光学素子の製造方法および表面加工装置
【課題】光学素子の製造方法において、曲率を有する光学面を有する光学素子の光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を容易に形成することができるようにする。
【解決手段】凹レンズ面1aに光軸と交差する方向に延びる凹凸形状を有する反射防止部を備えるレンズの製造方法であって、凹レンズ面1aを有するレンズ本体1を形成する本体加工工程と、凹レンズ面1aに成形用樹脂を塗布し、反射防止部を転写する成形面部5aが、変形可能な基体部5Aの表面に形成された微細構造形成用型5を、凹レンズ面1aに押圧し、成形用樹脂を硬化させる成形工程と、成形面部5aの面頂に関する力のモーメントを作用させて、基体部5Aを変形させることにより、微細構造形成用型5をその外周側から反射防止部の凹凸形状の延びる方向に漸次離間させて脱型を行う脱型工程と、を備える。
【解決手段】凹レンズ面1aに光軸と交差する方向に延びる凹凸形状を有する反射防止部を備えるレンズの製造方法であって、凹レンズ面1aを有するレンズ本体1を形成する本体加工工程と、凹レンズ面1aに成形用樹脂を塗布し、反射防止部を転写する成形面部5aが、変形可能な基体部5Aの表面に形成された微細構造形成用型5を、凹レンズ面1aに押圧し、成形用樹脂を硬化させる成形工程と、成形面部5aの面頂に関する力のモーメントを作用させて、基体部5Aを変形させることにより、微細構造形成用型5をその外周側から反射防止部の凹凸形状の延びる方向に漸次離間させて脱型を行う脱型工程と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の製造方法および表面加工装置に関する。例えば、反射防止構造体等の微細構造を形成するための光学素子の製造方法および表面加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばカメラ等の撮像レンズのレンズ面には、ゴーストやフレアなどの不要光の映り込みを防止するため、反射防止膜が設けられている。
このようなレンズ等の光学素子の表面に設けられる反射防止膜としては、例えば、反射防止する光の波長に応じて高屈折率層と低屈折率層とを交互に適宜重ね合わせた多層薄膜が知られている。このような多層の反射防止膜は、真空蒸着やスパッタ等の真空プロセスによって形成されるが、膜厚が管理された薄膜を多層に設ける必要があるため、処理時間が長くなっていた。また真空プロセスは指向性が高いため、レンズ形状により、例えば中心部に対する外周部の凹凸量が大きくなるレンズの場合、中心部と外周部とで膜厚が変化する。このため、レンズ面全体にわたって均一な反射防止特性を有する反射防止膜を得ることができず、例えば、中心部に比べて外周部の反射防止特性が劣る反射防止膜になってしまう。
このような多層薄膜によらない反射防止構造体として、例えば、特許文献1に記載されたように、レンズ表面に三角錐や四角錐などを単位とする微細構造を形成し、レンズ表面の近傍で屈折率変化が生じるようにした反射防止構造体が知られている。
特許文献1では、三角柱が微小ピッチをあけて配列されたX線マスクを形成し、このX線マスクを介してレンズ上に塗布されたレジストにX線を露光して、レンズ表面に三角錐の微細構造を形成し、さらにRFドライエッチングを行うことにより、三角錐の微細構造をレンズ表面に転写して反射防止構造体を表面に有するマスタを形成する。次にこのマスタの形状を転写して電鋳プロセスによりNi複製型を製造し、このNi複製型を用いた成形によって、反射防止構造体を表面に有するレンズを製造する技術が記載されている。
また、特許文献2には、微細な円錐状の凸部が略稠密状に配置された反射防止部を成形する技術が記載されている。特許文献2に記載の技術では、ガラス板からなる成形型の成形面にエッチング速度傾斜材料の薄層を形成し、この薄層の表面にホトレジスト膜を形成し、このホトレジスト膜に露光・現像を行って所定パターンのマスクを形成し、このマスクを介してエッチング速度傾斜材料層をエッチングすることにより、反射防止部の形状を転写する成形型を形成する。そして、この成形型を用いて、プレス成形を行うことにより反射防止部の形状がレンズ表面に転写された光学素子を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−317807号公報
【特許文献2】特開2004−12856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術には、以下の問題があった。
特許文献1、2に記載の技術では、いずれも、反射防止構造体となる多数の突起を有する微細構造の形状が反転された成形型を用いて、反射防止構造を有するレンズを形成するため、多層薄膜を形成する場合に比べて、製造時間が短縮されるとともにレンズの表面に均一性の高い反射防止構造を作りやすい。
ところが、特許文献1、2の光学素子の製造方法では、微細構造を損傷しないように光学素子を成形型から離型するために微細構造の突起の突出方向を成形型の抜き方向に一致させる必要がある。
このため、レンズなどの表面に曲率を有する光学素子を製造する場合、例えば成形型の抜き方向を光軸に沿う方向とすると、微細構造の突起が光軸に沿う方向に突出する微細構造に限定されてしまうという問題がある。このように微細構造は、レンズ外周部に向かうほど突起の突出方向がレンズ面の法線方向に対して傾いているため、レンズ中心部と外周部とで、反射率特性が変化するため、均一な反射防止特性を有する反射防止構造とならないという問題がある。
例えば、レンズ面の法線方向に突起が突出する微細構造を形成する成形型によって、成形を行うと、成形された微細構造が成形型とこすれながら離型するため、微細構造は破損してしまうという問題がある。このため、レンズ外周部において良好な反射防止特性が得られなくなってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、曲率を有する光学面を有する光学素子の光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を容易に形成することができる光学素子の製造方法および表面加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の光学素子の製造方法は、曲率を有する光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を備える光学素子の製造方法であって、
前記光学面を有する光学素子本体を形成する本体加工工程と、前記光学面に成形用樹脂を塗布し、前記微細構造を転写する成形面が、変形可能な基体の表面に形成された微細構造形成用型を、前記光学面に押圧し、前記成形用樹脂を硬化させる成形工程と、前記微細構造形成用型に対して前記成形面の面頂に関する力のモーメントを作用させて、前記基体を変形させることにより、前記微細構造形成用型をその外周側から前記凹凸形状の延びる方向に漸次離間させて、前記微細構造形成用型の脱型を行う脱型工程と、を備える方法とする。
【0007】
また、本発明の光学素子の製造方法では、前記脱型工程では、少なくとも前記外周側から前記微細構造形成用型を脱型する際に、前記微細構造形成用型の中心部を押さえていることが可能である。
【0008】
また、本発明の光学素子の製造方法では、前記脱型工程では、前記力のモーメントを作用させることにより、前記成形面が形成された前記基体の表面の部分的な曲率を、前記微細構造形成用型の外周側から変化させて、前記凹凸形状の延びる方向に漸次離間させることが可能である。
【0009】
また、本発明の光学素子の製造方法では、前記微細構造は、錘体が集合した反射防止構造であることが可能である。
【0010】
本発明の光学素子の表面加工装置は、曲率を有する光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を形成するための光学素子の表面加工装置であって、前記光学面を有し、該光学面に成形用樹脂が塗布された光学素子本体を保持する保持部と、前記微細構造を転写する成形面が、変形可能な基体の表面に形成された微細構造形成用型と、前記成形用樹脂が塗布された前記光学面に対して前記微細構造形成用型を相対移動して、前記成形面を前記成形用樹脂に密着させる型押圧部と、前記光学面と前記微細構造形成用型の前記成形面との間に挟まれた前記成形用樹脂を硬化させる樹脂硬化部と、前記微細構造形成用型に対して前記成形面の面頂に関する力のモーメントを作用させて、前記微細構造形成用型をその外周側から前記凹凸形状の延びる方向に前記成形面が前記成形用樹脂から漸次離間するように、前記基体を変形させるが型変形部と、該型変形部により、前記成形面の中心部まで離間が進んだ際に、前記微細構造形成用型と前記保持部とを相対移動させて、前記光軸方向に離間させる脱型移動部と、を備える構成とする。
【0011】
また、本発明の光学素子の表面加工装置では、前記型変形部は、前記微細構造形成用型の中心部を押さえる中心押圧部材と、前記微細構造形成用型の外周側を前記光学面の上方に移動させる外周側移動部材と、を備えることが可能である。
【0012】
また、本発明の光学素子の表面加工装置では、前記微細構造は、錘体が集合した反射防止構造であることが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光学素子の製造方法および表面加工装置によれば、変形可能な基体の表面に微細構造を転写する成形面が形成された微細構造形成用型を用いて微細構造の成形を行い、基体を変形させることにより、微細構造形成用型をその外周側から凹凸形状の延びる方向に漸次離間させて脱型を行うことができるので、曲率を有する光学面を有する光学素子の光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を容易に形成することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法によって製造された光学素子の構成を示す模式的な平面図、そのA−A断面図、B部詳細図、およびC部詳細図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の光学素子の表面加工装置の模式的な構成図、そのD−D断面図、E部詳細図、およびF部詳細図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型の製造工程を示す模式的な工程説明図、およびそのG部詳細図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型の図3に続く製造工程を示す模式的な工程説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法の模式的な工程説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法の図5に続く模式的な工程説明図、およびそのH部詳細図、およびJ部詳細図である。
【図7】本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法の図6に続く模式的な工程説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の光学素子の表面加工装置の主要部の構成を示す模式的な断面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態の光学素子の表面加工装置の主要部の構成を示す模式的な断面図である。
【図10】本発明の第4の実施形態の光学素子の表面加工装置の主要部の構成を示す模式的な断面図、および模式的な動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0016】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法に用いる光学素子の表面加工装置について説明する。
図1(a)は、本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法によって製造された光学素子の構成を示す模式的な平面図である。図1(b)、(c)、(d)は、それぞれ図1(a)におけるA−A断面図、B部詳細図、およびC部詳細図である。図2(a)は、本発明の第1の実施形態の表面加工装置の模式的な構成図である。図2(b)、(c)、(d)は、それぞれ図2(a)におけるD−D断面図、E部詳細図、およびF部詳細図である。
【0017】
本実施形態の光学素子の製造方法は、曲率を有する光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を備える光学素子の製造方法である。
光学素子の種類は、曲率を有する光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を備えるものであれば、特に限定されない。
以下では、一例として、図1(a)、(b)、(c)、(d)に示すように、被加工体がレンズ本体1(光学素子本体)であり、微細構造が反射防止部2による反射防止構造の場合の例で説明する。
すなわち、本実施形態では、レンズ本体1に反射防止部2を形成して、光学素子であるレンズ1Aを製造する場合の例で説明する。
【0018】
レンズ本体1は、球面の凹レンズ面1a(曲率を有する光学面)と、平レンズ面1bとを備える単玉の凹平レンズである。
凹レンズ面1aは、反射防止部2を形成する前に、レンズの設計仕様に基づく面形状、面精度に加工されている。
レンズ本体1の材質は、ガラスでも合成樹脂でもよい。また、凹レンズ面1aの形成方法は、研磨でもよいし成形でもよい。
なお、レンズ1Aには、平レンズ面1bにも反射防止部2を設けることが可能である。この場合、平レンズ面1bは曲率を有しない(曲率が0)平面であるため、凹レンズ面1aに反射防止部2を形成する前、または後に、従来と同様にして形成すればよい。
以下では、平レンズ面1bには反射防止部2が形成されていないものとして説明する。
【0019】
反射防止部2は、図1(c)、(d)に示すように、凹レンズ面1a上に密集して配置された円錐状の突起2aの集合体である。
各突起2aの中心軸は、本実施形態では、各突起2aが設けられた位置における凹レンズ面1aの法線Nの方向に一致されている。ただし、突起2aの中心軸の方向は、反射率が許容できる範囲でバラツキを有していてもよい。
また、各突起2aは、本実施形態では、UV硬化樹脂によって形成されている。UV硬化樹脂の種類は、レンズ本体1の材質の屈折率に応じて、屈折率差がなるべく少なくなる材質を選定する。例えば、本実施形態では、レンズ本体1がCOP(シクロオレフィンポリマー)樹脂(屈折率1.5)である場合に、UV硬化樹脂は、PAK−02(商品名:東洋合成工業(株)製)(屈折率1.5)を採用している。
突起2aの形状は、反射防止する波長や反射率の目標値に応じて適宜設定することができる。本実施形態では、一例として、波長380nm〜780nmの入射光の凹レンズ面1aでの反射率を1%以下にするために、各突起2aの形状を、底面が直径約200nm、高さが約200nmとなり、隣接ピッチ約200nmで略均一に配置している。
このような構成により、凹レンズ面1a上には、高さ200nmの範囲で、屈折率が1から1.5に連続的に変化するため、入射光の反射が抑制される。
【0020】
このようなレンズ1Aは、本実施形態では、図2(a)に示す表面加工装置10を用いて、レンズ本体1の凹レンズ面1aに反射防止部2を形成することにより製造される。
【0021】
表面加工装置10の概略構成は、保持部3、UV光源4(樹脂硬化部)、微細構造形成用型5、型移動部6(型押圧部、型変形部、脱型移動部)、および型移動制御部7(型押圧部、型変形部、脱型移動部)を備える。
【0022】
保持部3は、表面加工を行う際にレンズ本体1を保持するもので、本実施形態では、光軸Oを鉛直軸に整列させて、凹レンズ面1aを上方に向けた状態で、平レンズ面1bの外周部およびレンズ側面を保持することができるようになっている。
保持部3の中心部には、レンズ1Aのレンズ有効径よりも大きく開口した孔部3aが貫通して設けられている。
孔部3aの中心軸は、保持部3に保持されたレンズ本体1の光軸Oと整列する位置関係にある。
【0023】
UV光源4は、紫外光(UV光)をレンズ本体1に照射する光源であり、凹レンズ面1aに塗布されたUV硬化樹脂を硬化させるために用いられる。本実施形態では、UV光源4は、保持部3の下方において、孔部3aの中心に重なる位置に配置されている。このため、UV光源4から上方に照射されたUV光は、孔部3aを通過して、レンズ本体1に入射し、凹レンズ面1aの前面に照射される。
【0024】
微細構造形成用型5は、凹レンズ面1a上に反射防止部2を成形するため、微細構造を転写する成形面部5a(成形面)が変形可能な基体部5A(基体)の表面に形成されたものである。
微細構造形成用型5の外形は、略円柱状の外形を有し、微細構造形成用型5の中心軸線Zは、鉛直軸に沿って配置され、保持部3に保持されたレンズ本体1の光軸Oと整列されている。下面に成形面部5aが設けられ上面15dは、保持部3の上方に配置されている。
基体部5Aの下面には成形面部5aが形成され、基体部5Aの上面15dは、外力による変形がない場合には平面である。
また、微細構造形成用型5の上部は、後述する型移動部6の移動軸6a、6bの下端部と接続されている。
【0025】
成形面部5aは、凹レンズ面1aに反射防止部2の形状を転写するため、凹レンズ面1aと同じ曲率を有する凸面5b(図2(c)、(d)の二点鎖線参照)に、反射防止部2の凹凸形状を反転させた凹凸形状が形成されている。
本実施形態では、成形面部5aの形状は、凸面5bに、突起2aの形状を反転させた円錐状の穴部5eが多数形成された形状を有する。各穴部5eの中心軸は、各穴部5eが設けられた位置における凸面5bの法線Pの方向に一致されている。
微細構造形成用型5の材質は、例えば、ゴムやエラストマーなどの弾性係数が小さく変形が容易な弾性体からなる。このため、微細構造形成用型5の一部に外力を受けると、外力により発生する応力に応じて、微細構造形成用型5が変形し、外力の方向によっては、成形面部5aが設けられた凸面5bも変形することになる。
本実施形態では、微細構造形成用型5の材質は、一例として、シリコン混和物からなるゴムを採用している。
【0026】
型移動部6は、微細構造形成用型5の上方において鉛直軸に平行に配置され、下端部がそれぞれ上面5dに接続された移動軸6a、6bと、移動軸6a、6bの上端部を保持し、鉛直軸に沿ってそれぞれ独立に進退させる軸移動機構6cとを備える。
【0027】
移動軸6aは、図2(b)に示すように、微細構造形成用型5の中心軸線Zと同軸に配置されている。このため、移動軸6aを鉛直軸に沿って進退させることにより、微細構造形成用型5の上面5dの中心部を、鉛直軸に沿って、引き上げたり、押し下げたりすることができる。
【0028】
移動軸6bは、微細構造形成用型5の中心軸線Zと微細構造形成用型5の円筒状の外周面5cとの間において、中心軸線Zを中心とする1つの円C1を周方向に等分する位置に配置されている。このため、各移動軸6bを鉛直軸に沿って同期して進退させることにより、円C1の円周上を、鉛直軸に沿って、引き上げたり、押し下げたりすることができる。
ここで、移動軸6bを配置する円C1の半径R1は、移動軸6aの位置を固定して移動軸6bを徐々に引き上げたときに、凸面5bが、少なくとも反射防止部2の突起2aの高さ分だけ変形する間、各所で変形前の凸面5bの形状の法線Pの方向に略沿って変形するように設定する。このような円C1の半径R1は、凸面5bの曲率、微細構造形成用型5の全体形状、微細構造形成用型5の材質の縦弾性係数、横弾性係数等の条件により異なるため、予め実験やシミュレーションなどによって設定する。
例えば、微細構造形成用型5が図2(a)に示すような円板に近い偏平な形状の場合には、外周面5cの半径をR0とすると、少なくとも、R0/2≦R1<R0の関係を満たすことが好ましい。
また、移動軸6bの本数は、微細構造形成用型5の剛性に応じて適宜の本数を設定することができる。図2(b)には、一例として、8本を図示している。
移動軸6bの本数は、多いほど凸面5bの周方向の変形をより均等化することができる。
【0029】
軸移動機構6cは、図示略の支持部材によって保持部3の上方に固定されている。
また、軸移動機構6cは、移動軸6a、6bの進退量を制御する型移動制御部7と電気的に接続されている。
軸移動機構6cの具体的な構成としては、モータ等の駆動機構を用いたアクチュエータや、エアシリンダなどの流体駆動によるアクチュエータなどの構成を採用することができる。
【0030】
型移動制御部7は、軸移動機構6cを制御する制御モードとして、平行移動モードと、脱型モードとを備える。
平行移動モードは、微細構造形成用型5の凸面5bの曲率が凹レンズ面1aの曲率と略一致する形状となるように、移動軸6a、6bの相対位置を調整して、微細構造形成用型5の基準状態を形成し、この基準状態を保って、移動軸6a、6bの移動量を同期させる制御モードである。これにより、微細構造形成用型5は、鉛直軸に沿って平行移動される。
ここで、「略一致する」とは、凸面5bと凹レンズ面1aとの各曲率が一致する場合と、成形に支障のない範囲程度に異なる場合とを含む。成形に支障のない範囲とは、凹レンズ面1aに凸面5bを押圧した際に、凹レンズ面1aと成形面部5aとの間に、反射防止部2の許容形状誤差範囲内の成形空間が形成されることを意味する。すなわち、微細構造形成用型5は変形容易なゴム等の弾性体で形成されるため、凸面5bの曲率が凹レンズ面1aと曲率が異なっていても、凹レンズ面1aに押圧した際に凸面5bが変形して凹レンズ面1aに倣えば、成形には支障がない。
【0031】
脱型モードは、移動軸6a、6bをそれぞれ異なる移動量で独立に駆動する制御モードであり、具体的には、移動軸6aの位置を固定し各移動軸6bを同期して鉛直軸上方に徐々に引き上げる動作と、移動軸6aの位置の固定を解除して移動軸6bの移動に追従して移動軸6aを引き上げる動作とを行う制御モードである。
本モードでは、移動軸6bが強制変位を与えるため、上面5dが凹面状に変形され、これにより基体部5Aの全体が基準状態から変形する。この結果、基体部5Aの下部に応力分布が生じて凸面5bが変形し、凸面5bの平均的な曲率が増大する。
【0032】
次に、微細構造形成用型5の製造方法の一例について説明する。
図3(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型の製造工程を示す模式的な工程説明図である。図3(e)は、図3(d)におけるG部詳細図である。図4(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型の図3(d)に続く製造工程を示す模式的な工程説明図である。
【0033】
微細構造形成用型5を製造するには、図3(a)に示すように、例えばニッケル等の金属からなる板部材の一方の板面に凹レンズ面1aと同形状の凹面からなる基材表面11aが形成されたマスター基材11を作製する。
次に、図3(b)に示すように、マスター基材11の基材表面11a上に、微細構造体12を形成する。
微細構造体12の形状は、反射防止部2と同じ形状である。
微細構造体12は、例えば、基材表面11a上にレジストを塗布し、例えば電子線描画装置によって形状パターンを露光した後、露光部を除去することにより形成することができる。
【0034】
次に、図3(c)に示すように、ドライエッチング装置13から基材表面11aの法線方向に沿ってエッチングビーム13aを照射し、微細構造体12が除去されるまで異方性エッチングを行う。このとき、マスター基材11は図示略の揺動装置に保持し、基材表面11aの曲率中心を中心として揺動させる。
これにより、図3(d)、(e)に示すように、基材表面11aの各位置において、微細構造体12の外形に沿って、基材表面11aの法線方向にエッチングが進行し、微細構造体12の形状がマスター基材11に転写される。これによりマスター基材11の微細構造部11bが形成される。
以下、微細構造部11bが形成されたマスター基材11をマスター型11Aと称する。
【0035】
次に、図4(a)に示すように、マスター型11Aと、微細構造形成用型5の外周面15cの形状を転写する型枠14とを用いて、微細構造形成用型5を成形する金型15を組み立てる。
次に、金型15内に、移動軸6a、6bを配置して、成形材料16を充填し、インサート成形を行う。移動軸6a、6bの先端部には、成形材料16との密着性を向上し、成形後に抜け止めされる適宜のアンカー形状を形成しておくことが好ましい。
成形材料16が硬化したら、金型15を分解して、移動軸6a、6bが上部に接続された微細構造形成用型5を脱型する。
このようにして、微細構造形成用型5を製造することができる。
【0036】
なお、上記の微細構造形成用型5の製造方法は、一例であって、適宜変形することができる。
例えば、マスター型11Aを形成する場合に、ドライエッチングの代わりに、アルミ陽極酸化等の選択的なエッチングを採用してもよい。
また、例えば、本例は、微細構造形成用型5は一体成形により製造する例になっている。微細構造形成用型5を一体成形すると、微細構造形成用型5の内部の材質がインサート部分を除いて均一であるため、外力が作用した際の各所の変形の異方性が発生しにくくなる。また、各所の変形が精度よく予測できる。
ただし、凸面5bの変形形状が許容範囲内に制御できる場合には、微細構造形成用型5を複数の材質で構成したり、複数の部品を貼り合わせたりして、形成することも可能である。
また、例えば、上記のインサート成形では、移動軸6a、6bに代えて、移動軸6a、6bの先端部と着脱可能に接続可能な接続金具をインサートすることも可能である。この場合、接続金具を介して、微細構造形成用型5を移動軸6a、6bの先端部に着脱可能に接続することができる。移動軸6a、6bと接続金具との接続方法としては、例えば、螺合などを採用することができる。
【0037】
次に、本実施形態の表面加工装置10を用いた本実施形態の光学素子の製造方法について説明する。
図5(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法の模式的な工程説明図である。図6(a)は、本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法の図5(b)に続く模式的な工程説明図である。図6(b)、(c)は、図6(a)におけるH部詳細図、およびJ部詳細図である。図7(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法の図6(a)に続く模式的な工程説明図である。
【0038】
本実施形態の光学素子の製造方法は、本体加工工程、成形工程、および脱型工程を備える。
本体加工工程は、光学面を有する光学素子本体を形成する工程である。
本工程では、例えば、切削・研磨、ガラスモールド成形、樹脂成形等の適宜の加工を行って、凹レンズ面1aを有するレンズ本体1を形成する。
【0039】
次に、成形工程を行う。本工程は、光学面に成形用樹脂を塗布し、微細構造を転写する成形面が、変形可能な基体の表面に形成された微細構造形成用型を、光学面に押圧し、成形用樹脂を硬化させる工程である。
【0040】
本工程では、まず、図5(a)に示すように、レンズ本体1を、凹レンズ面1aが微細構造形成用型5の方に向いた姿勢で、表面加工装置10の保持部3に保持させる。
このとき、微細構造形成用型5は、保持部3の上方の退避位置に退避させておく。なお、本工程では、型移動制御部7は、軸移動機構6cを平行移動モードで制御する。
次に、凹レンズ面1a上に、UV硬化樹脂20(成形用樹脂)を塗布する。UV硬化樹脂20の種類は、本実施形態では、一例として、PAK−02(商品名)を採用している。
UV硬化樹脂20は、図5(a)に示すように、中心部に塊状に塗布して、後述するように微細構造形成用型5を押圧する際に、外周部に塗り拡げられるようにしてもよいし、例えば、スピンコート等によって、予め凹レンズ面1aの全体にわたって層状に塗布しておいてもよい。
【0041】
次に、型移動制御部7は軸移動機構6cに制御信号を送出して、図5(b)に示すように、移動軸6a、6bを鉛直下方に移動し、微細構造形成用型5を下降させる。
このとき、軸移動機構6cは平行移動モードで制御されるため、成形面部5aの凸面5b(図5(b)には図示略)は、凹レンズ面1aの曲率に略一致する曲率を保って下降する。
このため、微細構造形成用型5の凸面5bは、UV硬化樹脂20を挟んで凹レンズ面1aに押圧され、凸面5bが凹レンズ面1aに密着する。
凸面5bと凹レンズ面1aとが密着するまで、微細構造形成用型5が下降されたら、型移動制御部7は、軸移動機構6cによる微細構造形成用型5の下降を停止する。
これにより、UV硬化樹脂20は、成形面部5aと凹レンズ面1aとの間に形成される成形空間に充填される。
【0042】
このため、型移動部6、型移動制御部7は、UV硬化樹脂20が塗布された凹レンズ面1aに対して微細構造形成用型5を相対移動して、凹レンズ面1aをUV硬化樹脂20に密着させる型押圧部を構成している。
また、型移動部6の移動軸6aは、微細構造形成用型5の中心部を押さえる中心押圧部材を構成している。
【0043】
次に、UV光源4を点灯する。これにより、孔部3aからレンズ本体1に紫外光が入射し、レンズ本体1の内部から凹レンズ面1aに紫外光が照射される。
この結果、凹レンズ面1aと成形面部5aとで挟まれた成形空間に充填されたUV硬化樹脂20が光硬化し、凹レンズ面1a上に反射防止部2が形成される。
このため、UV光源4は、凹レンズ面1aと微細構造形成用型5の成形面部5aとの間に挟まれたUV硬化樹脂20を硬化させる樹脂硬化部を構成している。
UV硬化樹脂20の硬化が終了したら、UV光源4を消灯する。
以上で成形工程が終了する。
【0044】
次に、脱型工程を行う。本工程は、微細構造形成用型に対して成形面の面頂に関する力のモーメントを作用させて、基体を変形させることにより、微細構造形成用型をその外周側から凹凸形状の延びる方向に漸次離間させて、微細構造形成用型の脱型を行う工程である。
【0045】
本工程では、型移動制御部7は、軸移動機構6cを脱型モードで制御する。
すなわち、図6(a)に示すように、移動軸6aの位置を固定し、各移動軸6bを徐々に鉛直上方に移動する。これにより、移動軸6bとともに、移動軸6bに接続された基体部5Aの上部が引き上げられる。このため、基体部5Aの上部には、移動軸6bの各接続位置Qにおいて、鉛直上方に向かう外力FQが作用し、基体部5Aの上部が引き上げられる。一方、移動軸6aは移動しないため、接続された中心軸線Z上の接続位置Sの位置が固定される。この結果、移動軸6bの移動に伴って、基体部5Aの上部は徐々に凹面状に変形していく。
【0046】
これに対して、基体部5Aの下面である成形面部5aは、図6(a)、(b)に示すように、中心軸線Z上の面頂Tが凹レンズ面1aに押圧されて移動が拘束されているから、基体部5Aには、外力FQにより面頂T回りの力のモーメントが作用している。
このため、基体部5Aの下部に発生する応力は、図6(c)に示すように、外力FQに由来する鉛直上向きの応力σQと、成形面部5aと反射防止部2との密着による拘束に由来する凸面5bに沿う応力σTの合応力σとなる。
したがって、外力FQの大きさを適宜に設定することにより、成形面部5aの外周側で合応力σの方向を凹レンズ面1aの法線Nの方向に略一致させることができる。
【0047】
このようにして、移動軸6bを引き上げていくと、外周側の成形面部5aが、凹レンズ面1aの略法線Nの方向に引っ張られていく。このため、反射防止部2の突起2aと成形面部5aの穴部5eとの間に擦れが発生しにくいため、大きな離型抵抗を受けることなく、成形面部5aと反射防止部2とが成形面部5aの外周側から徐々に離間していく。このため、突起2aが損傷されることなく、微細構造形成用型5から脱型されていく。
【0048】
このように、本実施形態では、基体部5Aの変形により、成形面部5aが、中心軸線Zに向かう上方向に剥がされることで、脱型が進行していく。その際、移動軸6bの移動に伴って、成形面部5aの凸面5bの曲率が大きくなる。
このとき、凹レンズ面1aの有効径、基体部5Aの材料定数、移動軸6aの移動速度などの条件によって、曲率の変化の態様はやや異なる。
例えば、基体部5Aの材質が硬いか、または成形面部5aと反射防止部2との密着力が小さい場合には、凸面5bの変形が各所で一斉に進み、凸面5bの曲率が全体的に変化する。この場合、成形面部5aの離間は、外周側でも内周側でも、略同時に起こる。
一方、基体部5Aの材質が柔らかいか、または成形面部5aと反射防止部2との密着力が大きい場合には、凸面5bの変形が外周側から内周側に徐々に伝搬するため、凸面5bの曲率が外周側から漸次増大し、中心部では成形面部5aと反射防止部2とが密着した状態が保たれたままで、外周側から徐々に離間が進む。この場合には、凸面5bの曲率は、部分的に変化している。
どちらの態様で脱型していくかは、凹レンズ面1aの形状や、反射防止部2の離型性などに応じて適宜選択することができる。
【0049】
型移動部6、型移動制御部7は、微細構造形成用型5に対して凸面5bの面頂Tに関する力のモーメントを作用させて、基体部5Aをその外周側から突起2aの延びる方向に成形面部5aがUV硬化樹脂20から漸次離間するように変形させる型変形部を構成している。
【0050】
このようにして、図7(a)に示すように、成形面部5aが中心軸線Zの近傍まで脱型が進行したら、型移動制御部7は、移動軸6aの位置の固定を解除して、移動軸6bに追従して移動軸6aを引き上げる。これにより、成形面部5aの中心軸線Zの近傍の成形面部5aが、凹レンズ面1aの光軸Oの近傍の反射防止部2から離間する。
このため、型移動部6、型移動制御部7は、成形面部5aの中心部まで離間が進んだ際に、微細構造形成用型5と保持部3とを相対移動させて、光軸Oの方向に離間させる脱型移動部を構成している。
以上で、反射防止部2の脱型が終了する。
成形面部5aの全面が、反射防止部2から離間したら、脱型工程が終了する。
このようにして、レンズ1Aが製造される。
【0051】
次に、型移動制御部7は、図7(b)に示すように、脱型モードを解除し、平行移動モードに移行する。すなわち、移動軸6a、6bの位置を基準状態に戻し、微細構造形成用型5を平行移動して退避位置に移動して、待機する。
そして、レンズ1Aを保持部3から取り外す。他のレンズ本体1に反射防止部2を形成する場合には、上記の成形工程、脱型工程を同様に繰り返す。
【0052】
本実施形態の光学素子の製造方法によれば、変形可能な基体部5Aの表面に微細構造である反射防止部2の形状を転写する成形面部5aが形成された微細構造形成用型5を用いて反射防止部2の成形を行い、基体部5Aを変形させることにより、微細構造形成用型5をその外周側から反射防止部2の突起2aの延びる方向に漸次離間させて脱型を行うことができる。
このため、レンズ1Aの曲率を有する凹レンズ面1aに光軸Oと交差する方向に延びる突起2aが集合した反射防止部2を脱型する際に、微細構造形成用型5を光軸O方向に抜いても、離型抵抗が少ないため容易に脱型できる。また、反射防止部2の突起2aを損傷することなく脱型できる。また、突起2aの形状精度を悪化させることもなく脱型できる。
また、凹レンズ面1aの法線Nの方向に延びる突起2aの集合体からなる反射防止部2を形成できるため、多層膜を用いたり、光軸方向に延びる突起のみからなる反射防止構造を用いたりする場合に比べて、レンズ1Aの凹レンズ面1aの反射防止特性を向上することができる。
【0053】
また、本実施形態の表面加工装置10によれば、微細構造形成用型5の基体部5Aおよび成形面部5aが、弾性係数が低く変形容易な弾性体から形成されるため、成形面部5aの凸面5bの曲率が、凹レンズ面1aの曲率と異なっていても、成形面部5aをレンズ1Aに押圧することで、基体部5Aおよび成形面部5aが変形して、凹レンズ面1aに密着することができるため、例えば、成形面部5aや凹レンズ面1aの形状に製作誤差がある場合でも、安定した形状の反射防止部2を形成することができる。
また、表面加工装置10は、型移動部6によって、基体部5Aおよび成形面部5aを変形させることができるため、移動軸6a、6bの基準状態の位置関係を調整することによって、成形面部5aの凸面5bの形状を修正することができる。このため、微細構造形成用型5の製造コストを低減するとともに、反射防止部2の成形精度を向上することができる。
【0054】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態の光学素子の表面加工装置について説明する。
図8は、本発明の第2の実施形態の光学素子の表面加工装置の主要部の構成を示す模式的な断面図である。
【0055】
本実施形態の表面加工装置10Aは、図8に示すように、上記第1の実施形態の表面加工装置10の型移動部6に代えて、型移動部26(型押圧部、型変形部、脱型移動部)を備える。
型移動部26は、上記第1の実施形態の型移動部6の移動軸6b、軸移動機構6cに代えて、移動軸26b、軸移動機構26cを備える。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0056】
移動軸26bは、上記第1の実施形態における移動軸6bの上端部を、中心軸線Zに向かう斜め上方向に延ばしたものである。
軸移動機構26cは、上記第1の実施形態の軸移動機構6cと同様に移動軸6aを進退させるとともに、各移動軸26bをそれぞれの軸方向に進退移動させるものである。軸移動機構26cの構成は、移動方向を除いて、上記第1の実施形態の軸移動機構6cと同様の構成を採用することができる。
【0057】
このような構成により、表面加工装置10Aでは、移動軸26bを斜め上方向に移動することで、接続位置Qにおいて外力FQ’を作用させ、面頂T回りの力のモーメントを発生させることができる。このため、微細構造形成用型5の上部を中心軸線Zに向かう斜め上方向に引き上げることができるようになっている。
移動軸26bの傾斜方向は、移動軸26bの中心軸の延長線が、成形面部5aの変形前の凸面5bの法線と略一致する(一致する場合を含む)向きであることが好ましい。
【0058】
本実施形態の表面加工装置10Aによれば、上記第1の実施形態と同様にして、レンズ1Aを製造することができる。
本実施形態では、移動軸26cが、中心軸線Zに向かう斜め上方向に引き上げられるため、成形面部5aを凸面5bの変形前の法線方向に沿って移動する制御がより容易となる。
【0059】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態の光学素子の表面加工装置について説明する。
図9は、本発明の第3の実施形態の光学素子の表面加工装置の主要部の構成を示す模式的な断面図である。
【0060】
本実施形態の表面加工装置10Bは、図9に示すように、上記第1の実施形態の表面加工装置10の型移動部6に代えて、型移動部36(型押圧部、型変形部、脱型移動部)を備える。
型移動部36は、上記第1の実施形態の型移動部6の移動軸6b、軸移動機構6cに代えて、移動軸36b、軸移動機構36cを備える。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0061】
移動軸36bは、微細構造形成用型5の外周面5cの周方向を等分する複数の位置に設けられ、微細構造形成用型5の中心軸線Zを通る水平線上を進退するものである。
各移動軸36bは、外周面5cの上端側に近い位置において、同一の水平面に整列して配置されている。
軸移動機構36cは、上記第1の実施形態の軸移動機構6cと同様に移動軸6aを進退させるとともに、各移動軸36bをそれぞれの軸方向の進退移動させるものである。軸移動機構36cの構成は、移動方向を除いて、上記第1の実施形態の軸移動機構6cと同様の構成を採用することができる。
【0062】
このような構成により、表面加工装置10Bでは、移動軸36bを中心軸線Zに向けて移動することで、外周面5cにおける接続位置Uにおいて外力FUを作用させ、面頂T回りの力のモーメントを発生させることができる。このため、微細構造形成用型5の外周側の側面を中心側に向けて圧縮することで、下方側の基体部5Aを、中心軸線Zに向かう斜め上方向に引き上げることができるようになっている。
本実施形態は、微細構造形成用型5の材質がポアソン比の大きいゴム材料の場合に特に有効である。
なお、移動軸36bの移動方向は、外周面5cを中心側に押圧できれば、水平方向には限定されない。例えば、中心に向かう斜め上方向に移動する構成とすれば、ポアソン比が特に大きい材質でなくても、下方側の基体部5Aを、中心軸線Zに向かう斜め上方向に引き上げることができる。
【0063】
本実施形態の表面加工装置10Bによれば、上記第1の実施形態と同様にして、レンズ1Aを製造することができる。
本実施形態では、例えば、レンズ1Aのレンズ径が小さく、微細構造形成用型5の上面5d狭い場合にも容易に適用することができるため、特に小径の光学素子の製造に好適である。
【0064】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態の光学素子の表面加工装置について説明する。
図10(a)、(b)は、本発明の第4の実施形態の光学素子の表面加工装置の主要部の構成を示す模式的な断面図、および模式的な動作説明図である。
【0065】
本実施形態の表面加工装置10Cは、図10(a)に示すように、上記第1の実施形態の表面加工装置10の微細構造形成用型5、型移動部6に代えて、微細構造形成用型45、型移動部46(型押圧部、脱型移動部)を備え、流体供給部47(型変形部)を追加したものである。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0066】
微細構造形成用型45は、上記第1の実施形態の微細構造形成用型5から、移動軸6bを削除し、基体部5Aの内部に環状空洞部45aを追加したものである。
環状空洞部45aは、円状または楕円状の断面を有する円環状の空間であり、中心軸線Zを中心として形成されている。環状空洞部45aの上部には、金属パイプなどからなる流体供給管47aが貫通され、流体供給管47aを通して、外部との間で流体の流入および排出が可能になっている。
【0067】
型移動部46は、上記第1の実施形態の型移動部6の移動軸6bを削除し、軸移動機構6cに代えて、軸移動機構46cを備える。
軸移動機構46cは、上記第1の実施形態の軸移動機構6cから、移動軸6bを進退させる機能を削除したものである。
【0068】
流体供給部47は、流体供給管47aに流体を送出または吸引するものである。流体供給部47の詳細構成の図示は省略するが、例えば、流体を貯留する流体貯留部と、流体を流体供給管47aに対して送出または吸引するポンプ部と、ポンプ部の動作を制御する圧力制御部とを備える。
流体供給部47が供給する流体としては、例えば空気などの気体でもよいし、例えば水などの液体でもよい。本実施形態では、一例として、流体供給部47は空気を供給し、空気圧を制御することで、環状空洞部45aの容積を制御できるようになっている。
【0069】
このような構成により、表面加工装置10Cでは、図10(a)に示すように、環状空洞部45a内を一定の空気圧に保つことにより、成形面部5aを凹レンズ面1aの形状に沿わせた形状とし、上記第1の実施形態と同様にして、成形工程を行うことができる。
また、脱型工程を行うには、図10(b)に示すように、環状空洞部45a内の空気を流体供給部47によって吸引することで、環状空洞部45aの容積を収縮させる。
これにより、環状空洞部45aの内周面において、成形面部5aと対向する部分Vに対して、中心軸線Zに向かう斜め上方向に引き上げる外力FVが作用したことになる。
外力FVは、面頂T回りの力のモーメントを発生させるため、上記第1の実施形態と同様に、部分Vよりも下方側の基体部5Aを、中心軸線Zに向かう斜め上方向に引き上げることができる
このため、上記第1の実施形態と同様に脱型工程を行うことができる。
【0070】
本実施形態では、型移動部46が型押圧部、脱型移動部を構成し、流体供給部47が型変形部を構成している。
【0071】
本実施形態の表面加工装置10Cによれば、流体供給部47によって、微細構造形成用型45の内部を変形させるため、成形面部5aに近い位置で、基体部5Aの変形を制御することができる。
本実施形態では、環状空洞部47は、1箇所に設けた場合の例で説明したが、環状空洞部47をさらに同心円状に複数箇所に配置することも可能である。
この場合、外周側から中心部に向かって脱型時の成形面部5aの変形を、複数の環状空洞部47の変形を順次切り換えて制御することにより、細かく徐変することができるため、反射防止部2に対する脱型の負荷をより低減することができる。
【0072】
なお、上記の各実施形態の説明では、光学素子がレンズの場合の例で説明したが、本発明の光学素子の製造方法によって製造される光学素子は、レンズには限定されない。例えば、ミラー、プリズム、フィルタなどの光学素子でもよい。
【0073】
また、上記の各実施形態の説明では、一例として、光学素子の光学面が凹球面の場合の例で説明したが、凹球面には限定されず、非球面でもよい。また、凸面でもよい。
光学面が凸面の場合、上記の説明と異なる点は、当業者であれば容易に理解される。例えば、光学面が凹面の場合、微細構造形成用型5の成形面部5aが凹面に形成されることになる。したがって、凹面の面頂に関する力のモーメントを作用させて、成形面部5aの凹面の曲率が大きくなるように基体部5Aを変形させることで、反射防止部2の突起2aの延びる方向に離間させることができる。
【0074】
また、上記の各実施形態の説明では、微細構造が、円錐状の突起2aによる反射防止部2である場合の例で説明したが、反射防止構造を形成するには、レンズ表面の近傍で屈折率が変化する形状であればよく、円錐状に限らず、三角錐状、四角錐状等の錘体を好適に採用することができる。
【0075】
また、上記の各実施形態の説明では、微細構造が反射防止構造の場合の例で説明したが、微細構造は、ナノインプリント技術によって形成される凹凸形状であれば、錘体には限定されず、例えば、円柱、円柱穴、錘体の反転した穴形状、釣鐘形状等の凹凸形状を採用することができる。
このため、微細構造は、反射防止構造には限定されない
【0076】
また、上記の各実施形態の説明では、光学素子の光軸を鉛直軸に沿って配置し、微細構造形成用型を鉛直軸に沿って移動させるようにした場合の例で説明したが、このような位置関係は一例であって、相対的な位置関係が同じであれば、異なる向きに各部材を配置してもよい。
【0077】
また、上記の第1、第2の実施形態の説明では、移動軸6b、26bを、1つの円C1上に配置した場合の例で説明したが、同心円をなす複数の円上に設けた構成とすることができる。この場合、外周側から中心部に向かって、各円上の移動軸を徐々に移動させていくことにより、成形面部5aの変形量をより細かく制御することができるため、反射防止部2に対する脱型の負荷をより低減することができる。
【0078】
また、上記各実施形態の説明では、光学素子を固定して微細構造形成用型を移動させる場合の例で説明したが、移動軸6aを固定軸に置き換え、保持部3を微細構造形成用型5に対して進退する移動機構を設けるようにして、型押圧部、脱型移動部を構成してもよい。
また、微細構造形成用型5および保持部3をそれぞれ移動可能に支持し、これら両方が、型押圧部、脱型移動部を構成するようにしてもよい。
【0079】
また、上記の各実施形態の説明では、成形面部5aが、基体部5Aの表面に基体部と同材質で形成された場合の例で説明したが、基体は、材質が同一または異なる複数の弾性体を貼り合わせや成形によって一体化した構成としてもよい。
【0080】
また、上記の実施形態で説明したすべての構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせたり、削除したりして実施することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 レンズ本体(光学素子本体)
1A レンズ(光学素子)
1a 凹レンズ面(曲率を有する光学面)
2 反射防止部(微細構造、反射防止構造)
2a 突起(錘体)
3 保持部
4 UV光源
5、45 微細構造形成用型
5A 基体部(基体)
5a 成形面部(成形面)
5e 穴部
6、26、36、46 型移動部
6a 移動軸(中心押圧部材)
7 型移動制御部
10、10A、10B、10C 表面加工装置
20 UV硬化樹脂(成形用樹脂)
N、P 法線
O 光軸
T 面頂
Z 中心軸線
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の製造方法および表面加工装置に関する。例えば、反射防止構造体等の微細構造を形成するための光学素子の製造方法および表面加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばカメラ等の撮像レンズのレンズ面には、ゴーストやフレアなどの不要光の映り込みを防止するため、反射防止膜が設けられている。
このようなレンズ等の光学素子の表面に設けられる反射防止膜としては、例えば、反射防止する光の波長に応じて高屈折率層と低屈折率層とを交互に適宜重ね合わせた多層薄膜が知られている。このような多層の反射防止膜は、真空蒸着やスパッタ等の真空プロセスによって形成されるが、膜厚が管理された薄膜を多層に設ける必要があるため、処理時間が長くなっていた。また真空プロセスは指向性が高いため、レンズ形状により、例えば中心部に対する外周部の凹凸量が大きくなるレンズの場合、中心部と外周部とで膜厚が変化する。このため、レンズ面全体にわたって均一な反射防止特性を有する反射防止膜を得ることができず、例えば、中心部に比べて外周部の反射防止特性が劣る反射防止膜になってしまう。
このような多層薄膜によらない反射防止構造体として、例えば、特許文献1に記載されたように、レンズ表面に三角錐や四角錐などを単位とする微細構造を形成し、レンズ表面の近傍で屈折率変化が生じるようにした反射防止構造体が知られている。
特許文献1では、三角柱が微小ピッチをあけて配列されたX線マスクを形成し、このX線マスクを介してレンズ上に塗布されたレジストにX線を露光して、レンズ表面に三角錐の微細構造を形成し、さらにRFドライエッチングを行うことにより、三角錐の微細構造をレンズ表面に転写して反射防止構造体を表面に有するマスタを形成する。次にこのマスタの形状を転写して電鋳プロセスによりNi複製型を製造し、このNi複製型を用いた成形によって、反射防止構造体を表面に有するレンズを製造する技術が記載されている。
また、特許文献2には、微細な円錐状の凸部が略稠密状に配置された反射防止部を成形する技術が記載されている。特許文献2に記載の技術では、ガラス板からなる成形型の成形面にエッチング速度傾斜材料の薄層を形成し、この薄層の表面にホトレジスト膜を形成し、このホトレジスト膜に露光・現像を行って所定パターンのマスクを形成し、このマスクを介してエッチング速度傾斜材料層をエッチングすることにより、反射防止部の形状を転写する成形型を形成する。そして、この成形型を用いて、プレス成形を行うことにより反射防止部の形状がレンズ表面に転写された光学素子を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−317807号公報
【特許文献2】特開2004−12856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術には、以下の問題があった。
特許文献1、2に記載の技術では、いずれも、反射防止構造体となる多数の突起を有する微細構造の形状が反転された成形型を用いて、反射防止構造を有するレンズを形成するため、多層薄膜を形成する場合に比べて、製造時間が短縮されるとともにレンズの表面に均一性の高い反射防止構造を作りやすい。
ところが、特許文献1、2の光学素子の製造方法では、微細構造を損傷しないように光学素子を成形型から離型するために微細構造の突起の突出方向を成形型の抜き方向に一致させる必要がある。
このため、レンズなどの表面に曲率を有する光学素子を製造する場合、例えば成形型の抜き方向を光軸に沿う方向とすると、微細構造の突起が光軸に沿う方向に突出する微細構造に限定されてしまうという問題がある。このように微細構造は、レンズ外周部に向かうほど突起の突出方向がレンズ面の法線方向に対して傾いているため、レンズ中心部と外周部とで、反射率特性が変化するため、均一な反射防止特性を有する反射防止構造とならないという問題がある。
例えば、レンズ面の法線方向に突起が突出する微細構造を形成する成形型によって、成形を行うと、成形された微細構造が成形型とこすれながら離型するため、微細構造は破損してしまうという問題がある。このため、レンズ外周部において良好な反射防止特性が得られなくなってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、曲率を有する光学面を有する光学素子の光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を容易に形成することができる光学素子の製造方法および表面加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の光学素子の製造方法は、曲率を有する光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を備える光学素子の製造方法であって、
前記光学面を有する光学素子本体を形成する本体加工工程と、前記光学面に成形用樹脂を塗布し、前記微細構造を転写する成形面が、変形可能な基体の表面に形成された微細構造形成用型を、前記光学面に押圧し、前記成形用樹脂を硬化させる成形工程と、前記微細構造形成用型に対して前記成形面の面頂に関する力のモーメントを作用させて、前記基体を変形させることにより、前記微細構造形成用型をその外周側から前記凹凸形状の延びる方向に漸次離間させて、前記微細構造形成用型の脱型を行う脱型工程と、を備える方法とする。
【0007】
また、本発明の光学素子の製造方法では、前記脱型工程では、少なくとも前記外周側から前記微細構造形成用型を脱型する際に、前記微細構造形成用型の中心部を押さえていることが可能である。
【0008】
また、本発明の光学素子の製造方法では、前記脱型工程では、前記力のモーメントを作用させることにより、前記成形面が形成された前記基体の表面の部分的な曲率を、前記微細構造形成用型の外周側から変化させて、前記凹凸形状の延びる方向に漸次離間させることが可能である。
【0009】
また、本発明の光学素子の製造方法では、前記微細構造は、錘体が集合した反射防止構造であることが可能である。
【0010】
本発明の光学素子の表面加工装置は、曲率を有する光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を形成するための光学素子の表面加工装置であって、前記光学面を有し、該光学面に成形用樹脂が塗布された光学素子本体を保持する保持部と、前記微細構造を転写する成形面が、変形可能な基体の表面に形成された微細構造形成用型と、前記成形用樹脂が塗布された前記光学面に対して前記微細構造形成用型を相対移動して、前記成形面を前記成形用樹脂に密着させる型押圧部と、前記光学面と前記微細構造形成用型の前記成形面との間に挟まれた前記成形用樹脂を硬化させる樹脂硬化部と、前記微細構造形成用型に対して前記成形面の面頂に関する力のモーメントを作用させて、前記微細構造形成用型をその外周側から前記凹凸形状の延びる方向に前記成形面が前記成形用樹脂から漸次離間するように、前記基体を変形させるが型変形部と、該型変形部により、前記成形面の中心部まで離間が進んだ際に、前記微細構造形成用型と前記保持部とを相対移動させて、前記光軸方向に離間させる脱型移動部と、を備える構成とする。
【0011】
また、本発明の光学素子の表面加工装置では、前記型変形部は、前記微細構造形成用型の中心部を押さえる中心押圧部材と、前記微細構造形成用型の外周側を前記光学面の上方に移動させる外周側移動部材と、を備えることが可能である。
【0012】
また、本発明の光学素子の表面加工装置では、前記微細構造は、錘体が集合した反射防止構造であることが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光学素子の製造方法および表面加工装置によれば、変形可能な基体の表面に微細構造を転写する成形面が形成された微細構造形成用型を用いて微細構造の成形を行い、基体を変形させることにより、微細構造形成用型をその外周側から凹凸形状の延びる方向に漸次離間させて脱型を行うことができるので、曲率を有する光学面を有する光学素子の光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を容易に形成することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法によって製造された光学素子の構成を示す模式的な平面図、そのA−A断面図、B部詳細図、およびC部詳細図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の光学素子の表面加工装置の模式的な構成図、そのD−D断面図、E部詳細図、およびF部詳細図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型の製造工程を示す模式的な工程説明図、およびそのG部詳細図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型の図3に続く製造工程を示す模式的な工程説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法の模式的な工程説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法の図5に続く模式的な工程説明図、およびそのH部詳細図、およびJ部詳細図である。
【図7】本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法の図6に続く模式的な工程説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の光学素子の表面加工装置の主要部の構成を示す模式的な断面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態の光学素子の表面加工装置の主要部の構成を示す模式的な断面図である。
【図10】本発明の第4の実施形態の光学素子の表面加工装置の主要部の構成を示す模式的な断面図、および模式的な動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0016】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法に用いる光学素子の表面加工装置について説明する。
図1(a)は、本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法によって製造された光学素子の構成を示す模式的な平面図である。図1(b)、(c)、(d)は、それぞれ図1(a)におけるA−A断面図、B部詳細図、およびC部詳細図である。図2(a)は、本発明の第1の実施形態の表面加工装置の模式的な構成図である。図2(b)、(c)、(d)は、それぞれ図2(a)におけるD−D断面図、E部詳細図、およびF部詳細図である。
【0017】
本実施形態の光学素子の製造方法は、曲率を有する光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を備える光学素子の製造方法である。
光学素子の種類は、曲率を有する光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を備えるものであれば、特に限定されない。
以下では、一例として、図1(a)、(b)、(c)、(d)に示すように、被加工体がレンズ本体1(光学素子本体)であり、微細構造が反射防止部2による反射防止構造の場合の例で説明する。
すなわち、本実施形態では、レンズ本体1に反射防止部2を形成して、光学素子であるレンズ1Aを製造する場合の例で説明する。
【0018】
レンズ本体1は、球面の凹レンズ面1a(曲率を有する光学面)と、平レンズ面1bとを備える単玉の凹平レンズである。
凹レンズ面1aは、反射防止部2を形成する前に、レンズの設計仕様に基づく面形状、面精度に加工されている。
レンズ本体1の材質は、ガラスでも合成樹脂でもよい。また、凹レンズ面1aの形成方法は、研磨でもよいし成形でもよい。
なお、レンズ1Aには、平レンズ面1bにも反射防止部2を設けることが可能である。この場合、平レンズ面1bは曲率を有しない(曲率が0)平面であるため、凹レンズ面1aに反射防止部2を形成する前、または後に、従来と同様にして形成すればよい。
以下では、平レンズ面1bには反射防止部2が形成されていないものとして説明する。
【0019】
反射防止部2は、図1(c)、(d)に示すように、凹レンズ面1a上に密集して配置された円錐状の突起2aの集合体である。
各突起2aの中心軸は、本実施形態では、各突起2aが設けられた位置における凹レンズ面1aの法線Nの方向に一致されている。ただし、突起2aの中心軸の方向は、反射率が許容できる範囲でバラツキを有していてもよい。
また、各突起2aは、本実施形態では、UV硬化樹脂によって形成されている。UV硬化樹脂の種類は、レンズ本体1の材質の屈折率に応じて、屈折率差がなるべく少なくなる材質を選定する。例えば、本実施形態では、レンズ本体1がCOP(シクロオレフィンポリマー)樹脂(屈折率1.5)である場合に、UV硬化樹脂は、PAK−02(商品名:東洋合成工業(株)製)(屈折率1.5)を採用している。
突起2aの形状は、反射防止する波長や反射率の目標値に応じて適宜設定することができる。本実施形態では、一例として、波長380nm〜780nmの入射光の凹レンズ面1aでの反射率を1%以下にするために、各突起2aの形状を、底面が直径約200nm、高さが約200nmとなり、隣接ピッチ約200nmで略均一に配置している。
このような構成により、凹レンズ面1a上には、高さ200nmの範囲で、屈折率が1から1.5に連続的に変化するため、入射光の反射が抑制される。
【0020】
このようなレンズ1Aは、本実施形態では、図2(a)に示す表面加工装置10を用いて、レンズ本体1の凹レンズ面1aに反射防止部2を形成することにより製造される。
【0021】
表面加工装置10の概略構成は、保持部3、UV光源4(樹脂硬化部)、微細構造形成用型5、型移動部6(型押圧部、型変形部、脱型移動部)、および型移動制御部7(型押圧部、型変形部、脱型移動部)を備える。
【0022】
保持部3は、表面加工を行う際にレンズ本体1を保持するもので、本実施形態では、光軸Oを鉛直軸に整列させて、凹レンズ面1aを上方に向けた状態で、平レンズ面1bの外周部およびレンズ側面を保持することができるようになっている。
保持部3の中心部には、レンズ1Aのレンズ有効径よりも大きく開口した孔部3aが貫通して設けられている。
孔部3aの中心軸は、保持部3に保持されたレンズ本体1の光軸Oと整列する位置関係にある。
【0023】
UV光源4は、紫外光(UV光)をレンズ本体1に照射する光源であり、凹レンズ面1aに塗布されたUV硬化樹脂を硬化させるために用いられる。本実施形態では、UV光源4は、保持部3の下方において、孔部3aの中心に重なる位置に配置されている。このため、UV光源4から上方に照射されたUV光は、孔部3aを通過して、レンズ本体1に入射し、凹レンズ面1aの前面に照射される。
【0024】
微細構造形成用型5は、凹レンズ面1a上に反射防止部2を成形するため、微細構造を転写する成形面部5a(成形面)が変形可能な基体部5A(基体)の表面に形成されたものである。
微細構造形成用型5の外形は、略円柱状の外形を有し、微細構造形成用型5の中心軸線Zは、鉛直軸に沿って配置され、保持部3に保持されたレンズ本体1の光軸Oと整列されている。下面に成形面部5aが設けられ上面15dは、保持部3の上方に配置されている。
基体部5Aの下面には成形面部5aが形成され、基体部5Aの上面15dは、外力による変形がない場合には平面である。
また、微細構造形成用型5の上部は、後述する型移動部6の移動軸6a、6bの下端部と接続されている。
【0025】
成形面部5aは、凹レンズ面1aに反射防止部2の形状を転写するため、凹レンズ面1aと同じ曲率を有する凸面5b(図2(c)、(d)の二点鎖線参照)に、反射防止部2の凹凸形状を反転させた凹凸形状が形成されている。
本実施形態では、成形面部5aの形状は、凸面5bに、突起2aの形状を反転させた円錐状の穴部5eが多数形成された形状を有する。各穴部5eの中心軸は、各穴部5eが設けられた位置における凸面5bの法線Pの方向に一致されている。
微細構造形成用型5の材質は、例えば、ゴムやエラストマーなどの弾性係数が小さく変形が容易な弾性体からなる。このため、微細構造形成用型5の一部に外力を受けると、外力により発生する応力に応じて、微細構造形成用型5が変形し、外力の方向によっては、成形面部5aが設けられた凸面5bも変形することになる。
本実施形態では、微細構造形成用型5の材質は、一例として、シリコン混和物からなるゴムを採用している。
【0026】
型移動部6は、微細構造形成用型5の上方において鉛直軸に平行に配置され、下端部がそれぞれ上面5dに接続された移動軸6a、6bと、移動軸6a、6bの上端部を保持し、鉛直軸に沿ってそれぞれ独立に進退させる軸移動機構6cとを備える。
【0027】
移動軸6aは、図2(b)に示すように、微細構造形成用型5の中心軸線Zと同軸に配置されている。このため、移動軸6aを鉛直軸に沿って進退させることにより、微細構造形成用型5の上面5dの中心部を、鉛直軸に沿って、引き上げたり、押し下げたりすることができる。
【0028】
移動軸6bは、微細構造形成用型5の中心軸線Zと微細構造形成用型5の円筒状の外周面5cとの間において、中心軸線Zを中心とする1つの円C1を周方向に等分する位置に配置されている。このため、各移動軸6bを鉛直軸に沿って同期して進退させることにより、円C1の円周上を、鉛直軸に沿って、引き上げたり、押し下げたりすることができる。
ここで、移動軸6bを配置する円C1の半径R1は、移動軸6aの位置を固定して移動軸6bを徐々に引き上げたときに、凸面5bが、少なくとも反射防止部2の突起2aの高さ分だけ変形する間、各所で変形前の凸面5bの形状の法線Pの方向に略沿って変形するように設定する。このような円C1の半径R1は、凸面5bの曲率、微細構造形成用型5の全体形状、微細構造形成用型5の材質の縦弾性係数、横弾性係数等の条件により異なるため、予め実験やシミュレーションなどによって設定する。
例えば、微細構造形成用型5が図2(a)に示すような円板に近い偏平な形状の場合には、外周面5cの半径をR0とすると、少なくとも、R0/2≦R1<R0の関係を満たすことが好ましい。
また、移動軸6bの本数は、微細構造形成用型5の剛性に応じて適宜の本数を設定することができる。図2(b)には、一例として、8本を図示している。
移動軸6bの本数は、多いほど凸面5bの周方向の変形をより均等化することができる。
【0029】
軸移動機構6cは、図示略の支持部材によって保持部3の上方に固定されている。
また、軸移動機構6cは、移動軸6a、6bの進退量を制御する型移動制御部7と電気的に接続されている。
軸移動機構6cの具体的な構成としては、モータ等の駆動機構を用いたアクチュエータや、エアシリンダなどの流体駆動によるアクチュエータなどの構成を採用することができる。
【0030】
型移動制御部7は、軸移動機構6cを制御する制御モードとして、平行移動モードと、脱型モードとを備える。
平行移動モードは、微細構造形成用型5の凸面5bの曲率が凹レンズ面1aの曲率と略一致する形状となるように、移動軸6a、6bの相対位置を調整して、微細構造形成用型5の基準状態を形成し、この基準状態を保って、移動軸6a、6bの移動量を同期させる制御モードである。これにより、微細構造形成用型5は、鉛直軸に沿って平行移動される。
ここで、「略一致する」とは、凸面5bと凹レンズ面1aとの各曲率が一致する場合と、成形に支障のない範囲程度に異なる場合とを含む。成形に支障のない範囲とは、凹レンズ面1aに凸面5bを押圧した際に、凹レンズ面1aと成形面部5aとの間に、反射防止部2の許容形状誤差範囲内の成形空間が形成されることを意味する。すなわち、微細構造形成用型5は変形容易なゴム等の弾性体で形成されるため、凸面5bの曲率が凹レンズ面1aと曲率が異なっていても、凹レンズ面1aに押圧した際に凸面5bが変形して凹レンズ面1aに倣えば、成形には支障がない。
【0031】
脱型モードは、移動軸6a、6bをそれぞれ異なる移動量で独立に駆動する制御モードであり、具体的には、移動軸6aの位置を固定し各移動軸6bを同期して鉛直軸上方に徐々に引き上げる動作と、移動軸6aの位置の固定を解除して移動軸6bの移動に追従して移動軸6aを引き上げる動作とを行う制御モードである。
本モードでは、移動軸6bが強制変位を与えるため、上面5dが凹面状に変形され、これにより基体部5Aの全体が基準状態から変形する。この結果、基体部5Aの下部に応力分布が生じて凸面5bが変形し、凸面5bの平均的な曲率が増大する。
【0032】
次に、微細構造形成用型5の製造方法の一例について説明する。
図3(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型の製造工程を示す模式的な工程説明図である。図3(e)は、図3(d)におけるG部詳細図である。図4(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型の図3(d)に続く製造工程を示す模式的な工程説明図である。
【0033】
微細構造形成用型5を製造するには、図3(a)に示すように、例えばニッケル等の金属からなる板部材の一方の板面に凹レンズ面1aと同形状の凹面からなる基材表面11aが形成されたマスター基材11を作製する。
次に、図3(b)に示すように、マスター基材11の基材表面11a上に、微細構造体12を形成する。
微細構造体12の形状は、反射防止部2と同じ形状である。
微細構造体12は、例えば、基材表面11a上にレジストを塗布し、例えば電子線描画装置によって形状パターンを露光した後、露光部を除去することにより形成することができる。
【0034】
次に、図3(c)に示すように、ドライエッチング装置13から基材表面11aの法線方向に沿ってエッチングビーム13aを照射し、微細構造体12が除去されるまで異方性エッチングを行う。このとき、マスター基材11は図示略の揺動装置に保持し、基材表面11aの曲率中心を中心として揺動させる。
これにより、図3(d)、(e)に示すように、基材表面11aの各位置において、微細構造体12の外形に沿って、基材表面11aの法線方向にエッチングが進行し、微細構造体12の形状がマスター基材11に転写される。これによりマスター基材11の微細構造部11bが形成される。
以下、微細構造部11bが形成されたマスター基材11をマスター型11Aと称する。
【0035】
次に、図4(a)に示すように、マスター型11Aと、微細構造形成用型5の外周面15cの形状を転写する型枠14とを用いて、微細構造形成用型5を成形する金型15を組み立てる。
次に、金型15内に、移動軸6a、6bを配置して、成形材料16を充填し、インサート成形を行う。移動軸6a、6bの先端部には、成形材料16との密着性を向上し、成形後に抜け止めされる適宜のアンカー形状を形成しておくことが好ましい。
成形材料16が硬化したら、金型15を分解して、移動軸6a、6bが上部に接続された微細構造形成用型5を脱型する。
このようにして、微細構造形成用型5を製造することができる。
【0036】
なお、上記の微細構造形成用型5の製造方法は、一例であって、適宜変形することができる。
例えば、マスター型11Aを形成する場合に、ドライエッチングの代わりに、アルミ陽極酸化等の選択的なエッチングを採用してもよい。
また、例えば、本例は、微細構造形成用型5は一体成形により製造する例になっている。微細構造形成用型5を一体成形すると、微細構造形成用型5の内部の材質がインサート部分を除いて均一であるため、外力が作用した際の各所の変形の異方性が発生しにくくなる。また、各所の変形が精度よく予測できる。
ただし、凸面5bの変形形状が許容範囲内に制御できる場合には、微細構造形成用型5を複数の材質で構成したり、複数の部品を貼り合わせたりして、形成することも可能である。
また、例えば、上記のインサート成形では、移動軸6a、6bに代えて、移動軸6a、6bの先端部と着脱可能に接続可能な接続金具をインサートすることも可能である。この場合、接続金具を介して、微細構造形成用型5を移動軸6a、6bの先端部に着脱可能に接続することができる。移動軸6a、6bと接続金具との接続方法としては、例えば、螺合などを採用することができる。
【0037】
次に、本実施形態の表面加工装置10を用いた本実施形態の光学素子の製造方法について説明する。
図5(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法の模式的な工程説明図である。図6(a)は、本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法の図5(b)に続く模式的な工程説明図である。図6(b)、(c)は、図6(a)におけるH部詳細図、およびJ部詳細図である。図7(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法の図6(a)に続く模式的な工程説明図である。
【0038】
本実施形態の光学素子の製造方法は、本体加工工程、成形工程、および脱型工程を備える。
本体加工工程は、光学面を有する光学素子本体を形成する工程である。
本工程では、例えば、切削・研磨、ガラスモールド成形、樹脂成形等の適宜の加工を行って、凹レンズ面1aを有するレンズ本体1を形成する。
【0039】
次に、成形工程を行う。本工程は、光学面に成形用樹脂を塗布し、微細構造を転写する成形面が、変形可能な基体の表面に形成された微細構造形成用型を、光学面に押圧し、成形用樹脂を硬化させる工程である。
【0040】
本工程では、まず、図5(a)に示すように、レンズ本体1を、凹レンズ面1aが微細構造形成用型5の方に向いた姿勢で、表面加工装置10の保持部3に保持させる。
このとき、微細構造形成用型5は、保持部3の上方の退避位置に退避させておく。なお、本工程では、型移動制御部7は、軸移動機構6cを平行移動モードで制御する。
次に、凹レンズ面1a上に、UV硬化樹脂20(成形用樹脂)を塗布する。UV硬化樹脂20の種類は、本実施形態では、一例として、PAK−02(商品名)を採用している。
UV硬化樹脂20は、図5(a)に示すように、中心部に塊状に塗布して、後述するように微細構造形成用型5を押圧する際に、外周部に塗り拡げられるようにしてもよいし、例えば、スピンコート等によって、予め凹レンズ面1aの全体にわたって層状に塗布しておいてもよい。
【0041】
次に、型移動制御部7は軸移動機構6cに制御信号を送出して、図5(b)に示すように、移動軸6a、6bを鉛直下方に移動し、微細構造形成用型5を下降させる。
このとき、軸移動機構6cは平行移動モードで制御されるため、成形面部5aの凸面5b(図5(b)には図示略)は、凹レンズ面1aの曲率に略一致する曲率を保って下降する。
このため、微細構造形成用型5の凸面5bは、UV硬化樹脂20を挟んで凹レンズ面1aに押圧され、凸面5bが凹レンズ面1aに密着する。
凸面5bと凹レンズ面1aとが密着するまで、微細構造形成用型5が下降されたら、型移動制御部7は、軸移動機構6cによる微細構造形成用型5の下降を停止する。
これにより、UV硬化樹脂20は、成形面部5aと凹レンズ面1aとの間に形成される成形空間に充填される。
【0042】
このため、型移動部6、型移動制御部7は、UV硬化樹脂20が塗布された凹レンズ面1aに対して微細構造形成用型5を相対移動して、凹レンズ面1aをUV硬化樹脂20に密着させる型押圧部を構成している。
また、型移動部6の移動軸6aは、微細構造形成用型5の中心部を押さえる中心押圧部材を構成している。
【0043】
次に、UV光源4を点灯する。これにより、孔部3aからレンズ本体1に紫外光が入射し、レンズ本体1の内部から凹レンズ面1aに紫外光が照射される。
この結果、凹レンズ面1aと成形面部5aとで挟まれた成形空間に充填されたUV硬化樹脂20が光硬化し、凹レンズ面1a上に反射防止部2が形成される。
このため、UV光源4は、凹レンズ面1aと微細構造形成用型5の成形面部5aとの間に挟まれたUV硬化樹脂20を硬化させる樹脂硬化部を構成している。
UV硬化樹脂20の硬化が終了したら、UV光源4を消灯する。
以上で成形工程が終了する。
【0044】
次に、脱型工程を行う。本工程は、微細構造形成用型に対して成形面の面頂に関する力のモーメントを作用させて、基体を変形させることにより、微細構造形成用型をその外周側から凹凸形状の延びる方向に漸次離間させて、微細構造形成用型の脱型を行う工程である。
【0045】
本工程では、型移動制御部7は、軸移動機構6cを脱型モードで制御する。
すなわち、図6(a)に示すように、移動軸6aの位置を固定し、各移動軸6bを徐々に鉛直上方に移動する。これにより、移動軸6bとともに、移動軸6bに接続された基体部5Aの上部が引き上げられる。このため、基体部5Aの上部には、移動軸6bの各接続位置Qにおいて、鉛直上方に向かう外力FQが作用し、基体部5Aの上部が引き上げられる。一方、移動軸6aは移動しないため、接続された中心軸線Z上の接続位置Sの位置が固定される。この結果、移動軸6bの移動に伴って、基体部5Aの上部は徐々に凹面状に変形していく。
【0046】
これに対して、基体部5Aの下面である成形面部5aは、図6(a)、(b)に示すように、中心軸線Z上の面頂Tが凹レンズ面1aに押圧されて移動が拘束されているから、基体部5Aには、外力FQにより面頂T回りの力のモーメントが作用している。
このため、基体部5Aの下部に発生する応力は、図6(c)に示すように、外力FQに由来する鉛直上向きの応力σQと、成形面部5aと反射防止部2との密着による拘束に由来する凸面5bに沿う応力σTの合応力σとなる。
したがって、外力FQの大きさを適宜に設定することにより、成形面部5aの外周側で合応力σの方向を凹レンズ面1aの法線Nの方向に略一致させることができる。
【0047】
このようにして、移動軸6bを引き上げていくと、外周側の成形面部5aが、凹レンズ面1aの略法線Nの方向に引っ張られていく。このため、反射防止部2の突起2aと成形面部5aの穴部5eとの間に擦れが発生しにくいため、大きな離型抵抗を受けることなく、成形面部5aと反射防止部2とが成形面部5aの外周側から徐々に離間していく。このため、突起2aが損傷されることなく、微細構造形成用型5から脱型されていく。
【0048】
このように、本実施形態では、基体部5Aの変形により、成形面部5aが、中心軸線Zに向かう上方向に剥がされることで、脱型が進行していく。その際、移動軸6bの移動に伴って、成形面部5aの凸面5bの曲率が大きくなる。
このとき、凹レンズ面1aの有効径、基体部5Aの材料定数、移動軸6aの移動速度などの条件によって、曲率の変化の態様はやや異なる。
例えば、基体部5Aの材質が硬いか、または成形面部5aと反射防止部2との密着力が小さい場合には、凸面5bの変形が各所で一斉に進み、凸面5bの曲率が全体的に変化する。この場合、成形面部5aの離間は、外周側でも内周側でも、略同時に起こる。
一方、基体部5Aの材質が柔らかいか、または成形面部5aと反射防止部2との密着力が大きい場合には、凸面5bの変形が外周側から内周側に徐々に伝搬するため、凸面5bの曲率が外周側から漸次増大し、中心部では成形面部5aと反射防止部2とが密着した状態が保たれたままで、外周側から徐々に離間が進む。この場合には、凸面5bの曲率は、部分的に変化している。
どちらの態様で脱型していくかは、凹レンズ面1aの形状や、反射防止部2の離型性などに応じて適宜選択することができる。
【0049】
型移動部6、型移動制御部7は、微細構造形成用型5に対して凸面5bの面頂Tに関する力のモーメントを作用させて、基体部5Aをその外周側から突起2aの延びる方向に成形面部5aがUV硬化樹脂20から漸次離間するように変形させる型変形部を構成している。
【0050】
このようにして、図7(a)に示すように、成形面部5aが中心軸線Zの近傍まで脱型が進行したら、型移動制御部7は、移動軸6aの位置の固定を解除して、移動軸6bに追従して移動軸6aを引き上げる。これにより、成形面部5aの中心軸線Zの近傍の成形面部5aが、凹レンズ面1aの光軸Oの近傍の反射防止部2から離間する。
このため、型移動部6、型移動制御部7は、成形面部5aの中心部まで離間が進んだ際に、微細構造形成用型5と保持部3とを相対移動させて、光軸Oの方向に離間させる脱型移動部を構成している。
以上で、反射防止部2の脱型が終了する。
成形面部5aの全面が、反射防止部2から離間したら、脱型工程が終了する。
このようにして、レンズ1Aが製造される。
【0051】
次に、型移動制御部7は、図7(b)に示すように、脱型モードを解除し、平行移動モードに移行する。すなわち、移動軸6a、6bの位置を基準状態に戻し、微細構造形成用型5を平行移動して退避位置に移動して、待機する。
そして、レンズ1Aを保持部3から取り外す。他のレンズ本体1に反射防止部2を形成する場合には、上記の成形工程、脱型工程を同様に繰り返す。
【0052】
本実施形態の光学素子の製造方法によれば、変形可能な基体部5Aの表面に微細構造である反射防止部2の形状を転写する成形面部5aが形成された微細構造形成用型5を用いて反射防止部2の成形を行い、基体部5Aを変形させることにより、微細構造形成用型5をその外周側から反射防止部2の突起2aの延びる方向に漸次離間させて脱型を行うことができる。
このため、レンズ1Aの曲率を有する凹レンズ面1aに光軸Oと交差する方向に延びる突起2aが集合した反射防止部2を脱型する際に、微細構造形成用型5を光軸O方向に抜いても、離型抵抗が少ないため容易に脱型できる。また、反射防止部2の突起2aを損傷することなく脱型できる。また、突起2aの形状精度を悪化させることもなく脱型できる。
また、凹レンズ面1aの法線Nの方向に延びる突起2aの集合体からなる反射防止部2を形成できるため、多層膜を用いたり、光軸方向に延びる突起のみからなる反射防止構造を用いたりする場合に比べて、レンズ1Aの凹レンズ面1aの反射防止特性を向上することができる。
【0053】
また、本実施形態の表面加工装置10によれば、微細構造形成用型5の基体部5Aおよび成形面部5aが、弾性係数が低く変形容易な弾性体から形成されるため、成形面部5aの凸面5bの曲率が、凹レンズ面1aの曲率と異なっていても、成形面部5aをレンズ1Aに押圧することで、基体部5Aおよび成形面部5aが変形して、凹レンズ面1aに密着することができるため、例えば、成形面部5aや凹レンズ面1aの形状に製作誤差がある場合でも、安定した形状の反射防止部2を形成することができる。
また、表面加工装置10は、型移動部6によって、基体部5Aおよび成形面部5aを変形させることができるため、移動軸6a、6bの基準状態の位置関係を調整することによって、成形面部5aの凸面5bの形状を修正することができる。このため、微細構造形成用型5の製造コストを低減するとともに、反射防止部2の成形精度を向上することができる。
【0054】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態の光学素子の表面加工装置について説明する。
図8は、本発明の第2の実施形態の光学素子の表面加工装置の主要部の構成を示す模式的な断面図である。
【0055】
本実施形態の表面加工装置10Aは、図8に示すように、上記第1の実施形態の表面加工装置10の型移動部6に代えて、型移動部26(型押圧部、型変形部、脱型移動部)を備える。
型移動部26は、上記第1の実施形態の型移動部6の移動軸6b、軸移動機構6cに代えて、移動軸26b、軸移動機構26cを備える。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0056】
移動軸26bは、上記第1の実施形態における移動軸6bの上端部を、中心軸線Zに向かう斜め上方向に延ばしたものである。
軸移動機構26cは、上記第1の実施形態の軸移動機構6cと同様に移動軸6aを進退させるとともに、各移動軸26bをそれぞれの軸方向に進退移動させるものである。軸移動機構26cの構成は、移動方向を除いて、上記第1の実施形態の軸移動機構6cと同様の構成を採用することができる。
【0057】
このような構成により、表面加工装置10Aでは、移動軸26bを斜め上方向に移動することで、接続位置Qにおいて外力FQ’を作用させ、面頂T回りの力のモーメントを発生させることができる。このため、微細構造形成用型5の上部を中心軸線Zに向かう斜め上方向に引き上げることができるようになっている。
移動軸26bの傾斜方向は、移動軸26bの中心軸の延長線が、成形面部5aの変形前の凸面5bの法線と略一致する(一致する場合を含む)向きであることが好ましい。
【0058】
本実施形態の表面加工装置10Aによれば、上記第1の実施形態と同様にして、レンズ1Aを製造することができる。
本実施形態では、移動軸26cが、中心軸線Zに向かう斜め上方向に引き上げられるため、成形面部5aを凸面5bの変形前の法線方向に沿って移動する制御がより容易となる。
【0059】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態の光学素子の表面加工装置について説明する。
図9は、本発明の第3の実施形態の光学素子の表面加工装置の主要部の構成を示す模式的な断面図である。
【0060】
本実施形態の表面加工装置10Bは、図9に示すように、上記第1の実施形態の表面加工装置10の型移動部6に代えて、型移動部36(型押圧部、型変形部、脱型移動部)を備える。
型移動部36は、上記第1の実施形態の型移動部6の移動軸6b、軸移動機構6cに代えて、移動軸36b、軸移動機構36cを備える。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0061】
移動軸36bは、微細構造形成用型5の外周面5cの周方向を等分する複数の位置に設けられ、微細構造形成用型5の中心軸線Zを通る水平線上を進退するものである。
各移動軸36bは、外周面5cの上端側に近い位置において、同一の水平面に整列して配置されている。
軸移動機構36cは、上記第1の実施形態の軸移動機構6cと同様に移動軸6aを進退させるとともに、各移動軸36bをそれぞれの軸方向の進退移動させるものである。軸移動機構36cの構成は、移動方向を除いて、上記第1の実施形態の軸移動機構6cと同様の構成を採用することができる。
【0062】
このような構成により、表面加工装置10Bでは、移動軸36bを中心軸線Zに向けて移動することで、外周面5cにおける接続位置Uにおいて外力FUを作用させ、面頂T回りの力のモーメントを発生させることができる。このため、微細構造形成用型5の外周側の側面を中心側に向けて圧縮することで、下方側の基体部5Aを、中心軸線Zに向かう斜め上方向に引き上げることができるようになっている。
本実施形態は、微細構造形成用型5の材質がポアソン比の大きいゴム材料の場合に特に有効である。
なお、移動軸36bの移動方向は、外周面5cを中心側に押圧できれば、水平方向には限定されない。例えば、中心に向かう斜め上方向に移動する構成とすれば、ポアソン比が特に大きい材質でなくても、下方側の基体部5Aを、中心軸線Zに向かう斜め上方向に引き上げることができる。
【0063】
本実施形態の表面加工装置10Bによれば、上記第1の実施形態と同様にして、レンズ1Aを製造することができる。
本実施形態では、例えば、レンズ1Aのレンズ径が小さく、微細構造形成用型5の上面5d狭い場合にも容易に適用することができるため、特に小径の光学素子の製造に好適である。
【0064】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態の光学素子の表面加工装置について説明する。
図10(a)、(b)は、本発明の第4の実施形態の光学素子の表面加工装置の主要部の構成を示す模式的な断面図、および模式的な動作説明図である。
【0065】
本実施形態の表面加工装置10Cは、図10(a)に示すように、上記第1の実施形態の表面加工装置10の微細構造形成用型5、型移動部6に代えて、微細構造形成用型45、型移動部46(型押圧部、脱型移動部)を備え、流体供給部47(型変形部)を追加したものである。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0066】
微細構造形成用型45は、上記第1の実施形態の微細構造形成用型5から、移動軸6bを削除し、基体部5Aの内部に環状空洞部45aを追加したものである。
環状空洞部45aは、円状または楕円状の断面を有する円環状の空間であり、中心軸線Zを中心として形成されている。環状空洞部45aの上部には、金属パイプなどからなる流体供給管47aが貫通され、流体供給管47aを通して、外部との間で流体の流入および排出が可能になっている。
【0067】
型移動部46は、上記第1の実施形態の型移動部6の移動軸6bを削除し、軸移動機構6cに代えて、軸移動機構46cを備える。
軸移動機構46cは、上記第1の実施形態の軸移動機構6cから、移動軸6bを進退させる機能を削除したものである。
【0068】
流体供給部47は、流体供給管47aに流体を送出または吸引するものである。流体供給部47の詳細構成の図示は省略するが、例えば、流体を貯留する流体貯留部と、流体を流体供給管47aに対して送出または吸引するポンプ部と、ポンプ部の動作を制御する圧力制御部とを備える。
流体供給部47が供給する流体としては、例えば空気などの気体でもよいし、例えば水などの液体でもよい。本実施形態では、一例として、流体供給部47は空気を供給し、空気圧を制御することで、環状空洞部45aの容積を制御できるようになっている。
【0069】
このような構成により、表面加工装置10Cでは、図10(a)に示すように、環状空洞部45a内を一定の空気圧に保つことにより、成形面部5aを凹レンズ面1aの形状に沿わせた形状とし、上記第1の実施形態と同様にして、成形工程を行うことができる。
また、脱型工程を行うには、図10(b)に示すように、環状空洞部45a内の空気を流体供給部47によって吸引することで、環状空洞部45aの容積を収縮させる。
これにより、環状空洞部45aの内周面において、成形面部5aと対向する部分Vに対して、中心軸線Zに向かう斜め上方向に引き上げる外力FVが作用したことになる。
外力FVは、面頂T回りの力のモーメントを発生させるため、上記第1の実施形態と同様に、部分Vよりも下方側の基体部5Aを、中心軸線Zに向かう斜め上方向に引き上げることができる
このため、上記第1の実施形態と同様に脱型工程を行うことができる。
【0070】
本実施形態では、型移動部46が型押圧部、脱型移動部を構成し、流体供給部47が型変形部を構成している。
【0071】
本実施形態の表面加工装置10Cによれば、流体供給部47によって、微細構造形成用型45の内部を変形させるため、成形面部5aに近い位置で、基体部5Aの変形を制御することができる。
本実施形態では、環状空洞部47は、1箇所に設けた場合の例で説明したが、環状空洞部47をさらに同心円状に複数箇所に配置することも可能である。
この場合、外周側から中心部に向かって脱型時の成形面部5aの変形を、複数の環状空洞部47の変形を順次切り換えて制御することにより、細かく徐変することができるため、反射防止部2に対する脱型の負荷をより低減することができる。
【0072】
なお、上記の各実施形態の説明では、光学素子がレンズの場合の例で説明したが、本発明の光学素子の製造方法によって製造される光学素子は、レンズには限定されない。例えば、ミラー、プリズム、フィルタなどの光学素子でもよい。
【0073】
また、上記の各実施形態の説明では、一例として、光学素子の光学面が凹球面の場合の例で説明したが、凹球面には限定されず、非球面でもよい。また、凸面でもよい。
光学面が凸面の場合、上記の説明と異なる点は、当業者であれば容易に理解される。例えば、光学面が凹面の場合、微細構造形成用型5の成形面部5aが凹面に形成されることになる。したがって、凹面の面頂に関する力のモーメントを作用させて、成形面部5aの凹面の曲率が大きくなるように基体部5Aを変形させることで、反射防止部2の突起2aの延びる方向に離間させることができる。
【0074】
また、上記の各実施形態の説明では、微細構造が、円錐状の突起2aによる反射防止部2である場合の例で説明したが、反射防止構造を形成するには、レンズ表面の近傍で屈折率が変化する形状であればよく、円錐状に限らず、三角錐状、四角錐状等の錘体を好適に採用することができる。
【0075】
また、上記の各実施形態の説明では、微細構造が反射防止構造の場合の例で説明したが、微細構造は、ナノインプリント技術によって形成される凹凸形状であれば、錘体には限定されず、例えば、円柱、円柱穴、錘体の反転した穴形状、釣鐘形状等の凹凸形状を採用することができる。
このため、微細構造は、反射防止構造には限定されない
【0076】
また、上記の各実施形態の説明では、光学素子の光軸を鉛直軸に沿って配置し、微細構造形成用型を鉛直軸に沿って移動させるようにした場合の例で説明したが、このような位置関係は一例であって、相対的な位置関係が同じであれば、異なる向きに各部材を配置してもよい。
【0077】
また、上記の第1、第2の実施形態の説明では、移動軸6b、26bを、1つの円C1上に配置した場合の例で説明したが、同心円をなす複数の円上に設けた構成とすることができる。この場合、外周側から中心部に向かって、各円上の移動軸を徐々に移動させていくことにより、成形面部5aの変形量をより細かく制御することができるため、反射防止部2に対する脱型の負荷をより低減することができる。
【0078】
また、上記各実施形態の説明では、光学素子を固定して微細構造形成用型を移動させる場合の例で説明したが、移動軸6aを固定軸に置き換え、保持部3を微細構造形成用型5に対して進退する移動機構を設けるようにして、型押圧部、脱型移動部を構成してもよい。
また、微細構造形成用型5および保持部3をそれぞれ移動可能に支持し、これら両方が、型押圧部、脱型移動部を構成するようにしてもよい。
【0079】
また、上記の各実施形態の説明では、成形面部5aが、基体部5Aの表面に基体部と同材質で形成された場合の例で説明したが、基体は、材質が同一または異なる複数の弾性体を貼り合わせや成形によって一体化した構成としてもよい。
【0080】
また、上記の実施形態で説明したすべての構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせたり、削除したりして実施することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 レンズ本体(光学素子本体)
1A レンズ(光学素子)
1a 凹レンズ面(曲率を有する光学面)
2 反射防止部(微細構造、反射防止構造)
2a 突起(錘体)
3 保持部
4 UV光源
5、45 微細構造形成用型
5A 基体部(基体)
5a 成形面部(成形面)
5e 穴部
6、26、36、46 型移動部
6a 移動軸(中心押圧部材)
7 型移動制御部
10、10A、10B、10C 表面加工装置
20 UV硬化樹脂(成形用樹脂)
N、P 法線
O 光軸
T 面頂
Z 中心軸線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲率を有する光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を備える光学素子の製造方法であって、
前記光学面を有する光学素子本体を形成する本体加工工程と、
前記光学面に成形用樹脂を塗布し、前記微細構造を転写する成形面が、変形可能な基体の表面に形成された微細構造形成用型を、前記光学面に押圧し、前記成形用樹脂を硬化させる成形工程と、
前記微細構造形成用型に対して前記成形面の面頂に関する力のモーメントを作用させて、前記基体を変形させることにより、前記微細構造形成用型をその外周側から前記凹凸形状の延びる方向に漸次離間させて、前記微細構造形成用型の脱型を行う脱型工程と、を備える
ことを特徴とする、光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記脱型工程では、少なくとも前記外周側から前記微細構造形成用型を脱型する際に、前記微細構造形成用型の中心部を押さえている
ことを特徴とする請求項1に記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記脱型工程では、前記力のモーメントを作用させることにより、前記成形面が形成された前記基体の表面の部分的な曲率を、前記微細構造形成用型の外周側から変化させて、前記凹凸形状の延びる方向に漸次離間させる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記微細構造は、錘体が集合した反射防止構造である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
曲率を有する光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を形成するための光学素子の表面加工装置であって、
前記光学面を有し、該光学面に成形用樹脂が塗布された光学素子本体を保持する保持部と、
前記微細構造を転写する成形面が、変形可能な基体の表面に形成された微細構造形成用型と、
前記成形用樹脂が塗布された前記光学面に対して前記微細構造形成用型を相対移動して、前記成形面を前記成形用樹脂に密着させる型押圧部と、
前記光学面と前記微細構造形成用型の前記成形面との間に挟まれた前記成形用樹脂を硬化させる樹脂硬化部と、
前記微細構造形成用型に対して前記成形面の面頂に関する力のモーメントを作用させて、前記微細構造形成用型をその外周側から前記凹凸形状の延びる方向に前記成形面が前記成形用樹脂から漸次離間するように、前記基体を変形させるが型変形部と、
該型変形部により、前記成形面の中心部まで離間が進んだ際に、前記微細構造形成用型と前記保持部とを相対移動させて、前記光軸方向に離間させる脱型移動部と、を備える
ことを特徴とする、光学素子の表面加工装置。
【請求項6】
前記型変形部は、
前記微細構造形成用型の中心部を押さえる中心押圧部材と、
前記微細構造形成用型の外周側を前記光学面の上方に移動させる外周側移動部材と、を備える
ことを特徴とする請求項5に記載の光学素子の表面加工装置。
【請求項7】
前記微細構造は、錘体が集合した反射防止構造である
ことを特徴とする請求項5または6に記載の光学素子の表面加工装置。
【請求項1】
曲率を有する光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を備える光学素子の製造方法であって、
前記光学面を有する光学素子本体を形成する本体加工工程と、
前記光学面に成形用樹脂を塗布し、前記微細構造を転写する成形面が、変形可能な基体の表面に形成された微細構造形成用型を、前記光学面に押圧し、前記成形用樹脂を硬化させる成形工程と、
前記微細構造形成用型に対して前記成形面の面頂に関する力のモーメントを作用させて、前記基体を変形させることにより、前記微細構造形成用型をその外周側から前記凹凸形状の延びる方向に漸次離間させて、前記微細構造形成用型の脱型を行う脱型工程と、を備える
ことを特徴とする、光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記脱型工程では、少なくとも前記外周側から前記微細構造形成用型を脱型する際に、前記微細構造形成用型の中心部を押さえている
ことを特徴とする請求項1に記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記脱型工程では、前記力のモーメントを作用させることにより、前記成形面が形成された前記基体の表面の部分的な曲率を、前記微細構造形成用型の外周側から変化させて、前記凹凸形状の延びる方向に漸次離間させる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記微細構造は、錘体が集合した反射防止構造である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
曲率を有する光学面に光軸と交差する方向に延びる凹凸形状の微細構造を形成するための光学素子の表面加工装置であって、
前記光学面を有し、該光学面に成形用樹脂が塗布された光学素子本体を保持する保持部と、
前記微細構造を転写する成形面が、変形可能な基体の表面に形成された微細構造形成用型と、
前記成形用樹脂が塗布された前記光学面に対して前記微細構造形成用型を相対移動して、前記成形面を前記成形用樹脂に密着させる型押圧部と、
前記光学面と前記微細構造形成用型の前記成形面との間に挟まれた前記成形用樹脂を硬化させる樹脂硬化部と、
前記微細構造形成用型に対して前記成形面の面頂に関する力のモーメントを作用させて、前記微細構造形成用型をその外周側から前記凹凸形状の延びる方向に前記成形面が前記成形用樹脂から漸次離間するように、前記基体を変形させるが型変形部と、
該型変形部により、前記成形面の中心部まで離間が進んだ際に、前記微細構造形成用型と前記保持部とを相対移動させて、前記光軸方向に離間させる脱型移動部と、を備える
ことを特徴とする、光学素子の表面加工装置。
【請求項6】
前記型変形部は、
前記微細構造形成用型の中心部を押さえる中心押圧部材と、
前記微細構造形成用型の外周側を前記光学面の上方に移動させる外周側移動部材と、を備える
ことを特徴とする請求項5に記載の光学素子の表面加工装置。
【請求項7】
前記微細構造は、錘体が集合した反射防止構造である
ことを特徴とする請求項5または6に記載の光学素子の表面加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−68839(P2013−68839A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208011(P2011−208011)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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