説明

光学補償フィルム、偏光板及び液晶表示装置

【課題】液晶表示装置に用いた場合に視野角の改良に寄与するとともに、厳しい条件下で使用されても光漏れなどによる表示品位の低下が生じにくい液晶表示装置の提供を可能とする光学補償フィルムの製造方法の提供。
【解決手段】以下(1)〜(3)の工程を含む光学補償フィルムの製造方法:(1)エステル基を有する環状オレフィンモノマーを含む重合成分を重合して得られる環状ポリオレフィンを含有する組成物から形成された層上に棒状液晶化合物を含有する組成物を塗布する工程、(2)前記の棒状液晶化合物を含有する組成物を加熱して前記棒状液晶化合物の分子をネマチック配向状態とする工程、および(3)紫外線照射により前記ネマチック配向状態を固定し、前記分子が垂直配向の状態に固定化されている光学異方性層を得る工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶表示装置の技術分野に関し、特にIPSモードやFFSモードの液晶表示装置等に関する。又、本発明は、IPSモード等の液晶表示装置の表示特性の改善、特に視野角の拡大に寄与する光学補償フィルム、及びそれを用いた偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置としては、2枚の直交した偏光板の間に、ネマチック液晶をツイスト配列させた液晶層を挟み、電界を基板に対して垂直な方向にかける方式、いわゆるTNモードが広く用いられている。この方式では、黒表示時に液晶が基板に対して立ち上がるために、斜めから見ると液晶性化合物による複屈折が発生し、光漏れが起こる。この問題に対して、液晶性化合物がハイブリッド配向したフィルムを用いることで、液晶セルを光学的に補償し、この光漏れを防止する方式が実用化されている。しかし、液晶性化合物を用いても液晶セルを問題なく完全に光学的に補償することは非常に難しく、画面下方向での諧調反転が抑えきれないという問題を生じていた。
【0003】
かかる問題を解決するため、横電界を液晶に対して印加する、いわゆるIPSモードやFFSモードによる液晶表示装置や、誘電率異方性が負の液晶を垂直配向してパネル内に形成した突起やスリット電極によって配向分割した垂直配向(VA)モードが提案され、実用化されている。近年、これらのパネルはモニター用途に留まらず、テレビ用途として開発が進められており、それに伴って画面の輝度が大きく向上してきている。このため、これらの動作モードで従来問題とされていなっかった、黒表示時の対角位斜め入射方向での僅かな光漏れが表示品質の低下の原因として顕在化してきた。
【0004】
この色調や黒表示の視野角を改善する手段の一つとして、液晶層と偏光板の間に複屈折特性を有する光学補償材料を配置することがIPSやFFSモードにおいても検討されている。例えば、傾斜時の液晶層のレタデーションの増減を補償する作用を有する光軸を互いに直交した複屈折媒体を基板と偏光板との間に配置することで、白表示又は中間調表示を斜め方向から直視した場合の色付きが改善できることが開示されている(特許文献1参照)。又、負の固有複屈折を有するスチレン系ポリマーやディスコティック液晶性化合物からなる光学補償フィルムを使用した方法(特許文献2、3、4参照)や光学補償フィルムとして複屈折が正で光学軸がフィルムの面内にある膜と複屈折が正で光学軸がフィルムの法線方向にある膜とを組み合わせる方法(特許文献5参照)、レタデーションが二分の一波長の二軸性の光学補償シートを使用する方法(特許文献6参照)、偏光板の保護膜として負のレタデーションを有する膜を使い、この表面に正のレタデーションを有する光学補償層を設ける方式(特許文献7参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−80424号公報
【特許文献2】特開平10−54982号公報
【特許文献3】特開平11−202323号公報
【特許文献4】特開平9−292522号公報
【特許文献5】特開平11−133408号公報
【特許文献6】特開平11−305217号公報
【特許文献7】特開平10−307291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の光学補償フィルムはポリカーボネートなどの光弾性係数が比較的大きいポリマーフィルムを延伸処理したものであり、これらの光学補償フィルムは、高温高湿等、厳しい環境下で使用されると、フィルムに応力及び歪みが発生し、その箇所に位相差が発生しやすい。この位相差により、液晶表示装置の周辺部に光漏れ(透過率の上昇)が生じ、液晶表示装置の表示品位が低下する。特に、最近の液晶テレビの大型化に伴い、画面周辺の光漏れはより顕著に現れる。又、従来の補償方式では、複数枚の光学補償フィルムを必要とし、高コスト化や歩留まりの低下を招いていた。
本発明は前記諸問題に鑑みなされたものであって、液晶表示装置、特にIPSモードやFFSモードの液晶表示装置に用いた場合に視野角の改良に寄与し、かつ厳しい条件下で使用される前記液晶表示装置に適用されても光漏れなどによる表示品位低下を生じさせない光学補償フィルム及び偏光板を提供することを課題とする。又、本発明は、視野角に依存したコントラストの低下や色味の変化が小さく、かつ厳しい条件下で使用された場合に生じる光漏れによる表示品位の低下が軽減された耐久性に優れる液晶表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]面内のレタデーション(Re)が20〜400nmであり、遅相軸を傾斜軸として法線方向から40°傾斜させて測定したレタデーションをRe(40)としたときRe(40)/Reが0.95〜1.06であり、かつ光弾性係数の絶対値が30×10-122/N以下である光学補償フィルム。
[2]面内のレタデーション(Re)が20〜150nmである[1]に記載の光学補償フィルム。
【0008】
[3]面内のレタデーションが0〜10nmでありかつ厚さ方向のレタデーションが−400〜−80nmである第1の光学異方性層と、面内のレタデーションが20〜150nmでありかつ厚さ方向のレタデーションが100〜300nmである第2の光学異方性層とを含む[1]又は[2]に記載の光学補償フィルム。
[4]セルロースアシレート又は環状ポリオレフィンを含有する光学異方性層を含む[1]〜[3]のいずれか1項に記載の光学補償フィルム。
[5]前記環状ポリオレフィンが、エステル基を有する環状オレフィンモノマーを含む重合成分を重合して得られる、側鎖にエステル基を有する環状ポリオレフィンである[4]に記載の光学補償フィルム。
【0009】
[6]液晶化合物を含有し、該液晶化合物の配向状態が固定化されている光学異方性層を含む[1]〜[5]のいずれか1項に記載の光学補償フィルム。
[7]前記第1の光学異方性層が、棒状液晶化合物を含有する組成物からなり、該棒状液晶化合物の分子が前記光学異方性層面に対して実質的に垂直に配向しており、その配向状態が固定化されている[3]に記載の光学補償フィルム。
[8]偏光膜及び[1]〜[7]のいずれか1項に記載の光学補償フィルムを有する偏光板。
【0010】
[9]前記偏光膜の吸収軸と前記光学補償フィルムの面内の遅相軸とが実質的に平行又は直交となるように積層された[8]に記載の偏光板。
[10]前記偏光膜と前記光学補償フィルムとの間には実質的に等方的な粘接着層及び/又は実質的に等方的な保護フィルムのみが含まれる[8]又は[9]に記載の偏光板。
[11]前記透明保護フィルムが、セルロースアシレート又は環状ポリオレフィンを含むフィルムであり、面内のレタデーションが0〜10nm、厚さ方向のレタデーションが−20〜20nmである[10]に記載の偏光板。
[12]液晶セルと、請求項1〜7のいずれかの光学補償フィルム、及び/又は、請求項8〜11のいずれか1項に記載の偏光板を含む液晶表示装置。
[13]前記液晶セルは、一対の基板と、該一対の基板に挟持された液晶分子が黒表示時に基板に対して実質的に平行に配向する液晶層とを有する液晶セルであり、該液晶セルの遅相軸方向と前記光学補償フィルムの遅相軸方向が実質的に平行又は直交となるように配置された[12]に記載の液晶表示装置。
【0011】
[14]前記一対の基板の一方の基板の外側に、前記光学補償フィルムが偏光膜より基板に近くなるように配置され、他方の基板の外側にさらに第2の偏光膜を有し、双方の偏光膜の吸収軸が互いに直交している[12]又は[13]に記載の液晶表示装置。
[15]前記第2の偏光膜と前記基板の間には、実質的に等方的な粘接着層及び/又は実質的に等方的な透明保護フィルムのみが含まれる[14]に記載の液晶表示装置。
[16]前記透明保護フィルムが、セルロースアシレート又は環状ポリオレフィンを含むフィルムであり、面内のレタデーションが0〜10nm、厚さ方向のレタデーションが−20〜20nmである[15]に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光学補償フィルムは、液晶表示装置における光漏れなどによる表示品位の低下の軽減に寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の光学補償フィルム、偏光板及び液晶表示装置の実施形態について順次説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本明細書において、「平行」、「直交」とは、厳密な角度±10゜未満の範囲内であることを意味する。この範囲は厳密な角度との誤差は、±5゜未満であることが好ましく、±2゜未満であることがより好ましい。又、「実質的に垂直」とは、厳密な垂直の角度よりも±20゜未満の範囲内であることを意味する。この範囲は厳密な角度との誤差は、±15゜未満であることが好ましく、±10゜未満であることがより好ましい。又、「遅相軸」は、屈折率が最大となる方向を意味する。
【0015】
本明細書において「偏光板」とは、特に断らない限り、長尺の偏光板及び液晶装置に組み込まれる大きさに裁断された(本明細書において、「裁断」には「打ち抜き」及び「切り出し」等も含むものとする)偏光板の両者を含む意味で用いられる。又、本明細書では、「偏光膜」及び「偏光板」を区別して用いるが、「偏光板」は「偏光膜」の少なくとも片面に該偏光膜を保護する透明保護膜を有する積層体を意味するものとする。
【0016】
本明細書において、Re、Rthは各々、ある波長λnmにおける面内のレタデーション及び厚さ方向のレタデーションを表す。測定波長λnmは可視光領域の範囲、具体的には、400〜800nmの範囲であれば、いずれの波長でもよいが、400〜750nmの範囲内であることが好ましく、400nm〜700nmの範囲内であることがさらに好ましい。本明細書においては特に断わらない限り、Re、Rthは、530〜600nmで測定した値(またはこの値をもとに算出される値)を意味するものとする。面内のレタデーション(Re)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される値である。測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRthは算出される。
【0017】
Rthは前記Reを、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレタデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレタデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレタデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値(d)を基に、以下の式(1)及び式(2)よりRthを算出することもできる。
【0018】
【数1】

【0019】
上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレタデーション値を表す。
式(1)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。
式(2) Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRthは算出される。Rthは前記Reを、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値をもとにKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
【0020】
また、本明細書において、光弾性係数とは以下のようにして求めた値を示す。フィルムに荷重を加えながら、フィルム面内のレタデーション(Re)を測定し、これをフィルムの厚さ(d)で割ってΔn(=Re/d)を求める。荷重を変えながらΔnを求め、荷重−Δn曲線を作成して、その傾きを光弾性係数とした。荷重を加えたときのReは、M−150やM−220(日本分光製)、APE−100(島津製作所製)等のエリプソメーターを用いることで測定できる。
【0021】
本発明の光学補償フィルムの諸特性、作製に用いられる材料、及び作製方法等について詳細に説明する。
[光学補償フィルム]
本発明の光学補償フィルムは、Reが20〜400nmであり、遅相軸を傾斜軸として法線方向から40°傾斜させて測定したレタデーションをRe(40)としたとき、Re(40)/Reが0.95〜1.06であり、光弾性係数の絶対値が30×10-122/N以下である。
本発明の一つの態様の光学補償フィルムは、Reは150〜400nmであることが好ましく、160〜350nmであることがさらに好ましく、170〜300nmであることが最も好ましい。Re(40)/Reは0.96〜1.05であることがより好ましく、0.97〜1.04であることがさらに好ましい。光弾性係数は20×10-122/N以下であることがより好ましく、10×10-122/N以下であることがさらに好ましい。
また、該光学補償フィルムのRthは−120〜120nmであることが好ましく、−105〜105nmであることがより好ましく、−90〜90nmであることが最も好ましい。さらに、Nz値を下記式で定義したとき、Nzは0.2〜0.8であることが好ましく、0.3〜0.7であることがより好ましい。
Nz=0.5+Rth/Re
【0022】
本発明の異なる態様の光学補償フィルムは、Reが20〜150nmであることが好ましく、30〜120nmであることがさらに好ましく、40nm〜100nmであることが最も好ましい。Re(40)/Reは0.96〜1.05であることがより好ましく、0.97〜1.04であることがさらに好ましい。光弾性係数は20×10-122/N以下であることがより好ましく、10×10-122/N以下であることがさらに好ましい。
また、該光学補償フィルムのRthは−45〜45nmであることが好ましく、−36〜36nmであることがより好ましく、−30〜30nmであることが最も好ましい。さらに、上記式で定義されるNzは、0.2〜0.8であることが好ましく、0.3〜0.7であることがより好ましい。
かかる態様の光学補償フィルムの場合、該光学補償フィルムは下記に記載する第1の光学異方性層及び第2の光学異方性層を少なくとも含むことが好ましい。
【0023】
[第1の光学異方性層]
本発明の光学補償フィルムに含まれる第1の光学異方性層は面内のレタデーションは、0〜10nmであることが好ましく、0〜5nmであることがさらに好ましく、0〜3nmであることが最も好ましい。さらに、該光学異方性層の厚さ方向のレタデーションは、−400〜−80nmであることが好ましく、−360〜−100nmであることがさらに好ましく、−320〜−120nmであることが最も好ましい。
【0024】
第1の光学異方性層は、液晶化合物を含有する組成物から形成されていることが好ましい。前記液晶化合物は棒状液晶化合物であることが好ましい。棒状液晶化合物を用いた場合は、前記光学異方性層において棒状分子が垂直配向しているのが好ましい。
【0025】
液晶性化合物の種類については特に制限されない。本発明の光学補償フィルムに含まれる第1の光学異方性層は、例えば、低分子液晶性化合物を液晶状態においてネマチック配向に形成後、光架橋や熱架橋によって固定化して作製してもよい。又、高分子液晶性化合物を液晶状態においてネマチック配向に形成後、冷却することによって当該配向を固定化して作製してもよい。なお本発明では、光学異方性層の作製に液晶性化合物が用いられるが、作製の過程で液晶性化合物は重合等によって固定された状態で光学異方性層に含有される場合が多く、最終的には液晶性を示す必要はない。重合性液晶性化合物は、多官能性重合性液晶でもよいし、単官能性重合性液晶性化合物でもよい。
【0026】
本発明の光学補償フィルムに含まれる第1の光学異方性層において、液晶化合物の分子は、所定の配向状態、好ましくは垂直配向の状態に固定されていることが好ましい。棒状液晶性化合物が実質的に垂直とは、フィルム面と棒状液晶性化合物のダイレクターとのなす角度が70°〜90°の範囲内であることを意味する。80°〜90°がより好ましく、85°〜90°がさらに好ましい。
【0027】
本発明の光学補償フィルムに含まれる第1の光学異方性層は、支持体上に形成してもよい。支持体として後述する第2の光学異方性層を用いて第1の光学異方性層を設けてもよいし、仮の支持体上に第1の光学異方性層に設けた後、偏光層や第2の光学異方性層に転写してもよいし、光学的に等方性のフィルムを支持体として用いてもよい。偏光層又は第2の光学異方性層との積層体は、光学補償フィルムとして、液晶表示装置等に組み込むことができる。
【0028】
前記第1の光学異方性層は、棒状液晶性化合物等の液晶性化合物と、所望により、下記の重合開始剤や配向制御剤や他の添加剤を含む組成物から形成することができる。
【0029】
[棒状液晶性化合物]
本発明では、棒状液晶性化合物を用いて第1の光学異方性層を形成することが好ましい。棒状液晶性化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。棒状液晶性化合物を重合によって配向を固定することがより好ましい。液晶性化合物には活性光線や電子線、熱などによって重合や架橋反応を起こしうる部分構造を有するものが好適に用いられる。その部分構造の個数は好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜3個である。重合性棒状液晶性化合物としては、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、特開2001−328973号公報、特開2004−240188号公報、特開2005−99236号公報、特開2005−99237号公報、特開2005−121827号公報、特開2002−30042号公報などに記載の化合物を用いることができる。
【0030】
[垂直配向促進剤]
液晶性化合物を均一に垂直配向させるためには、配向膜界面側及び空気界面側において液晶性化合物を垂直に配向制御することが必要である。この目的のために、配向膜に、排除体積効果、静電気的効果又は表面エネルギー効果によって液晶性化合物を垂直に配向させる作用を及ぼす化合物を添加した組成物を採用してもよい。又、空気界面側の配向制御に関しては液晶性化合物の配向時に空気界面に偏在し、その排除体積効果、静電気的効果、又は表面エネルギー効果によって液晶性化合物を垂直に配向させる作用を及ぼす化合物を配合した液晶性組成物を、前記第1の光学異方性層の作製に用いてもよい。このような配向膜界面側で液晶性化合物の分子を垂直に配向させるのを促進する化合物(配向膜界面側垂直配向剤)としては、ピリジニウム誘導体が好適に用いられる。空気界面側で液晶性化合物の分子を垂直に配向させるのを促進する化合物(空気界面側垂直配向剤)としては、該化合物が空気界面側に偏在するのを促進する、フルオロ脂肪族基と、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SO3H)、ホスホノキシ基{−OP(=O)(OH)2}及びそれらの塩からなる群より選ばれる1種以上の親水性基とを含む化合物が好適に用いられる。又、これらの化合物を配合することによって、例えば、液晶性組成物を塗布液として調製した場合に、該塗布液の塗布性が改善され、ムラ、ハジキの発生が抑制される。以下に垂直配向剤に関して詳細に説明する。
【0031】
[配向膜界面側垂直配向剤]
配向膜界面側垂直配向剤としては、下記式(I)で表されるピリジニウム誘導体(ピリジニウム塩)が好適に用いられる。該ピリジニウム誘導体の少なくとも1種を前記液晶性組成物に添加することによって、液晶性化合物の分子を配向膜近傍で実質的に垂直に配向させることができる。
【0032】
【化1】

【0033】
式(I)において、L1は2価の連結基を表し、アルキレン基と−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−NRa−(但し、Raは炭素原子数が1〜5のアルキル基又は水素原子である)、アルケニレン基、アルキニレン基又はアリーレン基との組み合わせからなる炭素原子数が1〜20の2価の連結基であることが好ましい。アルキレン基は、直鎖であっても分岐であってもよい。
【0034】
式(I)において、R1は、水素原子、無置換のアミノ基又は炭素原子数が1〜20の置換基で置換された置換アミノ基である。R1が置換アミノ基である場合、脂肪族基によって置換されていることが好ましい。脂肪族基は、例えば、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基及び置換アルキニル基が挙げられる。又、R1が2置換アミノ基である場合、2つの脂肪族基が互いに結合して含窒素複素環を形成してもよい。このとき形成される含窒素複素環は、5員環又は6員環であることが好ましい。R1は水素原子、無置換のアミノ基又は炭素原子数が1〜20の置換アミノ基であることが好ましく、水素原子、無置換のアミノ基又は炭素原子数が2〜12の置換アミノ基であることがより好ましく、水素原子、無置換のアミノ基又は炭素原子数が2〜8の置換アミノ基であることがさらに好ましい。R1がアミノ基である場合、ピリジニウム環の4位に置換されていることが好ましい。
【0035】
式(I)において、Xはアニオンである。アニオンの例には、ハロゲン陰イオン(例えば、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなど)、スルホン酸イオン(例えば、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、メチル硫酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、p−クロロベンゼンスルホン酸イオン、1,3−ベンゼンジスルホン酸イオン、1,5−ナフタレンジスルホン酸イオン、2,6−ナフタレンジスルホン酸イオンなど)、硫酸イオン、炭酸イオン、硝酸イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ピクリン酸イオン、酢酸イオン、ギ酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、リン酸イオン(例えば、ヘキサフルオロリン酸イオン)、水酸イオンなどが挙げられる。Xは、好ましくは、ハロゲン陰イオン、スルホネートイオン、水酸イオンである。
【0036】
式(I)において、Y1は5員環又は6員環を部分構造として有する炭素数1〜30の2価の連結基である。Y1に含まれる環状部分構造はシクロヘキシル環、芳香族環又は複素環であることがより好ましい。芳香族環としては、ベンゼン環、インデン環、ナフタレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、ビフェニル環、及びピレン環を挙げることができる。ベンゼン環、ビフェニル環、及びナフタレン環がさらに好ましい。複素環を構成する複素原子としては、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子が好ましく、例えば、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピロリン環、ピロリジン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリジン環、ピラゾール環、ピラゾリン環、ピラゾリジン環、トリアゾール環、フラザン環、テトラゾール環、ピラン環、ジオキサン環、ジチアン環、チイン環、ピリジン環、ピペリジン環、オキサジン環、モルホリン環、チアジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペラジン環及びトリアジン環などを挙げることができる。複素環は6員環であることが好ましい。Yで表される5員環又は6員環を部分構造として有する2価の連結基は置換基を有していてもよい。
【0037】
式(I)において、Zは、ハロゲン置換フェニル基、ニトロ置換フェニル基、シアノ置換フェニル基、炭素原子数が1〜10のアルキル基で置換されたフェニル基、炭素原子数が2〜10のアルコキシ基で置換されたフェニル基、炭素原子数が1〜12のアルキル基、炭素原子数が2〜20のアルキニル基、炭素原子数が1〜12のアルコキシ基、炭素原子数が2〜13のアルコキシカルボニル基、炭素原子数が7〜26のアリールオキシカルボニル基、炭素原子数が7〜26のアリールカルボニルオキシ基であり、シアノ置換フェニル基、ハロゲン置換フェニル基、炭素原子数が1〜10のアルキル基で置換されたフェニル基、炭素原子数が2〜10のアルコキシ基で置換されたフェニル基、炭素原子数が7〜26のアリールオキシカルボニル基又は炭素原子数が7〜26のアリールカルボニルオキシ基であるのが好ましい。
Zは、さらに置換基を有していてもよく、置換基の例には、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数が1〜16のアルキル基、炭素原子数が1〜16のアルケニル基、炭素原子数が1〜16のアルキニル基、炭素原子数が1〜16のハロゲン置換アルキル基、炭素原子数が1〜16のアルコキシ基、炭素原子数が2〜16のアシル基、炭素原子数が1〜16のアルキルチオ基、炭素原子数が2〜16のアシルオキシ基、炭素原子数が2〜16のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数が2〜16のアルキル置換カルバモイル基及び炭素原子数が2〜16のアシルアミノ基が含まれる。
【0038】
本発明に用いられるピリジニウム化合物としては、下記式(Ia)で表されるピリジニウム化合物が好ましい。
【0039】
【化2】

【0040】
式(Ia)において、L3は、単結合、−O−、−O−CO−、−CO−O−、−C≡C−、−CH=CH−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−O−AL−O−、−O−AL−O−CO−、−O−AL−CO−O−、−CO−O−AL−O−、−CO−O−AL−O−CO−、−CO−O−AL−CO−O−、−O−CO−AL−O−、−O−CO−AL−O−CO−又はO−CO−AL−CO−O−である。ALは、炭素原子数が1〜10のアルキレン基である。L3は、単結合、−O−、−O−AL−O−、−O−AL−O−CO−、−O−AL−CO−O−、−CO−O−AL−O−、−CO−O−AL−O−CO−、−CO−O−AL−CO−O−、−O−CO−AL−O−、−O−CO−AL−O−CO−又はO−CO−AL−CO−O−であるのが好ましく、単結合又はO−であるのがより好ましい。
【0041】
式(Ia)において、L4は、単結合、−O−、−O−CO−、−CO−O−、−C≡C−、−CH=CH−、−CH=N−、−N=CH−又はN=N−である。
【0042】
式(Ia)において、R3は、水素原子、無置換アミノ基又は炭素原子数が2〜20のアルキル置換アミノ基である。R3がジアルキル置換アミノ基である場合、2つのアルキル基が互いに結合して含窒素複素環を形成してもよい。このとき形成される含窒素複素環は、5員環又は6員環が好ましい。R3は水素原子、無置換アミノ基又は炭素原子数が2〜12のジアルキル置換アミノ基がさらに好ましく、水素原子、無置換アミノ基又は炭素原子数が2〜8のジアルキル置換アミノ基が最も好ましい。R3が無置換アミノ基である場合、ピリジニウム環の4位がアミノ置換されていることが好ましい。
【0043】
式(Ia)において、Y2及びY3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい6員環からなる2価の基である。6員環の例は、脂肪族環、芳香族環(ベンゼン環)及び複素環が挙げられる。6員脂肪族環の例は、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環及びシクロヘキサジエン環が挙げられる。6員複素環の例は、ピラン環、ジオキサン環、ジチアン環、チイン環、ピリジン環、ピペリジン環、オキサジン環、モルホリン環、チアジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペラジン環及びトリアジン環が挙げられる。6員環に、他の6員環又は5員環が縮合していてもよい。
置換基の例は、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数が1〜12のアルキル基及び炭素原子数が1〜12のアルコキシ基が挙げられる。アルキル基及びアルコキシ基は、炭素原子数が2〜12のアシル基又は炭素原子数が2〜12のアシルオキシ基で置換されていてもよい。アシル基及びアシルオキシ基の定義は、後述する。
【0044】
式(Ia)において、X1はアニオンである。X1は、一価のアニオンであることが好ましい。アニオンの例には、ハロゲン陰イオン(例えば、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン)及びスルホン酸イオン(例えば、メタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルン酸イオン、ベンゼンスルン酸イオン)が含まれる。
【0045】
式(Ia)において、Z1は水素原子、シアノ基、炭素原子数が1〜12のアルキル基又は炭素原子数が1〜12のアルコキシ基であって、アルキル基及びアルコキシ基は、それぞれ、炭素原子数が2〜12のアシル基又は炭素原子数が2〜12のアシルオキシ基で置換されていてもよい。
【0046】
式(Ia)において、mは1又は2であって、mが2の場合、2つのL4及び2つのY3は、異なっていてもよい。
mが2の場合、Z1は、シアノ基、炭素原子数が1〜10のアルキル基又は炭素原子数が1〜10のアルコキシ基であることが好ましい。
mが1の場合、Z1は、炭素原子数が7〜12のアルキル基、炭素原子数が7〜12のアルコキシ基、炭素原子数が7〜12のアシル置換アルキル基、炭素原子数が7〜12のアシル置換アルコキシ基、炭素原子数が7〜12のアシルオキシ置換アルキル基又は炭素原子数が7〜12のアシルオキシ置換アルコキシ基であることが好ましい。
【0047】
アシル基は−CO−R、アシルオキシ基は−O−CO−Rで表され、Rは脂肪族基(アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基)又は芳香族基(アリール基、置換アリール基)である。Rは、脂肪族基であることが好ましく、アルキル基又はアルケニル基であることがさらに好ましい。
【0048】
式(Ia)において、pは、1〜10の整数である。Cp2pは、分岐構造を有していてもよい鎖状アルキレン基を意味する。Cp2pは、直鎖状アルキレン基であることが好ましい。又、pは1又は2であることがより好ましい。
【0049】
以下に、式(I)及び/又は(Ia)で表される化合物の具体例を示す。ここで、Meはメチル基を表す。
【0050】
【化3】

【0051】
【化4】

【0052】
【化5】

【0053】
【化6】

【0054】
ピリジニウム誘導体は、一般にピリジン環をアルキル化(メンシュトキン反応)して得られる。
【0055】
前記液晶性組成物中における前記ピリジニウム誘導体の含有量の好ましい範囲は、その用途によって異なるが、液晶性組成物(塗布液として調製した場合は溶媒を除いた液晶性組成物)中、0.005〜8質量%であることが好ましく、0.01〜5質量%であることがより好ましい。
【0056】
[空気界面側垂直配向剤]
本発明に使用可能な空気界面側垂直配向剤としては、フルオロ脂肪族基と、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SO3H)、ホスホノキシ基{−OP(=O)(OH)2}及びそれらの塩からなる群より選ばれる1種以上の親水性基とを含有するフルオロ脂肪族基含有ポリマー(以下、「フッ素系ポリマー」という)、又は一般式(III)で表される含フッ素化合物が好適に用いられる。
【0057】
まず、フッ素系ポリマーについて説明する。
本発明に使用可能なフッ素系ポリマーは、フルオロ脂肪族基と、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SO3H)、ホスホノキシ基{−OP(=O)(OH)2}及びそれらの塩からなる群より選ばれる1種以上の親水性基とを含有することを特徴とする。ポリマーの種類としては、「改訂 高分子合成の化学」(大津隆行著、発行:株式会社化学同人、1968)1〜4ページに記載があり、例えば、ポリオレフィン類、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリイミド類、ポリウレタン類、ポリカーボネート類、ポリスルホン類、ポリカーボナート類、ポリエーテル類、ポリアセタール類、ポリケトン類、ポリフェニレンオキシド類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリアリレート類、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)類、ポリビニリデンフロライド類、セルロース誘導体などが挙げられる。前記フッ素系ポリマーは、ポリオレフィン類であることが好ましい。
【0058】
前記フッ素系ポリマーは、フルオロ脂肪族基を側鎖に有するポリマーである。前記フルオロ脂肪族基は、炭素数1〜12であるのが好ましく、6〜10であるのがより好ましい。脂肪族基は、鎖状であっても環状であってもよく、鎖状である場合は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、直鎖状の炭素数6〜10のフルオロ脂肪族基が好ましい。フッ素原子による置換の程度については特に制限はないが、脂肪族基中の50%以上の水素原子がフッ素原子に置換されているのが好ましく、60%以上が置換されているのがより好ましい。フルオロ脂肪族基は、エステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、エーテル結合、チオエーテル結合、芳香族環などを介してポリマー主鎖と結合した側鎖に含まれる。フルオロ脂肪族基の一つは、テロメリゼーション法(テロマー法ともいわれる)又はオリゴメリゼーション法(オリゴマー法ともいわれる)により製造されたフルオロ脂肪族化合物から導かれるものである。これらのフルオロ脂肪族化合物の製造法に関しては、例えば、「フッ素化合物の合成と機能」(監修:石川延男、発行:株式会社シーエムシー、1987)の117〜118ページや、「Chemistry of Organic Fluorine Compounds II」(Monograph 187,Ed by Milos Hudlicky and Attila E.Pavlath,American Chemical Society 1995)の747〜752ページに記載されている。テロメリゼーション法とは、ヨウ化物等の連鎖移動常数の大きいアルキルハライドをテローゲンとして、テトラフルオロエチレン等のフッ素含有ビニル化合物のラジカル重合を行い、テロマーを合成する方法である(Scheme−1に例を示した)。
【0059】
【化7】

【0060】
得られた、末端ヨウ素化テロマーは通常、例えば[Scheme2]のごとき適切な末端化学修飾を施され、フルオロ脂肪族化合物へと導かれる。これらの化合物は必要に応じ、さらに所望のモノマー構造へと変換され、フッ素系ポリマーの製造に使用される。
【0061】
【化8】

【0062】
本発明に使用可能なフッ素系ポリマーの製造に利用可能なモノマーの具体例を以下に挙げるが、本発明は以下の具体例によってなんら制限されるものではない。
【0063】
【化9】

【0064】
【化10】

【0065】
【化11】

【0066】
【化12】

【0067】
【化13】

【0068】
【化14】

【0069】
【化15】

【0070】
本発明に使用可能なフッ素系ポリマーの一態様は、フルオロ脂肪族基含有モノマー(以下、「フッ素系モノマー」ということがある)より誘導される繰り返し単位と、下記式(II)で表される親水性基を含有する繰り返し単位とを有する共重合体である。
【0071】
【化16】

【0072】
上記式(II)において、R1、R2及びR33はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Qはカルボキシル基(−COOH)もしくはその塩、スルホ基(−SO3H)もしくはその塩、又は、ホスホノキシ基{−OP(=O)(OH)2}もしくはその塩を表す。Lは下記の連結基群から選ばれる任意の基、又はそれらの2つ以上を組み合わせて形成される2価の連結基を表す。
(連結基群)
単結合、−O−、−CO−、−NRb−(Rbは水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す)、−S−、−SO2−、−P(=O)(ORf)−(Rfはアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す)、アルキレン基及びアリーレン基。
【0073】
式(II)中、R1、R2及びR33は、それぞれ独立に、水素原子又は下記に例示した置換基群から選ばれる置換基を表す。
(置換基群)
アルキル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、さらに好ましくは炭素数1〜8のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、さらに好ましくは炭素数2〜8のアルケニル基であり、例えば、ビニル基、アリール基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、さらに好ましくは炭素数2〜8のアルキニル基であり、例えば、プロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、さらに好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えば、フェニル基、p−メチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる)、アラルキル基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、さらに好ましくは炭素数7〜12のアラルキル基であり、例えば、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基などが挙げられる)、置換もしくは無置換のアミノ基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜10、さらに好ましくは炭素数0〜6のアミノ基であり、例えば、無置換アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、アニリノ基などが挙げられる)、
【0074】
アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜10のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、さらに好ましくは2〜10のアルコキシカルボニル基であり、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、さらに好ましくは2〜10のアシルオキシ基であり、例えば、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、さらに好ましくは炭素数2〜10のアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、さらに好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えば、メトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、さらに好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニルアミノ基であり、例えば、フェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のスルホニルアミノ基であり、例えば、メタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜16、さらに好ましくは炭素数0〜12のスルファモイル基であり、例えば、スルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基などが挙げられる)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のカルバモイル基であり、例えば、無置換のカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基などが挙げられる)、
【0075】
アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のアルキルチオ基であり、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、さらに好ましくは炭素数6〜12のアリールチオ基であり、例えば、フェニルチオ基などが挙げられる)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のスルホニル基であり、例えば、メシル基、トシル基などが挙げられる)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のスルフィニル基であり、例えば、メタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のウレイド基であり、例えば、無置換のウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のリン酸アミド基であり、例えば、ジエチルリン酸アミド基、フェニルリン酸アミド基などが挙げられる)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12のヘテロ環基であり、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を有するヘテロ環基であり、例えば、イミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基などが挙げられる)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、さらに好ましくは、炭素数3〜24のシリル基であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる)が含まれる。これらの置換基はさらにこれらの置換基によって置換されていてもよい。又、置換基を二つ以上有する場合は、同じでも異なってもよい。又、可能な場合には互いに結合して環を形成していてもよい。
【0076】
1、R2及びR33はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、又は後述する−L−Qで表される基であることが好ましく、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、塩素原子、−L−Qで表される基であることがより好ましく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基であることが特に好ましく、水素原子、炭素数1〜2のアルキル基であることが最も好ましい。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。該アルキル基は、適当な置換基を有していてもよい。該置換基としては、ハロゲン原子、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、ヒドロキシル基、アシルオキシ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アシルアミノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホニル基、スルファモイル基、スルホンアミド基、スルホリル基、カルボキシル基などが挙げられる。なお、アルキル基の炭素数は、置換基の炭素原子を含まない。以下、他の基の炭素数についても同様である。
【0077】
Lは、上記連結基群から選ばれる2価の連結基、又はそれらの2つ以上を組み合わせて形成される2価の連結基を表す。上記連結基群中、−NRb−のRbは、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表し、好ましくは水素原子又はアルキル基である。又、−PO(ORf)−のRfはアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表し、好ましくはアルキル基である。Rb及びRfがアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す場合の炭素数は「置換基群」で説明したものと同じである。Lとしては、単結合、−O−、−CO−、−NRb−、−S−、−SO2−、アルキレン基又はアリーレン基を含むことが好ましく、−CO−、−O−、−NRb−、アルキレン基又はアリーレン基を含んでいることが特に好ましい。Lがアルキレン基を含む場合、アルキレン基の炭素数は好ましくは1〜10、より好ましくは1〜8、さらに好ましくは1〜6である。特に好ましいアルキレン基の具体例として、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラブチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。Lが、アリーレン基を含む場合、アリーレン基の炭素数は、好ましくは6〜24、より好ましくは6〜18、さらに好ましくは6〜12である。特に好ましいアリーレン基の具体例として、フェニレン基、ナフタレン基等が挙げられる。Lが、アルキレン基とアリーレン基を組み合わせて得られる2価の連結基(即ちアラルキレン基)を含む場合、アラルキレン基の炭素数は、好ましくは7〜34、より好ましくは7〜26、さらに好ましくは7〜16である。特に好ましいアラルキレン基の具体例として、フェニレンメチレン基、フェニレンエチレン基、メチレンフェニレン基等が挙げられる。Lとして挙げられた基は、適当な置換基を有していてもよい。このような置換基としては先にR1、R2、R33における置換基として挙げた置換基と同様なものを挙げることができる。
以下にLの具体的構造を例示する。
【0078】
【化17】

【0079】
【化18】

【0080】
前記式(II)中、Qはカルボキシル基、カルボキシル基の塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩(例えばアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、ジメチルフェニルアンモニウムなど)、ピリジニウム塩など)、スルホ基、スルホ基の塩(塩を形成するカチオンの例は上記カルボキシル基に記載のものと同じ)、ホスホノキシ基、ホスホノキシ基の塩(塩を形成するカチオンの例は上記カルボキシル基に記載のものと同じ)を表す。より好ましくはカルボキシル基、スルホ基、ホスホ基であり、特に好ましいのはカルボキシル基又はスルホ基である。
【0081】
前記フッ素系ポリマーは、前記式(II)で表される繰り返し単位を1種含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。又、前記フッ素系ポリマーは、上記各繰り返し単位以外の他の繰り返し単位を1種又は2種以上有していてもよい。前記他の繰り返し単位については特に制限されず、通常のラジカル重合反応可能なモノマーから誘導される繰り返し単位が好ましい例として挙げられる。以下、他の繰り返し単位を誘導するモノマーの具体例を挙げる。前記フッ素系ポリマーは、下記モノマー群から選ばれる1種又は2種以上のモノマーから誘導される繰り返し単位を含有していてもよい。
【0082】
モノマー群
(1)アルケン類
エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン、1−ドデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ヘキサフルオロプロペン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、3,3,3−トリフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなど;
(2)ジエン類
1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−n−プロピル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1−α−ナフチル−1,3−ブタジエン、1−β−ナフチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1−ブロモ−1,3−ブタジエン、1−クロロブタジエン、2−フルオロ−1,3−ブタジエン、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1,1,2−トリクロロ−1,3−ブタジエン及び2−シアノ−1,3−ブタジエン、1,4−ジビニルシクロヘキサンなど;
【0083】
(3)α,β−不飽和カルボン酸の誘導体
(3a)アルキルアクリレート類
メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、アミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、tert−オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、2−クロロエチルアクリレート、2−ブロモエチルアクリレート、4−クロロブチルアクリレート、2−シアノエチルアクリレート、2−アセトキシエチルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、2−クロロシクロヘキシルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、ω−メトキシポリエチレングリコールアクリレート(ポリオキシエチレンの付加モル数:n=2ないし100のもの)、3−メトキシブチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−ブトキシエチルアクリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチルアクリレート、1−ブロモ−2−メトキシエチルアクリレート、1,1−ジクロロ−2−エトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレートなど);
【0084】
(3b)アルキルメタクリレート類
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、アリルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、クレジルメタクリレート、ナフチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、3−メトキシブチルメタクリレート、ω−メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(ポリオキシエチレンの付加モル数:n=2ないし100のもの)、2−アセトキシエチルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、2−ブトキシエチルメタクリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレート、アリルメタクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレートなど;
【0085】
(3c)不飽和多価カルボン酸のジエステル類
マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、イタコン酸ジメチル、タコン酸ジブチル、クロトン酸ジブチル、クロトン酸ジヘキシル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジメチルなど;
【0086】
(3d)α、β−不飽和カルボン酸のアミド類
N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−tertブチルアクリルアミド、N−tertオクチルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−(2−アセトアセトキシエチル)アクリルアミド、N−ベンジルアクリルアミド、N−アクリロイルモルフォリン、ジアセトンアクリルアミド、N−メチルマレイミドなど;
【0087】
(4)不飽和ニトリル類
アクリロニトリル、メタクリロニトリルなど;
(5)スチレン及びその誘導体
スチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、p−tertブチルスチレン、p−ビニル安息香酸メチル、α−メチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、ビニルナフタレン、p−メトキシスチレン、p−ヒドロキシメチルスチレン、p−アセトキシスチレンなど;
(6)ビニルエステル類
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、メトキシ酢酸ビニル、フェニル酢酸ビニルなど;
【0088】
(7)ビニルエーテル類
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、n−ドデシルビニルエーテル、n−エイコシルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、フルオロブチルビニルエーテル、フルオロブトキシエチルビニルエーテルなど;及び
(8)その他の重合性単量体
N−ビニルピロリドン、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メトキシエチルビニルケトン、2−ビニルオキサゾリン、2−イソプロペニルオキサゾリンなど。
【0089】
前記フッ素系ポリマー中、フルオロ脂肪族基含有モノマーの量は、該ポリマーの構成モノマー総量の5質量%以上であるのが好ましく、10質量%以上であるのがより好ましく、30質量%以上であるのがさらに好ましい。前記フッ素系ポリマーにおいて、前記式(II)で表される繰り返し単位の量は、該フッ素ポリマーの構成モノマー総量の0.5質量%以上であるのが好ましく、1〜20質量%であるのがより好ましく、1〜10質量%であるのがさらに好ましい。上記の質量百分率は使用するモノマーの分子量により好ましい範囲の数値が変動し易いため、ポリマーの単位質量当たりの官能基モル数で表す方が、式(II)で表される繰り返し単位の含有量を正確に規定できる。該表記を用いた場合、前記フッ素系ポリマー中に含有される親水性基(式(II)中のQ)の好ましい量は、0.1mmol/g〜10mmol/gであり、より好ましい量は0.2mmol/g〜8mmol/gである。
【0090】
前記フッ素系ポリマーの質量平均分子量は1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、100,000以下がさらに好ましい。質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて、ポリスチレン(PS)換算の値として測定可能である。
【0091】
前記フッ素系ポリマーの重合方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ビニル基を利用したカチオン重合やラジカル重合、又は、アニオン重合等の重合方法を採ることができ、これらの中ではラジカル重合が汎用に利用できる点で特に好ましい。ラジカル重合の重合開始剤としては、ラジカル熱重合開始剤や、ラジカル光重合開始剤等の公知の化合物を使用することができるが、特に、ラジカル熱重合開始剤を使用することが好ましい。ここで、ラジカル熱重合開始剤は、分解温度以上に加熱することにより、ラジカルを発生させる化合物である。このようなラジカル熱重合開始剤としては、例えば、ジアシルパーオキサイド(アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等)、ケトンパーオキサイド(メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等)、ハイドロパーオキサイド(過酸化水素、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等)、ジアルキルパーオキサイド(ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド等)、パーオキシエステル類(tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシピバレート等)、アゾ系化合物(アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等)、過硫酸塩類(過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等)が挙げられる。このようなラジカル熱重合開始剤は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0092】
ラジカル重合方法は、特に制限されるものでなく、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法等を採ることが可能である。典型的なラジカル重合方法である溶液重合についてさらに具体的に説明する。他の重合方法についても概要は同等であり、その詳細は例えば「高分子科学実験法」高分子学会編(東京化学同人、1981年)等に記載されている。
【0093】
溶液重合を行うためには有機溶媒を使用する。これらの有機溶媒は本発明の目的、効果を損なわない範囲で任意に選択可能である。これらの有機溶媒は通常、大気圧下での沸点が50〜200℃の範囲内の値を有する有機化合物であり、各構成成分を均一に溶解させる有機化合物が好ましい。好ましい有機溶媒の例を示すと、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;が挙げられる。なお、これらの有機溶媒は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることが可能である。さらに、モノマーや生成するポリマーの溶解性の観点から上記有機溶媒に水を併用した水混合有機溶媒も適用可能である。
【0094】
又、溶液重合条件も特に制限されるものではないが、例えば、50〜200℃の温度範囲内で、10分〜30時間加熱することが好ましい。さらに、発生したラジカルが失活しないように、溶液重合中はもちろんのこと、溶液重合開始前にも、不活性ガスパージを行うことが好ましい。不活性ガスとしては通常窒素ガスが好適に用いられる。
【0095】
前記フッ素系ポリマーを好ましい分子量範囲で得るためには、連鎖移動剤を用いたラジカル重合法が特に有効である。連鎖移動剤としてはメルカプタン類(例えば、オクチルメルカプタン、デシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、オクタデシルメルカプタン、チオフェノール、p−ノニルチオフェノール等)、ポリハロゲン化アルキル類(例えば、四塩化炭素、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,1−トリブロモオクタンなど)、低活性モノマー類(α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等)のいずれも用いることができるが、好ましくは炭素数4〜16のメルカプタン類である。これらの連鎖移動剤の使用量は、連鎖移動剤の活性やモノマーの組み合わせ、重合条件などにより著しく影響され精密な制御が必要であるが、使用するモノマーの全モル数に対して好ましくは0.01モル%〜50モル%程度であり、より好ましくは0.05モル%〜30モル%、さらに好ましくは0.08モル%〜25モル%である。これらの連鎖移動剤は、重合過程において重合度を制御するべき対象のモノマーと同時に系内に存在させればよく、その添加方法については特に問わない。モノマーに溶解して添加してもよいし、モノマーと別途に添加することも可能である。
【0096】
なお、前記フッ素系ポリマーは、液晶性化合物の配向状態を固定化するために置換基として重合性基を有するものも好ましい。
【0097】
以下に、フッ素系ポリマーとして本発明に好ましく用いられる具体例を示すが、本発明はこれらの具体例によってなんら限定されるものではない。ここで式中の数値(a、b、c、d等の数値)は、それぞれ各モノマーの組成比を示す質量百分率であり、MwはGPCにより測定されたPEO換算の質量平均分子量である。
【0098】
【化19】

【0099】
【化20】

【0100】
【化21】

【0101】
【化22】

【0102】
【化23】

【0103】
前記フッ素系ポリマーは、公知慣用の方法で製造することができる。例えば先にあげたフッ素系モノマー、水素結合性基を有するモノマー等を含む有機溶媒中に、汎用のラジカル重合開始剤を添加し、重合させることにより製造できる。又、場合によりその他の付加重合性不飽和化合物を、さらに添加して上記と同じ方法にて製造することができる。各モノマーの重合性に応じ、反応容器にモノマーと開始剤を滴下しながら重合する滴下重合法なども、均一な組成のポリマーを得るために有効である。
【0104】
前記液晶性組成物(塗布液として調製した場合は、溶媒を除いた液晶性組成物)中における前記フッ素系ポリマーの含有量の好ましい範囲は、その用途によって異なるが、液晶性組成物(塗布液である場合は溶媒を除いた組成物)中、0.005〜8質量%であるのが好ましく、0.01〜5質量%であるのがより好ましく、0.05〜1質量%であるのがさらに好ましい。前記フッ素系ポリマーの添加量が0.005質量%未満では効果が不十分であり、又8質量%より多くなると、塗膜の乾燥が十分に行われなくなったり、光学フィルムとしての性能(例えばレタデーションの均一性等)に悪影響を及ぼす。
【0105】
次に、同様に空気界面側垂直配向剤として使用可能な、式(III)で表される含フッ素化合物について説明する。
式(III)
(R0mo−L0−(W)no
式中、R0はアルキル基、末端にCF3基を有するアルキル基、又は末端にCF2H基を有するアルキル基を表し、moは1以上の整数を表す。複数個のR0は同一でも異なっていてもよいが、少なくとも一つは末端にCF3基又はCF2H基を有するアルキル基を表す。L0は(mo+no)価の連結基を表し、Wはカルボキシル基(−COOH)もしくはその塩、スルホ基(−SO3H)もしくはその塩、又はホスホノキシ{−OP(=O)(OH)2}もしくはその塩を表し、noは1以上の整数を表す。
【0106】
式(III)中、R0は含フッ素化合物の疎水性基として機能する。R0で表されるアルキル基は置換もしくは無置換のアルキル基であり、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基であり、更に好ましくは4〜16のアルキル基であり、特に好ましくは6〜16のアルキル基である。該置換基としては後述の置換基群Dとして例示する置換基のいずれかを適用できる。
【0107】
0で表される末端にCF3基を有するアルキル基は、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは4〜16であり、さらに好ましくは4〜8である。前記末端にCF3基を有するアルキル基は、アルキル基に含まれる水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたアルキル基である。アルキル基中の水素原子の50%以上がフッ素原子で置換されているのが好ましく、60%以上が置換されているのがより好ましく、70%以上を置換されているのが特に好ましい。残りの水素原子は、さらに後述の置換基群Dとして例示された置換基によって置換されていてもよい。R0で表される末端にCF2H基を有するアルキル基は、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは4〜16であり、さらに好ましくは4〜8である。前記末端にCF2H基を有するアルキル基は、アルキル基に含まれる水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたアルキル基である。アルキル基中の水素原子の50%以上がフッ素原子で置換されていることが好ましく、60%以上が置換されていることがより好ましく、70%以上を置換されていることがさらに好ましい。残りの水素原子は、さらに後述の置換基群Dとして例示する置換基によって置換されていてもよい。R0で表される末端にCF3基を有するアルキル基、又は末端にCF2H基を有するアルキル基の例を以下に示す。
【0108】
R1:n−C817
R2:n−C613
R3:n−C49
R4:n−C817−(CH22
R5:n−C613−(CH22
R6:n−C49−(CH22
R7:H−(CF28
R8:H−(CF26
R9:H−(CF24
R10:H−(CF28−(CH2)−
R11:H−(CF26−(CH2)−
R12:H−(CF24−(CH2)−
【0109】
式(III)において、L0で表される(mo+no)価の連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、芳香族基、ヘテロ環基、−CO−、−NRd−(Rdは炭素原子数が1〜5のアルキル基又は水素原子)、−O−、−S−、−SO−、−SO2−からなる群より選ばれる基を少なくとも2つ組み合わせた連結基であることが好ましい。
【0110】
式(III)において、Wはカルボキシル基(−COOH)もしくはその塩、スルホ基(−SO3H)もしくはその塩、又はホスホノキシ基{−OP(=O)(OH)2}もしくはその塩を表す。Wの好ましい範囲は、式(II)におけるQと同一である。
【0111】
前記式 (III)で表される含フッ素化合物の中でも、下記式(III)−a又は式(III)−bで表される化合物が好ましい。
【0112】
【化24】

【0113】
式(III)−a中、R4及びR5は各々アルキル基、末端にCF3基を有するアルキル基、又は末端にCF2H基を有するアルキル基を表すが、R4及びR5が同時にアルキル基であることはない。W1及びW2は各々水素原子、カルボキシル基(−COOH)もしくはその塩、スルホ基(−SO3H)もしくはその塩、ホスホノキシ{−OP(=O)(OH)2}もしくはその塩、又は置換基としてカルボキシル基、スルホ基もしくはホスホノキシ基を有する、アルキル基、アルコキシ基もしくはアルキルアミノ基を表すが、W1及びW2が同時に水素原子であることはない。
【0114】
式(III)−b
(R6−L2−)m2(Ar1)−W3
式(III)−b中、R6はアルキル基、末端にCF3基を有するアルキル基、又は末端にCF2H基を有するアルキル基を表し、m2は1以上の整数を表し、複数個のR6は同一でも異なっていてもよいが、少なくとも一つは末端にCF3基又はCF2H基を有するアルキル基を表す。L2は、アルキレン基、芳香族基、−CO−、−NR'−(R'は炭素原子数が1〜5のアルキル基又は水素原子)、−O−、−S−、−SO−、−SO2−及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる2価の連結基を表し、複数個のL2は同一でも異なっていてもよい。Ar1は芳香族炭化水素環又は芳香族ヘテロ環を表し、W3はカルボキシル基(−COOH)もしくはその塩、スルホ基(−SO3H)もしくはその塩、ホスホノキシ基{−OP(=O)(OH)2}もしくはその塩、又は置換基としてカルボキシル基、スルホ基もしくはホスホノキシ基を有する、アルキル基、アルコキシ基もしくはアルキルアミノ基を表す。
【0115】
まず、前記式(III)−aについて説明する。
4及びR5は前記式(III)におけるR0と同義であり、その好ましい範囲も同一である。W1及びW2で表されるカルボキシル基(−COOH)もしくはその塩、スルホ基(−SO3H)もしくはその塩、ホスホノキシ基{−OP(=O)(OH)2}もしくはその塩は前記式(III)におけるWと同義でありその好ましい範囲も同一である。W1及びW2で表される置換基としてカルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基を有するアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基であり、更に好ましくは1〜8のアルキル基であり、特に好ましくは1〜3のアルキル基である。前記置換基としてカルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基を有するアルキル基は、少なくとも一つのカルボキシル基、スルホ基、又はホスホノキシ基を有していればよく、カルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基としては、前記式(III)中のWが表すカルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基と同義であり好ましい範囲も同一である。前記置換基としてカルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基を有するアルキル基は、これ以外の置換基によって置換されていてもよく、該置換基としては後述の置換基群Dとして例示する置換基のいずれかを適用できる。W1及びW2で表される置換基としてカルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基を有するアルコキシ基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基であり、更に好ましくは1〜8のアルコキシ基であり、特に好ましくは1〜4のアルコキシ基である。前記置換基としてカルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基を有するアルコキシ基は、少なくとも一つのカルボキシル基、スルホ基、又はホスホノキシ基を有していればよく、カルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基としては、前記式(III)中のWが表すカルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基と同義であり好ましい範囲も同一である。前記カルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基を有するアルコキシ基は、これ以外の置換基によって置換されていてもよく、該置換基としては後述の置換基群Dとして例示する置換基のいずれかを適用できる。W1及びW2で表される置換基としてカルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基を有するアルキルアミノ基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、好ましくは炭素数1〜20のアルキルアミノ基であり、より好ましくは1〜8のアルキルアミノ基であり、さらに好ましくは1〜4のアルキルアミノ基である。前記カルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基を有するアルキルアミノ基は、少なくとも一つのカルボキシル基、スルホ基、又はホスホノキシ基を有していればよく、カルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基としては、前記式(III)中のWが表すカルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基と同義であり好ましい範囲も同一である。前記カルボキシル基、スルホ基、ホスホノキシ基を有するアルキルアミノ基は、これ以外の置換基によって置換されていてもよく、該置換基としては後述の置換基群Dとして例示する置換基のいずれかを適用できる。
【0116】
1及びW2は、特に好ましくはそれぞれ水素原子又は(CH2nSO3M(nは0又は1を表す。)である。Mはカチオンを表すが、分子内で荷電が0になる場合は、Mはなくてもよい。Mで表されるカチオンとしては、例えばプロトニウムイオン、アルカリ金属イオン(リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなど)、アルカリ土類金属イオン(バリウムイオン、カルシウムイオンなど)、アンモニウムイオンなどが好ましく適用される。このうち、特に好ましくはプロトニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンである。
【0117】
次に、前記式(III)−bについて説明する。
6は前記式(III)−bにおけるR0と同義であり、その好ましい範囲も同一である。L2は、好ましくは炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12の芳香族基、−CO−、−NR−、−O−、−S−、−SO−、−SO2−及びそれらの組み合わせからなる総炭素数0〜40の連結基を表し、より好ましくは炭素数1〜8のアルキレン基、フェニル基、−CO−、−NR−、−O−、−S−、−SO2−及びそれらの組み合わせからなる総炭素数0〜20の連結基を表す。Ar1は、好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素環を表し、より好ましくはベンゼン環又はナフタレン環を表す。W3で表されるカルボキシル基(−COOH)もしくはその塩、スルホ基(−SO3H)もしくはその塩、ホスホノキシ基{−OP(=O)(OH)2}もしくはその塩、又は置換基としてカルボキシル基、スルホ基もしくはホスホノキシ基を有するアルキル基、アルコキシ基、又はアルキルアミノ基は、前記式(III)−aにおけるW1及びW2で表されるカルボキシル基(−COOH)もしくはその塩、スルホ基(−SO3H)もしくはその塩、ホスホノキシ{−OP(=O)(OH)2}もしくはその塩、又は置換基としてカルボキシル基、スルホ基もしくはホスホノキシ基を有するアルキル基、アルコキシ基、又はアルキルアミノ基と同義でありその好ましい範囲も同一である。
【0118】
3は、好ましくはカルボキシル基(−COOH)もしくはその塩、スルホ基(−SO3H)もしくはその塩、又は置換基としてカルボキシル基(−COOH)もしくはその塩又はスルホ基(−SO3H)もしくはその塩を有するアルキルアミノ基であり、特に好ましくはSO3M又はCO2Mである。Mはカチオンを表すが、分子内で荷電が0になる場合は、Mはなくてもよい。Mで表されるカチオンとしては、例えばプロトニウムイオン、アルカリ金属イオン(リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなど)、アルカリ土類金属イオン(バリウムイオン、カルシウムイオンなど)、アンモニウムイオンなどが好ましく適用される。このうち、特に好ましくはプロトニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンである。
【0119】
本明細書において、置換基群Dには、アルキル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、さらに好ましくは炭素数2〜8のアルケニル基であり、例えば、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、さらに好ましくは炭素数2〜8のアルキニル基であり、例えば、プロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、さらに好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えば、フェニル基、p−メチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる)、置換もしくは無置換のアミノ基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜10、さらに好ましくは炭素数0〜6のアミノ基であり、例えば、無置換アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基などが挙げられる)、
【0120】
アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、さらに好ましくは炭素数1〜8のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、さらに好ましくは炭素数6〜12のアリールオキシ基であり、例えば、フェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる)、アシル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のアシル基であり、例えば、アセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、さらに好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基であり、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、さらに好ましくは炭素数7〜10のアリールオキシカルボニル基であり、例えば、フェニルオキシカルボニル基などが挙げられる)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、さらに好ましくは炭素数2〜10のアシルオキシ基であり、例えば、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる)。
【0121】
アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、さらに好ましくは炭素数2〜10のアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、さらに好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えば、メトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、さらに好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニルアミノ基であり、例えば、フェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のスルホニルアミノ基であり、例えば、メタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜16、さらに好ましくは炭素数0〜12のスルファモイル基であり、例えば、スルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基などが挙げられる)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のカルバモイル基であり、例えば、無置換のカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基などが挙げられる)、
【0122】
アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のアルキルチオ基であり、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、さらに好ましくは炭素数6〜12のアリールチオ基であり、例えば、フェニルチオ基などが挙げられる)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のスルホニル基であり、例えば、メシル基、トシル基などが挙げられる)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のスルフィニル基であり、例えば、メタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のウレイド基であり、例えば、無置換のウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜12のリン酸アミド基であり、例えば、ジエチルリン酸アミド基、フェニルリン酸アミド基などが挙げられる)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12のヘテロ環基であり、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を有するヘテロ環基であり、例えば、イミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基などが挙げられる)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、さらに好ましくは、炭素数3〜24のシリル基であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる)が含まれる。これらの置換基はさらにこれらの置換基によって置換されていてもよい。又、置換基が二つ以上有する場合は、同じでも異なってもよい。又、可能な場合には互いに結合して環を形成していてもよい。
【0123】
なお、前記含フッ素化合物は、液晶性化合物の配向状態を固定化するために置換基として重合性基を有するものも好ましい。
【0124】
本発明に使用可能な式(III)にて表される含フッ素化合物の具体例を以下に示すが、本発明に用いられる含フッ素化合物はこれらに限定されるものではない。
【0125】
【化25】

【0126】
【化26】

【0127】
【化27】

【0128】
【化28】

【0129】
【化29】

【0130】
前記液晶性組成物中における前記含フッ素化合物の含有量の好ましい範囲は、その用途によって異なるが、前記液晶性組成物(塗布液である場合は溶媒を除いた組成物)中、0.005〜8質量%であるのが好ましく、0.01〜5質量%であるのがより好ましく、0.05〜1質量%であるのがさらに好ましい。
【0131】
[重合性開始剤]
所望の配向状態(例えば、棒状液晶性化合物の場合は垂直配向)に配向させた液晶性化合物の分子を、その配向状態を維持して固定するのが好ましい。固定化は、液晶性化合物に導入した重合性基(P)の重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがさらに好ましい。
【0132】
[他の添加剤]
上記の液晶性化合物と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶性化合物の配向性等を向上させることができる。これらの素材は液晶性化合物と相溶性を有し、配向を阻害しないことが好ましい。
【0133】
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性若しくはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基含有の液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0020]記載のものが挙げられる。上記化合物の添加量は、円盤状液晶性分子に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0134】
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報中の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物、特開2005−62673号公報(特願2003−295212号明細書)中の段落番号[0069]〜[0126]記載の化合物が挙げられる。
【0135】
液晶性化合物とともに使用するポリマーは、塗布液を増粘できることが好ましい。ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0178]記載のものが挙げられる。液晶性化合物の配向を阻害しないように、上記ポリマーの添加量は、液晶性分子に対して0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0136】
前記光学異方性層は、例えば、液晶性化合物、及び所望により添加される重合開始剤、配向制御剤等の添加剤を、溶媒に溶解及び/又は分散させて調製した塗布液を、支持体上に塗布することで形成することができる。支持体上に配向膜を形成し、該配向膜表面に前記塗布液を塗布して形成するのが好ましい。塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライド及びケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0137】
[塗布方法]
塗布液の塗布は、公知の方法(例、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。中でも、前記光学異方性層を形成する際は、ワイヤーバーコーティング法を利用して塗布するのが好ましく、ワイヤーバーの回転数は下記式を満たすことが好ましい。
0.6<(W×(R+2r)×π)/V<1.4
[W:ワイヤーバーの回転数(rpm)、R:バーの芯の直径(m)、r:ワイヤーの直径(m)、V:支持体の搬送速度(m/min)]
(W×(R+2r)×π)/Vの範囲は、0.7〜1.3であることがより好ましく、0.8〜1.2であることがさらに好ましい。
【0138】
前記光学異方性層の形成にはダイコーティング法が好ましく用いられ、特に、スライドコーター又はスロットダイコーターを利用した塗布方法が好ましい。例えば、特開2004−290775号公報、特開2004−290776号公報、特開2004−358296号公報、特開2005−13989号公報等に記載の塗布方法を用いることができる。
【0139】
次に、上記の通り、支持体表面又は配向膜表面に前記組成物を塗布した後、液晶性化合物の分子を配向(棒状液晶性分子については好ましくは垂直配向)させて、分子をその配向状態に固定して光学異方性層を形成する。配向させる温度は、用いる液晶性化合物の転移温度、所望の配向状態等を考慮して、決定することができる。固定化は、液晶性分子や、組成物中に所望により添加される重合性モノマーの重合反応又は架橋反応により実施されるのが好ましい。重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2であることが好ましく、100〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
形成される光学異方性層の厚さは、0.1〜10μmであることが好ましく、0.5〜5μmであることがさらに好ましく、1〜5μmであることがよりさらに好ましい。
【0140】
[配向膜]
本発明では、配向膜の表面に前記組成物を塗布して、液晶性化合物の分子を配向させるのが好ましい。配向膜は液晶性化合物の分子の配向方向を規定する機能を有するため、本発明の好ましい態様を実現する上で利用するのが好ましい。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、本発明の構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明の偏光板を作製することも可能である。
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。
【0141】
ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報明細書中段落番号[0022]記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。
【0142】
ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は100〜5000であることが好ましい。
【0143】
本発明の光学補償フィルムの作製に用いられる配向膜は、架橋性官能基(例、二重結合)を有する側鎖を主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する架橋性官能基を側鎖に導入することが好ましい。配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償フィルムの強度を著しく改善することができる。
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報明細書中段落番号[0080]〜[0100]記載のもの等が挙げられる。
【0144】
配向膜ポリマーは、上記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾール及びジアルデヒド澱粉が含まれる。二種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報明細書中の段落番号[0023]〜[0024]記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0145】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、或は高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。
【0146】
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である上記ポリマー、架橋剤及び添加剤を含む溶液を透明支持体上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、透明支持体上に塗布した後、任意の時期に行なってよい。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、更には光学異方層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0147】
配向膜を形成する際に利用可能な塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法又はロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。又、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、20℃〜110℃で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行なうことができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に5が好ましい。
【0148】
配向膜は、透明支持体上に設けられることが好ましい。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋した後、表面をラビング処理することにより得ることができる。
【0149】
前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さ及び太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0150】
配向膜のラビング処理面に前記組成物を塗布して、液晶性化合物の分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させることで、前記光学異方性層を形成することができる。
配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲とするのが好ましい。
【0151】
[支持体]
液晶性化合物からなる第1の光学異方性層を形成するための支持体としては、後述する第2の光学異方性層を用いてもよいし、仮の支持体上に第1の光学異方性層に設けた後、偏光膜や第2の光学異方性層に転写してもよいし、光学的に等方性のフィルムを支持体として用いてもよい。仮の支持体を用いる場合は、支持体の光学特性は特に問わないが、第1の光学異方性層が容易に剥離できることが好ましい。光学的に等方的な支持体上に第1の光学異方性層を形成した場合、液晶表示装置での使用時、該支持体は取り除いてもよいし、残してもよい。又、支持体は偏光膜の保護フィルムとしても利用できる。支持体は光透過率が80%以上であることが好ましい。
【0152】
実質的に等方的な支持体としては、面内のレタデーション(Re)は0〜10nmであることが好ましく、0〜5nmであることがさらに好ましく、0〜3nmであることが最も好ましい。又、厚さ方向のレタデーション(Rth)は−20nm〜20nmであることが好ましく、−15nm〜15nmであることが好ましく、−10nm〜10nmであることが最も好ましい。波長分散は、Re400/Re700の比が1.2未満であることが好ましい。
【0153】
ポリマーの例には、セルロースエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート及び環状ポリオレフィンが含まれる。セルロースエステルが好ましく、アセチルセルロースがさらに好ましく、トリアセチルセルロースが最も好ましい。環状ポリオレフィンとしては、特公平2−9619号公報記載のテトラシクロドデセン類の開環重合体又はテトラシクロドデセン類とノルボルネン類の開環共重合体を水素添加反応させて得られた重合体を構成成分とするポリマー、商品名としてはアートン(JSR製)や、ゼオネックス、ゼオノア(日本ゼオン製)のシリーズから使用することができる。ポリマーフィルムは、ソルベントキャスト法により形成することが好ましい。
【0154】
ポリマーフィルムは、ソルベントキャスト法により形成することが好ましい。透明支持体の厚さは、20〜500μmであることが好ましく、50〜200μmであることがさらに好ましい。透明支持体とその上に設けられる層(接着層、垂直配向膜あるいは位相差層)との接着を改善するため、透明支持体に表面処理(例、グロー放電処理、コロナ放電処理、紫外線(UV)処理、火炎処理)を実施してもよい。透明支持体の上に、接着層(下塗り層)を設けてもよい。又、透明支持体や長尺の透明支持体には、搬送工程でのすべり性を付与したり、巻き取った後の裏面と表面の貼り付きを防止するために、平均粒径が10〜100nm程度の無機粒子を固形分重量比で5%〜40%混合したポリマー層を支持体の片側に塗布や支持体との共流延によって形成したものを用いることが好ましい。
【0155】
[第2の光学異方性層]
第2の光学異方性層の面内のレタデーションは、20〜150nmであることが好ましく、30〜130nmであることがさらに好ましく、40〜110nmであることが最も好ましい。さらに、厚さ方向のレタデーションは、100〜300nmであることが好ましく、120〜280nmであることがさらに好ましく、140nm〜260nmであることが最も好ましい。
【0156】
前記第2の光学異方性層に用いられるポリマーフィルムとしては、光透過率が80%以上であるポリマーフィルムを用いることが好ましい。ポリマーフィルムとしては、外力により複屈折が発現しにくいものが好ましい。ポリマーフィルムの例としては、セルロース系ポリマーフィルム、環状ポリオレフィン系フィルム、及びポリメチルメタクリレートフィルムなどが挙げられる。セルロース系ポリマーとしては、セルロースエステルが好ましく、セルロースの低級脂肪酸エステルがさらに好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素原子数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)又は4(セルロースブチレート)であることが好ましい。セルロースエステルとしてはセルロースアセテートが好ましく、その例としては、ジアセチルセルロース及びトリアセチルセルロースなどが挙げられる。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。環状ポリオレフィン系フィルムとしては、商品名アートン(JSR(株)製)及び商品名ゼオネックス(日本ゼオン(株)製)などが挙げられる。
【0157】
[レタデーション上昇剤]
ポリマーフィルムのレタデーションを所望の範囲に調整するため、レタデーション上昇剤を利用してもよい。例えば、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物をレタデーション上昇剤として使用することができる。ポリマーフィルムとしてセルロースアセテートフィルムを用いる場合、芳香族化合物は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲で使用する。芳香族化合物は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.05〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1〜10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
【0158】
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環又は7員環であることが好ましく、5員環又は6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環及び1,3,5−トリアジン環が含まれる。芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環及び1,3,5−トリアジン環が好ましく、ベンゼン環及び1,3,5−トリアジン環がさらに好ましい。芳香族化合物は、少なくとも一つの1,3,5−トリアジン環を有することが特に好ましい。
【0159】
芳香族化合物が有する芳香族環の数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがより好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることが最も好ましい。二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合及び(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0160】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環及びチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環及びキノリン環が好ましい。(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環又は非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0161】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−又はそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
【0162】
芳香族環及び連結基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル、カルボキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、スルホ、カルバモイル、スルファモイル、ウレイド、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基及び非芳香族性複素環基が含まれる。
【0163】
アルキル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例、ヒドロキシ、カルボキシ、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル、エチル、n−ブチル、n−ヘキシル、2−ヒドロキシエチル、4−カルボキシブチル、2−メトキシエチル及び2−ジエチルアミノエチルが含まれる。アルケニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル、アリル及び1−ヘキセニルが含まれる。アルキニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルキケニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル、1−ブチニル及び1−ヘキシニルが含まれる。
【0164】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル、プロパノイル及びブタノイルが含まれる。脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシが含まれる。アルコキシ基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ、エトキシ、ブトキシ及びメトキシエトキシが含まれる。アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル及びエトキシカルボニルが含まれる。アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノ及びエトキシカルボニルアミノが含まれる。
【0165】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ、エチルチオ及びオクチルチオが含まれる。アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニル及びエタンスルホニルが含まれる。脂肪族アミド基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド、ブタンスルホンアミド及びn−オクタンスルホンアミドが含まれる。脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ及び2−カルボキシエチルアミノが含まれる。脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイル及びジエチルカルバモイルが含まれる。脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイル及びジエチルスルファモイルが含まれる。脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイドが含まれる。非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノ及びモルホリノが含まれる。レタデーション上昇剤の分子量は、300〜800であることが好ましい。
【0166】
[ポリマーフィルムの製造]
以下、ポリマーフィルムとしてセルロースアセテートフィルムを用いる場合について具体的に説明する。ソルベントキャスト法によりセルロースアセテートフィルムを製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースアセテートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造する。有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル及び炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0167】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトールが含まれる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノンが含まれる。炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート及びペンチルアセテートが含まれる。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール及び2−ブトキシエタノールが含まれる。ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1又は2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0168】
一般的な方法でセルロースアセテート溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温又は高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法及び装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。セルロースアセテートの量は、得られる溶液中に10〜40重量%含まれるように調整する。セルロースアセテートの量は、10〜30重量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアセテートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧及び加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアセテートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0169】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。又、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。又、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0170】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にもセルロースアセテートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアセテートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースアセテートを撹拌しながら徐々に添加する。セルロースアセテートの量は、この混合物中に10〜40重量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアセテートの量は、10〜30重量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0171】
次に、混合物を−100〜−10℃(好ましくは−80〜−10℃、さらに好ましくは−50〜−20℃、最も好ましくは−50〜−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、セルロースアセテートと有機溶媒の混合物は固化する。冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
【0172】
さらに、これを0〜200℃(好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは0〜120℃、最も好ましくは0〜50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアセテートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよし、温浴中で加温してもよい。加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
【0173】
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。又、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧及び減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。なお、セルロースアセテート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20重量%の溶液は、示差走査熱量測定(DSC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保存する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0174】
調製したセルロースアセテート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアセテートフィルムを製造する。又ドープに、前記のレタデーション上昇剤を添加することが好ましい。ドープは、ドラム又はバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラム又はバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延及び乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。ドープは、表面温度が10℃以下のドラム又はバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムをドラム又はバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラム又はバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0175】
セルロースアセテートフィルムには、機械的物性を改良するため、又は乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステル又はカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)及びトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステル及びクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)及びジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)及びO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEP及びDPPが特に好ましい。可塑剤の添加量は、セルロースエステルの量の0.1〜25重量%であることが好ましく、1〜20重量%であることがさらに好ましく、3〜15重量%であることが最も好ましい。
【0176】
セルロースアセテートフィルムには、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01〜1重量%であることが好ましく、0.01〜0.2重量%であることがさらに好ましい。添加量が0.01重量%未満であると、劣化防止剤の効果がほとんど認められない。添加量が1重量%を越えると、フィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)が認められる場合がある。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
[環状ポリオレフィン]
光弾性係数が小さい光学異方性層として、環状ポリオレフィンポリマーを含有するフィルムを好ましく用いることができる。環状ポリオレフィンポリマー(環状ポリオレフィン、あるいは環状ポリオレフィン系樹脂とも称する)とは、環状オレフィン構造を有する重合体樹脂を表す。
本発明に用いる環状オレフィン構造を有する重合体樹脂の例には、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィンの重合体、(3)環状共役ジエンの重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及び(1)〜(4)の水素化物などがある。前記第2の光学異方性層の作製に用いられる好ましい環状ポリオレフィンは、下記一般式(V)で表される繰り返し単位を少なくとも1種含む付加(共)重合体環状ポリオレフィン、及び必要に応じ、一般式(IV)で表される繰り返し単位の少なくとも1種以上を更に含んでなる付加(共)重合体環状ポリオレフィンである。又、一般式(VI)で表される環状繰り返し単位を少なくとも1種含む開環(共)重合体も好適に使用することができる。
【0177】
一般式(IV)
【化30】

【0178】
一般式(V)
【化31】

【0179】
一般式(VI)
【化32】

【0180】
式中、mは0〜4の整数を表す。R41〜R46はそれぞれ、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基、X41〜X43及びY41〜Y43はそれぞれ、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜10の炭化水素基、−(CH2)nCOOR51、−(CH2)nOCOR52、−(CH2)nNCO、−(CH2)nNO2、−(CH2)nCN、−(CH2)nCONR5354、−(CH2)nNR5354、−(CH2)nOZ51、−(CH2)n51、又はX41とY41あるいはX42とY42あるいはX43とY43から構成された(−CO)2O、(−CO)2NR55を示す。なお、R51、R52、R53、R54、及びR55はそれぞれ、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基、Z51は炭化水素基又はハロゲンで置換された炭化水素基、W51はSiR56p513-p(R56は炭素数1〜10の炭化水素基、D51はハロゲン原子−OCOR56又はOR56、pは0〜3の整数を示す)、nは0〜10の整数を示す。
【0181】
41〜X43、Y41〜Y43の置換基に、分極性の大きい官能基を導入することにより、光学フィルムの厚さ方向レタデーション(Rth)を大きくし、面内レタデーション(Re)の発現性を大きくすることができる。Re発現性の大きなフィルムは、製膜過程で延伸することによりRe値を大きくすることができる。
【0182】
前記環状ポリオレフィンは、エステル基を有する環状オレフィンモノマーを少なくとも含む重合成分を重合して得られる、側鎖に該エステル基を有する環状ポリオレフィンであるのが好ましい。即ち、下記一般式(V)の内、X52及びY52の少なくとも1個が、エステル結合を含有することが好ましく、必要に応じエステル結合以外の置換基を有する構成成分を含有させてもよい。更に、必要に応じ、一般式(IV)で表される繰り返し単位の少なくとも1種以上を更に含んでなる付加(共)重合体環状ポリオレフィンも好ましい。又、一般式(VI)の内、X53及びY53の少なくとも1個がエステル結合を含有することが好ましく、必要に応じエステル結合以外の置換基を有する構成成分を含有させてもよい。
エステル結合を含有する構成成分の量は、好ましくは、(共)重合体の100モル%〜10モル%、更に好ましくは、100モル%〜20モル%である。エステル結合を含有する構成成分の含有量がこれより少ないと鹸化後の親水性が不十分であり、水溶性樹脂との接着性改良効果を得ることができない。
【0183】
ノルボルネン系重合体水素化物は、特開平1−240517号公報、特開平7−196736号公報、特開昭60−26024号公報、特開昭62−19801号公報、特開2003−1159767号公報あるいは特開2004−309979号公報等に開示されているように、多環状不飽和化合物を付加重合あるいはメタセシス開環重合したのち水素添加することにより作られる。
【0184】
本発明に用いるノルボルネン系重合体において、R45及びR46はそれぞれ、水素原子又は−CH3が好ましく、X43及びY43は水素原子、Cl、−COOCH3が好ましく、その他の基は適宜選択される。このノルボルネン系樹脂は、JSR(株)からアートン(Arton)GあるいはアートンFという商品名で発売されており、又日本ゼオン(株)からゼオノア(Zeonor)ZF14、ZF16、ゼオネックス(Zeonex)250あるいはゼオネックス280という商品名で市販されており、これらを使用することができる。
【0185】
ノルボルネン系付加(共)重合体は、特開平10−7732号、特表2002−504184号、US2004229157A1号あるいはWO2004/070463A1号等に開示されている。ノルボルネン系多環状不飽和化合物同士を付加重合する事によって得られる。又、必要に応じ、ノルボルネン系多環状不飽和化合物と、エチレン、プロピレン、ブテン;ブタジエン、イソプレンのような共役ジエン;エチリデンノルボルネンのような非共役ジエン;アクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、無水マレイン酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイミド、酢酸ビニル、塩化ビニルなどの線状ジエン化合物とを付加重合することもできる。このノルボルネン系付加(共)重合体は、三井化学(株)よりアペルの商品名で発売されており、ガラス転移温度(Tg)の異なる例えばAPL8008T(Tg70℃)、APL6013T(Tg125℃)あるいはAPL6015T(Tg145℃)などのグレードがある。ポリプラスチック(株)よりTOPAS8007、同6013、同6015などのペレットが発売されている。更に、Ferrania社よりAppear3000が発売されている。
【0186】
本発明においては、環状ポリオレフィンのガラス転移温度(Tg)に制限はないが、例えば200〜400℃というような高いTgの環状ポリオレフィンも用いることができる。
【0187】
(微粒子)
本発明では、前記第2の光学異方性層の形成に、上記環状ポリオレフィン系樹脂に微粒子を添加した組成物を用いることができる。微粒子の添加により、フィルム表面の動摩擦係数が低下することによりフィルムハンドリング時にフィルムに加わる応力を低減させることができる。本発明で使用できる微粒子としては、有機あるいは無機化合物の微粒子を使用することができる。
【0188】
無機化合物としては、ケイ素を含む化合物、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロングチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等が好ましく、更に好ましくはケイ素を含む無機化合物や金属酸化物であるが、フィルムの濁度を低減できるので、二酸化ケイ素が特に好ましく用いられる。二酸化ケイ素の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名で市販されているものが使用できる。
【0189】
有機化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレンカーボネート、澱粉等があり、又それらの粉砕分級物もあげられる。あるいは又懸濁重合法で合成した高分子化合物、スプレードライ法あるいは分散法等により球型にした高分子化合物を用いることができる。
【0190】
これらの微粒子の1次平均粒子径は、ヘイズを低く抑えるという観点から、好ましくは1〜20000nm、より好ましくは1〜10000nm、更に好ましくは2〜1000nmであり、特に好ましくは、5〜500nmであればよい。微粒子の1次平均粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡で粒子を平均粒径で求められる。購入した微粒子は凝集していることが多く、使用の前に公知の方法で分散することが好ましい。分散により二次粒子径を200〜1500nmにすることが好ましく、300〜1000nmが更に好ましい。微粒子の添加量は環状ポリオレフィン100質量部に対して0.01〜0.3質量部が好ましく、0.05〜0.2質量部がさらに好ましく、0.08〜0.12質量部が最も好ましい。
微粒子を添加した環状ポリオレフィンフィルムの好ましいヘイズの範囲は2.0%以下であり、1.2%以下が更に好ましく、0.5%以下が特に好ましい。微粒子を添加した環状ポリオレフィンフィルムの好ましい動摩擦係数は0.8以下であり、0.5以下が特に好ましい。動摩擦係数は、JISやASTMが規定する方法に従い、鋼球を用いて測定できる。ヘイズは日本電色工業(株)製1001DP型ヘイズ計を用いて測定できる。
【0191】
前記第2の光学異方性層は、環状ポリオレフィンを所定の溶剤に溶解させた溶液から作製してもよい。環状ポリオレフィンの溶液を流延により製膜するのが好ましい。
(溶剤)
前記溶液の調製に用いる溶剤は、環状ポリオレフィンが溶解し、流延製膜できる範囲において、その目的が達成できる限りは、特に限定されない。本発明で用いられる溶剤は、例えばジクロロメタン、クロロホルムの如き塩素系溶剤、炭素原子数が3〜12の鎖状炭化水素、環状炭化水素、芳香族炭化水素、エステル、ケトン、エーテルから選ばれる溶剤が好ましい。エステル、ケトン及び、エーテルは、環状構造を有していてもよい。炭素原子数が3〜12の鎖状炭化水素類の例としては、ヘキサン、オクタン、イソオクタン、デカンなどが挙げられる。炭素原子数が3〜12の環状炭化水素類としてはシクロペンタン、シクロヘキサン及びその誘導体が挙げられる。炭素原子数が3〜12の芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート及びペンチルアセテートが挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトールが挙げられる。2種類以上の官能基を有する有機溶剤の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール及び2−ブトキシエタノールが挙げられる。有機溶剤の好ましい沸点は35℃以上かつ150℃以下である。本発明に使用される溶剤は、乾燥性、粘度等の溶液物性調節のために2種以上の溶剤を混合して用いることができ、更に、混合溶媒で環状ポリオレフィンが溶解する限りは、貧溶媒を添加することも可能である。
【0192】
好ましい貧溶媒は使用するポリマー種により適宜選択することができる。良溶媒として塩素系有機溶剤を使用する場合は、アルコール類を好適に使用することができる。アルコール類としては、好ましくは直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール及びシクロヘキサノールが含まれる。なおアルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。貧溶媒のなかでも特に1価のアルコール類は、剥離抵抗低減効果があり、好ましく使用することができる。選択する良溶剤によって特に好ましいアルコール類は変化するが、乾燥負荷を考慮すると、沸点が120℃以下のアルコールが好ましく、炭素数が1〜6の1価アルコールが更に好ましく、炭素数1〜4のアルコール類が特に好ましく使用することができる。環状ポリオレフィン溶液を作成する上で特に好ましい混合溶剤は、ジクロロメタンを主溶剤とし、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールあるいはブタノールから選ばれる1種以上のアルコール類を貧溶媒にする組み合わせである。
【0193】
(添加剤)
前記環状ポリオレフィン溶液には、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、劣化防止剤、紫外線防止剤、レタデーション(光学異方性)調節剤、剥離促進剤、可塑剤、赤外吸収剤、など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば融点20℃未満と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に劣化防止剤の混合などである。さらに又、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。又その添加する時期は環状ポリオレフィン溶液(ドープ)作製工程において何れで添加してもよいが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更に又、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。又、環状ポリオレフィンフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。
【0194】
(劣化防止剤)
前記環状ポリオレフィン溶液には公知の劣化(酸化)防止剤、例えば、2,6−ジ−t−ブチル,4−メチルフェノール、4,4'−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのフェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤を添加することができる。さらに、トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系酸化防止剤をすることが好ましい。酸化防止剤の添加量は、環状ポリオレフィン100質量部に対して、0.05〜5.0質量部を添加する。
【0195】
(紫外線吸収剤)
前記環状ポリオレフィン溶液には、偏光板又は液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。ヒンダードフェノール系化合物の例としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N'−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物の例としては、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N'−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、環状ポリオレフィンに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0196】
[ポリマーフィルムの延伸処理]
作製されたポリマーフィルムを、さらに延伸処理して、レタデーションを所望の範囲に調整してもよい。延伸倍率は、3〜100%であることが好ましい。ポリマーフィルムの厚さは、40〜140μmであることが好ましく、70〜120μmであることがさらに好ましい。又、この延伸処理の条件を調整することにとり、フィルムの遅相軸の角度の標準偏差を小さくすることができる。延伸処理の方法に特に限定はないが、その例としてテンターによる延伸方法が挙げられる。上記のソルベントキャスト法により作製したフィルムに、テンターを用いて延伸を実施する際に、延伸後のフィルムの状態を制御することにより、フィルム遅相軸角度の標準偏差を小さくすることができる。具体的には、テンターを用いてレタデーション値を調整する延伸処理を行い、そして延伸直後のポリマーフィルムをその状態のまま、フィルムのガラス転移温度以下で保持することで、遅相軸角度の標準偏差を小さくすることができる。この保持の際のフィルムの温度をガラス転移温度以上で行うと、標準偏差が大きくなってしまう。延伸直後のポリマーフィルムを保持する温度は、該ポリマーフィルムのガラス転移点より10℃以上低いのが好ましく、20℃以上低いのがより好ましい。かかる温度で保持する時間は、1〜120秒が好ましく、5〜90秒がより好ましい。
【0197】
[ポリマーフィルムの表面処理]
第2の光学異方性層に含まれるポリマーフィルムを、偏光膜の透明保護膜として使用する場合、ポリマーフィルムを表面処理することが好ましい。表面処理としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理又は紫外線照射処理を実施する。酸処理又はアルカリ処理、すなわちポリマーフィルムに対する鹸化処理を実施することが特に好ましい。
【0198】
[偏光板]
本発明の偏光板は、本発明の光学補償フィルムと、偏光膜とを有する。
偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜及び染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。偏光膜の吸収軸は、フィルムの延伸方向に相当する。従って、縦方向(搬送方向)に延伸された偏光膜は長手方向に対して平行に吸収軸を有し、横方向(搬送方向と垂直方向)に延伸された偏光膜は長手方向に対して垂直に吸収軸を有す。
【0199】
本発明の偏光板の好ましい製造方法は、偏光膜と光学補償フィルムとをそれぞれ長尺の状態で連続的に積層される工程を含む。該長尺の偏光板は用いられる液晶表示装置の画面の大きさに合わせて裁断される。
【0200】
偏光膜は一般に保護膜を有する。本発明の光学補償フィルムを、偏光膜の保護膜として機能させることができ、かかる場合は、前記光学補償フィルム側の偏光膜の表面には別途保護膜を貼り合わせる必要はないる。本発明の偏光板において、偏光膜と本発明の光学補償フィルムのとの間には、等方的な粘接着層、及び/又は実質的に等方的な透明保護フィルムのみが含まれているのが好ましい。実質的に等方的な透明保護フィルム(偏光膜の保護膜)としては、具体的には、面内のレタデーションが0〜10nm、厚さ方向のレタデーションが−20〜20nmであるフィルムである。セルロースアシレート又は環状ポリオレフィンを含むフィルムが好ましい。透明保護フィルムに使用可能なセルロースアシレート又は環状ポリオレフィンとしては、前記透明フィルムに使用可能なそれぞれの例と同様である。また、等方的な粘接着層を形成し得る粘接着剤としては、ポリビニルアルコール、ウレタン系、イソシアネート系、エポキシ系、アクリル系、エチレン−酢酸ビニル系などの粘接着剤等が挙げられる。
【0201】
本発明の偏光板の第1の態様は、前記第1の光学異方性層、前記第2の光学異方性層、及び前記偏光膜が、この順で積層されており、かつ、前記第2の光学異方性層の遅相軸の方向と前記偏光膜の吸収軸の方向とが、実質的に直交している偏光板であり、及び本発明の偏光板の第2の態様は、前記第2の光学異方性層、前記第1の光学異方性層、及び前記偏光膜が、この順で積層されており、かつ、前記第2の光学異方性層の遅相軸の方向と前記偏光膜の吸収軸の方向とが、実質的に平行である偏光板である。前記第2の光学異方性層が延伸ポリマーフィルムからなる場合は、前記第2の光学異方性層の遅相軸の方向は、延伸方向等によって調整することができる。
【0202】
[液晶表示装置]
本発明の液晶表示装置は、本発明の偏光板を少なくとも含む。本発明の液晶表示装置は、反射型、半透過型、透過型液晶表示装置等のいずれであってもよい。液晶表示装置は一般的に、偏光板、液晶セル、及び必要に応じて位相差板、反射層、光拡散層、バックライト、フロントライト、光制御フィルム、導光板、プリズムシート、カラーフィルター等の部材から構成されるが、本発明においては、本発明の偏光板を使用することを必須とする点を除いて特に制限は無い。液晶セルとしては特に制限されず、電極を備える一対の透明基板で液晶層を挟持したもの等の一般的な液晶セルが使用できる。液晶セルを構成する前記透明基板としては、液晶層を構成する液晶性を示す材料を特定の配向方向に配向させるものであれば特に制限はない。具体的には、基板自体が液晶を配向させる性質を有していている透明基板、基板自体は配向能に欠けるが、液晶を配向させる性質を有する配向膜等をこれに設けた透明基板等がいずれも使用できる。又、液晶セルの電極は、公知のものが使用できる。通常、液晶層が接する透明基板の面上に設けることができ、配向膜を有する基板を使用する場合は、基板と配向膜との間に設けることができる。前記液晶層を形成する液晶性を示す材料としては、特に制限されず、各種の液晶セルを構成し得る通常の各種低分子液晶性化合物、高分子液晶性化合物及びこれらの混合物が挙げられる。又、これらに液晶性を損なわない範囲で色素やカイラル剤、非液晶性化合物等を添加することもできる。
【0203】
前記液晶セルは、前記電極基板及び液晶層の他に、後述する各種の方式の液晶セルとするのに必要な各種の構成要素を備えていてもよい。前記液晶セルの方式としては、TN(Twisted Nematic)方式、STN(SuperTwisted Nematic)方式、ECB(Electrically Controlled Birefringence)方式、IPS(In−Plane Switching)方式、VA(Vertical Alignment)方式、MVA(Multidomain Vertical Alignment)方式、PVA(Patterned Vertical Alignment)方式、OCB(Optically Compensated Birefringence)方式、HAN(Hybrid Aligned Nematic)方式、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)方式、ハーフトーングレイスケール方式、ドメイン分割方式、あるいは強誘電性液晶、反強誘電性液晶を利用した表示方式等の各種の方式が挙げられる。又、液晶セルの駆動方式も特に制限はなく、STN−LCD等に用いられるパッシブマトリクス方式、並びにTFT(Thin Film Transistor)電極、TFD(Thin Film Diode)電極等の能動電極を用いるアクティブマトリクス方式、プラズマアドレス方式等のいずれの駆動方式であってもよい。カラーフィルターを使用しないフィールドシーケンシャル方式であってもよい。
【0204】
本発明における偏光板は、反射型、半透過型、及び透過型液晶表示装置に好ましく用いられる。反射型液晶表示装置は、通常、反射板、液晶セル及び偏光板を、この順に積層した構成を有する。位相差板は、反射板と偏光膜との間(反射板と液晶セルとの間又は液晶セルと偏光膜との間)に配置される。反射板は、液晶セルと基板を共有していてもよい。前記偏光板として、本発明の偏光板を用いることができ、かかる場合は、位相差板を別途配置しなくてもよい。
又、半透過反射型液晶表示装置は、液晶セルと、該液晶セルより観察者側に配置された偏光板と、前記偏光板と前記液晶セルの間に配置される少なくとも1枚の位相差板と、観察者から見て前記液晶層よりも後方に設置された半透過反射層を少なくとも備え、さらに観察者から見て前記半透過反射層よりも後方に少なくとも1枚の位相差板と偏光板とを有す。このタイプの液晶表示装置では、バックライトを設置することで反射モードと透過モード両方の使用が可能となる。双方の偏光板が本発明の偏光板であってもよいし、一方のみが本発明の偏光板であってもよい。本発明の偏光板を配置する場合は、液晶セルと本発明の偏光板との間には、位相差板を別途配置しなくてもよい。
【0205】
液晶セルのモードは特に限定されないが、IPSモード又はFFSモードであることが好ましい。
IPSモードの液晶セルは、棒状液晶分子が基板に対して実質的に平行に配向しており、基板面に平行な電界が印加することで液晶分子が平面的に応答する。IPSモードは電界無印加状態で黒表示となり、上下一対の偏光板の透過軸は直交している。光学補償フィルムを用いて、斜め方向での黒表示時の漏れ光を低減させ、視野角を改良する方法が、特開平10−54982号公報、特開平11−202323号公報、特開平9−292522号公報、特開平11−133408号公報、特開平11−305217号公報、特開平10−307291号公報などに開示されている。
【0206】
例えば、前記第1の態様の偏光板を、一対の基板と、該一対の基板に挟持された液晶分子が黒表示時に基板に対して実質的に平行に配向する液晶層とを有する液晶セル(例えば、IPSモードの液晶セル)を有する液晶表示装置に用いる場合は、前記一対の基板の一方の基板の外側に該基板側から、第1の光学異方性層、第2の光学異方性層、及び偏光膜がこの順となり、かつ該第2の光学異方性層の遅相軸と黒表示時の液晶分子の長軸方向とが実質的に平行になるように前記偏光板を配置し、及び他方の基板の外側にさらに第2の偏光膜を配置することができる。この場合、双方の偏光膜の吸収軸を互いに直交させて配置する。
【0207】
又、前記第2の態様の偏光板を、一対の基板と、該一対の基板に挟持された液晶分子が黒表示時に基板に対して実質的に平行に配向する液晶層とを有する液晶セル(例えば、IPSモードの液晶セル)を有する液晶表示装置に用いる場合は、前記一対の基板の一方の基板の外側に該基板側から、第2の光学異方性層、第1の光学異方性層、及び偏光膜がこの順となり、かつ該第2の光学異方性層の遅相軸と黒表示時の液晶分子の長軸方向とが実質的に直交するように前記偏光板を配置し、及び他方の基板の外側にさらに第2の偏光膜を配置することができる。この場合、双方の偏光膜の吸収軸が互いに直交させて配置する。この場合も、双方の偏光膜の吸収軸を互いに直交させて配置する。
【0208】
前記いずれの態様においても、前記第2の偏光膜と前記基板との間には実質的に等方的な粘接着層、及び/又は実質的に等方的な透明保護フィルム(偏光膜の保護膜)のみが含まれているのが好ましい。実質的に等方的な透明保護フィルムとは、具体的には、面内のレタデーションが0〜10nm、厚さ方向のレタデーションが−20〜20nmであり、例えば、かかる光学特性を有するセルロースアシレート又は環状ポリオレフィンを含むフィルムが好ましい。透明保護フィルムに使用可能なセルロースアシレート又は環状ポリオレフィンとしては、前記透明フィルムに使用可能なそれぞれの例と同様である。また、等方的な粘接着層を形成し得る粘接着剤としては、ポリビニルアルコール、ウレタン系、イソシアネート系、エポキシ系、アクリル系、エチレン−酢酸ビニル系などの粘接着剤等が挙げられる。
【実施例】
【0209】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0210】
[実施例1]
<第2の光学異方性層(T1)の作製>
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、さらに90℃に約10分間加熱した後、平均孔径34μmのろ紙及び平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。なお、使用したセルロースアセテートはアセチル置換度が2.81であり、6位置換度が0.9であり、重合度が302であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアセテート溶液
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セルロースアセテート 100.0質量部
トリフェニルホスフェート 8.0質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 4.0質量部
メチレンクロライド 403.0質量部
メタノール 60.2質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0211】
次に上記方法で調製したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物を、分散機に投入し、マット剤分散液を調製した。
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マット剤分散液
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平均粒子径16nmのシリカ粒子
(aerosil R972 日本アエロジル(株)製) 2.0質量部
メチレンクロライド 72.4質量部
メタノール 10.8質量部
セルロースアシレート溶液 10.3質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0212】
次に上記方法で調製したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物を、ミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して溶解し、レタデーション上昇剤溶液を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
レタデーション上昇剤溶液
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レタデーション上昇剤 20.0質量部
メチレンクロライド 58.3質量部
メタノール 8.7質量部
セルロースアシレート溶液 12.8質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0213】
上記セルロースアシレート溶液を100質量部とマット剤分散液を1.35質量部を混合し、さらに、セルロースアセテート100質量部に対してレタデーション上昇剤が6質量部となるようにレタデーション上昇剤溶液を混合し、製膜用ドープを調製した。
【0214】
レタデーション上昇剤
【化33】

【0215】
得られたドープを、幅2mで長さ65mの長さのバンドを有する流延機を用いて流延した。残留溶剤量が15質量%のフィルムを、130℃の条件で、テンターを用いて20%の延伸倍率で横延伸し、延伸後の幅のまま50℃で30秒間保持した後クリップを外してセルロースアセテートフィルムを作製した。延伸終了後、さらに乾燥して残留溶媒量を0.1質量%未満としてセルロースアセテートフィルム(T1)を作製した。なお、使用したセルロースアシレートのTgは140℃である。
【0216】
作製したフィルムを温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させ、フィルム表面温度を40℃に昇温した後に、下記の組成のアルカリ溶液をバーコーターにより、14ml/m2塗布し、110℃に加熱したスチーム式遠赤外線ヒーター((株)ノリタケカンパニー製)の下に10秒間滞留させた後、同じくバーコーターを用いて純水を3ml/m2塗布した。このときのフィルム温度は40℃であった。次いでファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返して後に、70℃の乾燥ゾーンに2秒滞留させて乾燥した。このようにして、セルロースアセテートフィルム表面に鹸化処理を施した。
【0217】
――――――――――――――――――――――――――――――――――
<アルカリ溶液組成>
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水酸化カリウム 4.7質量部
水 15.7質量部
イソプロパノール 64.8質量部
プロピレングリコール 14.9質量部
1633O(CH2CH2O)10H(界面活性剤) 1.0質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0218】
得られたセルロースアセテートフィルムT1の幅は1340mmであり、厚さは88μmであった。自動複屈折率計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)社製)を用いて、作製したセルロースアセテートフィルム(T1)の光学特性を測定した。測定波長590nmにおけるReは60nmであり、Rthは190nmであった。この光学異方性層の遅相軸の平均方向はフィルム長手に対して実質的に直交していた。このフィルムを第2の光学異方性層T1とした。
【0219】
<第1の光学異方性層の形成>
上記作製した長尺状のセルロースアセテートフィルム(T1)の鹸化処理を施した面に、下記の組成の配向膜塗布液を#14のワイヤーバーで連続的に塗布した。60℃の温風で60秒、さらに100℃の温風で120秒乾燥し、配向膜を形成した。
配向膜塗布液の組成
――――――――――――――――――――――――――
下記の変性ポリビニルアルコール 10質量部
水 371質量部
メタノール 119質量部
グルタルアルデヒド 0.5質量部
――――――――――――――――――――――――――
【0220】
変性ポリビニルアルコール
【化34】

【0221】
下記の組成の棒状液晶化合物を含む塗布液を、上記作製した配向膜上に#5.0のワイヤーバーで連続的に塗布した。フィルムの搬送速度は20m/minとした。室温から80℃に連続的に加温する工程で溶媒を乾燥させ、その後、80℃の乾燥ゾーンで90秒間加熱し、棒状液晶性化合物を配向させた。続いて、フィルムの温度を60℃に保持して、UV照射により液晶化合物の配向を固定化し、第1の光学異方性層B1を形成した。続いて、55℃の1.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液中に作製したフィルムを2分間浸漬した後、水に浸漬し十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。その後、35℃の5mmol/L硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。このようにして、第1及び第2の光学異方性層が積層された光学補償フィルム(F1)を作製した。
【0222】
棒状液晶化合物を含む塗布液(S1)の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
下記の棒状液晶性化合物(I) 100質量部
光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製) 3質量部
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 1質量部
下記のフッ素系ポリマー 0.4質量部
下記のピリジニム塩 1質量部
メチルエチルケトン 172質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0223】
棒状液晶化合物(I)
【化35】

【0224】
フッ素系ポリマー
【化36】

【0225】
ピリジニウム塩
【化37】

【0226】
作製した光学補償フィルムF1から棒状液晶性化合物を含む光学異方性層のみを剥離し、自動複屈折率計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)社製)を用いて光学特性を測定した。波長590nmで測定した光学異方性層のみのReは0nmであり、Rthは−260nmであった。又、棒状液晶分子がフィルム面に対して実質的に垂直に配向している光学異方性層が形成されたことが確認できた。光学補償フィルムF1のRe、Re(40)、Re(40)/Re及び光弾性係数を表1に示す。
光弾性係数の測定は次のように行った。作製したフィルムを3.5cm×12cmに切り出して、荷重無し、250g、500g、1000g、1500gのそれぞれの荷重におけるレタデーションを測定し、応力に対するレタデーション変化の直線の傾きから光弾性係数を算出した。レタデーションの測定はエリプソメーターM−150(日本分光社製)を用いて行った。
【0227】
[実施例2]
<環状オレフィン重合体の合成>
精製トルエン100質量部とノルボルネンカルボン酸メチルエステル100質量部を反応釜に投入した。次いでトルエン中に溶解したエチルヘキサノエート−Ni 25mmol%(対モノマー質量)、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボロン0.225mol%(対モノマー質量)及びトルエンに溶解したトリエチルアルミニウム0.25mol%(対モノマー質量)を反応釜に投入した。室温で攪拌しながら18時間反応させた。反応終了後過剰のエタノール中に反応混合物を投入し、重合物沈殿を生成させた。沈殿を精製し得られた重合体(J1)を真空乾燥で65℃24時間乾燥した。
【0228】
<第2の光学異方性層(C1)の形成>
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解した後、平均孔径34μmのろ紙及び平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。
【0229】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
環状ポリオレフィン溶液 D1
―――――――――――――――――――――――――――――――――
環状ポリオレフィン(J1) 150質量部
ジクロロメタン 414質量部
メタノール 36質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0230】
次に、上記方法で調製した環状ポリオレフィン溶液を含む下記組成物を分散機に投入し、マット剤分散液を調製した。
【0231】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤分散液 M1
―――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒径16nmのシリカ粒子
(aerosil R972 日本アエロジル(株)) 2質量部
ジクロロメタン 81質量部
メタノール 7質量部
環状ポリオレフィン溶液(D1) 10質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0232】
上記環状ポリオレフィン溶液D1を100質量部、マット剤分散液M1を1.35質量を混合し、製膜用ドープを調製した。
上述のドープをバンド流延機により1400mm幅で流延した。残留溶剤量が約25質量%でバンドから剥ぎ取ったフィルムをフィルムに皺が入らないように保持しながらテンターを用いて140℃の熱風を当てながら幅方向に10%延伸した。その後テンター搬送からロール搬送に移行し、更に120℃から140℃で乾燥し、巻き取った。
作製したフィルムの表面に上記実施例1と同様にして鹸化処理を行った。自動複屈折率計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)社製)を用いて、作製した環状ポリオレフィンフィルムの光学特性を測定した。波長590nmで測定したReは55nmであり、Rthは200nmであった。又、この光学異方性層の遅相軸はフィルム長手に対して直交していた。このフィルムを第2の光学異方性層C1とした。
【0233】
<第1の光学異方性層の形成>
上記作製した長尺状の環状ポリオレフィンフィルム(C1)の鹸化処理を施した面に、上記実施例1と同様にして配向膜を形成し、さらに棒状液晶化合物を含む塗布液(S1)を用いて第1の光学異方性層を形成した。続いて、上記実施例1と同様にして、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して鹸化処理を行った。このようにして、第1及び第2の光学異方性層が積層された光学補償フィルムF2を作製した。
【0234】
作製した光学補償フィルムF1から棒状液晶性化合物を含む光学異方性層のみを剥離し、自動複屈折率計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)社製)を用いて光学特性を測定した。波長590nmで測定した光学異方性層のみのReは0nmであり、Rthは−260nmであった。又、棒状液晶分子がフィルム面に対して実質的に垂直に配向している光学異方性層が形成されたことが確認できた。光学補償フィルムF2のRe、Re(40)、Re(40)/Re及び光弾性係数を表1に示す。
【0235】
[比較例1]
厚さ100μmのポリカーボネートフィルムを二軸延伸して、波長590nmで測定したReが60nmであり、Rthが190nmである第2の光学異方性層を作製した。この表面にコロナ処理を行い、上記実施例1と同様にして、配向膜及び棒状液晶化合物を含む第1の光学異方性層を形成した。このようにして、第1及び第2の光学異方性層が積層された光学補償フィルムFH1を作製した。作製した光学補償フィルムFH1から棒状液晶性化合物を含む光学異方性層のみを剥離し、自動複屈折率計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)社製)を用いて光学特性を測定した。波長590nmで測定した光学異方性層のみのReは0nmであり、Rthは−260nmであった。又、棒状液晶分子がフィルム面に対して実質的に垂直に配向している光学異方性層が形成されたことが確認できた。光学補償フィルムFH1のRe、Re(40)、Re(40)/Re及び光弾性係数を表1に示す。
【0236】
[実施例3]
実施例2と同様に環状ポリオレフィンを含む製膜用ドープを調製し、バンド流延機により1400mm幅で流延し、厚さ80μmのフィルムを得た。このフィルムの両面に、熱収縮性フィルムをアクリル系粘着層を介して接着し、これを160℃に加熱して熱収縮性フィルムを収縮させながら延伸装置を用いて延伸した後、熱収縮性のフィルムを剥がした。続いて、上記実施例1と同様にして、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して鹸化処理を行い、光学補償フィルムF3を作製した。光学補償フィルムF3のRe、Re(40)、Re(40)/Re及び光弾性係数を表1に示す。
【0237】
[比較例2]
厚さ100μmのポリカーボネートフィルムの両面に、熱収縮性フィルムをアクリル系粘着層を介して接着し、これを150℃に加熱して熱収縮性フィルムを収縮させながら延伸装置を用いて延伸した。熱収縮性のフィルムを剥がし、光学補償フィルムFH2を作製した。光学補償フィルムFH2のRe、Re(40)、Re(40)/Re及び光弾性係数を表1に示す。
【0238】
[実施例4]
<偏光板の作製>
ヨウ素水溶液中で連続して染色した厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムを搬送方向に5倍延伸し、乾燥して長尺の偏光膜を得た。この偏光膜の吸収軸と長手方向(延伸方向)のなす角度は0°であった。この偏光膜の一方の面に、上記作製した光学補償フィルムF1、F2、F3を、他方の面に、表面を鹸化処理したセルローストリアセテートフィルム(フジタック TD80UL、富士写真フイルム(株)製、Re=2nm、Rth=40nm)を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて連続的に貼り合わせ、長尺の偏光板を作製し、それぞれ、P1、P2、P3とした。なお、光学補償フィルムF1とF2は、第1の光学異方性層が形成されていない面が偏光膜側となるように貼り合せた。偏光膜の吸収軸と光学補償フィルムの遅相軸のなす角度は、偏光板P1及びP2では90°であり、偏光板P3では0°であった。
【0239】
[比較例3]
<偏光板の作製>
実施例4と同様にして、長尺の偏光膜を作製した。この偏光膜の両面に、表面を鹸化処理したセルローストリアセテートフィルム(フジタック TD80UL、富士写真フイルム(株)製、Re=2nm、Rth=40nm)を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて連続的に貼り合わせ、長尺の偏光板P80を作製した。この偏光板P80の一方の面にアクリル系粘着剤を用いて、光学補償フィルムFH1、FH2を貼り合せ、それぞれ、PH1、PH2とした。なお、光学補償フィルムFH1は、第1の光学異方性層が形成されていない面が偏光膜側となるように貼り合せた。偏光膜の吸収軸と光学補償フィルムの遅相軸のなす角度は、偏光板PH1では90°であり、偏光板PH2では0°であった。
【0240】
(対向側偏光板の作製)
<セルロースアセテートフィルム(T0)の作製>
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液Aを調製した。
セルロースアセテート溶液Aの組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
アセチル置換度2.94のセルロースアセテート 100.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 402.0質量部
メタノール(第2溶媒) 60.0質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0241】
平均粒径16nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、日本アエロジル(株)製)を20質量部、メタノール80質量部を30分間よく攪拌混合してシリカ粒子分散液とした。この分散液を下記の組成物とともに分散機に投入し、さらに30分以上攪拌して各成分を溶解し、マット剤溶液を調製した。
マット剤溶液組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒径16nmのシリカ粒子分散液 10.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 76.3質量部
メタノール(第2溶媒) 3.4質量部
セルロースアセテート溶液A 10.3質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0242】
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
添加剤溶液組成
――――――――――――――――――――――――――――――
下記の光学的異方性低下剤 49.3質量部
下記の波長分散調整剤 4.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 58.4質量部
メタノール(第2溶媒) 8.7質量部
セルロースアセテート溶液A 12.8質量部
――――――――――――――――――――――――――――――
【0243】
【化38】

【0244】
【化39】

【0245】
上記セルロースアセテート溶液Aを94.6質量部、マット剤溶液を1.3質量部、添加剤溶液4.1質量部それぞれを濾過後に混合し、バンド流延機を用いて流延した。上記組成で光学的異方性を低下する化合物及び波長分散調整剤のセルロースアセテートに対する質量比はそれぞれ12%、1.2%であった。残留溶剤量30%でフィルムをバンドから剥離し、140℃で40分間乾燥させ、厚さ80μmの長尺状のセルロースアセテートフィルムT0を製造した。得られたフィルムの面内レタデーション(Re)は1nm(遅相軸はフィルム長手方向と直交方向)、厚み方向のレタデーション(Rth)は−1nmであった。
【0246】
<偏光板(PT0)の作製>
実施例4と同様にして、長尺の偏光膜を作製した。この偏光膜の一方の面に鹸化処理した上記のセルロースアセテートフィルムT0を、他方の面に鹸化処理した市販のセルロースアセテートフィルム(フジタックTD80UL、富士写真フイルム(株)製)を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて連続して貼り合わせ、偏光板PT0を作製した。
【0247】
<環状ポリオレフィンフィルム(C0)の作製>
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解した後、平均孔径34μmの濾紙及び平均孔径10μmの焼結金属フィルターで濾過した。
【0248】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
環状ポリオレフィン溶液 D2
―――――――――――――――――――――――――――――――――
環状ポリオレフィン:TOPAS5013 100質量部
パラフィンワックス135(日本精蝋(株)) 15質量部
シクロヘキサン 380質量部
ジクロロメタン 70質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0249】
次に上記方法で作成した環状ポリオレフィン溶液D2を含む下記組成物を分散機に投入し、微粒子分散液を調製した。
【0250】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
微粒子分散液 M2
―――――――――――――――――――――――――――――――――
1次平均粒径16nmのシリカ粒子
(aerosil R972 日本アエロジル(株)) 2質量部
シクロヘキサン 73質量部
ジクロロメタン 10質量部
環状ポリオレフィン溶液 D2 10質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0251】
上記環状ポリオレフィン溶液D2を100質量部、微粒子分散液M2を1.35質量を混合し、製膜用ドープを調製した。上述のドープをバンド流延機を用いて流延した。残留溶剤量が約35質量%でバンドから剥ぎ取ったフィルムをフィルムに皺が入らないように保持しながら120℃から140℃で乾燥し巻き取った。波長590nmで測定したReは0.5nmであり、Rthは1nmであった。このようにして環状ポリオレフィンフィルムC0を作製した。
<偏光板(PC0)の作製>
実施例4と同様にして、長尺の偏光膜を得た。この偏光膜の一方の面に、上記作製した環状ポリオレフィンフィルムC0を、他方の面に、表面を鹸化処理したセルローストリアセテートフィルム(フジタック TD80UL、富士写真フイルム(株)製)を貼り合せた。このとき、偏光膜とセルローストリアセテートフィルムはポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り合わせ、偏光膜と環状ポリオレフィンフィルムC0の貼り合わせは下記のように行った。
ポリエステル系ウレタン(三井武田ケミカル社製,タケラックXW−74−C154)10部及びイソシアネート系架橋剤(三井武田ケミカル社製,タケネートWD−725)1部を、水に溶解し、固形分を20%に調整した溶液を調製した。これを接着剤として用いて、偏光膜と環状ポリオレフィンフィルムC0を貼り合わせ、40℃のオーブンで72時間乾燥キュアして、偏光板PC0を作製した。
【0252】
[実施例5]
<液晶表示装置の作製>
液晶テレビTH-32LX500(松下電器産業(株)社製)から、液晶セルを取り出し、視認者側及びバックライト側に貼られてあった偏光板及び光学フィルムを剥した。この液晶セルは、電圧無印加状態及び黒表示時では液晶分子はガラス基板間で実質的に平行配向しており、その遅相軸方向は画面に対して水平方向であった。
【0253】
上記の平行配向セルの上下のガラス基板に、上記作製した偏光板(P1及びPT0)を粘着剤を用いて貼り合わせた。このとき、バックライト側の偏光板にP1を配置し、視認者側にPT0を配置し、偏光板P1に含まれる第1の光学異方性層がバックライト側のガラス基板に接するように、又、偏光板PT0に含まれるセルロースアセテートフィルムT0が視認者側のガラス基板に接するように貼り合わせた。又、偏光板P1の吸収軸と液晶セルの遅相軸が直交するようにし、偏光板P1と偏光板PT0の吸収軸は直交するように配置した。このようにして偏光板を貼り合せた液晶セルを、再度、液晶テレビTH-32LX500に組み込みこんだ。このようにして液晶表示装置L1を作製した。
上記液晶表示装置L1の作製において、偏光板P1の代わりにP2を、偏光板PT0の代わりにPC0を用いる以外は同様にして、液晶表示装置L2を作製した。
【0254】
上記の平行配向セルの上下のガラス基板に、上記作製した偏光板(P3及びPC0)を粘着剤を用いて貼り合わせた。このとき、バックライト側の偏光板にPC0を配置し、視認者側にP3を配置し、偏光板PC0に含まれる環状ポリオレフィンフィルムC0がバックライト側のガラス基板に接するように、又、偏光板P3に含まれる光学補償フィルムF3が視認者側のガラス基板に接するように貼り合わせた。又、偏光板PC0の吸収軸と液晶セルの遅相軸が直交するようにし、偏光板P3と偏光板PC0の吸収軸は直交するように配置した。このようにして偏光板を貼り合せた液晶セルを、再度、液晶テレビTH-32LX500に組み込みこんだ。このようにして液晶表示装置L3を作製した。
【0255】
[比較例3]
<液晶表示装置の作製>
上記液晶表示装置L1の作製において、偏光板P1の代わりにPH1を、偏光板PT0の代わりにP80を用いる以外は同様にして、液晶表示装置LH1を作製した。
上記液晶表示装置L3の作製において、偏光板P3の代わりにPH2を、偏光板PC0の代わりにP80を用いる以外は同様にして、液晶表示装置LH2を作製した。
【0256】
<視野角特性の評価>
作製した液晶表示装置について、測定機(EZ−Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて、視野角特性を測定した。画面の水平方向から方位±45°、極角60において、本発明の液晶表示装置L1〜L3はコントラストの低下や色味の変化が小さかったのに対し、比較例の液晶表示装置LH1及びLH2では、コントラストの低下や色味の変化が大きかった。
【0257】
<周辺部の光漏れの評価>
作製した液晶表示装置を下記の条件で耐久性試験を行った。60℃、90%RHの環境に200時間保持し、25℃、60%RH環境に取り出し24時間後に液晶表示装置を全面黒表示させ、暗室にて目視観察して光漏れを評価した。比較例の液晶表示装置LH1及びLH2では、画面の4隅のコーナー部に大きな光漏れが観察されたが、本発明の液晶表示装置L1ではコーナー部にわずかに光漏れが観察され、液晶表示装置L2及びL3では周辺部に光漏れは観察されなかった。
【0258】
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
面内のレタデーション(Re)が20〜400nmであり、遅相軸を傾斜軸として法線方向から40°傾斜させて測定したレタデーションをRe(40)としたときRe(40)/Reが0.95〜1.06であり、かつ光弾性係数の絶対値が30×10-122/N以下である光学補償フィルムの製造方法であって、以下(1)〜(3)の工程を含む方法:
(1)エステル基を有する環状オレフィンモノマーを含む重合成分を重合して得られる環状ポリオレフィンを含有する組成物から形成された層上に棒状液晶化合物を含有する組成物を塗布する工程、
(2)前記の棒状液晶化合物を含有する組成物を加熱して前記棒状液晶化合物の分子をネマチック配向状態とする工程、および
(3)紫外線照射により前記ネマチック配向状態を固定し、前記分子が垂直配向の状態に固定化されている光学異方性層を得る工程。
【請求項2】
前記の環状ポリオレフィンを含有する組成物から形成された層がエステル基を有する環状オレフィンモノマーを含む重合成分を重合して得られる環状ポリオレフィンを含有する組成物から形成されたフィルムを加熱しながら延伸することにより得られた層である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記環状ポリオレフィンがエステル基を有する環状オレフィンモノマーからなる重合成分を重合して得られる環状ポリオレフィンである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記環状オレフィンモノマーがノルボルネンカルボン酸メチルエステルである請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
面内のレタデーション(Re)が20〜400nmであり、遅相軸を傾斜軸として法線方向から40°傾斜させて測定したレタデーションをRe(40)としたときRe(40)/Reが0.95〜1.06であり、かつ光弾性係数の絶対値が30×10-122/N以下である光学補償フィルムの製造方法であって、以下(11)〜(13)の工程を含む方法:
(11)エステル基を有する環状オレフィンモノマーを含む重合成分を重合して得られる環状ポリオレフィンを含有する組成物から形成されたフィルムに熱収縮性フィルムを接着する工程、
(12)前記工程(1)で得られた積層体を、加熱して前記熱収縮性フィルムを収縮させながら、延伸する工程、および
(13)前記工程(2)で得られた積層体から前記熱収縮性フィルムを剥離する工程。
【請求項6】
前記の環状ポリオレフィンを含有する組成物から形成されたフィルムと、前記熱収縮性フィルムとの接着がアクリル系粘着層を介して行われる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
偏光膜及び請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法で作製された光学補償フィルムが配置されたことを特徴とする偏光板。
【請求項8】
偏光膜の吸収軸と光学補償フィルムの面内の遅相軸とが実質的に平行又は直交となるように積層された請求項7に記載の偏光板。
【請求項9】
前記偏光膜と前記光学補償フィルムとの間には実質的に等方的な粘接着層及び/又は実質的に等方的な保護フィルムのみが含まれる請求項7又は8に記載の偏光板。
【請求項10】
前記保護フィルムが、セルロースアシレート又は環状ポリオレフィンを含むフィルムであり、面内のレタデーションが0〜10nm、厚さ方向のレタデーションが−20〜20nmである請求項9に記載の偏光板。
【請求項11】
液晶セルと、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法で作製された光学補償フィルム、及び/又は、請求項7〜10のいずれか1項に記載の偏光板を含む液晶表示装置。
【請求項12】
前記液晶セルは、一対の基板と、該一対の基板に挟持された液晶分子が黒表示時に基板に対して実質的に平行に配向する液晶層とを有する液晶セルであり、該液晶セルの遅相軸方向と前記光学補償フィルムの遅相軸方向が実質的に平行又は直交となるように配置された請求項11に記載の液晶表示装置。
【請求項13】
前記一対の基板の一方の基板の外側に、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法で作製された光学補償フィルムが偏光膜より基板に近くなるように配置され、他方の基板の外側にさらに第2の偏光膜を有し、双方の偏光膜の吸収軸が互いに直交している請求項11又は12に記載の液晶表示装置。
【請求項14】
前記第2の偏光膜と前記基板の間には、実質的に等方的な粘接着層及び/又は実質的に等方的な透明保護フィルムのみが含まれる請求項13に記載の液晶表示装置。
【請求項15】
前記透明保護フィルムは、面内のレタデーションが0〜10nm、厚さ方向のレタデーションが−20〜20nmである請求項14に記載の液晶表示装置。
【請求項16】
前記透明保護フィルムが、セルロースアシレート又は環状ポリオレフィンを含むフィルムである請求項15に記載の液晶表示装置。
【請求項17】
前記透明保護フィルムが、環状ポリオレフィンを含むフィルムである請求項16に記載の液晶表示装置。
【請求項18】
IPSモード液晶表示装置である請求項11〜17のいずれか1項に記載の液晶表示装置。

【公開番号】特開2011−215633(P2011−215633A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148490(P2011−148490)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【分割の表示】特願2006−113246(P2006−113246)の分割
【原出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】