説明

光学素子移動装置及びそれを用いた光ピックアップ装置

【課題】バネを用いた簡素な構成で送り軸に接触させる光学素子移動装置およびそれを備えた光ピックアップ装置を提供する
【解決手段】本発明の光学素子移動装置11は、レーザー光の光路に対して並行に配置されたネジ形状の送り軸44と、送り軸44に対して平行に配置されたがガイド軸46、48と、コリメートレンズ22を保持した状態でガイド軸46、48に沿って移動する素子保持部50と、素子保持部50に固定されて送り軸44に向かって巻回されたバネ52とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリメートレンズ等の光学素子を移動させる光学素子移動装置およびそれを用いた光ピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な光ピックアップ装置は、所定の規格のレーザー光を光ディスクの情報記録層に照射し、この情報記録層で反射した戻り光のレーザー光を受光することにより、光ディスクから情報の読出しや、書き込みを行っている。
【0003】
光ディスクの規格によって、情報記録層を被覆する被覆層の厚みに応じた球面収差が発生する。また、同じ規格の光ディスクであっても、多層の情報記録層を有する場合、読み取りや書き込みを行う情報記録層によって被覆層からの位置が変わり、発生する球面収差も異なる。
【0004】
CD/DVD対応の対物レンズでは、レンズの表面に回折輪帯を設けることで、この球面収差を補正する機能を持たせている。しかしながら、例えば、BD規格の光ディスクでは、高NAと成るため、対物レンズで発生する球面収差を補正することは困難である。
【0005】
この場合、レーザー光の光路の途中に配置されたコリメートレンズを所定量移動させることで、球面収差を補正している。この事項を、図8を参照して説明する。ここで、図8(A)および図8(B)では装置の一部を切開して示しており、この切開する部分をハッチングにて示している。
【0006】
図8(A)を参照して、従来から用いられている光学素子移動装置100を説明する。ここで、X方向はコリメートレンズを通過するレーザー光に対して平行な方向である。Y方向は、ガイド軸102、103が載置される平面上に於いてX方向と直交する方向であり、Z方向はX方向およびY方向と直交する方向である。
【0007】
この図に示す光学素子移動装置100は、コリメートレンズ104を保持する素子保持部101と、素子保持部101の+Y方向の端部で係合されたガイド軸103と、素子保持部101の−Y方向の端部で孔部に挿通されたガイド軸102と、素子保持部101を所定量移動させるネジ形状の送り軸105とを主要に備えている。
【0008】
送り軸105は周囲にネジ溝が設けられたスクリュー状の部材であり、樹脂材料から成るナット107が螺合されている。また、素子保持部101の−Y方向の端部には、送り軸105に挿通された状態で、ナット107をX方向で両側から挟む板状のナット保持部108、109が設けられている。
【0009】
上記構成で、ステッピングモータ106の駆動力を用いて送り軸105を回転させると、この回転に伴いナット107が移動する。そして、このナット107がナット保持部108、109の何れかを押圧することにより、光学保持部101はX方向に対して所定量移動する。
【0010】
送り軸105とナット107との間は、若干の遊びが存在する。従って、そのままの状態だとナット107は送り軸105に対して固定されておらずガタが発生し、この結果、光学保持部101により保持されるコリメートレンズ104の位置が固定されない恐れがある。ここでは、ガイド軸102の素子保持部101よりも−X側にバネ110を挿通して、このバネ110が素子保持部101を+X方向に押圧している。これにより、ナット保持部108がナット107を+X方向に対して押圧することに成るので、送り軸105とナット107との間の遊びが無くなり、上記したガタが抑制されてコリメートレンズ104の位置が固定される。
【0011】
しかしながら、上記した構成の光学素子移動装置100であると、ナット107を採用することにより不具合が発生することがあった。具体的には、光学保持部101の位置を、初期位置に戻すために、−X方向または+X方向の端部に突き当てると、その端部にてナット107が送り軸105のネジ溝に噛み込んでしまい、ナット107が両端部から脱出しない場合があった。更にまた、初動位置に素子保持部101を戻すためのステッピングモータ106の移動量は、素子保持部101の可動範囲内よりも若干長い距離に設定されている。従って、素子保持部101が初期位置の近傍に配置されると、素子保持部101が初期位置に移動した後で有っても、ステッピングモータ106は送り軸105に対してしばらくの間、駆動力を与え続けることに成る。このようになると、この間はナット107がナット保持部108、109に対して押し続けることに成り、ナット107が送り軸105に噛み込む力が作用する。また、図8(B)を参照すると、ナット107の上部はナット保持部111により覆われている。従って、図8(C)に示すように、ステッピングモータ106が通常動作中、ナット107がナット保持部111を叩き続けることになり、この結果騒音や振動が発生する恐れがあった。
【0012】
更にまた、ナット108を採用することにより、ナット保持部108、109やバネ110等の複数の部材が必要とされるので、組立に時間を要していた。
【0013】
上記したナットに替えてバネを用いる構造が下記特許文献1に開示されている。この文献の図7、図8等を参照すると、レンズホルダ62にねじりコイルばね80を装着し、ねじりコイルばね80の先端部付近の側面を、送りねじ63の溝に係合させている。この様な構成により、ナットを不要にしてコリメートレンズ61を移動させる機構が構成されるので、ナットに起因した問題が回避される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010−165445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記した特許文献1に記載された発明では、ねじりコイルばねの光ピックアップ装置への据付が容易でない問題があった。具体的には、上記特許文献1の図11およびその説明箇所を参照すると、ねじりコイルばね80は、一端が第2押支部72で固定された状態で、他端が送りねじ63に当接している。従って、レンズホルダ62を光ピックアップ装置に据え付ける際には、このようなねじりコイルばね80の形状を保持した状態で、光ピックアップ装置のハウジングに組み込む必要があるので、製造工程が複雑化する問題があった。
【0016】
本発明はこの様な問題点を鑑みて成されたものであり、本発明の目的は、バネを簡素な構成で送り軸に接触させる光学素子移動装置およびそれを備えた光ピックアップ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の光学素子移動装置は、レーザー光の光路に沿って配置されると共に、表面に螺旋状のネジ溝が設けられて、モータの駆動力により回転する送り軸と、前記送り軸に対して略平行に配置されたガイド軸と、光学素子が固定された状態で前記ガイド軸に挿通または係合されて、前記ガイド軸に沿って移動可能に配置された光学素子保持部と、前記光学素子保持部に固定されると共に、前記送り軸に向かって巻回軸を有するように線材を巻回して形成されて、前記線材の側面が前記送り軸の前記ネジ溝に接触するバネと、を備えることを特徴とする。
【0018】
更に、本発明の光ピックアップ装置は、レーザー光を放射する発光素子と、前記レーザー光を光ディスクの情報記録層に集光する対物レンズと、前記情報記録層で反射した戻り光の前記レーザー光を受光する受光素子と、前記光学素子としてのコリメートレンズを前記レーザー光の光路に沿って移動させる上記の光学素子移動装置と、を備えることを特徴とする。
【0019】
更にまた、本発明は、レーザー光に沿って移動する光学素子を保持する光学素子保持装置であり、前記光学素子が固定される固定部と、前記固定部と一体で形成されると共に、ガイド軸が挿通される挿通部と、前記挿通部の側面から外側に向かって突出する固定部と、前記固定部に挿入されると共に、前記挿通部の側面に対して直角な方向に巻回軸を有するように線材を巻回して形成され、少なくとも一部が前記固定部の端部よりも外側に突出して配置されたバネと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、光学素子を移動可能に保持する光学素子保持部が、バネを介して送り軸に接触しているので、背景技術で述べたナットを排除した構成が実現され、ナットが他の部位に接触することで発生していた騒音や振動が抑制される。
【0021】
更に、本発明によれば、光学素子を保持する光学素子保持部に固定されたバネの一部を送り軸のネジ溝に接触させ、このバネを、送り軸に向かって巻回軸を有するように形成している。従って、バネの他端を押圧するための部位を別途設ける必要が無いので、光学素子移動装置を容易に光ピックアップ装置に組み込むことが可能となる。
【0022】
更に本発明の光学素子移動装置は、ナットを用いていた従来のものと比較すると、ナットと接触するための部品や、ガタを無くすためのバネ等を必要としないので、部品点数が削減されることで組立工数とコストの削減が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の光学素子移動装置が組み込まれた一般的な光ピックアップ装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の光ピックアップ装置に組み込まれる一般的な光学系を示す図である。
【図3】(A)は本発明の光学素子移動装置を示す斜視図であり、(B)はガイド軸の部分を示す断面図である。
【図4】(A)は本発明の光学素子移動装置の素子保持部を示す図であり、(B)はバネがバネ固定部に組み込まれる構成を示す図である。
【図5】(A)は本発明の光学素子移動装置でバネが送り軸に接触する構造を示す図であり、(B)はその構造を詳細に示す図である。
【図6】本発明の光学素子移動装置でバネが送り軸に接触する構造を示す図である。
【図7】本発明の光学素子移動装置の素子保持部に固定されるバネに関して、他の形態を示す図である。
【図8】背景技術の光学素子移動装置を示す斜視図であり、(A)および(B)は斜視図であり、(C)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1から図7を参照して、本発明の実施の形態に係る光学素子移動装置11および光ピックアップ装置10を説明する。
【0025】
図1を参照して、光ピックアップ装置10は、一例としてCD(Compact Disc)規格、DVD(Digital Versatile Disc)規格、およびBD(Blu−ray Disc)規格の各光ディスクに対応する構成となっている。光ピックアップ装置10の概略的機能は、光ディスクの情報記録層に対して所定の規格のレーザー光を照射し、この情報記録層で反射したレーザー光を受光することで、光ディスクからの情報の読出しまたは書き込みを行うことにある。ここで、読出しまたは書き込みを行う光ディスクとしては、1層のみの情報記録層を備えたものでもよいし、2層以上の多層の情報記録層を備えたものでも良い。
【0026】
ここで、BD規格では青紫色(青色)波長帯395nm〜420nm(例えば405nmの波長)のレーザ光が用いられ、DVD規格では赤色波長帯645nm〜675nm(例えば650nmの波長)のレーザ光が用いられ、CD規格では赤外波長帯765nm〜805nm(例えば780nmの波長)のレーザ光が用いられる。
【0027】
以下の説明では、X方向はコリメートレンズ22を通過するレーザー光の光路に対して平行な方向であり、Y方向はガイド軸46、48が載置される平面上でX方向と直交する方向であり、Z方向は、X方向およびY方向と直交する方向である。また、光ピックアップ装置を構成する素子が組み込まれる凹部が配置されたハウジング12の主面を裏面と呼び、その反対面を表面と称する。
【0028】
本形態の光ピックアップ装置10では、樹脂を一体的に成形したハウジング12に各種素子を所定箇所に配置することで形成される。ここで、光ピックアップ装置に収納される素子は、電流により駆動する電子部品と、レーザー光が通過または反射する光学素子を含む。電子部品の一例は、例えば図2を参照して後述するレーザー装置38、39、PDIC36、37であり、光学素子の一例はハーフミラー30、32、AS板34、35、コリメートレンズ22等である。
【0029】
ハウジング12は、PPS(Poly Phenylene Sulfide Resin)等の樹脂材料等を射出して成形したものであり、板状の底面部15と、底面部15の外周端部を厚み方向に突出させた側壁部13とを備えている。また、+X方向の端部にはガイドシャフトが挿通されるガイド孔14が設けられ、−X方向の端部にはガイドシャフトが係合されるガイド溝16が設けられる。ここで、ハウジング12の材料としてはアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)または亜鉛(Zn)を主材料とするダイカスト合金が採用されても良い。
【0030】
不図示であるが、光ピックアップ装置10の内側の領域で底面部15からZ方向に突出する内部側壁部も設けられ、光ピックアップ装置10を構成する部品は、側壁部13または内部側壁部に固着される。
【0031】
ここでは、本形態の要旨である光学素子移動装置11を構成する部品のみが図示されている。具体的には、ガイド軸46、48、コリメートレンズ22、素子保持部50、バネ52、送り軸44およびステッピングモータ54が、ハウジング12に収納されている。更に、図2を参照して後述するような各種素子も、側壁部13により囲まれる領域に収納される。不図示であるが、底面部15の反対面には、対物レンズを保持するホルダがアクチュエータにより移動可能な状態で配置されている。
【0032】
図2を参照して、光ピックアップ装置10が備える光学素子を説明する。先ず、光ピックアップ装置10は、BD規格のレーザー光の光路である第1光学系40と、DVD規格およびCD規格のレーザー光の光路である第2光学系42を含む。尚、光ピックアップ装置10に備えられる光学系は必ずしも2つである必要はなく、1つの光学系をこれら3つの規格で共用しても良い。この場合、上記規格毎にコリメートレンズ22が最適な位置となるように調整される。
【0033】
先ず、BD規格の第1光学系40は、レーザー装置38と、回折格子31と、ハーフミラー30と、コリメートレンズ22と、立ち上げミラー20と、対物レンズ28と、AS板34と、PDIC36とを含んでいる。
【0034】
レーザー装置38は、BD規格のディスク26に照射されるレーザー光を放射する発光素子をパッケージ化したものである。ここで、レーザー装置38は、所謂CANタイプのパッケージでも良いし、リードフレーム型のパッケージでも良い。
【0035】
回折格子31は、レーザー装置38から放射されるレーザー光を0次回折光、+1次回折光及び−1次回折光に分離する機能を有する。
【0036】
ハーフミラー30は、レーザー装置38から放射されて回折格子31を経由するレーザー光を反射する一方、ディスク26により反射されたレーザー光(戻り光)を透過させる。
【0037】
コリメートレンズ22は、ハーフミラー30にて反射されたレーザー光を平行光にする。更に、コリメートレンズ22は光軸に沿っての変位を可能に設けられており、ディスク26の情報記録層を被覆する被覆層により生じる球面収差を補正する機能を備えている。コリメートレンズ22は、図3を参照して後述する光学素子移動装置11に組み込まれて移動する。
【0038】
立ち上げミラー20は、コリメートレンズ22を透過したレーザー光が入射され、入射されたレーザー光が、ディスク26の情報記録層に対して直角に進行するように反射する働きを有する。
【0039】
対物レンズ28は、立ち上げミラー24の直上に配置されており、立ち上げミラー20にて立ち上げられたレーザー光を、ディスク26の信号記録層に合焦させる働きを有する。
【0040】
AS板34は、ディスク26にて反射されて各光学素子を通過したレーザー光に対して、サーボ機構のための収差を付与する。ここで、後述するようにAS板34は必須の要素ではなく、AS板34が無い機種も存在する。
【0041】
PDIC36は、光検出器として機能する信号検出用のフォトダイオード集積回路素子であり、BD用のレーザー光を受光して情報信号成分を含む受光出力を発生すると共に、フォーカスサーボおよびトラッキングサーボに用いられるサーボ信号成分を発生する。
【0042】
上記第1光学系40の読み出し動作および書き込み動作は次のとおりである。
【0043】
先ず、レーザー装置38から放射されたレーザー光は、回折格子31を通過することで0次回折光、+1次回折光および−1次回折光に分離される。これは、PDIC36にてフォーカスサーボおよびトラッキングサーボを行うためのサーボ信号を得るためである。その後、レーザー光は、ハーフミラー30にて反射された後に、コリメートレンズ22により平行光に変換され、立ち上げミラー20で反射されることによりディスク26に対して垂直方向に進行する。そして、対物レンズ28の屈折作用や回折作用により、ディスク26の信号記録層に合焦する。
【0044】
ディスク26の信号記録層により反射されたレーザー光(戻り光)は、対物レンズ28、立ち上げミラー20、コリメートレンズ22を通過してハーフミラー30に到る。ハーフミラー30を透過したレーザー光は、AS板34で収差が付与され、PDIC36に到達する。更に、PDIC36で情報が読み出されると共に、読み出された情報に基づいてフォーカスサーボおよびトラッキングサーボが行われる。
【0045】
次に、DVD規格およびCD規格のディスクに適用される第2光学系42を説明する。第2光学系42の第1光学系40と共通する部分はその説明を割愛する。
【0046】
第2光学系42は、レーザー装置39と、回折格子33と、ハーフミラー32と、コリメートレンズ27と、立ち上げミラー24と、対物レンズ29と、PDIC37とを含んでいる。
【0047】
第2光学系42に於けるディスク26の読み出し動作および書き込み動作は次の通りである。先ず、レーザー装置39からはCD規格またはDVD規格のレーザー光が放射される。レーザー装置39から放射されたレーザー光は、回折格子33を経て、ハーフミラー32で反射される。その後、コリメートレンズ27を透過して、立ち上げミラー24でディスク26の情報記録層に対して垂直な方向に反射され、対物レンズ29によりディスク26の情報記録層に合焦される。
【0048】
ディスク26の情報記録層にて反射した戻り光であるレーザー光は、対物レンズ29を通過した後に立ち上げミラー24で反射され、コリメートレンズ27およびハーフミラー32を透過してPDIC37の受光面に照射される。PDIC37で情報が読み出されるとともに、読み出された情報に基づいてフォーカスサーボおよびトラッキングサーボが行われる。
【0049】
ここで、上記した各光学素子は全てが必須では無い。例えば、第1光学系40は、レーザー装置38、ハーフミラー30、コリメートレンズ22、対物レンズ28およびDPIC36のみで構成され手も良い。更には、PDIC36がレーザー装置38に内蔵されてもよい。この事項は第2光学系42に関しても同様であり、レーザー装置39、ハーフミラー32、PDIC37、コリメートレンズ27、立ち上げミラー24および対物レンズ29から第2光学系42が構成されても良い。
【0050】
図3から図6を参照して、コリメートレンズ22を移動する光学素子移動装置11の構成を説明する。図3は光学素子移動装置11を全体的に示す斜視図であり、図4は素子保持部50を詳細に示す図であり、図5および図6はバネ52と送り軸44との構成を示す図である。
【0051】
図3を参照して、光学素子移動装置11の構成を説明する。図3(A)は光学素子移動装置11の部分を拡大して示す斜視図であり、図3(B)は図3(A)のB−B’線に於ける断面図である。
【0052】
光学素子移動装置11は、レーザー光の光路に対して並行に配置されたネジ形状の送り軸44と、送り軸44に対して平行に配置されたがガイド軸46、48と、コリメートレンズ22を保持した状態でガイド軸46、48に沿って移動する素子保持部50と、素子保持部50に固定されて送り軸44に向かって巻回されたバネ52とを有している。
【0053】
送り軸44は、ステンレス、真鍮、快削鋼等の金属からなる棒状の部材の外周面に所定ピッチで螺旋状のネジ溝が形成されたもので、その軸方向はコリメートレンズ22を通過するレーザー光と平行となるように配置されている。送り軸44の+X方向の端部はステッピングモータ54に接続されており、−X方向の端部は回転可能な状態で保持されている。外部から供給される駆動信号に基づいてステッピングモータ54は駆動し、送り軸44はステッピングモータ54の駆動力により所定量回転する。
【0054】
ガイド軸46は、ステンレス等の金属材料から成る棒状の部材であり、その中間部は素子保持部50の孔部に挿通され、+X方向の端部はハウジング12の一部から成る収納部56に収納され、−X方向の端部は収納部58に収納されている。ガイド軸46の両端は接着剤を介して収納部56、58に固着される。
【0055】
凸状部60は、ハウジング12の底面部15を+Z方向に突出させた部位である。凸状部60は、素子保持部50よりも+X側および−X側の両方でガイド軸46の下方に設けられている。素子保持部50の挿通部50Aの+X側の端部が、+X方向側に移動して凸状部60に当たりストップしても、送り軸44に余剰パスルを与えることで、素子保持部50(コリメートレンズ22)の移動量の基準となる原点検出が行われる。同様に、素子保持部50の挿通部50Aの−X側の端部が、−X方向側に移動して凸状部60に当たりストップしても、送り軸44に余剰パルスを与えることで、素子保持部50(コリメートレンズ22)の移動量の基準となる原点検出が行われる。
【0056】
ガイド軸48は、ハウジング12の一部を軸状に成形した部位であり、素子保持部50のガイド部50Dが係合する部位である。換言すると、ガイド軸48は、ハウジング12の側壁部13の一部を、X方向に沿って連続して、−Y方向に向かって突出させた部位である。ここで、ガイド軸48は、ガイド軸46と同様にハウジング12とは別体の部材を採用することも可能であるが、ハウジング12の一部をガイド軸48として採用することで部品点数が削減される効果がある。
【0057】
上記した送り軸44、ガイド軸46,48は、Z方向から見て互いに平行となるように配置されている。
【0058】
素子保持部50は、レーザー光が入射・透過する主面がX方向に向くコリメートレンズ22を保持する役割を有し、−Y方向の端部にガイド軸46が挿通され、+Y方向の端部がガイド軸48に係合されている。これにより、素子保持部50は、X方向に沿って移動可能な状態でハウジング12に備えられる。素子保持部50の構造は図4を参照して後述する。
【0059】
バネ52は、素子保持部50の−Y方向の端部側面に備えられており、バネ52を構成する線材の端部側面が送り軸44のネジ溝に接触している。この事項は図5を参照して後述する。
【0060】
この様な構成の光学素子移動装置11がX方向に対して移動することにより球面収差が補正される。上記したように、各規格で光ピックの被覆層が異なることにより異なる球面収差が発生する。また、多層の情報記録層を備えるBD規格の光ディスクでは、情報記録層毎に異なる球面収差が発生する。この様な場合であっても、光学素子移動装置11でコリメートレンズ22を所定位置に移動することにより、この球面収差が補正され、レーザー光を情報記録層に適切に合焦させることが出来る。
【0061】
図4を参照して、素子保持部50の構成を説明する。図4(A)は素子保持部50を全体的に示す斜視図であり、図4(B)はバネ固定部50Eを抜き出して示す斜視図である。
【0062】
図4(A)を参照して、素子保持部50は、+Y方向側から、ガイド軸が係合されるガイド部50Dと、コリメートレンズ22が固定されるレンズ固定部50Cと、アーム部50Bと、ガイド軸が挿通される孔部50Hが設けられた挿通部50Aと、挿通部50Aの側面を−Y方向に突出させたバネ固定部50Eとを備えている。ここで、素子保持部50は、PPS等の樹脂材料またはアルミニウム等の金属材料を射出或いは鋳造して形成される。また、挿通部50Aとレンズ固定部50Cとをアーム部50Bを経由して接続することで、スペース的な制約があっても、コリメートレンズ22を固定するレンズ固定部50Cを、光ピックアップ装置の内部で所定の位置に配置できる。
【0063】
バネ固定部50Eは、挿通部50Aの−Y方向側の側面を、一体的に−Y方向に向かって円筒状に突起させた部位である。バネ固定部50Eは、コイル状に巻かれたバネ52が挿入され、バネ52を素子保持部50に固定する役割を有する。
【0064】
図4(B)を参照して、バネ52は、+Y方向から、直線部52B、巻回部52A、直線部52Cおよび自由端部52Dを有しており、1本の線材を曲折加工することで成形されている。バネ52の材料としては、SUSやピアノ線材等の金属材料が採用可能である。また、直線部52Bは、バネ52の+Y方向側の端部を、バネ52をY方向に見たときに中心点を通るように直線状に成形した部位である。また、自由端部52Dおよび直線部52Cも同様に、バネ52をY方向に見たときに中心点を通るように直線状に成形されている。また、直線部52Cと自由端部52Dとは、両者の下端でU字状に連続している。
【0065】
バネ固定部50Eは、略円筒形状の部位であり、中心部分からバネ固定部50Eを二分するスリット50Gが設けられている。また、バネ固定部50Eの外周部分で−Y方向の端部の両端を+X方向および−X方向に突出させて係止部50Fが形成されている。バネ固定部50Eの直径は、バネ52の巻回部52Aの内径よりも若干小さくなるように設定される。
【0066】
この様な構成のバネ固定部50Eを、バネ52の巻回部に挿入すると、バネ52の巻回部52Aの−Y方向の端部に配置された線材が2箇所の係止部50Fに係止され、バネ52がバネ固定部50Eから抜けることが防止される。また、バネ52の直線部52B、52Cは、バネ固定部50Eのスリット50Gに収納され、これによりバネ52が回転方向に固定されるので、自由端部52DはZ方向に対して平行な状態が保持される。また、バネ52の自由端部52Dは、スリット50Gに収納されず、バネ固定部50Eの−Y側の端部よりも−Y方向側に突出して配置される。
【0067】
図5を参照して、上記したバネ52が送り軸44に接触する構成を説明する。図5(A)はバネ52が送り軸44側に付勢される状態を示す図であり、図5(B)はバネの自由端部52Dが送り軸44に接触する構成を示す図である。
【0068】
図5(A)を参照して、送り軸44および素子保持部50を光ピックアップ装置に組み込むと、バネ52はY方向に若干圧縮された状態で、素子保持部50と送り軸44との間に介在することになる。この結果、巻回部52Aが圧縮されることで発生する付勢力により、自由端部52Dは、送り軸44のネジ溝44Aに押圧された状態で当接する。この付勢力は、送り軸44の回転力を素子保持部50に伝達可能であり且つ自由端部52Dを塑性変形させない範囲(弾性限度内の範囲)であり、例えば、2gf以上6gf以下程度に設定される。ここで、上記した付勢力は自由端部52Dが変形することで発生しても良いし、巻回部52Aおよび自由端部52Dの両方が変形することで付勢力が発生しても良い。
【0069】
ステッピングモータの駆動力で送り軸44が回転すると、ネジ溝44Aに滑りつつ当接するバネの自由端部52Dを介して、送り軸44の回転力が素子保持部50に伝達される。この結果、素子保持部50がX方向に所定量移動する。
【0070】
図5(B)を参照して、バネ52の自由端部52Dの側面は、1つのピッチに含まれる2つのネジ溝44Aの側面に2点で接触している。この2つの接触点を経由して、自由端部52Dがネジ溝44Aに付勢力Fが、自由端部52Dが送り軸44に与える実質的な付勢力となる。
【0071】
図6を参照して、送り軸44に接触するバネの自由端部52Dは、その軸方向がZ方向に対して平行と成る一方、送り軸44のネジ溝44AはZ方向に対して平行ではなく所定の角度θでZ軸から傾斜している。
【0072】
本形態でバネに使用される線材は、ネジ溝44Aのピッチの半分程度に細く可撓性に優れている。
【0073】
図7を参照して、素子保持部50に備えられるバネ52に関して他の形態を説明する。この図に示すバネ52の形状は、図5(A)を参照して説明したものと基本的には同様であり、相違点は、自由端部52Dの端部がスリット50Gに収納されていることにある。
【0074】
上記したように、図5(A)を参照して、本形態ではバネ52の先端に設けた自由端部52Dの側面が送り軸44のネジ溝44Aに接触することで、送り軸44の回転力が素子保持部50に伝達されている。しかしながら、図3を参照して、原点位置検出のために送り軸44を回転させて素子保持部50を凸状部60に突き当てると、図5(A)に示す自由端部52Dが捻れてストレスが作用した状態となる場合がある。このように、自由端部52Dにストレスが作用した状態であると、素子保持部50の次の動作に悪影響が及ぶ恐れがある。
【0075】
この対処方法として、図7に示すバネ52では、自由端部52Dの上端部を+Y方向に折り返してスリット50Gの内部に収納させている。これにより、自由端部52Dの中間部分はネジ機構と接触するためにバネ固定部50Eよりも−Y方向に突出し、その端部がスリット50Gの内部に挿入される構成が得られる。これにより、自由端部52DはY方向に対しては移動可能であるが、±X方向への捻じれはスリット50Gにより規制される。また、スリット50Gの幅は自由端部52Dの直径よりも長いので、スリット50Gの両側面とそこに収納される自由端部52Dとの間には間隙が存在する。
【0076】
このようにすることで、自由端部52Dの捻れが抑制される。具体的には、図3を参照して、送り軸44の回転により素子保持部50が凸状部60に突き当たった後に回転力がバネ52に与えられた場合、バネ52に対して、自由端部52Dを捻る作用が付与される。ここでは、自由端部52Dの上端部がスリット50Gに収納されているので、この部分が自由端部52Dの捻りを抑制するストッパーとして機能する。この結果、自由端部52Dの捻じれが抑制されて応力が残留しないので、その後の素子保持部50の動作がスムーズとなる。
【0077】
上記した本形態によれば、先ず、素子移動装置に必要とされる部品点数が削減される。図7に示した背景技術では、送り軸の回転力を伝える手段としてナットを用いていたので、ナットに接触する保持部や、ナットの遊びを無くすためのバネとが必要とされていた。一方、図3に示す本形態の光学素子移動装置11では、バネ52のみで送り軸44の回転力が素子保持部50に伝達されるので、部品点数が削減され、組立工数とコストの低減が実現される。
【0078】
更に本形態によれば、光学素子移動装置11を光ピックアップ装置に容易に組み込むことが可能である。具体的な組み込み方法は、図3を参照して、先ず、バネ52およびコリメートレンズ22が据え付けられた素子保持部50にガイド軸46を挿通する。次に、素子保持部50のガイド部50Dをガイド軸48に係合する一方、ガイド軸46の両端部を収納部56、58に収納して固着する。これにより、特殊な治具等を用いること無く、バネ52の先端に配置された自由端部52Dが送り軸44のネジ溝44Aに付勢された状態で接触する。従って、上記した特許文献1の場合と比較すると光ピックアップ装置に対するバネの組み込みが容易となり、作業性と生産性が向上する。
【0079】
更に本発明によれば、バネ52の巻回軸が送り軸44の方向を向いているので、上記した特許文献1の場合と比較すると、係合部が単純化される。このことが、光学素子移動装置11や光ピックアップ装置10の小型化に寄与する。
【0080】
また、上記説明では、図3に示す光学素子移動装置11はコリメートレンズ22を移動させるが、コリメートレンズ22以外の光学素子を採用することも可能である。例えば、本形態の光学素子移動装置11で、オートフォーカス機能を備えた光学カメラの内部に配置されるレンズを移動させることも可能である。
【符号の説明】
【0081】
10 光ピックアップ装置
11 光学素子移動装置
12 ハウジング
13 側壁部
14 ガイド孔
15 底面部
16 ガイド溝
20 立ち上げミラー
22 コリメートレンズ
24 立ち上げミラー
26 ディスク
27 コリメートレンズ
28 対物レンズ
29 対物レンズ
30 ハーフミラー
31 回折格子
32 ハーフミラー
33 回折格子
34 AS板
35 AS板
36 PDIC
37 PDIC
38 レーザー装置
39 レーザー装置
40 第1光学系
42 第2光学系
44 送り軸
44A ネジ溝
46 ガイド軸
48 ガイド軸
50 素子保持部
50A 挿通部
50B アーム部
50C レンズ固定部
50D ガイド部
50E バネ固定部
50F 係止部
50G スリット
50H 孔部
52 バネ
52A 巻回部
52B 直線部
52C 直線部
52D 自由端部
54 ステッピングモータ
56 収納部
58 収納部
60 凸状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光の光路に沿って配置されると共に、表面に螺旋状のネジ溝が設けられて、モータの駆動力により回転する送り軸と、
前記送り軸に対して略平行に配置されたガイド軸と、
光学素子が固定された状態で前記ガイド軸に挿通または係合されて、前記ガイド軸に沿って移動可能に配置された光学素子保持部と、
前記光学素子保持部に固定されると共に、前記送り軸に向かって巻回軸を有するように線材を巻回して形成されて、前記線材の側面が前記送り軸の前記ネジ溝に接触するバネと、
を備えることを特徴とする光学素子移動装置。
【請求項2】
前記線材の自由端部付近の側面が、前記送り軸の前記ネジ溝に接触することを特徴とする請求項1に記載の光学素子移動装置。
【請求項3】
前記送り軸に面する前記光学素子保持部の側辺に、前記送り軸に向かって突出して前記バネに挿入される固定部を設けることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学素子移動装置。
【請求項4】
前記固定部にスリットを設け、前記スリットの内部に前記バネの一部を配置することを特徴とする請求項3に記載の光学素子移動装置。
【請求項5】
前記スリットには、前記バネの両端部付近の一部が配置されることを特徴とする請求項4に記載の光学素子移動装置。
【請求項6】
前記固定部の先端部付近の幅を拡大させた係止部を設け、前記係止部よりも前記ガイド軸側の部分の前記固定部を、前記バネに挿入することを特徴とする請求項3から請求項5の何れかに記載の光学素子移動装置。
【請求項7】
前記光学素子は、コリメートレンズであることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の光学素子移動装置。
【請求項8】
前記バネの前記自由端部の一部を、前記固定部の前記スリットの内部に配置することを特徴とする請求項4から請求項7の何れかに記載の光学素子移動装置。
【請求項9】
レーザー光を放射する発光素子と、
前記レーザー光を光ディスクの情報記録層に集光する対物レンズと、
前記情報記録層で反射した戻り光の前記レーザー光を受光する受光素子と、
前記光学素子としてのコリメートレンズを前記レーザー光の光路に沿って移動させる請求項1から請求項8の何れかに記載された光学素子移動装置と、
を備えることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項10】
レーザー光に沿って移動する光学素子を保持する光学素子保持装置であり、
前記光学素子が固定される固定部と、
前記固定部と一体で形成されると共に、ガイド軸が挿通される挿通部と、
前記挿通部の側面から外側に向かって突出する固定部と、
前記固定部に挿入されると共に、前記挿通部の側面に対して直角な方向に巻回軸を有するように線材を巻回して形成され、少なくとも一部が前記固定部の端部よりも外側に突出して配置されたバネと、
を備えることを特徴とする光学素子移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−41640(P2013−41640A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177353(P2011−177353)
【出願日】平成23年8月13日(2011.8.13)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(504464070)三洋オプテックデザイン株式会社 (315)
【Fターム(参考)】