説明

光学素子

【課題】可視〜近赤外の広い波長領域、及び広い入射光角度範囲において、反射防止性能に優れる光学素子を提供することを目的とする。
【解決手段】基材表面に、複数の凹部と複数の凸部からなる凹凸部を有し、前記凹凸部内の所定領域において、前記複数の凸部の最高点は、いずれも凹部の最低点から200nm以上の高さであり、前記複数の凸部のいずれかの最高点と、該凸部に最も近接する凸部の最高点との間隔が、平面視において260nm未満であり、前記平面視における前記所定領域の面積に対し、前記最低点から250nm以上の高さを有する領域が前記平面視において占める面積の比率が5%以上であり、高さの平均偏差が3以上8以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視〜近赤外の広い波長領域、及び広い入射光角度範囲において、反射防止性能に優れる光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ市場の拡大に伴い、より鮮明な画像を、室内及び屋外において見たいという要求が高まってきている。しかし、主に室内で視認されるテレビにおいては、照明光による画面への映りこみにより、鮮明な画像を視認できなくなるという問題がある。また、屋外で視認される携帯電話、小型ゲーム機、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等においては、太陽光による画面への映り込みにより、鮮明な画像を視認できなくなるという問題がある。
【0003】
このような映りこみを防止し、視認性を向上させるためには、広い波長領域において、画面前面からの入射光に対する反射防止性能を向上させることが必要である。また、ディスプレイ搭載機器の種類や使用する場所により、画面への入射光の入射角度が異なるため、広い入射光角度範囲において、反射防止性能を備えることが必要である。
【0004】
ディスプレイの反射防止性能を高める技術として、反射防止フィルムを用いる方法が知られている。例えば、特許文献1には、高屈折率層と低屈折率層の交互多層構造を有する反射防止フィルムの開示がある。この反射防止フィルムは、高屈折率層と低屈折率層の屈折率差によって生じる透過光と反射光の干渉作用を利用して、反射光を打ち消すことにより反射防止効果を発現する。しかし、上記の反射防止フィルムは、ある特定波長では優れた反射防止性能を示すが、広い波長領域にわたって十分な反射防止性能を発現できるわけではない。さらに、広い入射光角度範囲において十分な反射防止性能が発現できるわけではない。
【0005】
非特許文献1には、サブミクロンオーダーのピラミッド状凹凸構造を蛾の目のような2次元パターンに配置した、通称モスアイ構造に反射防止効果があることが示されている。また、非特許文献2には、樹脂やガラスなどの基材にモスアイ構造を有する光学素子と、可視波長領域でのその分光反射率が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−337302号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Endeavour、26、P79−84(1967)
【非特許文献2】光技術コンタクト、43(11)、P630−637(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような光学素子においても、広い波長領域における十分な反射防止性能と、広い入射光角度範囲における十分な反射防止性能とを共に実現できているとは言い難い。
【0009】
係る点に鑑み、本発明は、可視〜近赤外の広い波長領域、及び広い入射光角度範囲において、反射防止性能に優れる光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光学素子は、基材表面に、複数の凹部と複数の凸部からなる凹凸部を有し、前記凹凸部内の所定領域において、前記複数の凸部の最高点は、いずれも凹部の最低点から200nm以上の高さであり、前記複数の凸部のいずれかの最高点と、該凸部に最も近接する凸部の最高点との間隔が、平面視において260nm未満であり、前記平面視における前記所定領域の面積に対し、前記最低点から250nm以上の高さを有する領域が前記平面視において占める面積の比率が5%以上であり、前記凹凸部を前記最低点から高さ方向に50nm毎の区分に分画した時に生じる分画数をn、前記所定領域における全分画が前記平面視において占める面積に対して第iの分画が平面視において占める面積の比率をHi、全分画における比率Hiの総計をnで除した値をHaveとしたときに、下記式で表される高さの平均偏差が3以上8以下であることを特徴とする。
【数1】

【0011】
これら各因子に起因して、可視〜近赤外の広い波長領域、及び広い入射光角度範囲において、反射防止性能に優れる光学素子を提供することができる。
【0012】
本発明の光学素子において、前記凸部と、該凸部と隣接する凸部との間に、尾根が存在しても良い。
【0013】
本発明の光学素子において、前記凸部の高さの平均値に対する前記尾根の高さの平均値が、20%以上80%以下であっても良い。
【0014】
本発明の光学素子において、前記凸部と、該凸部と最も近接する複数の凸部からなる任意の1単位格子中、尾根が4個又は8個存在しても良い。
【0015】
本発明の光学素子において、前記凹部と前記凸部からなる構造の単位格子において、前記単位格子の面積(Sall)と、前記最下点から+10nm以下の高さ領域の面積の総和(Sb)との比率(Sb/Sall)が、10%以下であっても良い。
【0016】
本発明の光学素子において、前記凸部の配列パターンが、六方格子であっても良い。
【0017】
本発明の光学素子において、前記凸部の最高点と、該凸部と最も近接する6個の凸部の最高点との間隔のうち最大値(Pmax)と最小値(Pmin)との差を、当該間隔の平均値(Pave)で除した値[(Pmax−Pmin)/Pave]が20%以下であっても良い。
【0018】
本発明の光学素子において、前記凸部の配列パターンが、四方格子であっても良い。
【0019】
本発明の光学素子において、前記凸部の最高点と、該凸部と最も近接する4個の凸部の最高点との間隔のうち最大値と最小値との差を、当該間隔の平均値で除した値[(Pmax−Pmin)/Pave]が20%以下であっても良い。
【0020】
本発明の光学素子において、前記凹部又は前記凸部を含む凹凸部を構成する組成物層の厚みが、0.4μm以上10μm以下であっても良い。
【0021】
本発明の光学素子において、1分子中に3個以上のアクリル基及び/又はメタクリル基を有する1種類以上の単量体成分20〜60質量部、N−ビニル基を有する単量体成分5〜40質量部、及びその他単量体成分0〜75質量部からなる凹凸部を構成する100質量部の組成物であってもよい。
【0022】
本発明の光学素子において、前記凹凸部を構成する組成物が光硬化組成物であっても良い。
【0023】
本発明の光学素子において、光硬化前の50℃での粘度が100mPa・s以下である光硬化組成物を光硬化させても良い。
【0024】
本発明の光学素子を含む幅10cm以上、かつ長さ50m以上の樹脂フィルムロールを提供される。また、本発明の光学素子を配設した表示装置、照明装置、太陽電池などが提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、可視〜近赤外の広い波長領域、及び広い入射光角度範囲において、反射防止性能に優れる光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】光学素子モデル(六方格子)の一部を拡大した部分拡大図である。
【図2】光学素子モデル(四方格子)の一部を拡大した部分拡大図である。
【図3】分画の様子を示す模式図である。
【図4】凸部の配列パターンが六方格子である光学素子を、基材表面に垂直方向より撮影した写真である。
【図5】凸部の配列パターンが四方格子である光学素子モデルを、基材表面に垂直方向より撮影した写真である。
【図6】凹凸部の凹部と尾根を含む断面プロファイルの例を示す図である。
【図7】凹凸部の凹部と凸部を含む断面プロファイルの例を示す図である。
【図8】凹凸部の凸部と尾根を含む断面プロファイルの例を示す図である。
【図9】単位格子と、底面領域との関係を示す図である。
【図10A】操作型プローブ顕微鏡の測定エリアにおける最高点位置を0nmとした時の、光学素子の凹部と凸部からなる構造面の深さ分布を示す図である。
【図10B】操作型プローブ顕微鏡の測定エリアにおける最高点位置を0nmとした時の、光学素子の凹部と凸部からなる構造面の深さ分布を示す図である。
【図11】充填率及び変曲点について示す概念図である。
【図12】実施例1の正反射率の波長依存性及び入射光角度依存性を示す図である。
【図13】実施例2の正反射率の波長依存性及び入射光角度依存性を示す図である。
【図14】実施例3の正反射率の波長依存性及び入射光角度依存性を示す図である。
【図15】比較例1の正反射率の波長依存性及び入射光角度依存性を示す図である。
【図16】比較例2の正反射率の波長依存性及び入射光角度依存性を示す図である。
【図17】比較例3の正反射率の波長依存性及び入射光角度依存性を示す図である。
【図18】正反射率の波長465nm(青色光)における入射光角度依存性を示す図である。
【図19】正反射率の波長525nm(緑色光)における入射光角度依存性を示す図である。
【図20】正反射率の波長630nm(赤色光)における入射光角度依存性を示す図である。
【図21】正反射率の波長900nm(近赤外光)における入射光角度依存性を示す図である。
【図22】(正+拡散)反射率の波長依存性を示す図である。
【図23】実施例1における、可視光領域(400nm〜800nm)の、垂直方向0°から60°までの入射角における反射率を示す図である。
【図24】比較例4における、可視光領域(400nm〜800nm)の、垂直方向0°から60°までの入射角における反射率を示す図である。
【図25】比較例5における、可視光領域(400nm〜800nm)の、垂直方向0°から60°までの入射角における反射率を示す図である。
【図26】実施例1における、高さと充填率との相関曲線を示す相関図である。
【図27】実施例2における、高さと充填率との相関曲線を示す相関図である。
【図28】実施例3における、高さと充填率との相関曲線を示す相関図である。
【図29】比較例1における、高さと充填率との相関曲線を示す相関図である。
【図30】比較例2における、高さと充填率との相関曲線を示す相関図である。
【図31】比較例3における、高さと充填率との相関曲線を示す相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者らは、基材表面に凹部と凸部の連続構造でなる凹凸部を有する光学素子において、複数の凸部の最高点が、いずれも凹部の最低点から200nm以上の高さであり、複数の凸部のいずれかの最高点と、当該凸部に最も近接する凸部の最高点との間隔が、平面視において260nm未満であり、平面視における所定領域の面積に対し、最低点から250nm以上の高さを有する領域が平面視において占める面積の比率が5%以上であり、高さの平均偏差が3以上8以下であることにより、上記因子が相互に関連することで、可視〜近赤外の広い波長領域、及び広い入射光角度範囲において、優れた反射防止性能を示すことを見出した。
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0029】
(実施の形態1)
図1及び図2は、本発明に係る光学素子10の一部を拡大した部分拡大図である。図1Aは、六方格子の場合の基材13表面に垂直な方向から見た平面図(平面視)であり、図1Bは、図1AのA−A´における断面図(断面視)である。また、図2は、四方格子の場合の基材13表面に対して斜めの方向から観察した斜視図である。図1及び図2に示されるように、本発明の光学素子10は、基材13と、基材13表面上の凸部及び凹部(以下、凹部と凸部をまとめて凹凸部と呼ぶことがある)の連続構造を含んで構成されている。凸部の頂点11及び凹部の底12は、基材13の面内方向に、任意のパターンで配列されている。また、図2に示されるように、隣接する凸部の頂点11の間には峰続きの領域である尾根14が形成されている。尾根14は、凹凸部において、凹部の底12より高く、凸部の頂点11より低い位置に存在する。以下、各構成要素について詳述する。
【0030】
<凹凸形状>
本発明の光学素子は、凹部と凸部からなる連続構造を有する。連続構造の種類として、ラインアンドスペース構造、ドット構造、ハニカム構造が挙げられるが、高い反射防止性能を得るためには、ドット構造の1つであるモスアイ構造を適用することが好ましい。
【0031】
<凸部の形状>
本発明の光学素子の凸部の形状は、角錐、円錐、角錐台、円錐台のいずれかであることが好ましい。中でも、角錐、円錐であることが好ましく、円錐であるとさらに好ましい。円錐は、真円錐でも楕円錐でも良く、頂部が丸みを帯びているものが好ましい。円錐形状において頂部に丸みを帯びさせることで、さらに反射防止性能を向上させることができる。
【0032】
円錐の形状には、テント型(凸部の稜線がへこんだ形状)、ベル型((凸部の稜線が膨らんだ形状)、三角形型((凸部の稜線が直線である形状)が挙げられる。広い波長領域、特に、近赤外波長領域(700〜1000nm)で優れた反射防止性能を得られる点で、ベル型がより好ましい。
【0033】
<ピッチと凸部高さ>
本発明において、凹部の最下点の高さを基準(高さ=0nm)とした時、凸部と、該凸部に最も近接する凸部との間隔(ピッチ)の平均値は260nm未満であり、好ましくは230nm未満であり、より好ましくは200nm未満である。ここで、凸部と凸部の間隔(ピッチ)とは、凸部の最高点同士の間隔をいうものとする。高さとは、凹部の最下点(最低点)の高さを基準(高さ=0nm)とする高さをいう。すなわち、高さとは、凹部の最下点を含む基準面に垂直な方向における基準面Xと対象との距離である。凸部の高さとは、凸部の最高点の高さとする。すなわち、凸部の高さとは、基準面Xに垂直な方向における基準面Xから凸部の頂点までの距離とする。また、本明細書において、特に言及しない場合、間隔(ピッチ)及び高さに関する他の記載についても同様とする。ピッチを260nm未満にすることで、回折現象の発生を抑制し、特定波長での反射率の上昇を抑制し、可視波長領域での反射防止性能を向上させることができる。
【0034】
また、凸部の高さは200nm以上であり、260nm以上であることが好ましく、300nm以上であるとより好ましく、400nm以上であるとさらに好ましい。凸部の高さを200nm以上にすることで、広い入射光角度範囲で優れた反射防止性能を発現できる。また、広い波長領域、特に近赤外波長領域(700〜1000nm)での反射防止性能を向上させることができる。但し、光学素子として所定の反射防止性能が発現すれば、全ての凸部の高さが200nm以上である必要はない。
【0035】
さらに凸部の高さを200nm以上かつピッチを260nm未満にすることで、反射防止性能をさらに向上させることができる。
【0036】
凸部の高さの均一度は、凹部の最下点の高さを基準(高さ=0nm)とする)とし、凸部の高さの平均値をMave、任意の点mにおける高さをMmとした場合の絶対値(|Mave−Mm|)の相加平均値で評価される。上記均一度は、10%以下であることが好ましく、8%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、3以下%が最も好ましい。10%以下であると反射防止性能を向上させることができる。凸部の高さの均一度は、後述する走査型プローブ顕微鏡により測定されるデータから算出される。
【0037】
<凹凸部領域の高さ>
本発明において、凹部の最下点の高さを基準(高さ=0nm)とした時、凹凸部において高さが250nm以上となる領域の面積の比率は、凹凸部の面積に対して5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上である。また、凹凸部において高さが300nm以上となる領域の面積の比率は、凹凸部の面積に対して5%以上であると好ましく、高さが350nm以上となる領域の面積の比率が5%以上であるとより好ましく、高さが500nm以上となる領域の面積の比率が5%以上であるとさらに好ましい。凹凸部において高さが250nm以上の領域の面積の比率を5%以上にすることで、広い入射光角度範囲で優れた反射防止性能を発現できる。ここで、面積とは、平面視における面積(基材表面に投影した場合の面積、基材表面に垂直な方向から見た場合の面積)をいうものとする。本明細書において、特に言及しない場合、面積に関する他の記載についても同様とする。
【0038】
<凹凸部領域の高さの平均偏差>
本発明において、凹凸部領域の高さの平均偏差は下記式により算出される。下記式において、nは、凹部の最下点の高さを基準(高さ=0nm)として、凹凸部の所定領域を高さ方向に50nm毎の区分に分画した時に生じる分画数(区分数)である。ここで、所定の領域とは、例えば、2.0μm×2.0μmの領域をいう。Hiは、第iの分画(第iの区分)に係る面積が、所定領域の面積に対して占める比率(分画比率)である。Haveは、全分画における比率Hiの総計をnで除した値、すなわち、各分画比率の相加平均値(ΣHi/n)である。なお、分画比率は、小数第2位を四捨五入して小数点以下1桁までを有効数字として用いる。また、分画比率がゼロである場合、すなわち小数第2位を四捨五入する前の分画比率が0.50%未満の場合は、分画比率なしと扱う。
【数2】

【0039】
図3は、分画の様子を示す模式図である。図3には、凹部と凸部がそれぞれ一つずつ存在する領域を分画する例を示す。図3Aは分画の様子を示す平面視であり、図3Bは図3AのB−B´における断面プロファイルである。ここでは、凹部の最下点(最低点)を基準高さ(0nm)として、50nmまでの高さとなる領域を分画1(第1の区分)としている。また、50nmから100nmまでの高さとなる領域を分画2(第2の区分)としている。同様に、分画3〜分画8に分画(区分け)している。この場合、対象領域が8個の高さ区分に分画されているため、nは8となる。また、Hiは対象領域の面積に対して分画iが占める面積の比率であるから、対象となる面積が100であり、分画1の面積が10であるとすれば、H1は10(%)となる。
【0040】
なお、本発明の光学素子において、上記式を用いて算出される高さの平均偏差は3以上8以下である。また、高さの平均偏差は3以上7以下が好ましく、3以上5以下がより好ましく、3以上4以下がさらに好ましい。高さの平均偏差が3以上であれば、スタンパーからの剥離性を保持でき、8以下であれば、広い入射光角度範囲で優れた反射防止性能を発現でき、かつ広い波長領域で反射防止性能を向上させることができる。
【0041】
<尾根>
本発明の光学素子には、凸部と、該凸部と隣接する凸部との間に、尾根が存在する方が好ましい。尾根とは、凸部の最高点と隣接する凸部の最高点間の峰続きの領域を指し、凹凸部において、凹部の最低点より高く、凸部の最高点より低い位置に存在する。言い換えれば、尾根は、例えば、隣接する凸部の頂点どうしをつなぐ線状の領域であって、凹部の底より高い領域である。又は、隣接する凹部の底どうしをつなぐ線状の領域であって、凸部の頂点より低い領域である。また、尾根の高さとは、凸部と凸部の最高点を除く峰続きの領域の最低点であり、かつ凹部と凹部ではさまれる領域の最高点とする。また、尾根は、凸部と、該凸部と最も近接する凸部全てとの間に必ず存在している必要はない。尾根の有無は、表面SEM顕微鏡写真により判断することができる。尾根が存在する場合には、湾曲に対する光学素子の強度が高まる。これにより、曲面画面を有するフレキシブルディスプレイへ適用が可能となる。また、広い波長領域において高い反射防止性能を得ることができる。
【0042】
尾根の高さの平均値の、凸部の高さ(ここでは、凸部の最高点の高さ)の平均値に対する比率は、20%以上80%以下が好ましく、30%以上70%がより好ましく、35%以上60%以下がさらに好ましい。上記範囲にすることで、湾曲に対する光学素子の強度と反射防止性能とのバランスを向上させることができる。
【0043】
一の凸部と隣接する凸部からなる任意の単位格子内において、尾根は、4個又は8個存在することが好ましい。このような構造をとることで、反射防止性能をさらに向上させることができるためである。単位格子としては、例えば、六方格子、四方格子、ランダム格子が挙げられる。図4及び図5に、凸部の配列パターンを示す。図4に示されるように、六方格子とは、一の凸部の頂点20に対して、最も近接する凸部の頂点が6個存在する六角形状21の配列パターンである。なお、図4には、凹部の底22及び尾根23を併せて示す。また、図5に示されるように、四方格子とは、一の凸部の頂点に対して、最も近接する凸部の頂点が4個存在する四角形状の配列パターンである。なお、図5には、凹部の底22及び尾根23を併せて示す。ランダム格子とは、一の凸部と最も近接する4つの凸部の頂点で囲まれた配列パターンである。ランダム格子では、特に規則性は要求されない。
【0044】
また、凹凸部の構造は、断面の切断方向により、尾根が存在する方向と尾根が存在しない方向とが併存することが好ましい。このような構造をとることで、反射防止性能をさらに向上させることができる。図6は、尾根が存在する凹部と尾根からなる断面30における凹凸構造の断面プロファイルの例を示す図である。図6に示される断面では、凹部の底22と尾根23とが確認できる。図7は、尾根が存在しない凹部と凸部からなる断面31における凹凸構造の断面プロファイルの例を示す図である。図7に示される断面では、凸部の頂点20と凹部の底22とが確認できる。図8は、尾根が存在する凸部と尾根からなる断面32における凹凸構造の断面プロファイルの例を示す図である。図8に示される断面では、凸部の頂点20と尾根23とが確認できる。なお、図6、図7及び図8において、高さ方向の縮尺は同じである。
【0045】
尾根の高さの均一度は、凹部の最下点の高さを基準(高さ=0nm)とする凹凸部の尾根の平均値(Kave)と、任意の点jにおける尾根の高さ(Kj)との差の絶対値(|Kave−Kj|)の相加平均値で表される。本発明の光学素子において、尾根の高さの均一度は60%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましく、10%以下が最も好ましい。60%以下であると反射防止性能を向上させることができる。尾根の高さの均一度は、走査型プローブ顕微鏡により尾根の高さを測定し、100個以上の測定値より算出する。
【0046】
<配列パターン>
本発明の光学素子において、凸部の配列パターンは、六方格子、四方格子、及びランダム格子のいずれでもよい。
【0047】
六方格子の場合、凸部と、該凸部と最も近接する6個の凸部とのピッチの最大値(Pmax)とピッチの最小値(Pmin)との差を、ピッチの平均値(Pave)で除した値[(Pmax−Pmin)/Pave]は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0048】
四方格子の場合、凸部と、該凸部と最も近接する4個の凸部とのピッチの最大値(Pmax)とピッチの最小値(Pmin)との差を、ピッチの平均値(Pave)で除した値[(Pmax−Pmin)/Pave]は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0049】
ランダム格子の場合、凸部と、該凸部と隣接する4個の凸部(該凸部との距離が近いものから順に4個の凸部)とのピッチの最大値(Pmax)とピッチの最小値(Pmin)との差を、ピッチの平均値(Pave)で除した値[(Pmax−Pmin)/Pave]は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0050】
(Pmax−Pmin)/Paveの値を20%以下にすることで、凸部の配列パターンの規則性が高まる。これは、単位格子の形状が、六方格子の場合は正六角形へ、四方格子の場合は正方形へ近づくことを意味する。このように、凸部の配列パターンの規則性が高めることにより、光学素子の反射防止性能の異方性を抑制することができる。
【0051】
<凹部形状>
本発明の光学素子は、凹部と凸部からなる構造の単位格子において、単位格子の面積(Sall)と、前記最下点から+10nm以下の高さとなる領域(基準面Xから10nm以下の高さとなる領域、以下、底面領域という)の面積の総和(Sb)との比率(Sb/Sall)が、10%以下であることが好ましい。また、Sb/Sallは5%以下であるとより好ましく、3%以下であるとさらに好ましく、最も好ましくは底面領域が点であることである。Sb/Sallを10%以下にすることで、広い波長領域での反射防止性能を向上することができる。図9に、単位格子と、底面領域との関係を模式的に示す。製造精度の限界により、Sb/Sallの下限は0.1%程度になる。ただし、Sb/Sallは小さければ小さいほど好ましく、0.1%以下であっても良い。なお、単位格子の面積(Sall)は、表面SEM顕微鏡写真より求め、凹部の底面積(Sb)は、走査型プローブ顕微鏡より求める。底面積は、平面視における面積(基材表面に投影した場合の面積、基材表面に垂直な方向から見た場合の面積)とする。
【0052】
<アスペクト比>
高さ200nm以上の凸部におけるピッチPと高さHの比で定義されるアスペクト比(H/P)の平均値は、0.67以上10以下が好ましく、1以上5以下が好ましい。アスペクト比の平均値を0.67以上にすることで、反射防止性能を向上でき、アスペクト比の平均値を10以下にすることで、光学素子作製時にスタンパーからの剥離性を保持でき、凹凸部領域の高さの平均偏差が小さい光学素子を得ることができる。
【0053】
<基材>
本発明の光学素子に用いられる基材には、(a)凹凸部を構成する組成物との接着性が良いこと、(b)凹凸部を構成する組成物との屈折率差が小さいこと、(c)凹凸部を構成する組成物層のヘーズが小さいこと、が求められる。また、基材には、(d)フレキシブル性を有し、(e)易加工性を有し、(f)高生産性を有し、(g)軽量であり、(h)高耐衝撃性を有し、(i)低価格であること、が求められる。(a)〜(c)の要件を満たす材料として、ガラス、樹脂が挙げられる。また、(a)〜(c)の要件に加え、(d)〜(g)の要件を満たす材料として、樹脂が挙げられる。なお、本発明の光学素子に用いられる基材はこれに限定されない。使用目的や用途に応じて、ガラス、セラミック、金属等の無機材料、樹脂等の有機材料を任意に選択することができる。
【0054】
本発明の光学素子には、透過性が要求される場合と非透過性が要求される場合がある。このため、目的や用途に応じて基材の種類を選択することが望ましい。透過性が必要な場合、目的とする波長領域で基材が透明である必要がある。この場合、基材として、透明な樹脂やガラスを用いることが好ましい。さらに屈曲性を要求される場合には、透明な樹脂を用いることが好ましい。また、非透過性が必要な場合、目的とする波長領域で基材が不透明である必要がある。この場合、基材として、セラミック、金属、不透明な樹脂を用いることが好ましい。さらに、屈曲性が要求され、(d)〜(g)を満たすためには、不透明な樹脂を用いることが好ましい。
【0055】
上記透明な樹脂として、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA樹脂)、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、メタクリル酸メチル−スチレン樹脂(MS樹脂)、スチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂(COP樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN樹脂)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、トリアセチルセルロース樹脂(TAC樹脂)、ポリイミド樹脂あるいはアクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。特に、PMMA樹脂、アクリル系樹脂、PC樹脂、PS樹脂、スチレン系樹脂、COP樹脂、PET樹脂、PEN樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、TAC樹脂が好ましい。
【0056】
上記不透明な樹脂として、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン−プロピレンジエン・スチレン)樹脂、ACS(アクリロニトリル・塩素化ポリエチレン・スチレン)樹脂、ゴム含有スチレン系樹脂、ゴム含有アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂、架橋ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などが挙げられる。また、ABS樹脂(又は、AAS樹脂、AES樹脂、ACS樹脂、ゴム含有スチレン系樹脂)/ポリアミド樹脂、ABS樹脂(又は、AAS樹脂、AES樹脂、ACS樹脂、ゴム含有スチレン系樹脂)/アクリル系樹脂、等のアロイを挙げることができる。
【0057】
基材が樹脂の場合、目的とする要件を損なわない範囲で、必要に応じて添加剤を加えても良い。添加剤は、樹脂に直接含有させても良く、及び/又は樹脂基材表面に層形成させても良い。添化剤の種類として、例えば、有機及び/又は無機粒子、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、易接着剤等を挙げることができる。
【0058】
光学素子の非透過性を向上させるために、基材の樹脂中に黒色の顔料及び/又は染料を含有させても良い。また、凹凸部構造非形成面に黒色塗料を塗装しても良い。
【0059】
また、目的とする要件を損なわない範囲で、樹脂基材表面に、バリア性樹脂層をコーティング等により形成しても良い。樹脂基材表面に、バリア性樹脂層を形成することで、熱、光、水分、酸素、二酸化炭素、窒素、水素などの劣化要因から樹脂基材を保護することができる。
【0060】
基材がガラスの場合、シランカップリング剤やプライマー処理やUV処理などの表面処理を適用することができる。また、これらを組み合わせて用いても良い。
【0061】
また、基材として、表面コーティングや接着層や干渉低減層が形成されている基材を使用しても良い。
【0062】
基材の形状としては、板、シート、フィルム、薄膜、織物、不織布、その他任意の形状及びこれらを複合化したものを、使用目的に応じて選択することができる。屈曲性が必要な場合は、シート、フィルム、薄膜、織物、不織布とすることが好ましい。
【0063】
基材の厚みは、使用目的に応じて選択することができる。薄肉化又はフレキシブル化が要求される場合、基材の厚みは350μm以下が好ましく、120μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましく、40μm以下が最も好ましい。また、取り扱い容易性の点で、基材の厚みは10μm以上が好ましい。
【0064】
<凹凸部を構成する組成物>
本発明の光学素子が有する凹部と凸部の連続構造(凹凸部)を構成する組成物の種類としては、光硬化組成物、熱硬化組成物、熱可塑組成物等から選択することができるが、転写忠実性の点で、光硬化組成物を用いて形成されることが好ましい。凹凸部に用いられる光硬化組成物中の単量体及びオリゴマー(以下、単量体成分ともいう。)の種類として、反応速度と連続生産性の観点から、ラジカル重合系単量体成分がより好ましく、スタンパーの凹凸構造パターン深部での反応性を高める観点から、ラジカル重合系単量体へ反応寿命の長いカチオン重合系単量体成分を混合しても良い。光硬化用のカチオン重合系単量体として、重合性官能基がエポキシ基やビニルオキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基等を有する単量体が好ましい。
【0065】
ラジカル系単量体成分としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ラウリルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、ステアリルアクリレート、n−ブトキシエチルアクリレート、ブトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、カプロラクトンアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート4級化物、アクリル酸、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、2−アクリロイロキシエチル2−ヒドロキシエチルフタル酸、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、2−アクリロイロキシエチル2−ヒドロキシプロピルフタレート、グリシジルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、PEG#200ジアクリレート、PEG#400ジアクリレート、PEG#600ジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、グリセリンジアクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルアクリレート、ビスフェノールA−EO付加物ジアクリレート、トリフロロエチルアクリレート、テトラフルオロペンチルアクリレート、オクタフルオロペンチルアクリレート、パーフロロオクチルエチルアクリレート、ノニルフェノール−EO付加物アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラフルフリルアルコールオリゴアクリレート、エチルカルビトールオリゴアクリレート、1,4−ブタンジオールオリゴアクリレート、1,6−ヘキサンジオールオリゴアクリレート、トリメチロールプロパンオリゴアクリレート、ペンタエリスリトールオリゴアクリレート、ペンタメチルピペリジルアクリレート、テトラメチルピペリジルアクリレート、パラクミルフェノール−EO変性アクリレート、N−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、イソシアヌル酸−EO変性ジアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート、イソミリスチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、n−ブトキシエチルメタクリレート、ブトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシトリエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、カプロラクトンメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物、メタクリル酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイロキシエチルフタル酸、2−メタクリロイロキシエチル2−ヒドロキシエチルフタル酸、ネオペンチルグリコールメタクリル酸安息香酸エステル、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、グリシジルメタクリレート、2−メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、PEG#200ジメタクリレート、PEG#400ジメタクリレート、PEG#600ジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジメタクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ビスフェノールA−EO付加物ジメタクリレート、トリフロロエチルメタクリレート、テトラフルオロペンチルメタクリレート、オクタフルオロペンチルメタクリレート、パーフロロオクチルエチルメタクリレート、ノニルフェノール−EO付加物メタクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジメタクリレート、トリメチロールプロパンメタクリル酸安息香酸エステル、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジメタクリレート、テトラフルフリルアルコールオリゴメタクリレート、エチルカルビトールオリゴメタクリレート、1,4−ブタンジオールオリゴメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールオリゴメタクリレート、トリメチロールプロパンオリゴメタクリレート、ペンタエリスリトールオリゴメタクリレート、ペンタメチルピペリジルメタクリレート、テトラメチルピペリジルメタクリレート、パラクミルフェノール−EO変性メタクリレート、N−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、イソシアヌル酸−EO変性ジメタクリレート、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}ベンゼン、3−エチル−3−{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(シクロヘキシロキシ)メチルオキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、オキセタニルシリケート、フェノールノボラックオキセタン、1,3−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]ベンゼンなどが挙げられる。
【0066】
本発明の光学素子の製造に用いられる凹凸部を構成する組成物の組成は、凹凸部を構成する組成物中の単量体成分合計100質量部中、1分子中に3個以上のアクリル基及び/又はメタクリル基を有する1種類以上の単量体成分が20〜60質量部、N−ビニル基を有する単量体成分が5〜40質量部、その他単量体成分が0〜75質量部であることが好ましい。
【0067】
1分子中に3個以上のアクリル基及び/又はメタクリル基を含有する1種以上の単量体成分は、凹凸部を構成する組成物中の単量体成分合計100質量部中、25〜50質量部であることがより好ましく、30〜40質量部含有することがさらに好ましい。20質量部以上にすることで、凹凸部を構成する組成物部分が高強度になり、また高架橋密度となるため、該凹凸部を構成する組成物部分からの未反応単量体及び低重合度オリゴマーのブリードアウトや副生成物の生成を最低限抑制することができる。また60質量部以下とすることで、凹凸部を構成する組成物の粘度上昇を抑制でき、凹凸部を構成する組成物のスタンパーの凹部と凸部のパターンへの充填率低下を防止できる。
【0068】
1分子中に3個以上のアクリル基及び/又はメタクリル基を含有する単量体成分としては、例えばトリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロポキシ化グリセルトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、3官能以上のポリエステルアクリレートオリゴマー、3官能以上のウレタンアクリレートオリゴマー、3官能以上のエポキシアクリレートオリゴマー、トリメチロールプロパントリメタアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリメタアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリメタアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタアクリレート、プロポキシ化グリセルトリメタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリメタアクリレート、トリスメタアクリロイルオキシエチルフォスフェート、3官能以上のポリエステルメタアクリレートオリゴマー、3官能以上のウレタンメタアクリレートオリゴマー、3官能以上のエポキシメタアクリレートオリゴマーなどが挙げられる。ここで、エトキシ化及びプロポキシ化された単量体成分とは、単量体1分子当たり、1〜20当量の1種以上のエトキシ基及び/又はプロポキシ基を含む単量体成分をさす。
【0069】
1分子中に3個以上のアクリル基及び/又はメタクリル基を含有する単量体成分の中でも、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリメタアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリメタアクリレートは諸物性のバランスが良いので好ましい。中でもトリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタアクリレートが、硬化後のスタンパーからの硬化成形体の離型性に優れるため、より好ましい。1分子中に3個以上のアクリル基及び/又はメタクリル基を含有する単量体成分は、1種類又は2種類以上用いても良い。
【0070】
N−ビニル基を有する単量体成分は、凹凸部を構成する組成物中の単量体成分合計100質量部中、15〜38質量部含有することがより好ましく、25〜35質量部含有することがさらに好ましい。N−ビニル基を有する単量体成分を5質量部以上含有することにより、成型体の基材への付着性を向上できる、かつ硬化後の成型体のスタンパーからの離型性を良好にすることができ、また40質量部以下含有することにより、未反応単量体及び低重合度オリゴマーの成型体からブリードアウトを最低限抑制でき、また成型体の過度の吸湿も抑制でき、成型体の耐湿特性を向上することができる。
【0071】
N−ビニル基を有する単量体成分としては、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、及びN−ビニルカプロラムタムが、特に好ましく用いることができる。N−ビニル基を有する単量体成分は、1種類又は2種類以上用いても良い。
【0072】
<シリコン系化合物>
本発明の光学素子の製造に用いられる凹凸部を構成する組成物には、アクリル基及び/又はメタクリル基を含むシリコン化合物を含有しても良い。凹凸部を構成する組成物の単量体成分合計100質量部に対し、アクリル基及び/又はメタクリル基を含むシリコン化合物を0.1〜10質量部含有することが好ましく、0.2〜5質量部含有することがより好ましく、0.3〜2質量部含有することがさらに好ましい。0.1質量部以上含有させることで、硬化後の光学素子をスタンパーからの離型性をさらに向上でき、10質量部以下含有させることにより、光学素子の凹凸部を構成する組成物層、特に凹凸構造部の強度も維持できる。
【0073】
アクリル基及び/又はメタクリル基を含むシリコン化合物の種類として、例えばシリコンアクリレート系化合物を挙げることがでる。ポリジメチルシロキサン骨格にアクリル基を結合させた、BYK−UV3500、BYK−UV3570(ビックケミー・ジャパン製)、ebecryl350(ダイセル・サイテック製)が、硬化後の光学素子の凹凸部を構成する組成物層からのブリードアウトも少なく、より好ましい。
【0074】
<光重合開始剤>
本発明の光学素子の製造に用いられる凹凸部を構成する組成物として、光硬化組成物を用いる場合、光重合開始剤を含有することができる。光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、ベンゾフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]―フェニル}−2−メチル−プロパン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、1,2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)]エタノン、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)などが挙げられるが、特に本発明においては、高感度で、低揮発性である2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、1,2−オクタンジオン、1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)]エタノン、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)などを好ましく用いることができる。光重合開始剤の配合比は、光硬化組成物中の単量体成分合計100質量部に対し、0.1〜5.0質量部であることが好ましい。これら光重合開始剤は単独で適用することも可能であるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0075】
<光増感剤>
本発明の光学素子の製造に用いられる凹凸部を構成する組成物として、光硬化組成物を用いる場合、光硬化組成物には、光重合促進剤及び光増感剤などと組み合わせて使用することもできる。例えば、光増感剤としては、n−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、アリルチオ尿素、s−ベンジスイソチウロニウム−p−トルエンスルフィネート、トリエチルアミン、ジエチルアミノエチルメタクリレート、トリエチレンテトラミン、4,4’−ビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、ペンチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、トリエチルアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類のような光増感剤を1種あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0076】
<光硬化組成物のろ過>
本発明の光学素子の製造に用いる凹凸部を構成する組成物として、光硬化組成物を用いる場合、光硬化組成物は、ろ過などの手法により、異物を除去したものであることが好ましい。ろ過に使用するフィルター孔径は1μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。また、フィルターの異物捕捉効率は、99.9%以上であることが好ましい。異物を除去することにより、スタンパーの凹凸部への充填率や光硬化反応率を向上し、光学素子構造面の凹凸部の構造欠陥を実用上問題がないレベルに減少させることができる。
【0077】
<光硬化組成物の粘度>
本発明の光学素子の製造に用いる凹凸部を構成する組成物として、光硬化組成物を用いる場合、硬化前の光硬化組成物の50℃における粘度は、100mPa・s以下が好ましく、50mPa・s以下がより好ましく、20mPa・sがさらに好ましい。100mPa・s以下にすることで、基材表面へ光硬化組成物をロールツーロール方式により塗布する場合、光硬化組成物層の厚み均一性を高めることができ、またスタンパーの凹凸構造部への光硬化組成物の充填率を高めることができ、結果として光学素子への転写忠実性を高めることができる。また、目的とする光硬化組成物層の厚みを得るために、光硬化組成物中へさらに減粘剤又は増粘剤を添加することで、上記基材の粘度範囲で、適宜粘度調整をしてもよい。
【0078】
<スタンパーの表面温度>
本発明の光学素子の製造に用いる凹凸部を構成する組成物として、光硬化組成物を用いる場合、本発明の光学素子の製造に用いるスタンパーの凹凸構造面の表面温度は、25〜100℃が好ましく、30〜80℃がより好ましく、35〜70℃がさらに好ましく、40〜65℃が最も好ましい。スタンパーの凹凸構造面の表面温度を25℃以上にすることで、光硬化組成物の粘度を下げることができるため、基材と光硬化組成物との付着性と、光硬化後の光学素子のスタンパーからの離型性とを向上できる。また、スタンパーの凹凸構造面の表面温度を100℃以下にすることで、基材の熱変形を抑制することができる。また、スタンパーの凹凸構造面の表面温度は、略一定に調節されていることが好ましい。
【0079】
表面温度を略一定に調整する手段として、温調機を付属したスタンパーを用いることができる。スタンパーの凹凸構造面の表面温度を一定に維持することで、凹凸部を構成する組成物の粘度も一定に保つことができるため、凹凸部を構成する組成物層の厚みの均一性を高めることができ、スタンパーから光学素子への転写忠実性を向上することができる。
【0080】
<凹凸部を構成する組成物層の厚み>
本発明の光学素子の凹部と凸部からなる連続構造を含む凹凸部を構成する組成物層の厚みは、0.4〜10μm以下であることが好ましく、0.5〜7μm以下であることがより好ましく、0.8〜4μm以下であることがさらに好ましい。凹凸部を構成する組成物層の厚みを0.4μm以上にすることで、基材と凹凸部を構成する組成物との密着性を向上させ、スタンパーの凹凸構造を基材へ転写する際の未転写部分の発生を防止できる。また凹凸部を構成する組成物層の厚みを4μm以下にすることで、高温高湿条件下で生じる凹凸部を構成する組成物層のクラック発生と、高温高湿下での凹凸部を構成する組成物の収縮に起因するカール発生とを抑制できる。
【0081】
凹凸部を構成する組成物層の厚みは、基材とスタンパー間の押つけ圧力、スタンパーの凹凸構造面の表面温度、凹凸部を構成する組成物の温度と粘度等により、調節することができる。
【0082】
<原版の作製方法>
本発明の光学素子の製造に用いられる光学素子原版の作製方法としては、レーザ光を用いた干渉露光法、電子線描画法、機械加工切削法、ドライエッチング法、リソグラフィー法等が挙げられる。凹凸部の形状、ピッチ、又は高さ、凹凸部の配列パターンやその規則性/不規則性、原版大きさ、コスト等の目的に応じて、任意に作製方法を選択することができる。凹凸部が規則性のある配列パターンで、かつ大面積な原版を得たい場合、レーザ光を用いた干渉露光法が好ましい。
【0083】
干渉露光法とは、特定の波長のレーザ光を角度θ’の2つの方向から照射して形成される干渉縞を利用した露光法であり、角度θ’を変化させることで使用するレーザの波長で制限される範囲内で様々なピッチを有する凹凸格子の構造を得ることができる。干渉露光に使用できるレーザとしては、TEM00モードのレーザを挙げることができる。TEM00モードのレーザ発振できる紫外光レーザとしては、アルゴンレーザ(波長364nm,351nm,333nm)や、YAGレーザの4倍波(波長266nm)などが挙げられる。
【0084】
原版の材料の種類として、石英ガラス、紫外線透過ガラス、サファイア、ダイヤモンド、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン材、フッ素樹脂、シリコンウエハ、SiC基板、マイカ基板等が挙げられ、目的に応じて選択することができる。
【0085】
ナノパターン転写時の離型性をより向上させるために、原版に離型処理を行っても良い。離型処理剤としては、シランカップリング系離型剤が好ましく、フッ素含有離型剤であることがより好ましい。市販されている離型剤の例としては、ダイキン工業社製のオプツールDSX、デュラサーフHD1101やHD2101、住友スリーエム社製のノベック、信越化学工業製のKP−801M、KBM−7103、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製のTSL−8257等が挙げられる。
【0086】
<スタンパーの作製方法>
原版の凹凸構造や配列パターンを転写したスタンパーは、原版から、電鋳法や上記のナノインプリント法等により作製することができる。解像度の点では、電鋳法及び光硬化組成物を使用した光ナノプリント法が好ましい。
【0087】
また、ナノインプリント法により、転写を繰り返すことができる。転写を繰り返すことで、(1)転写した凹凸部構造パターン転写物を複数個製造でき、及び/又は(2)凹凸部パターンが反転した反転転写型を得ることができる。
【0088】
<光学素子の作製方法>
本発明の凹部と凸部からなる連続構造を有する光学素子は、上記凹凸構造パターンを有する原版又はスタンパーから転写して、作製することができる。光学素子の作製方法として、ナノインプリント法が好ましい。ナノインプリント法の種類として、マイクロコンタクトプリント(ソフトリソグラフィー)、室温ナノインプリント、リバースナノインプリント、熱ナノインプリント、光(UV)ナノプリントが挙げられる。凹部と凸部からなる連続構造を形成する樹脂の種類として、光硬化組成物、熱硬化組成物、熱可塑組成物、ゾルゲル反応物等を挙げられるが、解像度、重ね合わせ精度、連続転写性の点で、光硬化組成物を使用した光ナノインプリント法がより好ましい。また、簡単で安価な装置で大量生産できる点で、熱可塑組成物を使用した熱ナノインプリント法が好ましい。熱ナノインプリント法の成形方法として、押出成形(エンボスロールの凹凸構造面を転写)、キャスト成形法(エンボスロールの凹凸構造面を転写)、プレス成形法、射出成形法等が好ましい。
【0089】
<光硬化組成物の塗布方法>
光ナノインプリント法における光硬化組成物の基材への塗布方法として、例えば、ロールコーター法、(マイクロ)グラビアコーター法、エアドクターコーター法、ブレ−ドコーター法、ナイフコーター法、ロッドコーター法、カーテン(フロー)コーター法、キスコーター法、ビードコーター法、キャストコーター法、ロータリースクリーン法、浸漬コーティング法、スロットオリフィスコーター法、バーコード法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法、押出コーター等が挙げられる。生産性を高め、大面積の光学素子を得るためには、ロールツーロール方式を用い、塗布方法は上記から適宜選択して、光学素子を含むフィルムロールを得ることが好ましい。
【0090】
<樹脂ロール>
また、ロールツーロール方式で製造された光学素子を含む樹脂フィルムロールは、幅10cm以上かつ長さ50m以上であることが好ましい。ロール幅は、10cm以上200cm以下がより好ましく、20cm以上200cm以下がさらに好ましく、50cm以上200cm以下が最も好ましい。また、ロール長さは、50m以上10000m以下がより好ましく、200m以上10000m以下がさらに好ましく、500m以上10000m以下が最も好ましい。樹脂フィルムロールの幅10cmかつ長さ50m以上にすることで、小型から大型までの多種多様な大きさの光学素子を、大量に提供することができる。ロール幅が200cmを超える場合、凹凸部を構成する組成物層の厚み均一性が低下する場合があり、ロール長が10000mを超える場合、ロール巻取機の軸ブレにより巻取精度が低下する場合や、ロール質量の増加によりロール巻取機の軸強度が不足して破損する場合がある。このため、上記幅及び長さの樹脂フィルムロールとすることが望ましい。
【0091】
<塗布する順序>
凹凸部を構成する組成物として、光硬化組成物を用いる場合、凹部と凸部からなる連続構造有する光学素子を作製する方法としては、基材に光硬化組成物を薄膜状に塗布した後、基材の光硬化組成物塗布面とスタンパーの凹凸構造面とを接触させることで、スタンパーの凹凸構造面と基材間に光硬化組成物を充填し、その後UV照射する方法がある。また、スタンパーの凹凸構造面に光硬化組成物を塗布して、スタンパーの凹凸構造内も充填した後、基材と接触させて、その後UV照射する方法がある。また、基材とスタンパーの凹凸構造面との両方に光硬化組成物を薄膜状に塗布した後、基材の光硬化組成物塗布面とスタンパーの凹凸構造面を接触させて、その後UV照射する方法がある。選択する塗布方法に応じて、塗布する順序は適宜選択することができる。
【0092】
<露光光源>
本発明の光学素子の製造の際の光硬化に用いる露光光源の種類としては、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、ケミカルランプ、UV−LED、無電極UVランプが好ましい。また、長時間露光時の発熱を抑える観点から、可視波長以上の波長をカットするフィルター(バンドパスフィルターを含む)を利用することが好ましい。
【0093】
露光光源の積算光量としては、300mJ/cm以上であることが好ましく、光硬化組成物の光硬化反応率を高くする目的で、800mJ/cm〜6000mJ/cmであることがより好ましく、光による樹脂劣化性を防ぐため、800mJ/cm〜3000mJ/cmであることがさらに好ましい。
【0094】
<保護フィルム>
本発明の光学素子の凹部と凸部からなる連続構造を有する面及び/又は凹部と凸部からなる連続構造を有しない面に対し、保護フィルムを貼合しても良い。保護フィルムを貼合することで、使用するために保護フィルムを剥がすまでの期間、凹部と凸部からなる連続構造形状を保護し、異物の付着を防止できる。保護フィルムに必要な性能は、1)剥離時に凹部と凸部からなる連続構造を有する面に、保護フィルムの粘着層が残らないこと、又は残っても反射率や透過率に影響を与えないこと、2)光学素子の特に凹部と凸部からなる連続構造を有する面を傷つけるような異物を含有しないこと、又は傷つけても反射率や透過率に影響を与えないことである。本発明の光学素子に対し、上記性能を持つ保護フィルムから任意に選択して用いることができる。
【0095】
<屈折率>
基材と凹凸部を構成する組成物層の屈折率差は、両者の界面での屈折や反射を低減するために、0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましく、0.02以下が最も好ましい。また、基材と凹凸部を構成する組成物層の間に、易接着性を有する中間層を加えても良い。中間層の屈折率を、基材と凹凸部を構成する組成物層それぞれの屈折率の間にすることで、中間層がない場合と比較し、干渉を低減でき、干渉縞の発生を抑制できる。
【0096】
また基材に粘着層が付与されている場合、基材と粘着層の屈折率差も、上記と同様な理由で、0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましく、0.02以下が最も好ましい。
【0097】
<全光線透過率、ヘーズ>
光学素子に透過性が必要な場合、凹凸部連続構造を有する光学素子のヘーズ、基材のみのヘーズ、及び光学素子のヘーズから基材のヘーズを引いた値(以下、Δヘーズとする。)は、片面のみに凹凸部が形成されている場合、それぞれ1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。特にΔヘーズを1.5%以下にするためには、上記屈折率差を0.2以下にする以外に、基材面に反射防止性能を有する凹凸形状を有する構造を付与することが有効である。Δヘーズを低下させることで、光学素子の全光線透過率を向上させることができる。
【0098】
ヘーズとは、全光線透過率に対する拡散透過率の比率で定義される。ヘーズが小さいことは、光が光学素子を透過した時の拡散光が少ないこと、言い換えると全光線透過率に対する直線透過率の比率が高いことを意味する。光学素子に透明な基材を使用した場合、界面で屈折や反射を低減できるためヘーズが減少し、全光線透過率が上昇するため、光学素子の見た目の透明性が高まる。
【0099】
<反射率>
反射防止性能は、正反射率、及び(正+拡散)反射率で評価することができる。これらの値は、いずれも低い方が好ましい。
【0100】
<用途>
本発明の光学素子は、上記に記載した特徴が活かすことができる目的又は用途で、任意に使用することができる。例えば、本発明の光学素子をディスプレイ装置用途に配設した場合、ヘーズが減少し全光線透過率が上昇するため、鮮明な画像を視認することができる。太陽電池に配設した場合、全光線透過率が上昇するため、光利用効率を向上させることができる。照明用途に配設した場合、同様に全光線透過率が上昇するため、光利用効率を向上させることができ、照度の向上又は消費電力の低減をすることができる。複写機用途に配設した場合、全光線透過率が上昇させ、反射率が低減できるので、複写精度の向上することができ、又は照度の向上による消費電力を低減することができる。
【0101】
(実施の形態2)
本実施の形態では上記実施の形態と異なる態様の光学素子について説明する。なお、光学素子の基本的な構成は、上記実施の形態と同様である。すなわち、本実施の形態に係る光学素子は、表面に成型された微細凹凸構造を有する。
【0102】
本実施の形態に係る光学素子は、高さと、対象領域の平面視において当該高さ以上の領域が占める面積の割合(以下、充填率と呼ぶ)との関係を示す曲線(以下、相関曲線と呼ぶ)において、変曲点を2以上有している。このように、高さと充填率との相関曲線において変曲点を2以上有することで、当該相関曲線が、高さの基準点と高さが最大となる点とを結ぶ直線に近づき、その傾きがなだらかになる。相関曲線の傾斜は、凹凸構造の傾斜に対応しており、なだらかな傾きの相関曲線は凹凸構造の傾斜がなだらかであることを意味する。このため、相関曲線において変曲点を2以上有するようにすることで、凹凸構造の傾斜をなだらかにして急峻な屈折率変化を抑制できる。これにより、反射防止性能が向上する。図11は、充填率及び変曲点について示す概念図である。図11Aは光学素子1の平面図であり、図11Bは図11AのB−B´断面図である。図11Cは高さと充填率との相関曲線を示す模式図である。図11A、Bに示すように、高さHaの充填率は、平面視における高さHa以上の領域Dの面積の和をS、対象領域の面積をSとして、S/Sで表される。また、変曲点とは、相関曲線を、高さxと充填率yの関数y=f(x)としたときに、f’(x)の増減が変化する点(増加が減少に転じる点、又は減少が増加に転じる点)をいう。例えば、図11Cにおいて、xがxより小さい領域ではf’(x)は単調に減少している(xが大きくなると接線の傾きが負方向に変化している)のに対し、xがxより大きい領域ではf’(x)は単調に増加している(xが大きくなると接線の傾きが正方向に変化している)。つまり、点(x,f(x))においてf’(x)の増減が変化している。このように、f’(x)の増減が変化する点(x,f(x))を変曲点と呼ぶ。なお、10nm以下の範囲における微細な形状変化は無視できる。
【0103】
また、本実施の形態に係る光学素子は、凹部の高さ(すなわち、凹部の底の高さ)の標準偏差が3以上20以下であることが好ましい。凹部の高さをこの範囲にすることで、反射率の防止特性を向上させることができる。さらに、凸部の高さ(すなわち、凸部の頂点の高さ)の標準偏差が3以上20以下であるとより好ましい。凸部の高さをこの範囲にすることで、反射率の防止特性をより向上させることができる。なお、凹部の高さ及び/又は凸部の高さの標準偏差を3以上20以下とする場合、相関曲線と、相関曲線において高さの基準点及び高さが最大となる点を結ぶ直線とを比較すると、高さの基準点付近及び高さが最大となる点付近とでは相関曲線と直線とのずれが大きくなる。そこで、前記のように相関曲線中に停留点が2以上現れるように凹凸構造を形成することで、相関曲線と直線とが近づき、急峻な屈折率変化の無い、なだらかな相関曲線を得る事が可能となるため反射防止性能が向上する。
【0104】
なお、本実施の形態に係る光学素子を生産する場合、特に、ロールツーロール方式を用いるのが好ましい。ロールツーロール方式は、凸部の高さの標準偏差及び凹部の高さの標準偏差をそれぞれ20以下に制御し、生産性を高めると言う点においてバッチ方式より優れるためである。
【0105】
以上、本実施の形態のように、高さと充填率との相関曲線において変曲点が2以上存在する凹凸構造により、可視〜近赤外の広い波長領域、及び広い入射光角度範囲において、反射防止性能に優れた光学素子を提供できる。本実施の形態の構成は、他の実施の形態の構成と組み合わせて用いることができる。
【0106】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
上記実施の形態に係る光学素子の特性を測定、評価した。以下、光学素子の概略及び評価された特性について述べる。
【0107】
(凹凸構造を構成する組成物)
1分子中に3個以上のアクリル基及び/又はメタクリル基を含有する単量体成分としてトリメチロールプロパントリアクリレートを32質量部、N−ビニル基を含有する単量体成分としてN−ビニル−2−ピロリドン(NVP)を32質量部、その他の単量体成分として1,9−ノナンジオールジアクリレートを33質量部、光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、ダロキュアTPO)を2質量部、アクリル基を含有するシリコン化合物としてシリコンジアクリレートを1質量部配合し、孔径1μmのフィルターを用いて異物をろ過して凹凸構造を構成する組成物を作製した。得られた凹凸構造を構成する光硬化組成物の50℃での粘度は5mPa・sであった。当該粘度は、E型粘度計(東機産業製、型番:RE550L)を用い、50℃で測定した。
【0108】
(原版の作製方法)
均一な厚みのポジ型フォトレジスト層が形成されているガラスプレートへ、レーザ干渉露光法により、ビームスプリッターで分けられた2本のレーザ光を照射し、干渉稿を得た。次に、ガラスプレートを60°回転して、同様に干渉稿を得た。その後、フォトレジストを現像し、凹部と凸部からなるモスアイ状の連続構造を有する原版を作製した。当該原版において、凹部及び凸部がそれぞれ六方格子パターンに配列されていた。
【0109】
(スタンパーロールA)
上記原版から、電鋳法により凹凸構造を転写して、ニッケルメッキされたモスアイ状の凹凸連続構造を有するスタンパー(平板状、厚み0.2mm)を作製した。当該スタンパーにおいて、凹凸構造のピッチは240nm、高さは310nmであった。また、当該スタンパーにおいて、凹部及び凸部がそれぞれ六方格子パターンに配列されていた。その後、当該スタンパーを円筒状に加工して、凹部と凸部からなるモスアイ状連続構造を有するスタンパーロールAを得た。該スタンパーロール表面には、離型剤(ダイキン工業株式会社製、デュラサーフHD−2101Z)を用いて、離型処理を行った。
【0110】
(光学素子の作製方法)
グラビアコーターを用いて、上記凹凸構造を構成する組成物を透明基材へ、幅200mm、厚み0.5μmになるように塗布した。塗布は、ロールツーロール方式で連続的に行った。透明基材としてTACフィルム(富士フィルム製、フジタック、厚み80μm、幅250mm)を用いた。その後、TACフィルムの凹凸構造を構成する組成物塗布面と上記スタンパーロールAのモスアイ状連続構造面とを接触させ、フィルム側からメタルハライドランプ(ウシオ電機製、型番:UVC−2519−1MNSC7−MS01)を用い、光量1J/cmでUV光を照射させた。これにより、上記凹凸構造を構成する組成物を光硬化させた。その後、硬化物をスタンパーロールから剥離し、スタンパーロールのモスアイ状連続構造面が転写されたモスアイ状連続構造面を有するTACフィルムロール(長さ250m)を得た。上記モスアイ状連続構造面を有するTACフィルムロールの作製において、UV光照射時のスタンパーロールの表面温度は約50℃で安定しており、また光硬化反応率は80%以上あることを、IRスペクトル(アクリル基及び/又はメタクリル基の2重結合に基づく吸収)で確認した。
【0111】
上述のようにして得られた光学素子の特性を評価した。評価は、次のように行った。
【0112】
(正反射率の角度及び波長依存性測定)
光学素子の凹凸構造が形成されている面の裏面(凹凸構造が形成されていない面)を、黒色塗料スプレーを用いて黒色に塗工した後、凹凸構造が形成されている面(黒色非塗工面)に関して正反射率を測定した。測定は、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型式:U−4100)を用いて行った。具体的には、S波偏光光又はP波偏光光を入射させた場合それぞれについて、入射光角度20°〜60°(20°、30°、40°、45°、50°、55°、60°)及び波長範囲400〜1000nm(1nm毎)における正反射率を測定した。S波偏光光の正反射率とP波偏光光の正反射率の平均値を、各入射光角度・波長での正反射率とした。
【0113】
((正+拡散)反射率)
光学素子の凹凸構造が形成されている面の裏面(凹凸構造が形成されていない面)を、黒色塗料スプレーを用いて黒色に塗工した後、凹凸構造が形成されている面(黒色非塗工面)に関して(正+拡散)反射率を求めた。測定は、分光測色計(コニカミノルタセンシング株式会社製、型式:CM−2600d)を用いて行った。具体的には、拡散光を入射させた場合の受光角度8°及び波長範囲360〜740nmにおける、(正+拡散)反射率を10nm毎に測定した(測定スポット径8mmφ)。
【0114】
(ヘーズ測定)
基材が透明の場合、凹凸構造が形成されている光学素子、及び基材について、JIS K7136に準拠したヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、型式:NDH2000)を用いて、それぞれのヘーズを測定値した。また、光学素子のヘーズから基材のヘーズを引いた値を、Δヘーズとした。
【0115】
(全光線透過率)
基材が透明の場合、凹凸構造が形成されている光学素子、及び基材について、JIS K7136に準拠したヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、型式:NDH2000)を用いて、それぞれの全光線透過率を測定値した。
【0116】
(高さ測定)
凹部と凸部の形状を、走査型プローブ顕微鏡(Digital Instruments製、型式:Nano Scope IIIa)を用いて測定した。カンチレバーとして、Nano WORLD社製、型式:SSS−NCH−10を用い、スキャンレートを0.5Hzとし、Tappingモードで測定を行った。測定領域は、2.0μm×2.0μmとした。また、測定点数は256点×256点(合計65536点)とした。これにより、各測定点の高さと、対応する平面方向の位置情報を得た。
【0117】
次に、得られた測定値を解析モードにて、Flatten Order0で傾き補正し、Bearingで、凸部の高さ、凹凸構造の高さの平均偏差、尾根の高さ、等を算出した。ここで、凸部の高さは200nm以上であることを確認した。また、凹凸構造の高さの平均偏差は、凹部の最下点の高さを基準(高さ=0nm)として、測定領域を高さ方向に50nm毎の区分に分画した時に生じる分画数(区分数)をnとし、第iの分画(第iの区分)に係る面積が、測定領域の面積に対して占める比率(分画比率)をHiとし、全分画における比率Hiの総計をnで除した値をHaveとして下記式から算出した。なお、分画比率は、小数第2位を四捨五入して小数点以下1桁までを有効数字として求めた。また、分画比率がゼロである場合、すなわち小数第2位を四捨五入する前の分画比率が0.50%未満の場合は、分画比率なしと扱った。
【数3】

【0118】
(凹部高さの標準偏差)
上記の走査型プローブ顕微鏡を用いて測定した凹部と凸部の形状に関するデータを基に、近接する40個の凹部の底の高さを取得し、その標準偏差を求めた。
【0119】
(凸部高さの標準偏差)
上記の走査型プローブ顕微鏡を用いて測定した凹部と凸部の形状に関するデータを基に、上記凹部高さの標準偏差を算出する際に対象とした領域において近接する40個の凸部の頂部の高さを取得し、その標準偏差を求めた。
【0120】
(凸部高さと充填率の相関曲線)
走査型プローブ顕微鏡から得た微細凹凸構造の高さに関するデータをテキスト変換で抜き出して、高さが最小となる位置が基準面となるようにデータを補正した後、高さを10nm毎の区分に区切り、各区分の面積と、対象領域全体の面積から、高さと充填率との関係を示す相関曲線を得た。ここでは、65536個のテキストデータに対してMicrosoft社製Excel2003の分析ツールにあるヒストグラム解析を実施し、その累積度数を相関曲線とした。なお、このような離散データ(ここでは、10nm区分の離散データ)を連続関数に近似して相関曲線を得るために、多項近似法、離散データを直線で内挿する方法、その他の一般的な近似法を用いることができる。
【0121】
(ピッチ測定)
表面SEM顕微鏡観察によって、高さ200nm以上の凸部の頂点(最高点)と、該凸部の頂点と最も近接する高さ200nm以上の凸部の頂点との距離をピッチとして測定した。なお、凸部に頂点がなく平面が存在する場合、該平面の重心を頂点とした。また、表面SEM写真より、尾根の有無の判断や、単位格子の面積(Sall)を求めた。
【0122】
上記項目に関する評価結果を、表1に示す。なお、凹凸構造を説明する上述の図6〜図8は実施例1において作製された光学素子の凹凸形状に相当する。図6及び図8から、尾根23の高さは、凸部の頂点20の高さの約50%であることが分かる。また、図10Aに、凸部の最高点位置を0nmとして凹凸部領域の深さ分布を示す。また、図12に、正反射率の波長依存性及び入射光角度依存性を示す。図12から、広い波長域において反射率が低く抑えられており、入射光角度が大きい場合でも高い反射防止性能が得られることが分かる。また、図18〜図21に、正反射率の入射光角度依存性を示す。図18〜図21は、それぞれ、入射光の波長が、波長465nm(青色光)、525nm(緑色光)、630nm(赤色光)、900nm(近赤外光)の場合の入射光角度依存性を示している。図18から、波長465nm(青色光)の場合、入射角が60°までの範囲において極めて高い反射防止性能(反射率1%以下)が得られていることが分かる。同様に、図19から、波長525nm(緑色光)の場合、入射角が60°までの範囲において極めて高い反射防止性能(反射率1%以下)が得られていることが分かる。また、図20から、波長630nm(赤色光)の場合、入射角が55°までの範囲において極めて高い反射防止性能(反射率1%以下)が得られており、入射角が55°〜60°の範囲においても高い反射防止性能(反射率2%以下)が得られていることが分かる。また、図21から、波長900nm(近赤外光)の場合、入射角が50°までの範囲において高い反射防止性能(反射率2%以下)が得られており、入射角が50°〜60°の範囲においても必要な反射防止性能(反射率5%以下)が得られていることが分かる。また、図22に、(正+拡散)反射率の波長依存性を示す。図22から、広い波長域において(正+拡散)反射率が低く抑えられており、600nm以上の長波長領域においても高い反射防止性能が得られることが分かる。図23に、可視光領域(400nm〜800nm)の、垂直方向0°から60°までの入射角における反射率を示すシミュレーション結果を示す。図23からも、広い波長域、広い入射光角度範囲において高い反射防止性能が得られており、特に、40°以上の高角度の入射であっても十分な反射防止性能が得られることが分かる。図26に、高さと充填率との相関曲線を示す。なお、図26に示す相関曲線において変曲点の数は4個であった。
【0123】
(実施例2〜3、比較例1〜3)
実施例1で使用したスタンパーロールAの代わりに、モスアイ状連続構造の形状、配列パターンが異なるスタンパーロールB、C、D、E、Fを用いて、それぞれのスタンパーロールから、モスアイ状連続構造面を有するTACフィルムロールを得た。作製条件は、スタンパーロールが異なる点を除き、全て同一とした。また、得られた光学素子に対して、実施例1と同様の特性評価を行った。ここで、凸部の高さは200nm以上であることを確認した。評価結果を表1に示す。また、図10A、図10Bに、凸部の最高点位置を0nmとして凹凸構造の深さ分布を示す。また、図13〜図17に、正反射率の波長依存性及び入射光角度依存性を示す。図13〜図17から、実施例2、3では広い波長域において反射率が低く抑えられており、入射光角度が大きい場合でも高い反射防止性能が得られることが分かる。また、図18〜図21に、正反射率の入射光角度依存性を示す。図18〜図21は、それぞれ、入射光の波長が、波長465nm(青色光)、525nm(緑色光)、630nm(赤色光)、900nm(近赤外光)の場合の入射光角度依存性を示している。図18〜図21から、実施例2、3では実施例1と同様の高い反射防止性能が得られていることが分かる。特に、実施例3は入射光角度が大きい場合の反射防止性能において極めて優れている。また、図22に、(正+拡散)反射率の波長依存性を示す。図22から、実施例2、3でも、広い波長域において(正+拡散)反射率が低く抑えられていることが分かる。図27〜図31に高さと充填率の相関曲線を示す。なお、図27に示す相関曲線(実施例2)及び図28に示す相関曲線(実施例3)において変曲点の数はそれぞれ4個であった。
【表1】

【0124】
(比較例4〜5)
六方格子のシヌソイダル形状の光学素子について、シミュレーションにより反射率を求めた。当該反射率のスペクトルは、RCWAシミュレーション(RSoft社DiffractMOD)によって得た。
【0125】
凹凸構造が直線状に配列された複数のシヌソイダル形状(凹凸構造のピッチと高さは互いに等しい)を60度の角度で交差するように重ね、高さの値を合計することで、凹部の底と凸部の頂点の高さにばらつきの無い6方格子のシヌソイダル形状(比較例4)の基本構造を作成した。得られた形状において、ピッチと高さは、実施例1の平均ピッチ及び凹凸の平均高さに合わせた。シミュレーションにおいて、作成した形状を、高さ方向(Z軸方向)に2nmごとに分割した。また、分割された各形状を構成する媒質の屈折率を1.5として、各断面における形状の充填率から屈折率プロファイルを作成してシミュレーションに用いた。高さ方向に垂直な面内(XY面)での計算領域は、長軸方向(X方向)に0.76マイクロメートル、短軸方向(Y方向)に1マイクロメートルとし、計算領域内におよそ16個の凸部と16個の凹部を収めた。X軸とY軸のHarmonicsを5に設定し、IndexResolutionを0.01とした。Z軸のIndexResolutionは0.002とした。入射光の偏光を45°とし、入射面はXZ面に設定した。Z軸計算領域の界面での高次の回折光を含むtotal反射率を、波長400nmから800nmまで100nm刻みで、かつ、入射角0°から60°まで10°刻みで計算し、図24の反射率のスペクトルを得た。
【0126】
凹部の底と凸部の頂点の高さにばらつきのあるシヌソイダル形状(比較例5)は、上記のバラつきの無いシヌソイダル形状(比較例4)を基に、実施例1において互いに隣接する凹部と凸部の高さのばらつきと同程度になるようにシヌソイダル形状の対応する凹部と凸部の高さを調整して作成した。そして、同様にバラつきのあるシヌソイダル形状から屈折率プロファイルを作成し、同一の計算条件によって、図25の反射率のスペクトルを得た。図24と図25との比較により、凹部の底の高さと凸部の頂点の高さが揃っている比較例4より、凹部の底と凸部の頂点の高さがばらついている比較例5の方が反射防止性能に優れていることが分かる。また、図23と図24との比較により、ピッチ、凹部と凸部の高さ、凹部と凸部の高さばらつきなどが同じ条件では、相関曲線における変曲点が4個の実施例1のほうが、変曲点が1個の比較例4より反射防止性能に優れていることが分かる。
【0127】
以上、実施例と比較例との比較により、凸部の高さが200nm以上であり、凸部のピッチ(平均値)が260nm未満であり、高さ250nm以上の領域の比率(面積比)が5%以上であり、凹凸部の領域の高さの平均偏差が3以上8以下である実施例の構成では、可視〜近赤外の広い波長領域、及び広い入射光角度範囲において、反射防止性能に優れることが分かる。
【0128】
また、凸部の高さが200nm以上であり、凸部のピッチ(平均値)が260nm未満であり、高さ250nm以上の領域の比率(面積比)が5%以上であり、凹凸部の領域の高さの平均偏差が3以上8以下であり、高さと充填率との相関曲線において変曲点が2以上存在する実施例の構成では、可視〜近赤外の広い波長領域、及び広い入射光角度範囲において、反射防止性能に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明によれば、可視〜近赤外の広い波長領域、及び広い入射光角度範囲において、反射防止性能に優れる光学素子が得られる。また、本発明の上記光学素子を含む樹脂フィルムロールは、ロールツーロール方式により、生産性良く作製することできる。本発明の光学素子は、表示装置、照明装置、太陽電池、複写機などに配設することができる。
【符号の説明】
【0130】
10 光学素子
11 頂点
12 底
13 基材
14 尾根
20 頂点
21 単位格子
22 底
23 尾根
30 凹部と尾根からなる断面
31 凹部と凸部からなる断面
32 凸部と尾根からなる断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、複数の凹部と複数の凸部からなる凹凸部を有し、
前記凹凸部内の所定領域において、
前記複数の凸部の最高点は、いずれも凹部の最低点から200nm以上の高さであり、
前記複数の凸部のいずれかの最高点と、該凸部に最も近接する凸部の最高点との間隔が、平面視において260nm未満であり、
前記平面視における前記所定領域の面積に対し、前記最低点から250nm以上の高さを有する領域が前記平面視において占める面積の比率が5%以上であり、
前記凹凸部を前記最低点から高さ方向に50nm毎の区分に分画した時に生じる分画数をn、前記所定領域における全分画が前記平面視において占める面積に対して第iの分画が平面視において占める面積の比率をHi、全分画における比率Hiの総計をnで除した値をHaveとしたときに、下記式で表される高さの平均偏差が3以上8以下であることを特徴とする光学素子。
【数1】

【請求項2】
前記凸部と、該凸部と隣接する凸部との間に、尾根が存在することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記凸部の高さの平均値に対する前記尾根の高さの平均値が、20%以上80%以下であることを特徴とする請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記凸部と、該凸部と最も近接する複数の凸部からなる任意の1単位格子中、尾根が4個又は8個存在することを特徴とする請求項2又は3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記凹部と前記凸部からなる構造の単位格子において、
前記単位格子の面積(Sall)と、前記最下点から+10nm以下の高さ領域の面積の総和(Sb)との比率(Sb/Sall)が、10%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記凸部の配列パターンが、六方格子であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記凸部の最高点と、該凸部と最も近接する6個の凸部の最高点との間隔のうち最大値と最小値との差を、当該間隔の平均値で除した値[(Pmax−Pmin)/Pave]が20%以下である請求項6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記凸部の配列パターンが、四方格子であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項9】
前記凸部の最高点と、該凸部と最も近接する4個の凸部の最高点との間隔のうち最大値と最小値との差を、当該間隔の平均値で除した値[(Pmax−Pmin)/Pave]が20%以下であることを特徴とする請求項8に記載の光学素子。
【請求項10】
前記凹部又は前記凸部を含む凹凸部を構成する組成物層の厚みが、0.4μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項11】
1分子中に3個以上のアクリル基及び/又はメタクリル基を有する1種類以上の単量体成分20〜60質量部、N−ビニル基を有する単量体成分5〜40質量部、及びその他単量体成分0〜75質量部からなる凹凸部を構成する組成物100質量部を、硬化させてなることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項12】
前記凹凸部を構成する組成物が、光硬化組成物であることを特徴とする請求項10又は11に記載の光学素子。
【請求項13】
光硬化前の50℃での粘度が100mPa・s以下である光硬化組成物を光硬化させたことを特徴とする請求項12に記載の光学素子。
【請求項14】
請求項1から13いずれか1項に記載の光学素子を含む幅10cm以上、かつ長さ50m以上の樹脂フィルムロール。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか1項に記載の光学素子を配設した表示装置。
【請求項16】
請求項1から13のいずれか1項に記載の光学素子を配設した照明装置。
【請求項17】
請求項1から13のいずれか1項に記載の光学素子を配設した太陽電池。

【図1】
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【図3】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【公開番号】特開2012−118501(P2012−118501A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183747(P2011−183747)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】