位置に定義された画素値を選択し、図の下方に向かう物体光についてはサンプル点SB(i,k)の位置に定義された画素値を選択するようにする。そうすれば、図示の例の場合、セル配置点Q(i,1),…,Q(i,j)に到達する物体光は、サンプル点SA(i,k)の位置に定義された画素値に基づく物体光になり、セル配置点Q(i,j+1),…,Q(i,J)に到達する物体光は、サンプル点SB(i,k)の位置に定義された画素値に基づく物体光になる。
【0217】
要するに、この第1の例の場合、それぞれが複数通りの画素値をもったサンプル点の集合として原画像を定義し、放出方向に応じていずれか1つの画素値を選択する規則を定め、選択された画素値に基づいて放出する物体光が定まるようにすることになる。
【0218】
第2の例は、特開2004−264839号公報に開示されている方法で用いられる原画像である。いま、図56に示すように、原画像として、主原画像10′と副原画像10”とを定義し、これを記録面20に記録することを考える。ここで、主原画像10′は、離散的に分布するサンプル点S′(i,k)が定義された平面であるが、このサンプル点S′(i,k)自身には、何ら画素値は定義されていない。主原画像10′上に定義された各サンプル点S′(i,k)は、単に、離散的な位置分布を示している点として機能する。一方、副原画像10”は、本来の原画像の性質をもった像であり、表面各部に所定の画素値が定義されている。
【0219】
このように、原画像を主原画像10′と副原画像10”との2つによって定義したら、記録面20への記録を次のようにして行う。ここでは、記録面20上のセル配置点Q(i,j)についての演算を行う場合を考える。この場合、主原画像10′上に定義されたサンプル点S′(i,k)からセル配置点Q(i,j)へ向かう物体光を定義する必要があるが、このとき、セル配置点Q(i,j)とサンプル点S′(i,k)とを結ぶ直線と副原画像10”との交点S”(i,k,j)に定義された画素値に基づいて、当該物体光を決定するのである。要するに、主原画像10′上の所定のサンプル点から所定のセル配置点Qに向かう物体光を、「当該セル配置点Qと当該所定のサンプル点とを結ぶ直線」と「副原画像10”」との交点に定義された画素値に基づいて決定することになる。このようにして物体光の定義を行うと、同一のサンプル点S′(i,k)から放出される物体光でありながら、目的地となるセル配置点Qによって、その内容が互いに異なることになる。
【0220】
この点を、図57を用いてもう少し詳しく説明する。図57は、第i番目のスライス面SL(i)上に、主原画像10′の画像輪郭線F′(i)と副原画像10”の画像輪郭線F”(i)とセル配置線f(i)とが定義されている状態を示す平面図である。主原画像10′の画像輪郭線F′(i)上には、サンプル点S′(i,k)が定義されており、セル配置線f(i)上には、セル配置点Q(i,1),…,Q(i,j),Q(i,j+1),…,Q(i,J)が定義されている。この場合、主原画像10′上に定義されたサンプル点S′(i,k)からセル配置点Q(i,j)へ向かう物体光は、セル配置点Q(i,j)とサンプル点S′(i,k)とを結ぶ直線と副原画像10”との交点S”(i,k,j)に定義された画素値に基づいて決定されることになる。ところが、主原画像10′上に定義されたサンプル点S′(i,k)からセル配置点Q(i,j+1)へ向かう物体光は、セル配置点Q(i,j+1)とサンプル点S′(i,k)とを結ぶ直線と副原画像10”との交点S”(i,k,j+1)に定義された画素値に基づいて決定されることになる。このように、同一のサンプル点S′(i,k)から放出される物体光でありながら、セル配置点Q(i,j)へ向かう物体光とセル配置点Q(i,j+1)へ向かう物体光とは、異なる物体光になる。
【0221】
(3) 有効領域Eの面積を決定する方法の変形例
本発明では、個々の三次元セルについて、振幅Aに応じた面積を有する有効領域E内に回折格子を形成することになる。そのために、§6で述べた実施例では、全てのセル配置点Qについて振幅Aの2乗値A2を求め、その最大値A2maxを最大面積として規格化し、各セルごとの有効領域Eの面積を決定していた。すなわち、個々のセル配置点Qに配置すべき三次元セルについては、格子形成面の全面積(Cv×Ch)の「A2/A2max」に相当する領域を有効領域Eとするようにした。
【0222】
しかしながら、実際には、最大値A2maxに近い値が得られるセル配置点Qの出現頻度は非常に低くなるため、§6で述べた実施例どおりの方法で各セルごとの有効領域Eの面積を決定すると、有効領域Eの割合が小さくなり、全体的に暗い再生像しか得られないことが多い。そこで、実用上は、A2max≧A2baseとなるような所定の値A2baseを設定しておき、個々の三次元セルについて、格子形成面の全面積(Cv×Ch)の「A2/A2base」に相当する領域(但し、A2>A2baseの場合は、全面積に相当する領域)を有効領域Eとするのが好ましい。
【0223】
たとえば、最大値A2max=128のときに、A2base=100に設定したとしよう。この場合、A2=50が得られたセルについては、格子形成面の全面積の50%の領域が有効領域Eとなり、A2=100が得られたセルについては、格子形成面の全面積の100%の領域が有効領域Eとなり、A2が100を超えるセルについても、格子形成面の全面積の100%の領域が有効領域Eとなる。§6で述べた実施例は、A2max=A2baseなる設定を行った例と言うことができる。
【0224】
(4) 量産プロセスを考慮した寸法設計を行う例
これまで、本発明に係る光学素子を構成する三次元セルの各部の寸法の設定方法や具体的な寸法値を示してきた。もちろん、これらの寸法は、最終製品として提供される光学素子(たとえば、ホログラム記録媒体)自身についての寸法であるので、量産を行う場合に用いる原版を設計する上では、この原版を用いた量産プロセスを考慮した寸法設計を行うようにするのが好ましい。
【0225】
たとえば、耐久性をもった材質からなる原版を作成し、この原版の凹凸構造を、紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂などに転写し、原版の複製品の量産を行う場合、複製された量産品の凹部の溝の深さは、原版の当初の設計寸法よりも浅くなる傾向がある。そこで、このような量産プロセスを実施する場合は、原版の寸法設計を行う際に、転写複製の際の凹凸寸法の変化を考慮に入れ、転写後の量産品における寸法が最適な寸法となるような配慮を行うのが好ましい。
【0226】
(5) 凹凸構造を用いない回折格子を用いる例
これまで述べた実施例に用いる三次元セルでは、物理的な凹凸構造によって回折格子を形成していたが、回折格子は必ずしも凹凸構造によって構成する必要はない。たとえば、直方体形状をなす三次元セルの一面に、濃淡のストライプ模様を形成しても回折格子を形成することが可能であるし、屈折率の異なる2種類の材質からなるスティック状構造体を交互に敷き詰めることによっても回折格子を形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0227】
【図1】参照光を利用して、光学的に干渉縞として物体像を記録する一般的なホログラフィーの手法を示す斜視図である。
【図2】点光源Oと記録面20とが定義されている場合に、記録面20上の代表点P(x,y)に到達した物体光の振幅と位相を示す斜視図である。
【図3】物体像10上の各点光源から発せされる物体光が、記録面20上の代表点P(x,y)に到達した場合の代表点P(x,y)の位置における物体光の複素振幅を示す斜視図である。
【図4】複素座標平面上の座標点Tで示される複素振幅に基づいて、振幅A(x,y)と位相θ(x,y)が求まることを示す図である。
【図5】物体像10を記録するために定義された三次元仮想セル集合30の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明で用いる三次元セルC(x,y)の振幅変調および位相変調の機能を示す図である。
【図7】先願発明に係る光学素子の構成要素となるべき、透過率および屈折率の異なる16通りの物理セルの一例を示す図である。
【図8】先願発明における最適実施形態となる物理的な三次元セルC(x,y)の構造の一例を示す斜視図である。
【図9】図8に示す三次元セルC(x,y)を透過型セルとして用いる場合において、振幅の情報が溝G(x,y)の幅G1として記録され、位相の情報が溝G(x,y)の深さG2として記録される理由を説明する正面図である。
【図10】図8に示す三次元セルC(x,y)を反射型セルとして用いる場合において、振幅の情報が溝G(x,y)の幅G1として記録され、位相の情報が溝G(x,y)の深さG2として記録される理由を説明する正面図である。
【図11】図8に示す三次元セルC(x,y)の構造において、7通りの溝幅と、4通りの深さとを定め、合計28通りの物理セルを用意した例を示す斜視図である。
【図12】本発明の基本的実施形態で用いる物理的な三次元セルC(x,y)の構造の一例を示す斜視図である。
【図13】図12に示す三次元セルC(x,y)において、位相θの記録原理を示す拡大正面図である。
【図14】光学素子に対して法線方向から再生用照明光を当て、ホログラムとして記録されている物体像を法線方向から観察する基本的な形態を示す側面図である。
【図15】光学素子に対して斜め方向から再生用照明光を当て、ホログラムとして記録されている物体像を法線方向から観察する形態を示す側面図である。
【図16】光学素子に対して法線方向から再生用照明光を当て、ホログラムとして記録されている物体像を斜め方向から観察する形態を示す側面図である。
【図17】図15に示す再生環境に対応した光学素子を作成するために、回折格子による回折現象を利用する原理を示す側面図である。
【図18】図16に示す再生環境に対応した光学素子を作成するために、回折格子による回折現象を利用する原理を示す側面図である。
【図19】図17に示す回折現象の原理を示す側面図である。
【図20】図17に示す回折現象の原理を示す別な側面図である。
【図21】本発明に係る光学素子の製造方法の基本手順を示す流れ図である。
【図22】図21の流れ図におけるステップS1〜S3の手順を説明するための正面図である。
【図23】図21の流れ図におけるステップS4〜S7の手順を説明するための斜視図である。
【図24】図21の流れ図におけるステップS8の手順を説明するための斜視図である。
【図25】図21の流れ図におけるステップS8の手順を説明するための平面図である。
【図26】図21の流れ図におけるステップS8の手順を行う際に、各対応サンプル点から放出される物体光の放出角度に制限を付加する方法を説明するための平面図である。
【図27】図21の流れ図におけるステップS5,S6の手順によって、記録面20上に定義されたセル配置線およびセル配置点の一例を示す平面図である。
【図28】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの構造の一例を示す斜視図である。
【図29】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ1A)を示す部分正断面図である。
【図30】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ1B)を示す部分正断面図である。
【図31】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ2A)を示す部分正断面図である。
【図32】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ2B)を示す部分正断面図である。
【図33】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ3A)を示す部分正断面図である。
【図34】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ3B)を示す部分正断面図である。
【図35】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ4A)を示す部分正断面図である。
【図36】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ4B)を示す部分正断面図である。
【図37】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ5A)を示す部分正断面図である。
【図38】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ5B)を示す部分正断面図である。
【図39】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ6A)を示す部分正断面図である。
【図40】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ6B)を示す部分正断面図である。
【図41】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ7A)を示す部分正断面図である。
【図42】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ7B)を示す部分正断面図である。
【図43】図31に示すタイプ2Aのセルの余白領域の反射層を削除した三次元セルの物理的構造例(タイプ2A′)を示す部分正断面図である。
【図44】図32に示すタイプ2Bのセルの余白領域の反射層を削除した三次元セルの物理的構造例(タイプ2B′)を示す部分正断面図である。
【図45】図33に示すタイプ3Aのセルの余白領域の反射層を削除した三次元セルの物理的構造例(タイプ3A′)を示す部分正断面図である。
【図46】図34に示すタイプ3Bのセルの余白領域の反射層を削除した三次元セルの物理的構造例(タイプ3B′)を示す部分正断面図である。
【図47】三次元セルに形成する回折格子の凹凸形状を、スロープ構造の代わりに4段階の階段構造によって実現した実施例の拡大正面図である。
【図48】図29に示すタイプ1Aのセルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。
【図49】図30に示すタイプ1Bのセルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。
【図50】図31に示すタイプ2Aのセルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。
【図51】図28に示す三次元セルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す斜視図である。
【図52】三次元セルに形成する回折格子の凹凸形状を、スロープ構造の代わりに2段階の階段構造によって実現した実施例の拡大正面図である。
【図53】図29に示すタイプ1Aの構造例のスロープ構造を2段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。
【図54】方向によって異なる物体光を放出する原画像を定義する第1の例を示す平面図である。
【図55】図54における原画像の実体となる2つの立体画像を示す正面図である。
【図56】方向によって異なる物体光を放出する原画像を定義する第2の例を示す斜視図である。
【図57】図56に示す原画像を用いた記録面への記録方法を説明する平面図である。
【符号の説明】
【0228】
10:物体/物体像(原画像)
10A,10B:選択的な原画像
10′:主原画像
10”:副原画像
20:記録面(記録媒体)
30:三次元仮想セル集合
40:光学素子
50:回折格子を形成する三角形の部分
110:透光層
120:透光層
130:反射層
140:反射層
150:遮光層
160:吸光層
210:透光層
215:透光層
220:透光層
230:反射層
A,Ak,A(x,y):振幅
Ain:入射光の振幅
Aout :射出光の振幅
B,B(x,y),B(i,j):余白領域
C(x,y):仮想セル/物理的な三次元セル
C1,C2,C3:セルの寸法
Cd:三次元セルの奥行き寸法
Ce:三次元セルの有効領域の縦寸法
Ch:三次元セルの横寸法(有効領域の縦寸法)
Cv:三次元セルの縦寸法
d,d2,d3,d4:光路差
E:視点/有効領域
E(x,y),E(i,j):有効領域
F(i):画像輪郭線
F′(i):主原画像上の画像輪郭線
F”(i):副原画像上の画像輪郭線
f(i−1),f(i),f(i+1):セル配置線
G:回折格子
G(i,j):回折格子
G(x,y):セルに形成された溝/回折格子
G1,G2,G3:溝の寸法/回折格子形成部の寸法
h:回折格子の凹凸構造を構成する溝の最大深さ
Ixy:複素振幅の虚数部
i:虚数単位
i,j,k:順番を示すパラメータ
Lin:入射光
Lout :射出光
Lt:透過型光学素子についての再生用照明光
Lr:反射型光学素子についての再生用照明光
L1〜L4,LL1〜LL4,LL1′〜LL4′:光
m:回折光の次数
N:法線
n,n1〜n4:屈折率
O,O(1),O(k),O(K):点光源
P(x,y),P(x′,y′):代表点
P1〜P4:光学素子上の点
Pv:スライス面のピッチ/セル配置線のピッチ/セル配置点Qの縦方向ピッチ
Ph:セル配置点Qの横方向ピッチ
Q(i,1),Q(i,j−1),Q(i,j),Q(i,j+1),Q(i,J),Q(i−1,j),Q(i+1,j):セル配置点
R:参照光
Rxy:複素振幅の実数部
r,r1,rk,rK:点光源からの距離
S1〜S11:流れ図の各ステップ
S1:溝G(x,y)の内部の面
S2:溝G(x,y)の外部の面
S(i,k−1),S(i,k),S(i,k+1),S(i,m):サンプル点
S′(i,k):主原画像上のサンプル点
S”(i,k,j),S”(i,k,j+1):副原画像上のサンプル点
SA(i,k),SB(i,k):選択的なサンプル点
SL(1),SL(2),SL(i),SL(N):スライス面
SS:基準面
ST1,ST2,ST3,ST4:階段構造の各ステップ
T:座標点
u:基準面からの距離
V1〜V4:位相θに応じた行
W1〜W7:振幅Aに応じた列
X,Y,Z:三次元座標系の各座標軸
α:放出制限角
Δ:ステップの段差
θ,θk,θ(x,y):位相
θin:入射光の位相
θout :射出光の位相
λ:光の波長
ξ:凹凸形状変化の周期
φ:入射角
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子およびその製造方法に関し、特に、ホログラムとして立体像を記録し、これを再生することが可能な光学素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立体像を媒体上に記録し、これを再生する方法として、ホログラフィーの技術が古くから知られており、この方法で作成されたホログラムは、観賞用アートや偽造防止用シールなど、様々な分野で利用されている。光学的にホログラムを作成する方法としては、物体から発せられる物体光と参照光との干渉縞を感光性媒体に記録する方法が一般的である。物体光および参照光の光源としては、通常、可干渉性に優れたレーザ光が利用される。一般に、光などの電磁波の挙動は、振幅と位相とをもった波面の伝播として捉えることができ、ホログラムは、このような波面を再生する機能をもった光学素子と言うことができる。したがって、ホログラムの記録媒体には、空間のそれぞれの位置における物体光の位相と振幅とを正確に再現するための情報を記録しておく必要がある。感光性媒体上に、物体光と参照光とによって生じる干渉縞を記録すれば、物体光の位相と振幅との双方を含んだ情報を記録することができ、この媒体に参照光と同等の再生用照明光を照射することにより、この再生用照明光の一部が物体光と等価な波面をもった光として観測できる。
【0003】
このように、レーザ光などを用いた光学的な方法でホログラムを作成する場合、物体光の位相と振幅は、参照光との干渉縞としてしか記録することはできない。これは、ホログラムを記録する感光性媒体が、光の強度に応じて感光する特性があるためである。これに対して、最近、コンピュータを用いた演算により、ホログラムを作成する手法も実用化されつつある。この手法は、計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram )と呼ばれており、コンピュータを利用して物体光の波面を計算し、その位相と振幅とを何らかの方法で物理的な媒体上に記録することにより、ホログラムの作成が行われる。この計算機ホログラムの手法を用いれば、もちろん、物体光と参照光との干渉縞として像の記録を行うことも可能であるが、参照光を用いずに、物体光の位相と振幅に関する情報を直接記録面に記録することも可能になる。
【0004】
たとえば、下記の特許文献1および2(本願と同一発明者による発明に係る特許出願)には、任意の原画像と、所定ピッチで代表点が配置された記録面とを定義し、コンピュータを利用して、個々の代表点位置について、原画像の各部分から発せられた物体光の合成波の波面に関する複素振幅を計算し、記録面上に複素振幅分布(振幅Aと位相θの分布)を求め、これを三次元セルの集合体によって記録する発明が開示されている。以下、この発明を先願発明という。この先願発明に開示された方法では、一面に溝をもった三次元セルを用意し、これを個々の代表点位置に配置することにより、多数の三次元セルの集合体からなる光学素子を構成する。このとき、個々の代表点位置について求められた位相θは、三次元セルの溝の深さとして記録され、振幅Aは、三次元セルの溝の幅として記録される。こうして、記録面上の個々の代表点位置に、それぞれ固有の位相θと振幅Aとが記録されることになるので、再生用照明光を照射すると、原画像のホログラム再生像が得られる。
【特許文献1】特開2002−072837号公報
【特許文献2】特開2005−215569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した先願発明の方法では、振幅Aと位相θとが記録された三次元セルの集合体により光学素子が構成されるため、再生時に高い回折効率を得ることができる素子が製造できるという利点が得られる。しかしながら、そのような三次元セルからなる光学素子を物理的に製造するためには、微細加工を行う技術が必要であり、高精度の製造プロセスが必要になる。たとえば、前掲の特許文献1には、0.6×0.25×0.25μmという微小サイズの三次元セルの上面に、振幅Aの値に応じて様々な幅をもった溝を形成する例が示されている。このような微小サイズの物理的なセルの上面に溝を形成するだけでも高精度の加工が必要であるのに、その溝の幅を振幅Aの値に応じた正確な幅に制御するには、極めて高い加工精度が要求される。
【0006】
そこで本発明は、再生時に高い回折効率を得ることができ、しかも、製造プロセスが比較的容易で、生産性に優れた光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明の第1の態様は、複数の三次元セルの集合から構成され所定の原画像の再生が可能な光学素子を製造する方法において、
三次元空間内に所定の物体光を放出する原画像を定義する原画像定義段階と、
三次元空間内に原画像を記録するための記録面を定義する記録面定義段階と、
原画像および記録面を切断することが可能な平面からなる複数N枚のスライス面を定義するスライス面定義段階と、
原画像を各スライス面で切断して得られる切断部にそれぞれ画像輪郭線を定義する画像輪郭線定義段階と、
各画像輪郭線上にそれぞれ複数のサンプル点Sを定義するサンプル点定義段階と、
記録面を各スライス面で切断して得られる切断部にそれぞれセル配置線を定義するセル配置線定義段階と、
各セル配置線上にそれぞれ複数のセル配置点Qを定義するセル配置点定義段階と、
同一のスライス面による切断によって定義された画像輪郭線とセル配置線とを対応させ、各セル配置点Qのそれぞれについて、当該セル配置点Qが所属するセル配置線に対応する画像輪郭線上に定義されたサンプル点Sを対応サンプル点と決定する対応サンプル点決定段階と、
各セル配置点Qのそれぞれについて、その対応サンプル点から放出された物体光のうち当該セル配置点Qの位置に到達する物体光の合成波の所定時刻における振幅Aおよび位相θを演算によって求める振幅位相演算段階と、
記録面上の各セル配置点Qの位置に配置すべき三次元セルの構造を、当該セル配置点Qについて求められた振幅Aおよび位相θに基づいて決定することにより、記録面上に配置された複数の三次元セルの集合から構成される立体構造を決定する立体構造決定段階と、
決定された立体構造を有する物理的な光学素子を形成する素子形成段階と、
を行い、
立体構造決定段階において、振幅Aに応じた面積を有する有効領域に、位相θに応じた位相をもった回折格子が形成された三次元セルの構造を決定するようにしたものである。
【0008】
(2) 本発明の第2の態様は、上述の第1の態様に係る光学素子の製造方法において、
原画像定義段階で、三次元立体画像もしくは二次元平面画像を原画像として定義するようにしたものである。
【0009】
(3) 本発明の第3の態様は、上述の第1の態様に係る光学素子の製造方法において、
原画像定義段階で、方向によって異なる物体光を放出する原画像を定義するようにしたものである。
【0010】
(4) 本発明の第4の態様は、上述の第3の態様に係る光学素子の製造方法において、
それぞれが複数通りの画素値をもったサンプル点の集合として原画像を定義し、放出方向に応じていずれか1つの画素値を選択する規則を定め、選択された画素値に基づいて放出する物体光が定まるようにしたものである。
【0011】
(5) 本発明の第5の態様は、上述の第3の態様に係る光学素子の製造方法において、
原画像定義段階で、離散的に分布するサンプル点が定義された主原画像と、表面各部に所定の画素値が定義された副原画像と、によって原画像を定義し、所定のサンプル点から所定のセル配置点Qに向かう物体光を、セル配置点Qと所定のサンプル点とを結ぶ直線と副原画像との交点に定義された画素値に基づいて決定するようにしたものである。
【0012】
(6) 本発明の第6の態様は、上述の第1〜第5の態様に係る光学素子の製造方法において、
記録面定義段階で、平面からなる記録面を定義し、
スライス面定義段階で、互いに平行な平面からなる複数N枚のスライス面を定義し、
セル配置線定義段階で、記録面上に互いに平行な直線からなるN本のセル配置線を定義するようにしたものである。
【0013】
(7) 本発明の第7の態様は、上述の第6の態様に係る光学素子の製造方法において、
スライス面定義段階で、一定のピッチPvで配置され、記録面に対して直交するN枚のスライス面を定義し、
セル配置線定義段階で、記録面上に、ピッチPvで配置されたN本のセル配置線を定義し、
セル配置点定義段階で、各セル配置線上に、一定のピッチPhで配置されたセル配置点Qを定義することにより、記録面上に、縦方向ピッチPv、横方向ピッチPhで二次元マトリックス状に配置されたセル配置点Qを定義し、
立体構造決定段階で、縦方向寸法CvがピッチPvに等しく、横方向寸法ChがピッチPhに等しい直方体を基本形状とする三次元セルを、二次元マトリックス上に配置した立体構造を決定するようにしたものである。
【0014】
(8) 本発明の第8の態様は、上述の第1〜第7の態様に係る光学素子の製造方法において、
振幅位相演算段階で、各対応サンプル点から放出される物体光の放出角度に制限を付加した演算を行うようにしたものである。
【0015】
(9) 本発明の第9の態様は、上述の第1〜第8の態様に係る光学素子の製造方法において、
振幅位相演算段階で、サンプル点Sからセル配置点Qに向かう物体光の振幅の減衰量を演算する際に、線光源から発せられた物体光の振幅減衰項を用いるようにしたものである。
【0016】
(10) 本発明の第10の態様は、上述の第9の態様に係る光学素子の製造方法において、
所定のセル配置点Qに到達する物体光を放出する全K個のサンプル点のうち、第k番目(k=1〜K)のサンプル点S(k)から発せられる物体光について、その波長をλ、サンプル点S(k)から単位距離だけ離れた位置の振幅をAk、サンプル点S(k)における位相をθkとし、セル配置点Qと第k番目のサンプル点S(k)との距離をrkとしたときに、セル配置点QにおけるK個のサンプル点からの物体光の合成複素振幅を、Σ(k=1〜K)(Ak/√rk・cos(θk±2πrk/λ)+iAk/√rk・sin(θk±2πrk/λ))なる式で定義し、この式を用いた演算によって、セル配置点Qにおける振幅Aおよび位相θを求めるようにしたものである。
【0017】
(11) 本発明の第11の態様は、上述の第1〜第10の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、所定周期ξで同一の凹凸形状変化を繰り返す凹凸構造面を有する回折格子を、振幅Aに応じた面積を有する有効領域内の、三次元セルの基準位置に対して位相θをもつ位置に配置することにより、三次元セルの構造を決定するようにしたものである。
【0018】
(12) 本発明の第12の態様は、上述の第11の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、
寸法Cvの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる格子形成面を含み、縦方向寸法Cv、横方向寸法Ch、奥行寸法Cdをもった直方体を基本形状とする三次元セルを、格子形成面が記録面に対して平行になり、横辺がセル配置線に平行になるように配置し、
格子形成面に、振幅Aに応じた面積を有する部分からなる有効領域と、それ以外の部分からなる余白領域と、を定義し、
有効領域に、凹凸構造面を有する回折格子を配置することにより、三次元セルの構造を決定するようにしたものである。
【0019】
(13) 本発明の第13の態様は、上述の第12の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、寸法Ceの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる有効領域を定義し、全ての三次元セルについて、有効領域の横幅が三次元セルの横幅Chに等しくなるようにし、個々の三次元セルごとの有効領域の面積が縦寸法Ceによって規定されるようにしたものである。
【0020】
(14) 本発明の第14の態様は、上述の第12または第13の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、
記録面上に定義された全てのセル配置点Qについて、それぞれ求められた振幅Aの2乗値A2を求め、その最大値をA2maxとし、A2max≧A2baseなる値A2baseを設定し、
個々のセル配置点Qに配置すべき三次元セルについて、格子形成面の全面積の「A2/A2base」に相当する領域(但し、A2>A2baseの場合は、全面積に相当する領域)を有効領域とするようにしたものである。
【0021】
(15) 本発明の第15の態様は、上述の第12〜第14の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、セル配置線に直交する方向に凹凸形状変化が生じるように、回折格子を形成するようにしたものである。
【0022】
(16) 本発明の第16の態様は、上述の第15の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、セル配置線に直交する方向に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少するスロープを形成し、当該スロープを繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成したものである。
【0023】
(17) 本発明の第17の態様は、上述の第16の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、所定の標準波長λの再生用照明光を用いることを前提とする標準観察条件を設定し、スロープの最浅部から最深部までの深さhを、標準観察条件において、最深部を経て観察位置に到達する光と最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるように設定するものである。
【0024】
(18) 本発明の第18の態様は、上述の第15の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、セル配置線に直交する方向に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが段階的に単調減少する階段を形成し、当該階段を繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成したものである。
【0025】
(19) 本発明の第19の態様は、上述の第18の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、所定の標準波長λの再生用照明光を用いることを前提とする標準観察条件を設定し、セル配置線に直交する方向に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部までの深さがhであり、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少し、標準観察条件において、最深部を経て観察位置に到達する光と最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるようなスロープを定義し、このスロープに近似する階段を配置することにより凹凸構造面を形成するものである。
【0026】
(20) 本発明の第20の態様は、上述の第17または第19の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、屈折率n2を有する物質からなる透光層の表面に凹凸構造面が形成され、透光層を透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/|n2−n1|」で求まる値に設定するものである。
【0027】
(21) 本発明の第21の態様は、上述の第17または第19の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層との界面として凹凸構造面が形成され、第1の透光層と第2の透光層との双方を透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/|n2−n1|」で求まる値に設定するものである。
【0028】
(22) 本発明の第22の態様は、上述の第17または第19の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、再生用照明光を反射する性質を有する反射層の表面に凹凸構造面が形成され、空間内から反射層で反射した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×n1)」で求まる値に設定するものである。
【0029】
(23) 本発明の第23の態様は、上述の第17または第19の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、屈折率n2を有する物質からなる透光層と再生用照明光を反射する性質を有する反射層との界面として凹凸構造面が形成され、透光層を透過して、反射層により反射し、透光層を再び透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×n2)」で求まる値に設定するものである。
【0030】
(24) 本発明の第24の態様は、上述の第17または第19の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、屈折率n2を有する物質からなる透光層の表面に凹凸構造面が形成され、透光層の凹凸構造面とは反対側の面に再生用照明光を反射する性質を有する反射層が形成され、透光層を透過して、反射層により反射し、透光層を再び透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×|n2−n1|)」で求まる値に設定するものである。
【0031】
(25) 本発明の第25の態様は、上述の第17または第19の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層との界面として凹凸構造面が形成され、第2の透光層の第1の透光層に接する面とは反対側の面に再生用照明光を反射する性質を有する反射層が形成され、第1の透光層と第2の透光層との双方を透過して、反射層により反射し、第1の透光層と第2の透光層との双方を再び透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×|n2−n1|)」で求まる値に設定するものである。
【0032】
(26) 本発明の第26の態様は、上述の第22〜第25の態様に係る光学素子の製造方法において、
反射層を、各三次元セルの有効領域内にのみ形成し、余白領域内には形成しないようにしたものである。
【0033】
(27) 本発明の第27の態様は、上述の第12〜第26の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、
所定の標準波長λの再生用照明光を所定の照射方向から光学素子に照射したときに所定の観察方向から観察することを前提とする標準観察条件を設定し、
回折格子の凹凸形状変化の周期ξを、照射方向から入射した光を観察方向へと導くために必要な回折角を得るのに適した値に設定し、
三次元セルの縦方向寸法Cvを、回折格子により十分な回折現象が生じるために必要な寸法以上の値に設定し、
三次元セルの横方向寸法Chを、横方向に関して必要な立体視角度を得るために必要な寸法以上の値に設定するものである。
【0034】
(28) 本発明の第28の態様は、上述の第27の態様に係る光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、回折格子の凹凸形状変化の周期ξを0.6〜2μm、三次元セルの縦方向寸法Cvを3〜300μm、横方向寸法Chを0.2〜4μm、に設定するものである。
【0035】
(29) 本発明の第29の態様は、上述の第12〜第28の態様に係る光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、余白領域に遮光層もしくは吸光層を形成するようにしたものである。
【0036】
(30) 本発明の第30の態様は、複数の三次元セルの集合からなる光学素子において、
個々のセルには、それぞれ特定振幅および特定位相が定義されており、特定振幅に応じた面積をもった有効領域内に特定位相に応じた位相をもった回折格子が形成されており、個々のセルに所定の入射光を与えると、当該セルに定義された特定振幅および特定位相に応じて入射光の振幅および位相を変化させた射出光が得られるようにしたものである。
【0037】
(31) 本発明の第31の態様は、上述の第30の態様に係る光学素子において、
所定周期ξで同一の凹凸形状変化を繰り返す凹凸構造面を有する回折格子を、有効領域内の、所定の基準位置に対して位相θをもつ位置に配置することにより、個々の三次元セルを形成したものである。
【0038】
(32) 本発明の第32の態様は、上述の第31の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルが、縦方向寸法Cv、横方向寸法Ch、奥行寸法Cdをもった直方体を基本形状となし、寸法Cvの縦辺および寸法Chの横辺を有し直方体の一面に対して平行な長方形からなる格子形成面を含み、この格子形成面に沿って凹凸構造面が形成されており、各三次元セルを二次元マトリックス状に配置したものである。
【0039】
(33) 本発明の第33の態様は、上述の第32の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルの格子形成面には、寸法Ceの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる有効領域が定義されており、全ての三次元セルについて、有効領域の横幅がセル自身の横幅Chに等しく設定されており、縦辺に沿った方向に凹凸形状変化が生じるように、凹凸構造体からなる回折格子が形成されているようにしたものである。
【0040】
(34) 本発明の第34の態様は、上述の第33の態様に係る光学素子において、
有効領域の縦辺に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少するスロープを形成し、当該スロープを繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成したものである。
【0041】
(35) 本発明の第35の態様は、上述の第33の態様に係る光学素子において、
有効領域の縦辺に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが段階的に単調減少する階段を形成し、当該階段を繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成したものである。
【0042】
(36) 本発明の第36の態様は、上述の第33〜第35の態様に係る光学素子において、
回折格子の凹凸形状変化の周期ξを0.6〜2μm、三次元セルの縦方向寸法Cvを3〜300μm、横方向寸法Chを0.2〜4μm、に設定したものである。
【0043】
(37) 本発明の第37の態様は、上述の第31〜第36の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルを、表面に凹凸構造面が形成された透光層もしくは反射層によって構成したものである。
【0044】
(38) 本発明の第38の態様は、上述の第31〜第36の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルを、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層との積層構造体を含み、第1の透光層と第2の透光層との界面に凹凸構造面が形成されてセルによって構成したものである。
【0045】
(39) 本発明の第39の態様は、上述の第31〜第36の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルを、透光層と反射層との積層構造体を有し、透光層と反射層との界面として凹凸構造面が形成されているセルによって構成したものである。
【0046】
(40) 本発明の第40の態様は、上述の第31〜第36の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルを、透光層と反射層との積層構造体を有し、透光層の反射層に接する面とは反対側の面に凹凸構造面が形成されているセルによって構成したものである。
【0047】
(41) 本発明の第41の態様は、上述の第31〜第36の態様に係る光学素子において、
個々の三次元セルを、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と、屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層と、反射層と、の積層構造体を有し、第1の透光層と第2の透光層との界面に凹凸構造面が形成されており、第2の透光層の第1の透光層に接する面とは反対側の面に反射層が形成されているセルによって構成したものである。
【0048】
(42) 本発明の第42の態様は、上述の第31〜第36の態様に係る光学素子において、
有効領域を経ない光を遮る遮光層もしくは有効領域以外の部分に到達した光を吸収する吸光層を形成したものである。
【0049】
(43) 本発明の第43の態様は、上述の第37、第39〜第41の態様に係る光学素子において、
反射層を各三次元セルの有効領域内のみに形成したものである。
【0050】
(44) 本発明の第44の態様は、上述の第30〜第43の態様に係る光学素子において、
所定の視点位置から観測したときに物体像が再生されるように、当該物体像からの物体光の複素振幅分布を記録し、ホログラムとして利用することができるようにしたものである。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、原画像が干渉縞としてではなく物体光の複素振幅分布として記録されるため、再生時に高い回折効率が得られる。しかも、複素振幅分布は、三次元セル上に回折格子として記録され、この回折格子が形成されている有効面積として振幅が表現され、回折格子の空間的な位置として位相が表現される。このため、振幅を記録するための領域を比較的広く設定することが可能になり、それほど高い加工精度のプロセスでなくても、物理的な光学素子の製造が可能になる。かくして、本発明によれば、製造プロセスが比較的容易で、生産性に優れた光学素子を提供することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
【0053】
<<< §1.複素振幅分布を記録する基本原理 >>>
図1は、参照光を利用して、光学的に干渉縞として物体像を記録する一般的なホログラフィーの手法を示す斜視図である。物体10の立体像を記録媒体20上に記録する場合、物体10を参照光Rと同一波長の光(通常は、レーザ光)で照らし、物体10からの物体光と参照光Rとによって記録媒体20上に形成される干渉縞を記録することになる。ここでは、記録媒体20上にXY座標系を定義し、座標(x,y)に位置する任意の点P(x,y)に着目すると、この点P(x,y)には、物体10上の各点O(1),O(2),…,O(k),…,O(K)からの各物体光と参照光Rとの干渉による合成波の振幅強度が記録されることになる。記録媒体20上の別な点P(x′,y′)にも、同様に、各点からの物体光と参照光Rとの干渉による合成波の振幅強度が記録されるが、光の伝播距離が異なるため、点P(x,y)に記録される振幅強度と点P(x′,y′)に記録される振幅強度とは異なる。このようにして、記録媒体20上には、振幅強度分布が記録されることになり、この振幅強度分布によって、物体光の振幅と位相とが表現されていることになる。再生時には、参照光Rと同一波長の再生照明光を参照光Rと同一方向(もしくは、記録媒体20に関して面対称となる方向)から照射することにより、物体10の立体再生像が得られる。
【0054】
光学的な方法により、記録媒体20上に干渉縞を記録するには、記録媒体20として感光性材料を用いることになり、干渉縞は記録媒体20上の濃淡パターンとして記録されることになる。一方、計算機合成ホログラムの手法を利用する場合には、この図1に示す光学系で生じる現象を、コンピュータ上でシミュレーションすればよい。具体的には、現実の物体10や記録媒体20の代わりに、コンピュータ上の仮想三次元空間内において、原画像となる物体像10および記録面20を定義し、物体像10上に多数の点光源O(1),O(2),…,O(k),…,O(K)を定義する。そして、各点光源について、所定の波長、振幅、位相をもった物体光(球面波)を定義し、更に、この物体光と同一波長をもった参照光を定義する。一方、記録面20上に、多数の代表点P(x,y)を定義し、個々の代表点の位置に到達する物体光と参照光との合成波の振幅強度を演算によって求める。こうして、記録面20上には、演算によって振幅強度分布(干渉縞)が求まることになるので、この振幅強度分布を物理的な記録媒体上に、濃淡分布あるいは凹凸分布として記録すれば、物理的なホログラム記録媒体を作成することができる。
【0055】
もっとも、計算機ホログラムの手法を用いれば、必ずしも参照光Rを用いて干渉縞として記録を行う必要はなく、物体像10からの物体光そのものを記録面20に直接記録することも可能である。すなわち、光学的にホログラムを作成する場合には、感光性材料からなる記録媒体20上に、感光に必要な一定時間にわたって干渉波を発生させ、これを干渉縞として記録しなければならない。このため、参照光を利用して定在波となる干渉波を発生させる必要がある。ところが、計算機ホログラムの手法を利用すれば、記録面20上に存在するある瞬間の波の状態を、あたかも時間を静止させて観測することができ、これを記録することができる。別言すれば、所定の基準時刻における記録面20上の各代表点位置における物体光の振幅および位相を演算によって求めることができる。本発明では、このような計算機ホログラムの利点を生かし、物体光を参照光との干渉縞として記録する手法を採らずに、物体光の振幅と位相とを直接記録する手法を採っている。
【0056】
いま、たとえば、図2の斜視図に示すように、点光源Oと記録面20とが定義されている場合に、記録面20上の代表点P(x,y)に到達した物体光の振幅と位相がどのように計算されるかを考えてみよう。一般に、振幅と位相とを考慮した波動は、
Acosθ + i Asinθ
なる複素関数で表現される(iは虚数単位)。ここで、Aが振幅を示すパラメータであり、θが位相を示すパラメータである。そこで、点光源Oから発せられる物体光を、上記複素関数で定義すれば、代表点P(x,y)の位置における物体光は、
A/r・cos(θ+2πr/λ)
+ i A/r・sin(θ+2πr/λ)
なる複素関数で表される。ここで、Aは基準となる振幅値、rは、点光源Oと代表点P(x,y)との距離であり、λは物体光の波長である。物体光の振幅は距離rが大きくなるにしたがって減衰し、位相は距離rと波長λとの関係で決定される。この複素関数には、時間を示す変数が入っていないが、これは、前述したように、所定の基準時刻において時間を静止させたときに観測される波の瞬間状態を示す式だからである。
【0057】
結局、物体像10の情報を記録面20上に記録するには、図3の斜視図に示されているように、物体像10上に多数の点光源O(1),O(2),…,O(k),…,O(K)を定義し、記録面20上の各代表点位置において、各点光源から発せられる物体光の合成波の振幅および位相を演算によって求め、これを何らかの方法で記録すればよい。いま、物体像10上に合計K個の点光源が定義され、第k番目の点光源O(k)から発せられる物体光が、図3に示すように、
Ak cosθk + i Ak sinθk
なる複素関数で表現されたとしよう。物体像10が、それぞれ所定の階調値(濃度値)をもった画素の集合から構成されていたとすれば、振幅を示すパラメータAkは、当該点光源O(k)の位置に存在する画素の階調値に対応して定められる。位相θkは、一般的には、θk=0なる設定でかまわないが、必要に応じて、物体像10の各部から異なる位相の物体光が発せられているような設定を行うことも可能である。全K個の点光源について、それぞれ上記複素関数で表現される物体光が定義できたら、記録面20上の任意の代表点P(x,y)の位置における全K個の物体光の合成波は、図3に示すように、
Σ k=1〜K (Ak/rk cos(θk+2πrk/λ)
+i Ak/rk sin(θk+2πrk/λ))
なる複素関数で表現されることになる。ここで、Akは第k番目の点光源O(k)から単位距離だけ離れた位置の振幅、rkは第k番目の点光源O(k)と代表点P(x,y)との距離である。なお、上述の式は、物体像10を記録媒体の奥に再生させる場合の式に相当する。物体像10を記録媒体の手前側に浮き出すように再生させる場合には、
Σ k=1〜K (Ak/rk cos(θk−2πrk/λ)
+i Ak/rk sin(θk−2πrk/λ))
なる式により複素関数を計算すればよい(位相の項の符号が負になっている)。したがって、両方の場合を考慮した複素関数は、
Σ k=1〜K (Ak/rk cos(θk±2πrk/λ)
+i Ak/rk sin(θk±2πrk/λ))
となる。この関数の実数部をRxy,虚数部をIxyとして、Rxy+iIxyなる形にすれば、この合成波の代表点P(x,y)の位置における複素振幅(位相を考慮した振幅)は、図4に示すように、複素座標平面上における座標点Tで示されることになる。結局、代表点P(x,y)における物体光合成波の振幅は、図4に示す座標平面における原点Oと座標点Tとの距離A(x,y)で与えられ、位相はベクトルOTと実数軸とのなす角度θ(x,y)で与えられることになる。
【0058】
かくして、記録面20上に定義された任意の代表点P(x,y)位置における物体光合成波の振幅A(x,y)と位相θ(x,y)とが、計算によって求められることになる。したがって、記録面20上には、物体像10から発せられる物体光の複素振幅分布(物体光合成波の振幅および位相の分布)が得られる。こうして得られた複素振幅分布を、何らかの形で物理的な記録媒体上に記録し、所定の再生照明光を与えたときに、物体光の波面が再生されるようにすれば、物体像10をホログラムとして記録できることになる。
【0059】
そこで、本願発明者は、記録面20上に物体像10から発せられる物体光の複素振幅分布を記録するために、三次元セルを用いる方法を着想した。三次元セルを用いて複素振幅分布を記録し、物体像10をホログラムとして記録するには、次のような手順を行えばよい。まず、たとえば、図5に示すように、記録面20の位置に、三次元仮想セル集合30を定義する。この三次元仮想セル集合30は、所定寸法をもったブロック状の仮想セルを縦横に並べることにより、セルを二次元的に配列したものである。そして、個々の仮想セルについて、それぞれ代表点を定義する。代表点の位置は、セル内の任意の1点でかまわないが、ここでは、セル前面(物体像10に向かい合った面)の中心点位置に当該セルの代表点を定義することにする。たとえば、三次元仮想セル集合30の前面(物体像10に向かい合った面)にXY座標系を定義し、この座標系における座標(x,y)の位置にある代表点P(x,y)をもつ仮想セルを、仮想セルC(x,y)と呼ぶことにすれば、この仮想セルC(x,y)の前面の中心点に代表点P(x,y)がくることになる。
【0060】
一方、物体像10を点光源の集合として定義する。図5に示す例では、物体像10は、K個の点光源O(1),O(2),…,O(k),…,O(K)の集合として定義されている。これら各点光源からは、それぞれ所定の振幅および位相をもった物体光が発せられ、代表点P(x,y)には、これら物体光の合成波が到達することになる。この合成波の複素振幅は、前述した式により計算することができ、図4に示す複素座標平面における座標点Tとして示され、この座標点Tに基づいて、振幅A(x,y)と位相θ(x,y)が得られることは既に述べたとおりである。ここでは、代表点P(x,y)について得られた振幅A(x,y)および位相θ(x,y)を、当該代表点P(x,y)を含む仮想セルC(x,y)についての特定振幅A(x,y)および特定位相θ(x,y)と呼ぶことにする。
【0061】
以上の手順は、実際にはコンピュータを用いた演算処理として実行されることになる。結局、この演算処理により、三次元仮想セル集合30を構成するすべての仮想セルについて、それぞれ特定振幅と特定位相とを求めることができる。そこで、これら個々の仮想セルをそれぞれ実体のある物理セルに置き換えれば、三次元物理セルの集合からなる光学素子(物体像10が記録されたホログラム記録媒体)が作成できる。ここで、仮想セルに取って代わる物理セルは、仮想セルに定義されている特定振幅および特定位相に応じて、入射光の振幅および位相を変調することができるような光学的特性を有している必要がある。別言すれば、置き換えられた個々の物理セルは、所定の入射光を与えたときに、置換前の仮想セルに定義されていた特定振幅および特定位相に応じて、この入射光の振幅および位相を変化させることにより射出光を生み出す機能をもった特定の光学的特性を有している必要がある。
【0062】
このような特定の光学的特性をもった物理セルの集合からなる光学素子に対して、所定の再生用照明光(理想的には、上記演算処理において用いた物体光波長λと同じ波長をもった単色光平面波)を照射すれば、個々の物理セルでは、再生用照明光が特定振幅および特定位相によって変調されるので、もとの物体光の波面が再生されることになる。かくして、この光学素子に記録されていたホログラムが再生されることになる。
【0063】
<<< §2.三次元セルの具体的な構成例 >>>
続いて、複素振幅(振幅Aと位相θ)を記録するのに適した三次元セルの具体的な構成例について述べる。ここで述べるセルは、三次元の立体セルであり、それぞれ特定振幅および特定位相が定義されており、個々のセルに所定の入射光を与えると、当該セルに定義された特定振幅および特定位相に応じて入射光の振幅および位相を変化させた射出光が得られるような特定の光学的特性を有している。たとえば、図6に示すような三次元セルC(x,y)について、振幅A(x,y)および位相θ(x,y)が記録されていたとし、このセルに振幅Ain、位相θinなる入射光Linが与えられた場合には、振幅Aout =Ain・A(x,y)、位相θout =θin±θ(x,y)なる射出光Lout が得られる。入射光の振幅Ainは、セルに記録されていた特定振幅A(x,y)による変調を受けて振幅Aout に変化し、入射光の位相θinは、セルに記録されていた特定位相θ(x,y)による変調を受けて位相θout に変化することになる。
【0064】
三次元セル内において振幅を変調する一つの方法は、セル内に特定振幅に応じた透過率をもった振幅変調部を設けておく方法である(セル全体を振幅変調部として用いてもよいし、セルの一部分に振幅変調部を設けるようにしてもよい)。たとえば、透過率がZ%の振幅変調部をもったセルは、A(x,y)=Z/100なる特定振幅が記録されているセルとして機能し、振幅Ainをもった入射光がこのセルを通ると、Aout =Ain・Z/100なる振幅をもった射出光に振幅変調されることになる。個々の三次元セルの透過率を任意の値に設定するには、たとえば、着色剤の含有率をそれぞれ変えることにより対応することができる。
【0065】
三次元セル内において振幅を変調する別な方法は、セル内に特定振幅に応じた反射率をもった振幅変調部を設けておく方法である。たとえば、反射率がZ%の振幅変調部をもったセルは、A(x,y)=Z/100なる特定振幅が記録されているセルとして機能し、振幅Ainをもった入射光がこの振幅変調部で反射して射出したとすれば、Aout =Ain・Z/100なる振幅をもった射出光に振幅変調されることになる。個々の三次元セルの反射率を任意の値に設定するには、たとえば、セル内に反射面を用意しておき(この反射面が振幅変調部として機能することになる)、この反射面の反射率を任意の値に設定すればよい。具体的には、たとえば、反射面の表面粗さを変えることにより、反射光と散乱光との割合を調節することができるので、この表面粗さを調節することにより、任意の反射率をもったセルを用意することが可能になる。
【0066】
三次元セル内において振幅を変調する更に別な方法は、セル内に特定振幅に応じた有効面積をもった振幅変調部を設けておく方法である。たとえば、入射光の全入射領域の面積を100%としたときに、このうちのZ%の有効面積をもった部分に入射した入射光だけから物体像の再生に有効な射出光が得られるような構造からなる振幅変調部をもったセルは、A(x,y)=Z/100なる特定振幅が記録されているセルとして機能する。すなわち、振幅Ainをもった入射光がこの振幅変調部に入射光しても、そのうちのZ%の光だけが有効な射出光として出て行くことになるので、Aout =Ain・Z/100なる振幅をもった射出光に振幅変調されたことになる。
【0067】
一方、三次元セル内において位相を変調する一つの方法は、セル内に特定位相に応じた屈折率をもった位相変調部を設けておく方法である(セル全体を位相変調部として用いてもよいし、セルの一部分に位相変調部を設けるようにしてもよい)。たとえば、屈折率がn1の材料からなる位相変調部をもったセルと、屈折率がn2の材料からなる位相変調部をもったセルとでは、同一位相をもった入射光を与えても、それぞれ射出光の位相に差が生じることになる。したがって、屈折率の異なる種々の材料からセルを構成するようにすれば、入射光に対して任意の位相変調を施すことが可能になる。
【0068】
三次元セル内において位相を変調する別な方法は、セル内に特定位相に応じた光路長をもった位相変調部を設けておく方法である(セル全体を位相変調部として用いてもよいし、セルの一部分に位相変調部を設けるようにしてもよい)。たとえば、屈折率nをもった同一材料からなる位相変調部をもったセルであっても、この位相変調部の光路長が異なれば、同一位相をもった入射光を与えても、それぞれ射出光の位相に差が生じることになる。たとえば、第1のセルに設けられた位相変調部の光路長がL、第2のセルに設けられた位相変調部の光路長が2Lであったとすると、同一位相をもった入射光が与えられたとしても、第1のセルからの射出光に比べて、第2のセルからの射出光は、屈折率nをもった材料中を進んだ距離が2倍になるので、それだけ大きな位相差が生じていることになる。任意の光路長をもった位相変調部を実現するには、物理的な凹凸構造をもったセルを用いればよい。
【0069】
このように、特定振幅に基づく振幅変調機能をもった三次元セルや、特定位相に基づく位相変調機能をもった三次元セルは、いくつかの方法によって実現可能である。たとえば、振幅変調方法として、セル内に特定振幅に応じた透過率をもった振幅変調部を設けておく方法を採り、位相変調方法として、セル内に特定位相に応じた屈折率をもった位相変調部を設けておく方法を採り、セル全体を振幅変調部および位相変調部として用いるのであれば、図7の表に示されているような16通りの物理セルを選択的に配列することにより、光学素子を形成することができる。この表の横軸は振幅A、縦軸は位相θに対応しており、振幅Aおよび位相θともに、4つのレンジに分けられている。
【0070】
ここで、振幅Aが「0〜25%」に対応するレンジに描かれたセル(表の第1列目のセル)は、透過率が非常に低い材料からなるセルであり、振幅Aが「25〜50%」に対応するレンジに描かれたセル(表の第2列目のセル)は、透過率がやや低い材料からなるセルであり、振幅Aが「50〜75%」に対応するレンジに描かれたセル(表の第3列目のセル)は、透過率がやや高い材料からなるセルであり、振幅Aが「75〜100%」に対応するレンジに描かれたセル(表の第4列目のセル)は、透過率が非常に高い材料からなるセルである。
【0071】
一方、位相θが「0〜π/2」に対応するレンジに描かれたセル(表の第1行目のセル)は、空気に非常に近い屈折率n1をもつ材料からなるセルであり、位相θが「π/2〜π」に対応するレンジに描かれたセル(表の第2行目のセル)は、空気よりやや大きい屈折率n2をもつ材料からなるセルであり、位相θが「π〜3π/2」に対応するレンジに描かれたセル(表の第3行目のセル)は、空気よりかなり大きい屈折率n3をもつ材料からなるセルであり、位相θが「3π/2〜2π」に対応するレンジに描かれたセル(表の第4行目のセル)は、空気より非常に大きい屈折率n4をもつ材料からなるセルである。
【0072】
このように、図7に示す例では、4通りの透過率、4通りの屈折率をもった合計16個のセルが用意されているが、より高い精度で振幅と位相をセルに記録するには、透過率および屈折率のステップを更に細かく設定し、より多数種類のセルを用意すればよい。このような16通りの物理セルを用いて仮想セルを置き換えるには、個々の仮想セルに定義された特定振幅および特定位相による変調を行うために必要とされる光学的特性に最も近い光学的特性を有する物理セルを選択すればよい。
【0073】
<<< §3.先願発明で提案されている三次元セル >>>
上述したとおり、複素振幅を記録するための三次元セルは、原理的には、特定振幅および特定位相に応じて入射光を変調する機能をもったセルであれば、どのような構成で実現してもかまわない。図7には、特定振幅に応じた変調を透過率により制御し、特定位相に応じた変調を屈折率により制御する例が示されている。このように、理論的には、振幅や位相を変調する方法は、何通りも存在するが、工業的に量産することを考慮すると、必ずしもすべての方法が実用的であるとは言えない。複素振幅を記録した光学素子を用いて、ある程度の解像度をもった物体像を再生するためには、個々の三次元セルの寸法をある程度以下に制限せざるを得ない(大まかに言って、セル寸法が100μm以上になると、視認性の良い物体像の再生は困難である)。したがって、図7に示す16通りの物理セルを組み合わせて光学素子を作成する場合、微小なセルを部品として二次元的に配列する作業が必要になり、しかも、特定の位置には、16通りのセルのうちの特定のセルを配置する必要がある。このような作業を考えれば、図7に示すような物理セルを用いて光学素子を構成する方法は、工業的な量産には適していないことがわかる。
【0074】
そこで、前掲の特許文献1(先願発明:特開2002−072837号公報)には、最適な実施形態として、図8に示すような構造をもった三次元セルC(x,y)が開示されている。図示のとおり、この三次元セルは、ほぼ直方体のブロック状をしており、その上面には、溝G(x,y)が形成されている。各部の具体的な寸法は、図において、C1=0.6μm、C2=0.25μm、C3=0.25μmであり、溝G(x,y)の寸法は、G1=0.2μm、G2=0.05μm、G3=C3=0.25μmである。このような構造をもった三次元セルC(x,y)を用いれば、振幅の情報は、溝G(x,y)の横方向の幅G1の値として記録することができ、位相の情報は、溝G(x,y)の深さG2の値として記録することができる。別言すれば、特定振幅および特定位相が定義された仮想セルを、このような構造をもった物理セルで置き換える際には、特定振幅に応じた寸法G1を有し、特定位相に応じた寸法G2を有する物理セルによる置き換えが行われることになる。
【0075】
この図8に示す三次元セルにおいて、振幅の情報が溝G(x,y)の幅G1として記録され、位相の情報が溝G(x,y)の深さG2として記録される理由を、図9の正面図を参照して説明しよう。いま、この物理セルC(x,y)が屈折率n2をもった物質から構成されており、この物理セルC(x,y)の外側が屈折率n1をもった物質(たとえば、空気)から構成されているものとする。このとき、溝G(x,y)の内部の面S1に垂直に入射した光L1と、溝G(x,y)の外部の面S2に垂直に入射した光L2とについて、屈折率n2の媒質中を通過する光路長を比較すると、光L1の光路長の方が、光L2の光路長よりも、溝G(x,y)の深さG2の分だけ短くなることがわかる。したがって、屈折率n1,n2が異なっていれば、物理セルC(x,y)から透過光として射出される光L1と光L2との間には、所定の位相差が生じることになる。
【0076】
一方、図10は、三次元セルC(x,y)からの反射光として射出光が得られる場合を示す正面図である。この例では、三次元セルC(x,y)の上面、すなわち、面S1およびS2が反射面となっており、溝G(x,y)の内部の面S1にほぼ垂直に入射した光L1と、溝G(x,y)の外部の面S2にほぼ垂直に入射した光L2とが、それぞれ各面にほぼ垂直に反射して射出することになる。このとき、入射および反射の経路に沿った全光路長を比較すると、光L1の光路長の方が、光L2の光路長よりも、溝G(x,y)の深さG2の2倍に相当する分だけ長くなることがわかる。したがって、物理セルC(x,y)から反射光として射出される光L1と光L2との間には、所定の位相差が生じることになる。
【0077】
このように、三次元セルC(x,y)が透過型のセルであっても、反射型のセルであっても、溝G(x,y)の内部の面S1に入射した光L1と、溝G(x,y)の外部の面S2に入射した光L2との間には、所定の位相差が生じることになり、この位相差は溝G(x,y)の深さG2に応じて決まることになる。そこで、三次元セルC(x,y)の上面に入射した光のうち、溝G(x,y)の内部の面S1への入射光に基づいて得られる射出光のみを、物体像10の再生に有効な射出光として取り扱うことにすれば(別言すれば、図9または図10において、光L1のみを像の再生に有効な射出光として取り扱うようにすれば)、像の再生に有効な射出光L1は、この三次元セルC(x,y)において、溝G(x,y)の深さG2に対応した特定位相による位相変調を受けたことになる。かくして、物体光の位相の情報は、溝G(x,y)の深さG2として記録することができる。
【0078】
また、上述のように、溝G(x,y)の内部の面S1への入射光に基づいて得られる射出光のみを、物体像10の再生に有効な射出光として取り扱うことにすれば、物体光の振幅の情報を、溝G(x,y)の幅G1として記録することができる。なぜなら、溝G(x,y)の幅G1が大きくなればなるほど、溝G(x,y)の内部の面S1の面積も大きくなり、物体像10の再生に有効な射出光の割合が増えるためである。すなわち、図9または図10に示す射出光L2には、何ら意味のある位相成分が含まれていないため、再生時に視点位置においてこれら射出光L2が観測されたとしても、いわゆるバックグラウンドのノイズ成分として観測されるだけであり、意味のある像を再生する有効な光としては認識されないことになる。これに対し、射出光L1には、意味のある位相成分が含まれているため、像の再生に有効な信号成分として観測されることになる。結局、溝G(x,y)の幅G1は、当該物理セルC(x,y)から射出される光のうちの信号成分として観測される光L1の割合を決定する要素ということになり、信号波の振幅の情報を与えるパラメータになる。
【0079】
図8に示すような溝G(x,y)をもった物理セルC(x,y)では、溝の幅G1および深さG2は連続的に変化させることができるので、理論的には、無限種類の物理セルを用意することが可能である。このような無限種類の物理セルを用いれば、仮想セルに定義された特定振幅に応じた正確な溝幅G1をもち、特定位相に応じた正確な深さG2をもった物理セルによって、当該仮想セルを置き換えることが可能である。しかしながら、実用上は、a通りの溝幅、b通りの深さを予め定め、合計a×b通りの物理セルを用意しておき、これらの物理セルの中から必要とされる光学的特性が最も近い物理セルを選択して用いることになる。図11は、7通りの溝幅と、4通りの深さとを定め、合計28通りの物理セルを用意した例を示す斜視図である。この28通りの物理セルは、いずれも図8に示す形態をしたブロック状の物理セルであり、図11には、これらの物理セルを4行7列の行列状に配置した状態が示されている。
【0080】
この図11に示された行列の7つの列は、振幅Aのバリエーションを示し、4つの行は、位相θのバリエーションを示している。たとえば、列W1に位置するセルは、振幅Aの最小値に対応するセルであり、溝幅G1=0、すなわち、溝Gが全く形成されていないセルになっている。列W2〜W7へと右側へ移動するにしたがって、より大きな振幅Aに対応するセルとなっており、溝幅G1は徐々に広がっている。列W7に位置するセルは、振幅Aの最大値に対応するセルであり、溝幅G1=セル幅C1、すなわち、全面が掘られたセルになっている。また、この図11に示された行列の行に着目すると、たとえば、行V1に位置するセルは、位相θの最小値に対応するセルであり、溝の深さG2=0、すなわち、溝Gが全く形成されていないセルになっている。行V2〜V4へと下側へ移動するにしたがって、より大きな位相θに対応するセルとなっており、溝の深さG2は徐々に大きくなっている。
【0081】
しかしながら、この先願発明に係る構造をもった三次元セルの集合体からなる光学素子を物理的に製造するためには、微細加工を行う技術が必要であり、高精度の製造プロセスが必要になる。たとえば、図8に示す三次元セルの場合、セルの横幅C1は0.6μmに設定されている。したがって、図11に示す例のように、振幅Aの値を7段階の精度で記録するためには、溝幅G1のバリエーションを7通り用意する必要があり、たとえば、列W1のセルではG1=0,列W2のセルではG1=0.1μm,列W3のセルではG1=0.2μm,列W4のセルではG1=0.3μm,列W5のセルではG1=0.4μm,列W6のセルではG1=0.5μm,列W7のセルではG1=0.6μm(すなわち、セルの横幅C1と同じ)、というような設定が必要になる。
【0082】
ところが、0.1μm,0.2μm,0.3μm,0.4μm,0.5μmといった微小な幅を有する溝を高い精度で形成するためには、極めて高い加工精度をもった装置が必要になる。このため、図8に示すような構造をもった三次元セルの集合体によって光学素子を形成すると、生産性を向上することが困難である。本発明は、この先願発明に開示されている光学素子に比べて、製造プロセスが比較的容易で、生産性に優れた光学素子を提供する新たな方法を提案するものである。以下、この方法を§4以降で詳述する。
【0083】
<<< §4.本発明で用いる三次元セルの基本構造 >>>
図12は、本発明の基本的実施形態で用いる物理的な三次元セルC(x,y)の構造の一例を示す斜視図である。図8に示す先願発明で提案されていた三次元セルC(x,y)と、図12に示す本発明に係る三次元セルC(x,y)とを比較すると、いずれも直方体を基本形状とする三次元セルであり、個々のセルごとに特定振幅および特定位相が記録されている、という点では共通する。ただ、特定振幅および特定位相の記録形態が異なっている。
【0084】
すなわち、前者では、図8に示すとおり、直方体を基本形状とするセルの上面に溝G(x,y)を形成し、その幅G1により振幅Aを表現し、深さG2により位相θを表現していた。これに対して、後者では、図12に示すとおり、直方体を基本形状とするセルの上面に回折格子G(x,y)を形成し、振幅Aおよび位相θの記録を行うことになる。このように、前者における溝の役割を、後者では回折格子が果たすことになるので、ここでは、説明の便宜上、図12の回折格子について、図8の溝と同じ符号G(x,y)を用いて示すことにする。なお、回折格子G(x,y)および三次元セルC(x,y)の符号(x,y)は、当該セルが、図5に示すXY座標系上の代表点P(x,y)の位置に配置されるセルであることを示している。
【0085】
図12において、寸法C1,C2,C3は、この三次元セルC(x,y)の基本形状となる直方体の寸法であり、寸法G1は回折格子G(x,y)が形成されている領域の長さであり、寸法G2は回折格子G(x,y)を構成する凹凸構造の最浅部から最深部までの深さであり、寸法G3は回折格子G(x,y)が形成されている領域の幅である。結局、回折格子G(x,y)は、図の上方にハッチングを施して示すとおり、寸法G1×G3をもった長方形の領域E(x,y)に形成されていることになる。ここでは、この長方形の領域を有効領域E(x,y)と呼ぶことにし、セル上面の有効領域E(x,y)以外の領域を、余白領域B(x,y)と呼ぶことにする。
【0086】
本発明では、この三次元セルC(x,y)についての特定振幅Aを、有効領域E(x,y)の面積として記録する。すなわち、特定振幅Aが小さいセルの場合、有効領域E(x,y)の面積を小さく設定し、特定振幅Aが大きいセルの場合、有効領域E(x,y)の面積を大きく設定すればよい。有効領域E(x,y)の最小値は0であり(この場合、回折格子は全く形成されない)、最大値はセルの上面全体の面積である(この場合、余白領域B(x,y)がなくなる)。したがって、図示の例の場合、特定振幅Aの大きさのダイナミックレンジは、0〜「C1×C3」となる。後述するように、本発明に係る光学素子の観察者には、この回折格子G(x,y)による回折光が観測されるので、有効領域E(x,y)の面積が大きいセル程、強い回折光が観測されることになる。したがって、この図12に示す三次元セルは、振幅Aに関して、図6に示すモデル通りのセルとして機能する。
【0087】
もちろん、本発明を実施する上では、必ずしも三次元セルとして、基本形状が直方体のセルを用いる必要はない。ただ、実用上は、図5に示すように、この三次元セルをマトリックス状に配置して光学素子を形成することになるので、セルの基本形状は直方体とするのが最も好ましい。また、有効領域E(x,y)の形状も、必ずしも長方形にする必要はないが、物理的に回折格子を形成するプロセスを単純にするため、実用上は、長方形が最も好ましい。更に、図12に示す例では、有効領域E(x,y)を、セルの長さC1の区間のほぼ中央部に設定し、両側に余白領域B(x,y)が配置される構成をとっているが、たとえば、有効領域E(x,y)を、セルC(x,y)の上面の左端まで移動し、図の右側部分のみに余白領域B(x,y)が配置される構成をとってもかまわない。
【0088】
なお、ここに示す実施形態では、回折格子の凹凸形状の変化が、有効領域E(x,y)の寸法G1の辺に沿った方向に生じるような構造をとっており、寸法G3の辺に沿った方向に関しては、凹凸形状の変化は全くない。また、有効領域E(x,y)の幅G3は常にセルの幅C3に等しくなるように設定している。したがって、どのセルの場合も、セルの全幅(寸法C3)にわたって回折格子が形成され、有効領域E(x,y)の面積は、専ら、寸法G1によって規定されることになる(有効領域E(x,y)の面積は、寸法G1に比例する)。
【0089】
もちろん、有効領域E(x,y)の幅G3は、必ずしもセルの幅C3に常に等しくなるように設定する必要はない。ただ、後述するように、本発明を実施する上では、三次元セルC(x,y)の寸法C3は、寸法C1に比べてかなり小さく設定するのが好ましい(立体視の効果を高めるため)。したがって、実用上は、有効領域E(x,y)の幅G3が常にセルの幅C3に等しくなるように設定し、記録すべき振幅Aの値にかかわらず、どのセルの場合も、セルの全幅(寸法C3)にわたって回折格子が形成されるようにするのが好ましい。なお、ここでは、回折格子G(x,y)を、多数のスロープによる凹凸構造(断面が三角形を連ねた鋸歯状となる構造)によって形成した例を示したが、回折格子を形成する凹凸構造は、このような例に限定されるものではない(後に、階段状の構造例を示す)。
【0090】
続いて、この図12に示す三次元セルにおける特定位相θの記録方法を説明する。図13は、この位相θの記録原理を示す拡大正面図である。図の上段は、図12に示す回折格子G(x,y)の部分の拡大正面図であり、長さG1をもった有効領域E(x,y)内に、スロープによる凹凸構造を有する回折格子Gが形成されている状態が示されている。図示のとおり、この回折格子Gは、周期ξをもった周期的な凹凸形状変化をなす構造体であり、この凹凸構造体の最浅部から最深部までの深さがh(図12における寸法G2に対応)となっている。このように、所定周期ξをもった周期的な凹凸形状を有する構造体には、位相θを空間的な配置位相として定義することができる。
【0091】
たとえば、この図13の上段に示されている凹凸構造部分(長さG1をもった有効領域内の部分)を右方向にξ/4だけ移動させると、図13の下段に示されている構造体を得ることができる。周期ξが2πの位相差に相当するので、移動量ξ/4は、π/2の位相差に相当する。結局、図13の上段に示す回折格子の位相θを基準値0と定義すれば、図13の下段に示す回折格子の位相θはπ/2ということになる。このように、周期ξの範囲内の所定量だけ、凹凸構造部分を図の横方向にシフトさせることにより、0〜2πの範囲内の位相θに対応した構造を得ることができる。したがって、たとえば、特定位相θ=0を記録すべき三次元セルについては、図13の上段のような構造をもった回折格子を形成すればよいし、特定位相θ=π/2を記録すべき三次元セルについては、図13の下段のような構造をもった回折格子を形成すればよい。
【0092】
このように、周期的な凹凸形状変化の空間的な配置位相として位相θが記録された三次元セルは、位相θに関して、図6に示すモデル通りのセルとして機能する。以下にその理由を説明する。まず、このような構造をもった物理的な三次元セルを二次元マトリックス状に配列することにより光学素子を構成し、この光学素子に再生用照明光を当て、ホログラムとして記録されている物体像10を再生する環境を考えてみる。
【0093】
図14は、このような再生を行う場合の光学素子40(物理セルを用いたホログラム記録媒体)と、再生用照明光LtまたはLrと、視点Eとの関係を示す側面図である。光学素子40が、透過型セルを用いた透過型タイプの場合、図示のとおり、視点Eとは反対側の面に再生用照明光Ltを照射し、光学素子40を透過してきた光を視点Eにおいて観察することになり、光学素子40が、反射型セルを用いた反射型タイプの場合、図示のとおり、視点Eと同じ側の面に再生用照明光Lrを照射し、光学素子40から反射してきた光を視点Eにおいて観察することになる。いずれにせよ、図6に示すモデル通りのセルとして機能する物理的なセルを用いて光学素子40を構成した場合、再生用照明光LtまたはLrを単色光の平面波として与え、図14に示されているように、光学素子40の記録面(物理セルが配列されている二次元配列面)の法線方向から再生用照明光LtまたはLrを照射し(別言すれば、波面が光学素子40の記録面に平行になるように再生用照明光を照射し)、記録面の法線方向から像の観察を行うと、正しい再生像が観測されることになる。
【0094】
しかしながら、ホログラムとして物体像10が記録されている光学素子40の実際の再生環境は、必ずしも図14に示すような理想的な環境にはならない。特に、反射型タイプの場合、視点Eの位置には観測者の頭が位置するため、図14に示す方向から再生用照明光Lrを照射しても、光学素子40には観測者の影ができてしまい、良好な再生を行うことができない。したがって、実際の再生環境は、図15に示すように、光学素子40の記録面に対して斜め方向から再生用照明光LtもしくはLrを照射し、法線方向に位置する視点Eにおいて再生像を観察するか、図16に示すように、光学素子40の記録面の法線方向から再生用照明光LtもしくはLrを照射し、斜め方向に位置する視点Eにおいて再生像を観察するか、あるいは、再生用照明光Lt,Lrの照射方向も、視点Eからの観察方向も、いずれも斜め方向に設定する、という形式になるのが一般的である。
【0095】
このような実際の再生環境において、良好な再生像が得られるような光学素子40を作成するためには、光学素子40から放射される再生用照明光が、所定の視点Eの方向へ向かうような何らかの工夫を行う必要がある。先願発明では、このような工夫を行うために、個々の三次元セル(図8に示す溝を有するセル)の溝の深さとして記録すべき特定位相に対して、修正処理を行う方法を採っていた。これに対して、本発明に係る三次元セルでは、溝の代わりに回折格子が形成されるので、この回折格子の回折機能を利用して、再生用照明光が所定の視点Eの方向へ向かうようにすることができる。
【0096】
たとえば、図17に示すように、斜め方向から再生用照明光L1〜L4を照射し、光学素子40を透過することにより振幅および位相の変調を受けた光LL1〜LL4(物体像10からの物体光の波面を再現した光)を、法線方向に位置する視点Eにおいて観察する場合を考えてみよう。この場合、光学素子40が回折格子として機能することに着目すれば、回折格子に入射した再生用照明光L1〜L4が回折して、回折光LL1〜LL4として視点Eへ向かうようにすればよい。
【0097】
ここでは、再生用照明光L1〜L4が波長λをもった単色平面波である単純な例を考える。このような再生用照明光を斜め方向から光学素子40に照射したとすると、光学素子40上の各点P1〜P4に到達した時点で光路差が生じることになり、各点P1〜P4における入射光自体が既に位相差を生じていることになる。たとえば、点P2,P3,P4の位置への入射光は、点P1の位置への入射光に比べて、光路長がd2,d3,d4だけ長くなっているため、この光路差の分だけ入射光自体が既に位相差を生じていることになる。光の回折現象とは、そもそも、このような位置によって生じる位相差を解消するような方向に光が射出する現象ということができる。したがって、光学素子40の回折機能によって、図示のような方向に回折光LL1〜LL4が得られたとすれば、これらの回折光LL1〜LL4間に生じていた位相差は既に解消されており、視点Eに到達する光には、光路長d2,d3,d4に起因する位相差は生じない。
【0098】
一方、図18は、法線方向から再生用照明光L1〜L4を照射し、光学素子40を透過することにより振幅および位相の変調を受けた光LL1〜LL4(物体像10からの物体光の波面を再現した光)を、斜め方向に位置する視点Eにおいて観察する場合を示す側面図である。この場合も、再生用照明光L1〜L4が波長λをもった単色平面波であるとし、このような再生用照明光を法線方向から光学素子40に照射したとしよう。すると、光学素子40上の各点P1〜P4に到達した時点では、何ら光路差は生じておらず、各点P1〜P4における入射光の位相は揃っているが、各点P1〜P4の位置から発せられる射出光が視点Eに到達するまでの光路長にはそれぞれ差が生じてしまう。たとえば、点P2,P3,P4の位置からの射出光は、点P1の位置からの射出光に比べて、光路長がd2,d3,d4だけ長くなっている。しかしながら、光学素子40の回折機能によって、図示のような方向に回折光LL1〜LL4が得られたということは、この方向に射出する回折光LL1〜LL4については、光路長d2,d3,d4に起因する位相差が相殺されるということであり、視点Eに到達する光には、光路長d2,d3,d4に起因する位相差は生じない。
【0099】
以上、透過型の光学素子40についての現象を説明したが、反射型の光学素子40であっても、その基本的な現象は全く同じである。そこで、本発明では、回折格子を有する三次元セルを用い、特定の観察環境に適した回折角を予め設定しておくことにより、図17や図18に示す観察環境を前提とした光学素子を作成する。
【0100】
なお、回折格子による光の回折現象とは、図17や図18に示す位置P1〜P4を経て観察される光の光路差に基づく位相差を解消する現象と言うことができるが、本発明において、個々の三次元セルに記録される位相θは、この回折現象によって解消される位相差とは無関係である。すなわち、観察時に最終的に視点Eに到達する光に着目すると、図17や図18に示す光路差d2〜d4に起因して生じる位相差は回折現象によって解消することになり、光学素子40上の幾何学的な位置に起因した位相差は生じない。しかしながら、個々の三次元セルには、それぞれ特定位相θが記録されており(図13に示す例のように、凹凸構造部分のシフト量として記録される)、この特定位相θに起因して生じる位相差は、観察時に最終的に視点Eに到達する光の位相に影響を与えることになる。視点Eにおいて、物体像10がホログラム像として観察できるのは、そのためである。
【0101】
この点を、図19および図20を参照して、より詳細に説明しよう。いずれの図も、図17に示す観察環境を前提として作成された光学素子40の一部を示す図、すなわち、三次元セルに形成された回折格子の1周期ξに相当する部分の拡大図であるが、両者は、回折格子の位相が異なっている。図19は、図13の上段に示すように、位相θ=0が記録されたセルを示し、図20は、図13の下段に示すように、位相θ=π/2が記録されたセルを示す。いずれの図も、記録面20の右側部分に、ハッチングを施した三角形の部分50が示されているが、この三角形の部分50が回折格子の凹凸構造を構成する部分であり、所定の屈折率をもった透光性の材質から構成されているものとする。ここでは、この三角形の部分50が屈折率n1をもった媒質中に置かれているものとし(この光学素子を空気中で観察する一般的な場合であれば、n1は空気の屈折率)、この三角形の部分50自身の屈折率がn2であるものとする。
【0102】
なお、実際には、記録面20の左側部分に、同じ材質からなるセルの本体部分が存在するが、ここでは、説明の便宜上、ハッチングを施した三角形の部分50のみに関する光の挙動を考えることにする。この三角形の部分50の横方向の寸法hは、この凹凸構造体の最浅部から最深部までの深さであり、縦方向の寸法ξは、凹凸形状変化の1周期になる。
【0103】
まず、図19に示す位相θ=0が記録されたセルの場合を考える。図示の例では、この三角形の部分の左上斜め方向から再生用照明光L1〜L3を照射すると、図の右方向に回折光LL1〜LL3が得られることになる。この場合、再生用照明光L1〜L3の入射角をφとすれば、再生用照明光L1〜L3は、回折格子により回折角φだけ回折して射出したことになる。一般に、周期ξの周期構造を有する回折格子による波長λの光の回折角φは、回折光の次数をm(m=0,±1,±2,±3,……)として、
ξsinφ=mλ
なる式で与えられる。
【0104】
ところで、図17や図18に示す観察環境において、比較的、明るい再生像を得ることができるのは、視点Eに一次回折光(m=±1)が得られる場合であるので、実用上は、m=1の場合(もしくはm=−1の場合でもよい)を想定した設計を行うのが好ましい。そこで、以下、上式において、m=1の場合を考えることにすると、
ξsinφ=λ
なる式が得られる。
【0105】
ここで、図19における入射点P1に到達した再生用照明光L1と、入射点P3に到達した再生用照明光L3との光路差をdとすれば、幾何学的に、d=ξsinφであるから、上式は、結局、光路差d=λなる関係を示している。これは、ξだけ離れた点P1,P3に到達した再生用照明光L1,L3の位相差が、波長λになることを意味している。波長λに相当する位相差2πは位相差0と等価であるから、上式は、ξだけ離れた点P1,P3に到達した再生用照明光L1,L3間には、位相差が生じないための条件という意味をもつ。
【0106】
一方、点P1に到達した再生用照明光L1は、角度φだけ回折して回折光LL1として射出する。このとき、屈折率n2をもった透光性の材質から構成されている三角形の部分50を通過した後、屈折率n1をもった媒質中(一般的には空気中)へと進むことになる。この場合、三角形の部分50(屈折率n2をもった材質)の通過距離はhである。これに対して、点P3に到達した再生用照明光L3は、角度φだけ回折して回折光LL3として射出するが、三角形の部分50(屈折率n2をもった材質)の通過距離は0である。そこで、波長λの光が、「屈折率n1をもった材質中を距離hだけ進んだ場合」と「屈折率n2をもった材質中を距離hだけ進んだ場合」との位相差が、2πとなるような距離hを求めておき、三角形の部分50の高さが、この距離hに等しくなるように設定すれば、点P1,P3から射出して、三角形の部分50を通り抜けた回折光LL1,LL3間には、位相差が生じないことになる(入射時に生じた位相差2πが相殺される)。
【0107】
次に、点P1とP3との間の任意の中間点に入射した再生用照明光の位相差を考えてみよう。たとえば、図19に示す再生用照明光L2は、入射点P2(ここでは、点P1,P3の中点であるものとする)に到達した時点で、入射点P1に到達した再生用照明光L1に対して、d/2の光路差を生じている。ここで、上述したとおり、光路差d=λであるから、光路差d/2はλ/2に相当する。したがって、入射点P2に到達した再生用照明光L2は、入射点P1に到達した再生用照明光L1に対して、πだけの位相差を生じていることになる。
【0108】
ところが、このπの位相差は、三角形の部分50を進行することにより解消する。すなわち、三角形の部分50の高さhは、「屈折率n1をもった材質中を距離hだけ進んだ場合と、屈折率n2をもった材質中を距離hだけ進んだ場合との位相差が、2πとなるような距離」に設定されているので、三角形の部分50をh/2の距離だけ進行する回折光LL2は、この進行中にπだけの位相差を生じることになり、光路差d/2に起因して生じていた位相差πが相殺されるのである。このように、記録面20に入射した時点で生じていた光路差が、三角形の部分50を通過することにより相殺される現象は、再生用照明光L2に対してのみ生じるわけではなく、点P1とP3との間の任意の位置に入射した再生用照明光についても同様に生じる。
【0109】
結局、記録面20上における幾何学的な入射位置の相違に起因して生じる位相差は、三角形の部分50を通過することにより相殺されることになる。これは、図示のような周期的な構造をもった回折格子の基本機能であり、このような位相差の相殺が生じる方向に光が曲がる現象が、光の回折の本質である。ただ、このような幾何学的な入射位置の相違に起因して生じる位相差の相殺現象が生じていても、個々の三次元セルに記録された特定位相θは、視点Eに到達した回折光の位相として観測される。その理由は、図19に示す回折格子で生じる現象と、図20に示す回折格子で生じる現象とを比較すると容易に理解できよう。
【0110】
図20に示す回折格子においても、図19に示す回折格子と全く同じ形状をなす三角形の部分50が配置されている。両者の唯一の相違は、三角形の部分50の配置が、ξ/4だけずれている(すなわち、π/2の位相差が存在する)点だけである。したがって、図20に示すセルに着目すると、記録面20上における幾何学的な入射位置の相違に起因して生じる位相差は、三角形の部分50を通過することにより相殺されるので、視点Eに到達した回折光LL1′,LL2′,LL3′の相互間に位相差は生じていない。しかしながら、図19に示す再生用照明光L1,L2,L3および入射角φと、図20に示す再生用照明光L1,L2,L3および入射角φとが、全く同じであったとしても、図19に示す回折光LL1の位相と図20に示す回折光LL1′の位相とは異なったものになる。もちろん、図19に示す回折光LL2の位相と図20に示す回折光LL2′の位相も異なったものになり、図19に示す回折光LL3の位相と図20に示す回折光LL3′の位相も異なったものになる。これらの間に生じる位相差は、各セルに記録されている特定位相θに相当するものである。
【0111】
たとえば、図19に示すセルに記録されている特定位相θをθ=0として基準にすれば、図20に示すセルに記録されている特定位相θは、θ=π/2になる(ξ/4のずれ量は、π/2の位相に相当する)。ここで、図19に示す回折光LL1の位相と、図20に示す回折光LL1′の位相を比較してみると、入射点P1の位置における位相は両者で等しい。ところが、図19に示す回折光LL1は、視点Eに到達した時点では、三角形の部分50を距離hだけ通過したことにより、2πの位相シフトを生じるのに対して、回折光LL1′は、視点Eに到達した時点では、三角形の部分50を距離(3/4)hだけ通過したことにより、(3/4)×2πの位相シフトを生じることになる。したがって、両者間には、視点Eに到達した時点で、2π−(3/4)×2π=π/2の位相差が生じていることになる。
【0112】
全く同様に、視点Eに到達した時点では、図19に示す回折光LL2と図20に示す回折光LL2′との間にもπ/2の位相差が生じる。すなわち、図19に示す回折光LL2の位相と、図20に示す回折光LL2′の位相を比較してみると、入射点P2の位置における位相は両者で等しい。ところが、図19に示す回折光LL2は、視点Eに到達した時点では、三角形の部分50を距離h/2だけ通過したことにより、πの位相シフトを生じるのに対して、回折光LL2′は、視点Eに到達した時点では、三角形の部分50を距離h/4だけ通過したことにより、(1/4)×2πの位相シフトを生じることになる。したがって、両者間には、視点Eに到達した時点で、π−(1/4)×2π=π/2の位相差が生じていることになる。
【0113】
図19に示す回折光LL3と図20に示す回折光LL3′との間にも、全く同様にして、π/2の位相差が生じていることがわかる。結局、全く同じ位相をもった再生用照明光を、全く同じ入射角φで照射したとしても、図19に示すセルから観察される回折光の位相に対して、図20に示すセルから観察される回折光の位相は、幾何学的な位置にかかわらず、常にπ/2だけずれていることになる。これは、図19に示すセルに記録されている特定位相θがθ=0であるのに対し、図20に示すセルに記録されている特定位相θが、θ=π/2であるためである。
【0114】
このように、回折格子の空間的な配置位相として位相θが記録された三次元セルは、位相θに関して、図6に示すモデル通りのセルとして機能することがわかる。結局、図12に示すような構造を有する三次元セルを用いて、特定振幅Aを有効領域E(x,y)の面積として記録し、特定位相θを回折格子G(x,y)の空間的な配置位相として記録するようにすれば、当該三次元セルは、図6に示すモデル通りのセルとして機能することになり、入射光の振幅Ainは、セルに記録されていた特定振幅A(x,y)による変調を受けて振幅Aout に変化し、入射光の位相θinは、セルに記録されていた特定位相θ(x,y)による変調を受けて位相θout に変化することになる。
【0115】
<<< §5.本発明で用いる三次元セルの利点および適切な寸法 >>>
続いて、図12に示す構造を有する三次元セルの利点を述べておく。この三次元セルの最大の利点は、図8に示す先願発明の三次元セルに比べて、製造時の加工精度が緩くなるため、製造プロセスが比較的容易になり、生産性を向上させることができる、という点である。
【0116】
先願発明の実施例によると、図8に示す三次元セルの各部の寸法として、C1=0.6μm、C2=0.25μm、C3=0.25μm、G1=0.2μm、G2=0.05μm、G3=0.25μmといった値が例示されている。図11に示す例のように、振幅Aの値を7段階の精度で記録するためには、溝幅G1のバリエーションを7通り用意する必要があるので、たとえば、0.0μm(溝なし),0.1μm,0.2μm,0.3μm,0.4μm,0.5μm,0.6μm(全面溝)といった微小な幅を有する溝を高い精度で形成する必要がある。現在、このような微細加工を行うために、電子線描画装置などが利用されているが、そのような高精度な装置を用いたとしても、0.1μm刻みで異なる幅をもった溝を正確に形成することは困難である。
【0117】
このように、振幅Aの値を7段階の精度で記録するだけでも困難であるので、振幅Aの値をより高い精度で記録することは、現在の技術では極めて困難である。たとえば、振幅Aの値を13段階の精度で記録するためには、0.05μm刻みで異なる幅をもった溝(0.0μm,0.05μm,0.10μm,0.15μm,……)を正確に形成する必要がある。
【0118】
もちろん、三次元セルのサイズを大きく設定することができれば、溝幅G1の最大値も広げることができるが、図8に示す溝構造を有する三次元セルを用いた場合、三次元セルのサイズを大きくすると、個々のセルの配置ピッチも大きくせざるを得なくなるので、ホログラム画像を記録した光学素子としての機能が損なわれてしまう。ホログラム画像を再生するためには、このような三次元セルの集合体全体が、光学的に干渉縞が記録されたホログラム記録媒体と同等の機能を果たす必要がある。そのため、図8に示す溝構造を有する三次元セルを用いる以上、個々のセルの寸法は、可視光の波長に近い寸法に設定せざるを得ない。
【0119】
具体的には、個々のセルの配置ピッチを、0.2μm〜4μmの範囲に設定すれば、光学的に干渉縞が記録されたホログラム記録媒体と比べても、遜色のない立体視効果をもった再生像が得られる。セルの配置ピッチが、0.2μm未満になると、可視光では、明瞭なホログラム再生像を形成することが困難になってくる。逆に、セルの配置ピッチが4μmを超えると、十分な立体視効果をもった再生像を形成することが困難になってくる。これは、セルの配置ピッチが大きくなるほど、立体視が得られる角度が狭くなってくるためである。たとえば、再生用照明光の波長λ=555nmの場合、セルの配置ピッチを0.4μmに設定すると、立体視が得られる角度が±44°程度になるのに対して、セルの配置ピッチを4μmに設定すると、立体視が得られる角度は±4°程度になってしまう。
【0120】
このような理由から、図8に示す溝構造を有する三次元セルを用いた場合、単純にセルのサイズを大きくして、加工精度の条件を緩和するという方法をとるわけにはゆかない。そこで本発明では、記録面上の縦横2方向に関して、1方向に関する立体視を犠牲にする代わりに、加工精度の条件を緩和するという手法をとることにする。図12に示す本発明に係る三次元セルは、このような手法に利用するための三次元セルである。このようなセルを記録面上にマトリックス状に配置して光学素子を構成した場合、図12の奥行き方向(長さC3をもった辺に平行な方向)に関する立体視効果は得られるが、図12の左右方向(長さC1をもった辺に平行な方向)に関する立体視効果は犠牲になる。
【0121】
このように、一方向に関する立体視効果を犠牲にする、という前提であれば、図12に示す本発明に係る三次元セルにおいて、セルの長さC1を、かなり大きな値に設定することが可能である。本願発明者が実際に作成した図12に示す構造の三次元セル(紫外線硬化樹脂:波長λ=555nmの光についての屈折率は1.52)の場合、各部の寸法は、C1=20μm、C2=0.25μm、C3=0.4μm、G1=0〜20μm、G2=0.18μm、G3=0.4μm、ξ=1μmである。ここで、有効領域E(x,y)の長さG1は、記録すべき特定振幅Aに応じて個々のセルごとに異なる値になり、最小値は0μm、最大値は20μmである。G1=0(最小値)になるのは、セルに記録すべき特定振幅Aが0の場合であり、この場合、当該セルには、回折格子は全く形成されないことになる。また、G1=20μm(最大値)になるのは、セルに記録すべき特定振幅Aが最大値の場合であり、この場合、セルの上面全面に回折格子が形成され、余白領域B(x,y)はなくなる。一方、回折格子を形成する凹凸構造体の深さG2は、図19および図20に示す三角形の部分50の高さhに相当する値であり、前述したとおり、2π分の位相差を生じさせるのに適した値に設定される。深さG2(高さh)の具体的な値は、三次元セルの構造、用いる材料の屈折率、そして光の波長を考慮して定める必要があるが、詳細は、§7で説明する。
【0122】
図8に示す先願発明に係る三次元セルと、図12に示す本発明に係る三次元セルとは、いずれも直方体を基本形状としており、図面上は、ほぼ同じサイズに描かれているが、実際には、両者の形状および寸法は大きく異なっている。特に、図の横方向に関するセルの長さC1に着目すると、図8に示す先願発明に係る三次元セルの場合、C=0.6μmであるのに対し、図12に示す本発明に係る三次元セルの場合、C=20μmと顕著な差がある。すなわち、図12に示す本発明に係る三次元セルの場合、セルの幅がC3=0.4μmであるのに対して、セルの長さはC1=20μmとなっており、このような寸法をもつ実施例に関しては、図12は寸法比を無視して描いた図になっている。この寸法どおりに作成した三次元セルは、図12において、横方向に細長いスティック状のセルになる。
【0123】
ここでは、まず、セル各部の寸法を、上述した値に設定した理由を述べておく。上述した各寸法値は、クレジットカードなどの偽造防止シールとして利用される反射型の光学素子を作成する場合の最適値として決定した値である。クレジットカードの内容を目視確認する場合、通常、手に保持したクレジットカード(光学素子40)の正面に視点を置き、室内の天井に設置された照明からの再生用照明光を用いて観察する。この場合の観察環境は、図17に示す透過型の例において、再生用照明光L1〜L4の位置を光学素子40の記録面に対して面対称の位置に変更した例に相当する。そこで、たとえば、入射角φ=40°という観察環境を前提とし(天井照明から鉛直下方に向かう再生用照明光が、クレジットカード(光学素子40)の法線方向に対して入射角40°で照射されるものとし)、波長λとして、555nm(一般に、肉眼による視感度が最も高いとされている波長)を与え、前掲の回折の式
ξsinφ=λ
に、これらの値を入れると、
ξsin40°=555nm
なる式が得られる。そこで、この式から回折格子の凹凸形状変化の周期ξを求めると、ξ=864nmなる値が得られる。
【0124】
もっとも、このξ=864nmという計算結果は、再生用照明光が、555nmの波長をもった単色光であり、入射角φ=40°という観察環境を前提とした場合のものであるから、おおよその数値としての意味しかもたない。実際の観察環境では、ほぼ白色に近い再生用照明光が用いられるのが普通であり、また、完全な平面波ではないから、入射角φも一義的に定めることはできない。ただ、一応の目安として、上記観察条件では、ξ=864nmという計算結果が得られているので、本願発明者は、ξ=1μmという区切りのよい値を設定することにした。実際には、クレジットカード用の偽造防止シールなど、日常生活において肉眼観察の対象となる光学素子として利用する場合、ξの値を、0.6〜2μm程度の範囲内に設定すれば、問題が生じないことが確認できた。
【0125】
このように、回折格子の凹凸形状変化の周期ξを1μmに設定すると、回折格子を形成する場合の有効領域E(x,y)の長さG1の最小値は、5μm程度になる。これは、ある程度の回折効率をもった回折格子として機能させるためには、せいぜい5周期分くらいの凹凸形状変化が必要になるからである。したがって、ξ=0.6μmに設定した場合のG1の最小値は3μm、ξ=2μmに設定した場合のG1の最小値は10μmになる。よって、有効領域E(x,y)の長さG1の絶対的な最小値は、3μmということになる。振幅Aの値を2段階の精度で記録すれば十分である場合、回折格子が形成されているか、いないかの2通りのセルが用意できれば足りるので、結局、本発明で用いる三次元セルの長さC1の最小値は3μmということになる。
【0126】
一方、有効領域E(x,y)の長さG1の最大値(別言すれば、セルC(x,y)の長さC1)は、振幅Aの値をできるだけ高い精度で記録するという観点では、大きいほど好ましい。たとえば、C1=1mmに設定すれば、長さG1を1μm刻みで異なる値に設定したとしても、1000段階の高精度で振幅Aの値を記録することが可能である。ただ、セルの長さC1を1mm程の値にしてしまうと、個々のセルが肉眼で観察されてしまうことになり、光学素子全体を肉眼観察したときに、筋が見えてしまうことになる。したがって、実用上、セルの長さC1は、セルが肉眼観察されない程度の値に設定するのが好ましく、具体的には、300μm以下に設定するのが好ましい。このように、本発明に用いる三次元セルの長さC1(回折格子の周期的な凹凸形状変化が生じる方向に関する長さ)の実用的な寸法範囲は、3μm〜300μmである。
【0127】
続いて、本発明に用いる三次元セルの幅C3の適切な寸法範囲を考える。既に述べたとおり、本発明では、図12の左右方向(長さC1をもった辺に平行な方向)に関する立体視効果は犠牲にするが、図12の奥行き方向(長さC3をもった辺に平行な方向)に関する立体視効果は確保する。したがって、図12の奥行き方向に隣接配置される各セルのピッチは、前述したとおり立体視効果が得られる0.2μm〜4μmの範囲に設定する必要がある。したがって、本発明に用いる三次元セルの幅C3の適切な寸法範囲は、0.2μm〜4μmである。
【0128】
なお、図12に示す三次元セルが、図の奥行き方向に多数配置されると、回折格子G(x,y)も図の奥行き方向へと伸びてゆくことになる。ここで、隣接配置された各セルには、それぞれ異なる振幅Aと位相θとが記録されているので、回折格子の空間的な配置は少しずつずれている。したがって、記録面上に多数の三次元セルを配置すると、結果的に、記録面上に干渉縞(回折格子)が形成された状態に近似した状態になる。ただ、1つ1つのセルに着目すると、有効領域E(x,y)の幅G3は、0.2μm〜4μm程度ということになる。一般的には、長さが0.2μm〜4μm程度しかない複数の格子線を隣接して配置したものを「回折格子」と呼ぶ例は少ないかもしれないが、本願では、「回折格子」という用語を、このようなものまで含む広義の意味で用いている。
【0129】
最後に、三次元セルの寸法C2の適切な値を考えよう。寸法C2は、これまで述べてきた光学的な現象を左右するパラメータではないので、理論的には、どのような値に設定してもかまわない。ただ、この寸法C2は、最終的な製品である光学素子の厚みを規定する値になる。したがって、この光学素子を、クレジットカードなどの偽造防止用シールとして用いるのであれば、当該用途に適した値に設定する必要がある。ここで述べた実施例では、C2=0.25μmに設定しているが、これはこの偽造防止用シールに適した値としたためである。
【0130】
結局、本発明で用いる三次元セルの各部の寸法を適切な値に設定するには、まず、所定の標準波長λ(たとえば、555nm)の再生用照明光を所定の照射方向から光学素子に照射したときに所定の観察方向から観察することを前提とする標準観察条件を設定し、回折格子の凹凸形状変化の周期ξを、再生用照明光の照射方向から入射した光を観察方向へと導くために必要な回折角を得るのに適した値に設定し、三次元セルの長さC1を、回折格子により十分な回折現象が生じるために必要な寸法以上の値に設定し、三次元セルの幅C3を、横方向に関して必要な立体視角度を得るために必要な寸法以下の値に設定すればよい。
【0131】
以上、図12に示す本発明に係る三次元セルの適切な寸法を具体的に示したが、この三次元セルの最大の利点は、このような寸法設定を行うと製造時の加工精度が緩くなるため、製造プロセスが比較的容易になり、生産性を向上させることができる、という点である。特に、セルの長さC1をかなり長く確保することができ(実施例では20μm)、セルの幅C3も、0.4μm程度で十分なので、回折格子G(x,y)を形成するための加工精度は、図8に示す先願発明に係る三次元セルの溝G(x,y)を形成するための加工精度に比べて、大幅に緩和されることになる。
【0132】
前述したとおり、図8に示す先願発明に係る三次元セルを用いた場合、振幅Aのバリエーションを7通り用意するには、0.1μm刻みで異なる幅をもった溝を正確に形成する必要がある。これに対して、図12に示す本発明に係る三次元セルの場合、たとえば、ξ=1μmの周期をもった回折格子を形成すればよい。寸法G1の最大値が20μmになるので、振幅Aのバリエーションも十分に確保することが可能である。たとえば、G1=0μm(回折格子を全く形成しない場合)の他に、G1=5μm,6μm,7μm,…,20μmと1μm刻みで振幅Aを記録することにすれば、17段階のバリエーションを確保することができる。
【0133】
なお、本発明では、位相θを正確に記録するために、回折格子の空間的な配置位置を正確に制御する必要があるが、電子線描画装置などを用いて所望のパターン形成を行う場合に、当該パターンの位置制御は比較的容易に行うことができるので、位相θの記録には、大きな困難性は生じない。たとえば、周期ξ=1μmに設定し、位相θをθ=0,π/2,π,3π/2の4段階の精度で記録する場合、回折格子の空間的な配置位置を、それぞれ0μm,0.25μm,0.5μm,0.75μmだけずらしたセルを作成する必要があるが、一般的な電子線描画装置では、露光パターンの位置を、この程度の精度で制御することは比較的容易である。したがって、先願発明の方法の代わりに、本発明に係る方法を用いれば、製造時の加工精度が緩くなり、生産性を向上させることができる。
【0134】
また、本発明を利用すると、再生用照明光を所望の角度だけ回折させることを前提とした設計が容易になるという付随的な利点も得られる。前述したとおり、クレジットカードなどの偽造防止シールなどに本発明に係る光学素子を利用する場合は、図14に示すような観察環境を前提とすることは不適切である。実用上は、図15や図16に示すような観察環境を前提とせざるを得ず、再生時には、図17や図18に示すように、再生用照明光が所望の角度だけ回折するような設計が必要になる。本発明では、回折格子の周期ξを適切な値に設定するだけで、所望の回折角φだけ回折させることを前提とした設計が可能になる。
【0135】
<<< §6.本発明に係る光学素子の製造方法 >>>
続いて、本発明に係る光学素子の製造方法を、図21の流れ図を参照して説明する。この製造方法は、複数の三次元セルの集合から構成され所定の原画像の再生が可能な光学素子を製造する方法であり、その基本原理は、§1で述べた先願発明の基本原理と同じである。ただ、本発明では、§5で述べたとおり、記録面上の縦横2方向に関して、1方向に関する立体視を犠牲にする代わりに、加工精度の条件を緩和するという手法をとっているため、この部分について、固有のプロセスを実行することになる。もちろん、先願発明と本発明とでは、用いる三次元セルの構造が異なるため、その点においても異なるプロセスが実行される。以下、本発明に係るプロセスを詳述する。なお、実用上、図21に示す流れ図のステップS1〜S10までの手順は、コンピュータによって実行されるべき手順であり、各手順のアルゴリズムに応じたコンピュータプログラムが用意されることになる。最後のステップS11の手順は、物理的な三次元セルの集合体により光学素子を製造する段階である。
【0136】
まず、ステップS1において、三次元空間内に所定の物体光を放出する原画像(物体像)を定義する原画像定義段階が実行され、続くステップS2において、この三次元空間内に原画像を記録するための記録面を定義する記録面定義段階が実行される。具体的には、図3に示すように、XYZ三次元座標系を定義し、原画像10となる三次元立体画像データと、記録面20となる平面データとを用意すればよい。なお、ここに示す実施例は、原画像10として三次元立体画像を用いた例であるが、原画像10は、必ずしも三次元立体画像である必要はなく、たとえば二次元平面画像を原画像として用いてもかまわない。なお、記録面20は、必ずしも平面である必要はなく、最終的に作成する光学素子が曲面からなる製品の場合は、曲面からなる記録面を定義してもかまわない。ただ、実用上は、平面からなる光学素子を作成するケースがほとんどであり、ここでは記録面20として平面を定義した例を述べる。
【0137】
次のステップS3では、原画像10および記録面20を切断することが可能な平面からなる複数N枚のスライス面を定義するスライス面定義段階が実行される。図22は、原画像10,記録面20,N枚のスライス面SL(1)〜SL(N)の位置関係を示す正面図である。図示のとおり、各スライス面SL(1)〜SL(N)は、原画像10と記録面20との双方を切断することが可能な平面から構成される。ここに示す例では、垂直方向に一定ピッチPvで配置された互いに平行な平面からなる複数N枚のスライス面を定義している。ここに示す例では、XYZ三次元座標系におけるXY平面上に記録面20を定義し、各スライス面SL(1)〜SL(N)を、XZ平面に平行な平面として定義している。したがって、各スライス面SL(1)〜SL(N)と記録面20とは直交する。
【0138】
もちろん、各スライス面の定義は、図22の実施例に限定されるものではない。たとえば、各スライス面の間隔は必ずしも一定ピッチPvにする必要はなく、各部で間隔が異なるようにしてもかまわない。また、各スライス面は必ずしも記録面20に対して直交する必要はなく、相互に平行にする必要もない。ただ、後述する演算処理の負担を軽減する上では、図22に示す実施例に示すようなスライス面の定義を行うのが好ましい。なお、三次元セルを隙間なく埋め尽くした光学素子を形成する上では、スライス面のピッチPvは、三次元セルの長さC1(図12参照)に等しくなるように設定する。前述の実施例では、C1=20μmに設定しているため、スライス面のピッチPvも20μmに設定することになる。
【0139】
次のステップS4では、原画像10を各スライス面SL(1)〜SL(N)で切断して得られる切断部にそれぞれ画像輪郭線F(1)〜F(N)を定義する画像輪郭線定義段階が実行され、続くステップS5では、各画像輪郭線F(1)〜F(N)上にそれぞれ複数のサンプル点Sを定義するサンプル点定義段階が実行される。また、ステップS6では、記録面20を各スライス面SL(1)〜SL(N)で切断して得られる切断部にそれぞれセル配置線f(1)〜f(N)を定義するセル配置線定義段階が実行され、続くステップS7では、各セル配置線f(1)〜f(N)上にそれぞれ複数のセル配置点Qを定義するセル配置点定義段階が実行される。
【0140】
図22では、3本の画像輪郭線F(1),F(i),F(N)が太線で例示されており、3本のセル配置線f(1),f(i),f(N)が黒いドットで例示されている。ここに示す実施例では、各スライス面SL(1)〜SL(N)を互いに平行な平面として定義しているため、記録面20上に形成されるN本のセル配置線f(1)〜f(N)は、互いに平行な直線になる(図22では、紙面に垂直方向(X軸方向)に伸びる線になる)。
【0141】
図23の斜視図には、第i番目のスライス面SL(i)による切断によって、原画像10側に定義された第i番目の画像輪郭線F(i)と、記録面20側に定義された第i番目のセル配置線f(i)とが、それぞれ破線で示されている。また、この第i番目の画像輪郭線F(i)上には、x印の点として、複数のサンプル点Sが定義された状態が示されている。図に符号を記して例示したサンプル点S(i,k−1),S(i,k),S(i,k+1)は、この画像輪郭線F(i)上に定義されたそれぞれ第(k−1)番目,第k番目,第(k+1)番目のサンプル点である。一方、第i番目のセル配置線f(i)上には、黒いドットとして、複数のセル配置点Qが定義された状態が示されている。図に符号を記して例示したセル配置点Q(i,j−1),Q(i,j),Q(i,j+1)は、このセル配置線f(i)上に定義されたそれぞれ第(j−1)番目,第j番目,第(j+1)番目のセル配置点である。
【0142】
ここに示す実施例では、各画像輪郭線F上に一定間隔でサンプル点Sを定義しているが、サンプル点Sの間隔は必ずしも一定にする必要はない。ただ、画像にむらを生じさせないためには、できるだけ均一にサンプル点Sが分布するようにするのが好ましい。なお、サンプル点Sの間隔を一定にする場合、画像輪郭線Fに沿った距離を一定にしてもよいし、直線距離を一定にしてもよい。サンプル点Sの間隔は、原画像10の解像度を決定する要因になるので、解像度の高い原画像を記録したい場合には、サンプル点Sの間隔を小さく設定して密度を高めるようにすればよい。ただ、サンプル点Sの密度が高まれば、それだけ演算負担が重くなる。
【0143】
一方、セル配置線f上に定義された各セル配置点Qは、それぞれ1つの三次元セルを配置する位置指標として機能する。したがって、三次元セルを隙間なく埋め尽くした光学素子を形成する上では、各セル配置点Qの図の水平方向のピッチPh(セル配置線fに沿ったX軸方向のピッチ)は、三次元セルの幅C3(図12参照)に等しくなるように設定する。前述の実施例では、C3=0.4μmに設定しているため、セル配置点QのピッチPhも0.4μmに設定することになる。もちろん、セル配置点Qの間隔は、必ずしも一定にする必要はないが、同一サイズの三次元セルで埋め尽くすような光学素子を形成する上では、一定にするのが好ましい。
【0144】
次に、ステップS8で、同一のスライス面による切断によって定義された画像輪郭線とセル配置線とを対応させ、各セル配置点Qのそれぞれについて、当該セル配置点Qが所属するセル配置線に対応する画像輪郭線上に定義されたサンプル点Sを対応サンプル点と決定する対応サンプル点決定段階が実行される。たとえば、図23に示す例の場合、同一のスライス面SL(i)による切断によって定義された画像輪郭線F(i)とセル配置線f(i)とが対応づけられる。そして、セル配置線f(i)上に定義された各セル配置点Qのそれぞれについて、対応する画像輪郭線F(i)上に定義された各サンプル点Sが対応サンプル点として決定されることになる。したがって、たとえば、図示のセル配置点Q(i,j)については、画像輪郭線F(i)上に定義されたすべてのサンプル点(……,S(i,k−1),S(i,k),S(i,k+1),……)が、対応サンプル点として決定される。なお、図示のセル配置点Q(i,j−1)やQ(i,j+1)についての対応サンプル点も、全く同様に、画像輪郭線F(i)上に定義されたすべてのサンプル点(……,S(i,k−1),S(i,k),S(i,k+1),……)ということになる。
【0145】
次のステップS9では、各セル配置点Qのそれぞれについて、その対応サンプル点から放出された物体光のうち当該セル配置点Qの位置に到達する物体光の合成波の所定時刻における振幅Aおよび位相θを演算によって求める振幅位相演算段階が実行される。
【0146】
たとえば、図23に示すセル配置点Q(i,j)は、第i番目のスライス面SL(i)による切断によって定義されたセル配置線f(i)上の第j番目のセル配置点であるが、このセル配置点Q(i,j)の対応サンプル点は、前述したとおり、画像輪郭線F(i)上に定義されたすべてのサンプル点(……,S(i,k−1),S(i,k),S(i,k+1),……)である。そこで、まず、これら各対応サンプル点から放出された物体光が、セル配置点Q(i,j)まで到達するか否かの判断が行われる。セル配置点Q(i,j)から原画像10を見たときに、隠面となる部分に位置するサンプル点からの物体光は、原画像10の他の部分に遮られ、セル配置点Q(i,j)まで到達することはない。したがって、各対応サンプル点からの物体光のすべてが必ずしもセル配置点Q(i,j)まで到達するとは限らない。セル配置点Q(i,j)まで到達する物体光の取捨選択ができたら、当該到達する物体光のセル配置点Q(i,j)の位置における合成波を求め、所定時刻における振幅Aおよび位相θを求めることになる。
【0147】
図24は、画像輪郭線F(i)上の第k番目の対応サンプル点S(i,k)から放出された物体光が、セル配置点Q(i,j)へ到達するまでの光路を示す斜視図である。サンプル点S(i,k)から放出される物体光は、§1で述べたとおり、
Ak cosθk + i Ak sinθk
なる複素関数で表現される。ここで、Akはサンプル点S(i,k)から単位距離だけ離れた位置の振幅を示すパラメータであり、サンプル点S(i,k)の位置に存在する画素の階調値に対応して定められる。θkは物体光の初期位相を示すパラメータであり、一般的には、θk=0なる設定でかまわない。画像輪郭線F(i)上の全対応サンプル点のうち、セル配置点Q(i,j)に到達する物体光を放出するK個の対応サンプル点について、それぞれ上記複素関数で表現される物体光が定義できたら、セル配置点Q(i,j)の位置における全K個の物体光の合成複素振幅は、§1で説明したとおり、
Σ k=1〜K (Ak/rk cos(θk±2πrk/λ)
+i Ak/rk sin(θk±2πrk/λ))
なる複素関数で表現される。ここで、λ,Ak,θkは、第k番目(k=1〜K)の対応サンプル点S(i,k)から発せられる物体光のそれぞれ波長、振幅、位相であり、rkは、図24に示されているように、当該サンプル点S(i,k)とセル配置点Q(i,j)との距離である。
【0148】
なお、前述したとおり、セル配置点Q(i,j)から原画像10を見たときに、隠面となる部分に位置するサンプル点からの物体光は、演算対象から除外される。上記式における全K個の物体光は、これらを除外した残りの物体光ということになる。たとえば、図25に示す第i番目のスライス面SL(i)の平面図において、第k番目の対応サンプル点S(i,k)からの物体光は、セル配置線f(i)上の全J個のセル配置点Q(i,1)〜Q(i,J)のすべてに到達するので、これらJ個のセル配置点Q(i,1)〜Q(i,J)についての演算で考慮されることになる。しかしながら、記録面20側から見たときに隠面に位置する対応サンプル点S(i,m)からの物体光は、セル配置線f(i)上の全J個のセル配置点Q(i,1)〜Q(i,J)のいずれにも到達しない。したがって、対応サンプル点S(i,m)からの物体光は、J個のセル配置点Q(i,1)〜Q(i,J)についての演算では全く考慮されることはない。
【0149】
§1で述べたとおり、上記関数の実数部をRxy,虚数部をIxyとして、Rxy+iIxyなる形にすれば、この合成波のセル配置点Q(i,j)の位置における複素振幅(位相を考慮した振幅)は、図4に示すように、複素座標平面上における座標点Tで示されることになる。したがって、セル配置点Q(i,j)における物体光合成波の振幅は、図4に示す座標平面における原点Oと座標点Tとの距離A(x,y)で与えられ、位相はベクトルOTと実数軸とのなす角度θ(x,y)で与えられることになる。
【0150】
なお、上記関数は、物体光を放出するサンプル点が点光源であるものと仮定した場合の式である。本発明を実施するにあたって、サンプル点を点光源(放出された物体光が球面状に広がってゆく光源)と仮定した演算を行っても大きな支障は生じないが、本願発明者が行った実験によると、サンプル点を線光源(放出された物体光が円柱側面状に広がってゆく光源)と仮定した演算を行った場合の方が、原画像10の情報をより正確に記録できることがわかった。本願発明者は、その理由は、本発明ではスライス面を用いた処理を行っているためであると考えている。
【0151】
§5で述べたとおり、本発明では、記録面上の縦横2方向に関して、1方向に関する立体視を犠牲にする代わりに、加工精度の条件を緩和するという手法をとっている。図21に示す手順において、スライス面を定義し(ステップS3)、画像輪郭線およびサンプル点を定義し(ステップS4,5)、セル配置線およびセル配置点を定義し(ステップS6,7)、対応サンプル点を決定し(ステップS8)、振幅位相演算段階(ステップS9)を実行する場合に、対応サンプル点からの物体光のみを考慮した演算を行うと、図22,図23における縦方向(Y軸方向)に関する立体視が犠牲になる。すなわち、図23において、セル配置点Q(i,j)には、本来であれば、原画像10の全体に分布するサンプル点から放出された物体光の情報を記録すべきであるが、実際には、スライス面SL(i)による切断面上のサンプル点から放出された物体光の情報のみが記録されることになる。したがって、記録面20に記録された情報を再生した場合、スライス面に沿った水平方向に関する立体視は得られるが、垂直方向に関する立体視は犠牲になる。
【0152】
このように、本発明では、垂直方向に関する立体視は犠牲になるが、垂直方向に関して幅Pv(スライス面の間隔)にわたる領域には、同一の振幅および位相を記録すればよいので、セル配置点Q(i,j)の位置に、図12に示す構造をもった三次元セル(ピッチPvと等しい長さC1をもった細長いセル)を配置することが可能になるのである。図23において、セル配置点Q(i,j)の位置について特定振幅A(i,j)および特定位相θ(i,j)が求められると、後述するように、このセル配置点Q(i,j)の位置に、特定振幅A(i,j)および特定位相θ(i,j)が記録された三次元セル(i,j)が配置される。この三次元セルの垂直方向の長さはピッチPvに等しくなる。したがって、図23に示す記録面20上の領域において、特定振幅A(i,j)および特定位相θ(i,j)が記録される箇所は、セル配置点Q(i,j)の1点だけでなく、その上下方向にピッチPvの幅をもった領域ということになる。このように、記録面20の上下方向に一定の幅をもった領域に、同一の振幅および位相が定義される現象は、本来、原画像上のサンプル点が線光源(Pvに相当する長さをもった線分光源)である場合に生じる現象である。
【0153】
本願発明者は、本発明を実施する上で、原画像上の個々のサンプル点を点光源として取り扱うよりも、線光源として取り扱う方が、よりよい結果が得られたのは、上述した理由によるものであると考えている。もっとも、図25に示す平面図を見ればわかるとおり、第i番目のサンプル点S(i,k)から放出された物体光は、第i番目のスライス面SL(i)のみを伝播してセル配置点Q(i,j)に到達することになるので、実際の演算では、各スライス面以外を通る物体光は全く考慮する必要はない。したがって、サンプル点S(i,k)を点光源として取り扱う代わりに線光源として取り扱う場合の変更点は、振幅の減衰量の演算だけである。
【0154】
サンプル点S(i,k)を点光源として取り扱う場合、放出された物体光の波面は球状に広がってゆくため、光の強度(振幅の2乗)は球の表面積に反比例して減衰する(振幅は、球の半径rに反比例する)。一方、サンプル点S(i,k)を線光源として取り扱う場合、放出された物体光の波面は円柱側面状に広がってゆくため、光の強度(振幅の2乗)は円柱側面の面積に反比例して減衰する(振幅は、円柱の半径rの平方根に反比例する)。したがって、サンプル点S(i,k)を線光源として取り扱う場合は、振幅位相演算段階で、サンプル点S(i,k)からセル配置点Q(i,j)に向かう物体光の振幅の減衰量を演算する際に、線光源から発せられた物体光の振幅減衰項を用いるようにすればよい。具体的には、上掲の複素関数の代わりに、
Σ(k=1〜K)(Ak/√rk・cos(θk±2πrk/λ)+iAk/√rk・sin(θk±2πrk/λ))
なる関数を用いた演算によって、セル配置点Q(i,j)における振幅A(i,j)および位相θ(i,j)を求めるようにすればよい。
【0155】
また、上述の実施例では、各対応サンプル点S(i,k)からは、物体外側のすべての方向に対して物体光が放出されるという前提で説明を行ったが、振幅位相演算段階で、各対応サンプル点S(i,k)から放出される物体光の放出角度に制限を付加した演算を行うようにしてもかまわない。このように、物体光の放出角度に制限を付加した演算を行うと、立体視の効果は弱まるが、演算負担を軽減する効果が得られる。
【0156】
図26は、このように物体光の放出角度に制限を付加する方法を説明するための平面図であり、第i番目のスライス面SL(i)上において、対応サンプル点S(i,k)から放出される物体光の放出角度を制限角α以内とした例を示す。この例では、図示のとおり、画像輪郭線F(i)上のサンプル点S(i,k)の位置に法線Nを立て、この法線Nを中心として制限角αの範囲内にのみ、サンプル点S(i,k)からの物体光が放出されるものとして、振幅位相演算段階を実行している。したがって、図に示すセル配置点Q(i,J)についての振幅位相演算では、サンプル点S(i,k)からの物体光を考慮した演算が行われるが、セル配置点Q(i,1),Q(i,j)についての振幅位相演算では、サンプル点S(i,k)からの物体光が到達しないため、当該物体光は演算対象から除外されることになる。
【0157】
こうして、ステップS9の振幅位相演算段階S9が完了すると、記録面20上に定義された個々のセル配置点Qについて、それぞれ特定振幅Aおよび特定位相θが求まることになる。図27は、記録面20上に定義されたセル配置線およびセル配置点の一例を示す平面図である。図示のとおり、記録面20上には、垂直方向にピッチPvでセル配置線f(i−1),f(i),f(i+1)が定義され、各セル配置線上には、水平方向にピッチPhでセル配置点Qが定義されている。図示のセル配置点Q(i,j−1),Q(i,j),Q(i,j+1)は、第i番目のセル配置線f(i)上に定義されたそれぞれ第(j−1)番目,第(j)番目,第(j+1)番目のセル配置点である。
【0158】
次のステップS10では、記録面20上の各セル配置点Qの位置に配置すべき三次元セルの構造を、当該セル配置点Qについて求められた振幅Aおよび位相θに基づいて決定することにより、記録面20上に配置された複数の三次元セルの集合から構成される立体構造を決定する立体構造決定段階が実行される。図27に示す記録面20上に実線で描かれている多数の矩形は、各セル配置点Q上に配置された三次元セルの輪郭を示している。たとえば、セル配置点Q(i,j)の位置には、三次元セルC(i,j)が配置されることになる。
【0159】
ここで、三次元セルC(i,j)の形状は、セル配置点Q(i,j)について求められた振幅A(i,j)および位相θ(i,j)に基づいて決定される。具体的には、三次元セルC(i,j)の具体的な立体形状は、振幅A(i,j)に応じた面積を有する有効領域E(i、j)に、位相θ(i,j)に応じた位相をもった回折格子を形成することによって決定される。
【0160】
図28は、記録面20上のセル配置点Q(i,j)の位置に、三次元セルC(i,j)を配置する状態を示す斜視図である。三次元セルC(i,j)の基本形状は、図12に示す三次元セルC(x,y)と全く同じであり、寸法Cv、寸法Ch、寸法Cdをもった直方体を基本形状とするセルになっている。ここでは、説明の便宜上、寸法Cvをもった辺に沿った方向をセルの縦方向、寸法Chをもった辺に沿った方向をセルの横方向、寸法Cdをもった辺に沿った方向をセルの奥行方向と呼ぶことにする。§4で述べたとおり、ここで述べる実施例の場合、三次元セルC(i,j)の縦方向寸法Cv=20μm、、横方向寸法Ch=0.4μm、奥行寸法Cd=0.25μmとなっており、実際には、幅Chに比べて長さCvがかなり大きく、全体としてスティック状をしている(図は、実際の寸法比を無視して描かれている)。
【0161】
ここで述べる実施例の場合、セルの長さCvは、セル配置点Qの垂直方向ピッチPvに等しくなり、セルの幅Chは、セル配置点Qの水平方向ピッチPhに等しくなるように設定されている。したがって、この三次元セルC(i,j)を、図のように上面を上に向けて、記録面20上に二次元マトリックス状に配置すれば、記録面20上を隙間なくセルで埋め尽くすことができる。ステップS10では、これら多数の三次元セルの集合から構成される立体構造を示すデータが得られることになる。
【0162】
図示の例の場合、三次元セルC(i,j)の上面が格子形成面となっており、この格子形成面に回折格子が形成されている。三次元セルC(i,j)を記録面20上に配置すると、セルの格子形成面(この例では上面)が記録面20に対して平行になり、セルの横辺(長さChをもった辺)がセル配置線f(i)に平行になる。格子形成面自体は、寸法Cvの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなり、その面積はCv×Chで与えられる。この格子形成面は、有効領域E(i,j)と、それ以外の部分からなる余白領域B(i,j)とに分割されており、有効領域E(i,j)の部分に、回折格子G(i,j)が形成されている。有効領域E(i,j)は、図28の上部にハッチングを施して示すとおり、寸法Ceの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなり、その面積はCe×Chで与えられる。ここに示す実施例では、全ての三次元セルについて、有効領域の横幅が三次元セルの横幅Chに等しくなるように設定している。別言すれば、回折格子G(i,j)は、常に三次元セルの横幅Ch一杯に形成される。したがって、個々の三次元セルごとの有効領域の面積は、有効領域の縦寸法Ceによって規定される。
【0163】
回折格子G(i,j)は、周期ξをもった凹凸形状変化を、セルの縦方向に繰り返し配置することによって構成されている。三次元セルC(i,j)は、その横辺(長さChをもった辺)がセル配置線f(i)に平行になるように配置されているため、結局、セル配置線f(i)に直交する方向(Y軸方向)に沿って周期ξをもった凹凸形状変化が生じている状態になる。図示の例の場合、セル配置線f(i)に直交する方向(Y軸方向)に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少するスロープが形成され、当該スロープを繰り返し配置することにより断面が鋸歯状の凹凸構造面が形成されている。回折格子G(i,j)は、この凹凸構造面により、所定の回折現象を生じさせることになる。
【0164】
セル配置点Q(i,j)について求められた振幅A(i,j)は、三次元セルC(i,j)の有効領域E(i,j)の面積(縦寸法Ce)として記録される。ここで、有効領域E(i,j)の面積は、必ずしも振幅A(i,j)に比例させる必要はなく、振幅A(i,j)が大きくなれば、有効領域E(i,j)の面積も大きくなる、という関係になっていればよい。本願発明者が実験したところ、有効領域E(i,j)の面積を振幅A(i,j)の2乗に比例させると、原画像10の階調情報を忠実に再現する上で最も好ましいことが判明した。これは、有効領域Eの面積によって変調されるのは、光のエネルギー量(振幅Aの2乗に対応する値)であるからである。
【0165】
そこで、ここで述べる実施例の場合、まず、記録面20上に定義された全てのセル配置点Qについて、それぞれ求められた振幅Aの2乗値A2を求め、その最大値A2maxを求めることにした。そして、個々のセル配置点Qに配置すべき三次元セルについては、格子形成面の全面積(Cv×Ch)の「A2/A2max」に相当する領域を有効領域とするようにした。たとえば、セル配置点Q(i,j)について求められた振幅A(i,j)=8の場合、2乗値A2=64になるので、もし最大値A2max=100であったとすれば、三次元セルC(i,j)の上面(格子形成面)の64/100の部分が有効領域E(i,j)になり、残りの36/100の部分が余白領域B(i,j)になる。この場合、有効領域E(i,j)の縦幅寸法Ce=Cv×(64/100)である。
【0166】
一方、セル配置点Q(i,j)について求められた位相θ(i,j)は、三次元セルC(i,j)に形成される回折格子G(i,j)の空間的な配置位相として記録される。具体的には、三次元セル上に何らかの基準位置を定義し、この基準位置に対して位相θをもつ位置に回折格子G(i,j)を配置する必要がある。セル上の基準位置は、有効領域E(i,j)に関連した位置ではなく、すべての三次元セルに共通した所定位置に設定する。有効領域E(i,j)の位置は、その縦寸法Ceが振幅A(i,j)の大きさに応じて変動するため、必ずしも固定されているわけではない。そこで、本実施例では、図28に示すように、セルの一面(この例では、最もX軸に近い面)を基準面SSと定義し、この基準面SSから回折格子G(i,j)の最浅部もしくは最深部までの距離uに基づいて位相を定義している(断面が鋸歯状の凹凸構造体の場合、最浅部の位置と最深部の位置とは同じになる)。すなわち、距離uを周期ξで除して整数からなる商を求めたときの剰余をRとすれば(R=u mod ξ)、位相θ=2πRで与えられる。
【0167】
なお、図27や図28に示す例では、三次元セルC(i,j)の底面の中心点を基準点として、この基準点がセル配置点Q(i,j)の上に重なるようにしているが、記録面20上への各セルの配置は、必ずしもこのようにする必要はない。たとえば、三次元セルC(i,j)の底面の1隅点を基準点として、この基準点がセル配置点Q(i,j)の上に重なるようにすることも可能である。
【0168】
こうして、ステップS10において、多数の三次元セルの集合から構成される立体構造が決定されたら、最後のステップS11において、決定された立体構造を有する物理的な光学素子が形成される。前述したとおり、図21の流れ図におけるステップS1〜S10までの手順は、コンピュータによって実行されるべき手順であるが、ステップS11は、物理的な三次元セルの集合体により光学素子を製造する工程になる。ステップS10が終了した段階で、コンピュータから、決定された立体構造を示す構造データを出力し、この構造データに基づいて、物理的なホログラム記録媒体を作成すればよい。このようなホログラム記録媒体を作成する方法は、既に公知の方法であるため、ここでは詳しい説明は省略するが、通常、立体構造データを電子線描画装置などに与え、物理的な媒体上に凹凸パターンを形成する工程が行われる。本発明によれば、この工程における加工精度を緩和することができるメリットが得られる点は、既に述べたとおりである。
【0169】
<<< §7.三次元セルのバリエーション >>>
ここでは、本発明に用いる三次元セルの種々のバリエーションを述べる。本発明に用いる三次元セルの典型例は、既に図28に示したとおりである。このような三次元セルの集合体によって、所定の視点位置から観測したときに物体像が再生されるように、当該物体像からの物体光の複素振幅分布を記録するようにすれば、ホログラムとして利用することができる光学素子が得られる。この場合、個々のセルには、それぞれ特定振幅および特定位相が定義され、特定振幅に応じた面積をもった有効領域内に特定位相に応じた位相をもった回折格子が形成される。個々のセルに所定の入射光を与えると、当該セルに定義された特定振幅および特定位相に応じて入射光の振幅および位相を変化させた射出光が得られ、これを観測することにより物体像の再生が行われることになる。
【0170】
個々の三次元セルに形成される回折格子は、所定周期ξで同一の凹凸形状変化を繰り返す凹凸構造面を有しており、このような回折格子が、個々の三次元セルにおける所定の有効領域内の、所定の基準位置に対して位相θをもつ位置に配置される。
【0171】
図28に示す三次元セルC(i,j)は、縦方向寸法Cv、横方向寸法Ch、奥行寸法Cdをもった直方体を基本形状となし、寸法Cvの縦辺および寸法Chの横辺を有し直方体の一面(底面)に対して平行な長方形からなる格子形成面(上面)を含み、この格子形成面に沿って凹凸構造面が形成されている。そして、このような構造の三次元セルを、記録面20上に二次元マトリックス状に配置することにより光学素子が得られる。また、この三次元セルC(i,j)の格子形成面(上面)には、寸法Ceの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる有効領域E(i,j)が定義されており、全ての三次元セルについて、有効領域の横幅がセル自身の横幅Chに等しく設定されている。また、寸法Ceの縦辺に沿った方向(Y軸方向)に凹凸形状変化が生じるように、凹凸構造体からなる回折格子G(i,j)が形成されている。
【0172】
このような三次元セルC(i,j)の各部の寸法は、既に述べたとおり、回折格子の凹凸形状変化の周期ξが0.6〜2μm、三次元セルの縦方向寸法Cvが3〜300μm、横方向寸法Chが0.2〜4μm、といった範囲になるように設定するのが好ましい。
【0173】
(1)タイプ1A(透過型)
図29は、本発明で用いる三次元セルの物理的構造例「タイプ1A(透過型)」を示す部分正断面図である(セルの左側部分の一部のみが示されている)。本願でいう「透過型」とは、光学素子の一方の面から再生用照明光を照射し、他方の面へ透過してくる光を観察するタイプを指す。図29に示すセルを用いた場合も、上方から再生用照明光を照射し、下方へと抜け出てくる光を観察するか、もしくは、下方から再生用照明光を照射し、上方へと抜け出てくる光を観察することになる。一方、本願でいう「反射型」とは、光学素子の一方の面から再生用照明光を照射し、同じ面から反射して戻ってくる光を観察するタイプを指す。
【0174】
図29に示す三次元セルは、この「タイプ1A(透過型)」に対応するセルであり、表面に凹凸構造面が形成された透光層110によって構成されている。図29に示す三次元セルと、図28に示す三次元セルC(i,j)とは、各部の寸法比が異なっているが、その基本構成は全く同じである。図29にBと記された部分は、このセルの余白領域、図にEと記された部分は、このセルの有効領域である。また、凹凸形状変化の周期ξは、0.6〜2μm程度の値に設定され、基準面SSと、凹凸構造を形成するスロープの最浅部もしくは最深部との距離uは、当該セルに記録すべき特定位相θに応じて設定される点は、既に述べたとおりである。
【0175】
この図29に示す「タイプ1A(透過型)」のセルは、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子用のセルである。たとえば、クレジットカード用の偽造防止シールなどの一般的な用途の場合、空気中で利用されることが前提となるので、屈折率n1は空気の屈折率ということになる。もちろん、水中で観察されることを前提とする光学素子用のセルの場合、屈折率n1は水の屈折率ということになる。これに対して、セル本体は、屈折率n2をもった透光層110によって構成されており、その表面に凹凸構造面が形成され、透光層110を透過した再生用照明光が観察される。
【0176】
§4で述べたとおり、この凹凸構造における深さh(最浅部と最深部と隔たり)は、理論的には、「屈折率n1をもった材質中を距離hだけ進んだ場合と、屈折率n2をもった材質中を距離hだけ進んだ場合との位相差が、2πとなるような距離」に設定するのが最適である。これは、「最深部を経て観察位置に到達する光と最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるように設定すること」により、光学素子のいずれの箇所を経て観察位置に到達した光についても、位置に起因して生じる光路差を相殺し、観察位置において、各位置から来た光の相互の位相差をキャンセルするためである(図19,図20の説明参照)。
【0177】
もっとも、位相差は波長λに依存して定まる物理量であるから、このような条件に基づいて理論的な深さhを算出するには、波長λを決める必要がある。そこで、実際に三次元セルを設計する際には、所定の標準波長λの再生用照明光を用いることを前提とする標準観察条件を設定し、この標準観察条件で観察される前提で、理論的な深さhを算出すればよい。もちろん、実際の観察条件は、通常、標準観察条件に合致するわけではないが、標準観察条件の下で算出した深さhをもつセルを設計しておけば、可能な範囲で最も理想的な再生像が得られることになる。
【0178】
実際の観察環境では、ほぼ白色に近い照明光の下で観察が行われるケースがほとんどであるが、本願発明者は、視感度が最も高いとされている555nmを標準波長λに設定するのが最も好ましいと考えている。この555nmなる波長は、視感度が最も高いとともに、可視波長域のほぼ中間点に位置する波長であり、全可視波長の平均的な波長値という性質も有しており、標準波長λに最適な波長値である。図29に示す「タイプ1A(透過型)」の場合、標準波長λと、外部空間の屈折率n1(たとえば、空気の屈折率)と、セル本体を構成する透光層110の屈折率n2とが定まれば、理想的な深さhは、「h=λ/|n2−n1|」なる式で求めることができる。これは、前述した「最深部を経て観察位置に到達する光と最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるように設定すること」という条件によって光学的に導かれる式である。たとえば、n1=1.0(空気の屈折率)、n2=1.46(合成石英の屈折率)、λ=555nmを用いて計算すると、理想的な深さh=約1.2μmになる。
【0179】
(2)タイプ1B(透過型)
一方、図30に示す「タイプ1B(透過型)」のセルは、図29に示す「タイプ1A(透過型)」のセルの透光層110の上部に、別な透光層120を積層した構造を有している。すなわち、上層となる透光層120は、屈折率n1を有する透光性の物質から構成されており、下層となる透光層110は、屈折率n2を有する透光性の物質から構成されている。そして、この積層構造体を構成する両層の界面として凹凸構造面が形成されており、光学素子としては、透光層120と透光層110との双方を透過した再生用照明光が観察される透過型タイプのものになる。図29に示す「タイプ1A(透過型)」のセルの場合、透光層110の上面が凹凸構造面となり露出した状態になっているが、図30に示す「タイプ1B(透過型)」のセルの場合、凹凸構造面が両層の界面に形成されており、外部に露出していない。このように、凹凸構造面が外部に露出しないタイプのセルは、凹凸構造面の破損を受けにくいというメリットを有する。
【0180】
もっとも、セルを透過する光について生じる光学的な現象という観点からは、図29に示す「タイプ1A(透過型)」も、図30に示す「タイプ1B(透過型)」も、全く同じである。すなわち、図30の下層にある透光層110は、図29に示す透光層110と全く同じものである。そして、図30の上層にある透光層120は、図29に示す外部空間の媒質(たとえば、空気)と同等の機能を果たす。結局、凹凸構造面を界面として、第1の屈折率n1をもった透光層と第2の屈折率n2をもった透光層とが形成されている、という物理的構造に関しては、タイプ1A,1Bに差はない。したがって、この図30に示す「タイプ1B(透過型)」のセルを設計する場合も、標準波長λと、上層の透光層120の屈折率n1と、下層の透光層110の屈折率n2とが定まれば、理想的な深さhは、「h=λ/|n2−n1|」なる式で求めることができる。
【0181】
(3)タイプ2A(反射型)
続いて、図31に、「タイプ2A(反射型)」のセルを示す。このセルは、図29に示す「タイプ1A(透過型)」の透過層110の上面に、反射層130を形成したものであり、透光層110と反射層130との積層構造体から構成される。そして、この透光層110と反射層130との界面として凹凸構造面が形成されている。ここで、反射層130の膜厚は比較的小さく、透過層110の上面に形成された凹凸構造面が、反射層130の上面にもそのまま現れる形態になっている。この「タイプ2A(反射型)」のセルは、2通りの観察態様が可能である。第1の観察態様は、図の上方から再生用照明光を照射し、反射層130の上面で反射して上方へと戻ってきた光を観察する態様である。そして、第2の観察態様は、図の下方から再生用照明光を照射し、透光層110を透過して、反射層130の下面で反射し、再び透光層110を透過し、図の下方へと戻ってきた光を観察する態様である。いずれの観察態様を前提とするかによって、理想的な深さhを算出する式が異なる。
【0182】
まず、第1の観察態様を前提とする場合は、屈折率n1を有する外部媒体(たとえば、空気)の中を進む距離が最深部と最浅部とで異なり、そのために光路差が生じることになる。この光路差は往路と復路との双方で生じる。したがって、「最深部を経て観察位置に到達する光と最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるように設定すること」という条件を満たすような理想的な深さhは、「h=λ/(2×n1)」なる式で求めることができる。なお、この第1の観察態様を前提とする場合、屈折率n1を有する外部媒体が満たされた空間内において、反射層130で反射した再生用照明光が観察されることになるので、透光層110内に光が進行することはない。したがって、透光層110は、上面が凹凸構造面をなし、反射層130を支持するための支持基板として機能するだけであるので、透光性を有している必要はない。このような観点から見れば、図31に示すような2層構造にする必要もなく、上面が凹凸構造面をなし、当該凹凸構造面が反射面となっている1層構造体のセル(要するに、表面に反射性の凹凸構造面が形成された板によって構成されているセル)を用いても、この第1の観察態様を前提とした利用が可能である。この場合の理想的な深さhは、やはり「h=λ/(2×n1)」なる式で求めることができる。
【0183】
次に、第2の観察態様を前提とする場合を考える。この図31に示すセルは、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とし、屈折率n2を有する物質からなる透光層110と再生用照明光を反射する性質を有する反射層130との界面として凹凸構造面が形成されている。そして、第2の観察態様では、透光層110を透過して、反射層130により反射し、透光層110を再び透過した再生用照明光が観察されることになる。このとき、図31の透光層110の底面より下方で生じる光学的現象には、凹凸構造の影響は全く及ばないので、屈折率n1は考慮する必要はない。凹凸構造の最深部で反射した光と最浅部で反射した光の光路差は、屈折率n2をもった透光層110内を進行中に生じることになる。よって、この第2の観察態様を前提とする場合の理想的な深さhは、「h=λ/(2×n2)」なる式で求めることができる。
【0184】
(4)タイプ2B(反射型)
一方、図32に示す「タイプ2B(反射型)」のセルは、図31に示す「タイプ2A(反射型)」のセルの上部に、別な透光層120を積層した構造を有している。すなわち、上層となる透光層120は、屈折率n1を有する透光性の物質から構成されており、下層となる透光層110は、屈折率n2を有する透光性の物質から構成されている。そして、透光層110,120の間に挟まれて、反射層130が形成されている。前述したように、凹凸構造面が両層の間に挟まれ、外部に露出しないタイプのセルは、凹凸構造面の破損を受けにくいというメリットを有する。
【0185】
やはり光学的な現象という観点からは、図31に示す「タイプ2A(反射型)」も、図32に示す「タイプ2B(反射型)」も、全く同じである。すなわち、図32の透光層110および反射層130は、図31に示す透光層110および反射層130と全く同じものである。そして、図32の上層にある透光層120は、図31に示す外部空間の媒質(たとえば、空気)と同等の機能を果たす。結局、光学的な見地からは、タイプ2A,2Bに差はない。したがって、この図32に示す「タイプ2B(反射型)」のセルを設計する場合も、2通りの観察態様ごとに別個に検討する必要がある。
【0186】
まず、上方から照明光を照射して上方に反射する光を観察する第1の観察態様を前提とするのであれば、理想的な深さhは、「h=λ/(2×n1)」なる式で求めることができる。この場合、透光層110は、単なる支持基板としての機能を果たすだけであるので、必ずしも透光性材料で構成する必要はない。一方、下方から照明光を照射して下方に反射する光を観察する第2の観察態様を前提とするのであれば、理想的な深さhは、「h=λ/(2×n2)」なる式で求めることができる。この場合、透光層120は、単なる支持基板としての機能を果たすだけであるので、必ずしも透光性材料で構成する必要はない。要するに、図32に示す「タイプ2B(反射型)」のセルの場合、光学的に重要な事項は、透光層110もしくは120と、反射層130との積層構造体が形成され、両者の界面として凹凸構造面が形成されている点ということになる。
【0187】
(5)タイプ3A(反射型)
図33に、「タイプ3A(反射型)」のセルを示す。このセルは、図29に示す「タイプ1A(透過型)」の透過層110の下面に、反射層140を形成したものであり、屈折率n2を有する物質からなる透光層110と、再生用照明光を反射する性質を有する反射層140との積層構造体から構成される。そして、凹凸構造面は、この透光層110の表面、すなわち、透光層110の反射層140に接する面とは反対側の面に形成されている。この「タイプ3A(反射型)」のセルは、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内(たとえば、空気中)で利用されることを前提としたセルであり、図の上方から再生用照明光を照射し、透光層110を透過して、反射層140の上面で反射し、再び透光層110を透過し、図の上方へと戻ってきた光を観察する態様で利用される。
【0188】
このような観察態様で利用した場合、屈折率n1を有する外部媒体(たとえば、空気)の中を進む距離と、屈折率n2を有する透光層110内を進む距離との割合が最深部と最浅部とで異なり、そのために位相差が生じることになる。この位相差は往路と復路との双方で生じる。したがって、「最深部を経て観察位置に到達する光と最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるように設定すること」という条件を満たすような理想的な深さhは、「h=λ/(2×|n2−n1|)」なる式で求めることができる。
【0189】
(6)タイプ3B(反射型)
一方、図34に示す「タイプ3B(反射型)」のセルは、図33に示す「タイプ3A(反射型)」のセルの上部に、別な透光層120を積層した構造を有している。すなわち、このセルは、屈折率n1を有する物質からなる透光層120と、屈折率n2を有する物質からなる透光層110と、反射層140と、の積層構造体によって構成されている。そして、透光層110と透光層120との界面に凹凸構造面が形成されており、透光層110の透光層120に接する面とは反対側の面に反射層140が形成されている。
【0190】
この「タイプ3B(反射型)」のセルは、図の上方から再生用照明光を照射し、透光層120と透光層110との双方を透過して、反射層140により反射し、透光層110と透光層120との双方を再び透過して、図の上方へと戻ってきた光を観察する態様で利用される。
【0191】
ここでも、光学的な現象という観点からは、図33に示す「タイプ3A(反射型)」も、図34に示す「タイプ3B(反射型)」も、全く同じである。すなわち、図34の透光層110および反射層140は、図33に示す透光層110および反射層140と全く同じものである。そして、図34の上層にある透光層120は、図33に示す外部空間の媒質(たとえば、空気)と同等の機能を果たす。結局、光学的な見地からは、タイプ3A,3Bに差はない。したがって、この図34に示す「タイプ3B(反射型)」のセルを設計する場合も、理想的な深さhは、「h=λ/(2×|n2−n1|)」なる式で求めることができる。
【0192】
(7)タイプ4A(透過型)
図35に示す「タイプ4A(透過型)」のセルは、図29に示す「タイプ1A(透過型)」のセルの余白領域Bの部分に、遮光層150を形成したものである。本発明で用いる三次元セルにおいて、余白領域Bは、回折格子が形成されない領域であり、本来であれば、観察位置に何ら情報を提供する役目を果たさない領域である。しかしながら、実際には、この余白領域を透過した光が観察位置で観察される場合もあり、そのような光は再生された原画像に対するノイズ成分を発生する要因になる。
【0193】
図35に示すセルでは、余白領域Bの部分に、遮光層150が形成されているため、余白領域Bを透過しようとする光は遮蔽され、観察位置まで到達しないことになる。これにより、再生された原画像に対するノイズ成分の発生を抑制することができる。
【0194】
(8)タイプ4B(透過型)
図36に示す「タイプ4B(透過型)」のセルは、図30に示す「タイプ1B(透過型)」のセルの余白領域Bの部分に、遮光層150を形成したものである。この例では、
透過層110と透過層120との間に遮光層150が挿入されており、ノイズ成分の抑制効果が得られる。
【0195】
(9)タイプ5A(反射型)
図37に示す「タイプ5A(反射型)」のセルは、図31に示す「タイプ2A(反射型)」のセルの余白領域Bの部分に、吸光層160を形成したものである。反射型の場合、余白領域Bで反射した光が観察位置まで到達すると、ノイズ成分を発生する要因になる。この図37に示すセルでは、余白領域Bの部分における、透過層110と反射層130との間に吸光層160が挿入されているため、この部分まで到達した光はここで吸収され、外部に出てくることはない。これにより、再生された原画像に対するノイズ成分の発生を抑制することができる。
【0196】
(10)タイプ5B(反射型)
図38に示す「タイプ5B(透過型)」のセルは、図32に示す「タイプ2B(反射型)」のセルの余白領域Bの部分に、吸光層160を形成したものである。この例では、
透過層110と透過層120との間に吸光層160が挿入されており、ノイズ成分の抑制効果が得られる。
【0197】
(11)タイプ6A(反射型)
図39に示す「タイプ6A(反射型)」のセルは、図37に示す「タイプ5A(反射型)」のセルにおける吸光層160を、反射層130の上面に形成したものである。上方から照明光を当てる場合に限られるが、やはり再生された原画像に対するノイズ成分の発生を抑制する効果が得られる。
【0198】
(12)タイプ6B(反射型)
図40に示す「タイプ6B(反射型)」のセルは、図38に示す「タイプ5B(反射型)」のセルにおける吸光層160を、反射層130の上面に形成したものである。上方から照明光を当てる場合に限られるが、やはり再生された原画像に対するノイズ成分の発生を抑制する効果が得られる。
【0199】
(13)タイプ7A(反射型)
図41に示す「タイプ7A(反射型)」のセルは、図33に示す「タイプ3A(反射型)」のセルの余白領域Bの部分に、吸光層160を形成したものである。やはり再生された原画像に対するノイズ成分の発生を抑制する効果が得られる。
【0200】
(14)タイプ7B(反射型)
図42に示す「タイプ7B(反射型)」のセルは、図34に示す「タイプ3B(反射型)」のセルの余白領域Bの部分に、吸光層160を形成したものである。吸光層160は、透光層110と透光層120との間に挿入されている。やはり再生された原画像に対するノイズ成分の発生を抑制する効果が得られる。
【0201】
以上、セルの余白領域Bの部分に、遮光層もしくは吸光層を形成する例をいくつか示したが、遮光層は光の透過を遮蔽する性質をもった材料であれば、どのような材料によって構成してもかまわない。同様に、吸光層は光を吸収する性質をもった材料であれば、どのような材料によって構成してもかまわない。要するに、回折格子形成面における有効領域を経ない光を遮る遮光層もしくは有効領域以外の部分に到達した光を吸収する吸光層を形成することにより、観察位置にノイズ成分の要因となる光が到達することを妨げることができればよい。
【0202】
(15)タイプ2A′,2B′,3A′,3B′(反射型)
図43に示す「タイプ2A′(反射型)」のセルは、図31に示す「タイプ2A(反射型)」のセルにおける余白領域Bの部分の反射層130を除去したものである。同様に、図44に示す「タイプ2B′(反射型)」のセルは、図32に示す「タイプ2B(反射型)」のセルにおける余白領域Bの部分の反射層130を除去したものであり、図45に示す「タイプ3A′(反射型)」のセルは、図33に示す「タイプ3A(反射型)」のセルにおける余白領域Bの部分の反射層140を除去したものであり、図46に示す「タイプ3B′(反射型)」のセルは、図34に示す「タイプ3B(反射型)」のセルにおける余白領域Bの部分の反射層140を除去したものである。余白領域Bからの光は、再生時にノイズ成分を発生する要因になるので、各反射層を余白領域Bには形成せずに、有効領域E内にのみ形成すれば、ノイズ成分を除去する効果が得られる。
【0203】
<<< §8.本発明の変形例 >>>
最後に、本発明を実施する上でのいくつかの変形例を述べておく。
【0204】
(1) 階段状の回折格子を用いる例
これまで述べた実施形態では、図12や図28に示すように、断面が鋸歯状形状をなす凹凸構造面によって回折格子を形成していた。すなわち、三次元セルとして、有効領域の縦辺に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少するスロープを形成し、当該スロープを繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成していた。このように、断面が鋸歯状形状をなす凹凸構造面によって回折格子を形成すると、理論的には、図19および図20で説明したとおりの回折現象が起こり、理想的な回折効率が得られ、明るく鮮明な再生像を得ることができる。
【0205】
しかしながら、光学素子を量産することを考えると、このような理想的な凹凸構造面を有するセルを作成することは非常に困難である。すなわち、深さが連続的に単調減少するスロープは、機械的な切削工程などでは比較的容易に形成することができるが、本発明で用いる光学的なセルの場合、スロープの周期ξは1μm程度の長さであり、機械的な切削工程を利用して量産品を製造することは現実的ではない。したがって、現在のところ、商業的に光学素子を量産するためには、電子線描画装置による描画、現像といったプロセスを用いて、回折格子を構成する凹凸構造面を作成するのが最も現実的な手法になるが、この手法では、スロープの構造を形成することはできない。
【0206】
そこで、本願発明者は、これまでの実施例で示したスロープ構造の代わりに、これに近似した階段構造を利用して、本発明に係る光学素子を試作してみた。図47は、三次元セルに形成する回折格子の凹凸形状を、スロープ構造の代わりに4段階の階段構造によって実現した実施例の拡大正面図である。図に破線で示す形状が、これまでの実施例で用いられていたスロープ構造による凹凸であり、図に実線で示す形状が、ここで述べる変形例に係る階段構造による凹凸である。この階段構造は、図示のとおり、ステップST1,ST2,ST3,ST4の4段階からなる。この例の場合、4段階の段差をすべて等しく設定してあるので、ステップの段差Δは、Δ=h/4であり、ステップの幅はξ/4である。凹凸形状変化の周期ξを1μmに設定した場合、ステップの幅は0.25μmということになる。
【0207】
このように、図47に示す階段構造の回折格子では、周期ξの区間内に、最浅部から最深部までの深さが段階的に単調減少する階段が形成されており、当該階段を繰り返し配置することにより凹凸構造面が形成されていることになる。図47の実線を破線と比較すると、若干のずれがあるため、この階段構造からなる回折格子は、スロープ構造からなる回折格子のような理想的な回折効率を得ることはできない。しかしながら、本願発明者による試作品では、実用上、全く支障のない良好な再生像を得ることができた。
【0208】
なお、図47に示す4段階の階段構造を電子線描画装置による描画、現像といったプロセスを用いて形成するには、たとえば、ステップST4の位置を最上面として、ステップST1,ST2を形成するための領域を(2/4)hの深さだけ掘り下げる第1のプロセスと、ステップST1,ST3を形成するための領域を(1/4)hの深さだけ掘り下げる第2のプロセスとを実行すればよい。
【0209】
図48は、図29に示すタイプ1Aのセルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。4通りのステップST1,ST2,ST3,ST4が配置された区間が1周期ξになる。特定位相θは、「セルの基準面SS」と「最浅部と最深部との境界位置」との距離uに基づいて定義される。図49は、図30に示すタイプ1Bのセルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図であり、図50は、図31に示すタイプ2Aのセルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。また、図51は、図28に示す三次元セルC(i,j)のスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す斜視図である。このように、これまで述べてきたいずれの実施例についても、スロープ構造を階段構造に置き換えることが可能である。
【0210】
なお、階段構造の段階は、必ずしも4段階にする必要はなく、任意の段階に設定可能である。一般的には、深さhのスロープ構造をL段の階段構造に置き換えるのであれば、h/Lの段差をもった階段を形成すればよい。この場合、階段構造の最浅部から最深部までの深さは、(L−1)h/Lになる。段階の数Lを増やせば増やすほど、理想的なスロープ構造に近くなり、回折効率が高まることになるが、製造プロセスはそれだけ複雑になる。製造プロセスを最も簡単にする上では、階段構造を2段階のみにすればよい。
【0211】
図52は、三次元セルに形成する回折格子の凹凸形状を、スロープ構造の代わりに2段階の階段構造によって実現した実施例の拡大正面図である。図に破線で示す形状が、スロープ構造による凹凸であり、図に実線で示す形状が、2段階の階段構造による凹凸である。この階段構造は、図示のとおり、ステップST1,ST2の2段階のみからなるので、ステップの段差はh/2に等しく、ステップの幅はξ/2になる。凹凸形状変化の周期ξを1μmに設定した場合、ステップの幅は0.5μmということになる。図の破線と実線とを比べると、かなりのずれを生じているが、このような2段階の階段構造でもある程度の回折効率が得られ、用途によっては、利用価値のある光学素子を得ることができる。
【0212】
図53は、図29に示すタイプ1Aのセルのスロープ構造を2段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。2通りのステップST1,ST2が配置された区間が1周期ξになる。特定位相θは、「セルの基準面SS」と「最浅部と最深部との境界位置」との距離uに基づいて定義される。
【0213】
(2) 特殊な原画像を用いる例
本発明に係る方法で光学素子を作成する場合、三次元空間内に所定の物体光を放出する像として機能することができるものであれば、どのような像を原画像として用いてもかまわない。ここでは、特殊な原画像を用いる例を2例だけ開示しておく。この2例で用いられている原画像は、いずれも方向によって異なる物体光を放出する特殊な原画像である。
【0214】
第1の例は、特開2004−309709号公報に開示されている方法で用いられる原画像である。いま、図54に示すように、第i番目のスライス面SL(i)上に、画像輪郭線F(i)とセル配置線f(i)とが定義されているものとしよう。画像輪郭線F(i)上には、サンプル点S(i,k)が定義されており、セル配置線f(i)上には、セル配置点Q(i,1),…,Q(i,j),Q(i,j+1),…,Q(i,J)が定義されている。このとき、サンプル点S(i,k)から、各セル配置点Qに向けて物体光が放出されることになるが、この物体光が、放出方向によって異なるように、原画像の定義を行うのである。
【0215】
具体的には、図55(a) ,(b) に示すように、同一形状同一サイズの2通りの原画像10A,10Bを用意しておく。これら原画像の表面の各部には、それぞれ所定の画素値(いわゆる濃淡階調や色を示す画素値のみではなく、たとえば、反射率などを示すパラメータも含めた広義の画素値である)を定義しておく。このとき、原画像10Aの表面に定義された画素値と原画像10Bの表面に定義された画素値とは、別個独立した異なる画素値になるようにする。したがって、図55(a) に示すサンプル点SA(i,k)の位置に定義された画素値と、図55(b) に示すサンプル点SB(i,k)の位置に定義された画素値とは、全く異なる値になる。
【0216】
サンプル点S(i,k)から、各セル配置点Qに向けて放出される物体光は、サンプル点S(i,k)の位置に定義された画素値に基づいて決定されることになるが、このとき、放出方向に基づいて、サンプル点SA(i,k)の位置に定義された画素値か、サンプル点SB(i,k)の位置に定義された画素値か、のいずれか一方を選択し、選択した画素値に基づいて物体光を定義するようにする。たとえば、図54に示すように、画像輪郭線F(i)上のサンプル点S(i,k)の位置に法線Nを立て、この法線Nを境界として、図の上方に向かう物体光についてはサンプル点SA(i,k)の位置に定義された画素値を選択し、図の下方に向かう物体光についてはサンプル点SB(i,k)の位置に定義された画素値を選択するようにする。そうすれば、図示の例の場合、セル配置点Q(i,1),…,Q(i,j)に到達する物体光は、サンプル点SA(i,k)の位置に定義された画素値に基づく物体光になり、セル配置点Q(i,j+1),…,Q(i,J)に到達する物体光は、サンプル点SB(i,k)の位置に定義された画素値に基づく物体光になる。
【0217】
要するに、この第1の例の場合、それぞれが複数通りの画素値をもったサンプル点の集合として原画像を定義し、放出方向に応じていずれか1つの画素値を選択する規則を定め、選択された画素値に基づいて放出する物体光が定まるようにすることになる。
【0218】
第2の例は、特開2004−264839号公報に開示されている方法で用いられる原画像である。いま、図56に示すように、原画像として、主原画像10′と副原画像10”とを定義し、これを記録面20に記録することを考える。ここで、主原画像10′は、離散的に分布するサンプル点S′(i,k)が定義された平面であるが、このサンプル点S′(i,k)自身には、何ら画素値は定義されていない。主原画像10′上に定義された各サンプル点S′(i,k)は、単に、離散的な位置分布を示している点として機能する。一方、副原画像10”は、本来の原画像の性質をもった像であり、表面各部に所定の画素値が定義されている。
【0219】
このように、原画像を主原画像10′と副原画像10”との2つによって定義したら、記録面20への記録を次のようにして行う。ここでは、記録面20上のセル配置点Q(i,j)についての演算を行う場合を考える。この場合、主原画像10′上に定義されたサンプル点S′(i,k)からセル配置点Q(i,j)へ向かう物体光を定義する必要があるが、このとき、セル配置点Q(i,j)とサンプル点S′(i,k)とを結ぶ直線と副原画像10”との交点S”(i,k,j)に定義された画素値に基づいて、当該物体光を決定するのである。要するに、主原画像10′上の所定のサンプル点から所定のセル配置点Qに向かう物体光を、「当該セル配置点Qと当該所定のサンプル点とを結ぶ直線」と「副原画像10”」との交点に定義された画素値に基づいて決定することになる。このようにして物体光の定義を行うと、同一のサンプル点S′(i,k)から放出される物体光でありながら、目的地となるセル配置点Qによって、その内容が互いに異なることになる。
【0220】
この点を、図57を用いてもう少し詳しく説明する。図57は、第i番目のスライス面SL(i)上に、主原画像10′の画像輪郭線F′(i)と副原画像10”の画像輪郭線F”(i)とセル配置線f(i)とが定義されている状態を示す平面図である。主原画像10′の画像輪郭線F′(i)上には、サンプル点S′(i,k)が定義されており、セル配置線f(i)上には、セル配置点Q(i,1),…,Q(i,j),Q(i,j+1),…,Q(i,J)が定義されている。この場合、主原画像10′上に定義されたサンプル点S′(i,k)からセル配置点Q(i,j)へ向かう物体光は、セル配置点Q(i,j)とサンプル点S′(i,k)とを結ぶ直線と副原画像10”との交点S”(i,k,j)に定義された画素値に基づいて決定されることになる。ところが、主原画像10′上に定義されたサンプル点S′(i,k)からセル配置点Q(i,j+1)へ向かう物体光は、セル配置点Q(i,j+1)とサンプル点S′(i,k)とを結ぶ直線と副原画像10”との交点S”(i,k,j+1)に定義された画素値に基づいて決定されることになる。このように、同一のサンプル点S′(i,k)から放出される物体光でありながら、セル配置点Q(i,j)へ向かう物体光とセル配置点Q(i,j+1)へ向かう物体光とは、異なる物体光になる。
【0221】
(3) 有効領域Eの面積を決定する方法の変形例
本発明では、個々の三次元セルについて、振幅Aに応じた面積を有する有効領域E内に回折格子を形成することになる。そのために、§6で述べた実施例では、全てのセル配置点Qについて振幅Aの2乗値A2を求め、その最大値A2maxを最大面積として規格化し、各セルごとの有効領域Eの面積を決定していた。すなわち、個々のセル配置点Qに配置すべき三次元セルについては、格子形成面の全面積(Cv×Ch)の「A2/A2max」に相当する領域を有効領域Eとするようにした。
【0222】
しかしながら、実際には、最大値A2maxに近い値が得られるセル配置点Qの出現頻度は非常に低くなるため、§6で述べた実施例どおりの方法で各セルごとの有効領域Eの面積を決定すると、有効領域Eの割合が小さくなり、全体的に暗い再生像しか得られないことが多い。そこで、実用上は、A2max≧A2baseとなるような所定の値A2baseを設定しておき、個々の三次元セルについて、格子形成面の全面積(Cv×Ch)の「A2/A2base」に相当する領域(但し、A2>A2baseの場合は、全面積に相当する領域)を有効領域Eとするのが好ましい。
【0223】
たとえば、最大値A2max=128のときに、A2base=100に設定したとしよう。この場合、A2=50が得られたセルについては、格子形成面の全面積の50%の領域が有効領域Eとなり、A2=100が得られたセルについては、格子形成面の全面積の100%の領域が有効領域Eとなり、A2が100を超えるセルについても、格子形成面の全面積の100%の領域が有効領域Eとなる。§6で述べた実施例は、A2max=A2baseなる設定を行った例と言うことができる。
【0224】
(4) 量産プロセスを考慮した寸法設計を行う例
これまで、本発明に係る光学素子を構成する三次元セルの各部の寸法の設定方法や具体的な寸法値を示してきた。もちろん、これらの寸法は、最終製品として提供される光学素子(たとえば、ホログラム記録媒体)自身についての寸法であるので、量産を行う場合に用いる原版を設計する上では、この原版を用いた量産プロセスを考慮した寸法設計を行うようにするのが好ましい。
【0225】
たとえば、耐久性をもった材質からなる原版を作成し、この原版の凹凸構造を、紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂などに転写し、原版の複製品の量産を行う場合、複製された量産品の凹部の溝の深さは、原版の当初の設計寸法よりも浅くなる傾向がある。そこで、このような量産プロセスを実施する場合は、原版の寸法設計を行う際に、転写複製の際の凹凸寸法の変化を考慮に入れ、転写後の量産品における寸法が最適な寸法となるような配慮を行うのが好ましい。
【0226】
(5) 凹凸構造を用いない回折格子を用いる例
これまで述べた実施例に用いる三次元セルでは、物理的な凹凸構造によって回折格子を形成していたが、回折格子は必ずしも凹凸構造によって構成する必要はない。たとえば、直方体形状をなす三次元セルの一面に、濃淡のストライプ模様を形成しても回折格子を形成することが可能であるし、屈折率の異なる2種類の材質からなるスティック状構造体を交互に敷き詰めることによっても回折格子を形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0227】
【図1】参照光を利用して、光学的に干渉縞として物体像を記録する一般的なホログラフィーの手法を示す斜視図である。
【図2】点光源Oと記録面20とが定義されている場合に、記録面20上の代表点P(x,y)に到達した物体光の振幅と位相を示す斜視図である。
【図3】物体像10上の各点光源から発せされる物体光が、記録面20上の代表点P(x,y)に到達した場合の代表点P(x,y)の位置における物体光の複素振幅を示す斜視図である。
【図4】複素座標平面上の座標点Tで示される複素振幅に基づいて、振幅A(x,y)と位相θ(x,y)が求まることを示す図である。
【図5】物体像10を記録するために定義された三次元仮想セル集合30の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明で用いる三次元セルC(x,y)の振幅変調および位相変調の機能を示す図である。
【図7】先願発明に係る光学素子の構成要素となるべき、透過率および屈折率の異なる16通りの物理セルの一例を示す図である。
【図8】先願発明における最適実施形態となる物理的な三次元セルC(x,y)の構造の一例を示す斜視図である。
【図9】図8に示す三次元セルC(x,y)を透過型セルとして用いる場合において、振幅の情報が溝G(x,y)の幅G1として記録され、位相の情報が溝G(x,y)の深さG2として記録される理由を説明する正面図である。
【図10】図8に示す三次元セルC(x,y)を反射型セルとして用いる場合において、振幅の情報が溝G(x,y)の幅G1として記録され、位相の情報が溝G(x,y)の深さG2として記録される理由を説明する正面図である。
【図11】図8に示す三次元セルC(x,y)の構造において、7通りの溝幅と、4通りの深さとを定め、合計28通りの物理セルを用意した例を示す斜視図である。
【図12】本発明の基本的実施形態で用いる物理的な三次元セルC(x,y)の構造の一例を示す斜視図である。
【図13】図12に示す三次元セルC(x,y)において、位相θの記録原理を示す拡大正面図である。
【図14】光学素子に対して法線方向から再生用照明光を当て、ホログラムとして記録されている物体像を法線方向から観察する基本的な形態を示す側面図である。
【図15】光学素子に対して斜め方向から再生用照明光を当て、ホログラムとして記録されている物体像を法線方向から観察する形態を示す側面図である。
【図16】光学素子に対して法線方向から再生用照明光を当て、ホログラムとして記録されている物体像を斜め方向から観察する形態を示す側面図である。
【図17】図15に示す再生環境に対応した光学素子を作成するために、回折格子による回折現象を利用する原理を示す側面図である。
【図18】図16に示す再生環境に対応した光学素子を作成するために、回折格子による回折現象を利用する原理を示す側面図である。
【図19】図17に示す回折現象の原理を示す側面図である。
【図20】図17に示す回折現象の原理を示す別な側面図である。
【図21】本発明に係る光学素子の製造方法の基本手順を示す流れ図である。
【図22】図21の流れ図におけるステップS1〜S3の手順を説明するための正面図である。
【図23】図21の流れ図におけるステップS4〜S7の手順を説明するための斜視図である。
【図24】図21の流れ図におけるステップS8の手順を説明するための斜視図である。
【図25】図21の流れ図におけるステップS8の手順を説明するための平面図である。
【図26】図21の流れ図におけるステップS8の手順を行う際に、各対応サンプル点から放出される物体光の放出角度に制限を付加する方法を説明するための平面図である。
【図27】図21の流れ図におけるステップS5,S6の手順によって、記録面20上に定義されたセル配置線およびセル配置点の一例を示す平面図である。
【図28】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの構造の一例を示す斜視図である。
【図29】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ1A)を示す部分正断面図である。
【図30】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ1B)を示す部分正断面図である。
【図31】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ2A)を示す部分正断面図である。
【図32】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ2B)を示す部分正断面図である。
【図33】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ3A)を示す部分正断面図である。
【図34】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ3B)を示す部分正断面図である。
【図35】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ4A)を示す部分正断面図である。
【図36】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ4B)を示す部分正断面図である。
【図37】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ5A)を示す部分正断面図である。
【図38】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ5B)を示す部分正断面図である。
【図39】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ6A)を示す部分正断面図である。
【図40】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ6B)を示す部分正断面図である。
【図41】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ7A)を示す部分正断面図である。
【図42】図21の流れ図におけるステップS9の手順によって決定された三次元セルの物理的構造例(タイプ7B)を示す部分正断面図である。
【図43】図31に示すタイプ2Aのセルの余白領域の反射層を削除した三次元セルの物理的構造例(タイプ2A′)を示す部分正断面図である。
【図44】図32に示すタイプ2Bのセルの余白領域の反射層を削除した三次元セルの物理的構造例(タイプ2B′)を示す部分正断面図である。
【図45】図33に示すタイプ3Aのセルの余白領域の反射層を削除した三次元セルの物理的構造例(タイプ3A′)を示す部分正断面図である。
【図46】図34に示すタイプ3Bのセルの余白領域の反射層を削除した三次元セルの物理的構造例(タイプ3B′)を示す部分正断面図である。
【図47】三次元セルに形成する回折格子の凹凸形状を、スロープ構造の代わりに4段階の階段構造によって実現した実施例の拡大正面図である。
【図48】図29に示すタイプ1Aのセルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。
【図49】図30に示すタイプ1Bのセルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。
【図50】図31に示すタイプ2Aのセルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。
【図51】図28に示す三次元セルのスロープ構造を4段階の階段構造に置き換えた例を示す斜視図である。
【図52】三次元セルに形成する回折格子の凹凸形状を、スロープ構造の代わりに2段階の階段構造によって実現した実施例の拡大正面図である。
【図53】図29に示すタイプ1Aの構造例のスロープ構造を2段階の階段構造に置き換えた例を示す部分正断面図である。
【図54】方向によって異なる物体光を放出する原画像を定義する第1の例を示す平面図である。
【図55】図54における原画像の実体となる2つの立体画像を示す正面図である。
【図56】方向によって異なる物体光を放出する原画像を定義する第2の例を示す斜視図である。
【図57】図56に示す原画像を用いた記録面への記録方法を説明する平面図である。
【符号の説明】
【0228】
10:物体/物体像(原画像)
10A,10B:選択的な原画像
10′:主原画像
10”:副原画像
20:記録面(記録媒体)
30:三次元仮想セル集合
40:光学素子
50:回折格子を形成する三角形の部分
110:透光層
120:透光層
130:反射層
140:反射層
150:遮光層
160:吸光層
210:透光層
215:透光層
220:透光層
230:反射層
A,Ak,A(x,y):振幅
Ain:入射光の振幅
Aout :射出光の振幅
B,B(x,y),B(i,j):余白領域
C(x,y):仮想セル/物理的な三次元セル
C1,C2,C3:セルの寸法
Cd:三次元セルの奥行き寸法
Ce:三次元セルの有効領域の縦寸法
Ch:三次元セルの横寸法(有効領域の縦寸法)
Cv:三次元セルの縦寸法
d,d2,d3,d4:光路差
E:視点/有効領域
E(x,y),E(i,j):有効領域
F(i):画像輪郭線
F′(i):主原画像上の画像輪郭線
F”(i):副原画像上の画像輪郭線
f(i−1),f(i),f(i+1):セル配置線
G:回折格子
G(i,j):回折格子
G(x,y):セルに形成された溝/回折格子
G1,G2,G3:溝の寸法/回折格子形成部の寸法
h:回折格子の凹凸構造を構成する溝の最大深さ
Ixy:複素振幅の虚数部
i:虚数単位
i,j,k:順番を示すパラメータ
Lin:入射光
Lout :射出光
Lt:透過型光学素子についての再生用照明光
Lr:反射型光学素子についての再生用照明光
L1〜L4,LL1〜LL4,LL1′〜LL4′:光
m:回折光の次数
N:法線
n,n1〜n4:屈折率
O,O(1),O(k),O(K):点光源
P(x,y),P(x′,y′):代表点
P1〜P4:光学素子上の点
Pv:スライス面のピッチ/セル配置線のピッチ/セル配置点Qの縦方向ピッチ
Ph:セル配置点Qの横方向ピッチ
Q(i,1),Q(i,j−1),Q(i,j),Q(i,j+1),Q(i,J),Q(i−1,j),Q(i+1,j):セル配置点
R:参照光
Rxy:複素振幅の実数部
r,r1,rk,rK:点光源からの距離
S1〜S11:流れ図の各ステップ
S1:溝G(x,y)の内部の面
S2:溝G(x,y)の外部の面
S(i,k−1),S(i,k),S(i,k+1),S(i,m):サンプル点
S′(i,k):主原画像上のサンプル点
S”(i,k,j),S”(i,k,j+1):副原画像上のサンプル点
SA(i,k),SB(i,k):選択的なサンプル点
SL(1),SL(2),SL(i),SL(N):スライス面
SS:基準面
ST1,ST2,ST3,ST4:階段構造の各ステップ
T:座標点
u:基準面からの距離
V1〜V4:位相θに応じた行
W1〜W7:振幅Aに応じた列
X,Y,Z:三次元座標系の各座標軸
α:放出制限角
Δ:ステップの段差
θ,θk,θ(x,y):位相
θin:入射光の位相
θout :射出光の位相
λ:光の波長
ξ:凹凸形状変化の周期
φ:入射角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の三次元セルの集合から構成され所定の原画像の再生が可能な光学素子を製造する方法であって、
三次元空間内に所定の物体光を放出する原画像を定義する原画像定義段階と、
前記三次元空間内に前記原画像を記録するための記録面を定義する記録面定義段階と、
前記原画像および前記記録面を切断することが可能な平面からなる複数N枚のスライス面を定義するスライス面定義段階と、
前記原画像を前記各スライス面で切断して得られる切断部にそれぞれ画像輪郭線を定義する画像輪郭線定義段階と、
前記各画像輪郭線上にそれぞれ複数のサンプル点Sを定義するサンプル点定義段階と、
前記記録面を前記各スライス面で切断して得られる切断部にそれぞれセル配置線を定義するセル配置線定義段階と、
前記各セル配置線上にそれぞれ複数のセル配置点Qを定義するセル配置点定義段階と、
同一のスライス面による切断によって定義された画像輪郭線とセル配置線とを対応させ、前記各セル配置点Qのそれぞれについて、当該セル配置点Qが所属するセル配置線に対応する画像輪郭線上に定義されたサンプル点Sを対応サンプル点と決定する対応サンプル点決定段階と、
前記各セル配置点Qのそれぞれについて、その対応サンプル点から放出された物体光のうち当該セル配置点Qの位置に到達する物体光の合成波の所定時刻における振幅Aおよび位相θを演算によって求める振幅位相演算段階と、
前記記録面上の前記各セル配置点Qの位置に配置すべき三次元セルの構造を、当該セル配置点Qについて求められた振幅Aおよび位相θに基づいて決定することにより、前記記録面上に配置された複数の三次元セルの集合から構成される立体構造を決定する立体構造決定段階と、
決定された立体構造を有する物理的な光学素子を形成する素子形成段階と、
を有し、
前記立体構造決定段階において、振幅Aに応じた面積を有する有効領域に、位相θに応じた位相をもった回折格子が形成された三次元セルの構造を決定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子の製造方法において、
原画像定義段階で、三次元立体画像もしくは二次元平面画像を原画像として定義することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の光学素子の製造方法において、
原画像定義段階で、方向によって異なる物体光を放出する原画像を定義することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の光学素子の製造方法において、
それぞれが複数通りの画素値をもったサンプル点の集合として原画像を定義し、放出方向に応じていずれか1つの画素値を選択する規則を定め、選択された画素値に基づいて放出する物体光が定まるようにしたことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の光学素子の製造方法において、
原画像定義段階で、離散的に分布するサンプル点が定義された主原画像と、表面各部に所定の画素値が定義された副原画像と、によって原画像を定義し、所定のサンプル点から所定のセル配置点Qに向かう物体光を、前記セル配置点Qと前記所定のサンプル点とを結ぶ直線と前記副原画像との交点に定義された画素値に基づいて決定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
記録面定義段階で、平面からなる記録面を定義し、
スライス面定義段階で、互いに平行な平面からなる複数N枚のスライス面を定義し、
セル配置線定義段階で、前記記録面上に互いに平行な直線からなるN本のセル配置線を定義することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の光学素子の製造方法において、
スライス面定義段階で、一定のピッチPvで配置され、記録面に対して直交するN枚のスライス面を定義し、
セル配置線定義段階で、前記記録面上に、前記ピッチPvで配置されたN本のセル配置線を定義し、
セル配置点定義段階で、各セル配置線上に、一定のピッチPhで配置されたセル配置点Qを定義することにより、前記記録面上に、縦方向ピッチPv、横方向ピッチPhで二次元マトリックス状に配置されたセル配置点Qを定義し、
立体構造決定段階で、縦方向寸法Cvが前記ピッチPvに等しく、横方向寸法Chが前記ピッチPhに等しい直方体を基本形状とする三次元セルを、前記二次元マトリックス上に配置した立体構造を決定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
振幅位相演算段階で、各対応サンプル点から放出される物体光の放出角度に制限を付加した演算を行うことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
振幅位相演算段階で、サンプル点Sからセル配置点Qに向かう物体光の振幅の減衰量を演算する際に、線光源から発せられた物体光の振幅減衰項を用いることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の光学素子の製造方法において、
所定のセル配置点Qに到達する物体光を放出する全K個のサンプル点のうち、第k番目(k=1〜K)のサンプル点S(k)から発せられる物体光について、その波長をλ、サンプル点S(k)から単位距離だけ離れた位置の振幅をAk、サンプル点S(k)における位相をθkとし、前記セル配置点Qと第k番目のサンプル点S(k)との距離をrkとしたときに、前記セル配置点QにおけるK個のサンプル点からの物体光の合成複素振幅を、Σ(k=1〜K)(Ak/√rk・cos(θk±2πrk/λ)+iAk/√rk・sin(θk±2πrk/λ))なる式で定義し、この式を用いた演算によって、前記セル配置点Qにおける振幅Aおよび位相θを求めることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、所定周期ξで同一の凹凸形状変化を繰り返す凹凸構造面を有する回折格子を、振幅Aに応じた面積を有する有効領域内の、三次元セルの基準位置に対して位相θをもつ位置に配置することにより、三次元セルの構造を決定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、
寸法Cvの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる格子形成面を含み、縦方向寸法Cv、横方向寸法Ch、奥行寸法Cdをもった直方体を基本形状とする三次元セルを、前記格子形成面が記録面に対して平行になり、前記横辺がセル配置線に平行になるように配置し、
前記格子形成面に、振幅Aに応じた面積を有する部分からなる有効領域と、それ以外の部分からなる余白領域と、を定義し、
前記有効領域に、凹凸構造面を有する回折格子を配置することにより、三次元セルの構造を決定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、寸法Ceの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる有効領域を定義し、全ての三次元セルについて、有効領域の横幅が三次元セルの横幅Chに等しくなるようにし、個々の三次元セルごとの有効領域の面積が縦寸法Ceによって規定されるようにしたことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、
記録面上に定義された全てのセル配置点Qについて、それぞれ求められた振幅Aの2乗値A2を求め、その最大値をA2maxとし、A2max≧A2baseなる値A2baseを設定し、
個々のセル配置点Qに配置すべき三次元セルについて、格子形成面の全面積の「A2/A2base」に相当する領域(但し、A2>A2baseの場合は、全面積に相当する領域)を有効領域とすることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、セル配置線に直交する方向に凹凸形状変化が生じるように、回折格子を形成することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、セル配置線に直交する方向に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少するスロープを形成し、当該スロープを繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成したことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、所定の標準波長λの再生用照明光を用いることを前提とする標準観察条件を設定し、スロープの最浅部から最深部までの深さhを、前記標準観察条件において、前記最深部を経て観察位置に到達する光と前記最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるように設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項18】
請求項15に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、セル配置線に直交する方向に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが段階的に単調減少する階段を形成し、当該階段を繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成したことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、所定の標準波長λの再生用照明光を用いることを前提とする標準観察条件を設定し、セル配置線に直交する方向に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部までの深さがhであり、前記最浅部から前記最深部まで深さが連続的に単調減少し、前記標準観察条件において、前記最深部を経て観察位置に到達する光と前記最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるようなスロープを定義し、このスロープに近似する階段を配置することにより凹凸構造面を形成することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項20】
請求項17または19に記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、屈折率n2を有する物質からなる透光層の表面に凹凸構造面が形成され、前記透光層を透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/|n2−n1|」で求まる値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項21】
請求項17または19に記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層との界面として凹凸構造面が形成され、前記第1の透光層と前記第2の透光層との双方を透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/|n2−n1|」で求まる値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項22】
請求項17または19に記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、再生用照明光を反射する性質を有する反射層の表面に凹凸構造面が形成され、前記空間内から前記反射層で反射した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×n1)」で求まる値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項23】
請求項17または19に記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、屈折率n2を有する物質からなる透光層と再生用照明光を反射する性質を有する反射層との界面として凹凸構造面が形成され、前記透光層を透過して、前記反射層により反射し、前記透光層を再び透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×n2)」で求まる値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項24】
請求項17または19に記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、屈折率n2を有する物質からなる透光層の表面に凹凸構造面が形成され、前記透光層の前記凹凸構造面とは反対側の面に再生用照明光を反射する性質を有する反射層が形成され、前記透光層を透過して、前記反射層により反射し、前記透光層を再び透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×|n2−n1|)」で求まる値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項25】
請求項17または19に記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層との界面として凹凸構造面が形成され、前記第2の透光層の前記第1の透光層に接する面とは反対側の面に再生用照明光を反射する性質を有する反射層が形成され、前記第1の透光層と前記第2の透光層との双方を透過して、前記反射層により反射し、前記第1の透光層と前記第2の透光層との双方を再び透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×|n2−n1|)」で求まる値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項26】
請求項22〜25のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
反射層を、各三次元セルの有効領域内にのみ形成し、余白領域内には形成しないことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項27】
請求項12〜26のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、
所定の標準波長λの再生用照明光を所定の照射方向から光学素子に照射したときに所定の観察方向から観察することを前提とする標準観察条件を設定し、
回折格子の凹凸形状変化の周期ξを、前記照射方向から入射した光を前記観察方向へと導くために必要な回折角を得るのに適した値に設定し、
三次元セルの縦方向寸法Cvを、回折格子により十分な回折現象が生じるために必要な寸法以上の値に設定し、
三次元セルの横方向寸法Chを、横方向に関して必要な立体視角度を得るために必要な寸法以上の値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項28】
請求項27に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、回折格子の凹凸形状変化の周期ξを0.6〜2μm、三次元セルの縦方向寸法Cvを3〜300μm、横方向寸法Chを0.2〜4μm、に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項29】
請求項12〜28のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、余白領域に遮光層もしくは吸光層を形成することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項30】
複数の三次元セルの集合からなる光学素子であって、
個々のセルには、それぞれ特定振幅および特定位相が定義されており、前記特定振幅に応じた面積をもった有効領域内に前記特定位相に応じた位相をもった回折格子が形成されており、個々のセルに所定の入射光を与えると、当該セルに定義された特定振幅および特定位相に応じて前記入射光の振幅および位相を変化させた射出光が得られることを特徴とする光学素子。
【請求項31】
請求項30に記載の光学素子において、
所定周期ξで同一の凹凸形状変化を繰り返す凹凸構造面を有する回折格子を、有効領域内の、所定の基準位置に対して位相θをもつ位置に配置することにより、個々の三次元セルが形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項32】
請求項31に記載の光学素子において、
個々の三次元セルが、縦方向寸法Cv、横方向寸法Ch、奥行寸法Cdをもった直方体を基本形状となし、寸法Cvの縦辺および寸法Chの横辺を有し前記直方体の一面に対して平行な長方形からなる格子形成面を含み、この格子形成面に沿って凹凸構造面が形成されており、各三次元セルを二次元マトリックス状に配置したことを特徴とする光学素子。
【請求項33】
請求項32に記載の光学素子において、
個々の三次元セルの格子形成面には、寸法Ceの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる有効領域が定義されており、全ての三次元セルについて、有効領域の横幅がセル自身の横幅Chに等しく設定されており、前記縦辺に沿った方向に凹凸形状変化が生じるように、凹凸構造体からなる回折格子が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項34】
請求項33に記載の光学素子において、
有効領域の縦辺に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少するスロープが形成されており、当該スロープを繰り返し配置することにより凹凸構造面が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項35】
請求項33に記載の光学素子において、
有効領域の縦辺に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが段階的に単調減少する階段が形成されており、当該階段を繰り返し配置することにより凹凸構造面が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項36】
請求項33〜35のいずれかに記載の光学素子において、
回折格子の凹凸形状変化の周期ξが0.6〜2μm、三次元セルの縦方向寸法Cvが3〜300μm、横方向寸法Chが0.2〜4μm、に設定されていることを特徴とする光学素子。
【請求項37】
請求項31〜36のいずれかに記載の光学素子において、
個々の三次元セルが、表面に凹凸構造面が形成された透光層もしくは反射層によって構成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項38】
請求項31〜36のいずれかに記載の光学素子において、
個々の三次元セルが、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層との積層構造体を有し、前記第1の透光層と前記第2の透光層との界面に凹凸構造面が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項39】
請求項31〜36のいずれかに記載の光学素子において、
個々の三次元セルが、透光層と反射層との積層構造体を有し、前記透光層と前記反射層との界面として凹凸構造面が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項40】
請求項31〜36のいずれかに記載の光学素子において、
個々の三次元セルが、透光層と反射層との積層構造体を有し、前記透光層の前記反射層に接する面とは反対側の面に凹凸構造面が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項41】
請求項31〜36のいずれかに記載の光学素子において、
個々の三次元セルが、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と、屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層と、反射層と、の積層構造体を有し、前記第1の透光層と前記第2の透光層との界面に凹凸構造面が形成されており、前記第2の透光層の前記第1の透光層に接する面とは反対側の面に反射層が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項42】
請求項31〜36のいずれかに記載の光学素子において、
有効領域を経ない光を遮る遮光層もしくは有効領域以外の部分に到達した光を吸収する吸光層が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項43】
請求項37、39〜41のいずれかに記載の光学素子において、
反射層が、各三次元セルの有効領域内のみに形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項44】
請求項30〜43のいずれかに記載の光学素子において、
所定の視点位置から観測したときに物体像が再生されるように、当該物体像からの物体光の複素振幅分布が記録されており、ホログラムとして利用することができることを特徴とする光学素子。
【請求項1】
複数の三次元セルの集合から構成され所定の原画像の再生が可能な光学素子を製造する方法であって、
三次元空間内に所定の物体光を放出する原画像を定義する原画像定義段階と、
前記三次元空間内に前記原画像を記録するための記録面を定義する記録面定義段階と、
前記原画像および前記記録面を切断することが可能な平面からなる複数N枚のスライス面を定義するスライス面定義段階と、
前記原画像を前記各スライス面で切断して得られる切断部にそれぞれ画像輪郭線を定義する画像輪郭線定義段階と、
前記各画像輪郭線上にそれぞれ複数のサンプル点Sを定義するサンプル点定義段階と、
前記記録面を前記各スライス面で切断して得られる切断部にそれぞれセル配置線を定義するセル配置線定義段階と、
前記各セル配置線上にそれぞれ複数のセル配置点Qを定義するセル配置点定義段階と、
同一のスライス面による切断によって定義された画像輪郭線とセル配置線とを対応させ、前記各セル配置点Qのそれぞれについて、当該セル配置点Qが所属するセル配置線に対応する画像輪郭線上に定義されたサンプル点Sを対応サンプル点と決定する対応サンプル点決定段階と、
前記各セル配置点Qのそれぞれについて、その対応サンプル点から放出された物体光のうち当該セル配置点Qの位置に到達する物体光の合成波の所定時刻における振幅Aおよび位相θを演算によって求める振幅位相演算段階と、
前記記録面上の前記各セル配置点Qの位置に配置すべき三次元セルの構造を、当該セル配置点Qについて求められた振幅Aおよび位相θに基づいて決定することにより、前記記録面上に配置された複数の三次元セルの集合から構成される立体構造を決定する立体構造決定段階と、
決定された立体構造を有する物理的な光学素子を形成する素子形成段階と、
を有し、
前記立体構造決定段階において、振幅Aに応じた面積を有する有効領域に、位相θに応じた位相をもった回折格子が形成された三次元セルの構造を決定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子の製造方法において、
原画像定義段階で、三次元立体画像もしくは二次元平面画像を原画像として定義することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の光学素子の製造方法において、
原画像定義段階で、方向によって異なる物体光を放出する原画像を定義することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の光学素子の製造方法において、
それぞれが複数通りの画素値をもったサンプル点の集合として原画像を定義し、放出方向に応じていずれか1つの画素値を選択する規則を定め、選択された画素値に基づいて放出する物体光が定まるようにしたことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の光学素子の製造方法において、
原画像定義段階で、離散的に分布するサンプル点が定義された主原画像と、表面各部に所定の画素値が定義された副原画像と、によって原画像を定義し、所定のサンプル点から所定のセル配置点Qに向かう物体光を、前記セル配置点Qと前記所定のサンプル点とを結ぶ直線と前記副原画像との交点に定義された画素値に基づいて決定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
記録面定義段階で、平面からなる記録面を定義し、
スライス面定義段階で、互いに平行な平面からなる複数N枚のスライス面を定義し、
セル配置線定義段階で、前記記録面上に互いに平行な直線からなるN本のセル配置線を定義することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の光学素子の製造方法において、
スライス面定義段階で、一定のピッチPvで配置され、記録面に対して直交するN枚のスライス面を定義し、
セル配置線定義段階で、前記記録面上に、前記ピッチPvで配置されたN本のセル配置線を定義し、
セル配置点定義段階で、各セル配置線上に、一定のピッチPhで配置されたセル配置点Qを定義することにより、前記記録面上に、縦方向ピッチPv、横方向ピッチPhで二次元マトリックス状に配置されたセル配置点Qを定義し、
立体構造決定段階で、縦方向寸法Cvが前記ピッチPvに等しく、横方向寸法Chが前記ピッチPhに等しい直方体を基本形状とする三次元セルを、前記二次元マトリックス上に配置した立体構造を決定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
振幅位相演算段階で、各対応サンプル点から放出される物体光の放出角度に制限を付加した演算を行うことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
振幅位相演算段階で、サンプル点Sからセル配置点Qに向かう物体光の振幅の減衰量を演算する際に、線光源から発せられた物体光の振幅減衰項を用いることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の光学素子の製造方法において、
所定のセル配置点Qに到達する物体光を放出する全K個のサンプル点のうち、第k番目(k=1〜K)のサンプル点S(k)から発せられる物体光について、その波長をλ、サンプル点S(k)から単位距離だけ離れた位置の振幅をAk、サンプル点S(k)における位相をθkとし、前記セル配置点Qと第k番目のサンプル点S(k)との距離をrkとしたときに、前記セル配置点QにおけるK個のサンプル点からの物体光の合成複素振幅を、Σ(k=1〜K)(Ak/√rk・cos(θk±2πrk/λ)+iAk/√rk・sin(θk±2πrk/λ))なる式で定義し、この式を用いた演算によって、前記セル配置点Qにおける振幅Aおよび位相θを求めることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、所定周期ξで同一の凹凸形状変化を繰り返す凹凸構造面を有する回折格子を、振幅Aに応じた面積を有する有効領域内の、三次元セルの基準位置に対して位相θをもつ位置に配置することにより、三次元セルの構造を決定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、
寸法Cvの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる格子形成面を含み、縦方向寸法Cv、横方向寸法Ch、奥行寸法Cdをもった直方体を基本形状とする三次元セルを、前記格子形成面が記録面に対して平行になり、前記横辺がセル配置線に平行になるように配置し、
前記格子形成面に、振幅Aに応じた面積を有する部分からなる有効領域と、それ以外の部分からなる余白領域と、を定義し、
前記有効領域に、凹凸構造面を有する回折格子を配置することにより、三次元セルの構造を決定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、寸法Ceの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる有効領域を定義し、全ての三次元セルについて、有効領域の横幅が三次元セルの横幅Chに等しくなるようにし、個々の三次元セルごとの有効領域の面積が縦寸法Ceによって規定されるようにしたことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、
記録面上に定義された全てのセル配置点Qについて、それぞれ求められた振幅Aの2乗値A2を求め、その最大値をA2maxとし、A2max≧A2baseなる値A2baseを設定し、
個々のセル配置点Qに配置すべき三次元セルについて、格子形成面の全面積の「A2/A2base」に相当する領域(但し、A2>A2baseの場合は、全面積に相当する領域)を有効領域とすることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、セル配置線に直交する方向に凹凸形状変化が生じるように、回折格子を形成することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、セル配置線に直交する方向に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少するスロープを形成し、当該スロープを繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成したことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、所定の標準波長λの再生用照明光を用いることを前提とする標準観察条件を設定し、スロープの最浅部から最深部までの深さhを、前記標準観察条件において、前記最深部を経て観察位置に到達する光と前記最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるように設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項18】
請求項15に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、セル配置線に直交する方向に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが段階的に単調減少する階段を形成し、当該階段を繰り返し配置することにより凹凸構造面を形成したことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、所定の標準波長λの再生用照明光を用いることを前提とする標準観察条件を設定し、セル配置線に直交する方向に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部までの深さがhであり、前記最浅部から前記最深部まで深さが連続的に単調減少し、前記標準観察条件において、前記最深部を経て観察位置に到達する光と前記最浅部を経て観察位置に到達する光との位相差が2πとなるようなスロープを定義し、このスロープに近似する階段を配置することにより凹凸構造面を形成することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項20】
請求項17または19に記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、屈折率n2を有する物質からなる透光層の表面に凹凸構造面が形成され、前記透光層を透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/|n2−n1|」で求まる値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項21】
請求項17または19に記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層との界面として凹凸構造面が形成され、前記第1の透光層と前記第2の透光層との双方を透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/|n2−n1|」で求まる値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項22】
請求項17または19に記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、再生用照明光を反射する性質を有する反射層の表面に凹凸構造面が形成され、前記空間内から前記反射層で反射した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×n1)」で求まる値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項23】
請求項17または19に記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、屈折率n2を有する物質からなる透光層と再生用照明光を反射する性質を有する反射層との界面として凹凸構造面が形成され、前記透光層を透過して、前記反射層により反射し、前記透光層を再び透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×n2)」で求まる値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項24】
請求項17または19に記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質が満たされた空間内で利用されることを前提とした光学素子であって、屈折率n2を有する物質からなる透光層の表面に凹凸構造面が形成され、前記透光層の前記凹凸構造面とは反対側の面に再生用照明光を反射する性質を有する反射層が形成され、前記透光層を透過して、前記反射層により反射し、前記透光層を再び透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×|n2−n1|)」で求まる値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項25】
請求項17または19に記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層との界面として凹凸構造面が形成され、前記第2の透光層の前記第1の透光層に接する面とは反対側の面に再生用照明光を反射する性質を有する反射層が形成され、前記第1の透光層と前記第2の透光層との双方を透過して、前記反射層により反射し、前記第1の透光層と前記第2の透光層との双方を再び透過した再生用照明光が観察される光学素子を形成し、
立体構造決定段階で、hを「h=λ/(2×|n2−n1|)」で求まる値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項26】
請求項22〜25のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
反射層を、各三次元セルの有効領域内にのみ形成し、余白領域内には形成しないことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項27】
請求項12〜26のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、
所定の標準波長λの再生用照明光を所定の照射方向から光学素子に照射したときに所定の観察方向から観察することを前提とする標準観察条件を設定し、
回折格子の凹凸形状変化の周期ξを、前記照射方向から入射した光を前記観察方向へと導くために必要な回折角を得るのに適した値に設定し、
三次元セルの縦方向寸法Cvを、回折格子により十分な回折現象が生じるために必要な寸法以上の値に設定し、
三次元セルの横方向寸法Chを、横方向に関して必要な立体視角度を得るために必要な寸法以上の値に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項28】
請求項27に記載の光学素子の製造方法において、
立体構造決定段階で、回折格子の凹凸形状変化の周期ξを0.6〜2μm、三次元セルの縦方向寸法Cvを3〜300μm、横方向寸法Chを0.2〜4μm、に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項29】
請求項12〜28のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
素子形成段階で、余白領域に遮光層もしくは吸光層を形成することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項30】
複数の三次元セルの集合からなる光学素子であって、
個々のセルには、それぞれ特定振幅および特定位相が定義されており、前記特定振幅に応じた面積をもった有効領域内に前記特定位相に応じた位相をもった回折格子が形成されており、個々のセルに所定の入射光を与えると、当該セルに定義された特定振幅および特定位相に応じて前記入射光の振幅および位相を変化させた射出光が得られることを特徴とする光学素子。
【請求項31】
請求項30に記載の光学素子において、
所定周期ξで同一の凹凸形状変化を繰り返す凹凸構造面を有する回折格子を、有効領域内の、所定の基準位置に対して位相θをもつ位置に配置することにより、個々の三次元セルが形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項32】
請求項31に記載の光学素子において、
個々の三次元セルが、縦方向寸法Cv、横方向寸法Ch、奥行寸法Cdをもった直方体を基本形状となし、寸法Cvの縦辺および寸法Chの横辺を有し前記直方体の一面に対して平行な長方形からなる格子形成面を含み、この格子形成面に沿って凹凸構造面が形成されており、各三次元セルを二次元マトリックス状に配置したことを特徴とする光学素子。
【請求項33】
請求項32に記載の光学素子において、
個々の三次元セルの格子形成面には、寸法Ceの縦辺および寸法Chの横辺を有する長方形からなる有効領域が定義されており、全ての三次元セルについて、有効領域の横幅がセル自身の横幅Chに等しく設定されており、前記縦辺に沿った方向に凹凸形状変化が生じるように、凹凸構造体からなる回折格子が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項34】
請求項33に記載の光学素子において、
有効領域の縦辺に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが連続的に単調減少するスロープが形成されており、当該スロープを繰り返し配置することにより凹凸構造面が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項35】
請求項33に記載の光学素子において、
有効領域の縦辺に沿った長さξの周期区間内に、最浅部から最深部まで深さが段階的に単調減少する階段が形成されており、当該階段を繰り返し配置することにより凹凸構造面が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項36】
請求項33〜35のいずれかに記載の光学素子において、
回折格子の凹凸形状変化の周期ξが0.6〜2μm、三次元セルの縦方向寸法Cvが3〜300μm、横方向寸法Chが0.2〜4μm、に設定されていることを特徴とする光学素子。
【請求項37】
請求項31〜36のいずれかに記載の光学素子において、
個々の三次元セルが、表面に凹凸構造面が形成された透光層もしくは反射層によって構成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項38】
請求項31〜36のいずれかに記載の光学素子において、
個々の三次元セルが、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層との積層構造体を有し、前記第1の透光層と前記第2の透光層との界面に凹凸構造面が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項39】
請求項31〜36のいずれかに記載の光学素子において、
個々の三次元セルが、透光層と反射層との積層構造体を有し、前記透光層と前記反射層との界面として凹凸構造面が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項40】
請求項31〜36のいずれかに記載の光学素子において、
個々の三次元セルが、透光層と反射層との積層構造体を有し、前記透光層の前記反射層に接する面とは反対側の面に凹凸構造面が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項41】
請求項31〜36のいずれかに記載の光学素子において、
個々の三次元セルが、屈折率n1を有する物質からなる第1の透光層と、屈折率n2を有する物質からなる第2の透光層と、反射層と、の積層構造体を有し、前記第1の透光層と前記第2の透光層との界面に凹凸構造面が形成されており、前記第2の透光層の前記第1の透光層に接する面とは反対側の面に反射層が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項42】
請求項31〜36のいずれかに記載の光学素子において、
有効領域を経ない光を遮る遮光層もしくは有効領域以外の部分に到達した光を吸収する吸光層が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項43】
請求項37、39〜41のいずれかに記載の光学素子において、
反射層が、各三次元セルの有効領域内のみに形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項44】
請求項30〜43のいずれかに記載の光学素子において、
所定の視点位置から観測したときに物体像が再生されるように、当該物体像からの物体光の複素振幅分布が記録されており、ホログラムとして利用することができることを特徴とする光学素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【公開番号】特開2008−191540(P2008−191540A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27792(P2007−27792)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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